しかし、従来の機械式ラッシュアジャスタ(特許文献1,2および非特許文献1)は、バルブクリアランスが増加した場合に、バルブクリアランスを減少させる方向(ピボット部材伸長方向)の動作は可能であるが、バルブクリアランスが減少した場合に、バルブクリアランスを増加させる方向(ピボット部材縮小方向)の動作については、ねじのガタ(バックラッシュ)分の調整代はあっても、バルブクリアランスを積極的に増加させる(バルブクリアランスを零に調整する)アジャスト構造を有していない。
詳しくは、図11は、従来の機械式ラッシュアジャスタを構成するピボット部材の雄ねじ(のこ歯ねじ)の形状を拡大して示す図であるが、ピボット部材の雄ねじの「ねじ山」のリード角α’は、ピボット部材縮小方向(図11下方向)・伸長方向(図11上方向)いずれの方向に作用する軸荷重に対しても、ピボット部材がねじ係合部で滑り回転可能な所定角度、例えば、15度に設定されている。
また、上側フランク角θ2も、ねじ山のリード角α’との組み合わせで、ピボット部材伸長方向の軸荷重に対し、ねじ係合部で滑り回転可能な所定角度(例えば、15度)に設定されている。一方、下側フランク角θ1は、ねじ山のリード角α’との組み合わせで、ピボット部材縮小方向の軸荷重に対し、ねじ係合部に発生する摩擦トルクによって「ねじが自立する」所定角度(例えば、75度)に設定されている。
このため、バルブクリアランスが増加した場合は、ピボット部材は、プランジャスプリングのばね力によりねじ係合部において滑り回転してピボット部材伸長方向(バルブクリアランスを減少させる方向)に移動できるが、バルブクリアランスが減少した場合は、ねじ係合部に発生する大きな摩擦トルクのために、ピボット部材は、ねじ係合部において滑り回転できずピボット部材縮小方向(バルブクリアランスを増加させる方向)に移動できない。
例えば、機関(エンジン)が暖まった状態で停止した後、急激に冷えるような場合、シリンダヘッド(アルミニウム合金)とバルブ(鉄合金)の熱膨張係数の違いに起因して、バルブクリアランス過小(負のクリアランス)状態となって、バルブのフェース面がバルブシートから浮くおそれがある。また、バルブシート面が磨耗した場合にも、同様のこと(バルブクリアランスが過小状態となって、バルブのフェース面のバルブシートからの浮き上がり)が起こる。
このような事態に対し、従来のラッシュアジャスタでは、ピボット部材縮小方向(バルブクリアランスを増加させる方向)に動作できないため、バルブクリアランス過小(負のクリアランス)状態が放置されて、冷間時に機関(エンジン)が再始動する際、バルブリフト量が過大となったり、バルブのフェース面とバルブシート間のシール性(燃焼室のシール性)が不良になったりすることが危惧される。
そこで、発明者は、ピボット部材縮小方向の軸荷重に対し、雄ねじと雌ねじで構成されたねじ係合部に発生する摩擦トルクによって「ねじが自立する」という、従来の「のこ歯ねじ」に代えて、ピボット部材のねじ係合部以外の部位、たとえば、ピボット部材のロッカアーム等の軸荷重伝達部材との摺接面に発生する摩擦トルクによって、ピボット部材のプランジャ係合部材(ハウジング)とのねじ係合部における滑り回転を阻止することができないか、と考えた。
即ち、伸長・縮小いずれの方向の軸荷重がピボット部材に作用しても、「ねじが自立する」ことなく、ピボット部材がねじ係合部で滑り回転するが、ピボット部材の主に軸荷重伝達部材(例えば、ロッカアーム)との摺接面に発生する摩擦トルクによって、ねじ係合部での滑り回転が抑制される(以下、これを、ピボット部材が「ねじ係合部で不動となる」という)ように、ねじ係合部を構成する「ねじ」の「ねじ山」の角度(リード角およびフランク角)を設定してやれば、ピボット部材がねじ係合部で不動となる状態(ピボット部材が軸方向に静止した状態)では、ラッシュアジャスタ(のピボット部材)は、カム軸の回転に連係してロッカアームが揺動(バルブが開閉動作)する支点として機能(作用)するとともに、ピボット部材がねじ係合部で不動となる状態以外では、ピボット部材伸長方向(バルブクリアランスを減少させる方向)に動作することは勿論、従来の構造では動作しなかった、ピボット部材縮小方向(バルブクリアランスを増加させる方向)にも動作する、と考えた。
そして、「プランジャに伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、プランジャがねじ係合部で滑り回転して軸荷重作用方向に移動できるとともに、プランジャの軸荷重伝達部材との摺接面およびプランジャスプリングとの摺接面にそれぞれ発生する摩擦トルクの総和が、プランジャをねじ係合部で滑り回転させる推力トルクを上回った場合に、ねじ係合部のねじが自立する、即ち、プランジャのねじ係合部での滑り回転が抑制されてプランジャが該ねじ係合部で不動となるように、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角を設定(例えば、リード角を10~40度、フランク角を5~45度の範囲に設定)する。」という発明について、国際特許出願(PCT/2012/56841)を行い、この出願は、WO2013-136508A(特許文献3)として既に国際公開されている。
そして、発明者は、この特許文献3に係る機械式ラッシュアジャスタについて、引き続き実験を重ねたところ、以下の新たな問題が提起された。
即ち、機関(エンジン)が暖まった状態で停止した後、急激に冷えるような場合とか、バルブシート面が磨耗した場合に発生するバルブクリアランス過小状態では、プランジャの軸荷重伝達部材との摺接面およびプランジャスプリングとの摺接面にそれぞれ発生する摩擦トルクの総和が、プランジャをねじ係合部で滑り回転させる推力トルクを上回る状態となる所定位置まで、プランジャがバルブクリアランス過小状態をなくすように適正量沈み込むべきところ、プランジャが適正量以上に沈み込んで、カムのベースサークルとカムノーズ間のランプ部(バルブの加速度を調整する部分)が機能せず、カムノーズがロッカアームを衝打する打音や、傘部のフェース面(バルブシートフェース)がバルブシートインサートに衝突する衝突音が発生する、という予期せぬ状態(新たな問題)が発生した。
この原因について発明者が考察したところ、ねじ係合部を構成する雄ねじと雌ねじ間には、バックラッシュ(雄ねじと雌ねじ間の隙間)が必ず設けられているが、このバッククラッシュが「プランジャの沈み込み量過大」の原因であることが分かった。
詳しくは、例えば、カムの押圧力がロッカアームを介してプランジャに作用するロッカアーム式動弁機構では、カムとロッカアーム間の接触点がロッカアーム上を移動する際に、プランジャには、プランジャの軸線に沿った軸荷重の他に、カムの押圧力の作用方向の変化に起因して、軸線に対し横方向の横荷重(図5の符号T1,T2参照)も作用する。この横荷重がプランジャに作用すると、ねじ係合部のバックラッシュ(雄ねじと雌ねじ間の隙間)相当、プランジャが横荷重作用方向に揺動し、このプランジャの揺動に伴って、プランジャが滑り回転しながら軸荷重作用方向に移動する分、プランジャは、想定していた沈み込み量よりも多く沈み込むことになる。
この新たな問題に対して、ねじ係合部のバックラッシュをできるだけ小さくしてプランジャに作用する横荷重の影響を無視できれば、即ち、バックラッシュが小さいためプランジャの揺動に伴ってねじ係合部にモーメントが発生しなければ、ねじ係合部におけるプランジャの沈み込み量が適正量となって、ラッシュアジャスタは、バルブクリアランス過小状態をなくすように的確に動作する。しかし、バックラッシュが小さくなるように、ねじ係合部を構成する雄ねじと雌ねじをねじ加工することは非常に難しく、量産するラッシュアジャスタに一定の品質を保証することは実質的に困難である。
そこで、発明者は、先に提案した特許文献3の発明を改善するのではなく、プランジャに作用する軸荷重に対しねじ係合部の「ねじ」が自立することを前程とするものの、「ねじ係合部に存在するバックラッシュをむしろ積極的に利用して、プランジャをねじ係合部で滑り回転させる」という全く新たな構造を考え出した。
即ち、「プランジャに伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじ係合部に発生する摩擦トルクにより、プランジャのねじ係合部での滑り回転が抑制されて「ねじが自立」するが、プランジャに横荷重が作用すると、ねじ係合部のバックラッシュ相当、プランジャは横荷重作用方向に揺動し、そして、このプランジャの揺動に伴って、プランジャをねじ係合部において滑り回転させるモーメントが発生し、これにより、プランジャが軸荷重作用方向に移動する。」という新たな構造である。
そして、「プランジャが横荷重によって揺動する際に、軸荷重作用方向に滑り回転する」という、前記したプランジャの特有な動作は、「プランジャとプランジャ係合部材間のねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角を所定の範囲に設定する」ことで達成される。即ち、ねじ係合部の「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角を所定の範囲に設定することで、軸荷重が作用するプランジャは、原則的には、ねじ係合部で不動(ねじ係合部のねじが自立する形態)となって、カムの回転に連係してロッカアームが揺動動作(バルブが開閉動作)する支点として機能(作用)するとともに、例えば、ロッカアームを介してプランジャに横荷重が作用した場合に、プランジャが軸荷重作用方向に滑り回転して、プランジャ伸長方向(バルブクリアランスを減少させる方向)に動作することは勿論、縮小方向(バルブクリアランスを増加させる方向)にも動作する、と考えた。
そして、発明者は、この新たな機械式ラッシュアジャスタを試作して、その効果を検証したところ、有効であることが確認されたことを受けて、今回の特許出願にいたったものである。
