JP4683177B2 - 非晶質炭素被膜と非晶質炭素被膜の製造方法および非晶質炭素被膜の被覆部材 - Google Patents

非晶質炭素被膜と非晶質炭素被膜の製造方法および非晶質炭素被膜の被覆部材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性、摺動特性および表面保護機能向上のため、機械部品、金型、切削工具、摺動部品などの表面に被覆される非晶質炭素被膜およびその被覆部材および被覆方法に関するものである。
【0002】
[言葉の定義] 非晶質炭素被膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボン硬質膜、a−C、a−C:H、i−Cとも称されている硬質の被膜である。非晶質炭素であるから熱平衡で作製されたのではない。炭素原料蒸気をプラズマ化し基材、基板上で急冷し非平衡にして非晶質にしている。これには二種類あって厳密に区別する必要がある。
【0003】
<B.含水素炭素膜> 一つは水素を含む炭素膜である。非晶質水素化炭素膜ということができる。これは上記の記号では厳密にはa−C:Hと表現されるべきである。しかし実際には水素を含む非晶質炭素被膜を、DLC、カーボン硬質膜、a−C:H、i−Cなどといっている。
【0004】
それは歴史的に水素を含む非晶質炭素被膜の方が早く実用化され現在までにかなりの実績をもっているからである。だから通常非晶質炭素被膜というと水素を含む非晶質炭素被膜を指す。非晶質炭素被膜は平滑で摩擦係数が低いと言われるが、それは水素を含む非晶質炭素被膜の固有の性質である。厳密には非晶質炭素被膜全てがそうだということでない。混同してはならない。
【0005】
非晶質であるから結晶構造のような規則性はないが結合の手を一本しかもたない水素原子の介在が表面平滑性、低摩擦係数性を与えている。水素を含む非晶質炭素被膜の原料は水素と炭素の化合物である炭化水素ガス(CH、C、…)である。原料に水素を含むから生成された膜にも水素が含まれる。プラズマCVD法などによって作られる。成膜方法によってはガス原料を使わない場合もある。炭素固体を原料とする方法の場合は雰囲気ガスに水素含有ガスを用いる。
【0006】
水素を含む非晶質炭素被膜は、高硬度で平面平滑性に優れ、摩擦係数が低いといった優れた特徴を有する。SiやGeウエハなど半導体ウエハの表面には良好な薄膜を形成することができる。しかし半導体の絶縁膜としてはSiOやSiNなど優れたものが既にある。また半導体の絶縁膜には低摩擦係数や平滑性などは不要だから非晶質炭素被膜を使う必要性はない。
【0007】
水素を含む非晶質炭素被膜は耐摩耗性、低摩擦係数が要求される機械部品、金型、切削工具、摺動部品などへの応用が期待されている。これが非晶質炭素被膜のもっとも重要な用途であろう。一部には製品化されているものもある。
【0008】
水素を含む非晶質炭素被膜の形成法としては、メタン(CH)等の炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法や、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法などが用いられる。
【0009】
しかし水素を含む非晶質炭素被膜には根元的な難点がある。水素含有非晶質炭素被膜は基材との密着性に乏しいということである。軟鉄、鋼、ステンレスなど通常に機械部品材料として用いられる多くの金属の表面には水素を含む非晶質炭素被膜は密着しない。すぐに剥落してしまう。これが最大の問題である。結合の手を一つしか持たない水素が含まれるから基材との境界において結合を形成しにくいからであろう。そこで様々な密着性改善方法が提案されている。
【0010】
普通に非晶質炭素被膜というと炭化水素を原料としてプラズマCVD法で作られた水素を含む非晶質炭素被膜である。いちいち「水素を含む非晶質炭素被膜」というのはわずらわしい。以後「含水素炭素膜(或いはこれにBを付けて含水素炭素膜Bとする)」と呼ぶことにする。
【0011】
<A.無水素炭素膜> もう一つは水素を含まない炭素膜である。これは非晶質無水素炭素膜ということができる。一般的にDLC、カーボン硬質膜、a−C:H、i−Cは含水素炭素膜Bを表現している。水素を含まない非晶質炭素被膜は、炭化水素ガスではなくて固体炭素を原料として作製する。
【0012】
歴史的には炭素を原料として電子ビーム蒸着法などで薄膜形成する、ダイヤモンド薄膜の生成を目的にした研究の方が古い。ダイヤモンドの人工合成法の一つとして期待された。しかし結晶質のグラファイト膜ができたり粒子の荒いアモルファス膜(非晶質)とグラファイトの混合膜ができたりして長らく成功しなかった。基板を低温にすることによって非晶質炭素膜にすることはできたが、なお根本的な難点があった。
【0013】
非晶質膜であって炭素だけだから基材との密着性は良いのであるが表面が荒い。粗面化するので使いものにはならない。どうして粗面化するのか?それは次のような理由による。
【0014】
炭素、シリコン、Geなど4族元素に共通のことであるが、単体原料を電子ビームなどで蒸発させ低温基材に蒸着させると非晶質にはなる。しかし強固な共有結合をもつ4族元素は単体原子(イオン)となって飛ぶだけではなく、原子団(ドロプレット)になって飛ぶから膜内に原子団の塊をボツリボツリと含むようになる。塊で飛び塊で基材に付くから得られる膜表面がザラザラになってしまう。4本の結合を持つので4族非晶質薄膜は基材との密着性は良い。しかしそれが裏目に出て薄膜作製時に凹凸隆起の多い粗面を形成するようになる。もしも摺動部材として使うとたちまちの内に相手材を傷付け摩損摩耗してしまう。とてもそのままでは使えない。あえて使用したいなら研磨する必要がある。しかし極めて硬いので研磨は難しい。
【0015】
だから水素を含まない非晶質炭素被膜は、表面平滑、低摩擦係数、耐摩耗性というような通常非晶質炭素被膜について言われるような性質を持たないのである。ただ高硬度ということは言える。しかし高硬度であっても粗面化していれば何にもならない。かえって研磨に手間がかかるだけで実際的な利益はない。つまり役に立たない。だから水素を含まない非晶質炭素被膜は一部工具や機械部品で使用されているだけである。だから、通常に非晶質炭素被膜というと、当業者は水素を含む含水素炭素膜を想起する。
【0016】
非晶質炭素被膜には密着性のないのが欠点だというが、それは水素を含む炭素膜Bのことであって、水素を含まない非晶質炭素被膜Aは充分な密着性を備えているのである。水素を含まない非晶質炭素被膜といちいち言うのは冗長である。以後「無水素炭素膜(或いはAを付けて無水素炭素膜A)」と呼ぶことにする。
【0017】
水素を含む非晶質炭素被膜BがプラズマCVD法で生成できるようになったあと、炭素だけの使いものになる非晶質炭素被膜Aを作製する技術が発明された。それは後に詳しく述べるフィルタードカソード法によるものである。表1に含水素炭素膜Bと無水素炭素膜Aの特性を一覧にして示す。
【0018】
【表1】
Figure 0004683177
【0019】
<M.金属膜> 本発明において金属膜を介在させることがある。多様な金属を用いるが、金属膜をMによって表現することにする。
【0020】
<S.基材> 被膜を形成する基礎となる部材を基材という。工具や機械部品などが基材になる。基材を簡単にSによって表現することにする。そして層の構造は表面を左に基材を右にするような表記法によって示す。
【0021】
【従来の技術】
水素を含む非晶質炭素被膜の密着性改善のためになされる一般的な手法として、基材と水素を含む非晶質炭素被膜との間に、様々な中間層を形成する方法が従来から試みられている。Si、Geとは密着性が良いからSiやGeあるいはSiC、GeCなどの中間層が試みられ、それなりに成功している。実に多くの種類の金属、半金属、化合物の中間層が提案され枚挙に暇がない。きりがないのでここでは一つだけ従来例を挙げる。
【0022】
▲1▼特開昭64−79372号「カーボン硬質膜の被覆方法」は、基材上に気相合成法によって炭化チタニウム(TiC)からなる中間層を被覆した後、気相合成法により、非晶質炭素被膜を形成する方法を提案した。この非晶質炭素被膜というのはもちろん含水素炭素膜Bのことである。表面側から順に含水素炭素膜B−金属膜M−基材Sという構造をもっている。これを簡単に、BMSと書く事にする。この構造をもつものは多い。
