JP2002346708A - 連続鋳造用モールドパウダ - Google Patents

連続鋳造用モールドパウダ

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Abstract

(57)【要約】 【課題】1.0質量%程度以上のAlを含有する溶鋼を
鋳造する際の、フ゛レークアウトの防止および鋳片の表面品質の
悪化防止が可能なモールドパウダの提供。 【解決手段】CaO、SiO、LiOおよびフッ素
化合物を基本成分とし、NaOおよびKOのうちの
1種以上、ならびにAlを含有し、質量%で、フ
ッ素化合物を構成するF含有率が4〜25%、Na
およびKOの合計含有率が1.5%以下で、かつ、下
記指標aが0.47〜0.7、指標bが0〜0.4、お
よび指標cが0〜0.6であるパウダ。 a=(%CaO)h/{(%CaO)h+(%SiO)h+(%Al)h}・・・(イ ) b=(%Al)h/{(%CaO)h+(%SiO)h+(%Al)h}・・・ (ロ) c=(%CaF)h/{(%CaO)h+(%SiO)h+(%CaF)h}・・・(ハ )

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋳型内の溶鋼表面
に添加する連続鋳造用モールドパウダに関する。
【0002】
【従来の技術】鋼の連続鋳造では、鋳型内の溶鋼表面に
モールドパウダを添加して鋳造する。モールドパウダに
は、CaO、SiO 、Al などの複数種
類の酸化物、フッ素化合物、炭素などの粉体を混合した
ものが一般的に用いられている。鋳型内の溶鋼表面に添
加されたモールドパウダは、溶鋼からの受熱により溶融
し、溶鋼表面との接触部においてモールドパウダの溶融
層(以下、単に溶融層と記す場合がある)を形成する。
この溶融層は、鋳型内壁と凝固殻との間に流入し、フィ
ルムを形成する。このフィルムは、鋳型により冷却され
た固相部分と、液相部分との二相からなる。このような
挙動をするモールドパウダには、溶鋼の保温および酸化
防止、溶鋼中の気泡または酸化物の吸収、鋳型内壁と凝
固殻との間の潤滑性の確保、凝固殻の冷却速度の調整な
どの役割がある。
【0003】ところで、高Al含有鋼を連続鋳造する際
に、上記のモールドパウダの役割のなかで、溶鋼の酸化
防止および鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性確保の効果
が不十分となり、ブレークアウトが発生したり、鋳片の
表面品質が悪化することが知られている。鋳型内の溶鋼
中のAl含有率が高いため、溶融層中のSiO と溶
鋼中のAlとが、4Al+3(SiO )=2(Al
)+3Siで示される反応を起こし、Alが
酸化されてAl が生成する。
【0004】生成したAl は、溶融層中に移
行し、溶融層中のAl 含有率が高くなる。溶
融層中のAl 含有率が高くなると、溶融層の
凝固温度および粘度が高くなり、鋳型内壁と凝固殻との
間の潤滑性が悪化することによって、ブレークアウトが
発生したり、鋳片の表面品質が悪化する。
【0005】特開昭57−184563号公報には、C
aOおよびAl を基本成分とし、SiO
の含有率を低くしたモールドパウダが提案されている。
具体的には、それぞれの含有率が、質量%で、CaO:
40〜60%、Al:20〜40%で、その他
MgO:0.5〜5.0%、C:0.5〜2.0%、N
O:0.1〜5.0%、CaF :1〜10%
とし、かつ、SiO :7.0%以下であるモールド
パウダである。SiO 含有率を7.0質量%以下と
することにより、溶融層中のSiO の活量を低下さ
せ、前述の(イ)式の反応量を抑制することにより、溶
融層の凝固温度および粘度が高くなることを抑制しよう
とするものである。
【0006】しかし、特開昭57−184563号公報
で提案されたモールドパウダでは、溶融層の凝固温度が
鋳造中に急激に変化して高くなって、鋳型内壁と凝固殻
との間の潤滑性が悪くなり、鋳型を構成する銅板の温度
が急激に高くなったり、極端な場合にはブレークアウト
が発生する。また、Al含有率が1.0質量%程度以上
の溶鋼を鋳造する際に、Na O含有率によっては、