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、バルブクリアランスを自動的に調整できる、従来とは構造の異なる機械式ラッシュアジャスタを提供することにある。
前記課題を解決するために、本発明の第1の実施の形態に係る機械式ラッシュアジャスタにおいては、
バルブスプリングにより閉弁方向に付勢されたバルブの軸端部と、動弁機構構成部材であるカムとの間に介装されて、バルブクリアランスを調整する機械式ラッシュアジャスタにおいて、
前記ラッシュアジャスタは、カムの押圧力が軸荷重として作用するプランジャと、前記プランジャと軸方向にねじ係合し、前記ねじ係合部の周方向に回転しないように保持されたプランジャ係合部材と、前記バルブスプリングの付勢力作用方向と逆方向に前記プランジャを付勢するプランジャスプリングとを備え、
前記プランジャに伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、前記ねじ係合部に発生する摩擦トルクにより該プランジャの前記ねじ係合部での滑り回転が抑制されて「ねじが自立」する(=該プランジャが前記ねじ係合部で不動になる)とともに、前記プランジャに横荷重が作用した場合に、該プランジャが前記ねじ係合部で滑り回転しながら軸荷重作用方向に移動するように、前記ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角が設定されたことを特徴とする。
なお、機械式ラッシュアジャスタには、バルブの軸端部とカムとの間にロッカアームを介して間接的にラッシュアジャスタが介装されるロッカアーム式動弁機構仕様と、バルブの軸端部とカムとの間に直接的にラッシュアジャスタが介装される直動式動弁機構仕様とがある。
即ち、前者(ロッカアーム式動弁機構仕様のラッシュアジャスタ)では、カムの押圧力とバルブスプリングの付勢力がロッカアームを介してラッシュアジャスタ(のプランジャ)に作用する構造であるのに対し、後者(直動式動弁機構仕様のラッシュアジャスタ)は、カムの押圧力とバルブスプリングの付勢力がラッシュアジャスタ(のプランジャとプランジャ係合部材)に直接作用する構造である。
また、動弁機構に対する仕様とは別に、ねじ係合部を構成する雄ねじ(雌ねじ)を、プランジャとプランジャ係合部材のいずれに形成するかによって、以下の第1の構造と第2の構造が考えられる。
即ち、実施例1,2,4に示すように、内側に雌ねじが形成され、周方向に回転しないように保持されたプランジャ係合部材である筒型のハウジングと、前記雌ねじと係合する雄ねじが外側に形成され、前記ハウジングと軸方向にねじ係合するプランジャと、前記ハウジング内に装填されて、前記プランジャをバルブスプリングの付勢力作用方向と逆方向に付勢するプランジャスプリングとを備えた第1の構造(図1,6,8参照)が考えられる。
また、実施例3に示すように、外側に雄ねじが形成され、周方向に回転しないように保持されたプランジャ係合部材であるロッド部材と、前記雄ねじと係合する雌ねじが内側に形成され、前記ロッド部材と軸方向にねじ係合するプランジャと、前記ロッド部材と前記プランジャとの間に介装されて、前記プランジャをバルブスプリングの付勢力作用方向と逆方向に付勢するプランジャスプリングとを備えた第2の構造(図7参照)が考えられる。
(発明の作用)動弁機構を構成するラッシュアジャスタのプランジャには、カム(カムシャフト)が回転することで、軸荷重(カムの押圧力=バルブスプリングの反力とプランジャスプリングの反力の合力)が作用し、この軸荷重によって、雄ねじと雌ねじで構成されたねじ係合部には、プランジャをねじ係合部で滑り回転させようとする推力トルクと、この滑り回転を抑制しようとする摩擦トルクが発生する。
しかし、プランジャに伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、プランジャは、ねじ係合部に発生する摩擦トルクにより該ねじ係合部での滑り回転が抑制されて「ねじが自立」するように、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角が設定されているので、エンジンの運転中(バルブ開閉動作中)、プランジャは、原則、ねじ係合部で滑り回転(プランジャが軸荷重作用方向に移動)することなく不動となって、例えば、軸荷重伝達部材であるロッカアームの揺動支点として機能する。
また、例えば、カムの押圧力がロッカアームを介してプランジャに作用するロッカアーム式動弁機構仕様では、カムとロッカアームとの接触点がロッカアーム上を移動し、カムの押圧力の方向が変化するため、プランジャには、軸荷重の他に横荷重も作用する。
そして、ねじ係合部で滑り回転することなく不動に保持されているプランジャに横荷重が作用すると、ねじ係合部のバックラッシュ相当、プランジャは横荷重作用方向に揺動する。そして、ねじ係合部の周方向に回り止めされているプランジャ係合部材に対し、プランジャが揺動することで、雄ねじの雌ねじとの接触点が周方向に移動するが、横荷重作用方向と接触点の移動方向が一致しないため、この接触点の移動がプランジャをねじ係合部において滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャが滑り回転しながら軸荷重作用方向に移動する。
例えば、図3矢印F1に示すように、プランジャ24に作用する軸荷重が上向きの場合(例えば、プランジャスプリング26の付勢力だけがプランジャ24に作用する形態)では、プランジャ側雄ねじ25の上フランク面25aがハウジング側雌ねじ23の下フランク面23bに接触している。接触点を符号P1で示す。そして、例えば、上下方向に配設されたプランジャ24の上端部に横荷重が作用する場合を考えるが、図3において、プランジャ24を外から見て、横荷重T(図4参照)の入力方向が紙面手前から奥側に向かうと仮定する。
図3において、プランジャ24は、ねじ係合部の下端部(図1に示すプランジャ下端部24b)を支点とし、プランジャ上端部(ピボット部)24aが横荷重Tの作用方向である紙面手前から奥側に向かうように揺動する。そして、ねじ係合部が通常の右ねじの場合は、プランジャ側雄ねじ25の左半分では、雄ねじ23の上フランク面25aが、斜め前下方に右旋回するハウジング側雌ねじ23の下フランク面23bを突き押しする方向に動作する。一方、プランジャ側雄ねじ25の右半分では、雄ねじ25の上フランク面25aが、斜め前上方に左旋回するハウジング側雌ねじ23の下フランク面23bから離れる方向に動作する。
そして、ハウジング側雌ねじ23は、ねじ係合部の周方向に回動しないように保持されているため、プランジャ側雄ねじ25の左半分の上フランク面25aのハウジング側雌ねじ23の下フランク面23bとの接触点P1が、斜め後ろ上方に左旋回するハウジング側雌ねじ25の下フランク面25bに沿って移動する。
そして、横荷重T作用方向と接触点P1の移動方向とが一致しないため、接触点P1の移動がプランジャ24をねじ係合部において滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、滑り回転しながら軸荷重F1作用方向(上方)に移動する。
換言すれば、プランジャ24の左半分では、図4(a)に示すように、プランジャ24が揺動する際、プランジャ側雄ねじ25の上フランク面25aが、周方向に回転しないように保持されているハウジング側雌ねじ23の下フランク面23bに当接し、これ以上動作(図4(a)左方向に移動)できない。一方、プランジャ24の右半分では、図4(b)に示すように、プランジャ24が揺動する際、プランジャ側雄ねじ25の上フランク面25aが、ハウジング側雌ねじ23の下フランク面23bから遠ざかるため、制約を受けることなく動作(図4(b)右方向に移動)できる。この結果、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、反時計回りR1に滑り回転しながら伸長方向に移動する。
例えば、ねじ係合部(プランジャ側雄ねじ25)が通常の右ねじであって、プランジャ24に作用する軸荷重F1が上向きの場合は、必ずプランジャ24が反時計回りR1に回転(左回転)して軸荷重F1作用方向(上方)に移動する。
逆に、図3矢印F2に示すように、プランジャ24に作用する軸荷重が下向きの場合(例えば、バルブスプリング14の付勢力がロッカアーム16を介してプランジャ24に作用する形態)では、プランジャ側雄ねじ25の下フランク面25bがハウジング側雌ねじ23の上フランク面23aに接触している。接触点を符号P2で示す。そして、プランジャ24の上端部(ピボット部)24aに横荷重Tが紙面手前から奥側に向かって作用すると、プランジャ24は、ねじ係合部の下端部(図1に示すプランジャ下端部24b)を支点とし、プランジャ24の上端部が紙面手前から奥側に向かうように揺動する。
そして、ねじ係合部(プランジャ側雄ねじ25)が通常の右ねじの場合は、プランジャ側雄ねじ25の右半分では、雄ねじ25の下フランク面25bが、斜め前上方に左旋回するハウジング側雌ねじ23の上フランク面23aを突き押しする方向に動作する。一方、プランジャ側雄ねじ25の左半分では、雄ねじ25の下フランク面25bが、斜め前下方に右旋回するハウジング側雌ねじの下フランク面23aから離れる方向に動作する。
そして、ハウジング側雌ねじ23は、ねじ係合部の周方向に回動しないように保持されているため、プランジャ側雄ねじ25の右半分の下フランク面25bのハウジング側雌ねじ23の上フランク面23aとの接触点P2が、斜め後下方に右旋回するハウジング側雌ねじ23の下フランク面23aに沿って移動する。
そして、横荷重T作用方向と接触点P2の移動方向とが一致しないため、接触点P2の移動がプランジャ24をねじ係合部において滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、滑り回転しながら軸荷重F2作用方向(下方)に移動する。
