JP2004269991A - 異なる環境において耐摩耗性に優れたダイアモンドライクカーボン多層膜 - Google Patents

異なる環境において耐摩耗性に優れたダイアモンドライクカーボン多層膜 Download PDF

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ウェイ ジャン
Akihiro Tanaka
章浩 田中
Yoshinori Koga
義紀 古賀
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Abstract

【課題】異なる環境においても高い密着力、低い摩擦係数、そして優れた耐摩耗性を示す被膜を提供する。
【解決手段】本発明による被膜は、ダイアモンドライクカーボン(DLC)多層膜であり、柔らかいDLC膜(S)と硬いDLC膜(H)が交互に積層されたものである。硬度が比較的低く、基板との密着性が良好な柔らかいDLC膜Sは、第1層として基板に付着され、次に硬いDLC膜Hを第1層の上に付着させる。このように柔らかいDLC薄層と硬いDLC薄層を順番に付着させて行き、厚さ約1μmの多層膜が作られる。多層の構成単位である薄層の厚さは、50から250nmまで様々である。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性にすぐれたダイアモンドライク(ダイアモンド状)カーボン(本明細書では、DLCとも言う)多層膜に関するものである。
本発明によるDLC多層膜は、異なる環境や条件下における産業用あるいは家庭用使用を目的とした機械の摩擦性および耐摩耗性部品の潤滑膜や保護膜等として用いられる。この場合の部品には、例えば、採鉱あるいは掘削機械、油圧システム、自動車、磁気ハードディスク、MEMS、およびナノデバイスの部品などが包含される。
【0002】
【従来の技術】
ダイアモンドライクカーボン(DLC)膜は、過去20年間において集中的研究課題であった。DLC膜は、幅広い構造および組成を示すと共に、魅力的な機械、光学、電気、化学、そしてトライボロジー特性を有する。DLC膜の構造ならびに特性は、水素の含量と二つの炭素結合(spとsp)の相対比率によって決まる。
DLC膜は、表面が高度に円滑であり、高い化学的不活性と生体適合性を有するとともに、優れたトライボロジー特性(高い硬度、低い摩擦係数と比摩耗量)を示すが、この材料は、特殊な環境下におけるトライボロジー的適用に適した候補者としてこれまで求められてきた。しかしながら、通常数GPaにも及ぶ大きな内部の圧縮ストレスが、特に鉄製基板への膜の良好な接着を妨げる。また、大きな圧縮ストレスのために比較的厚い(>2μm)膜は破断し、大きな負荷が掛かるトライボロジー的用途には適用できない。さらに、摩擦係数の増大や摩耗は、DLC膜のトライボロジー被膜としての利用を制限する。例えば、DLC膜の摩擦や摩耗は、窒素中や極めて高い真空状態においては小さいが、酸素中や高湿度の環境下では大きくなる。摩擦係数や摩耗の環境感受性が高いと、早期の市場導入が妨げられる。
【0003】
よって、DLC膜の接着性ならびにトライボロジー特性の環境不応性を向上させることが、商業的利用への鍵となる。一部の研究者は、上記のようなDLC膜の欠点を金属あるいは非金属元素を混ぜることで克服しようとした。例えば、膜にSi(シリコン)を加えると、DLC膜の内部ストレスが1GPaに下がり、湿度に対する摩擦係数の不応性が高まるが、それと同時に膜の耐摩耗性は低下する。
DLC膜に良好な接着性と環境不応性を与えるもう一つの試みは、ダイアモンドライクナノコンポジットコーティング(DLN)による成膜である。それによって内部ストレスが減って温度安定性が増すが、硬度と耐摩耗性は低下する。
【0004】
