JP2008306127A - 熱電変換材料 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】熱電変換材料は、CaFe2O4(カルシウム・フェライト)型構造を有し、そのFeがCoに置換されてなることを特徴とする。本物質は室温付近で大きなゼーベック係数を持ち、さらに、ゼーベック係数は、温度変化に対して、室温より少々高い温度であっても殆ど飽和しないという特長を持つ。
【選択図】図2
Description
即ち、熱を電気に変換できることになる。これを熱電変換、その能力・性能を熱電能という。そして、効率よく熱電変換する材料を、熱電材料という。
現在地球上では、燃料の使用によって膨大な廃熱が発生し、ほぼ全てが大気中に放出されている。その一部を電気に変換して有効に再利用すれば、大きな省エネルギーに繋がることは間違いない。これを実現するためには、より効率のいい熱電材料を開発する必要がある。
熱電材料を用いた回路から効率よく電流を取り出すには、材料物質のゼーベック係数が大きいことのみならず、電気抵抗率(ρ)が低い必要がある。これは電池の内部抵抗に相当する。また、試料端の温度差を維持するためには、熱伝導(κ)は低い方が都合がよい。
一方、ゼーベック効果の逆過程も存在する。すなわち、物質に電流を流すと導線との接合部で吸熱・発熱反応が起きる。これをペルチェ効果とよぶ。
この原理に基づく電子冷却素子は、一部実用化されている。
従来の層状コバルト酸化物では飽和傾向にあり、かつ、電気抵抗率も温度と共に上昇するので、効率(S2/ρ)が悪くなる欠点がある。
さらにこの物質が、従来の層状コバルト酸化物に優るとも劣らない熱電材料としての潜在能力を持つことを見いだした。
特に、本物質は室温付近で大きなゼーベック係数を持つことを示す。さらに、ゼーベック係数は、温度変化に対して、室温より少々高い温度であっても殆ど飽和しないという特長を持つ。
従来物質に較べ電気抵抗率が少し高めなので、そのまま本物質を熱電材料として用いるのは難しいが、本物質を元に、単結晶化や適度なキャリアドープを行えば電気抵抗率を数桁下げられることは容易に推測できる。このようにして得られた物質は、従来の熱電材料に匹敵する性能を発揮する可能性が十分ある。
CaCo2O4多結晶試料は、高温高圧合成法(高温高圧下での固相反応法)によって人工的に作り出された。(自然界にも恐らく存在しない。)本物質は高圧下でのみ合成可能な物質と考えられる。原料粉が高温高圧下で化学反応して本物質が形成されるが、反応後、高圧を保持したまま室温まで急冷(クエンチ)し、その後、圧力を解放する。これにより、室温常圧でも安定して保持できる。
ここで後者((Ca2CoO3)0.62CoO2)の粉末は先んじてCo3O4とCaCO3(3N)粉末を常圧下での固相反応法(1気圧O2ガス気流中、900-950°Cで反応。途中、数回の粉砕混合を行う。)を用いることですることにより得られた。
Co3O4 : (Ca2CoO3)0.62CoO2 = 0.86 : 3のモル比で混合された粉末を作る。今回、混合には瑪瑙乳鉢を使用した。今回は上記の原料を用いたが、原子のモル比がCa:Co:O=1:2:4+δであればよく、他の出発原料の使用も可能と考えられる。ここで、δは過剰な酸素量を意味する。
高圧合成は閉鎖系で反応が進むため、上記以外の元素が入っていてはいけない。たとえば、CaCO3などの炭酸塩は、余分のC原子が存在するので原料としては不可。硝酸塩も同様に不可。混合粉末は、300°Cで数時間乾燥された。
試料の同定と結晶構造解析用データを得るため、通常の実験室系の粉末X線回折法を用いた。今回用いた回折装置は、リガクRINT−ULTIMA III(CuKα線、Bragg−Brentano光学系、ゴニオ半径285 mm)である。構造の精密化はリートベルド解析法(RIETAN−2000プログラム)にて行った。測定条件は、2θ=10−110度、ステップスキャンモード、ステップ幅0.02度、データ蓄積時間30秒/1ステップ、発散スリット=散乱スリット=1/3度、受光スリット=0.3 mmであった。結合長と結合角の計算にはORFFEプログラムを使用した。
磁気データ測定には、Quantum Design社製のSQUID (MPMS)装置を用いた。粉末試料(200.97 mg)を用いた。測定磁場は、1000 Oe、温度範囲は、2 K−350 Kである。ゼロフィールドクール測定、フィールドクール測定を行った。
