JP2002056844A - アルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法およびこの正極活物質を用いたニッケル電極ならびにこのニッケル電極を用いたアルカリ蓄電池 - Google Patents

アルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法およびこの正極活物質を用いたニッケル電極ならびにこのニッケル電極を用いたアルカリ蓄電池

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高次化された正極活物質に残存するγ−Ni
OOHを減少させて、放電性が低下せず、かつ負極余剰
容量を削減した高容量のアルカリ蓄電池を得る。 【解決手段】 硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルト
の混合水溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液
を徐々に添加して水酸化ニッケルを析出させた。洗浄
後、脱水、乾燥した水酸化ニッケルを、所定の温度に維
持された水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌しながら、酸
化剤(NaClO)を所定量滴下して、主成分の水酸化
ニッケルを高次化(例えば、平均価数は2.8価にな
る)させた。ついで、所定量の還元剤(H22)を滴下
して、主成分の高次水酸化ニッケルを還元(例えば、平
均価数は2.2価になる)した。洗浄後、脱水、乾燥す
ることにより、高次水酸化ニッケル活物質(正極活物
質)とした。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はニッケル−水素蓄電
池、ニッケル−カドミウム蓄電池などのアルカリ蓄電池
に係り、特に、ニッケル電極に用いられる水酸化ニッケ
ルを主成分とする正極活物質の製造方法の改良に関す
る。
【0002】
【従来の技術】この種のアルカリ蓄電池の正極として一
般に用いられるニッケル電極は、充電時には、下記の
(1)式で示すように、2価の水酸化ニッケル(Ni
(OH)2)は3価のオキシ水酸化ニッケル(NiOO
H)になり、放電時には、下記の(2)式で示すよう
に、3価のオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)は2価
の水酸化ニッケル(Ni(OH)2)になる可逆反応を
利用している。 Ni(OH)2+OH-→NiOOH+H2O+e・・・(1) Ni(OH)2+OH-←NiOOH+H2O+e・・・(2)
【0003】この反応は完全な可逆的反応ではなく、放
電によりオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)から水酸
化ニッケル(Ni(OH)2)に戻る際に、2.2価程
度で放電反応が停止してしまうという現象が生じた。こ
のため、負極には0.2価に相当する電気量が不可逆分
として常に残存し、この残存した電気量は電池容量に寄
与しないこととなる。
【0004】そこで、このような負極での不可逆容量を
削減する方法が、例えば、特許第2765008号公報
で提案されるようになった。ここで、特許第27650
08号公報において提案された方法にあっては、水酸化
ニッケルを化学的に部分的に酸化した2価を超えるニッ
ケル酸化物(高次水酸化ニッケル)を正極活物質として
用いるようにしている。これにより、負極には不可逆分
として残存するような電気量がなくなり、全ての電気量
が電池容量に寄与することとなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、予め水
酸化ニッケルを酸化して高次化されたニッケル酸化物
(高次水酸化ニッケル)とし、これを正極活物質として
用いて作製した正極を放電させようとすると、同じ質量
の水酸化ニッケルを正極活物質として用いて作製した正
極を放電させた場合と比較して、放電容量が低下すると
いう問題を生じた。
【0006】これは、水酸化ニッケル(Ni(O
H)2)を電気化学的に酸化(充電)すると、電気化学
的に放電が容易なβ−NiOOHに変化するのに対し
て、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を化学的に酸化
すると、放電が容易なβ−NiOOH以外にも、電気化
学的に放電し難いγ−NiOOHが生成されるためであ
る。この場合、γ−NiOOHは導電性が低く、自らが
放電されない上に、導電性を阻害することにより、正極
活物質全体の利用率が低下して放電容量が低下すると考
えられる。
