JP2004051489A - アクリル酸の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】接触気相酸化工程、アクリル酸含有ガス捕集工程、水および低沸点物質除去工程、高沸点物質除去工程およびアクリル酸オリゴマー熱分解工程を含むアクリル酸製造方法において、重合防止剤をアクリル酸含有溶液と共に蒸留塔の原料供給段および還流液供給段以外に投入し、該オリゴマー分解液に含まれるアクリル酸を脱水工程に供給し、またはオリゴマー熱分解溶液に含まれるマレイン酸濃度を5質量%以下とする。本発明によれば、アクリル酸を有効利用でき、製造効率を向上することができる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、接触気相酸化反応によって得たアクリル酸含有ガスを水捕集し、次いで低沸点物質および高沸点物質を除去し、除去工程で得た高沸点物質含有溶液に含まれるアクリル酸オリゴマーを熱分解する工程を含むアクリル酸製造方法において、より効率的に重合を防止しかつ生産性を向上させた、アクリル酸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリル酸は、アクリル繊維共重合体用、あるいはエマルションとして粘接着剤に用いられる他、塗料、繊維加工、皮革、建築用材等として用いられ、その需要は拡大している。このため、安価な原料を使用して大型化を可能とし、プロピレン等の接触気相酸化反応によって製造されることが一般的である。接触気相酸化反応ではアクリル酸のほかに低沸点物質、高沸点物質等が副生するため、各種の工程によってこれらを分離除去し、アクリル酸を精製している。
【0003】
例えば、特開平9−157213号公報には、プロピレン等を接触気相酸化して得た混合ガスをアクリル酸捕集塔に導き、アクリル酸、酢酸および難水溶性の溶剤を含有する水性捕集溶剤と接触させてアクリル酸水溶液を得て、該アクリル酸水溶液を共沸分離塔で脱水して塔底から実質的に酢酸、水および難水溶性の溶剤を含まないアクリル酸を得る一方、塔頂から酢酸、アクリル酸、水および難水溶性の溶剤からなる混合物を留出させ、該留出混合物を貯槽において実質的に溶剤のみからなる有機相とアクリル酸、酢酸、溶剤および水からなる水相に分離し、該有機相は共沸分離塔で循環する、アクリル酸の製造方法が開示されている。
【0004】
一方、このような精製工程で排出される溶液、排ガスなどには、原料化合物、製品化合物その他の有用化合物が含まれる場合があり、製造効率を向上させるために製造工程に循環使用することが行なわれている。
【0005】
例えば、特開平11−012222号公報には、アクリル酸二量体およびマレイン酸を含むアクリル酸からアクリル酸を回収する方法であって、上記アクリル酸二量体およびマレイン酸を含むアクリル酸をアクリル酸回収塔に導入し、塔頂からアクリル酸を留出させて回収し、一方、該アクリル酸回収塔からの缶液(A)を熱分解槽に導入して缶液(A)中のアクリル酸二量体を分解し、次いで上記熱分解槽からの缶液(B)の少なくとも一部をアクリル酸回収塔に循環することを特徴とするアクリル酸の回収方法が開示されている。アクリル酸二量体とマレイン酸とを有効利用するものであり、分解生成物のアクリル酸をアクリル酸回収塔に循環して製品アクリル酸を得ている。
【0006】
一方、アクリル酸は易重合性化合物であり、アクリル酸の捕集工程、その後の精製工程においてアクリル酸重合物が発生しやすくなる。このため、各種精製塔では蒸留圧力、温度、供給液量などを調整して重合の発生を防止しつつアクリル酸を製造している。
【0007】
例えば、特開2000−355570号公報には、蒸留装置を用いて易重合性化合物を蒸留する方法であって、蒸留装置内部に配設された構成部材に対して、該構成部材の周囲に存在する液と実質的に同一組成の液を、噴霧投入手段で供給することを特徴とする易重合性化合物の重合防止方法が開示されている。易重合性化合物が蒸留装置内部の構成部材表面で停滞すると重合が開始される点に鑑み、蒸留装置内部の構成部材表面で液体の滞留がないようにして蒸留を行なうと蒸留装置内での重合を効果的に防止できることを見出し、構成部材表面の全面にわたって構成部材の周囲に存在している液と実質的に同一組成の液を散布することにしたものである。同一組成の液とは、フィード液、塔内からの抜き出し液、還流液、ボトム循環液(精製液)等であり、更にこの液を水、アルコール、共沸溶剤、抽出溶剤などで希釈して低濃度にしたものが使用できる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、アクリル酸は易重合性化合物であり、アクリル酸の捕集工程、その後の精製工程においてアクリル酸重合物が発生しやすくなる。各種精製塔では蒸留圧力、温度、供給液量などを調整して重合の発生を防止しつつアクリル酸を製造するが、温度変化によって圧力や濃度も同時に変化するため、その制御は容易でない。その一方、アクリル酸重合物の発生によって製品収率も低下する。
【0009】
また、アクリル酸の精製工程では、アクリル酸重合体のほか接触気相酸化反応で発生する副生成が蒸留塔などに付着し、該付着物の発生によって装置が閉塞する等の弊害も発生し、アクリル酸の長期安定製造を損ねる場合もある。
【0010】
また、高沸点物質を分離した後の高沸点物質含有溶液には、アクリル酸二量体のほかに、いわゆるアクリル酸のミカエル型付加物が存在し、アクリル酸製造プロセスの原料効率を低下させる原因となり、プロセス内にミカエル型付加物が蓄積されると精製工程や製造工程にも大きな支障を与え、温度の上昇や副生物の発生によって製品の品質を劣化させる場合もある。その一方、該化合物をアクリル酸として回収すると、アクリル酸の品質を低下させる場合がある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、接触気相酸化反応によって得たアクリル酸含有ガスを、水捕集、低沸点物質分離、高沸点物質分離、アクリル酸オリゴマーの熱分解工程とを含むアクリル酸の製造方法において、(i)重合防止剤を蒸留塔の原料供給段および還流液供給段以外に投入する、または(ii)該オリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸を脱水工程に供給する、の何れかを行なうことでアクリル酸の製造効率が向上することを見出した。該アクリル酸の製造方法では、得られたアクリル酸からアクリル酸エステルを製造する工程を含めてもよく、またはアクリル酸を更に精製して高純度アクリル酸する工程を含めてもよい。更に、高純度アクリル酸を使用してポリアクリル酸(塩)を製造する工程を含ませることもできる。
【0012】
本発明では、特に、水捕集、低沸点物質分離、高沸点物質分離、アクリル酸オリゴマーの熱分解工程等の各工程間に、タンクおよび/または冷却器を設置して次工程供給物を冷却した後に次工程を行なうと、次工程移行までの重合物の発生を防止することができ、最終的な製造収率が向上する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の第一は、接触気相酸化させてアクリル酸含有ガスを得る工程、(b)該アクリル酸含有ガスを水性捕集溶剤で捕集してアクリル酸含有水溶液を得る工程、(c)該アクリル酸含有水溶液から水および低沸点物質を除去して粗アクリル酸を得る工程、(d)粗アクリル酸から高沸点物質を除去してアクリル酸と高沸点物質含有液を得る工程、および(e)該高沸点物質含有液に含まれるアクリル酸オリゴマーを熱分解してアクリル酸を回収する工程とを含むアクリル酸の製造方法において、(i)重合防止剤を蒸留塔の原料供給段および還流液供給段以外に投入する、(ii)該オリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸を脱水工程に供給する、の少なくともいずれかを行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法である。
【0014】
本発明において、「低沸点物質」とは、標準状態においてアクリル酸よりも沸点が低い物質をいい、「高沸点物質」とは、標準状態においてアクリル酸よりも沸点が高い物質をいう。
【0015】
また、「アクリル酸オリゴマー」とは、下記式[I]で示されるアクリル酸のミカエル型付加物をいう。
【0016】
【化1】
【0017】
(但し、式中、nは1〜5の整数を表し、−X−は−CH2CH2−または−CH(CH3)−を表す。但し、nが2以上の場合、複数の−X−は同一であっても異なっていてもよい。)
