従来の電磁継電器500は、過電流検出コイル513を配置するための空間がコイル502と接点装置520との間に必要である。また、従来の電磁継電器500において、可動子503は、過電流検出コイル513で生じる磁束で吸引される。しかし、過電流検出コイル513が、コイル502と、接点ばね512との間に配置されているので、可動子503の構造が制限される。そのため、可動子503等の部品を専用の形状にする必要がある。すなわち、従来の電磁継電器500は、接点装置520に過電流、短絡電流等の異常電流が流れた際に、接点装置520をオフにするための可動子503等の部品を専用に設計する必要がある。よって、過電流検出コイル513を設置する場合は、過電流検出コイル513がない場合の可動子等と部品を共通化することが難しい。
(実施の形態1)
図1~図3は、本実施の形態における電磁継電器1の断面概略図である。図4は、本実施の形態における電磁継電器1の回路構成を示す図である。図1は、可動子32が第1の位置にある場合の電磁継電器1を示している。図2は、可動子32が第2の位置にある場合の電磁継電器1を示している。図3は、可動子32が第3の位置にある場合の電磁継電器1を示している。第1の励磁コイル31が通電されていない場合、可動子32は第1の位置に存在する。その後、第1の励磁コイル31が通電された場合、可動子32は第2の位置に移動する。第2の励磁コイル41に異常電流が流れた場合、可動子32は第3の位置に移動する。
電磁継電器1は、電磁石装置3と、接点装置2と、トリップ装置4とを備える。
電磁石装置3は、第1の固定子33と、可動子32と、第1の励磁コイル31とを有する。可動子32は、第1の固定子33と対向して配置されている。第1の励磁コイル31は、第1の固定子33の少なくとも一部の周りに巻かれている。電磁石装置3は、第1の励磁コイル31への通電時に、第1の励磁コイル31で生じる第1の磁束により第1の固定子33に可動子32を吸引し、可動子32を第1の位置から第2の位置へ移動させる。
接点装置2は、可動接点21a、21bと、固定接点22a、22bとを有する。可動接点21a、21bは、第1の固定子33に対して可動子32と反対側に配置され、可動子32に連結されている。固定接点22a、22bは、可動接点21a、21bに対向して配置されている。
トリップ装置4は、第2の励磁コイル41を有し、電磁石装置3に対して、接点装置2と反対側に配置されている。第2の励磁コイル41は、接点装置2に接続されている。トリップ装置4は、可動子32が第2の位置にある状態で、接点装置2に規定値以上の電流が流れた場合、第2の励磁コイル41で生じる第2の磁束により、可動子32を第3の位置へ移動させる。
可動子32が第1の位置および第3の位置にある場合、可動接点21a、21bが固定接点22a、22bから離れた開状態となり、可動子32が第2の位置にある場合、可動接点21a、21bが固定接点22a、22bに接触する閉状態となる。
ここで、トリップ装置4は、可動子32に対して第1の固定子33とは反対側に配置された第2の固定子43をさらに有することが好ましい。この場合、可動子32は、異常電流により第2の励磁コイル41で生じる磁束により、第2の固定子43に吸引され、第3の位置へ移動する。
以下、本実施の形態の電磁継電器1について説明する。ただし、以下に説明する電磁継電器1は、本発明の一例に過ぎず、本発明は、下記の実施の形態に限定されることはなく、本実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
電磁継電器1は、接点装置2と、電磁石装置3と、トリップ装置4とを有している。また電磁継電器1は、シャフト15と、ケース16と、連結体17とを有していてもよい。さらに、電磁継電器1は、走行用のバッテリ101から負荷102への直流電力の供給路上に第1の出力端子51と第2の出力端子52と、励磁用電源105に接続される入力端子53、54とを有していてもよい(図4参照)。
接点装置2と電磁石装置3とトリップ装置4とは一方向に(同一直線上に)、配置されている。トリップ装置4は、電磁石装置3に対して接点装置2とは反対側に配置されている。
本実施の形態においては、電磁継電器1が電気自動車(EV)に搭載され、図4に示すように走行用のバッテリ101から負荷102(たとえばインバータ)への直流電力の供給路上に接点装置2が設置されている。電磁継電器1の第1の励磁コイル31は、電気自動車の電子制御ユニット103(ECU:Electronic Control Unit)からの制御信号に応じてオンとオフとが切り替わるスイッチング素子104を介して、励磁用電源105に接続されている。これにより、電子制御ユニット103からの制御信号に応じて接点装置2が開閉し、走行用のバッテリ101から負荷102への直流電力の供給状態が切り替わる。
次に、電磁石装置3について説明する。電磁石装置3は、第1の励磁コイル31と、可動子32と、第1の固定子33とを有している。また電磁石装置3は、第1の継鉄34と、復帰ばね35と、筒体36とを有していてもよい。さらに、電磁石装置3は、第1の励磁コイル31が巻き付けられる合成樹脂製のコイルボビン(図示せず)を有していてもよい。
第1の励磁コイル31が通電された時に第1の励磁コイル31で生じる磁束によって、第1の固定子33に可動子32が吸引され、可動子32が図1に示す第1の位置から図2に示す第2の位置へ移動する。
第1の継鉄34は、継鉄上板341、継鉄下板342、継鉄側板343、ブッシュ344を有している。そして、継鉄上板341、継鉄下板342、継鉄側板343、ブッシュ344は、磁性材料により形成されている。すなわち、第1の継鉄34は、磁性材料により形成されている。また、第1の固定子33と、可動子32も磁性材料により形成されている。そのため、第1の継鉄34は、第1の固定子33および可動子32と共に、第1の励磁コイル31の通電時に生じる磁束が通る磁路(第1の磁路)を形成する(詳細は図7A、7Bを参照して後述する)。
継鉄上板341および継鉄下板342は、第1の励磁コイル31の両側に設けられて互いに対向している。図1に示す電磁継電器1の側断面において、第1の励磁コイル31から見て継鉄上板341側を上方向、第1の励磁コイル31から見て継鉄下板342側を下方向としている。言い換えれば、図1に示す電磁継電器1の側断面において、接点装置2は電磁石装置3の上方に設置されており、トリップ装置4は電磁石装置3の下方に設置されている。しかし、この記載は、電磁継電器1の使用形態を限定する趣旨ではない。
継鉄側板343は、継鉄上板341と継鉄下板342との周縁部同士を連結している。ブッシュ344は、継鉄下板342の上面の中央部から上方に突出する円筒状に形成されている。継鉄上板341および継鉄下板342はそれぞれ矩形板状に形成されている。これらの継鉄側板343と継鉄下板342とは1枚の板から連続一体に形成されている。継鉄下板342の中央部には保持孔27が形成されており、ブッシュ344は、その下端部が継鉄下板342の保持孔27に嵌合している。
第1の励磁コイル31は、継鉄上板341と継鉄下板342と継鉄側板343とで囲まれた空間に配置されている。そして、第1の励磁コイル31の内側にブッシュ344と第1の固定子33と可動子32とが配置されている。第1の励磁コイル31は、その両端が入力端子53、54(図4参照)に接続されている。
第1の固定子33は円筒状の固定鉄芯であり、継鉄上板341の中央部から下方に突出している。第1の固定子33の上端部が第1の継鉄34の継鉄上板341に固定されている。具体的には、継鉄上板341の中央部には嵌合孔26が形成されており、第1の固定子33は、その上端部が継鉄上板341の嵌合孔26に嵌合している。第1の固定子33の外径は、ブッシュ344の内径よりも小さく形成されている。さらに、第1の固定子33の下端面とブッシュ344の上端面との間には、上下方向において隙間(ギャップ)が形成されている。
可動子32は、円柱状の可動鉄芯であり、その上端面が第1の固定子33の下端面に対向するように配置されている。可動子32の外径は第1の固定子33の外径と等しく、かつブッシュ344の内径よりも小さくなるように形成されている。可動子32は、ブッシュ344の内周面に沿って上下方向に移動する。言い換えれば、可動子32は、その上端面が第1の固定子33の下端面から離れた第1の位置(図1参照)と、その上端面が第1の固定子33の下端面に接触した第2の位置(図2参照)との間を移動する。なお、本実施の形態では、可動子32は第1の位置よりもさらに下方の第3の位置(図3参照)まで移動可能であるが、この点については後述する。
復帰ばね35は、第1の固定子33の内側に配置されており、可動子32を下方(第1の位置)へ付勢するコイルばねである。第1の固定子33の内側は、復帰ばね35を収納するための収納空間331が形成されている。復帰ばね35は、可動子32が第1の固定子33に吸引されて第1の位置から第2の位置へと移動する際、圧縮されながら収納空間331に収まる。そのため、可動子32は第1の固定子33に接触可能である。
筒体36は、上面が開口した有底円筒状の非磁性材料で形成されており、第1の固定子33および可動子32を収納する。筒体36の上端部(開口部の周縁部)は継鉄上板341に固定され、筒体36の下部はブッシュ344の内側に嵌合している。筒体36の底面から第1の固定子33の下端面までの距離は、可動子32の上下方向の寸法よりも十分に大きい。すなわち、可動子32が第1の固定子33から離れた第1の位置にある状態で、可動子32の下端面と筒体36の底面との間に隙間が生じるように、筒体36が設定されている。
上記の構成により、可動子32は、筒体36内において、第1の固定子33に接触した第2の位置から、第1の位置を通って第3の位置まで移動可能である。可動子32が第2の位置にあるとき、可動子32の下端面と筒体36の底面との間にギャップG1(図2参照)が生じる。また、可動子32が第3の位置にあるとき、可動子32の上端面と第1の固定子33の下端面との間にギャップG2(図3参照)が生じる。筒体36は、可動子32の移動方向を上下方向に制限し、且つ可動子32の第3の位置を規定している。
なお、第1の励磁コイル31と、ブッシュ344と、第1の固定子33と、可動子32のそれぞれの中心軸は、上下方向に沿った同一直線上に位置している。