【0023】
▲2▼特開平5−202477号「硬質炭素膜とその製造方法」は、非晶質炭素被膜の硬度を膜厚方向に変化させる方法を提案する。成膜の温度を低温から徐々に上げてゆく事によって炭素膜の硬度を低いものから高いものへと上げてゆく。硬度を徐々に上げることによって、被膜の応力を低減し、基材と被膜界面での応力の不整合を防止する。それによって、密着力を改善する。基板温度を常温一定とする従来法では1μm以下の膜厚のものしかできないが、基板温度を常温から連続的に600℃まで上げつつ成膜すると30μmもの膜厚の非晶質炭素被膜が得られると述べている。これももちろん含水素炭素膜Bのことである。これは簡単にBbSというように書く事ができよう。bは低硬度の含水素炭素膜、Bは高硬度の含水素炭素膜のことである。
【0024】
▲3▼特開2000−128516「低磨耗性と優れた密着性を有する複合ダイヤモンドライクカーボン皮膜」は、ピストンリング(基材)表面に、水素を含まないDLC層(無水素炭素膜A)をフィルタードカソード方式の真空アーク蒸着法により形成しそのまま製品とするか、あるいは無水素炭素膜Aを設け、その上に水素を含むDLC(含水素炭素膜B)をプラズマCVD法によって形成する。あるいはピストンリングの上にW膜を付け、その上に無水素炭素膜Aを形成し、更にその上に含水素炭素膜Bを形成するといっている。先述の表記では、AS、BASあるいはBAMSである。これが無水素炭素膜Aを実際に応用した最初の発明と思われる。
【0025】
本発明の先行技術として最も近いものである。それゆえ詳しく説明する。従来例として含水素炭素膜Aを被覆したピストンリングは提案されているが密着性が不十分で被膜が剥離してしまうので普及しないと述べている。噴射ポンプ弁座(基材)に、TiN、TiC、TiBなどを中間層として被覆し、その上にプラズマCVD法によって含水素炭素膜Bを形成したものも提案されているが、これも剥離して不十分だと言っている。そこで基材の上に、真空アーク蒸着法によって無水素炭素膜Aを形成し、その上にプラズマCVD法によって含水素炭素膜Bを形成するという非晶質炭素二重被膜構造を初めて提案した。無水素炭素膜Aを中間層として提案した最初のものである。水素を含まない非晶質炭素被膜Aという概念を明らかにしている。また水素を含まない非晶質炭素被膜Aを製造する方法(フィルタードカソード)をも提案している。斬新な着眼である。実施例に示された層構造は表2の通りである。
【0026】
【表2】
Figure 0004683177
【0027】
ここで注意すべきことがいくつかある。
1.一つは中間層2とした無水素炭素膜Aの膜厚が0.8μmというように厚いことである。無水素炭素膜Aは真空アーク放電+フィルタードカソード法によって形成するが、これは生産性の低い方法でこのように厚い無水素炭素膜Aを形成するには時間がかかる。
【0028】
2.もう一つは反対に含水素炭素膜Bが1μmであって薄すぎるということである。摺動特性に優れ低摩擦係数、平滑性に優れた硬質膜であるからもっと厚く付ける方が良いと思われる。
【0029】
3.さらに含水素炭素膜Bの水素含有量が、0.17〜0.34at.%という低い値である。このように水素含有量が低いと表面平滑性や低摩擦係数性という点で問題があろうと推測される。
【0030】
4.無水素炭素膜Aは原子団(ドロプレット)となって飛ぶから薄膜形成するとボコボコに粗面化するものであるが、これを避けるためフィルタードカソード法という新規で巧妙な手法を編み出している。
【0031】
【発明が解決しようとする課題】
[先行技術▲1▼、▲2▼の問題点]
先行技術として説明したもののうち、▲1▼特開昭64−79372号、▲2▼特開平5−202477号は含水素炭素膜Bを基材に被覆するものである。これらはBMS、BbS構造をもち、無水素炭素膜Aを全く含まない。非常に高い面圧下で使用される機械部品や、切削工具、金型、あるいは乾式で用いられる摺動部品などに対して密着性が不十分である。だから繰り返し使用によって含水素炭素膜Bが剥離する。高い面圧で使われる機械部品、金型、摺動部品には使えない。
【0032】
[先行技術▲3▼の問題点]
炭素を含まないDLC層を中間層とする▲3▼の方法についてはすでに幾つかの疑問点を述べた。無水素炭素膜Aが0.8μmもあって厚すぎる、含水素炭素膜Bが1μmであって薄すぎる、含水素炭素膜Bの水素量が0.17〜0.34at.%で低すぎるということである。
【0033】
何といっても▲3▼の最大の功績はフィルタードカソード方式の真空アーク蒸着法を用いているということである。原子団塊として飛び付着し粗面化しやすい無水素炭素膜Aをフィルタードカソードによって平滑面として形成している。フィルタードカソードという新規な手法により無水素炭素膜Aの欠点を解決している。ピストンリングの場合は、無水素炭素膜Aを表面とすることができると述べている。それほど無水素炭素膜Aの表面が平坦平滑で低摩擦係数だからである。
【0034】
フィルタードカソードはしかし成膜面積が狭く(膜厚偏在)、成膜速度が遅いという欠点がある。だから生産性が低く量産に向かないという難点がある。さらに含水素炭素膜Bが薄い(1μm)し水素含有量が低い(0.17〜0.34at.%)ので摩擦係数(0.2)が十分に低くならない。また平滑性でも問題がある。特にエンジンオイル雰囲気での摩擦係数の低減が不十分である。
【0035】
[フィルタードカソード法]
真空アーク放電+フィルタードカソードによって無水素炭素膜Aを平坦面に形成したのは▲3▼の功績である。巧妙な手法であるが効率悪く時間の掛かる方法で高コストを招く。常套の手法でなく新規な方法であるから▲3▼に現れたフィルタードカソード法を説明する。従来例▲3▼の図4に▲3▼のフィルタードカソードを有する装置の図を示す。
【0036】
真空チャンバ内部にサセプタを設け基材を取り付ける。これと離れて直角の方向にイオンソースを設ける。イオンソースはカソードとして固体炭素をのものを用いる。カソードの前方にサセプタはなく、サセプタの前方にカソードがない。リング状アノードを固体炭素(カソード)より前方に離れた部分に設ける。固体炭素カソードの前にイグニッション(点火装置)を設ける。アノードとサセプタの方向は90度ねじれている。アノードとサセプタの間の1/4円周にそって半径Rの1/4円弧形状に湾曲した筒状のマクロパーティクルフィルターを設ける。マクロパーティクルフィルターの周りにはマグネットコイルを幾つも設ける。コイルに直流を流して円弧状彎曲路にそった静磁場を発生させるようになっている。質量分離コイルのように扇形磁石によって円弧状彎曲路に直交する磁場を発生させるのではない。
【0037】
イグニッションとカソードの間に直流電圧をかけてアーク放電を起こす。アーク放電によって固体炭素が溶融し蒸発する。蒸発したものは中性であるが共有結合が強いから炭素原子までに分離しないで中性原子団となる。アノードとカソードの間に直流電圧がかかっており、アーク放電も存在する。アーク放電のために中性原子団のごく一部が単独原子の炭素イオンCあるいは数個の原子のイオンC 、…になる。中性原子団は磁場の影響を受けず直進するから中心角90度の円弧状彎曲路を通過できない。壁に当たって壁に付く。
【0038】
単独原子の炭素イオンCだけが円弧状彎曲路の彎曲に沿う静磁場によって運ばれて90度曲がりサセプタの上の基材の上まで飛ぶ。これが低温(常温)の基材に当たり電荷を失って基材上に順次堆積する。単独原子になっているから、これが基材上につもると団塊にならず平滑平坦面になる。無水素炭素膜Aを平坦に堆積させる巧みな手法である。無水素炭素膜Aだから密着性は良い。
【0039】
円弧状彎曲路はアノードからの長さをsとしアノードを原点としたxyz座標系で
【0040】
x=Rsin(s/R) (1)
y=R{1−cos(s/R)} (2)
(0≦s≦πR/2)
【0041】
となる。s=0はアノードの彎曲路入口、s=πR/2は彎曲路出口である。彎曲路を囲むコイルが作る静磁場は、質量分離(Bx=0、By=0、Bz=const)とは違って、彎曲に沿っており、
【0042】
