<(メタ)アクリル酸の製造方法>
本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法は、(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸含有ガスを得る(メタ)アクリル酸生成工程、及び前記(メタ)アクリル酸含有ガスから、粗(メタ)アクリル酸溶液を得る捕集工程を含む。
捕集工程で得られた粗(メタ)アクリル酸溶液を精製して製品として取り出すため、前記捕集工程の後に(メタ)アクリル酸の晶析工程を行うことも可能である。また、晶析工程での残留溶液(晶析残渣)には、(メタ)アクリル酸が含まれているため、晶析工程の後、晶析残渣をそのまま、又は、晶析残渣中の(メタ)アクリル酸を回収して、捕集工程に再度供給するリサイクル工程を実施することが経済的であるため望ましい。
或いは、前記捕集工程の後に、捕集工程で得られた粗(メタ)アクリル酸溶液から水および低沸点物質を除去して(メタ)アクリル酸溶液を取得し、更に、前記(メタ)アクリル酸溶液から高沸点物質を除去して(メタ)アクリル酸と高沸点物質含有液を分離する工程を実施することも可能である。高沸点物質を除去して得られる前記高沸点物質含有液には(メタ)アクリル酸オリゴマーが含まれるため、該オリゴマーを熱分解して(メタ)アクリル酸を回収し、回収溶液を再度捕集塔へ供給するリサイクル工程を実施することが経済的である。以下に、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法について詳述する。
[(メタ)アクリル酸の生成工程]
まず、本発明に係る(メタ)アクリル酸の生成法について説明する。本発明において、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸、アクリル酸及びこれらの混合物を意味する。
(メタ)アクリル酸の生成工程では、(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸含有ガスを生成する。(メタ)アクリル酸の生成工程で用いられる(メタ)アクリル酸製造原料としては、反応により(メタ)アクリル酸を生成するものであれば特に限定されず、例えば、プロパン、プロピレン、(メタ)アクロレイン、イソブチレン等が挙げられる。
アクリル酸は反応器内で、例えば、プロパン、プロピレン又はアクロレインを1段で酸化させることにより、又は、プロパンやプロピレンを、アクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。アクロレインは、プロパンやプロピレンを原料として、これを酸化させることにより得られるものに限定されず、例えば、グリセリンを原料として、これを脱水させることにより得られるものであってもよい。メタクリル酸は、例えば、イソブチレンやメタクロレインを1段で酸化させることにより、又は、イソブチレンを、メタクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。これらの酸化反応や脱水反応は、触媒の存在下で行うことが好ましく、公知の(メタ)アクリル酸製造用の酸化触媒や脱水触媒を使用すればよい。
[捕集工程]
次に、本発明に係る捕集工程について説明する。以下、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法に関して、図1を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではない。
捕集工程では、前記(メタ)アクリル酸生成工程で得られる(メタ)アクリル酸含有ガスと捕集溶剤を接触させることにより、粗(メタ)アクリル酸溶液を得ることを目的とする。前記(メタ)アクリル酸の生成工程で得られた(メタ)アクリル酸含有ガスは、反応器1から排出された後、捕集塔2に送られる。
捕集工程で用いられる捕集塔2は、捕集塔2の側面に、(メタ)アクリル酸含有ガスを供給するためのガス供給口11、重合防止剤含有溶液を導入するための第1供給口12、及び第2供給口13が高さ方向に塔底から順に存在する。更に、当該捕集塔2には、第2供給口13より塔頂側に、前記捕集溶剤を導入するための捕集溶剤導入口14が存在する。本発明に係る捕集工程では、(メタ)アクリル酸含有ガス供給口11及び捕集溶剤導入口14以外の、第1供給口12及び第2供給口13の複数の導入口より、重合防止剤含有溶液を導入する点に特徴を有する。
その他、捕集塔2の上部には、捕集塔内のガスを排出させるためのガス排出口15が存在する。また、捕集塔2の下部(好ましくは底部)には、捕集工程で得られる粗(メタ)アクリル酸溶液を抜き出すための塔底液排出口10がある。塔底液排出口10より抜き出された粗(メタ)アクリル酸溶液は、その後適正な純度にまで精製するために、(メタ)アクリル酸の蒸留工程や晶析工程に供するとよい。
捕集塔2では、ガス供給口11から、(メタ)アクリル酸含有ガスを導入する。一方、捕集溶剤は、捕集塔2の上部に存在する捕集溶剤導入口14から供給される。ガス供給口11から導入される(メタ)アクリル酸含有ガスは、捕集塔2の塔底側から塔頂側に向かって移動し、捕集溶剤導入口14から導入される捕集溶剤は、重力に沿って、捕集塔2の塔頂側から塔底側に向かって移動する。導入された(メタ)アクリル酸含有ガスがこの捕集溶剤と向流接触することにより、該ガスに含まれる(メタ)アクリル酸が捕集溶剤に溶け込む。なお、本発明では、後述するように、捕集溶剤には重合防止剤を含有することが好ましい形態であるが、この場合、捕集溶剤が塔底部に移動するにつれ、捕集溶剤に溶解する(メタ)アクリル酸の量が増加するため、相対的に(メタ)アクリル酸に対する捕集溶剤中の重合防止剤濃度は低下してしまう。
ここで、第1供給口12から重合防止剤を含有する溶液(以下、「重合防止剤含有溶液」と称することもある)を導入すると、捕集溶剤に(メタ)アクリル酸が溶解した溶液と該重合防止剤含有溶液とが混合されるため、該混合液中の(メタ)アクリル酸に対する重合防止剤濃度の低下が抑制され、塔底部での粗(メタ)アクリル酸溶液における重合が起こりにくくなり、安定的に粗(メタ)アクリル酸溶液を抜き出すことができる。
一方、第1供給口12の上部は、(メタ)アクリル酸に対する重合防止剤濃度が低下するため、重合反応が進行しやすい領域(即ち、重合性領域16)が生じ易い。そこで本発明では、前記重合性領域16での(メタ)アクリル酸の重合反応を抑制するために、捕集塔2の側面において、第1供給口12よりも塔頂側に存在する第2供給口13からも、重合防止剤含有溶液を導入する。重合防止剤含有溶液を、捕集塔側面の第2供給口13からも導入することにより、前記重合性領域16における重合防止剤濃度の低下を抑えることができる。
捕集塔2は、側面に第1供給口12と第2供給口13を有する塔であれば、特に限定されるものではなく、例えば、棚段塔、充填塔、濡壁塔、スプレー塔など各種捕集塔が使用できる。本発明では、捕集効率がよいことから、充填塔を使用することが望ましい。
第2供給口13の捕集塔2における位置は、第1供給口12よりも塔頂側に存在すれば、特に限定されるものではないが、捕集塔2の塔底を基点とし、塔頂を終点としたときの捕集塔2の全長において、例えば、45〜90%の範囲に設けることが好ましく、より好ましくは45〜80%であり、更に好ましくは45〜75%である。第2供給口13の位置を前記範囲内とすることにより、重合性領域16での重合防止効果が高まるため好ましい。
一方、第1供給口12の捕集塔2における位置は、捕集塔2の塔底を基点とし、塔頂を終点としたときの捕集塔2の全長において、例えば、20〜45%の範囲に設けることが好ましく、より好ましく25〜45%であり、更に好ましくは30〜40%である。第1供給口12の位置を前記範囲内とすることにより、第1供給口12よりも塔底側における重合反応が抑制できるため好ましい。
