JP3780937B2 - 電界放射型電子源およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界放射により電子線を放射するようにした電界放射型電子源およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、導電性基板の一表面側に酸化若しくは窒化した多孔質半導体層よりなる強電界ドリフト層を形成し、強電界ドリフト層上に表面電極を形成した電界放射型電子源が提案されている(例えば、特開平8−250766号公報、特開平9−259795号公報、特開平10−326557号公報、特許第2966842号、特許第2987140号など参照)。
【0003】
この種の電界放射型電子源としては、例えば、図10に示すように、導電性基板としてのn形シリコン基板1の主表面(一表面)側に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。また、n形シリコン基板1の裏面にはオーミック電極2が形成されており、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成している。なお、図10に示す例では、n形シリコン基板1と強電界ドリフト層6との間にノンドープの多結晶シリコン層3を介在させてあるが、多結晶シリコン層3を介在させずにn形シリコン基板1の主表面上に強電界ドリフト層6を形成した構成も提案されている。
【0004】
図10に示す構成の電界放射型電子源10’から電子を放出させるには、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図10中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e-の流れを示す)。なお、表面電極7の厚さは10〜15nm程度に設定されている。
【0005】
上述の強電界ドリフト層6は、下部電極12上にノンドープの多結晶シリコン層を形成した後に、該多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化し、多孔質多結晶シリコン層を急速熱酸化法によって例えば900℃の温度で急速熱酸化することにより形成されており、図11に示すように、少なくとも、n形シリコン基板1の主表面側(つまり、下部電極12における表面電極7側)に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜である多数のシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。要するに、強電界ドリフト層6は、多結晶シリコン層の各グレインの表面が多孔質化し各グレインの中心部分では結晶状態が維持されている。なお、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている。
【0006】
したがって、上述の電界放射型電子源10’では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21と表面電極7との間にコレクタ電極21を高電位側として直流電圧Vcを印加することにより、直流電圧Vpsが所定値(臨界値)に達すると、下部電極12から強電界ドリフト層6へ熱的励起により電子e-が注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子e-はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図11中の矢印の向き(図11における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし真空中に放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され(弾道型電子放出現象)、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0007】
ところで、上述の電界放射型電子源10’では、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成しているが、図12に示すように、絶縁性を有するガラス基板11の一表面上に金属材料よりなる下部電極12を形成した電界放射型電子源10”も提案されている。ここに、上述の図10に示した電界放射型電子源10’と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0008】
図12に示す構成の電界放射型電子源10”から電子を放出させるには、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図12中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e-の流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0009】
上述の各電界放射型電子源10’,10”では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図10および図12参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電界放射型電子源10’,10”では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
【0010】
また、図12に示した電界放射型電子源10”をディスプレイの電子源とし応用する場合には、例えば図13に示す構成を採用すればよい。
【0011】
図13に示すディスプレイは、電界放射型電子源10に対向して平板状のガラス基板よりなるフェースプレート30が配置され、フェースプレート30における電界放射型電子源10との対向面には透明な導電膜(例えば、ITO膜)よりなるコレクタ電極(以下、アノード電極と称す)21が形成されている。また、図示していないが、アノード電極21における電界放射型電子源10との対向面には、画素ごとに形成された蛍光物質と蛍光物質間に形成された黒色材料からなるブラックストライプとが設けられている。ここに、蛍光物質はアノード電極21における電界放射型電子源10との対向面に塗布されており、電界放射型電子源10から放射される電子線によって可視光を発光する。なお、蛍光物質には電界放射型電子源10から放射されアノード電極21に印加された電圧によって加速された高エネルギの電子が衝突するようになっており、蛍光物質としてはR(赤色),G(緑色),B(青色)の各発光色のものを用いている。また、フェースプレート30は図示しない矩形枠状のフレームによって電界放射型電子源10と離間させてあり、フェースプレート30と電界放射型電子源10との間に形成される気密空間を真空にしてある。
