本発明は、蒸留により精製を行う工程を含む(メタ)アクリル酸の製造方法に関し、具体的には、軽沸分離塔を用いて(メタ)アクリル酸を蒸留精製する工程において、後段の精製工程で発生した精製残渣を軽沸分離塔に返送する場合でも、グリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生を抑え、軽沸分離塔の安定稼働を実現することができる(メタ)アクリル酸の製造方法に関するものである。
グリオキサールは下記式(1)で示されるジアルデヒド化合物であり、(メタ)アクリル酸製造原料の接触気相酸化反応により(メタ)アクリル酸に付随して生成する。グリオキサール(以下、「グリオキサール無水物」ともいう)は水の存在下で、下記に示す平衡反応により水和反応し、式(2)で示されるグリオキサール一水和物や、式(3)で示されるグリオキサール二水和物が生成する。これらグリオキサール水和物はグリオキサール無水物と比較して高沸点化合物となる。このように(メタ)アクリル酸の製造プロセスにおいては、プロセス温度や環境中の水濃度に応じてグリオキサール化合物の水和物形態が変化する。
グリオキサール水和物は脱水縮合することにより2量体や3量体等のグリオキサール縮合物が生成することも知られている。このようなグリオキサール縮合物は、(メタ)アクリル酸溶液に対する溶解度が低く析出しやすいため、(メタ)アクリル酸重合物の発生のきっかけとなり、(メタ)アクリル酸製造設備の安定稼働に悪影響を及ぼしうる。従って、グリオキサール化合物はプロセス中で高濃度に存在しないように、その形態や濃度を適切に制御することが望ましい。
なお、本発明において「グリオキサール水和物」とは、上記の式(2)や式(3)で示されるグリオキサール水和物やその脱水縮合物など複数化学結合したものを含むものである。また、「グリオキサール化合物」には、上記の式(1)で表されるグリオキサール無水物に加え、上記の式(2)や式(3)で示されるグリオキサール水和物やその脱水縮合物など複数化学結合したものも含まれる。
ところで、(メタ)アクリル酸製造プロセスにおけるグリオキサール化合物の挙動に関して本発明者らが検討したところ、(メタ)アクリル酸を蒸留により精製する場合は、軽沸分離塔内でグリオキサール化合物が濃縮されて、(メタ)アクリル酸の重合物の発生が起こりやすくなることが明らかになった。軽沸分離塔の上部と下部を比較すると、軽沸分離塔の下部は上部よりも高温となるため、塔内の水分濃度は下部の方が上部よりも低くなる。そのため、軽沸分離塔の下部ではグリオキサール化合物は無水物形態で存在する割合が上部と比較して多くなるが、グリオキサール無水物は沸点が低いことから、気化して軽沸分離塔の上部に移行しやすくなる。一方、軽沸分離塔の上部では水分濃度が高くなることから、グリオキサール化合物は水和物形態で存在する割合が下部と比較して多くなるが、高沸点化合物であるグリオキサール水和物は軽沸分離塔の下部に移行しやすくなる。このように軽沸分離塔内では、グリオキサール化合物が、その形態を変化させながら軽沸分離塔の上部と下部とを行き来するために軽沸分離塔内で濃縮されやすく、グリオキサール縮合物が発生しやすくなる。グリオキサール縮合物は水和物には戻りにくく、一旦グリオキサール縮合物が軽沸分離塔内で生成すると、軽沸分離塔内に留まり析出しやすくなるため、(メタ)アクリル酸の重合物の発生のきっかけとなり得る。その結果として、軽沸分離塔内でグリオキサール化合物を原因とした(メタ)アクリル酸の重合物の発生が起こりやすくなる。
このように(メタ)アクリル酸を蒸留により精製する場合は、軽沸分離塔で(メタ)アクリル酸とグリオキサール化合物を含む不純物を完全に分離することは難しく、軽沸分離塔から得られた(メタ)アクリル酸(以下、「粗(メタ)アクリル酸」と称する場合がある)中にはグリオキサール化合物が所定濃度で含まれることとなる。そのため、軽沸分離塔から得られた粗(メタ)アクリル酸はさらに別の精製工程に供して、グリオキサール化合物を含む不純物を粗(メタ)アクリル酸から極力除去することが好ましく、その場合には、グリオキサール化合物を比較的高濃度に含む精製残渣が発生することとなる。ただし、この精製残渣中には(メタ)アクリル酸も相当濃度で含まれるため、精製残渣は軽沸分離塔など前段の工程に返送することにより、プロセス全体としての(メタ)アクリル酸収率を高めることが望ましい。しかし、精製残渣を軽沸分離塔に返送した場合は、精製残渣に含まれるグリオキサール化合物によって、軽沸分離塔内でのグリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生がさらに起こりやすくなる。
本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法は、軽沸分離塔を用いて(メタ)アクリル酸を精製する工程とそれより後段の精製工程からの精製残渣を軽沸分離塔に返送する工程を含むものであり、軽沸分離塔内でのグリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生を抑え、軽沸分離塔の安定稼働を実現するものである。具体的には、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法は、(メタ)アクリル酸製造原料を接触気相酸化反応して(メタ)アクリル酸含有ガスを得る工程と、(メタ)アクリル酸含有ガスを、捕集溶剤と接触させることにより、および/または、冷却して凝縮させることにより、(メタ)アクリル酸含有液を得る工程と、前記(メタ)アクリル酸含有液を軽沸分離塔に導入して、粗(メタ)アクリル酸を得る工程と、前記粗(メタ)アクリル酸を精製し、精製(メタ)アクリル酸と、グリオキサール化合物を含有する精製残渣とを得る工程と、前記精製残渣の少なくとも一部を前記軽沸分離塔に返送する工程とを有し、軽沸分離塔への精製残渣の返送位置を、軽沸分離塔の(メタ)アクリル酸含有液の供給口より塔底側の位置とするものである。以下、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法について説明する。
まず、接触気相酸化反応工程では、(メタ)アクリル酸製造原料を接触気相酸化反応して(メタ)アクリル酸含有ガスを得る。(メタ)アクリル酸製造原料としては、反応により(メタ)アクリル酸が生成するものであれば特に限定なく用いることができ、例えば、プロパン、プロピレン、(メタ)アクロレイン、イソブチレン等が挙げられる。アクリル酸は、例えば、プロパン、プロピレンまたはアクロレインを1段で酸化させたり、プロパンやプロピレンをアクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。アクロレインは、プロパンやプロピレンを原料として、これを酸化させることにより得られるものに限定されず、例えば、グリセリンを原料として、これを脱水させることにより得られるものであってもよい。メタクリル酸は、例えば、イソブチレンやメタクロレインを1段で酸化させたり、イソブチレンをメタクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。
接触気相酸化に用いられる触媒としては従来公知の触媒を用いることができる。例えば、プロピレンをアクリル酸製造原料として用いる場合、触媒としては、モリブデンとビスマスを含む複合酸化物触媒(モリブデン−ビスマス系触媒)を用いることが好ましい。プロパンやアクロレインをアクリル酸製造原料として用いる場合、触媒としては、モリブデンとバナジウムを含む複合酸化物触媒(モリブデン−バナジウム系触媒)を用いることが好ましい。