捕集塔2として充填塔を使用する場合、装置のスケールにより異なるものの、第2供給口13は、第1供給口12より理論段数で0.5段以上離れた塔頂側に存在することが好ましく、1段以上離れた塔頂側に存在することがより好ましく、10段以下であることが好ましく、より好ましくは5段以下であり、更に好ましくは3段以下である。第1供給口12と第2供給口13の距離を前記範囲内とすることにより、重合性領域16での重合防止効果が高まり、効率的に(メタ)アクリル酸を捕集することができるため好ましい。第2供給口13と第1供給口12の距離が、理論段数で0.5段よりも近づいてしまうと、第2供給口13の位置が重合性領域16より低くなり、第2供給口13よりも上部に重合性領域16が存在してしまう虞があるため、第2供給口13から重合防止剤含有溶液を導入することによる重合防止効果が充分に発揮されない場合がある。また、理論段数で10段を超えると、第2供給口13と重合性領域16の距離が離れてしまうため、重合性領域16における重合防止剤濃度の低下を充分に抑制することができない虞があり、重合防止剤含有溶液を導入することによる重合防止効果が充分に発揮されないことがある。
第1供給口12と第2供給口13から導入する重合防止剤含有溶液の流量については、特に限定されるものではないが、例えば、第2供給口13より導入される重合防止剤含有溶液の流量は、第1供給口12から導入される重合防止剤含有溶液の流量に対し、0.001倍以上であることが好ましく、0.002倍以上であることがより好ましく、0.003倍以上であることが更に好ましい。また、第2供給口13より導入される重合防止剤含有溶液の流量は、例えば、第1供給口12から導入される重合防止剤含有溶液の流量に対し、1倍以下であることが好ましく、より好ましくは0.6倍以下であり、更に好ましくは0.5倍以下である。第2供給口13から導入される重合防止剤含有溶液の流量が0.001倍を下回ると、重合防止剤含有溶液中の重合防止剤量が少なく、捕集塔内での重合性領域16における重合防止効果が充分に発揮されない虞があるため好ましくない。
また、捕集塔2の第1供給口12と第2供給口13間における液中の重合防止剤濃度は、具体的には質量基準で、20ppm以上が好ましく、50ppm以上がより好ましく、100ppm以上が更に好ましい。また、捕集塔2の第1供給口12と第2供給口13間における液中の重合防止剤濃度の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、600ppm以下が好ましく、550ppm以下であっても重合反応防止効果は発揮され、500ppm以下であってもよい。液中の重合防止剤濃度を前記範囲内に制御することにより、重合性領域16での重合反応を抑制できる。
本発明では、第1供給口12から導入される重合防止剤含有溶液中の重合防止剤総量は、第2供給口13から導入される重合防止剤含有溶液中の重合防止剤総量に比べて多くすることが望ましい。捕集塔2では、塔底側に近づく程、捕集溶剤に吸収される(メタ)アクリル酸量が多くなるため、得られる溶液中の重合防止剤濃度が低くなっている。そのため、塔底側に位置する第1供給口12から重合防止剤をより多量に投入すると、捕集塔2内での溶液中の重合防止剤濃度に応じて重合反応を抑制できるため好ましい。
重合防止剤含有溶液の導入方法に関し、第1供給口12及び第2供給口13から重合防止剤含有溶液が導入される限り、その導入方法は特に限定されるものではない。第1供給口12と第2供給口13の両方、又はいずれか一方は、例えば、捕集塔2の塔底液排出口10から抜き出された塔底液を通液する供給管;捕集工程後に実施される晶析工程において生じる残渣を蒸留して得られる留出液を供給する供給管;又は、別系統のプロセスで生成された(メタ)アクリル酸溶液を通液する供給管;などに接続されることが好ましい。本発明では、溶液中の重合防止剤や(メタ)アクリル酸を再利用できることから、第1供給口12と第2供給口13のいずれか一方は、塔底液排出口10から抜き出された塔底液を通液する供給管;又は、晶析工程において生じる残渣を蒸留して得られる留出液を供給する供給管;に接続されていることが望ましい。
本発明において「別系統のプロセス」とは、捕集塔2に係る発明では、該捕集塔2を含む(メタ)アクリル酸の一連の製造プロセス(即ち、(メタ)アクリル酸の製造、捕集、精製を含むプロセス)以外のプロセスを意味し、後述する蒸留塔22に係る発明では、該蒸留塔22を含む(メタ)アクリル酸の一連の製造プロセス(即ち、(メタ)アクリル酸の製造、捕集、精製を含むプロセス)以外のプロセスを意味する。
本発明では特に、前記重合防止剤含有溶液は、第1供給口12及び第2供給口13の両方に分岐することにより接続される重合防止剤含有溶液供給管9を通じて捕集塔内に導入するとよい。「第1供給口12及び第2供給口13の両方に分岐することにより接続される」とは、重合防止剤含有溶液を供給する配管が、少なくとも1つの分岐点を有しており、分岐点よりも下流に位置する管(配管)の端部が、第1供給口12と第2供給口13のそれぞれに接続されることをいう。さらに言えば、重合防止剤含有溶液を供給する配管が1つの分岐点を有しており、分岐点よりも下流側の2つの配管の端部が、第1供給口12と第2供給口13のそれぞれに接続されることをいう。このように、重合防止剤含有溶液を、分岐を有する重合防止剤含有溶液供給管9を通じて第1供給口12及び第2供給口13から導入することにより、品質管理が簡便なものとなり、(メタ)アクリル酸の品質を安定させることができる。
重合防止剤含有溶液供給管9としては、例えば、図3(a)に示す、捕集塔の塔底液排出口10に接続される塔底液供給管が分岐して、第1供給口12及び第2供給口13に接続される供給管(供給管A);図3(b)、(c)に示す、捕集工程後の晶析工程又は別系統のプロセスから捕集塔2へ重合防止剤含有溶液を通液する供給管が分岐して、第1供給口12及び第2供給口13に接続される供給管(供給管B);図3(d)に示す、捕集塔の塔底液排出口10に接続される塔底液供給管からの分岐管と、捕集工程後の晶析工程又は別系統のプロセスから捕集塔2へ重合防止剤含有溶液を通液する供給管が合流し、該合流点よりも下流の管が分岐して、第1供給口12及び第2供給口13に接続される供給管(供給管C);等が例示できる。
例えば、図3(b)、図3(d)に示されるように、前記重合防止剤含有溶液供給管9には、他の供給管(又は「配管」)との合流点9aが存在してもよく、合流点9aの位置は特に限定されるものではない。
重合防止剤含有溶液に使用される重合防止剤としては、従来公知の重合防止剤を用いることができ、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等のキノン類;フェノチアジン、ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、ビス−(α−ジメチルベンジル)フェノチアジン等のフェノチアジン類;2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4,4’,4”−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイト等のN−オキシル化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、アクリル酸銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅等の銅塩化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、ギ酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン等のマンガン塩化合物;N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンやその塩、p−ニトロソフェノール、N−ニトロソジフェニルアミンやその塩等のニトロソ化合物等が挙げられる。これらの重合防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの重合防止剤の中でも、キノン類、フェノチアジン類、銅塩化合物およびマンガン塩化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
