JP4581861B2 - 硬質炭素薄膜及びその薄膜の製造方法 - Google Patents
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(実施例1)
硬質炭素薄膜を被覆する基材として、表面粗さをRa0.01μmにした15.7×10.0×6.3mmのステンレス鋼(SUS440C:JIS規格)を準備し、この基材の15.7×6.3mmの表面にスパッタリング装置(神戸製鋼所製)を用いて、硬質炭素薄膜を成膜した。この成膜条件としては、基材と純度99.99%の炭素材料からなるターゲット(グラファイトターゲット)との間に、アルゴンガス(不活性ガス)と、メタンガス(炭化水素系ガス)とからなる処理ガスを、処理ガス中のメタンガスの体積率が5%となるよう調整して流した。そして、この処理ガスを流した状態で、成膜温度(具体的には基材の温度)を200℃に保持して、炭素材料と基材との間に100Vに調整したバイアス電圧をかけながら、プラズマを発生させて、基板の表面をスパッタリングすることにより、膜厚(層厚)が1μmとなるように非晶質炭素材料(DLC)からなる硬質炭素薄膜(表面硬質層)を成膜した。
実施例1と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。実施例1と相違する点は、非晶質炭素材料からなる薄膜を表面硬質層とし、この表面硬質層(DLC)と基材(SUS440C)との間に密着層として、層厚み0.3μmのクロム層を設けた点である。なお、このクロム層の成膜方法としては、実施例1と同様の方法で、グラファイトターゲットの代わりに純度99.99%のクロムからなるターゲット(クロムターゲット)を装置内に配置し、スパッタリングにより成膜し、その後、実施例1と同様にしてDLCからなる表面硬質層を積層した。
実施例2と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。実施例2と相違する点は、さらに前記表面硬質層と前記密着層との間に層厚み0.8μmの中間層(傾斜層)をさらに設けた点である。この傾斜層は、表面硬質層(DLC)から密着層(クロム)に近づくに従って、傾斜的に、DLCからクロムの組成になるように、実施例2に示す如く密着層を成膜後、実施例1と同様の装置を用いて、密着層表面にクロムをスパッタリングし、さらに、一定の割合でクロムターゲットのスパッタを減少させ、グラファイトターゲットのスパッタを増加させることにより傾斜層を成膜した。そして、この傾斜層に実施例1と同様にしてDLCの表面硬質層を積層した。尚、実施例3に関しては、このような試験体を複数個製作した。
実施例3と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。実施例2と相違する点は、成膜時のメタンガスの体積率を15%にして成膜した点である。
実施例1〜4の硬質炭素薄膜に対して、表面硬さ計としてナノインテンダー(東陽テクニカ社製)を用いて表面硬さを測定し、さらに、この薄膜の表面粗さを測定した。また、この他にも、この硬質炭素薄膜の表面組織を観察した。
実施例3と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。実施例3と相違する点は、成膜時のメタンガスの体積率を4%にして成膜した点である。尚、比較例1に関しては、複数個の試験体を製作した。
実施例3と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。実施例3と相違する点は、成膜時のメタンガスの体積率を20%にして成膜した点である。尚、比較例2に関しては、複数個の試験体を製作した。
DLCの薄膜にTiを5%添加して成膜した従来品である。
(結果1−1)
図1(a)は、実施例3の硬質炭素薄膜の表面を10,000倍に拡大した顕微鏡写真図であり、図1(b)は、図1(a)の硬質炭素薄膜の切断面を15,000倍に拡大した顕微鏡写真図であり、図1(a)(b)に示すように、硬質炭素薄膜の表面には、微小突起が形成されていた。また、図1(b)に示すようにこの微小突起は、硬質炭素薄膜の表層内部に空孔を有するように、表層の一部が湾曲した形状となっている。また、図2(a)の表面粗さの測定結果からも分かるように、このような微小突起は複数個形成されており、実施例1、2及び4も同様に、このような微小突起が観察された。そして、摩擦摩耗試験後の硬質炭素薄膜の表面は、微小突起は無く、空孔が表面に形成されていた。また、比較例2の硬質炭素薄膜は、図2(b)の表面粗さの測定結果からもわかるように、微小突起を観察することができなかった。