例えば、ねじ係合部(プランジャ側雄ねじ25)が右ねじであって、プランジャ24に作用する軸荷重F2が下向きの場合は、必ずプランジャ24が時計回りR2に回転(右回転)しながら、軸荷重F2作用方向(下方)に移動する。
換言すれば、プランジャ24の右半分では、図4(d)に示すように、プランジャ24が揺動する際、プランジャ側雄ねじ25の下フランク面25bが、周方向に回転しないように保持されているハウジング側雌ねじ23の上フランク面23aに当接し、これ以上動作(図4(d)右方向に移動)できない。一方、プランジャ24の左半分では、図4(c)に示すように、プランジャ24が揺動する際、プランジャ側雄ねじ25の下フランク面25bが、ハウジング側雌ねじ23の上フランク面23aから遠ざかるため、制約を受けることなく動作(図4(c)左方向に移動)できる。この結果、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、時計回りR2に滑り回転しながら縮小方向に移動する。
特に、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角を、所定の範囲に設定することで、軸荷重が作用するプランジャは、原則的には、ねじ係合部が相対的に不動となって(ねじが自立し)、カムの回転に連係してロッカアームが揺動(バルブが開閉動作)する支点として機能(作用)する。そして、プランジャに横荷重が作用した場合に、プランジャは、ねじ係合部のバックラッシュ相当だけ、プランジャ伸長方向(バルブクリアランスを減少させる方向)に動作することは勿論、プランジャ縮小方向(バルブクリアランスを増加させる方向)にも動作する。
詳しくは、図5に示すように、ロッカアームのカムとの接触点がカムサークルからカムノーズに移行する際やカムノーズからカムサークルに移行する際に、プランジャにはロッカアームを介して軸荷重とともに横荷重が作用するが、バルブのリフト開始直後やリフト終了直前に、ねじ係合部のバックラッシュ相当、プランジャが横荷重によって揺動する際に、雄ねじの雌ねじとの接触点が周方向に移動し、この接触点の移動がプランジャをねじ係合部において滑り回転させるモーメントとして作用する。即ち、ねじ係合部のバックラッシュ相当だけ、プランジャはねじ係合部において滑り回転しながら軸荷重作用方向に移動して、バルブクリアランスの増加・減少状態を解消する。
さらに詳しく説明すると、バルブクリアランスが増加(カムとロッカアーム間に隙間が発生)した場合は、バルブのリフト開始直後やリフト終了直前の、プランジャスプリングの付勢力のみが軸荷重として作用し自立しているプランジャに、ロッカアームを介して横荷重が作用し、プランジャが横荷重作用方向に揺動する際に、ねじ係合部では接触点P1が移動することでモーメントが発生する。この結果、プランジャが、ねじ係合部において滑り回転しながら軸荷重作用方向であるプランジャ伸長方向、即ち、バルブクリアランスを減少させる方向に移動して、バルブクリアランス増加状態が解消される。
一方、バルブクリアランスが過小(カムとロッカアーム間にマイナスの隙間が発生)となった場合は、バルブのリフト開始直後やリフト終了直前の、バルブスプリングの付勢力のみが軸荷重として作用し自立しているプランジャに、ロッカアームを介して横荷重が作用し、プランジャが横荷重作用方向に揺動する際に、ねじ係合部では接触点P2が移動することでモーメントが発生する。この結果、プランジャがねじ係合部において滑り回転しながら軸荷重作用方向であるプランジャ縮小方向、即ち、バルブクリアランスを増加させる方向に移動して、バルブクリアランス過小状態が解消される。
また、本発明に係るラッシュアジャスタは、プランジャに伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじ係合部に発生する摩擦トルクによりプランジャのねじ係合部での滑り回転が抑制されて「ねじが自立」するという構成であるが、ねじ係合部のバックラッシュ相当だけプランジャが横荷重によって揺動することを積極的に利用して、プランジャをねじ係合部で滑り回転させるという構成であるため、ねじ係合部のバックラッシュを従来よりも小さくする必要がなく、ねじ係合部を構成する雄ねじと雌ねじのねじ加工がそれだけ容易である。したがって、一定の品質を保証する機械式ラッシュアジャスタの量産に極めて有効である。
請求項2においては、請求項1に記載の機械式ラッシュアジャスタにおいて、前記ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山の角度を、リード角が15度未満、フランク角が5~60度の範囲に設定することを特徴とする。
なお、ねじ係合部を構成する「ねじ」、即ち、雄ねじ(雌ねじ)としては、台形ねじと三角ねじのいずれであってもよい。また、上側フランクと下側フランクの角度が等しい「等フランクねじ」、あるいは上側フランクと下側フランクの角度が異なる「不等フランクねじ」であってもよい。
(作用)ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角とによって、ねじ係合部の実質的な摩擦角が決まるが、リード角が15度以上では、軸荷重が作用するプランジャがねじ係合部において滑り回転してしまって、ねじ係合部に発生する摩擦トルクによって「ねじを確実に自立」させることは困難である。一方、リード角が15度未満では、軸荷重が作用するプランジャがねじ係合部において滑り回転することなく、ねじ係合部に発生する摩擦トルクによって「ねじが自立」する。
また、フランク角が5度未満では、ねじ係合部の実質的な摩擦角が小さい角ねじの範疇となって、フランク角を変化させる意義が無くなり、リード誤差等の影響を受けない高精度のフランク角の加工が難しい。一方、通常は「ねじが自立しない」大きいリード角であっても、大きいフランク角を組み合わせれば、ねじ係合部の実質的な摩擦角が大きくなって、自立ねじとして機能する。しかし、フランク角が60度を超えると、「ねじ」の加工はし易いが、実質的な摩擦角が非常に大きいため、潤滑油による影響が大きく、エンジン運転中のリフトロスが大きくなり、実質的に使用できない。即ち、フランク角を調整パラメータとして利用する意義が無くなる。
したがって、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角およびフランク角は、プランジャに伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじ係合部の「ねじが確実に自立する」、即ち、ねじ係合部を相対的に不動にすることができるように、リード角は15度未満、フランク角は5~60度の範囲が望ましい。ちなみに、締結が主な目的である、一般的なボルト・ナット間のねじ係合部では、ねじ山のリード角が2~3度であるのに対し、送りねじと同様の使い方をする、ラッシュアジャスタを構成するプランジャとプランジャ係合部材間のねじ係合部では、締結を目的とするボルト・ナット間のねじ係合部のねじ山のリード角(2~3度)の約3~4倍であることが望ましい。
請求項3においては、請求項1または2に記載の機械式ラッシュアジャスタにおいて、前記ねじ係合部のバックラッシュは、前記プランジャの軸方向に一定となるように、または前記プランジャの軸方向に連続的あるいは段階的に変化するように構成されたことを特徴とする。
ねじ係合部のバックラッシュがプランジャの軸方向に一定である構造としては、プランジャの雌ねじの有効径およびプランジャ係合部材の雌ねじの有効径がそれぞれ軸方向に一定である形態が該当する。
また、ねじ係合部のバックラッシュがプランジャの軸方向に連続的に変化する構造としては、例えば、プランジャの雄ねじの有効径が軸方向に一定であるが、プランジャ係合部材の雌ねじの有効径が軸方向上方ほど小さく(または大きく)なる、即ち、プランジャ係合部材の雌ねじの有効径がテーパ形状となる形態、または、プランジャ係合部材の雌ねじの有効径が軸方向に一定であるのに対し、プランジャの雄ねじの有効径がテーパ形状となる形態が該当する。
また、ねじ係合部のバックラッシュが軸方向に段階的に変化する構造としては、例えば、プランジャの雄ねじの有効径が軸方向に一定であるが、プランジャ係合部材の雌ねじの有効径が軸方向上方ほど段階的に小さく(または大きく)なる形態、または、逆に、プランジャ係合部材の雌ねじの有効径が軸方向に一定であるのに対し、プランジャの雄ねじの有効径が軸方向上方ほど段階的に小さく(または大きく)なる形態が該当する。
以上の説明から明らかなように、本発明に係る機械式ラッシュアジャスタによれば、バルブクリアランスが増加・減少いずれの側に変化しても、バルブの開閉動作中に、プランジャが該プランジャに作用する横荷重によってバックラッシュ相当、ねじ係合部で揺動する際に滑り回転して、バルブクリアランスの変化を打ち消す方向に移動するので、バルブクリアランスを自動的にかつ確実に調整できる。
また、本発明に係る機械式ラッシュアジャスタは、プランジャに伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじ係合部に発生する摩擦トルクによりプランジャのねじ係合部での滑り回転が抑制されて「ねじが自立」するという構成であるが、ねじ係合部のバックラッシュ相当だけプランジャが横荷重によって揺動することを積極的に利用して、プランジャをねじ係合部で滑り回転させるという構成であるため、ねじ係合部のバックラッシュを従来よりも小さくする必要がなく、ねじ係合部を構成する雄ねじと雌ねじのねじ加工がそれだけ容易である。したがって、一定の品質を保証する機械式ラッシュアジャスタの量産に極めて有効である。
