JP4793531B2 - 非晶質炭素被膜と非晶質炭素被膜の製造方法および非晶質炭素被膜の被覆部材 - Google Patents

非晶質炭素被膜と非晶質炭素被膜の製造方法および非晶質炭素被膜の被覆部材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑油中での摩擦係数低減、耐摩耗性、摺動特性、表面保護機能向上のため、機械部品、金型、切削工具、摺動部品などの表面に被覆される非晶質炭素被膜、その被覆部材および被覆方法に関する。
【0002】
[言葉の定義] 非晶質炭素被膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボン硬質膜、a−C、a−C:H、i−Cとも称されている硬質の被膜である。非晶質であるから熱平衡で作製されたのではない。炭素原料蒸気をプラズマ化して基材、基板上で急冷し非平衡にして非晶質にしている。これには二種類あって厳密に区別する必要がある。
【0003】
<B.含水素炭素膜> 一つは水素を含む炭素膜である。非晶質水素化炭素膜ということができる。これは上記の記号では厳密にはa−C:Hと表現されるべきである。しかし実際には水素を含む非晶質炭素被膜を、DLC、カーボン硬質膜、a−C、a−C:H、i−Cなどといっている。
【0004】
それは歴史的に水素を含む非晶質炭素被膜の方が速く実用化され現在までにかなりの実績をもっているからである。だから通常非晶質炭素被膜というと水素を含む非晶質炭素被膜を指す。非晶質炭素被膜は平滑で摩擦係数が低いと言われるが、それは水素を含む非晶質炭素被膜の固有の性質である。厳密には非晶質炭素被膜全てがそうだということでない。混同してはならない。
【0005】
非晶質であるから結晶構造のような規則性はないが結合の手を一本しかもたない水素原子の介在が表面平滑性、低摩擦係数性を与えている。水素を含む非晶質炭素被膜の原料は水素と炭素の化合物である炭化水素ガス(CH、C、…)である。原料に水素を含むから生成された膜にも水素が含まれる。プラズマCVD法などによって作られる。成膜方法によってはガス原料を使わない場合もある。炭素固体を原料とする方法の場合は雰囲気ガスに水素含有ガスを用いる。
【0006】
水素を含む非晶質炭素被膜は、高硬度で平面平滑性に優れ、摩擦係数が低いといった優れた特徴を有する。SiやGeウエハなど半導体ウエハの表面には良好な薄膜を形成することができる。しかし半導体の絶縁膜としてはSiOやSiNなど優れたものが既にある。また半導体の絶縁膜には低摩擦係数や平滑性などは不要だから非晶質炭素被膜を使う必要性はない。
【0007】
水素を含む非晶質炭素被膜は耐摩耗性、低摩擦係数が要求される機械部品、金型、切削工具、摺動部品などへの応用が期待されている。これが非晶質炭素被膜のもっとも重要な用途であろう。一部には製品化されているものもある。
【0008】
水素を含む非晶質炭素被膜の形成法としては、メタン(CH)等の炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法や、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法などが用いられる。
【0009】
しかし水素を含む非晶質炭素被膜には根元的な難点がある。水素含有非晶質炭素被膜は基材との密着性に乏しいということである。軟鉄、鋼、ステンレスなど通常に機械部品材料として用いられる多くの金属の表面には水素を含む非晶質炭素被膜は密着しない。すぐに剥落してしまう。これが最大の問題である。結合の手を一つしか持たない水素が含まれるから基材との境界において結合を形成しにくいからであろう。そこで様々な密着性改善方法が提案されている。
【0010】
普通に非晶質炭素被膜というと炭化水素を原料としてプラズマCVD法で作られた水素を含む非晶質炭素被膜である。いちいち「水素を含む非晶質炭素被膜」というのはわずらわしい。以後「含水素炭素膜(或いはこれにBを付けて含水素炭素膜Bとする)」と呼ぶことにする。
【0011】
<A.無水素炭素膜> もう一つは水素を含まない炭素膜である。これは非晶質無水素炭素膜ということができる。一般的にDLC、カーボン硬質膜、a−C:H、i−Cは含水素炭素膜Bを表現している。水素を含まない非晶質炭素被膜は、炭化水素ガスではなくて固体炭素を原料として作製する。
【0012】
歴史的には炭素を原料として電子ビーム蒸着法などで薄膜形成する、ダイヤモンド薄膜の生成を目的にした研究の方が古い。ダイヤモンドの人工合成法の一つとして期待された。しかし結晶質のグラファイト膜ができたり粒子の荒いアモルファス膜(非晶質)とグラファイトの混合膜ができたりして長らく成功しなかった。基板を低温にすることによって非晶質炭素膜にすることはできたが、なお根本的な難点があった。
【0013】
非晶質膜であって炭素だけだから基材との密着性は良いのであるが表面が荒い。粗面化するので使いものにはならない。どうして粗面化するのか?それは次のような理由による。
【0014】
炭素、シリコン、Geなど4族元素に共通のことであるが、単体原料を電子ビームなどで蒸発させ低温基材に蒸着させると非晶質にはなる。しかし強固な共有結合をもつ4族元素は単体原子(イオン)となって飛ぶだけではなく、原子団(ドロプレット)になって飛ぶから膜内部に原子団の塊をボツリボツリと形成するようになる。塊で飛び塊で基材に付くから膜表面がザラザラになってしまう。4本の結合を持つので4族非晶質薄膜は基材との密着性は良い。しかしそれが裏目に出て薄膜になったときは凹凸隆起の多い粗面を形成するようになる。もしも摺動部材として使うとたちまちの内に相手材を傷付け摩損摩耗してしまう。とてもそのままでは使えない。あえて使用したいなら研磨する必要がある。しかし極めて硬いので研磨は難しい。
【0015】
だから水素を含まない非晶質炭素被膜は、表面平滑、低摩擦係数、耐摩耗性というような通常非晶質炭素被膜について言われるような性質を持たないのである。ただ高硬度ということは言える。しかし高硬度であっても粗面化していれば何にもならない。かえって研磨に手間がかかるだけで実際的な利益はない。つまり役に立たない。だから水素を含まない非晶質炭素被膜はいまだに確たる用途を持たない。工具や機械部品の被覆として実用化された実績もない。だから非晶質炭素被膜の一種であるが忘れられた存在であり、通常に非晶質炭素被膜というと、当業者は水素を含む含水素炭素膜を想起する。
【0016】
非晶質炭素被膜には密着性のないのが欠点だというが、それは水素を含む炭素膜Bのことであって、水素を含まない非晶質炭素被膜Aは充分な密着性を備えているのである。水素を含まない非晶質炭素被膜といちいち言うのは冗長である。以後「無水素炭素膜(或いはAを付けて無水素炭素膜A)」と呼ぶことにする。
【0017】
水素を含む非晶質炭素被膜BがプラズマCVD法で生成できるようになったあと、炭素だけの使いものになる非晶質炭素被膜Aを作製する技術が発明された。それは後に詳しく述べるフィルタードカソード法によるものである。表1に含水素炭素膜Bと無水素炭素膜Aの特性を一覧にして示す。
【0018】
【表1】
Figure 0004793531
【0019】
<M.金属膜> 本発明において金属膜を介在させることがある。多様な金属を用いるが、金属膜をMによって表現することにする。
【0020】
<S.基材> 被膜を形成する基礎となる部材を基材という。工具や機械部品などが基材になる。基材を簡単にSによって表現することにする。そして層の構造は表面を左に基材を右にするような表記法によって示す。
【0021】
【従来の技術】
水素を含む非晶質炭素被膜の密着性改善のためになされる一般的な手法として、基材と水素を含む非晶質炭素被膜との間に、様々な中間層を形成する方法が従来から試みられている。Si、Geとは密着性が良いからSiやGeあるいはSiC、GeCなどの中間層が試みられ、それなりに成功している。実に多くの種類の金属、半金属、化合物の中間層が提案され枚挙に暇がない。きりがないのでここでは一つだけ従来例を挙げる。
【0022】
▲1▼特開昭64−79372号「カーボン硬質膜の被覆方法」は、基材上に気相合成法によって炭化チタニウム(TiC)からなる中間層を被覆した後、気相合成法により、非晶質炭素被膜を形成する方法を提案した。この非晶質炭素被膜というのはもちろん含水素炭素膜Bのことである。表面側から順に含水素炭素膜B−金属膜M−基材Sという構造をもっている。これを簡単に、BMSと書く事にする。この構造をもつものは多い。
【0023】
▲2▼特開平5−202477号「硬質炭素膜とその製造方法」は、非晶質炭素被膜の硬度を膜厚方向に変化させる方法を提案する。成膜の温度を低温から徐々に上げてゆく事によって炭素膜の硬度を低いものから高いものへと上げてゆく。硬度を徐々に上げることによって、被膜の応力を低減し、基材と被膜界面での応力の不整合を防止する。それによって、密着力を改善する。基板温度を常温一定とする従来法では1μm以下の膜厚のものしかできないが、基板温度を常温から連続的に600℃まで上げつつ成膜すると30μmもの膜厚の非晶質炭素被膜が得られると述べている。これももちろん含水素炭素膜Bのことである。これは簡単にBbSというように書く事ができよう。bは低硬度の含水素炭素膜、Bは高硬度の含水素炭素膜のことである。
【0024】
▲3▼特開2000−128516「低磨耗性と優れた密着性を有する複合ダイヤモンドライクカーボン皮膜」は、ピストンリング(基材)表面に、水素を含まないDLC層(無水素炭素膜A)をフィルタードカソード方式の真空アーク蒸着法により形成しそのまま製品とするか、あるいは無水素炭素膜Aを設け、その上に水素を含むDLC層(含水素炭素膜B)をプラズマCVD法によって形成する。あるいはピストンリングの上にW膜を付け、その上に無水素炭素膜Aを形成し、更にその上に含水素炭素膜Bを形成するといっている。先述の表記では、AS、BASあるいはBAMSである。これが無水素炭素膜Aを実際に応用した最初の発明と思われる。
【0025】
本発明の先行技術として最も近いものである。それゆえ詳しく説明する。従来例として含水素炭素膜Aを被覆したピストンリングは提案されているが密着性が不十分で被膜が剥離してしまうので普及しないと述べている。噴射ポンプ弁座(基材)に、TiN、TiC、TiBなどを中間層として被覆し、その上にプラズマCVD法によって含水素炭素膜Bを形成したものも提案されているが、これも剥離して不十分だと言っている。
【0026】
そこで基材の上に、真空アーク蒸着法によって無水素炭素膜Aを形成し、その上にプラズマCVD法によって含水素炭素膜Bを形成するという非晶質炭素二重被膜構造を初めて提案した。無水素炭素膜Aを中間層として提案した最初のものである。
水素を含まない非晶質炭素被膜Aという概念を明らかにしている。また水素を含まない非晶質炭素被膜Aを製造する方法(フィルタードカソード法)をも提案している。斬新な着眼である。実施例に示された層構造は表2の通りである。
【0027】
【表2】
Figure 0004793531
【0028】
ここで注意すべきことがいくつかある。
1.一つは中間層2とした無水素炭素膜Aの膜厚が0.8μmというように厚いことである。無水素炭素膜Aは真空アーク放電+フィルタードカソード法によって形成するがこれは生産性の低い方法でこのように厚い無水素炭素膜Aを形成するには時間がかかる。
【0029】
2.もう一つは反対に含水素炭素膜Bが1μmであって薄すぎるということである。摺動特性に優れ低摩擦係数、平滑性に優れた硬質膜であるからもっと厚く付ける方が良いと思われる。
【0030】
3.さらに含水素炭素膜Bの水素含有量が、0.17〜0.34at.%という低い値である。このように水素含有量が低いと表面平滑性や低摩擦係数性という点で問題があろうと推測される。
【0031】
4.無水素炭素膜Aは原子団(ドロプレット)となって飛ぶから薄膜形成するとボコボコに粗面化するものであるが、これを避けるためフィルタードカソード法という新規で巧妙な手法を編み出している。
【0032】
【発明が解決しようとする課題】
2以上の金属部材の摺動部分の潤滑性を高めるために、潤滑油が接触面に与えられる。例えばジチオリン酸(ZnDTP)を添加した潤滑油が用いられる。これはZn、Pを含んだ潤滑油であって鉄などの部材の表面に薄い潤滑油の膜を生成して、実効的な摩擦係数を下げる作用がある。それは鉄などの表面にZn、Pなどの元素が吸着されることによって潤滑油膜が鉄を覆うようになり、鉄どうしが接触しないようになるからである。