【0007】そこで、本発明は上記問題点を解消するた
めになされたものであり、高次化されたニッケル酸化物
(高次水酸化ニッケル)に残存するγ−NiOOHを減
少させて、放電性が低下せず、かつ負極余剰容量を削減
して高容量のアルカリ蓄電池が得られるようにすること
を目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】上
記課題を解決するため、本発明のアルカリ蓄電池用正極
活物質の製造方法は、水酸化ニッケルを化学的に酸化す
る酸化工程と、酸化された高次水酸化ニッケルを還元す
る還元工程とを備えるようにしている。このように、酸
化工程により水酸化ニッケルを化学的に酸化して高次化
すると、負極余剰容量を削減することができるので、高
容量のアルカリ蓄電池が得られるようになる。
【0009】この場合、化学的な酸化により、電気化学
的に放電が容易なβ−NiOOHが生成されるととも
に、電気化学的に放電し難いγ−NiOOHが生成され
るが、次の還元工程により高次化されたオキシ水酸化ニ
ッケル(β−NiOOHおよびγ−NiOOH)が還元
されて水酸化ニッケル(Ni(OH)2)に変化するこ
ととなる。この還元時においては、γ−NiOOHはβ
−NiOOHよりも還元されやすいので、γ−NiOO
Hは減少して電気化学的に放電が容易なβ−NiOOH
が相対的に増大することとなる。これにより、正極全体
としての導電性が向上するようになるため、活物質の利
用率が向上して放電容量が増大し、高容量のアルカリ蓄
電池が得られるようになる。
【0010】また、本発明のアルカリ蓄電池用正極活物
質の製造方法は、水酸化ニッケルの表面をコバルト化合
物で被覆する被覆工程と、水酸化ニッケルを化学的に酸
化する酸化工程と、酸化された高次水酸化ニッケルを還
元する還元工程とを備えるようにしている。このよう
に、被覆工程により、水酸化ニッケルの表面をコバルト
化合物で被覆すると、コバルト化合物は導電性が良好で
あるため、正極内に良好な導電ネットワークが形成され
て、活物質利用率が向上して、高容量の蓄電池が得られ
るようになる。この場合、水酸化ニッケルの表面に被覆
されたコバルト化合物をアルカリ熱処理して高次コバル
ト化合物に変化させると、高次コバルト化合物はコバル
ト化合物よりもさらに導電性が良好であるため、一層、
正極内に良好な導電ネットワークが形成されて、さらに
活物質利用率が向上して、さらに高容量の蓄電池が得ら
れるようになる。
【0011】そして、高次水酸化ニッケルの平均価数が
2.1価よりも低くなると負極での不可逆容量の削減量
が充分でなく、電池の内部空間を有効に利用することが
できなくなる。一方、平均価数が2.3価よりも高くな
ると負極の充電量が小さくなることで、負極規制の電池
となって容量が大幅に低下する。このことから、高次水
酸化ニッケルの平均価数は2.10価以上で2.30価
以下にすることが好ましい。さらに、還元工程を還元剤
による化学的還元により行うようにすると、電気化学的
な還元に比べて大量のNiOOHを一度に還元できるよ
うになるので、この種の正極活物質を高効率で製造する
ことが可能となり、安価に製造することができるように
なる。
【0012】
【発明の実施の形態】1.ニッケル正極の作製 (1)実施例1 質量比で金属ニッケル100に対して亜鉛3質量%、コ
バルト1質量%となるような硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、
硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌しながら、水酸化ナト
リウム水溶液を徐々に添加し、反応溶液中のpHを13
〜14に安定させて粒状の水酸化ニッケルを析出させ
た。次に、粒状の水酸化ニッケルに対して、10倍量の
純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、粒
状の水酸化ニッケル活物質を作製した。
【0013】ついで、このようにして作製された粒状の
水酸化ニッケル活物質を、40℃〜60℃の温度に維持
された32質量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌し
ながら、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)(酸化
剤)を所定量滴下して、主成分の水酸化ニッケルを酸化
(高次化)させて高次水酸化ニッケルとした。なお、水
酸化ナトリウム水溶液中に滴下する次亜塩素酸ナトリウ
ム(NaClO)の滴下量は、2価の水酸化ニッケルを
80質量%だけ3価のオキシ水酸化ニッケルに酸化させ
るだけの量とした。これらの粒子(高次水酸化ニッケ
ル)を化学分析法により分析した結果、平均価数は2.
