本発明のアクリル酸の製造方法は、(a)原料ガスを接触気相酸化反応させて得られたアクリル酸を含有するガスをアクリル酸溶液として捕集する捕集工程、(b)前記アクリル酸溶液中のアクリル酸を結晶化させて残留母液と分離する結晶化精製工程、(c)前記残留母液に含まれるミカエル付加物の少なくとも一部を反応蒸留形式で分解する分解工程、を含み、前記(c)分解工程で得られた留出液を、前記(a)捕集工程に供給するところに特徴を有するものである。
上述のように、残留母液中に含まれるミカエル付加物の分解に反応蒸留形式を採用することで、残留母液中に含まれる水分量が低減され、残留母液中に含まれるマレイン酸の析出や異性化が抑制されるため、効率よくミカエル付加物の分解が行なえ、アクリル酸を安定して製造することができる。
以下、本発明にかかるアクリル酸の製造方法の代表的な製造プロセスを示す図1を参照しながら説明するが、本発明は当該製造プロセスに限定されず、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜変更を加えて実施できる。
接触気相酸化によって得られたアクリル酸ガス1は、ライン2を経て、アクリル酸捕集塔3へと供給される。アクリル酸捕集塔3で捕集されたアクリル酸溶液はライン4を経て、アクリル酸の結晶化および残留母液との分離を行う晶析装置5へと供給される。ここで、結晶化され、精製されたアクリル酸はライン6を経て製品として取り出される。一方、残留母液は、ライン7を経て反応蒸留装置8へと供給され、ここで、残留母液中に含まれるミカエル付加物などの有価物がアクリル酸に分解される。そして、反応蒸留装置8内で生成したアクリル酸は、反応蒸留装置8の塔頂から留出液として抜き出されると共に、ライン9を経てアクリル酸捕集塔3へと供給、回収される。なお、反応蒸留装置8中に残留する残留液は、ライン10を経て排出される。
以下、各工程について詳細に説明する。
(アクリル酸の合成)
プロピレンおよび/またはアクロレインなどのアクリル酸原料と、空気などの分子状酸素含有ガス、および希釈ガスを混合し、原料ガスを調製する。この原料ガスを、接触気相酸化触媒を充填した反応器に供給し、接触気相酸化反応によって、アクリル酸含有ガス1を得る。
接触気相酸化反応時の条件は特に限定されず、従来公知の方法を採用すればよい。なお、上記原料ガスには、後述するアクリル酸捕集工程で生成するリサイクルガス(後述する)を用いてもよい。接触気相酸化反応を行う反応器も特に限定されないが、反応効率に優れる点で、多管式反応器を用いるのが好ましい。
上記反応器に、公知の接触気相酸化触媒を充填し、原料ガスと、酸素、空気等の分子状酸素含有ガスとを接触させることにより酸化させる。原料ガスとしてプロピレンを使用する場合には、プロピレン濃度は7〜15体積%、水0〜10体積%、分子状酸素はプロピレン:分子状酸素(体積比)を1:1.0〜2.0の範囲とするのが好ましい。上記分子状酸素の供給源としては、空気を使用してもよい。なお、空気が水分を含んでいる場合には、反応器に供給する前に予め除湿するのが好ましい。反応器に導入する水分量を低減することは、捕集塔3に導入される水分量を低減させることになるからである。また、空気に代えて酸素富化空気、純酸素などを用いてもよい。希釈ガスとしては、窒素、二酸化炭素、その他の不活性ガスなどが使用可能である。
本発明では、後述する捕集塔3から排出されるリサイクルガスを冷却して、凝縮性物質を凝縮した後に、反応器に導入してもよい。リサイクルガスには、未反応の原料などが含まれる場合があるからである。リサイクルガスを使用する場合には、反応器に供給する原料ガス中の水分濃度が好ましくは0〜10体積%、より好ましくは0〜7体積%、さらに好ましくは0〜6体積%となるように、予めリサイクルガス中の水分を除去しておくのが好ましい。水分量が多すぎると反応器を経て捕集塔に供給される水分によって、アクリル酸ロス率が増加する場合がある。また、リサイクルガス中の全酸濃度は、好ましくは0〜0.2体積%、より好ましくは0〜0.1体積%とするのが好ましい。全酸濃度が上記範囲であれば、触媒の劣化も生じ難く、安定に接触気相酸化反応を進行させることができる。リサイクルガスには、水分や酸成分のほかに、未反応のプロピレンやアクロレイン、酸素、希釈ガス等も含まれている。原料ガス中の水分濃度や全酸濃度が上記範囲になるようにリサイクルガスに含まれる水分量及び原料ガスへの配合量、リサイクルガスに含まれるプロピレン濃度および酸素濃度を算出し、新たに反応器に供給するプロピレン濃度と空気量とを決定すれば、上記プロピレン、酸素、水分濃度、全酸濃度を容易に調整することができる。なお、「全酸」とは、カルボキシル基を有する化合物であり、リサイクルガス中には、アクリル酸、ギ酸、酢酸等が含まれる。
プロピレンを原料とする場合の接触気相酸化反応は、通常二段階で行い、二種類の接触気相酸化触媒を使用する。一段目の触媒は、プロピレンを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクロレインを生成し得るものであり、二段目の触媒は、アクロレインを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクリル酸を生成し得るものである。一段目の触媒としては、鉄、モリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物を、また二段目の触媒としては、バナジウムを必須成分とする触媒を挙げることができる。
なお、接触気相酸化反応は、上記二段階の反応をシングルリアクターで行う態様であっても、異なる2つの反応器を接続したタンデムで行う態様であってもよい。
接触気相酸化反応で得られるアクリル酸含有ガス1には、アクリル酸5〜14体積%、酢酸0.1〜2.5体積%、分子状酸素0.5〜3体積%、水5〜36体積%と共に、原料ガス中の未反応成分、および、プロピオン酸、マレイン酸、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒド、COx(一酸化炭素や二酸化炭素等)などの反応副生物質が含まれる。
(アクリル酸捕集工程)
ついで、得られたアクリル酸ガス1を捕集用溶剤と接触させてアクリル酸溶液として捕集する捕集塔3へと供給する(アクリル酸捕集工程(a))。ここで捕集塔3には、上記アクリル酸含有ガス1に加えて、後述するミカエル付加物の分解を行う(分解工程(c))反応蒸留塔8からの留出液も導入する。かかる留出液には、ミカエル付加物の分解生成物であるアクリル酸が高濃度で含まれており、これを回収することで、アクリル酸を高収率で得ることができる。尚、詳しくは後述するが、上記反応蒸留塔8からの留出液は、高沸点成分を分離する(d)蒸留工程を経由したものであるのが好ましい。
上記捕集塔3は、アクリル酸ガスとアクリル酸を捕集する捕集用溶剤とを、十分に接触させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の捕集塔を使用できる。
アクリル酸捕集工程では、捕集塔3の塔底部から、上記接触気相酸化反応により得られたアクリル酸ガス1を供給すると共に、捕集塔3の塔頂から、捕集用溶剤を供給する。このとき、アクリル酸含有ガス1と捕集用溶剤との接触方法は限定されず、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイ、ガーゼ型、シート型、グリット型の規則充填物、および、不規則充填物を用いる向流接触など、公知の接触方法はいずれも使用できる。
