明 細 書
転動装置
技術分野
[0001] 本発明は、転がり軸受,リニアガイド装置,ボールねじ,直動ベアリング等のような転 動装置に関する。
背景技術
[0002] 一般に、転がり軸受等の転動装置においては、転動装置を構成する内方部材,外 方部材と転動体との間で転がり運動が行われ、内方部材,外方部材の軌道面及び 転動体の転動面は接触応力を繰り返し受ける。そのため、内方部材,外方部材,転 動体を構成する材料には、硬い、負荷に耐える、転がり疲れ寿命が長い、滑りに対す る耐摩耗性が良好である等の性質が要求される。
そこで、これらの部材を構成する材料には、軸受鋼としては日本工業規格の SUJ2 、ステンレス鋼としては日本工業規格の SUS440Cや 13Cr系のマルテンサイト系ス テンレス鋼、そして肌焼鋼としては日本工業規格の SCR420相当の鋼がよく使用さ れている。これらの材料は、転がり疲れ寿命等の必要とされる性質を得るために、軸 受鋼ゃステンレス鋼であれば焼入れ,焼戻しが施され、肌焼鋼であれば浸炭処理又 は浸炭窒化処理後に焼入れ,焼戻しが施されて、硬さが HRC58以上 64以下とされ ている。
[0003] ところで、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド,直動ベアリング等の転動装置にお いては、その転がり疲れ寿命が、前述した硬さ以外に潤滑状態と密接に関係してい ることが知られている。ここで、転がり疲れ寿命とは、転動装置の軌道面又は転動面 が回転に伴い繰返し応力を受けることによって材料が疲労し、その表面の一部に剥 離が生じるまでの総回転数である。
転がり接触面の潤滑状態の良否は、形成される油膜厚さと表面粗さとの比である油 膜パラメータ Λ (下記式を参照)によって表され、 Λが大きいほど潤滑状態は良い。 すなわち、 Λが大きい場合には、表面の微小突起間の接触による表面起点剥離が 起こりに《なり、寿命は、主として材料の清浄度,硬さ,材質,熱処理等によって決
定する。逆に、 Λが小さいほど表面の微小突起間の接触による表面起点剥離,ピー リング損傷,焼付きが生じやすくなり、寿命が大幅に低下することが知られている。
[0004] Λ =1ι/ σ
h:EHL油膜厚さ
σ :合成表面粗さ(σ 2 + σ 2 )
1 2
σ , σ は接触する 2面の粗さ(二乗平均粗さ)
1 2
ここで、ラジアル-一ドル軸受を例にあげて、さらに詳細に説明する。トランスミツショ ン等に幅広く使用されているプラネタリーギアを軸支するプラネタリーギア用軸受で は、外方部材にあたるプラネタリーギア力もの力の伝達が滑らかに行われるように、一 般に、はすば歯車が使用されるため、力関係から、内方部材にあたるプラネタリーシ ャフトの走行跡がねじれた形となる。このため、プラネタリーギアとプラネタリーシャフト との間にある-一ドルローラーに対し、不均一な力が作用してエッジロードゃスキュー 等が発生し、軸受の寿命が低下したり、スミアリングや焼付きが発生しやすい。
[0005] この対処のため、従来にあっては、ニードルローラーにクラウ-ングを施してエッジ ロードを軽減したり、また、スキュー防止のために、円周方向すきま及びラジアルすき まを精密に管理して、未然にスキュー発生を抑える工夫を施したりしている。
一方、 CO
2排出規制に伴なうエンジンの燃費向上の観点から、高速回転時の回転 効率を高めるための潤滑油の低粘度化にあいまって、転動装置の高速回転時の耐 焼付き性や希薄潤滑下における耐久性の向上が益々求められるようになってきてい る。このような用途における針状ころ軸受の潤滑性を確保するために、例えば、ニー ドルローラーを複列化するとともに、内方部材にあたるプラネタリーシャフトの-一ドル 間位置まで軸端力 油穴を設け、当該油穴を通じて給油を行う油穴給油方式が採用 されている。しかし、油量が不十分な場合は、転走面にピーリング損傷及び焼付きが 発生するおそれがある。
[0006] このようなピーリング損傷を防止する技術として、軸方向面粗さ RMS (L)と円周方 向面粗さ RMS (C)との比 RMS (L) ZRMS (C)を 1. 0以下、且つ、表面粗さの分布 曲線の歪み度を指すパラメータ SK値をマイナスとなるようにし、さらに、くぼみの占め る表面積比率を 10〜40%となるようにしたオートマチックトランスミッション用軸受が
開示されて!ヽる (特許文献 1を参照)。
また、焼付きを防止する技術として、スラスト荷重を受けながらすべり接触するすべ り面を備えた機械部品において、前記すベり面に独立した無数の微小くぼみをラン ダムに設け、この微小くぼみを設けた面の面粗さを RmaxO. 6〜2. 5 m、表面粗さ のパラメータ SK値を— 1. 6以下とし、且つ、微小くぼみの平均面積を 35〜 150 m2 、表面に占める微小くぼみの面積の割合を 10〜40%とした機械部品が開示されて いる (特許文献 2を参照)。