接触気相酸化反応を行う反応器としては、固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器等を使用することができる。なかでも、反応効率に優れる点で多管式固定床反応器を用いることが好ましい。(メタ)アクリル酸製造原料を2段で酸化反応させて(メタ)アクリル酸を生成する場合は、1段目の酸化反応を行う反応器と2段目の酸化反応を行う反応器を組み合わせたり、1つの反応器内を1段目の酸化反応を行う領域と2段目の酸化反応を行う領域とに分けることにより、(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸を生成してもよい。後者の場合、例えば固定床反応器では、固定床反応器の反応管の入口側((メタ)アクリル酸製造原料の導入側)に1段目の酸化反応を行うための触媒を充填し、出口側に2段目の酸化反応を行う触媒を充填すればよい。
(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸含有ガスを生成する反応は、公知の反応条件で行えばよい。例えば、プロピレンを2段で酸化反応させてアクリル酸を生成する場合、プロピレン含有ガスを分子状酸素とともに反応器に導入して、例えば、反応温度250℃〜450℃、反応圧力0MPaG〜0.5MPaG、空間速度300h-1〜5000h-1の条件で1段目の酸化反応を行い、次いで、反応温度250℃〜380℃、反応圧力0MPaG〜0.5MPaG、空間速度300h-1〜5000h-1の条件で2段目の酸化反応を行えばよい。
接触気相酸化反応工程で得られた(メタ)アクリル酸含有ガスは、捕集溶剤と接触させることにより、および/または、冷却して凝縮させることにより、(メタ)アクリル酸含有液が得られる。前者の場合、(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入して捕集溶剤と接触させることにより、捕集溶剤に(メタ)アクリル酸が吸収されて(メタ)アクリル酸含有液が得られる(捕集工程)。後者の場合は、(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮塔に導入し、冷却することにより、(メタ)アクリル酸が凝縮して(メタ)アクリル酸含有液が得られる(凝縮工程)。
捕集塔としては、捕集塔内で(メタ)アクリル酸含有ガスと捕集溶剤とを接触させることができるものであれば特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集塔の下部から捕集塔内に導入するとともに、捕集溶剤を捕集塔の上部から捕集塔内に導入することにより、(メタ)アクリル酸含有ガスが捕集塔内を上昇する間に捕集溶剤と向流接触して、(メタ)アクリル酸が捕集溶剤に吸収され、(メタ)アクリル酸含有液として回収される。捕集塔としては、例えば、塔内に棚板(シーブトレイ)が設けられた棚段塔、塔内に充填物が充填された充填塔、塔内壁表面に捕集溶剤が供給される濡れ壁塔、塔内空間に捕集溶剤がスプレーされるスプレー塔等を採用することができる。
捕集溶剤としては、(メタ)アクリル酸を吸収し、溶解できるものであれば、特に限定されないが、例えば、ジフェニルエーテル、ジフェニル、ジフェニルエーテルとジフェニルとの混合物、水、(メタ)アクリル酸含有水(例えば、(メタ)アクリル酸製造プロセス内で生成する(メタ)アクリル酸を含む水溶液)等を使用することができる。なかでも、捕集溶剤としては、水または(メタ)アクリル酸含有水を用いることが好ましく、水を50質量%以上(より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上)含有する(メタ)アクリル酸含有水または水を用いることがより好ましい。
捕集溶剤の温度や供給量は、(メタ)アクリル酸含有ガス中に含まれる(メタ)アクリル酸が捕集溶剤に十分吸収されるように、適宜設定されればよい。捕集溶剤の温度は、(メタ)アクリル酸の捕集効率を高める点から、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、また35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。捕集溶剤の供給量は、(メタ)アクリル酸含有ガスの捕集塔への供給量(G)に対する捕集溶剤の捕集塔への供給量(L)の比で示される液ガス比(L/G)が、2L/m3以上であることが好ましく、3L/m3以上がより好ましく、5L/m3以上がさらに好ましく、また15L/m3以下が好ましく、12L/m3以下がより好ましく、10L/m3以下がさらに好ましい。
捕集溶剤に吸収された(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリル酸含有液として捕集塔から抜き出される。(メタ)アクリル酸含有液は、例えば、捕集塔の(メタ)アクリル酸含有ガスの供給位置より下方の位置(例えば、捕集塔の底部)から抜き出せばよい。
捕集塔は、捕集塔から排出された(メタ)アクリル酸含有液の一部を、捕集塔の(メタ)アクリル酸含有ガスの供給位置および(メタ)アクリル酸含有液の排出位置より上方かつ捕集溶剤の供給位置より下方の位置に返送する循環ラインを有していることが好ましい。循環ラインを通して、捕集塔から排出された(メタ)アクリル酸含有液の一部を捕集塔に戻して循環させることにより、(メタ)アクリル酸含有液の(メタ)アクリル酸濃度を高めることができる。循環ラインには、循環ラインを通る(メタ)アクリル酸を冷却するための熱交換器が設けられることが好ましい。
一方、(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮させることにより(メタ)アクリル酸含有液を得る場合は凝縮塔を用いることが好ましく、凝縮塔としては、例えば、伝熱面を備えた熱交換器を用いることができる。伝熱面を介して(メタ)アクリル酸含有ガスを冷却することにより、(メタ)アクリル酸含有ガスから(メタ)アクリル酸を凝縮させることができ、その結果、(メタ)アクリル酸含有液が得られる。熱交換器としては従来公知の熱交換器を用いればよく、例えば、プレート式熱交換器、多管式(シェル・アンド・チューブ式)熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、スパイラル式熱交換器等を採用することができる。熱交換器は、複数を直列に繋げることにより、多段で(メタ)アクリル酸含有ガスを冷却して、分別凝縮することにより(メタ)アクリル酸含有液を回収してもよい。
凝縮塔としては、(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮液と接触させて、(メタ)アクリル酸含有ガスから(メタ)アクリル酸含有液を得るものでもよい。この場合、凝縮塔内に棚板(シーブトレイ)を設けたり、凝縮塔内に充填物を充填して、(メタ)アクリル酸含有ガスと凝縮液との接触効率を高めるようにすることが好ましい。このような凝縮塔を用いることで、(メタ)アクリル酸含有ガスは、例えば、凝縮塔の下部から凝縮塔内に導入されて凝縮塔内を下部から上部に移動する間に分別凝縮される。このとき、例えば(メタ)アクリル酸含有液は凝縮塔の中段から抜き出され、(メタ)アクリル酸より高沸点の物質は凝縮塔の下段から抜き出され、(メタ)アクリル酸より低沸点の物質は凝縮塔の上段から抜き出される。凝縮塔からは、各段において凝縮液の一部を抜き出して熱交換器等で冷却した後、凝縮塔の同じ段に戻してもよい。なお、凝縮塔に返送される凝縮液には、一般に、凝縮塔で発生した凝縮液以外の液媒体は加えられない。