第1の励磁コイル31が通電されていない場合(非通電時)には、可動子32は、第1の固定子33との間に磁気吸引力が生じないため、復帰ばね35のばね力によって第1の位置(図1参照)に位置している。一方、第1の励磁コイル31が通電されると、第1の固定子33との間に磁気吸引力が生じるため、可動子32は、復帰ばね35のばね力に抗して上方に引き寄せられ、第2の位置(図2参照)に移動する。
言い換えれば、第1の励磁コイル31の通電時には、第1の継鉄34と、第1の固定子33と、可動子32とで形成される磁路(第1の磁路)に、第1の励磁コイル31が磁束を生じる。この磁路の磁気抵抗が小さくなるように可動子32は移動する。具体的には、第1の励磁コイル31の通電時、第1の固定子33の下端面とブッシュ344の上端面との間のギャップを可動子32で埋めるように、可動子32が第1の位置から第2の位置へ移動する。
要するに、第1の励磁コイル31の通電時に第1の励磁コイル31で生じる磁束によって、可動子32は、第1の固定子33に吸引され、可動子32は第1の位置から第2の位置へ移動する。そして、第1の励磁コイル31への通電が継続している間、第1の固定子33と可動子32との間には、吸引力が生じ続けるので、可動子32は第2の位置で保持される。また、第1の励磁コイル31への通電が停止すると、復帰ばね35のばね力によって可動子32は第2の位置から第1の位置へ移動する。このように、第1の励磁コイル31の通電状態の切り替えにより可動子32に作用する吸引力が制御される。その結果、可動子32が上下方向に移動し、接点装置2の開状態と閉状態とが切り替わる。
ここで、第1の励磁コイル31の非通電時に、可動子32が移動範囲の下端となる第3の位置(図3参照)ではなく、移動範囲の中間位置である第1の位置(図1参照)に位置するのは、復帰ばね35のばね力と、接圧ばね14のばね力との力のつり合いによる。すなわち、可動子32には、復帰ばね35のばね力が下向きに作用し、接圧ばね14のばね力が可動接触子13およびシャフト15を介して上向きに作用する。そのため、第1の励磁コイル31の非通電時には、復帰ばね35から可動子32に作用する力と、接圧ばね14から可動子32に作用する力がつり合う第1の位置で、可動子32は止まる。
第1の励磁コイル31の非通電時においては、電磁石装置3の可動子32が第2の位置と第3の位置との中間位置である第1の位置に位置している。そのため、シャフト15は、電磁石装置3によって下方に引き下げられている。このとき、シャフト15は、その上端部に設けられている鍔部151により、可動接触子13を下方に押し下げている。シャフト15の鍔部151により、可動接触子13の上方への移動が規制されるので、可動接点21a、21bは、固定接点22a、22bから離れた開位置に位置する。この状態では、接点装置2は開いた状態にあるので、接点台11、12間は非導通であり、第1の出力端子51と第2の出力端子52の間が非導通となる。
なお、詳しくは後述するが、図3に示すように電磁石装置3の可動子32が第3の位置にある場合も、第1の位置の場合と同様に、シャフト15は、電磁石装置3によって下方に引き下げられている。そのため、可動接触子13は、可動接点21a、21bを固定接点22a、22bから離れた開位置に位置させ、接点装置2は開いた状態となる。
図2は第1の励磁コイル31の通電時における電磁継電器1の状態を示している。この状態では、電磁石装置3の可動子32が第2の位置に位置するため、シャフト15は、電磁石装置3によって上方に押し上げられる。そのため、シャフト15の上端部に設けられている鍔部151は上方へ移動する。その結果、鍔部151による上方への移動規制が解除され、可動接触子13は、接圧ばね14のばね力によって上方に押し上げられ、可動接点21a、21bが固定接点22a、22bに接触する閉位置に移動する。
このとき、シャフト15は、可動接点21a、21bが固定接点22a、22bに接触した後さらに押し上げられるように、適当なオーバトラベルが設定されている。可動接触子13は、接圧ばね14によって上方へ付勢されているので、可動接点21a、21bと固定接点22a、22bとの間の接触圧が確保される。図2の状態では、接点装置2は閉じた状態にあり、接点台11、12間が導通することにより、第1の出力端子51と第2の出力端子52の間が導通する。
次に、接点装置2について詳細に説明する。図1に示すように、接点装置2は、固定接点22a、22bと、可動接点21a、21bとを有している。さらに接点装置2は、固定接点22a、22bを支持する接点台11、12と、可動接点21a、21bを支持する可動接触子13と、接触圧を調整するための接圧ばね14とを有している。接点装置2は、固定接点22a、22bおよび可動接点21a、21bを、それぞれ一対ずつ備えることにより、接点装置2が閉じた状態で一対の接点台11、12間が可動接触子13を介して短絡する。したがって、接点装置2は、走行用のバッテリ101(図4参照)からの直流電力が、一対の接点台11、12および可動接触子13を通して負荷102(図4参照)へ供給されるように、バッテリ101と負荷102との間に挿入されている。なお、接点装置2は、バッテリ101の出力端間において負荷102と直列に接続されていればよく、バッテリ101の負極(マイナス極)と負荷102との間に挿入されていてもよい。
接点装置2は、可動子32の移動に伴って可動接点21a、21bが移動することにより、可動子32が第2の位置にあるときに可動接点21a、21bが固定接点22a、22bに接触する閉状態となる。接点装置2は、可動子32が第1の位置にあるときおよび第3の位置にあるときに可動接点21a、21bが固定接点22a、22bから離れた開状態となる。
接点装置2における一対の接点台11、12は、電磁石装置3の上方において上下方向に直交する平面内の一方向に並ぶように配置されている。そして、接点台11、12は、水平断面が円形状となる円柱状に形成されている。これら一対の接点台11、12は、電磁石装置3の第1の継鉄34や第1の固定子33と一定の距離をおいて固定されている。
具体的には、一対の接点台11、12は、第1の継鉄34に接合されたケース16に固定されている。ケース16は、下面が開口した箱状に形成されている。ケース16と継鉄上板341との間に、固定接点22a、22bや可動接点21a、21bが配置されている。ケース16は、たとえばセラミックなどの耐熱性材料より形成されている。ケース16の下部の周縁部が継鉄上板341の上面の周縁部に対して、連結体17を介して接合されている。接点台11、12は、ケース16の底板(上壁)161に形成された丸孔19a、19bに挿通された状態でケース16に接合されている。
なお、ケース16と連結体17と継鉄上板341と筒体36とは、内部に空間を有する気密容器を形成することが望ましい。さらに、気密容器内には水素を主体とする消弧ガスが封入されていることが望ましい。これにより、気密容器内に収納されている固定接点22a、22bおよび可動接点21a、21bが開状態になる際にアーク放電が発生したとしても、アーク放電は消弧ガスによって急速に冷却され迅速に消弧可能になる。ただし、固定接点22a、22bおよび可動接点21a、21bは気密容器に収納される構造に限らない。
接点台11、12の下端部には固定接点22a、22bが設けられている。接点台11、12は、導電性材料で形成されている。接点台11、12の上端部は、上端部以外に比べて大きく形成されている。第1の出力端子51が、第2の励磁コイル41を介して第1の接点台11の上端部に接続されている。第2の出力端子52が、第2の接点台12の上端部に接続されている。つまり、第2の励磁コイル41は、第1の接点台11と第1の出力端子51との間に挿入されている。第2の励磁コイル41は、図4に示すように第1の出力端子51と第2の出力端子52との間において接点装置2と直列に接続されている。
可動接触子13は、矩形板状に形成されており、その長手方向の両端部が接点台11、12の下端部に対向するように接点台11、12の下方に配置されている。可動接触子13は、導電性材料で形成されている。可動接触子13のうち、接点台11、12の固定接点22a、22bに対向する箇所には、可動接点21a、21bが設けられている。
可動接触子13は、電磁石装置3によって上下方向に駆動する。これにより、可動接触子13に設けられている可動接点21a、21bは、対応する固定接点22a、22bに接触する閉位置と、固定接点22a、22bから離れた開位置との間で移動する。可動接点21a、21bが閉位置にあるとき、つまり接点装置2が閉じた状態では、第1の接点台11と第2の接点台12とは可動接触子13を介して短絡する。したがって、接点装置2が閉じた状態では、第1の出力端子51と第2の出力端子52との間は第2の励磁コイル41を介して導通し、走行用のバッテリ101から負荷102へ第2の励磁コイル41を介して直流電力が供給される。
接圧ばね14は、第1の固定子33と可動接触子13との間に配置されており、可動接触子13を上方へ付勢するコイルばねである。接圧ばね14のばね力は、復帰ばね35のばね力よりも小さく設定されている。
シャフト15は、上下方向に延びた丸棒状の非磁性材料で形成されている。シャフト15は、電磁石装置3で発生した駆動力を、電磁石装置3の上方に設けられている接点装置2へ伝達する。シャフト15の上端部には、シャフト15の上端部の外径よりも大きな外径を有する鍔部151が形成されている。可動接触子13の中央部にはシャフト15の鍔部151の外径よりも小径の孔25が形成されている。シャフト15は、その上面が可動接触子13の上面の鍔部151に接触するように可動接触子13の孔25に挿通されている。さらに、シャフト15は、接圧ばね14と第1の固定子33と復帰ばね35との内側を通って、その下端部が可動子32に固定されている。
以上の構成により、電磁石装置3で発生した駆動力は、シャフト15により可動接触子13へと伝達される。可動子32が上下方向に移動するのに伴い、可動接触子13が上下方向に移動する。