【0033】
鉄はしかし硬度や耐摩耗性などにおいて問題がある。硬度を増すために非晶質炭素被膜によって鉄を覆うという試みがなされる。非晶質炭素被膜で鉄などの金属を覆う場合いくつかの問題がある。一つは密着性である。非晶質炭素被膜を鉄などに付けた場合密着性不十分で剥離し易い。
【0034】
もう一つの問題は潤滑油を用いた場合である。鉄と違って、炭素(C)にはZnやPを吸着する能力がない。ためにZn、Pを添加した潤滑油が炭素被膜の上に薄い保護膜を形成できない。ため炭素被覆部材が潤滑油を突き破って直接に接触し相互の部材を傷付ける。だから潤滑油下では非晶質炭素被膜を摩擦させると摩擦係数は低下せず、表面摩損を甚だしくする。このような問題は本発明者が初めて見出したものである。密着性の問題については先行技術があるから、これについて述べる。潤滑油下での摩擦係数増大の問題については先行技術を発見できなかったのでそれについては述べない。
【0035】
[先行技術▲1▼、▲2▼の問題点]
先行技術として説明したもののうち、▲1▼特開昭64−79372号、▲2▼特開平5−202477号は含水素炭素膜Bを基材に被覆するものである。これらはBMS、BbS構造をもち、無水素炭素膜Aを全く含まない。非常に高い面圧下で使用される機械部品や、切削工具、金型、あるいは乾式で用いられる摺動部品などに対して密着性が不十分である。だから繰り返し使用によって含水素炭素膜Bが剥離する。高い面圧で使われる機械部品、金型、摺動部品には使えない。
【0036】
[先行技術▲3▼の問題点]
炭素を含まないDLC層を中間層とする▲3▼の方法についてはすでに幾つかの疑問点を述べた。無水素炭素膜Aが0.8μmもあって厚すぎる、含水素炭素膜Bが1μmであって薄すぎる、含水素炭素膜Bの水素量が0.17〜0.34at.%で低すぎるということである。
【0037】
何といっても▲3▼の最大の功績はフィルタードカソード方式の真空アーク蒸着法を用いているということである。原子団塊として飛び付着し粗面化しやすい無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法によって平滑面として形成している。フィルタードカソード法という新規な手法により無水素炭素膜Aの欠点を解決している。ピストンリングの場合は、無水素炭素膜Aを表面とすることができると述べている。それほど無水素炭素膜Aの表面が平坦平滑で低摩擦係数だからである。
【0038】
フィルタードカソード法はしかし成膜面積が狭く(膜厚偏在)、成膜速度が遅いという欠点がある。だから生産性が低く量産に向かないという難点がある。さらに含水素炭素膜Bが薄い(1μm)し水素含有量が低い(0.17〜0.34at.%)ので摩擦係数(0.2)が十分に低くならない。また平滑性でも問題がある。特にエンジンオイル雰囲気での摩擦係数の低減が不十分である。
【0039】
[フィルタードカソード法]
真空アーク放電+フィルタードカソードによって無水素炭素膜Aを平坦面に形成したのは▲3▼の功績である。巧妙な手法であるが効率悪く時間の掛かる方法で高コストを招く。常套の手法でなく新規な方法であるから▲3▼に現れたフィルタードカソード法を説明する。従来例▲3▼の図4に▲3▼のフィルタードカソードを有する装置の図を示している。
【0040】
真空チャンバ内部にサセプタを設け基材を取り付ける。これと離れて直角の方向にイオンソースを設ける。イオンソースはカソードとして固体炭素をのものを用いる。カソードの前方にサセプタはなく、サセプタの前方にカソードがない。リング状アノードを固体炭素(カソード)より前方に離れた部分に設ける。固体炭素カソードの前にイグニッション(点火装置)を設ける。アノードとサセプタの方向は90度ねじれている。アノードとサセプタの間の1/4円周にそって半径Rの1/4円弧形状に湾曲した筒状のマクロパーティクルフィルターを設ける。マクロパーティクルフィルターの周りにはマグネットコイルを幾つも設ける。コイルに直流を流して円弧状彎曲路にそった静磁場を発生させるようになっている。質量分離コイルのように扇形磁石によって円弧状彎曲路に直交する磁場を発生させるのではない。
【0041】
イグニッションとカソードの間に直流電圧をかけてアーク放電を起こす。アーク放電によって固体炭素が溶融し蒸発する。蒸発したものは中性であるが共有結合が強いから炭素原子までに分離しないで中性原子団となる。アノードとカソードの間に直流電圧がかかっており、アーク放電も存在する。アーク放電のために中性原子団のごく一部が単独原子の炭素イオンCあるいは数個の原子のイオンC 、…になる。中性原子団は磁場の影響を受けず直進するから中心角90度の円弧状彎曲路を通過できない。壁に当たって壁に付く。
【0042】
単独原子の炭素イオンCだけが円弧状彎曲路の彎曲に沿う静磁場によって運ばれて90度曲がりサセプタの上の基材の上まで飛ぶ。これが低温(常温)の基材に当たり電荷を失って基材上に順次堆積する。単独原子になっているから、これが基材上につもると団塊にならず平滑平坦面になる。無水素炭素膜Aを平坦に堆積させる巧みな手法である。無水素炭素膜Aだから密着性は良い。
【0043】
円弧状彎曲路はアノードからの長さをsとしアノードを原点としたxyz座標系で
【0044】
x=Rsin(s/R) (1)
y=R{1−cos(s/R)} (2)
(0≦s≦πR/2)
【0045】
となる。s=0はアノードの彎曲路入口、s=πR/2は彎曲路出口である。彎曲路を囲むコイルが作る静磁場は、質量分離(Bx=0、By=0、Bz=const)とは違って、彎曲に沿っており、
【0046】
Bx=Bcos(s/R) (3)
By=Bsin(s/R) (4)
Bz=0 (5)
【0047】
である。経路にそっていることは、
【0048】
Bxdy=Bydx (6)
【0049】
が成り立つことからわかる。荷電粒子は磁力線に巻き付きながらサイクロトロン運動する。Cイオンは磁力線の回りを螺旋運動し彎曲を辿りながらsの方向に進む。螺旋運動と彎曲運動の2重の回転をしながら炭素イオンCが彎曲路を通り抜ける。中性原子団や中性の単独原子は電荷がないから彎曲を通過できない。団塊のイオンC があったとしても質量に比べ磁場のかかりが弱いから壁に衝突する。単体のイオンCだけが彎曲を通過できる。Cだけを選択通過させる作用がある。だからマクロパーティクルフィルターというのである。
【0050】
以上に述べたものは幾何学的な条件にすぎない。運動学的にはそれ以上の条件が必要であることが分かる。通常のBzによる質量分離よりも複雑な運動条件となる。炭素イオンの質量をM、電荷をq、円周方向の速度(主速度)をw(ds/dt=w)、円周からずれる方向の速度をvとする。円周からずれる方向の速度vを、サイクロトロン周波数Ωで割ったものが螺旋運動の半径rを与える。
【0051】
Ω=qB/M (7)
【0052】
螺旋運動の半径rは
【0053】
rΩ=v (8)
【0054】
である。アーク放電によって固体炭素から炭素イオンが生成されるから揺らぎ方向の速度vをもつが、これは一定値でなく確率変数である。円周方向の速度wはアノード・カソード間の電圧によって与えられるが一義的には決まらない。円弧状彎曲路の内径をρとすると、
【0055】
r<ρ (9)
【0056】
でなければ、炭素イオンは彎曲路を通過できず壁に当たってしまう。Ωをある程度大きくしなければならない。Ωが大きいためには磁束密度Bを大きくし質量Mを小さくしなければならない。vが確率変数なのでvの有効最大値に対して式(9)を満たすようにΩを決める必要がある。それだけでなく、運動学的に遠心力より磁場のファラディ力が優越するという条件も課される。
【0057】
Mw/R<Bqv (10)
【0058】
これが運動学的条件である。円周螺旋と直交する速度vが確率変数であることがフィルタードカソードの運動の解析を確率的なものにする。このような様々の条件を満たすものが彎曲路を通過して基材に到達できる。このような条件を満足するためには、円周方向の磁束密度Bがかなり大きくて、炭素イオン質量Mが小さく、円周方向の速度wが小さくて、確率変数速度vがかなり大きいということが必要である。これらは極めて厳しい条件を炭素イオンに課す事になる。
【0059】
アーク放電によって固体炭素が、中性原子団と原子団イオン、単体イオンなどになる。アーク放電自体はイオン化の作用をあまり持たないから中性原子団Cが最も多い。これらは無駄になる。複数の炭素原子のイオンC は上述の条件を満たすことができないからやはり壁にぶつかって浪費される。単体イオンCも全てが有効ということではなくて、vが大きくwが小さいという条件がいる。vはv=0が可能な確率変数だから、上の条件を満たさないものもある。
【0060】
ということは、アーク放電によって炭素の気体が生成されても、その内の極極僅かな部分しか基材まで到達できないということである。つまり成膜の速度が遅い。炭素材料の殆どが浪費される。アーク放電を強めても基材での成膜速度をなかなか上げることができない。本質的に生産性の悪い手法である。材料消耗の激しい高コスト方法である。よほど高額の商品にしか適用することができない。
【0061】
それだけではない。磁力線にまといついて螺旋運動して折角基材まで到達した炭素イオンCが基材面上で一様でない、という欠点もある。円弧状彎曲路の半径をρとして、円弧状中心軸線からの距離rが小さいものは磁力線随伴螺旋の条件を満足して壁にぶつからないが、rが大きいと同じvでも管壁にぶつかってしまう。だから円弧状彎曲路を出てきた炭素イオンCはガウス分布で近似すると中心に(r=0)極大をもち標準偏差σのごく小さい分布となる。
【0062】
つまり基材の中心部だけに無水素炭素膜Aの厚い層ができ周辺部は薄い層になってしまう。円弧状磁束密度Bの作用によってイオンを円弧にそったサイクロトロン運動をさせて基材まで運ぶという複雑なことをしているからこのような中心偏在の分布になってしまうのである。特に式(10)が確率変数に依存した輸送の困難性を物語っている。
【0063】
従来例▲3▼が、時間を掛けて800nmもの極めて厚い無水素炭素膜Aを形成している理由はここにある。フィルタードカソードによると中心部と周辺部の厚みの差が大きいから周辺部の全体を無水素炭素膜Aで覆うためには中心部厚さを800nmといった極めて厚大なものにしなければならないのである。
【0064】
低生産性、膜厚偏在というフィルタードカソードの欠点を述べた。無水素炭素膜Aを機械部品、工具、金型など大型の被処理物に被覆するためにフィルタードカソード法を使うのは望ましくない。フィルタードカソードを使わずに無水素炭素膜A層を形成できるのでなければ無水素炭素膜Aを有効に利用することはできない。
【0065】
潤滑油下で摩擦係数を低減でき、高密着性、高硬度、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を提供することが本発明の第1の目的である。低コストで量産性に富んだ、潤滑油下で摩擦係数を低減でき、高密着性、高硬度、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜の製造方法を提供することが本発明の第2の目的である。潤滑油下で摩擦係数を低減でき、高密着性、高硬度、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を有する工具、機械部品、金型を提供することが本発明の第3の目的である。
【0066】
【課題を解決するための手段】
[1.BAS構造(図1)]
本発明の第1の非晶質炭素被膜は、図1に示すように基材Sの上に0.5nm〜300nmの薄い無水素炭素膜Aを形成し、その上に5at.%〜50at.%の水素と、0.01〜35at.%の摩擦係数低減用金属を含み、厚みが無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の厚みを持つ含水素炭素膜Bを設けたものである。前述の表現ではBAS構造である。無水素炭素膜Aはフィルタードカソードを使わない真空アーク蒸着法或いはスパッタリング法で形成する。含水素炭素膜BはCVD法、スパッタリング法或いは真空アーク蒸着法で形成する。
【0067】
【表3】
Figure 0004793531
【0068】
[2.BAMS構造(図2)]