モールドパウダの溶融速度が速くなって、溶融層が過剰
に形成され、鋳片表面に割れが発生する。また、モール
ドパウダの溶融速度を調整するために、モールドパウダ
のC含有率を通常よりも高くすることは、Al含有率が
高く、かつ、C含有率が50ppm程度以下の極低炭素
鋼を鋳造する場合には、溶鋼中のC含有率が高くなるこ
とから、実施困難である。
【0007】特開昭63−10052号公報には、Ca
OおよびSiO を主成分とし、CaOのSiO
に対する含有率の比、CaO/SiO (塩基度)が
0.6〜0.8、凝固温度が800〜1000℃、13
00℃における粘度が1.5poise以下であるモー
ルドパウダが提案されている。0.10質量%以上のA
lを含有する溶鋼を連続鋳造するに際し、鋳型内壁と凝
固殻との間の潤滑性が悪化することによって、ブレーク
アウトが発生したり、鋳片の表面品質が悪化するのは、
溶鋼中のAlと溶融層中の成分とが反応することによっ
て、ゲーレナイト(2CaO・Al ・SiO
)が生成して、溶融層が凝固したフィルム中にゲー
レナイトの結晶が析出することに起因するとしている。
モールドパウダの組成およびその溶融層の物性値を上記
組成および物性値とすることにより、ゲーレナイトの析
出を防止するものである。具体的には、溶融層中のSi
と溶鋼中のAlとが反応して、溶融層中のAl
含有率が高くなっても、溶融層の凝固温度およ
び粘度が著しく高くなるのを回避できるように、予めモ
ールドパウダのSiO 含有率を高くしている。実施
例では、SiO含有率は30質量%程度以上となって
いる。
【0008】しかし、特開昭63−10052号公報で
提案されたモールドパウダでは、モールドパウダのSi
含有率が30質量%程度以上に高い場合に、溶鋼
中のAlが酸化されて、溶融層中のAl 含有
率が高くなる度合いが大きくなり、溶融層の凝固温度お
よび粘度が著しく高くなって、鋳型内壁と凝固殻との間
の潤滑性が悪化し、ブレークアウトが発生する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】前述の特開昭57−1
84563号公報で提案されたモールドパウダにおい
て、溶融層の凝固温度が鋳造中に急激に変化して高くな
り、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性が悪くなるのは、
SiO 含有率が7.0質量%以下と低い場合に、溶
融層の凝固温度および粘度の変化が急激となり、鋳型内
壁と凝固殻との間の潤滑性が悪く不安定になるからであ
る。また、モールドパウダの溶融速度が速くなって、溶
融層が過剰に形成されるのは、Al含有率が1.0質量
%程度以上の溶鋼を鋳造する際に、Na O含有率に
よっては、溶鋼中のAlが溶融層中のNa Oにより
酸化されやすく、その際に発生するNaガスが、さらに
酸化される際に発生する酸化熱により、モールドパウダ
の溶融が促進されるからである。
【0010】さらに、特開昭63−10052号公報で
提案された、CaOおよびSiOを主成分とするモー
ルドパウダにおいて、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性
が著しく悪化するのは、実質的に、溶融層中のSiO
含有率が30質量%程度以上に高いことから、溶鋼中
のAlが酸化される量が多くなり、溶融層中のAl
含有率が著しく高くなるからである。
【0011】本発明は、Al含有率が1.0質量%程度
以上の高Al含有鋼、またはAl含有率が1.0質量%
程度以上の極低炭素鋼を連続鋳造する場合に、溶融層の
凝固温度および粘度が高くなって、鋳型内壁と凝固殻と
の間の潤滑性が悪化することによる、ブレークアウトの
発生および鋳片の表面品質の悪化を防止することができ
る連続鋳造用モールドパウダを提供することを目的とす
る。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、Ca
O、SiO 、Li Oおよびフッ素化合物を基本
成分とするモールドパウダであって、さらに、Na
OおよびK Oのうちの1種以上、ならびにAl