物性測定(電気抵抗、熱起電力、比熱)の測定には、Quantum Design社製のPPMS装置を用いた。ゼーベック係数と抵抗率はTTO(熱伝導測定オプション)を用いて、同時に測定された。バルク試料のサイズは、1.5×2.1×5.5 mm3、電圧・温度端子間の距離は2.9 mmである。試料電極には銅線を用い、試料表面に蒸着した金薄膜を介してオーミックコンタクトを形成した。データ収集は連続モードで行い、昇温速度は0.3 K/min.である。温度計にはCernox1050を用いた。電極間の温度差は、測定温度の3%未満に制御された。電気抵抗測定は、4端子法によるものである。0.01−0.05 mA、60−300 Hzの交流電流を用いた。測定温度範囲は、10 K−390 Kである。比熱はPPMSを使用し、緩和法にて302 K−2 Kの範囲で測定した。用いた試料の質量は、12.34 mgであった。
結晶構造
図1(測定データ:表4−1〜4−6)にCaCo2O3の粉末X線回折パターンを示す。この図は、粉末X線回折法により得られたパターンである。ブラッグの反射条件λ=2dsinθ(λ=1.540593 Å, CuKα特性X線の波長、d:格子面間隔、θ:ブラッグ反射角)を満たす回折角(2θ)から格子面間隔dが求められる。さらに、ピーク強度(Ihkl)の測定値と計算値を数値フィットさせることで結晶構造モデルを精密化する方法がリートベルド法である。赤+は測定値、実線は理論値、青実線はその差分、緑線はブラッグ反射位置を示す。図1は、CaFe2O4構造に特有(類似)のパターンを示している。
ブラッグ反射の強度と2θ角度は表1にまとめられている。全ての反射はa=8.789(2) Å, b=2.9006(7) Å, c=10.282(3)Åの格子定数を持つ斜方晶系格子を用いて指数づけ可能である。これは試料純度が高い(不純物相が含まれていない)ことを示している。消滅則は、k+l=2n (0kl), h=2n (hk0)であるから、可能な空間群はPnma (No. 62)とPn21a (No. 33)になる。ここでは、高対称性のPnmaを仮定する。
CaCo2O3の構造解析は、X線リートベルド解析により行った。図1の回折パターンはリートベルド解析結果をも示すものである。ここで、構造モデルとしてはCaFe2O4と同じモデルを用いた。得られた原子座標等の構造パラメータ、および、結晶学的データは表2にまとめられている。表3には結合距離と結合角度がまとめられている。
図3は、表1の座標データを用いて作図された。(a)では、CoO6八面体の頂点の酸素を省略して描かれている。(b) 複数のCoO6八面体がb軸方向(紙面に奥方向)に辺共有で結合し、二重鎖を形成する。二重鎖は、頂点共有で隣の二重鎖と結合し、三次元のネットワークを形成する。
図3に示すように、CaCo2O3の構造で最も特徴的な点は、b軸方向に走るCo−Oの二重鎖である。これはCoO6八面体が二重鎖内では辺共有、二重鎖間では頂点共有することで形成されている。Co−Oの三角格子の部分格子を形成していると見なすこともできる。Co原子のt2g軌道はお互いに同一方向を向き、軌道は重なり合っていることが予想される。
図4(測定データ:表5,6)に磁化率の温度依存性を示す。図4は、この系の磁性が、キュリーワイス常磁性でほぼ表現できることを意味する。キュリー定数(C)は小さく、基底状態がコバルト3価の低スピン状態(Co3+, 3d6 t2g, S=0)であることを意味する。小さいながらも有限のC値が観測されることから、12%程度のS=1/2の(ほぼ)孤立したスピンが存在すると思われる。孤立スピンの原因は、わずかな(磁気的)不純物や格子欠陥などが考えられるが、経験的な値との比較から、これらだけで説明するのは難しい。むしろ、それに加えて少量(数%程度)のホールが存在すると考えるのが妥当である。ホールの存在は、電気抵抗やゼーベック係数、比熱の測定データからも示唆される。キューリー温度(θW)は小さく、スピン間の相互作用はかなり弱く、ほぼ孤立状態にあると考えて良い。また、磁気転移は、この測定温度範囲では観測されない。相転移によるエントロピーの解放がないことが、低温まで残留エントロピーが存在し、電荷と結合することで大きな熱電起電力を生じる原因と思われる。
図5(測定データ:表7)に電気抵抗率の温度依存性を示す。
図5は、半導体的な温度依存性(温度下降に伴い、抵抗が桁で増加する傾向)を示す。低温(100K以下では、アーレニウス型ではなく、バリアブル・レンジ・ホッピング型の温度変化を示す(挿入図)。このことから、本系の電子状態は通常のバンドギャップ型半導体ではなく、むしろ、金属に近いもの(フェルミレベルで有限の状態密度が存在する)と考えられる。比熱データからも求められるように、フェルミレベルでの状態密度はそれほど大きいものではない(金属的な伝導を示す遷移金属酸化物の1桁程度下)。故に、低温では電荷局在が起こると考えられる。フェルミレベルは、恐らくCo t2g軌道を主とするバンドの上端付近を僅かに横切っていると推測される。