上記捕集用溶剤としては、アクリル酸を吸収、溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジフェニルエーテル、ジフェニル、o‐ジメチルフタレート、ジフェニルエーテルとジフェニルとの混合物などの高沸点有機溶剤、水、アクリル酸精製プロセスから発生する有機酸を含んだ水やアクリル酸溶液、エジェクター廃水など、従来公知のものを広く使用することができる。
なお、本明細書において「高沸点」とは、アクリル酸よりも沸点が高いことを意味し、上記「高沸点有機溶剤」とは、アクリル酸よりも高い沸点を有する有機溶剤、あるいは、かかる有機溶剤を含有する混合溶剤も含む。
上記アクリル酸精製プロセスとは、接触気相酸化工程以降の上記(a)〜(d)工程を含むものである。したがって、アクリル酸精製プロセスから発生する有機酸を含んだ水やアクリル酸溶液としては、例えば、(a)捕集工程であれば、捕集塔の塔底液等、還流液、塔頂から排出されるガス成分を冷却した凝縮液等、(b)結晶化精製工程であれば、残留母液、精製液、結晶化後の一部溶融液等、(c)分解工程および(d)蒸留工程であれば、塔底液、塔中抜き出し液、還流液、留出液等が挙げられる。
捕集塔3に供給する捕集用溶剤の質量は、目的とするアクリル酸溶液の濃度によって適宜決定すればよい。なお、本発明では、アクリル酸の分離精製を晶析により行うため、後述する結晶化精製工程に導入するアクリル酸溶液のアクリル酸濃度はできるだけ高いほうがよい。かかる観点からは、捕集塔3に導入する捕集用溶剤の質量流量比は、アクリル酸の質量流量の0.1〜1.5倍、好ましくは0.1〜1.0倍、さらに好ましくは0.15〜0.8倍とし、アクリル酸含有ガスと向流接触させてアクリル酸を捕集する。質量流量比を上記範囲内とすることで、アクリル酸捕集塔の捕集効率の低下を抑制し、高濃度のアクリル酸溶液を得ることができる。
捕集塔3内におけるアクリル酸などの重合性物質の重合防止を目的として、上記捕集用溶剤には重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤としては、特開2001‐348360号公報、特開2001‐348358号公報、特開2001‐348359号公報等に記載されるN‐オキシル化合物、フェノール化合物、酢酸マンガン等のマンガン塩、ジブチルチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、ニトロソ化合物、アミン化合物およびフェノチアジンからなる群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
アクリル酸捕集塔3は、塔頂圧力(ゲージ圧)0〜0.4MPa、好ましくは0〜0.1MPa、さらに好ましくは0〜0.03MPaで運転することが推奨される。塔頂圧力が低すぎる場合には、減圧装置が必要となり設備費、用役費がかかる。一方、高すぎると捕集塔3塔頂から低沸点物質を排出させるために、捕集塔3の温度を上げる必要が生じ、アクリル酸の捕集効率が低下する場合がある。塔頂圧力を上記範囲とすることで、アクリル酸を効率よく捕集することができる。なお、捕集塔3の塔頂温度は、30〜85℃とするのが好ましく、より好ましくは40〜80℃である。
また、本発明法では、当該捕集塔3の塔頂から排出される排出ガス11の一部(リサイクルガス)を冷却して得られた凝縮液を、捕集用溶剤の一部として使用しても良い。かかる凝縮液には、アクリル酸が含まれている場合が多いので、捕集用溶剤として利用することで、アクリル酸の捕集率を高めることができる。なお、凝縮液を利用する場合には、当該凝縮液を0〜50℃に調整して捕集塔3へ導入するのが好ましい。より好ましくは10〜40℃である。凝縮液分離後のリサイクルガスは、上記アクリル酸合成時に原料ガスの一部として使用してもよい。
なお、本明細書では、捕集塔3の塔頂から排出されるガスのうち、反応器(アクリル酸合成)に循環させる排出ガスを「リサイクルガス」、捕集塔3の塔頂から系外に排出されるガスを「廃ガス」とする。
上記リサイクルガスの冷却方法に制限はなく、リサイクルガスに含まれる凝縮性物質を凝縮できる装置を用いればよい。例えば、多管式熱交換器、フィンチューブ式熱交換器、空冷式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、直接接触式熱交換器、プレート式熱交換器などを使用できる。
なお、捕集塔3に導入する凝縮液の量は、捕集用溶剤中20〜70%とするのが好ましい。より好ましくは30〜55%である。
本工程により得られたアクリル酸溶液を、捕集塔3の塔底から、ライン4を経てアクリル酸の分離精製を行う晶析装置5へと供給する(結晶化精製工程(b))。なお、捕集塔3の塔底液には、製品であるアクリル酸や、接触気相酸化反応時の副生物に加えて、原料であるアクロレインなどが含まれる場合がある。したがって、晶析装置5に供給する前に、必要に応じて、アクロレインを除去するアクロレイン分離工程を設けても良い。
(アクリル酸の結晶化精製工程)
ついで、上記(a)捕集工程で得られたアクリル酸溶液を、晶析装置5に供給し、アクリル酸を結晶として分離精製する(結晶化精製工程(b))。本発明のアクリル酸の製造方法では、当該結晶化精製工程(b)で得られるアクリル酸結晶を、必要に応じ、さらに洗浄、発汗などを行なう精製工程に付して、一層純度の高いアクリル酸を製造する形態がより好ましい。
当該結晶化精製工程(b)で採用可能な結晶化法には制限がなく、連続式または回分式のいずれも採用でき、また、1段あるいは2段以上で実施してもよい。
連続式の晶析装置としては、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体となった塔型のBMC(Backmixing Colum Crystallizer)型晶析器(新日鐵化学株式会社製)や、結晶化部(例えば、GMF GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)晶析装置)、固液分離部(例えば、ベルトフィルター,遠心分離機など)、および、結晶精製部(例えば、呉羽テクノエンジ株式会社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置など)を組み合わせた晶析装置を使用できる。
ここで、結晶化部として「化学装置2001年7月号,p77〜78」に記載される結晶化装置(CDC)を2つ配列した結晶化装置、固液分離部としてベルトフィルター、結晶精製部として「化学装置2001年7月号,p76〜77」や特公昭47‐40621号公報に記載される結晶精製装置(KCP)を組み合わせた連続式晶析装置を用いる場合について具体的に説明する。
結晶化部を構成する二つの結晶化装置(1),(2)は、横型の結晶化槽で、この結晶化槽の内部は、数枚の冷却板で水平面に対して垂直に仕切られている。上記冷却板は、結晶化槽下部に通液可能な隙間を形成し得る程度の大きさを有し、各冷却板の中央には、攪拌翼と冷却伝面を更新するためのワイパーを備えた攪拌軸が貫通させられている。すなわち、結晶化槽の端部に設けられた原料液投入口から供給されたアクリル酸溶液は、撹拌翼により攪拌されながら、冷却板の下部を通り、順次、他方の端部へと移動する。この際、冷却板を介してアクリル酸溶液の冷却・結晶化が行なわれる。