また、「ポリアクリル酸(塩)」とは、アクリル酸および/またはアクリル酸塩を単量体の主成分、より具体的には70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは実質的に100モル%含有する重合体である。このようなポリアクリル酸(塩)を用いて、水溶性ポリアクリル酸(塩)、吸水性樹脂を製造することができる。また、ポリアクリル酸塩としては、好ましくは一価塩、より好ましくはアルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。これらアクリル酸は他の単量体と共重合させてもよく、例えばアクリル酸(塩)単量体以外に0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤で架橋させたり、澱粉やポリビニルアルコールなどの他の親水性ポリマーにグラフト重合させてもよい。尚、水溶性ポリマーとは、水に実質的に100%溶解する重合体をいう。また吸水性樹脂とは、架橋構造を有した水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸(塩)をいう。
【0018】
本発明において、「蒸留塔」とは、その名称を問わず、捕集塔、吸収塔、脱水塔、共沸脱水塔、低沸点物質分離塔、高沸点物質分離塔、酢酸分離塔、精製塔、薄膜蒸発器など、沸点の差によって含まれる成分を分離するために使用される装置を広く含む。
【0019】
「精製」には、蒸留、放散、晶析、抽出、吸収等が含まれる。ここに、「蒸留」とは、溶液をその沸点まで加熱し含まれる揮発性成分を分離する方法であり、「放散」とは、放散ガスを供給して溶液中に溶解する気体または蒸気を気相に移す方法をいうものであり、「晶析」とは目的物を結晶として分離するものを意味するものとする。
【0020】
本発明の好ましい態様の一例を、図1を用いて説明する。
【0021】
本発明のアクリル酸の製造方法は、原料成分、不活性ガス、分子状酸素、水蒸気などを含む原料ガス1を接触気相酸化反応器10に供給して、原料を分子状酸素含有ガスで接触気相酸化反応する。具体的には、酸化触媒11を充填した多管式反応器等の反応器10に、原料ガスを供給する。例えば、原料成分としてプロピレンを酸化するとアクロレインが生成され、これを更に接触気相酸化反応してアクリル酸が得られる。使用する原料ガス、酸化触媒、不活性ガス、分子状酸素含有ガス、反応温度などのアクリル酸の反応条件は、従来公知のアクリル酸の反応工程の何れの条件でもよい。
【0022】
なお、原料ガスの組成は、1種または2種以上のプロピレン、プロパン、またはアクロレインなどの原料成分を濃度1〜15容量%、分子状酸素を原料成分に対して1〜3倍、残りは二酸化炭素、水蒸気等の不活性ガスとする。接触気相酸化反応を行う反応器は特に制限されないが、反応効率に優れる点で多管式反応器を好ましく使用することができる。アクロレインを原料成分として使用する場合には一段反応で、プロピレンを原料成分とする場合には、いわゆる二段接触気相酸化反応によってアクリル酸を製造する。二段接触気相酸化反応に使用する前段触媒、後段触媒も特に制限はない。
【0023】
前段触媒としては、プロピレンからアクロレインを製造するものであり、一般式Moa−Bib−Fec−Ad−Be−Cf−Dg−Ox(Mo、Bi、Feはそれぞれモリブデン,ビスマスおよび鉄を表し、Aはニッケルおよびコバルトから選ばれる少なくも一種の元素を表し、Bはアルカリ金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Cはリン、ニオブ、マンガン、セリウム、テルル、タングステン、アンチモンおよび鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Dはケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、a、b、c、d、e、f、gおよびxは、それぞれMo、Bi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子比を表し、a=12としたとき、b=0.1〜10、c=0.1〜10、d=2〜20、e=0.001〜5、f=0〜5、g=0〜30であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である)で示されるものが例示できる。
【0024】
また、後段触媒としては、アクロレインを含む反応ガスを気相酸化してアクリル酸を製造するものであり、一般式Moa−Vb−Wc−Cud−Ae−Bf−Cg−Ox(Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Aはアンチモン、ビスマス、スズ、ニオブ、コバルト、鉄、ニッケルおよびクロムから選ばれる少なくも一種の元素を表し、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Cはケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびセリウムから選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Oは酸素を表し、a、b、c、d、e、f、gおよびxは、それぞれMo、V、W、Cu、A、B、CおよびOの原子比を表し、a=12としたとき、b=2〜14、c=0〜12、d=0.1〜5、e=0〜5、f=0〜5、g=0〜20であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である)で示されるものが例示できる。反応器10から得られたアクリル酸含有ガスには、一般にアクリル酸10〜20質量%、酢酸0.2〜1.0質量%、水5〜15質量%の範囲で含まれている。
【0025】
接触気相酸化反応で得られたアクリル酸含有ガスをアクリル酸捕集塔20に供給する。反応工程で得たガス中に含まれるアクリル酸を水性捕集溶剤で捕集する工程であり、反応ガスのガス成分組成、水性捕集溶剤の組成、捕集温度等の捕集条件は、従来公知のアクリル酸の捕集工程の何れの条件をも適用することができる。アクリル酸含有ガスに未反応のアクロレインが含まれる場合には、蒸留や放散等によりアクロレインを除去した後にアクリル酸含有ガスをアクリル酸捕集塔20に供給してもよい。また、該ガスを冷却した後に捕集塔20に供給してもよい。ガス温度が低い方が捕集効率が向上するからである。
【0026】
捕集塔20は、棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の捕集塔を用いることができる。かかる捕集塔20は、通常、棚段塔または充填塔が好ましい。充填塔の場合には、その内部には表面積が大きく、通気性のある充填物が規則的にまたは不規則的に詰め込まれていて、充填物が詰め込まれた充填層の表面では気液の接触が行われる。
【0027】
該捕集塔20では、アクリル酸含有ガスを捕集塔20に導入し、一方、捕集塔20の上部からアクリル酸を吸収する捕集溶剤21を塔内に導入して前記ガスと向流接触させてアクリル酸を吸収させる。
【0028】
供給する捕集溶剤21としては水性捕集溶剤を使用する。安価であり、アクリル酸製造工程から排出される排水を再利用でき有利である。このような水性捕集溶剤としては、少なくとも水を80〜100質量%含有すればよく、例えばアクリル酸0.1〜5.0質量%、酢酸0.1〜10質量%、水80〜99.8質量%のものがある。捕集溶剤21は、予め上記の組成のものを調整して使用してもよく、例えば、共沸脱水塔30に付属させた油水分離器内水相32をアクリル酸の捕集溶剤21としてアクリル酸捕集塔に循環して使用することもできる。
【0029】
捕集溶剤21は、溶剤温度が低い方が捕集率が高く、は0〜35℃、特には5〜30℃の範囲で一定温度で供給することが好ましい。また、溶剤量は、供給ガス量(m3)に対する溶剤量(L)比で示される液ガス比が2〜15L/m3、好ましくは3〜12L/m3、更に好ましくは5〜10L/m3となるように設定される。アクリル酸と水との質量割合が50:50程度が最もアクリル酸の重合が発生しやすく、上記範囲で重合を防止しつつアクリル酸を効率的に捕集することができる。
【0030】