本発明において、前述した重合防止剤含有溶液は、(メタ)アクリル酸を含有する溶液(以下、「(メタ)アクリル酸溶液」とも称する)であることが好ましい。前記(メタ)アクリル酸溶液は、重合防止剤を溶解させるための溶媒として用いられてもよく、重合防止剤を含む(メタ)アクリル酸溶液であれば、そのまま重合防止剤含有溶液として使用することができる。重合防止剤含有溶液として(メタ)アクリル酸溶液を使用することにより、捕集塔内の溶液中の(メタ)アクリル酸濃度の低下を抑えることができ、捕集工程後の粗(メタ)アクリル酸溶液の濃度を、より高い状態で維持することが可能となる。
捕集工程で用いられる(メタ)アクリル酸溶液(重合防止剤含有溶液)中の(メタ)アクリル酸濃度は、例えば、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、99質量%未満であることが好ましく、より好ましくは97質量%以下であり、更に好ましくは95質量%以下である。(メタ)アクリル酸濃度が前記範囲内であれば、第1供給口12及び第2供給口13の両方から溶液を導入したときに、捕集塔内での溶液中における(メタ)アクリル酸の濃度変化を小さくすることができるため好ましい。
前記(メタ)アクリル酸溶液としては、(メタ)アクリル酸を含有する限り、製造中に生じる各種溶液を使用することができる。具体的には、例えば、(i)製品(精製後)の(メタ)アクリル酸を溶媒と混合して所定濃度に調製した溶液、(ii)(メタ)アクリル酸の製造工程において得られる(メタ)アクリル酸を含有する溶液(例えば、捕集塔2の塔底液排出口10から抜き出された塔底液、すなわち、粗(メタ)アクリル酸溶液;捕集工程後に実施される晶析工程において生じる残渣を蒸留して得られる留出液;等)、(iii)別系統の(メタ)アクリル酸の製造プロセスにおいて得られる、上記(i)又は(ii)に相当する(メタ)アクリル酸含有溶液;等の(メタ)アクリル酸溶液を使用することができる。特に(ii)に示すように、(メタ)アクリル酸の製造中に生じた残渣を精製して使用すると、溶液中の(メタ)アクリル酸を再度回収できるため経済的である。なお、前述した(メタ)アクリル酸溶液は1種で使用してもよく、また2種以上を混合してもよい。
次に、捕集工程で用いる捕集溶剤について説明する。捕集溶剤としては、(メタ)アクリル酸溶解能を有する、水、又は高沸点溶剤(ジフェニルエーテルやビフェニル等)等を用いるとよい。更に、(メタ)アクリル酸含有水も、捕集溶剤として使用可能である。通常、捕集塔上部に存在するガス排出口15から排出される気体には、(メタ)アクリル酸製造原料や、未捕集の(メタ)アクリル酸が含まれている。そのため、未捕集の(メタ)アクリル酸を、冷却器、減圧蒸留装置等を用いて分離し、捕集溶剤と混合して捕集塔2へ供給することが経済性の観点から好ましい。また、分離された(メタ)アクリル酸製造原料は反応器へ再度供給するとよい。
(メタ)アクリル酸は捕集塔内で容易に重合するため、本発明の捕集溶剤は重合防止剤を含有することが好ましい。重合防止剤としては、前記重合防止剤に例示した化合物を使用するとよい。中でも、キノン類が好ましく用いられる。なお、これらの重合防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明では、捕集溶剤に含有される重合防止剤の種類と、前記重合防止剤含有溶液に含有される重合防止剤の種類とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。種類の異なる重合防止剤を複数組み合わせて使用することにより、重合防止効果が更に向上する(相乗効果が発揮される)場合がある。
捕集溶剤が捕集塔2に導入され、(メタ)アクリル酸含有ガスと捕集溶剤との接触が進行すると、溶液が塔底側へ移行するに従って、捕集溶剤への(メタ)アクリル酸の溶解量が増加するため、溶液中の重合防止剤濃度は、捕集塔投入時の捕集溶剤中の濃度に比べて次第に低下していく。
本発明では、捕集塔投入時における捕集溶剤中の重合防止剤の濃度は、質量基準で(メタ)アクリル酸含有ガス中の(メタ)アクリル酸成分に対し、好ましくは100ppm以上、より好ましくは200ppm以上、更に好ましくは400ppm以上であり、2000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1500ppm以下、更に好ましくは1200ppm以下である。
また、本発明では、捕集塔2の第1供給口12及び第2供給口13から重合防止剤を含有する溶液を導入する。すなわち本発明では、上述したように、重合性領域16よりも塔頂側に位置する第2供給口13からも重合防止剤含有溶液を導入するため、第1供給口12のみから重合防止剤含有溶液を導入する場合に比べ、捕集溶剤中の重合防止剤の使用量を減らすことも可能である。これにより、(メタ)アクリル酸の生産コストの削減にも繋がるため望ましい。
捕集塔2は、塔頂圧力(絶対圧)1000〜4000hPaで運転することが好ましく、より好ましくは3000hPa以下、更に好ましくは2000hPa以下で運転することが推奨される。塔頂圧力が高くなると、捕集塔2の塔頂から低沸点物質を排出させるために、捕集塔2の温度を上げる必要が生じ、(メタ)アクリル酸の捕集効率が低下する場合がある。捕集塔2の塔頂温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下とすることが推奨される。
捕集塔2の充填物としては、加圧、高温に対する耐久性を備え、残留母液中の成分と反応し難いものが好ましく、かかる観点からは、アルミナ製、又はステンレス鋼などの金属製のものが推奨される。また、充填物の形状は、捕集塔2の圧力損失を上昇させ難いものであることが好ましい。充填物としては、公知の充填物を適宜使用すればよく、例えば、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、フレキシリング、カスケード・ミニ・リング(登録商標)、ラシヒスーパーリング(登録商標)、インタロックス・メタルタワーパッキング、インタロックスサドル等の不規則充填物;スルーザーパッキング(スルザーケムテック社)、テクノパック(三冷テクノ社)、エムシーパック(マツイマシン社)、メラパック(スルザーケムテック社)、フレキシグリッド(コーク社)等の規則充填物;等の各種充填物が例示できる。これらの充填物は、いずれも1m3あたりの充填物表面積および空隙率が高いため、物質交換が効率的に行われ、且つ、圧力損失を減少できるので好ましい。これらの充填物は、1種のみを使用してもよく、2種以上を適宜併用して使用してもよいが、本発明では特に、不規則充填物と規則充填物を組み合わせて使用することが好ましく、不規則充填物として最も好ましいものは、カスケード・ミニ・リング(登録商標)であり、規則充填物として最も好ましいものは、スルザーパッキングである。
[晶析工程]
次に、晶析工程について説明する。本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法には、前記捕集工程の後に、(メタ)アクリル酸の精製工程として晶析工程を含むこともできる。晶析工程は、前記捕集工程で得られた粗(メタ)アクリル酸溶液を晶析器3に導入し、晶析器3内で粗(メタ)アクリル酸溶液から(メタ)アクリル酸を精製する工程をいう。晶析工程により、結晶体の精製(メタ)アクリル酸と、低純度の晶析残渣が得られる。
