従来から、この種の電界放射型電子源として、例えば、図7に示す構成の電界放射型電子源10’が知られている。
図7に示す構成の電界放射型電子源10’は、絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11の一表面上に導電性層(例えば、金属膜)からなる下部電極12が形成され、下部電極12上に酸化した多孔質多結晶シリコンよりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。なお、表面電極7の厚さ寸法は例えば10nm〜15nm程度に設定されている。また、図7に示す構成の電界放射型電子源10’では、下部電極12と強電界ドリフト層6との間にノンドープの多結晶シリコン層3が介在しており、多結晶シリコン層3と強電界ドリフト層6とで、下部電極12と表面電極7との間に介在し電子が通過する電子通過部を構成し、下部電極12と電子通過部と表面電極7とで電子源素子を構成しているが、下部電極12と強電界ドリフト層6との間に多結晶シリコン層3を介在させずに強電界ドリフト層6のみで電子通過部を構成したものも提案されている。
上述の電界放射型電子源10’から電子を放出させるには、例えば、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。ここに、直流電圧Vpsを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図7中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
上述の電界放射型電子源10’では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図7参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電界放射型電子源10’では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
上述の強電界ドリフト層6は、下部電極12上に形成したノンドープの多結晶シリコン層3をフッ酸系溶液を含む電解液(つまり、フッ酸系溶液)中で所定深さまで陽極酸化することにより多結晶シリコンのグレインおよび多数のナノメータオーダのシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層を形成し、多孔質多結晶シリコン層を急速加熱法ないし電気化学的な酸化方法によって酸化することで形成されており、強電界ドリフト層6は、多結晶シリコンのグレイン、多数のナノメータオーダのシリコン微結晶、各グレインそれぞれの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚のシリコン酸化膜からなる絶縁膜とを有している。
また、ディスプレイ用の電子源として、図7に示した構成の電界放射型電子源10’における下部電極12と電子通過部と表面電極7とで構成される電子源素子を1枚の基板の一表面上に多数形成した電界放射型電子源も提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
図8および図9に示す電界放射型電子源10は、ディスプレイ用の電子源を構成した一例であって、絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数本の帯板状の下部電極12と、絶縁性基板11の上記一表面側で各下部電極12の両端部以外の部分を覆うように形成された強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上に形成され各電子源素子それぞれに対応する部位に窓孔8aが形成された絶縁層8と、強電界ドリフト層6の表面側で下部電極12と交差する方向(直交する方向)に列設された複数本の帯板状の表面電極7と、絶縁層8上において下部電極12と交差する方向(直交する方向)に列設され各表面電極7それぞれと接続された複数本のバス電極9とを備えている。ここにおいて、各表面電極7は、各電子源素子に対応する部位が絶縁層8の窓孔8aを通して強電界ドリフト層6上に形成され、その他の部分が絶縁層8の表面側に形成されている。また、強電界ドリフト層6は、各下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数のノンドープの多結晶シリコン層3と、各多結晶シリコン層3それぞれに重なる形で形成された複数の酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aと、絶縁性基板11の上記一表面上でドリフト部6の幅方向の両側に形成されたノンドープの多結晶シリコン層よりなる分離部6bとで構成されている。なお、図8および図9に示す電界放射型電子源10では、下部電極12と表面電極7とが交差する部位において、ドリフト部6aと多結晶シリコン層3とで電子通過部を構成している。