次に、トリップ装置4について説明する。トリップ装置4は、接点装置2と直列に接続された第2の励磁コイル41を有している。トリップ装置4は、可動子32が第2の位置にある状態で接点装置2を通して流れる規定値以上の異常電流により第2の励磁コイル41で生じる磁束によって、可動子32を第3の位置へ移動させる。接点装置2と電磁石装置3とトリップ装置4とは一方向に並べて配置されており、トリップ装置4は、電磁石装置3に対して接点装置2とは反対側に配置されている。
トリップ装置4は、可動子32に対して第1の固定子33とは反対側(下方)に配置された第2の固定子43を有していてもよい。さらにトリップ装置4は、第2の継鉄44を有していてもよい。
可動子32が第2の位置にある状態で、接点装置2を通じて第2の励磁コイル41に規定値以上の異常電流が流れた場合、第2の励磁コイル41に磁束が生じる。そして、その磁束により、可動子32に対して、第1の固定子33とは逆向きの吸引力が作用する。その結果、可動子32は第2の固定子43に吸引され、可動子32は第3の位置へ移動する。
すなわち、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41への通電時に第2の励磁コイル41で生じる磁束によって可動子32を第3の位置へ移動させる。これにより、接点装置2は強制的に開状態になる。以下では、トリップ装置4が接点装置2を開状態にする動作を「トリップ」という。言い換えれば、「トリップ」とは、可動子32が、第2の位置から第1の位置あるいは第3の位置に移動(トリップ)することである。
ここで第3の位置は、第2の位置と第1の位置とを結ぶ可動子32の移動軸の延長線上にあり、第1の位置に対して第2の位置とは反対側(下方)の位置である。言い換えれば、第1の位置は第2の位置と第3の位置との間の位置(中間位置)である。トリップ装置4が作動していない状態においては、可動子32は、第1の励磁コイル31の非通電時には第1の位置にあり、第1の励磁コイル31の通電時には第2の位置にある。トリップ装置4が作動すると、図3に示すように可動子32は第3の位置に位置する。つまり、可動子32が第2の位置にある状態でトリップ装置4が作動することにより、可動子32は、第2の位置から第1の位置を通って第3の位置まで移動する。
トリップ装置4の第2の継鉄44は、下板442と側板443を有している。そして下板442と側板443は、磁性材料により形成されている。すなわち、第2の継鉄44は、磁性材料により形成されている。また、第2の固定子43も磁性材料により形成されている。そのため、第2の継鉄44は、第2の固定子43および可動子32と共に、第2の励磁コイル41の通電時に生じる磁束が通る磁路(第2の磁路)を形成する(図7A、7B参照)。
第1の継鉄34の継鉄下板342およびブッシュ344が、第2の継鉄44の上板として兼用されており、第2の継鉄44は、第1の継鉄34の継鉄下板342に対向する下板442を、第2の励磁コイル41の下方に有している。以下では、第2の継鉄44の上板として兼用される継鉄下板342およびブッシュ344については、第1の継鉄34の一部としてだけでなく、第2の継鉄44の一部を構成する部材として説明する。
側板443は、継鉄下板342と下板442との周縁部同士を連結する。継鉄下板342および下板442はそれぞれ矩形板状に形成されているので、側板443は、継鉄下板342の下面において互いに対向する一対の辺と、下板442の上面における互いに対向する一対の辺とを連結するように、一対設けられている。これらの側板443と下板442とは1枚の板で一体に形成されている。
第2の励磁コイル41は、第2の継鉄44で囲まれた空間に配置されており、その内側に第2の固定子43が配置されている。さらに、第2の励磁コイル41の内側には筒体36の下端部が配置されている。つまり、筒体36は、第1の継鉄34の継鉄下板342を貫通しており、その下端部が第2の励磁コイル41内側まで延びている。
第2の固定子43は、下板442の上面の中央部から上方に突出する円柱状の固定鉄芯である。第2の固定子43の下端部が下板442の中央部に形成された保持孔28に嵌合されることにより、第2の固定子43は第2の継鉄44に固定されている。第2の固定子43の外径は、可動子32の外径と同一に形成されている。すなわち、第2の固定子43の外径は、第1の固定子33の外径と同一に形成されている。なお、第2の固定子43の外径は、可動子32や第1の固定子33の外径と同一に限らず、可動子32の外径よりも大きくあるいは小さくてもよい。第1の固定子33の外径が、第2の固定子43の外径よりも小さい場合の効果は後述する。
ここで、第2の固定子43は、その上端面が筒体36の下面に接触するように配置されている。これにより、可動子32が第2の位置にある状態(図2の状態)において、第2の固定子43の上端面と可動子32の下端面との間には、ギャップG1に筒体36の底板の厚み寸法を加えた大きさのギャップが生じる。また、可動子32が第3の位置にある状態(図3の状態)で、第2の固定子43の上端面と、可動子32の下端面とは、筒体36の底板を介して接触している。なお、第2の固定子43の上端面が筒体36の下面に接触することは必須ではなく、第2の固定子43の上端面と筒体36の下面との間には、隙間があってもよい。
ここで、トリップ装置4は、可動子32と第2の励磁コイル41と第2の固定子43とが全て上下方向に沿った同一直線上に中心軸を有するように構成されている。
トリップ装置4は、接点装置2および電磁石装置3と一方向(上下方向)に並べて配置されており、且つ電磁石装置3に対して接点装置2とは反対側に配置されている。つまり、トリップ装置4は、電磁石装置3の下方に配置されている。
ここで、第2の励磁コイル41は、前述のように第1の出力端子51と第2の出力端子52間において接点装置2と直列に接続されている。本実施の形態では、第2の励磁コイル41は、第1の接点台11と第1の出力端子51との間に接続されている。これにより、第2の励磁コイル41は、接点装置2が閉じた状態で、走行用のバッテリ101から負荷102へ供給される負荷電流の経路の一部を形成し、この負荷電流によって励磁される。
なお、第2の励磁コイル41以外の経路でも負荷電流を流すことができるように、第2の励磁コイル41には、電気的に並列にバイパス経路6(図4参照)が接続されていてもよい。バイパス経路6を設けることにより、走行用のバッテリ101から負荷102へ供給される負荷電流の一部がバイパス経路6に流れるので、第2の励磁コイル41での損失が抑えられる。
このとき第2の励磁コイル41で生じる磁束によって、可動子32と第2の固定子43との間に磁気吸引力が生じる。すなわち、可動子32に対して下向きの吸引力が生じる。言い換えれば、第2の継鉄44と第2の固定子43と可動子32とで形成される磁路に対して、第2の励磁コイル41が磁束を生じる。そのため、この磁路の磁気抵抗が小さくなるように可動子32を移動させる向きの吸引力が可動子32に作用する。言い換えれば、トリップ装置4は、磁路のうち第2の固定子43の上端面とブッシュ344の下端面との間のギャップを可動子32で埋めるように、第2の位置から第3の位置へ移動させる向きの吸引力を可動子32に作用させる。
その結果、上記構成の電磁継電器1は、第1の励磁コイル31が通電され、接点装置2が閉じた状態、つまり可動子32が第2の位置(図2参照)にある状態において、可動子32には図5に示すような力が作用する。図5は、本実施の形態における電磁継電器1の要部を示す断面概略図である。可動子32には、第1の固定子33との間の磁気吸引力である第1の力F1が上向きに作用し、ばね力である第2の力F2、および第2の固定子43との間の磁気吸引力である第3の力F3が下向きに作用する。
第1の力F1は、電磁石装置3において、第1の励磁コイル31の通電時に第1の励磁コイル31で生じる磁束によって第1の固定子33から可動子32に作用する吸引力である。第2の力F2は、復帰ばね35から可動子32に作用するばね力と、接圧ばね14から可動接触子13およびシャフト15を介して可動子32に作用するばね力とを合成した力である。つまり、第2の力F2は、復帰ばね35から可動子32に対し下向きに作用する力から、接圧ばね14から可動子32に対し上向きに作用する力を差し引いた力である。第3の力F3は、トリップ装置4において、第2の励磁コイル41の通電時に第2の励磁コイル41で生じる磁束によって第2の固定子43から可動子32に作用する吸引力である。
第2の固定子43から可動子32に作用する吸引力である第3の力F3は、(式1)で表される。
ここで、「N」は第2の励磁コイル41の巻き数、「I」は第2の励磁コイル41を流れる電流の大きさ、「S」は可動子32における第2の固定子43との対向面積、「μ0」は真空の透磁率、「g」は可動子32と第2の固定子43との間の隙間(ギャップ)である。
電磁継電器1は、可動子32が第2の位置にある状態において、第1の力F1が第2の力F2と第3の力F3の和よりも小さい場合(F1<F2+F3)、トリップ装置4によって可動子32が第3の位置に移動し、接点装置2が強制的に開状態となる。要するに、可動子32は、上向きに作用する第1の力F1が、下向きに作用する第2の力F2と第3の力F3との和より大きい場合は第2の位置にあり、第1の力F1が、第2の力F2と第3の力F3との和より小さくなると第3の位置に移動する。
ここで、トリップ装置4は、単に第2の励磁コイル41に負荷電流が流れるだけでトリップするのではなく、第2の固定子43から可動子32に作用する吸引力である第3の力F3が上記の条件(F1<F2+F3)を満たして初めてトリップする。第2の固定子43から可動子32に作用する吸引力は、第2の励磁コイル41を流れる電流(負荷電流)の大きさに応じて変化する。そこで、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41を流れる電流が、規定値以上の異常電流となったときに、第2の固定子43から可動子32に作用する吸引力である第3の力F3が上記の条件(F1<F2+F3)を満たすように構成されている。