晶析工程において冷却操作等により結晶化した(メタ)アクリル酸は、その後融解することにより(メタ)アクリル酸融解液を得て、これを精製(メタ)アクリル酸として回収することが好ましい。また、得られる(メタ)アクリル酸の純度を上げることを目的に、結晶化した(メタ)アクリル酸をまず部分的に融解し、結晶間や結晶表面に存在する不純物を洗い流し(発汗工程ともいう)、その後残りの結晶化した(メタ)アクリル酸を融解して、精製(メタ)アクリル酸を回収することが好ましい。結晶化した(メタ)アクリル酸を部分的に融解した際に得られた残渣は、晶析残渣として晶析器3から排出することが好ましい。
晶析器3としては、粗(メタ)アクリル酸溶液などの(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化できるものであれば特に限定されず、例えば、伝熱面を有し、伝熱面での熱交換によって(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化および融解する晶析器等が挙げられる。このような晶析器では、伝熱面の一方側に冷熱媒を供給し、他方側に(メタ)アクリル酸含有溶液を供給することにより、伝熱面を介した熱交換によって(メタ)アクリル酸含有溶液が冷却されて、(メタ)アクリル酸が結晶化する。結晶化した(メタ)アクリル酸は、伝熱面の一方側に温熱媒を供給し、伝熱面を介した熱交換によって加温されることにより、(メタ)アクリル酸融解液が得られる。
伝熱面を有する晶析器としては、一般に熱交換器として用いられる装置を採用することができる。例えば、プレート式熱交換器、多管式(シェル・アンド・チューブ式)熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、スパイラル式熱交換器等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化する際、伝熱面の温度(冷熱媒を使用する場合は、冷熱媒の温度)は、(メタ)アクリル酸含有溶液の凝固点未満であれば特に限定されないが、効率的に(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化するために、前記温度は0℃以下が好ましく、−5℃以下が好ましい。なお、前記温度の下限は特に限定されない。
結晶化した(メタ)アクリル酸を融解する際、伝熱面の温度(温熱媒を使用する場合は、温熱媒の温度)は、結晶化した(メタ)アクリル酸の融点超であれば特に限定されないが、効率的に(メタ)アクリル酸を融解するために、前記温度は20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。一方、前記温度の上限については、(メタ)アクリル酸の重合反応を抑制し、得られる(メタ)アクリル酸融解液の純度や収率を高める点から、45℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
晶析工程では、結晶化と融解を交互に複数回繰り返し、より純度の高い精製(メタ)アクリル酸を得てもよい。すなわち、(メタ)アクリル酸溶液を結晶化および融解して(メタ)アクリル酸融解液を得た後、得られた(メタ)アクリル酸をさらに結晶化および融解することを1回以上行い、(メタ)アクリル酸を精製してもよい。
[晶析残渣中の(メタ)アクリル酸回収工程]
次に、(メタ)アクリル酸の回収工程について説明する。本発明では、前述した晶析工程の後に、晶析工程で得られた晶析残渣から(メタ)アクリル酸を回収し、捕集塔2に供給する(メタ)アクリル酸回収工程を実施することも可能である。晶析残渣は(メタ)アクリル酸や重合防止剤を含むため、晶析残渣中の(メタ)アクリル酸や重合防止剤を回収した溶液を、重合防止剤含有溶液として捕集塔2に供給することは経済性の観点から望ましい。
晶析残渣中の(メタ)アクリル酸の回収方法としては、蒸留が好ましく例示でき、特に高沸点物質を分離するための蒸留(高沸分離)を実施することが好ましい。高沸分離によれば、(メタ)アクリル酸の収率を向上させることができると同時に、晶析残渣中の沸点の高い不純物と(メタ)アクリル酸を分離することが可能となる。
高沸分離を行う際には、(メタ)アクリル酸を高濃度に含有する液を塔頂部から抜き出して回収できる高沸分離塔5を使用するとよい。高沸分離塔5の塔頂部から抜き出される(メタ)アクリル酸含有留出液は、前述した(メタ)アクリル酸溶液として、第1供給口12及び第2供給口13の両方、若しくは第1供給口12又は第2供給口13のいずれか一方を通じて、捕集塔2へ供給し、再利用されることが望ましい。
また、高沸分離塔5の塔底部から排出される缶出液には、(メタ)アクリル酸のダイマー等のオリゴマーが含まれている場合がある。そのため、本発明では高沸分離塔5から排出される缶出液を(メタ)アクリル酸回収塔6に供給し、ダイマー分解工程を実施することも可能である。ダイマー分解後の液の一部は晶析残渣と共に再利用し、残りの液は沸点の高い不純物と共に廃液するとよい。
回収工程で実施される蒸留工程、及びダイマー分解工程では、実施中の装置内の温度が上昇するため、(メタ)アクリル酸が重合し易い環境となっている。そのため、高沸分離塔5及び(メタ)アクリル酸回収塔6に重合防止剤を適宜加えることが望ましい。この重合防止剤としては、前述した化合物を使用することができる。高沸分離塔5や(メタ)アクリル酸回収塔6に重合防止剤を加えるには、例えば、所望量の重合防止剤を含有する溶液を、高沸分離塔5や、(メタ)アクリル酸回収塔6のトップコンデンサに供給するとよく、さらに、本発明の重合防止剤含有溶液を導入する複数の供給口をそれぞれの塔に設け、該供給口より重合防止剤含有溶液を導入することにより、該塔内での重合が抑制されるので好ましい。
[蒸留工程]
次に、本発明に係る蒸留工程について説明する。本蒸留工程では、(メタ)アクリル酸を精製することを目的とする。
蒸留塔としては、蒸留操作によって(メタ)アクリル酸含有溶液中に含まれる種々の不純物を除去して精製する目的で使用されるものであればよく、例えば、(メタ)アクロレインやアセトン等の極低沸点不純物を分離するための放散塔;酢酸などの低沸点不純物を分離するための軽沸点物質分離塔;共沸溶媒を用いて主に水を分離するための共沸脱水塔;高沸点物質を分離して、塔頂側から精製された(メタ)アクリル酸を回収するための高沸点物質分離塔;等が挙げられる。本発明においては、中でも、高沸点物質分離塔の使用が好ましい。(メタ)アクリル酸の製造において、高沸点物質分離塔を使用するときとは、具体的には最終的な精製(メタ)アクリル酸を回収する場合での使用が多く、特に高沸点物質を分離するために使用することから、蒸留の際には、塔内が比較的高温となる傾向にある。高温の蒸留塔内では、(メタ)アクリル酸が重合しやすい条件下にあることから、蒸留塔として高沸点物質分離塔を使用する場面において、特に、本発明に係る(メタ)アクリル酸の製造方法は有効である。以下、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法に関して、図2を参照しつつ、本発明に係る蒸留塔として高沸点物質分離塔を対象とした例について、具体的に説明する。
蒸留工程で用いられる蒸留塔22は、重合防止剤含有溶液を供給するための第1供給口12と第2供給口13、及び還流液供給口27を、高さ方向に塔底から順に有している。また、蒸留塔が高沸点物質分離塔である場合、精製された(メタ)アクリル酸を留出させるための排出口26を、前記還流液供給口27より塔頂側に有している。
蒸留塔22へ導入すべき(メタ)アクリル酸溶液(被蒸留液)は、特に制限されない。例えば、本発明に係る捕集工程を経て得られる粗(メタ)アクリル酸溶液であってもよいし、当該捕集工程の後、さらに晶析工程を経たものであってもよいし、また、(メタ)アクリル酸を含む反応ガスを凝縮して得られる(メタ)アクリル酸溶液であってもよい。