図8および図9に示した構成の電界放射型電子源10では、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数本の下部電極12と、強電界ドリフト層6の表面側に形成された複数本の表面電極7との間に強電界ドリフト層6のドリフト部6aが挟まれており、各表面電極7はそれぞれバス電極9に接続されているから、バス配線9と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、選択されたバス電極9に接続された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位のドリフト部6aにのみ強電界が作用して電子が放出される。つまり、図8および図9に示した構成の電界放射型電子源10は、絶縁性基板11の厚み方向において表面電極7とドリフト部6aと下部電極12とが重なる部分それぞれが電子源素子を構成していることとなり、電圧を印加するバス電極9と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子から電子を放出させることが可能になる。ここに、上述の電界放射型電子源10では、強電界ドリフト層6が電子通過層を構成しており、電子通過層におけるドリフト部6aを電子が下部電極12から表面電極7へ向かって通過する。
上述の電界放射型電子源10の製造にあたっては、絶縁性基板11の上記一表面上に下部電極用の導電性層を成膜した後で当該導電性層をパターニングすることで複数の下部電極12を形成し、その後、絶縁性基板11の上記一表面側に強電界ドリフト層6の基礎となるノンドープの多結晶シリコン層をCVD法などによって形成し、この多結晶シリコン層のうち下部電極12に重なる部分を、電解液としてフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液(フッ酸系溶液)を用いて陽極酸化することにより多結晶シリコンのグレインおよび多数のナノメータオーダのシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層を形成し、多孔質多結晶シリコン層を急速加熱法ないし電気化学的な酸化方法によって酸化することでドリフト部6aを形成し、その後、強電界ドリフト層6上に上記窓孔8aを有する絶縁層8を形成し、続いて、絶縁層8上にバス電極25を形成してから、表面電極7を形成している。なお、ドリフト部6aは、多結晶シリコンのグレイン、多数のナノメータオーダのシリコン微結晶、各グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、各シリコン微結晶の表面に形成されたシリコン酸化膜とを有している。
特開2000−188057号公報
特開2002−343230号公報
特開2003−197088号公報
ところで、図8および図9に示した構成の電界放射型電子源10では、絶縁性基板11の上記一表面上にパターニングされた下部電極12を形成した後で絶縁性基板11の上記一表面側に強電界ドリフト層6の基礎となるノンドープの多結晶シリコン層を堆積させ、その後、この多結晶シリコン層のうち下部電極12に重ならない部分の表面を覆い下部電極12に重なる部分の表面が露出するように開孔されたマスク層を形成してから、マスク層をマスクとして多結晶シリコン層のうち下部電極12に重なる部分を陽極酸化することによって多孔質化し、さらに酸化することによって強電界ドリフト層6を形成しているものである。ここにおいて、本願発明者らは強電界ドリフト層6の厚さを薄くするにつれて単位面積当たりの電子放出量が多くなり電子放出効率が高くなることを実験的に確かめている。
しかしながら、図8および図9に示した構成の電界放射型電子源10では、その製造にあたって下部電極12の厚さにもよるが電子通過層たる強電界ドリフト層6の基礎となる多結晶シリコン層の膜厚が比較的薄い場合(例えば、多結晶シリコン層の膜厚が1.5μm程度の場合)、多結晶シリコン層の表面に下部電極12の形状に起因した段差部が形成され、結果的に、下部電極12に交差する方向に形成されたバス電極9の膜厚が上記段差部に対応する部位で薄くなるので、駆動時にバス電極9に流れる電流によるジュール熱でバス電極の構成原子が凝集してバス電極9が断線してしまうことがあった。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、バス電極の断線を防止することができる電界放射型電子源の製造方法を提供することにある。