を含有し、フッ素化合物を構成するFの含有率が
4〜25質量%、Na OおよびK Oの合計の含
有率が1.5質量%以下であり、かつ、これらCaO、
SiO 、Li O、F、Na O、K Oお
よびAl の含有率で表される、下記(イ)
式、(ロ)式および(ハ)式によって規定される指標a
が0.47〜0.7、指標bが0〜0.4、および指標
cが0〜0.6である連続鋳造用モールドパウダにあ
る。 a=(%CaO)h/{(%CaO)h+(%SiO)h +(%Al)h}・・・(イ) b=(%Al)h/{(%CaO)h+(%SiO)h +(%Al)h}・・・(ロ) c=(%CaF)h/{(%CaO)h+(%SiO)h +(%CaF)h}・・・(ハ) ここで、(%CaO)h={WCaO−(%CaF)h×0.718}・・・(ニ )、 (%CaF)h=(W−WLi2O×1.27−WNa2O×0.613 −WK2O ×0.404)×2.05・・・(ホ )、 (%SiO)h=WSiO2 および(%Al)h
=WAl2O3 であり、また、WCaO、WSiO2
、WAl2O3 、WLi2O、WNa2OおよびW
K2O は、モールドパウダ中の分析されるCa、S
i、Al、Li、Na、Kが全てそれらの酸化物である
として換算した含有率(質量%)であり、Wは、分析
されるFの含有率(質量%)である。
【0013】溶鋼の保温と酸化防止、溶鋼中の酸化物の
吸収、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性の確保などのモ
ールドパウダの役割から、通常、モールドパウダは、C
aO、SiO 、フッ素化合物、Al など
を基本成分とする。一方、本発明が対象とする、Al含
有率が1.0質量%程度以上の溶鋼を鋳造する際には、
モールドパウダの溶融層中のSiO が溶鋼中のAl
を著しく酸化させ、そのため、溶融層中のAl
含有率が顕著に増加することが、鋳型内壁と凝固殻と
の間の潤滑性が悪化する根本的な要因である。
【0014】そこで、本発明者らは、溶鋼中のAlと溶
融層中のSiO との反応を抑制して、溶融層中のA
含有率の増加を抑制する方法、および溶融
層中のAl 含有率が増加する際の溶融層の凝
固温度および粘度の増加を抑制する方法について、鋭意
検討および試験を行った結果、本発明に到った。その詳
細を、以下に説明する。
【0015】溶融層中のLi Oは、アルカリ金属の
酸化物の中では例外的に化学的に安定な酸化物であり、
溶鋼中のAlによる還元反応を受けにくい。また、Li
Oは塩基性の性質が強いため、溶融層中ではSiO
の活量を低下させ、前述の4Al+3(SiO
=2(Al )+3Siで示される反応を抑制
する効果を有することがわかった。
【0016】また、溶融層中のSiO は、溶鋼中の
Alとの反応を抑制するという観点だけからは、その含
有率は少ない方がよいが、前述のとおり、SiO
10質量%程度以下に少なくすると、溶融層中のSiO
含有率のわずかな変化により、溶融層の凝固温度が
急激に高くなる。したがって、凝固温度などの物性変化
を小さく安定化させるためには、SiO を適度な含
有率でモールドパウダに配合するのがよい。さらに、C
aOおよびフッ素化合物は、溶鋼の酸化防止、溶鋼中の
酸化物の吸収、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性の確保
などの観点から、通常、モールドパウダに配合する。上
記のことから、本発明のモールドパウダは、CaO、S
iO 、LiOおよびフッ素化合物を基本成分とし
た。
【0017】さらに、溶融層中のAl 含有率
が増加しても、溶融層が凝固したフィルム中に、前述の
ゲーレナイトの結晶ではなく、3CaO・2SiO
・CaF で表されるカスピダインの結晶が析出する
ような溶融層の組成に維持することにより、溶融層の凝
固温度および粘度が高くなることを抑制できることがわ
かった。具体的には、溶融層を凝固させた際に析出する
結晶の組成を、種々のモールドパウダの組成について調
査した結果、モールドパウダの組成に関する、前述の
(イ)式、(ロ)式および(ハ)式によってそれぞれ規
定される指標aを0.47〜0.7、指標bを0〜0.