蒸留塔においては、供給液(粗(メタ)アクリル酸溶液)に重合防止剤が十分に添加されていても、運転条件によって多少の差はあるものの、粗(メタ)アクリル酸溶液を供給する段の直上が、(メタ)アクリル酸同士が重合し易い環境(即ち、重合性領域16)であることが分かった。これは、(メタ)アクリル酸溶液を供給する段の直上は、重合防止剤濃度が低くなることに加え、更に蒸留塔の場合、塔底に近づくほど塔内温度が高くなるため、(メタ)アクリル酸が反応し易くなっているためであると考えられる。そのため本発明では、重合性領域16における(メタ)アクリル酸の重合を抑制するため、蒸留塔22に存在する第1供給口12及び第2供給口13の両方から、重合防止剤含有溶液を導入する。本発明のように、複数の導入口から重合防止剤を含有する溶液を導入することにより、前記重合性領域16での重合反応を抑えることが可能となる。
蒸留塔22に、前記被蒸留液を導入する方法は特に限定されるものではないが、例えば、被蒸留液は、蒸留塔の塔底から第1供給口12の間に存在する供給口を通じて導入されてもよく、第1供給口12および/又は第2供給口13から導入されてもよく、第1供給口12と第2供給口13の間に存在する供給口を通じて導入されてもよい。
蒸留塔22としては、蒸留塔22の側面に第1供給口12と第2供給口13を有する塔であれば、特に限定されるものではなく、例えば、塔内に複数のトレイを備えた棚段塔(トレイ塔);充填物を充填した充填塔;濡壁塔;スプレー塔;等のいずれも好ましく使用することができる。本発明では、精製効率がよいことから、棚段塔を使用することが好ましい。また、蒸留塔22として充填塔を使用する場合、充填塔に充填する充填物は、捕集塔2の欄で例示した充填物が使用できる。
蒸留塔22として、棚段塔を使用する場合、装置のスケールにより異なるものの、第2供給口13は第1供給口12よりトレイ数で1段以上離れた塔頂側に存在することが好ましく、5段以上離れていることがより好ましく、7段以上離れていることが更に好ましい。また、第1供給口12と第2供給口13間距離は、トレイ数で20段以内であることが好ましく、より好ましくは17段以内であり、更に好ましくは15段以内である。第2供給口13と第1供給口12の距離が、1段よりも近づいてしまうと、第2供給口13の位置が、重合性領域16の存在位置よりも低位置となる虞があるため、第2供給口13から、重合防止剤含有溶液を導入することによる重合防止効果が充分に発揮されない場合がある。また、20段を超えると、第2供給口13と重合性領域16の距離が離れてしまうため、重合防止剤含有溶液を導入することによる重合防止効果が充分に発揮されないことがある。
第2供給口13の蒸留塔22における位置は、第1供給口12よりも塔頂側に存在すれば、特に限定されるものではないが、蒸留塔22の塔底を基点とし、塔頂を終点としたときの蒸留塔22の全長において、例えば、25〜90%の範囲に設けることが好ましく、より好ましくは25〜80%であり、更に好ましくは30〜75%である。第2供給口13の位置を前記範囲内とすることにより、重合性領域16での重合防止効果が高まるため好ましい。
また、第1供給口12の蒸留塔22における位置は、蒸留塔22の塔底を基点とし、塔頂を終点としたときの蒸留塔22の全長において、0%以上25%未満の範囲に設けることが好ましく、より好ましくは0〜15%であり、更に好ましくは0〜5%である。第1供給口12の位置を前記範囲内とすることにより、塔底液中での(メタ)アクリル酸の重合防止効果が高まり、蒸留操作による(メタ)アクリル酸の精製効率が向上するため好ましい。
第1供給口12と第2供給口13から導入する重合防止剤含有溶液の流量については、特に限定されるものではないが、例えば、第2供給口13より導入される重合防止剤含有溶液の流量は、第1供給口12より導入される重合防止剤含有溶液の流量に対し、0.01倍以上であることが好ましく、0.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが更に好ましい。また、第2供給口13より導入される重合防止剤含有溶液の流量は、例えば、第1供給口12から導入される重合防止剤含有溶液の流量に対し、40倍以下であることが好ましく、より好ましくは20倍以下であり、更に好ましくは10倍以下である。第2供給口13から導入される重合防止剤含有溶液の流量が0.01倍を下回ると、重合防止剤含有溶液中の重合防止剤量が少なく、蒸留塔内での重合性領域16における重合防止効果が充分に発揮されない虞があるため好ましくない。
本発明によれば、蒸留塔22の第1供給口12と第2供給口13間における被蒸留液中の重合防止剤濃度を一定の濃度範囲に制御できるため、重合性領域16での重合反応を抑制することが可能となる。蒸留塔22の第1供給口12と第2供給口13間における被蒸留液中の重合防止剤濃度は、具体的には質量基準で、20ppm以上が好ましく、25ppm以上がより好ましく、30ppm以上が更に好ましい。また、蒸留塔22の第1供給口12と第2供給口13間における被蒸留液中の重合防止剤濃度の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、600ppm以下が好ましく、550ppm以下であっても重合反応防止効果は発揮され、500ppm以下であってもよい。重合防止剤濃度を前記範囲内に制御することにより、重合性領域16での重合反応を抑制できる。
第2供給口13より導入される、蒸留塔導入時の重合防止剤含有溶液中の重合防止剤濃度は、好ましくは質量基準で100ppm以上、より好ましくは120ppm以上、更に好ましくは150ppm以上であり、700ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下、更に好ましくは400ppm以下である。
重合防止剤含有溶液の導入方法に関し、第1供給口12及び第2供給口13から重合防止剤含有溶液が導入される限り、その導入方法は特に限定されるものではない。
本発明では捕集塔2の場合と同様に、前記重合防止剤含有溶液は、第1供給口12及び第2供給口13の両方に分岐することにより接続される重合防止剤含有溶液供給管9を通じて蒸留塔22内に導入するとよい。「第1供給口12及び第2供給口13の両方に分岐することにより接続される」とは、重合防止剤含有溶液を供給する配管が、少なくとも1つの分岐点を有しており、分岐点よりも下流に位置する管(配管)の端部が、第1供給口12と第2供給口13のそれぞれに接続されることをいう。さらに言えば、重合防止剤含有溶液を供給する配管が1つの分岐点を有しており、分岐点よりも下流側の2つの配管の端部が、第1供給口12と第2供給口13のそれぞれに接続されることをいう。このように、重合防止剤含有溶液供給管9を分岐して第1供給口12及び第2供給口13から導入することにより、品質管理が簡便なものとなり、(メタ)アクリル酸の品質を安定させることができる。
重合防止剤含有溶液供給管9としては、例えば、図4(a)〜(c)に示す、同一又は別系統のプロセスから蒸留塔22へ重合防止剤含有溶液を通液する管が分岐して、第1供給口12及び第2供給口13に接続される供給管(供給管D);図4(d)に示す、蒸留塔22の塔底液排出口に接続される塔底液供給管からの分岐管と、同一又は別系統のプロセスから蒸留塔22へ重合防止剤含有溶液を通液する管が合流し、該合流点よりも下流の管が分岐して、第1供給口12及び第2供給口13に接続される供給管(供給管E);図4(e)に示す、蒸留塔22の塔底液排出口に接続される塔底液供給管が分岐して、第1供給口12及び第2供給口13に接続される供給管(供給管F);等が例示できる。
例えば、図4(d)に示すように、前記重合防止剤含有溶液供給管9には、他の供給管(又は「配管」)との合流点9aが存在してもよく、合流点9aの位置は特に限定されるものではない。