本発明では、捕集溶剤21にアクリル酸などの重合性物質の重合を防止するために、N−オキシル化合物、フェノール化合物、酢酸マンガン等のマンガン塩、ジブチルチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、ニトロソ化合物およびアミン化合物、フェノチアジンからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有することが好ましい。なお、ニトロソ化合物の中には、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンまたはその塩、例えばN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩、p−ニトロソフェノール、N−ニトロソジフェニルアミンおよびこれらのアンモニウム塩等のように蒸留塔の条件で該化合物が分解し、分解成分が易重合性物質に対する重合抑制効果を発揮する物質がある。本願における重合防止剤には、このように蒸留塔内で分解し、該分解物が重合抑制効果を有するものを含まない。
【0031】
N−オキシル化合物については特に制限はなく、一般にビニル化合物に重合防止剤として知られているN−オキシル化合物であればいずれも用いることができる。これらのなかでも、下記式(1)で表される2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル類:
【0032】
【化2】
【0033】
(ただし、式(1)中、R1はCH2、CHOH、CHCH2OH、CHCH2CH2OH、CHOCH2OH、CHOCH2CH2OH、CHCOOH、またはC=Oを示し、R2は水素原子またはCH2OHを示す)が好適に用いられる。N−オキシル化合物であれば特に限定されずに用いることができるが、良好な重合防止効果を与え得る2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4,4’,4”−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイトのうち1種または2種以上を用いることが好ましい。特に、N−オキシル化合物として2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、または4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシルを用いた場合には、成分中に金属を含まなくても安定剤系となるため、安定剤による設備の金属腐食の恐れがなくなり、廃液の処理も容易になる。
【0034】
本発明においては、N−オキシル化合物に加え、N−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物を併用することができる。
【0035】
N−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物の代表例としては、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどを挙げることができる。これらN−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物は単独でも、あるいは2種以上混合しても用いることができる。
【0036】
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なお、N−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物や2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物は、市販されるN−オキシル化合物製品中に不純物として含有される場合があるが、このような場合には市販のN−オキシル化合物の使用によって、併せてN−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物や2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物を併用したことになる。
【0037】
フェノール化合物としては、ハイドロキノン、メトキノン(p−メトキシフェノール)を挙げることができる。メトキノンは、特にN−オキシル化合物およびフェノチアジン化合物と組合せて使用した際の重合防止効果がハイドロキノンより優れているため好ましい。また、これらのフェノール化合物は2種を併用してもよい。
【0038】
フェノチアジン化合物としては、フェノチアジン、ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、ビス−(α−ジメチルベンジル)フェノチアジン等を挙げることができる。
【0039】
銅塩化合物としては特に制限されず、無機塩、有機塩のいずれであってもよく、様々なものを用いることができる。例えばジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、アクリル酸銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅などが挙げられる。これらの銅塩化合物は一価、二価のいずれのものも用いることができる。上記銅塩化合物の中では、効果などの点からジアルキルジチオカルバミン酸銅が好ましい。
【0040】
ジアルキルジチオカルバミン酸銅としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジプロピルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅、ジペンチルジチオカルバミン酸銅、ジヘキシルジチオカルバミン酸銅、ジフェニルジチオカルバミン酸銅、メチルエチルジチオカルバミン酸銅、メチルプロピルジチオカルバミン酸銅、メチルブチルジチオカルバミン酸銅、メチルペンチルジチオカルバミン酸銅、メチルヘキシルジチオカルバミン酸銅、メチルフェニルジチオカルバミン酸銅、エチルプロピルジチオカルバミン酸銅、エチルブチルジチオカルバミン酸銅、エチルペンチルジチオカルバミン酸銅、エチルヘキシルジチオカルバミン酸銅、エチルフェニルジチオカルバミン酸銅、プロピルブチルジチオカルバミン酸銅、プロピルペンチルジチオカルバミン酸銅、プロピルヘキシルジチオカルバミン酸銅、プロピルフェニルジチオカルバミン酸銅、ブチルペンチルジチオカルバミン酸銅、ブチルヘキシルジチオカルバミン酸銅、ブチルフェニルジチオカルバミン酸銅、ペンチルヘキシルジチオカルバミン酸銅、ペンチルフェニルジチオカルバミン酸銅、ヘキシルフェニルジチオカルバミン酸銅などが挙げられる。これらのジアルキルジチオカルバミン酸銅は、一価の銅塩であってもよく、二価の銅塩であってもよい。これらの中で、効果及び入手しやすいなどの点からジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅及びジブチルジチオカルバミン酸銅が好ましく、特にジブチルジチオカルバミン酸銅が好適である。
【0041】
マンガン塩化合物としては、ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン(アルキル基はメチル、エチル、プロピル、ブチルのいずれかで、同一であっても異なっていても良い)、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、蟻酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン、過マンガン酸マンガン、エチレンジアミン四酢酸のマンガン塩化合物等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0042】
本発明では、N−オキシル化合物、フェノール化合物、マンガン塩、ジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、ニトロソ化合物およびアミン化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物と、またはこれらの1種以上とフェノチアジンとを含有することが好ましい。もちろん、これら6種類の化合物の1種以上をフェノチアジン化合物と組合せて3成分以上の併用系としても、2成分系と同等もしくはそれ以上の重合防止効果が得られる。
【0043】