【0012】
図13に示した電界放射型電子源10は、絶縁性を有するガラス基板11と、ガラス基板11の一表面上に列設された複数本の下部電極12と、下部電極12に重なる形で形成された複数の酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aおよびドリフト部6aの間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離部6bとを有する強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6の上で下部電極12に交差(直交)する方向に形成された複数本の表面電極7とを備えている。
【0013】
この電界放射型電子源10では、ガラス基板11の一表面上に列設された複数本の下部電極12と、強電界ドリフト層6上に形成された複数本の表面電極7との間に強電界ドリフト層6のドリフト部6aが挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位のドリフト部6aにのみ強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数の表面電極7の群と複数の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、表面電極7と下部電極12とドリフト部6aとからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。したがって、電界放射型電子源10は、ガラス基板11上に電子源素子10aをマトリクス状に配置したマトリクス電子源素子10bが形成されていると考えることができる。ここに、マトリクス電子源素子10bは複数本の下部電極12、強電界ドリフト層6、複数本の表面電極7などにより構成される。
【0014】
なお、ドリフト部6aは、上述の図11と同様の構成を有していると考えられる。すなわち、ドリフト部6aは、少なくとも、柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在するナノメータオーダのシリコン微結晶63と、シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜であるシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述の電界放射型電子源10では、ガラス基板11に電子源素子10aを形成しているので、n形シリコン基板1(図10参照)のような半導体基板に電子源素子10aを形成する場合に比べて、ディスプレイへ応用するにあたって、画面の大面積化を図ることができる。
【0016】
しかしながら、ガラスはシリコンに比べて熱伝導率が低く、ガラス基板11に形成した電子源素子10aを連続動作させた場合、電子源素子10aに熱が蓄積して電子放出特性の経時特性が低下してしまうという不具合があった。
【0017】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、信頼性の高い電界放射型電子源およびその製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、絶縁性を有するガラス基板と、ガラス基板の一表面側に形成され電子を放出する電子源素子とを備え、電子源素子が、ガラス基板の前記一表面側に形成された下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在し表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加したときに下部電極から注入された電子が表面電極へ向かってドリフトする強電界ドリフト層とを備えた電界放射型電子源であって、ガラス基板と下部電極との間にガラス基板に比べて十分に高い熱伝導性を有する放熱層が設けられ、放熱層に接し電子源素子で発生した熱を外部へ放熱させるヒートシンクが設けられて成ることを特徴とするものであり、電子源素子を形成する基板としてガラス基板を用いながらも、電子源素子で発生した熱を効率良く放熱させることができて、電子源素子の経時特性を向上させることができるから、電子源としての信頼性を高めることができる。
また、請求項1の発明では、ヒートシンクは、少なくとも放熱層の側面および放熱層において電子源素子が形成された面に接する形状に形成されているので、放熱面積を大きくすることができ、放熱効果を高めることができる。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、前記ガラス基板の前記一表面に積層された半導体層と、半導体層に積層され半導体層と前記下部電極とを電気的に絶縁する絶縁層とからなるので、熱伝導率の高い材料として半導体材料を用いることができ、前記放熱層を一般的な半導体製造プロセスで用いられている材料および成膜方法で形成することが可能になる。
【0020】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記半導体層は、アモルファスシリコン若しくは多結晶シリコンよりなるので、前記半導体層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる材料により形成することができ、しかも、前記半導体層を大面積にわたって容易に形成することができる。
【0021】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、前記半導体層は、CVD法若しくはPVD法により形成されてなるので、前記半導体層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができる。
【0022】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、前記ガラス基板の前記一表面に積層された金属層と、金属層に積層され金属層と前記下部電極とを電気的に絶縁する絶縁層とからなるので、熱伝導率の高い材料として金属を用いることができ、前記放熱層を一般的な半導体製造プロセスで用いられている材料および成膜方法で形成することが可能になる。また、請求項2および請求項3の発明に比べて放熱効果を高めることができる。
【0023】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記金属層は、CVD法若しくはPVD法により形成されてなるので、前記金属層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができる。