この結晶化装置(1)にアクリル酸溶液を供給すると、結晶化槽でアクリル酸が結晶化され、晶析母液と共に結晶化装置(1)から排出された後、固液分離部であるベルトフィルターで、結晶と残留母液とに分離される。この晶析母液を結晶化装置(2)に供給して、さらにアクリル酸を結晶化し、ベルトフィルターで結晶と残留母液を分離する。
次いで、これら結晶化装置(1),(2)で得られた結晶を、結晶精製部に導入する。
ここで「化学装置2001年7月号p76〜77」や特公昭47‐40621号公報に記載の結晶精製装置(KCP)とは、金属製の管(精製塔)の中心にスクリューコンベヤーを備え、精製塔上部に結晶を融解するための融解器と融解後の製品の取り出し口、精製塔下部に残査液(残留母液)の取り出し口、そして、下部塔側部に結晶の供給口を備えたものである。
この結晶精製装置に導入された結晶は、スクリューコンベヤーによって精製塔上部へと運ばれ、その過程で、発汗により精製される。精製塔上部に運ばれた結晶は、融解器によって融解され、融解液の大部分は製品取り出し口より取り出される。このとき、融解液の一部を精製塔上部より落下させる。落下液は、スクリューコンベヤーで運ばれる結晶と接触して結晶表面を洗浄し、最終的には、精製塔下部の残渣取り出し口より抜き出される(残留母液)。
上記落下液の量は、目的とするアクリル酸の純度によって適宜選択できるが、融解液量の1〜60質量%、より好ましくは2〜40質量%、特には5〜35質量%とすることが好ましい。融解液量を上記範囲内とすることで、落下液による結晶の洗浄など発汗による効果が有効に得られ、結晶精製塔を安定に運転することができる。精製塔下部から取り出された残渣(残留母液)は、上記結晶化装置および/または上記晶析残留母液に循環させてもよいが、少なくともその一部をミカエル付加物の分解工程(c)へと供給する。
回分式晶析装置としては、例えばSulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置などを使用することができる。
ここで、上記結晶化精製工程(b)を回分式で行なう場合について、多段分別晶析法に従って行なう場合を例として具体的に説明する。なお、本発明に係る結晶化精製工程(b)は、これに限定されず、その他の晶析法に従って行なってもよい。
多段分別晶析法は、例えば、動的結晶化工程、または、動的結晶化工程と静的結晶化工程とを組み合わせて行なうことができる。上記動的結晶化工程とは、結晶化、発汗、融解を行なうための温度制御機構を備えた管状の結晶器と、発汗後の母液を回収するタンク、および、結晶器にアクリル酸を供給する循環ポンプを備え、結晶器下部に配設した貯蔵器から循環ポンプによってアクリル酸溶液を結晶器の管内上部へ移送できる動的結晶化装置を使用して晶析を行なう工程であり、一方、静的結晶化工程とは、結晶化、発汗、融解を行なうための温度制御機構を備えた管状の結晶器であって、下部に抜き出し弁を有するものと、発汗後の母液を回収するタンクを配設した静的結晶化装置を使用して晶析を行なう工程である。
具体的には、粗アクリル酸溶液を液相として結晶器へと導入し、液相中のアクリル酸を冷却面(管壁面)に凝固させる。冷却面に生成した固相の質量が、結晶器へ導入したアクリル酸溶液の質量の40〜90質量%、好ましくは50〜80質量%になったら、直ちに、液相を結晶器から排出し、固相と液相を分離する。液相の排出は、ポンプで汲み出す態様(動的結晶化工程)、結晶器から流出させる態様(静的結晶化工程)のいずれであってもよい。
一方、固相は、結晶器から取り出した後、さらに純度を上げるべく、洗浄、あるいは、発汗などを行なう精製工程へ供給してもよい。
上記動的結晶化および静的結晶化を多段工程で行なう場合、向流の原理の採用により有利に実施できる。この場合、各工程において結晶化された物質は、残留母液から分離され、次の一層高い純度を有する各工程に供給される。他方、残留母液(結晶化残留物)は、次の一層低い純度を有する各工程に供給される。
なお、動的結晶化工程では、アクリル酸の純度が低くなると結晶化が困難となるが、これに対して、静的結晶化工程は、動的結晶化工程に比べて残留母液の冷却面との接触時間が長く、また、温度の影響が伝わり易いので、アクリル酸の純度が低下しても結晶化が容易である。したがって、アクリル酸の回収率を上げるため、動的結晶化の最終母液を、静的結晶化工程に供給して、さらに結晶化を行なってもよい。
必要となる結晶化段数の数は、どの程度の純度が要求されるかに依存するが、高純度のアクリル酸を得るためには、精製工程(動的結晶化工程)は1〜6回、好ましくは2〜5回、さらに好ましくは2〜4回であり、ストリッピング工程(動的結晶化工程および/または静的結晶化工程)は0〜5回、好ましくは0〜3回行なうことが好ましい。通常、供給される粗製酸溶液よりも高い純度の酸が得られる全工程は精製工程として、他の全工程はストリッピング工程として知られている。ストリッピング工程は、精製工程から母液中のアクリル酸を回収するために実施する。なお、上記ストリッピング工程は必ずしも設ける必要はなく、例えば、後述する蒸留工程(d)を採用する場合には、上記ストリッピング工程を省略してもよい。残留母液中のアクリル酸は、蒸留工程(d)でも回収されるからである。
上記動的結晶化工程、静的結晶化工程のいずれを採用する場合であっても、当該(b)結晶化精製工程で得られるアクリル酸結晶は、そのまま製品としてもよいし、また、必要に応じて更なる精製(洗浄、発汗など)を行なって製品としてもよい。
結晶化精製工程より取り出された残さ(残留母液)は、系外に取り出してもよく、また、一部を前記捕集工程(a)へと供給してもよいが、本発明では、残留母液の少なくとも一部をミカエル付加物の分解工程(c)へと供給する。
(ミカエル付加物の分解工程)
前記結晶化精製工程(b)でアクリル酸の結晶と分離された残留母液は、ライン7を経て、ミカエル付加物の分解を行う反応蒸留装置8へと供給される。結晶化精製工程(b)でアクリル酸と分離された残留母液には、アクリル酸二量体、アクリル酸三量体、アクリル酸オリゴマーなどのミカエル付加物が含まれているが、これらは分解することでアクリル酸として回収できる。分解工程においてミカエル付加物を効率よく分解するためには、分解対象物を処理するのに十分な滞留時間を確保できる分解形式を採用することが好ましい。本発明では、ミカエル付加物の分解と、分解生成物(アクリル酸)の蒸発あるいは蒸留を同時に行う反応蒸留形式を採用する。
ここで、反応蒸留形式とは、ミカエル付加物を分解しつつ、分解生成物を蒸留により留去させる手法を意味する。アクリル酸からミカエル付加物が生成する反応は平衡反応である。したがって、反応蒸留形式を採用して、ミカエル付加物の分解反応と同時に分解生成物であるアクリル酸を蒸留により留去させれば、アクリル酸生成量が増加する向きに平衡が移動するので、分解反応が促進され、効率的なミカエル付加物の分解が行なえる。上記反応蒸留の実施態様は限定されず、回分式、半連続式、連続式のいずれでも行なえるが、連続式を採用するのが好ましい。また、反応装置の形式にも特に制限はなく、単蒸留器、蒸留塔、充填塔のような単純な反応器、反応器にトレイ(棚段)を設けた蒸留塔、反応器と精留塔を組み合わせた装置、攪拌器を備えた反応装置等、一般的な反応蒸留装置が使用できる。