4、および指標cを0〜0.6とすることにより、ゲー
レナイトの結晶の析出を防止し、カスピダインの結晶を
析出させることができることがわかった。
【0018】ここで、前述の(イ)式、(ロ)式および
(ハ)式の中で用いる前述の(ニ)式および(ホ)式で
定義する(%CaO)hおよび(%CaF )hにつ
いて、さらに説明する。(ホ)式で定義する(%CaF
)hは、溶融層中のFが、溶融層中のLi O、
Na OまたはK Oを構成するLi、Naまたは
Kであるアルカリ金属と優先的に結合してアルカリ金属
のフッ化物を形成し、残るFがCaF として存在す
るとした換算CaF 含有率を意味する。また、
(ニ)式で定義する(%CaO)hは、上記の残るFが
溶融層中のCaと優先的に結合して、CaF として
存在し、Fと結合しなかった残るCaが、CaOとして
存在するとした換算CaO含有率を意味する。このよう
に、Li、Na、K、FおよびCaを取り扱うことによ
り、カスピダインの結晶が析出する溶融層の組成範囲、
すなわち、モールドパウダの組成範囲を正確に把握する
ことが可能になった。
【0019】また、Na Oは、溶融層の凝固温度お
よび粘度を低下させる効果があるが、一方、前述のとお
り、溶鋼中のAl含有率が1.0質量%程度以上に高い
場合に、溶鋼中のAlが溶融層中のNa Oにより酸
化され、生成したNaの酸化熱によりモールドパウダの
溶融が過度に促進され、鋳片表面に割れが発生しやす
い。さらに、K Oも同様の作用がある。そこで、N
OおよびK Oの含有率の合計を1.5質量%
以下とすることにより、モールドパウダの溶融速度の増
大を抑制することができることがわかった。これによ
り、モールドパウダの溶融速度を遅くするためのCの多
配合を抑制できるので、Al含有率が1.0質量%程度
以上の極低炭素鋼を鋳造する場合にも、鋼のC含有率の
増加を防止できる。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明のモールドパウダは、Al
含有率が1.0質量%程度以上の高Al含有鋼、または
Al含有率が1.0質量%程度以上の極低炭素鋼を連続
鋳造する場合に適用するのに好適である。このような高
Al含有率の溶鋼を連続鋳造する際の、モールドパウダ
の溶融層の凝固温度および粘度が高くなって、鋳型内壁
と凝固殻との間の潤滑性が悪化することによるブレーク
アウトの発生、および鋳片表面の品質の悪化を防止でき
る。さらに、極低炭素鋼を鋳造する際の鋼中のC含有率
の増加を防止できる。
【0021】本発明の連続鋳造用モールドパウダを以下
に詳細説明する。なお、以下の含有率%は、質量%を意
味する。本発明のモールドパウダは、CaO、SiO
、Li Oおよびフッ素化合物を基本成分とする。
それぞれの含有率は、CaOは30〜60%、SiO
は10〜30%、Li Oは1〜15%とするのが、
それぞれ望ましく、また、フッ素化合物を構成するFは
4〜25%とする。ここで、CaO、SiOまたはL
Oは、モールドパウダ中の分析されるCa、Si
またはLiが、全てそれらの酸化物であるとして換算し
た含有率であり、また、Fは、分析されるFの含有率で
ある。
【0022】CaO含有率は30〜60%、SiO
含有率は10〜30%とするのが、それぞれ望ましい理
由は、鋳型内の溶鋼の保温と大気による酸化防止、鋳型
内壁と凝固殻との間の良好な潤滑性、溶鋼表面に浮上す
る酸化物などの捕捉に効果的であり、さらに、溶融層が
凝固したフィルム中に、3CaO・2SiO ・Ca
で表されるカスピダインの結晶が効果的に析出す
るからである。CaO含有率が30%未満では、鋳型内
の溶鋼表面に浮上してくる気泡および酸化物の吸収が悪
くなる。また、CaO含有率が60%を超えると、溶融
層の凝固温度が高くなり、鋳型内壁と凝固殻との間の潤
滑性が悪くなる。SiO 含有率が10%未満では、
溶融スラグの凝固温度が高くなり、鋳型内壁と凝固殻と
の間の潤滑性が悪くなる。また、SiO 含有率が3
0%を超えると、溶鋼中のAl、Mnなどとの反応が起
こりやすい。
【0023】Li O含有率を1〜15%とするのが
望ましい理由は、前述のとおり、溶融層中のLi
は、溶融層中のSiO の活量を低下させ、溶鋼中の
Alと溶融層中のSiO との反応を抑制する効果が
あるからである。含有率が1%未満では、その効果が弱
く、また、15%を超えると、溶融層の凝固温度および
粘度が過度に低下し、溶融層が鋳型内壁と凝固殻の間に
過度に流入し、かえって、鋳片表面に割れが発生しやす
い。
【0024】Fの含有率を4〜25%とする理由は、溶
融層中のFは溶融層の凝固温度を調整する効果があり、
また、溶融層が凝固したフィルム中に、カスピダインの
結晶が効果的に析出するからである。F含有率が4%未
満では、その効果が小さくなる。また、F含有率が25
%を超えると、溶融層の粘度が過度に低下して溶鋼中に
巻き込まれ、鋳片表面にノロカミ疵が発生する。
【0025】さらに、本発明のモールドパウダは、Na
OおよびK Oのうちの1種以上を含有し、これ
らの合計の含有率は1.5質量%以下とする。Na
OおよびK Oは、前述のとおり、Al含有率が1.