【0024】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記金属層は、Al,Cu,Mg,Mo,Wよりなる群から選択される材料よりなるので、前記金属層の材料コストを比較的安くすることができ、低コスト化を図ることができる。
【0025】
請求項8の発明は、請求項5の発明において、前記金属層は、めっき法により形成されてなるので、前記金属層を一般的な半導体製造プロセスであるPVD法やCVD法などによって形成する場合に比べて容易に厚く形成することができ、より高い放熱効果を得ることが可能となる。
【0026】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記金属層は、Al若しくはCuよりなるので、前記金属層の材料コストを比較的安くすることができ、低コスト化を図ることができる。
【0027】
請求項10の発明は、請求項2ないし請求項9の発明において、前記絶縁層は、SiO2,Si3N4,Ta2O3よりなる群から選択される材料よりなるので、前記絶縁層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができる。
【0028】
請求項11の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、セラミック材料により形成されてなるので、請求項2〜8のように前記放熱層が積層構造を有する場合に比べて前記放熱層を形成するプロセスの簡略化が可能となる。
【0029】
請求項12の発明は、請求項11の発明において、前記セラミック材料の主原料は、SiC,AlN,Al2O3の群から選択されるので、前記セラミック材料の主原料が高熱伝導性と電気絶縁性とを兼ね備えていて高い放熱効果を得ることができ、しかも、化学的に安定な材料であるから取り扱いが容易である。
【0030】
請求項13の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、ダイヤモンド若しくはダイヤモンドライクカーボンよりなるので、請求項2〜8のように前記放熱層が積層構造を有する場合に比べて前記放熱層を形成するプロセスの簡略化が可能となる。
【0031】
請求項14の発明は、請求項1ないし請求項13の発明において、前記ヒートシンクは、前記放熱層に接し前記電子源素子で発生した熱が前記放熱層を介して伝導される接触部が、後面開口した直方体状に形成され、当該直方体状の接触部の前壁に前記電子源素子を露出させる矩形状の窓孔が形成されており、接触部が前記放熱層における前記電子源素子が形成された面において前記電子源素子を全周にわたって囲む部位に接触しているので、放熱面積を拡大することができ、放熱効果を高めることができる。
【0032】
請求項15の発明は、請求項1ないし請求項14の発明において、前記強電界ドリフト層は前記下部電極と表面電極との間に介在する部分が酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質多結晶シリコン層よりなり、少なくとも、下部電極の厚み方向に延びた柱状の複数本のグレインと、グレイン間に介在するナノメータオーダの多数のシリコン微結晶と、各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されたシリコン体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜とを有するので、前記強電界ドリフト層に印加された電界の大部分が絶縁膜に集中的にかかり、前記下部電極から前記強電界ドリフト層に注入された電子が絶縁膜にかかっている強電界により加速され前記表面電極へ向かってドリフトするから、電子放出効率を向上させることができ、しかも、前記電子源素子で発生した熱がグレインを通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず電子を安定して放出することができる。また、前記電子源素子から放出される電子線の放出方向が前記表面電極の法線方向に揃いやすいから、例えばディスプレイの電子源として応用する場合に、複雑なシャドウマスクや電子収束レンズを設ける必要がなく、ディスプレイの薄型化を図れる。
【0033】
請求項16の発明は、請求項11記載の電界放射型電子源の製造方法であって、放熱層上に電子源素子を形成した後、電子源素子が形成された放熱層をガラス基板の一表面に貼り合わせるので、前記放熱層として市販のセラミック基板などの板材を使用することができ、当該板材上に電子源素子を形成すればよいから、電子源素子をガラス基板上に形成するプロセスを必要とせず、製造工程の簡略化が可能になる。
【0034】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
本実施形態の電界放射型電子源10は、図1(a)に示すように、絶縁性を有する矩形板状のガラス基板11と、ガラス基板11の一表面上に積層された放熱層13と、放熱層13上に形成されたマトリクス電子源素子10bと、放熱層13に接しマトリクス電子源素子10bで発生した熱を外部へ放熱させるヒートシンク40とを備えている。
【0035】
マトリクス電子源素子10bは、図1(b)に示すように、放熱層13の表面上に列設された複数本の下部電極12と、複数本の下部電極12が列設された放熱層13の表面側に形成された強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上において下部電極12と交差(直交)する方向に形成された複数本の表面電極7とを備えている。すなわち、下部電極12と表面電極7とは強電界ドリフト層6を挟んで互いに直交するように配設されている。ここにおいて、強電界ドリフト層6は、各下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数の酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aと、ドリフト部6aの間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離部6bとで構成されている。
【0036】