Bx=Bcos(s/R) (3)
By=Bsin(s/R) (4)
Bz=0 (5)
【0043】
である。経路にそっていることは、
【0044】
Bxdy=Bydx (6)
【0045】
が成り立つことからわかる。荷電粒子は磁力線に巻き付きながらサイクロトロン運動する。Cイオンは磁力線の回りを螺旋運動し彎曲を辿りながらsの方向に進む。螺旋運動と彎曲運動の2重の回転をしながら炭素イオンCが彎曲路を通り抜ける。中性原子団や中性の単独原子は電荷がないから彎曲を通過できない。団塊のイオンC があったとしても質量に比べ磁場のかかりが弱いから壁に衝突する。単体のイオンCだけが彎曲を通過できる。Cだけを選択通過させる作用がある。だからマクロパーティクルフィルターというのである。
【0046】
以上に述べたものは幾何学的な条件にすぎない。運動学的にはそれ以上の条件が必要であることが分かる。通常のBzによる質量分離よりも複雑な運動条件となる。炭素イオンの質量をM、電荷をq、円周方向の速度(主速度)をw(ds/dt=w)、円周からずれる方向の速度をvとする。円周からずれる方向の速度vを、サイクロトロン周波数Ωで割ったものが螺旋運動の半径rを与える。
【0047】
Ω=qB/M (7)
【0048】
螺旋運動の半径rは
【0049】
rΩ=v (8)
【0050】
である。アーク放電によって固体炭素から炭素イオンが生成されるから揺らぎ方向の速度vをもつが、これは一定値でなく確率変数である。円周方向の速度wはアノード・カソード間の電圧によって与えられるが一義的には決まらない。円弧状彎曲路の内径をρとすると、
【0051】
r<ρ (9)
【0052】
でなければ、炭素イオンは彎曲路を通過できず壁に当たってしまう。Ωをある程度大きくしなければならない。Ωが大きいためには磁束密度Bを大きくし質量Mを小さくしなければならない。vが確率変数なのでvの有効最大値に対して式(9)を満たすようにΩを決める必要がある。それだけでなく、運動学的に遠心力より磁場のファラディ力が優越するという条件も課される。
【0053】
Mw/R<Bqv (10)
【0054】
これが運動学的条件である。円周螺旋と直交する速度vが確率変数であることがフィルタードカソードの運動の解析を確率的なものにする。このような様々の条件を満たすものが彎曲路を通過して基材に到達できる。このような条件を満足するためには、円周方向の磁束密度Bがかなり大きくて、炭素イオン質量Mが小さく、円周方向の速度wが小さくて、確率変数速度vがかなり大きいということが必要である。これらは極めて厳しい条件を炭素イオンに課す事になる。
【0055】
アーク放電によって固体炭素が、中性原子団と原子団イオン、単体イオンなどになる。アーク放電自体はイオン化の作用をあまり持たないから中性原子団Cが最も多い。これらは無駄になる。複数の炭素原子のイオンC は上述の条件を満たすことができないからやはり壁にぶつかって浪費される。単体イオンCも全てが有効ということではなくて、vが大きくwが小さいという条件がいる。vはv=0が可能な確率変数だから、上の条件を満たさないものもある。
【0056】
ということは、アーク放電によって炭素の気体が生成されても、その内の極極僅かな部分しか基材まで到達できないということである。つまり成膜の速度が遅い。炭素材料の殆どが浪費される。アーク放電を強めても基材での成膜速度をなかなか上げることができない。本質的に生産性の悪い手法である。材料消耗の激しい高コスト方法である。よほど高額の商品にしか適用することができない。
【0057】
それだけではない。磁力線にまといついて螺旋運動して折角基材まで到達した炭素イオンCが基材面上で一様でない、という欠点もある。円弧状彎曲路の半径をρとして、円弧状中心軸線からの距離rが小さいものは磁力線随伴螺旋の条件を満足して壁にぶつからないが、rが大きいと同じvでも管壁にぶつかってしまう。だから円弧状彎曲路を出てきた炭素イオンCはガウス分布で近似すると中心に(r=0)極大をもち標準偏差σのごく小さい分布となる。
【0058】
つまり基材の中心部だけに無水素炭素膜Aの厚い層ができ周辺部は薄い層になってしまう。円弧状磁束密度Bの作用によってイオンを円弧にそったサイクロトロン運動をさせて基材まで運ぶという複雑なことをしているからこのような中心偏在の分布になってしまうのである。特に式(10)が確率変数に依存した輸送の困難性を物語っている。
【0059】
従来例▲3▼が、時間を掛けて800nmもの極めて厚い無水素炭素膜Aを形成している理由はここにある。フィルタードカソードによると中心部と周辺部の厚みの差が大きいから周辺部の全体を無水素炭素膜Aで覆うためには中心部厚さを800nmといった極めて厚大なものにしなければならないのである。
【0060】
低生産性、膜厚偏在というフィルタードカソードの欠点を述べた。無水素炭素膜Aを機械部品、工具、金型など大型の被処理物に被覆するためにフィルタードカソード法を使うのは望ましくない。フィルタードカソードを使わずに無水素炭素膜A層を形成できるのでなければ無水素炭素膜Aを有効に利用することはできない。
【0061】
高密着性、高硬度、低摩擦係数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を提供することが本発明の第1の目的である。低コストで量産性に富んだ高密着性、高硬度、低摩擦係数の非晶質炭素被膜の製造方法を提供することが本発明の第2の目的である。高密着性、高硬度、低摩擦係数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を有する工具、機械部品、金型を提供することが本発明の第3の目的である。
【0062】
【課題を解決するための手段】
[1.BAS構造(図1)]
本発明の第1の非晶質炭素被膜は、図1に示すように基材Sの上に0.5nm〜200nmの薄い無水素炭素膜Aを形成し、その上に水素含有量が5at.%〜25at.%であり厚みが無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の厚みを持つ含水素炭素膜Bを設けたものである。前述の表現ではBAS構造である。無水素炭素膜Aはフィルタードカソードを使わない真空アーク蒸着法或いはスパッタリング法で形成する。含水素炭素膜Bもスパッタリング或いは真空アーク蒸着法で形成する。
【0063】
【表3】
Figure 0004683177
【0064】
[2.BAMS構造(図2)]
本発明の第2の非晶質炭素被膜は、図2に示すように基材Sの上に、0.5nm〜30nmのV、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内の一種以上の金属元素層あるいはその元素の炭化物層を設け、その上に0.5nm〜200nmの薄い無水素炭素膜Aを形成し、その上に水素含有量が5at.%〜25at.%であり厚みが無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の厚みを持つ含水素炭素膜Bを設けたものである。前述の表現ではBAMSとなる構造である。無水素炭素膜Aはフィルタードカソードを使わない真空アーク蒸着法或いはスパッタリング法で形成する。含水素炭素膜Bもスパッタリング或いは真空アーク蒸着法で形成する。金属元素層・炭化物層はスパッタリング法あるいは真空アーク蒸着法によって形成する。
【0065】
【表4】
Figure 0004683177
【0066】
本発明者は、成膜速度が遅く量産性に乏しいフィルタードカソードを用いなくても、無水素炭素膜Aを非常に薄く形成することによって凹凸は低くなり粗面化の問題を回避できることに気付いた。0.5nm〜200nmの極薄い無水素炭素膜Aを基材の上、あるいは基材上の金属層(炭化物層)の上に形成するようにする。さらに、薄い無水素炭素膜Aの上にそれより2倍以上厚い含水素炭素膜Bを設けることにより無水素炭素膜Aの粗面凹凸の影響が表面に現れないようにできるということも分かった。含水素炭素膜Bの水素含有量を5〜25at.%とすれば低摩擦係数であって平滑面が得られることが分かった。25at.%以上になると、被膜硬度が柔らかくなり、耐摩耗性が実用に耐えられないレベルとなる。
【0067】
