JP2004152846A - 熱電変換材料及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】層状コバルト複酸化物からなり、熱電特性に優れ、高い焼結体密度を有し、しかも保管性及び生産性に優れた熱電変換材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る熱電変換材料は、擬CdI構造のCoO層を副格子として含む層状コバルト複酸化物からなり、かつ層状コバルト複酸化物に含まれる化学量論比の酸素イオンのモル数に対して、0.1mol%以上10mol%以下のフッ素を含むことを特徴とする。このような熱電変換材料は、層状コバルト複酸化物、及び/又は反応により層状コバルト複酸化物を生成する少なくとも1種類の化合物を含む主原料に対して、層状コバルト複酸化物に含まれる化学量論比の酸素イオンのモル数に対して0.1mol%以上10mol%以下に相当するフッ素を含む添加物を加え、成形、焼結することにより得られる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱電変換材料及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、太陽熱発電器、海水温度差熱電発電器、化石燃料熱電発電器、工場排熱や自動車排熱の回生発電器等の各種の熱電発電器、光検出素子、レーザーダイオード、電界効果トランジスタ、光電子増倍管、分光光度計のセル、クロマトグラフィーのカラム等の精密温度制御装置、恒温装置、冷暖房装置、冷蔵庫、時計用電源等に用いられる熱電変換素子を構成するp型熱電変換材料として好適な熱電変換材料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱電変換とは、ゼーベック効果やペルチェ効果を利用して、電気エネルギーを冷却や加熱のための熱エネルギーに、また逆に熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することをいう。熱電変換は、(1)エネルギー変換の際に余分な老廃物を排出しない、(2)排熱の有効利用が可能である、(3)材料が劣化するまで継続的に発電を行うことができる、(4)モータやタービンのような可動装置が不要であり、メンテナンスの必要がない、等の特徴を有していることから、エネルギーの高効率利用技術として注目されている。
【0003】
熱エネルギと電気エネルギとを相互に変換できる材料、すなわち、熱電変換材料の特性を評価する指標としては、一般に、性能指数Z(=Sσ/κ、但し、S:ゼーベック係数、σ:電気伝導度、κ:熱伝導度)、又は、性能指数Zと、その値を示す絶対温度Tの積として表される無次元性能指数ZTが用いられる。ゼーベック係数は、1Kの温度差によって生じる起電力の大きさを表す。熱電変換材料は、それぞれ固有のゼーベック係数を持っており、ゼーベック係数が正であるもの(p型)と、負であるもの(n型)に大別される。
【0004】
また、熱電変換材料は、通常、p型の熱電変換材料とn型の熱電変換材料とを接合した状態で使用される。このような接合対は、一般に、熱電変換素子と呼ばれている。熱電変換素子の性能指数は、p型熱電変換材料の性能指数Z、n型熱電変換材料の性能指数Z、並びに、p型及びn型熱電変換材料の形状に依存し、また、形状が最適化されている場合には、Z及び/又はZが大きくなるほど、熱電変換素子の性能指数が大きくなることが知られている。従って、性能指数の高い熱電変換素子を得るためには、性能指数Z、Zの高い熱電変換材料を用いることが重要である。
【0005】
このような熱電変換材料としては、例えば、Bi−Te系、Pb−Te系、Si−Ge系、酸化物セラミックス系等の種々の材料が知られている。これらの中で、Bi−Te系及びPb−Te系の化合物半導体は、それぞれ、室温近傍及び300〜500℃の中温域において、優れた熱電特性(最高ZT値で0.8〜1)を示す。しかしながら、これらの化合物半導体は、高温域での使用は困難である。また、材料中には高価な稀少元素(例えば、Te、Sb、Seなど)や、毒性の強い環境負荷物質(例えば、Te、Sb、Se、Pbなど)を含むという問題がある。
【0006】
一方、Si−Ge系の化合物半導体は、1000℃付近の高温域において優れた熱電特性を示し、また、材料中に環境負荷物質を含まないという特徴がある。しかしながら、Si−Ge系の化合物半導体は、高温大気中において長時間使用するためには、材料表面を保護する必要があり、熱的耐久性が低いという問題がある。
【0007】
これに対し、酸化物セラミックス系の熱電変換材料は、材料中に稀少元素や環境負荷物質を必ずしも含まない。また、高温大気中において長時間使用しても熱電特性の劣化が少なく、熱的耐久性に優れるという特徴がある。そのため、酸化物セラミックス系の熱電変換材料は、化合物半導体に代わる材料として注目されており、熱電特性の高い新材料やその製造方法について、従来から種々の提案がなされている。
【0008】
例えば、K.Fujitaらは、フラックス法を用いて、層状コバルト複酸化物の一種であるNaCoO2−δの単結晶を合成し、その熱電特性の評価を行っている(非特許文献1参照)。同文献には、NaCoO2−δ単結晶のゼーベック係数Sは、300K以下の温度ではNaCoO2−δ多結晶体より約20%小さくなり、800K以上の温度では、多結晶体より約30%大きくなる点、及び単結晶の電気抵抗率ρは、多結晶体より一桁小さくなる点が記載されている。
【0009】
また、T.Motohashiらは、Na含有量の異なるNaCo多結晶体を作製し、その熱電特性の評価を行っている(非特許文献2参照)。同文献には、NaCo多結晶体に含まれるNa含有量が多くなるほど、電気抵抗率ρが小さくなり、かつゼーベック係数Sも大きくなる点が記載されている。
【0010】
また、特許文献1には、一般式:A(但し、A:Na、Li、K、Ca、Sr、Ba、Bi、Y、La、B:Mn、Fe、Co、Ni又はCu、1≦x≦2、2≦y≦4)で表される熱電素子材料及びその製造方法が本願出願人により開示されている。同文献には、Co板状粉末又はCo(OH)板状粉末とNaCO粉末との混合物をドクターブレード法によりテープ状に成形し、これを焼結することによって、多結晶Na0.5CoO配向焼結体が得られる点が記載されている。
【0011】
さらに、A.C.Massetらは、層状コバルト複酸化物の一種であるCaCoの多結晶体及び単結晶を作製し、その結晶構造と熱電特性の評価を行っている(非特許文献3参照)。同文献には、CaCoは、岩塩型の結晶構造を有するCaCoO層と、CdI型の結晶構造を有するCoO層が、所定の周期でc軸方向に積層された格子不整合層状酸化物である点が記載されている。
【0012】
また、同文献には、CaCoの比抵抗に異方性があり、{00l}面内の比抵抗は、{00l}面に垂直な方向(すなわち、c軸方向)の比抵抗より格段に小さくなる点が記載されている。さらに、CaCo単結晶の{00l}面方向のゼーベック係数は、300K近傍において約125μV/Kに達し、ゼーベック係数の温度依存性も小さい点が記載されている。
【0013】
なお、層状コバルト複酸化物の「{00l}面」とは、熱電特性が高い面、すなわち、CoO層と平行な面をいう。層状コバルト複酸化物は、結晶構造が明らかになっていないものが多く、また、単位格子の取り方によって結晶軸及び結晶面の定義が異なるが、本発明においては、{00l}面を上述のように定義する。
【0014】
【非特許文献1】
K.Fujita et.al., Jpn.J.Appl.Phys., 40, pp.4644−4647(2001)
【非特許文献2】
T.Motohashi et.al., Applied Physics Letters, 79, pp.1480−1482(2001)