請求項2によれば、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角およびフランク角がプランジャに作用する軸荷重および横荷重の大きさに対応した所定の角度に設定されて、バルブクリアランスが変化した場合には、プランジャがその変化を打ち消す方向に的確にスムーズに移動するので、バルブクリアランスを自動的にかつ確実にしかもスピーディに調整できる。
請求項3によれば、ねじ係合部の横方向におけるバックラッシュをプランジャの軸方向に連続的あるいは段階的に変化するように構成することで、ねじ係合部における軸方向のバックラッシュは殆ど0で、横方向のバックラッシュは大きくとれるので、エンジン運転中に発生するリフトロスは小さく、最小限の回転数でバルブクリアランス調整が終わるという、ラッシュアジャスタとして好適な性能が得られる。
本発明をロッカアーム式動弁機構仕様の機械式ラッシュアジャスタに適用した第1の実施例を、図1~5に基づいて説明する。
ロッカアーム式動弁機構を示す図1において、符号10は、シリンダヘッド11に設けられた吸気(排気)ポートPを横切るように配設された吸気バルブ(排気バルブ)で、バルブ10の軸端部外周には、コッタ12aおよびスプリングリテーナ12bが装着されている。そして、ばね座面11aとスプリングリテーナ12bとの間にバルブスプリング14が介装されて、バルブ10は閉弁方向(図1上方向)に付勢されている。符号11bは、円筒状のバルブ摺動ガイド、符号10aは、バルブ10の傘部外周に形成されたテーパ形状のバルブシートフェース、符号11cは、吸気(排気)ポートPの燃焼室Sへの開口周縁部に形成された、バルブシートフェース10aに対応するテーパ形状のシートインサートである。
符号16はロッカアームで、その一端側がバルブ10の軸端部に当接するとともに、その他端側に形成されたソケット部18が機械式ラッシュアジャスタ20のプランジャ24先端のピボット部24aに係合している。
ロッカアーム16の長手方向中程には、ローラ軸17aに支承されたローラ17bが設けられ、該ローラ17bには、カムシャフト19に設けたカム19aが当接している。
機械式ラッシュアジャスタ20は、シリンダヘッド11に設けた上下方向に延びるボア13に挿入されたプランジャ係合部材である筒型のハウジング22と、ハウジング22内に配設されたプランジャ24と、プランジャ24内の上下方向に装填されたプランジャスプリング26とを備え、ハウジング22の内側に形成された雌ねじ23とプランジャ24外側に形成された雄ねじ25が係合してねじ係合部が構成されるとともに、プランジャスプリング26によって、ハウジング22からプランジャ24が伸長する方向(図1上方向)に付勢保持されている。
符号27aは、ハウジング22内下端部側に収容された円盤形状のばね座面プレート、符号27bは、ばね座面プレート27aをハウジング22に固定するCリングである。
即ち、カム19aの押圧力が軸荷重として作用するプランジャ24と、周方向に回転しないように保持されたプランジャ係合部材であるハウジング22が、ねじ係合部(プランジャ24側の雄ねじ25とハウジング22側の雌ねじ23)を介して軸方向に係合している。
なお、ハウジング22は、その下端部がボア13の底面に当接するようにボア13に挿入されているものの、ボア13に圧入されていない(積極的なハウジング回り止め手段は設けられていない)。しかし、ロッカアーム16を介してプランジャ24を押し下げる方向の軸荷重がプランジャ24に作用する際に、ハウジング22下端部とボア13の底面間に発生する摩擦トルクが、ハウジング22のボア13に対する回転を阻止する。即ち、ハウジング22は、ボア13の底面との間で発生する摩擦トルクによって、ボア13に対し回転しないように保持されている。
また、カム19aのベースサークル19a1がロッカアーム16(のローラ17b)に当接する形態(カムノーズ19a3がロッカアーム16のローラ17bに当接しない形態)では、プランジャ24には、プランジャスプリング26の付勢力と、この付勢力にバランスするねじ係合部(ねじ面)に発生する摩擦力が作用するように構成されている。
そして、図2(a),(b)に拡大して示すように、プランジャ24とハウジング22間のねじ係合部を構成するプランジャ24側の雄ねじ25(ハウジング22側の雌ねじ23)は、それぞれ台形ねじで構成されている。そして、雄ねじ25(雌ねじ23)のねじ山のリード角α、雄ねじ25(雌ねじ23)のねじ山の上側フランク角θ25a(θ23a)および下側フランク角θ25b(θ23b)は、プランジャ24に伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじが自立する(ねじ係合部が相対的に不動となる)が、プランジャ24に横荷重が作用した場合に、該プランジャ24がねじ係合部で滑り回転して軸荷重作用方向に移動できる、所定の値(例えば、リード角α=10度、上側フランク角θ25a,θ23a=10度、下側フランク角θ25b,θ23b=10度)に設定されている。
即ち、カム19aの回動に連係してロッカアーム16がバルブ10の軸端部を押圧することで、バルブ10が上下方向に摺動して吸気(排気)ポートPが燃焼室Sに対し開閉動作するが、その間、軸荷重が作用するプランジャ24は、ねじ係合部において不動となり、即ち、ねじ係合部での滑り回転が抑制されて(ねじ係合部のねじが自立して)、プランジャ24先端のピボット部24aが、カムシャフト19の回転に連係して揺動するロッカアーム16の揺動支点として機能(作用)する。
また、カム19aの回転に連係して、ロッカアーム16がラッシュアジャスタ20のプランジャ24先端のピボット部24aを支点として揺動することで、バルブ10が上下方向に往復動作し、このときのバルブ10のリフト量は、図5に示すような山形状を示す。
そして、カム19aがロッカアーム16(のローラ17b)を押圧することで、プランジャ24に軸荷重が作用するが、カムノーズ19a3とロッカアーム16(のローラ17b)との接触点がロッカアーム16(のローラ17b)上を移動し、カム19aの押圧力の作用方向が変化するため、プランジャ24には、図5の符号T1,T2に示すように、横荷重も作用する。
そして、プランジャ24に横荷重が作用した場合には、ねじ係合部のバックラッシュ相当、プランジャ24は横荷重作用方向に揺動する。即ち、周方向に回り止めされているハウジング22に対しこのプランジャ24が揺動することで、雄ねじ25の雌ねじ23との接触点が雌ねじ23のフランク面に沿って周方向に移動するが、横荷重作用方向と接触点の移動方向が一致しないため、この接触点の移動がプランジャ24をねじ係合部において滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャ24が滑り回転しながら軸荷重作用方向に移動して、バルブクリアランスの増加・減少状態を解消する。
次に、プランジャ24が横荷重作用方向に揺動することで、ねじ係合部においてプランジャ24を滑り回転させるモーメントが発生し、これによって、プランジャ24が滑り回転しながら軸荷重作用方向に移動する原理について、図3,4を参照して、詳しく説明する。
例えば、図3の符号F1に示すように、プランジャ24に作用する軸荷重が上向きの場合(例えば、プランジャスプリング26の付勢力だけが作用する形態)では、雄ねじ25の上フランク面25aが雌ねじ23の下フランク面23bに接触している。接触点を符号P1で示す。そして、図3において、上下方向に配設されたプランジャ24先端のピボット部24a(図1参照)に、横荷重Tが図3の紙面手前から奥側に向かって作用すると、プランジャ24は、ねじ係合部の下端部、即ち、ハウジング側雌ねじ23とねじ係合するプランジャ下端部24b(図1,4参照)を支点とし、プランジャ24先端のピボット部24aが図3の紙面手前から奥側に向かって揺動する。
そして、ねじ係合部(雄ねじ25)が通常の右ねじの場合は、 雄ねじ25の左半分(図3の左半分)では、雄ねじ25の上フランク面25aが斜め前下方に右旋回する雌ねじ23の下フランク面23bを突き押しするように動作する。一方、雄ねじ25の右半分(図3の右半分)では、雄ねじ25の上フランク面25aが斜め前上方に左旋回する雌ねじ23の下フランク面23bから離れる方向に動作する。
そして、ハウジング側雌ねじ23は、ねじ係合部の周方向に回動しないように保持されているため、雄ねじ25の左半分の上フランク面25aの雌ねじ23の下フランク面23bとの接触点P1が、斜め後ろ上方に左旋回する雌ねじ23の下フランク面23bに沿って移動する。
そして、横荷重Tの作用方向(入力方向)と接触点P1の移動方向とが一致しないため、接触点P1の移動がプランジャ24をねじ係合部において反時計回りR1に滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、滑り回転しながら軸荷重F1作用方向(上方)に移動する。
換言すれば、横荷重Tの入力(作用)方向に対しプランジャ24の左半分では、図4(a)に示すように、プランジャ24が揺動する際、雄ねじ25の上フランク面25aが、周方向に回動しないように保持されているハウジング側雌ねじ23の下フランク面23bに当接し、これ以上動作(図4(a)左方向に移動)できない。一方、横荷重Tの入力(作用)方向に対しプランジャの右半分では、図4(b)に示すように、プランジャ24が揺動する際、雄ねじ25の上フランク面25aが雌ねじ23の下フランク面23bから遠ざかるため、制約を受けることなく動作(図4(b)右方向に移動)できる。この結果、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、反時計回りR1に滑り回転しながら伸長方向(上方)に移動する。
例えば、ねじ係合部(雄ねじ25)が通常の右ねじであって、プランジャ24に作用する軸荷重F1が上向きの場合は、プランジャ24が横荷重Tで揺動する際に、必ず反時計回りR1に回転(左回転)しながら、軸荷重F1作用方向(伸長方向)に移動する。