本発明の第2の非晶質炭素被膜は、基材Sの上に、0.5nm〜30nmのV、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内の一種以上の金属元素層あるいはその元素の炭化物層を設け、その上に0.5nm〜300nmの薄い無水素炭素膜Aを形成し、その上に5at.%〜50at.%の水素と、0.01〜35at.%の摩擦係数低減用金属を含み、厚みが無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の厚みを持つ含水素炭素膜Bを設けたものである。前述の表現ではBAMSとなる構造である。無水素炭素膜Aはフィルタードカソードを使わない真空アーク蒸着法或いはスパッタリング法で形成する。含水素炭素膜Bはスパッタリング法、CVD法或いは真空アーク蒸着法で形成する。金属元素層・炭化物層もイオンプレーティング法、真空アーク蒸着法、スパッタリング法の何れかによって形成する。
【0069】
【表4】
Figure 0004793531
【0070】
本発明者は、成膜速度が遅く量産性に乏しいフィルタードカソードを用いなくても、無水素炭素膜Aを非常に薄く形成することによって凹凸は低くなり粗面化の問題を回避できることに気付いた。0.5nm〜300nmの極薄い無水素炭素膜Aを基材の上、あるいは基材上の金属層(炭化物層)の上に形成するようにする。さらに、薄い無水素炭素膜Aの上にそれより2倍以上厚い含水素炭素膜Bを設けることにより無水素炭素膜Aの粗面凹凸の影響が表面に現れないようにできるということも分かった。含水素炭素膜Bに、5〜50at.%の水素と0.01〜35at.%の摩擦係数低減金属(=V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Si)を添加すると潤滑油下で低摩擦係数であって高硬度、高平滑で摺動特性に優れた被膜が得られる。
【0071】
無水素炭素膜Aは基材Sとも金属層M、含水素炭素膜Bとも密着できる。これによって含水素炭素膜Bの剥離を防止できる。含水素炭素膜Bによって高硬度、低摩擦係数、潤滑性の優れた被膜が得られる。密着性向上という無水素炭素膜Aの特性と、低摩擦係数、潤滑性という含水素炭素膜Bの特性が相補的に働いて、密着性、高硬度、低摩擦係数、高潤滑性の非晶質炭素被膜となる。
【0072】
また、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの中から選ばれたすくなくとも一種の元素或いはその炭化物からなる0.5nm〜30nmの層を基材上に形成し、その上に無水素炭素膜Aと含水素炭素膜Bを形成すると、非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の密着性をさらに向上できるということも見出した。これら炭化物は化学量論比を有している必要はない。
【0073】
密着性増強のため基材のすぐ上に被覆される密着用金属(=V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb)と、潤滑油下で摩擦係数を下げるための摩擦係数低減金属(=V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Si)を混同してはならない。密着用金属は被膜M全体がその元素(と炭素)だけを含む。摩擦係数低減金属は最上層の含水素炭素膜Bに分散したものである。共通する元素もあるがそうでないものもある。
【0074】
【表5】
Figure 0004793531
【0075】
【発明の実施の形態】
本発明の非晶質炭素被膜(BAS、BAMS)は、基材S上に0.5nm〜30nmの金属膜を設けるか、或いは金属膜なしで基体Sの上に0.5nm〜300nm厚みの無水素炭素膜Aをフィルタードカソードを使わない方法で形成し、その上に水素を5at.%〜50at.%、摩擦係数低減用金属を0.01〜35at.%含有し膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の含水素炭素膜Bを設けてなる。
基体S、無水素炭素膜A、金属膜M、含水素炭素膜Bをこの順に説明する。
【0076】
[1.基体S]
低摩擦係数、耐摩耗性、潤滑性、高摺動特性が要求される金属、絶縁体などが基体となる。基体の形態を例示すると次のようである。
【0077】
ア.内燃機関の動弁系部品(シム、タペット、カム、シリンダライナー、ピストン)表面、燃料噴射ポンプのプランジャー。
イ.半導体製造装置の搬送部品(アーム、ガイド)
ウ.加工用金型内面
エ.工具…切削工具、バイトなど
【0078】
本発明で用いる基材の材質は金属、絶縁体など硬質の材料であれば何でも良い。
【0079】
オ.セラミック…窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素など
カ.鉄系合金…高速度鋼、ステンレス鋼、SKDなど
キ.アルミニウム合金
ク.鉄系焼結体
ケ.超硬合金…タングステンカーバイド(WC)
コ.ダイヤモンド焼結体
サ.立方晶窒化ホウ素焼結体
【0080】
[2.金属膜M]
基材Sの上に直接に無水素炭素膜Aを形成することもできるが、基体Sの上に金属膜、或いは金属炭化物膜を形成してその上に無水素炭素膜Aを設けることもできる。これは密着性高揚の為である。密着性増強用金属膜、金属炭化物膜の膜厚は0.5nm〜30nm程度である。
【0081】
ここで密着性増強用金属膜というのは、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの何れか1種以上のものを指す。炭化物というのはこれらの炭化物である。炭化物の組成比は化学量論比(Stoichiometric)である必要はない。金属層、金属炭化物層もアモルファスになるから化学量論比にならない方が多い。また組成比を求めることは難しいし組成比は大して重要でない。炭素中なので自然に一部は炭化物になる。だから金属層と金属炭化物層を区別する必要もない。
【0082】
[3.無水素炭素膜A]
基体Sの上に直接に、或いは金属膜Mの上に無水素炭素膜Aを設ける。無水素炭素膜A(水素原子を含有していない非晶質炭素被膜)というのは、成膜に単体炭素を用い被膜内部には、「不可避の水素」のみしか含まれない被膜を意味する。炭化水素ではなく炭素単体を原料とする。炭素固体を原料として雰囲気ガスとして水素を用いない。だから水素を含まない非晶質炭素被層となる。
【0083】
「不可避の水素」というのは次のようなものである。成膜を同一装置で繰り返すと、真空槽内壁および基板ホルダー、回転テーブルなどに炭化水素の分解物が付着する。これらの分解物が、無水素炭素膜Aを成膜しているときにエッチングされて、気体となり無水素炭素膜A内に混入する場合がある。このように生産上混入を避けることができない水素を「不可避の水素」という。
【0084】
このような不可避の水素は、その含有率が(=水素原子数/(水素原子数+炭素原子数))0以上5at.%未満である。真空槽内壁、装置の清掃などによって不可避水素を減らすようにするのが望ましいのは言うまでもない。注意すれば0.1at.%未満にすることは容易である。
【0085】
無水素炭素膜Aを基体Sの上に設けると薄くても密着性を格段に増強することができる。また薄い方が粗面にならず平坦に近くなる。無水素炭素膜Aを薄くすることによって粗面化を防ぐというのが本発明の着想の中心である。フィルタードカソード法を使わず炭素固体を蒸発させ中性炭素の形態で基体へ飛ばすとしても膜厚が薄い間は凹凸は低く平坦面に近い。膜厚が増えるに従って凹凸隆起陥没などの高低差が増加し粗面化が著しくなる。
【0086】
フィルタードカソードを用いず真空アーク蒸着法やスパッタリング法で中性炭素原子団の形態で飛ばしても膜厚が薄い場合無水素炭素膜Aの表面粗さは小さい。無水素炭素膜Aの表面粗さを低減するためは、無水素炭素膜Aの厚さは薄い方が望ましい。が、薄すぎると密着力が確保されない。0.5nmあれば基体全面に無水素炭素膜Aが付着し全面で密着性が増大する。厚く付ける必要はなく、無水素炭素膜Aの平坦性を得るためには薄い方がよい。フィルタードカソードを使わない方法で無水素炭素膜Aを形成した場合、膜厚が300nmを越えると粗面化が著しくなる事が分かった。
【0087】
300nmを越えるとやはりフィルタードカソードを用いないと平坦な無水素炭素膜Aは形成できないようである。中性炭素を飛ばす方法で無水素炭素膜Aを形成する場合、膜厚は100nm以下が望ましい。100nm〜300nmでも最上層の含水素炭素膜Bを厚くすると下地の凹凸が隠れるから使える。だから無水素炭素膜Aの膜厚の範囲は0.5nm〜300nmである。特に良いのは5nm〜100nmの膜厚範囲である。
【0088】
無水素炭素膜Aの形成には、フィルタードカソードのない真空アーク蒸着法、スパッタリング法を用いる。フィルターを有しない真空アーク蒸発源を用いると無水素炭素膜Aがより粗くなると思われようが薄ければそれほどでもない。無水素炭素膜Aを薄くすることによって実使用時に問題とならないレベルまで無水素炭素膜Aの粗さを低減することができる。
【0089】
無水素炭素膜Aはフィルタードカソードを使わないで形成するということが本発明のもう一つのポイントである。フィルタードカソードについては先ほど説明したので述べないが、無水素炭素膜A表面を粗面化させず平滑にできるという利点があるが、生産性低く原料の無駄が著しく経済性におとり膜厚不均一という欠点がある。本発明はそのような欠点とは無縁だということになる。
【0090】
[4.含水素炭素膜B]
無水素炭素膜Aの上には、金属ガスと炭化水素ガスを原料とするか、水素ガス雰囲気で固体炭素と金属を原料として5at.%〜50at.%の水素と、0.01at.%〜35at.%の摩擦係数低減用金属を含む含水素炭素膜Bを無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍の厚みに生成する。摩擦係数低減用金属を含む含水素炭素膜Bが最表面となる。摩擦係数低減金属というのは、V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Si等を意味する。
含水素炭素膜Bの厚みをdとして、無水素炭素膜Aの厚みをdとすると、
【0091】
2d ≦d ≦1000d
【0092】
とするが、表面に露出する含水素炭素膜Bが摩耗してしまうと凹凸のある無水素炭素膜Aが表面に出てしまい望ましくない。また無水素炭素膜Aには凹凸があるから、これを平均化するためにも厚い含水素炭素膜Bが必要である。それで無水素炭素膜Aの2倍以上としている。膜厚比は2〜1000とするが、無水素炭素膜Aが薄い場合は含水素炭素膜B膜厚を5倍以上にすることは容易である。従来例▲3▼は膜厚比は1/0.8=1.25となっていた。フィルタードカソードを使って平坦平滑な無水素炭素膜Aを作っているからそのような事が可能なのであろう。
【0093】
最表面とは摩耗のない場合は製造時に最外面となった面である。しかし摩耗する場合は固定的でない。例えば摺動部品として用いた場合、表面から次第に摩耗する。摩耗によって表面に露呈した部分が最表面である。被膜と相手材が接触している部分である。何らかの目的で、生産時に含水素炭素膜Bの上に他の材料を被覆したとすると生産直後は他材料被膜が最表面となる。しかし摺動によってこの被膜が摩耗し含水素炭素膜Bが露呈してくると含水素炭素膜Bが最表面層となる。
【0094】
水素を含む被膜形成には、炭化水素(C)を雰囲気ガスとして用いたCVD法、炭素を原料、炭化水素ガスを雰囲気とするスパッタリング法、真空アーク蒸着法が利用される。特にスパッタリング法、真空アーク蒸着法はさらに水素比率を制御でき摩擦係数を低減できるので望ましい。
含水素炭素膜Bに0.01at.%〜35at.%含まれる摩擦係数低減用金属は最表面にあって、潤滑油の中のZnやPを吸着し、含水素炭素膜Bの周りに潤滑油の薄い被膜を形成する。つまり従来の鉄部品と同様に、含水素炭素膜Bに含まれる金属がZnやPを吸着して潤滑油膜を形成する。それによって潤滑油下での摩擦係数を低減することができる。潤滑油膜を形成するのはどのような金属でも良いということでなく先述の元素(V、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Si)に限られる。金属の比率を高めると潤滑油下での摩擦係数をより低くすることができる。
【0095】
