JP2003027214A - 非晶質炭素被膜と非晶質炭素被膜の製造方法および非晶質炭素被膜の被覆部材 - Google Patents

非晶質炭素被膜と非晶質炭素被膜の製造方法および非晶質炭素被膜の被覆部材

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JP2003027214A
JP2003027214A JP2001216724A JP2001216724A JP2003027214A JP 2003027214 A JP2003027214 A JP 2003027214A JP 2001216724 A JP2001216724 A JP 2001216724A JP 2001216724 A JP2001216724 A JP 2001216724A JP 2003027214 A JP2003027214 A JP 2003027214A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 潤滑油中で低摩擦係数をもち、高い密着性を
持ち、高硬度、平滑性、摺動特性などの特性を有する非
晶質炭素被膜を提供すること。 【解決手段】 基材の上に、0.5nm〜30nmの金
属層を設けるか、或いは金属層を設けず基板の上に、
0.5nm〜300nmの無水素炭素膜Aをスパッタリ
ング、真空アーク蒸着法によって形成し、さらにその上
に水素濃度が5〜50at.%、金属濃度が0.01〜
35at.%の含水素炭素膜Bを無水素炭素膜Aの2倍
〜1000倍の膜厚に形成する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、潤滑油中での摩擦
係数低減、耐摩耗性、摺動特性、表面保護機能向上のた
め、機械部品、金型、切削工具、摺動部品などの表面に
被覆される非晶質炭素被膜、その被覆部材および被覆方
法に関する。
【0002】[言葉の定義] 非晶質炭素被膜は、ダイ
ヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボン硬質膜、
a−C、a−C:H、i−Cとも称されている硬質の被
膜である。非晶質であるから熱平衡で作製されたのでは
ない。炭素原料蒸気をプラズマ化して基材、基板上で急
冷し非平衡にして非晶質にしている。これには二種類あ
って厳密に区別する必要がある。
【0003】<B.含水素炭素膜> 一つは水素を含む
炭素膜である。非晶質水素化炭素膜ということができ
る。これは上記の記号では厳密にはa−C:Hと表現さ
れるべきである。しかし実際には水素を含む非晶質炭素
被膜を、DLC、カーボン硬質膜、a−C、a−C:
H、i−Cなどといっている。
【0004】それは歴史的に水素を含む非晶質炭素被膜
の方が速く実用化され現在までにかなりの実績をもって
いるからである。だから通常非晶質炭素被膜というと水
素を含む非晶質炭素被膜を指す。非晶質炭素被膜は平滑
で摩擦係数が低いと言われるが、それは水素を含む非晶
質炭素被膜の固有の性質である。厳密には非晶質炭素被
膜全てがそうだということでない。混同してはならな
い。
【0005】非晶質であるから結晶構造のような規則性
はないが結合の手を一本しかもたない水素原子の介在が
表面平滑性、低摩擦係数性を与えている。水素を含む非
晶質炭素被膜の原料は水素と炭素の化合物である炭化水
素ガス(CH、C、…)である。原料に水素を
含むから生成された膜にも水素が含まれる。プラズマC
VD法などによって作られる。成膜方法によってはガス
原料を使わない場合もある。炭素固体を原料とする方法
の場合は雰囲気ガスに水素含有ガスを用いる。
【0006】水素を含む非晶質炭素被膜は、高硬度で平
面平滑性に優れ、摩擦係数が低いといった優れた特徴を
有する。SiやGeウエハなど半導体ウエハの表面には
良好な薄膜を形成することができる。しかし半導体の絶
縁膜としてはSiOやSiNなど優れたものが既にあ
る。また半導体の絶縁膜には低摩擦係数や平滑性などは
不要だから非晶質炭素被膜を使う必要性はない。
【0007】水素を含む非晶質炭素被膜は耐摩耗性、低
摩擦係数が要求される機械部品、金型、切削工具、摺動
部品などへの応用が期待されている。これが非晶質炭素
被膜のもっとも重要な用途であろう。一部には製品化さ
れているものもある。
【0008】水素を含む非晶質炭素被膜の形成法として
は、メタン(CH)等の炭化水素系ガスを用いたプラ
ズマCVD法や、スパッタ蒸着法、イオンプレーティン
グ法、真空アーク蒸着法などが用いられる。
【0009】しかし水素を含む非晶質炭素被膜には根元
的な難点がある。水素含有非晶質炭素被膜は基材との密
着性に乏しいということである。軟鉄、鋼、ステンレス
など通常に機械部品材料として用いられる多くの金属の
表面には水素を含む非晶質炭素被膜は密着しない。すぐ
に剥落してしまう。これが最大の問題である。結合の手
を一つしか持たない水素が含まれるから基材との境界に
おいて結合を形成しにくいからであろう。そこで様々な
密着性改善方法が提案されている。
【0010】普通に非晶質炭素被膜というと炭化水素を
原料としてプラズマCVD法で作られた水素を含む非晶
質炭素被膜である。いちいち「水素を含む非晶質炭素被
膜」というのはわずらわしい。以後「含水素炭素膜(或
いはこれにBを付けて含水素炭素膜Bとする)」と呼ぶ
ことにする。
【0011】<A.無水素炭素膜> もう一つは水素を
含まない炭素膜である。これは非晶質無水素炭素膜とい
うことができる。一般的にDLC、カーボン硬質膜、a
−C:H、i−Cは含水素炭素膜Bを表現している。水
素を含まない非晶質炭素被膜は、炭化水素ガスではなく
て固体炭素を原料として作製する。
【0012】歴史的には炭素を原料として電子ビーム蒸
着法などで薄膜形成する、ダイヤモンド薄膜の生成を目
的にした研究の方が古い。ダイヤモンドの人工合成法の
一つとして期待された。しかし結晶質のグラファイト膜
ができたり粒子の荒いアモルファス膜(非晶質)とグラ
ファイトの混合膜ができたりして長らく成功しなかっ
た。基板を低温にすることによって非晶質炭素膜にする
ことはできたが、なお根本的な難点があった。
【0013】非晶質膜であって炭素だけだから基材との
密着性は良いのであるが表面が荒い。粗面化するので使
いものにはならない。どうして粗面化するのか?それは
次のような理由による。
【0014】炭素、シリコン、Geなど4族元素に共通
のことであるが、単体原料を電子ビームなどで蒸発させ
低温基材に蒸着させると非晶質にはなる。しかし強固な
共有結合をもつ4族元素は単体原子(イオン)となって
飛ぶだけではなく、原子団(ドロプレット)になって飛
ぶから膜内部に原子団の塊をボツリボツリと形成するよ
うになる。塊で飛び塊で基材に付くから膜表面がザラザ
ラになってしまう。4本の結合を持つので4族非晶質薄
膜は基材との密着性は良い。しかしそれが裏目に出て薄
膜になったときは凹凸隆起の多い粗面を形成するように
なる。もしも摺動部材として使うとたちまちの内に相手
材を傷付け摩損摩耗してしまう。とてもそのままでは使
えない。あえて使用したいなら研磨する必要がある。し
かし極めて硬いので研磨は難しい。
【0015】だから水素を含まない非晶質炭素被膜は、
表面平滑、低摩擦係数、耐摩耗性というような通常非晶
質炭素被膜について言われるような性質を持たないので
ある。ただ高硬度ということは言える。しかし高硬度で
あっても粗面化していれば何にもならない。かえって研
磨に手間がかかるだけで実際的な利益はない。つまり役
に立たない。だから水素を含まない非晶質炭素被膜はい
まだに確たる用途を持たない。工具や機械部品の被覆と
して実用化された実績もない。だから非晶質炭素被膜の
一種であるが忘れられた存在であり、通常に非晶質炭素
被膜というと、当業者は水素を含む含水素炭素膜を想起
する。
【0016】非晶質炭素被膜には密着性のないのが欠点
だというが、それは水素を含む炭素膜Bのことであっ
て、水素を含まない非晶質炭素被膜Aは充分な密着性を
備えているのである。水素を含まない非晶質炭素被膜と
いちいち言うのは冗長である。以後「無水素炭素膜(或
いはAを付けて無水素炭素膜A)」と呼ぶことにする。
【0017】水素を含む非晶質炭素被膜BがプラズマC
VD法で生成できるようになったあと、炭素だけの使い
ものになる非晶質炭素被膜Aを作製する技術が発明され
た。それは後に詳しく述べるフィルタードカソード法に
よるものである。表1に含水素炭素膜Bと無水素炭素膜
Aの特性を一覧にして示す。
【0018】
【表1】
【0019】<M.金属膜> 本発明において金属膜を
介在させることがある。多様な金属を用いるが、金属膜
をMによって表現することにする。
【0020】<S.基材> 被膜を形成する基礎となる
部材を基材という。工具や機械部品などが基材になる。
基材を簡単にSによって表現することにする。そして層
の構造は表面を左に基材を右にするような表記法によっ
て示す。
【0021】
【従来の技術】水素を含む非晶質炭素被膜の密着性改善
のためになされる一般的な手法として、基材と水素を含
む非晶質炭素被膜との間に、様々な中間層を形成する方
法が従来から試みられている。Si、Geとは密着性が
良いからSiやGeあるいはSiC、GeCなどの中間
層が試みられ、それなりに成功している。実に多くの種
類の金属、半金属、化合物の中間層が提案され枚挙に暇
がない。きりがないのでここでは一つだけ従来例を挙げ
る。
【0022】特開昭64−79372号「カーボン硬
質膜の被覆方法」は、基材上に気相合成法によって炭化
チタニウム(TiC)からなる中間層を被覆した後、気
相合成法により、非晶質炭素被膜を形成する方法を提案
した。この非晶質炭素被膜というのはもちろん含水素炭
素膜Bのことである。表面側から順に含水素炭素膜B−
金属膜M−基材Sという構造をもっている。これを簡単
に、BMSと書く事にする。この構造をもつものは多
い。
【0023】特開平5−202477号「硬質炭素膜
とその製造方法」は、非晶質炭素被膜の硬度を膜厚方向
に変化させる方法を提案する。成膜の温度を低温から徐
々に上げてゆく事によって炭素膜の硬度を低いものから
高いものへと上げてゆく。硬度を徐々に上げることによ
って、被膜の応力を低減し、基材と被膜界面での応力の
不整合を防止する。それによって、密着力を改善する。
基板温度を常温一定とする従来法では1μm以下の膜厚
のものしかできないが、基板温度を常温から連続的に6
00℃まで上げつつ成膜すると30μmもの膜厚の非晶
質炭素被膜が得られると述べている。これももちろん含
水素炭素膜Bのことである。これは簡単にBbSという
ように書く事ができよう。bは低硬度の含水素炭素膜、
Bは高硬度の含水素炭素膜のことである。
【0024】特開2000−128516「低磨耗性
と優れた密着性を有する複合ダイヤモンドライクカーボ
ン皮膜」は、ピストンリング(基材)表面に、水素を含
まないDLC層(無水素炭素膜A)をフィルタードカソ
ード方式の真空アーク蒸着法により形成しそのまま製品
とするか、あるいは無水素炭素膜Aを設け、その上に水
素を含むDLC層(含水素炭素膜B)をプラズマCVD
法によって形成する。あるいはピストンリングの上にW
膜を付け、その上に無水素炭素膜Aを形成し、更にその
上に含水素炭素膜Bを形成するといっている。先述の表
記では、AS、BASあるいはBAMSである。これが
無水素炭素膜Aを実際に応用した最初の発明と思われ
る。
【0025】本発明の先行技術として最も近いものであ
る。それゆえ詳しく説明する。従来例として含水素炭素
膜Aを被覆したピストンリングは提案されているが密着
性が不十分で被膜が剥離してしまうので普及しないと述
べている。噴射ポンプ弁座(基材)に、TiN、Ti
C、TiBなどを中間層として被覆し、その上にプラ
ズマCVD法によって含水素炭素膜Bを形成したものも
提案されているが、これも剥離して不十分だと言ってい
る。
【0026】そこで基材の上に、真空アーク蒸着法によ
って無水素炭素膜Aを形成し、その上にプラズマCVD
法によって含水素炭素膜Bを形成するという非晶質炭素
二重被膜構造を初めて提案した。無水素炭素膜Aを中間
層として提案した最初のものである。水素を含まない非
晶質炭素被膜Aという概念を明らかにしている。また水
素を含まない非晶質炭素被膜Aを製造する方法(フィル
タードカソード法)をも提案している。斬新な着眼であ
る。実施例に示された層構造は表2の通りである。
【0027】
【表2】
【0028】ここで注意すべきことがいくつかある。 1.一つは中間層2とした無水素炭素膜Aの膜厚が0.