最近の研究で、一部の好ましくない特性が多層膜構造にすることで解決できることが示された。例えば、特開平5−65625号公報(特許文献1)では、硬いカーボン層と柔らかいバッファー層からなる多層膜が開発された。バッファー層は、シリコン、ゲルマニウム、炭化シリコン、窒化シリコン、二酸化シリコン、ガラス、そしてアルミナの中から一つを選択して作られている。厚さ2μmの多層膜で、良好な接着性と小さい内部ストレスが示されている。また、US No.0031346A1/2001(特許文献2)では、平均サイズが1nm以下のグラファイトクラスターを含む硬いカーボン層と平均サイズが2nm以上のグラファイトクラスターを含む柔らかいカーボン層からなるDLC多層膜が示された。その多層膜は、良好な耐摩耗性と小さい摩擦係数を持っていることも示されている。上記の報告に加え、別の研究グループもまた、多層カーボン膜の密着性と臨界負荷荷量の改善について報告している。
【0005】
DLC膜の特性はその構造に大きく影響される。上述の方法では、金属あるいは非金属元素をDLC膜に混ぜて膜の内部ストレスや環境不応性を減らすのには適しているが、膜の硬度と耐摩耗性も同時に低下させる。よって、DLC膜に多層構造を導入するのが最も効果的な方法と思われる。それによって、内部ストレスが減り接着性が改善するばかりか、高い硬度と耐摩耗性を維持することができる。最近の研究では、成膜時の条件と薄層の厚さが多層DLC膜のトライボロジー特性に大きく影響していることが示されている。また、トライボ試験時の環境ならびに条件も、明らかに膜の特性に影響すると思われる。これまで殆どのトライボロジー試験は、ある一定の条件下で行われていたが、この条件下ではDLC膜の真のトライボロジー特性を示すことはできない。他方、異なる環境(空気中、酸素中、および真空下)において安定な耐摩耗性(比摩耗量が10−8mm/Nm台)を示すDLC膜は、これまで作られていなかった。DLC膜における摩擦係数の増大と摩耗が、本質的にDLC膜のトライボロジー分野への適用の主な障壁になっている。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−65625号公報
【特許文献2】
US No.0031346A1/2001
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これまでのこうした問題を考慮して完成されたもので、異なる環境においても良好な密着性、小さい内部ストレス、そして優れた低摩擦および耐摩耗性を有する被膜を提供することをその課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、以下に示すダイアモンドライクカーボン多層膜が提供される。
(1)熱電子励起型プラズマCVD装置を用いて基体上に形成されたダイアモンドライクカーボン多層膜であって、該基体上に柔らかい膜Sと硬い膜Hとが交互に積層されていることを特徴とするダイアモンドライクカーボン多層膜。
(2)該柔らかい膜S及び該硬い膜Hの膜厚が50〜250nmであり、該膜Hの該膜Sに対する比[H]/[S]が1〜2の範囲にあり、該多層膜全体の厚さが0.5〜1μmの範囲にあることを特徴とする前記(1)に記載の多層膜。
(3)該多層膜の最表層が、硬い膜Hからなることを特徴とする前記(1)〜(2)のいずれかに記載の多層膜。
(4)該柔らかい膜Sがアルゴンを含有し、該硬い膜Hがアルゴンを含有しないことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の多層膜。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のDLC多層膜は、熱電子励起型プラズマCVD装置を使って柔らかいDLC膜Sと硬いDLC膜Hを交互に基体上に積層したダイアモンライクカーボン(DLC)多層膜である。比較的硬度が低く、密着性が良好で、小さな内部ストレスを有する柔らかいDLC層Sが、第1層として基体上に付着される。次に、比較的硬度が高く、大きな内部ストレスを有する硬いDLC膜Hを、第1層の上に付着する。このように不定形構造の柔らかい層Sと硬い層Hを、交互に順番に付着させてゆき、成膜する。
【0010】
本発明のDLC多層膜において、柔らかいDLC層Sは内部ストレスが小さく、良好な密着性を有することが望ましい。よって、柔らかいDLC層Sは流量20〜30sccmでAr(アルゴン)ガスを混入しながら、比較的高い負のバイアス電圧(−3kV)で基板に付着される。DLC層Sはこのようにして調製されるため、sp結合炭素原子の割合は小さくなり、硬度と内部ストレスが低下すると思われる。さらに、高い基板のバイアス電圧と荷電したArイオンの流れもまた、プラスイオンが相対的に早い速度で基板に付くのを促進し、膜の密度が上がるとともに基板と膜の境界面での原子混合効果を高める。その結果、柔らかいDLC層Sが基板に良好に接着するようになると思われる。