使用される重合防止剤の量は操作条件に応じて適宜調整され、特に限定はされない。しかし、用いられる重合防止剤の総量を捕集される反応ガス中のアクリル酸の質量に対して3〜3500ppm(質量基準)とするのが好ましい。個々の重合防止剤の好ましい使用量は、N−オキシル化合物は反応ガス中のアクリル酸の質量に対し1〜500ppm、マンガン塩化合物、あるいは銅塩化合物は反応ガス中のアクリル酸の質量に対し1〜200ppm、ニトロソ化合物の場合は1〜500ppm、フェノール化合物の場合は、1〜500ppm、フェノチアジン化合物の場合は1〜500ppm、N−ヒドロキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン化合物の場合は1〜500ppm、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物の場合は1〜500ppmである。
【0044】
本発明では、重合防止剤を溶媒に溶解した溶液、すなわち重合防止剤含有溶液として投与することが好ましい。重合防止剤含有溶液の供給場所や投与方法は特に限定されず、蒸留塔の原料供給段以外、還流液供給段以外であれば、捕集塔のいずれから投入してもよい。なお、捕集塔においては原料供給段とはアクリル酸含有ガス供給段を意味し、還流液供給段は捕集溶剤供給段である。重合防止剤を溶媒と混合して重合防止剤含有溶液を調整した後に供給すると、重合防止剤がアクリル酸捕集塔内で均一に分散されるので効果的である。このような溶剤としては、アクリル酸含有溶液があり、例えば、該アクリル酸捕集塔20で使用する捕集溶剤21にアクリル酸が含まれる場合には該捕集溶剤21を、または他の工程で得た粗アクリル酸の一部や、後記するアクリル酸オリゴマーを熱分解した後の溶液を、また、捕集塔の塔底液をアクリル酸含有溶液として使用することができる。該捕集塔20では、特にアクリル酸製造工程で使用する蒸気エゼクターからの廃液をアクリル酸含有溶液として使用することが好ましい。蒸気エゼクターからの廃液はアクリル酸を含有する水溶液であり、その組成比は捕集塔塔内の液組成と大差ないため、捕集塔内における吸収効率を低下させることないからである。捕集塔内のアクリル酸組成よりも使用するアクリル酸含有溶液のアクリル酸濃度が高い場合には、吸収効率の低下を引き起こしたり、重合を引き起こす場合がある。
【0045】
捕集塔20の条件は、ここに供給するアクリル酸含有ガスの温度や単位時間あたりの供給量、捕集塔体積などによって相違するが、一般には捕集塔の塔頂温度は、40〜85℃の範囲である。40℃より低いと冷却のための設備費や冷却エネルギーが必要となり不利である。また、アクリル酸より低い沸点を持つ物質の凝縮が多くなるため、捕集塔塔底液のアクリル酸純度を低下させる原因となる。一方、80℃を超えると捕集塔塔頂からのアクリル酸のロスが増加し、製品収率が低下する場合がある。
【0046】
捕集塔20の塔頂圧力は、0〜30kPa(ゲージ圧)の範囲である。0kPa(ゲージ圧)より低いと減圧装置が必要となり設備費やその他のエネルギー費がかかり、30kPa(ゲージ圧)より高いと接触気相酸化反応器へ原料ガスを供給するためのブロワーを大型化する必要があり、設備費その他のエネルギー費がかかるため、不利である。塔頂からの排出ガスは、反応器10に循環させると、希釈ガスや未反応原料成分などを有効利用できる。
【0047】
本発明では、上記調整によって、捕集塔における濡れ液量が塔断面積に対して0.3m3/m2・h以上、好ましくは1m3/m2・h以上の条件とすることが好ましい。「濡れ液量」とは、1枚の棚段上に供給される単位時間当たりの液量[m3]を塔断面積で割った値である。この条件を満たすと、捕集塔内を確実に濡らした状態とすることができ、濡れ液量が適切であるために、気液接触装置上に適切な量の液体が貯められるので、液体で濡らした状態と、気体や液体の偏流や滞留を回避する状態とを何れも確実に実現させることができる。
【0048】
捕集塔20の塔底液は、塔底部に附属させた冷却器(図示せず)によって塔底液を冷却した後に捕集塔に循環させ塔底液のアクリル酸濃度を増加させる。一般には、捕集塔20の塔底液、すなわちアクリル酸含有水溶液には、アクリル酸以外に、未反応状態で残存するプロピレン等の副生物、ホルムアルデヒド、アクロレイン、フルフラール、ベンズアルデヒド、蟻酸、酢酸、マレイン酸、アクリル酸オリゴマーなどの副生物、重合防止剤などの添加物が存在する。
【0049】
本発明では、次いで該アクリル酸含有水溶液を共沸脱水塔30に導き、共沸溶剤を供給して共沸蒸留する。本願では、上記アクリル酸含有水溶液を得る工程に次いで、タンクおよび/または冷却器を設置して次工程移行物を冷却した後に次工程を行なうことが好ましい。例えば、必要に応じアクリル酸含有水溶液を蒸留塔22に供給してアクロレインなどの低沸点物質を除去してから塔底液をポンプ23によって冷却器24に移送し、ここで冷却したアクリル酸含有水溶液をタンク25に貯蔵する。タンク25へ移送する前に冷却することで確実に液が冷却でき、高温部の滞留時間を減少することができ、オリゴマーの生成量を抑制することができるからである。なお、捕集塔塔底液は蒸留塔22を経ずにタンク25へ移送後、ポンプ23によって冷却器24に移送し、次いでタンク25に循環するとともに次工程へ液を移送してもよい。冷却器としては、従来公知の多管式熱交換器やプレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器などがある。蒸留塔22で除去できる低沸点物質は、共沸脱水塔30でも除去することができ、また他に設けた低沸点物質分離塔などによっても低沸点物質の分離を行なうことができるからである。この点で、本願におけるアクリル酸含有水溶液とは、共沸脱水塔または低沸点物質分離塔に移行する前の水を含むアクリル酸を広く含み、捕集塔塔底液とその後に蒸留した後の塔底液等が該当する。なお、タンク内のアクリル酸含有水溶液の冷却温度は20〜50℃とすることが好ましい。次いで、タンク25内のアクリル酸含有水溶液を共沸脱水塔30に供給する。
【0050】
共沸脱水塔30には、棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の塔を用いることができる。かかる共沸脱水塔30は、上記捕集塔20と同様に、通常、棚段塔または充填塔が好ましい。なお、共沸脱水塔30の好ましい理論段数は、3〜30段である。
【0051】
本発明で使用する共沸溶剤としては、ヘプタン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、キシレンおよびそれらの混合物より選ばれた少なくとも1種を含む溶剤;
ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ビニル、アクリル酸n−プロピル、酢酸アリル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸ビニル、プロピオン酸プロピル、クロトン酸メチル、吉草酸メチル、酪酸エチル、ジブチルエーテルおよびそれらの混合物よりなる群からから選ばれた少なくとも1種を含む溶剤;および
ヘプタン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、キシレンおよびそれらの混合物より選ばれた少なくとも1種を含む溶剤と、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ビニル、アクリル酸n−プロピル、酢酸アリル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸ビニル、プロピオン酸プロピル、クロトン酸メチル、吉草酸メチル、酪酸エチル、ジブチルエーテルおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む溶剤との混合溶剤を例示できる。
【0052】
更に好ましくは、ヘプタン、トルエンおよびそれらの混合物より選ばれた少なくとも1種を含む溶剤;メタクリル酸エチル、メチルイソブチルケトン、アクリル酸n−プロピル、酢酸n−ブチルおよびそれらの混合物より選ばれた少なくとも1種を含む溶剤;およびヘプタン、トルエンおよびそれらの混合物より選ばれた少なくとも1種を含む溶剤と、メタアクリル酸エチル、メチルイソブチルケトン、アクリル酸n−プロピル、酢酸n−ブチルおよびそれらの混合物より選ばれた少なくとも1種を含む溶剤が挙げられる。
【0053】
また、該共沸溶剤の使用量は、該共沸脱水塔に供給するアクリル酸含有水溶液に含まれる水分含量や、用いる共沸溶剤の種類によって定まるため、一義的には定義することができないが、共沸用途に用いる従来公知の割合で使用することができる。特に、アクリル酸の重合を防止する観点からは共沸溶剤量が多い方が好ましいが、多ければ蒸留エネルギーが多量に必要となるため不利となる。
