本発明は、電界放射により電子線を放射するようにした電子源の製造方法に関するものである。
従来から、この種の電子源として、例えば、図3に示す構成の電子源10が知られている。
図3に示す構成の電子源10は、絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11の一表面上に導電性層(例えば、金属膜)からなる下部電極12が形成され、下部電極12上に酸化した多孔質多結晶シリコンよりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。なお、表面電極7の厚さ寸法は例えば10nm程度に設定されている。また、図3に示す構成の電子源10では、下部電極12と強電界ドリフト層6との間にノンドープの多結晶シリコン層3が介在しており、多結晶シリコン層3と強電界ドリフト層6とで、下部電極12と表面電極7との間に介在し電子が通過する電子通過層を構成し、下部電極12と電子通過層と表面電極7とで電子源素子を構成しているが、下部電極12と強電界ドリフト層6との間に多結晶シリコン層3を介在させずに強電界ドリフト層6のみで電子通過層を構成したものも提案されている。
上述の電子源10から電子を放出させるには、例えば、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。ここに、直流電圧Vpsを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図3中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
上述の電子源10では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図3参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電子源10では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
上述の強電界ドリフト層6は、下部電極12上に形成したノンドープの多結晶シリコン層3をフッ化水素水溶液を含む電解液中で所定深さまで陽極酸化することにより多結晶シリコンのグレインおよび多数のナノメータオーダのシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層を形成し、多孔質多結晶シリコン層を急速加熱法ないし電気化学的な酸化方法によって酸化することで形成されており、強電界ドリフト層6は、多結晶シリコンのグレイン、多数のナノメータオーダのシリコン微結晶、各グレインそれぞれの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚のシリコン酸化膜からなる絶縁膜とを有している。
また、図3に示した電子源10をディスプレイの電子源とし応用する場合には、例えば図4に示す構成を採用すればよい。
図4に示すディスプレイは、電子源10に対向して平板状のガラス基板よりなるフェースプレート30が配置され、フェースプレート30における電子源10との対向面には透明な導電膜(例えば、ITO膜)よりなるコレクタ電極(以下、アノード電極と称す)21が形成されている。また、アノード電極21における電子源10との対向面には、画素ごとに形成された蛍光物質と蛍光物質間に形成された黒色材料からなるブラックストライプとが設けられている。ここに、蛍光物質はアノード電極21における電子源10との対向面に塗布されており、電子源10から放射される電子線によって可視光を発光する。なお、蛍光物質には電子源10から放射されアノード電極21に印加された電圧によって加速された高エネルギの電子が衝突するようになっており、蛍光物質としてはR(赤色),G(緑色),B(青色)の各発光色のものを用いている。また、フェースプレート30は図示しない矩形枠状のフレームによって電子源10と離間させてあり、フェースプレート30と電子源10との間に形成される気密空間を真空にしてある。
図4に示した電子源10は、絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の帯板状の下部電極12と、絶縁性基板11の上記一表面側で各下部電極12を覆うように形成された強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上で下部電極12に交差する方向に列設された複数の帯板状の表面電極7とを備えている。ここにおいて、図4の構成における強電界ドリフト層6は、各下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数のノンドープの多結晶シリコン層3と、各多結晶シリコン層3それぞれに重なる形で形成された複数の酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aと、隣り合うドリフト部6a間および隣り合う多結晶シリコン層3間を埋めるノンドープの多結晶シリコン層よりなる分離部16とで構成されている。なお、図4に示す電子源10では、ドリフト部6aと多結晶シリコン層3とで電子通過層を構成している。