【非特許文献3】
A.C.Masset et al., Phys.Rev.B, 62(1), pp.166−175(2000)
【特許文献1】
特開2000−211971号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
NaCoO2−δ(層状コバルト酸ナトリウム)やCaCo(層状コバルト酸カルシウム)などの層状コバルト複酸化物は、相対的に大きなゼーベック係数Sを有するp型の熱電変換材料であり、その単結晶については、優れた熱電特性を示すことが報告されている(非特許文献1、3参照)。しかしながら、単結晶の大きさは、約5×3×0.05mm(典型的な大きさは、約1.5×1.5×0.03mm)と極めて小さいものであり、実用的な熱電変換材料として使用するのは困難であった。
【0016】
これに対し、常圧焼結法によれば、実用的な大きさを有する焼結体を比較的容易に作製することができる。しかしながら、層状コバルト複酸化物は、従来、常圧焼結法では緻密な焼結体を作製することが困難であり、その焼結体の電気伝導度σは、単結晶に比べて低いという問題があった。これは、層状コバルト複酸化物の熱分解を避けるために、焼結を1000℃以下という比較的低温で行う必要があり、元素の拡散が十分にできないためである。
【0017】
一方、加圧焼結法によれば、緻密な焼結体の作製も可能である。しかしながら、加圧焼結法では、焼結体の形状が限定されるという問題がある。また、多量の焼結体を同時に作製するのが困難であり、生産性に劣るという問題がある。そのため、緻密で、かつ高い熱電特性を示す熱電変換材料を常圧焼結法で製造する方法が望まれていた。
【0018】
また、熱電変換素子の効率をさらに向上させるためには、熱電変換材料の性能指数をさらに向上させることが必要となる。そのためには、熱電変換材料の組成は、均一である方が望ましい。しかしながら、層状コバルト複酸化物の焼結体を常圧焼結法で作製する場合には、元素の拡散が不十分となり、焼結体の組成分布が不均一となりやすい。そのため、焼結体のゼーベック係数Sは、一般に、単結晶に比べて低いという問題がある。特に、層状コバルト酸ナトリウムにおけるNaの不十分な拡散は、ゼーベック係数Sを低下させる原因となる。
【0019】
また、層状コバルト酸ナトリウムについては、熱電特性を向上させるために、Na濃度を高くすることも考えられる。上述した非特許文献2には、層状コバルト酸ナトリウムの格子中に過剰のNaを入れることにより、Coの価数が減少し、高い熱電特性を示す点が記載されている。
【0020】
しかしながら、高Na濃度の焼結体は作製が困難である。また、層状コバルト酸ナトリウム中のNa濃度が高くなるほど、空気中の水分との反応性が増し、化学的に不安定となる。そのため、合成後の粉末や焼結体を、乾燥窒素やアルゴンなどの水分を含まない雰囲気中で保管する必要があり、生産性が大きく阻害されるという問題がある。さらに、この方法は、層状コバルト酸ナトリウム以外の層状コバルト複酸化物には、適用できないという問題がある。
【0021】
さらに、層状コバルト複酸化物の熱電特性には、結晶方位に応じた異方性がある。従って、熱電特性の高い結晶面を配向させることができれば、熱電特性の異方性を最大限に利用することができ、性能指数の向上が期待できる。実際に、上述した特許文献1に記載された方法を用いれば、常圧焼結法であっても特定の結晶面が高い配向度で配向した焼結体を得ることができる。しかしながら、特許文献1に記載された方法を用いる場合であっても、常圧焼結法では、到達可能な焼結体密度に限界があるために、到達可能な熱電特性にも限界がある。
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、層状コバルト複酸化物からなり、熱電特性に優れ、しかも保管性及び生産性に優れた熱電変換材料及びその製造方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする他の課題は、常圧焼結法であっても、層状コバルト複酸化物の緻密な焼結体を作製することが可能な熱電変換材料の製造方法を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る熱電変換材料は、擬CdI構造のCoO層を副格子として含む層状コバルト複酸化物からなり、かつ該層状コバルト複酸化物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して、0.1mol%以上10mol%以下のフッ素を含むことを要旨とする。
【0024】
層状コバルト複酸化物にフッ素を添加すると、層状コバルト複酸化物に含まれる酸素サイトの一部がフッ素に置換される。その結果、層状コバルト複酸化物のゼーベック係数Sが増加し、高い熱電出力係数PFが得られる。特に、層状コバルト酸ナトリウムにおいては、Na濃度を増加させることなくゼーベック係数Sを増加させることができるので、その保管性及び生産性も向上する。
【0025】
また、本発明に係る熱電変換材料の製造方法は、擬CdI構造のCoO層を副格子として含む層状コバルト複酸化物、及び/又は反応により前記層状コバルト複酸化物を生成する少なくとも1種類の化合物を含む主原料に対して、該主原料から得られる前記層状コバルト複酸化物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して0.1mol%以上10mol%以下に相当するフッ素を含む添加物を加える原料調製工程と、前記添加物が加えられた前記主原料を成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を加熱する焼結工程とを備えていることを要旨とする。
【0026】
層状コバルト複酸化物を焼結する際に所定量のフッ素を含む添加物を加えると、添加物が焼結助剤として機能し、緻密化が促進される。そのため、常圧焼結法であっても、高密度の焼結体が得られ、材料中における組成分布も均一化する。また、原料に対してフッ素を含む添加物を加えると、焼結時に層状コバルト複酸化物に含まれる酸素の一部がフッ素に置換される。そのため、ゼーベック係数Sが増加し、高い熱電出力係数PFが得られる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る熱電変換材料は、層状コバルト複酸化物からなり、かつ層状コバルト複酸化物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して、0.1mol%以上10mol%以下のフッ素を含むことを特徴とする。
【0028】
層状コバルト複酸化物とは、CdI構造又は歪んだCdI構造(本発明においては、これらを「擬CdI構造」という。)のCoO層を副格子として含むもの、すなわち、CoO層からなる第1副格子と、CoO層とは異なる層からなる第2副格子とが所定の周期で堆積した層状化合物をいう。
【0029】
第1副格子は、1層又は2層以上のCoO層からなる。また、「CoO層」とは、正八面体の中心に1個のCo原子があり、かつ、その頂点に合計6個の酸素原子があるCoO八面体が、稜を共有する形で二次元的に連結したものをいう。
【0030】
一方、第2副格子は、CoO層とは異なる層であれば良く、その組成や構造については、特に限定されるものではない。すなわち、第2副格子は、1種類の層からなるものであっても良く、あるいは、組成や副格子構造の異なる2種以上の層が規則的又は不規則的に組み合わされたものであっても良い。また、第2副格子は、Naであっても良く、あるいは、岩塩構造又は歪んだ岩塩構造を有するもの(本発明において、これらを「擬岩塩構造層」という。)でも良い。
【0031】