最上層の含水素炭素膜Bは、その水素含有率(水素原子数/(水素原子数+炭素原子数))が5at.%以上50at.%以下という範囲にする。このように大量の水素原子を含むことによって、従来法(従来例▲3▼は水素比率が0.17〜0.34at.%で、最小摩擦係数は0.2)よりもさらに平滑性を高め、面粗度を下げ、摩擦係数を低減する事ができる。スパッタリングや真空アーク蒸着法は、固体金属、固体炭素を原料として炭化水素ガス、水素ガスを雰囲気ガスとし、CVD法は炭化水素ガス、金属含有ガスを原料として、本発明の高い水素含有率(5at.%〜50at.%)の含水素炭素膜Bを容易に作成できる。
【0096】
含水素炭素膜Bの水素比率が高いと表面粗さが減り表面の平滑性が増える。水素比率が高いと含水素炭素膜Bの密着性が減少するのであるが、下地に無水素炭素膜Aがあるから密着性は十分である。無水素炭素膜Aの支えがあるから、含水素炭素膜Bの水素濃度をことさら高めることができるのである。
【0097】
水素濃度を高めることによって含水素炭素膜Bの表面粗さが減少し平滑性が増す。ために摺動時の相手攻撃性が減少する。また金属添加によって潤滑下での摩擦係数が低減できる。この点についてさらに付言しよう。最表面の含水素炭素膜Bにドープされた元素は非晶質炭素被膜の中で炭素と反応し結晶物質を形成していることもある。また金属クラスターとして、含水素炭素膜B内に完全に固溶している場合もある。
【0098】
例えばX線光電子分光法において、金属と炭素の結合エネルギーの位置にピークが観測されるが、X線回折計では回折ピークが観察されない場合は、金属は含水素炭素膜B内で固溶体を形成していると判断される。
【0099】
X線光電子分光法において金属と炭素の結合エネルギーの位置にピークが観測され、X線回折計でも何らかの回折ピークが観測されない場合は結晶質の化合物を形成していると判断される。
【0100】
またX線光電子分光法において金属同士の結合エネルギーの位置のみにピークが観測される場合、金属のクラスターとして存在していると判断される。
金属の含水素炭素膜Bでの存在状態はこれらの複合状態であることもある。
【0101】
含水素炭素膜Bに金属を添加することによって、潤滑油下での摩擦係数が小さくなる。摩擦係数が小さくなるのは、最表面の含水素炭素膜B中に分散した金属が潤滑油のZn、P等を吸着し、含水素炭素膜B表面に潤滑油膜を形成するからである。
【0102】
非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の被膜硬度は水素濃度によって広い範囲で変化する。一般にヌープ硬度で1000〜10000程度である。このような被膜硬さは、一般的に機械部品に使用されている材料よりも硬い場合が多い。従って摺動時には、被膜自身が摩耗されるよりも、相手材が摩耗する場合が多い。この場合、もし非晶質炭素被膜(含水素炭素膜B)の表面が粗いと相手材に食い込み易く相手材に摩耗を強いる。これは好ましくないことである。
【0103】
一方潤滑雰囲気において、オイル、水などの液体を潤滑剤として利用する場合、境界潤滑下では、油膜を突き破って相手材との固体接触が起こる。もしも被膜の表面粗さが大きいと油膜を突き破って固体接触する面積が大きくなり、結果的に潤滑剤がうまく働かず摩擦係数が高くなる。
【0104】
従来の含水素炭素膜Bは水素濃度が低く(▲3▼の場合は0.17at.%〜0.34at.%)粗面化しており非平滑、高摩擦係数という難点があったので相手材を摩損させるし潤滑下での摩擦係数がなお高かった。本発明は水素含有率を高め、金属を含ませることによって、平滑性を高め潤滑油下での摩擦係数を下げてその欠点を克服する。水素含有率を5at.%以上50at.%以下、金属を0.01at.%〜35at.%とすると空気中水分や潤滑油との親和性が上がり潤滑性が向上するのであろうと考えられる。
【0105】
[5.中間層M、無水素炭素膜A、含水素炭素膜B構造膜]
図1は本発明のBAS被膜構造を、図2は本発明のBAMS被膜構造を示す。基材Sの上に中間層(金属層、金属炭化物層)M、無水素炭素膜A、金属を含む含水素炭素膜Bを形成するものである(図2)。あるいは、基材Sの上に無水素炭素膜A、金属を含む含水素炭素膜Bを形成する(図1)。
【0106】
[6.非晶質炭素被膜を被覆した製品]
本発明の被膜を部品表面の少なくとも一部に形成した部材は、高負荷の摺動状態などでも安定した摺動特性を示す。
【0107】
具体的には内燃機関の動弁部品(シム、及びタペット、カム、シリンダライナー、ピストン)表面、燃料噴射ポンプのプランジャーに形成することができる。
【0108】
また、半導体製造装置の搬送部品(アーム、ガイド)に適用すれば摺動特性に優れ低摩擦であり摩耗が少なく、相手側を攻撃しない被膜が得られ円滑な動き、長い寿命が確保される。
【0109】
また加工用金型表面に被膜形成しても効果がある。樹脂用金型、ゴム成形金型は何度も何度も成形に利用されるから高い耐摩耗性がことさら要求されるがそのような要望に応えることができる。
【0110】
【実施例】
実施形態の概要を順を追って述べる。
[1.基材S]
基材には、JIS規格K10のタングステンカーバイド系超硬合金、SUS304、SCM415、SKD11を使用した。基材は表面を清浄にするために、アセトン中で超音波洗浄を10分以上行ったのちに真空槽内の基材ホルダーに装着した。
【0111】
[2.金属膜(金属炭化物膜)Mの形成]
この金属膜(炭化物)形成は省略することもできる。金属膜を形成する場合の工程を述べる。基材に対し、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの何れかの元素を原料としてそれら原子の被膜を形成する。
【0112】
あるいはV、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb元素イオンと雰囲気ガス(炭化水素を含む)を原料として化合物(金属炭化物)の被膜を形成する。
【0113】
金属層および化合物層の形成方法としては、イオンプレーティング法、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用いることができる。しかし実施例では、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用いた。
【0114】
雰囲気ガスとしては、H、He、N、NH、Ne、Ar、Kr、Xe、CH、C、C、C、CFを用いた。
【0115】
[3.無水素炭素膜Aの形成]
基材Sに直接に、金属膜M(炭化物膜を含む)を付ける場合は金属膜Mの上に、固体炭素を原料として、スパッタリング法、真空アーク蒸着法によって0.5nm〜300nmの無水素炭素膜Aを形成した。
【0116】
[4.含水素炭素膜Bの形成]
その後、CVD法、スパッタリング法、真空アーク蒸着法を用いて、炭素固体原料、金属原料からC、CHなどの炭化水素系ガスと不活性ガス雰囲気下で、無水素炭素膜Aの膜厚の2〜1000倍の膜厚で水素と金属を含んだ非晶質炭素層を形成した。摩擦係数低減金属はV、Cr、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pb、Siであり、含水素炭素膜B中に0.01at.%〜35at.%含まれるようにする。水素濃度は5at.%〜50at.%とする。金属ガス濃度や炭化水素ガス濃度を変化させることによって金属濃度、水素濃度を調整することができる。
【0117】
[5.膜厚測定]
膜厚は、被膜断面を二次電子顕微鏡または透過電子顕微鏡によって観察して求めた。基材直上の金属(金属化合物)層の膜厚は中間層、中間層膜厚として表に記載した。無水素炭素膜Aの膜厚も表中に記載した。含水素炭素膜Bの膜厚は直接には記さず、d/d比によって表している。無水素炭素膜Aの膜厚dに比率を掛けることによって膜厚dが分かる。
【0118】
[6.密着性の評価(ロックウエル剥離試験)]
被膜の基材に対する密着性は、ロックウエル剥離試験および打撃試験により評価した。ロックウエル剥離試験には、ロックウエルCスケール硬度測定用のダイヤモンド圧子を用い、試験荷重150kgf(1470N)で被膜表面から圧子を押し付けてできた圧痕の廻りの剥離状況を光学顕微鏡で観察した。測定は各試料につき5回行い、剥離面積の大小から5段階評価を行った。剥離なしというのを5とする。剥離面積が増加するにしたがって数字を小さくする。5、4が満足できる評価点である。2以下は密着性不十分である。
【0119】
[7.密着性の評価(打撃試験)]
打撃試験は、試料の被膜を形成した面に対し、直径1インチのタングステンカーバイド系超硬合金製球を用い仕事量10Jで200回打撃を与えた。打痕ができるので、打痕とその周辺の剥離状況を光学顕微鏡によって観察した。測定は各試料について5回行った。剥離面積の大小から5段階評価を行った。剥離なしを5とする。剥離面積が大きくなるにしたがって数字を小さくする。5、4が満足できる評価点である。2以下は密着性不十分である。
【0120】
[8.表面粗さの評価(Ra;μm)]
表面粗さRaは、東京精密社製SURFCOM570Aを用い、測定長さ0.4mm、CUTOFF値0.08mm、走査速度0.03mm/sで測定した。表の中ではμmを単位として示した。
【0121】
[9.摺動特性の評価]
摺動試験は、CSEM製ピンオンディスク試験機を用い、大気中、乾式、摺動半径4mm、回転数500rpm、荷重10N、総回転数20000回、相手材SUJ2ボール(φ6mm)の条件で試験した。試験後の相手材SUJ2ボールの摩耗痕を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察し、その摩耗直径(μm)を計測した。
【0122】
[10.摩擦係数の測定]
エンジン部品のカムの摺動面に、本発明の非晶質炭素層を形成し、モータリング試験を行った。回転数250rpm、セット荷重25kg、エンジンオイル潤滑、オイル温度80℃、オイル流量0.5cc/min、回転時間3時間として、摩擦係数を計測した。また試験後、相手材カムの表面粗さRa(μm)を測定した。
【0123】
具体的な実施例を以下に述べる。
[実施例1(イオンプレーティング法、RF励起CVD法、真空アーク蒸着法;図3)]
本発明の非晶質炭素被膜は、イオンプレーティング法、RF励起CVD法、真空アーク蒸着法を組み合わせて薄膜形成することによって製造することができる。図3にイオンプレーティング機構、RF励起CVD機構、真空アーク蒸発源を兼ね備えた装置を示す。真空チャンバ12の中央部にはイオンプレーテイング装置のための高周波コイル13がもうけてある。高周波電源14から高周波コイル13にRF電力(13.57MHz)を与えることができる。
【0124】
真空チャンバ12の下部には、るつぼ17があって固体原料18を収容する。るつぼ17の側方には電子銃16があり、これから熱電子が出て磁界によって曲げられ、るつぼ17の固体原料18をたたき加熱し蒸発させる。るつぼ17の上には開閉自在のシャッター26が設けられる。真空チャンバ12の上壁には、基材(試料)15を適数個並べて保持する基材ホルダー19(上部電極)が設けてある。基材ホルダー19は導体であるが真空チャンバ12とは絶縁されている。基材ホルダー19には高周波電源20から高周波電力が供給される。真空チャンバ12にはガス導入口25、ガス排気口24がある。
【0125】
上下に並んだ、るつぼ17、電子銃16、シャッター26、高周波コイル13、高周波電源14、基材ホルダー19はイオンプレーティング機構を構成する。電子銃から出た電子がるつぼ17内の固体原料18を電子ビーム加熱し蒸発させる。Arガスなどを導入した場合真空チャンバ12中央の高周波コイル13はガスを励起してプラズマにする。シャッター26を開くと蒸気が上りプラズマとの衝突で一部イオン化し加速されて基材ホルダー19の試料15へと飛翔し試料15表面に付着する。
【0126】
真空チャンバ12の側壁には真空アーク蒸発源21が設けてある。真空アーク蒸発源21には固体カーボン22を固定する。アーク電源23が真空アーク蒸発源21に接続される。アーク電源23によって固体原料22に負電圧がかかりチャンバとの間にアーク放電が発生する。アーク放電によって固体原料22が熱されて蒸発する。真空アーク蒸発源21、アーク電源23、基材ホルダー19が真空アーク蒸着装置である。雰囲気が真空ならば固体原料22と同じ材質の薄膜が基材(試料)15の上に形成される。雰囲気ガスが炭化水素を含むときは固体原料22の炭化物の薄膜が基材15の上に形成される。