また本発明は、第1供給口12又は第2供給口13のいずれか一方に、上流側から送られる被蒸留液のみを導入し、他方に、別系列で得られた液を導入する方法(即ち、重合防止剤含有溶液を供給する配管が分岐せずに、それぞれが独立して蒸留塔22に接続される場合)も含む。より好ましい供給方法は、第1供給口12に、上流側から送られる被蒸留液のみを導入し、第2供給口13に、同一又は別系統のプロセスで得られた重合防止剤含有溶液を導入する方法である。
重合防止剤含有溶液に使用される重合防止剤としては、前記で例示した重合防止剤を適宜使用するとよく、中でも、キノン類、フェノチアジン類、銅塩化合物およびマンガン塩化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
本蒸留工程においても、前述した重合防止剤含有溶液とは、特に(メタ)アクリル酸を含有する(メタ)アクリル酸溶液であることが好ましい。前記(メタ)アクリル酸溶液は、重合防止剤を溶解させるための溶媒として用いられてもよく、重合防止剤を含む(メタ)アクリル酸溶液であれば、そのまま重合防止剤含有溶液として使用することができる。重合防止剤含有溶液として(メタ)アクリル酸溶液を使用することにより、蒸留塔内の(メタ)アクリル酸溶液濃度低下を抑えることができ、取得される(メタ)アクリル酸の純度を高い状態で維持できる。
蒸留工程で用いられる(メタ)アクリル酸溶液(重合防止剤含有溶液)中の(メタ)アクリル酸濃度は、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、99質量%未満であることが好ましく、より好ましくは97質量%以下であり、更に好ましくは95質量%以下である。(メタ)アクリル酸濃度が前記範囲内であれば、第1供給口12及び第2供給口13の両方から溶液を導入したときに、蒸留塔内での(メタ)アクリル酸溶液の濃度変化を小さくすることができるため好ましい。
前記(メタ)アクリル酸溶液としては、(メタ)アクリル酸を含有する限り、製造中に生じる各種溶液を使用することができる。具体的には、(i)製品(精製後)の(メタ)アクリル酸を溶媒と混合して所定濃度に調製した溶液、(ii)(メタ)アクリル酸の製造工程において得られる(メタ)アクリル酸を含有する溶液(例えば、蒸留塔22の塔底から抜き出された塔底液、該塔底液を後述する回収工程に付すことにより得られる溶液等の回収液、捕集塔2の塔底液排出口10から抜き出された塔底液(即ち、粗(メタ)アクリル酸溶液)等)、(iii)別系統の(メタ)アクリル酸の製造プロセスにおいて得られる、上記(i)又は(ii)に相当する(メタ)アクリル酸含有溶液;等の(メタ)アクリル酸溶液を使用することができる。特に(ii)の回収液のように、(メタ)アクリル酸の製造中に生じた残渣を精製して使用すると、溶液中の(メタ)アクリル酸を再度回収できるため経済的である。なお、前述した(メタ)アクリル酸溶液は1種で使用してもよく、また2種以上を混合してもよい。
蒸留塔22の運転条件も限定されず、供給される(メタ)アクリル酸溶液の濃度や、目的とする精製(メタ)アクリル酸の純度に応じて、適宜決定すればよい。例えば、蒸留塔22の塔頂圧力(絶対圧)を、好ましくは20〜400hPa、より好ましくは30〜300hPa、更に好ましくは30〜200hPaである。塔頂圧力が高すぎる場合には、(メタ)アクリル酸を回収するために、塔底温度を高くする必要があり、その場合、加熱による変性物が増加し、結果的に(メタ)アクリル酸の収率が低下する虞がある。蒸留塔22の塔頂温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下とすることが推奨される。
なお、蒸留塔22には、塔内温度を調整するためのリボイラーや、塔頂から流出する蒸気を冷却あるいは還流させるコンデンサー、真空装置などを必要に応じて設けてもよい。
蒸留塔22で精製した(メタ)アクリル酸は、そのまま製品としてもよいし、更に晶析等の各種精製方法により純度を高めてもよい。蒸留塔22で精製した(メタ)アクリル酸の一部は、凝縮器28により冷却することにより、還流液として、還流液供給口27から蒸留塔22に導入するとよい。還流比は、例えば、好ましくは0.5〜2、より好ましくは0.7〜1.7、更に好ましくは0.9〜1.5とすることが推奨される。なお、蒸留塔22の還流比は、単位時間当たりの還流液の流量/単位時間当たりの溜出液の流量で定義する。
前記還流液には、重合防止剤を添加するとよい。重合防止剤としては、前記重合防止剤に例示した化合物を使用するとよい。中でも、キノン類、銅塩化合物の使用が好ましく、特に、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジアルキルジチオカルバミン酸銅を用いるとよい。これらの重合防止剤は、単独で使用してもよく、複数を混合して用いてもよい。
本発明では、還流液に含有される重合防止剤の種類と、前記重合防止剤含有溶液に含有される重合防止剤の種類とは、同一であってもよく、異なっていてもよいが、異なっていることが望ましい。還流液中の(メタ)アクリル酸濃度は高い傾向にあるため、重合防止剤の種類を変えて、より重合防止効果の高い重合防止剤を還流液に添加することにより、還流液及び蒸留塔22内での重合防止効果をより高めることが可能となる。種類の異なる重合防止剤を複数組み合わせて使用することにより、重合防止効果が更に向上する(相乗効果)場合がある。
本発明では、蒸留工程に導入する前に、被蒸留液中の水および低沸点物質を除去するために、被蒸留液を共沸脱水してもよい。
共沸脱水塔19では、(メタ)アクリル酸水溶液から主に水(塔頂)と(メタ)アクリル酸(塔底)とを分離する脱水蒸留が行なわれるが、通常は水と(メタ)アクリル酸は比揮発度が小さいため、単純な蒸留方法では分離が難しいことから、共沸溶剤を用いて(メタ)アクリル酸水溶液を蒸留し、塔頂から水−共沸溶剤の混合物を留出させることにより、(メタ)アクリル酸の分離を図る共沸蒸留が行なわれている。この分離された(メタ)アクリル酸は塔底から抜き出される。また、留出された水と共沸溶剤の混合物は、油水分離装置20により分離され、共沸溶媒を再利用するとよい。
共沸溶剤は、分離・回収容易性を高める観点から難水溶性であることが望ましい。この様な共沸溶剤としては特にヘプタンなどの炭素数6〜8の脂肪族炭化水素、及びトルエンなどの炭素数6〜8の芳香族炭化水素よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む共沸溶剤であることが推奨される。好ましい共沸溶剤としてはトルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどが例示され、1種、或いは2種以上を混合して用いてもよく、目的に応じて適宜組合せてもよい。
共沸脱水塔19としては、脱水蒸留できる装置であれば棚段塔や充填塔など公知の装置を使用できる。また共沸脱水塔19の構成については特に限定されないが、理論段数10以上のものが好ましい。
また、必要に応じて、図示しない任意の供給手段を介して重合防止剤を供給することが推奨される。このような場合であっても、本発明の方法を好適に採用することができる。
重合防止剤としては(メタ)アクリル酸の重合防止効果を有するものであればよく、ハイドロキノン、メトキノン、フェノチアジン、ジブチルジチオカルバミン酸銅、酢酸マンガン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ニトロソフェノールなどの重合防止剤が例示される。これら重合防止剤の使用量,重合防止剤の組合せなどは操作条件に応じて適宜調整される。
前記共沸脱水工程により得られる(メタ)アクリル酸溶液は、その後蒸留塔22へ導入される。蒸留塔22に導入する前に、前記共沸脱水工程により得られた(メタ)アクリル酸溶液を、タンク21に一時的に貯蔵することも可能である。