この図4に示した電子源10では、絶縁性基板11の上記一表面上に列設された複数の下部電極12と、下部電極12に交差する方向に列設された複数の表面電極7との交点に相当する部位にドリフト部6aの一部が挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、ドリフト部6aにおいて選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位に強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数の表面電極7の群と複数の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、下部電極12と、下部電極12上の多結晶シリコン層3および多結晶シリコン層3上のドリフト部6aからなる電子通過層と、電子通過層上の表面電極7とからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。なお、上述の記載から分かるように、電子源素子10aは画素ごとに設けられることになる。
図4に示す構成の電子源10の製造方法としては、絶縁性基板11の上記一表面上に下部電極用の導電性層を成膜した後で当該導電性層をパターニングすることで複数の下部電極12を形成し、その後、絶縁性基板11の上記一表面側にCVD法などによってノンドープの多結晶シリコン層3を形成し、多結晶シリコン層3のうち下部電極12に重なる部分を、電解液としてフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液を用いて陽極酸化することにより多結晶シリコンのグレインおよび多数のナノメータオーダのシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層を形成し、多孔質多結晶シリコン層を急速加熱法ないし電気化学的な酸化方法によって酸化することでドリフト部6aを形成し、その後、強電界ドリフト層6上に表面電極7を形成するようにした製造方法が知られている。なお、ドリフト部6aは、多結晶シリコンのグレイン、多数のナノメータオーダのシリコン微結晶、各グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、各シリコン微結晶の表面に形成されたシリコン酸化膜とを有している。
ところで、本願発明者らは、上述の図4のような電子源10の製造方法に関して、下部電極12のパターンに依存して強電界ドリフト層6表面に形成される段差部分での表面電極7の断線やクラックの発生を防止するために、下部電極12の形成にあたって、リフトオフ法を利用することによって下部電極12の長手方向に直交する断面形状を台形状とすることを提案している(例えば、特許文献1参照)。
ここにおいて、上記特許文献1に開示された製造方法では、下部電極12の形成にあたって、絶縁性基板11の上記一表面側に下部電極形成用の開口パターンを有するレジスト層を形成してから、絶縁性基板11の上記一表面側に下部電極用の導電性層(例えば、タングステン膜、アルミニウム膜など)を成膜し、その後、レジスト層およびレジスト層上の導電性層を除去することにより残りの導電性層からなる断面台形状の下部電極12を形成している。
したがって、上記特許文献1に開示された電子源の製造方法を採用すれば、電子源10の電子放出効率を高めるために強電界ドリフト層の厚さを比較的薄くしても強電界ドリフト層6の表面においてドリフト部6aの表面と分離部6bの表面との間に急峻な段差が形成されるのを防ぐことができ、表面電極7が断線したり強電界ドリフト層6にクラックが形成されるのを防止することができる。
特開2002−134008号公報
しかしながら、上記特許文献1に開示された製造方法では、リフトオフ法を利用して下部電極12をパターニングしているので、レジスト層およびレジスト層上の導電性層を除去する際にレジスト層上の導電性層から導電性のパーティクルが発生しやすく、下部電極12間の短絡や形状不良の原因となる。また、レジスト層の断面形状の不良やばらつきにより導電性層の除去が不十分となることがあり、下部電極12間の短絡や形状不良の原因となる。
したがって、上記特許文献1に開示された製造方法では、上述のような原因により、電子源素子10aの動作不良や面内での電子源素子10aの特性(電子放出特性や電気特性、経時安定性など)のばらつきが発生することがあり、ディスプレイ用の電子源として用いるために絶縁性基板11の大面積化を図って多数の電子源素子10aを形成するような場合には、製造歩留まりの低下が問題となる。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、下部電極を断面台形状の形状にパターニングすることができ且つリフトオフ法を利用して下部電極をパターニングする場合に比べて製造歩留まりを高めることができる電子源の製造方法を提供することにある。