すなわち、トリップ装置4は、過電流や短絡電流等のように、規定値以上の異常電流が接点装置2を流れた場合、可動子32を第3の位置に移動させる。具体的には、トリップ装置4は、規定値以上の電流が第2の励磁コイル41を流れた場合、上記の条件を満たす第3の力F3で第2の固定子43に可動子32を吸引するように、第2の励磁コイル41の巻き数やギャップG1(図5参照)などが設定されている。ここで、トリップ装置4が動作を開始する規定値は、たとえば電磁継電器1の定格電流に対して十分に大きな過電流となる値、あるいは短絡電流となる値に設定される。ここでいう過電流は、たとえば定格電流の5倍から10倍程度の大きさの電流である。また、短絡電流は、たとえば定格電流の数十倍程度の大きさの電流である。
これにより、過電流や短絡電流等の異常電流が接点装置2を通して流れた場合、トリップ装置4により可動子32が第3の位置へ移動し、接点装置2が強制的に開状態になる。接点装置2が閉状態にあるとき、第1の励磁コイル31で生じる磁束により、第1の固定子33に可動子32が吸引されている。そして、第2の力F2と第3の力F3との和がこの吸引力を上回れば、可動子32は第2の固定子43に吸い寄せられる。さらに、トリップする際に、可動子32が第2の固定子43に近くなる程、第2の固定子43と可動子32との間の吸引力が大きくなるので、接点装置2の開く速度は徐々に速くなる。
以上のように、電磁継電器1は、異常電流が流れた場合に生じる磁束を利用して可動子32を強制的に復帰させる。その結果、異常電流の発生は速やかに検出され、電路(接点装置2)は迅速に遮断される。
ここで、第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す磁路を形成する部材を第2の磁路部材とする。第2の磁路部材は、可動子32と第2の固定子43と第2の継鉄44とを有している。また、第2の継鉄44は、継鉄下板342と、ブッシュ344と、下板442と、側板443とを有している。第2の磁路部材は、磁路の断面積の最小値が所定の下限値以上となるように構成されるのが望ましい。すなわち、トリップ装置4は、上記の磁路の断面積を大きくとることにより、短絡電流のように過大な電流が第2の励磁コイル41に流れても、磁気飽和が生じにくくなる。
また、第1の励磁コイル31で生じる磁束を通す磁路を形成する部材を第1の磁路部材とする。第1の磁路部材は、可動子32と第1の固定子33と第1の継鉄34とを有している。また、第1の継鉄34は、継鉄上板341と、継鉄下板342と、継鉄側板343と、ブッシュ344とを有している。第1の磁路部材は、第2の磁路部材に比べて、磁路の断面積の最小値が小さくなるように構成されていることが望ましい。すなわち第1の磁路の断面積の最小値は第2の磁路の断面積の最小値よりも小さいことが望ましい。例えば、第1の磁路部材の少なくとも一部(たとえば第1の固定子33)の直径が、第2の磁路部材の一部(たとえば第2の固定子43)の直径に比べて小さく形成されているのが好ましい。すなわち、第1の固定子33は円筒状の固定鉄芯であり、第2の固定子43は、円柱状の固定鉄芯である場合、第1の固定子33の外径は、第2の固定子43の外径よりも小さいのが好ましい。
これにより、第1の励磁コイル31で生じる磁束が通る磁路の磁気抵抗は、第2の励磁コイル41で生じる磁束が通る磁路の磁気抵抗に比べて相対的に高くなる。そのため、可動子32と第2の固定子43との間に生じる吸引力が大きくなる。したがって、トリップする際に接点装置2が開く速度は速くなり、電磁継電器1は、異常電流が流れた場合に生じる磁束を利用して、電路(接点装置2)を迅速に遮断できる。
また、第1の磁路部材は、磁路の断面積の最小値が所定の上限値以下となるように構成されていることが望ましい。例えば、第1の磁路部材の少なくとも一部(たとえば第1の固定子33)の直径が、第2の磁路部材の一部(たとえば第2の固定子43)の直径に比べて小さく形成されているのが好ましい。
これにより、第1の励磁コイル31で生じる磁束が通る磁路は磁気飽和しやすくなり、可動子32と第1の固定子33との間に生じる吸引力が小さくなる。したがって、トリップするために必要な可動子32の吸引力が小さくなり、トリップ装置4は、比較的小さな力でトリップできる。その結果、トリップする際に接点装置2が開く速度が速くなり、電磁継電器1は、異常電流が流れた場合に生じる磁束を利用して、電路(接点装置2)を迅速に遮断できる。
次に、電磁継電器1が前述のようなトリップ装置4を備えることにより、接点装置2の閉状態から異常電流に応答して電路を速やかに遮断できる点について、図6を参照して簡単に説明する。図6は、本実施の形態における電磁継電器1の負荷電流を示すグラフである。横軸を時間、縦軸を電流として、バッテリ101(図4参照)と負荷102との間の電路(接点装置2)を流れる負荷電流を表している。ここで、時刻t0において負荷102で短絡が発生した場合を想定している。負荷電流X1は、トリップ装置4を備えた本実施の形態の電磁継電器1を用いた場合の負荷電流を表している。負荷電流X2は、トリップ装置4のない電磁継電器を用いた場合の負荷電流を表している。
トリップ装置4がない負荷電流X2の場合、電磁継電器は、時刻t0で短絡が発生し、負荷電流X2が上昇して時刻t1で規定値I1に達しても、すぐには接点装置2を開状態にできない。この場合、負荷電流X2は、電子制御ユニット103が保護機能により異常電流の発生を検知し制御信号によってスイッチング素子104をオフし、第1の励磁コイル31の通電が停止された時刻t3から低下し始める。固定接点22a、22bと可動接点21a、21bとの間のアーク放電が消弧され、負荷電流X2が遮断されるまでにはさらに遮断時間T2を要する。そのため、負荷電流X2は、時刻t0から時間T20が経過した時刻t4で遮断される。
一方、トリップ装置4がある場合、電磁継電器1は、時刻t0で短絡が発生し、負荷電流X1が上昇して時刻t1で規定値I1に達すると、トリップ装置4により接点装置2が開状態になる。そのため、この場合、負荷電流X1は、規定値に達した時刻t1から低下し始める。固定接点22a、22bと可動接点21a、21bとの間のアーク放電が消弧され、負荷電流X1が遮断されるまでにはさらに遮断時間T1を要し、負荷電流X1は、時刻t0から時間T10が経過した時刻t2で遮断されることになる。ここで時間T10は時間T20よりもはるかに短い。
なお、トリップ装置4を備える電磁継電器1において、負荷電流を利用してトリップ装置4がトリップするので、第1の励磁コイル31の通電が停止される時刻t3までは、負荷電流が遮断された後、再び接点装置2が閉状態となり、チャタリングを生じる可能性がある。図6において、負荷電流X3は、チャタリングによる負荷電流を示している。ただし、図6に示す負荷電流X1は概念的な波形である。そのため、実際には、トリップ装置4で所定の吸引力が発生するまでに負荷電流X1にオーバーシュートが生じることもある。よって、本実施の形態の電磁継電器1で得られる波形は図6に示す波形に限らない。
また、電磁継電器1は、トリップ装置4を備えることで負荷電流の上昇を抑えることができるという利点もある。つまり、トリップ装置4がなければ、負荷電流X2がある一定の電流(過電流)に達しても、接点装置2はすぐに開かない。そのため、負荷電流X2が上昇し続けて過電流よりも大きい短絡電流に達する可能性がある。これに対して、トリップ装置4があれば、負荷電流X1が過電流に達すると、接点装置2がすぐに開くので、短絡電流に達する前に電路が遮断される。なお、ここでいう過電流は、たとえば定格電流の5倍から10倍程度の大きさの電流であって、短絡電流は、たとえば定格電流の数十倍程度の大きさの電流である。
上記のように本実施の形態の電磁継電器1はトリップ装置4を有しているので、接点装置2を通して流れる規定値以上の異常電流が流れた場合、第2の励磁コイル41で生じる磁束により可動子32が吸引され、可動子32が第3の位置へ移動する。したがって、電磁継電器1は、接点装置2に過電流、短絡電流等の異常電流が流れた際に接点装置2を速やかにオフにできる。
また、接点装置2と電磁石装置3とトリップ装置4とは一方向に並べて配置されており、トリップ装置4は、電磁石装置3に対して接点装置2とは反対側に配置されている。電磁石装置3および接点装置2の外側にトリップ装置4が付加されているので、トリップ装置4を用いない場合の電磁継電器と可動子32等の部品を共通化できる。その結果、電磁継電器1は、可動子32等の部品を特別に設計しなくてもよい。
さらに、トリップ装置4は、可動子32に対して第1の固定子33とは反対側に配置された第2の固定子43を有しているのが好ましい。第2の固定子43が可動子32を吸引することにより、可動子32が第3の位置へ移動する。第2の固定子43を設置することにより、第2の固定子43がない場合に比べて、可動子32に作用する吸引力が大きくなり、可動子32が速やかに第3の位置へ移動する。その結果、接点装置2に過電流、短絡電流等の異常電流が流れた際に、接点装置2が速やかにオフになる。なお、第2の固定子43は必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
図7A、図7Bは、本実施の形態における電磁継電器1の要部を示す断面概略図である。本実施の形態の電磁継電器1は、可動子32が第2の位置にある状態において、第2の励磁コイル41で生じる磁束の一部が第1の固定子33および可動子32を通るように、第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す磁路が形成されている。すなわち、図7A、図7Bに示すように、可動子32が第2の位置にある状態で、第2の励磁コイル41で生じる磁束φ2の一部は第1の固定子33および可動子32を通る。
本実施の形態では、例えば、第2の励磁コイル41は、図7Aに示すように、第1の固定子33と可動子32において、第1の励磁コイル31とは逆向きの磁束(第3の磁束)を生じるように構成されている。すなわち、可動子32が第2の位置にある状態で、第1の励磁コイル31は、第1の固定子33および可動子32を通る第1の磁束を発生し、第2の励磁コイル41は、第1の磁束と逆向きの第3の磁束を、第1の固定子33と可動子32との間において、発生する。つまり、通電時に図7Aに示す向きの磁束φ2を生じるように、第2の励磁コイル41の巻き方向が設定されている。この構成によれば、第1の固定子33と可動子32において、第2の励磁コイル41により生じた磁束φ2は、第1の励磁コイル31により生じた磁束φ1を打ち消すように作用する。