80価であった。
【0014】ついで、このようにして高次化された粒子
(高次水酸化ニッケル)が生成された水溶液を撹拌しな
がら、所定量の過酸化水素(H22)(還元剤)を滴下
して、主成分の高次水酸化ニッケルを還元した。なお、
水溶液中に滴下する過酸化水素(H22)の滴下量は、
生成した3価のオキシ水酸化ニッケルを75質量%だけ
2価の水酸化ニッケルに還元させるだけの量とした。こ
れらの粒子(高次水酸化ニッケル)を化学分析法により
分析した結果、平均価数は2.20価であった。
【0015】ついで、この活物質を10倍量の純水で3
回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、粒状の高次
水酸化ニッケル活物質(正極活物質)を作製した。この
正極活物質に40質量%のHPC(ヒドロキシルプロピ
ルセルロース)ディスパージョン液を添加混合して活物
質スラリーを作製した。この活物質スラリーを発泡ニッ
ケルからなる多孔性電極基板に所定の充填密度となるよ
うに充填した後、乾燥させて、所定の厚みになるように
圧延して非焼結式ニッケル正極を作製した。この非焼結
式ニッケル正極を実施例1のニッケル正極aとした。
【0016】(2)実施例2 実施例1と同様に、質量比で金属ニッケル100に対し
て亜鉛3質量%、コバルト1質量%となるような硫酸ニ
ッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌し
ながら、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加し、反応
溶液中のpHを13〜14に安定させて粒状の水酸化ニ
ッケルを溶出させた。次に、水酸化ニッケルが溶出した
溶液に、反応溶液中のpHを9〜10に維持するように
して硫酸コバル水溶液を添加して、主成分が水酸化ニッ
ケルである球状水酸化物を結晶核とし、この核の周囲に
水酸化コバルトを析出させた。なお、水酸化コバルトの
析出量は水酸化ニッケルに対して10質量%とした。
【0017】ついで、この析出物を採取して、この析出
物に対して10倍量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾
燥することにより、水酸化コバルト被覆層を有する粒状
の水酸化ニッケル活物質を作製した。ついで、このよう
にして作製された粒状の水酸化ニッケル活物質を、40
℃〜60℃の温度に維持された32質量%の水酸化ナト
リウム水溶液中で撹拌しながら、次亜塩素酸ナトリウム
(NaClO)(酸化剤)を所定量滴下して、主成分の
水酸化ニッケルを酸化(高次化)させて高次水酸化ニッ
ケルとした。なお、水酸化ナトリウム水溶液中に滴下す
る次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の滴下量は、2
価の水酸化ニッケルを80質量%だけ3価のオキシ水酸
化ニッケルに酸化させるだけの量とした。これらの粒子
(高次水酸化ニッケル)を化学分析法により分析した結
果、平均価数は2.80価であった。
【0018】ついで、このようにして高次化された粒子
(高次水酸化ニッケル)が生成された水溶液を撹拌しな
がら、所定量の過酸化水素(H22)(還元剤)を滴下
して、主成分の高次水酸化ニッケルを還元した。なお、
水溶液中に滴下する過酸化水素(H22)の滴下量は、
生成した3価のオキシ水酸化ニッケルを75質量%だけ
2価の水酸化ニッケルに還元させるだけの量とした。こ
れらの粒子(高次水酸化ニッケル)を化学分析法により
分析した結果、平均価数は2.20価であった。
【0019】ついで、これらの活物質を10倍量の純水
で3回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、コバル
被覆層を有する粒状の高次水酸化ニッケル活物質(正極
活物質)を作製した。この正極活物質に40質量%のH
PC(ヒドロキシルプロピルセルロース)ディスパージ
ョン液を添加混合して活物質スラリーを作製した。この
活物質スラリーを発泡ニッケルからなる多孔性電極基板
に所定の充填密度となるように充填した後、乾燥させ
て、所定の厚みになるように圧延して非焼結式ニッケル
正極を作製した。この非焼結式ニッケル正極を実施例2
のニッケル正極bとした。
【0020】(3)実施例3 実施例1と同様に、質量比で金属ニッケル100に対し
て亜鉛3質量%、コバルト1質量%となるような硫酸ニ
ッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌し
ながら、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加し、反応
溶液中のpHを13〜14に安定させて粒状の水酸化ニ
ッケルを溶出させた。次に、水酸化ニッケルが溶出した
溶液に、反応溶液中のpHを9〜10に維持するように
して硫酸コバル水溶液を添加して、主成分が水酸化ニッ