(メタ)アクリル酸含有ガスから(メタ)アクリル酸含有液を得る際、捕集塔や凝縮塔では、(メタ)アクリル酸の重合を抑制するために重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤としては、従来公知の重合防止剤を用いることができ、例えば、ハイドロキノン、メトキノン(p−メトキシフェノール)等のキノン類;フェノチアジン、ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、ビス−(α−ジメチルベンジル)フェノチアジン等のフェノチアジン類;2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4,4’,4”−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイト等のN−オキシル化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、アクリル酸銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅等の銅塩化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、ギ酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン等のマンガン塩化合物;N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンやその塩、p−ニトロソフェノール、N−ニトロソジフェニルアミンやその塩等のニトロソ化合物等が挙げられる。これらの重合防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル酸含有液の(メタ)アクリル酸濃度は特に限定されないが、例えば80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上が特に好ましい。(メタ)アクリル酸含有液の(メタ)アクリル酸濃度の上限は特に限定されないが、通常97質量%以下である。
上記のようにして得られた(メタ)アクリル酸含有液は、軽沸分離塔に導入して、粗(メタ)アクリル酸を得る(軽沸分離工程)。軽沸分離塔には、得られた(メタ)アクリル酸含有液の全部を導入してもよく、一部のみを導入してもよい。軽沸分離塔では、(メタ)アクリル酸含有液から低沸点留分の少なくとも一部を除去することにより、粗(メタ)アクリル酸が得られる。低沸点留分は粗(メタ)アクリル酸よりも低沸点側の留分、すなわち軽沸分離塔において粗(メタ)アクリル酸よりも塔頂側から抜き出される留分を意味する。低沸点留分には、水や酢酸などの(メタ)アクリル酸よりも沸点の低い化合物が含まれる。
軽沸分離塔としては、一般に蒸留塔として使用される塔型設備を用いることができ、塔内に棚板(シーブトレイ)が設けられた棚段塔(例えば多孔板塔や泡鐘塔)や、塔内に充填物が充填された充填塔を用いることができる。軽沸分離塔は塔頂部と塔中部と塔底部を有し、軽沸分離塔を高さ方向に区分したときに、棚段または充填物が設けられた高さ方向の範囲を塔中部と称し、それよりも塔頂側を塔頂部、それよりも塔底側を塔底部と称する。
(メタ)アクリル酸含有液は、軽沸分離塔の塔中部の供給口より供給することが好ましい。(メタ)アクリル酸含有液の供給口は、例えば、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の5%以上75%以下の範囲に設けることが好ましく、当該範囲は10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、また70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましい。
低沸点留分は、(メタ)アクリル酸含有液の供給口よりも塔頂側から抜き出す。低沸点留分は、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の0%以上5%未満の範囲の位置から抜き出すことが好ましく、塔頂部から抜き出すことが特に好ましい。軽沸分離塔から留出した低沸点留分は、前段の捕集塔や凝縮塔に返送することが好ましい。捕集塔に返送する際には、特に限定されるものではないが、例えば、捕集塔の塔底を基点(0%)とし塔頂を終点(100%)としたときの捕集塔の全長において、20%以上90%以下の範囲に返送することが好ましく、30%以上80%以下の範囲に返送することがさらに好ましい。
粗(メタ)アクリル酸は、軽沸分離塔の塔中部および/または塔底部の抜き出し口から抜き出す。すなわち粗(メタ)アクリル酸は、軽沸分離塔の塔中部から抜き出される留分(留出液)、および/または、塔底部から抜き出される缶出液として得られる。粗(メタ)アクリル酸の抜き出し口は、(メタ)アクリル酸含有液の供給口よりも塔底側に設けられることが好ましく、例えば、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の20%以上100%以下の範囲に設けられることが好ましく、当該範囲は25%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましい。なお、粗(メタ)アクリル酸の抜き出し口は塔中部に設けることが好ましく、これにより高沸点成分の含有量が低減された粗(メタ)アクリル酸を得ることができる。すなわち、この場合、塔底部から高沸点成分が多く含まれた塔底液が抜き出されるため、塔中部から抜き出した粗(メタ)アクリル酸中の(メタ)アクリル酸濃度を高めやすくなる。この場合、粗(メタ)アクリル酸の抜き出し口は、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の90%以下の範囲に設けることが好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
軽沸分離塔の塔底部から抜き出された塔底液の一部は、リボイラー等の加熱手段によって加熱することにより軽沸分離塔に返送してもよい。この際、塔底液の一部は軽沸分離塔の塔底部に返送することが好ましく、これにより軽沸分離塔内の温度調節が容易になる。
軽沸分離塔では、捕集溶剤や酢酸等を含む低沸点留分と粗(メタ)アクリル酸とを分離することができる条件で蒸留することが好ましく、そのような蒸留が可能となるように軽沸分離塔内の温度や圧力を適宜調整することが好ましい。例えば、塔頂圧力(絶対圧)は2kPa以上が好ましく、3kPa以上がより好ましく、また50kPa以下が好ましく、40kPa以下がより好ましく、30kPa以下がさらに好ましい。塔頂温度は、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、また70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。塔底温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、また120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。このような条件で蒸留を行うことにより、捕集溶剤や酢酸濃度が低減された粗(メタ)アクリル酸(例えば、水濃度と酢酸濃度がともに1質量%以下)を得ることが容易になる。