したがって、第1の励磁コイル31による第1の固定子33と可動子32との間の吸引力(図5の第1の力F1)が、第2の励磁コイル41により生じる磁束φ2によって弱められ、トリップ装置4は、比較的小さな力で可動子32を第2の固定子43に吸引できる。そのため、第2の励磁コイル41の巻き数を少なくできる。
ただし、本実施の形態の他の構成例として、図7Bに示すように、第1の固定子33と可動子32において、第2の励磁コイル41により生じた磁束φ2が、第1の励磁コイル31により生じた磁束φ1と同じ向きであってもよい。すなわち、可動子32が第2の位置にある状態で、第1の励磁コイル31は、第1の固定子33および可動子32を通る第1の磁束を発生し、第2の励磁コイル41は、第1の磁束と同じ向きの第4の磁束を、第1の固定子33と可動子32との間において、発生してもよい。つまり、第2の励磁コイル41は、通電時に図7Bに示す向きの磁束φ2を生じるように巻き方向が設定されている。この構成によれば、第1の固定子33と可動子32との間において、第2の励磁コイル41により生じた磁束φ2は、第1の励磁コイル31による第1の固定子33と可動子32との間の吸引力(図5の第1の力F1)を強めるように作用する。
図7Bのトリップ装置4は、第2の励磁コイル41の巻き数が同じであれば、図7Aの構成に比べて、トリップする電流値(規定値)は大きくなるが、トリップする際に第2の固定子43と可動子32との間に作用する吸引力は大きくなる。そのため、電磁継電器1は、トリップする電流値(規定値)が大きく設定される場合には、図7Bの構成にすることで、トリップする際の接点装置2の開く速度が速くなるという利点がある。
また、本実施の形態では、電磁石装置3は、前述のように第1の位置と第2の位置との間で上下方向に可動子32を直進移動させるように構成された、いわゆるプランジャ型の電磁石装置である。そのため、電磁石装置3とトリップ装置4とは、可動子32に対して互いに反対向きの吸引力を作用させればよく、吸引力を効率的に作用できる。ここで、第2の継鉄44は、可動子32、第2の固定子43と共に、第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す磁路を形成している。
また、継鉄下板342およびブッシュ344は、第2の継鉄44と可動子32とに磁気的に結合されている。そして、継鉄下板342およびブッシュ344から第2の固定子43までの最短距離は、可動子32から第2の固定子43までの最短距離よりも長いことが好ましい。言い換えれば、図5に示すように第2の位置にある状態で、可動子32の下端面が、継鉄下板342およびブッシュ344の下端面よりも、第2の固定子43側(下方)に所定量L1だけ飛び出すように構成されているのが好ましい。
この構成によれば、第2の励磁コイル41の生じる磁束において、可動子32を通らずに第2の固定子43と継鉄下板342あるいはブッシュ344との間を通過する漏れ磁束が低減される。そのため、第2の励磁コイル41の生じる磁束は、可動子32と第2の固定子43との間に集中し、可動子32と第2の固定子43との間に作用する吸引力が大きくなる。したがって、トリップする電流値(規定値)が同じであれば第2の励磁コイル41の巻き数を少なくでき、第2の励磁コイル41の巻き数が同じであればトリップする電流値を小さくできる。
また、第2の励磁コイル41は、可動子32の移動軸の周りに巻かれており、少なくとも一部が、可動子32の移動する方向(上下方向)に直交する方向において、第2の位置にある可動子32と重複するように配置されていることが望ましい。すなわち、第2の励磁コイルの少なくとも一部は、第2の位置にある可動子の少なくとも一部の周囲に配置されているのが好ましい。つまり、第2の励磁コイル41は、その内側に、第2の位置にある可動子32の下端部が挿入されるように構成される。言い換えれば、可動子32は、図5に示すように第2の位置にある状態で、その下端面が、第2の励磁コイル41の上端面より第2の固定子43側(下方)に所定量L2だけ飛び出すように構成されるのが好ましい。
この構成によれば、可動子32は、第2の励磁コイル41の外側よりも磁束密度が大きくなる第2の励磁コイル41の内側にその一部(下端部)が配置されるので、第2の固定子43との間に作用する吸引力が大きくなる。したがって、トリップする電流値(規定値)が同じであれば第2の励磁コイル41の巻き数を少なくでき、第2の励磁コイル41の巻き数が同じであればトリップする電流値を小さくできる。
さらに、第2の固定子43と第2の位置にある可動子32との間の距離は、短い方が望ましい。可動子32が第2の位置にあるとき、つまり接点装置2が閉状態にあるときの、第2の固定子43と可動子32との間のギャップが小さい方がトリップするために必要な可動子32の吸引力が小さくなる。そのため、トリップ装置4は、比較的小さな力でトリップできる。
また、第2の励磁コイル41は、図8に示すように巻き数が1ターン以下であることが望ましい。第2の励磁コイル41の起磁力は、第2の励磁コイル41を流れる電流の大きさと、第2の励磁コイル41の巻き数(ターン数)との積で表される。第2の励磁コイル41で生じる磁束が必要になるのは、過電流や短絡電流などの過大な異常電流が第2の励磁コイル41を流れる場合である。たとえば数千Aの短絡電流を想定した場合、第2の励磁コイル41は、1ターン以下の巻き数であっても、十分な起磁力を生じる。
第2の励磁コイル41には、走行用のバッテリ101から負荷102へ供給される負荷電流が流れる。そのため、第2の励磁コイル41での損失(銅損)を小さく抑えるように、コイル線(銅線)の線径を大きく且つ線長を短くすることが望ましい。第2の励磁コイル41の巻き数を1ターン以下に抑えれば、第2の励磁コイル41は、コイル線の線径を大きく、且つ線長を短くできる。さらに、第2の励磁コイル41のコイル線の線長を短くすることで、低コスト化および小型化が図れる。
さらに、第2の励磁コイル41は、金属にて形成されていることが望ましい。金属板に打ち抜き加工や曲げ加工等の加工を施すことによって、第2の励磁コイル41が形成できる。この場合、第2の励磁コイル41は、図8のような1ターンの巻き数であってもよいし、2ターンより大きい巻き数となるように渦巻状や螺旋状に形成されていてもよい。
ここで、第1の励磁コイル31および第2の励磁コイル41が、可動子32の移動方向(上下方向)に沿った同一軸(可動子32の移動軸)の周りに巻かれていれば、図9に示すように、第2の励磁コイル41の少なくとも一部が、第1の励磁コイル31と重複するように配置されていてもよい。図9は、実施の形態1における他の電磁継電器61の要部を示す断面概略図である。図9に示すように、第1の励磁コイル31が巻かれている軸と、第2の励磁コイル41が巻かれている軸が一致しており、第2の励磁コイル41は、その上端部が第1の励磁コイル31の下端部の周囲に巻かれるように配置されていてもよい。図9の例では、第2の励磁コイル41の上側の1ターン分が第1の継鉄34の外周に巻かれ、残りは第2の継鉄44の内側に巻かれている。これにより、電磁継電器1は、トリップ装置4を付加したことによる上下方向の寸法の増加分を小さく抑えることができ、上下方向について小型化が図れる。
また、本実施の形態では、接点装置2は、可動子32が第2の位置にあるときに、可動接点21a、21bを固定接点22a、22bに押し付ける向きの力を生じる接圧ばね14を有する。そのため、接点装置2は、可動子32が第2の位置にある場合、可動接点21a、21bと固定接点22a、22bとの間に十分な接触圧力を確保できる。
可動子32が第2の位置にある状態で、接点装置2を流れる電流によって可動接点21a、21bを固定接点22a、22bから引き離す向きに電磁反発力が生じる。トリップする電流値(規定値)は、上記の電磁反発力が、接圧ばね14のばね力とつり合う場合の、接点装置2を流れる電流値より小さく設定されていることが望ましい。すなわち、電磁継電器1は、トリップする電流値(規定値)の設定に当たっては、電磁反発力と接圧ばね14のばね力とを加味して規定値が設定されるのが望ましい。
さらに詳しく説明すると、第1の励磁コイル31の通電時において、可動接触子13(図1~3参照)には、接点台11、12の一方から他方に向けて可動接触子13を通して流れる電流に起因して発生する電磁反発力が下向きに作用する。つまり、接点台11、12の一方から他方へ可動接触子13を通して電流が流れると、この電流によって可動接触子13の周辺に磁束が生じる。この磁束と可動接触子13を流れる電流とによって、可動接触子13には、可動接点21a、21bを固定接点22a、22bから離す向き(下向き)のローレンツ力(電磁反発力)が作用する。
この電磁反発力は、通常時には接圧ばね14のばね力よりも小さいので、可動接触子13は、接圧ばね14から上向きの力を受け、可動接点21a、21bを固定接点22a、22bに接触させた状態を維持している。ただし、接点装置2を流れる電流が短絡電流などの大電流になると、可動接触子13に作用する電磁反発力が接圧ばね14のばね力を上回って、可動接点21a、21bが固定接点22a、22bから離れる可能性がある。このように電磁反発力が接圧ばね14のばね力を上回る状態では、可動接点21a、21bと固定接点22a、22bとの間にアーク放電が発生して接点溶着を生じる可能性がある。仮に、接点溶着が生じると、可動接点21a、21bを固定接点22a、22bから離すように可動接触子13を移動させるために必要な力が大きくなるので、電磁継電器1は、トリップに必要な力が大きくなってしまう。
そこで、トリップする電流値(規定値)が、接圧ばね14のばね力とつり合うときの電流値より小さく設定されていることが望ましい。これにより、接点装置2を流れる電流が大きくなっても、電磁反発力が接圧ばね14のばね力を上回る前にトリップできるので、電磁反発力に起因した接点溶着を生じにくくなる。
図10は、本実施の形態における他の電磁継電器63の要部を示す断面概略図である。図10に示すように、電磁石装置3は、可動子32と第1の固定子33との間に形成された非磁性材料の調整部材18を有していてもよい。図10の例では、調整部材18は、リング状に形成されたレシジュアル(スペーサ)であって、可動子32の上面に配置され、シャフト15が挿通されている。ここでは、調整部材18は、その外径が可動子32と同一に形成され、且つ可動子32と一体となって移動するように可動子32に取り付けられて(接着されて)いる。ただし、調整部材18は、その外径が可動子32と同一でなくてもよく、リング状以外の形状であってもよく、また、可動子32ではなく第1の固定子33に取り付けられていてもよい。
