従来から、ナノ結晶シリコン(ナノメータオーダのシリコン微結晶)を利用した電子デバイスとして図8に示す構成の電界放射型電子源10’が提案されている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
図8に示した電界放射型電子源10’は、絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11の一表面上に導電性層(例えば、金属膜)からなる下部電極12が形成され、下部電極12上に酸化した多孔質多結晶シリコンよりなる電子通過層(強電界ドリフト層)6’が形成され、電子通過層6’上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。ここに、表面電極7の厚さ寸法は例えば10nm〜15nm程度に設定されている。なお、図8に示す構成の電界放射型電子源10’では、下部電極12と電子通過層と表面電極7とで電子源素子を構成している。
上述の電界放射型電子源10’から電子を放出させるには、例えば、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。ここに、直流電圧Vpsを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が電子通過層6’をドリフト(通過)し表面電極7を通して放出される(図8中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、電子通過層6’の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
上述の電界放射型電子源10’では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図8参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電界放射型電子源10’では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
上述の電子通過層6’は、下部電極12上にノンドープの多結晶シリコン層を成膜した後、当該多結晶シリコン層をフッ酸系溶液からなる電解液中で陽極酸化することにより多孔質多結晶シリコン層を形成し、多孔質多結晶シリコン層を急速加熱法ないし電気化学的な酸化方法によって酸化することで形成されている。しかして、電子通過層6’は、図9に示すように、多結晶シリコンのグレイン51、多数のナノメータオーダのシリコン微結晶63、各グレイン51それぞれの表面に形成された薄いシリコン酸化膜52、各シリコン微結晶63それぞれの表面に形成されシリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚のシリコン酸化膜からなる絶縁膜64とを有している。
上述のように電子通過層6’が酸化した多孔質多結晶シリコン層により構成された電界放射型電子源10’に比べて大面積化が容易な電界放射型電子源として、図10に示すように、下部電極12と表面電極7との間に酸化した多孔質アモルファスシリコン層からなる電子通過層6”を備えた電界放射型電子源10”が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
上述の電子通過層6”は、下部電極12上にノンドープのアモルファスシリコン層を成膜した後、当該アモルファスシリコン層を陽極酸化することにより多孔質アモルファスシリコン層を形成し、多孔質アモルファスシリコン層を電気化学的な酸化方法によって酸化することで形成されている。
また、ディスプレイ用の電子源として、下部電極12と電子通過層6”と表面電極7とで構成される電子源素子を1枚の絶縁性基板上に多数形成した電界放射型電子源が提案されている。
図11に示す電界放射型電子源10”は、ディスプレイ用の電子源を構成した一例であって、絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数本の帯板状の下部電極12と、下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数の酸化した多孔質アモルファスシリコン層よりなる電子通過層6”と、電子通過層6”の幅方向の両側に形成されたノンドープのアモルファスシリコン層よりなる分離層16”と、電子通過層6”および分離層16”の上で電子通過6”および分離層16”に跨って下部電極12に交差する方向に列設された複数本の帯板状の表面電極7とを備えている。
この電界放射型電子源10”では、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数本の下部電極12と、下部電極12に交差する方向に列設された複数本の表面電極7との交点に相当する部位に電子通過層6”の一部が挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、電子通過層6”において選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位に強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数本の表面電極7の群と複数本の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、下部電極12と、下部電極12上の電子通過層6”と、電子通過層6”上の表面電極7とからなる電子源素子10a”を配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10a”から電子を放出させることが可能になる。