また、第1副格子と第2副格子は、交互に堆積していれば良く、その堆積周期は、特に限定されるものではない。すなわち、層状コバルト複酸化物は、1層又は2層以上のCoO層(第1副格子)と、1層又は2層以上の他の層(第2副格子)とが、短周期もしくは長周期で規則的に堆積したものであっても良く、あるいは、これらが不規則的に堆積したものであっても良い。
【0032】
さらに、第2副格子にCoが含まれる場合、Coの一部は、他の金属元素(例えば、Cu、Sn、Mn、Ni、Fe、Zr、Cr等)に置換されていても良い。また、第1副格子に含まれるCoについても同様であり、その一部がこれらの金属元素により置換されていても良い。
【0033】
層状コバルト複酸化物としては、具体的には、NaCoO(0.5≦x≦1)、CaCo、BiCaCo、BiSrCo、BiBaCo、[CaCo4/3Cu2/30.62[CoO]等、及びこれらの層状コバルト複酸化物を構成する陽イオン元素の一部が他の金属元素に置換されたものが好適な一例として挙げられる。
【0034】
本発明に係る熱電変換材料に含まれるフッ素の量は、層状コバルト複酸化物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して、0.1mol%以上10mol%以下が好ましい。フッ素の量が0.1mol%未満であると、ゼーベック係数Sを向上させる効果が少ない。一方、フッ素の量が10mol%を越えると、フッ素がフッ化物となって粒界に偏析し、電気伝導度σを低下させる原因となる。
【0035】
例えば、層状コバルト酸ナトリウム(NaCoO(0.5≦x≦1.0))の場合、フッ素含有量は、1molのNaCoO当たり、0.002〜0.2molが好ましい。これは、1molのCo原子当たり、0.002〜0.2molのフッ素量に相当する。
【0036】
また、例えば、層状コバルト酸カルシウム(CaCo)の場合、フッ素含有量は、1molのCaCo当たり、0.009〜0.9molが好ましい。これは、1molのCo原子当たり、0.00225〜0.225molのフッ素量に相当する。
【0037】
また、本発明に係る熱電変換材料の形態は、単結晶、各結晶粒がランダムに配向した無配向焼結体、及び各結晶粒の特定の結晶面が一方向に配向した配向焼結体のいずれであっても良い。
【0038】
これらの中でも、{00l}面が一方向に配向した配向焼結体は、配向方向の熱電特性が無配向焼結体より高くなるので、熱電変換材料として特に好適である。また、単結晶に比べて、(1)製造が容易で、かつ製造時に組成のずれが生じにくい、(2)実用に耐えうる大きさを有するものの製造が容易である、(3)破壊靱性が大きい、(4)粒界や空孔でフォノンが散乱されるために熱伝導度が低い、等の利点もある。
【0039】
本発明において、「{00l}面が配向する」とは、各結晶粒の{00l}面が互いに平行に配列すること(以下、これを「面配向」という。)、及び各結晶粒の{00l}面が多結晶体を貫通する1つの軸に対して平行に配列すること(以下、これを「軸配向」という。)の双方を意味する。高い熱電特性を備えた熱電変換材料を得るためには、各結晶粒の{00l}面は、面配向していることが望ましい。
【0040】
{00l}面の面配向の程度は、次の数1の式に示すロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度Q(HKL)により表すことができる。
【0041】
【数1】
Figure 2004152846
【0042】
なお、数1の式において、ΣI(hkl)は、配向焼結体について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI(hkl)は、配向焼結体と同一組成を有する無配向焼結体について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ’I(HKL)は、配向焼結体について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ’I(HKL)は、配向焼結体と同一組成を有する無配向焼結体について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
【0043】
また、本発明において、平均配向度Q(HKL)の算出には、X線源としてCu−Kα線を用いてX線回折を行ったときに得られる回折ピークであって、2θ=5°〜60°の範囲にあるものを用いた。
【0044】
従って、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度Q(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度Q(HKL)は100%となる。
【0045】
本発明に係る熱電変換材料において、高い性能指数を得るためには、{00l}面の配向度は高いほど良い。{00l}面の配向度は、具体的には、50%以上が好ましく、さらに好ましくは、80%以上である。
【0046】
なお、{00l}面を軸配向させる場合には、その配向の程度は、数1の式では定義できない。しかしながら、配向軸に垂直な面に対してX線回折を行った場合の(HKL)回折に関するLotgering法による平均配向度(以下、これを「軸配向度」という。)を用いて、軸配向の程度を表すことができる。{00l}面が軸配向している多結晶体の場合、軸配向度は負の値となる。また、{00l}面がほぼ完全に軸配向している多結晶体の軸配向度は、{00l}面がほぼ完全に面配向している多結晶体について測定された軸配向度と同程度になる。
【0047】
次に、本発明に係る熱電変換材料の作用について説明する。熱電変換材料の電気伝導度σは、一般に、キャリア濃度と正の相関があり、ゼーベック係数Sは、キャリア濃度と負の相関があることが知られている。従って、最大の熱電特性を得るためには、最適なキャリア濃度がある。
【0048】
層状コバルト複酸化物にフッ素を添加することによってゼーベック係数Sが向上するのは、相対的に過剰なキャリアを含むp型の層状コバルト複酸化物において、酸素サイトの一部がフッ素に置換されることによって電子がドープされ、キャリア濃度が最適値に近づくためと考えられる。
【0049】
また、層状コバルト酸ナトリウムについては、Na量が多くなるほどCoの価数が減少し、熱電特性が高くなることが知られている。これは、酸素の一部をフッ素で置換する場合と同様に、過剰のNaを導入することによって、キャリア濃度が最適値に近づくためと考えられている。しかしながら、過剰のNaは、格子中に入りにくく、しかも、室温で大気中の水蒸気と反応して劣化することが問題となっていた。
【0050】
これに対し、層状コバルト酸ナトリウムの酸素サイトの一部をフッ素で置換する方法によれば、過剰のNaを添加することなくゼーベック係数Sを向上させることができる。そのため、大気中の水蒸気との反応による劣化が抑制され、合成後の粉末や焼結体の保管が容易となり、生産性も向上する。
【0051】
次に、本発明に係る熱電変換材料の内、{00l}面が配向した配向焼結体の製造に用いられる異方形状粉末について説明する。層状コバルト複酸化物のような複雑な組成を有するセラミックスは、通常、成分元素を含む単純化合物を化学量論比になるように混合し、この混合物を成形・仮焼した後に解砕し、次いで解砕粉を再成形・焼結する方法によって製造される。しかしながら、このような方法では、各結晶粒の特定の結晶面が特定の方向に配向した配向焼結体を得るのは極めて困難である。
【0052】
後述する製造方法においては、この問題を解決するために、特定の条件を満たす針状、板状等の異方形状粉末を成形体中に配向させ、この異方形状粉末をテンプレート又は反応性テンプレートとして用いて層状コバルト複酸化物の合成及びその焼結を行わせ、これによって多結晶体を構成する各結晶粒の{00l}面を一方向に配向させた点に特徴がある。本発明において、異方形状粉末には、以下の条件を満たすものが用いられる。