[蒸留塔から抜き出される塔底液中の(メタ)アクリル酸回収工程]
一方、蒸留塔22から抜き出される塔底液については、そのまま廃液として系外へ排出してもよいが、残渣中に含まれる有用成分を回収する工程に供給してもよい。回収工程は、特に限定されず、残渣中に残留する(メタ)アクリル酸を回収する蒸留工程、ミカエル付加物を分解して(メタ)アクリル酸として回収する工程などが挙げられる。
分解工程は、ミカエル付加物を分解して、(メタ)アクリル酸として回収できるものであれば、特に限定されず、従来公知の方法および装置はいずれも採用できる。例えば、分解工程に採用可能な装置としては、薄膜蒸発器24に熱分解槽25を備えた(メタ)アクリル酸回収塔23や、ミカエル付加物の分解と同時に分解生成物を蒸留させられる蒸留装置などが挙げられる。なお、分解工程で得られた(メタ)アクリル酸は、前述した(メタ)アクリル酸溶液として、再度、蒸留塔22に供給すればよい。
また、(メタ)アクリル酸の製造は、前述した本発明の捕集工程と蒸留工程を組み合わせて実施することもできる。すなわち、(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸含有ガスを生成した後、第1供給口12と第2供給口13を備える捕集塔2を用いて、捕集塔2の第1供給口12及び第2供給口13から重合防止剤含有溶液を導入することにより(メタ)アクリル酸を捕集して、粗(メタ)アクリル酸溶液を得た後、この粗(メタ)アクリル酸溶液から(メタ)アクリル酸を得るための蒸留工程において、第1供給口12と第2供給口13を備える蒸留塔22に導入し、蒸留塔22の第1供給口12及び第2供給口13から重合防止剤含有溶液を導入しながら蒸留し、(メタ)アクリル酸を精製して製造してもよい。
<(メタ)アクリル酸>
本発明によれば、上述のとおり、使用される重合防止剤量を低減しても、捕集塔や蒸留塔内での重合反応を抑制することが可能となるため、重合防止剤等の不純物量が少ない高純度の(メタ)アクリル酸が得られる。このような本発明によって製造された重合防止剤等の不純物量が少ない(メタ)アクリル酸を、親水性樹脂などの(メタ)アクリル酸(共)重合体を製造する際の原料として使用すれば、重合反応の阻害もしくは遅延が起こりにくくなるため、安定して各種重合体製品を製造することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
<第2供給口を有する捕集塔を使用する場合>
参考例1
以下では、図1に示すプロセスを使用して検討を行った。
接触気相酸化法によって得られたアクリル酸含有ガス(組成:アクリル酸7.1体積%、酢酸0.3体積%、水11.6体積%、その他(窒素、酸素、プロピレン、プロパン、二酸化炭素、アルデヒド等)81体積%)を、15.2Nm3/minで、捕集塔のガス供給口11から導入した。
捕集塔2としては、捕集塔の塔頂部にガス排出口15、塔底部に塔底液排出口10を有する充填塔を使用した。充填塔内には、充填物を載置するための6枚の支持プレート(バッキングサポート)が設けられており、以降、この支持プレートを、塔頂側から順に、第1節、第2節、第3節、第4節、第5節、第6節、と称する。充填物としては、不規則充填物であるCMR(カスケード・ミニ・リング(登録商標)3P マツイマシン社製)を使用した。
この捕集塔2の側面には、反応器から排出されるガスを供給するためのガス供給口11が塔底液排出口10と最下段(第6節)の間に存在し、捕集溶剤を導入するための捕集溶剤導入口14が最上段(第1節)と塔頂のガス排出口15との間に存在する。
更に、重合防止剤含有溶液(即ち、重合防止剤を含有するアクリル酸溶液)を導入するための供給口は、塔頂から第4節目と第5節目の間(第2供給口13に相当する)及び第5節目と第6節目の間(第1供給口12に相当する)にそれぞれ存在する。
具体的に第2供給口13は、塔底を基準としたときに、捕集塔全長の50%の位置に存在し、第1供給口12は、捕集塔全長の32%の位置に存在する。
捕集塔運転時には、捕集塔2の塔底部から塔底液排出口10を通じてアクリル酸溶液の抜き出しを行った。
捕集塔2の塔頂温度を68.5℃、塔頂圧力を1120hPa abs(絶対圧)に制御して、アクリル酸の捕集を行った。捕集塔2の温度制御は、塔底液の一部を冷却し、これを循環させることにより行った。
アクリル酸含有ガスを供給すると共に、捕集塔2の捕集溶剤導入口14より捕集溶剤を117kg/hで導入した。捕集塔内で、捕集溶剤とアクリル酸含有ガスを気液接触させることにより、捕集溶剤にアクリル酸含有ガスを吸収させた。塔底液排出口10より、358kg/hで粗アクリル酸溶液を抜き出した。粗アクリル酸溶液の組成は、アクリル酸94.5%、酢酸1.9%、水2.4%、その他の成分1.2%であった。
なお捕集溶剤は、選択冷却塔8および蒸留塔真空発生装置(図示しない)から発生する排出液の一部に、水及び重合防止剤としてハイドロキノンを加えて調製されている。捕集溶剤中の組成は、アクリル酸1.5%、酢酸2.3%であり、重合防止剤のハイドロキノンは、アクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対して1,500ppmの濃度となるように添加されている。
捕集塔2から抜き出された粗アクリル酸溶液は、その後晶析器3に導入され、晶析操作を行うことにより、201kg/hでアクリル酸の結晶(製品)を得た。製品のアクリル酸の純度は99.9%であった。
晶析残渣は貯蔵タンク4へ導入し、その後160kg/hで高沸分離塔5へ供給した。高沸分離塔5の塔頂より、アクリル酸を含む液を152kg/hで回収した(還流比は0.2)。回収液中の組成は、アクリル酸88.6%、酢酸4.4%、水5.9%、その他の成分1.1%である。得られた回収液は、一旦、貯蔵タンク7へ導入した。また、高沸分離塔5の塔底部から抜き出される塔底液を、アクリル酸回収塔6へ供給した。
アクリル酸回収塔6の塔頂より取り出されるアクリル酸含有溶液を、晶析残渣を貯蔵する貯蔵タンク4へ導入し、アクリル酸回収塔6の塔底部から取り出される液は、廃油として処分した。
高沸分離塔5には凝縮器(図示しない)が接続されており、凝縮器には重合防止剤(ジブチルジチオカルバミン酸銅塩、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、酢酸マンガン)を含有するアクリル酸溶液が導入される。高沸分離塔5の還流、留出液におけるこれらの重合防止剤の合計濃度が、380ppmとなるように重合防止剤の添加量は調整されている。高沸分離塔5の塔頂より得られ、貯蔵タンク7で貯蔵された回収液の全量を、第1供給口12を通じて捕集塔2に供給した。第1供給口12に接続される回収液の通液管は、捕集塔2から抜き出された粗アクリル酸溶液を通液する通液管から粗アクリル酸溶液の一部を循環回収して第1供給口から捕集塔2へ供給する供給管と合流している。
この運転条件で1ヶ月間稼働させた。1ヶ月の稼働後、捕集塔2の塔頂から第5節目のセクション(重合性領域)を点検してもポリマーの生成は確認されなかった。また、このときの第5節に載置される充填物から流れ落ちる液を抜き出して、当該液中のハイドロキノンの濃度及びハイドロキノン以外の重合防止剤の濃度を測定した。結果を表1に示す。
なお表1において、重合性領域の状態は、以下の各段階で評価した。
◎:ポリマー生成なし
○:ポリマー少量生成
△:ポリマー約5L生成
×:ポリマー約100L以上生成
参考例2、比較例1
捕集溶剤に添加されるハイドロキノンの濃度を、表1に記載する量に減らす以外は、参考例1と同様の条件でアクリル酸を製造した。1ヶ月後、参考例1と同様に捕集塔内を点検した。
実施例1