なお、図11に示す構成の電界放射型電子源10”の製造にあたっては、絶縁性基板11の一表面上に複数本の下部電極12を形成した後、絶縁性基板11の上記一表面側に例えばプラズマCVD法によりノンドープのアモルファスシリコン層を成膜し、当該アモルファスシリコン層のうち下部電極12に重なる部分をフッ酸系溶液からなる電解液中で陽極酸化することにより多孔質アモルファスシリコン層を形成し、多孔質アモルファスシリコン層を電気化学的な酸化方法によって酸化することで電子通過層6”を形成し、その後、複数本の表面電極7を形成している。
ところで、本願発明者らは、上述の図10に示した構成の電界放射型電子源10”において、製造時に電子通過層6”の基礎となるアモルファスシリコン層をノンドープで高抵抗のアモルファスシリコン層ではなくドーピングした低抵抗のアモルファスシリコン層とした方が、製造された電界放射型電子源10”の電子放出特性が向上するという結果を得ている。
特開平11−329213号公報
特開2000−100316号公報
特開2001−155622号公報
特開2001−35355号公報
しかしながら、図10や図11の電界放射型電子源10”における電子通過層6”の基礎となるアモルファスシリコン層を低抵抗のアモルファスシリコン層として大面積化を図った場合には、電子放出特性の面内ばらつきが大きくなってしまう(つまり、電子源素子10a”の電子放出特性の面内ばらつきが大きくなってしまう)という問題があった。
この種の問題が起こる原因について検討した結果、本願発明者らは、下部電極12上の低抵抗のアモルファスシリコン層を陽極酸化した場合、下部電極12の抵抗の影響で多孔質化が均一に行われておらず、結果的に電子通過層6”の構造の面内ばらつきが大きくなっているという知見を得た。すなわち、図12に示すように、絶縁性基板11上の下部電極12上に低抵抗のアモルファスシリコン層13を成膜した後で、下部電極12の両端部を電源(図示せず)からの電流Iの通電用のパッド28,28として陽極酸化を起う場合、低抵抗のアモルファスシリコン層13には下部電極12の両端部に近いほど大きな電流が流れ、両端部から遠いほど小さな電流が流れることとなって、アモルファスシリコン層13は下部電極12の両端部に近いほど多孔質化が進行しやすくなり、多孔質化が面内で均一に行われないので、電子通過層6”の構造が面内でばらついてしまうのである。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、従来に比べて電子放出特性の面内ばらつきが小さな電界放射型電子源を提供することにある。
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加したときに作用する電界により電子が通過する電子通過層を備え、表面電極を通して電子を放出する電界放射型電子源であって、電子通過層は、多数のナノメータオーダのアモルファス粒および各アモルファス粒それぞれの表面に形成されアモルファス粒の粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を含む複合アモルファス層を備え、複合アモルファス層は、下部電極上に成膜された下部電極側アモルファス半導体層よりも最表面側に成膜され下部電極側アモルファス半導体層よりも低抵抗の表面電極側アモルファス半導体層を電解液に接するようにして下部電極を陽極とし、陽極と電解液中に浸漬した陰極との間に通電するナノ微粒子化プロセスを施すことにより多数のナノメータオーダのアモルファス粒を形成してから、酸化プロセス若しくは窒化プロセス若しくは酸窒化プロセスを施すことにより各アモルファス粒それぞれの表面に絶縁膜を形成してなることを特徴とする。
この発明によれば、複合アモルファス層の基礎となる表面電極側アモルファス半導体層と下部電極との間に下部電極側アモルファス半導体層が設けられているので、複合アモルファス層の構造の面内ばらつきを小さくすることができ、従来に比べて電子放出特性の面内ばらつきを小さくできる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記微粒子化プロセスにおいて前記陽極となる前記下部電極へは両端部から通電するようにし、前記下部電極の両端部間の距離をL、前記下部電極の厚さをtm、前記下部電極の抵抗率をρm、前記下部電極側アモルファス半導体層の厚さをρSi、前記下部電極側アモルファスシリコン層の抵抗率をρSiとするとき、
ρSi>ρm×{L2/(4×tSi×tm)}
の条件を満たすように前記下部電極側アモルファス半導体層の抵抗率を設定してなることを特徴とする。
この発明によれば、前記下部電極側アモルファス半導体層の抵抗を前記下部電極の抵抗よりも大きくでき、前記複合アモルファス層の構造の面内ばらつきを小さくすることができる。
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記下部電極側アモルファス半導体層は、ノンドープのアモルファス半導体膜からなることを特徴とする。
この発明によれば、前記下部電極側アモルファス半導体層の抵抗を高くすることができる。
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記表面電極側アモルファス半導体層は、n形アモルファス半導体膜からなることを特徴とする。
この発明によれば、前記表面電極側アモルファス半導体層の低抵抗化を図れる。