ケルである球状水酸化物を結晶核とし、この核の周囲に
水酸化コバルトを析出させた。なお、水酸化コバルトの
析出量は水酸化ニッケルに対して10質量%とした。
【0021】ついで、この析出物を採取して水洗、乾燥
させて水酸化ニッケル粒子の表面に水酸化コバルト層を
形成した複合粒子粉末を得た。ついで、この複合粒子粉
末を100℃の加熱空気の雰囲気中で保持し、この複合
粒子粉末に対して25質量%の水酸化ナトリウム(Na
OH)を0.5時間噴霧した。これにより、水酸化ニッ
ケル粒子の表面に形成された水酸化コバルト層は高次化
されて高次コバルト化合物層となる。ついで、この複合
粒子粉末に対して、10倍量の純水で3回洗浄した後、
脱水、乾燥することにより、高次コバルト化合物被覆層
を有する粒状の水酸化ニッケル活物質を作製した。
【0022】ついで、このようにして作製された高次コ
バルト化合物被覆層を有する粒状の水酸化ニッケル活物
質を、40℃〜60℃の温度に維持された32質量%の
水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌しながら、次亜塩素酸
ナトリウム(NaClO)(酸化剤)を所定量滴下し
て、主成分の水酸化ニッケルを酸化(高次化)させて高
次水酸化ニッケルとした。なお、水酸化ナトリウム水溶
液中に滴下する次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の
滴下量は、2価の水酸化ニッケルを80質量%だけ3価
のオキシ水酸化ニッケルに酸化させるだけの量とした。
これらの粒子(高次水酸化ニッケル)を化学分析法によ
り分析した結果、平均価数は2.80価であった。
【0023】ついで、このようにして高次化された粒子
(高次水酸化ニッケル)が生成された水溶液を撹拌しな
がら、所定量の過酸化水素(H22)(還元剤)を滴下
して、主成分の高次水酸化ニッケルを還元した。なお、
水溶液中に滴下する過酸化水素(H22)の滴下量は、
生成した3価のオキシ水酸化ニッケルを75質量%だけ
2価の水酸化ニッケルに還元させるだけの量とした。こ
の粒子(高次水酸化ニッケル)を化学分析法により分析
した結果、平均価数は2.20価であった。
【0024】ついで、この活物質を10倍量の純水で3
回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、粒状の高次
水酸化ニッケル活物質(正極活物質)を作製した。この
正極活物質に40質量%のHPC(ヒドロキシルプロピ
ルセルロース)ディスパージョン液を添加混合して活物
質スラリーを作製した。この活物質スラリーを発泡ニッ
ケルからなる多孔性電極基板に所定の充填密度となるよ
うに充填した後、乾燥させて、所定の厚みになるように
圧延して非焼結式ニッケル正極を作製した。この非焼結
式ニッケル正極を実施例3のニッケル正極cとした。
【0025】(4)比較例1 実施例1と同様に、質量比で金属ニッケル100に対し
て亜鉛3質量%、コバルト1質量%となるような硫酸ニ
ッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌し
ながら、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加し、反応
溶液中のpHを13〜14に安定させて粒状の水酸化ニ
ッケルを析出させた。次に、粒状の水酸化ニッケルに対
して、10倍量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥す
ることにより、粒状の水酸化ニッケル活物質(正極活物
質)を作製した。この粒子(水酸化ニッケル)を化学分
析法により分析した結果、平均価数は2.00価であっ
た。
【0026】ついで、得られた正極活物質に40質量%
のHPC(ヒドロキシルプロピルセルロース)ディスパ
ージョン液を添加混合して活物質スラリーを作製した。
この活物質スラリーを発泡ニッケルからなる多孔性電極
基板に所定の充填密度となるように充填した後、乾燥さ
せて、所定の厚みになるように圧延して非焼結式ニッケ
ル正極を作製した。この非焼結式ニッケル正極を比較例
1のニッケル正極xとした。
【0027】(5)比較例2 実施例1と同様に、質量比で金属ニッケル100に対し
て亜鉛3質量%、コバルト1質量%となるような硫酸ニ
ッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌し
ながら、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加し、反応
溶液中のpHを13〜14に安定させて粒状の水酸化ニ
ッケルを析出させた。次に、粒状の水酸化ニッケルに対
して、10倍量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥す
ることにより、粒状の水酸化ニッケル活物質を作製し
た。
【0028】ついで、このようにして作製された粒状の