請求項1,3の発明は、絶縁性基板の一表面上に配列された複数本の下部電極と、絶縁性基板の前記一表面側に形成され各下部電極それぞれに重なる部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成した半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を含むドリフト部を有する電子通過層と、電子通過層上において下部電極の一部に重なるように形成された表面電極とを備え、絶縁性基板の厚み方向において下部電極とドリフト部と表面電極とが重なった各部分がそれぞれ表面電極を通して電子を放出する電子源素子を構成し、絶縁性基板の前記一表面に平行な面内で下部電極に交差する方向に配列された電子源素子の表面電極が接続された複数本のバス電極を備えた電界放射型電子源の製造方法であって、絶縁性基板の前記一表面上に複数本の下部電極を形成する下部電極形成工程と、下部電極形成工程の後で絶縁性基板の前記一表面側に電子通過層の基礎となる半導体層を形成する半導体層形成工程と、半導体層の表面において少なくとも各バス電極の形成予定部位に重なる領域を平坦化する平坦化工程と、平坦化工程の後で半導体層のうち下部電極に重なる部分を電解液を用いてナノ結晶化することで多数のナノメータオーダの半導体微結晶を形成するナノ結晶化工程と、各半導体微結晶それぞれの表面に半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、絶縁膜形成工程の後で絶縁性基板の前記一表面側に複数本のバス電極を形成するバス電極形成工程とを備えることを特徴とする。
この発明によれば、バス電極形成工程よりも前に、電子通過層の基礎となる半導体層の表面において少なくとも各バス電極の形成予定部位に重なる領域が平坦化されているので、結果的にバス電極に段差部が形成されるのを防止することができてバス電極が局所的に薄くなるのを防止できるから、バス電極の断線を防止することができる電界放射型電子源を提供できる。
また、請求項1の発明は、平坦化工程では、半導体層の表面において下部電極に重なる部分に比べて凹んだ部分に埋込層を形成することで前記領域を平坦化することを特徴とする。
この発明によれば、前記ナノ結晶化工程において埋込層をマスクとして利用することができ、別途にレジスト層をマスクとして形成する必要がなくなるとともに、前記ナノ結晶化工程におけるマスクとしての位置精度を高めることが可能となる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記半導体層形成工程にて形成する前記半導体層が多結晶シリコン層であり、前記ナノ結晶化工程で用いる前記電解液がフッ化水素水溶液とエタノールとを混合した混合液であり、前記平坦化工程では、前記埋込層の材料として窒化シリコンを採用することを特徴とする。
この発明によれば、前記埋込層と前記半導体層との密着性を高めることができる。
また、請求項3の発明は、平坦化工程では、半導体層の表面において下部電極に重ならない部位からなる基準面よりも突出した部分を酸化し、酸化された部分をエッチングにより除去することを特徴とする。
この発明によれば、請求項2の発明に比べてバス電極とバス電極の下地との密着性を向上させることができる。
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記半導体層形成工程では、前記絶縁性基板の前記一表面側に前記半導体層と同じ半導体材料からなるアモルファス半導体層を形成してから前記半導体層を形成することを特徴とする。
この発明によれば、前記半導体層形成工程において形成する前記半導体層にクラックが入りにくくなり、前記ナノ結晶化工程において用いる電解液により前記下部電極や前記絶縁性基板が腐食されるのを防止することが可能となる。
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記半導体層形成工程にて形成する前記半導体層が多結晶シリコン層であり、前記ナノ結晶化工程で用いる前記電解液がフッ化水素水溶液とエタノールとを混合した混合液であり、前記下部電極形成工程と前記半導体層形成工程との間に、窒化シリコンからなり前記下部電極の幅方向における両側の角部を覆う保護膜を形成する保護膜形成工程を備えることを特徴とする。
この発明によれば、前記ナノ結晶化工程で用いる前記電解液により前記下部電極が腐食されるのを防止することができ、しかも、保護膜と半導体層との密着性を高めることができる。
請求項1の発明では、バス電極の断線を防止することができる電界放射型電子源を提供できるという効果がある。
(実施形態1)
本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は図8および図9に示した従来構成と略同じであって、図1(g)および図2(g)に示すように、強電界ドリフト層6の表面において下部電極12に重なる部分に比べて凹んだ部分に窒化シリコンからなる埋込層4が形成され、ドリフト部6aの表面と埋込層4の表面とが略面一となっており、絶縁層8の表面が窓孔8a以外では平坦となっている点が相違する。すなわち、本実施形態では、バス電極9が絶縁層8の平坦な表面上に形成されているので、バス電極9の膜厚が局所的に薄くなるのを防止することができる。なお、図8および図9に示した従来例と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