【0011】
本発明のDLC多層膜において、硬いDLC層Hは比較的高い硬度と大きな内部ストレスを有することが望ましい。そこで、硬いDLC層は、Arガスを混合することなく比較的低い負のバイアス電圧(−0.5kV)で付着されるので、sp結合炭素原子の割合は、柔らかいDLC層におけるものよりも明らかに大きくなる。
【0012】
さらに、本発明のDLC多層膜において、多層の積層単位である薄層の厚さは、50から250nmの範囲であることが望ましい。すなわち、硬い層Hの厚さの柔らかい層Sの厚さに対する比率[H]/[S]が、1から2である。
【0013】
本発明のDLC層膜において、最表面の層は硬いDLC層Hでできており、多層膜全体の厚さは0.5から1μmに保たれていることが望ましい。
【0014】
本発明のDLC多層膜は、前記した構成を有するもので、異なる環境下において優れた低摩擦および耐摩耗性を有することを特徴とする。
【0015】
本発明者は、DLC膜のトライボロジー的特性および機械的特性が、膜の微細構造に大きく影響されると言う事実に注目した。そこで、DLC多層膜の微細構造と機械的およびトライボロジー特性との関係を、それぞれ異なった微細構造を持つDLC層を機能的に積み重ねることで系統的に調べた。その結果、バイアス電圧と成膜の過程での混合ガスの流量を制御することで、また膜の厚さと比率において異なる2つのDLC層を積み重ねることで、異なる環境下においてもDLC膜に素晴らしい耐摩擦および摩耗性を持たせることができると言うことが分かり、本発明の完成に至った。
【0016】
図1に示すように、本発明のDLC多層膜は、基体上に、比較的低いsp結合炭素原子割合と内部ストレス、高い膜密度、そして良好な密着性を有する柔らかいDLC層Sと比較的高いsp結合炭素原子割合と内部ストレス、そして低い膜密度を有する硬いDLC層Hを交互に積層させて作られている。層Sと層Hとの合計層数は、4〜40、好ましくは4〜10である。
【0017】
使用可能な基体には、鉄系合金、チタン合金、そしてSi(シリコン)などが含まれる。
【0018】
柔らかい層Sと硬い層Hは、それぞれ不定形構造を成している。柔らかい層Sは、約10%という比較的少ないsp結合炭素原子割合を含む。さらに、柔らかい層における水素原子濃度は、高い負のバイアス電圧による成膜とAr原子の混合により約20%低下する。同時に、柔らかい下位層Sには、0.8%のアルゴンが取り込まれる。よって、薄膜の密度は、硬い層Hの密度よりも高く、内部ストレスは約0.9GPaと非常に小さい。なお、柔らかい層は硬度が低く、多層膜の内部ストレスを和らげる層であると同時に、基板と多層膜間、および硬い層それぞれの間の良好な密着を保証する中間層としても働くため、内部ストレスが減り、厚いDLC多層膜においても高い密着性が得られる。なお、柔らかい層Sを付着させる時のArガスの流量は、20から30sccmに調整する。Arを取り込むことで、柔らかい薄層Sの硬度ならびに内部ストレスを減らすことができる。もし、Arガスの流量が20sccm未満の場合、柔らかい層Sの内部ストレス緩和機能は十分には発揮されない。しかしながら、もし、Arガスの流量が30sccmを超える場合は、柔らかい層Sの硬度と内部ストレスが大きく低下し、柔らかい層Sのグラファイト化と架橋構造の減少が起きるため、多層膜全体の耐摩耗性が低下する。
一般的には、柔らかい膜(層)S中の水素濃度は10〜25%、好ましくは15〜20%の範囲に規定するのがよく、アルゴン濃度は5〜10%、好ましくは20〜30%の範囲に規定するのがよい。また、膜(層)Sにおいて、その硬度は、10〜25GPa、好ましくは15〜20GPaである。
【0019】
一方、硬い層Hでは、Arガスを混合することなく負のバイアス電圧を−0.5kVに減らすと同時に層厚を調整することで、sp結合炭素原子割合は60%以上へと明らかに増加する。さらに、硬い層Hにおける水素濃度は、約27%と比較的高いため、膜は硬くなり、多層膜全体の耐久性が向上する。特に、sp‐結合炭素原子割合と水素濃度をある程度の値まで上げることで、温度安定性が向上するとともに環境感受性が低下するものと思われる。さらに、潤滑効果を有する移着層の形成が水素によって促進されることから、膜の摩擦係数も減らすことができる。よって、硬い層Hはまた、多層膜全体の環境感受性と摩擦係数を減らす働きがある。