水酸化ニッケル活物質を、40℃〜60℃の温度に維持
された32質量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌し
ながら、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)(酸化
剤)を所定量滴下して、主成分の水酸化ニッケルを酸化
(高次化)させて高次水酸化ニッケルとした。なお、水
酸化ナトリウム水溶液中に滴下する次亜塩素酸ナトリウ
ム(NaClO)の滴下量は、2価の水酸化ニッケルを
20質量%だけ3価のオキシ水酸化ニッケルに酸化させ
るだけの量とした。この粒子(高次水酸化ニッケル)を
化学分析法により分析した結果、平均価数は2.20価
であった。
【0029】ついで、この活物質を10倍量の純水で3
回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、粒状の高次
水酸化ニッケル活物質(正極活物質)を作製した。この
正極活物質に40質量%のHPC(ヒドロキシルプロピ
ルセルロース)ディスパージョン液を添加混合して活物
質スラリーを作製した。この活物質スラリーを発泡ニッ
ケルからなる多孔性電極基板に所定の充填密度となるよ
うに充填した後、乾燥させて、所定の厚みになるように
圧延して非焼結式ニッケル正極を作製した。この非焼結
式ニッケル正極を比較例2のニッケル正極yとした。
【0030】2.水素吸蔵合金負極の作製 ミッシュメタル(Mm:希土類元素の混合物)、ニッケ
ル、コバルト、アルミニウム、およびマンガンを1:
3.6:0.6:0.2:0.6の比率で混合し、この
混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉で誘導加熱
して合金溶湯となす。この合金溶湯を公知の方法で冷却
し、組成式Mm1.0Ni3.6Co0.6Al0.2Mn0.6で表
される水素吸蔵合金のインゴットを作製した。この水素
吸蔵合金インゴットを機械的に粉砕し、平均粒子径が約
100μmの水素吸蔵合金粉末となし、この水素吸蔵合
金粉末にポリエチレンオキサイド等の結着剤と、適量の
水を加えて混合して水素吸蔵合金ペーストを作製した。
このペーストをパンチングメタルに塗布し、乾燥した
後、厚み0.4mmに圧延して水素吸蔵合金負極を作製
した。
【0031】3.ニッケル−水素蓄電池の作製 上述のように作製した実施例1〜3の各非焼結式ニッケ
ル正極a,b,cおよび比較例1〜2の各非焼結式ニッ
ケル正極x,yとを用い、これらと上述した水素吸蔵合
金負極とをそれぞれポリプロピレン製あるいはナイロン
製の不織布のセパレータを介して卷回して、渦巻状の電
極群を作製した後、この電極群を外装缶に挿入した。そ
の後、外装缶内に電解液として30質量%の水酸化カリ
ウム水溶液を注入し、更に外装缶を封口して、公称容量
1200mAhのAAサイズのニッケル−水素蓄電池を
それぞれ作製した。
【0032】ここで、非焼結式ニッケル正極aを用いた
電池を実施例1の電池Aとし、非焼結式ニッケル正極b
を用いた電池を実施例2の電池Bとし、非焼結式ニッケ
ル正極cを用いた電池を実施例3の電池Cとした。ま
た、非焼結式ニッケル正極xを用いた電池を比較例1の
電池Xとし、非焼結式ニッケル正極yを用いた電池を比
較例2の電池Yとした。
【0033】4.放電容量の測定 ついで、上述のように作製した実施例1の電池A、実施
例2の電池B、実施例3の電池C、比較例1の電池Xお
よび比較例2の電池Yをそれぞれ用い、これらの各電池
をそれぞれ120mA(0.1C)の充電電流で16時
間充電した後、1時間休止させ、1200mA(1C)
の放電電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させ
て、放電時間から放電容量を求め、比較例1の電池Xの
放電容量を100としてそれの比率を算出すると、下記
の表1に示すような結果となった。
【0034】
【表1】
【0035】上記表1の結果から明らかなように、酸化
剤による酸化(高次化)処理のみを行った比較例2の正
極活物質yを用いた電池Yの放電容量は、酸化処理を行
わなかった比較例1の正極活物質xを用いた電池Xの放
電容量よりも小さいことが分かる。これは、正極活物質
(水酸化ニッケル)を酸化剤によって酸化処理を施す
と、β−NiOOHとγ−NiOOHとが同時に生成さ
れる。その生成割合は反応条件によって異なるが、上記
の反応条件においては、β−NiOOH:γ−NiOO
H=3:1であった。
【0036】したがって、比較例2の正極活物質yのよ
うに酸化剤によって平均価数が2.2価まで酸化(化学
酸化)させると、正極活物質中には約5%(20%×1
/4)のγ−NiOOHが存在することとなる。このγ
−NiOOHは放電性が低くくて導電性が悪いために、
γ−NiOOH自体が放電されない上に、導電性を阻害
することにより、正極活物質全体の利用率が低下して放
