JP2004057042A - 食肉改質剤 - Google Patents

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中島 昭男
Masayuki Nakazato
中里 昌幸
Hiroshi Iyama
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Abstract

【課題】加熱調理しても硬くならず、柔らかく、肉汁感に富む食肉が美味しい食肉とされているが、このような美味しい食肉は市販の食肉中それほど多くはなく、市販されている多くの食肉は硬く、脂分、肉汁感に乏しいものである。このため、改質剤によって食肉を改質する方法が種々提案されているが、いずれも食肉の改質効果が充分とは言えず、食肉を加熱調理すると柔らかさや肉汁感が失われるという欠点があった。本発明は脂分が少なくて硬い、肉汁感に乏しい食肉を、適度に柔らかくて肉汁感に富み、脂分の旨味を備えた食肉に改質することができる優れた食肉改質剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の食肉改質剤は、食用油脂の水中油型乳化物中に、ポリグリセリン脂肪酸エステル、pH調製剤を含むことを特徴とする。本発明において、pH調製剤としては、酢酸、乳酸、クエン酸、炭酸アルカリ金属塩、炭酸水素アルカリ金属塩が好ましい。
【選択図】 なし。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は食肉改質剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、柔らかく、肉汁に富み、脂がのった食肉が美味しい食肉として好まれている。市販されている食肉のうち上記の如き美味しい食肉に相当するものは、牛肉では主として黒毛和牛に代表される限られた品種の牛から得られた一部のものに過ぎず、市販の多くの牛肉は乳用種や牧草肥育された海外畜肉用種で、これらの肉は硬く、肉汁に乏しいものである。また、鶏ムネ肉は脂身が少なく、硬く、肉汁に乏しく、牛豚の肩やモモ、産卵後の魚肉等は硬く脂分が少ない。このため柔らかく、肉汁に富んだ鶏モモ肉、脂がのった牛霜降り肉等が美味しい食肉として好まれている。
【0003】
従来より、硬くて肉汁の乏しい食肉を、柔らかく、肉汁に富んだ美味しい食肉に改質する試みは数多く行われている。例えば、(1)食肉をカルシウム含有液に浸漬した後、重合リン酸塩含有液に浸漬して処理する方法(特許第2568946号)、(2)食肉に油脂を直接注入する方法(特開昭60−41467号)、(3)食用油脂にポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を配合した組成物あるいはこれに更に蛋白加水分解物、発酵調味液、酵母エキス等を配合した組成物を魚肉に混合する方法(特開2000−60495号)、(4)油脂の乳化物を食肉に注入する方法(特開昭58−89161号、特開昭59−162853号、特開2000−157218号)等が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記の方法は、いずれも充分な改質効果は望めず、加熱調理すると硬くなって、肉汁が不足し、食感が低下する等の問題があった。更に、重合リン酸塩含有液に浸漬処理する方法では、体内のカルシウムを排出する作用を有する重合リン酸塩が人体に悪影響を及ぼす虞れがあった。また油脂や乳化剤を配合した油脂を食肉に注入する方法では、油脂が食肉中に局在化して脂っこい食感となり易いという問題があった。一方、油脂の乳化物を食肉に注入する方法では脂っこい食感を生じる虞れは少ないものの、油脂乳化物からなる従来の食肉改質剤は、食肉の細部まで吸収され難いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、硬く肉汁感に乏しい食肉を、柔らかく脂分、肉汁感に富んだ食肉に改質することのできる食肉改質剤を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明の食肉改質剤は、食用油脂の水中油型乳化物中に、ポリグリセリン脂肪酸エステル、pH調製剤を含むことを特徴とする。本発明においてpH調製剤としては、酢酸、乳酸、クエン酸、炭酸アルカリ金属塩、炭酸水素アルカリ金属塩などを使用することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において、食用油脂としては例えば、ナタネ油、大豆油、パーム油、コーン油、ヤシ油、綿実油、紅花油、ヒマワリ油、落花生油、牛脂、豚脂、鶏油、乳脂、魚油等の動植物性天然油脂、脂肪酸とグリセリンとから得られる中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、あるいはこれら油脂の分別油、硬化油、エステル交換油等が挙げられる。これらの食用油脂は1種又は2種以上を用いることができる。