請求項1の発明は、下部電極と表面電極との間に下部電極から注入された電子が表面電極へ向かって通過する電子通過層を備えた電子源素子が絶縁性基板の一表面側に形成され、電子通過層が、多数のナノメータオーダのシリコン微結晶と、各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜とを有し、下部電極が断面台形状であり、電子が表面電極を通して放出される電子源の製造方法であって、絶縁性基板の前記一表面上に下部電極用のクロム膜若しくはクロム合金膜からなる導電性層を成膜した後、導電性層上に下部電極形成用にパターニングされたレジスト層を形成し、当該レジスト層をマスクとして導電性層をエッチング用薬液を用いたウェットエッチング工程にてパターニングすることにより下部電極を形成するようにし、前記レジスト層の形成にあたっては前記レジスト層形成のためにフォトレジストを導電性層上に塗布する前にHMDSによる処理を行わないようにし、ウェットエッチング工程では、前記エッチング用薬液が、少なくとも硝酸第2セリウムアンモニウムおよび水を含んでおり、過塩素酸もしくは硝酸を混合してあることを特徴とする。
この発明によれば、絶縁性基板の一表面上に成膜した導電性層上に下部電極形成用にパターニングされたレジスト層を形成し、当該レジスト層をマスクとして導電性層をエッチング用薬液を用いたウェットエッチング工程にてパターニングすることにより下部電極を形成するようにし、前記レジスト層の形成にあたっては前記レジスト層形成のためにフォトレジストを導電性層上に塗布する前にHMDSによる処理を行わないので、HMDSによる処理を行う場合に比べて、下部電極をテーパ角の小さな断面台形状の形状にパターニングすることができ、しかも、リフトオフ法を利用して下部電極をパターニングする場合に比べて下部電極のパターニングに伴う導電性のパーティクルの発生を少なくできるとともに形状不良の発生を少なくでき、製造歩留まりを高めることができる。また、導電性層としてクロム膜若しくはクロム合金膜を採用しているので、絶縁性基板として例えばガラス基板を用いる場合には、絶縁性基板と導電性層との密着性が十分高くなるとともに、導電性層の材料としてアルミニウムを採用する場合に比べて下部電極と電子通過層との反応を防止することができるから、製造歩留まりや動作信頼性を向上できるという利点があり、導電性層の材料としてタングステンを採用する場合に比べて下部電極の低抵抗化を図れるという利点がある。また、この発明によれば、ウェットエッチング工程では、前記エッチング用薬液が、少なくとも硝酸第2セリウムアンモニウムおよび水を含んでいるので、下部電極の断面形状の再現性が良く、結果的に製造歩留まりの向上を図れる。また、この発明によれば、前記エッチング薬液は、過塩素酸もしくは硝酸を混合してあるので、下部電極の断面形状におけるテーパ角を制御することができる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記導電性層をスパッタ法により成膜することを特徴とする。
この発明によれば、前記絶縁性基板の大面積化を図っても前記絶縁性基板の前記一表面の全体に亙って前記導電性層を面内均一性良く成膜することができるので、前記絶縁性基板の大面積化に容易に対応することが可能となる。
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記ウェットエッチング工程では、前記エッチング用薬液を40〜70℃に加熱して用いることを特徴とする。
この発明によれば、前記エッチング用薬液の取扱上の安全性を確保しつつ前記下部電極の断面形状の再現性をより高めることができる。
請求項1の発明では、下部電極を断面台形状の形状にパターニングすることができ且つリフトオフ法を利用して下部電極をパターニングする場合に比べて製造歩留まりを高めることができるという効果がある。
(実施形態1)
本実施形態の電子源10の基本構成および動作原理は図4に示した従来例と略同じであって、図1(e)に示すように、下部電極12において長手方向に直交する断面の形状が台形状に形成されている点、強電界ドリフト層6上に、表面電極7に対応する部分が開口されたSiO2膜からなる絶縁層8を設けてある点などが相違する。また、本実施形態の電子源10では、下部電極12をクロム膜により構成している点も相違する。なお、図4に示した従来例と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。また、本実施形態では、強電界ドリフト層6における各ドリフト部6aそれぞれについて下部電極12と表面電極7との間に介在する部分が電子通過層を構成している。
以下、本実施形態の電子源10の製造方法について図1を参照しながら説明する。
まず、絶縁性基板11の一表面上に下部電極用の所定膜厚(例えば、150nm〜500nm)のクロム膜からなる導電性層12aを、Arガスを用いたスパッタ法によって所定の基板温度(例えば、20〜200℃)で成膜し、その後、導電性層12a上にポジ型のフォトレジストを塗布しフォトリソグラフィ技術により下部電極形成用にパターニングされたレジスト層9を形成することによって、図1(a)に示す構造を得る。ここにおいて、本実施形態では、フォトレジストの塗布前に一般的に密着性向上の目的で行われているHMDS〔(CH3)3SiNHSi(CH3)3〕による処理を行わずに、フォトレジストを塗布している。なお、本実施形態では導電性層12aの成膜方法としてスパッタ法を採用しているので、絶縁性基板11の大面積化を図っても絶縁性基板11の上記一表面の全体に亙って導電性層12aを面内均一性良く成膜することができ、絶縁性基板11の大面積化に容易に対応することが可能となる。ただし、導電性層12aは、スパッタ法に限らず、蒸着法など他の成膜方法を採用してもよく、また、導電性層12aの膜厚についても上記範囲に限定するものではない。また、導電性層12aは、クロム膜に限らず、クロム合金膜を採用してもよい。