逆に、図3矢印F2に示すように、プランジャ24に作用する軸荷重が下向きの場合(例えば、バルブスプリング14の付勢力がロッカアーム16を介してプランジャ24に作用する形態)では、雄ねじ25の下フランク面25bが雌ねじ23の上フランク面23aに接触している。接触点を符号P2で示す。そして、プランジャ24先端のピボット部24aに横荷重Tが図3の紙面手前から奥側に向かって作用すると、プランジャ24は、ねじ係合部の下端部(プランジャ下端部)24bを支点とし、プランジャ24先端のピボット部24aが図3の紙面手前から奥側に向かって揺動する。
そして、ねじ係合部(雄ねじ25)が通常の右ねじの場合は、雄ねじ25の右半分(図3の右半分)では、雄ねじ25の下フランク面25bが斜め前上方に左旋回する雌ねじ23の上フランク面23aを突き押しするように動作する。一方、雄ねじ25の左半分(図3の左半分)では、雄ねじ25の下フランク面25bが斜め前下方に右旋回する雌ねじ23の下フランク面23aから離れる方向に動作する。
そして、ハウジング側雌ねじ23は、ねじ係合部の周方向に回動しないように保持されているため、プランジャ側雄ねじ25の右半分の下フランク面25bのハウジング側雌ねじ23の上フランク面23aとの接触点P2が、斜め後下方に右旋回する雌ねじ23の下フランク面23aに沿って移動する。
そして、横荷重Tの作用方向と接触点P2の移動方向とが一致しないため、接触点P2の移動がプランジャ24をねじ係合部において時計回りR2に滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、滑り回転しながら軸荷重F2作用方向(下方)に移動する。
例えば、ねじ係合部(雄ねじ25)が通常の右ねじであって、プランジャ24に作用する軸荷重F2が下向きの場合は、プランジャ24が横荷重Tで揺動する際に、必ず時計回りR2に回転(右回転)しながら、軸荷重F2作用方向(縮小方向)に移動する。
換言すれば、横荷重Tの入力(作用)方向に対しプランジャ24の右半分では、図4(d)に示すように、横荷重Tによってプランジャ24が揺動する際、雄ねじ25の下フランク面25bが雌ねじ23の上フランク面23aに当接し、これ以上動作(図4(d)右方向に移動)できない。一方、横荷重Tの入力(作用)方向に対しプランジャ24の左半分では、図4(c)に示すように、横荷重Tによってプランジャ24が揺動する際、雄ねじ25の下フランク面25bが雌ねじ23の上フランク面23aから遠ざかるため、制約を受けることなく動作(図4(c)左方向に移動)できる。この結果、プランジャ24がバックラッシュ相当分だけ、時計周りR2に滑り回転しながら縮小方向(下方)に移動する。
このように、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角が所定の値(例えば、リード角α=10度、上側フランク角θ25a,θ23a=10度、下側フランク角θ25b,θ23b=10度)に設定されることで、軸荷重が作用するプランジャ24は、原則的には、ねじ係合部が相対的に不動となって(ねじが自立し)、カムシャフト19(カム19a)の回転に連係してロッカアーム16が揺動(バルブ10が開閉動作)する支点として機能(作用)するとともに、プランジャ24に横荷重Tが作用した場合に、ねじ係合部のバックラッシュ相当だけ、プランジャ24伸長方向(バルブクリアランスを減少させる方向)に動作することはもちろん、プランジャ24縮小方向(バルブクリアランスを増加させる方向)にも動作する。
また、図5は、エンジンの回転数が低い場合のバルブリフト量,プランジャに作用する横荷重およびプランジャの動き(リフトロス)を示す図であるが、この図5に基づいて、ラッシュアジャスタ20のバルブクリアランス調整動作について説明する。
図1,5に示すように、カムシャフト19(カム19a)が回転することで、ロッカアーム16(のローラ17b)とカム19aとの接触点は、カム角度が約-60度から約+60度までカムノーズ19a3上にあり、これ以外のカム角度(約-60度以下および約+60度以上)では、カムのベースサークル19a1上にある。
即ち、カム角度が約-60度から0度までは、カムのオープン側ランプ部19a2からカムトップ19a4までのカムノーズ19a3の一側面上に接触点があり、カム角度が0度から約+60度までは、カムトップ19a4からカムのクローズ側ランプ部19a2までのカムノーズ19a3の他側面上に接触点がある。
詳しくは、まず、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカムのベースサークル19a1上にあるとき(カム角度が-60度以下では)、プランジャ24には、プランジャスプリング26の所定の反力(付勢力)が作用しているが、この付勢力は、ねじ係合部(ねじ面)に発生する摩擦力とバランスして、プランジャ24は、伸長・縮小方向に移動することなく、バルブクリアランス(カム19aとロッカアーム16間の隙間)が0に保持されている。
このため、プランジャ24は、ねじ係合部において「ねじが自立」し不動となって、ラッシュアジャスタ20は、ロッカアーム16の揺動支点として機能する。
一方、ロッカアーム16とカム19aとの接触点が、カムのオープン側ランプ部19a2からカムトップ19a4を経て反対側のクローズ側ランプ部19a2間にあるとき(図5のカム角度が-60度から+60度までの範囲では)、プランジャ24には、ロッカアーム16を介して、カム19aによる押圧力が軸荷重として作用する。このため、プランジャ24は、ねじ係合部において「ねじが自立」し不動となって、ラッシュアジャスタ20は、ロッカアーム16の揺動支点として機能する。
即ち、ロッカアーム16とカム19aとの接触点の位置とは無関係に、プランジャ24には常に軸荷重が作用しているため、プランジャ24は、ねじ係合部において「ねじが自立」し不動となって、ラッシュアジャスタ20は、ロッカアーム16の揺動支点として機能する。このため、カム19aが1回転することに対応するバルブ10のリフト量は、図5の破線で示すように、Maxリフト約10mmの山形状となる。なお、図5に示すバルブ10のリフト量には、後で詳しく説明するが、プランジャ24とハウジング22間のねじ係合部にバックラッシュがあるため、プランジャ24が自動的に滑り回転して縮小方向に移動することに伴って発生するリフトロスδ(例えば、約0.2mm)が含まれている。
また、プランジャ24とハウジング22間のねじ係合部にバックラッシュがあるため、カム19aによる押圧力がロッカアーム16を介してプランジャ24に軸荷重として作用する際、即ち、ロッカアーム16(のローラ17b)とカム19aとの接触点がカム19aの回動に伴って移動して、カム19aのロッカアーム16(のローラ17b)に対する押圧力作用方向が変わるため、図5に示すように、約250~150Nの横荷重T1,T2がプランジャ24に作用する。
そして、動弁機構に発生したバルブクリアランスを調整するラッシュアジャスタ20の動作は、次のように説明できる。
動弁機構における正のバルブクリアランスは、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカム19aのベースサークル19a1上にあるとき、カム19aとロッカアーム16のローラ17b間の隙間として顕在化しており、このときのプランジャ24には、プランジャスプリング26の付勢力が作用しているが、この付勢力はねじ係合部(ねじ面)に発生する摩擦力とバランスして、ねじ係合部のねじが自立した状態に保持されている。
この状態で、ロッカアーム16とカム19aとの接触点(隙間のある接触点)がオープン側ランプ部19a2からカムノーズ19a3に移行する際、接触点の移行に伴い、プランジャ24には横荷重T1が作用する。詳しくは、カム19aの回転に伴いカム19aとローラ17bとの隙間がなくなり、カム19aの押圧力が軸荷重として作用する直前の、プランジャスプリング26の付勢力による伸長方向の軸荷重が作用している不動状態のプランジャ24に、ロッカアーム16を介して横荷重T1(図5参照)が作用すると、プランジャ24が軸荷重作用方向である伸長方向に移動し、プランジャ24が滑り回転しながらロッカアーム16を押し上げることで、動弁機構に発生している正のバルブブクリアランスを0に調整する。
詳しくは、ロッカアーム16を介してプランジャ24に横荷重T1(図5参照)が作用すると、プランジャ24は、雌ねじ23と雄ねじ25間のねじ係合部におけるバックラッシュ相当、プランジャ24の下端部24bを支点として横荷重T1の作用方向に揺動する。そして、周方向に回り止めされているハウジング22に対しこのプランジャ24が揺動することで、雄ねじ25の雌ねじ23との接触点P1(図3参照)が雌ねじ23の下フランク面23bに沿って周方向に移動するが、この接触点P1の移動がプランジャ24をねじ係合部において滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャ24が滑り回転しながら軸荷重作用方向(プランジャスプリング26の付勢力作用方向、プランジャ伸長方向)に移動して、正のバルブブクリアランスを0に調整する。
一方、動弁機構における負のバルブクリアランスは、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカム19aのベースサークル19a1上にあるとき、ロッカアーム16(ローラ17b)がバルブスプリング14の付勢力によりカム19aのベースサークル19a1に押圧されて、カム19aとローラ17b間の過小な隙間(負の隙間)として顕在化している。そして、このときのプランジャ24には、ロッカアーム16を介して、バルブスプリング14の付勢力が縮小方向の軸荷重として作用しているが、この付勢力はねじ係合部(ねじ面)に発生する摩擦力とバランスして、ねじ係合部のねじが自立した状態に保持されている。