【0053】
第1に、異方形状粉末には、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる。そのためには、異方形状粉末の平均アスペクト比(=異方形状粉末の最大寸法/最小寸法の平均値)は、3以上であることが望ましい。平均アスペクト比が3未満であると、成形時に異方形状粉末を一方向に配向させるのが困難となる。異方形状粉末の平均アスペクト比は、さらに好ましくは5以上である。
【0054】
一般に、異方形状粉末の平均アスペクト比が大きくなるほど、異方形状粉末の配向が容易化される傾向がある。但し、平均アスペクト比が過大になると、後述する原料調製工程において原料の均一な混合が妨げられる場合がある。従って、異方形状粉末の平均アスペクト比は、100以下が好ましく、さらに好ましくは50以下である。
【0055】
また、異方形状粉末の平均粒径(=異方形状粉末の最大寸法の平均値)は、0.05μm以上20μm以下が好ましい。異方形状粉末の平均粒径が0.05μm未満であると、成形時に作用する剪断応力によって異方形状粉末を一定の方向に配向させるのが困難になる。一方、異方形状粉末の平均粒径が20μmを超えると、焼結性が低下する。異方形状粉末の平均粒径は、さらに好ましくは、0.1μm以上10μm以下である。
【0056】
第2に、異方形状粉末には、その発達面(最も広い面積を占める面)が層状コバルト複酸化物のCoO層と格子整合性を有する結晶面(以下、これを「結晶面X」という。)であるものが用いられる。所定の形状を有する異方形状粉末であっても、その発達面が層状コバルト複酸化物のCoO層と格子整合性を有していない場合には、本発明に係る熱電変換材料を製造するためのテンプレートとして機能しない場合があるので好ましくない。
【0057】
格子整合性の良否は、異方形状粉末の発達面の格子寸法(例えば、陽イオンが作る三角格子における陽イオン間距離)と層状コバルト複酸化物のCoO層の格子寸法(例えば、陽イオンが作る三角格子における陽イオン間距離)の差の絶対値を異方形状粉末の発達面の格子寸法で割った値Rで表すことができる。Rは、格子をとる方向によって若干異なる場合がある。一般に、平均R値(面内の各方向について算出されたRの平均値)が小さくなるほど、その異方形状粉末は、良好なテンプレートとして機能することを示す。高配向度の熱電変換材料を製造するためには、異方形状粉末の平均R値は、20%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。
【0058】
第3に、異方形状粉末は、必ずしも層状コバルト複酸化物と同一組成を有するものである必要はなく、後述する第2粉末と反応して、目的とする組成を有する層状コバルト複酸化物を生成するもの(以下、これを「層状コバルト複酸化物の前駆体」という。)であっても良い。従って、異方形状粉末は、作製しようとする層状コバルト複酸化物に含まれる陽イオン元素の内のいずれか1種以上の元素を含む化合物あるいは固溶体の中から選ばれることになる。
【0059】
以上のような条件を満たす異方形状粉末であれば、いずれも本発明に係る熱電変換材料を製造するためのテンプレート又は反応性テンプレートとして機能する。このような条件を満たす材料としては、具体的には、作製しようとする層状コバルト複酸化物と同一又は異なる組成を有するもの、あるいは、Co(OH)、CoO、Co、CoO(OH)等のコバルト化合物が好適な一例として挙げられる。これらは、いずれも、結晶面Xを発達面とする板状粉末を比較的容易に合成することができる。
【0060】
{00l}面を発達面とする層状コバルト複酸化物の板状粉末は、当然に本発明に係る熱電変換材料からなる配向焼結体を製造するためのテンプレートとして機能する。このような板状粉末は、その構成元素を含む塩類を水に溶解し、この水溶液にアルカリ水溶液(例えば、NaOH、KOH、アンモニア水等)を滴下する沈殿法、その構成元素を含む酸化物をフラックスと共に加熱するフラックス法、その構成元素を含む酸化物をオートクレーブ中で加熱する水熱法等、液相が関与した合成法を用いて合成することができる。また、この時、合成条件を適宜制御すれば、板状粉末の形状制御も比較的容易に行うことができる。
【0061】
また、フラックス法を用いて層状コバルト複酸化物からなる板状粉末を合成する場合において、使用するフラックスは、作製しようとする層状コバルト複酸化物の組成に応じて最適なものを使用する。例えば、層状コバルト酸ナトリウムの場合には、フラックスとして、NaCl、NaCl+B等を用いるのが好ましい。また、例えば、層状コバルト酸カルシウムの場合には、フラックスとして、SrCl、KCO等を用いるのが好まし。
【0062】
さらに、フラックス法を用い層状コバルト複酸化物からなる板状粉末を合成する場合において、フラックス中にLiF、NaF、KF、NHF等のフッ化物を添加すると、酸素サイトの一部がフッ素に置換された層状コバルト複酸化物からなる板状粉末を合成することができる。なお、この方法は、本発明に係る層状コバルト複酸化物からなる単結晶の合成法としても用いることができる。
【0063】
Co(OH)は、CdI型の結晶構造を有している。Co(OH)の{00l}面は、他の結晶面に比して表面エネルギーが小さいので、{00l}面を発達面とする板状粉末の製造は比較的容易である。また、Co(OH)の{00l}面は、層状コバルト複酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末は、本発明に係る熱電変換材料からなる配向焼結体を製造するための反応性テンプレートとして特に好適である。
【0064】
{00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末は、沈殿法により合成することができる。具体的には、CoCl、Co(NO等のコバルト塩を含む水溶液中に、Nバブリングしながら、アルカリ水溶液(NaOH、KOH、アンモニア水等)を滴下すればよい。これにより、水溶液中に、{00l}面が発達したCo(OH)の板状粉末を析出させることができる。また、この時、合成条件を適宜制御すれば、板状粉末の形状制御も比較的容易に行うことができる。
【0065】
また、CoOは、岩塩型の結晶構造を有し、その{111}面は、層状コバルト複酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{111}面を発達面とするCoO板状粉末は、本発明に係る熱電変換材料からなる配向焼結体を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
【0066】
また、Coは、スピネル型の結晶構造を有し、その{111}面は、層状コバルト複酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{111}面を発達面とするCo板状粉末は、本発明に係る熱電変換材料からなる配向焼結体を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
【0067】
また、CoO(OH)の{00l}面は、層状コバルト複酸化物のCoO層との間に極めて良好な格子整合性を有している。そのため、{00l}面を発達面とするCoO(OH)板状粉末は、本発明に係る熱電変換材料からなる配向焼結体を製造するための反応性テンプレートとして好適である。
【0068】
所定の結晶面を発達面とするCoO板状粉末、Co板状粉末及びCoO(OH)板状粉末は、Co(OH)板状粉末を含む水溶液を酸化雰囲気中において所定時間エージングする方法、Co(OH)板状粉末を含む水溶液中に酸素、オゾン等の酸化性ガスをバブリングする方法、沈殿法においてコバルト塩を含む水溶液から沈殿を得る際に、水溶液中に酸素、オゾン等の酸化性ガスをバブリングする方法、等を用いて合成することができる。