上記一般的な反応蒸留装置とは、上述の反応蒸留法によるミカエル付加物の分解が行なえる、十分な滞留時間が確保できる反応蒸留装置を意味する。後述するように、この反応蒸留装置の熱源としては、従来公知の熱源が採用できるが、十分な滞留時間を確保するとの観点からは、強制循環型熱交換器を採用するのが好ましい。強制循環型熱交換器は、分解対象液に十分な熱量を与えることができ、また、加熱された分解対象液を反応蒸留装置内に循環させられるので、反応装置内で十分な滞留時間が得られる。したがって、強制循環型熱交換器は、反応蒸留法によりミカエル付加物を分解する際の熱源として非常に適している。また、強制循環型熱交換器を使用すれば、反応蒸留装置内において、分解対象液が速やかに循環させられるので、廃油に余分な熱が伝わり難く、重合物が発生する、装置に汚れが付着するなどの問題も低減できる。したがって、長期間安定して分解操作を行なうことが可能となる。
また、上記強制循環型熱交換器は、薄膜式蒸発器などと併用して用いてもよい。薄膜式蒸発器は熱源としては好ましいが、分解対象物に十分な熱量および滞留時間を与え、速やかに分解させるという点では、やや効率が劣る面があり、工夫して使いこなす必要がある。したがって、薄膜式蒸発器を熱源として用いる場合には、強制循環型熱交換器を併用するのが好ましい。
なお、塔内の汚れを防止し、マレイン酸や、アクリル酸と近い沸点を有する副生物(例えば、ベンズアルデヒドやフルフラールなど)を効率よく分離する観点からは、棚段式蒸留塔を採用するのが好ましい。この場合、例えば理論段3〜15段、より好ましくは5〜10段とし、還流比を0.3〜6、より好ましくは0.5〜4とするのが好ましい。理論段と還流比を上記範囲とすることで、フルフラールやベンズアルデヒドの留出が防げるので、製品品質を良好に保つことができる。また、塔内でのマレイン酸の濃縮や析出などのトラブルを起こし難く、運転費などのユーティリティの増大を抑えられる。
上記分解反応装置内に設ける棚段(トレイ)としては、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイなどが挙げられる。また、トレイと、充填物とを組み合わせて使用しても良い。
充填物としては、加圧、高温に対する耐久性を備え、残留母液中の成分と反応し難いものが好ましく、かかる観点からは、アルミナ製、またはステンレス鋼などの金属製のものが推奨される。また、充填物の形状は、反応蒸留装置の圧力損失を上昇させ難いものであるのが好ましい。かかる充填物としては、公知のラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、フレキシリング、カスケード・ミニ・リング(ドットウェル社製)、ラシヒスーパーリングや、インタロックス・メタルタワー・パッキング(ノートン社製)およびインタロックスサドル(ノートン社製)、化学工学便覧(化学工学会偏、第6版604頁図11,13)に記載の充填物、メラパック(住友重機工業社製)、ジェムパック(千代田化工建設社製)、テクノパック(三冷テクノ社製)、モンツパック(モンツ社製)、インタロックスハイパフォーマンスストラクチャードパッキング(ノートン社製)、その他化学工学便覧(化学工学協会偏、第6版)567頁の金属板型規則充填物が挙げられる。
これらの充填物は、使用する反応蒸留装置のサイズ、残留母液の供給量、温度条件、圧力条件、理論段数、圧力損失、最低液流量、その他の要素によって、使用する径、形状などを選択することができる。上述の充填物の中でも、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、フレキシリング、カスケード・ミニ・リング、ラシヒスーパーリング、インタロックス・メタルタワーパッキングおよびインタロックスサドルは、いずれも1m3あたりの充填物表面積および空隙率が高いため、物質交換が効率的に行なわれ、且つ、圧力損失を減少することができるので好ましい。最も好ましいものは、カスケード・ミニ・リングである。
上記反応蒸留装置は、分解温度(塔底温度)120〜220℃で運転するのが好ましく、より好ましくは140〜200℃、さらに好ましくは155〜190℃である。滞留時間(抜き出し液基準)は塔底温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.2〜30時間とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜15時間、さらに好ましくは1〜8時間である。温度が高すぎたり、滞留時間が長すぎると、分解反応は進行するが、粘度上昇など反応液の性状を悪化させたり、反応蒸留装置内の汚れ付着を招く場合がある。一方、温度が低すぎたり、滞留時間が短すぎると、ミカエル付加物を十分に分解し難い場合がある。結晶化精製後の残留母液を処理する場合、残留母液中のマレイン酸は有水マレイン酸として存在する場合が多く、析出などのトラブルを発生し易いため、上記条件のように、高温、且つ、短い滞留時間とすれば、効率よく、且つ、反応液の性状を悪化させることなくミカエル付加物を分解させることができる。
なお、反応蒸留装置の熱源としては、多管式熱交換器、プレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器、強制循環型熱交換器、薄膜式蒸発器などが使用できる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、薄膜式蒸発器を使用する場合には、他の熱源と組み合わせて使用することが望ましい。上記熱源の中でも、強制循環型熱交換器を採用するのが好ましい。強制循環型熱交換器には、循環用ポンプが備わっており、反応蒸留装置内の残留母液の一部を連続的に取り出して加熱し、反応蒸留装置内へと戻す構成を採用するものであるので、反応蒸留装置内の壁面を通して加熱する場合に比べて、装置内における重合物および析出物の生成や付着が低減される。また、反応装置内における滞留時間を十分に確保できる。したがって、残留母液の粘度が高い場合であっても、長期に亘って安定にミカエル付加物の分解反応を行うことができる。上記強制循環型熱交換器としては、例えば、特開平09‐110778号公報に記載されているように、配管の途中にしぼり構造が設けられているものであってもよい。かかる構成を有するものは、液体の過加熱状態を維持でき、沸騰、気化に必要なエネルギーを効率よく反応蒸留塔へ供給できるからである。また、汚れや性状悪化によるトラブルも抑制されるので、速やかに分解反応を行なうことができる。
強制循環型熱交換器を使用する場合、分解温度(塔底温度)は、120〜200℃で運転するのが好ましく、より好ましくは155〜190℃である。このとき、強制循環型熱交換器の熱源の温度は、分解温度(塔底温度)と加熱温度の差が100℃以下となるように調整するのが好ましく、より好ましくはその差を50℃以下とすることが推奨される。分解温度(塔底温度)と加熱温度の差を少なくすることで、熱交換器の汚れの付着を防止することができ、長期間安定運転する上でより好ましい。また、強制循環型熱交換器における塔底液の循環量は、100〜300m3/hrとするのが好ましく、より好ましくは140〜250m3/hrとすることが推奨される。循環量を上記範囲とすることで、十分な熱効率が得られると共に、熱交換器への汚れの付着も防止できるため、長期間安定運転することができるので、好ましい。
反応蒸留塔を使用してミカエル付加物の分解を行なう場合、すなわち、分解対象物の粘度が高く、塔底部を比較的高温に保つ必要がある場合には、分解温度(塔底温度)と加熱温度との差を上記範囲内に調整した強制循環型熱交換器を使用するのが好ましい。