軽沸分離塔では、(メタ)アクリル酸の重合を抑制するために重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤としては、上記に説明した各種の重合防止剤を使用することができる。
粗(メタ)アクリル酸を塔中部から抜き出す場合は、粗(メタ)アクリル酸を液として抜き出してもよく、蒸気として抜き出してもよい。粗(メタ)アクリル酸を液として塔中部から抜き出すには、例えば棚段塔において、棚段の位置に抜き出し口を設けたり、棚段にチムニーなどを設ければよい。液として抜き出すことで、凝縮などの追加操作を行うことなく次工程に粗(メタ)アクリル酸を供給することができる。粗(メタ)アクリル酸を蒸気として抜き出す場合は、不純物の含有量が比較的少ない粗(メタ)アクリル酸が得られるため、次工程の精製工程に供したときに、粗(メタ)アクリル酸の精製が容易となり、高純度の精製(メタ)アクリル酸を得やすくなる。軽沸分離塔内では塔頂から塔底に向かって還流液が流れ落ち、棚段上には還流液の一部が溜まった状態で存在するが、棚段から十分上方の位置に抜き出し口を設けることで、還流液の抜き出しを抑えて、粗(メタ)アクリル酸を蒸気の形態で優先的に抜き出すことが容易になる。
軽沸分離塔において蒸留による分離精製が好適に行われ、かつ粗(メタ)アクリル酸を塔中部から蒸気質として抜き出すことを容易にするためには、塔底部圧力>塔中部圧力>塔頂部圧力となるように軽沸分離塔内の圧力を制御することが好ましい。例えば、軽沸分離塔の塔頂部圧力を減圧装置によって蒸留に至適な範囲に調整し、次いで、塔頂部の圧力と塔中部の圧力を当該減圧装置によって制御し、塔中部の圧力を塔頂部圧力よりも高くする。このように軽沸分離塔内での圧力差を設定することで、軽沸分離塔内で蒸留が好適に行われるようにしつつ、塔中部から粗(メタ)アクリル酸を蒸気で抜き出すことが容易になる。なお、塔頂部圧力に対する塔中部の圧力は、塔中部の抜き出し位置、塔中部からの抜き出し量、含まれる不純物量などによって適宜選択すればよい。例えば、予め塔中部圧力が塔頂部圧力よりも高い圧力となるように蒸留を行い、塔中部から抜き出された粗(メタ)アクリル酸の組成や留出量を基準にして各圧力を制御して、好ましい塔頂部圧力と塔中部圧力の差圧を設定すればよい。
(メタ)アクリル酸含有液の蒸留では、共沸溶媒を使用しても使用しなくてもよい。なお、(メタ)アクリル酸含有液の(メタ)アクリル酸濃度が80質量%以上となるような場合は、共沸溶媒を使用しなくても低沸点留分を分離することが容易になるため、共沸溶媒を使用しないことが好ましい。
軽沸分離塔から得られる粗(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリル酸濃度は、(メタ)アクリル酸含有液よりも高ければ特に限定されないが、例えば80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上が特に好ましい。粗(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリル酸濃度の上限は特に限定されないが、通常99.5質量%未満である。また、粗(メタ)アクリル酸のグリオキサール化合物濃度は、通常100質量ppm以上2000質量ppm以下程度である。
軽沸分離工程で得られた粗(メタ)アクリル酸は、精製工程に供される。精製工程では、粗(メタ)アクリル酸が精製され、精製(メタ)アクリル酸と、グリオキサール化合物を含有する精製残渣とが得られる。なお、精製残渣は粗(メタ)アクリル酸よりも(メタ)アクリル酸濃度が低いものとなる。グリオキサール化合物濃度は、一般に、精製残渣の方が粗(メタ)アクリル酸よりも高く、また粗(メタ)アクリル酸の方が精製(メタ)アクリル酸よりも高くなる。例えば、精製(メタ)アクリル酸のグリオキサール化合物濃度が500質量ppm未満となり、一方、精製残渣のグリオキサール化合物濃度は500質量ppm以上3000質量ppm以下となる。
精製工程における精製手段は、精製(メタ)アクリル酸と、グリオキサール化合物を含有する精製残渣とが得られるものであれば特に限定されない。精製手段としては、晶析、蒸留(分留)、放散、抽出等が挙げられ、これらは複数を組み合わせてもよい。本発明では、後述するように、このようにして得られた精製残渣を軽沸分離塔に返送する。
精製手段として蒸留を採用する場合は、上記に説明したような一般に蒸留塔として使用される塔型設備を用いることができる。蒸留による精製においては、蒸留塔の塔頂側から精製(メタ)アクリル酸が抜き出され、塔底部より蒸留残渣として前記精製残渣が得られることになる。
精製工程を蒸留により行う場合の蒸留塔の運転条件としては、例えば、塔頂圧力(絶対圧)が0kPa以上であることが好ましく、3kPa以上がより好ましく、また50kPa以下が好ましく、40kPa以下がより好ましく、30kPa以下がさらに好ましい。塔頂温度は、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、また70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。塔底温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、また120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。
本発明では、精製手段として、晶析を採用することが好ましい。この場合、粗(メタ)アクリル酸を晶析器に導入して精製し、晶析残渣として前記精製残渣が得られることとなる。精製手段として晶析を採用することにより、例えば精製を蒸留により行う場合と比べて、粗(メタ)アクリル酸が高温に晒されることがないため、精製工程でグリオキサール化合物に起因する問題が起こりにくくなる。また、精製手段として晶析を採用することにより、粗(メタ)アクリル酸を結晶化させた際に、粗(メタ)アクリル酸に含まれるグリオキサール化合物を晶析残渣(未結晶残渣)側に高い割合で移行させやすくなり、グリオキサール化合物濃度の低い精製(メタ)アクリル酸を得ることが容易になる。この場合、晶析残渣には比較的高濃度のグリオキサール化合物が含まれることとなるが、本発明ではそのような晶析残渣を後述するように軽沸分離塔に返送する場合でも、軽沸分離塔内でグリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生を抑えることができる。
晶析工程では、粗(メタ)アクリル酸を晶析器に導入して、精製(メタ)アクリル酸と、グリオキサール化合物を含有する晶析残渣とが得られる。晶析は回分式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。