【0069】
次に、本発明の一実施の形態に係る熱電変換材料の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、焼結体を製造する方法に関するものであり、原料調製工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
【0070】
初めに、原料調製工程について説明する。原料調製工程は、擬CdI構造のCoO層を副格子として含む層状コバルト複酸化物、及び/又は反応により前記層状コバルト複酸化物を生成する少なくとも1種類の化合物を含む主原料に対して、主原料から得られる層状コバルト複酸化物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して0.1mol%以上10mol%以下に相当するフッ素を含む添加物を加える工程である。
【0071】
本実施の形態において、主原料には、フッ素を含まない点を除き、作製しようとする層状コバルト複酸化物と同一組成及び同一結晶構造を有するもの(以下、これを「基本組成物」という。)を生成可能なものが用いられる。使用する主原料の種類は、作製しようとする層状コバルト複酸化物の組成、結晶面Xの配向の有無、要求される特性等に応じて、最適なものを選択する。
【0072】
例えば、無配向焼結体を製造する場合、主原料として、基本組成物からなる1種類の微粉末を用いても良い。あるいは、基本組成物からなる微粉末に対し、基本組成物が得られるように、所定の陽イオン元素を含む単純化合物からなる1種又は2種以上の微粉末を化学量論組成となるように配合し、これを主原料として用いても良い。
【0073】
また、基本組成物が得られるように、相対的に少数の陽イオン元素を含む単純化合物のみを化学量論組成となるように秤量し、これを主原料として用いても良い。あるいは、基本組成物が得られるように、化学量論組成で配合された単純化合物の仮焼及び粉砕を所定回数繰り返し、これを主原料として用いても良い。
【0074】
この場合、基本組成物以外の主原料の形態は、特に限定されるものではなく、焼成によって陽イオン元素を含む酸化物を形成可能なものであれば良い。具体的には、水酸化物、酸化物、塩類(例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩など)、アルコキシド等を用いることができる。また、各微粉末の平均粒径は、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは、5μm以下である。各微粉末の平均粒径は、成形性や取扱性が低下しない限りにおいて、小さい程良い。
【0075】
一方、配向焼結体を作製する場合には、主原料として、少なくとも基本組成物のCoO層と格子整合性を有する「結晶面X」を備えた粉末(以下、これを「第1粉末」という。)を用いる。第1粉末は、その発達面が結晶面Xからなる異方形状粉末が好ましく、特に、その発達面が結晶面Xからなる板状粉末が好ましい。また、第1粉末は、基本組成物と同一組成を有するものであっても良く、あるいは、基本組成物の前駆体であっても良い。さらに、第1粉末は、1種類の化合物からなるものであっても良く、あるいは、2種以上の化合物の混合物であっても良い。
【0076】
また、第1粉末が基本組成物の前駆体である場合、第1粉末と、第2粉末とを所定の比率で混合する。「第2粉末」とは、前駆体である第1粉末と反応して基本組成物となる化合物をいう。第2粉末の組成及び配合比率は、合成しようとする基本組成物の組成、及び、反応性テンプレートとして使用する第1粉末の組成に応じて定まる。また、第2粉末の形態は、特に限定されるものではなく、焼成によって陽イオン元素を含む酸化物を形成可能なものであれば良い。具体的には、第2粉末として、水酸化物、酸化物、塩類(例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩など)、アルコキシド等を用いることができる。
【0077】
例えば、層状コバルト酸ナトリウム配向焼結体を作製する場合において、第1粉末としてCo、Co(OH)等のコバルト化合物からなる板状粉末を用いるときには、第2粉末としてNa含有化合物を用い、これらを化学量論組成となるように配合すればよい。
【0078】
Na含有化合物としては、具体的には、炭酸ナトリウム(NaCO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、ナトリウムイソプロポキシド(Na(OC))等が好適な一例として挙げられる。第2粉末には、上述したNa含有化合物の内、いずれか1種類のみを用いても良く、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0079】
また、例えば、層状コバルト酸カルシウム配向焼結体を作製する場合において、第1粉末として、Co、Co(OH)等のコバルト化合物からなる板状粉末を用いるときには、第2粉末としてCa含有化合物を用い、これらを化学量論組成となるように配合すればよい。
【0080】
Ca含有化合物としては、具体的には、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、塩化カルシウム(CaCl)、炭酸カルシウム(CaCO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、カルシウムジメトキシド(Ca(OCH)、カルシウムジエトキシド(Ca(OC)、カルシウムジイソプロポキシド(Ca(OC)等が好適な一例として挙げられる。また、第2粉末には、上述したCa含有化合物の内、いずれか1種類のみを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0081】
また、Coの一部が他の金属元素M(例えば、Cu、Sn、Mn、Ni、Fe、Zr、Cr等)に置換された層状コバルト酸ナトリウム又は層状コバルト酸カルシウムからなる配向焼結体を作製する場合において、第1粉末として、Co、Co(OH)等のコバルト化合物からなる板状粉末を用いるときには、第2粉末として、上述したNa含有化合物又はCa含有化合物に加えて、金属元素Mを含有する化合物を用い、これらを化学量論組成となるように配合すればよい。他の組成を有する層状コバルト複酸化物を作製する場合も同様である。
【0082】
また、所定の比率で配合された第1粉末及び第2粉末に対して、さらに、基本組成物と同一組成を有する層状コバルト複酸化物からなる微粉(以下、これを「第3粉末」という。)を添加しても良い。原料中に第3粉末を添加すると、焼結体密度が向上するという効果がある。
【0083】
第2粉末及び第3粉末が固体である場合、又は固体状態のまま混合を行う場合、第2粉末及び第3粉末の平均粒径は、それぞれ、10μm以下が好ましい。平均粒径が10μmを超えると、反応が不均一となったり、焼結性が低下するので好ましくない。第2粉末及び第3粉末の平均粒径は、さらに好ましくは5μm以下である。第2粉末及び第3粉末の平均粒径は、成形性や取扱性が低下しない限りにおいて、小さいほど良い。
【0084】
また、第2粉末及び/又は第3粉末の配合比率が過大になると、必然的に原料全体に占める第1粉末の配合比率が小さくなり、{00l}面の配向度が低下するおそれがある。従って、第2粉末及び/又は第3粉末の配合比率は、要求される{00l}面の配向度及び焼結体密度が得られるように、最適な値を選択するのが好ましい。原料全体に占める第1粉末の割合は、具体的には、0.1重量%以上80重量%以下が好ましく、さらに好ましくは、1重量%以上40重量%以下である。
【0085】