【0054】
共沸脱水塔30の塔頂温度は、供給されるアクリル酸含有水溶液の水分量や混在する副生物量、単位時間あたりの供給液量、供給液温度、目的とする脱水の程度、分離すべき他の成分の種類や含有量、アクリル酸の精製工程に導入される蒸留塔の種類等によって好ましい条件を選択することができる。一般には、塔頂圧力20〜200hPa(abs.)であり、塔頂温度はこの操作圧力に応じた共沸組成で決定される。また、共沸脱水塔30には、油水分離器を配設して塔頂部からの留出物をこれに導入し、油相(共沸溶媒相)31と水相32とに分離し、油相31は共沸脱水塔30に還流比0.5〜10で還流し、水相32は捕集塔20に循環させて捕集溶剤21として使用すると、効率的である。これによって、共沸脱水塔30の塔底液は、水分量0.05質量%以下、酢酸濃度は、0.02〜3質量%の組成となる。
【0055】
共沸脱水塔30では、アクリル酸の好ましくない重合を防止する目的で、重合防止剤を適宜加えることが好ましい。重合防止剤としては、捕集塔20の項で記載した何れかのものを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
本発明では、重合防止剤をアクリル酸と共に供給することが好ましい。特に、蒸留塔の供給段より上部では水や溶剤は蒸発するがアクリル酸は蒸発せずに塔底側に移行するため、アクリル酸が存在するとこの中に重合防止剤も同伴され重合防止剤の析出を防止でき効果的と考えられる。なお、アクリル酸として後記するアクリル酸オリゴマーの熱分解物を使用するとアクリル酸の有効利用となり、製造効率を向上させることができる。特に、共沸脱水塔30に供給すると、製品の品質を向上させ、重合防止剤析出を防止できる点で好適である。すなわち、副生されるマレイン酸は水捕集すると水溶液中では有水マレイン酸の形で存在するが、蒸留操作を繰り返し加熱される内に無水化すると考えられる。従って、熱分解して回収したアクリル酸中にもこの無水化で生成した水分が含有される。このため、この水分を共沸脱水塔へ循環して脱水させれば、製品中の水分を低下させることができる。また、重合防止剤の析出も防止できるため有利である。なお、本発明によれば、共沸脱水塔の塔底におけるアクリル酸オリゴマー(アクリル酸二量体および三量体)の濃度を5重量%以下、好ましくは3重量%以下にして、製造効率をより向上させることができる。
【0057】
共沸脱水処理によってアクリル酸含有水溶液に含まれる水と低沸点物質が除去されるが、水分離工程と低沸点物質分離工程を別々に行なってもよい。一般には、脱水処理の後に、高沸点物質分離工程、その他従来公知の精製方法を単独または組み合わせて精製することができる。従って蒸留方法に限らず、晶析してアクリル酸を精製してもよい。精製工程の選択の幅が広いため、本発明では、アクリル酸含有水溶液から水と低沸点物質とを除去したものを粗アクリル酸と称し、これを高沸点物質分離工程に移行させる。
【0058】
本発明では、共沸脱水工程および/または低沸点物質分離工程と高沸点物質分離工程との間に、冷却器またはタンクに配置して粗アクリル酸を冷却することが好ましい。例えば、粗アクリル酸を塔底液をポンプ34によって冷却器35に移送し、ここで冷却した粗アクリル酸をタンク36に貯蔵する。タンク25への移送と同様に、冷却によって確実に液が冷却でき、高温部の滞留時間を減少することができ、オリゴマーの生成量を抑制することができるからである。なお、タンク36内の粗アクリル酸の冷却温度は20〜50℃とすることが好ましい。また、冷却器としては、従来公知の多管式熱交換器やプレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器などを使用することができる。次いで、タンク36内の粗アクリル酸を高沸点物質分離塔40に供給する。高沸点物質分離塔40は処理液を加熱してアクリル酸を蒸留塔の塔頂部から留出させる工程であり、熱効率的には供給液の温度が高い方が好ましい。しかしながら、粗アクリル酸は高温になるほどオリゴマー生成速度が大きくなり、重合の危険性も増大し、または高沸点物質分離塔内で重合物を発生しやすくなり最終的なアクリル酸の収率が低下し、重合物の発生によって連続運転に支障が生ずる場合がある。一方、20℃を下回ると、凝固点に近づき凍結の危険性、高沸点物質除去工程での加熱量が増加して不利となる。そこで本発明では、重合物の発生量と熱効率とから最終的な製造率を比較考量し、次工程間で処理液を冷却することにした。本発明では特に、共沸脱水処理と高沸点物質処理との間で処理液を冷却すると最も収率を向上させることができる。
【0059】
高沸点物質分離塔40としては、棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の塔を用いることができる。かかる高沸点物質分離塔は、上記共沸脱水塔と同様に、通常、棚段塔または充填塔が好ましく塔内装物として充填物・棚段がありいずれでもよい。また、理論段数は3〜30段であることが好ましく,より好ましくは5〜20段である。
【0060】
高沸点物質分離塔40の蒸留条件は、従来公知の蒸留条件で蒸留することができ、例えば、塔頂圧20〜200hPa(abs.)、塔底温度120℃以下で行うことができる。
【0061】
また、高沸点物質分離塔40でも上記共沸脱水塔30と同様に、アクリル酸の好ましくない重合を防止する目的で、重合防止剤を適宜加えることが好ましい。
【0062】
本発明では、重合防止剤の供給場所は、いずれの蒸留塔においても原料供給段以外、還流液供給段以外の場所から投入することが好ましい。より好ましくは原料供給段を越え、還流液供給段までの何れかから塔内組成に応じ重合防止剤を投与する。その方法としてアクリル酸含有溶液と共に、予め蒸留塔に配設した1以上の噴霧用ノズルで、噴霧化手段で供給することができる。噴霧によって蒸留塔内部に広範囲に重合防止剤含有溶液を散布することができ、効果的に重合を防止することができるからである。原料供給段、還流液供給段から投入する場合も、重合防止剤を原料、還流液とは別の専用の噴霧用ノズルで投入してすることもできるが、予め原料、還流液と重合防止剤を混合し、混合液を噴霧用ノズルで投入してすることもできる。なお、高沸点物質分離塔内ではアクリル酸濃度の変化が少ないため、原料供給段および還流液供給段以外から供給することもでき、原料供給段および/または還流液供給段から投入してもよい。この際、アクリル酸としては塔頂溜出液の一部を使用することが好ましい。高沸点物質分離塔はアクリル酸を得る装置であり、実質的に製品(エステル・高純度アクリル酸としての原料)と同品質である留出液を使用することで、製品品質が安定するためである。
【0063】
本発明では、高沸点物質分離塔40の塔頂部からアクリル酸を含有する留出ガスを得てこれを凝縮し、得られるアクリル酸含有凝縮液の少なくとも一部を共沸脱水塔30に供給してもよい。なお、一般には、該凝縮液は、エステル・高純度アクリル酸原料として使用される製品アクリル酸であり、塔底液には重合防止剤、アクリル酸オリゴマー、その他の高沸点物質が含まれる。本発明では、該塔底液を高沸点物質含有液と称し、これに含まれるアクリル酸オリゴマーを熱分解してアクリル酸を回収する工程を行なう。
【0064】
アクリル酸オリゴマーの熱分解は、熱分解槽51で行う。熱分解槽51の形式については特に制限はない。しかしながら、粘度が高く、場合によっては固形物の析出が見られ液性状が悪いため、液抜出口に向かって傾斜をもち、タンク内での組成が均一化できるよう液循環および/または攪拌機を設置したものが好ましい。また、熱分解によって得られる分解液に含まれるマレイン酸濃度を5質量%以下、好ましくは0〜3質量%、より好ましくは0〜1質量%とする。マレイン酸は容易に異性体であるフマル酸に変換し融点の高いフマル酸が固形物となって析出するためマレイン酸量を5質量%以下に制限したものである。
【0065】
このような分解液を得るには、該分解槽51上部にマレイン酸分離塔46などの蒸留設備を設置することが好ましい。高沸点物質含有液をマレイン酸分離塔46に供給し、その塔底液を薄膜蒸発器50で濃縮し、次いで熱分解槽51でオリゴマーを分解する。なお、熱分解槽51から得た液を再度薄膜蒸発器50で濃縮し、熱分解して得られたアクリル酸を回収する。なお、該薄膜蒸発器50内ではアクリル酸が蒸発するため、マレイン酸分離塔46の塔頂部から該アクリル酸を回収することもできる。
【0066】