回分式晶析操作では、粗(メタ)アクリル酸を冷却することにより(メタ)アクリル酸が結晶化し、結晶化した(メタ)アクリル酸を回収することにより精製(メタ)アクリル酸が得られる。一方、粗(メタ)アクリル酸を冷却した際の未結晶残渣は、晶析残渣として晶析器から排出される。晶析工程において結晶化した(メタ)アクリル酸((メタ)アクリル酸結晶)は、融解することにより(メタ)アクリル酸融解液が得られ、これを精製(メタ)アクリル酸として回収することが好ましい。また、得られる(メタ)アクリル酸融解液の純度を上げることを目的に、(メタ)アクリル酸結晶をまず部分的に融解(発汗)し、結晶間や結晶表面に存在する不純物を洗い流し、その後残りの(メタ)アクリル酸結晶を融解して、精製(メタ)アクリル酸を回収することが好ましい。その際、前者の融解液、すなわち(メタ)アクリル酸結晶を部分的に融解して得られた発汗液は、晶析残渣として晶析器から排出することが好ましい。
連続式晶析操作は、例えば、粗(メタ)アクリル酸を晶析器へ連続的に供給し冷却して(メタ)アクリル酸を結晶化し、(メタ)アクリル酸結晶と母液からなるスラリーを晶析器から連続的に排出し、さらに、洗浄カラムに当該スラリーを供給し、(メタ)アクリル酸結晶を洗浄しつつ母液から連続的に分離することなどにより行うことができる。
晶析器としては、粗(メタ)アクリル酸を結晶化できるものであれば特に限定されない。晶析器としては、例えば、伝熱面を有し、伝熱面での熱交換によって(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化および/または融解できる晶析器が挙げられる。この場合、伝熱面の一方側に冷熱媒を供給し他方側に粗(メタ)アクリル酸を供給することにより、伝熱面を介した熱交換によって(メタ)アクリル酸含有溶液が冷却されて、(メタ)アクリル酸が結晶化する。回分式晶析操作では、結晶化した(メタ)アクリル酸は、伝熱面の一方側に温熱媒を供給し、伝熱面を介した熱交換によって加温されて、(メタ)アクリル酸融解液が得られる。(メタ)アクリル酸の融解は、結晶化で用いたのと同一の伝熱面を加温することにより行ってもよいし、結晶化した(メタ)アクリル酸を回収して、結晶化で使用したのとは別の伝熱面を介して、回収した(メタ)アクリル酸結晶を加温してもよい。伝熱面を有する晶析器としては、一般に熱交換器として用いられる装置を採用することができる。例えば、プレート式熱交換器、多管式(シェル・アンド・チューブ式)熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、スパイラル式熱交換器等を採用することができる。
回分式の晶析装置としては、例えば、Sulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置等を使用することができる。
連続式の晶析器としては、例えば、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体になった晶析装置(例えば、BMC(Backmixing Column Crystallizer)型晶析器)や、結晶化部(例えば、GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)晶析装置やGEA社製のDC(Drum Crystallizer)晶析装置)、固液分離部(例えば、ベルトフィルター、遠心分離器)および結晶精製部(例えば、クレハエンジニアリング社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置やGEA社製のWC(Wash Column)精製装置)を組み合わせた晶析装置等を使用することができる。
回分式晶析操作では、結晶化と融解を交互に複数回繰り返し、より純度の高い精製(メタ)アクリル酸を得ることが好ましい。すなわち、粗(メタ)アクリル酸を結晶化および融解して(メタ)アクリル酸融解液を得た後、得られた(メタ)アクリル酸を結晶化および融解することを1回以上行い、精製(メタ)アクリル酸を得ることが好ましい。結晶化と融解の回数は、得られる精製(メタ)アクリル酸の純度と生産効率(単位時間あたりの生産量)を勘案し、適宜設定すればよい。
本発明の製造方法では、このようにして得られた精製残渣を軽沸分離塔に返送する。なお、晶析工程において結晶化と融解を複数回繰り返す場合は、少なくとも1回目の結晶化で得られた晶析残渣(精製残渣)の全部または一部を軽沸分離塔に返送することが好ましい。晶析残渣(精製残渣)の一部を軽沸分離塔に返送する場合は、残りの晶析残渣(精製残渣)は後述する高沸分離工程へ供給することが好ましい。1回目の結晶化で得られる晶析残渣は、特に晶析器に供給する粗(メタ)アクリル酸よりも(メタ)アクリル酸濃度が低く、また不純物を多く含むためである。2回目以降(例えばk回目であり、kは2以上の整数である)の結晶化で得られる晶析残渣は、それより前の回(すなわちk−1回目かそれより前)の結晶化に供してもよい。
粗(メタ)アクリル酸を結晶化する際の伝熱面の温度(冷熱媒を使用する場合は、冷熱媒の温度)は、(メタ)アクリル酸の凝固点未満であれば特に限定されない。(メタ)アクリル酸結晶を融解する際の伝熱面の温度(温熱媒を使用する場合は、温熱媒の温度)は、(メタ)アクリル酸の融点超であれば特に限定されないが、高温では(メタ)アクリル酸が重合するため、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。
精製工程では、(メタ)アクリル酸の重合を抑制するために重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤としては、上記に説明した各種の重合防止剤を使用することができる。
精製工程で得られた精製(メタ)アクリル酸はさらに任意の精製手段により精製してもよいが、さらなる精製は行わずに、製品(メタ)アクリル酸として取り扱うことが好ましい。精製(メタ)アクリル酸のアクリル酸濃度は、例えば99.5質量%以上であることが好ましく、99.7質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましい。精製(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリル酸エステルやポリアクリル酸ナトリウム等の製造原料として用いてもよい。
本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法では、上記のようにして得られた精製残渣の少なくとも一部を軽沸分離塔に返送する(返送工程)。精製残渣には(メタ)アクリル酸が相当濃度で含まれ、軽沸分離塔に導入される(メタ)アクリル酸含有液よりも(メタ)アクリル酸濃度が高くなり得る。そのため、精製残渣を軽沸分離塔に返送することにより、プロセス全体としての(メタ)アクリル酸収率を高めることができる。このように精製残渣を軽沸分離塔に返送する場合、精製残渣は、軽沸分離塔の(メタ)アクリル酸含有液の供給口に繋がる供給ラインに導入することが、設備上簡便である。この場合、精製残渣は(メタ)アクリル酸含有液の供給口から軽沸分離塔に導入されることになるが、本発明者らが検討したところ、そのように精製残渣を軽沸分離塔に返送した場合、軽沸分離塔内でグリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生が起こりやすくなり、それを解消するためには、精製残渣を、軽沸分離塔の(メタ)アクリル酸含有液の供給口より塔底側の位置に返送することが有効であることが明らかになった。