0%程度以上の溶鋼を鋳造する際に、溶鋼中のAlと反
応し、生成したNaの酸化熱によりモールドパウダの溶
融が過度に促進され、鋳片表面に割れが発生しやすい。
これらの合計の含有率を1.5%以下とすることによ
り、上記反応を抑制でき、モールドパウダの溶融速度の
増大を抑制できる。さらに、後述するCの含有率を低く
抑制することができ、極低炭素鋼を鋳造する際に、鋼中
のC含有率の増加を抑制できる。
【0026】また、本発明のモールドパウダは、Al
を含有し、その含有率は10%以下が望まし
い。その含有率が10%を超えると、溶融層が凝固した
フィルム中にAl を構成成分とする結晶が析
出しやすく、溶融層の凝固温度および粘度が高くなる。
また、モールドパウダの原料の配合上、不可避的にAl
が含有される場合があるが、その含有率は極
力少ない方が望ましい。
【0027】本発明のモールドパウダで、とくに重要な
のは、前述の(イ)式、(ロ)式および(ハ)式で規定
される指標aを0.47〜0.7、指標bを0〜0.
4、および指標cを0〜0.6とすることである。指標
a、bおよびcを上記の値とすることにより、前述のと
おり、溶融層が凝固したフィルム中に、ゲーレナイトの
結晶の析出を防止し、カスピダインの結晶を析出させる
ことができる。
【0028】指標aの値が0.47未満では、ゲーレナ
イトの結晶の析出が析出し、0.7を超えると、溶融層
の凝固温度が過度に高くなる。さらに、指標aの値の望
ましい範囲は0.5〜0.6である。
【0029】指標bの値は、低いほどよく、0.4を超
えると、溶融層中のAl含有率が、鋳造中にさ
らに高くなった際に、溶融層の凝固温度が著しく高くな
る。さらに、指標bの値の望ましい範囲は0〜0.2で
ある。
【0030】指標cの値が0.6を超えると、溶融層が
凝固したフィルム中に、カスピダインの結晶が析出せ
ず、CaF の結晶が析出するので、溶融層の凝固温
度が過度に高くなる。指標cの値が0%でも、指標aお
よび指標bが上記範囲内の値であれば、モールドパウダ
のFの含有率の下限が4%であり、フィルム中に、カス
ピダインの結晶が析出する。さらに、指標cの値の望ま
しい範囲は0.1〜0.5である。
【0031】本発明のモールドパウダには、さらに必要
により、下記のMgO、BaO、B 、ZrO
およびTiO のうちの1種以上を含有させるの
がよい。MgO、BaO、B およびTiO
は、いずれも溶融層の凝固温度および粘度を低くする
効果がある。それらの効果を期待する場合に、MgOは
1〜20%、BaOは2〜20%、B は2〜
15%およびTiOは0.5〜10%、それぞれ含有
させるのが望ましい。また、ZrO は、凝固温度お
よび粘度を高くする効果があり、その効果を期待する場
合には、0.5〜10%含有させるのが望ましい。
【0032】さらに、本発明のモールドパウダには、上
記の成分に加えて、Cを配合するのが望ましく、外数の
含有率として、1〜10%含有させるのが望ましい。外
数で1〜10%の含有率で配合するとは、後述する実施
例の表2または表5に示すように、たとえば、CaO、
SiO 、Li O、F、Na O、Al
、MgOなどを配合し、残り不純物を含めて100%
のモールドパウダに対して、さらに、Cを添加した後の
全体の質量に対して、C含有率が1〜10%になるよう
に、Cを配合することを意味する。