主原料に対して加えられる添加物は、焼結助剤としての機能、及び/又はフッ素供給源としての機能を有するものが用いられる。そのためには、添加物は、焼結温度において単独で、又は主原料との反応によって液相を生成するものが好ましい。また、添加物は、焼結温度において分解しやすいものが好ましい。
【0086】
添加物としては、具体的には、LiF、NaF、KF、NHF等のフッ化物が好適な一例として挙げられる。これらの中でも、LiF、NaF及びKFは、いずれも焼結助剤及びフッ素供給源として機能するので、添加物として特に好適である。これらの添加物は、いずれか1種類のみを用いても良く、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0087】
添加物の添加量は、フッ素量に換算して、主原料から得られる基本組成物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して0.1mol%以上10mol%以下が好ましい。添加物の添加量が、フッ素量に換算して0.1mol%未満であると、液相の生成が不十分となり、高密度かつ均一組成を有する焼結体が得られない。一方、添加物の添加量が、フッ素量に換算して10mol%を越えると、焼結後にフッ化物が粒界に偏析し、電気伝導度σを低下させるので好ましくない。
【0088】
例えば、基本組成物がNaCoO(層状コバルト酸ナトリウム)である場合において、添加物としてNaFを用いるときには、1モル相当のNaCoOを生成する主原料に対して、0.002mol〜0.2molのNaFを添加すれば良い。同様に、基本組成物がCaCo(層状コバルト酸カルシウム)である場合において、添加物としてNaFを用いるときには、1モル相当のCaCoを生成する主原料に対して、0.009mol〜0.9molのNaFを添加すれば良い。他の組成を有する層状コバルト複酸化物を作製する場合も同様である。
【0089】
さらに、原料調製工程においては、主原料と添加物とを均一に混合する。この場合、その混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
【0090】
なお、主原料として基本組成物からなる微粉末又は板状粉末を用いる場合において、これらに代えて、基本組成物にフッ素が添加されたもの(以下、これを「フッ素含有物」という。)からなる微粉末又は板状粉末を用いても良い。この場合、フッ素含有物に含まれるフッ素の含有量は、作製しようとする層状コバルト複酸化物に含まれるフッ素の含有量と同一であっても良く、あるいは異なっていても良い。
【0091】
また、主原料の少なくとも一部としてフッ素含有物を用いる場合、添加物の添加量は、主原料及び添加物に含まれるフッ素量の総含有量が、主原料から生成する基本組成物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して0.1mol%以上10mol%以下であればよい。主原料としてフッ素含有物を用いる場合であっても、フッ素が格子内に取り込まれていない限り、すなわち目的化合物の結晶格子中の酸素の一部がフッ素で置換されていない限り、添加物を用いたのと同様の効果が得られる。
【0092】
次に、成形工程について説明する。成形工程は、原料調製工程で得られた添加物を含む主原料を所定の形状に成形する工程である。無配向焼結体を作製する場合、原料の成形方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いて、所定の形状に成形すれば良い。
【0093】
一方、配向焼結体を作製する場合には、結晶面Xが一方向に配向するように原料を成形する。結晶面Xを面配向させる成形方法としては、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、押出法(シート状)等が好適である。一方、結晶面Xを軸配向させる方法としては、具体的には、押出成形法(非シート状)が好適である。
【0094】
また、結晶面Xを成形体中に面配向させる場合において、結晶面Xの配向度を高めるためには、ドクターブレード(テープキャスト)法、押出法、プレス成形等を用いて成形体を作製し、次いで得られた成形体を圧延(ロールプレス)するのが好ましい。あるいは、シート状の成形体の積層圧着及び圧延を複数回繰り返しても良い。結晶面Xの配向度の高い配向焼結体を得るためには、成形体中の結晶面Xの配向度は、高い程良い。
【0095】
さらに、成形方法として磁場中成形法を用いても良い。結晶面Xを発達面とする異方形状粉末を含む原料に対して強力な磁場を作用させながら成形する場合において、磁場の組み合わせを最適化すると、成形体中に結晶面Xを高い配向度で配向させることができる。
【0096】
次に、焼結工程について説明する。焼結工程は、成形工程で得られた成形体を所定の条件下で加熱する工程である。所定の組成を有する原料を含む成形体を所定の温度に加熱すると、原料組成に応じて、層状コバルト複酸化物が成長及び/又は生成すると同時に、層状コバルト複酸化物の焼結も進行する。
【0097】
層状コバルト複酸化物の場合、焼結は、通常、850℃以上1000℃以下で行われる。最適な加熱温度は、反応及び焼結が効率よく進行し、かつ異相の生成や、成分元素の揮発が生じないように、使用する原料及び作製しようとする複合酸化物の組成、焼結方法等に応じて選択する。
【0098】
例えば、Co板状粉末、NaCO粉末及びNaF粉末を用いて、酸素の一部がフッ素に置換された層状コバルト酸ナトリウム:NaCo(O1−y(0.5≦x≦1、0.001≦y≦0.1)からなる配向焼結体を作製する場合、焼結温度は、850℃以上1000℃以下が好ましい。
【0099】
同様に、Co(OH)板状粉末、CaCO粉末及びNaF粉末を用いて、酸素の一部がフッ素に置換された層状コバルト酸カルシウム:CaCo(O1−y(0.001≦y≦0.1)からなる配向焼結体を作製する場合、焼結温度は、880℃以上930℃以下が好ましい。これらの場合において、加熱時間は、所定の焼結体密度が得られるように、焼結温度に応じて最適な値を選択すればよい。
【0100】
加熱方法としては、室温から所定温度に徐々に昇温する方法や、あらかじめ所定温度に加熱した炉内に成形体を導入し、一気に加熱する方法などがあり、作製しようとする層状コバルト複酸化物の組成などに応じて、最適な方法を選択すればよい。また、焼結は、常圧で行っても良く、あるいは、ホットプレス、ホットフォージング、HIP等、加圧下で行っても良い。
【0101】
さらに、焼成時の雰囲気は、特に限定されるものではなく、作製しようとする層状コバルト複酸化物の組成や、要求される特性に応じて最適なものを選択すればよい。
【0102】
なお、バインダを含む成形体の場合、焼結工程の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行っても良い。この場合、脱脂の温度は、特に限定されるものではなく、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であれば良い。但し、出発原料として、Na等の低融点金属を含む化合物を用いる場合には、Na等の蒸発を防ぐために、500℃以下で脱脂を行うのが好ましい。また、脱脂は、酸素が存在する雰囲気下で行うのが好ましい。
【0103】
また、配向焼結体を作製する場合において、成形体の脱脂を行うと、成形体中に配向させた結晶面Xの配向度が低下したり、あるいは、反応が進行して成形体が膨張する場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、焼結を行う前に、成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うのが好ましい。脱脂後の成形体に対して、さらに静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、成形体の密度低下に起因する焼結体密度の低下を抑制できるという利点がある。