本発明の製造方法では、精製残渣を軽沸分離塔の(メタ)アクリル酸含有液の供給口より塔底側の位置に返送することにより、精製残渣に含まれるグリオキサール化合物が軽沸分離塔内でより熱履歴を受けやすくなり、グリオキサール化合物が(メタ)アクリル酸の重合物の発生に影響しない他の化合物に変化する割合が高まると考えられる。その結果、精製残渣を軽沸分離塔の(メタ)アクリル酸含有液の供給口から返送する場合と比べて、塔内でのグリオキサール化合物濃度が低下し、グリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生が起こりにくくなると考えられる。後述する実施例でも説明するように、精製残渣を軽沸分離塔の(メタ)アクリル酸含有液の供給口より塔底側の位置に返送することで、グリオキサール化合物の軽沸分離塔内での変質率が高まるとともに、軽沸分離塔内での(メタ)アクリル酸の重合物の発生が見られなかったとの結果が得られており、このことは、グリオキサール化合物が(メタ)アクリル酸の重合物の発生に影響しない他の化合物に変化したことを示している。
なお、グリオキサール化合物の変質率は、式:[[{(軽沸分離塔に導入した(メタ)アクリル酸含有液中のグリオキサール化合物量)+(軽沸分離塔に返送された精製残渣中のグリオキサール化合物量)+(その他の軽沸分離塔に返送されたグリオキサール化合物量)}−{(軽沸分離塔の塔中部から抜き出した粗(メタ)アクリル酸中のグリオキサール化合物量)+(軽沸分離塔の塔底部から抜き出した塔底液中のグリオキサール化合物量)+(軽沸分離塔の塔頂部から抜き出した低沸点留分中のグリオキサール化合物量)}]/{(軽沸分離塔に導入した(メタ)アクリル酸含有液中のグリオキサール化合物量)+(軽沸分離塔に返送された精製残渣中のグリオキサール化合物量)+(その他の軽沸分離塔に返送されたグリオキサール化合物量)}]×100により求められ、軽沸分離塔に供給されたグリオキサール化合物量に対して、軽沸分離塔内に堆積したグリオキサール化合物量と、軽沸分離塔内で他の化合物に変化したグリオキサール化合物量を合わせた割合を表す。上記式中、グリオキサール化合物量は、グリオキサール無水物、グリオキサール水和物、グリオキサール縮合物を合わせた量(質量基準)を意味する。連続運転の場合は、単位時間当たりのそれぞれの液中のグリオキサール化合物の量(質量基準)を用いて、グリオキサール化合物量を算出することができる。また、「その他の軽沸分離塔に返送されたグリオキサール化合物量」としては、後述するように、軽沸分離塔に返送された高沸分離塔からの留出液中のグリオキサール化合物量等が挙げられる。グリオキサール化合物の変質率は、例えば、8%以上であることが好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。
返送工程では、グリオキサール化合物を(メタ)アクリル酸の重合物の発生に影響しない他の化合物に変化させる割合を高める点から、精製残渣は、軽沸分離塔のより塔底側に返送することが好ましく、具体的には、軽沸分離塔の塔頂部から塔底部において塔頂側を基点とする総理論段数の30%以上100%以下の範囲に返送することが好ましく、当該範囲は50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、90%以上がさらにより好ましい。精製残渣は、軽沸分離塔の塔底部に返送することが特に好ましく、具体的には、軽沸分離塔の塔底部の液中に返送することが好ましい。
なお、このように精製残渣を軽沸分離塔の塔底側に返送することは、従来は基本的に行われてこなかった。この理由としては、軽沸分離塔では塔底側がより高温となるために(メタ)アクリル酸のミカエル付加反応が起こりやすくなることや、(メタ)アクリル酸が重合することで(メタ)アクリル酸の重合物が発生しやすくなると考えられていたことが挙げられる。また、精製残渣中に重合防止剤が含まれる場合は、精製残渣を軽沸分離塔の塔底側に返送すると、精製残渣中に含まれる重合防止剤が軽沸分離塔内での重合防止にあまり寄与しなくなるため、重合防止の観点からは非効率となるといった事情もあった。さらに、精製残渣中に低沸点成分が多く含まれる場合は、精製残渣を軽沸分離塔の塔底側に返送すると、軽沸分離塔内でフラッシュが起こりやすくなり、軽沸分離塔を安定に稼働することができなくなるおそれもあるため、必ずしも好ましいとはいえなかった。そのような状況にも関わらず、本発明者らが検討したところ、精製残渣の軽沸分離塔への返送位置を適切に設定して、精製残渣を軽沸分離塔の塔底側に返送することにより、軽沸分離塔でグリオキサール化合物が(メタ)アクリル酸の重合物に影響しない他の化合物に変化する割合が高まり、軽沸分離塔内での(メタ)アクリル酸の重合物の発生が起こりにくくなることが明らかになった。
なお、上記に説明したように、精製残渣を軽沸分離塔の塔底側に返送した場合、精製残渣に含まれる(メタ)アクリル酸が軽沸分離塔内でより熱履歴を受けやすくなる結果、(メタ)アクリル酸のミカエル付加反応が起こりやすくなる。従って、軽沸分離塔からより高純度の粗(メタ)アクリル酸を得る点からは、粗(メタ)アクリル酸を軽沸分離塔の塔中部から抜き出すとともに、軽沸分離塔の塔底部から塔底液を抜き出して高沸分離塔に導入することが好ましい(高沸分離工程)。
軽沸分離塔の塔底液には(メタ)アクリル酸が相当濃度含まれるとともに、ミカエル付加物やマレイン酸などの(メタ)アクリル酸よりも高沸点の成分が多く含まれることから、軽沸分離塔の塔底液を高沸分離塔に導入して蒸留することにより、高沸点成分の低減された(メタ)アクリル酸含有留出液を得ることができる。この留出液は軽沸分離塔に返送することが好ましく、これによりプロセス全体としての(メタ)アクリル酸収率を高めることができる。
高沸分離塔は、上記に説明した棚段塔や充填塔等の塔型設備を用いることができる。高沸分離塔では、理論段数1〜20段にて、1kPa〜50kPa(絶対圧)の圧力下で、塔底温度120℃以下で蒸留することが好ましい。高沸分離塔からは、塔頂部から留出液を抜き出して、軽沸分離塔に返送することが好ましい。この留出液中にもグリオキサール化合物が含まれる場合がある。なお、高沸分離塔から抜き出した留出液には高沸点成分がある程度含まれるため、高沸分離塔の留出液は軽沸分離塔の塔底部に返送することが好ましく、これにより、軽沸分離塔から得られる粗(メタ)アクリル酸の純度を高めやすくなる。本発明では、グリオキサール化合物を含有する精製残渣を高沸分離塔の留出液と混合して軽沸分離塔に返送してもよく、このように精製残渣を軽沸分離塔に返送することにより、軽沸分離塔内でのグリオキサール化合物の局所的な高濃度化を緩和することができる。
高沸分離塔の塔底部からは、ミカエル付加物等の高沸点成分が濃縮された塔底液が得られる。(メタ)アクリル酸のミカエル付加物は、熱分解することにより(メタ)アクリル酸に戻すことができるため、高沸分離塔の塔底液は(メタ)アクリル酸二量体分解装置に導入することが好ましい。そして、(メタ)アクリル酸二量体分解装置から得られる液は、高沸分離塔に返送することが好ましい。