【0008】
本発明の食肉改質剤は上記食用油脂が水中油型に乳化した乳化物であり、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを必須として含有している。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、グリセリン重合度2〜12のものが好ましい。また脂肪酸としては炭素数8〜22の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が好ましく、炭素数8〜22の飽和脂肪酸としては、例えばカプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等が挙げられる。また不飽和脂肪酸としては、ミリストオレイン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルシン酸、リシノール酸等が挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン重合度の異なる2以上のポリグリセリンを構成成分として含んでいても良い。また構成脂肪酸成分として、2以上の飽和脂肪酸を含んでいても、2以上の不飽和脂肪酸を含んでいても良く、また1以上の飽和脂肪酸と1以上の不飽和脂肪酸とを含んでいても良い。
【0009】
本発明の食肉改質剤は、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルとともに、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤の1種又は2種以上を併用することができる。
【0010】
本発明においてpH調製剤としては、アジピン酸、イタコン酸、クエン酸、グルコン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、乳酸、酢酸、フィチン酸、フマル酸、リンゴ酸、こうじ酸、梅酢、果汁、穀物酢、ばくが酢、ぶどう酢、米酢、りんご酢、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム等の炭酸アルカリ金属塩、炭酸水素カリウムや炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素アルカリ金属塩、クエン酸三ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、焼成カルシウム、イナワラ灰抽出物、木灰抽出物、生石灰、グルコノデルタラクトン等が挙げられる。これらのうち酢酸、乳酸、クエン酸、炭酸アルカリ金属塩、炭酸水素アルカリ金属塩が好ましい。
【0011】
本発明の食肉改質剤中における上記食用油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、pH調製剤、水の好ましい割合は、食用油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、pH調製剤、水の合計を100重量%としたとき、食用油脂2〜50重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜10重量%、pH調製剤0.01〜5重量%、水35.0〜97.89重量%であり、更に好ましくは食用油脂3〜25重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜5重量%、pH調製剤0.01〜2重量%、水68.0〜96.89重量%である。食用油脂が2重量%未満の場合、食肉改質効果が得られにくく、50重量%を超えると食肉への浸透が抑制される傾向がある。またポリグリセリン脂肪酸エステルが0.1重量%未満の場合には乳化安定性が悪くなる虞れがあり、10重量%を超えると本発明の改質剤によって食肉を処理する際に泡立ち易くなり食肉への処理剤の吸収が阻害される虞れがある。一方、pH調製剤が0.01重量%未満では、食用油脂を2〜50重量%含んでいても食肉改質効果が不十分となり易く、5重量%を超えると酸味やエグ味とよばれる味が強く出て食肉の味を変質する虞れがある。
【0012】
本発明の食肉改質剤には、本発明の所期の目的を阻害したり健康上の問題を生じない範囲において、タンパク質分解酵素等の公知の食肉改質剤を含有しても良い。また食塩、醤油、砂糖、動植物エキス、タンパク質加水分解物等の食用調味料、保存料等の添加物を含有していても良い。