マレイン酸分離塔46は理論段数が1〜10段、好ましくは1〜5段であって、塔頂圧力10〜150hPa(abs.)、塔底温度120℃以下で蒸留することが望ましい。薄膜蒸発器50は、高粘度液であっても濃縮ができる点で、多管式熱交換器より好ましい。形式は横型・竪型の何れであっても構わない。
【0067】
また、熱分解槽51における熱分解温度は通常120〜220℃であり、特に120℃〜160℃範囲が好適である。滞留時間(熱分解槽保有液量/廃油量)は熱分解温度により異なるので一概に特定はできないが、通常20〜50時間程度が必要である。このため、熱分解槽51には加熱手段が必要となるが、槽に外套および/または内部(または外部)熱交換器を設置し、蒸気、オイル等の熱媒を用いて分解温度を維持すればよい。
【0068】
また、本発明では、マレイン酸分離塔46、薄膜蒸発器50や熱分解槽51における熱分解に際して、該高沸点物質含有液に重合防止剤を添加してもよい。効率的に重合が防止できかつ熱分解が促進される場合がある。このような熱分解促進作用のある重合防止剤としては、上記したもののうち、4,4’,4”−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイトならびに下記式(1)で表される2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル類:
【0069】
【化3】
【0070】
(ただし、式(1)中、R1はCH2、CHOH、CHCH2OH、CHCH2CH2OH、CHOCH2OH、CHOCH2CH2OH、CHCOOH、またはC=Oを示し、R2は水素原子またはCH2OHを示す)で示す化合物の1種または2種以上、N−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物、例えば、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の1種以上を併用することができる。
【0071】
本発明では、該オリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸を脱水工程に供給することが好ましい。上記したように、次工程以降で含まれる水などの不純物を精製することができ、かつ重合防止剤の有効利用となるからである。すなわち、製品中の水分を低下させ製品品質の向上および重合防止剤の析出防止の両面で好適である。
【0072】
なお、高沸点物質分離塔40の塔頂から留出するアクリル酸は、これをアクリル酸エステル製造プロセスに供給することでアクリル酸エステルを製造することができる。
【0073】
以下に、本発明の態様の一例としてアクリル酸からアクリル酸エステルを製造する方法を説明する。
【0074】
触媒として強酸性陽イオン樹脂を充填させたエステル化反応器60に、高沸点物質分離塔40で得たアクリル酸を供給し、アルコールその他を該反応器60に仕込みエステル化物を生成する。次いで、該反応液を酸分離塔80に導入し、塔頂からアクリル酸エステル、未反応アルコール、水などの軽沸点物質を留出させる。次いで、酸分離塔80の塔頂からの留出物を油水分離器に導入させ、アクリル酸エステルを含む油相81と水やアルコール等を主成分とする水相82とに分離させる。該水相82を水分離塔70塔頂留出物の油水分離器内水相72と同様にアルコール回収塔90に移送すると共に、該油相81を軽沸物分離塔100に供給する。この際該油相81の一部は、酸分離塔80に還流してもよい。一方、軽沸物分離塔100では、塔底からはアクリル酸エステルを抜き出し精製塔110へ供給し、塔頂からアクリル酸エステル製品111を留出させる。なお、アルコール回収塔90の塔頂から留出させたアルコールは、酸分離塔80に附属するから油水分離器内油相81に循環させてもよい。また、軽沸物分離塔100の塔頂から留出した水、アルコールその他の軽沸点物質は、エステル化反応器60の上部に備えた蒸留塔を介してエステル化反応器60に循環させる。
【0075】
このようなアクリル酸エステルの製造工程において、酸分離塔80の塔底液には、アクリル酸等の原料成分と共に、アクリル酸二量体やアクリル酸二量体のエステル、下記式[II]で示されるアルコキシプロピオン酸及びアルコキシプロピオン酸エステル等のミカエル型付加物が含まれている。
【0076】
【化4】
【0077】
(但し、式中、mは1〜5の整数を表し、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表し、−X−は−CH2CH2−または−CH(CH3)−を表す。但し、mが2以上の場合、複数の−X−は同一であっても異なっていてもよい。)
そこで、図1に示すように酸分離塔80の塔底液をエステル化反応器60に循環させてもよく、または別個に設けた薄膜蒸発器および分解槽(図示せず)に供給して含まれるアクリル酸オリゴマーを分解してもよい。該塔底液に含まれる成分が分解され、薄膜蒸発器への導入によってアルコール、アクリル酸、アクリル酸エステルとなるため、これを例えば再度エステル化反応器60に導入すれば、成分の有効利用となる。なお、該塔底液の分解においても、上記したN−オキシル化合物等を添加することで、分解反応を促進することができる。
【0078】
なお、アクリル酸エステルの製造方法としては、アクリル酸とアルコールとを脱水反応させてエステルを得る方法であって、好ましいアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、イソノニルアルコール、ラウリルアルコールなどの各種アルコールを挙げることができ、これらは直鎖状のものであっても分岐を有するものであってもよい。また、これらは1種を単独で使用する場合に限られず、2種以上を併用する場合であってもよい。なお、上記各工程の反応条件、蒸留条件などは公知の条件を採用することができる。
【0079】
一方、高沸点物質分離塔40から得たアクリル酸は、蒸留塔などによって更に精製し、高純度アクリル酸を得ることができる。例えば、アクリル酸にヒドラジンヒドラート、フェニルヒドラジンなどの公知の1級アミンおよび/またはその塩を含有アルデヒド1モルに対し1.0〜10.0モルより好ましくは1.0〜5.0モルを添加し、処理剤添加後に公知の蒸留塔等で減圧蒸留してもよい。例えば、ミストセパレータ付きのフラッシュカラムで塔頂圧10〜150hPa(abs.)、塔頂温度35〜90℃で蒸留する。この処理によって、フルフラール、アクロレイン、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類を10質量ppm以下にすることができる。また、晶析装置を用い、同等の高純度アクリル酸を得ることもできる。アクリル酸から吸水性樹脂を製造すると、その用途によって臭気や皮膚への刺激が好ましくない場合があり、このような精製後の高純度アクリル酸を使用することが好ましい。本発明では、このようにして得られた高純度アクリル酸をポリアクリル酸(塩)製造工程120に供給してポリアクリル酸(塩)を製造し、得られるポリアクリル酸(塩)を使用して更に吸水性樹脂等を製造することができる。
【0080】
本発明では、高純度アクリル酸からポリアクリル酸を製造する際にも、該精製アクリル酸をポンプ42によって冷却器43に移送し、ここで冷却したアクリル酸をタンク44に貯蔵することが好ましい。冷却によって確実に液が冷却でき、高温部の滞留時間を減少することができ、オリゴマーの生成量を抑制することができるからである。タンク内のアクリル酸の冷却温度は20〜50℃とすることが好ましい。
【0081】
ポリアクリル酸(塩)製造工程120としては、該アクリル酸を中和工程121、重合工程122、乾燥工程123、冷却工程124に順次導入して所望の処理を施すことによってポリアクリル酸(塩)を製造することができる。なお、アクリル酸を中和しない場合には、ポリアクリル酸が得られ、該中和工程は任意である。また、各種物性の改善を目的として所望の処理を施してもよく、例えば重合中、或いは重合後に架橋工程を介在させてもよい。
【0082】
中和工程は任意の付加工程であるが、例えば所定量の塩基性物質の粉末や水溶液とアクリル酸や、得られたポリアクリル酸(塩)とを混合する方法が例示され、公知の方法を採用すればよく特に限定されない。尚、中和工程は重合前(モノマーで中和)、または重合中、或いは重合後(ゲルで中和)のいずれで行なってもよく、また重合前後の両方で行なってもよい。尚、図示例では中和後、重合を行なう工程を示すが、重合後、中和を行なう場合、装置の構成も工程に併せて適宜変更すればよい。また重合装置と中和装置は同一装置であってもよく、異なる装置であってもよい。