一般的には、硬い膜(層)H中の水素濃度は20〜45%、好ましくは25〜35%の範囲に規定するのがよい。また、膜(層)Hにおいて、その硬度は25〜40GPa、好ましくは30〜35GPaである。
柔らかい層Sと硬い層Hの厚さは、50nm〜250nmの範囲内に納まるようにすることが望ましい。さらに、膜Hと膜Sとの層厚比[H]/[S]は、2〜1になるように調整するのが望ましい。
【0020】
柔らかい層Sについて、もし層が薄すぎる(50nm未満)と、内部ストレスを和らげる機能は低下し、多層膜の内部ストレスが相対的に大きくなって、基体との密着性は低下するものと思われる。その結果、多層膜に大きな負荷が掛かった場合の耐摩耗性が低下すると思われる。一方、もし層が厚すぎる(250nm超)と、多層膜の硬度は明らかに低下し、耐久性と耐摩耗性も低下するかもしれない。なお、柔らかい層Sの最適厚は、100nm程度である。
【0021】
もし、硬い薄層Hの厚さが50nm未満であれば、sp結合炭素クラスターの大きさが減少するとともに水素濃度も低下するかもしれない。その結果、硬度が低く、高い摩擦係数と高い環境感受性を有する多層膜ができるに違いない。他方、もし層Hが厚過ぎて250nm以上の場合、大きな内部ストレスを持った多層膜ができるため、大きな負荷が掛かった時に多層膜の密着性が不良となり、耐摩耗性も低下することになる。なお、硬い層Hの最適厚は、100nm程度である。
【0022】
薄層単位の厚さ比[H]/[S]については、多層構造の界面効果、柔らかい層Sの内部ストレス緩和機能、そして硬い層Hのトライボロジー特性に対するsp結合炭素および水素の影響も同時に考慮することになる。薄層厚の[H]/[S]比は、多層膜全体の硬度、内部ストレス、密着性、および摩擦係数と摩耗の間のバランスを確保できるように調整する。本発明において、薄層厚の[H]/[S]比は2から1に調整されるが、1に合わせるのがより望ましい。もし[H]/[S]比が1未満の場合、硬い層Hは比較的低い水素濃度を有する。そして、柔らかい層Sが比較的厚くなるため、多層膜の摩擦係数と環境感受性が高まることになる。しかしながら、[H]/[S]比が2を超えると、硬い層Hは比較的大きな内部ストレスを有することになる。そして、柔らかい層Sが相対的に薄くなるため、膜と基体の接着性が悪くなり、大きな負荷が掛かった時に多層膜の摩擦耐久性が低下することになる。
【0023】
さらに、多層膜の最表層は、硬い層Hであるのが望ましい。また、多層膜全体の厚さは、500nmから1,000nmに調整するのが望ましい。柔らかい層Sに比べ、硬い層Hのsp結合炭素原子割合および水素濃度は高いため、多層膜の摩擦ならびに摩耗の環境感受性は、抑制しなければならない。よって、硬い層Hが多層膜の最表層になるように調整するのが好ましい。
積層構造、硬い層Hにおける高いsp3−結合炭素原子割合、ならびに柔らかい層の内部ストレス緩和機能に加え、移着層の形成を促進する水素の機能により、異なる環境や摩擦条件においても素晴らしい耐摩耗性と摩擦性を維持することができる。
【0024】
【実施例】
図2に示すように、本発明のDLC多層膜は、熱電子励起型CVD装置を使って作られる。すなわち、ポンプシステム2を含むロータリーヘリカルグルーブ真空ポンプを使い、高度真空チャンバー10内において成膜される。DLC膜を張り付けるためのイオンソース11は、ホットフィラメント4とアノード3より成る。5および6はそれぞれアノードとフィラメントの電源である。基体(基板)における負のバイアス電圧の電源7は、被膜基体(基板)1に繋がっている。Ar(アルゴン)とベンゼンガスは、ガス注入孔8および9を通してチャンバー内に導入される。コーティングの過程で、ベンゼンガスはイオン源のプラズマ放電によって分離され、イオン化される。その結果プラスに荷電したイオンは、電気的に負にある基体1に引き付けられる。気相におけるイオン間の衝突でspとspの両炭素結合が形成された後、基体表面に付着する。成膜は、温度が200℃以下で進行する。成膜の過程は、次に示す通りである。