【0127】
原料がガス状で、ガス導入口25から供給され、基材ホルダー19に高周波電圧が印加されると、真空チャンバ12にプラズマが点灯する。プラズマの存在によって基材ホルダー19はマイナスにバイアスされる。高周波によって原料ガスの一部がイオンになり一部が中性ラジカルになる。基材ホルダー19は負電圧になるから正イオンである原料原子が基材15に引き寄せられて付着堆積する。これがRF−CVD機構としての機能である。
【0128】
このように図3の装置は3種類の薄膜形成装置を複合化したものである。実施例1では、基材Sの上に金属膜M、無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bを乗せたBAMS構造のものと、金属膜MのないBAS構造のものを作る。それぞれの層の製造機構を次のように割り当てた。
【0129】
金属層M…イオンプレーティング(IP)法
無水素炭素膜A…真空アーク蒸着法
含水素炭素膜B…RF−CVD法
【0130】
本発明の非晶質炭素被膜は図3の装置で上記の順で形成される。実施例1においては試料1〜試料15の非晶質炭素被膜を次の手順で形成する。
【0131】
1.基材ホルダー19に基材15(試料)を取り付ける。
2.るつぼ17内に、金属層Mを形成するための固体原料18として、Ti、Cr、Zr、Fe、Co、Niを入れる。どれを入れるかは試料によって異なる。表中に中間層として材料を書いている。
【0132】
3.真空アーク蒸発源21の固体原料として炭素固体22を取り付ける。ここまでが準備段階である。
4.真空チャンバ12を閉じて、真空ポンプ(図示しない)によってガス排気口24からガスを吸引し、真空チャンバを0.002Pa(1.5×10−5Torr)まで真空に引く。
【0133】
5.イオンプレーティングによって金属を基材に被覆するため、ガス導入口25からArガスを導入し、真空チャンバ12が所定の圧力になるようにする。
【0134】
6.高周波電源14から、高周波コイル13に400W(13.57MHz)の高周波電力を投入する。Arのプラズマがコイル13の近傍に発生する。
7.基材ホルダー19に−600V〜−1000Vの負バイアスを印加する。
【0135】
8.電子銃16から電子ビームを発生させ磁場で曲げて、るつぼ17内の固体原料18に当て加熱溶融する。金属蒸気が発生する。
9.シャッター26を開き金属蒸気が上昇するようにする。蒸気は高周波コイル13近傍のArプラズマによってイオン化される。正イオンであるから加速され、負バイアスされた基材15の表面へ堅固な金属膜Mを生成する。
【0136】
10.イオンプレーティングはプラズマ状態の金属やArが基材15に衝突しつつ薄膜形成するようになっているから基材15の表面の酸化物層や汚れはエッチングされる。エッチングと薄膜形成が同時におこるので清浄表面に金属層(中間層)が堅固に形成されることになる。それがイオンプレーティングの良さである。中間層膜厚は0.5nm〜30nmとするが、実施例1では5nm〜20nmの範囲にある。
【0137】
11.真空チャンバ12を0.1Pa(7.6×10−4Torr)以下になるまで真空引きする。ここから無水素炭素膜A形成のステップになる。
【0138】
12.真空アーク蒸発源21のアーク電源に40Aの直流電流を流して固体炭素22とチャンバ壁の間にアーク放電をおこさせる。アーク放電による加熱で炭素が融けて蒸発する。Arなどとの衝突によって一部は炭素イオンCとなる。
【0139】
13.基材ホルダー19には、50Wの高周波電力を供給した。中間層形成のとき基材ホルダー19には負高電圧直流バイアスを掛けていたが、それとは違って今度は高周波電力、あるいは負パルス直流電力を与えるようにする。炭素蒸気、炭素イオンが基材15の上に堆積する。基材ホルダーの負バイアス(パルス、高周波)によって炭素イオンが強く引き付けられるから強く付着する。雰囲気に水素がないから無水素炭素膜Aができる。
【0140】
14.これからが最表面の金属添加含水素炭素膜Bの生成の工程となる。真空チャンバを真空排気する。
【0141】
15.真空チャンバ圧力が0.02〜0.3Paになるように、ガス導入口25から、CHガス、Arガス、TiClガス、トリメチルシランガスを導入する。摩擦係数低減金属としてTiを導入する場合は、TiClガスを、Siを導入する場合はトリメチルシランガスを導入する。その他の金属も化合物ガスの形態で真空チャンバへ導入できるが、実施例1では表面の含水素炭素膜Bに含ませる金属はTiとSiだけである。
【0142】
16.高周波電源20によって基材ホルダー19に600W〜1000Wの高周波電力を供給した。Arプラズマとの衝突によって炭化水素ガスが分解し非晶質炭素被膜が基材15の上に形成される。これには大量の水素とTi或いはSiが含まれる。TiClガス、トリメチルシランガスは、ガス全体の5vol.%〜20vol.%となるように添加し、生成された含水素炭素膜BにはSi、Tiの比率は5at.%〜20at.%の範囲となっていた。表6に実施例1にかかる試料1〜15の製造条件、膜組成、膜厚等を示す。
【0143】
【表6】
Figure 0004793531
【0144】
試料1〜12は金属の中間層を設けている。厚みの範囲は5nm〜20nmである。IPというのはイオンプレーティングということを示す。高周波コイルで高周波磁界を発生させArをプラズマ化し金属蒸気をこれによってイオン化させて基材へ加速しエッチングと膜形成を同時に行うイオンプレーティング法によっている。原料は固体の金属である。
【0145】
試料2、8はクロムCrを用いる。試料4、10は鉄Feを中間層とする。試料6、12はNiを飛ばして中間層とする。試料5、11はCoを、試料1、7はTiを、試料3、9はZrを中間層としている。試料1〜6は金属層M(中間層)膜厚を5nmとしている。試料7〜12は中間層膜厚を20nmとしている。試料13〜15は中間層がない。基材の上へ直接に無水素炭素膜Aを生成する。
【0146】
試料1〜15全てが無水素炭素膜A形成の手段として真空アーク蒸着法を用いている。実施例1は図3の装置で真空アーク蒸発源21を用いて無水素炭素膜Aを形成するようになっているから当然である。無水素炭素膜A膜厚は、試料1〜6、試料13は10nmである。試料7〜9の膜厚は20nmである。試料10〜12、14の無水素炭素膜A膜厚は100nmである。試料15は無水素炭素膜A膜厚が300nmで、これらの実施例1試料の中では最大である。何れも無水素炭素膜Aの条件0.5nm〜300nmの範囲に含まれる。
【0147】
含水素炭素膜Bの生成は全ての試料1〜15がRF−CVD法を用いて生成している。図3において、原料ガスが気体であって基材ホルダーのRF電力を印加することによってArプラズマが点灯し原料ガスを衝突励起して炭素、水素のイオンやラジカルとする。
【0148】
この方法は熱CVD法と違って基材を比較的低温に保持できるから非晶質膜生成に向いている。プラズマCVD法ということもあるがプラズマ励起手段によって、RF−CVDとかマイクロ波CVD法とかいって区別することもある。メタンを原料ガスとして使い、試料1〜15での含水素炭素膜Bの水素比率は40at.%である。かなり多くの水素を含むということである。
【0149】
含水素炭素膜Bは、無水素炭素膜Aより2〜1000倍の膜厚を持つようにする。ここでは膜厚そのものでなく、含水素炭素膜Bと無水素炭素膜Aの層比d/dによって含水素炭素膜B膜厚を示す。試料1〜6は無水素炭素膜Aの膜厚が10nmであり、層比が50であるから、含水素炭素膜B膜厚は500nmである。試料10〜12、14は層比が5であり、無水素炭素膜Aが100nmの膜厚をもつから、含水素炭素膜B膜厚は500nmである。
【0150】
試料7は無水素炭素膜Aが20nmで層比が17だから、含水素炭素膜B膜厚は340nmとなり、これらの中では最小の含水素炭素膜B膜厚である。
【0151】
試料15は層比が2であってこれは層比の下限である。含水素炭素膜B膜厚は600nmであり膜厚自体は最小でない。
【0152】
含水素炭素膜Bには摩擦係数低減用金属をガス原料から添加するようになっている。「B層への金属添加方法」を「ガス」としているのはそういう意味である。ここではTiを塩化チタンガスTiClで、Siをトリメチルシランガスの形態で導入している。試料4、5、6、10、11、12、14はチタンをドープし、それ以外はシリコンをドープしている。試料1、4、7、10の金属濃度は20at.%である。それ以外は5at.%〜10at.%の範囲である。
【0153】
水素が40at.%、金属が20at.%含まれると、炭素は40at.%に過ぎないことになる。非晶質であるからそのような比率であっても堅固で一様で平坦な構造を構成することができる。非晶質の利点である。
【0154】
【表7】
Figure 0004793531
【0155】
試料1〜7は密着性に関しロックウエル、打撃試験ともに評価4で満足できる。試料8〜15はロックウエル、打撃試験とも3点であるからやや劣るわけである。両者を比較すると、密着性を高めるため、無水素炭素膜Aや金属層Mはあった方が良いが薄い方が良いということが分かる。
【0156】
表面粗さRaは、試料7、8、9、10、11、12、14、15においてRa10nmを越える。それ以外ではRa10nm以下である。特に試料15ではRa265nmと粗面化傾向にある。面粗さに最も強い影響をもつのは無水素炭素膜Aの膜厚dだということがわかる。無水素炭素膜Aが10nmで薄いとRaは10nm以下に抑えられる。
【0157】
しかし無水素炭素膜Aが100nm(試料10、11、12、14)のように厚くなると、表面粗度Raは60〜80nmとなる。特に試料15は無水素炭素膜Aが300nmであるから、表面粗さRaが265nmとなっている。表面粗さRaというのは含水素炭素膜Bの上面のことであるが下地の無水素炭素膜Aの厚みと同程度のRaが出現することがわかる。つまり無水素炭素膜Aはなくてはならないが、Raを下げるという観点からは薄い方が良いということがわかる。
【0158】
ピンオンディスク相手材摩耗量は試料1〜14において400μm以下で満足できる。試料15は620μmでやや大きい。ピンオンディスク相手材摩耗量から考察しても無水素炭素膜Aは薄い方(10nm程度)が良いということがわかる。それを強く示唆するのは試料15である。無水素炭素膜Aが300nmであって厚いから粗度が大きく、ピンオンディスク相手材摩耗量も大きくなるのであろう。
【0159】
潤滑油中での摩擦係数の低減ということが本発明の主な目的であった。それは最表面の含水素炭素膜Bに含まれる金属によって効果的に低摩擦係数が実現される。試料1、2、3、13では摩擦係数が0.1以下になる。申し分のない低摩擦係数である。Siでもチタンでも効果があるがSiの方がやや優れているようである。無水素炭素膜Aや中間層Mの薄い方が良い。
【0160】
摩擦係数の大きいのは、試料15の0.22、試料10、11、12、14の0.16などである。無水素炭素膜Aが厚いと摩擦係数も増える傾向にある。無水素炭素膜Aは凹凸のある膜であるから膜厚とともに凹凸が増え、その影響が最表面の含水素炭素膜Bにも現れるのであろう。試料15は無水素炭素膜Aが300nmもあり厚いから摩擦係数が下がらないのであろう。
【0161】
実施例1の効果を確かめるため、実施例1とほぼ同様であるがいずれかの条件が外れている比較例1の試料16、17を作製した。表8に比較例1の試料16、17の生成の条件、組成、膜厚等を示す。表9に比較例1の試料16、17の密着性、表面粗さ等を示す。
【0162】
【表8】
Figure 0004793531
【表9】
Figure 0004793531
【0163】
比較例1の試料16は金属中間層Mがない。無水素炭素膜Aもない。基材Sに含水素炭素膜Bを直接にプラズマCVD法によって形成している。単純なBS構造である。含水素炭素膜Bは40at.%の水素と20at.%のチタンを含む。密着性評価はロックウエル、打撃とも1であって悪い。含水素炭素膜Bが基材Sから剥離したので表面粗さを測定できない。摩擦係数の測定もできなかった。密着性向上のために無水素炭素膜Aが不可欠であるということが分かる。
【0164】
比較例1の試料17は4nmのチタン中間層Mと、8nmの無水素炭素膜Aと、1000nmの含水素炭素膜B(水素濃度16at.%)を含む。これは最表面の含水素炭素膜Bに摩擦係数低減のための金属を含まない。密着性評価は3点でまあまあである。表面粗度は8nmと低く、ピンオンディスク相手材摩耗量も140μmで充分に小さい。