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記下部電極側アモルファス半導体層は、厚み方向において前記表面電極側アモルファス半導体層に近づくにつれて抵抗率が傾斜的に小さくなる抵抗率勾配を有することを特徴とする。
この発明によれば、前記下部電極側アモルファス半導体層の抵抗を高くしながらも、前記下部電極側アモルファス半導体層の抵抗率を前記表面電極側アモルファス半導体層に近づくにつれて小さくすることができる。
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5の発明において、前記電子通過層は、前記複合アモルファス層が複数の柱状のアモルファス部を有することを特徴とする。
この発明によれば、前記複合アモルファス層で発生した熱の一部がアモルファス部を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず安定して電子を放出することができる。
請求項1の発明では、複合アモルファス層の基礎となる表面電極側アモルファス半導体層と下部電極との間に下部電極側アモルファス半導体層が設けられているので、複合アモルファス層の構造の面内ばらつきを小さくすることができ、従来に比べて電子放出特性の面内ばらつきを小さくできるという効果がある。
本実施形態の電界放射型電子源10は、図1に示すように、絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数本の帯板状の下部電極12と、各下部電極12それぞれの上に形成された複数の電子通過層6と、各電子通過層6それぞれの幅方向の両側に形成された複数の分離層16と、複数の電子通過層6および複数の分離層16の上に形成され後述の各電子源素子10aそれぞれに対応する部位に窓孔8aが形成された絶縁層8と、絶縁層8の表面側で下部電極12と交差する方向(直交する方向)に列設された複数本の帯板状の表面電極7とを備えている。ここにおいて、各表面電極7は、各電子源素子10aに対応する部位が絶縁層8の窓孔8aを通して電子通過層6上に形成され、その他の部分が絶縁層8の表面上に形成されている。なお、電子通過層6および分離層16については後述する。
下部電極12は金属材料からなる単層(例えば、W,Mo,Cr,Ti,Ta,Ni,Al,Cu,Au,Ptなどの金属あるいは合金あるいはシリサイドなど金属間化合物からなる単層)の金属薄膜をパターニングすることにより構成されているが、多層(例えば、W,Mo,Cr,Ti,Ta,Ni,Al,Cu,Au,Ptなどの金属あるいは合金あるいはシリサイドなど金属間化合物からなる多層)の薄膜をパターニングすることにより構成してもよい。なお、下部電極12の厚さは250nm〜300nm程度に設定されている。
また、表面電極7の材料には仕事関数の小さな材料(例えば、金)が採用されているが、表面電極7の材料は金に限定されるものではなく、また、表面電極7は単層構造に限らず、多層構造としてもよい。表面電極7の厚さは電子通過層6を通ってきた電子がトンネルできる厚さであればよく、10nm〜15nm程度に設定すればよい。なお、各表面電極7の長手方向の両端部上にはパッド27が形成されており、各下部電極12は、長手方向の両端部28がそれぞれパッドを構成している。
本実施形態の電界放射型電子源10は、図11に示した従来構成と同様に、絶縁性基板11の一表面上において列設された複数本の下部電極12と、下部電極12に交差する方向に列設された複数本の表面電極7との交点に相当する部位に電子通過層6の一部が挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、電子通過層6において選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位に強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数本の表面電極7の群と複数本の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、下部電極12と、下部電極12上の電子通過層6と、電子通過層6上の表面電極7とからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。なお、表面電極7は必ずしも帯板状の形状に形成する必要はなく、各電子源素子10aそれぞれに対応する部位にのみ形成して下部電極12に直交する方向に並んだ表面電極7を低抵抗のバス配線により電気的に接続するようにしてもよい。
ここにおいて、上述の電子源素子10aから電子を放出させるには、図2に示すように、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧(駆動電圧)Vpsを印加すれば、下部電極12から注入された電子が電子通過層6をドリフト(通過)し表面電極7を通して放出される(図2中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。電子通過層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし放出される。また、電子源素子10aに上記直流電圧Vpsを印加するとともに、対向配置されたアノード電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにアノード電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加しておけば、表面電極7を通して放出された電子が直流電圧Vcにより加速される。なお、本実施形態の電界放射型電子源10は、ディスプレイ用の電子源として用いるものであるから、表面電極7とアノード電極21との間の空間は真空とするが、低真空でも電子を安定して放出することができる。