貯蔵タンク7から第1供給口12を通じて供給されていた回収液152kg/hのうち、5kg/hを第2供給口13から捕集塔2に導入した。また、捕集溶剤に添加されるハイドロキノンの濃度を、表1に記載する量に減らす以外は、参考例1と同様の条件でアクリル酸を製造した。1ヶ月後、参考例1と同様に捕集塔内を点検した。
実施例2〜5
第2供給口13から捕集塔2に導入するアクリル酸溶液の流量、及び捕集溶剤に添加されるハイドロキノンの濃度を、表1に記載する量に変更する以外は、実施例1と同様の条件でアクリル酸を製造した。1ヶ月後、実施例1と同様に捕集塔内を点検した。結果を表1に示す。
参考例1に示すように、重合防止剤を含有する溶液を第2供給口13から導入しない場合、捕集溶剤中のハイドロキノン量を1500ppmにすると、1ヶ月稼働後であってもポリマーは生成しない。これに対し、第2供給口13から重合防止剤を含有する溶液を導入すると、捕集溶剤中のハイドロキノンを1200ppmに減量しても、参考例1と同程度の重合抑制効果が発揮されることが分かった(実施例1)。また、第2供給口13からの溶液供給量を増加させると、更に捕集溶剤中のハイドロキノンを減量しても、参考例1と同程度の重合抑制効果が発揮されることが分かる(実施例3、実施例5)。
また、実施例2及び実施例4の結果からも、捕集溶剤中のハイドロキノンを減量しても、第2供給口13から重合防止剤含有溶液を導入すれば、第2供給口13から溶液を導入しない参考例2と同程度の重合抑制効果が発揮されることが分かる。
なお、第2供給口13から重合防止剤含有溶液を導入しない場合、捕集溶剤中のハイドロキノンの量を1000ppmまで減量すると、ポリマーが多量に生成することが分かる(比較例1)。
<第2供給口を有する蒸留塔を使用する場合>
参考例3
以下では、図2に示すプロセスを使用して検討を行った。
接触気相酸化法によって得られたアクリル酸含有ガス(組成:アクリル酸7.1体積%、酢酸0.3体積%、水14.7体積%、その他(窒素、酸素、プロピレン、プロパン、二酸化炭素、アルデヒド等)77.9体積%)を338Nm3/minで、捕集塔2へ導入した。
捕集塔2の充填物としては、不規則充填物であるCMR(カスケード・ミニ・リング(登録商標)3P マツイマシン社製)を使用した。また、この捕集塔2の塔頂温度を62℃、塔頂圧力を1100hPa abs(絶対圧)に制御して、アクリル酸の捕集を行った。
捕集塔2の塔頂からは、2720kg/hで捕集溶剤を供給した。捕集溶剤(組成:アクリル酸1.5%、酢酸5.4%)は、共沸脱水塔から発生する分離水及び蒸留塔真空発生装置(図示しない)から発生する排出液の一部に、水及び重合防止剤としてハイドロキノンを加えて調製されている。
また、塔頂の排ガスの一部は酸化反応器へ循環し、残りは系外へ廃ガスとして放出した。捕集塔2の塔底部からは、8050kg/hで塔底液(粗アクリル酸溶液)を得た。捕集塔2から抜き出される塔底液を更に放散塔17に導くことで、アクロレイン等のアルデヒド類やアセトンを除去し、放散塔17の塔底よりアクリル酸含有水溶液(組成:アクリル酸70%、酢酸3.4%、マレイン酸0.3%)を得た。得られたアクリル酸含有水溶液を、その後貯蔵タンク18に導入し、貯蔵タンク18に付属する冷却器により40℃まで冷却した。
次いで、冷却されたアクリル酸含有水溶液を、50段の無堰多孔板を備える共沸脱水塔19の中段へ供給した。共沸脱水塔19の塔頂圧力を190hPa abs(絶対圧)、還流比1.0(単位時間当たりの還流液の流量/単位時間当たりの溜出液の流量)に制御し、トルエンを用いて共沸分離運転を行った。共沸脱水塔19の塔頂液を、真空発生装置である蒸気エゼクタの廃水とともに油水分離装置20へ導き、有機相と水相に分離した。共沸脱水塔19の重合防止剤にはジブチルジチオカルバミン酸銅塩、ハイドロキノンモノメチルエーテルを使用した。これら重合防止剤は、予め還流液に溶解しておくことにより塔内に投入した。共沸脱水塔19から抜き出される塔底液を、その後タンクに導入し、タンクに付属する冷却器により40℃まで冷却した。
次いで、冷却された溶液を、45段の無堰多孔板を備える蒸留塔22(高沸点物質分離塔)の塔底(45段、即ち第1供給口)へ供給した。塔頂圧力を45hPa abs(絶対圧)、還流比1.4に制御してアクリル酸の蒸留を実施した。蒸留塔22の重合防止剤には、ジブチルジチオカルバミン酸銅塩、ハイドロキノンモノメチルエーテルを使用した。これらの重合防止剤は、還流液中の濃度が200ppmとなるように適宜投入量を調整した。蒸留塔22の塔頂からは、アクリル酸が5120kg/hで得られた。また、蒸留塔22の塔底からは、塔底液(組成:アクリル酸オリゴマー31%、マレイン酸5%)を抜き出した。
蒸留塔22から抜き出された塔底液を、10段の無堰多孔板を備えるアクリル酸回収塔23の中段に供給した。アクリル酸回収塔23は、塔底部に薄膜蒸発器24及び熱分解槽25を備えている。塔頂圧力を45hPa abs(絶対圧)、還流比0.5に制御してアクリル酸回収塔23を運転した。アクリル酸回収塔23の塔頂より、マレイン酸0.5%を含有するアクリル酸400kg/hを得、貯蔵タンク21に導入した。当該貯蔵タンク21内で、共沸脱水塔19の塔底から抜き出された塔底液と混合して、この溶液を蒸留塔22の塔底(即ち、第1供給口12)から蒸留塔22内に導入した。
一方、アクリル酸回収塔23の塔底液は、薄膜蒸発器24を備えた熱分解槽25に導入し、熱分解槽25の温度150℃、滞留時間40時間で熱分解を行った。熱分解槽25内でアクリル酸ダイマー等のオリゴマーが熱分解され、ここで生成したアクリル酸は薄膜蒸発器24を通してアクリル酸回収塔23に戻され、最終的に蒸留塔22で精製される。アクリル酸回収塔23の重合防止剤には、ジブチルジチオカルバミン酸銅塩、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、酢酸マンガンを使用した。これらの重合防止剤は、予めアクリル酸に溶解しておき、凝縮器(図示しない)にスプレーで投入した。廃油(組成:アクリル酸5.5%、アクリル酸オリゴマー(アクリル酸二量体および三量体)39%)は、170kg/hで熱分解槽25から廃棄した。
この運転条件で1ヶ月稼働させると、蒸留塔内の圧力損失が上昇した。また、この運転条件で約3ヶ月間稼働させ、約3ヶ月の稼働後、装置を停止し内部点検を行ったところ、蒸留塔22の40〜45段の多孔板上にポリマーの生成が観測された。結果を表2に示す。なお表2中、第1供給口12からの流体導入量(kg/h)は、アクリル酸回収塔23から貯蔵タンク21に導入される流体量を意味する。
なお表2において、重合性領域の状態は、以下の各段階で評価した。
◎:ポリマー生成なし
○:蒸留塔の40〜45段の多孔板上にポリマー少量生成
△:蒸留塔の40〜45段の多孔板上にポリマー約5L生成
×:蒸留塔の40〜45段の多孔板上にポリマー約100L以上生成
実施例6
アクリル酸回収塔23から貯蔵タンク21に導入する供給管を分岐して、アクリル酸回収塔23の塔頂から回収される400kg/hのうち、100kg/hを蒸留塔22の中段(35段、即ち第2供給口)から蒸留塔内に投入した。約3ヶ月の稼動の後、装置を停止し、内部点検を行ったところ、蒸留塔内にポリマーは観測されなかった。
実施例7〜実施例10
蒸留塔での還流液中の重合防止剤の総量、蒸留塔の中段(35段、即ち第2供給口)に供給する還流液の量を、表2に記載する量に変更する以外は、実施例6と同様の条件でアクリル酸を製造した。蒸留塔の評価についても、実施例6と同様に行った。
参考例3に示すように、重合防止剤を含有する溶液を第2供給口13から導入しない場合、3ヶ月稼働させると塔内でポリマーが多量に生成する。これに対し、第2供給口13から重合防止剤を含有する溶液を導入すると、重合防止剤の総量が参考例3と同量であっても、ポリマーが生成しなかった(実施例6)。また、第2供給口13からの溶液供給量を増加させると、更に重合防止剤の総量を減量しても、重合抑制効果が発揮されることが分かる(実施例7〜10)。