実施例1〜4の硬質炭素薄膜の表面粗さは、中心線平均粗さRa0.01μm以上0.02μmよりも小さく、その表面硬さは、1500Hv以上であった。
比較例1の硬質炭素薄膜は、実施例1〜4に比べて、表面粗さ及び表面硬さは大きく、摩擦係数も大きかった。比較例2の硬質炭素薄膜は、実施例1〜4に比べて、表面粗さは、実施例1〜4と同程度又はそれよりも小さく、表面硬さは1300Hv程度であり、摩擦係数は大きかった。比較例3の硬質炭素薄膜は、表面硬さは1300Hv程度であり、摩耗深さが大きかった。
表1に示すように、実施例1〜3の順に、密着力が大きかった。
これらの結果1及び図3〜図5に基づいて評価する。図3〜図5は、実施例3、比較例1及び2に関するものであり、図3は、硬質炭素薄膜の表面粗さと摩擦係数との関係を示した図、図4は、硬質炭素薄膜の初期表面粗さと試験終了後の円筒試験片の表面粗さとの関係を示した図、図5は、硬質炭素薄膜の初期の表面粗さと、表面粗さの結果からカウントした微小突起の個数との関係を示した図である。
上記結果1−1から、実施例1〜4の硬質炭素薄膜に形成された微小突起は、硬質炭素薄膜の表層内部に空孔を有することから、この微小突起は、成膜時に表層の一部が圧縮内部応力により屈曲したことにより得られた突起であると考えられる。また、硬質炭素薄膜に形成された微小突起は、試験終了後の硬質炭素薄膜の表面には存在せず、空孔が形成されていたことから、摺動時に、この微小突起は、硬質炭素薄膜から脱落したと考えられる。
結果1−3及び図3に示すように、比較例1の硬質炭素薄膜は、表面粗さが実施例3に比べ大きいことから摺動時の抵抗は大きく、実施例3よりも摩擦係数が大きくなったと考えられる。さらに、図4に示すように、比較例1の円筒試験片の表面粗さが実施例3に比べ大きくなった理由としては、比較例1の硬質炭素薄膜の初期の表面粗さが大きいためであると考えられる。
結果1−3、図3に示すように、比較例2の硬質炭素薄膜は、実施例3に比べて表面粗さが全体的に小さいにもかかわらず、実施例3に比べて摩擦係数が大きい。この理由としては、図4に示すように、比較例2は、実施例3に比べて表面硬さが低く、試験後の円筒試験片の摺動面がほとんど変化していないことから、比較例2の硬質炭素薄膜では、相手部材に充分な研磨効果を与えることができなかったからであると考えられる。よって、比較例2の硬質炭素薄膜は、実施例3よりも、相手部材である円筒試験片と馴染みが悪く、摩擦係数が大きくなったと考えられる。
図5に示すように、表面粗さが増加するに従って微小突起の個数も増加している。そして、評価1−1及び評価1−2から得られた最適な表面粗さの条件(中心線平均粗さRa0.01μm以上0.02μmよりも小さい)を満たす場合には、微小突起の個数は、100mm長さあたり20〜230個形成されると考えられる。そして、この程度の個数の微小突起が存在すると、相手部材を適度に研磨、鏡面化させ、過剰に研磨して面粗れさせることがないので、摩擦係数を低減する効果が得られると考えられる。
実施例1〜4、及び比較例1及び2の製造方法を比較すると、メタンガスの体積率が相違しており、このガス濃度(体積率)は、成膜される薄膜の表面硬さ、表面粗さに依存すると考えられる。そして、実施例1〜4の如く、表面硬さHv1500以上であり、表面粗さが中心線平均粗さRa0.01μm以上0.02μmよりも小さくなるように、表面に微小突起を形成させるための条件としては、スパッタリング時の処理ガス中にメタンガスの体積率を、5%から15%の範囲に調整することが必要であると考えられる。
結果1−4から、実施例2は、クロムからなる密着層を設けたことにより、実施例1に比べて硬質炭素薄膜の密着性が向上したと考えられる。このような密着力を向上させる材料としては、この他にも、クロム同様の遷移元素であるTi、W、Ni及びこれらの組合せから選択される元素を添加しても、同様の効果が得られると考えられる。
実施例5、6は、実施例2と同じようにして硬質炭素薄膜を成膜した。実施例2と異なる点は、密着層の層厚さを、それぞれ0.1μm、0.5μmにした点である。また、実施例7は、実施例2と同じであり、密着層の厚さは0.3μmである。
比較例4は、実施例5〜7のように密着層を設けていない点のみで異なり、実施例1と同じものである。また、比較例5は、密着層の層厚さ0.7μmにした点で、実施例5〜7と異なる。
図6に示すように、実施例5〜7は、硬質炭素薄膜の密着力が少なくとも40N確保されており、比較例4、5の硬質炭素薄膜は、実施例5〜7に比べて密着力が小さかった。