この状態で、ロッカアーム16とカム19aとの接触点(負の隙間)がオープン側ランプ部19a2からカムノーズ19a3に移行する際、接触点の移行に伴い、プランジャ24には横荷重T1が作用する。詳しくは、カム19aの押圧力が軸荷重として作用する直前の、バルブスプリング14の付勢力だけが軸荷重として作用している不動状態のプランジャ24に、カム19aを介して横荷重T1(図5参照)が作用すると、プランジャ24が滑り回転しながら軸荷重作用方向である縮小方向に移動し、カム19aがロッカアーム16を押し下げることで、動弁機構に発生している負のバルブブクリアランスを0に調整する。
詳しくは、ロッカアーム16を介してプランジャ24に横荷重T1(図5参照)が作用すると、プランジャ24は、雌ねじ23と雄ねじ25間のねじ係合部におけるバックラッシュ相当、その下端部24bを支点として横荷重T1の作用方向に揺動する。そして、周方向に回り止めされているハウジング22に対しこのプランジャ24が揺動することで、雄ねじ25の雌ねじ23との接触点P2(図3参照)が雌ねじ23の上フランク面23aに沿って周方向に移動するが、この接触点P2の移動がプランジャ24をねじ係合部において滑り回転させるモーメントとして作用し、これにより、プランジャ24が滑り回転しながら軸荷重(バルブスプリング14の付勢力)作用方向であるプランジャ縮小方向に移動して、バルブブクリアランスを0に調整する。
以上は、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がオープン側ランプ部19a2からカムノーズ19a3に移行する際に、ラッシュアジャスタ20のプランジャ24に横荷重T1が作用することで、動弁機構に発生している正(負)のバルブブクリアランスを0に調整するという、ラッシュアジャスタ20の動作について説明した。
次に、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカムノーズ19a3からクローズ側ランプ部19a2に移行する際に、ラッシュアジャスタ20のプランジャ24に横荷重T2が作用することで、動弁機構に発生している正(負)のバルブブクリアランスを0に調整するという、ラッシュアジャスタ20の動作について説明する。
まず、図5の横荷重T2が作用し、カム19aのベースサークル19a1上に正のバルブクリアランスが存在する場合について説明する。
ロッカアーム16とカム19aとの接触点(隙間を内在する接触点)がカムノーズ19a3からクローズ側ランプ部19a2に移行する際、接触点の移行に伴い、プランジャ24には横荷重T2が作用する。詳しくは、カム19aの回転に伴い、カム19aとローラ17bとの接触がカム19aのクローズ側ランプ19a2に近づくほど弱くなり、接触点がクローズ側ランプ19a2に移行する前にカム19aとローラ17bとの間に隙間が発生する(接触点に内在していた隙間が顕在化する)。この隙間が発生(顕在化)する直前の、ロッカアーム16に対するカム19aの押圧力が弱くなり、プランジャ24に作用する軸荷重(バルブスプリング14の反力)が殆どなくなった状態で、カム19aを介して接触点の移行に伴い横荷重T2(図5参照)がプランジャ24に作用する。即ち、プランジャスプリング26の付勢力による伸長方向の軸荷重が作用しているプランジャ24に、ロッカアーム16を介して横荷重T2(図5参照)が作用する。このため、プランジャ24が軸荷重作用方向である伸長方向に移動し、プランジャ24がロッカアーム16を押し上げることで、カム19aのベースサークル19a1上の正のバルブクリアランス(動弁機構に発生している正のバルブブクリアランス)を0に調整する。
一方、動弁機構における負のバルブクリアランスは、バルブ10が吸気(排気)ポートPを閉じた状態、即ち、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカム19aのベースサークル19a1上にあるときに、バルブ10のシートフェース10aとシートインサート11c間に隙間が発生する形態として顕在化している。このとき、ロッカアーム16のローラ17bがバルブスプリング14の付勢力によりカム19aに押圧されるため、ラッシュアジャスタ20のプランジャ24には、ロッカアーム16を介して、バルブスプリング14の付勢力が縮小方向の軸荷重として作用している。
このため、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカムノーズ19a3からクローズ側ランプ部19a2に移行する直前の、カムの押圧力が減少しバルブスプリング14の付勢力が縮小方向の軸荷重として作用するプランジャ24に、ロッカアーム16を介して横荷重T2(図5参照)が作用すると、プランジャ24が軸荷重作用方向である縮小方向に移動し、カム19aがロッカアーム16を押し下げることで、動弁機構に発生している負のバルブブクリアランスを0に調整する。
そして、機関(エンジン)が暖まった状態で停止した後、急激に冷えるような場合、シリンダヘッド(アルミニウム合金)とバルブ(鉄合金)の熱膨張係数の違いに起因して、バルブクリアランス過小(負)状態となって、バルブのフェース面がバルブシートから浮くおそれがある。また、バルブシート面が磨耗した場合にも、同様のこと(バルブクリアランスが過小状態となって、バルブのフェース面のバルブシートからの浮き上がり)が起こる。
このようなバルブクリアランス過小(負)状態で、機関(エンジン)を始動、駆動させると、燃焼室が密閉されず、適正な出力が得られない。
然るに、本実施例では、バルブクリアランス過小状態にあって、バルブのリフト開始直後やリフト終了直前の、バルブスプリング14の付勢力のみが軸荷重として作用し自立しているプランジャ24に、ロッカアーム16を介して横荷重が作用し、プランジャ24が横荷重作用方向に揺動する際に、ねじ係合部では接触点P2が移動することでモーメントが発生する。この結果、プランジャ24がねじ係合部において滑り回転しながら軸荷重作用方向であるプランジャ縮小方向、即ち、バルブクリアランスを増加させる方向に移動して、バルブクリアランス過小状態が解消される。
このため、機関(エンジン)の駆動時には、バルブ10によって燃焼室を確実に密閉でき、適正な出力が得られる。
また、カム19aの回動に連係して、ロッカアーム16がプランジャ24のピボット部24aを支点として揺動することで、バルブ10には、所定のリフト量が得られるべきところ、ラッシュアジャスタ20のプランジャ24とハウジング22間のねじ係合部にバックラッシュがあるため、カム19aの回転に連係してバルブ10が下降動作する際に、プランジャ24が自動的に縮小方向に移動してリフト量が少なくなることで、リフトロスδが発生する。
即ち、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカム19aのオープン側ランプ部19a2からカムノーズ19a3に移行する際、ラッシュアジャスタ20には、図1,3,4,5に示すように、軸荷重と横荷重の両方が必ず作用する。そして、横荷重T1(図5参照)が作用した場合にプランジャ24の動く方向は、軸荷重作用方向で決まる。詳しくは、接触点がカム19aのベースサークル19a1上にあるときは(カム角度が-60度未満では)、プランジャスプリング26の付勢力がプランジャ24に作用しているが、ねじ係合部のねじ面には、この付勢力とバランスする摩擦力が発生している。このため、プランジャ24は、伸長・縮小方向に移動することなく、不動状態に保持され、バルブクリアランス(カム19aとロッカアーム16間の隙間)は、0に保持されている。
そして、接触点がベースサークル19a1からオープン側ランプ部19a2に移行したところで、プランジャ24には、バルブ10のセット荷重(カム19aの押圧力、即ちバルブスプリング14の付勢力)F2が軸荷重として急激に作用する。
プランジャ24に縮小方向の軸荷重F2が作用した状態で、ロッカアーム16を介して図5の符号T1で示す横荷重が作用すると、プランジャ24は、横荷重T1作用方向に揺動する際にねじ係合部で滑り回転して縮小方向(図5上方)に移動する。このため、プランジャ24の縮小方向への移動量相当だけ、ロッカアーム16のソケット部18が下降(ロッカアーム16の他端側が上昇)し、バルブ10のリフト量が減じ、これがリフトロスδ(図5参照)となる。
そして、リフトロスδが発生した後は、プランジャ24は、これ以上揺動できないため、接触点がカムノーズ19a3のトップ19a4に移行するまで、バルブ10のリフト量は徐々に増加するが、ラッシュアジャスタ20は縮小した状態に保持されて、リフトロスδがそのまま維持される。さらにカム19aが回転し、バルブ10のリフト量がMaxリフトから徐々に減少する中で、プランジャ24には、ロッカアーム16を介して、横荷重T1とは逆方向の横荷重T2(図5照)が作用するが、プランジャ24に作用する軸荷重は、カム19aの押圧力(バルブスプリング14の付勢力)が支配的なため、横荷重T2が作用しても、ラッシュアジャスタ20は縮小した状態のままである。即ち、Maxリフト付近では、プランジャに作用する横荷重の値は非常に小さい(ほとんど横荷重が作用しない)のに対し、カム19aの押圧力(バルブスプリング14の付勢力)は最大値に近いため、プランジャ24は揺動・滑り回転せず、ラッシュアジャスタ20は縮小した状態に保持される。
そして、接触点がカム19aのクローズ側ランプ部19a2に移行すると、プランジャ24に作用する軸荷重(カム19aの押圧力、即ち、バルブスプリング14の付勢力)が減少し、プランジャスプリング26による付勢力が軸荷重F1として作用する。このように、軸荷重の作用する方向が変わった状態で、ロッカアーム16を介して横荷重T2が作用すると、即ち、プランジャスプリング26による付勢力が軸荷重F1として作用するプランジャ24に横荷重T2が作用すると、それまで縮小状態にあったプランジャ24は、図4(a),(b)に示すように、揺動・滑り回転して軸荷重F1作用方向(伸長方向)に移動し、リフトロスδが消失する。