無水素炭素膜Aは基材や金属層とも含水素炭素膜Bとも密着できる。これによって含水素炭素膜Bの剥離を防止できる。含水素炭素膜Bによって高硬度、低摩擦係数、潤滑性の優れた被膜が得られる。密着性向上という無水素炭素膜Aの特性と、低摩擦係数、潤滑性という含水素炭素膜Bの特性が相補的に働いて、密着性、高硬度、低摩擦係数、高潤滑性の非晶質炭素被膜となる。
【0068】
また、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの中から選ばれた少なくとも一種の元素或いはその炭化物からなる0.5nm〜30nmの層を基材上に形成し、その上に無水素炭素膜Aと含水素炭素膜Bを形成すると、非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の密着性をさらに向上できるということも見出した。
【0069】
【発明の実施の形態】
本発明の非晶質炭素被膜(BAS、BAMS)は、基材S上に0.5nm〜30nmの金属膜を設けるか、或いは金属膜なしで基体Sの上に0.5nm〜200nm厚みの無水素炭素膜Aをフィルタードカソードを使わない方法で形成し、その上に水素原子を5at.%〜25at.%有する含水素炭素膜Bを設けてなる。
基体S、無水素炭素膜A、金属膜M、含水素炭素膜Bをこの順に説明する。
【0070】
[1.基体S]
低摩擦係数、耐摩耗性、潤滑性、高摺動特性が要求される金属、絶縁体などが基体となる。基体の形態を例示すると次のようである。
【0071】
ア.内燃機関の動弁系部品(シム、タペット、カム、シリンダライナー、ピストン)表面、燃料噴射ポンプのプランジャー。
イ.半導体製造装置の搬送部品(アーム、ガイド)
ウ.加工用金型内面
エ.工具…切削工具、バイトなど
【0072】
本発明で用いる基材の材質は金属、絶縁体など硬質の材料であれば何でも良い。
【0073】
オ.セラミック…窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素など
カ.鉄系合金…高速度鋼、ステンレス鋼、SKDなど
キ.アルミニウム合金
ク.鉄系焼結体
ケ.超硬合金…タングステンカーバイド(WC)
コ.ダイヤモンド焼結体
サ.立方晶窒化ホウ素焼結体
【0074】
[2.金属膜M]
基材Sの上に直接に無水素炭素膜Aを形成することもできるが、基体Sの上に金属膜、或いは金属炭化物膜を形成してその上に無水素炭素膜Aを設けることもできる。この金属膜、金属炭化物膜の膜厚は0.5nm〜30nm程度である。
【0075】
ここで金属膜というのは、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの何れか1種以上のものを指す。炭化物というのはこれらの炭化物である。炭化物の組成比は化学量論比(Stoichiometric)である必要はない。また組成比を求めることは難しいし組成比は大して重要でなく、化学量論比を有している必要はない。これらの層の上に炭素膜を形成したり、炭素中で形成するので自然に一部は炭化物になる。だから金属層と金属炭化物層を区別する必要もない。
【0076】
[3.無水素炭素膜A]
基体Sの上に直接に、或いは金属膜Mの上に無水素炭素膜Aを設ける。無水素炭素膜A(水素原子を含有していない非晶質炭素被膜)というのは、成膜に単体炭素を用い被膜内部には、「不可避の水素」のみしか含まれない被膜を意味する。炭化水素ではなく炭素単体を原料とする。炭素固体を原料として雰囲気ガスとして水素を用いない。だから水素を含まない非晶質炭素被層となる。
【0077】
「不可避の水素」というのは次のようなものである。成膜を同一装置で繰り返すと、真空槽内壁および基板ホルダー、回転テーブルなどに炭化水素の分解物が付着する。これらの分解物が、無水素炭素膜Aを成膜しているときにエッチングされて、気体となり無水素炭素膜A内に混入する場合がある。このように生産上混入を避けることができない水素を「不可避の水素」という。
【0078】
このような不可避の水素は、その含有率が(=水素原子数/(水素原子数+炭素原子数))0以上5at.%未満である。真空槽内壁、装置の清掃などによって不可避水素を減らすようにするのが望ましいのは言うまでもない。注意すれば0.1at.%未満にすることは容易である。
【0079】
無水素炭素膜Aを基体Sの上に設けると薄くても密着性を格段に増強することができる。また薄い方が粗面にならず平坦に近くなる。無水素炭素膜Aを薄くすることによって粗面化を防ぐというのが本発明の着想の中心である。フィルタードカソード法を使わず炭素固体を蒸発させ中性炭素の形態で基体へ飛ばすとしても膜厚が薄い間は凹凸は低く平坦面に近い。膜厚が増えるに従って凹凸隆起陥没などの高低差が増加し粗面化が著しくなる。
【0080】
フィルタードカソードを用いず真空アーク蒸着法やスパッタリング法で中性炭素原子団の形態で飛ばしても膜厚が薄い場合無水素炭素膜Aの表面粗さは小さい。無水素炭素膜Aの表面粗さを低減するためは、無水素炭素膜Aの厚さは薄い方が望ましい。が、薄すぎると密着力が確保されない。0.5nmあれば基体全面に無水素炭素膜Aが付着し全面で密着性が増大する。厚く付ける必要はなく、無水素炭素膜Aの平坦性を得るためには薄い方がよい。フィルタードカソードを使わない方法で無水素炭素膜Aを形成した場合、膜厚が200nmを越えると粗面化が著しくなる事が分かった。
【0081】
200nmを越えるとやはりフィルタードカソードを用いないと平坦な無水素炭素膜Aは形成できないようである。中性炭素を飛ばす方法で無水素炭素膜Aを形成する場合膜厚は100nm以下が望ましい。100nm〜200nmでも最上層の含水素炭素膜Bを厚くすると下地の凹凸が隠れるから使える。だから無水素炭素膜Aの膜厚の範囲は0.5nm〜200nmである。特に良いのは5nm〜100nmの膜厚範囲である。
【0082】
無水素炭素膜Aの形成には、フィルタードカソードのない真空アーク蒸着法、スパッタリング法を用いる。フィルターを有しない真空アーク蒸発源を用いると無水素炭素膜Aがより粗くなると思われようが薄ければそれほどでもない。無水素炭素膜Aを薄くすることによって実使用時に問題とならないレベルまで無水素炭素膜Aの粗さを低減することができる。
【0083】
無水素炭素膜Aはフィルタードカソードを使わないで形成するということが本発明のもう一つのポイントである。フィルタードカソードについては先ほど説明したので述べないが、無水素炭素膜A表面を粗面化させず平滑にできるという利点があるが、生産性低く原料の無駄が著しく経済性におとり膜厚不均一という欠点がある。本発明はそのような欠点とは無縁だということになる。
【0084】
[4.含水素炭素膜B]
無水素炭素膜Aの上には、炭化水素ガスを原料とするか、水素ガス雰囲気で固体炭素を原料として5at.%〜25at.%の水素を含む含水素炭素膜Bを無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の厚みに生成する。含水素炭素膜Bが最表面となる。 含水素炭素膜Bの厚みをdとして、無水素炭素膜Aの厚みをdとすると、
【0085】
2d ≦d ≦1000d
【0086】
とするが、表面に露出する含水素炭素膜Bが摩耗してしまうと凹凸のある無水素炭素膜Aが表面に出てしまい望ましくない。また無水素炭素膜Aには凹凸があるから、これを平均化するためにも厚い含水素炭素膜Bが必要である。それで無水素炭素膜Aの2倍以上としている。膜厚比は2〜1000とするが、無水素炭素膜Aが薄い場合は含水素炭素膜B膜厚を5倍以上にすることは容易である。従来例▲3▼は膜厚比は1/0.8=1.25となっていた。フィルタードカソードを使って平坦平滑な無水素炭素膜Aを作っているからそのような事が可能なのであろう。
【0087】
最表面とは摩耗のない場合は製造時に最外面となった面である。しかし摩耗する場合は固定的でない。例えば摺動部品として用いた場合、表面から次第に摩耗する。摩耗によって表面に露呈した部分が最表面である。被膜と相手材が接触している部分である。何らかの目的で、生産時に含水素炭素膜Bの上に他の材料を被覆したとすると生産直後は他材料被膜が最表面となる。しかし摺動によってこの被膜が摩耗し含水素炭素膜Bが露呈してくると含水素炭素膜Bが最表面層となる。