室温付近での温度依存性は、むしろ熱活性型に近い。高温(室温付近)では局在キャリアはポテンシャル束縛から解放されるため、伝導機構の変化が現れる。熱活性型の伝導機構が何に起因するのかは現時点では断定できない。可能性のあるものとして、移動度端へのキャリア励起、ポーラロン、グレインバンダリ散乱などが考えられる。
図6(測定データ:表7)にゼーベック係数の温度依存性を示す。
図6は、大局的には金属的な温度依存性(S∝T)をしている。(バンドギャップ半導体では、S∝1/T。)挿入図は、バリアブル・レンジ・ホッピング状態の熱起電力は、S∝T1/2(3次元的)、S∝T1/3(2次元的)であることを利用して、伝導の次元性を判別しようとしたものであるが、実際には2次元と3次元の中間的な温度変化を示した。少なくとも、1次元的でないことは確かである。これは、結晶構造から得られた知見と整合する。
ゼーベック係数は総じて通常の物質より大きく、層状コバルト酸化物(例えば、Ca3Co4O9(非特許文献2); Bi2Sr2Co2O9(非特許文献3))に相当する。380 Kにおける値は、S=+147 μV/Kである。
室温付近(以上)での温度依存性はかなり特徴的である。通常の層状コバルト酸化物のSは、この温度領域で飽和する傾向にあるが、この系(CaCo2O4)では、殆ど飽和せずに温度上昇と共に増加し続ける。(残念ながら測定装置のスペックの問題でこれ以上の高温領域では測定できなかった。)より高温側ではさらに大きなSと小さなρが期待できるので、高温領域で使う熱電材料としてはたいへん都合がよい。
負号が正であることから、主にp型キャリア(ホール)が存在することが分かる。温度上昇と共にゼーベック係数が増加する傾向は、本系の電子構造が金属的であることを意味しており、電気抵抗の結果と整合する。特に、低温ではバリアブルレンジホッピング伝導が支配的であると考えられるので、挿入図のように対数プロットによって、伝導の次元性を判別した。結果は、本系は3次元、もしくは2次元的な伝導機状態にあることを示唆している。(少なくとも1次元的ではないのは確実。)これは構造からも予想されたように、二重鎖間の電荷移動が存在するという解釈ができる。
CaCo2O4のゼーベック係数Sの絶対値は、380 Kのとき約147 μV/Kであり、明らかに通常の金属のそれより大きく、近年、熱電材料として期待されている層状コバルト酸化物の値に匹敵するかそれ以上である。これは、CaCo2O4が熱電材料としての潜在能力を持っていることを示唆している。この大きな熱電能の発生原因は、スピンの残留エントロピーに起因すると考えられる。非特許文献4によって与えられた理論式を用いた場合、この系の高温極限での熱電能は、S=344 μV/Kと見積もることができる。実測のS(=147 μV/K)は、温度が380 Kの時の値であり、高温極限の理論値と比較するのは困難であるが、図6に示すように、400 K付近においてもSの飽和傾向が見られないことから、十分な高温では理論値に到達する可能性がある。ちなみに、CaCo2O4のようにSが飽和しない(観測されない)物質は比較的、稀である。(通常の層状コバルト酸化物のSは室温付近以上で飽和傾向がある。)これはCaCo2O4の最大の特徴のひとつであり、高温領域での応用という観点からは重要な要素である。相転移によって解放されないために室温付近において残った大きな残留エントロピーに対し、電子相関によって電荷が張り付くことで大きな熱電能が発生すると考えられる。CaCo2O4のような二重鎖構造は、その舞台として都合の良いものなのかもしれない。
図7(測定データ:表8)にCaCo2O4の比熱の温度変化を示す。
一般物質では、比熱は電子比熱と格子比熱から構成され、C/T=γ+AT2で表現される。このとき、図7のようにC/TをT2に対してプロットし直線部を外挿すると、T=0軸との交点から電子比熱係数γが求められる。また。係数A=(12π4/5)rNAkB(1/θD 3)であるので、直線の傾き(A)からデバイ温度(θD)が求まる。求まった電子比熱係数は、γ=4.48(7) mJ/mol K2であり、有限である。電気抵抗データでも示唆されたように、本系の電子状態は通常のバンドギャップ型半導体ではなく、むしろ、金属に近いもの(フェルミレベルで有限の状態密度N(0)が存在する)と考えられる。ただしγの値は、他の金属的な伝導を示す遷移金属酸化物に較べて1桁程度小さいことから、N(0)は小さいと推測される。フェルミレベルは、恐らくCo t2g軌道を主とするバンドの上端付近を僅かに横切っていると推測される。