本実施形態の電子源素子10aでは、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、アノード電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図2参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高いことになる。ここに、本実施形態における電子源素子10aでは、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができる。
ところで、上述の電子通過層6は、下部電極12上に形成されたノンドープのアモルファスシリコン膜よりなる下部電極側アモルファス半導体層4と下部電極側アモルファス半導体層4上に形成された複合アモルファス層5とで構成されている。
ここにおいて、複合アモルファス層5は、図3に示すように下部電極側アモルファス半導体層4上に形成されたn形アモルファスシリコン膜よりなる表面電極側アモルファス半導体層3に対して後述のナノ微粒子化プロセスおよび酸化プロセスを施すことにより形成されており、少なくとも、複数の柱状のアモルファス部と、アモルファス部間に存在する多数のナノメータオーダのアモルファスシリコン粒と、各アモルファスシリコン粒63それぞれの表面に形成されアモルファスシリコン粒の粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜(絶縁膜)とを含んでいると考えられる。ここに、アモルファス部は、下部電極側アモルファス層4の厚み方向に延びている。なお、表面電極側アモルファス半導体層3は、アモルファスシリコンにn型不純物をドーピングすることで導電性を付与し下部電極側アモルファス半導体層4よりも低抵抗としてあるが、ドーピング濃度は1〜数%程度に設定することが好ましい。
したがって、本実施形態における電子源素子10aでは、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧Vpsを印加することにより、下部電極12から電子通過層6へ電子e−が注入される。一方、電子通過層6に印加された電界の大部分は上記アモルファスシリコン粒の表面の上記絶縁膜にかかるから、注入された電子e−は上記絶縁膜にかかっている強電界により加速されて電子通過層6の表面に向かってドリフトし、表面電極7をトンネルし放出される。しかして、電子通過層6では下部電極12から注入された電子が上記アモルファスシリコン粒でほとんど散乱されることなく上記絶縁膜にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出される。また、複合アモルファス層5で発生した熱の一部が柱状のアモルファス部を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず安定して電子を放出することができる。なお、本実施形態では、アモルファスシリコン粒がアモルファス粒を構成している。
以下、電界放射型電子源10の製造方法について説明する。
まず、絶縁性基板11の上記一表面上に下部電極用の導電性層を成膜した後で当該導電性層をパターニングすることで複数の下部電極12を形成し、その後、絶縁性基板11の上記一表面側に所定膜厚(例えば、50nm)のノンドープのアモルファスシリコン膜、所定ドーピング濃度(例えば、1%)で所定膜厚(例えば、500nm)のn形アモルファスシリコン膜を例えばプラズマCVD法などによって同一のチャンバ内で連続的に成膜する。なお、本実施形態では、ノンドープのアモルファスシリコン膜のうち下部電極12に重なる部分が上述の下部電極側アモルファス半導体層4を構成し、n形アモルファスシリコン膜のうち下部電極12および下部電極側アモルファス半導体層4に重なる部分が上述の表面電極側アモルファス半導体層3を構成し、ノンドープのアモルファスシリコン膜のうち下部電極12に重ならない部分とn形アモルファスシリコン膜のうち下部電極12に重ならない部分とで上述の分離層16を構成している。また、本実施形態では、n形アモルファスシリコン膜のドーピングをプラズマCVD法による成膜時に行っているが、ノンドープのアモルファスシリコン膜を成膜してから下部電極12に重なる領域のみにn形不純物をイオン注入によってドーピングするようにしてもよく、この場合には分離層16がノンドープの多結晶シリコンのみにより形成されることとなる。
続いて、表面電極側アモルファス半導体層4(つまり、n形アモルファスシリコン膜のうち下部電極12に重なる部分)にナノ微粒子化プロセスを施すことにより、多数のナノメータオーダのアモルファスシリコン粒を含む複合層を形成する。ここにおいて、ナノ微粒子化プロセスでは、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液(フッ酸系溶液)よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において表面電極側アモルファス半導体層3に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により表面電極側アモルファス半導体層3の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cm2の電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多数のナノメータオーダのアモルファスシリコン粒を含む複合層を形成する。