【0025】
まず、N硬化処理を行った硬いSUS440C基体は、アセトンとアルコールで脱脂した後、10分間超音波洗浄を行う。基板は圧縮空気を注入して乾燥させた後、コーティングチャンバー内にセットする。続いて、コーティングチャンバー内が1×10−3Pa以下の真空状態になるまで空気を抜く。次に、圧力が0.1Paになるまで、Arガスを流量10sccmで真空チャンバー内に導入する。その後、アノードとフィラメントの電源を入れ、Arプラズマが発生するように調整する。さらに、基体の負のバイアス電圧(−2kV)におけるアルゴン放電を使って、基体を15分間スパッタ洗浄する。
【0026】
その後、多層膜あるいは単層膜を、次の要領で基体上に付着させる。DLC単層膜を作るには、5sccmのC(ベンゼン)を一定の流量でチャンバー内に導入した後、基体ホルダーを介して、負のバイアス電圧を基体に加える。DLC多層膜を作るには、基体における負のバイアス電圧を調整する。最初の柔らかいDLC層Sは、基体における負のバイアス電圧が−3kVで、Cおよびアルゴンの流量が一定の状態で基体上に付着させる。次に、硬いDLC層Hは、バイアス電圧が−0.5kV、そしてCの流量が一定の状態で、柔らかい層Sの上に付着させる。このように厚さが約1μmの多層DLC膜を、柔らかい層Sと硬い層Hを順番に付着させて行き、成膜する。薄層の厚さと積層膜厚比は、薄層を付着させる時間を調整することで変わってくる。成膜の過程で、チャンバー内の圧は10−2〜10−1Paに保たれる。表1は、1番から8番までの異なる多層膜における柔らかい層Sと硬い層Hの厚さ、積層膜厚比[H]/[S]、Arガスの流量、そして積層したDLC膜の数を示している。
【0027】
【表1】
Figure 2004269991
【0028】
多層膜の柔らかい層Sと硬い層Hのsp結合炭素原子割合および水素濃度を分析した結果、約60%と言う比較的大きなsp結合炭素原子割合と約27%の水素濃度が、硬い層Hで得られた。一方、柔らかい層Sでは、sp結合炭素分子割合は約10%と比較的小さく、水素濃度は約20%であった。
さらに、得られた各サンプルについて、膜の硬度、内部ストレス、臨界負荷荷量、摩擦係数、および比摩耗量を以下の方法で評価した。結果は、表2に示す通りである。
【0029】
1)膜の硬度
膜の硬度は、ナノインデンター(超微小押し込み硬さ試験機)を使って評価した。各サンプルについて、同じ条件下で9回のインデンテーションを行った。この試験で使われたサンプルの厚さは、約0.5μmであった。膜の硬度は、深さ50nmでの測定値を平均して評価した。
単層DLC膜との比較から、DLC多層膜の硬度は、硬い層Hの硬度よりも明らかに低いが、柔らかい層Sの硬度よりは高かった。DLC多層膜の硬度は、薄層の厚さ、薄層厚の[H]/[S]比、そしてArガスの流量に影響される。薄層が薄かったり、Arガスの流量が多いと、DLC多層膜の硬度は低下する。しかしながら、硬い薄層厚(H)の柔らかい薄層厚(S)に対する比[H]/[S]が上がると、DLC多層膜の硬度も増した。
【0030】
2)内部ストレス
膜の内部ストレスは、従来型のビームベンディング法を用いて測定した。膜内部のストレスによる基板の変形は、厚さが380nmの薄いシリコンウェーハビームを基板として用い、ビームの曲率半径とストレスの大きさを計算して測定した。
【0031】
【表2】
Figure 2004269991
【0032】
表2から明らかなように、膜の内部ストレスは、柔らかい層Sを多層構造に取り込むことで効果的に減少した。内部ストレスは、硬い単層膜Hの3.3Gpaから多層膜では2.0GPaに減少した。また、多層膜の内部ストレスは、膜の硬度と同様に変化する傾向が見られた。
【0033】
3)臨界負荷荷量
DLC膜の密着性は、マイクロスクラッチテスターを用いて測定した。なお、テストの条件は次の様に調整した。すなわち、速度は7.6mm/分、負荷率は25N/分、そして最終負荷量は10Nである。これにより、膜を剥がすのに必要な臨界負荷荷量(L)を調べた。