また、反応蒸留装置内における汚れや性状悪化トラブルを低減するため、当該装置内に液飛沫衝突板等を設けてもよい。これにより、結晶化精製工程(b)からの残留母液を供給する際、液面からの液飛沫がカットされるので、衝突板より上方における重合物の生成や析出物に由来するトラブルを低減することができる。
分解反応時の圧力は、分解反応で生成するアクリル酸、あるいは、分解反応原料である残留母液中に含まれるアクリル酸などの有用成分の大半を蒸発させることができ、かつ、平衡反応であるミカエル付加物の分解をより速やかに進行させられる圧力を採用するのが好ましい。例えば、反応蒸留装置の塔頂圧力(ゲージ圧)は6.7〜64kPa(50〜480torr)とするのが好ましく、より好ましくは13.3〜40kPa(100〜300torr)、さらに好ましくは20〜250kPa(150〜250torr)とすることが推奨される。塔頂温度は、60〜150℃とするのが好ましく、より好ましくは80〜130℃、さらに好ましくは90〜120℃とすることが推奨される。塔頂圧力および塔頂温度を上記範囲とすることで、副生成物中の高沸成分であるプロトアネモニンや、アクリル酸と沸点の近いフルフラール、ベンズアルデヒドなどが、アクリル酸と共に留出するのを抑制できるので、分解工程の留出液を捕集塔3に供給しても、製品品質を良好に保つことができる。また、塔頂圧力や塔頂温度が高すぎる場合のように、ミカエル付加物の分解反応に高温を要さないため、反応液の性状悪化や、分解率の低下も起こし難い。
当該反応蒸留装置には、ミカエル付加物の分解を促進するために、触媒として、ルイス酸、ルイス塩基、硫酸、燐酸などの無機酸、アルカリ金属、アルカリ土類金属、メタンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸などの有機酸、N‐オキシル化合物やアミン類などから選択される1種以上を添加してもよい。
上記触媒の添加量は、反応蒸留塔の塔底液に対して0.05〜3質量%の濃度となるようにするのが好ましく、より好ましくは0.1〜1質量%である。触媒の添加のタイミングは限定されず、例えば、アクリル酸捕集工程(a)の捕集塔、分解工程(c)で使用する反応蒸留装置に供給する際に添加しても良い。
分解工程(c)でミカエル付加物の分解により生成したアクリル酸は、反応蒸留装置8の塔頂部から回収され、ライン9を経て前記アクリル酸捕集工程(a)へと送られる。このとき、反応蒸留装置8の塔頂から抜きだされる留出物中のマレイン酸濃度は低いほど好ましいが、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、さらに一層好ましくは0.6質量%以下である。上記留出液中のマレイン酸濃度を低減させるには、例えば、反応蒸留に使用する反応器の理論段数や、還流比などの運転条件を上記範囲とすればよい。
また、反応蒸留装置8から留去させる留出物には、当該留出物に含まれるアクリル酸の重合を防止するため、酸素や酸素を含むガスを添加しても良い。かかる酸素含有ガスは、反応蒸留装置塔底の気相部、あるいは液相部に導入すればよい。上記酸素含有ガスとしては、純酸素、酸素を窒素などの不活性ガスで希釈した混合ガス、空気などが挙げられる。添加量は、反応蒸留装置8の塔頂部から留出するガスの容量に対して、酸素濃度が0.01〜5容量%となるようにするのが好ましく、より好ましくは0.02〜3容量%であり、さらに好ましくは0.05〜1容量%である。留出ガス中の酸素濃度が上記範囲であれば、重合防止効果が十分に得られる。また、酸素、または酸素含有ガスに同伴されて系外に排出される有効成分量を低レベルに抑えられ、分解工程の圧力制御も容易となる。
一方、反応蒸留装置8の下部の残留液は、廃油としてポンプにより系外に排出する。
(蒸留工程)
本発明のアクリル酸の製造方法においては、(c)分解工程に先立って、上記(b)結晶化精製工程で得られる残留母液の少なくとも一部を、高沸点成分を分離する(d)蒸留工程に供給してもよい。
すなわち、本発明の好ましい態様とは、(c)分解工程の前工程として、残留母液に含まれる高沸点成分を分離する(d)蒸留工程を設ける態様であって、当該(d)蒸留工程を経た残留母液を(c)分解工程に供給し、この(c)分解工程でミカエル付加物の分解により生成したアクリル酸を(a)捕集工程へと供給するものである。
この(d)蒸留工程を採用する場合、(c)分解工程からの留出液は、すべて(d)蒸留工程を経由させて(a)捕集工程へと供給してもよく(図2)、また、図5に示すように(c)分解工程からの留出液の一部を(d)蒸留工程を経由させて(a)捕集工程へと供給し(反応蒸留塔8→ライン14→蒸留塔12→ライン9→捕集塔3)、残部は、(d)蒸留工程を経ることなくライン9’を通じて、(a)捕集工程へと供給してもよい(反応蒸留塔8→ライン9’→ライン9→捕集塔3)。より好ましいのは、(c)分解工程で得られた留出液のすべてを(d)蒸留工程に経由させて、(a)捕集工程へと供給する態様である(図2の態様)。
かかる態様の採用により、アクリル酸製造工程のさらなる効率向上を図ることができる。すなわち、(c)分解工程の前工程として(d)蒸留工程を設ければ、結晶化工程において過度に厳しい分離条件を設定しなくても、当該(d)蒸留工程や、続く(c)分解工程などでの分離回収が可能になり、また、ミカエル付加物の分解も円滑に行なえる。さらに、(c)分解工程の留出液を(d)蒸留工程を経て(a)捕集工程へと供給する際には、(d)蒸留工程において分解生成物中の不要成分、特に、析出などの問題を引き起こすマレイン酸や、系内で濃縮し、晶析工程では分離し難いフルフラールやベンズアルデヒド等の不純物が低減されるので、(b)結晶化精製工程への負担を軽減できる。
また、上記態様を採用すれば、(b)結晶化精製工程を、その精製操作に最も有利な運転条件で行う場合であっても、続く(d)蒸留工程において、結晶化精製工程で分離されなかったアクリル酸の回収が可能であり、さらに(c)分解工程において、高沸点成分と共に含まれるミカエル付加物の分解により生成したアクリル酸は、(d)蒸留工程を経て回収されるため、アクリル酸の収率も向上させられる。
このように、本発明では、各工程がそれぞれの役割を果たしながらも、互いが相補的な関係で有機的に結合しているため、アクリル酸の製造効率の更なる向上が図れるのである。
ここで、(d)蒸留工程を採用する場合について、図2に示すプロセスを例にして具体的に説明する。アクリル酸捕集塔3で捕集されたアクリル酸溶液を、ライン4を経て晶析装置5へと供給し、当該晶析装置5から、製品であるアクリル酸6を取り出す。一方、残留母液は、晶析装置5から排出させ、ライン7を経て蒸留塔12へと供給する。蒸留塔12で残留母液を加熱し、蒸留塔12塔頂から留去させ、このアクリル酸や低沸点成分を含む留出液を、ライン9を経て捕集塔3へと循環させる。一方、ミカエル付加物や高沸点成分を含む蒸留塔12の塔底液は、ライン13を経て、反応蒸留装置8(ミカエル付加物分解工程(c))へと供給する。反応蒸留装置8で生成したアクリル酸は、ライン14を経て蒸留塔12へと循環させ、蒸留塔12で留去させられる他の低沸点物質と共に、ライン9を経て捕集塔3へと供給し、アクリル酸溶液として回収する。なお、反応蒸留装置8の残留液は、ライン10を経て排出させればよい。