ところで、本実施形態の電界放射型電子源10における強電界ドリフト層6のドリフト部6aは、後述の製造方法にて説明するように絶縁性基板11の上記一表面側に各下部電極12を形成した後で絶縁性基板11の上記一表面側に成膜した半導体層たるノンドープの多結晶シリコン層に対してナノ結晶化プロセス、酸化プロセスを順次施すことにより形成されており、図3に示すように、少なくとも、下部電極12の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。ここに、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている(つまり、絶縁性基板11の厚み方向に延びている)。図3中の矢印は、電界放射型電子源10を駆動する際に表面電極7を高電位側として表面電極7と下部電極12との間に電圧を印加した時に下部電極12から注入された電子e−の流れを示しており、下部電極12から注入された電子はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、ドリフト部6aにおけるグレイン51間の領域を表面電極7に向かってドリフトし、表面電極7を通して放出される。
なお、下部電極12の材料としては、上記半導体層との熱膨張係数が近い材料を採用することが好ましく、本実施形態では熱膨張係数がシリコンの熱膨張係数に近いクロムを採用しているが、クロム以外に、タングステン、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、あるいは、これらの合金を採用してもよい。また、表面電極7の材料として金を採用しているが、金に限らず、白金などの他の貴金属を採用してもよい。また、バス電極9の材料としては、例えば、アルミニウム、白金などの低抵抗金属を採用することが低抵抗化の点からは好ましい。ただし、バス電極9の構成原子のマイグレーションによる凝集を抑制するためには、バス電極9として、例えば、炭化ハフニウム、窒化タンタルなどの高融点金属からなる凝集防止層と上記低抵抗金属からなる低抵抗金属層との積層構造を採用することが望ましい。ここにおいて、下部電極12の膜厚は例えば3000Å程度に設定すればよく、表面電極7の膜厚は例えば10〜15nm程度に設定すればよい。
以下、本実施形態の電界放射型電子源10の製造方法について図1および図2を参照しながら説明する。
まず、絶縁性を有するガラス基板からなる絶縁性基板11の一表面上に下部電極12用の導電性層(例えば、クロム膜)を例えばスパッタ法などによって成膜してから、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して上記導電性層をパターニングする下部電極形成工程を行うことでそれぞれ上記導電性層の一部からなる複数本の下部電極12を形成することにより、図1(a)および図2(a)に示す構造を得る。
その後、絶縁性基板11の上記一表面側に所定膜厚(例えば、1.5μm)のノンドープの多結晶シリコン層3aをCVD法によって成膜することにより、図1(b)および図2(b)に示す構造を得る。ここにおいて、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面は、下部電極12に重ならない部分が下部電極12に重なる部分に比べて凹んでいる。なお、本実施形態では、このノンドープの多結晶シリコン層3aが電子通過層たる強電界ドリフト層6の基礎となる半導体層を構成しており、当該多結晶シリコン層3aの成膜工程が、電子通過層の基礎となる半導体層を形成する半導体層形成工程となる。
次に、多結晶シリコン層3a上に埋込層4用のSi3N4膜をCVD法によって成膜し、ノンドープの多結晶シリコン層3aにおいて下部電極12に重なる部分の表面が露出するまでエッチバックを行うことでノンドープの多結晶シリコン層3aの表面において下部電極12に重なる部分に比べて凹んだ部分にそれぞれ上記Si3N4膜の一部からなる埋込層4を形成することにより、図1(c)および図2(c)に示す構造を得る。なお、本実施形態では、埋込層4を形成する工程が半導体層の表面において少なくとも各バス電極9の形成予定部位に重なる領域を平坦化する平坦化工程となる。
続いて、埋込層4をマスクとして利用して上述のノンドープの多結晶シリコン層3aのうちドリフト部6aの形成予定部位に対して、ナノ結晶化プロセス(ナノ結晶化工程)、酸化プロセス(絶縁膜形成工程)を順次施すことで強電界ドリフト層6を形成することにより、図1(d)および図2(d)に示す構造を得る。
上述のナノ結晶化プロセスでは、例えば、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において上記多結晶シリコン層3aに白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により上記多結晶シリコン層3の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cm2の電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層をドリフト部6aの形成予定領域に形成する。