【0083】
アクリル酸の中和に用いられる塩基性物質としては、例えば炭酸(水素)塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミンなどの公知の塩基性物質を適宜用いればよい。またアクリル酸の中和率についても特に限定されず、任意の中和率、例えば30〜100モル%、好ましくは50〜80モル%の任意の値となる様に調整すればよい。尚、中和時の反応熱を除去する必要がある場合は、任意の冷却手段、例えば任意の冷水塔などの冷却装置に導入すればよい。
【0084】
必要により、中和後、該アクリル酸塩溶液を重合工程に導入するが、該工程での重合方法は特に限定されず、ラジカル重合開始剤による場合、放射線重合、電子線重合、光増感剤による紫外線重合など公知の重合方法を用いればよい。尚、重合工程ではアクリル酸を必要に応じて中和し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であって、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下の温度のアクリル酸(塩)水溶液として重合することが望ましい。
【0085】
本発明においては重合開始剤、重合条件など各種条件については任意に選択できる。必要に応じて架橋剤や他の単量体、更には水溶性連鎖移動剤や親水性高分子など公知の添加剤を添加してもよい。また重合工程には任意の容器や装置を用いればよく、通常用いられている重合装置であれば特に限定されない。
【0086】
重合後のポリアクリル酸(塩)は、通常、含水ゲル状重合体であり、水分を除去するために更に乾燥工程に付される。乾燥方法としては特に限定されず、熱風乾燥機、流動層乾燥機、ドラムドライヤー、ナウター式乾燥機など公知の乾燥装置を用いて、適宜所望の乾燥温度、好ましくは70〜230℃で乾燥させればよい。また乾燥工程123に供給する熱媒としてはアクリル酸製造工程で排出された蒸気、特に接触気相酸化器から得られる反応熱を利用することができる。
【0087】
乾燥に際しては、ポリアクリル酸(塩)のヒドロゲル、すなわち含水状重合体を各種乾燥機を用いて加熱乾燥させる。例えば乾燥はドラムドライヤーやバドルドライヤーなどの伝導伝熱型乾燥機を用いて水蒸気で乾燥機の該伝熱面を加熱させた伝熱面とヒドロゲルを接触させて乾燥させてもよいが、残存モノマー低減や乾燥効率の面から、ヒドロゲルが水蒸気と直接接触させる熱風伝熱乾燥させることが望ましい。即ち、水蒸気を含有する気体、好ましくは露点50℃以上、より好ましくは60℃以上であって、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下であって、且つ温度が好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上であって、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下の熱風によって該ヒドロゲルを乾燥することによって、残存モノマーの低減、ポリアクリル酸(塩)の吸水倍率の向上が図れるので望ましい。尚、乾燥時間は通常、1分〜3時間、好ましくは5分〜1時間で適宜選定すればよい。
【0088】
乾燥工程を経て得られたポリアクリル酸(塩)は高温のまま排出されるため、冷却工程124にて所望の温度、例えば室温〜90℃、好ましくは40℃〜80℃に冷却することが望ましい。ポリアクリル酸(塩)を冷却する方法としては限定されないが、例えば冷風を吹付けたり、或いは任意の冷凍器などの冷却装置に導入すればよい。
【0089】
所望の温度まで冷却して得られたポリアクリル酸(塩)はそのままで使用してもよく、更に所望の形状に造粒・粉砕したり、還元剤、香料、バインダーなど各種添加剤を更に添加するなど、用途に応じた利用に供することができる。
【0090】
また本発明では乾燥させたポリアクリル酸(塩)を冷却することが好ましい。例えばヒドロゲルを約1〜数mm程度に細分化して乾燥する場合、乾燥後のポリアクリル酸(塩)は約1〜数mm程度の乾燥粒子であって、乾燥方法にもよるが、通常は乾燥後の該乾燥粒子は凝集物である。したがって該乾燥ポリアクリル酸(塩)を必要に応じて粉砕、或いは更に分級してポリアクリル酸(塩)粉末、例えば重量平均粒子径10〜1000μm、好ましくは100〜800μmとし、更に必要に応じて該粉末に各種改質剤、例えば表面架橋剤の水溶液、造粒バインダー、消臭剤などを添加する場合、冷却工程を適用することで、粉砕効率が向上し、粒度分布がシャープになるのみならず、各種改質剤等も該粉末に均一に添加できるので、吸水性樹脂の諸物性、例えば加圧下における吸収倍率なども粉末間のバラツキを抑制しつつ向上できる。
【0091】
本発明では、何れの蒸留塔においても重合防止剤を蒸留塔の原料供給段および還流液供給段以外に投入することが好ましいが、特に共沸脱水塔に供給する重合防止剤の供給位置として組成が著しく異なる原料供給段より上段であって還流液供給段より下部に投入することが好ましく、その際、重合防止剤をアクリル酸含有溶液と共に噴霧化投入手段で供給することが好ましい。特に、共沸脱水塔において、アクリル酸含有溶液としてアクリル酸オリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸を使用すると効率的である。
【0092】
【実施例】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0093】
実施例1
図1に示すフローに従ってアクリル酸を製造した。まず、プロピレンを酸化触媒の存在下に分子状酸素ガスにより接触気相酸化してアクリル酸7.1vol%、酢酸0.3vol%、水14.7vol%を含む混合ガス388Nm3/minを得た。
【0094】
このガスを捕集塔(カスケードミニリング3P10m)へ導入し、塔底液8050kg/hを得た。この捕集塔は塔頂1100hPa abs、62℃で運転され、塔頂より重合防止剤としてのハイドロキノンとともに、共沸脱水塔から発生する分離水および蒸留塔真空発生装置から発生する廃水の一部と水を調合した、アクリル酸1.5質量%、酢酸5.4質量%、を含有する水2720kg/hを捕集水として供給した。また、塔頂の排ガスの一部は酸化反応器へ循環し、残りは系外へ廃ガスとして放出した。捕集塔塔底液は、更に蒸留して、アクリル酸70質量%、酢酸3.4質量%、マレイン酸0.3質量%を含有するアクリル酸水溶液を得た。
【0095】
得られたアクリル酸水溶液は共沸脱水塔との間に設置されたタンクに付属する冷却器を通じ、40℃まで冷却後、マレイン酸分離塔の塔頂液の一部とともに、50段の無堰多孔板を備える共沸脱水塔の中段へ供給した。
【0096】
共沸脱水塔は塔頂190hPa abs、還流比1.0(単位時間当たりの還流液の全モル数/単位時間当たりの溜出液の全モル数)で、トルエンを用いて共沸分離運転を行った。該分離塔の塔頂液は真空発生装置である蒸気エゼクタの廃水と伴に貯槽に導き、有機相と水相に分離した。該塔の重合防止剤としてジブチルジチオカルバミン酸銅塩、ハイドロキノンモノメチルエーテルを予め還流液に溶解し、還流液と混合して、また水に溶解したハイドロキノンをアクリル酸水溶液供給段と還流液供給段の間からオリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸を含むマレイン酸分離塔の塔頂液の一部とともにスプレーで投入した。尚、塔底におけるアクリル酸オリゴマー(アクリル酸二量体および三量体)の濃度は2質量%であった。
【0097】
塔底液は更に、高沸点物質分離塔との間に設置されたタンクに付属する冷却器を通じ40℃まで冷却後、45段の無堰多孔板を備える高沸点物質分離塔の中段へ供給した。該塔は塔頂45hPa abs、還流比1.4で運転した。塔頂からはアクリル酸が5120kg/hが得られた。該塔の塔底液はアクリル酸オリゴマーが31質量%、マレイン酸が5質量%を含有し、これを5段の無堰多孔板を備えるマレイン酸分離塔の塔底に供給した。
【0098】