マトリクス電子源素子10bでは、放熱層13の表面上に列設された複数本の下部電極12と、強電界ドリフト層6上で下部電極12に交差する方向に列設された複数本の表面電極7との交点に相当する部位に強電界ドリフト層6のドリフト部6aが挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、強電界ドリフト層6において選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位のドリフト部6aにのみ強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数本の表面電極7の群と複数本の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、図2に示すように下部電極12とドリフト部6aと表面電極7とからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。なお、各下部電極12は、短冊状に形成され長手方向の両端部上にそれぞれパッド28が形成されている。また、各表面電極7も、短冊状に形成され、長手方向の両端部から延長された部位上にそれぞれパッド27が形成されている。また、上述の記載から分かるように、電子源素子10aは画素ごとに設けられることになる。
【0037】
下部電極2は、例えば、Cr,W,Ti,Al,Cu,Au,Pt,Moなどの金属あるいはこれらの合金や、不純物をドーピングした多結晶シリコンなどにより形成すればよい。
【0038】
また、表面電極7は、例えば、Au,Pt,Crなどの仕事関数が小さく耐酸化性が高くて化学的に安定な金属からなる金属膜あるいはこれらの金属膜の積層膜により形成すればよい。なお、表面電極7の厚さは、10〜15nm程度の範囲で設定すればよい。
【0039】
また、強電界ドリフト層6は、放熱層13および下部電極12が形成されたガラス基板11の上記一表面側の全面にノンドープの多結晶シリコン層を堆積させた後に、当該多結晶シリコン層のうち強電界ドリフト層6のドリフト部6aに対応した部位を陽極酸化処理にて多孔質化し(以下、この多孔質化された部分を多孔質多結晶シリコン層と称す)、多孔質多結晶シリコン層を例えば急速加熱法或いは電気化学的な方法によって酸化することにより形成されている。
【0040】
本実施形態の電界放射型電子源10の基本動作は図13に示した従来構成の動作と同じであって、表面電極7を真空中に配置するとともに対向配置されるフェースプレート30にアノード電極21を設け、選択した表面電極7を下部電極12に対して高電位側として直流電圧Vps(図12参照)を印加するとともに、アノード電極21を表面電極7に対して高電位側として直流電圧Vc(図12参照)を印加することによって、強電界ドリフト層6のドリフト部6aに作用する電界により下部電極12から強電界ドリフト層6のドリフト部6aへ注入された電子がドリフト部6aをドリフトし表面電極7を通して放出される。ここにおいて、強電界ドリフト層6のドリフト部6aは、上述の図11と同様の構成を有していると考えられる。すなわち、ドリフト部6aは、少なくとも、ガラス基板11の上記一表面側(つまり、下部電極12における表面電極7側)に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜である多数のシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。要するに、強電界ドリフト層6のドリフト部6aは、多結晶シリコン層の各グレインの表面が多孔質化し各グレインの中心部分では結晶状態が維持されている。なお、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている。
【0041】
したがって、本実施形態の電界放射型電子源10では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧Vpsを印加するとともに、アノード電極21(図13参照)と表面電極7との間にアノード電極21を高電位側として直流電圧Vcを印加することにより、直流電圧Vpsが所定値(臨界値)に達すると、下部電極12から強電界ドリフト層6のドリフト部6aへ熱的励起により電子e-が注入される。一方、強電界ドリフト層6のドリフト部6aに印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子e-はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、ドリフト部6aにおけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図11中の矢印の向き(図11における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし真空中に放出される。しかして、強電界ドリフト層6のドリフト部6aでは下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され(弾道型電子放出現象)、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。上述の電子源素子10aでは、表面電極7を通して放出される電子線の放出方向が表面電極7の法線方向に揃いやすいから、複雑なシャドウマスクや電子収束レンズを設ける必要がなく、ディスプレイの薄型化を図れる。また、表面電極7と下部電極12との間に印加する電圧を10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができるので、低消費電力化を図れる。
【0042】
ところで、本実施形態の電界放射型電子源10では、ガラス基板11と下部電極12との間に放熱層13が設けられ、放熱層13に接しマトリクス電子源素子10b(複数の電子源素子10a)で発生した熱を外部へ放熱させるヒートシンク14が設けられている点に特徴がある。
【0043】
放熱層13は、図2に示すように、ガラス基板11の上記一表面に積層された高濃度ドープの多結晶シリコンよりなる半導体層13aと、半導体層13aに積層され半導体層13aと下部電極12とを電気的に絶縁するSiO2からなる絶縁層13bとで構成され、ガラス基板11に比べて十分に高い熱伝導性を有している。ここにおいて、半導体層13aの厚さ寸法を1μm、絶縁層13bの厚さ寸法を0.5μmに設定してある。ただし、絶縁層13bの厚さは、半導体層13aと下部電極12との間の電気絶縁性を確保できる厚さでより薄い方が好ましい。つまり、絶縁層13bの厚さ寸法は、マトリクス電子源素子10bと半導体層13aとが熱絶縁されず且つ電気的に絶縁される程度の厚さに設定すればよい。
【0044】
なお、本実施形態では、半導体層13aを多結晶シリコンにより形成してあるが、多結晶シリコンに限らず、ガラス基板11に比べて熱伝導率が十分に高ければよく、例えばアモルファスシリコンにより形成してもよい。また、絶縁層13bをSiO2により形成してあるが、SiO2に限らず、例えばSi3N4、Ta2O5、ZrO2、HfO2、TiO2などにより形成してもよい。
【0045】
また、本実施形態では、ガラス基板11上に半導体層13aを形成する方法としてLPCVD法を採用しているが、LPCVD法の他にプラズマCVD法、触媒CVD法、光CVD法、熱CVD法などを採用してもよい。ここに、半導体層13aの厚さ寸法は、反りが影響しない厚さであってより厚い方が好ましい。