【0033】Cは、モールドパウダの溶融速度の調整す
る作用を有し、C含有率が高くなると、その溶融速度が
遅くなる。1%未満では、その効果が小さく、10%を
超えると、溶融速度が過度に小さくなり、鋳型内壁と凝
固殻との間の潤滑性が悪くなる。さらに、モールドパウ
ダにCを配合すると、溶鋼中のCが高くなる作用がある
ので、C含有率が50ppm程度以下の極低炭素鋼を鋳
造する際には、モールドパウダのC含有率は2.5%以
下とするのが望ましい。
【0034】モールドパウダの溶融層の凝固温度は、8
00〜1300℃とするのが望ましい。800℃未満に
凝固温度を低下させることは困難であり、1300℃を
超えると、溶融層が鋳型内壁と凝固殻の間に流入しにく
くなり、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性が悪くなる。
【0035】モールドパウダの溶融層の粘度は、130
0℃において0.5Pa・s以下とするのが望ましい。
0.5Pa・sを超えると、鋳型内壁と凝固殻との間に
流入する溶融層の量が不足し、鋳片表面に縦割れが発生
したり、ブレークアウトの発生が多くなる。0.3Pa
・s以下が、さらに望ましい。
【0036】本発明のモールドパウダを製造する際に使
用する原料は、一般的に使用されている原料で構わな
い。CaO原料としては生石灰、石灰石、セメントを、
SiO 原料としては珪砂、軽藻土を、Li O原
料としては炭酸リチウムを、F分の原料としては蛍石、
フッ化ソーダを、Na O原料としてはソーダ灰を、
O原料としては炭酸カリウム、弗化カリウムを、
Al 原料としてはアルミナ粉を、MgO原料
としてはMgOクリンカ、炭酸マグネシウムを、C原料
としてはカーボンブラック、コークス粉を用いることが
できる。
【0037】また、原料の粒度は100μm以下が望ま
しい。なお、これらの原料にはFe 、Fe
などの酸化物が含有されており、モールドパウダ
およびその溶融スラグ中にも不可避的に含まれるように
なる。しかし、これらの不純物が存在しても、とくに差
し支えない。
【0038】
【実施例】(実施例1)垂直曲げ型連続鋳造機を用い、
表1に示す化学組成で、Alを2.3〜2.5質量%含
有する極低炭素鋼を、厚さ230mm、幅1260mm
の鋳片に、速度0.9m/分で鋳造した。各試験では、
1ヒート約210tonの溶鋼をそれぞれ鋳造した。
【0039】
【表1】 用いたモールドパウダの組成、前述の(イ)式、(ロ)
式および(ハ)式で規定される指標a、bおよびc、凝
固温度、1300℃における粘度を表2に示す。モール
ドパウダA〜Eは、本発明で規定する組成、ならびに指
標a、bおよびcの条件を満たすモールドパウダであ
り、また、望ましい凝固温度および粘度の条件も満足す
る。一方、モールドパウダF〜Hは、本発明で規定する
組成、指標a、bなどの条件の範囲を外れたモールドパ
ウダである。モールドパウダAにはMgOを含有させ
ず、その他のモールドパウダにはMgOを含有させて、
凝固温度および粘度を調整した。
【0040】
【表2】 各試験では、鋳造中に鋳型内のモールドパウダ、その溶
融層および溶鋼中に、直径約5mmの鋼製の棒を挿入
し、約5秒保持した後に引き上げ、その棒表面に付着し
た溶融層の固化物の厚さを測定することにより、モール
ドパウダの溶融層の厚さを測定した。また、その引き上