該塔は塔底に薄膜蒸発器および熱分解槽を備え、45hPa abs、還流比0.5で運転し、塔頂よりマレイン酸0.5質量%を含有するアクリル酸400kg/hを得た。得られたアクリル酸は、エステル、高純度アクリル酸の原料として用いられ、高純度アクリル酸は更にポリアクリル酸の製造に使用した。一方、薄膜蒸発器からの缶液は熱分解槽に導入し、温度150℃、滞留時間40時間で熱分解を行い、缶液の一部を薄膜蒸発器に循環させた。高沸点物質分離塔およびマレイン酸分離塔へは、重合防止剤として、ジブチルジチオカルバミン酸銅塩およびハイドロキノンモノメチルエーテルをアクリル酸に溶解して凝縮器にスプレーで投入した。廃油は、熱分解槽からアクリル酸5.5質量%、アクリル酸オリゴマー(アクリル酸二量体および三量体)が39質量%の組成で170kg/hで廃棄した。約3ケ月の稼働の後、装置を停止し、内部点検を行ったが特に問題なかった。以下、実施例および比較例の結果を表1に示す。なお、表1における(i)は、重合防止剤含有溶液の原料供給段および還流液供給段以外に投入、(ii)は、該オリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸を脱水工程への供給、(iii)は、重合防止剤含有溶液をアクリル酸含有溶液と共に噴霧化投入手段での供給、(iv)は、該高沸点物質含有液に含まれるオリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸溶液に含まれるマレイン酸濃度を5質量%以下とする。また、○は実施、−は未実施である。
【0099】
実施例2
実施例1の共沸脱水塔への重合防止剤の内ハイドロキノンを水に溶解し、該塔へ供給するアクリル酸水溶液とともに、該水溶液供給段へ供給する以外は実施例1と同じ運転を行った。約1週間で、共沸脱水塔の圧力損失の上昇が見られた。約2ヶ月運転後の開放点検の結果、アクリル酸水溶液供給段より上の多孔板に重合物が発見された。
【0100】
実施例3
実施例1の共沸脱水塔への重合防止剤の内ハイドロキノンをマレイン酸分離塔塔頂液を使用せず、直接該塔へ供給する以外は実施例1と同じ運転を行った。稼働翌日で、共沸脱水塔の圧力損失の上昇が見られた。約1ヶ月運転後の開放点検の結果、該重合防止剤塔投入段近辺に重合防止剤の析出が起こり、多孔板穴に閉塞が見られた。
【0101】
実施例4
実施例1のタンクに付属する冷却器を使用せず、直接塔へ供給する以外は実施例1と同じ運転を行った。この結果、熱分解槽からの廃油中のアクリル酸オリゴマー(アクリル酸二量体および三量体)の濃度が43質量%にまで上昇し、廃油量も200kg/hまで上昇した。約3ヶ月運転後の稼動の後、装置を停止し、内部点検を行ったが特に問題はなかった。
【0102】
比較例1
実施例1より以下の点を変更して運転した。まず、共沸脱水塔へ供給した重合防止剤の内、ハイドロキノンは水で溶解し、アクリル酸水溶液と共に水溶液供給段へ供給した。また、高沸点物質分離塔塔底液は薄膜蒸発器に直接供給し、該蒸発器から回収されたアクリル酸を高沸点物質分離塔に循環させた。更に、タンクに附属する冷却器を使用せずに、タンクに附属する冷却器を使用せずに直接次工程に移行させた。
【0103】
薄膜蒸発器から回収したアクリル酸中のマレイン酸濃度は、約6質量%であり、実施例1に比較して得られたアクリル酸中の水分およびマレイン酸などの高沸点物質濃度が上昇した。廃油量は、210kg/hであり、廃油中のオリゴマー濃度は43質量%であった。共沸脱水塔においては、稼動翌日より圧力上昇がみられた。約1ヶ月は運転可能であったが、精製工程の圧力が上昇したため運転を停止した。開放点検の結果、共沸脱水塔には重合物および重合防止剤の析出が確認された。また、高沸点物質分離塔および薄膜蒸発器周辺では、重合物およびマレイン酸の熱転移で生成したと考えられるフマル酸の析出が確認された。
【0104】
また、共沸脱水塔の塔底におけるアクリル酸オリゴマー(アクリル酸二量体および三量体)の濃度は、6質量%であった。
【0105】
実施例5
比較例1より共沸脱水塔の重合防止剤ハイドロキノンを原料供給段と還流液供給段との間から投入する以外は同じ運転をし、1ヶ月運転後、開放点検をおこなった。比較例1に比べ、共沸脱水塔での重合物は減少したが、重合防止剤投入段近辺で重合防止剤の析出が起こり、多孔板穴に閉塞が見られた。高沸点物質分離塔および薄膜蒸発器周辺は比較例1の点検結果と大差なかった。
【0106】
実施例6
比較例1より、薄膜蒸発器から回収したアクリル酸を共沸脱水塔へ循環する以外は同じ運転をし、1ヵ月運転後、開放点検をおこなったが、比較例1の点検結果と大差なかった。しかしながら、得られたアクリル酸中の水分は低下した。
【0107】
実施例7
比較例1より共沸脱水塔の重合防止剤ハイドロキノンを原料供給段と還流液供給段との間から高沸点物質分離塔塔頂より得られるアクリル酸の一部と共にスプレーで投入する以外は同じ運転をし、1ヶ月運転後、開放点検をおこなった。共沸脱水塔では特に問題はなかったが、高沸点物質分離塔および薄膜蒸発器周辺は比較例1の点検結果と大差なかった。
【0108】
【表1】
【0109】
【発明の効果】
本発明によれば、接触気相酸化反応によって得たアクリル酸含有ガスを水捕集し、次いで低沸点物質および高沸点物質を除去し、除去工程で得た高沸点物質含有溶液に含まれるアクリル酸オリゴマーを熱分解する工程を含むアクリル酸製造方法において、より効率的に重合を防止しかつ生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アクリル酸エステル製造工程およびポリアクリル酸(塩)製造工程を含む、アクリル酸製造工程の概略を示すフロー図である。
【符号の説明】
1・・・原料ガス、10・・・接触気相酸化反応器、11・・・酸化触媒、20・・・アクリル酸捕集塔、21・・・捕集溶液、22・・・蒸留塔、23・・・ポンプ、24・・・冷却器、25・・・タンク、30・・・共沸脱水塔、31・・・油水分離器内溶媒相、32・・・油水分離器内水相、34・・・ポンプ、35・・・冷却器、36・・・タンク、37・・・重合防止剤、40・・・高沸点物質分離塔、42・・・ポンプ、43・・・冷却器、44・・・タンク、45・・・重合防止剤、46・・・マレイン酸分離塔、50・・・薄膜蒸発器、51・・・熱分解槽、60・・・エステル化反応器、70・・・水分離塔、71・・・油水分離器内油相、72・・・油水分離器内水相、80・・・酸分離塔、81・・・油相、82・・・水相、90・・・アルコール回収塔、100・・・低沸点物質分離塔、110・・・精製塔、111・・・アクリル酸エステル、120・・・ポリアクリル酸(塩)製造工程、121・・・中和工程、122・・・重合工程、123・・・乾燥工程、124・・・冷却工程。
Claims (6)
- (a)接触気相酸化させてアクリル酸含有ガスを得る工程、
(b)該アクリル酸含有ガスを水性捕集溶剤で捕集してアクリル酸含有水溶液を得る工程、
(c)該アクリル酸含有水溶液から水および低沸点物質を除去して粗アクリル酸を得る工程、
(d)粗アクリル酸から高沸点物質を除去してアクリル酸と高沸点物質含有液を得る工程、および
(e)該高沸点物質含有液に含まれるアクリル酸オリゴマーを熱分解してアクリル酸を回収する工程とを含むアクリル酸の製造方法において、以下の(i)または(ii)のいずれかを行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
(i)重合防止剤含有溶液を蒸留塔の原料供給段および還流液供給段以外に投入する、
(ii)該オリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸を脱水工程に供給する。 - 以下の、(iii)および/または(iv)を行うことを特徴とする請求項1記載のアクリル酸の製造方法。
(iii)重合防止剤含有溶液をアクリル酸含有溶液と共に噴霧化投入手段で供給する、
(iv)該高沸点物質含有液に含まれるオリゴマーを熱分解して回収したアクリル酸溶液に含まれるマレイン酸濃度を5質量%以下とする。 - 更に、(f)該(e)で得たアクリル酸をエステル化してアクリル酸エステルを製造する工程、または(g)該(e)で得たアクリル酸を更に精製して高純度アクリル酸を得る工程を含む、請求項1または2記載のアクリル酸の製造方法。
- 工程(b)〜(g)間に、タンクおよび/または冷却器を設置して次工程を行なうことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法。
- 請求項3または4記載の工程(g)で得た高純度アクリル酸を用いてポリアクリル酸(塩)を製造することを特徴とする、ポリアクリル酸(塩)の製造方法。
- 工程(g)とポリアクリル酸(塩)を製造する工程との間に、タンクおよび/または冷却器を設置することを特徴とする、請求項5記載のポリアクリル酸(塩)の製造方法。
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