【0046】
また、半導体層13a上に絶縁層13bを形成する方法として、PVD法の一つであるスパッタ法を採用しているが、PVD法に限らず、熱CVD法やプラズマCVD法などのCVD法を採用してもよい。
【0047】
ところで、上述のヒートシンク40は、熱伝導率の高い金属材料(例えば、Cu,Alなど)により形成されており、ガラス基板11および放熱層13に接しマトリクス電子源素子10bで発生した熱が放熱層13を介して伝導される逆L字状の接触部41と、接触部41の一端部から側方へ延長され接触部41を伝導した熱を外部へ放熱する矩形状の放熱部42とを備えている。ここに、ヒートシンク40の接触部41は放熱層13およびガラス基板11の各一側面(図1(a)における各右側面)および放熱層13の表面(図1(a)における上面)と接触するように貼り付けてある。なお、ヒートシンク40は、放熱部42の下面(図1(a)における下面)とガラス基板11の裏面(図1(a)における下面)とが同一面上に略揃うように形成されている。
【0048】
しかして、本実施形態の電界放射型電子源10では、ガラス基板11と下部電極12との間に下部電極12と電気的に絶縁され且つ熱伝導性に優れた放熱層13が設けられ、放熱層13に接し電子源素子10aで発生した熱を外部へ放熱させるヒートシンク40が設けられているので、電子源素子10aを形成する基板としてガラス基板11を用いながらも、電子源素子10aで発生した熱を外部へ効率良く放熱させることができるから、電子源素子10aの経時特性を向上させることができ、電子源としての信頼性を高めることができる。
【0049】
また、本実施形態では、上述のように放熱層13が半導体層13aと絶縁層13bとからなるので、熱伝導率の高い材料として半導体材料を用いることができ、放熱層13を一般的な半導体製造プロセスで用いられている材料および成膜方法で形成することが可能になる。ここに、半導体層13aが多結晶シリコンやアモルファスシリコンなどの半導体材料により形成されているので、半導体層13aを一般的な半導体製造プロセスで用いられる材料により形成することができ、しかも、半導体層13aをCVD法やPVD法によって大面積にわたって容易に形成することができる。また、半導体層13aをCVD法若しくはPVD法により形成するようにすれば、半導体層13aを一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができるという利点がある。
【0050】
なお、本実施形態では、強電界ドリフト層6のドリフト部6aを酸化した多孔質多結晶シリコン層により構成しているが、強電界ドリフト層6のドリフト部6aを窒化若しくは酸窒化した多孔質多結晶シリコン層により構成してもよいし、また、その他の酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質半導体層により構成してもよい。ここに、強電界ドリフト層6のドリフト部6aを窒化した多孔質多結晶シリコン層とした場合には図11にて説明した各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、強電界ドリフト層6のドリフト部6aを酸窒化した多孔質多結晶シリコン層とした場合には各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン酸窒化膜となる。
【0051】
(実施形態2)
本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は図1および図2に示した実施形態1と略同じであって、図3に示すように、放熱層13がガラス基板11の上記一表面に積層されたAlよりなる金属層13cと、金属層13cに積層され金属層13cと下部電極12とを電気的に絶縁するSiO2よりなる絶縁層13bとで構成されている点が相違するだけである。ここに、金属層13cは、材料としてAlを用いており、PVD法(例えば、スパッタ法、電子ビーム蒸着法など)によって1μmの厚さで形成されている。なお、絶縁層13bの材料および形成方法は実施形態1と同様である。また、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
金属層13cの材料は、Alに限定されるものではなく、例えば、Ag,Au,Cu,Mg,Mo,Wなどの純金属やこれらの合金でもよく、Al,Cu,Mg,Mo,Wよりなる群から選択される材料を用いれば、Au,Agなどの比較的高価な金属材料を用いる場合に比べて金属層13cの材料コストを比較的安くすることができ、低コスト化を図ることができるという利点がある。ここにおいて、室温での熱伝導率について数値例を挙げれば、ガラス(SiO2)は0.8[W/(m・K)]、Agは419[W/(m・K)]、Alは239[W/(m・K)]、Auは293[W/(m・K)]、Cuは393[W/(m・K)]、Mgは167[W/(m・K)]、Moは142[W/(m・K)]、Wは165[W/(m・K)]であり、列記した各金属材料の熱伝導率はガラスの熱伝導率の100倍を超えた十分に大きな値となっている。
【0053】
しかして、本実施形態では、放熱層13において熱伝導率の高い材料として金属を用いているので、放熱層13を一般的な半導体製造プロセスで用いられている材料および成膜方法で形成することが可能になり、実施形態1のように半導体材料(例えば、多結晶シリコン)を用いる場合に比べて放熱効果を高めることができるという利点がある。また、本実施形態では、金属層13cをCVD法若しくはPVD法により形成することができるので、金属層13cを一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができるという利点がある。
【0054】
ところで、本実施形態では、金属層13cをPVD法により形成しているが、PVD法に限らず、CVD法(例えば、熱CVD法など)やめっき法(例えば、電気めっき法、無電解めっき法などの湿式めっき法)により形成してもよく、金属層13cをめっき法により形成するようにした場合には、金属層13cを一般的な半導体製造プロセスであるPVD法やCVD法などによって形成する場合に比べて容易に厚く形成することができ、より高い放熱効果を得ることが可能になるという利点がある。ここに、金属層13cをめっき法により形成する場合には、材料としてCu,Ni,Au,Pb,Cr,Agなどを採用することが可能であり、数μmオーダの厚さの金属層13cを短時間で容易に形成することができる。
【0055】
(実施形態3)