8μmというように厚いことである。無水素炭素膜Aは
真空アーク放電+フィルタードカソード法によって形成
するがこれは生産性の低い方法でこのように厚い無水素
炭素膜Aを形成するには時間がかかる。
【0029】2.もう一つは反対に含水素炭素膜Bが1
μmであって薄すぎるということである。摺動特性に優
れ低摩擦係数、平滑性に優れた硬質膜であるからもっと
厚く付ける方が良いと思われる。
【0030】3.さらに含水素炭素膜Bの水素含有量
が、0.17〜0.34at.%という低い値である。
このように水素含有量が低いと表面平滑性や低摩擦係数
性という点で問題があろうと推測される。
【0031】4.無水素炭素膜Aは原子団(ドロプレッ
ト)となって飛ぶから薄膜形成するとボコボコに粗面化
するものであるが、これを避けるためフィルタードカソ
ード法という新規で巧妙な手法を編み出している。
【0032】
【発明が解決しようとする課題】2以上の金属部材の摺
動部分の潤滑性を高めるために、潤滑油が接触面に与え
られる。例えばジチオリン酸(ZnDTP)を添加した
潤滑油が用いられる。これはZn、Pを含んだ潤滑油で
あって鉄などの部材の表面に薄い潤滑油の膜を生成し
て、実効的な摩擦係数を下げる作用がある。それは鉄な
どの表面にZn、Pなどの元素が吸着されることによっ
て潤滑油膜が鉄を覆うようになり、鉄どうしが接触しな
いようになるからである。
【0033】鉄はしかし硬度や耐摩耗性などにおいて問
題がある。硬度を増すために非晶質炭素被膜によって鉄
を覆うという試みがなされる。非晶質炭素被膜で鉄など
の金属を覆う場合いくつかの問題がある。一つは密着性
である。非晶質炭素被膜を鉄などに付けた場合密着性不
十分で剥離し易い。
【0034】もう一つの問題は潤滑油を用いた場合であ
る。鉄と違って、炭素(C)にはZnやPを吸着する能
力がない。ためにZn、Pを添加した潤滑油が炭素被膜
の上に薄い保護膜を形成できない。ため炭素被覆部材が
潤滑油を突き破って直接に接触し相互の部材を傷付け
る。だから潤滑油下では非晶質炭素被膜を摩擦させると
摩擦係数は低下せず、表面摩損を甚だしくする。このよ
うな問題は本発明者が初めて見出したものである。密着
性の問題については先行技術があるから、これについて
述べる。潤滑油下での摩擦係数増大の問題については先
行技術を発見できなかったのでそれについては述べな
い。
【0035】[先行技術、の問題点]先行技術とし
て説明したもののうち、特開昭64−79372号、
特開平5−202477号は含水素炭素膜Bを基材に
被覆するものである。これらはBMS、BbS構造をも
ち、無水素炭素膜Aを全く含まない。非常に高い面圧下
で使用される機械部品や、切削工具、金型、あるいは乾
式で用いられる摺動部品などに対して密着性が不十分で
ある。だから繰り返し使用によって含水素炭素膜Bが剥
離する。高い面圧で使われる機械部品、金型、摺動部品
には使えない。
【0036】[先行技術の問題点]炭素を含まないD
LC層を中間層とするの方法についてはすでに幾つか
の疑問点を述べた。無水素炭素膜Aが0.8μmもあっ
て厚すぎる、含水素炭素膜Bが1μmであって薄すぎ
る、含水素炭素膜Bの水素量が0.17〜0.34a
t.%で低すぎるということである。
【0037】何といってもの最大の功績はフィルター
ドカソード方式の真空アーク蒸着法を用いているという
ことである。原子団塊として飛び付着し粗面化しやすい
無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法によって平滑
面として形成している。フィルタードカソード法という
新規な手法により無水素炭素膜Aの欠点を解決してい
る。ピストンリングの場合は、無水素炭素膜Aを表面と
することができると述べている。それほど無水素炭素膜
Aの表面が平坦平滑で低摩擦係数だからである。
【0038】フィルタードカソード法はしかし成膜面積
が狭く(膜厚偏在)、成膜速度が遅いという欠点があ
る。だから生産性が低く量産に向かないという難点があ
る。さらに含水素炭素膜Bが薄い(1μm)し水素含有
量が低い(0.17〜0.34at.%)ので摩擦係数
(0.2)が十分に低くならない。また平滑性でも問題
がある。特にエンジンオイル雰囲気での摩擦係数の低減
が不十分である。
【0039】[フィルタードカソード法]真空アーク放
電+フィルタードカソードによって無水素炭素膜Aを平
坦面に形成したのはの功績である。巧妙な手法である
が効率悪く時間の掛かる方法で高コストを招く。常套の
手法でなく新規な方法であるからに現れたフィルター
ドカソード法を説明する。従来例の図4にのフィル
タードカソードを有する装置の図を示している。
【0040】真空チャンバ内部にサセプタを設け基材を
取り付ける。これと離れて直角の方向にイオンソースを
設ける。イオンソースはカソードとして固体炭素をのも
のを用いる。カソードの前方にサセプタはなく、サセプ
タの前方にカソードがない。リング状アノードを固体炭
素(カソード)より前方に離れた部分に設ける。固体炭
素カソードの前にイグニッション(点火装置)を設け
る。アノードとサセプタの方向は90度ねじれている。
アノードとサセプタの間の1/4円周にそって半径Rの
1/4円弧形状に湾曲した筒状のマクロパーティクルフ
ィルターを設ける。マクロパーティクルフィルターの周
りにはマグネットコイルを幾つも設ける。コイルに直流
を流して円弧状彎曲路にそった静磁場を発生させるよう
になっている。質量分離コイルのように扇形磁石によっ
て円弧状彎曲路に直交する磁場を発生させるのではな
い。
【0041】イグニッションとカソードの間に直流電圧
をかけてアーク放電を起こす。アーク放電によって固体
炭素が溶融し蒸発する。蒸発したものは中性であるが共
有結合が強いから炭素原子までに分離しないで中性原子
団となる。アノードとカソードの間に直流電圧がかかっ
ており、アーク放電も存在する。アーク放電のために中
性原子団のごく一部が単独原子の炭素イオンCあるい
は数個の原子のイオンC 、…になる。中性原子団は
磁場の影響を受けず直進するから中心角90度の円弧状
彎曲路を通過できない。壁に当たって壁に付く。
【0042】単独原子の炭素イオンCだけが円弧状彎
曲路の彎曲に沿う静磁場によって運ばれて90度曲がり
サセプタの上の基材の上まで飛ぶ。これが低温(常温)
の基材に当たり電荷を失って基材上に順次堆積する。単
独原子になっているから、これが基材上につもると団塊
にならず平滑平坦面になる。無水素炭素膜Aを平坦に堆
積させる巧みな手法である。無水素炭素膜Aだから密着
性は良い。
【0043】円弧状彎曲路はアノードからの長さをsと
しアノードを原点としたxyz座標系で
【0044】 x=Rsin(s/R) (1) y=R{1−cos(s/R)} (2) (0≦s≦πR/2)
【0045】となる。s=0はアノードの彎曲路入口、
s=πR/2は彎曲路出口である。彎曲路を囲むコイル
が作る静磁場は、質量分離(Bx=0、By=0、Bz
=const)とは違って、彎曲に沿っており、
【0046】Bx=Bcos(s/R) (3) By=Bsin(s/R) (4) Bz=0 (5)
【0047】である。経路にそっていることは、
【0048】Bxdy=Bydx (6)
【0049】が成り立つことからわかる。荷電粒子は磁
力線に巻き付きながらサイクロトロン運動する。C
オンは磁力線の回りを螺旋運動し彎曲を辿りながらsの
方向に進む。螺旋運動と彎曲運動の2重の回転をしなが
ら炭素イオンCが彎曲路を通り抜ける。中性原子団や
中性の単独原子は電荷がないから彎曲を通過できない。
団塊のイオンC があったとしても質量に比べ磁場の
かかりが弱いから壁に衝突する。単体のイオンCだけ
が彎曲を通過できる。Cだけを選択通過させる作用が
ある。だからマクロパーティクルフィルターというので
ある。
【0050】以上に述べたものは幾何学的な条件にすぎ
ない。運動学的にはそれ以上の条件が必要であることが
分かる。通常のBzによる質量分離よりも複雑な運動条
件となる。炭素イオンの質量をM、電荷をq、円周方向
の速度(主速度)をw(ds/dt=w)、円周からず
れる方向の速度をvとする。円周からずれる方向の速度
vを、サイクロトロン周波数Ωで割ったものが螺旋運動
の半径rを与える。
【0051】Ω=qB/M (7)
【0052】螺旋運動の半径rは
【0053】rΩ=v (8)
【0054】である。アーク放電によって固体炭素から
炭素イオンが生成されるから揺らぎ方向の速度vをもつ
が、これは一定値でなく確率変数である。円周方向の速
度wはアノード・カソード間の電圧によって与えられる
が一義的には決まらない。円弧状彎曲路の内径をρとす
ると、
【0055】r<ρ (9)
【0056】でなければ、炭素イオンは彎曲路を通過で
きず壁に当たってしまう。Ωをある程度大きくしなけれ
ばならない。Ωが大きいためには磁束密度Bを大きくし
質量Mを小さくしなければならない。vが確率変数なの
でvの有効最大値に対して式(9)を満たすようにΩを
決める必要がある。それだけでなく、運動学的に遠心力
より磁場のファラディ力が優越するという条件も課され
る。
【0057】Mw/R<Bqv (10)
【0058】これが運動学的条件である。円周螺旋と直
交する速度vが確率変数であることがフィルタードカソ
ードの運動の解析を確率的なものにする。このような様
々の条件を満たすものが彎曲路を通過して基材に到達で
きる。このような条件を満足するためには、円周方向の
磁束密度Bがかなり大きくて、炭素イオン質量Mが小さ
く、円周方向の速度wが小さくて、確率変数速度vがか
なり大きいということが必要である。これらは極めて厳
しい条件を炭素イオンに課す事になる。
【0059】アーク放電によって固体炭素が、中性原子
団と原子団イオン、単体イオンなどになる。アーク放電
自体はイオン化の作用をあまり持たないから中性原子団
が最も多い。これらは無駄になる。複数の炭素原子
のイオンC は上述の条件を満たすことができないか
らやはり壁にぶつかって浪費される。単体イオンC
全てが有効ということではなくて、vが大きくwが小さ
いという条件がいる。vはv=0が可能な確率変数だか
ら、上の条件を満たさないものもある。
【0060】ということは、アーク放電によって炭素の
気体が生成されても、その内の極極僅かな部分しか基材
まで到達できないということである。つまり成膜の速度
が遅い。炭素材料の殆どが浪費される。アーク放電を強
めても基材での成膜速度をなかなか上げることができな
い。本質的に生産性の悪い手法である。材料消耗の激し
い高コスト方法である。よほど高額の商品にしか適用す
ることができない。
【0061】それだけではない。磁力線にまといついて
螺旋運動して折角基材まで到達した炭素イオンCが基
材面上で一様でない、という欠点もある。円弧状彎曲路
の半径をρとして、円弧状中心軸線からの距離rが小さ
いものは磁力線随伴螺旋の条件を満足して壁にぶつから
ないが、rが大きいと同じvでも管壁にぶつかってしま
う。だから円弧状彎曲路を出てきた炭素イオンCはガ
ウス分布で近似すると中心に(r=0)極大をもち標準
偏差σのごく小さい分布となる。
【0062】つまり基材の中心部だけに無水素炭素膜A
の厚い層ができ周辺部は薄い層になってしまう。円弧状
磁束密度Bの作用によってイオンを円弧にそったサイク
ロトロン運動をさせて基材まで運ぶという複雑なことを
しているからこのような中心偏在の分布になってしまう
のである。特に式(10)が確率変数に依存した輸送の
困難性を物語っている。
【0063】従来例が、時間を掛けて800nmもの
極めて厚い無水素炭素膜Aを形成している理由はここに
ある。フィルタードカソードによると中心部と周辺部の
厚みの差が大きいから周辺部の全体を無水素炭素膜Aで
覆うためには中心部厚さを800nmといった極めて厚
大なものにしなければならないのである。
【0064】低生産性、膜厚偏在というフィルタードカ
ソードの欠点を述べた。無水素炭素膜Aを機械部品、工
具、金型など大型の被処理物に被覆するためにフィルタ
ードカソード法を使うのは望ましくない。フィルタード
カソードを使わずに無水素炭素膜A層を形成できるので
なければ無水素炭素膜Aを有効に利用することはできな
い。
【0065】潤滑油下で摩擦係数を低減でき、高密着
性、高硬度、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被
膜を提供することが本発明の第1の目的である。低コス
トで量産性に富んだ、潤滑油下で摩擦係数を低減でき、
高密着性、高硬度、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質
炭素被膜の製造方法を提供することが本発明の第2の目
的である。潤滑油下で摩擦係数を低減でき、高密着性、
高硬度、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を
有する工具、機械部品、金型を提供することが本発明の
第3の目的である。
【0066】
【課題を解決するための手段】[1.BAS構造(図
1)]本発明の第1の非晶質炭素被膜は、図1に示すよ
うに基材Sの上に0.5nm〜300nmの薄い無水素
炭素膜Aを形成し、その上に5at.%〜50at.%の
水素と、0.01〜35at.%の摩擦係数低減用金属
を含み、厚みが無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の厚
みを持つ含水素炭素膜Bを設けたものである。前述の表
現ではBAS構造である。無水素炭素膜Aはフィルター
ドカソードを使わない真空アーク蒸着法或いはスパッタ
リング法で形成する。含水素炭素膜BはCVD法、スパ
ッタリング法或いは真空アーク蒸着法で形成する。
【0067】
【表3】
【0068】[2.BAMS構造(図2)]本発明の第
2の非晶質炭素被膜は、基材Sの上に、0.5nm〜3
0nmのV、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Z
r、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、
Pbの内の一種以上の金属元素層あるいはその元素の炭
化物層を設け、その上に0.5nm〜300nmの薄い
無水素炭素膜Aを形成し、その上に5at.%〜50a
t.%の水素と、0.01〜35at.%の摩擦係数低減
用金属を含み、厚みが無水素炭素膜Aの2倍〜1000
倍の厚みを持つ含水素炭素膜Bを設けたものである。前
述の表現ではBAMSとなる構造である。無水素炭素膜
Aはフィルタードカソードを使わない真空アーク蒸着法
或いはスパッタリング法で形成する。含水素炭素膜Bは
スパッタリング法、CVD法或いは真空アーク蒸着法で
形成する。金属元素層・炭化物層もイオンプレーティン
グ法、真空アーク蒸着法、スパッタリング法の何れかに
よって形成する。
【0069】
【表4】
【0070】本発明者は、成膜速度が遅く量産性に乏し
いフィルタードカソードを用いなくても、無水素炭素膜
Aを非常に薄く形成することによって凹凸は低くなり粗
面化の問題を回避できることに気付いた。0.5nm〜
300nmの極薄い無水素炭素膜Aを基材の上、あるい
は基材上の金属層(炭化物層)の上に形成するようにす
る。さらに、薄い無水素炭素膜Aの上にそれより2倍以
上厚い含水素炭素膜Bを設けることにより無水素炭素膜
Aの粗面凹凸の影響が表面に現れないようにできるとい
うことも分かった。含水素炭素膜Bに、5〜50at.