即ち、本実施例では、ラッシュアジャスタ20のプランジャ24とハウジング22間のねじ係合部にバックラッシュがあるため、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカム19aのオープン側ランプ部19a2からカムノーズ19a3に移行する際に、リフトロスδが発生するが、ロッカアーム16とカム19aとの接触点がカムノーズ19a3からクローズ側ランプ部19a2に移行する際に、リフトロスδが自動的に消失する。
このように、ラッシュアジャスタ20のバルブクリアランス自動調整機能では、カム1回転の入力変動に対して、ラッシュアジャスタ20が縮小・伸長するため、動弁機構にリフトロスδが必ず発生する。逆にエンジンの通常運転中、動弁機構にリフトロスδが発生するならば、エンジンの運転中に遭遇するバルブクリアランスの正・負の変動をラッシュアジャスタ20が補正できることを示している。
次に、本発明の第2の実施例を図6に基づいて説明する。
前記した第1実施例では、ロッカアーム式動弁機構仕様の機械式ラッシュアジャスタ20を示すが、この第2の実施例では、直動式動弁機構仕様の機械式ラッシュアジャスタ20Aを示している。
符号10は、シリンダヘッド11に設けられた吸気(排気)ポート(図1の符号P参照)を横切るように配設された吸気バルブ(排気バルブ)で、その軸端部には、コッタ12aおよびスプリングリテーナ12bが装着され、ばね座面(図1の符号11a参照)とスプリングリテーナ12bとの間にバルブスプリング14が介装されて、バルブ10は閉弁方向(図6上方向)に付勢されている。
一方、バルブ10の真上には、カムシャフト19に設けたカム19aが配置されており、カム19aとバルブ10の軸端部(のコッタ12a)間には、シリンダヘッド11に設けた上下に延びるボア13に挿入された機械式ラッシュアジャスタ20Aが介装されている。
即ち、機械式ラッシュアジャスタ20Aは、シリンダヘッド11に設けたボア13に係合する、下方が開口する円筒型のバケット110と、内側に雌ねじ23が形成され、バケット110の天井下面に固定一体化されたプランジャ係合部材である円筒型のハウジング122と、外側に形成された雄ねじ25をハウジング122側の雌ねじ23と係合させることでハウジング122内に配設された、上方が開口するカップ型のプランジャ124と、プランジャ124とバケット110の天井との間に介装されて、プランジャ124をハウジング122から伸長する方向(図6の下方向、バルブスプリング14の付勢力が作用する方向と反対方向)に付勢するプランジャスプリング26とを備えて構成されている。
バケット110の内側には、円盤状に延在する隔壁111が一体化されるとともに、隔壁111中央に形成された垂直円筒部112がハウジング122の外周に固定一体化されて、バケット110とハウジング122との取り付け強度が確保されている。
なお、バケット110は、図示しない回り止め手段により、ボア13に対し周方向に回転しないように保持されており、バケット110(ラッシュアジャスタ20A)は、カム19aの回動に連係してボア13の軸方向にのみ摺動動作する。
また、プランジャ124の下端面は、バルブ10の軸端部に装着された軸荷重伝達部材であるコッタ12aの上端面に当接している。
そして、プランジャ124の雄ねじ25(ハウジング122の雌ねじ23)のねじ山の角度(リード角およびフランク角)は、前記した第1の実施例のラッシュアジャスタ20におけるプランジャ24の雄ねじ23(ハウジング22の雌ねじ23)のねじ山の角度(リード角およびフランク角)と同じ角度(例えば、リード角が10度、フランク角が10度)に設定されて、プランジャ124に伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじが自立する(ねじ係合部が相対的に不動となる)が、プランジャ24に横荷重が作用した場合に、該プランジャ24がねじ係合部で滑り回転して軸荷重作用方向に移動できるように構成されている。
カム19aが回転する場合のラッシュアジャスタ20Aの動作は、前記した第1の実施例のラッシュアジャスタ20の動作を示す図3,4と同様である。
即ち、ラッシュアジャスタ20A(バケット110)は、カム19aの回転に伴って、シリンダヘッド11に設けたボア13に対し上下方向に摺動できることから、ボア13とバケット110間には微小隙間が形成されている。
このため、カム19aとバケット110との接触点が、カムのベースサークル19a1からカムノーズ19a3に移行する際に、カム19aを介して図6左方向の偏荷重がバケット110(ハウジング122)に作用する。そして、カムノーズ19a3からベースサークル19a1に接触点が移行する際は、カム19aを介して図6右方向の偏荷重がバケット110(ハウジング122)に作用する。即ち、カム19aとバケット110との接触点の移行に伴って、バケット110(ハウジング122)に偏荷重によるモーメントが作用し、バケット110(ハウジング122)がボア13に対し僅かに傾斜することで、プランジャ124には横荷重が作用する。
そして、プランジャ124に横荷重が作用すると、ハウシング122とプランジャ124間のねじ係合部のバックラッシュ相当、プランジャ124がハウシング122に対し横荷重作用方向(図6左右方向)に揺動する。そして、このプランジャ124の揺動に伴って、雄ねじ25の雌ねじ23との接触点が雌ねじ23のフランク面に沿って移動するが、ハウジング122が回り止めされているため、ねじ係合部にはプランジャ124を軸荷重作用方向に滑り回転させるモーメントが発生する。
このため、動弁機構に正のバルブブクリアランスが発生している場合は、カム19aとバケット110との接触点(隙間の発生した接触点)が、カム19aのベースサークル19a1からカムノーズ19a3に移行する際に、カム19aの押圧力が軸荷重として作用する直前の、プランジャスプリング26の付勢力だけが軸荷重として作用しているプランジャ124に横荷重が作用すると、プランジャ124が軸荷重作用方向(プランジャスプリング26の付勢力作用方向、即ち、プランジャ124の伸長方向)に滑り回転しながら移動して、動弁機構に発生している正のバルブブクリアランスを解消する。
また、動弁機構に負のバルブブクリアランスが発生している場合は、カム19aとバケット110との接触点がカム19aのベースサークル19a1上にあるときは、バケット110がバルブスプリング14の付勢力によりカム19aのベースサークル19a1に押圧されて、カム19aとバケット110間の過小な隙間(負の隙間)として顕在化している。そして、このときのプランジャ124には、主にバルブスプリング14の付勢力(正確には、バルブスプリング14の付勢力とプランジャスプリング26の付勢力との差分)が、コッタ12aを介して縮小方向の軸荷重として作用している。
そして、カム19aとバケット110との接触点が、カム19aのベースサークル19a1からカムノーズ19a3に移行する際に、カム19aの押圧力が軸荷重として作用する直前の、主にバルブスプリング14の付勢力(正確には、バルブスプリング14の付勢力とプランジャスプリング26の付勢力との差分)が軸荷重として作用しているプランジャ124に横荷重が作用すると、プランジャ124が軸荷重作用方向(バルブスプリング14の付勢力作用方向、即ち、プランジャ124の縮小方向)に滑り回転しながら移動して、動弁機構に発生している負のバルブブクリアランスを解消する。
次に、本発明の第3の実施例を図7に基づいて説明する。
この図7に示す機械式ラッシュアジャスタ20Bは、前記した第2実施例と同様、直動式動弁機構仕様の機械式ラッシュアジャスタを示している。
前記した第2実施例のラッシュアジャスタ20Aでは、バケット110に一体化されたハウジング122の内周に形成された雌ねじ23と、カップ型プランジャ124の外周に形成された雄ねじ25が軸方向に係合するように配設されている。
一方、この第3の実施例の機械式ラッシュアジャスタ20Bでは、バケット110の天上に下方に延出するプランジャ係合部材であるロッド部材114が一体的に形成され、ロッド部材114の外周に雄ねじ25が形成され、一方、上方の開口するカップ型プランジャ124の周壁内周に雌ねじ23が形成され、ロッド部材114の雄ねじ25とプランジャ124の雌ねじ23が軸方向に係合している。
また、プランジャ124には、フランジ状のばね受け125が形成され、ばね受け125とバケット110の天井との間にプランジャスプリング126が介装されている。
その他は、前記した第2の実施例のラッシュアジャスタ20Aと同一につき、同一の符号を付すことで、その重複した説明は省略する。
次に、本発明の第4の実施例を図8に基づいて説明する。
この図8に示す機械式ラッシュアジャスタ20Cは、前記した第1実施例と同様、ロッカアーム式動弁機構仕様であるが、ハウジング22内に配設されたプランジャ24Aが、雄ねじ25が形成されたプランジャ基端部24A1と、ピボット24aが形成されたプランジャ先端部24A2とに分割された構造となっている。なお、ハウジング22は、第1の実施例と同様、ハウジング22下端部とボア13の底面間に発生する摩擦トルクによって、周方向に回転しないように保持されている。
詳しくは、プランジャ基端部24A1は、ハウジング22側の雌ねじ23に係合する雄ねじ25が外側に形成された、下方に開口するカップ型に構成されて、ハウジング22内下方に配設されている。そして、雄ねじ25と雌ねじ23は、等フランク角の三角ねじで構成され、ねじ係合部を構成する雄ねじ25(雌ねじ23)のねじ山の角度は、前記した第1、第2、第3の実施例の場合と同様、所定の値(例えば、リード角α=10度、上側フランク角および下側フランク角が10度)にそれぞれ設定されている。プランジャ基端部24A1の天井内面24A1aとハウジング22内底面22a間には、プランジャスプリング26が介装されて、プランジャ基端部24A1を上方に付勢している。