可動子32と第1の固定子33との間に調整部材18が設置されていることにより、可動子32が第2の位置にあっても、可動子32は第1の固定子33に接触しない。すなわち、接点装置2が閉状態にあっても、可動子32が第1の固定子33から離れており、可動子32と第1の固定子33との間に作用する吸引力が小さくなる。
図11は、本実施の形態における電磁継電器63の可動子32に作用する力を示すグラフである。図11において、横軸は可動子32と第1の固定子33との間の距離を示している。縦軸は力を示している。図11では、第1の固定子33から可動子32に作用する吸引力Y1と、調整部材18がない場合の可動子32に作用するばね力Y2と、調整部材18がある場合の可動子32に作用するばね力Y3を示している。第1の固定子33から可動子32に作用する吸引力Y1は、図5に示す第1の力F1に相当する。可動子32に作用するばね力Y2、Y3は、図5に示す第2の力F2に相当する。図11に示すように、可動子32と第1の固定子33との間の距離が大きくなるほど、第1の固定子33から可動子32に作用する吸引力Y1は小さくなる。
図10に示す電磁継電器63の構成にすることにより、第2の位置にある可動子32と第1の固定子33との間に調整部材18の厚みに相当する間隔D1が生じる。そのため、可動子32に作用する吸引力Y1がF11からF12まで低下する。調整部材18がある場合、トリップに必要な可動子32と第2の固定子43との間の吸引力は、F12からばね力αを引いた値より大きい必要がある。また、調整部材18がない場合、トリップに必要な可動子32と第2の固定子43との間の吸引力はF11からばね力αを引いた値より大きい必要がある。よって、調整部材18がある場合は、調整部材18がない場合に比べて、トリップに必要な吸引力を小さくできる。ここで、トリップに必要な可動子32と第2の固定子43との間の吸引力は図5に示す第3の力F3に相当する。なお、ここでばね力αは、可動子32が第2の位置にあるときのばね力であって、調整部材18があってもなくても同値であると仮定している。
図12は、実施の形態1におけるさらに他の電磁継電器65の要部を示す断面概略図である。図12に示すように、第1の励磁コイル31で生じる磁束を通す第1の継鉄34と、第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す第2の継鉄44とが別体であってもよい。第1の励磁コイル31で生じる磁束を通す磁路が、第1の継鉄34、可動子32および第1の固定子33により形成されている。さらに、第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す磁路が、第2の継鉄44、可動子32および第2の固定子43により形成されている。
図12の例では、第1の継鉄34は、上記実施の形態と同様に、継鉄上板341と継鉄下板342と継鉄側板343とブッシュ344とを有している。一方、第2の継鉄44は、第1の継鉄34の一部(継鉄下板342およびブッシュ344)を上板として兼用するのではなく、第1の継鉄34とは分離された上板441と下板442と側板443とを有している。
第1の継鉄34の一部を第2の継鉄44の一部に兼用する構成(図7A、7B参照)では、第2の励磁コイル41で生じた磁束の一部は、第1の継鉄34に回り込み、第1の励磁コイル31で生じた磁束と干渉することがある。これに対して、図12に示す構成では、第2の励磁コイル41で生じた磁束の、第1の継鉄34への回り込みを少なくできる。そのため、より小さな電流で可動子32が第3の位置に移動する。また、第1の励磁コイル31の生じる磁束用の磁路と、第2の励磁コイル41の生じる磁束用の磁路とを、お互いの干渉を考慮せずに設計できる。その結果、それぞれの磁路の設計が容易になる。
図13A~図13Eは、実施の形態1における可動子32と第2の固定子43との形状の例を示す断面図である。可動子32と第2の固定子43との対向面積は、可動子32と第1の固定子33との対向面積よりも大きいことが好ましい。いいかえれば、可動子32が第3の位置にある場合の可動子32と第2の固定子43との接触面積は、可動子32が第2の位置にある場合の可動子32と第1の固定子33との接触面積よりも大きい方が好ましい。
具体的には、図13A、図13B、図13C、および図13Dに示すように、可動子32と第2の固定子43との各対向部位を、互いに嵌り合う凹凸形状とすることで、可動子32と第2の固定子43との対向面積を大きくできる。ここで、凹凸形状は、図13A、図13Cおよび図13Dのように、第2の固定子43が凸状であってもよいし、図13Bに示すように可動子32が凸状であってもよい。
さらに、図13Eに示すように、第2の固定子43の外径を第1の固定子33よりも大きくし、且つ可動子32における第2の固定子43側の端部(下端部)を拡径することにより、可動子32と第2の固定子43との対向面積を大きくしてもよい。なお、図13A~図13Eは、いずれも可動子32および第2の固定子43の形状を表す概略図であって、可動子32および第2の固定子43以外の図示を省略している。
上記の構成により、可動子32が第1の固定子33と第2の固定子43との中間に位置する状態では、可動子32に対し第2の固定子43から作用する吸引力は、可動子32に対し第1の固定子33から作用する吸引力に比べて相対的に大きくなる。したがって、トリップする際に接点装置2が開く速度は速くなり、電磁継電器1は、異常電流が流れた場合に生じる磁束を利用して、電路(接点装置2)を迅速に遮断できる。
図14A~図14Fは、実施の形態1における可動子32と第1の固定子33との形状の例を示す断面図である。図14A~図14Fに示すように、可動子32と第1の固定子33との少なくとも一方が他方との対向面に凹凸を有していてもよい。すなわち、可動子32が第2の位置にある場合に、可動子32の表面と第1の固定子33の表面とが全面で接触するのを妨げるように、可動子32と第1の固定子33との少なくとも一方が、他方との対向面に凹部もしくは凸部を有していてもよい。
この構成により、可動子32が第2の位置にある場合に、可動子32と第1の固定子33との間に隙間が生じる。ここで、図14A、図14D、および図14Fのように対向面のうち中央部が凸状であってもよいし、図14B、図14C、および図14Eのように対向面のうち外周部が凸状であってもよい。
図14A~図14Fでは可動子32と第1の固定子33との両方に凹凸が設けられているが、可動子32と第1の固定子33との少なくとも一方に凹凸が設けられていればよい。すなわち、可動子32のみ、あるいは第1の固定子33のみに凹凸が設けられていてもよい。なお、図14A~図14Fは、いずれも可動子32および第1の固定子33の形状を表す概略図であって、可動子32および第1の固定子33以外の図示を省略している。
上記の構成によれば、可動子32が第2の位置にある状態で、可動子32に対し第1の固定子33から作用する吸引力は、凹凸による隙間がない場合に比べて相対的に小さくなる。したがって、トリップするために必要な可動子32の吸引力が小さくなり、トリップ装置4は、比較的小さな力でトリップできる。その結果、トリップする際に接点装置2が開く速度は速くなり、電磁継電器1は、異常電流が流れた場合に生じる磁束を利用して、電路(接点装置2)を迅速に遮断できる。
なお、実施の形態1で記述した上記の構成は、適宜組み合わせることが可能である。
(実施の形態2)
図15は、本実施の形態における電磁継電器71の要部を示す断面概略図である。本実施の形態の電磁継電器71は、図15に示すように、第1の励磁コイル31が、投入用コイル311と保持用コイル312とを有している点で、実施の形態1の電磁継電器1と相違する。保持用コイル312は、同じ大きさの電流が流れたときに生じる磁束密度が投入用コイル311より小さなコイルである。以下、図1と同様の構成については、共通の符号を付してその説明を省略する。
図15の例では、投入用コイル311と保持用コイル312とは同一軸周りに巻かれており、投入用コイル311の外周に保持用コイル312が重なるように二重巻きにされている。
可動子32を第1の位置から第2の位置へ移動させる投入期間には投入用コイル311が通電され、可動子32を第2の位置に保持する保持期間には保持用コイル312が通電される。すなわち、電子制御ユニット103は、電磁継電器71の接点装置2を閉じる際に、所定の投入期間、投入用コイル311が通電し、投入期間が経過すると投入用コイル311への通電を停止し、保持用コイル312への通電に切り替える。
図16は、本実施の形態における電磁継電器71の可動子32に作用する力を示すグラフである。図16において、横軸は可動子32と第1の固定子33との間の距離を示している。縦軸は力を示している。図16では、吸引力Z1と、吸引力Z2と、可動子32に作用するばね力Z3を示している。吸引力Z1は、投入用コイル311の通電時に、第1の固定子33から可動子32に作用する吸引力である。吸引力Z2は、保持用コイル312の通電時に、第1の固定子33から可動子32に作用する吸引力である。図16に示すように、可動子32と第1の固定子33との間の距離が大きくなるほど、可動子32に第1の固定子33から作用する吸引力が小さくなる。第1の固定子33から可動子32に作用する吸引力Z1は、図5に示す第1の力F1に相当する。可動子32に作用するばね力Z3は、図5に示す第2の力F2に相当する。
ここで、開状態の接点装置2を閉じるためには、可動子32に上向きに作用する吸引力Z1が、可動子32に下向きに作用するばね力Z3を上回る必要がある。保持用コイル312の通電時(保持期間)に可動子32に作用する吸引力Z2は、ばね力Z3を下回る区間があるので、電磁継電器71は、保持用コイル312が通電されても開状態の接点装置2を閉じることができない。これに対して、投入用コイル311は保持用コイル312よりも大きな磁束密度を生じるので、投入用コイル311の通電時(投入期間)に可動子32に作用する吸引力Z1は、全区間においてばね力Z3を上回る。そのため、投入用コイル311が通電されたときには、開状態の接点装置2が閉じる。