このとき、蒸留塔12(および反応蒸留塔8)から留去させ捕集塔3へと循環させる留出液中のマレイン酸濃度は低いのが好ましいことは言うまでもないが、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、さらに一層好ましくは0.6質量%以下である。なお、留出液中のマレイン酸濃度は、上記(c)反応蒸留工程の場合と同様、使用する蒸留装置の理論段数や、還流比などの運転条件を後述のように制御することで上記濃度範囲とすることができる。また、留出液中のミカエル付加物の含有量は0.3質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは0.2質量%以下である。
このように、蒸留工程(d)を採用する場合には、結晶化精製工程(b)のストリッピング工程を省略できるため、アクリル酸の製造工程がより簡便なものとなる。また、蒸留工程(d)から捕集工程(a)に循環させる留出液は、加熱により重合する虞があるマレイン酸などの高沸点成分が十分に低減されたものとなるため、捕集工程の操業性を害することなく、アクリル酸の収率を向上させられる。
当該蒸留工程(d)に使用可能な蒸留装置としては、充填塔、棚段塔(トレイ塔)などが挙げられる。上記充填塔に充填する充填物としては、上記分解工程(c)で充填物として例示したものはいずれも使用可能であり、また、棚段塔に設けるトレイも、上記分解工程(c)で例示したトレイを用いることができる。上記充填物とトレイは組み合わせて使用しても良い。なお、留出液中のマレイン酸濃度を低減する観点からは棚段塔を採用するのが好ましく、例えば、理論段数は2〜20段とするのが好ましく、より好ましくは4〜12段であり、還流比は0.2〜4とするのが好ましく、より好ましくは0.4〜2である。
蒸留塔12の運転条件は、水や酢酸などの低沸点物質およびアクリル酸を留出させ得る条件であればよく、導入する残留母液のアクリル酸濃度や水濃度、酢酸濃度などによって、適宜選択することができる。例えば、塔頂圧力(絶対圧)は1.0〜40kPaとするのが好ましく、より好ましくは1.5〜30kPa、さらに好ましくは2.0〜20kPaである。塔頂圧力が上記範囲であれば、蒸留塔や蒸留塔に敷設するコンデンサや真空装置の大型化も必要なく、また、アクリル酸などが重合する虞も低い。なお、蒸留塔塔頂温度は、通常40〜90℃とするのが好ましく、より好ましくは50〜80℃である。一方、塔底温度は、50〜140℃とするのが好ましく、より好ましくは60〜120℃である。
蒸留塔12の熱源としては、多管式熱交換器、プレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器、強制循環型熱交換器、薄膜蒸発器等の熱交換器や、リボイラーを使用することができる。
なお、蒸留時にはアクリル酸などの重合性物質の重合を防止するために、還流液に重合防止剤を添加することができる。このような重合防止剤としては、前記した捕集用水溶液に添加できる各種の重合防止剤を使用することができる。
また、当該(d)蒸留工程で得られる留出液および/または反応蒸留形式で分解を行なう上記(c)分解工程で得られる留出液は、上記(b)とは異なる精製工程に供給して精製し製品としてもよい。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
[転化率]
分解工程に供給した残留母液、および、分解工程後の留出液中に含まれるミカエル付加物の質量をガスクロマトグラフィーにより測定し、下記式よりミカエル付加物の転化率を算出した。
[選択率]
分解工程に供給した残留母液中のミカエル付加物の質量、アクリル酸の質量、および、分解工程後の留出液中に含まれるアクリル酸の質量をガスクロマトグラフィーにより測定し、下記式より分解反応の選択率を算出した。
[触媒の調製]
触媒I
特開2000‐325795号公報の実施例1の記載に従ってモリブデン‐ビスマス系触媒を調製した。これを触媒(I)とする。この触媒(I)の金属元素組成(酸素を除く原子比、以下同じ)は、Mo12W0.2Bi1.7Fe1.5Co4Ni3K0.08Si、であった。
触媒II
特開平8−206504号公報の実施例1の記載に従ってモリブデン‐バナジウム系触媒を調製した。これを触媒(II)とする。この触媒(II)の金属元素の組成(酸素を除く原子比)は、Mo12V6.1W1Cu2.3Sb1.2、であった。
実施例1
図1に示す工程に従ってアクリル酸を製造した。
[アクリル酸の合成]
アクリル酸の合成には、熱媒循環用ジャケットを外周に備え、内部に内径25mm、長さ7,000mmの反応管を収納し、ジャケット下部から3,500mmの位置に熱媒ジャケットを上下に2分割する厚さ75mmの穴あき管板を設けた反応器を使用した。
反応器下部(第一反応ゾーン)および上部(第二反応ゾーン)には、それぞれ熱媒を循環させて温度を制御し、反応管下部から上部に向かって、(1)平均径5mmのセラミックボール(層長250mm)、(2)触媒(I)と平均径5mmのセラミックボールとを容量比70:30の割合で混合した混合物(層長700mm)、(3)触媒(I)(層長2,300mm)、(4)外径5mm、内径4.5mm、長さ6mmのステンレス製ラシヒリング(層長500mm)、(5)触媒(II)と、平均径5mmのセラミックボールとを容量比75:25の割合で混合した混合物(層長600mm)、および(6)触媒(II)(層長1,900mm)をこの順で充填した。
該反応器の第一反応ゾーンに、プロピレン、空気(水分濃度2質量%)、および捕集塔3からの排出ガスの一部(リサイクルガス)を循環させ、第一反応ゾーンの空間速度が1,250hr-1(STP)となるように各流量およびリサイクルガスの冷却温度を調整し供給した。なお、第一反応ゾーンに循環させた原料およびリサイクルガスからなる混合ガスの組成は、プロピレン:8.0体積%、O2:14.4体積%、H2O:2.0体積%、残りはN2、プロパン、COX、アクリル酸、酢酸等であった。
第二反応ゾーンの出口(出口圧力(絶対圧)0.15MPa)におけるプロピレン転化率が97±0.5モル%、アクロレイン収率が1±0.5モル%になるように、第一反応ゾーン、第二反応ゾーンそれぞれの熱媒温度を調整して、16.62質量%のアクリル酸を含むアクリル酸含有ガスを18.77kg/時で得た。
次に、予冷器で200℃に冷却したアクリル酸含有ガスをアクリル酸捕集塔3に導き、アクリル酸溶液として捕集した。
上記アクリル酸捕集塔3は、規則充填物を充填した充填塔で、計算上の理論段21段を有し、塔底部にアクリル酸含有ガスの供給口および捕集液の抜き出し口、塔頂部に捕集用水溶液導入口およびガスの排出口、塔側部(理論段第19段)に分解工程の反応蒸留装置からの留出液(循環液)の供給管などを備え、さらに塔頂部より排出されるガスの一部を冷却するための冷却器(図示せず)を備えたものである。
アクリル酸の捕集用溶剤としては、捕集塔3に導入するアクリル酸含有ガス中のアクリル酸量に対して200質量ppmに相当するハイドロキノンを含む水を用い、これを1.01kg/時で捕集塔3に供給した。
なお、アクリル酸含有液捕集時の捕集塔3の運転は、塔頂温度66.9℃、塔頂圧力(絶対圧)0.11Mpa、リサイクルガスの冷却温度40.6℃、リサイクル率29.0%で行った。このとき、リサイクルガスの冷却によって得られた凝縮液は全量、捕集塔3に循環した。
捕集塔3の塔側部から、分解工程の反応蒸留装置8からの留出液(循環液)を2.33kg/時で供給した。
この時の捕集塔3におけるアクリル酸の吸収効率は、98.22%であった。