次に、レジスト層9をマスクとして、導電性層12aをエッチング用薬液を用いたウェットエッチング工程にてパターニングすることで複数の断面台形状(絶縁性基板11の厚み方向において絶縁性基板11の上記一表面に近づくにつれて幅寸法が徐々に大きくなる形状)の下部電極12を形成することによって、図1(b)に示す構造を得る。ここにおいて、ウェットエッチング工程では、下部電極12の断面形状の再現性を良くするために、エッチング用薬液として、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と硝酸との混合液を用いているが、エッチング用薬液としては、例えば、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液や、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸との混合液などを用いてもよいし、他の薬液を用いてもよい。ただし、エッチング用薬液としては、少なくとも硝酸第2セリウムアンモニウムおよび水を含んでいる(つまり、硝酸第2セリウムアンモニウムを含んでいる)ことが好ましく、硝酸若しくは過塩素酸を混合することにより、下部電極12の長手方法に直交する断面形状におけるテーパ角(下部電極12の幅方向の両側面それぞれの下部電極12底面に対する傾斜角)を制御することができる。例えば、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液に硝酸を混合して用いることによって、テーパ角を45度以下とすることが可能であり、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液に過塩素酸を混合して用いることによって、テーパ角を45度よりも大きくすることが可能となる。また、上述のエッチング用薬液の温度は、下部電極12の所望の断面形状を再現性良く得るために、40〜70℃の範囲内で一定温度に制御することが望ましい。なお、ここでエッチング用薬液の上限温度は、薬液の濃度の安定性、取扱上の安全性の観点から70℃としてあるが、安定性および安全性に問題がなければ70℃以上の温度であってもよいことは勿論である。
上述のウェットエッチング工程を行った後は、レジスト層9を除去するレジスト除去工程を行うことによって、図1(c)に示す構造を得る。ここにおいて、レジスト除去工程では、酸素プラズマ処理、オゾン処理などのドライプロセスを採用してもよいし、硝酸、硫酸、有機溶剤などを用いたウェットプロセスを採用してもよい。
その後、絶縁性基板11の上記一表面側にノンドープの多結晶シリコン層3を例えばCVD法により形成することによって、図1(d)に示す構造を得る。なお、多結晶シリコン層3は、CVD法に限らず、スパッタ法やCGS(Continuous Grain Silicon)法、アモルファスシリコンを堆積させた後にレーザアニールする方法などによって成膜してもよいが、多結晶シリコン層3の膜質や生産性の観点からCVD法を採用することが好ましい。
続いて、多結晶シリコン層3のうちドリフト部6aの形成予定部位に対して、後述のナノ結晶化プロセス(ナノ結晶化工程)、酸化プロセス(絶縁膜形成工程)を順次施すことでドリフト部6aを形成するとともに強電界ドリフト層6を形成し(多結晶シリコン層3のうち下部電極12に重なる部分がドリフト部6aとなり、重ならない部分が分離部6bとなる)、絶縁性基板11の上記一表面側にSiO2膜からなる絶縁層8をCVD法などによって形成し、絶縁層8のうち表面電極7の形成予定部位に対応した部分をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して除去し、絶縁性基板11の上記一表面側に金属薄膜(ここでは、金薄膜)を例えば電子ビーム蒸着法によって成膜し、上記金属薄膜をフォトリソグラフィ技術およびArガスを用いたイオンミリング技術によりパターニングすることで表面電極7を形成することによって、図1(e)に示す構造を得る。なお、ドリフト部6aは、図2に示すように、少なくとも、下部電極12の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている(つまり、絶縁性基板11の厚み方向に延びている)。図2中の矢印は、電子源10を駆動する際に表面電極7を高電位側として表面電極7と下部電極12との間に電圧を印加した時に下部電極12から注入された電子の流れを示しており、下部電極12から注入された電子はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、ドリフト部6aにおけるグレイン51間の領域を表面電極7に向かってドリフトし、表面電極7を通して放出される。