本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は図1および図2に示した実施形態1と略同じであって、図4に示すように、放熱層13が単層構造であってAl2O3のようなセラミックにより形成されている点が相違するだけである。放熱層13の厚さは10μmに設定してあるが、10μmに限らず、数十μm程度でより厚い方が好ましい。放熱層13を構成するセラミックの主材料はAl2O3に限らず、SiC,AlN,Si3N4,BeO,MgOなどが採用可能であるが、SiC,AlN,Al2O3の群から選択することが好ましい。ここにおいて、室温での熱伝導率について数値例を挙げれば、ガラス(SiO2)は0.8[W/(m・K)]、Ai2O3は46[W/(m・K)]、SiCは490[W/(m・K)]、AlNは318[W/(m・K)]、Si3N4は13[W/(m・K)]、BeOは159[W/(m・K)]、MgOは42[W/(m・K)]である。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
しかして、本実施形態の電界放射型電子源10では、放熱層13がセラミック材料により形成されてなるので、実施形態1,2のように放熱層13が積層構造を有する場合に比べて放熱層13を形成するプロセスの簡略化が可能となる。また、セラミック材料の主原料が、SiC,AlN,Al2O3の群から選択されるので、セラミック材料の主原料が高熱伝導性と電気絶縁性とを兼ね備えていて高い放熱効果を得ることができ、しかも、化学的に安定な材料であるから取り扱いが容易であるという利点がある。
【0057】
ところで、本実施形態のように放熱層13の材料としてセラミック材料を採用する場合、放熱層13として市販のセラミック基板などの板材を使用し、図5に示すように、放熱層13上に複数の電子源素子10aを有するマトリクス電子源素子10bを形成した後、マトリクス電子源素子10bが形成された放熱層13をガラス基板11の一表面に貼り合わせるようなプロセスを採用してもよく、このようなプロセスを採用すれば、複数の電子源素子10aを有するマトリクス電子源素子10bをガラス基板11上に形成するプロセスを必要とせず、製造工程の簡略化が可能になるという利点がある。
【0058】
(実施形態4)
本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は図1および図2に示した実施形態1と略同じであって、図6に示すように、放熱層13が単層構造であってダイヤモンドにより形成されている点が相違するだけである。放熱層13の厚さは1μmに設定してあるが、より厚い方が好ましい。ここに、放熱層13はダイヤモンドの代わりにダイヤモンドライクカーボン若しくはアモルファスカーボンにより形成してもよい。ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボンはガラス基板11上にCVD法により形成することができる。室温での熱伝導率について数値例を挙げれば、ガラス(SiO2)は0.8[W/(m・K)]、CVD法により形成したダイヤモンドは700[W/(m・K)]、ダイヤモンドライクカーボンは30[W/(m・K)]である。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
しかして、本実施形態の電界放射型電子源10では、放熱層13がダイヤモンド若しくはダイヤモンドライクカーボンよりなるので、実施形態1,2のように放熱層13が積層構造を有する場合に比べて放熱層13を形成するプロセスの簡略化が可能となる。なお、ダイヤモンド若しくはダイヤモンドライクカーボン若しくはアモルファスカーボンの単層構造により電気絶縁性を確保できない場合にはこれらいずれかの材料により形成された層に実施形態1と同様の絶縁層13bを積層した積層構造を採用すればよい。
【0060】
(実施形態5)
本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は図1および図2に示した実施形態1と略同じであって、図7〜図9に示すように、ヒートシンク40の形状が相違するだけである。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
本実施形態におけるヒートシンク40は、放熱層13に接しマトリクス電子源10bで発生した熱が放熱層13を介して伝導される接触部41が、後面開口した直方体状に形成され、前壁にマトリクス電子源素子10bを露出させる矩形状の窓孔41aが形成されており、接触部41を伝導した熱を外部へ放熱する放熱部42が、接触部41の両側面の各後部それぞれから側方へ延長されている。ここに、本実施形態におけるヒートシンク40の接触部41は矩形板状のガラス基板11および放熱層13の各4つの側面に接触するとともに、放熱層13の表面においてマトリクス電子源素子10bを全周にわたって囲む部位に接触している。また、ヒートシンク40の接触部41は放熱層13およびガラス基板11に貼り付けてある。なお、ヒートシンク40は、各放熱部42の下面(図9における下面)とガラス基板11の裏面(図9における下面)とが同一面上に略揃うように形成されている。
【0062】
しかして、本実施形態では、実施形態1に比べて放熱面積を拡大することができ、放熱効果を高めることができる。なお、本実施形態におけるヒートシンク40では、直方体状に形成した接触部41の両側面の各後部それぞれから放熱部42を側方へ延長してあるが、4つの側面の各後部それぞれから放熱部42を側方へ延長するようにすれば、さらに放熱効果を高めることができる。
【0063】
ところで、上記各実施形態では、電子源素子10aを下部電極12と酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aと表面電極7とで構成しているが、ドリフト部6aの代わりに薄い絶縁体層を採用してMIM(Metal−Insulator−Metal)型の電子源素子としてもよい。
【0064】
【発明の効果】
請求項1の発明は、絶縁性を有するガラス基板と、ガラス基板の一表面側に形成され電子を放出する電子源素子とを備え、電子源素子が、ガラス基板の前記一表面側に形成された下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在し表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加したときに下部電極から注入された電子が表面電極へ向かってドリフトする強電界ドリフト層とを備えた電界放射型電子源であって、ガラス基板と下部電極との間にガラス基板に比べて十分に高い熱伝導性を有する放熱層が設けられ、放熱層に接し電子源素子で発生した熱を外部へ放熱させるヒートシンクが設けられて成るものであり、電子源素子を形成する基板としてガラス基板を用いながらも、電子源素子で発生した熱を効率良く放熱させることができて、電子源素子の経時特性を向上させることができるから、電子源としての信頼性を高めることができるという効果がある。