一方、電磁継電器71は、接点装置2が閉状態になり、投入期間から保持期間に切り替わると、可動子32に作用する吸引力が「Z1」の「F11」から「Z2」の「F13」まで低下する。ただし、保持期間における吸引力Z2(F13)は、可動子32を第2の位置に保持する必要があるので、少なくともばね力Z3を上回るように設定される。このとき、トリップに必要な可動子32と第2の固定子43との間の吸引力(図5に示す第3の力F3)は、F13からばね力αを引いた値より大きければよいので、投入期間における吸引力(F11からばね力αを引いた値)より小さくなる。なお、ばね力αは、可動子32が第2の位置にあるときのばね力であって、投入期間でも保持期間でも同値である。
以上説明した本実施の形態の構成によれば、投入期間よりも保持期間において、すなわち可動子32が第2の位置にある状態で、第1の固定子33と可動子32との間に作用する吸引力が小さくなる。そのために、トリップに必要な吸引力が小さくできるという利点がある。さらに、保持用コイル312の消費電力は投入用コイル311よりも小さく抑えられる。そのために、投入期間に比べて保持期間の消費電力を小さく抑えられる。
また、本実施の形態の他の例として、前述のように第1の固定子33と可動子32間に作用する吸引力が投入期間よりも保持期間にて小さくなる構成を、単一の第1の励磁コイル31で実現することも可能である。
この例では、電磁石装置3は、第1の励磁コイル31に流れる電流の大きさが、投入用電流と、投入用電流より電流値の小さな保持用電流とで切り替えが可能である。さらに、電磁石装置3は、投入期間には第1の励磁コイル31に投入用電流が供給され、保持期間には第1の励磁コイル31に保持用電流が供給されるように構成されている。ここでいう投入期間は、前述のように可動子32を第1の位置から第2の位置へ移動させる期間であって、保持期間は、前述のように可動子32を第2の位置に保持する期間である。
具体的には、たとえば電子制御ユニット103(図4参照)は、接点装置2を閉じる際に、所定の投入期間にだけ投入用電流を第1の励磁コイル31に流し、投入期間が経過すると第1の励磁コイル31に保持用電流を流すように、電流を切り替える。
この構成によれば、投入期間よりも保持期間において、可動子32が第2の位置にある状態で第1の固定子33と可動子32との間に作用する吸引力が小さくなるので、トリップに必要な吸引力を小さくできるという利点がある。さらに、第1の励磁コイル31の消費電力は、投入期間よりも保持期間において小さく抑えることができるので、保持期間の消費電力を投入期間に比べて小さく抑えることができる。しかも、第1の励磁コイル31は単一のコイルでよいので、第1の励磁コイル31として複数のコイルが用いられる場合に比べて、低コスト化および小型化が図れる。
(実施の形態3)
図17は、本実施の形態における電磁継電器81の要部を示す概略断面図である。電磁継電器81は、図17に示すように、第2の励磁コイル41が、トリップ装置4における一方向(上下方向)の一部において、他の部位よりも巻き数が多くなるように、重ねて巻回されている。すなわち、第2の励磁コイル41が、トリップ装置4における上下方向の一部において、上下方向に直交する方向に重ねて巻回されている。いいかえれば、第2の励磁コイル41は、少なくとも1箇所において、他の箇所よりも巻き数が多くなるように、重ねて巻回されている。その他の構成および機能は、実施の形態1と同様であるため、実施の形態1と同様の構成については、共通の符号を付してその説明を省略する。
図17に示すように、第2の励磁コイル41は、第2の継鉄44に囲まれた空間において、コイル線(銅線)が筒体36の外周に巻回されて構成されている。ここで、第2の励磁コイル41のターン数(巻き数)は3ターンであって、そのうち2ターン分が継鉄下板342の下面に沿って巻回されている。つまり、第2の励磁コイル41は、トリップ装置4における一方向(上下方向)の上端部において、一方向に直交する方向(筒体36の径方向)に重ねて巻回されることにより、上端部の巻き数が他の部位よりも多くなっている。
第2の励磁コイル41の通電時に第2の励磁コイル41の内側の空間に生じる磁束は、一方向(上下方向)において、第2の励磁コイル41の巻き数が他より多い部位に集中的に生じる。そのため、第2の励磁コイル41の内側の空間の磁束密度は、一方向(上下方向)において第2の励磁コイル41の巻き数が他より多い部位で最大となる。したがって、トリップ装置4は、第2の励磁コイル41の巻き数が一方向(上下方向)の全体に亘って均一である場合に比べ、トリップする際に第2の位置にある可動子32を通る磁束が増え、可動子32に作用する吸引力が大きくなる。
さらに詳しく説明すると、トリップ装置4が作動することによって可動子32に作用する力には、大きく分けて以下の2種類の力がある。1つ目は、第2の固定子43から可動子32に作用する吸引力(第3の力F3)、2つ目は、空間中に生じる磁束によって可動子32に作用する力である。このうち、第2の固定子43から可動子32に作用する吸引力である第3の力F3は、前述の(式1)で表されるように、可動子32と第2の固定子43との間の隙間(ギャップ)の二乗に反比例する。トリップの開始時には、可動子32が第2の位置にあり、可動子32と第2の固定子43との間のギャップは比較的大きいので、可動子32に作用する力は、1つ目の力(第3の力F3)よりも2つ目の力が支配的になる。
そして、2つ目の力は可動子32中の磁束密度が大きくなるほど大きくなる。そのため、前述のように第2の励磁コイル41の内側の空間の一部に磁束が集中することにより、2つ目の力も大きくなる。その結果、トリップする際に接点装置2が開く速度は速くなり、電磁継電器81は、異常電流が流れた場合に生じる磁束を利用して、電路(接点装置2)を迅速に遮断できる。
次に、電磁継電器81が、第2の励磁コイル41を備えることにより、異常電流に応答して、接点装置2の閉状態から電路を速やかに遮断できる点について、図18を参照して簡単に説明する。図18は、本実施の形態における電磁継電器81の動作を説明するグラフである。図18では、横軸を時間、縦軸を電流として、バッテリ101(図4参照)と負荷102との間の電路(接点装置2)を流れる負荷電流を表している。時刻t0において負荷102で短絡が発生した場合を想定している。図18において、負荷電流X1は、実施の形態1の電磁継電器1を用いた場合の負荷電流を示している。負荷電流X2は、トリップ装置4のない従来の電磁継電器を用いた場合の負荷電流を示している。
負荷電流X4は、本実施の形態の電磁継電器81を用いた場合の負荷電流を示している。なお、図18では、接点装置2のチャタリングによる負荷電流の図示は省略している。
実施の形態1の電磁継電器1を用いた場合、およびトリップ装置4がない場合については、実施の形態1で説明した通りであるから、ここではその説明を省略する。
一方、本実施の形態の電磁継電器81は、時刻t0で短絡が発生し、負荷電流X4が上昇して時刻t11で規定値I2に達すると、トリップ装置4により接点装置2を迅速に開状態とする。ここで、電磁継電器81は、第2の励磁コイル41に同じ大きさの負荷電流が流れた場合に、電磁継電器1に比べて、可動子32に作用する吸引力が大きくなるため、トリップを開始する際の負荷電流(規定値)は小さくなる。そのため、電磁継電器81は、電磁継電器1の負荷電流X1が規定値I1に達する時刻t1よりも、時間T100だけ早い時刻t11においてトリップを開始する。
さらに、電磁継電器81は、電磁継電器1に比べて、可動子32に作用する吸引力が大きくなる。そのため、トリップする際に接点装置2が開く速度は速くなる。その結果、電磁継電器81は、電磁継電器1の負荷電流X1が遮断される時刻t2よりも、時間T200だけ早い時刻t12において負荷電流X4を遮断できる。
また、電磁継電器81は、負荷電流の上昇をより抑えられるという利点もある。つまり、電磁継電器81は、短絡が生じてから負荷電流X4が遮断されるまでの時間を短縮できるので、負荷電流X4にオーバーシュートが生じたとしても、短絡電流まで上昇する前に負荷電流X4が遮断可能となる。なお、ここでいう短絡電流は、たとえば定格電流の数倍から数十倍程度の大きさの電流である。
以上説明した本実施の形態の電磁継電器81によれば、トリップ装置4が、接点装置2を通して流れる規定値以上の異常電流により第2の励磁コイル41で生じる磁束によって可動子32を吸引し、可動子32を第3の位置へ迅速に移動できる。したがって、電磁継電器81は、接点装置2に過電流、短絡電流等の異常電流が流れた際に接点装置2をより速やかにオフにできる。
なお、図17では、第2の励磁コイル41の少なくとも一部が、上下方向に直交する方向において、第2の位置にある可動子32と重複するように配置されている。このような構成においても、上記の効果を奏するが、第2の励磁コイル41の少なくとも一部が、上下方向に直交する方向において、第2の位置にある可動子32と重複しないように配置されている場合の方が、より顕著な効果を奏する。つまり、第2の励磁コイル41の少なくとも一部が、上下方向に直交する方向において第2の位置にある可動子32と重複しない場合には、上記2つ目の力は、大半が可動子32を第3の位置に移動させる向き(下向き)に作用する。したがって、電磁継電器81は、接点装置2に過電流、短絡電流等の異常電流が流れた際に接点装置2をより速やかにオフすることができる。
また、電磁継電器81は、第2の励磁コイル41が、トリップ装置4における一方向(上下方向)の一部において、他の部位よりも巻き数が多くなるように、その一部においては一方向に直交する方向に重ねて巻回されていればよい。そのため、第2の励磁コイル41は、図17に示すように、トリップ装置4の上端部において、一方向に直交する方向(筒体36の径方向)に重ねて巻回される構成に限らず、一方向の任意の一部において筒体36の径方向に重ねて巻回されていればよい。
たとえば、第2の励磁コイル41は、トリップ装置4における一方向(上下方向)の中央部や下端部において、一方向に直交する方向(筒体36の径方向)に重ねて巻回されていてもよい。さらに、第2の励磁コイル41の巻き数は適宜変更可能である。