[結晶化精製工程]
次に、捕集塔3で得られたアクリル酸含有水溶液を動的晶析装置5に供給し、4回の動的結晶化により精製した。
動的結晶化は、特公昭53‐41637号公報に記載される晶析装置に準じた晶析精製装置で行った。当該装置は、下部に貯蔵器を備えた、長さ6m、内径70mmの金属管であり、循環ポンプにより貯蔵器中の液体を管上部へ移送し、液体を管内壁面に落下皮膜(falling film)状に流すことができるようになっている。管の外表面は二重のジャケットから構成され、このジャケットは、サーモスタットで一定の温度になるように制御されている。なお、1回の動的結晶化は以下の手順で行った。
1.結晶化:貯蔵器に供給したアクリル酸含有溶液を、循環ポンプにより管壁面に落下被膜状に流し、ジャケットの温度を凝固点以下にまで下降させて、貯蔵器に供給したアクリル酸含有溶液に含まれるアクリル酸の約60〜80質量%を壁面に結晶化させた。
2.発汗:循環ポンプを停止し、ジャケットの温度を凝固点付近まで上昇させ、結晶化させたアクリル酸の約2〜5質量%を発汗させた。発汗後、貯蔵器内の残留アクリル酸含有溶液および発汗液をポンプで汲み出した。
3.融解:ジャケットの温度を凝固点以上に上昇させ、結晶を融解し、これをポンプで汲み出した。
以上の操作において、温度、および凝固点は実施されるそれぞれの工程に依存させた。
これにより、99.89質量%の純度を有するアクリル酸を3.12kg/時で得た。
なお、動的晶析装置から取り出された残留母液の組成は、水:9質量%、酢酸:3.7質量%、マレイン酸:0.9質量%、フルフラール:1.1質量%、ベンズアルデヒド:0.3質量%、アクリル酸二量体(ミカエル付加物):3.4質量%であった。
[分解工程]
結晶化精製工程の動的結晶化装置5より取り出されたミカエル付加物を含む残留母液を反応蒸留装置8に供給し、ミカエル付加物を分解し、アクリル酸として回収した。反応蒸留装置8としては、強制循環型の外部熱交換器を備えたものを採用し、熱分解温度(塔底温度):170℃、滞留時間:4時間、塔頂圧力:26.6kPa、塔頂温度:98℃の条件でミカエル付加物の熱分解を行った。なお、このとき、上記強制循環型熱交換器の熱源として、2.5MPsGの蒸気を使用し、シェル圧は1.3MPsG(加熱温度:195℃)、塔底液の循環量は200m3/hr相当であった(尚、上記循環量の値は、ミニチュアプラントで行なった実施例1の値を基に、実機プラントで行なう場合の値に換算した換算値を示すものである。)。
このときのミカエル付加物の転化率は70%、アクリル酸選択率は75%であった。また、廃油粘度(振動型粘度計,液温100℃)は、150mPasであった。
反応蒸留装置8の塔頂部より、2.33kg/時でアクリル酸を回収し、ライン9を経て捕集塔3の塔側部に循環させた。反応蒸留装置8から留出した留出液(循環液)の組成を、後述の表1に示す。
最終的に動的晶析装置から取り出された結晶を分析したところ、アクリル酸の純度は99.89質量%であり、水:550質量ppm、酢酸:520質量ppm、マレイン酸:15質量ppm、フルフラール:0.8質量ppm、ベンズアルデヒド:0.5質量ppm、ホルムアルデヒド:0質量%、アクリル酸二量体:50質量ppmを含むものであった。
14日間の運転の後、反応蒸留装置内に付着物が一部認められた。反応装置内の付着物の質量は、一日あたりの換算で200gであった。
上記、ミカエル付加物の転化率、アクリル酸選択率および廃油粘度の測定結果を表2に示す。
実施例2
実施例2では、分解工程で棚段を備えた反応蒸留装置8を採用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、アクリル酸を製造した。このとき用いた棚段を備えた反応蒸留装置8は、20段のシーブトレイと(理論段5段相当)、強制循環型の外部熱交換器(図示せず)を備えたものであった。以下に、ミカエル付加物の分解工程について説明する。
[分解工程]
晶析装置5で得られた残留母液を、棚段を備えた反応蒸留装置8の下段(20段の16段目)に供給した。ミカエル付加物の熱分解は、熱分解温度(塔底温度):170℃、滞留時間:4時間、塔頂圧力:26.6kPa、還流比:1.5、塔頂温度:98℃の条件で行った。強制循環型熱交換機の運転は、実施例1と同様の循環量となるように調整した。このときのミカエル付加物の転化率は72%、アクリル酸選択率は80%であった。また、廃油粘度は118mPasで、14日間の運転では、反応蒸留装置8内に汚れ等のトラブルは認められなかった(14日間運転後の、反応装置内の付着物量:120g/日)。
反応蒸留装置8の塔頂部より、2.33kg/時でアクリル酸を回収し、捕集塔3の塔側部に循環した。留出液の組成を表1に、ミカエル付加物の転化率、アクリル酸選択率および廃油粘度の測定結果を表2に示す。
尚、このとき最終的に動的晶析装置から取り出された結晶は、アクリル酸の純度は99.89質量%であり、水:520質量ppm、酢酸:480質量ppm、マレイン酸:12質量ppm、フルフラール:0.5質量ppm、ベンズアルデヒド:0.4質量ppm、ホルムアルデヒド:0質量ppm、アクリル酸二量体:40質量ppmを含むものであった。
実施例3
図2に示す工程を採用して、アクリル酸の製造を行った。
なお、当該実施例3では、分解工程の前に蒸留工程を設けたこと以外は上記実施例1と同様の操作を行った。結晶化精製工程後の操作を、以下に説明する。
[蒸留工程]
晶析装置5より得られた残留母液を、段数20段のシーブトレイと、リボイラーを備えた蒸留塔12の中段(20段の10段目)に供給した。このとき蒸留塔12は、操作圧:9.3kPa、還流比:0.3の条件で制御した。
蒸留塔12の塔頂部より2.33kg/時でアクリル酸を回収し、これを捕集塔3の塔側部に循環させた。蒸留塔12からの留出液の組成を表1に示す。
[分解工程]
蒸留塔12の塔底液を、反応蒸留装置8に供給して、塔底液に含まれるミカエル付加物を分解し、アクリル酸として回収した。強制循環型熱交換機の運転は、実施例1と同様の循環量となるように調整した。なお、上記蒸留塔12の塔底液の組成は、アクリル酸:22.1質量%、マレイン酸:15.2質量%、フルフラール:4.3質量%、ベンズアルデヒド:3.9質量%、アクリル酸二量体:44.9質量%、その他の不純物:9.6質量%であった。
また、このとき採用した反応蒸留装置8は、強制循環型の外部熱交換器を備えたもので、ミカエル付加物の熱分解は、熱分解温度(塔底温度):170℃、滞留時間:4時間、塔頂圧力:26.6kPa、塔頂温度:98℃の条件で行った。このときのミカエル付加物の転化率は75%、アクリル酸選択率は90%であった。また、廃油粘度は100mPasであり、14日間の運転では、反応蒸留装置8内に汚れ等のトラブルは認められなかった(14日間運転後の、反応装置内の付着物量:100g/日)。ミカエル付加物の転化率、アクリル酸選択率および廃油粘度の測定結果を表2に示す。
反応蒸留装置8の塔頂から回収したアクリル酸は、蒸留塔12の下段に供給した。
最終的に動的晶析装置から取り出された結晶を分析したところ、アクリル酸の純度は99.91質量%であり、水:470質量ppm、酢酸:420質量ppm、マレイン酸:10質量ppm、フルフラール:0.2質量ppm、ベンズアルデヒド:0.2質量ppm、ホルムアルデヒド:0質量ppm、アクリル酸二量体:40質量ppmを含むものであった。
実施例4