電容量が低下したと考えられる。
【0037】一方、酸化剤による酸化(化学酸化)処理
の後、還元剤による還元処理を行った実施例1の正極活
物質aを用いた電池Aの放電容量は、酸化処理を行わな
かった比較例1の正極活物質xを用いた電池Xの放電容
量と同等以上の放電容量であることが分かる。これは、
上述と同様に、β−NiOOHとγ−NiOOHとの生
成割合はβ−NiOOH:γ−NiOOH=3:1であ
り、実施例1の正極活物質aのように化学酸化で平均価
数が2.8価まで酸化させると、正極活物質中には約2
0%(80%×1/4)のγ−NiOOHが存在するこ
ととなる。
【0038】この正極活物質を還元剤で還元処理する
と、NiOOHはNi(OH)2に還元されるが、β−
NiOOHとγ−NiOOHとの還元割合は3:1では
なく、γ−NiOOHの方が還元されやすい。これはβ
−NiOOHよりもγ−NiOOHの方が単位質量当た
りの体積が約1.23倍大きいため、γ−NiOOHの
方が還元剤との接触が起こりやすいためと推測できる。
事実、2.8価から2.2価まで正極活物質を還元する
と、正極活物質中に含まれるγ−NiOOHは約2.5
%であることが分かった。これは化学酸化のみを行った
比較例2の正極活物質yの約半分である。
【0039】このことから、実施例1の正極活物質aの
ように、化学酸化した後に還元処理を施すようにする
と、放電性が低くくて導電性が悪いγ−NiOOHが減
少するとともに、放電性が高くて導電性がよいβ−Ni
OOHが多く存在するようになるため、実施例1の正極
活物質aを用いた電池Aにおいては、活物質の利用率が
向上して放電容量が向上したと考えられる。
【0040】また、実施例1の正極活物質aを用いた電
池Aと、実施例2の正極活物質bを用いた電池Bおよび
実施例3の正極活物質cを用いた電池Cとを比較する
と、電池Bおよび電池Cの放電容量が大きいことが分か
る。これは、電池Bにあっては、正極活物質を酸化(高
次化)する前に正極活物質の表面に水酸化コバルトの被
覆層を形成しているため、水酸化コバルトは導電性が良
好で正極内に良好な導電ネットワークが形成され、活物
質利用率が向上して、放電容量が向上したと考えられ
る。
【0041】また、電池Cにあっては、正極活物質の表
面に形成された水酸化コバルトの被覆層がアルカリ熱処
理により高次化されてアルカリカチオンを含む高次コバ
ルト化合物の被覆層が形成されている。このアルカリカ
チオンを含む高次コバルト化合物は水酸化コバルトより
も導電性が良好であるため、一層、正極内に良好な導電
ネットワークが形成されて、さらに活物質利用率が向上
することとなる。これにより、さらに放電容量が向上し
たと考えられる。
【0042】5.高率放電容量の測定 ついで、上述のように作製した実施例1の電池A、実施
例2の電池B、実施例3の電池C、比較例1の電池Xお
よび比較例2の電池Yをそれぞれ用い、これらの各電池
をそれぞれ120mA(0.1C)の充電電流で16時
間充電した後、1時間休止させ、4800mA(4C)
の放電電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させ
て、放電時間から高率放電時の放電容量を求め、比較例
1の電池Xの放電容量を100としてそれの比率を算出
すると、下記の表2に示すような結果となった。
【0043】
【表2】
【0044】上記表2の結果から明らかなように、化学
酸化処理のみを行った比較例2の正極活物質yを用いた
電池Yの放電容量が大幅に低下していることが分かる。
これは、γ−NiOOHが存在することによる導電性の
低下が、高率放電に伴って顕著になったためと考えられ
る。また、実施例2の正極活物質bを用いた電池Bおよ
び実施例3の正極活物質cを用いた電池Cの放電容量が
大幅に向上していることが分かる。これは、電池Bにあ
っては、正極活物質の表面に形成された水酸化コバルト
被覆層により導電性が向上し、高率放電において容量向
上効果が発揮されたと考えられる。また、電池Cにあっ
ては、さらに導電性が向上したアルカリカチオンを含む
高次コバルト化合物の被覆層が正極活物質の表面に形成
されているため、高率放電においてさらに容量向上効果
が発揮されたと考えられる。
【0045】上述したように、本発明においては、水酸
化ニッケルを酸化剤により酸化して高次化した後、高次
化された水酸化ニッケルを化学的に還元するようにして
いる。このため、化学的な酸化により負極余剰容量を削
減することが可能となり、還元時においては、γ−Ni
OOHが減少して正極内の導電性が向上する。これによ
り、活物質の利用率が増大し、放電容量が増大して高容
量のアルカリ蓄電池が得られるようになる。
【0046】なお、上述した実施の形態においては、酸
化処理により平均価数を2.8価まで酸化し、還元処理
により平均価数を2.2価まで還元する例について説明
したが、高次水酸化ニッケルの平均価数が2.1価より
も低くなると負極の不可逆容量の削減量が充分でなく、