【0088】
水素を含む被膜形成には、炭化水素(CH)を雰囲気ガスとして用いたスパッタリング法、真空アーク蒸着法が利用される。特にスパッタリング法、真空アーク蒸着法はさらに水素比率を制御でき摩擦係数を低減できるので望ましい。
【0089】
殆どの先行技術や従来例▲3▼が水素含有非晶質炭素被膜生成に用いてきたRF励起CVD法はここでは用いない。これでもできないことはないが、原料に炭化水素ガスを用いるから水素比率制御に難があり高濃度の水素を含ませるのが難しいからである。
【0090】
最上層の含水素炭素膜Bは、その水素含有率(水素原子数/(水素原子数+炭素原子数))が5at.%以上25at.%以下という範囲にする。このように大量の水素原子を含むことによって、従来法(従来例▲3▼は水素比率が0.17〜0.34at.%で、最小摩擦係数は0.2)よりもさらに摩擦係数を低減する事ができる。スパッタリングや真空アーク蒸着法は、固体炭素を原料として炭化水素ガス、水素ガスを雰囲気ガスとできる。本発明の高い水素含有率(5at.%〜25at.%)の含水素炭素膜Bを容易に作成できることから望ましい成膜方法である。
【0091】
含水素炭素膜Bの水素比率が高いと表面粗さが減り表面の平滑性が増え摩擦係数がより低くなる。水素比率が高いと含水素炭素膜Bの密着性が減少するのであるが、下地に無水素炭素膜Aがあるから密着性は十分である。無水素炭素膜Aの支えがあるから、含水素炭素膜Bの水素濃度をことさら高めることができるのである。
【0092】
水素濃度を高めることによって含水素炭素膜Bの表面粗さが減少し平滑性が増す。ために摺動時の相手攻撃性が減少する。また潤滑下での摩擦係数が低減できる。この点についてさらに付言しよう。
【0093】
非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の被膜硬度は水素濃度によって広い範囲で変化する。一般にヌープ硬度で1000〜10000程度である。このような被膜硬さは、一般的に機械部品に使用されている材料よりも硬い場合が多い。従って摺動時には、被膜自身が摩耗されるよりも、相手材が摩耗する場合が多い。この場合、もし非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の表面が粗いと相手材に食い込み易く相手材に摩耗を強いる。これは好ましくないことである。
【0094】
一方潤滑雰囲気において、オイル、水などの液体を潤滑剤として利用する場合、境界潤滑下では、油膜を突き破って相手材との固体接触が起こる。もしも被膜の表面粗さが大きいと油膜を突き破って固体接触する面積が大きくなり、結果的に潤滑剤がうまく働かず、摩擦係数が高くなる。
【0095】
従来の含水素炭素膜Bは水素濃度が低く(▲3▼の場合は0.17at.%〜0.34at.%)粗面化しており非平滑、高摩擦係数という難点があったので相手材を摩損させるし潤滑下での摩擦係数がなお高かった。本発明は水素含有率を高め平滑性を高め摩擦係数を下げてその欠点を克服する。水素含有率を5at.%以上25at.%以下とするとどうして摩擦係数が低減するのかという理由は明らかでないが、空気中水分や潤滑油との親和性が上がり潤滑性が向上するのではないかと考えられる。
【0096】
[5.多段構造、連続変化構造膜]
図1は本発明のBAS被膜構造を、図2は本発明のBAMS被膜構造を示す。
最表面の含水素炭素膜Bはいずれも単一の構造をもつが、水素濃度が含水素炭素膜B内で段階的に変化していたり連続的に変化していたりしてもよい。
【0097】
図3は含水素炭素膜Bの水素濃度を基材に近い方で低く、表面側で高くなるようにしている。水素濃度が高い方が摩擦係数が低くて平滑で表面の性質としては優れているが、無水素炭素膜Aとの密着性を高めるためには無水素炭素膜Aと接触する部分の水素濃度が低い方がよい。
【0098】
それで図3では連続的に水素濃度が高くなるようにしている。基材に近い方で5at.%、最表面で25at.%とすることもできる。水素濃度の連続変化をおこさせるためには、雰囲気ガス中の水素濃度を連続的に高めることによってなされる。
【0099】
或いは含水素炭素膜Bを1層にしないで2層に分けて、下層の水素濃度を低く、上層の水素濃度を高くするようにしてもよい。図4にそのような層構造を示す。その場合でも水素濃度が5〜25at.%という条件が課される。
【0100】
[6.非晶質炭素被膜を被覆した製品]
本発明の被膜を部品表面の少なくとも一部に形成した部材は、高負荷の摺動状態などでも安定した摺動特性を示す。
【0101】
具体的には内燃機関の動弁部品(シム、及びタペット、カム、シリンダライナー、ピストン)表面、燃料噴射ポンプのプランジャーに形成することができる。
【0102】
また、半導体製造装置の搬送部品(アーム、ガイド)に適用すれば摺動特性に優れ低摩擦であり摩耗が少なく、相手側を攻撃しない被膜が得られ円滑な動き、長い寿命が確保される。
【0103】
また加工用金型表面に被膜形成しても効果がある。樹脂用金型、ゴム成形金型は何度も何度も成形に利用されるから高い耐摩耗性がことさら要求されるがそのような要望に応えることができる。
【0104】
【実施例】
実施形態の概要を順を追って述べる。
[1.基材S]
基材には、JIS規格K10のタングステンカーバイド系超硬合金、SUS304、SCM415、SKD11を使用した。基材は表面を清浄にするために、アセトン中で超音波洗浄を10分以上行ったのちに真空槽内の基材ホルダーに装着した。
【0105】
[2.金属膜(金属炭化物膜)Mの形成]
この金属膜(炭化物)形成は省略することもできる。金属膜を形成する場合の工程を述べる。基材に対し、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの何れかの元素を原料として、それら原子の被膜を形成する。
【0106】
あるいはV、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb元素イオンと雰囲気ガス(炭化水素を含む)を原料として化合物(金属炭化物)の被膜を形成する。
【0107】
金属層および化合物層の形成方法としては、イオンプレーティング法、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用いることができる。しかし実施例では、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用いた。
【0108】
雰囲気ガスとしては、H、He、N、NH、Ne、Ar、Kr、Xe、CH、C、C、C、CFを用いた。
【0109】
[3.無水素炭素膜Aの形成]
基材Sに直接に、金属膜M(炭化物膜を含む)を付ける場合は金属膜Mの上に、固体炭素を原料として、スパッタリング法、真空アーク蒸着法によって0.5nm〜200nmの無水素炭素膜Aを形成した。
【0110】
[4.含水素炭素膜Bの形成]
その後、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用いてC、CHなどの炭化水素系ガスと不活性ガス雰囲気下で、無水素炭素膜Aの膜厚の2〜1000倍の膜厚で水素を含んだ非晶質炭素層を形成した。炭化水素ガス濃度を変化させることによって水素濃度を調整することができる。
【0111】
[5.膜厚測定]
膜厚はカロテストによって計測した。金属(金属化合物)層の膜厚は中間層、中間層膜厚として表に記載した。無水素炭素膜Aの膜厚も表中に記載した。含水素炭素膜Bの膜厚は直接には記さず、d/d比によって表している。無水素炭素膜Aの膜厚dに比率を掛けることによって膜厚dが分かる。
【0112】
[6.密着性の評価(ロックウエル剥離試験)]
被膜の基材に対する密着性は、ロックウエル剥離試験および打撃試験により評価した。ロックウエル剥離試験には、ロックウエルCスケール硬度測定用のダイヤモンド圧子を用い、試験荷重150kgf(1470N)で被膜表面から圧子を押し付けてできた圧痕の廻りの剥離状況を顕微鏡で観察した。測定は各試料につき5回行い、剥離面積の大小から5段階評価を行った。剥離なしというのを5とする。剥離面積が増加するにしたがって数字を小さくする。5、4が満足できる評価点である。2以下は密着性不十分である。