げた溶融層の固化物のAl 含有率を発光分光
分析法により分析し、溶融層中のAl の増加
量を測定した。
【0041】また、鋳型長辺側の銅板内壁に、通常、ブ
レークアウト予知の目的で行われるのと同じ要領で熱電
対を埋設し、銅板内壁の温度変化を測定し、その温度変
化の状況により、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性を評
価し、極端に潤滑性が悪化した場合には、ブレークアウ
トの予知警報を行った。さらに、得られた鋳片の表面を
目視で観察し、とくにオシレーションマーク、割れ、鋳
型内壁との焼き付き跡などを観察した。試験結果を表3
に示す。なお、以下の含有率%は、質量%を意味する。
【0042】
【表3】 本発明のモールドパウダA〜Eを用いた本発明例の試験
No.1〜No.5では、鋳造中の溶融層の厚さは5〜
15mmの範囲内であり、また溶融層中のAl
含有率の増加量は6.9〜9.7%で、ともに安定し
ていた。そのため、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性が
良好であり、鋳型長辺側の銅板内壁の温度変化は±5℃
程度で安定し、鋳片表面品質も良好であった。
【0043】比較例の試験No.6では、Na Oを
19.0%と著しく多く含有し、指標aの値が0.35
と低く、本発明で規定する条件を外れたモールドパウダ
Fを用いた。Na O含有率が高いことから、モール
ドパウダの溶融が過度に促進され、鋳造初期から、鋳片
表面に縦割れが発生した。また、鋳造中に溶融層中のA
含有率の増加量が21.4%と多くなり、
さらに、指標aが小さいこともあって、溶融層中にゲー
レナイトの結晶の析出が多くなり、溶融層の凝固温度お
よび粘度が高くなって、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑
性が悪化した。そのため、約半分の溶鋼量を鋳造した以
降において、溶融層の厚さ順次増大し、鋳造終了時には
厚さ40mmに達した。その間、鋳型長辺側の銅板内壁
の温度変化も±5℃程度から、±20℃程度にまで大き
くなった。鋳造終了直前には、さらに上記温度変化が著
しくなった。鋳造後半の鋳片表面には、オシレーション
マークが形成されず、また、部分的に鋳型内壁との焼き
付き跡が認められ、鋳造終了直前の鋳片表面には、鋳型
内壁との著しい焼き付き跡が観察された。
【0044】比較例の試験No.7では、Na Oを
5.0%と多く含有し、指標bの値が0.42と高く、
本発明で規定する条件を外れたモールドパウダGを用い
た。また、Al 含有率が約31%と、望まし
い条件を外れて高いモールドパウダである。溶融層中の
Al 含有率の増加量は6.4%程度で少なか
ったが、溶融層の凝固温度が高くなって、鋳型内壁と凝
固殻との間の潤滑性が悪化した。また、鋳造初期から溶
融層の厚さ順次増大し、約半分の溶鋼量を鋳造した時点
で、厚さ40mm以上に達した。鋳型長辺側の銅板内壁
の温度変化も大きく、±20℃程度となった。鋳片表面
には、鋳型内壁との焼き付き跡が観察された。
【0045】比較例の試験No.8では、指標bの値が
0.45と高く、本発明で規定する条件を外れたモール
ドパウダHを用いた。また、Al 含有率が約
33%と、望ましい条件を外れて高いモールドパウダで
ある。溶融層中のAl 含有率の増加量は5.