また、上述の酸化プロセスでは、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において第1の複合ナノ結晶層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cm2の電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む第2の複合ナノ結晶層からなるドリフト部6aを形成するようになっている。ここにおいて、ノンドープの多結晶シリコン層3aのうち絶縁性基板11の上記一表面上でドリフト部6の幅方向の両側に形成されている部分がノンドープの多結晶シリコン層よりなる分離部6bを構成し、ドリフト部6aと下部電極12との間に形成されている部分が、ドリフト部6aとともに電子通過部を構成する多結晶シリコン層3を構成している。なお、本実施形態では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される第1の複合ナノ結晶層においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、ドリフト部6aにおいてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセスの条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の第2の複合ナノ結晶層は従来例と同様の酸化した多孔質多結晶シリコン層と同じ構成とみなすことができる。
上述の強電界ドリフト層6を形成した後、絶縁性基板11の上記一表面側に、上記窓孔8aが開口されたSiO2膜からなる絶縁層8を例えばリフトオフ法によって形成することにより、図1(e)および図2(e)に示す構造を得る。ここにおいて、絶縁層8をリフトオフ法により形成するにあたっては、強電界ドリフト層6の形成後に絶縁性基板11の上記一表面側にフォトレジストを塗布してから、強電界ドリフト層6に重なる部分のうち窓孔8aの形成予定部位に対応した部分以外が開口されたレジスト層を形成し、続いて、絶縁性基板11の上記一表面側にSiO2膜を例えばスパッタ法により成膜し、レジスト層およびレジスト層上のSiO2膜を除去することで強電界ドリフト層6上でパターニングされたSiO2膜からなる絶縁層8を形成する。なお、絶縁層8は、SiO2膜に限らず、例えば、Si3N4膜でもよい。また、絶縁層8となるSiO2膜やSi3N4膜の成膜方法は、スパッタ法に限らず、例えば、電子ビーム蒸着法などの他の成膜方法を採用してもよい。また、絶縁層8のパターン形成方法についてもリフトオフ法に限らず、例えば、成膜工程とリソグラフィ工程とエッチング工程とを組み合わせたパターン形成方法でもよい。
次に、絶縁性基板11の上記一表面側に所定形状にパターニングされた複数本のバス電極9を形成するバス電極形成工程を行うことによって、図1(f)および図2(f)に示す構造を得る。なお、バス電極形成工程では、例えば、リフトオフ法を利用してバス電極9を形成するようにしてもよいし、バス電極用の金属膜を成膜した後でリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してパターニングするようにしてもよい。
続いて、絶縁性基板11の上記一表面側に表面電極7用の金属薄膜(例えば、金薄膜)を例えば蒸着法によって成膜し、上記金属薄膜をリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してパターニングすることでそれぞれ上記金属薄膜の一部からなる複数の表面電極7を形成することにより、図1(g)および図2(g)に示す構造の電界放射型電子源10を得る。
以上説明した製造方法によれば、バス電極形成工程よりも前に、強電界ドリフト層6の基礎となるノンドープの多結晶シリコン層3の表面において少なくとも各バス電極9の形成予定部位に重なる領域が平坦化されているので、絶縁層8において窓孔8a以外の部分の表面が平坦となり、結果的にバス電極9に段差部が形成されるのを防止することができてバス電極9が局所的に薄くなるのを防止できるから、熱などに起因したバス電極9の断線を防止することができる電界放射型電子源10を提供できる。また、上記平坦化工程では、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面において下部電極12に重なる部分に比べて凹んだ部分に埋込層4を形成することで上記領域を平坦化しているので、ナノ結晶化工程において埋込層4をマスクとして利用することができ、別途にレジスト層をマスクとして形成する必要がなくなるとともに、ナノ結晶化工程におけるマスクとしての位置精度を高めることが可能となる。
ところで、図8および図9に示した構成の電界放射型電子源10の製造にあたっては、強電界ドリフト層6の基礎となる多結晶シリコン層における段差部のところで深さ方向へ走るクラックが発生することがあり、陽極酸化時に電解液が多結晶シリコン層のうちマスク層により覆われていない表面からクラックを通って浸入し下部電極12や絶縁性基板11に到達する恐れがあった。このため、下部電極12や絶縁性基板11の材料として上記電解液(フッ酸系溶液)に対する耐性(耐腐食性)の低い材料を採用している場合、下部電極12や絶縁性基板11が腐食されてしまい、下部電極12が断線したり多結晶シリコン層が剥離してしまうことがあるので、歩留まりが低くなるとともに信頼性が低くなるという問題があった。