【0113】
[7.密着性の評価(打撃試験)]
打撃試験は、試料の被膜を形成した面に対し、直径1インチのタングステンカーバイド系超硬合金製球を用い仕事量10Jで200回打撃を与えた。打痕ができるので、打痕とその周辺の剥離状況を光学顕微鏡によって観察した。測定は各試料について5回行った。剥離面積の大小から5段階評価を行った。剥離なしを5とする。剥離面積が大きくなるにしたがって数字を小さくする。5、4が満足できる評価点である。2以下は密着性不十分である。
【0114】
[8.表面粗さの評価(Ra;μm)]
表面粗さRaは、東京精密社製SURFCOM570Aを用い、測定長さ0.4mm、CUTOFF値0.08mm、走査速度0.03mm/sで測定した。
表の中ではμmを単位として示した。
【0115】
[9.摺動特性の評価]
摺動試験は、CSEM製ピンオンディスク試験機を用い、大気中、乾式、摺動半径2mm、回転数500rpm、荷重10N、総回転数10000回、相手材SUJ2ボール(φ6mm)の条件で試験した。試験後の相手材SUJ2ボールの摩耗痕を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察し、その摩耗直径(μm)を計測した。
【0116】
[10.摩擦係数の測定]
エンジン部品のカムの摺動面に、本発明の非晶質炭素層を形成し、モータリング試験を行った。回転数300rpm、セット荷重25kg、エンジンオイル潤滑、オイル温度80℃、オイル流量0.5cc/min、回転時間2時間として、摩擦係数を計測した。また試験後、相手材カムの表面粗さRa(μm)を測定した。
【0117】
具体的な実施例を以下に述べる。
[実施例1(スパッタリング法、真空アーク蒸着法:表5、表6)]
無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bともにスパッタリング、真空アーク蒸着法によって作製することができる。図5に実施例において利用したスパッタリング蒸発源、真空アーク蒸発源を兼ね備えた装置を示す。
【0118】
真空槽27に、それぞれ二つのスパッタ蒸発源28、29と真空アーク蒸発源25、26を設置している。これらは真空槽27の4つの壁面に設けているからこれらの装置を交互に使用して真空槽から試料を出さずに連続的に被膜形成することができるようになっている。
【0119】
真空槽27の中央部には回転できるテーブル40がある。テーブル40の上に基板ホルダー39が設けられる。基板ホルダー39には適数の基材38が固定される。回転テーブル40には、パルス直流電源41が接続されている。
真空アーク蒸発源25、26は、アーク放電によって固体原料を溶かしてガス状にして基材へ飛ばし堆積させるようにする。ここでは固体原料は、炭素と金属である。真空アーク蒸発源25、26には直流電源32、33が接続してあり固体原料は負にバイアスされる。真空アーク蒸発源として、磁場の作用によりイオンを主に基材に到達させる機構を有するフィルタードカソードと言われる蒸発源を用いない。
【0120】
スパッタ蒸発源28、29はガス分子をターゲット(原料)34、35に当てることによって原料34、35から原子を飛び出させ基材の上に飛ばし基材上に薄膜を堆積させる。スパッタ蒸発源28、29の原料固体34、35となるのも炭素固体と金属である。スパッタ蒸発源28、29には負電圧パルスを発生するパルス直流電源30、31を接続してある。
【0121】
第1スパッタ蒸発源28には、固体カーボン34がセットしてある。第2スパッタ蒸発源29には、第1金属35がセットしてある。第1金属35としては、Mo、W、Pd、Al、Pt、Ta、Nbを用いた。
【0122】
第1真空アーク蒸発源25には固体カーボン36が、第2真空アーク蒸発源26には第2金属37がセットしてある。第2金属37として、Ti、V、Cr、Zr、Ptを用いた。
【0123】
第1金属、第2金属の切り分けは、真空アーク蒸着法に向く金属、スパッタリング法に適する金属ということで分けている。これ以外の金属でもいずれかの方法で飛ばすようにできる。
【0124】
ガスは真空排気装置によってガス排気口42より排気される。ガス導入口43より、Ar、CH、Cなどの雰囲気ガスを導入することができる。
【0125】
上記装置での被膜の形成方法を述べる。
1.回転テーブルに40に基材ホルダ−39、基材38をセットする。
2.装置内が0.002Pa以下になるようガス排気口42から真空排気する。
3.初めに金属層またはその金属層の化合物(炭化物)を基材の上に形成する。
第2スパッタ蒸発源29を用いても良いし、第2真空アーク蒸発源26を用いてもよい。
【0126】
4.第2スパッタ蒸発源29を用いて第1金属35(Mo、W、Pd、Al、Pt、Ta、Nb)の金属層または金属の化合物を形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転し基板ホルダー39、基材38が第2スパッタ蒸発源29を向くようにする。
4a.金属層を形成する場合はArガス雰囲気で行う。
4b.金属の化合物層を形成する場合は雰囲気ガスとしてArとCを同時にガス導入口43より導入する。化合物層を形成する場合はArとCの比(C/Ar)は0.1〜0.6である。
【0127】
5.雰囲気ガスを導入するいずれの場合でも真空槽内の圧力が0.1Pa〜1.0Paになるようにする。このとき回転テーブル40には−50V〜−1500Vの直流電圧を印加する。
6.スパッタ蒸発源29に500W〜1000Wのパルス直流電力を印加し、金属35をスパッタリングし、基材上に第1金属(Mo、W、Pd、Al、Pt、Ta、Nb)の金属層、または化合物層を形成する。
【0128】
7.真空アーク蒸発源26を用いて第2金属(Ti、V、Cr、Zr、Pt)層、その化合物層を形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転して基板ホルダ−39、基材38が第2真空アーク蒸発源26に対向するようにする。
7a.金属層(Ti、V、Cr、Zr、Pt)を形成する場合は、真空またはAr雰囲気とする。
7b.これら金属(Ti、V、Cr、Zr、Pt)の化合物層を形成する場合はArとCを同時にガス導入口43より導入する。化合物層を形成する場合、ArとCの比(=C/Ar)は0.01〜0.2である。
【0129】
8.雰囲気ガスを導入する何れの場合でも真空槽内の圧力は0.1Pa〜1.0Paとなるようにする。
このとき回転テーブル40には、−50V〜−1500Vの直流電圧を印加する。
9.その後第2真空アーク蒸発源26の金属37に60Aの直流電流を流し、金属37を蒸発させる。アーク放電は金属原料37とチャンバ壁の間にかかった直流電圧によって起こる。アーク放電によって加熱された金属が蒸発する。雰囲気ガスが原料に当たり金属蒸気の一部をイオン化する。金属蒸気を堆積させることによって基材38上に、金属層(Ti、V、Cr、Zr、Pt)、またはそれら金属の化合物層を形成する。
【0130】
10.これらの処理を施した後、固体炭素を原料として水素を含まない非晶質炭素層の形成を行う。第1スパッタ蒸発源28を用いても第1真空アーク蒸発源25を用いてもよい。
11.第1スパッタ蒸発源28を用いて非晶質炭素層を形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転させ基板ホルダー39、基材38が第1スパッタ蒸発源28に対向するようにする。雰囲気ガスとして、Arをガス導入口より導入し、真空槽27が0.1〜1.0Paの圧力になるようにする。このとき回転テーブルには、−50V〜−600Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は100kHzである。
【0131】
12.第1スパッタ蒸発源28に、500〜1000Wのパルス直流電力を印加し、固体カーボン34をスパッタリングし、基材38上の金属層または化合物層の上に水素を含まない非晶質炭素層(無水素炭素膜A)を形成する。
13.金属層または化合物層を形成しないで、基材に直接的に水素を含まない非晶質炭素層を形成する場合もある。
【0132】