また、請求項1の発明では、前記ヒートシンクは、少なくとも前記放熱層の側面および前記放熱層において前記電子源素子が形成された面に接する形状に形成されているので、放熱面積を大きくすることができ、放熱効果を高めることができるという効果がある。
【0065】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、前記ガラス基板の前記一表面に積層された半導体層と、半導体層に積層され半導体層と前記下部電極とを電気的に絶縁する絶縁層とからなるので、熱伝導率の高い材料として半導体材料を用いることができ、前記放熱層を一般的な半導体製造プロセスで用いられている材料および成膜方法で形成することが可能になるという効果がある。
【0066】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記半導体層は、アモルファスシリコン若しくは多結晶シリコンよりなるので、前記半導体層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる材料により形成することができ、しかも、前記半導体層を大面積にわたって容易に形成することができるという効果がある。
【0067】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、前記半導体層は、CVD法若しくはPVD法により形成されてなるので、前記半導体層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができるという効果がある。
【0068】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、前記ガラス基板の前記一表面に積層された金属層と、金属層に積層され金属層と前記下部電極とを電気的に絶縁する絶縁層とからなるので、熱伝導率の高い材料として金属を用いることができ、前記放熱層を一般的な半導体製造プロセスで用いられている材料および成膜方法で形成することが可能になるという効果がある。また、請求項2および請求項3の発明に比べて放熱効果を高めることができるという利点がある。
【0069】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記金属層は、CVD法若しくはPVD法により形成されてなるので、前記金属層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができるという効果がある。
【0070】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記金属層は、Al,Cu,Mg,Mo,Wよりなる群から選択される材料よりなるので、前記金属層の材料コストを比較的安くすることができ、低コスト化を図ることができるという効果がある。
【0071】
請求項8の発明は、請求項5の発明において、前記金属層は、めっき法により形成されてなるので、前記金属層を一般的な半導体製造プロセスであるPVD法やCVD法などによって形成する場合に比べて容易に厚く形成することができ、より高い放熱効果を得ることが可能となるという効果がある。
【0072】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記金属層は、Al若しくはCuよりなるので、前記金属層の材料コストを比較的安くすることができ、低コスト化を図ることができるという効果がある。
【0073】
請求項10の発明は、請求項2ないし請求項9の発明において、前記絶縁層は、SiO2,Si3N4,Ta2O3よりなる群から選択される材料よりなるので、前記絶縁層を一般的な半導体製造プロセスで用いられる製造装置を転用して形成することが可能となるから、設備投資を含めた製造コストを低減することができるという効果がある。
【0074】
請求項11の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、セラミック材料により形成されてなるので、請求項2〜8のように前記放熱層が積層構造を有する場合に比べて前記放熱層を形成するプロセスの簡略化が可能となるという効果がある。
【0075】
請求項12の発明は、請求項11の発明において、前記セラミック材料の主原料は、SiC,AlN,Al2O3の群から選択されるので、前記セラミック材料の主原料が高熱伝導性と電気絶縁性とを兼ね備えていて高い放熱効果を得ることができ、しかも、化学的に安定な材料であるから取り扱いが容易であるという効果がある。
【0076】
請求項13の発明は、請求項1の発明において、前記放熱層は、ダイヤモンド若しくはダイヤモンドライクカーボンよりなるので、請求項2〜8のように前記放熱層が積層構造を有する場合に比べて前記放熱層を形成するプロセスの簡略化が可能となるという効果がある。
【0077】
請求項14の発明は、請求項1ないし請求項13の発明において、前記ヒートシンクは、前記放熱層に接し前記電子源素子で発生した熱が前記放熱層を介して伝導される接触部が、後面開口した直方体状に形成され、当該直方体状の接触部の前壁に前記電子源素子を露出させる矩形状の窓孔が形成されており、接触部が前記放熱層における前記電子源素子が形成された面において前記電子源素子を全周にわたって囲む部位に接触しているので、放熱面積を拡大することができ、放熱効果を高めることができるという効果がある。
【0078】
請求項15の発明は、請求項1ないし請求項14の発明において、前記強電界ドリフト層は前記下部電極と表面電極との間に介在する部分が酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質多結晶シリコン層よりなり、少なくとも、下部電極の厚み方向に延びた柱状の複数本のグレインと、グレイン間に介在するナノメータオーダの多数のシリコン微結晶と、各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されたシリコン体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜とを有するので、前記強電界ドリフト層に印加された電界の大部分が絶縁膜に集中的にかかり、前記下部電極から前記強電界ドリフト層に注入された電子が絶縁膜にかかっている強電界により加速され前記表面電極へ向かってドリフトするから、電子放出効率を向上させることができ、しかも、前記電子源素子で発生した熱がグレインを通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず電子を安定して放出することができるという効果がある。また、前記電子源素子から放出される電子線の放出方向が前記表面電極の法線方向に揃いやすいから、例えばディスプレイの電子源として応用する場合に、複雑なシャドウマスクや電子収束レンズを設ける必要がなく、ディスプレイの薄型化を図れるという利点がある。