【0013】
本発明の食肉改質剤は、例えば水又は食用油脂にポリグリセリン脂肪酸エステル、pH調製剤を添加して水相及び油相とし、水相を撹拌しながら油相を徐々に添加して乳化する等の方法により得ることができる。水相に油相を添加し乳化する際の撹拌装置としては、乳化が可能なものであれば、いかなる撹拌装置も使用することができるが、TKホモミキサー、高圧ホモジナイザーが好ましい。本発明の食肉改質剤において、乳化分散している食用油脂粒子の50%以上が粒径1μm以下であることが好ましい。食用油脂粒子の50%以上の粒径を1μm以下とするには、例えば高圧ホモジナイザーによる乳化分散等の方法が挙げられる。
【0014】
本発明の食肉改質剤による改質の対象となる食肉としては、例えば生又は冷凍解凍した牛肉、豚肉、馬肉、羊肉、兎肉、鶏肉、七面鳥肉、がちょう肉、鴨肉等の獣鳥肉類、鮭、鰹、かじき、鮪、鯖、秋刀魚、ほっけ等の魚肉類が挙げられ、これらのうちの比較的油分の少ない部位が好適である。
【0015】
本発明の改質剤は、食肉100g当たり改質剤含浸量が5〜400gとなるように使用することが好ましく、20〜100gとなるように使用することがより好ましい。食肉100g当たりの改質剤の含浸量が5g未満であると、食肉を柔らかくする効果、肉汁に富んだ脂分の旨味を有する食感への向上効果が不十分となる虞れがある。また400gを超えると、改質剤の臭気や味の影響が強くなり食肉の味を変質する虞れがある。
【0016】
本発明の改質剤によって食肉を処理する方法としては、食肉と本発明改質剤とを真空タンブラー等で10〜60分程度振とうして食肉に改質剤を浸透させるタンブラー法、食肉に直接本発明改質剤を注入するインジェクション法、本発明改質剤中に食肉を浸漬して、数10分ないしそれ以上の時間静置して改質剤を食肉中に吸収させる浸漬法等を採用することができる。
【0017】
本発明の食肉改質剤により、脂分が少なく肉汁に乏しい硬い食肉が、柔らかく脂分、肉汁に富んだ食肉に改質される理由は定かではないが、pH調製剤の作用により食肉の微細な筋繊維同士が静電反発して広がり、油脂が食肉組織の細部まで吸収され易くなるためではないかと考えられる。
【0018】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜4、比較例1〜3
水中油型に乳化した改質剤(改質剤A〜E)及び油脂に乳化剤を添加しただけの改質剤(改質剤F)、水にpH調製剤を添加しただけの改質剤(改質剤G)を調製した。各改質剤の組成を表1に示す。
【0019】
【表1】
Figure 2004057042
【0020】
豪州産牛モモ肉100g、表2に示す改質剤50gを、タンブラー(600mmHgまで吸気)により30分間振とうして処理した。処理後のモモ肉を200℃のホットプレートで片面につき5分間づつ焼いた後、食感を評価した。結果を表2にあわせて示す。尚、改質剤で処理してない他は実施例1〜4と同様に調理した牛モモ肉の食感を参考例として表2に示す。
【0021】
【表2】
Figure 2004057042
【0022】
表2における肉汁感、美味しさ、柔らかさの食感評価は、調理した肉を10人のパネラーが試食し、それぞれ3段階で評価し、評価を選択したパネラーの数で示した。
【0023】
実施例5〜8、比較例4〜6
中国産鶏ムネ肉100g(20gの切り身5個)を、表3に示す改質剤100g中に浸漬し、5℃の冷蔵庫中に18時間静置した後、バッター液(日本食研株式会社製、とり唐揚げの素No.1)を付け、170℃のナタネ油で4分間フライした。調理後の肉の食感を実施例1〜4と同様に評価した。結果を表3にあわせて示す。
【0024】
【表3】
Figure 2004057042
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の食肉改質剤は、硬く、脂分、肉汁感に乏しい食肉を効果的に改質することができ、本発明の改質剤で処理した食肉は、加熱調理しても硬くなったり、肉汁が不足することがなく、柔らかく、脂分、肉汁感に富み、かつ呈味性に優れた美味しい食肉となる効果を有する。

Claims (2)

  1. 食用油脂の水中油型乳化物中に、ポリグリセリン脂肪酸エステル、pH調製剤を含むことを特徴とする食肉改質剤。
  2. pH調製剤が、酢酸、乳酸、クエン酸、炭酸アルカリ金属塩、炭酸水素アルカリ金属塩より選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の食肉改質剤。
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