%の水素と0.01〜35at.%の摩擦係数低減金属
(=V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、P
t、Ti、Al、Pb、Si)を添加すると潤滑油下で
低摩擦係数であって高硬度、高平滑で摺動特性に優れた
被膜が得られる。
【0071】無水素炭素膜Aは基材Sとも金属層M、含
水素炭素膜Bとも密着できる。これによって含水素炭素
膜Bの剥離を防止できる。含水素炭素膜Bによって高硬
度、低摩擦係数、潤滑性の優れた被膜が得られる。密着
性向上という無水素炭素膜Aの特性と、低摩擦係数、潤
滑性という含水素炭素膜Bの特性が相補的に働いて、密
着性、高硬度、低摩擦係数、高潤滑性の非晶質炭素被膜
となる。
【0072】また、V、Cr、Fe、Co、Hf、N
i、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、
Ti、Al、Pbの中から選ばれたすくなくとも一種の
元素或いはその炭化物からなる0.5nm〜30nmの
層を基材上に形成し、その上に無水素炭素膜Aと含水素
炭素膜Bを形成すると、非晶質炭素被膜(含水素炭素膜
B)の密着性をさらに向上できるということも見出し
た。これら炭化物は化学量論比を有している必要はな
い。
【0073】密着性増強のため基材のすぐ上に被覆され
る密着用金属(=V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、
Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、T
i、Al、Pb)と、潤滑油下で摩擦係数を下げるため
の摩擦係数低減金属(=V、Cr、Zr、Nb、Ta、
Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Si)を混
同してはならない。密着用金属は被膜M全体がその元素
(と炭素)だけを含む。摩擦係数低減金属は最上層の含
水素炭素膜Bに分散したものである。共通する元素もあ
るがそうでないものもある。
【0074】
【表5】
【0075】
【発明の実施の形態】本発明の非晶質炭素被膜(BA
S、BAMS)は、基材S上に0.5nm〜30nmの
金属膜を設けるか、或いは金属膜なしで基体Sの上に
0.5nm〜300nm厚みの無水素炭素膜Aをフィル
タードカソードを使わない方法で形成し、その上に水素
を5at.%〜50at.%、摩擦係数低減用金属を0.
01〜35at.%含有し膜厚が無水素炭素膜Aの2倍
〜1000倍の含水素炭素膜Bを設けてなる。基体S、
無水素炭素膜A、金属膜M、含水素炭素膜Bをこの順に
説明する。
【0076】[1.基体S]低摩擦係数、耐摩耗性、潤
滑性、高摺動特性が要求される金属、絶縁体などが基体
となる。基体の形態を例示すると次のようである。
【0077】ア.内燃機関の動弁系部品(シム、タペッ
ト、カム、シリンダライナー、ピストン)表面、燃料噴
射ポンプのプランジャー。 イ.半導体製造装置の搬送部品(アーム、ガイド) ウ.加工用金型内面 エ.工具…切削工具、バイトなど
【0078】本発明で用いる基材の材質は金属、絶縁体
など硬質の材料であれば何でも良い。
【0079】オ.セラミック…窒化珪素、窒化アルミニ
ウム、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素など カ.鉄系合金…高速度鋼、ステンレス鋼、SKDなど キ.アルミニウム合金 ク.鉄系焼結体 ケ.超硬合金…タングステンカーバイド(WC) コ.ダイヤモンド焼結体 サ.立方晶窒化ホウ素焼結体
【0080】[2.金属膜M]基材Sの上に直接に無水
素炭素膜Aを形成することもできるが、基体Sの上に金
属膜、或いは金属炭化物膜を形成してその上に無水素炭
素膜Aを設けることもできる。これは密着性高揚の為で
ある。密着性増強用金属膜、金属炭化物膜の膜厚は0.
5nm〜30nm程度である。
【0081】ここで密着性増強用金属膜というのは、
V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、N
b、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの
何れか1種以上のものを指す。炭化物というのはこれら
の炭化物である。炭化物の組成比は化学量論比(Stoich
iometric)である必要はない。金属層、金属炭化物層も
アモルファスになるから化学量論比にならない方が多
い。また組成比を求めることは難しいし組成比は大して
重要でない。炭素中なので自然に一部は炭化物になる。
だから金属層と金属炭化物層を区別する必要もない。
【0082】[3.無水素炭素膜A]基体Sの上に直接
に、或いは金属膜Mの上に無水素炭素膜Aを設ける。無
水素炭素膜A(水素原子を含有していない非晶質炭素被
膜)というのは、成膜に単体炭素を用い被膜内部には、
「不可避の水素」のみしか含まれない被膜を意味する。
炭化水素ではなく炭素単体を原料とする。炭素固体を原
料として雰囲気ガスとして水素を用いない。だから水素
を含まない非晶質炭素被層となる。
【0083】「不可避の水素」というのは次のようなも
のである。成膜を同一装置で繰り返すと、真空槽内壁お
よび基板ホルダー、回転テーブルなどに炭化水素の分解
物が付着する。これらの分解物が、無水素炭素膜Aを成
膜しているときにエッチングされて、気体となり無水素
炭素膜A内に混入する場合がある。このように生産上混
入を避けることができない水素を「不可避の水素」とい
う。
【0084】このような不可避の水素は、その含有率が
(=水素原子数/(水素原子数+炭素原子数))0以上
5at.%未満である。真空槽内壁、装置の清掃などに
よって不可避水素を減らすようにするのが望ましいのは
言うまでもない。注意すれば0.1at.%未満にする
ことは容易である。
【0085】無水素炭素膜Aを基体Sの上に設けると薄
くても密着性を格段に増強することができる。また薄い
方が粗面にならず平坦に近くなる。無水素炭素膜Aを薄
くすることによって粗面化を防ぐというのが本発明の着
想の中心である。フィルタードカソード法を使わず炭素
固体を蒸発させ中性炭素の形態で基体へ飛ばすとしても
膜厚が薄い間は凹凸は低く平坦面に近い。膜厚が増える
に従って凹凸隆起陥没などの高低差が増加し粗面化が著
しくなる。
【0086】フィルタードカソードを用いず真空アーク
蒸着法やスパッタリング法で中性炭素原子団の形態で飛
ばしても膜厚が薄い場合無水素炭素膜Aの表面粗さは小
さい。無水素炭素膜Aの表面粗さを低減するためは、無
水素炭素膜Aの厚さは薄い方が望ましい。が、薄すぎる
と密着力が確保されない。0.5nmあれば基体全面に
無水素炭素膜Aが付着し全面で密着性が増大する。厚く
付ける必要はなく、無水素炭素膜Aの平坦性を得るため
には薄い方がよい。フィルタードカソードを使わない方
法で無水素炭素膜Aを形成した場合、膜厚が300nm
を越えると粗面化が著しくなる事が分かった。
【0087】300nmを越えるとやはりフィルタード
カソードを用いないと平坦な無水素炭素膜Aは形成でき
ないようである。中性炭素を飛ばす方法で無水素炭素膜
Aを形成する場合、膜厚は100nm以下が望ましい。
100nm〜300nmでも最上層の含水素炭素膜Bを
厚くすると下地の凹凸が隠れるから使える。だから無水
素炭素膜Aの膜厚の範囲は0.5nm〜300nmであ
る。特に良いのは5nm〜100nmの膜厚範囲であ
る。
【0088】無水素炭素膜Aの形成には、フィルタード
カソードのない真空アーク蒸着法、スパッタリング法を
用いる。フィルターを有しない真空アーク蒸発源を用い
ると無水素炭素膜Aがより粗くなると思われようが薄け
ればそれほどでもない。無水素炭素膜Aを薄くすること
によって実使用時に問題とならないレベルまで無水素炭
素膜Aの粗さを低減することができる。
【0089】無水素炭素膜Aはフィルタードカソードを
使わないで形成するということが本発明のもう一つのポ
イントである。フィルタードカソードについては先ほど
説明したので述べないが、無水素炭素膜A表面を粗面化
させず平滑にできるという利点があるが、生産性低く原
料の無駄が著しく経済性におとり膜厚不均一という欠点
がある。本発明はそのような欠点とは無縁だということ
になる。
【0090】[4.含水素炭素膜B]無水素炭素膜Aの
上には、金属ガスと炭化水素ガスを原料とするか、水素
ガス雰囲気で固体炭素と金属を原料として5at.%〜
50at.%の水素と、0.01at.%〜35at.%
の摩擦係数低減用金属を含む含水素炭素膜Bを無水素炭
素膜Aの2倍〜1000倍の厚みに生成する。摩擦係数
低減用金属を含む含水素炭素膜Bが最表面となる。摩擦
係数低減金属というのは、V、Cr、Zr、Nb、T
a、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Si等
を意味する。含水素炭素膜Bの厚みをdとして、無水
素炭素膜Aの厚みをdとすると、
【0091】2d ≦d ≦1000d
【0092】とするが、表面に露出する含水素炭素膜B
が摩耗してしまうと凹凸のある無水素炭素膜Aが表面に
出てしまい望ましくない。また無水素炭素膜Aには凹凸
があるから、これを平均化するためにも厚い含水素炭素
膜Bが必要である。それで無水素炭素膜Aの2倍以上と
している。膜厚比は2〜1000とするが、無水素炭素
膜Aが薄い場合は含水素炭素膜B膜厚を5倍以上にする
ことは容易である。従来例は膜厚比は1/0.8=
1.25となっていた。フィルタードカソードを使って
平坦平滑な無水素炭素膜Aを作っているからそのような
事が可能なのであろう。
【0093】最表面とは摩耗のない場合は製造時に最外
面となった面である。しかし摩耗する場合は固定的でな
い。例えば摺動部品として用いた場合、表面から次第に
摩耗する。摩耗によって表面に露呈した部分が最表面で
ある。被膜と相手材が接触している部分である。何らか
の目的で、生産時に含水素炭素膜Bの上に他の材料を被
覆したとすると生産直後は他材料被膜が最表面となる。
しかし摺動によってこの被膜が摩耗し含水素炭素膜Bが
露呈してくると含水素炭素膜Bが最表面層となる。
【0094】水素を含む被膜形成には、炭化水素(C
)を雰囲気ガスとして用いたCVD法、炭素を原
料、炭化水素ガスを雰囲気とするスパッタリング法、真
空アーク蒸着法が利用される。特にスパッタリング法、
真空アーク蒸着法はさらに水素比率を制御でき摩擦係数
を低減できるので望ましい。含水素炭素膜Bに0.01
at.%〜35at.%含まれる摩擦係数低減用金属は最
表面にあって、潤滑油の中のZnやPを吸着し、含水素
炭素膜Bの周りに潤滑油の薄い被膜を形成する。つまり
従来の鉄部品と同様に、含水素炭素膜Bに含まれる金属
がZnやPを吸着して潤滑油膜を形成する。それによっ
て潤滑油下での摩擦係数を低減することができる。潤滑
油膜を形成するのはどのような金属でも良いということ
でなく先述の元素(V、Cr、Zr、Nb、Ta、M
o、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Si)に限ら
れる。金属の比率を高めると潤滑油下での摩擦係数をよ
り低くすることができる。
【0095】最上層の含水素炭素膜Bは、その水素含有
率(水素原子数/(水素原子数+炭素原子数))が5a
t.%以上50at.%以下という範囲にする。このよう
に大量の水素原子を含むことによって、従来法(従来例
は水素比率が0.17〜0.34at.%で、最小摩