これに対して、本実施形態の製造方法では、埋込層4の材料として窒化シリコンを採用しており、埋込層4がナノ結晶化工程で用いる電解液に対して耐性を有するので、半導体層形成工程にて形成したノンドープの多結晶シリコン層3aの段差部に深さ方向に走るクラックが形成されていてもナノ結晶化工程において電解液がクラックを通して浸入するのを防止することができ、下部電極12や絶縁性基板11が電解液によって腐食されるのを防止することが可能となって、絶縁性基板11および下部電極12それぞれの材料の選択肢が多くなるとともに、製造時の歩留まりの向上、長期的な信頼性の向上を図れる。なお、埋込層4の材料は窒化シリコンに限定するものではなく、ナノ結晶化工程で用いる電解液(フッ酸系溶液)に対して耐性を有する材料であればよいが、窒化シリコンを採用すれば、埋込層4とノンドープの多結晶シリコン層3aとの密着性を高めることができる。
(実施形態2)
本実施形態の電界放射型電子源10の構成は実施形態1と同じであって、図4(g)および図5(g)に示すように、強電界ドリフト層6の表面が平坦であり、絶縁層8の表面が窓孔8a以外では平坦となっている点が相違する。したがって、本実施形態でも、実施形態1と同様に、バス電極9が絶縁層8の平坦な表面上に形成されているので、バス電極9の膜厚が局所的に薄くなるのを防止することができる。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
以下、本実施形態の電界放射型電子源10の製造方法について図4および図5を参照しながら説明するが、実施形態1と同様の製造工程については説明を適宜省略する。
まず、実施形態1と同様に、絶縁性基板11の上記一表面側に複数本の下部電極12を形成する下部電極形成工程を行うことによって、図4(a)および図5(a)に示す構造を得た後、絶縁性基板11の上記一表面側に半導体層たるノンドープの多結晶シリコン層3aを形成する半導体層形成工程を行うことにより、図4(b)および図5(b)に示す構造を得る。ここにおいて、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面は、下部電極12に重ならない部分が下部電極12に重なる部分に比べて凹んでいる。
次に、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面において、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面を平坦化することによって、図4(c)および図5(c)に示す構造を得る。ここにおいて、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面を平坦化するにあたっては、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面のうち下部電極12に重ならない部位からなる基準面よりも突出した部分を電気化学的に酸化する酸化工程を行い、酸化工程にて酸化された部分をウェットエッチングにより選択的に除去している。ここで、上述の酸化工程では、下部電極12形成時と同じようにパターニングされたレジスト層をノンドープの多結晶シリコン層3a上に形成した後、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムかrなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、電解液中において多結晶シリコン層3aに白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流を流すことによって上記突出した部分を電気化学的に酸化している。したがって、平坦化工程では電気学的な酸化工程とウェットエッチング工程とを利用してノンドープの多結晶シリコン層3aの表面を平坦化しているので、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面にダメージが発生するのを抑制することができる。なお、本実施形態では、ノンドープの多結晶シリコン層3aの表面を平坦化する工程が、半導体層の表面において少なくとも各バス電極9の形成予定部位に重なる領域を平坦化する平坦化工程となる。
続いて、上記平坦化工程にて用いたレジスト層をマスクとして利用して上述の平坦化したノンドープの多結晶シリコン層3aのうちドリフト部6aの形成予定部位に対して、実施形態1にて説明したナノ結晶化プロセス(ナノ結晶化工程)、酸化プロセス(絶縁膜形成工程)を順次施すことで強電界ドリフト層6を形成することにより、図4(d)および図5(d)に示す構造を得る。
上述の強電界ドリフト層6を形成した後、絶縁性基板11の上記一表面側に、実施形態1と同様に、上記窓孔8aが開口されたSiO2膜からなる絶縁層8を形成することにより、図4(e)および図5(e)に示す構造を得る。