14.第1真空アーク蒸発源25を用いて水素を含まない非晶質炭素層(無水素炭素膜A)を形成する場合は次のようにする。真空中のままか、或いは雰囲気ガスとしてArをガス導入口43より導入し、真空槽27が0.03Pa〜0.5Paの圧力になるようにする。回転テーブル40には−50V〜−500Vの直流電圧を印加する。
【0133】
15.第1真空アーク蒸発源25の固体カーボン36に60Aの直流電流を印加し、固体カーボン36を蒸発させ、基材上に形成された金属層、化合物層の上に無水素炭素膜Aを形成する。
【0134】
16.上記の無水素炭素膜A(水素を含んでいない非晶質炭素層)の上に、含水素炭素膜B(水素を含んだ非晶質炭素層)を形成する。第1スパッタ蒸発源28を用いても良いし第1真空アーク蒸発源25を用いてもよい。
【0135】
17.第1スパッタ蒸発源28を用いて含水素炭素膜Bを形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転して基板ホルダ−39、基材38が第1スパッタ蒸発源28の方向を向くようにする。雰囲気ガスとしてArとCをガス導入口43より導入し、真空槽27内が0.1Pa〜1Paの圧力になるようにする。このとき回転テーブル40には−50V〜−600Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は100kHzである。
【0136】
18.スパッタ蒸発源28に400〜1000Wのパルス直流電力を印加し固体カーボン34をスパッタリングする。こうして無水素炭素膜A(水素を含まない非晶質炭素層)の上に、含水素炭素膜B(水素を含む非晶質炭素層)を形成する。
【0137】
19.第1真空アーク蒸発源25を用いて含水素炭素膜Bを形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転して基板ホルダー39、基材38が第1真空アーク蒸発源25の方向を向くようにする。雰囲気ガスとしてArとCガスをガス導入口43より導入し、真空槽27内が0.05Pa〜0.5Paの圧力になるようにする。回転テーブル40には−50V〜−500Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は100kHzである。
【0138】
20.第1真空アーク蒸発源25の固体カーボン36に60Aの直流電流を流し、固体カーボン36を蒸発させる。このときこうして無水素炭素膜A(水素を含まない非晶質炭素層)の上に含水素炭素膜B(水素を含む非晶質炭素層)を形成する。
【0139】
実施例1の手法によって17の試料を作製して試験した。表5は実施例1の試料1〜17の成膜の方法を列挙して示す。全て無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bはスパッタリング法か真空アーク蒸着法によって作製し、無水素炭素膜A膜厚は0.05nm〜200nmで、含水素炭素膜Bの水素量は5〜25at.%で、層比d/dは2〜1000の範囲に入っている。
【0140】
【表5】
Figure 0004683177
【0141】
例えば実施例の試料1は基材の上に20nmのMo層をスパッタリングによって設け、その上に80nmの無水素炭素膜Aをスパッタリングにより形成し、さらに水素比24at.%膜厚1360nmの含水素炭素膜Bを形成したものである。
【0142】
実施例の試料1〜15はBAMS構造をとる。試料16〜17はBAS構造である。中間層とあるのは金属層あるいは化合物層のことであるが、何れの場合でも金属元素によって示した。試料2の中間層はWと書いてあるが、これは一部がWCになっている。同様に試料6はTaかTaCの混合である中間層をもつが比率は測定していない。その他も同様である。試料1〜7は中間層をスパッタリングによって生成している。試料8〜15は真空アーク蒸着法によって形成している。スパッタリングによる方が膜厚の大きいものを形成しやすい。
【0143】
試料1〜10、試料17はスパッタリングによって10〜100nmの無水素炭素膜Aを形成している。試料11〜16は真空アーク蒸着法によって8nmの無水素炭素膜Aを形成している。ここにおいてもスパッタリングの方が厚い膜厚のものを作り易い。
【0144】
試料11は、真空アーク蒸着法によって含水素炭素膜Bを形成している。それ以外の試料1〜10、12〜17はスパッタリングによって含水素炭素膜Bを形成する。
【0145】
含水素炭素膜Bの膜厚は、無水素炭素膜Aの膜厚に対する層比によって表現している。試料11〜16の含水素炭素膜B膜厚は層比が63倍で無水素炭素膜Aが8nmだから、504nmである。試料8〜10は630nmの含水素炭素膜Bを持つ。試料17の含水素炭素膜B膜厚は500nm、試料7の含水素炭素膜Bは510nm、試料2の含水素炭素膜Bは480nmで同程度である。試料5は含水素炭素膜Bは170nmで最も薄い。試料1は1360nmで最も厚い含水素炭素膜Bを持つ。
【0146】
水素量は、試料1、7が24at.%であって、上限25at.%に近い。試料1〜17の非晶質炭素被膜の密着性、表面粗さ、相手材摩耗量、摩擦係数、摺動後相手粗さなどの特性を表6に示す。
【0147】
【表6】
Figure 0004683177
【0148】
いずれも無水素炭素膜Aを基材と含水素炭素膜Bの中間に入れているから密着性はよい。しかし金属の中間層のない試料16、17は密着性評価はロックウエル、打撃試験とも3であって、中間層が密着性向上に有用であることがわかる。試料8〜試料15は密着性評価が5であって最良の密着性を有する。試料8〜15は層比d/dが63であってもっとも高いものに対応する。層比の高いものが密着性がよい。ということは無水素炭素膜Aは密着性向上に効果があるが薄い方が良いということである。無水素炭素膜Aの最適膜厚は5nm〜20nm程度である。試料16も層比が63であるのに密着性は3であるのは、中間層がないからである。
【0149】
表面粗さRaというのは隣接する山と谷の差の平均値によって定義される粗面の尺度である。試料11についてはRa15nmである。それ以外の試料はRaが8nm〜9nmでって十分に平坦な表面であることがわかる。
【0150】
ピンオンディスク相手材摩耗も試料11で285μmとなって最も大きい。それ以外は130μm〜165μm程度で相手材を攻撃しないということがわかる。摩擦係数は従来例▲3▼が0.2であったのに比べて何れも優れて低い。0.11〜0.15の程度である。摺動試験のあとの相手材の粗さも試料11でRa0.06μmで少し大きいが、その他の試料ではRa0.03μm〜0.04μmで極めて小さい。試料11の粗さRa、相手材摩耗量、摩擦係数などが少し大きいのは、含水素炭素膜Bを真空アーク蒸着法によっているからであろう。含水素炭素膜B形成はスパッタリング法によるのが良いようである。
【0151】
[比較例1(表7、表8;比較例試料18〜20)]
実施例1と同じ基材の上に、実施例1と少しづつ異なる条件によって非晶質炭素被膜を形成した。比較例試料18〜20とする。
【0152】
【表7】
Figure 0004683177
【0153】
【表8】
Figure 0004683177
【0154】
比較例試料18は、基材Sの上に直接に300nmの無水素炭素膜Aを設け、さらに20at.%の水素を含む含水素炭素膜Bを形成したものである。BAS構造をとるが、無水素炭素膜A膜厚が300nmであり、200nm以下という本発明の条件から外れている。試料18は表面粗さRa=0.22μmであって粗面である。それは無水素炭素膜Aが厚すぎて(300nm)その影響が含水素炭素膜Bを通して凹凸の多い粗面として現れたものである。摩擦係数も0.22と高い。
【0155】
最も顕著な現れは相手材摩耗量が630μmというように全試料中で最大になるということである。潤滑油の中での特性が悪い。凹凸多く相手材を深く傷付ける。摺動後相手粗さが0.15μmとなり、これも全試料中最大である。ロックウエル、打撃試験の結果はいずれも3であって、無水素炭素膜Aが厚いからといって密着性が向上するというものでないことを物語る。比較例試料18はつまり無水素炭素膜Aが200nmを越えては良くないということを意味している。
【0156】