(メタ)アクリル酸二量体分解装置は熱分解槽から構成され、高沸分離塔の塔底液を熱分解槽で120℃以上220℃以下(好ましくは140℃以上200℃以下)の温度で加熱することにより、塔底液に含まれるミカエル付加物を分解することができる。熱分解槽の滞留時間(熱分解槽容量(m3)/廃油量(m3/h))は熱分解温度によって変わるが、通常0.1時間〜60時間の間で適宜調整すればよく、当該滞留時間は5時間以上が好ましく、15時間以上がより好ましく、また50時間以下が好ましく、40時間以下がより好ましい。また、ミカエル付加物の分解を促進するために、熱分解槽には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、特開2003−89672号公報に記載のN−オキシル化合物などの分解触媒を添加することが好ましい。特に軽沸分離塔やそれより前段の捕集塔や凝縮塔で重合防止剤としてN−オキシル化合物を用いる場合には、ミカエル付加物の分解触媒としても作用することができるので好ましい。
高沸分離塔の塔底液は、高沸分離塔の塔底側に薄膜蒸発器を設けて、当該薄膜蒸発器で加熱してもよいし、多管式熱交換器、プレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器等の一般的な熱交換器を設けて、当該熱交換器で加熱してもよい。必要であれば、薄膜蒸発器の缶出液や熱交換器の出口液を(メタ)アクリル酸二量体分解装置(熱分解槽)に導入してもよい。また、(メタ)アクリル酸二量体分解装置からの留出液を高沸分離塔に返送する際には、薄膜蒸発器や熱交換器を介して高沸分離塔に返送してもよい。
上記のように高沸分離塔などを設置する場合、前述のグリオキサール化合物を含有する精製残渣は、高沸分離塔などの精製装置を介して軽沸分離塔に返送してもよいが、高沸分離塔などの精製装置を介さずに軽沸分離塔に返送することが好ましい。すなわち、精製残渣は、さらに精製することなく軽沸分離塔に返送することが好ましい。精製残渣を高沸分離塔に返送した場合、精製残渣に含まれる(メタ)アクリル酸が過剰な熱履歴を受けて(メタ)アクリル酸の重合物やミカエル付加物が多く生成しやすくなり、(メタ)アクリル酸の回収効率が低下したり、(メタ)アクリル酸二量体分解装置の処理量が増えることにより分解装置の増設が必要となったりするおそれがあるためである。また、高沸分離塔で不純物の濃縮が起こり、高沸分離塔からの留出液の(メタ)アクリル酸濃度も低下しやすくなる。なお、精製残渣をさらに精製することなく軽沸分離塔に返送する場合であっても、精製残渣をタンクに一時貯留することなどは許容される。
次に、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法の実施態様例について、図1〜図4を参照して説明する。なお、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法は図面に示された実施態様に限定されるものではない。
図1に示した製造フローでは、まず、(メタ)アクリル酸製造原料11を反応器1に導入して接触気相酸化反応させることにより、(メタ)アクリル酸含有ガス12を得る。次いで、(メタ)アクリル酸含有ガス12を捕集塔2に導入して、(メタ)アクリル酸含有液13を得る。捕集塔2では、(メタ)アクリル酸含有ガス12が捕集塔2の下部から導入されるとともに、捕集溶剤21が捕集塔2の上部から供給され、(メタ)アクリル酸含有ガス12と捕集溶剤21とを接触させることにより(メタ)アクリル酸含有液13が得られる。得られた(メタ)アクリル酸含有液13は、捕集塔2の塔底から排出される。捕集塔2の塔頂からの排出ガス22は、一部がリサイクルガスとして反応器1の入口側に戻される。
得られた(メタ)アクリル酸含有液13は軽沸分離塔3に導入して、粗(メタ)アクリル酸14が得られる。軽沸分離塔3では(メタ)アクリル酸含有液13が塔中部に設けられた供給口から導入され、低沸点留分23が塔頂から留出することにより、水や酢酸等の低沸点成分の低減された粗(メタ)アクリル酸14が得られる。低沸点留分23は、捕集塔2で用いた捕集溶剤が含まれ得ることから、捕集塔2に返送することが好ましいが、その他の任意の工程に移送(返送)してもよいし、そのまま廃油として系外に排出してもよい。図1では、粗(メタ)アクリル酸14が軽沸分離塔3の塔中部から抜き出されているが、粗(メタ)アクリル酸14は軽沸分離塔3の塔底部から抜き出してもよい。
軽沸分離塔3から抜き出された粗(メタ)アクリル酸14は、精製装置4に導入され、精製(メタ)アクリル酸15と、グリオキサール化合物を含有する精製残渣25が得られる。精製装置4としては、晶析器、蒸留塔、放散塔、抽出塔などが挙げられるが、図1では晶析器4Aが用いられている。この場合、精製残渣25は、晶析残渣(粗(メタ)アクリル酸を冷却した際の未結晶残渣)として得られる。
精製残渣25は、軽沸分離塔3の(メタ)アクリル酸含有液の供給口より塔底側の位置に返送し、図1では軽沸分離塔3の塔中部に返送されている。精製残渣25を軽沸分離塔3の(メタ)アクリル酸含有液の供給口より塔底側の位置に返送することにより、軽沸分離塔3でのグリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生を抑えることができる。
軽沸分離塔3の塔底部からは塔底液24を抜き出して、高沸分離塔5に導入することが好ましく、高沸分離塔5からの留出液26を軽沸分離塔3に返送することが好ましい。このように軽沸分離塔3の塔底液24を高沸分離塔5で蒸留精製して軽沸分離塔3に戻すことにより、プロセス全体としての(メタ)アクリル酸収率を高めることができる。精製残渣25は、高沸分離塔5の留出液26とともに軽沸分離塔3に返送してもよい。
高沸分離塔5の塔底液27は(メタ)アクリル酸二量体分解装置6に導入し、(メタ)アクリル酸二量体分解装置6から得た液28を高沸分離塔5に返送することが好ましい。高沸分離塔5の塔底液27には(メタ)アクリル酸のミカエル付加物が多く含まれるため、これを分解装置6に導入して(メタ)アクリル酸のミカエル付加物を分解し、分解装置6から得た液28を高沸分離塔5に返送することにより、プロセス全体としての(メタ)アクリル酸収率を高めることができる。分解装置6から得た液28の一部は、プロセス内での不純物の濃縮を抑えるために、系外に排出してもよい。
図2〜図4には、図1とは異なる製造フローを示した。図2に示した製造フローは、図1に示した製造フローと、精製残渣25の軽沸分離塔3への返送位置が異なる。図2の製造フローでは、晶析装置4Aからの精製残渣25を軽沸分離塔3の塔底部に返送しており、このように精製残渣25を軽沸分離塔3のより塔底側に返送することによって、軽沸分離塔3においてグリオキサール化合物が(メタ)アクリル酸の重合物の発生に影響しない他の化合物に変化する割合が高まり、軽沸分離塔3でのグリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生をさらに抑えることができる。
図3および図4に示した製造フローは、図1および図2に示した製造フローと、精製装置4として蒸留塔4Bを用いている点が異なる。軽沸分離塔3から抜き出された粗(メタ)アクリル酸14は蒸留塔4Bの塔中部に導入され、精製(メタ)アクリル酸15が塔頂部から抜き出され、グリオキサール化合物を含有する精製残渣25が蒸留残渣として塔底部から抜き出される。図3では、精製残渣25が軽沸分離塔3の塔中部(ただし(メタ)アクリル酸含有液の供給口より塔底側の位置)に返送され、図4では、精製残渣25が軽沸分離塔3の塔底部に返送される。精製装置4として蒸留塔4Bを用いた場合も、軽沸分離塔3でのグリオキサール化合物に起因する(メタ)アクリル酸の重合物の発生を抑えることができる。