実施例4では、ミカエル付加物の分解工程において棚段を備えた反応蒸留装置8を用いたこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。結晶化精製工程後の操作を、以下に説明する。
[蒸留工程]
晶析装置5より得られた残留母液を、段数20段のシーブトレイと、リボイラーを備えた蒸留塔12の中段(20段の10段目)に供給した。このとき蒸留塔12は、操作圧:93hPa、還流比:0.3の条件で制御した。
蒸留塔12の塔頂部より、2.33kg/時でアクリル酸を回収し、捕集塔3の塔側部に循環させた。このとき得られた留出液の組成を表1に示す。
[分解工程]
一方、蒸留塔12の塔底液を、棚段を備えた反応蒸留装置8に供給して、塔底液に含まれるミカエル付加物を分解し、アクリル酸を回収した。上記塔底液の組成は、アクリル酸:22.1質量%、マレイン酸:15.2質量%、フルフラール:4.3質量%、ベンズアルデヒド:3.9質量%、アクリル酸二量体:44.9質量%、その他の不純物:9.6質量%であった。なお、このとき採用した反応蒸留装置8は、20段のシーブトレイと強制循環型の外部熱交換器(図示せず)を備えたもので、ミカエル付加物の熱分解は、熱分解温度(塔底温度):170℃、滞留時間:4時間、塔頂圧力:26.6kPa、還流比:1.5、塔頂温度:98℃の条件で行った。強制循環型熱交換機の運転は、実施例1と同様の循環量となるように調整した。このときのミカエル付加物の転化率は82%、アクリル酸選択率は98%であった。また、廃油粘度は85mPasであり、14日間の運転では、反応蒸留装置8内に汚れ等のトラブルは認められなかった(14日間運転後の反応装置内の付着物量:20g/日)。ミカエル付加物の転化率、アクリル酸選択率および廃油粘度の測定結果を表2に示す。
反応蒸留装置8の塔頂から回収したアクリル酸は、蒸留塔12の下段に供給した。
最終的に、動的晶析装置から取り出された結晶を分析したところ、アクリル酸の純度は99.92質量%であり、水:400質量ppm、酢酸:400質量ppm、マレイン酸:4質量ppm、フルフラール:0.1質量ppm、ベンズアルデヒド:0.1質量ppm、ホルムアルデヒド:0質量ppm、アクリル酸二量体:40質量ppmを含むものであった。
比較例1
図3に示す工程によりアクリル酸の製造を行った。
なお、当該比較例1では、ミカエル付加物分解工程において、残留母液を加熱する薄膜蒸発器8bと、ミカエル付加物の分解を行なう分解槽8cが組み合わされた棚段を備えた蒸留塔12(20段のシーブトレーを備える)を採用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
[分解工程]
結晶化生成工程の動的結晶化装置5より取り出されたミカエル付加物を含む残留母液を、蒸留塔12の下段に供給し、ミカエル付加物の分解を行なった。分解槽8cでは、常圧で、熱分解槽温度(分解温度):170℃、滞留時間:30時間の条件でミカエル付加物の熱分解を行い、分解液の一部をポンプで薄膜蒸発器8bへ再供給し、残部は廃棄した。このとき薄膜蒸発器8b、および蒸留塔12は、塔底液が95℃になるように制御し、塔頂圧力:4.5kPa、塔頂温度:60℃、還流比:1.5の条件で運転して、アクリル酸を回収した。このときのミカエル付加物の転化率は72%、アクリル酸選択率は80%であった。また、廃油粘度は123mPasで、14日間の運転で蒸留塔12内の一部に汚れが認められた(14日間運転後の、蒸留塔内の付着物量:500g/日)。ミカエル付加物の転化率、アクリル酸選択率および廃油粘度の測定結果を表2に示す。
蒸留塔12の塔頂部より、2.33kg/時でアクリル酸を回収し、これを捕集塔3の塔側部に循環させた。留出液の組成を表1に示す。
最終的に、動的晶析装置から取り出された結晶を分析したところ、アクリル酸の純度は99.88質量%であり、水:600質量ppm、酢酸:530質量ppm、マレイン酸:30質量ppm、フルフラール:1.8質量ppm、ベンズアルデヒド:1.0質量ppm、ホルムアルデヒド:0質量ppm、アクリル酸二量体:60質量ppmを含むものであり、製品アクリル酸中のフルフラール量が高く、品質上問題があった。
比較例2
図4に示す工程によりアクリル酸の製造を行った。
なお、比較例2では、ミカエル付加物の分解工程において、反応蒸留装置に換えて、残留母液を加熱し、ミカエル付加物を分解する薄膜蒸発器8bと、蒸留塔12とを組み合わせて使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、薄膜蒸発器8b、および蒸留塔12は、塔底液が95℃になるように制御し、塔頂圧力:26.6kPa、塔頂温度98℃、還流比:1.5の条件で運転して、アクリル酸を回収した。このときの廃油粘度は160mPasで、14日間の運転で蒸留塔12の一部に汚れが認められた(14日間運転後の、蒸留塔内の付着物量:450g/日)。ミカエル付加物の転化率、アクリル酸選択率および廃油粘度の測定結果を表2に示す。
蒸留塔12の塔頂部より、2.33kg/時でアクリル酸を回収し、これを捕集塔3の塔側部に循環させた。留出液の組成を表1に示す。
最終的に、動的晶析装置から取り出された結晶を分析したところ、アクリル酸の純度は99.89質量%であり、水:550質量ppm、酢酸:23質量ppm、マレイン酸:1.5質量ppm、フルフラール:0.8質量ppm、ベンズアルデヒド:0質量ppm、ホルムアルデヒド:50質量ppm、アクリル酸二量体:0.2質量ppmを含むものであった。
なお、表2中「収率[%]」とは、ミカエル付加物の分解効率を示し、下記式により算出される値を示すものである。
各実施例および比較例における留出液の組成をまとめた表1より、ミカエル付加物の分解工程に反応蒸留形式を採用する本発明の製造方法では、効率よくミカエル付加物を分解し、アクリル酸として回収できることがわかる(実施例1〜4)。特に、上記構成の分解工程に加えて蒸留工程を設けることで、留出液中のマレイン酸をさらに低レベルにまで低減でき、ミカエル付加物の分解、アクリル酸の回収が一層効率よく行なえることがわかる(実施例3、実施例4)。
また、表2からも、本発明の製造方法を採用した場合には、従来法でミカエル付加物の分解を行なった場合に比べて(比較例1,2)、ミカエル付加物の分解効率が高く、また、ミカエル付加物の分解を行なう反応蒸留装置内の付着物量も少ないものであることがわかる。
上記比較例1,2は、いずれも反応蒸留形式による分解が行われなかった例であり、収率が低く、他の例に比べてミカエル付加物の分解効率が劣っている。比較例1は、分解工程において分解槽8cを使用するものであり、分解により生成したアクリル酸が分解槽8c内に留まり、反応蒸留形式による分解反応が起こらなかったものと考えられる。一方、上記比較例2は、反応蒸留装置を用いなかった例である。なお、熱源として薄膜蒸発器8bを用いているが、残留母液の加熱が不十分であり、蒸留塔12内では蒸留しか起こらなかったものと考えられる。なお、薄膜蒸発器内では、反応蒸留形式による分解反応が行える程の滞留時間を確保できないため、実質的なミカエル付加物の分解反応を行うことは困難である。
すなわち、反応蒸留形式を採用する本発明の製造方法によれば、分解工程において、マレイン酸の析出が抑制され、高温、停滞流時間で残留母液を処理できるので、当該反応蒸留塔内の付着物生成量も少なく、効率よくアクリル酸を製造できることがわかる。