次に、絶縁性基板11の上記一表面側に所定形状にパターニングされた複数本のバス電極9を形成するバス電極形成工程を行うことによって、図4(f)および図5(f)に示す構造を得る。
続いて、絶縁性基板11の上記一表面側に表面電極7用の金属薄膜(例えば、金薄膜)を例えば蒸着法によって成膜し、上記金属薄膜をリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してパターニングすることでそれぞれ上記金属薄膜の一部からなる複数の表面電極7を形成することにより、図4(g)および図5(g)に示す構造の電界放射型電子源10を得る。
以上説明した製造方法によれば、バス電極形成工程よりも前に、強電界ドリフト層6の基礎となるノンドープの多結晶シリコン層3の表面において少なくとも各バス電極9の形成予定部位に重なる領域が平坦化されているので、絶縁層8において窓孔8a以外の部分の表面が平坦となり、結果的にバス電極9に段差部が形成されるのを防止することができてバス電極9が局所的に薄くなるのを防止できるから、熱などに起因したバス電極9の断線を防止することができる電界放射型電子源10を提供できる。
ところで、上記実施形態1,2では、絶縁性基板11の上記一表面側に下部電極12を形成した後、半導体層たるノンドープの多結晶シリコン層3aを成膜する半導体層形成工程を行っているが、半導体層形成工程において、絶縁性基板11の上記一表面側に半導体層(ここでは、多結晶シリコン層3a)と同じ半導体材料(ここでは、シリコン)からなるアモルファス半導体層(ここでは、アモルファスシリコン層)を形成してから半導体層を形成するようにすれば、半導体層形成工程において形成する半導体層にクラックが入りにくくなり、ナノ結晶化工程において用いる電解液により下部電極12や絶縁性基板11が腐食されるのを防止することが可能となる。
また、下部電極形成工程と半導体層形成工程との間に、ナノ結晶化工程で用いる電解液に対して耐性を有する材料(例えば、窒化シリコン)からなり下部電極12の幅方向における両側の角部を覆う保護膜を形成する保護膜形成工程を追加すれば、ナノ結晶化工程で用いる電解液により下部電極12が腐食されるのを防止することができる。なお、上記保護膜の材料として窒化シリコンを採用すれば、上記保護膜と多結晶シリコン層3aとの密着性を高めることができる。
(参考例)
本参考例の電界放射型電子源10の基本構成は実施形態1と略同じであって、図6に示すように、絶縁性基板11の上記一表面上において下部電極12の幅方向(図6(b)の左右方向)の両側に表面が下部電極12の表面と面一になる絶縁分離部13が形成されており、強電界ドリフト層6の表面が平坦であり、絶縁層8の表面が窓孔8a以外では平坦となっている点が相違する。したがって、本参考例でも、実施形態1と同様に、バス電極9が絶縁層8の平坦な表面上に形成されているので、バス電極9の膜厚が局所的に薄くなるのを防止することができる。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
また、本参考例の電界放射型電子源10の製造方法は、実施形態1にて説明した製造方法と略同じであって、下部電極12を形成する下部電極形成工程で後述の処理を行っている点、実施形態1にて説明した平坦化工程を行わない点が相違するだけである。
本参考例の製造方法における下部電極形成工程では、絶縁性基板11の上記一表面上の全面に下部電極12用の金属材料(例えば、クロム)からなる導電性層を形成した後、当該導電性層上へ下部電極12のパターンに対応してパターニングされたレジスト層を形成し、当該レジスト層をマスクとして導電性層の露出部位をオゾンにより酸化して酸化クロムからなる絶縁分離部13とすることでパターニングされた導電性層からなる下部電極12を形成する。したがって、下部電極12の表面と絶縁分離部13の表面とが面一になるので、半導体層形成工程にて形成されるノンドープの多結晶シリコン層3aの表面が平坦となるのである。
しかして、本参考例の製造方法では、電子通過層たる強電界ドリフト層6の基礎となる半導体層(ノンドープの多結晶シリコン層3a)の表面が平坦となるので、結果的にバス電極9に段差部が形成されるのを防止することができてバス電極9が局所的に薄くなるのを防止できるから、バス電極9の断線を防止することができる電界放射型電子源10を提供できる。また、半導体層形成工程にて形成した半導体層に深さ方向に走るクラックが形成されるのを防止することができ、ナノ結晶化工程において用いる電解液により下部電極12や絶縁性基板11が腐食されるのを防止することが可能となって、下部電極12および絶縁性基板11それぞれの材料の選択肢が多くなるとともに、製造時の歩留まりの向上、長期的な信頼性の向上を図れる。また、絶縁分離部13の形成方法としてオゾンによる酸化方法を採用しているので、陽極酸化処理にて酸化する場合に比べて絶縁性基板11の材料の選択肢が多くなるとともに、絶縁分離部13の形成が容易になる。
なお、本参考例の製造方法においても、半導体層形成工程において、アモルファス半導体層を形成してから半導体層を形成すれば、半導体層の膜質向上およびクラック発生の防止につながる。