ナノ微粒子化プロセスが終了した後に、上述の酸化プロセスを行うことで複合層を電気化学的に酸化することによって、上述の複合アモルファス層5を形成する。酸化プロセスでは、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において複合層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cm2の電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで複合層を電気化学的に酸化することによって上述のアモルファスシリコン粒、絶縁膜を含む複合アモルファス層5を形成するようになっている。なお、上述の各アモルファスシリコン膜は、厳密な意味でのアモルファスシリコン膜だけでなく、膜中に微結晶が形成された微結晶−アモルファス混相材料からなるマイクロクリスタルシリコン膜も含むものである。
その後、絶縁性基板11の上記一表面側に上記窓孔8aを有する絶縁層8を形成し、続いて、表面電極7用の金属薄膜を蒸着法などによって形成した後で当該金属薄膜をパターニングすることにより各表面電極7を形成すればよい。
以上の説明から分かるように、複合アモルファス層5は、下部電極12上に成膜された下部電極側アモルファス半導体層4よりも最表面側に成膜され下部電極側アモルファス半導体層4よりも低抵抗の表面電極側アモルファス半導体層3を電解液に接するようにして下部電極12を陽極とし、陽極と電解液中に浸漬した陰極との間に通電する微粒子化プロセスを施すことにより多数のアモルファスシリコン粒を形成してから、酸化プロセスを施すことにより各アモルファスシリコン粒それぞれの表面に絶縁膜を形成してある。
しかして、本実施形態の電界放射型電子源10では、複合アモルファス層5の基礎となる低抵抗の表面電極側アモルファス半導体層3と下部電極12との間に高抵抗の下部電極側アモルファス半導体層4が設けられているので、低抵抗の表面電極側アモルファス半導体層3と下部電極12との間に高抵抗の下部電極側アモルファス半導体層4が設けられていない従来例に比べて、複合アモルファス層5の構造の面内ばらつきを小さくすることができ、従来例に比べて電子放出特性の面内ばらつきを小さくできる。
なお、上述の複合アモルファス層5では、各アモルファスシリコン粒それぞれの表面に形成されたシリコン酸化膜が絶縁膜を構成しており絶縁膜の形成に酸化プロセスを採用しているが、酸化プロセスの代わりに窒化プロセスないし酸窒化プロセスを採用してもよく、窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜がシリコン窒化膜となり、酸窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜がシリコン酸窒化膜となる。また、上述の複合アモルファス層5は、n形アモルファスシリコン膜からなる表面電極側アモルファス半導体層3を基礎として形成されているが、表面電極側アモルファス半導体層3としてn形アモルファスシリコン化合物膜(例えば、a−SiGe膜、a−SiC膜など)を採用してもよく、この場合には上述のアモルファス粒がアモルファスシリコン化合物粒となる。また、上述のナノ微粒化プロセスを行う前に、表面電極側アモルファスシリコン層3中の水分や水素を除去するために所定の熱処理温度(例えば、500〜600℃程度)で熱処理を行うようにすれば、複合アモルファス層5中に含まれる水分や水素を低減でき、各電子源素子10aの電子放出特性を向上させることができる。
ところで、上述のナノ微粒子化プロセスにおいて陽極となる下部電極12へは両端部から通電するようにし、図3に示すように、下部電極12の両端部間の距離をL、下部電極12の幅をW、下部電極12の厚さをtm、下部電極12の抵抗率をρm、下部電極側アモルファス半導体層4の厚さをtSi、下部電極側アモルファス半導体層4の抵抗率をρSi、表面電極側アモルファス半導体層3の厚さをt1とすれば、
下部電極12の一端部から中央までの抵抗Rm’は、
Rm’=ρm×(L/2)/(tm×W)
となり、下部電極12の両端部から電流を流した時の中央までの抵抗Rmは、
Rm=Rm’/2
となる。
一方、下部電極側アモルファス半導体層4のうち下部電極12における抵抗Rmに相当する部分に重なる部位の抵抗RSiは、
RSi=ρSi×{tSi/(W×L)}
となるので、Rm<RSi
とするには、
ρSi>ρm×{L2/(4×tSi×tm)}
の条件を満たすように下部電極側アモルファスシリコン層4の抵抗率を設定すればよい。
なお、下部電極側アモルファス半導体層4の膜厚が大きくなるほど下部電極側アモルファス半導体層4での電気抵抗成分が増大するので、電子放出特性(エミッション電流Ieや電子放出効率)の低下を抑制するために、下部電極側アモルファス半導体層4の膜厚は表面電極側アモルファス半導体層3の膜厚を超えないように設定することが望ましく、50nm以下に設定することが好ましい。