結果2から、密着力確保するための最適な密着層の厚みは、0.1μm〜0.5μmであると考えられ、密着層厚みが0.1μm未満の場合には、層厚みが薄すぎるため充分な密着効果が得られず、また、厚みが0.5μmを超えると、成膜時に発生する残留応力が増加し、膜の靭性が低下することにより、膜が破壊し易くなるために密着力が低下すると考えられる。
実施例8、9は、実施例3と同じようにして硬質炭素薄膜を成膜した。実施例3と異なる点は、傾斜層の厚みを、それぞれ、0.5μm、1.0μmにした点である。また、実施例10は、実施例3と同じであり、傾斜層の厚みは0.8μmである。
比較例6は、実施例8〜10のように傾斜層を設けていない点のみで異なり、実施例1と同じものである。比較例7は、傾斜層を1.5μmにした点で、実施例8〜10と異なる。
実施例8〜10は、硬質炭素薄膜の密着力が少なくとも50N確保されており、比較例6、7の硬質炭素薄膜は、実施例8〜10に比べて密着力が小さかった。
この結果3から、密着力確保するための最適な傾斜層厚みは、0.5μm〜1.0μmであると考えられ、傾斜層厚みが、0.5μm未満の場合には、層厚みが薄すぎるため充分な密着効果が得られず、また、傾斜層厚みが1.0μmを超えると、成膜時に発生する残留応力が増加し、膜の靭性が低下することにより、膜が破壊し易くなるために密着力が低下すると考えられる。
実施例1と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。表2に示すように、実施例1と異なる点は、成膜に用いた基材を、クロムモリブデン鋼(SCM415)を用いた点、処理ガスの炭化水素系ガスにアセチレンガスを用いた点が異なる。
実施例11と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。表2に示すように、実施例11と異なる点は、処理ガス中のアセチレンガスを体積率で15%含有させた点である。
実施例11と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。表2に示すように、実施例11と異なる点は、バイアス電圧を150Vにした点である。
実施例11と同じように硬質炭素薄膜を成膜した。表2に示すように、実施例11と異なる点は、処理ガス中のアセチレンガスを体積率で15%含有させた点、バイアス電圧を200Vにした点である。
表3に示すように、実施例11〜実施例14は、先に示した実施例1〜10と同じ程度の表面粗さ(中心線平均粗さRa0.01μm以上0.02μm)、及び表面硬さ(Hv1500以上)を有しており、さらに微小突起の個数も同程度(突起高さ0.3μm以上の突起が100mm長さあたり20〜230個)であった。また、摩擦係数、摩耗深さも、実施例1〜4と同程度であり、さらに密着力も実施例1と同程度であった。さらに、表4に示すように、硬質炭素薄膜、円筒試験片の表面粗さは、試験後には小さくなっていた。
結果4から、実施例11〜実施例14の如くバイアス電圧、アセチレンガスのガス濃度を変化させることにより、実施例1〜4と同様の効果を有した硬質炭素薄膜を形成することができると考えられる。そして、アセチレンガスのガス濃度は、実施例1〜4にメタンガスと同程度(体積率5%〜15%)であればよいと考えられる。
実施例12と同じようにして、硬質炭素薄膜を成膜した。実施例12と異なる点は、基材に平板状のシリコンウエハを用いた点であり、このウエハ上に硬質炭素薄膜を成膜した。そして、バイアス電圧を100V、200V、400V、600Vにして、それぞれの条件において成膜を行った。尚、バイアス電圧を一定に保持するモード(スルーモード)により、成膜した。
実施例15と同じようにして、硬質炭素薄膜を成膜した。実施例12と異なる点としては、バイアス電圧を、10μs印加、20μs休止を繰り返した、断続的に印加するモード(パルスモード)により成膜した。
図8に示すように、バイアス電圧の電圧値及び電圧波形を変化させることにより、硬質炭素薄膜に作用する圧縮内部応力が変化することが分かった。さらに、実施例15のように、スルーモードにより成膜した方が、パルスモードにより成膜したものに比べて、圧縮内部応力が大きくなることが分かった。また、バイアス電圧と硬質炭素薄膜に作用する圧縮内部応力の関係は、比例関係になく、バイアス電圧が200Vを超えると、圧縮内部応力が減少した。