擦係数は0.2)よりもさらに平滑性を高め、面粗度を
下げ、摩擦係数を低減する事ができる。スパッタリング
や真空アーク蒸着法は、固体金属、固体炭素を原料とし
て炭化水素ガス、水素ガスを雰囲気ガスとし、CVD法
は炭化水素ガス、金属含有ガスを原料として、本発明の
高い水素含有率(5at.%〜50at.%)の含水素炭
素膜Bを容易に作成できる。
【0096】含水素炭素膜Bの水素比率が高いと表面粗
さが減り表面の平滑性が増える。水素比率が高いと含水
素炭素膜Bの密着性が減少するのであるが、下地に無水
素炭素膜Aがあるから密着性は十分である。無水素炭素
膜Aの支えがあるから、含水素炭素膜Bの水素濃度をこ
とさら高めることができるのである。
【0097】水素濃度を高めることによって含水素炭素
膜Bの表面粗さが減少し平滑性が増す。ために摺動時の
相手攻撃性が減少する。また金属添加によって潤滑下で
の摩擦係数が低減できる。この点についてさらに付言し
よう。最表面の含水素炭素膜Bにドープされた元素は非
晶質炭素被膜の中で炭素と反応し結晶物質を形成してい
ることもある。また金属クラスターとして、含水素炭素
膜B内に完全に固溶している場合もある。
【0098】例えばX線光電子分光法において、金属と
炭素の結合エネルギーの位置にピークが観測されるが、
X線回折計では回折ピークが観察されない場合は、金属
は含水素炭素膜B内で固溶体を形成していると判断され
る。
【0099】X線光電子分光法において金属と炭素の結
合エネルギーの位置にピークが観測され、X線回折計で
も何らかの回折ピークが観測されない場合は結晶質の化
合物を形成していると判断される。
【0100】またX線光電子分光法において金属同士の
結合エネルギーの位置のみにピークが観測される場合、
金属のクラスターとして存在していると判断される。金
属の含水素炭素膜Bでの存在状態はこれらの複合状態で
あることもある。
【0101】含水素炭素膜Bに金属を添加することによ
って、潤滑油下での摩擦係数が小さくなる。摩擦係数が
小さくなるのは、最表面の含水素炭素膜B中に分散した
金属が潤滑油のZn、P等を吸着し、含水素炭素膜B表
面に潤滑油膜を形成するからである。
【0102】非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の被膜
硬度は水素濃度によって広い範囲で変化する。一般にヌ
ープ硬度で1000〜10000程度である。このよう
な被膜硬さは、一般的に機械部品に使用されている材料
よりも硬い場合が多い。従って摺動時には、被膜自身が
摩耗されるよりも、相手材が摩耗する場合が多い。この
場合、もし非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の表面が
粗いと相手材に食い込み易く相手材に摩耗を強いる。こ
れは好ましくないことである。
【0103】一方潤滑雰囲気において、オイル、水など
の液体を潤滑剤として利用する場合、境界潤滑下では、
油膜を突き破って相手材との固体接触が起こる。もしも
被膜の表面粗さが大きいと油膜を突き破って固体接触す
る面積が大きくなり、結果的に潤滑剤がうまく働かず摩
擦係数が高くなる。
【0104】従来の含水素炭素膜Bは水素濃度が低く
(の場合は0.17at.%〜0.34at.%)粗面
化しており非平滑、高摩擦係数という難点があったので
相手材を摩損させるし潤滑下での摩擦係数がなお高かっ
た。本発明は水素含有率を高め、金属を含ませることに
よって、平滑性を高め潤滑油下での摩擦係数を下げてそ
の欠点を克服する。水素含有率を5at.%以上50a
t.%以下、金属を0.01at.%〜35at.%とす
ると空気中水分や潤滑油との親和性が上がり潤滑性が向
上するのであろうと考えられる。
【0105】[5.中間層M、無水素炭素膜A、含水素
炭素膜B構造膜]図1は本発明のBAS被膜構造を、図
2は本発明のBAMS被膜構造を示す。基材Sの上に中
間層(金属層、金属炭化物層)M、無水素炭素膜A、金
属を含む含水素炭素膜Bを形成するものである(図
2)。あるいは、基材Sの上に無水素炭素膜A、金属を
含む含水素炭素膜Bを形成する(図1)。
【0106】[6.非晶質炭素被膜を被覆した製品]本
発明の被膜を部品表面の少なくとも一部に形成した部材
は、高負荷の摺動状態などでも安定した摺動特性を示
す。
【0107】具体的には内燃機関の動弁部品(シム、及
びタペット、カム、シリンダライナー、ピストン)表
面、燃料噴射ポンプのプランジャーに形成することがで
きる。
【0108】また、半導体製造装置の搬送部品(アー
ム、ガイド)に適用すれば摺動特性に優れ低摩擦であり
摩耗が少なく、相手側を攻撃しない被膜が得られ円滑な
動き、長い寿命が確保される。
【0109】また加工用金型表面に被膜形成しても効果
がある。樹脂用金型、ゴム成形金型は何度も何度も成形
に利用されるから高い耐摩耗性がことさら要求されるが
そのような要望に応えることができる。
【0110】
【実施例】実施形態の概要を順を追って述べる。 [1.基材S]基材には、JIS規格K10のタングス
テンカーバイド系超硬合金、SUS304、SCM41
5、SKD11を使用した。基材は表面を清浄にするた
めに、アセトン中で超音波洗浄を10分以上行ったのち
に真空槽内の基材ホルダーに装着した。
【0111】[2.金属膜(金属炭化物膜)Mの形成]
この金属膜(炭化物)形成は省略することもできる。金
属膜を形成する場合の工程を述べる。基材に対し、V、
Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、T
a、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの何れか
の元素を原料としてそれら原子の被膜を形成する。
【0112】あるいはV、Cr、Fe、Co、Hf、N
i、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、
Ti、Al、Pb元素イオンと雰囲気ガス(炭化水素を
含む)を原料として化合物(金属炭化物)の被膜を形成
する。
【0113】金属層および化合物層の形成方法として
は、イオンプレーティング法、スパッタリング法、真空
アーク蒸着法を用いることができる。しかし実施例で
は、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用いた。
【0114】雰囲気ガスとしては、H、He、N
NH、Ne、Ar、Kr、Xe、CH、C
、C、CFを用いた。
【0115】[3.無水素炭素膜Aの形成]基材Sに直
接に、金属膜M(炭化物膜を含む)を付ける場合は金属
膜Mの上に、固体炭素を原料として、スパッタリング
法、真空アーク蒸着法によって0.5nm〜300nm
の無水素炭素膜Aを形成した。
【0116】[4.含水素炭素膜Bの形成]その後、C
VD法、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用い
て、炭素固体原料、金属原料からC、CHなど
の炭化水素系ガスと不活性ガス雰囲気下で、無水素炭素
膜Aの膜厚の2〜1000倍の膜厚で水素と金属を含ん
だ非晶質炭素層を形成した。摩擦係数低減金属はV、C
r、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、
Al、Pb、Siであり、含水素炭素膜B中に0.01
at.%〜35at.%含まれるようにする。水素濃度は
5at.%〜50at.%とする。金属ガス濃度や炭化水
素ガス濃度を変化させることによって金属濃度、水素濃
度を調整することができる。
【0117】[5.膜厚測定]膜厚は、被膜断面を二次
電子顕微鏡または透過電子顕微鏡によって観察して求め
た。基材直上の金属(金属化合物)層の膜厚は中間層、
中間層膜厚として表に記載した。無水素炭素膜Aの膜厚
も表中に記載した。含水素炭素膜Bの膜厚は直接には記
さず、d/d比によって表している。無水素炭素膜
Aの膜厚dに比率を掛けることによって膜厚dが分
かる。
【0118】[6.密着性の評価(ロックウエル剥離試
験)]被膜の基材に対する密着性は、ロックウエル剥離
試験および打撃試験により評価した。ロックウエル剥離
試験には、ロックウエルCスケール硬度測定用のダイヤ
モンド圧子を用い、試験荷重150kgf(1470
N)で被膜表面から圧子を押し付けてできた圧痕の廻り
の剥離状況を光学顕微鏡で観察した。測定は各試料につ
き5回行い、剥離面積の大小から5段階評価を行った。
剥離なしというのを5とする。剥離面積が増加するにし
たがって数字を小さくする。5、4が満足できる評価点
である。2以下は密着性不十分である。
【0119】[7.密着性の評価(打撃試験)]打撃試
験は、試料の被膜を形成した面に対し、直径1インチの
タングステンカーバイド系超硬合金製球を用い仕事量1
0Jで200回打撃を与えた。打痕ができるので、打痕
とその周辺の剥離状況を光学顕微鏡によって観察した。
測定は各試料について5回行った。剥離面積の大小から
5段階評価を行った。剥離なしを5とする。剥離面積が
大きくなるにしたがって数字を小さくする。5、4が満
足できる評価点である。2以下は密着性不十分である。
【0120】[8.表面粗さの評価(Ra;μm)]表
面粗さRaは、東京精密社製SURFCOM570Aを
用い、測定長さ0.4mm、CUTOFF値0.08m
m、走査速度0.03mm/sで測定した。表の中では
μmを単位として示した。
【0121】[9.摺動特性の評価]摺動試験は、CS
EM製ピンオンディスク試験機を用い、大気中、乾式、
摺動半径4mm、回転数500rpm、荷重10N、総
回転数20000回、相手材SUJ2ボール(φ6m
m)の条件で試験した。試験後の相手材SUJ2ボール
の摩耗痕を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察し、その
摩耗直径(μm)を計測した。
【0122】[10.摩擦係数の測定]エンジン部品の
カムの摺動面に、本発明の非晶質炭素層を形成し、モー
タリング試験を行った。回転数250rpm、セット荷
重25kg、エンジンオイル潤滑、オイル温度80℃、
オイル流量0.5cc/min、回転時間3時間とし
て、摩擦係数を計測した。また試験後、相手材カムの表
面粗さRa(μm)を測定した。
【0123】具体的な実施例を以下に述べる。 [実施例1(イオンプレーティング法、RF励起CVD
法、真空アーク蒸着法;図3)]本発明の非晶質炭素被
膜は、イオンプレーティング法、RF励起CVD法、真
空アーク蒸着法を組み合わせて薄膜形成することによっ
て製造することができる。図3にイオンプレーティング
機構、RF励起CVD機構、真空アーク蒸発源を兼ね備
えた装置を示す。真空チャンバ12の中央部にはイオン
プレーテイング装置のための高周波コイル13がもうけ
てある。高周波電源14から高周波コイル13にRF電
力(13.57MHz)を与えることができる。
【0124】真空チャンバ12の下部には、るつぼ17
があって固体原料18を収容する。るつぼ17の側方に
は電子銃16があり、これから熱電子が出て磁界によっ
て曲げられ、るつぼ17の固体原料18をたたき加熱し
蒸発させる。るつぼ17の上には開閉自在のシャッター
26が設けられる。真空チャンバ12の上壁には、基材
(試料)15を適数個並べて保持する基材ホルダー19
(上部電極)が設けてある。基材ホルダー19は導体で
あるが真空チャンバ12とは絶縁されている。基材ホル