ここで、下部電極側アモルファス半導体層4の抵抗率の上限値の設計例について説明する。上述の電子源素子10aの表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧(駆動電圧)Vpsを20Vとして、ダイオード電流Ipsおよびエミッション電流Ieとして、それぞれ100mA/cm2、1mA/cm2を得るためには、下部電極側アモルファス半導体層4の抵抗を200Ω/cm2とする必要がある。いま仮に、下部電極側アモルファス半導体層4の抵抗を200Ω/cm2、下部電極側アモルファス半導体層4の膜厚を50nmに設定したとすれば、下部電極側アモルファス半導体層4の抵抗率ρSiは、ρSi=200/(50×10−7)=4×107Ωcmとなる。なお、表面電極側アモルファス半導体層3の抵抗率の下限値は、隣接する下部電極12間でリーク電流が流れ始める値よりも大きな値に設定する必要がある。なお、上述のρSiとρmとの関係式は下部電極12の両端部から通電する場合の式であったが、下部電極12の一端部のみから通電する場合には、
ρSi>ρm×{L2/(tSi×tm)}
の条件を満たすように下部電極側アモルファスシリコン層4の抵抗率を設定すればよい。ただし、複合アモルファス層5の面内均一性を向上させるには下部電極12の両端部から通電する方が望ましいのは勿論である。
以上説明した下部電極側アモルファス半導体層4はノンドープのアモルファスシリコン膜により構成してあるが、図4や図5に示すように、下部電極側アモルファス半導体層4となる高抵抗のアモルファスシリコン膜(アモルファスSi層)が、厚み方向において低抵抗のアモルファスSi層(表面電極側アモルファス半導体層3)に近づくにつれて抵抗率が傾斜的に小さくなる抵抗率勾配を有するようにしてもよく、このような構成を採用すれば、下部電極側アモルファス半導体層4の抵抗を高くしながらも、下部電極側アモルファス半導体層4の抵抗率を表面電極側アモルファス半導体層3に近づくにつれて小さくすることができる。なお、図4の抵抗率深さプロファイルを有している場合に比べて図5の抵抗率深さプロファイルを有している場合の方が下部電極側アモルファス半導体層4と下部電極12との界面バリアを低減でき、電子放出特性の向上を図れる。
(実施形態2)
図6に示す本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は実施形態1と略同じであって、複合アモルファス層5が各電子源素子10aそれぞれに相当する部分のみに形成され、柱状の形状となっている点、分離部16が全ての複合アモルファス層5の周囲を囲む形状に形成されている点などが相違する。ここにおいて、分離部16は、絶縁性基板11の厚み方向に直交する断面が格子状(網目状)に形成されている。要するに、複合アモルファス層5は、分離部16の網目の中に満たされた形で形成されており、絶縁性基板11の厚み方向に平行な角柱状に形成されている。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
しかして、本実施形態の電界放射型電子源10では、複合アモルファス層5で発生した熱の一部が複合アモルファス層5中の柱状のアモルファス部だけでなく分離部16を通して放熱されやすくなるから、より安定して電子を放出することができる。
なお、上述の電界放射型電子源10における電子通過層6の形成にあたっては、例えば、絶縁性基板11の上記一表面上に各下部電極12を形成してから、実施形態1と同様に絶縁性基板11の上記一表面側にノンドープのアモルファスシリコン膜、n形アモルファスシリコン膜を成膜した後、n形アモルファスシリコン膜上にフォトレジストを塗布し図7に示すようなフォトマスクMを利用して格子状にパターニングされたレジスト層を形成し、実施形態1と同様にナノ微粒子化プロセスおよび酸化プロセスを施すことにより複合アモルファス層5を形成すればよく、この場合にはレジスト層により覆われていた部分のn形アモルファスシリコン膜とノンドープのアモルファスシリコン膜とが分離部16となる。なお、上記フォトマスクMは、上記レジスト層の開口部の平面形状が微小な正方形状となるように構成されているが、開口部の平面形状が微小な多角形状、微小な円形状、微小な星形状となるように構成してもよい。
また、電子通過層6の他の形成方法としては、例えば、絶縁性基板11の上記一表面上に各下部電極12を形成してから、絶縁性基板11の上記一表面側に多結晶シリコン層からなる高熱伝導層を成膜し、上記フォトマスクMを利用して格子状にパターニングされたレジスト層を形成し、当該レジスト層をマスクとして高熱伝導層の露出部位を下部電極12に達する深さまでエッチングすることで高熱伝導層の一部からなる分離部16を形成した後、絶縁性基板11の上記一表面側にノンドープのアモルファスシリコン膜、n形アモルファスシリコン膜を連続して成膜し、その後、リフトオフ法によりレジスト層およびレジスト層上の積層膜を除去し、続いて、上記フォトマスクを利用して同じパターンのレジスト層を形成してから、実施形態1と同様にナノ微粒子化プロセスおよび酸化プロセスを施すことにより複合アモルファス層5を形成し、レジスト層を除去すればよい。
なお、上記各実施形態では、下部電極側アモルファス半導体層4上の表面電極側アモルファスシリコン層3を基礎として複合アモルファス層5を形成しているが、下部電極12の厚み方向において下部電極側アモルファス半導体層4と最表面側の表面電極側アモルファス半導体層3との間に別のアモルファス半導体層が1ないし複数介在していてもよい。また、上記各実施形態では、複合アモルファス層5が下部電極側アモルファス層4に達する深さまで形成されているが、下部電極側アモルファス半導体層4上のn形アモルファス半導体膜の深さ方向の途中までの領域に複合アモルファス層5を形成するようにしてもよい。