一方、プランジャ先端部24A2は、上端部にピボット部24aを形成した下方に開口する筒型に構成され、プランジャ先端部24A2の外周に設けた段差部24A2aがハウジング22の上端開口部に装着された円環状キャップ28の内周縁部に係合して、抜け止めされている。このため、プランジャスプリング26によって、プランジャ基端部24A1とプランジャ先端部24A2が軸方向に圧接状態に保持されるとともに、プランジャ24A(プランジャ先端部24A2)がハウジング22から突出する上方向(伸長方向)に付勢保持されている。
そして、このラッシュアジャスタ20Cでは、プランジャ基端部24A1の雄ねじ25(ハウジング22の雌ねじ23)のねじ山のリード角が、例えば10度で、雄ねじ25(雌ねじ23)のねじ山の上側(下側)フランク角も10度の等フランク角に設定されて、プランジャ24A(プランジャ基端部24A1)に伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじが自立する(ねじ係合部が相対的に不動となる)が、プランジャ24Aに横荷重が作用した場合に、該プランジャ24Aがねじ係合部で滑り回転して軸荷重作用方向に移動できるように構成されている。
その他は、前記した第1の実施例のラッシュアジャスタ20と同様であるので、同一の符号を付すことで、その重複した説明は省略する。
また、このラッシュアジャスタ20Cの動作は、第1の実施例のラッシュアジャスタ20の動作(図3,4参照)と同じであるので、その重複した説明は省略する。
なお、前記した第1~第4の実施例では、ねじ係合部を構成する雄ねじ25(雌ねじ23)の角度が、リード角10度、フランク角(上側フランク角、下側フランク角)10度にそれぞれ設定されているが、リード角は15度未満、フランク角は5~60度の範囲に設定されていればよい。
即ち、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角とフランク角とによって、ねじ係合部の実質的な摩擦角が決まるが、リード角が15度以上では、プランジャ24に軸荷重が作用すると、プランジャ24がねじ係合部において滑り回転してしまって、ねじ係合部に発生する摩擦トルクによって「ねじを確実に自立」させることは困難である。一方、リード角が15度未満では、軸荷重が作用するプランジャ24がねじ係合部において滑り回転することなく、ねじ係合部に発生する摩擦トルクによって「ねじが自立」する。
また、フランク角が5度未満では、ねじ係合部の実質的な摩擦角が小さい角ねじの範疇となって、フランク角を変化させる意義が無くなり、リード誤差等の影響を受けない高精度の加工が難しい。一方、通常は「ねじが自立しない」大きいリード角であっても、大きいフランク角を組み合わせれば、ねじ係合部の実質的な摩擦角が大きくなって、自立ねじとして機能する。しかし、フランク角が60度を超えると、「ねじ」の加工はし易いが、実質的な摩擦角が非常に大きいため、潤滑油による影響が大きく、エンジン運転中のリフトロスが大きくなり、実質的に使用できない、即ち、フランク角を調整パラメータとして利用する意義が無くなる。
したがって、ねじ係合部を構成する「ねじ」のねじ山のリード角およびフランク角は、プランジャ24に伸長・縮小いずれの方向の軸荷重が作用した場合にも、ねじ係合部の「ねじが確実に自立する」、即ち、ねじ係合部を相対的に不動にすることができる、リード角15度未満、フランク角5~60度の範囲が望ましい。ちなみに、締結が主な目的である、一般的なボルト・ナット間のねじ係合部では、ねじ山のリード角が2~3度であるのに対し、送りねじと同様の使い方をする、ラッシュアジャスタを構成するプランジャとプランジャ係合部材間のねじ係合部では、締結を目的とするボルト・ナット間のねじ係合部のねじ山のリード角(2~3度)の約3~4倍であることが望ましい。
なお、ねじ係合部の「ねじ山」のリード角およびフランク角を具体的に設定する方法としては、まず、エンジン運転中に発生するバルブのリフトロスδから、ねじ係合部の必要なバックラッシュおよび「ねじ山」のリード角αを設定し、次に、フランク角θを設定するのであるが、フランク角θが大き(小さ)ければ、ねじ係合部でプランジャ24が滑り難い(易い)ことから、ねじ係合部でプランジャ24が滑り回転するタイミングや滑動性を微調整するために、適切なフランク角θを設定する。
通常は、ねじ係合部のバックラッシュが大きいと、エンジン運転中に発生するリフトロスδが大きくなり、カム19aのランプ部19a2が機能しなくなって異音が発生し大きな問題となることから、バックラッシュは小さい方が望ましい。一方、プランジャ24の伸縮早さ(カムが一回転する間に、プランジャ24が伸び上る量や縮小する量)は、バックラッシュが大きいほど大きくなるため、バックラッシュはある程度は大きい方が望ましい。また、雌ねじ23と雄ねじ25を組み付ける際、バックラッシュが大きいほど、組み付けがし易い。
そのため、ねじ係合部の適切なバックラッシュ量を、実験で確認しながら設定することになる。
詳しくは、実際のエンジンにおいてラッシュアジャスタ20を作動させた時のリフトロスδと、ラッシュアジャスタ20が伸縮する最大速度とを実測して、バックラッシュを設定している。具体的には、通常運転中のリフトロスδ(カム19aが1回転する際のバルブリフト中に、作用する軸荷重および横荷重によってバルブ10が伸縮する量)がランプ部19aを越えない(カムのランプ部19a2の機能の範囲内となる)ように、バックラッシュを設定するのであるが、ラッシュアジャスタによるバルブクリアランスの調整速度(バルブクリアランスを打ち消す方向へのプランジャの伸縮量)は、なるべく早い(大きい)方がよいので、リフトロスδの大きさとプランジャ24の伸縮量(伸縮の最大速度)とから、バックラッシュの最適値を設定する。
また、前記した第1~第4の実施例では、雄ねじ25(雌ねじ23)が等フランク角(上側フランク角と下側フランク角が同じ)の台形ねじや三角ねじで構成されているが、雄ねじ25(雌ねじ23)は、上側フランク角と下側フランク角が異なる不等フランク角の台形ねじや三角ねじで構成されていてもよい。
また、前記した第1,2,4の実施例では、プランジャ24,124,24A(24A1)の雄ねじ25およびハウジング22,122の雌ねじ23が、第3の実施例では、ロッド部材114の雄ねじ25およびプランジャ124の雌ねじ23が、それぞれリードが1本である1条ねじで構成されているが、リードが複数本ある2条ねじや3条ねじ等の多条ねじで構成されていてもよい。
リードを軸方向等間隔に複数並設した多条ねじは、リードが一条である一条ねじと比べて、リードのピッチを大きくできる。
したがって、多条ねじでは、「ねじ」のねじ山の角度(リード角およびフランク角)を設計する際に、「ねじ」の条数を考慮することで、「ねじ」の望ましい角度(リード角およびフランク角)の設定範囲を拡大することができる。
また、多条ねじでは、プランジャに作用する軸荷重に対して、ねじ係合部に発生する面圧が下がり、それだけ「ねじ」が摩耗しにくいので、プランジャに作用する軸荷重が大きい動弁機構に特に有効な機械式ラッシュアジャスタを提供できる。
前記した各実施例では、プランジャの雌ねじの有効径およびプランジャ係合部材の雌ねじの有効径がそれぞれ軸方向に一定である形態とされて、ねじ係合部のバックラッシュ、即ち、プランジャ側の雄ねじ25とプランジャ係合部材側の雌ねじ23間のバックラッシュがプランジャ24の軸方向に一定となるように構成されているが、図9(a),(b)や図10に示すように、ねじ係合部のバックラッシュを、プランジャ24の軸方向に連続的あるいは段階的に変化するように構成してもよい。
即ち、図9(a),(b)は、ねじ係合部のバックラッシュがプランジャ24の軸方向に連続的に変化する構造の機械式ラッシュアジャスタの縦断面図、図10は、ねじ係合部のバックラッシュがプランジャ24の軸方向に段階的に変化する構造の機械式ラッシュアジャスタの縦断面図ある。
詳しくは、図9(a)は、プランジャ24の雄ねじ25の有効径が軸方向に一定であるが、プランジャ係合部材(ハウジング22)の雌ねじ23の有効径が軸方向上方ほど大きい(下方ほど小さい)テーパ形状に形成されて、ねじ係合部のバックラッシュ(雄ねじ25と雌ねじ23間のバックラッシュ)が、軸方向には小さく、横方向(半径方向)には大きく設定されている。
一方、図9(b)は、プランジャ係合部材(ハウジング22)の雌ねじ23の有効径が軸方向に一定であるが、プランジャ24の雄ねじ25の有効径が軸方向下方ほど大きい(上方ほど小さい)テーパ形状に形成されて、ねじ係合部のバックラッシュ(雄ねじ25と雌ねじ23間のバックラッシュ)が、軸方向には小さく、横方向(半径方向)には大きく設定されている。
また、図10は、プランジャ係合部材(ハウジング22)の雌ねじ23の有効径が軸方向に一定であるが、プランジャ24の雄ねじ25の有効径が、軸方向下方側では大きく、上方側では小さい、2段階に形成されている。
詳しくは、プランジャ24の雄ねじ25の軸方向下方側の有効径D1が、上方側の有効径D2よりも大きく形成されて、ねじ係合部のバックラッシュ(雄ねじ25と雌ねじ23間のバックラッシュ)が、軸方向には小さく、横方向(半径方向)には大きく設定されている。
即ち、図9(a),(b)および図10に示すラッシュアジャスタでは、ねじ係合部の軸方向におけるバックラッシュが小さいことから、バルブ10のリフトロスを小さくできる。また、ねじ係合部の横方向(半径方向)におけるバックラッシュが大きいことから、作用する横荷重に対するプランジャ24の揺動量が大きい分、ねじ係合部(雄ねじ25と雌ねじ23間)における接触点の移動に伴ってねじ係合部に発生するモーメントも大きい。このため、プランジャ24がねじ係合部においてスムーズに滑り回転しながら軸荷重作用方向に移動して、動弁機構に発生しているバルブクリアランスを0に調整する。