また、第2の励磁コイル41は、トリップ装置4における一方向(上下方向)の一部において多重巻きになっていればよく、他の部位における第2の励磁コイル41の巻き数は0(ゼロ)であってもよい。つまり、第2の励磁コイル41は、トリップ装置4における一方向の一部にのみ巻回されていてもよい。そして、トリップ装置4における一方向の一部においては、第2の励磁コイル41は、上記一方向に複数段に分かれて巻回されていてもよい。この場合、複数段の各々における第2の励磁コイル41の巻き数は、同一であってもよい。つまり、たとえば第2の励磁コイル41のターン数(巻き数)が4ターンであれば、第2の励磁コイル41は、3ターンと1ターンとに分けて巻回れることが好ましいが、2ターンずつ2段に分けて巻回されていてもよい。
すなわち、本実施の形態の電磁継電器81は、第2の励磁コイル41が、トリップ装置4における一方向の一部において、他の部位よりも巻き数が多くなるように、その一部においては一方向に直交する方向に重ねて巻回された構成であればよい。これにより、電磁継電器81は、電磁継電器1に比べて可動接点32を迅速に移動できる。そのため、上記他の部位に第2の励磁コイル41を巻くか否か、あるいは上記一部における第2の励磁コイル41の巻き方などは適宜変更可能である。
なお、本実施の形態で説明した構成は、実施の形態1に限らず、実施の形態2とも適宜組み合わせて適用可能である。
(実施の形態4)
図19は、本実施の形態における電磁継電器91の要部を示す概略断面図である。電磁継電器91は、第1の励磁コイル31で生じる磁束を通す磁路を形成する第1の磁路部材、および第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す磁路を形成する第2の磁路部材の少なくとも一部について、渦電流の発生を抑制する構成を採用している。その他の構成および機能は実施の形態1と同様であるため、実施の形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
第1の磁路部材は、可動子32と、第1の固定子33と、第1の継鉄34とを有する。また、第1の継鉄34は、継鉄上板341と、継鉄下板342と、継鉄側板343と、ブッシュ344とを有している。また、第2の磁路部材は、可動子32と、第2の固定子43と、第2の継鉄44とを有している。第2の継鉄44は、継鉄下板342と、ブッシュ344と、下板442と、側板443とを有している。
第1の磁路部材および第2の磁路部材の少なくとも一部が、固定接点22a、22b(図1参照)よりも電気抵抗率の大きい材料で構成されている。すなわち、可動子32と、第1の固定子33と、第1の継鉄34と、第2の固定子43と、第2の継鉄44との少なくとも一つは、固定接点22a、22bよりも電気抵抗率の大きい材料で構成されている。
具体的には、可動子32と第1の固定子33との少なくとも一方が、固定接点22a、22bよりも電気抵抗率の大きい材料で構成されている。ここで、可動子32および第1の固定子33の材料としては、たとえば電磁SUS(ステンレス鋼)、磁性紛体(磁性粉末)、フェライトなどが用いられる。磁性粉末を用いる場合、可動子32および第1の固定子33は、磁性粉末と合成樹脂などの絶縁材料とを混合し、成型、熱硬化することによって形成される。
第1の磁路部材および第2の磁路部材の少なくとも一部に、固定接点22a、22bに比べて電気抵抗率の大きい材料を用いることにより、渦電流の発生を抑制している。
また、図19に示すように、可動子32の表面は被覆部材321で覆われており、第1の固定子33の表面は被覆部材332で覆われている。ここで、被覆部材321、332として、たとえば合成樹脂などの弾性あるいは可塑性を有する材料を用いることが望ましい。
このように、可動子32および第1の固定子33の表面を被覆部材321,332で覆う(コーティングする)ことにより、可動子32が第1の固定子33に衝突する際の衝撃を緩和(緩衝)できる。その結果、衝突時の衝撃により、可動子32や第1の固定子33に歪み等が生じることを回避でき、電磁継電器91の信頼性向上につながる。とくに、可動子32および第1の固定子33が、固定接点22a、22bに比べて電気抵抗率の大きい材料で構成される場合には、可動子32および第1の固定子33の強度が低下しやすいので、被覆部材321,332によって補強をできる。
なお、可動子32と第1の固定子33とは、少なくとも一方の表面が被覆部材で覆われていればよく、可動子32および第1の固定子33の両方の表面が被覆部材で覆われている必要はない。
本実施の形態の構成によれば、第1の励磁コイル31で生じる磁束を通す磁路を形成する第1の磁路部材、および第2の励磁コイル41で生じる磁束を通す磁路を形成する第2の磁路部材の少なくとも一部の渦電流の発生を抑制できる。すなわち、本実施の形態の電磁継電器91は、第1の励磁コイル31あるいは第2の励磁コイル41に流れる電流の変化時(立ち上がり時)において、電磁誘導によって生じる第1の磁路部材および第2の磁路部材の渦電流を抑制できる。このような渦電流が新たな磁束を生じると、第1の励磁コイル31や第2の励磁コイル41で生じる磁束と反発することにより、可動子32に作用する吸引力が低下する可能性がある。本実施の形態では、渦電流の発生を抑制することにより、可動子32に作用する吸引力の低下を抑制できる。
図20A~図20Eは、本実施の形態における可動子32の断面形状の例を示す概略図である。なお、図20A~図20Eは、上方から見た可動子32の断面形状を示している。図20A~図20Eでは、第1の磁路部材および第2の磁路部材の少なくとも一部の渦電流の流れる方向において、電気抵抗が高くなる箇所が形成されている。すなわち可動子32と、第1の固定子33と、第1の継鉄34と、第2の固定子43と、第2の継鉄44との少なくとも一つの、第1の磁束または第2の磁束に直交する断面の外周の一部に切欠部が形成されている。具体的には、図20A~図20Eに示すように、可動子32の外周の一部に切欠部が形成されている。詳細には、磁束に直交する可動子32の断面の外周の一部に切欠部322が形成されている。切欠部322を設けることにより、渦電流の流れる方向における電気抵抗が高くなるため、渦電流の発生が抑制される。とくに、表皮効果により導体の表面付近の電流密度が比較的高くなるので、外周に切欠部322を設けることにより、第1の磁路部材および第2の磁路部材の一部である可動子32の表面を流れる渦電流の発生が抑制される。
図21は、本実施の形態における第1の固定子33の断面形状の例を示す概略図である。なお、図21は下方から見た第1の固定子33の断面形状を示している。図21では、第1の磁路部材および第2の磁路部材の少なくとも一部の渦電流の流れる方向において、電気抵抗が高くなる箇所が形成されている。すなわち可動子32と、第1の固定子33と、第1の継鉄34と、第2の固定子43と、第2の継鉄44との少なくとも一つの、第1の磁束または第2の磁束に直交する方向に複数の層が積層されている。
具体的には、第1の固定子33は複数の層を有している。詳細には、磁束に直交する第1の固定子33の断面に複数の層333,334が積層されている。
図21の例では、第1の固定子33は、径方向に複数の層333,334が積層された積層構造を有している。ここで、複数の層333,334は、同一材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。また、複数の層333,334が積層される方向は、第1の固定子33の径方向に限らず、第1の磁路部材および第2の磁路部材の少なくとも一部の渦電流の流れる方向であればよい。
本実施の形態によれば、第1の磁路部材および第2の磁路部材の少なくとも一部を積層構造とすることで、渦電流の流れる方向における電気抵抗が高くなるため、渦電流の発生が抑制される。なお、積層構造は、図21のような2層に限らず、3層以上であってもよい。
なお、本実施の形態で説明した構成は、実施の形態1に限らず、実施の形態2,3とも適宜組み合わせてもよい。
上記各実施の形態では、トリップ装置4が作動していない接点装置2の開状態では可動子32は第1の位置に位置し、トリップ装置4が作動すると可動子32は第1の位置とは別の第3の位置に位置する場合を例示した。しかし、第1の位置と第3の位置とは同じであってもよい。すなわち、第3の位置を第1の位置として利用し、第1の励磁コイル31の非通電時に可動子32が第3の位置にあってもよい。この構成では、トリップ装置4が作動していない状態の接点装置2の開状態と、トリップ装置4が作動した状態の接点装置2の開状態とのいずれの状態でも、可動子32は第3の位置にある。
また、上記各実施の形態において、第2の継鉄44は、第2の固定子43と同様に、必須の構成ではなく適宜省略可能である。ここで、電磁継電器1、61、63の第2の継鉄44は、下板442および側板443を有している。また、電磁継電器65の第2の継鉄44は、上板441と下板442と側板443を有している。
また、本実施の形態では、第1の励磁コイル31および第2の励磁コイル41に用いられるコイル線(銅線)の断面形状を円とした。しかし、第1の励磁コイル31および第2の励磁コイル41に用いられるコイル線(銅線)の断面形状は円に限らず、たとえば断面多角形状であってもよい。
図22A、図22Bは、本実施の形態における第2の励磁コイル41の例を示す概略図である。図22Aは、第2の励磁コイル41に断面矩形状の平角線を用いた例を示している。図22Bは、第2の励磁コイル41に断面楕円形状の線材を用いた例を示している。この構成によれば、第2の励磁コイル41のコイル線の密度が高くなるので、同じ巻き数であればさらなる小型化が図れる。なお、図22A、図22Bでは第2の励磁コイル41の形状の例を示したが、第1の励磁コイル31の形状を図22A、図22Bのようにしてもよい。
以上述べたように、本実施の形態では、接点装置と、電磁石装置と、トリップ装置とが一方向に並べて配置されており、トリップ装置が、電磁石装置に対して接点装置とは反対側に配置されている。そして、接点装置に過電流、短絡電流等の異常電流が流れた際に接点装置をオフにできる。本構成により、可動子等の部品を専用に設計しなくてもよい。