ダー19には高周波電源20から高周波電力が供給され
る。真空チャンバ12にはガス導入口25、ガス排気口
24がある。
【0125】上下に並んだ、るつぼ17、電子銃16、
シャッター26、高周波コイル13、高周波電源14、
基材ホルダー19はイオンプレーティング機構を構成す
る。電子銃から出た電子がるつぼ17内の固体原料18
を電子ビーム加熱し蒸発させる。Arガスなどを導入し
た場合真空チャンバ12中央の高周波コイル13はガス
を励起してプラズマにする。シャッター26を開くと蒸
気が上りプラズマとの衝突で一部イオン化し加速されて
基材ホルダー19の試料15へと飛翔し試料15表面に
付着する。
【0126】真空チャンバ12の側壁には真空アーク蒸
発源21が設けてある。真空アーク蒸発源21には固体
カーボン22を固定する。アーク電源23が真空アーク
蒸発源21に接続される。アーク電源23によって固体
原料22に負電圧がかかりチャンバとの間にアーク放電
が発生する。アーク放電によって固体原料22が熱され
て蒸発する。真空アーク蒸発源21、アーク電源23、
基材ホルダー19が真空アーク蒸着装置である。雰囲気
が真空ならば固体原料22と同じ材質の薄膜が基材(試
料)15の上に形成される。雰囲気ガスが炭化水素を含
むときは固体原料22の炭化物の薄膜が基材15の上に
形成される。
【0127】原料がガス状で、ガス導入口25から供給
され、基材ホルダー19に高周波電圧が印加されると、
真空チャンバ12にプラズマが点灯する。プラズマの存
在によって基材ホルダー19はマイナスにバイアスされ
る。高周波によって原料ガスの一部がイオンになり一部
が中性ラジカルになる。基材ホルダー19は負電圧にな
るから正イオンである原料原子が基材15に引き寄せら
れて付着堆積する。これがRF−CVD機構としての機
能である。
【0128】このように図3の装置は3種類の薄膜形成
装置を複合化したものである。実施例1では、基材Sの
上に金属膜M、無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bを乗せ
たBAMS構造のものと、金属膜MのないBAS構造の
ものを作る。それぞれの層の製造機構を次のように割り
当てた。
【0129】 金属層M…イオンプレーティング(IP)法 無水素炭素膜A…真空アーク蒸着法 含水素炭素膜B…RF−CVD法
【0130】本発明の非晶質炭素被膜は図3の装置で上
記の順で形成される。実施例1においては試料1〜試料
15の非晶質炭素被膜を次の手順で形成する。
【0131】1.基材ホルダー19に基材15(試料)
を取り付ける。 2.るつぼ17内に、金属層Mを形成するための固体原
料18として、Ti、Cr、Zr、Fe、Co、Niを
入れる。どれを入れるかは試料によって異なる。表中に
中間層として材料を書いている。
【0132】3.真空アーク蒸発源21の固体原料とし
て炭素固体22を取り付ける。ここまでが準備段階であ
る。 4.真空チャンバ12を閉じて、真空ポンプ(図示しな
い)によってガス排気口24からガスを吸引し、真空チ
ャンバを0.002Pa(1.5×10−5Torr)
まで真空に引く。
【0133】5.イオンプレーティングによって金属を
基材に被覆するため、ガス導入口25からArガスを導
入し、真空チャンバ12が所定の圧力になるようにす
る。
【0134】6.高周波電源14から、高周波コイル1
3に400W(13.57MHz)の高周波電力を投入
する。Arのプラズマがコイル13の近傍に発生する。 7.基材ホルダー19に−600V〜−1000Vの負
バイアスを印加する。
【0135】8.電子銃16から電子ビームを発生させ
磁場で曲げて、るつぼ17内の固体原料18に当て加熱
溶融する。金属蒸気が発生する。 9.シャッター26を開き金属蒸気が上昇するようにす
る。蒸気は高周波コイル13近傍のArプラズマによっ
てイオン化される。正イオンであるから加速され、負バ
イアスされた基材15の表面へ堅固な金属膜Mを生成す
る。
【0136】10.イオンプレーティングはプラズマ状
態の金属やArが基材15に衝突しつつ薄膜形成するよ
うになっているから基材15の表面の酸化物層や汚れは
エッチングされる。エッチングと薄膜形成が同時におこ
るので清浄表面に金属層(中間層)が堅固に形成される
ことになる。それがイオンプレーティングの良さであ
る。中間層膜厚は0.5nm〜30nmとするが、実施
例1では5nm〜20nmの範囲にある。
【0137】11.真空チャンバ12を0.1Pa
(7.6×10−4Torr)以下になるまで真空引き
する。ここから無水素炭素膜A形成のステップになる。
【0138】12.真空アーク蒸発源21のアーク電源
に40Aの直流電流を流して固体炭素22とチャンバ壁
の間にアーク放電をおこさせる。アーク放電による加熱
で炭素が融けて蒸発する。Arなどとの衝突によって一
部は炭素イオンCとなる。
【0139】13.基材ホルダー19には、50Wの高
周波電力を供給した。中間層形成のとき基材ホルダー1
9には負高電圧直流バイアスを掛けていたが、それとは
違って今度は高周波電力、あるいは負パルス直流電力を
与えるようにする。炭素蒸気、炭素イオンが基材15の
上に堆積する。基材ホルダーの負バイアス(パルス、高
周波)によって炭素イオンが強く引き付けられるから強
く付着する。雰囲気に水素がないから無水素炭素膜Aが
できる。
【0140】14.これからが最表面の金属添加含水素
炭素膜Bの生成の工程となる。真空チャンバを真空排気
する。
【0141】15.真空チャンバ圧力が0.02〜0.
3Paになるように、ガス導入口25から、CH
ス、Arガス、TiClガス、トリメチルシランガス
を導入する。摩擦係数低減金属としてTiを導入する場
合は、TiClガスを、Siを導入する場合はトリメ
チルシランガスを導入する。その他の金属も化合物ガス
の形態で真空チャンバへ導入できるが、実施例1では表
面の含水素炭素膜Bに含ませる金属はTiとSiだけで
ある。
【0142】16.高周波電源20によって基材ホルダ
ー19に600W〜1000Wの高周波電力を供給し
た。Arプラズマとの衝突によって炭化水素ガスが分解
し非晶質炭素被膜が基材15の上に形成される。これに
は大量の水素とTi或いはSiが含まれる。TiCl
ガス、トリメチルシランガスは、ガス全体の5vol.
%〜20vol.%となるように添加し、生成された含
水素炭素膜BにはSi、Tiの比率は5at.%〜20
at.%の範囲となっていた。表6に実施例1にかかる
試料1〜15の製造条件、膜組成、膜厚等を示す。
【0143】
【表6】
【0144】試料1〜12は金属の中間層を設けてい
る。厚みの範囲は5nm〜20nmである。IPという
のはイオンプレーティングということを示す。高周波コ
イルで高周波磁界を発生させArをプラズマ化し金属蒸
気をこれによってイオン化させて基材へ加速しエッチン
グと膜形成を同時に行うイオンプレーティング法によっ
ている。原料は固体の金属である。
【0145】試料2、8はクロムCrを用いる。試料
4、10は鉄Feを中間層とする。試料6、12はNi
を飛ばして中間層とする。試料5、11はCoを、試料
1、7はTiを、試料3、9はZrを中間層としてい
る。試料1〜6は金属層M(中間層)膜厚を5nmとし
ている。試料7〜12は中間層膜厚を20nmとしてい
る。試料13〜15は中間層がない。基材の上へ直接に
無水素炭素膜Aを生成する。
【0146】試料1〜15全てが無水素炭素膜A形成の
手段として真空アーク蒸着法を用いている。実施例1は
図3の装置で真空アーク蒸発源21を用いて無水素炭素
膜Aを形成するようになっているから当然である。無水
素炭素膜A膜厚は、試料1〜6、試料13は10nmで
ある。試料7〜9の膜厚は20nmである。試料10〜
12、14の無水素炭素膜A膜厚は100nmである。
試料15は無水素炭素膜A膜厚が300nmで、これら
の実施例1試料の中では最大である。何れも無水素炭素
膜Aの条件0.5nm〜300nmの範囲に含まれる。
【0147】含水素炭素膜Bの生成は全ての試料1〜1
5がRF−CVD法を用いて生成している。図3におい
て、原料ガスが気体であって基材ホルダーのRF電力を
印加することによってArプラズマが点灯し原料ガスを
衝突励起して炭素、水素のイオンやラジカルとする。
【0148】この方法は熱CVD法と違って基材を比較
的低温に保持できるから非晶質膜生成に向いている。プ
ラズマCVD法ということもあるがプラズマ励起手段に
よって、RF−CVDとかマイクロ波CVD法とかいっ
て区別することもある。メタンを原料ガスとして使い、
試料1〜15での含水素炭素膜Bの水素比率は40a
t.%である。かなり多くの水素を含むということであ
る。
【0149】含水素炭素膜Bは、無水素炭素膜Aより2
〜1000倍の膜厚を持つようにする。ここでは膜厚そ
のものでなく、含水素炭素膜Bと無水素炭素膜Aの層比
/dによって含水素炭素膜B膜厚を示す。試料1
〜6は無水素炭素膜Aの膜厚が10nmであり、層比が
50であるから、含水素炭素膜B膜厚は500nmであ
る。試料10〜12、14は層比が5であり、無水素炭
素膜Aが100nmの膜厚をもつから、含水素炭素膜B
膜厚は500nmである。
【0150】試料7は無水素炭素膜Aが20nmで層比
が17だから、含水素炭素膜B膜厚は340nmとな
り、これらの中では最小の含水素炭素膜B膜厚である。
【0151】試料15は層比が2であってこれは層比の
下限である。含水素炭素膜B膜厚は600nmであり膜
厚自体は最小でない。
【0152】含水素炭素膜Bには摩擦係数低減用金属を
ガス原料から添加するようになっている。「B層への金
属添加方法」を「ガス」としているのはそういう意味で
ある。ここではTiを塩化チタンガスTiClで、S
iをトリメチルシランガスの形態で導入している。試料
4、5、6、10、11、12、14はチタンをドープ
し、それ以外はシリコンをドープしている。試料1、
4、7、10の金属濃度は20at.%である。それ以
外は5at.%〜10at.%の範囲である。
【0153】水素が40at.%、金属が20at.%含
まれると、炭素は40at.%に過ぎないことになる。
非晶質であるからそのような比率であっても堅固で一様
で平坦な構造を構成することができる。非晶質の利点で
ある。
【0154】
【表7】
【0155】 試料1〜7は密着性に関しロックウエ
ル、打撃試験ともに評価4で満足できる。試料8〜15
はロックウエル、打撃試験とも3点であるからやや劣る
わけである。両者を比較すると、密着性を高めるため、
無水素炭素膜Aや金属層Mはあった方が良いが薄い方が
良いということが分かる。
【0156】表面粗さRaは、試料7、8、9、10、
11、12、14、15においてRa10nmを越え
る。それ以外ではRa10nm以下である。特に試料1
5ではRa265nmと粗面化傾向にある。面粗さに最
も強い影響をもつのは無水素炭素膜Aの膜厚dだとい
うことがわかる。無水素炭素膜Aが10nmで薄いとR
aは10nm以下に抑えられる。
【0157】しかし無水素炭素膜Aが100nm(試料
10、11、12、14)のように厚くなると、表面粗
度Raは60〜80nmとなる。特に試料15は無水素
炭素膜Aが300nmであるから、表面粗さRaが26
5nmとなっている。表面粗さRaというのは含水素炭
素膜Bの上面のことであるが下地の無水素炭素膜Aの厚
みと同程度のRaが出現することがわかる。つまり無水
素炭素膜Aはなくてはならないが、Raを下げるという
観点からは薄い方が良いということがわかる。