比較例試料19は、基材Sの上に無水素炭素膜Aを設けず、すぐに含水素炭素膜Bをスパッタリング法によって設けている(BS構造)。密着性はロックウエル、打撃とも評価は1であって最悪である。密着性がないのですぐに含水素炭素膜Bが剥離してしまう。剥離してしまうので、表面粗さRa、摺動特性、摩擦係数などを測定できなかった。
【0157】
比較例試料20は、基材Sの上に、20nmのTi膜を真空アーク蒸着法で形成し、さらに20nmの無水素炭素膜Aを真空アーク蒸着法によって設けている。
その上に500nm(層比25倍)で水素比が30at.%の含水素炭素膜BをプラズマCVD法によって形成している。BAMS構造で密着性は評価5で良い。
【0158】
しかし含水素炭素膜Bの水素量が25at.%という本発明の上限を越えた30at.%であるのと、RFプラズマCVDという製造方法のため、表面が粗くなる(Ra=18nm)。摩擦係数も高く(0.25)て摺動させると相手材を200μmも摩損させる。相手側の摺動後粗さ(Ra)も0.06μmとなって高い値になる。
た。
【0159】
[実施例2]
半導体ウエハの搬送用アームに実施例1の試料10および比較例1の試料18の被膜を形成し、ウエハ搬送試験を行った。実施例1の試料10の発塵量は比較例試料18の10分の1以下に減少した。
【0160】
【発明の効果】
本発明は、高密着性、高硬度、低摩擦係数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を提供することができる。また本発明は低コストで量産性に富んだ高密着性、高硬度、低摩擦係数の非晶質炭素被膜の製造方法を提供することができる。さらに高密着性、高硬度、低摩擦係数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を有する工具、機械部品、金型を提供することができる。
従来例▲3▼(特開2000−128516)はフィルタードカソードを用いるから無水素炭素膜Aが平滑で低摩擦係数でありピストンリングの場合無水素炭素膜Aを最外表面とすることができる。しかし反面材料損が著しく成膜速度も遅く生産性が悪い。本発明はフィルタードカソードを用いないから材料損がなく、成膜速度は速く、生産性が高い。表9に本発明と従来例▲3▼(特開2000−128516)の比較を示す。
【表9】
Figure 0004683177

【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上に無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bを順に形成したBAS構造を示す断面図。
【図2】 本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上に、金属層M、無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bを順に形成したBAMS構造を示す断面図。
【図3】 本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上に無水素炭素膜A、水素濃度が表面に向かって連続的に増大する含水素炭素膜Bを順に形成したBbAS構造を示す断面図。
【図4】 本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上に無水素炭素膜A、水素濃度を2段階に変化させた含水素炭素膜Bを順に形成したB’BAS構造を示す断面図。
【図5】本発明の実施例1に使用した装置の概略断面図。
【符号の説明】
25 第1真空アーク蒸発源
26 第2真空アーク蒸発源
27 真空チャンバ
28 第1スパッタ蒸発源
29 第2スパッタ蒸発源
30 第1パルス直流電源
31 第2パルス直流電源
32 第1真空アーク蒸発源
33 第2真空アーク蒸発源
34 炭素原料固体
35 金属原料固体
36 炭素原料固体
37 金属原料固体
38 基材(試料)
39 基板ホルダー
40 回転テーブル
41 パルス直流電源
42 ガス排気口
43 ガス導入口

Claims (6)

  1. 基材Sの上に形成した膜厚0.5nm〜200nmの無水素炭素膜Aと、無水素炭素膜Aの上に形成した水素含有率が5at.%〜25at.%であり膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭素膜Bよりなることを特徴とする非晶質炭素被膜。
  2. 基材Sの上に形成したV、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属元素よりなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層或いは金属炭化物層と、金属層或いは金属炭化物層の上に形成した膜厚0.5nm〜200nmの無水素炭素膜Aと、無水素炭素膜Aの上に形成した水素含有率が5at.%〜25at.%であり膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭素膜Bよりなることを特徴とする非晶質炭素被膜。
  3. 基材Sの上に、膜厚0.5nm〜200nmの無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法を用いない真空アーク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成し、無水素炭素膜Aの上に水素含有率が5at.%〜25at.%であり膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭素膜Bを真空アーク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成することを特徴とする非晶質炭素被膜の製造方法。
  4. 基材Sの上に、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属元素よりなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層あるいは金属炭化物層を形成し、その上に膜厚0.5nm〜200nmの無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法を用いない真空アーク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成し、無水素炭素膜Aの上に水素含有率が5at.%〜25at.%であり膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭素膜Bを真空アーク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成することを特徴とする非晶質炭素被膜の製造方法。
  5. プランジャー、シム、タペット、カム、シリンダライナー、ピストン、金型、半導体搬送部品であって、膜厚0.5nm〜200nmの無水素炭素膜Aと、無水素炭素膜Aの上に形成した水素含有率が5at.%〜25at.%であり膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭素膜Bとをこの順で表面に形成してあることを特徴とする非晶質炭素被膜の被覆部材。
  6. プランジャー、シム、タペット、カム、シリンダライナー、ピストン、金型、半導体搬送部品であって、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属元素よりなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層あるいは金属炭化物層と、膜厚0.5nm〜200nmの無水素炭素膜Aと、無水素炭素膜Aの上に形成した水素含有率が5at.%〜25at.%であり膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍である含水素炭素膜Bとをこの順で表面に形成してあることを特徴とする非晶質炭素被膜の被覆部材。
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