上述のナノ結晶化プロセスでは、例えば、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において多結晶シリコン層3に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層3の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cm2の電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層をドリフト部6aの形成予定領域に形成する。また、上述の酸化プロセスでは、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において第1の複合ナノ結晶層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cm2の電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む第2の複合ナノ結晶層からなるドリフト部6aを形成するようになっている。ここにおいて、ノンドープの多結晶シリコン層3のうち隣り合うドリフト部6aの間を埋める部分が上述の分離部6bとなる。なお、本実施形態では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される第1の複合ナノ結晶層においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、ドリフト部6aにおいてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセスの条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の第2の複合ナノ結晶層は従来例と同様の酸化した多孔質多結晶シリコン層と同じ構成とみなすことができる。
以上説明した製造方法によれば、絶縁性基板11の上記一表面上に成膜した導電性層12aをエッチング用薬液を用いたウェットエッチング工程にてパターニングすることにより下部電極12を形成するので、下部電極12を断面台形状の形状(テーパ角が90度よりも小さな順テーパとなる形状)にパターニングすることができ、しかも、リフトオフ法を利用して下部電極12をパターニングする場合に比べて下部電極12のパターニングに伴う導電性のパーティクルの発生を少なくできるとともに形状不良の発生を少なくでき、製造歩留まりを高めることができる。
また、上述の製造方法では、導電性層12aとしてクロム膜若しくはクロム合金膜を採用しているので、絶縁性基板11として上述のようにガラス基板を用いる場合には、絶縁性基板11と導電性層12aとの密着性が十分高くなるとともに、導電性層12aの材料としてアルミニウムを採用する場合に比べて下部電極12と強電界ドリフト層(電子通過層たるドリフト部6aおよび分離部6b)との反応を防止することができるから、製造歩留まりや動作信頼性を向上できるという利点があり、導電性層12aの材料としてタングステンを採用する場合に比べて下部電極12の低抵抗化を図れ、絶縁性基板11の大面積化を図りながらも各電子源素子10aへ十分な電力を供給することができるという利点がある。なお、各電子源素子10aへの供給電力の均一化を図る上では、強電界ドリフト層6上において下部電極12に交差する方向に列設される電子源素子10a個々に独立した表面電極7を形成して上記方向に列設される表面電極7を低抵抗のバス電極により共通接続するような構成を採用することが望ましい。
また、下部電極12として採用しているクロム膜およびクロム合金膜は、耐熱性が比較的高く、ナノ結晶化プロセスで用いるフッ化水素水溶液に対する耐性が高いので、多結晶シリコン層3の成膜工程やナノ結晶化工程で下部電極12に発生するダメージを低減することができる。
なお、上述の製造方法では、導電性層12a表面へのフォトレジストの塗布前にHMDSによる処理を行わないようにして、HMDSによる処理を行う場合に比べて導電性層12aとレジスト層9との密着性を低くしているので、HMDSにより処理を行った場合に比べて下部電極12の上記テーパ角を小さくできるが、フォトレジストの塗布前にHMDSによる処理を行うようにしてもよい。
ところで、本実施形態では、上述のナノ結晶化工程により形成された第1の複合ナノ結晶層中の各シリコン微結晶63それぞれの表面にシリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程として、上述の酸化プロセスを採用しているが、酸化プロセスの代わりに窒化プロセスや酸窒化プロセスを採用してもよく、窒化プロセスを採用した場合には、図2にて説明した各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、酸窒化プロセスを採用した場合には、図2にて説明した各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン酸窒化膜となる。
実施形態1における電子源の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
同上における電子源の要部説明図である。
従来例を示す電子源の動作説明図である。
同上の電子源を応用したディスプレイの概略構成図である。
3 多結晶シリコン層
4 第2の多結晶シリコン層
6 強電界ドリフト層
6a ドリフト部
6b 分離部
7 表面電極
8 絶縁層
9 レジスト層
10 電子源
11 絶縁性基板
12 下部電極