【0158】ピンオンディスク相手材摩耗量は試料1〜
14において400μm以下で満足できる。試料15は
620μmでやや大きい。ピンオンディスク相手材摩耗
量から考察しても無水素炭素膜Aは薄い方(10nm程
度)が良いということがわかる。それを強く示唆するの
は試料15である。無水素炭素膜Aが300nmであっ
て厚いから粗度が大きく、ピンオンディスク相手材摩耗
量も大きくなるのであろう。
【0159】潤滑油中での摩擦係数の低減ということが
本発明の主な目的であった。それは最表面の含水素炭素
膜Bに含まれる金属によって効果的に低摩擦係数が実現
される。試料1、2、3、13では摩擦係数が0.1以
下になる。申し分のない低摩擦係数である。Siでもチ
タンでも効果があるがSiの方がやや優れているようで
ある。無水素炭素膜Aや中間層Mの薄い方が良い。
【0160】摩擦係数の大きいのは、試料15の0.2
2、試料10、11、12、14の0.16などであ
る。無水素炭素膜Aが厚いと摩擦係数も増える傾向にあ
る。無水素炭素膜Aは凹凸のある膜であるから膜厚とと
もに凹凸が増え、その影響が最表面の含水素炭素膜Bに
も現れるのであろう。試料15は無水素炭素膜Aが30
0nmもあり厚いから摩擦係数が下がらないのであろ
う。
【0161】実施例1の効果を確かめるため、実施例1
とほぼ同様であるがいずれかの条件が外れている比較例
1の試料16、17を作製した。表8に比較例1の試料
16、17の生成の条件、組成、膜厚等を示す。表9に
比較例1の試料16、17の密着性、表面粗さ等を示
す。
【0162】
【表8】
【表9】
【0163】比較例1の試料16は金属中間層Mがな
い。無水素炭素膜Aもない。基材Sに含水素炭素膜Bを
直接にプラズマCVD法によって形成している。単純な
BS構造である。含水素炭素膜Bは40at.%の水素
と20at.%のチタンを含む。密着性評価はロックウ
エル、打撃とも1であって悪い。含水素炭素膜Bが基材
Sから剥離したので表面粗さを測定できない。摩擦係数
の測定もできなかった。密着性向上のために無水素炭素
膜Aが不可欠であるということが分かる。
【0164】比較例1の試料17は4nmのチタン中間
層Mと、8nmの無水素炭素膜Aと、1000nmの含
水素炭素膜B(水素濃度16at.%)を含む。これは
最表面の含水素炭素膜Bに摩擦係数低減のための金属を
含まない。密着性評価は3点でまあまあである。表面粗
度は8nmと低く、ピンオンディスク相手材摩耗量も1
40μmで充分に小さい。
【0165】摺動後の相手粗さも30nmであるから小
さいものである。しかし潤滑油中での摩擦係数が0.2
5であってやや高すぎるという欠点がある。本発明は摩
擦係数を評価の基準にしており、試料17は基準を満た
さないということである。それは最表面含水素炭素膜B
に金属が含まれていないことに起因する。含水素炭素膜
B中の金属の存在が重要だということがよく分かる。
【0166】[実施例2(スパッタリング法、真空アー
ク蒸着法;図4)]中間層(金属膜)M、無水素炭素膜
A、金属を含む含水素炭素膜Bともにスパッタリング、
真空アーク蒸着法によって作製することができる。図4
に実施例2において使用したスパッタ蒸発源、真空アー
ク蒸発源を兼ね備えた装置を示す。
【0167】真空槽(真空チャンバ)27に、それぞれ
二つのスパッタ蒸発源28、29と真空アーク蒸発源
8、9を設置している。これらは真空槽(真空チャン
バ)27の4つの壁面に設けているから、これらの装置
を交互に使用して真空槽から試料を出さずに連続的に被
膜形成することができるようになっている。
【0168】真空槽27の中央部には回転できるテーブ
ル40がある。テーブル40の上に基材ホルダー39が
設けられる。基材ホルダー39には適数の基材38が固
定される。回転テーブル40には、パルス直流電源41
が接続されている。真空アーク蒸発源8、9は、アーク
放電によって固体原料を溶かしてガス状にして基材へ飛
ばし堆積させるようにする。ここでは固体原料は、炭素
と金属である。真空アーク蒸発源8、9には直流電源3
2、33が接続してあり固体原料は負にバイアスされ
る。真空アーク蒸発源として、磁場の作用によりイオン
を主に基材に到達させる機構を有する、フィルタードカ
ソードと言われる蒸発源を用いない。
【0169】スパッタ蒸発源28、29はガス分子をタ
ーゲット(原料)34、35に当てることによって原料
34、35から原子を飛び出させ基材の上に飛ばし基材
上に薄膜を堆積させる。スパッタ蒸発源28、29の原
料固体34、35となるのも炭素固体と金属である。ス
パッタ蒸発源28、29には負電圧パルスを発生するパ
ルス直流電源30、31を接続してある。
【0170】第1スパッタ蒸発源28には、固体カーボ
ン34がセットしてある。第2スパッタ蒸発源29に
は、第1金属35がセットしてある。中間層Mを形成す
るための金属である。第1金属35としては、Cr、Z
r、V、Mo、W、Pd、Al、Pt、Ta、Nbを用
いた。
【0171】第1真空アーク蒸発源8には固体カーボン
36が、第2真空アーク蒸発源9には第2金属37がセ
ットしてある。第2金属も中間層形成用の金属である。
第1金属と第2金属は相補的(択一的)に使用される。
第2金属37として、Ti、V、Cr、Zr、Ptを用
いた。
【0172】第1金属、第2金属の切り分けは、真空ア
ーク蒸着法に向く金属、スパッタリングに適する金属と
いうことで分けている。これ以外の金属でもいずれかの
方法で飛ばすようにできる。
【0173】ガスは真空排気装置によってガス排気口4
2より排気される。ガス導入口43より、Ar、C
、Cなどの雰囲気ガスを導入することができ
る。
【0174】上記装置での、被膜の形成方法を述べる。 1.回転テーブルに40に基材ホルダー39、基材38
をセットする。
【0175】2.装置内が0.002Pa以下になるよ
うガス排気口42から真空排気する。
【0176】3.初めに金属層またはその金属層の化合
物(炭化物)を中間層Mとして基材Sの上に形成する。
第2スパッタ蒸発源29を用いても良いし、第2真空ア
ーク蒸発源9を用いてもよい。
【0177】4.第2スパッタ蒸発源29を用いて第1
金属35(Cr、Zr、V、Mo、W、Pd、Al、P
t、Ta、Nb)の金属層または金属の化合物を形成す
る場合は次のようにする。回転テーブル40を回転し基
材ホルダー39、基材38が第2スパッタ蒸発源29を
向くようにする(図4の位置)。
【0178】4a.金属層を形成する場合は真空かAr
ガス雰囲気で行う。
【0179】4b.金属の化合物層を形成する場合は雰
囲気ガスとしてArとCを同時にガス導入口43
より導入する。化合物層を形成する場合はArとC
の比(C/Ar)は0.1〜0.6である。
【0180】5.いずれの場合でも真空槽内の圧力が
0.1Pa〜1.0Pa(7.6×10 −5〜7.6×
10−4Torr)になるようにする。このとき回転テ
ーブル40には−50V〜−1500Vの直流電圧を印
加する。
【0181】6.スパッタ蒸発源29に500W〜10
00Wのパルス直流電力を印加し、金属35をスパッタ
リングし、基材上に第1金属(Cr、Zr、V、Mo、
W、Pd、Al、Pt、Ta、Nb)の金属層、または
化合物層(炭化物)を形成する。
【0182】7.真空アーク蒸発源9を用いて第2金属
(Ti、V、Cr、Zr、Pt)層、その化合物層を形
成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転
して基材ホルダー39、基材38が第2真空アーク蒸発
源9に対向するようにする。
【0183】7a.金属層(Ti、V、Cr、Zr、P
t)を形成する場合は、真空またはAr雰囲気とする。
7b.これら金属(Ti、V、Cr、Zr、Pt)の化
合物層を形成する場合はArとCを同時にガス導
入口43より導入する。化合物層を形成する場合、Ar
とCの比(=C/Ar)は0.01〜0.
2である。
【0184】8.何れの場合でも真空槽内の圧力は0.
1Pa〜1.0Paとなるようにする。このとき回転テ
ーブル40には、−400V〜−1500Vの直流電圧
を印加する。
【0185】9.その後、第2真空アーク蒸発源9の金
属37に電圧をかけ、アーク放電をおこさせる。アーク
放電は金属原料37とチャンバ壁の間にかかった直流電
圧によって起こる。アークが形成されたあとの電流を6
0Aとする。アーク放電によって加熱された金属が蒸発
する。雰囲気ガスが原料に当たり金属蒸気の一部をイオ
ン化する。金属蒸気を堆積させることによって基材38
上に、金属層(Ti、V、Cr、Zr、Pt)、または
それら金属の化合物層を形成する。
【0186】10.これらの処理を施した後、固体炭素
を原料として水素を含まない非晶質炭素層の形成を行
う。第1スパッタ蒸発源28を用いても第1真空アーク
蒸発源8を用いてもよい。
【0187】11.第1スパッタ蒸発源28を用いて非
晶質炭素層を形成する場合は次のようにする。回転テー
ブル40を回転させ基材ホルダー39、基材38が第1
スパッタ蒸発源28に対向するようにする。雰囲気ガス
として、Arをガス導入口より導入し、真空槽27が
0.1〜1.0Paの圧力になるようにする。このとき
回転テーブルには、−50V〜−600Vのパルス直流
電圧を印加する。パルス周波数は100kHzである。
【0188】12.第1スパッタ蒸発源28に、500
〜1000Wのパルス直流電力を印加し、固体カーボン
34をスパッタリングし、基材38上の金属層または化
合物層の上に水素を含まない非晶質炭素層(無水素炭素
膜A)を形成する。
【0189】13.金属層または化合物層を形成しない
で、基材に直接的に水素を含まない非晶質炭素層を形成
する場合もある。
【0190】14.第1真空アーク蒸発源8を用いて水
素を含まない非晶質炭素層(無水素炭素膜A)を形成す
る場合は次のようにする。真空中のままか、或いは雰囲
気ガスとしてArをガス導入口43より導入し、真空槽
27が0.03Pa〜0.5Paの圧力になるようにす
る。回転テーブル40には−50V〜−500Vの直流
電圧を印加する。
【0191】15.第1真空アーク蒸発源8の固体カー
ボン36に電圧をかけアーク放電を起こす。アーク電流
として60Aの直流電流を印加し、固体カーボン36を
蒸発させ、基材上に形成された金属層、化合物層の上に
無水素炭素膜Aを形成する。
【0192】16.上記の無水素炭素膜A(水素を含ん
でいない非晶質炭素層)の上に、含水素炭素膜B(水素
を含んだ非晶質炭素層)を形成する。第1スパッタ蒸発
源28を用いても良いし第1真空アーク蒸発源8を用い
てもよい。
【0193】17.第1スパッタ蒸発源28を用いて含
水素炭素膜Bを形成する場合は次のようにする。回転テ
ーブル40を回転して基材ホルダー39、基材38が第
1スパッタ蒸発源28の方向を向くようにする。雰囲気
ガスとしてArとCをガス導入口43より導入
し、真空槽27内が0.1Pa〜1Paの圧力になるよ
うにする。このとき回転テーブル40には−50V〜−
600Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は
100kHzである。
【0194】18.第1スパッタ蒸発源28に400〜
1000Wのパルス直流電力を印加し固体カーボン34
をスパッタリングする。 19.同時に第2スパッタ蒸発源29に50〜200W
のパルス直流電力を印加して金属35をスパッタリング
する。 20.こうして無水素炭素膜A(水素を含まない非晶質