【0165】
摺動後の相手粗さも30nmであるから小さいものである。しかし潤滑油中での摩擦係数が0.25であってやや高すぎるという欠点がある。本発明は摩擦係数を評価の基準にしており、試料17は基準を満たさないということである。それは最表面含水素炭素膜Bに金属が含まれていないことに起因する。含水素炭素膜B中の金属の存在が重要だということがよく分かる。
【0166】
[実施例2(スパッタリング法、真空アーク蒸着法;図4)]
中間層(金属膜)M、無水素炭素膜A、金属を含む含水素炭素膜Bともにスパッタリング、真空アーク蒸着法によって作製することができる。図4に実施例2において使用したスパッタ蒸発源、真空アーク蒸発源を兼ね備えた装置を示す。
【0167】
真空槽(真空チャンバ)27に、それぞれ二つのスパッタ蒸発源28、29と真空アーク蒸発源8、9を設置している。これらは真空槽(真空チャンバ)27の4つの壁面に設けているから、これらの装置を交互に使用して真空槽から試料を出さずに連続的に被膜形成することができるようになっている。
【0168】
真空槽27の中央部には回転できるテーブル40がある。テーブル40の上に基材ホルダー39が設けられる。基材ホルダー39には適数の基材38が固定される。回転テーブル40には、パルス直流電源41が接続されている。
真空アーク蒸発源8、9は、アーク放電によって固体原料を溶かしてガス状にして基材へ飛ばし堆積させるようにする。ここでは固体原料は、炭素と金属である。真空アーク蒸発源8、9には直流電源32、33が接続してあり固体原料は負にバイアスされる。真空アーク蒸発源として、磁場の作用によりイオンを主に基材に到達させる機構を有する、フィルタードカソードと言われる蒸発源を用いない。
【0169】
スパッタ蒸発源28、29はガス分子をターゲット(原料)34、35に当てることによって原料34、35から原子を飛び出させ基材の上に飛ばし基材上に薄膜を堆積させる。スパッタ蒸発源28、29の原料固体34、35となるのも炭素固体と金属である。スパッタ蒸発源28、29には負電圧パルスを発生するパルス直流電源30、31を接続してある。
【0170】
第1スパッタ蒸発源28には、固体カーボン34がセットしてある。第2スパッタ蒸発源29には、第1金属35がセットしてある。中間層Mを形成するための金属である。第1金属35としては、Cr、Zr、V、Mo、W、Pd、Al、Pt、Ta、Nbを用いた。
【0171】
第1真空アーク蒸発源8には固体カーボン36が、第2真空アーク蒸発源9には第2金属37がセットしてある。第2金属も中間層形成用の金属である。第1金属と第2金属は相補的(択一的)に使用される。第2金属37として、Ti、V、Cr、Zr、Ptを用いた。
【0172】
第1金属、第2金属の切り分けは、真空アーク蒸着法に向く金属、スパッタリングに適する金属ということで分けている。これ以外の金属でもいずれかの方法で飛ばすようにできる。
【0173】
ガスは真空排気装置によってガス排気口42より排気される。ガス導入口43より、Ar、CH、Cなどの雰囲気ガスを導入することができる。
【0174】
上記装置での、被膜の形成方法を述べる。
1.回転テーブルに40に基材ホルダー39、基材38をセットする。
【0175】
2.装置内が0.002Pa以下になるようガス排気口42から真空排気する。
【0176】
3.初めに金属層またはその金属層の化合物(炭化物)を中間層Mとして基材Sの上に形成する。第2スパッタ蒸発源29を用いても良いし、第2真空アーク蒸発源9を用いてもよい。
【0177】
4.第2スパッタ蒸発源29を用いて第1金属35(Cr、Zr、V、Mo、W、Pd、Al、Pt、Ta、Nb)の金属層または金属の化合物を形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転し基材ホルダー39、基材38が第2スパッタ蒸発源29を向くようにする(図4の位置)。
【0178】
4a.金属層を形成する場合は真空かArガス雰囲気で行う。
【0179】
4b.金属の化合物層を形成する場合は雰囲気ガスとしてArとCを同時にガス導入口43より導入する。化合物層を形成する場合はArとCの比(C/Ar)は0.1〜0.6である。
【0180】
5.いずれの場合でも真空槽内の圧力が0.1Pa〜1.0Pa(7.6×10−5〜7.6×10−4Torr)になるようにする。このとき回転テーブル40には−50V〜−1500Vの直流電圧を印加する。
【0181】
6.スパッタ蒸発源29に500W〜1000Wのパルス直流電力を印加し、金属35をスパッタリングし、基材上に第1金属(Cr、Zr、V、Mo、W、Pd、Al、Pt、Ta、Nb)の金属層、または化合物層(炭化物)を形成する。
【0182】
7.真空アーク蒸発源9を用いて第2金属(Ti、V、Cr、Zr、Pt)層、その化合物層を形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転して基材ホルダー39、基材38が第2真空アーク蒸発源9に対向するようにする。
【0183】
7a.金属層(Ti、V、Cr、Zr、Pt)を形成する場合は、真空またはAr雰囲気とする。
7b.これら金属(Ti、V、Cr、Zr、Pt)の化合物層を形成する場合はArとCを同時にガス導入口43より導入する。化合物層を形成する場合、ArとCの比(=C/Ar)は0.01〜0.2である。
【0184】
8.何れの場合でも真空槽内の圧力は0.1Pa〜1.0Paとなるようにする。
このとき回転テーブル40には、−400V〜−1500Vの直流電圧を印加する。
【0185】
9.その後、第2真空アーク蒸発源9の金属37に電圧をかけ、アーク放電をおこさせる。アーク放電は金属原料37とチャンバ壁の間にかかった直流電圧によって起こる。アークが形成されたあとの電流を60Aとする。アーク放電によって加熱された金属が蒸発する。雰囲気ガスが原料に当たり金属蒸気の一部をイオン化する。金属蒸気を堆積させることによって基材38上に、金属層(Ti、V、Cr、Zr、Pt)、またはそれら金属の化合物層を形成する。
【0186】
10.これらの処理を施した後、固体炭素を原料として水素を含まない非晶質炭素層の形成を行う。第1スパッタ蒸発源28を用いても第1真空アーク蒸発源8を用いてもよい。
【0187】
11.第1スパッタ蒸発源28を用いて非晶質炭素層を形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転させ基材ホルダー39、基材38が第1スパッタ蒸発源28に対向するようにする。雰囲気ガスとして、Arをガス導入口より導入し、真空槽27が0.1〜1.0Paの圧力になるようにする。このとき回転テーブルには、−50V〜−600Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は100kHzである。
【0188】
12.第1スパッタ蒸発源28に、500〜1000Wのパルス直流電力を印加し、固体カーボン34をスパッタリングし、基材38上の金属層または化合物層の上に水素を含まない非晶質炭素層(無水素炭素膜A)を形成する。
【0189】
13.金属層または化合物層を形成しないで、基材に直接的に水素を含まない非晶質炭素層を形成する場合もある。
【0190】
14.第1真空アーク蒸発源8を用いて水素を含まない非晶質炭素層(無水素炭素膜A)を形成する場合は次のようにする。真空中のままか、或いは雰囲気ガスとしてArをガス導入口43より導入し、真空槽27が0.03Pa〜0.5Paの圧力になるようにする。回転テーブル40には−50V〜−500Vの直流電圧を印加する。
【0191】
15.第1真空アーク蒸発源8の固体カーボン36に電圧をかけアーク放電を起こす。アーク電流として60Aの直流電流を印加し、固体カーボン36を蒸発させ、基材上に形成された金属層、化合物層の上に無水素炭素膜Aを形成する。
【0192】
16.上記の無水素炭素膜A(水素を含んでいない非晶質炭素層)の上に、含水素炭素膜B(水素を含んだ非晶質炭素層)を形成する。第1スパッタ蒸発源28を用いても良いし第1真空アーク蒸発源8を用いてもよい。
【0193】
17.第1スパッタ蒸発源28を用いて含水素炭素膜Bを形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転して基材ホルダー39、基材38が第1スパッタ蒸発源28の方向を向くようにする。雰囲気ガスとしてArとCをガス導入口43より導入し、真空槽27内が0.1Pa〜1Paの圧力になるようにする。このとき回転テーブル40には−50V〜−600Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は100kHzである。
【0194】
18.第1スパッタ蒸発源28に400〜1000Wのパルス直流電力を印加し固体カーボン34をスパッタリングする。
19.同時に第2スパッタ蒸発源29に50〜200Wのパルス直流電力を印加して金属35をスパッタリングする。
20.こうして無水素炭素膜A(水素を含まない非晶質炭素層)の上に、金属を含む含水素炭素膜B(水素を含む非晶質炭素層)を形成する。
【0195】
21.第1真空アーク蒸発源8を用いて含水素炭素膜Bを形成する場合は次のようにする。回転テーブル40を回転して基材ホルダー39、基材38が第1真空アーク蒸発源8の方向を向くようにする。雰囲気ガスとしてArとCガスをガス導入口43より導入し、真空槽27内が0.05Pa〜0.5Paの圧力になるようにする。回転テーブル40には−50V〜−500Vのパルス直流電圧を印加する。パルス周波数は100kHzである。
【0196】
22.第1真空アーク蒸発源8の固体カーボン36に負電圧を掛けてアーク放電を起こさせる。アーク放電のため60Aの直流電流を流し、固体カーボン36を蒸発させる。
【0197】
23.同時に第2スパッタ蒸発源29に50W〜200Wのパルス直流電力を印加し金属35をスパッタリングする。水素、カーボン、金属が中性原子やイオンとなって基材に向かって飛ぶ。基材は負電圧にバイアスされており正イオンとなった金属やカーボン、炭化水素は強いエネルギーをもって基材に向かい基材の上に金属を含む含水素炭素膜Bが生成される。
【0198】
実施例2の手法によって29の試料を作製して試験した。試料18〜46とする。表10は実施例2の試料18〜46の成膜の29種類の方法を列挙して示す。全て無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bはスパッタリング法か真空アーク蒸着法によって作製する。中間層も存在する場合はスパッタリング、或いはアーク法で生成する。無水素炭素膜A膜厚は0.5nm〜300nmで、含水素炭素膜Bの水素量は5〜50at.%で、層比d/dは2〜1000の範囲に入っている。
【0199】
【表10】
Figure 0004793531
【0200】
中間層種類というのは基材の上に付ける金属の種類、その膜厚が中間層膜厚(nm)である。中間層形成方法というのは金属膜をどのような方法で作るかを示す。実施例2ではスパッタリングか真空アーク蒸着法で形成する。A層膜厚は無水素炭素膜Aの膜厚で、次にその形成方法が示される。実施例2ではスパッタリングかアーク法である。
【0201】
B層というのは含水素炭素膜Bのことで水素含有率、金属含有率が示される。層比というのは含水素炭素膜Bの膜厚dを無水素炭素膜Aの膜厚dで割った値である。含水素炭素膜B膜厚は層比と無水素炭素膜A膜厚を掛けることによって求めることができる。さらに含水素炭素膜Bの製法と含水素炭素膜Bへの金属添加方法が列挙されている。
【0202】
例えば実施例の試料18は基材の上に20nmのMo層をスパッタリングによって設け、その上に30nmの無水素炭素膜Aをスパッタリングにより形成し、さらに水素含有率14at.%、Mo含有率15at.%の膜厚750nmの含水素炭素膜Bを形成したものである。
【0203】
実施例2のうち、24種類の試料18〜41はBAMS構造をとる。
試料18〜31の14種は、中間層をスパッタリングによって生成している。中間層膜厚は10nm〜30nmで比較的厚いものである。
【0204】