電池の内部空間を有効に利用することができなくなる。
一方、平均価数が2.3価よりも高くなると負極の充電
量が小さくなることで、負極規制の電池となって容量が
大幅に低下する。このことから、高次水酸化ニッケルの
平均価数は2.10価以上で2.30価以下にすること
が好ましいということができる。
【0047】また、上述した実施の形態においては、酸
化処理する酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いる
例について説明したが、次亜塩素酸ナトリウム以外の酸
化剤、例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(Na22
8)、ペルオキソ二硫酸カリウム(K228)等の他
の酸化剤を用いても同様の効果が得られた。また、還元
処理する還元剤として過酸化水素を用いる例について説
明したが、過酸化水素以外の還元剤、例えばヒドラジ
ン、ヨウ化水素等の他の還元剤を用いても同様の効果が
得られた。さらに、上述した実施の形態においては、本
発明をニッケル−水素蓄電池に適用する例について説明
したが、本発明はニッケル−水素蓄電池に限らず、ニッ
ケル−カドミウム蓄電などの他のアルカリ蓄電池に適用
しても同様な効果が期待できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4G048 AA03 AB02 AB04 AB05 AC06 AE05 5H028 AA01 AA05 BB10 EE05 EE10 5H050 AA08 BA14 CA03 CA30 CB17 DA02 DA04 DA11 GA14 GA15 GA22 GA23 HA00

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 水酸化ニッケルを主成分とするアルカリ
    蓄電池用正極活物質の製造方法であって、 前記水酸化ニッケルを化学的に酸化する酸化工程と、 前記酸化された高次水酸化ニッケルを還元する還元工程
    とを備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池用正極活物
    質の製造方法。
  2. 【請求項2】 水酸化ニッケルを主成分とするアルカリ
    蓄電池用正極活物質の製造方法であって、 前記水酸化ニッケルの表面をコバルト化合物で被覆する
    被覆工程と、 前記水酸化ニッケルを化学的に酸化する酸化工程と、 前記酸化された高次水酸化ニッケルを還元する還元工程
    とを備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池用正極活物
    質の製造方法。
  3. 【請求項3】 水酸化ニッケルを主成分とするアルカリ
    蓄電池用正極活物質の製造方法であって、 前記水酸化ニッケルの表面をコバルト化合物で被覆する
    被覆工程と、 前記コバルト化合物をアルカリ熱処理して高次コバルト
    化合物に高次化する高次化工程と、 前記高次コバルト化合物で被覆された水酸化ニッケルを
    化学的に酸化する酸化工程と、 前記酸化された高次水酸化ニッケルを還元する還元工程
    とを備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池用正極活物
    質の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記酸化工程における酸化の程度および
    前記還元工程における還元の程度を調整することによ
    り、還元後の高次水酸化ニッケルの平均価数を2.10
    〜2.30価にするようにしたことを特徴とする請求項
    1から請求項3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用正
    極活物質の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記還元工程は還元剤による化学的還元
    であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれ
    かに記載のアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項1から請求項5のいずれかに記載
    の方法により製造された正極活物質と結着剤からなる活
    物質スラリーが多孔性電極基板に充填されていることを
    特徴とするニッケル電極。
  7. 【請求項7】 請求項6に記載のニッケル電極と、負極
    と、これらの間を隔離するセパレータと、アルカリ電解
    液とを備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池。
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