炭素層)の上に、金属を含む含水素炭素膜B(水素を含
む非晶質炭素層)を形成する。
【0195】21.第1真空アーク蒸発源8を用いて含
水素炭素膜Bを形成する場合は次のようにする。回転テ
ーブル40を回転して基材ホルダー39、基材38が第
1真空アーク蒸発源8の方向を向くようにする。雰囲気
ガスとしてArとCガスをガス導入口43より導
入し、真空槽27内が0.05Pa〜0.5Paの圧力
になるようにする。回転テーブル40には−50V〜−
500Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は
100kHzである。
【0196】22.第1真空アーク蒸発源8の固体カー
ボン36に負電圧を掛けてアーク放電を起こさせる。ア
ーク放電のため60Aの直流電流を流し、固体カーボン
36を蒸発させる。
【0197】23.同時に第2スパッタ蒸発源29に5
0W〜200Wのパルス直流電力を印加し金属35をス
パッタリングする。水素、カーボン、金属が中性原子や
イオンとなって基材に向かって飛ぶ。基材は負電圧にバ
イアスされており正イオンとなった金属やカーボン、炭
化水素は強いエネルギーをもって基材に向かい基材の上
に金属を含む含水素炭素膜Bが生成される。
【0198】実施例2の手法によって29の試料を作製
して試験した。試料18〜46とする。表10は実施例
2の試料18〜46の成膜の29種類の方法を列挙して
示す。全て無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bはスパッタ
リング法か真空アーク蒸着法によって作製する。中間層
も存在する場合はスパッタリング、或いはアーク法で生
成する。無水素炭素膜A膜厚は0.5nm〜300nm
で、含水素炭素膜Bの水素量は5〜50at.%で、層
比d/dは2〜1000の範囲に入っている。
【0199】
【表10】
【0200】中間層種類というのは基材の上に付ける金
属の種類、その膜厚が中間層膜厚(nm)である。中間
層形成方法というのは金属膜をどのような方法で作るか
を示す。実施例2ではスパッタリングか真空アーク蒸着
法で形成する。A層膜厚は無水素炭素膜Aの膜厚で、次
にその形成方法が示される。実施例2ではスパッタリン
グかアーク法である。
【0201】B層というのは含水素炭素膜Bのことで水
素含有率、金属含有率が示される。層比というのは含水
素炭素膜Bの膜厚dを無水素炭素膜Aの膜厚dで割
った値である。含水素炭素膜B膜厚は層比と無水素炭素
膜A膜厚を掛けることによって求めることができる。さ
らに含水素炭素膜Bの製法と含水素炭素膜Bへの金属添
加方法が列挙されている。
【0202】例えば実施例の試料18は基材の上に20
nmのMo層をスパッタリングによって設け、その上に
30nmの無水素炭素膜Aをスパッタリングにより形成
し、さらに水素含有率14at.%、Mo含有率15a
t.%の膜厚750nmの含水素炭素膜Bを形成したも
のである。
【0203】実施例2のうち、24種類の試料18〜4
1はBAMS構造をとる。試料18〜31の14種は、
中間層をスパッタリングによって生成している。中間層
膜厚は10nm〜30nmで比較的厚いものである。
【0204】試料32〜41は真空アーク蒸着法によっ
て形成している。中間層膜厚は1nm〜4nmで薄いも
のである。スパッタリングによる方が膜厚増加による粗
さの増加が少ないため膜厚の大きいものを形成しやすい
ようである。残り5種類の試料42〜46は中間層を欠
くBAS構造である。
【0205】無水素炭素膜Aであるが、試料18〜2
4、試料32〜36、試料42、43はスパッタリング
によって8〜100nmの無水素炭素膜Aを形成してい
る。試料25〜31、37〜41、44〜46は真空ア
ーク蒸着法によって8nm〜300nmの無水素炭素膜
Aを形成している。
【0206】次に最表面の含水素炭素膜Bであるが、こ
れには炭素膜自体の製造法と、金属の添加方法につい
て、スパッタリング、アークの二つの選択肢がある。試
料18〜21、25、26、32〜46はスパッタリン
グによって含水素炭素膜Bを形成する。残りの試料22
〜24、試料27〜31はアーク法で含水素炭素膜Bを
生成している。層比は17〜500である。試料19は
膜厚が1500nmである。最も薄いのは試料21、2
6の510nmである。
【0207】試料32〜36は、真空アーク蒸着法によ
って金属を含水素炭素膜Bに添加している。それ以外の
試料18〜31、37〜46はスパッタリングによって
金属を含水素炭素膜Bに添加している。摩擦係数を低減
するための金属として、Mo、W、Ta、Nb、Pd、
Al、Pt、V、Zrなどを用いている。金属含有率は
2at.%〜35at.%である。
【0208】試料18〜46において、含水素炭素膜B
の水素含有率は14〜18at.%である。5at.%〜
50at.%という範囲に入っている。表11に実施例
2の試料18〜46の密着性、表面粗さ、相手材摩耗
量、摩擦係数、摺動後相手粗さを示す。
【0209】
【表11】
【0210】いずれも無水素炭素膜Aを基材と含水素炭
素膜Bの中間にいれているから密着性はよい。しかし金
属の中間層のない試料42〜46は密着性評価はロック
ウエル、打撃試験とも3で低い。密着性向上に中間層が
有用であることがわかる。
【0211】試料32〜試料41は密着性評価が5であ
って最良の密着性を有する。これらは無水素炭素膜Aが
8nmで薄い。無水素炭素膜Aが薄い方が密着性が優れ
るということがいえる。これらは大きい層比d/d
(125〜500)をもつから密着性に含水素炭素膜B
の膜厚はあまり関係がないということもわかる。
【0212】試料18〜31は密着性評価がロックウエ
ルでも打撃試験でも4点であって少し劣ることになる。
それは無水素炭素膜Aが30nmで厚いからである。
【0213】表面粗さRaというは隣接する山と谷の差
の平均値によって定義される粗面の尺度である。試料1
8〜21、37〜45についてはRa8nmで平坦性が
良い。無水素炭素膜Aが薄いからであろう。試料27〜
31はRaが30nmを越える。含水素炭素膜Bをスパ
ッタリングで作製したものの方が平坦性は良いようであ
る。スパッタリングによって含水素炭素膜Bを形成した
試料46は例外的にRa(220nm)が大きいが、そ
れは無水素炭素膜Aが厚いからである。
【0214】ピンオンディスク相手材摩耗量も試料18
〜24、29、31〜45で300nm以下であり満足
できる。300nmを越えるのは、試料26、27、2
8、30、46である。無水素炭素膜Aが厚くてアーク
法で作製した試料が摩耗量が多くなるようである。試料
46が630nmとなるが、これは無水素炭素膜Aが厚
くてその粗面の影響が表面にも現れるのだろう。
【0215】摩擦係数は試料18〜19、32〜45が
0.1以下である。試料20〜31は0.1を越える。
試料46で0.18で最も高くなる。従来例が0.2
であったのに比べて何れも優れて低い。
【0216】摺動試験のあとの相手材の粗さも試料20
〜36、46でRa0.08〜0.18μmで少し大き
いが、その他の試料ではRa0.03μmで極めて小さ
い。
【0217】[比較例2(表12、表13;比較例試料
47、48)]実施例2と同じ基材の上に、実施例2と
少しづつ異なる条件によって非晶質炭素被膜を形成し
た。比較例2の試料番号を47、48とする。
【0218】
【表12】
【0219】
【表13】
【0220】比較例試料47は、基材Sの上に直接に1
5at.%の水素、10at.%のチタンを含む含水素炭
素膜Bをスパッタリングによって形成したものである。
BS構造をとる。無水素炭素膜Aがなくて密着性がな
い。ロックウエル、打撃試験ともに評価1である。含水
素炭素膜Bがすぐに剥離したので、表面粗さや、ピンオ
ンディスク相手材摩耗量、摩擦係数などは測定できなか
った。
【0221】比較例試料48は、基材Sの上に、アーク
法で4nmのチタン膜を形成し、その上に8nmの無水
素炭素膜Aを被覆し、さらに1000nmの含水素炭素
膜Bをスパッタリングによって形成したものである。含
水素炭素膜Bは金属原子を含まない。密着性は4点でよ
い。表面粗度もRa8nmで平坦である。ピンオンディ
スク相手材摩耗量も140μmでよい。摺動後の相手粗
さもRa30nmで良い方である。しかし潤滑油内での
摩擦係数が0.20であって、これが大きく不十分であ
る。それは最表面の含水素炭素膜Bが金属を含まないか
らである。
【0222】[実施例3(スパッタリング法、真空アー
ク蒸着法、RF−CVD法;図5)]実施例3は、中間
層(金属膜)M、無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bに含
ませる金属をスパッタリング、真空アーク蒸着法で蒸
発、成膜するようにし、含水素炭素膜BはCVDによっ
て作製するものである。実施例2と違うのは含水素炭素
膜BをCVDによって成膜するところだけである。
【0223】だから実施例2に使用した装置と殆ど同じ
で回転テーブルにつなぐ電源が少し違う。実施例2は直
流電源によって100kHzの直流負パルスを掛けた。
実施例3では回転テーブルにRF電源をつないで600
〜1000Wの電力で13.57MHzの高周波を印加
する。炭化水素ガスを導入し回転テーブルに高周波を掛
けるとArなどのプラズマが形成され、これによって炭
化水素ガスが分解し基材に堆積するからRF−CVD装
置となる。図5に実施例3において使用したスパッタ蒸
発源、真空アーク蒸発源、RF−CVDを兼ね備えた装
置を示す。
【0224】図4に現れたものと同じものには同じ符号
を振る。それらは実施例2のものと同様の作用をもつの
で説明を略す。二つのスパッタリング装置と二つのアー
ク蒸着装置がある。一方のアーク装置、スパッタ装置で
固体炭素を蒸発させる。他方のアーク装置、スパッタ装
置で金属固体を蒸発させる。アーク装置ではVとCr
を、スパッタリング装置ではMoとWを飛ばすようにし
た。これらの金属は、中間層の材料としても、最表面含
水素炭素膜Bに分散添加する金属の材料としても利用さ
れる。
【0225】第1真空アーク蒸発源8…炭素固体36、
直流負電源(アーク電源)32 第2真空アーク蒸発源9…金属固体37、直流負電源
(アーク電源)33 (金属固体V、Cr)
【0226】第1スパッタ蒸発源28…炭素固体34、
パルス負電源(スパッタ電源)30 第2スパッタ蒸発源29…金属固体35、パルス負電源
(スパッタ電源)31 (金属固体Mo、W)
【0227】回転テーブル40…基材ホルダー39、基
材38、高周波電源58、RF電源60
【0228】ガス(ガス導入口43)…Ar、CH
(無水素炭素膜A、金属層Mを形成するときはArだ
け。含水素炭素膜B、金属炭化物層を形成するときはA
rとCH、Cの何れかを導入する。)
【0229】基材Sに、中間層(金属、金属炭化物)、
無水素炭素膜Aを形成する手順は実施例2と同様であ
る。それに対応する1〜15の工程は同じであるから省
略する。含水素炭素膜Bを形成する16からの工程が実
施例2から少し相違する。
【0230】16.無水素炭素膜A(水素を含んでいな
い非晶質炭素層)の上に、含水素炭素膜B(水素を含ん
だ非晶質炭素層)を形成する。実施例2と違い、第1ス
パッタ蒸発源28や第1真空アーク蒸発源8を用いな
い。RF電源60と炭化水素ガスを用いてRF−CVD
法によって含水素炭素膜Bを形成する。
【0231】17.真空槽(真空チャンバ)27を真空
に引く。真空チャンバ27内圧力が0.02Pa〜0.