【0079】
請求項16の発明は、請求項11記載の電界放射型電子源の製造方法であって、放熱層上に電子源素子を形成した後、電子源素子が形成された放熱層をガラス基板の一表面に貼り合わせるので、前記放熱層として市販のセラミック基板などの板材を使用することができ、当該板材上に電子源素子を形成すればよいから、電子源素子をガラス基板上に形成するプロセスを必要とせず、製造工程の簡略化が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1を示し、(a)は概略構成図、(b)は要部の一部破断した斜視図である。
【図2】同上の要部概略断面図である。
【図3】実施形態2を示す電界放射型電子源の要部概略断面図である。
【図4】実施形態3を示す電界放射型電子源の要部概略断面図である。
【図5】同上の製造方法の説明図である。
【図6】実施形態4を示す電界放射型電子源の要部概略断面図である。
【図7】実施形態5を示す電界放射型電子源の概略分解斜視図である。
【図8】同上の電界放射型電子源の概略斜視図である。
【図9】同上の電界放射型電子源の概略断面図である。
【図10】従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である。
【図11】同上の電界放射型電子源の動作説明図である。
【図12】他の従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である。
【図13】同上を利用したディスプレイの概略構成図である。
【符号の説明】
6 強電界ドリフト層
6a ドリフト部
6b 分離部
7 表面電極
10 電界放射型電子源
10a 電子源素子
10b マトリクス電子源素子
11 ガラス基板
12 下部電極
13 放熱層
40 ヒートシンク
Claims (16)
- 絶縁性を有するガラス基板と、ガラス基板の一表面側に形成され電子を放出する電子源素子とを備え、電子源素子が、ガラス基板の前記一表面側に形成された下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在し表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加したときに下部電極から注入された電子が表面電極へ向かってドリフトする強電界ドリフト層とを備えた電界放射型電子源であって、ガラス基板と下部電極との間にガラス基板に比べて十分に高い熱伝導性を有する放熱層が設けられ、放熱層に接し電子源素子で発生した熱を外部へ放熱させるヒートシンクが設けられて成り、ヒートシンクは、少なくとも放熱層の側面および放熱層において電子源素子が形成された面に接する形状に形成されてなることを特徴とする電界放射型電子源。
- 前記放熱層は、前記ガラス基板の前記一表面に積層された半導体層と、半導体層に積層され半導体層と前記下部電極とを電気的に絶縁する絶縁層とからなることを特徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
- 前記半導体層は、アモルファスシリコン若しくは多結晶シリコンよりなることを特徴とする請求項2記載の電界放射型電子源。
- 前記半導体層は、CVD法若しくはPVD法により形成されてなることを特徴とする請求項2または請求項3記載の電界放射型電子源。
- 前記放熱層は、前記ガラス基板の前記一表面に積層された金属層と、金属層に積層され金属層と前記下部電極とを電気的に絶縁する絶縁層とからなることを特徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
- 前記金属層は、CVD法若しくはPVD法により形成されてなることを特徴とする請求項5記載の電界放射型電子源。
- 前記金属層は、Al,Cu,Mg,Mo,Wよりなる群から選択される材料よりなることを特徴とする請求項6記載の電界放射型電子源。
- 前記金属層は、めっき法により形成されてなることを特徴とする請求項5記載の電界放射型電子源。
- 前記金属層は、Al若しくはCuよりなることを特徴とする請求項8記載の電界放射型電子源。
- 前記絶縁層は、SiO2,Si3N4,Ta2O3よりなる群から選択される材料よりなることを特徴とする請求項2ないし請求項9のいずれかに記載の電界放射型電子源。
- 前記放熱層は、セラミック材料よりなることを特徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
- 前記セラミック材料の主原料は、SiC,AlN,Al2O3の群から選択されることを特徴とする請求項11記載の電界放射型電子源。
- 前記放熱層は、ダイヤモンド若しくはダイヤモンドライクカーボンよりなることを特徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
- 前記ヒートシンクは、前記放熱層に接し前記電子源素子で発生した熱が前記放熱層を介して伝導される接触部が、後面開口した直方体状に形成され、当該直方体状の接触部の前壁に前記電子源素子を露出させる矩形状の窓孔が形成されており、接触部が前記放熱層における前記電子源素子が形成された面において前記電子源素子を全周にわたって囲む部位に接触していることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の電界放射型電子源。
- 前記強電界ドリフト層は前記下部電極と表面電極との間に介在する部分が酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質多結晶シリコン層よりなり、少なくとも、下部電極の厚み方向に延びた柱状の複数本のグレインと、グレイン間に介在するナノメータオーダの多数のシリコン微結晶と、各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されたシリコン体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜とを有することを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれかに記載の電界放射型電子源。
- 請求項11記載の電界放射型電子源の製造方法であって、放熱層上に電子源素子を形成した後、電子源素子が形成された放熱層をガラス基板の一表面に貼り合わせることを特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
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