1%程度で少なく、溶融層の厚さも通常の5〜15mm
程度であり、鋳型長辺側の銅板内壁の温度変化も±10
℃程度であったが、溶融層の凝固温度が高くなって、鋳
型内壁と凝固殻との間の潤滑性が悪く、鋳片表面にオシ
レーションマークは形成されていなかった。 (実施例2)垂直曲げ型連続鋳造機を用い、表4に示す
化学組成で、Alを1.0〜1.2質量%含有する中炭
素鋼を、厚さ230mm、幅1260mmの鋳片に、速
度0.7m/分で鋳造した。各試験では、1ヒート約2
10tonの溶鋼をそれぞれ鋳造した。
【0046】
【表4】 用いたモールドパウダの組成、前述の(イ)式、(ロ)
式および(ハ)式で規定される指標a、bおよびc、凝
固温度、1300℃における粘度を表5に示す。モール
ドパウダIは、本発明で規定する組成ならびに指標a、
bおよびcの条件を満たすモールドパウダであり、ま
た、望ましい凝固温度および粘度の条件も満足する。一
方、モールドパウダJは、本発明で規定する組成、指標
aの条件の範囲を外れたモールドパウダである。
【0047】
【表5】 各試験では、実施例1と同じ方法により、モールドパウ
ダの溶融層厚さ、溶融層中のAl の増加量を
測定した。また、鋳型長辺側の銅板内壁の温度変化を測
定し、さらに、得られた鋳片の表面品質を目視で観察し
た。試験結果を表6に示す。なお、以下の含有率%は、
質量%を意味する。
【0048】
【表6】 本発明のモールドパウダIを用いた本発明例の試験N
o.9では、鋳造中の溶融層の厚さは5〜15mmの範
囲内であり、また溶融層中のAl 含有率の増
加量は4.1%で、ともに安定していた。そのため、鋳
型内壁と凝固殻との間の潤滑性が良好であり、鋳型長辺
側の銅板内壁の温度変化は±5℃程度で安定し、鋳片表
面品質も良好であった。
【0049】比較例の試験No.10では、Na
を19.0%と多く含有し、指標aの値が0.35と低
く、本発明で規定する条件を外れたモールドパウダJを
用いた。Na O含有率が高いことから、モールドパ
ウダの溶融が過度に促進され、鋳造初期から、鋳片表面
に縦割れが発生した。また、鋳造中に溶融層中のAl
含有率の増加量が13.4%と多くなり、さら
に、指標aが低いこともあって、溶融層中にゲーレナイ
トの結晶の析出が多くなり、溶融層の凝固温度および粘
度が高くなって、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性が悪
化した。そのため、約半分の溶鋼量を鋳造した以降にお
いて、溶融層の厚さ順次増大し、鋳造終了時には厚さ4
0mmに達した。その間、鋳型長辺側の銅板内壁の温度
変化も±5℃程度から、±20℃程度にまで大きくなっ
た。鋳造終了直前には、さらに上記温度変化が著しくな
った。鋳造後半の鋳片表面には、オシレーションマーク
が形成されず、また、部分的に鋳型内壁との焼き付き跡
が認められ、鋳造終了直前の鋳片表面には、鋳型内壁と
の著しい焼き付き跡が観察された。
【0050】
【発明の効果】本発明のモールドパウダの適用により、
Al含有率が1.0質量%程度以上の高Al含有鋼、ま
たはAl含有率が1.0質量%程度以上の極低炭素鋼を
連続鋳造する場合に、溶融層の凝固温度および粘度が高
くなり、鋳型内壁と凝固殻との間の潤滑性が悪化するこ
とによる、ブレークアウトの発生および鋳片の表面品質
の悪化を防止することができる。

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】CaO、SiO 、Li Oおよびフ
    ッ素化合物を基本成分とするモールドパウダであって、
    さらに、Na OおよびK Oのうちの1種以上、
    ならびにAl を含有し、フッ素化合物を構成
    するFの含有率が4〜25質量%、Na OおよびK
    Oの合計の含有率が1.5質量%以下であり、か
    つ、これらCaO、SiO 、Li O、F、Na
    O、K OおよびAl の含有率で表さ
    れる、下記(イ)式、(ロ)式および(ハ)式によって
    規定される指標aが0.47〜0.7、指標bが0〜
    0.4、および指標cが0〜0.6であることを特徴と
    する連続鋳造用モールドパウダ。 a=(%CaO)h/{(%CaO)h+(%SiO)h +(%Al)h}・・・(イ) b=(%Al)h/{(%CaO)h+(%SiO)h +(%Al)h}・・・(ロ) c=(%CaF)h/{(%CaO)h+(%SiO)h +(%CaF)h} ・・・(ハ) ここで、(%CaO)h={WCaO−(%CaF)h×0.718}・・・(ニ )、 (%CaF)h=(W−WLi2O×1.27−WNa2O×0.613 −WK2O ×0.404)×2.05・・・(ホ )、 (%SiO)h=WSiO2 および(%Al)h
    =WAl2O3 であり、また、WCaO、WSiO2
    、WAl2O3 、WLi2O、WNa2OおよびW
    K2O は、モールドパウダ中の分析されるCa、S
    i、Al、Li、Na、Kが全てそれらの酸化物である
    として換算した含有率(質量%)であり、Wは、分析
    されるFの含有率(質量%)である。
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