3Paになるようにガス導入口43からCHガス、A
rガスを導入した。高周波電源60によって回転テーブ
ル40に高周波電力600W〜1000Wを投入した。
これによって原料ガスが高周波プラズマで分解し基材の
上に含水素炭素膜Bを生成する。
【0232】18.同時に第2スパッタ蒸発源29に5
0W〜200Wのパルス直流電力を供給した。固体金属
35(Mo、W)をスパッタリングして、含水素炭素膜
B中に分散添加する。
【0233】19.或いは第2真空アーク蒸発源9にア
ーク放電をおこさせ、40A直流電流を流して固体金属
37(V、Cr)を蒸発させ、含水素炭素膜B中に分散
添加する。
【0234】20.こうして無水素炭素膜A(水素を含
まない非晶質炭素層)の上に、金属を含む含水素炭素膜
B(水素を含む非晶質炭素層)を形成することができ
る。
【0235】実施例3の手法によって9の試料を作製し
て試験した。試料49〜57とする。表14は実施例3
の試料49〜57の成膜の9種類の方法を列挙して示
す。全て中間層M、無水素炭素膜Aはスパッタリング法
か真空アーク蒸着法によって作製する。含水素炭素膜B
はRF−CVD法によって形成する。
【0236】実施例3において無水素炭素膜A膜厚は3
nm〜300nmで、含水素炭素膜Bの水素量は45a
t.%で、層比d/dは2〜166である。
【0237】
【表14】
【0238】実施例3のうち、8種類の試料49〜56
はBAMS構造をとる。試料49〜52は、中間層をス
パッタリングによって生成している。中間層膜厚は5〜
15nmで薄い。試料53〜56は真空アーク蒸着法に
よって形成している。中間層膜厚は3nm〜8nmで極
めて薄いものである。試料49、51の中間層はMoで
ある。試料50、52の中間層はWである。残りの試料
57は中間層を欠くBAS構造である。
【0239】無水素炭素膜Aであるが、試料49、50
はスパッタによって30nmの無水素炭素膜Aを形成す
る。試料53、54はスパッタにより3nm、5nmの
無水素炭素膜Aを生成する。
【0240】試料51、52はアーク法によって30n
mの無水素炭素膜Aを生成する。試料55、56、57
はアーク法により、3nm、5nm、300nmの無水
素炭素膜Aを設ける。試料57は限界的な性質をもち注
目すべきである。
【0241】次に最表面の含水素炭素膜Bであるが、こ
れには炭素膜自体はRF−CVDによって作る。金属の
添加方法について、スパッタリング、アークの二つの選
択肢がある。試料55、56はアーク法によって金属
(V、Cr)を飛ばし含水素炭素膜Bに分散させる。そ
れ以外はスパッタリングによって金属(Mo、W、V、
Cr)を飛ばすようにしている。
【0242】層比は2〜166である。試料49〜52
は、d=30nmで、層比が17倍だから、含水素炭
素膜Bの膜厚は510nmである。試料53〜56は大
体500nmの含水素炭素膜Bを持つ。試料57はd
=300nmで、層比が2倍だから含水素炭素膜B膜厚
が600nmである。
【0243】試料49〜57において、含水素炭素膜B
の水素含有率は45at.%である。5at.%〜50a
t.%という範囲に入っているが上限に近い。表15に
実施例3の試料49〜57の密着性、表面粗さ、相手材
摩耗量、摩擦係数、摺動後相手粗さを示す。
【0244】
【表15】
【0245】いずれも無水素炭素膜Aを基材と含水素炭
素膜Bの中間に入れているが密着性が必ずしも良いとは
いえない。試料49〜52は密着性試験のロックウエ
ル、打撃試験いずれも3点で中程度である。これは無水
素炭素膜Aが30nmであってかなり厚いためであろ
う。無水素炭素膜Aがより薄い(3nm〜5nm)試料
53〜56は密着性が5点または4点で優れている。
【0246】無水素炭素膜Aは薄い方が密着性は良いし
表面粗さも良い。金属の中間層のない試料57は密着性
評価はロックウエル、打撃試験とも3で低い。密着性向
上に中間層が有用であることがわかる。
【0247】試料53〜56を比較し、中間層はV、C
rであり膜厚は3〜8nmであるのに密着性の評価が4
点と5点に分かれる理由を考えてみる。どの金属でも同
じ膜厚に密着性の最大点があるというのではなくて金属
によって最大密着性を実現する膜厚が違うのかも知れな
い。Vは8nmより厚いところに最良膜厚があり、Cr
は3nm以下に最良膜厚があるのであろうか?
【0248】表面粗さRaが8nmである平滑性に優れ
たものは試料53〜56で密着性における傾向と同じで
ある。無水素炭素膜Aの薄いものの方が密着性も平坦性
にも優れるようである。試料49〜52は無水素炭素膜
Aが30nmであるから、Ra10nm〜12nmとな
っている。試料57は無水素炭素膜Aが300nmもあ
り中間層が存在しないので、表面粗さRaが220nm
で大きい。無水素炭素膜AとRaが同程度だというのは
実施例1、2で見られた性質であるが実施例3でも見ら
れる。
【0249】試料49〜52の比較から無水素炭素膜A
をアーク法で形成するよりスパッタリングで形成したも
のの方が、より平坦性は良いようである。
【0250】ピンオンディスク相手材摩耗量も試料53
〜56で150μm以下であり優れている。試料49〜
52は240〜280μm程度でこれも満足できる。試
料57が630μmとなるが、これは無水素炭素膜Aが
厚く(300nm)て、その粗面の影響が表面にも現れ
るのだろう。
【0251】潤滑油下での摩擦係数は試料53〜56が
0.1〜0.12で良好である。摺動後相手粗さRaも
30nmで小さい。これも無水素炭素膜Aの薄いことか
ら来る性質である。試料57は摩擦係数が0.20で実
施例3の試料の中では最大である。それも無水素炭素膜
Aが300nmと厚い事から由来する。摺動後相手側粗
さもRa150nmでかなり大きい。
【0252】[比較例3;表16、表17;比較例試料
58、59)]実施例3と同じ基材の上に、実施例3と
少しづつ異なる条件によって非晶質炭素被膜を形成し
た。比較例3の試料番号を58、59とする。
【0253】
【表16】
【0254】
【表17】
【0255】比較例3試料58は、基材Sの上に直接に
35at.%の水素、23at.%のチタンを含む含水素
炭素膜BをCVDによって形成したものである。原料は
CH 等の炭化水素ガスとTiClガスである。BS
構造をとる。無水素炭素膜Aがなくて密着性がない。ロ
ックウエル、打撃試験ともに評価1である。含水素炭素
膜Bがすぐに剥離したので、表面粗さや、ピンオンディ
スク相手材摩耗量、摩擦係数などは測定できなかった。
【0256】比較例試料59は、基材Sの上に、アーク
法で4nmのチタン膜を形成し、その上に8nmの無水
素炭素膜Aをアーク法で被覆し、さらに1000nmの
含水素炭素膜BをCVDによって形成したものである。
含水素炭素膜Bは金属原子を含まない。その点で本発明
の定義からはずれる。密着性は3点でまあまあである。
表面粗度もRa8nmで平坦である。ピンオンディスク
相手材摩耗量も140μmで良い。摺動後の相手粗さも
Ra30nmで良い方である。しかし潤滑油内での摩擦
係数が0.25であって、これが大きく不十分である。
それは最表面の含水素炭素膜Bが金属を含まないからで
ある。最表面の含水素炭素膜Bが金属を含むか含まない
かというのは、潤滑油内での摩擦係数に影響があるが、
その他の性質にはあまり関係がない、という事が分か
る。
【0257】[実施例4]半導体ウエハの搬送用アーム
に実施例2およびそれに対応する比較例2の被膜を形成
し、ウエハ搬送試験を行った。実施例2の試料発塵量は
比較例2試料の10分の1以下に減少した。
【0258】
【発明の効果】本発明は、最表面の含水素炭素膜Bに摩
擦係数低減用金属を分散させているから、潤滑油中で摩
擦係数の小さい非晶質炭素被膜を与えることができる。
さらに基材Sに無水素炭素膜Aを付け、その上に含水素
炭素膜Bを形成するから、高密着性、高硬度、低摩擦係
数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜とな
る。また本発明はフィルタードカソードを使わずに無水
素炭素膜Aを形成するから低コストで量産性に富んだ高
密着性、高硬度、低摩擦係数の非晶質炭素被膜の製造方
法を提供することができる。さらに高密着性、高硬度、
低摩擦係数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被
膜を有する工具、機械部品、金型を提供することができ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上
に無水素炭素膜A、金属を分散した含水素炭素膜Bを順
に形成したBAS構造を示す断面図。
【図2】本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上
に、金属層M、無水素炭素膜A、金属を分散した含水素
炭素膜Bを順に形成したBAMS構造を示す断面図。
【図3】イオンプレーティング装置、真空アーク蒸発
源、RF−CVD装置を一つの真空チャンバ内に兼ね備
えた本発明の実施例1の非晶質炭素被膜を製造する装置
の概略構成図。
【図4】スパッタリング装置、真空アーク蒸発源を一つ
の真空チャンバ内に兼ね備えた本発明の実施例2の非晶
質炭素被膜を製造する装置の概略構成図。
【図5】RF−CVD装置、スパッタリング装置、真空
アーク蒸発源を一つの真空チャンバ内に兼ね備えた本発
明の実施例3の非晶質炭素被膜を製造する装置の概略構
成図。
【符号の説明】
8 第1真空アーク蒸発源 9 第2真空アーク蒸発源 12 真空チャンバ(真空槽) 13 高周波コイル 14 高周波電源 15 基材 16 電子銃 17 るつぼ 18 固体原料 19 基材ホルダー 20 高周波電源 21 真空アーク蒸発源 22 固体炭素 23 アーク電源 24 ガス排出口 25 ガス導入口 26 シャッター 27 真空チャンバ(真空槽) 28 第1スパッタ蒸発源 29 第2スパッタ蒸発源 30 第1スパッタ蒸発源電源 31 第2スパッタ蒸発源電源 32 第1真空アーク蒸発源電源 33 第2真空アーク蒸発源電源 34 炭素原料固体 35 金属原料固体 36 炭素原料固体 37 金属原料固体 38 基材(試料) 39 基材ホルダー 40 回転テーブル 41 回転テーブルパルス直流電源 42 ガス排出口 43 ガス導入口 58 回転テーブルパルス直流電源 60 回転テーブル高周波電源
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4G046 CA02 CB03 CB08 CC06 4K029 BA01 BA03 BA06 BA07 BA08 BA09 BA11 BA12 BA13 BA16 BA17 BA34 BA55 BB02 BB10 BD04 BD05 CA03 CA05 EA01 4K030 BA28 BB05 JA01 LA22 LA23

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基材Sの上に形成した膜厚0.5nm〜
    300nmの無水素炭素膜Aと、5at.%〜50at.
    %の水素と0.01at.%〜35at.%の摩擦係数低
    減用金属元素を含み膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜10
    00倍であり無水素炭素膜Aの上に形成された含水素炭
    素膜Bよりなることを特徴とする非晶質炭素被膜。
  2. 【請求項2】 基材Sの上に形成したV、Cr、Fe、
    Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、
    W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属
    元素よりなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層或いは
    金属炭化物層と、金属層或いは金属炭化物層の上に形成
    した膜厚0.5nm〜300nmの無水素炭素膜Aと、
    5at.%〜50at.%の水素と0.01at.%〜3
    5at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜厚が無水
    素炭素膜Aの2倍〜1000倍であり無水素炭素膜Aの
    上に形成された含水素炭素膜Bよりなることを特徴とす
    る非晶質炭素被膜。
  3. 【請求項3】 摩擦係数低減用金属元素がV、Cr、Z
    r、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、
    Pb、Siのいずれかである事を特徴とする請求項1ま
    たは2に記載の非晶質炭素被膜。
  4. 【請求項4】 基材Sの上に、膜厚0.5nm〜300
    nmの無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法を用い
    ない真空アーク蒸着法あるいはスパッタリング法によっ
    て形成し、5at.%〜50at.%の水素と0.01a
    t.%〜35at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜
    厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭
    素膜Bを無水素炭素膜Aの上にCVD法または真空アー
    ク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成するこ
    とを特徴とする非晶質炭素被膜の製造方法。
  5. 【請求項5】 基材Sの上に、V、Cr、Fe、Co、
    Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、P
    d、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属元素よ
    りなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層あるいは金属
    炭化物層を形成し、その上に膜厚0.5nm〜300n
    mの無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法を用いな
    い真空アーク蒸着法あるいはスパッタリング法によって
    形成し、5at.%〜50at.%の水素と0.01a
    t.%〜35at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜
    厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭
    素膜Bを無水素炭素膜Aの上にCVD法または真空アー
    ク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成するこ
    とを特徴とする非晶質炭素被膜の製造方法。
  6. 【請求項6】 摩擦係数低減用金属元素がV、Cr、Z
    r、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、
    Pb、Siのいずれかである事を特徴とする請求項4ま
    たは5に記載の非晶質炭素被膜の製造方法。
  7. 【請求項7】 プランジャー、シム、タペット、カム、
    シリンダライナー、ピストン、金型、半導体搬送部品で
    あって、膜厚0.5nm〜300nmの無水素炭素膜A
    と、5at.%〜50at.%の水素と0.01at.%
    〜35at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜厚が
    無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭素膜
    Bをこの順で表面に形成してあることを特徴とする非晶
    質炭素被膜の被覆部材。
  8. 【請求項8】 プランジャー、シム、タペット、カム、
    シリンダライナー、ピストン、金型、半導体搬送部品で
    あって、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Z
    r、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、
    Pbの内一つ以上の金属元素よりなる膜厚0.5nm〜
    30nmの金属層あるいは金属炭化物層と、膜厚0.5
    nm〜300nmの無水素炭素膜Aと、5at.%〜5
    0at.%の水素と0.01at.%〜35at.%の摩
    擦係数低減用金属元素を含み膜厚が無水素炭素膜Aの2
    倍〜1000倍である含水素炭素膜Bをこの順で表面に
    形成してあることを特徴とする非晶質炭素被膜の被覆部
    材。
  9. 【請求項9】 摩擦係数低減用金属元素がV、Cr、Z
    r、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、
    Pb、Siのいずれかである事を特徴とする請求項7ま
    たは8に記載の非晶質炭素被膜の被覆部材。
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