多層膜の臨界負荷荷量が、硬いDLC単層膜のものよりも高いのは明白である。実際、多層膜の臨界負荷荷量は、硬いDLC単層膜Hの6.4Nから最高9.7Nまで上がった。内部ストレスおよび膜の硬度は、膜の臨界負荷荷量に明らかに影響する。膜の硬度が高く内部ストレスが大きいと、臨界負荷荷量は小さくなる。例えば、表2に示すように、薄層厚の[H]/[S]比を上げると、膜の硬度と内部ストレスが上がり、多層膜の臨界負荷荷量は減少する。
【0034】
4)摩擦係数と比摩耗量
異なる環境下におけるDLC膜の摩擦と耐摩耗性を調べるために、ボールオンディスクトライボメーターを用いた。トライボロジー試験は、相対湿度が4〜6%の乾いた空気中、酸素中、そして真空下の3種の異なる環境下で行われた。直径6mmのSiC球を対材料とし、これを用いて1〜10Nの負荷を膜に与えた。摺動速度は0.1m/秒で、10,000回転摩擦した。チャンバー内の温度は、23〜26℃の範囲に制御した。また、膜の摩擦係数は、試験中連続的に記録した。なお、3次元粗さにより摩耗痕形状を測定し、膜が摩耗したかどうかを判断した。
【0035】
DLC多層膜の各サンプルにおいて、薄層の付着条件は摩擦係数に殆ど影響しなかった。DLC多層膜の摩擦係数は、空気中で約0.08、酸素中で約0.11、そして真空下で約0.21であった。しかしながら、多層膜の比摩耗量は摺動環境に対してより高い感受性を示した。薄層厚を100−250nmの範囲に維持し、薄層厚の[H]/[S]比を1から4の間に保ったことで、DLC多層膜は空気中で素晴らしい耐摩耗性を示し、10−9mm/Nm台の比摩耗量が得られた。一方、酸素中での摺動に関しては、薄層厚が50−250nm、薄層厚の[H]/[S]比が1:1、そしてArガスの流量が20−30sccmの範囲に保たれていれば、多層膜は良好な耐摩耗性を示した。また、表2に示すように、どのような薄層の付着条件で成膜されても、DLC多層膜は真空状態での摺動において常に良好な耐摩耗性を示した。よって、サンプル番号1,2,3,4、および5のように、もし、DLC多層膜が本発明の範囲内で調製されたのであれば、摩擦環境に対して不応性である素晴らしく安定したトライボロジー特性を有するDLC多層膜が得られることになる。
【0036】
【発明の効果】
本発明のDLC多層膜は、異なる環境下においても、小さい内部ストレス、膜と基板間の良好な接着性、そして低い摩擦係数と素晴らしい耐摩耗性を示すものである。さらに、このDLC多層膜は、摩擦と摩耗の環境感受性が低いため、潤滑性あるいは耐摩耗性保護被膜としての利用に適しているものと思われる。それは例えば、採鉱あるいは掘削機械、油圧システム、および自動車などの各種スライド部分の被膜、そして磁気ハードディスク、MEMsやナノデバイスなどの潤滑および保護膜としてである。
【図面の簡単な説明】
【図1】多層DLC膜の概略図を示す。
【図2】多層DLC膜の作製装置の概略図を示す。
【符号の説明】
(図1)
Sub 基体
S 柔らかいDLC薄膜
H 硬いDLC薄膜
(図2)
1 基体
2 排気装置
3 陽極
4 フィラメント
5 フィラメント電源
6 陽極電源
7 基体バイアス電源
8 Arガス導入口
9 ベンゼンガス導入口
10 真空容器
11 イオン源

Claims (4)

  1. 熱電子励起型プラズマCVD装置を用いて基体上に形成されたダイアモンドライクカーボン多層膜であって、該基体上に柔らかい膜Sと硬い膜Hとが交互に積層されていることを特徴とするダイアモンドライクカーボン多層膜。
  2. 該柔らかい膜S及び該硬い膜Hの膜厚が50〜250nmであり、該膜Hの該膜Sに対する厚さ比[H]/[S]が1〜2の範囲にあり、該多層膜全体の厚さが0.5〜1μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の多層膜。
  3. 該多層膜の最表層が、硬い膜Hからなることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の多層膜。
  4. 該柔らかい膜Sがアルゴンを含有し、該硬い膜Hがアルゴンを含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層膜。
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