本願は、2017年5月25日に出願された日本国特許出願第2017−103849号に基づく優先権の利益を主張するものである。2017年5月25日に出願された日本国特許出願第2017−103849号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお下記において、「%」とは、特に断りのない限り「質量%」を表す。
(製造例1)
図2に示す製造フローに従いアクリル酸を製造した。プロピレンと分子状酸素を含む原料ガスを接触気相反応器に供給して接触気相酸化して、アクリル酸含有ガスを得た。このアクリル酸含有ガスを捕集塔に塔底部から導入し、捕集溶剤(アクリル酸含有水:アクリル酸濃度約1.6%)を塔頂部から供給してアクリル酸含有ガスを捕集溶剤に吸収させることにより、アクリル酸94.2%、酢酸1.9%、水2.1%、グリオキサール0.092%を含むアクリル酸含有液を得た。
捕集塔から得られたアクリル酸含有液を12.6kg/hで軽沸分離塔に導入し、アクリル酸含有液の蒸留を行い、アクリル酸99.2%、酢酸0.07%、水0.01%を含む粗アクリル酸を塔中部から14.1kg/hで抜き出した。軽沸分離塔は内径108.3mmで、段数60段、段間隔113mmのシーブトレーを備え、アクリル酸含有液の供給口が塔頂から15段目に設けられ、粗アクリル酸の抜き出し口が塔頂から39段目に設けられていた。塔頂部の温度は59℃、圧力は6.7kPaであり、塔底部の温度は87℃、圧力は14kPaであった。軽沸分離塔の塔頂部から留出した低沸点留分はコンデンサーで凝縮し、その一部を軽沸分離塔の塔頂部に戻し、他部を捕集塔に返送し、捕集溶剤の一部として用いた。
軽沸分離塔の塔底部からは、アクリル酸64.7%、酢酸0.03%、水0.01%を含む塔底液が抜き出され、これを高沸分離塔および二量体分解装置に導入し、アクリル酸二量体(ミカエル付加物)の分解処理を行った。二量体分解装置では、熱分解槽の槽内温度140℃、滞留時間30時間の条件で熱分解を行い、二量体分解装置からの留出液を高沸分離塔を介して軽沸分離塔の塔底部に返送した。軽沸分離塔には、高沸分離塔の留出液(アクリル酸95.4%、酢酸0.6%、水1.5%、グリオキサール0.21%を含有)を1.1kg/hで返送した。
軽沸分離塔の塔中部から抜き出した粗アクリル酸は、晶析器に導入してさらに精製を行った。晶析器は、長さ6m、内径70mmの金属製の晶析管を有し、下部に貯蔵器(コレクター部)を備えていた。晶析器には、晶析器の下部(貯蔵器)から上部(晶析管の頂部)に繋がる循環流路が備えられ、循環流路には循環ポンプが備えられていた。晶析器は、循環ポンプにより、貯蔵器に溜まった液体を晶析器の上部に移送し、液体を晶析器の晶析管内壁面に落下被膜(Falling Film)状に流すことができるようになっていた。晶析管の表面は二重ジャケットから構成され、このジャケットは、サーモスタットで一定温度になるように制御されていた。晶析器の下部に粗アクリル酸を供給し、粗アクリル酸を晶析器と循環流路との間を循環させながら、晶析管内壁面に落下被膜状に流した。ジャケットの温度はアクリル酸の凝固点未満に調整し、晶析器に供給した粗アクリル酸の約60〜90質量%を晶析管内壁面に結晶化させた。次いで、循環ポンプを停止させ、ジャケットの温度をアクリル酸結晶化物の融点以上に上昇させ、アクリル酸結晶化物の約2〜5質量%を融解させた。この融解液(発汗液)を結晶化の際の未結晶残留母液と合わせて精製残渣(晶析残渣)として晶析器から排出した。その後、残りのアクリル酸結晶化物を融解させ、アクリル酸融解液を得た。このように晶析操作を行うことにより、アクリル酸濃度99.9%、グリオキサール濃度0.01%未満(検出限界以下)の精製アクリル酸を得た。晶析器から排出された精製残渣(晶析残渣)はアクリル酸98.7%、酢酸0.2%、水0.4%、グリオキサール0.14%を含有しており、これを4.5kg/hで軽沸分離塔の塔底部(60段目の棚よりも下部)に返送した。
製造例1では、2週間の稼働期間中、軽沸分離塔などの設備を安定して稼働させることができ、稼働期間後の設備点検では、軽沸分離塔内にアクリル酸の重合物は確認されなかった。また、軽沸分離塔におけるグリオキサール化合物の収支(マスバランス)を測ったところ、グリオキサール化合物の変質率は17%であった。
(製造例2)
図1に示す製造フローに従いアクリル酸を製造した。晶析器から排出された精製残渣(晶析残渣)を、軽沸分離塔の塔中部である50段目から軽沸分離塔に返送した以外は、製造例1と同様にしてアクリル酸を製造した。製造例2では、2週間の稼働期間中、軽沸分離塔などの設備を安定して稼働させることができ、稼働期間後の設備点検では、軽沸分離塔内にアクリル酸の重合物は確認されなかった。グリオキサール化合物の変質率は12%であった。
(製造例3)
図1に示す製造フローに従いアクリル酸を製造した。晶析器から排出された精製残渣(晶析残渣)を、軽沸分離塔の塔中部である35段目から軽沸分離塔に返送した以外は、製造例1と同様にしてアクリル酸を製造した。製造例3では、2週間の稼働期間中、軽沸分離塔などの設備を安定して稼働させることができたが、設備点検の結果、軽沸分離塔のアクリル酸含有液の供給口の下部に(メタ)アクリル酸の重合物が生成しているのが確認された。グリオキサール化合物の変質率は8%であった。
(製造例4)
図4に示す製造フローに従いアクリル酸を製造した。軽沸分離塔から抜き出した粗アクリル酸を蒸留塔の塔中部から蒸留塔に導入して精製を行い、蒸留塔の塔頂部から精製アクリル酸を抜き出すとともに、蒸留塔の塔底部から抜き出した精製残渣(蒸留残渣)を軽沸分離塔の塔底部(60段目の棚よりも下部)に返送した以外は、製造例1と同様にしてアクリル酸を製造した。蒸留塔の塔底部から抜き出した精製残渣はアクリル酸36.0%、酢酸0.2%、水0.0%、グリオキサール0.02%を含有しており、4.5kg/hで軽沸分離塔に返送した。製造例4では、2週間の稼働期間中、軽沸分離塔などの設備を安定して稼働させることができ、稼働期間後の設備点検では、軽沸分離塔内にアクリル酸の重合物は確認されなかった。グリオキサール化合物の変質率は17%であった。
(製造例5)
晶析器から排出された精製残渣(晶析残渣)を、軽沸分離塔のアクリル酸含有液の供給口から軽沸分離塔に返送した以外は、製造例1と同様にしてアクリル酸を製造した。製造例5では、稼働開始から10日間で軽沸分離塔の圧力損失が増大し、軽沸分離塔を安定的に稼働させることができなくなった。設備点検の結果、軽沸分離塔のアクリル酸含有液の供給口の下部に(メタ)アクリル酸の重合物が生成しているのが確認された。グリオキサール化合物の変質率は5%であった。
(製造例6)
製造例5において、捕集塔から得られたアクリル酸含有液にグリオキサールを添加してグリオキサール濃度を0.170%に調整し、これを12.6kg/hで軽沸分離塔に導入してアクリル酸含有液の蒸留を行った以外は、製造例5と同様にしてアクリル酸を製造した。製造例6では、稼働開始から8日間で軽沸分離塔の圧力損失が増大し、軽沸分離塔を安定的に稼働させることができなくなった。設備点検の結果、軽沸分離塔のアクリル酸含有液の供給口の下部に(メタ)アクリル酸の重合物が生成しているのが確認された。グリオキサール化合物の変質率は5%であった。