試料32〜41は真空アーク蒸着法によって形成している。中間層膜厚は1nm〜4nmで薄いものである。スパッタリングによる方が膜厚増加による粗さの増加が少ないため膜厚の大きいものを形成しやすいようである。
残り5種類の試料42〜46は中間層を欠くBAS構造である。
【0205】
無水素炭素膜Aであるが、試料18〜24、試料32〜36、試料42、43はスパッタリングによって8〜100nmの無水素炭素膜Aを形成している。試料25〜31、37〜41、44〜46は真空アーク蒸着法によって8nm〜300nmの無水素炭素膜Aを形成している。
【0206】
次に最表面の含水素炭素膜Bであるが、これには炭素膜自体の製造法と、金属の添加方法について、スパッタリング、アークの二つの選択肢がある。試料18〜21、25、26、32〜46はスパッタリングによって含水素炭素膜Bを形成する。残りの試料22〜24、試料27〜31はアーク法で含水素炭素膜Bを生成している。層比は17〜500である。試料19は膜厚が1500nmである。最も薄いのは試料21、26の510nmである。
【0207】
試料32〜36は、真空アーク蒸着法によって金属を含水素炭素膜Bに添加している。それ以外の試料18〜31、37〜46はスパッタリングによって金属を含水素炭素膜Bに添加している。摩擦係数を低減するための金属として、Mo、W、Ta、Nb、Pd、Al、Pt、V、Zrなどを用いている。金属含有率は2at.%〜35at.%である。
【0208】
試料18〜46において、含水素炭素膜Bの水素含有率は14〜18at.%である。5at.%〜50at.%という範囲に入っている。表11に実施例2の試料18〜46の密着性、表面粗さ、相手材摩耗量、摩擦係数、摺動後相手粗さを示す。
【0209】
【表11】
Figure 0004793531
【0210】
いずれも無水素炭素膜Aを基材と含水素炭素膜Bの中間にいれているから密着性はよい。しかし金属の中間層のない試料42〜46は密着性評価はロックウエル、打撃試験とも3で低い。密着性向上に中間層が有用であることがわかる。
【0211】
試料32〜試料41は密着性評価が5であって最良の密着性を有する。これらは無水素炭素膜Aが8nmで薄い。無水素炭素膜Aが薄い方が密着性が優れるということがいえる。これらは大きい層比d/d(125〜500)をもつから密着性に含水素炭素膜Bの膜厚はあまり関係がないということもわかる。
【0212】
試料18〜31は密着性評価がロックウエルでも打撃試験でも4点であって少し劣ることになる。それは無水素炭素膜Aが30nmで厚いからである。
【0213】
表面粗さRaというは隣接する山と谷の差の平均値によって定義される粗面の尺度である。試料18〜21、37〜45についてはRa8nmで平坦性が良い。無水素炭素膜Aが薄いからであろう。試料27〜31はRaが30nmを越える。含水素炭素膜Bをスパッタリングで作製したものの方が平坦性は良いようである。スパッタリングによって含水素炭素膜Bを形成した試料46は例外的にRa(220nm)が大きいが、それは無水素炭素膜Aが厚いからである。
【0214】
ピンオンディスク相手材摩耗量も試料18〜24、29、31〜45で300nm以下であり満足できる。300nmを越えるのは、試料26、27、28、30、46である。無水素炭素膜Aが厚くてアーク法で作製した試料が摩耗量が多くなるようである。試料46が630nmとなるが、これは無水素炭素膜Aが厚くてその粗面の影響が表面にも現れるのだろう。
【0215】
摩擦係数は試料18〜19、32〜45が0.1以下である。試料20〜31は0.1を越える。試料46で0.18で最も高くなる。従来例▲3▼が0.2であったのに比べて何れも優れて低い。
【0216】
摺動試験のあとの相手材の粗さも試料20〜36、46でRa0.08〜0.18μmで少し大きいが、その他の試料ではRa0.03μmで極めて小さい。
【0217】
[比較例2(表12、表13;比較例試料47、48)]
実施例2と同じ基材の上に、実施例2と少しづつ異なる条件によって非晶質炭素被膜を形成した。比較例2の試料番号を47、48とする。
【0218】
【表12】
Figure 0004793531
【0219】
【表13】
Figure 0004793531
【0220】
比較例試料47は、基材Sの上に直接に15at.%の水素、10at.%のチタンを含む含水素炭素膜Bをスパッタリングによって形成したものである。BS構造をとる。無水素炭素膜Aがなくて密着性がない。ロックウエル、打撃試験ともに評価1である。含水素炭素膜Bがすぐに剥離したので、表面粗さや、ピンオンディスク相手材摩耗量、摩擦係数などは測定できなかった。
【0221】
比較例試料48は、基材Sの上に、アーク法で4nmのチタン膜を形成し、その上に8nmの無水素炭素膜Aを被覆し、さらに1000nmの含水素炭素膜Bをスパッタリングによって形成したものである。含水素炭素膜Bは金属原子を含まない。密着性は4点でよい。表面粗度もRa8nmで平坦である。ピンオンディスク相手材摩耗量も140μmでよい。摺動後の相手粗さもRa30nmで良い方である。しかし潤滑油内での摩擦係数が0.20であって、これが大きく不十分である。それは最表面の含水素炭素膜Bが金属を含まないからである。
【0222】
[実施例3(スパッタリング法、真空アーク蒸着法、RF−CVD法;図5)]
実施例3は、中間層(金属膜)M、無水素炭素膜A、含水素炭素膜Bに含ませる金属をスパッタリング、真空アーク蒸着法で蒸発、成膜するようにし、含水素炭素膜BはCVDによって作製するものである。実施例2と違うのは含水素炭素膜BをCVDによって成膜するところだけである。
【0223】
だから実施例2に使用した装置と殆ど同じで回転テーブルにつなぐ電源が少し違う。実施例2は直流電源によって100kHzの直流負パルスを掛けた。実施例3では回転テーブルにRF電源をつないで600〜1000Wの電力で13.57MHzの高周波を印加する。炭化水素ガスを導入し回転テーブルに高周波を掛けるとArなどのプラズマが形成され、これによって炭化水素ガスが分解し基材に堆積するからRF−CVD装置となる。図5に実施例3において使用したスパッタ蒸発源、真空アーク蒸発源、RF−CVDを兼ね備えた装置を示す。
【0224】
図4に現れたものと同じものには同じ符号を振る。それらは実施例2のものと同様の作用をもつので説明を略す。二つのスパッタリング装置と二つのアーク蒸着装置がある。一方のアーク装置、スパッタ装置で固体炭素を蒸発させる。他方のアーク装置、スパッタ装置で金属固体を蒸発させる。アーク装置ではVとCrを、スパッタリング装置ではMoとWを飛ばすようにした。これらの金属は、中間層の材料としても、最表面含水素炭素膜Bに分散添加する金属の材料としても利用される。
【0225】
第1真空アーク蒸発源8…炭素固体36、直流負電源(アーク電源)32
第2真空アーク蒸発源9…金属固体37、直流負電源(アーク電源)33
(金属固体V、Cr)
【0226】
第1スパッタ蒸発源28…炭素固体34、パルス負電源(スパッタ電源)30
第2スパッタ蒸発源29…金属固体35、パルス負電源(スパッタ電源)31
(金属固体Mo、W)
【0227】
回転テーブル40…基材ホルダー39、基材38、高周波電源58、RF電源60
【0228】
ガス(ガス導入口43)…Ar、CH、C
(無水素炭素膜A、金属層Mを形成するときはArだけ。含水素炭素膜B、金属炭化物層を形成するときはArとCH、Cの何れかを導入する。)
【0229】
基材Sに、中間層(金属、金属炭化物)、無水素炭素膜Aを形成する手順は実施例2と同様である。それに対応する1〜15の工程は同じであるから省略する。含水素炭素膜Bを形成する16からの工程が実施例2から少し相違する。
【0230】
16.無水素炭素膜A(水素を含んでいない非晶質炭素層)の上に、含水素炭素膜B(水素を含んだ非晶質炭素層)を形成する。実施例2と違い、第1スパッタ蒸発源28や第1真空アーク蒸発源8を用いない。RF電源60と炭化水素ガスを用いてRF−CVD法によって含水素炭素膜Bを形成する。
【0231】
17.真空槽(真空チャンバ)27を真空に引く。真空チャンバ27内圧力が0.02Pa〜0.3Paになるようにガス導入口43からCHガス、Arガスを導入した。高周波電源60によって回転テーブル40に高周波電力600W〜1000Wを投入した。これによって原料ガスが高周波プラズマで分解し基材の上に含水素炭素膜Bを生成する。
【0232】
18.同時に第2スパッタ蒸発源29に50W〜200Wのパルス直流電力を供給した。固体金属35(Mo、W)をスパッタリングして、含水素炭素膜B中に分散添加する。
【0233】
19.或いは第2真空アーク蒸発源9にアーク放電をおこさせ、40A直流電流を流して固体金属37(V、Cr)を蒸発させ、含水素炭素膜B中に分散添加する。
【0234】
20.こうして無水素炭素膜A(水素を含まない非晶質炭素層)の上に、金属を含む含水素炭素膜B(水素を含む非晶質炭素層)を形成することができる。
【0235】
実施例3の手法によって9の試料を作製して試験した。試料49〜57とする。表14は実施例3の試料49〜57の成膜の9種類の方法を列挙して示す。全て中間層M、無水素炭素膜Aはスパッタリング法か真空アーク蒸着法によって作製する。含水素炭素膜BはRF−CVD法によって形成する。
【0236】
実施例3において無水素炭素膜A膜厚は3nm〜300nmで、含水素炭素膜Bの水素量は45at.%で、層比d/dは2〜166である。
【0237】
【表14】
Figure 0004793531
【0238】
実施例3のうち、8種類の試料49〜56はBAMS構造をとる。
試料49〜52は、中間層をスパッタリングによって生成している。中間層膜厚は5〜15nmで薄い。試料53〜56は真空アーク蒸着法によって形成している。中間層膜厚は3nm〜8nmで極めて薄いものである。試料49、51の中間層はMoである。試料50、52の中間層はWである。
残りの試料57は中間層を欠くBAS構造である。
【0239】
無水素炭素膜Aであるが、試料49、50はスパッタによって30nmの無水素炭素膜Aを形成する。試料53、54はスパッタにより3nm、5nmの無水素炭素膜Aを生成する。
【0240】
試料51、52はアーク法によって30nmの無水素炭素膜Aを生成する。試料55、56、57はアーク法により、3nm、5nm、300nmの無水素炭素膜Aを設ける。試料57は限界的な性質をもち注目すべきである。
【0241】
次に最表面の含水素炭素膜Bであるが、これには炭素膜自体はRF−CVDによって作る。金属の添加方法について、スパッタリング、アークの二つの選択肢がある。試料55、56はアーク法によって金属(V、Cr)を飛ばし含水素炭素膜Bに分散させる。それ以外はスパッタリングによって金属(Mo、W、V、Cr)を飛ばすようにしている。
【0242】
層比は2〜166である。試料49〜52は、d=30nmで、層比が17倍だから、含水素炭素膜Bの膜厚は510nmである。試料53〜56は大体500nmの含水素炭素膜Bを持つ。試料57はd=300nmで、層比が2倍だから含水素炭素膜B膜厚が600nmである。
【0243】
試料49〜57において、含水素炭素膜Bの水素含有率は45at.%である。5at.%〜50at.%という範囲に入っているが上限に近い。
表15に実施例3の試料49〜57の密着性、表面粗さ、相手材摩耗量、摩擦係数、摺動後相手粗さを示す。
【0244】
【表15】
Figure 0004793531
【0245】
いずれも無水素炭素膜Aを基材と含水素炭素膜Bの中間に入れているが密着性が必ずしも良いとはいえない。試料49〜52は密着性試験のロックウエル、打撃試験いずれも3点で中程度である。これは無水素炭素膜Aが30nmであってかなり厚いためであろう。無水素炭素膜Aがより薄い(3nm〜5nm)試料53〜56は密着性が5点または4点で優れている。
【0246】
無水素炭素膜Aは薄い方が密着性は良いし表面粗さも良い。金属の中間層のない試料57は密着性評価はロックウエル、打撃試験とも3で低い。密着性向上に中間層が有用であることがわかる。
【0247】
試料53〜56を比較し、中間層はV、Crであり膜厚は3〜8nmであるのに密着性の評価が4点と5点に分かれる理由を考えてみる。どの金属でも同じ膜厚に密着性の最大点があるというのではなくて金属によって最大密着性を実現する膜厚が違うのかも知れない。Vは8nmより厚いところに最良膜厚があり、Crは3nm以下に最良膜厚があるのであろうか?