【0104】
次に、本実施の形態に係る熱電変換材料の製造方法の作用について説明する。主原料に対して添加物を加え、所定の温度で加熱すると、主原料が反応し、層状コバルト複酸化物の生成及び/又は成長と同時に、焼結が進行する。
【0105】
所定のフッ化物は、比較的融点が低く、相対的に低温で液相を生ずるので、これを添加物として主原料に添加すれば、焼結過程で粒子の再配列や拡散を促して緻密化が促進される。すなわち、所定のフッ化物からなる添加物は、層状コバルト複酸化物の焼結助剤として機能する。そのため、常圧焼結法を用いる場合であっても、再現性良く緻密な焼結体を得ることができる。また、これによって、材料の断面積当たりの実効面積が増加するために電気伝導のパスが増加し、みかけの電気伝導度が向上する。
【0106】
また、焼結過程で液相が生成するために、緻密化が促進する過程において材料中における元素の拡散が促進される。そのため、材料中における元素の分布が均一化し、ゼーベック係数Sが増加する。特に、層状コバルト酸ナトリウムにおいては、Naの分布が均一化することによって、ゼーベック係数Sが向上する。しかも、Na濃度を増加させることなくゼーベック係数Sを増加させることができるので、その保管性及び生産性も向上する。
【0107】
さらに、層状コバルト複酸化物に含まれる酸素サイトの一部は、焼結時に添加物に含まれるフッ素によって置換される。その結果、ゼーベック係数Sが増加し、高い熱電出力係数PFが得られる。
【0108】
また、第1粉末、並びに、必要に応じて添加された第2粉末及び/又は第3粉末からなる主原料に対して添加物を加え、これを第1粉末に対して剪断応力が作用するような成形方法を用いて成形すると、結晶面Xが成形体中に配向する。このような配向成形体を所定の温度で加熱すると、第1粉末、第2粉末及び第3粉末が反応し、層状コバルト複酸化物が成長及び/又は生成する。
【0109】
この時、結晶面Xと層状コバルト複酸化物のCoO層との間には格子整合性があるので、結晶面Xが、層状コバルト複酸化物の{00l}面として承継される。さらに、主原料に加えた添加物が焼結助剤として機能するので、緻密化が促進される。その結果、焼結体中には、{00l}面が一方向に配向した状態で、層状コバルト複酸化物の板状結晶が成長し、各結晶粒の{00l}面が高い配向度で配向し、かつ高密度を有する熱電変換材料が得られる。
【0110】
また、このような工程を経て得られた焼結体中の層状コバルト複酸化物の{00l}面の配向度(特に、高配向度領域における{00l}面の配向度)は、成形体に含まれる第1粉末の結晶面Xの配向度に強く依存する。そのため、異方形状を有する第1粉末に強い剪断力を作用させることによって、結晶面Xの配向度が所定の値以上である成形体を作製し、これを焼結すれば、各結晶粒の{00l}面が極めて高い配向度で配向し、かつ高密度を有する熱電変換材料が得られる。
【0111】
本実施の形態に係る製造方法は、無配向焼結体を作製する場合に限らず、配向焼結体を作製する場合であっても、通常のセラミックスプロセスをそのまま用いることができるので、低コストである。また、この方法により得られる熱電変換材料は、多結晶体であるので、単結晶より破壊靱性が大きく、また、粒界や空孔でフォノンが散乱されるので、単結晶より熱伝導率が低くなる。
【0112】
また、テンプレート又は反応性テンプレートを用いて配向焼結体を作製する場合には、{00l}面の配向度が高いだけでなく、配向度及び組成が均一であり、しかも断面積の大きな熱電変換材料が得られる。さらに、この方法により得られる熱電変換材料は、電気伝導度の高い{00l}面が高い配向度で配向しているため、同一組成を有する無配向焼結体より高い性能指数を示す。そのため、これを熱電変換材料として用いれば、耐久性及び熱電特性に優れた熱電変換素子を作製することができる。
【0113】
【実施例】
(実施例1)
(1)Co板状粉末の合成。
まず、0.1mol/lのCo(NO水溶液を600ml調製した。この溶液に0.4mol/lのNaOH水溶液300mlを少しずつ滴下し、溶液中にピンク色の沈殿物(Co(OH))を生成させた。次に、この溶液をそのままの状態で三日間継続して撹拌した。その結果、Co(OH)がトポタクティック的に空気酸化され、Coが生成した。さらに、この沈殿物を吸引濾過して収集し、80℃で数日間乾燥した。得られたCoは、平均粒径1μm、アスペクト比〜5の板状粉末であった。
【0114】
(2)フッ素を含有する層状コバルト酸ナトリウムからなる配向焼結体の作製。NaCO微粉末(平均粒径:1μm)と、(1)で得られたCo板状粉末とを、モル比でNa:Co=0.7:1となるように秤量した。この主原料から合成されるNa0.7CoOに対して、さらにNaFを外掛けで、0.2〜5.0重量部(化学量論比の酸素イオンのモル数に対して、0.255〜6.37mol%のフッ素量に相当する。)加え、湿式混合した。
【0115】
このスラリにバインダと可塑剤を加えてさらに混合した後、ドクターブレード法により厚さ0.1mmのシート状に成形した。次いで、得られたシート状成形体を重ねて圧着し、厚さ約5mmの厚板状成形体を作製した。この成形体を400℃で脱脂した後、酸素中、850℃で20時間の常圧焼結を行った。
【0116】
(比較例1)
主原料に対してNaFを添加しなかった以外は、実施例1と同一の手順に従い、層状コバルト酸ナトリウムからなる配向焼結体を作製した。
【0117】
実施例1及び比較例1で得られた配向焼結体について、それぞれ相対密度を測定した。図1に、実施例1及び比較例1で得られた配向焼結体のNaF添加量(又はフッ素量)と焼結体の相対密度との関係を示す。NaFを添加しない場合、相対密度は、88%であった。一方、NaFを添加すると、相対密度は、いずれも90%を越えた。図1より、NaF添加量が多くなるほど、焼結体の相対密度が高くなることがわかる。
【0118】
(実施例2)
主原料から合成されるNa0.7CoOに対し、NaFを外掛けで2重量部添加した以外は、実施例1と同一の手順に従い、層状コバルト酸ナトリウムのフッ素置換体からなる配向焼結体を作製した。
【0119】
(比較例2)
主原料に対してNaFを添加しなかった以外は、実施例2と同一の手順に従い、層状コバルト酸ナトリウムからなる配向焼結体を作製した。
【0120】
実施例2及び比較例2で得られた配向焼結体について、焼結体密度及びロットゲーリング法による{00l}面の平均配向度を測定した。実施例2及び比較例2で得られた配向焼結体の平均配向度は、それぞれ、95%及び94%であり、いずれも高い値であった。これに対し、実施例2で得られた配向焼結体の相対密度は、94%であり、常圧焼結法としては高い値となった。一方、比較例2で得られた配向焼結体の相対密度は、88%であり、実施例2と比べて低い値にとどまった。
【0121】
次に、実施例2及び比較例2で得られた配向焼結体から、シート面に平行な方向に沿って棒状試料を切り出し、380℃〜780℃における熱電特性を評価した。なお、熱電特性の評価に際しては、配向面に平行な方向に電流が流れ、かつ温度差が付くように、電気伝導度σ及びゼーベック係数Sを測定し、熱電出力係数PF(=σS)を算出した。図2、図3及び図4に、それぞれ、電気伝導度σ、ゼーベック係数S及び熱電出力係数PFの温度依存性を示す。
【0122】
実施例2で得られた配向焼結体は、相対密度が高いにもかかわらず、比較例2とほぼ同等の電気伝導度σを示した。これは、酸素がフッ素に置換されることによるキャリア濃度の低下と、相対密度が上昇することによる電気伝導パスの増加が相殺されたためと考えられる。
【0123】