低温での実測値は直線を外れ、温度下降に伴い増加する。挿入図のように、これはショットキー型比熱で説明できる。ショットキー型比熱は常磁性体でしばしば見られる減少で、孤立スピンに起因した離散準位がフェルミレベル近傍に存在することを意味する。この結果は、局在準位が存在するという推測と整合する。
白金カプセルから取り出した直後の試料塊は、直径約6 mm、高さ約3−4 mm程度のペレット上である。写真の試料は、ペレットの一部を切り出して矩形に成形したものである。電気伝導性酸化物に特有の黒色をしている。
先にも述べたように、熱電性能を表すには、性能指数Z=S2/ρκ、または、S2/ρが用いられる。今回、κは測定されていない(通常は測定が難しい)のでS2/ρを指標とする。代表的な層状コバルト酸化物NaCo2O4に較べ、今回のCaCo2O4のS(ゼーベック係数)は約1.5培(S2は約2倍)であるが、ρ(電気抵抗率)は約2−3桁高い。
結果的にS2/ρは2−3桁程度低くなってしまい、このままでは熱電材料としては利用できない。Sは優っているので、ρを如何に下げるかが改善のポイントとなる。(注:NaCo2O4とCaCo2O4の組成比は似通っているが、結晶構造が異なる全く別の相である。前者は、非特許文献1ではNaCo2O4の表記が用いられていたが、最近はNa0.7Co2O4の方が、通常、用いられることが多い。)
今回測定に用いた試料は多結晶体(セラミクス)試料である。多結晶試料は、多数の細かい(通常数ミクロン程度の大きさ)の単結晶グレインが集合して焼き固められたものである。このため、電気伝導においてはグレイン境界での散乱が大きくなり、電気抵抗率の絶対値は大きくなる。単結晶を用いればグレイン散乱は無くなるので、電気抵抗率は大幅に(恐らく桁違いに)減少する。実際に、非特許文献1におけるNaCo2O4の小さい電気抵抗率は単結晶を用いて得られた値である。これに対し、非特許文献2におけるCa3Co4O9の電気抵抗率は多結晶試料の場合の値であり、今回のCaCo2O4多結晶試料との比較が可能である。
CaCo2O4における高い熱起電力の発生原因は、コバルト原子のt2g電子軌道の縮体と電子相関とにあることが推測される。いずれにしても、CoO6八面体が構成する二重鎖のネットワークが構造的に重要であることは間違いない。この構造部分を保持したままキャリア(ホール)を注入すれば、高い熱起電力をほぼ維持したままで電気抵抗が下がることが予想できる。具体的には、Ca2+イオンをNa+やK+, Rb+などの1価のアルカリ金属で部分置換(恐らく、10%前後)すればホールが注入され、抵抗は1−2桁程度下がることが期待される。このとき、熱起電力も少し下がる可能性はあるが、Co t2g軌道の縮体とそれによる残留エントロピーは保持されるので、僅かな下がりに抑えられると予想される。
現在では、NaRh2O4などの物質でSが報告されているが、Sの値は小さい。
(K. Yamaura, Q. Qingzhen Huang, M. Moldovan, D. P. Young, A. Sato, Y. Baba, T. Nagai, Y. Matsui, and E. Takayama−Muromachi, Chem. Mater. 17 (2005) 359.)
近年、コンピュータの CPU (中央演算素子)や赤外線検出器の冷却用としてペルチェ素子の需要が高まっている。今後、CPU の演算処理速度の上昇にともない発熱量も大きくなるため、新熱電材料の開発も含めた高性能の熱電素子の開発は急務であると考えられる。さらに、高い熱電効率を持つ電子材料の開発は、コンプレッサー不要の高効率熱電冷却冷蔵庫の実現、熱電変換による自動車の排気ガスやエンジンの廃熱、あるいはプラントから発生する廃熱からの電力への変換等、新たな応用の可能性を広げ、熱電技術全体の発展に多大な寄与をもたらすと考えられる。
また、熱電材料を用いたエネルギー変換は環境に優しいということがあげられる。冷蔵庫やクーラーなどでは、環境負荷の高いフロンをもちいて冷却を行っている。熱電材料を使えば当然、フロンレスの冷却機が実現できる。
このように、熱電変換材料は 21 世紀のエネルギー・環境問題を考える上でもきわめて重要と思われる。
Claims (1)
- コバルト酸化物よりなる熱電変換材料であって、CaFe2O4(カルシウム・フェライト)型構造を有し、そのFeがCoに置換されてなることを特徴とする熱電変換材料。
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