結果5に示したように、バイアス電圧により内部応力が変化した理由としては、成膜中に、プラズマ化したアルゴンイオンが、バイアス電圧によりワークに引き寄せられ、成膜済みの薄膜に高速で突入することにより薄膜にゆがみが生じ、内部応力が変化したからであると考えられる。また、バイアス電圧が200Vを超えると、内部応力が減少した理由としては、成膜中に薄膜に衝突するイオンの衝突があまりにも強く、その結果、この衝突エネルギーが熱に変換されてしまい、薄膜中の原子の再配列が起きるために圧縮内部応力が緩和されたからであると考えられる。このことから、圧縮内部応力は、バイアス電圧に存在し、また、その応力を最大にするバイアス電圧が存在することがわかった。
実施例15と同様にして、シリコンウエハに硬質炭素薄膜を成膜した。成膜条件としては、バイアス電圧及びアセチレンの流量を変化させて、硬質炭素薄膜の表層の一部を屈曲させた複数の微小突起が形成するまで、成膜されている硬質炭素材料に圧縮内部応力を加えながら、硬質炭素薄膜の成膜処理を行った。
図9に示すように、硬質炭素薄膜に作用する圧縮内部応力の増加に伴い、微小突起の個数がほぼ比例的に増加した。
結果5から、これまでに示した微小突起は、硬質炭素薄膜に作用する圧縮内部応力により発生したものであると考えられる。そして、突起高さが0.3μm以上となる微小突起を、100mm長さあたり20〜230個発生させるためには、圧縮内部応力を3000MPaから5500MPaの範囲となるように、ガス流量及びバイアス電圧を調整する必要があると考えられる。
Claims (8)
- 表面硬さがHv1500以上であり、表面粗さが中心線平均粗さRa0.01μm以上0.02μmよりも小さくなるように、表面に複数の微小突起を形成させ、
前記微小突起は、前記硬質炭素薄膜の表層内部に空孔を有するように、前記表層の一部を屈曲させた突起であり、
前記微小突起は、100mm長さあたり20〜230個形成されていることを特徴とする硬質炭素薄膜。 - 前記微小突起は、硬質炭素薄膜の前記表面を摺動させたときに、硬質炭素薄膜から脱落可能に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の硬質炭素薄膜。
- 前記硬質炭素薄膜は、非晶質炭素材料からなる表面硬質層と、Cr、Ti、W、Ni及びこれらの組合せからなる群から選択される元素を含む密着層と、を積層したことを特徴とする請求項1または2に記載の硬質炭素薄膜。
- 前記硬質炭素薄膜は、前記表面硬質層と前記密着層との間に中間層をさらに設け、該中間層は、前記表面硬質層から前記密着層に近づくに従って、密着層の元素の組成になるように、非晶質炭素材料に前記元素が添加されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の硬質炭素薄膜。
- 前記密着層の厚さは、0.1〜0.5μmであり、前記中間層の厚さは、0.5〜1.0μmであることを特徴とする請求項4に記載の硬質炭素薄膜。
- 基材の表面に硬質炭素薄膜を成膜する成膜方法であって、該成膜方法は、硬質炭素薄膜
の表層の一部を屈曲させた複数の微小突起が形成するまで、成膜されている硬質炭素材料
に圧縮内部応力を加えながら、硬質炭素薄膜の成膜処理を行うものであり、
前記成膜処理は、基材と炭素材料との間に、不活性ガス及び炭化水素系ガスを含む処理ガスを流すと共にバイアス電圧をかけながらプラズマを発生させて処理する方法であって、前記圧縮内部応力が3000MPaから5500MPaの範囲となるように、ガス流量及びバイアス電圧を調整することを特徴とする硬質炭素薄膜の成膜方法。 - 前記不活性ガスはアルゴンガスであり、前記炭化水素系ガスはメタン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、プロパン及びこれらの組合せからなる群から選択されるガスであり、処理ガス中の前記炭化水素系ガスの体積率は、5%から15%の範囲にあることを特徴とする請求項6に記載の硬質炭素薄膜の成膜方法。
- 基材の表面に硬質炭素薄膜を成膜する成膜方法であって、該成膜方法は、硬質炭素薄膜
の表層の一部を屈曲させた複数の微小突起が形成するまで、成膜されている硬質炭素材料
に圧縮内部応力を加えながら、硬質炭素薄膜の成膜処理を行うものであり、
前記成膜処理は、対向した一対の電極の間に、炭化水素系ガスを含む処理ガスを流すと共にバイアス電圧をかけながらプラズマを発生させて処理する方法であって、前記圧縮内部応力が3000MPaから5500MPaの範囲となるように、処理ガスに含有する炭化水素系ガスのガス濃度を調整することを特徴とする硬質炭素薄膜の成膜方法。
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