一方、実施例2で得られた配向焼結体のゼーベック係数Sは、全温度範囲において、比較例2より高い値を示した。その結果、実施例2の熱電出力係数PFは、全温度範囲において、比較例2より高い値を示した。
【0124】
(実施例3)
以下の手順に従い、フッ素を含有する層状コバルト酸カルシウムからなる配向焼結体を作製した。まず、大気中における三日間の撹拌処理を行わなかった以外は、実施例1の(1)と同一の手順に従い、Co(OH)板状粉末を合成した。得られたCo(OH)板状粉末の平均粒径は、0.5μm、アスペクト比は、5〜10であった。
【0125】
次に、CaCO微粉末(平均粒径:1μm)と、Co(OH)板状粉末とを、モル比でCa:Co=3:4となるように秤量した。この主原料から合成されるCaCoに対して、さらにNaFを外掛けで1重量部(化学量論比の酸素イオンのモル数に対して、1.32mol%のフッ素量に相当する。)加え、湿式混合した。
【0126】
このスラリにバインダと可塑剤を加えてさらに混合した後、ドクターブレード法により厚さ0.1mmのシート状に成形した。次いで、得られたシート状成形体を重ねて圧着し、厚さ約5mmの厚板状成形体を作製した。この成形体を400℃で脱脂した後、酸素中、920℃で20時間の常圧焼結を行った。
【0127】
(比較例3)
主原料に対してNaFを添加しなかった以外は、実施例3と同一の手順に従い、層状コバルト酸カルシウムからなる配向焼結体を作製した。
【0128】
実施例3及び比較例3で得られた配向焼結体について、焼結体密度及びロットゲーリング法による{00l}面の平均配向度を測定した。実施例3及び比較例3で得られた配向焼結体の平均配向度は、それぞれ、97%及び93%であり、いずれも高い値であった。これに対し、実施例3で得られた配向焼結体の相対密度は、93%であり、常圧焼結法としては高い値となった。一方、比較例3で得られた配向焼結体の相対密度は、75%であり、実施例3と比べて低い値にとどまった。
【0129】
次に、実施例3及び比較例3で得られた配向焼結体から、シート面に平行な方向に沿って棒状試料を切り出した。次いで、実施例2及び比較例2と同一の手順に従い、電気伝導度σ及びゼーベック係数Sの測定、並びに熱電出力係数PFの算出を行った。図5、図6及び図7に、それぞれ、電気伝導度σ、ゼーベック係数S及び熱電出力係数PFの温度依存性を示す。
【0130】
実施例3で得られた配向焼結体は、相対密度が高いにもかかわらず、比較例3とほぼ同等の電気伝導度σを示した。これは、酸素がフッ素に置換されることによるキャリア濃度の低下と、相対密度が上昇することによる電気伝導パスの増加が相殺されたためと考えられる。
【0131】
一方、実施例3で得られた配向焼結体のゼーベック係数Sは、全温度範囲において、比較例3より高い値を示した。その結果、実施例3の熱電出力係数PFは、全温度範囲において、比較例3より高い値を示した。
【0132】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0133】
例えば、上記実施例において、焼結方法として、常圧焼結法が用いられているが、これに代えて、ホットプレス、常圧焼結+HIP処理等、他の焼結法を用いても良い。また、上記実施例において、成形体中の結晶面Xの配向度を高くするためにドクターブレード法が用いられているが、結晶面Xの配向度を高めることができる限り、他の成形方法を用いても良い。
【0134】
また、例えば、上記実施例では、ドクターブレード法によって板状粉末を面配向させているが、押出成形法を用いて、板状粉末を軸配向させても良い。板状粉末をこのように軸配向させた場合であっても、無配向焼結体より高い性能指数を有する熱電変換材料が得られる。また、押出成形法を用いると、ある程度の厚さを有する焼結体を低コストで作製できるという利点がある。
【0135】
また、層状コバルト複酸化物の前駆体からなる第1粉末に対して第2粉末を添加し、層状コバルト複酸化物を生成させる場合において、第2粉末として、第1粉末と同一組成を有する前駆体からなる微粉末を用いても良い。この場合、目的とする熱電変換材料が得られるように、他の粉末の組成及び配合比率に応じて、前駆体微粉末を所定の比率で配合すれば良い。
【0136】
また、第1粉末として、層状コバルト複酸化物からなる異方形状粉末を用いる場合には、第1粉末のみを単独で用いても良い。あるいは、第1粉末に対して、さらに、作製しようとする層状コバルト複酸化物を生成可能な組成比を有する第2粉末、及び/又は、作製しようとする層状コバルト複酸化物と同一組成を有する微粒状の第3粉末を所定の比率で配合しても良い。
【0137】
【発明の効果】
本発明に係る熱電変換材料は、フッ素を含む層状コバルト複酸化物からなるので、ゼーベック係数Sが増加し、高い熱電出力係数が得られるという効果がある。また、層状コバルト酸ナトリウムにおいては、ゼーベック係数Sの増加に加えて、保管性及び生産性が向上するという効果がある。
【0138】
また、本発明に係る熱電変換材料の製造方法は、層状コバルト複酸化物を生成する主原料に対して、所定量のフッ素を含む添加物を加えるので、緻密化が促進され、常圧焼結法であっても高密度の焼結体が得られるという効果がある。また、添加物を加えることによって層状コバルト複酸化物の酸素の一部フッ素に置換され、層状コバルト複酸化物のゼーベック係数Sが増加するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】NaF添加量と焼結体の相対密度との関係を示す図である。
【図2】実施例2及び比較例2で得られた配向焼結体の電気伝導度σの温度依存性を示す図である。
【図3】実施例2及び比較例2で得られた配向焼結体のゼーベック係数Sの温度依存性を示す図である。
【図4】実施例2及び比較例2で得られた配向焼結体の熱電出力係数PFの温度依存性を示す図である。
【図5】実施例3及び比較例3で得られた配向焼結体の電気伝導度σの温度依存性を示す図である。
【図6】実施例3及び比較例3で得られた配向焼結体のゼーベック係数Sの温度依存性を示す図である。
【図7】実施例3及び比較例3で得られた配向焼結体の熱電出力係数PFの温度依存性を示す図である。

Claims (5)

  1. 擬CdI構造のCoO層を副格子として含む層状コバルト複酸化物からなり、かつ該層状コバルト複酸化物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して、0.1mol%以上10mol%以下のフッ素を含むことを特徴とする熱電変換材料。
  2. 前記CoO層に平行な面が配向していることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
  3. 擬CdI構造のCoO層を副格子として含む層状コバルト複酸化物、及び/又は反応により前記層状コバルト複酸化物を生成する少なくとも1種類の化合物を含む主原料に対して、該主原料から得られる前記層状コバルト複酸化物の化学量論比の酸素イオンのモル数に対して0.1mol%以上10mol%以下に相当するフッ素を含む添加物を加える原料調製工程と、
    前記添加物が加えられた前記主原料を成形する成形工程と、
    該成形工程で得られた成形体を加熱する焼結工程とを備えた熱電変換材料の製造方法。
  4. 前記原料調製工程は、前記CoO層と格子整合性を有する結晶面を発達面とする異方形状粉末を含む主原料に対して、前記添加物を加えるものであり、
    前記成形工程は、前記結晶面が一方向に配向するように、前記添加物が加えられた前記主原料を成形するものである請求項3に記載の熱電変換材料の製造方法。
  5. 前記添加物は、LiF、NaF、KF及びNHFから選ばれる少なくとも1種以上のフッ化物である請求項3又は4に記載の熱電変換材料の製造方法。
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