【0248】
表面粗さRaが8nmである平滑性に優れたものは試料53〜56で密着性における傾向と同じである。無水素炭素膜Aの薄いものの方が密着性も平坦性にも優れるようである。試料49〜52は無水素炭素膜Aが30nmであるから、Ra10nm〜12nmとなっている。試料57は無水素炭素膜Aが300nmもあり中間層が存在しないので、表面粗さRaが220nmで大きい。無水素炭素膜AとRaが同程度だというのは実施例1、2で見られた性質であるが実施例3でも見られる。
【0249】
試料49〜52の比較から無水素炭素膜Aをアーク法で形成するよりスパッタリングで形成したものの方が、より平坦性は良いようである。
【0250】
ピンオンディスク相手材摩耗量も試料53〜56で150μm以下であり優れている。試料49〜52は240〜280μm程度でこれも満足できる。試料57が630μmとなるが、これは無水素炭素膜Aが厚く(300nm)て、その粗面の影響が表面にも現れるのだろう。
【0251】
潤滑油下での摩擦係数は試料53〜56が0.1〜0.12で良好である。摺動後相手粗さRaも30nmで小さい。これも無水素炭素膜Aの薄いことから来る性質である。試料57は摩擦係数が0.20で実施例3の試料の中では最大である。それも無水素炭素膜Aが300nmと厚い事から由来する。摺動後相手側粗さもRa150nmでかなり大きい。
【0252】
[比較例3;表16、表17;比較例試料58、59)]
実施例3と同じ基材の上に、実施例3と少しづつ異なる条件によって非晶質炭素被膜を形成した。比較例3の試料番号を58、59とする。
【0253】
【表16】
Figure 0004793531
【0254】
【表17】
Figure 0004793531
【0255】
比較例3試料58は、基材Sの上に直接に35at.%の水素、23at.%のチタンを含む含水素炭素膜BをCVDによって形成したものである。原料はCH等の炭化水素ガスとTiClガスである。BS構造をとる。無水素炭素膜Aがなくて密着性がない。ロックウエル、打撃試験ともに評価1である。含水素炭素膜Bがすぐに剥離したので、表面粗さや、ピンオンディスク相手材摩耗量、摩擦係数などは測定できなかった。
【0256】
比較例試料59は、基材Sの上に、アーク法で4nmのチタン膜を形成し、その上に8nmの無水素炭素膜Aをアーク法で被覆し、さらに1000nmの含水素炭素膜BをCVDによって形成したものである。含水素炭素膜Bは金属原子を含まない。その点で本発明の定義からはずれる。密着性は3点でまあまあである。表面粗度もRa8nmで平坦である。ピンオンディスク相手材摩耗量も140μmで良い。摺動後の相手粗さもRa30nmで良い方である。しかし潤滑油内での摩擦係数が0.25であって、これが大きく不十分である。それは最表面の含水素炭素膜Bが金属を含まないからである。最表面の含水素炭素膜Bが金属を含むか含まないかというのは、潤滑油内での摩擦係数に影響があるが、その他の性質にはあまり関係がない、という事が分かる。
【0257】
[実施例4]
半導体ウエハの搬送用アームに実施例2およびそれに対応する比較例2の被膜を形成し、ウエハ搬送試験を行った。実施例2の試料発塵量は比較例2試料の10分の1以下に減少した。
【0258】
【発明の効果】
本発明は、最表面の含水素炭素膜Bに摩擦係数低減用金属を分散させているから、潤滑油中で摩擦係数の小さい非晶質炭素被膜を与えることができる。さらに基材Sに無水素炭素膜Aを付け、その上に含水素炭素膜Bを形成するから、高密着性、高硬度、低摩擦係数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜となる。また本発明はフィルタードカソードを使わずに無水素炭素膜Aを形成するから低コストで量産性に富んだ高密着性、高硬度、低摩擦係数の非晶質炭素被膜の製造方法を提供することができる。さらに高密着性、高硬度、低摩擦係数、高平滑性で摺動特性に優れた非晶質炭素被膜を有する工具、機械部品、金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上に無水素炭素膜A、金属を分散した含水素炭素膜Bを順に形成したBAS構造を示す断面図。
【図2】 本発明の非晶質炭素被膜であって、基材Sの上に、金属層M、無水素炭素膜A、金属を分散した含水素炭素膜Bを順に形成したBAMS構造を示す断面図。
【図3】 イオンプレーティング装置、真空アーク蒸発源、RF−CVD装置を一つの真空チャンバ内に兼ね備えた本発明の実施例1の非晶質炭素被膜を製造する装置の概略構成図。
【図4】 スパッタリング装置、真空アーク蒸発源を一つの真空チャンバ内に兼ね備えた本発明の実施例2の非晶質炭素被膜を製造する装置の概略構成図。
【図5】 RF−CVD装置、スパッタリング装置、真空アーク蒸発源を一つの真空チャンバ内に兼ね備えた本発明の実施例3の非晶質炭素被膜を製造する装置の概略構成図。
【符号の説明】
8 第1真空アーク蒸発源
9 第2真空アーク蒸発源
12 真空チャンバ(真空槽)
13 高周波コイル
14 高周波電源
15 基材
16 電子銃
17 るつぼ
18 固体原料
19 基材ホルダー
20 高周波電源
21 真空アーク蒸発源
22 固体炭素
23 アーク電源
24 ガス排出口
25 ガス導入口
26 シャッター
27 真空チャンバ(真空槽)
28 第1スパッタ蒸発源
29 第2スパッタ蒸発源
30 第1スパッタ蒸発源電源
31 第2スパッタ蒸発源電源
32 第1真空アーク蒸発源電源
33 第2真空アーク蒸発源電源
34 炭素原料固体
35 金属原料固体
36 炭素原料固体
37 金属原料固体
38 基材(試料)
39 基材ホルダー
40 回転テーブル
41 回転テーブルパルス直流電源
42 ガス排出口
43 ガス導入口
58 回転テーブルパルス直流電源
60 回転テーブル高周波電源

Claims (6)

  1. 基材Sの上に形成した0以上5at.%未満の水素を含む膜厚0.5nm〜300nmの無水素炭素膜Aと、無水素炭素膜Aの上に形成されており5at.%〜50at.%の水素と、V、Zr、Pd、Pt、Al、Pbの内1つ以上の0.01at.%〜35at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍で340nm以上である含水素炭素膜Bとよりなることを特徴とする非晶質炭素被膜。
  2. 基材Sと無水素炭素膜Aの間に、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属元素よりなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層或いは金属炭化物層を形成したことを特徴とする請求項1に記載の非晶質炭素被膜。
  3. 基材Sの上に、膜厚0.5nm〜300nmの無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法を用いない真空ア−ク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成し、5at.%〜50at.%の水素と、V、Zr、Pd、Pt、Al、Pbの内1つ以上の0.01at.%〜35at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍で340nm以上である含水素炭素膜Bを無水素炭素膜Aの上にCVD法または真空ア−ク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成することを特徴とする非晶質炭素被膜の製造方法。
  4. 基材Sの上に、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属元素よりなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層あるいは金属炭化物層を形成し、その上に膜厚0.5nm〜300nmの無水素炭素膜Aをフィルタードカソード法を用いない真空ア−ク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成し、5at.%〜50at.%の水素と、V、Zr、Pd、Pt、Al、Pbの内1つ以上の0.01at.%〜35at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍で340nm以上である含水素炭素膜Bを無水素炭素膜Aの上にCVD法または真空ア−ク蒸着法あるいはスパッタリング法によって形成することを特徴とする非晶質炭素被膜の製造方法。
  5. プランジャー、シム、タペット、カム、シリンダライナー、ピストン、金型、半導体搬送部品であって、0以上5at.%未満の水素を含む膜厚0.5nm〜300nmの無水素炭素膜Aと、5at.%〜50at.%の水素と、V、Zr、Pd、Pt、Al、Pbの内1つ以上の0.01at.%〜35at.%の摩擦係数低減用金属元素を含み膜厚が無水素炭素膜Aの2倍〜1000倍で340nm以上である含水素炭素膜Bをこの順で表面に形成してあることを特徴とする非晶質炭素被膜の被覆部材。
  6. 基材Sと無水素炭素膜Aの間に、V、Cr、Fe、Co、Hf、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Pd、Pt、Ti、Al、Pbの内一つ以上の金属元素よりなる膜厚0.5nm〜30nmの金属層あるいは金属炭化物層を形成したことを特徴とする請求項5に記載の非晶質炭素被膜の被覆部材。
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