[0007] 次に、ボールねじについて述べる。電動射出成形機や電動プレス機等で使用され るボールねじは、瞬間的に高負荷が加わる短いストロークで使用され、最大負荷が作 用した状態で一旦停止した後に逆回転する往復運動の条件下で使用される。このた め、ボール転動面での油膜が搔き取られ、ねじ溝とボールとの接触面に潤滑剤が入 り難ぐ油膜形成が不十分となる傾向があり、ねじ軸,ナット,及びボールの転動面に 、表面損傷による摩耗,剥離が生じやすいという問題点があった。
[0008] 特に、転動速度の 2倍の速度の相対すべりが生じるボール同士の接触面において は、損傷が著しいものがあった。さらに、高負荷が作用することによる機台の変形、又 は取付け時のミスァライメント等が前述したボールの競り合 、をさらに顕著にし、一層 寿命を低下させていた。
このような用途に使用可能なボールねじとして、ねじ溝,ナット,及び転動体のうち の少なくとも一つの摺接部分に、二硫ィ匕モリブデンの微粒子を噴射して衝突により固 着させ、厚み寸法 0. 5 m以下の潤滑剤被膜を形成したものが開示されている(特 許文献 3を参照)。また、特許文献 4には、平均粒子径が約 1 μ m〜約 20 mのニ硫 化モリブデンを約 95質量%以上含有する二硫ィ匕モリブデン投射用材料が開示され ている。この二硫ィ匕モリブデン投射用材料は、ショットピーユング装置を用いて投射 速度 lOOmZs以上で投射される。
[0009] 前述したプラネタリー軸受等においては、潤滑油が供給されにくい構造であること にカロえて、近年、トランスミッションの小型化又は CVT (Continuously Variable Trans mission)化等により、プラネタリ一ギア (外方部材)の最高回転速度につ 、て更なる高 速化の要求があり、それに伴い使用温度の上昇が考えられる。また、ブラネタリーギ
ァ用-一ドル軸受においては、小型化に伴って、今まで以上にスミヤリング,焼付き, 摩耗,ピーリング等の不具合が顕著になってきている。
[0010] また、前述したボールねじに関しては、さらなる高負荷が要求され、往復運動のスト ロークもさらに短周期で行われるため、逆回転する際に油膜がほとんど形成されず、 ねじ軸,ナット,及びボールの転動面に、表面損傷による摩耗,剥離,焼付き等が顕 著に生じるようになってきて!/、る。
スミヤリング,焼付き,摩耗,ピーリング等を防止する技術としては、前述の特許文 献 1に開示のものがあるが、ただ単にくぼみを形成し、油膜溜まりを形成しただけでは 、潤滑油のさらなる低粘度化や油量不足に十分に対応できない。また、特許文献 2に 開示のものも、上記と同様に、潤滑油のさらなる低粘度化や油量不足に十分に対応 できない。
[0011] ボールねじに関しては、均一に被膜が形成していない場合に固体潤滑剤の効果が 得られにくいため、特許文献 3に記載のもののように膜厚を規定しただけでは不十分 である。また、特許文献 4に記載のもののように投射材料のみを規定しただけでは、 十分な性能が得られず、被膜の膜厚及び被覆の状態を正確に規定する必要がある そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高速,高荷重条 件下で使用されてもスミアリング,焼付き,摩耗,ピーリング等の不具合が生じに《長 寿命な転動装置を提供することを課題とする。
特許文献 1 :日本国特許公報 第 2634495号
特許文献 2 :日本国特許公報 第 2548811号
特許文献 3 :日本国特許公開公報 2004年第 60742号
特許文献 4:日本国特許公開公報 2002年第 339083号
発明の開示
[0012] 前記課題を解決するため、本発明は次のような構成カゝらなる。すなわち、本発明に 係る転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向 する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に 転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置において、前記内方部材の
軌道面,前記外方部材の軌道面,及び前記転動体の転動面のうち少なくとも一つは
、面積率で 75%以上の固体潤滑剤で構成された潤滑被膜が被覆されていることを 特徴とする。
[0013] このような構成であれば、潤滑被膜により金属間接触が抑制されるので、例えば油 膜パラメータ Λが 3以下である境界潤滑環境下で使用された場合でも、スミアリング, 焼付き,摩耗,ピーリング等の不具合の発生が低減され長寿命となる。
潤滑被膜が被覆されて 、る部分の面積率が 75%未満であると、転動装置の寿命 が不十分となるおそれがある。なお、潤滑被膜が被覆されている部分の面積率が 95 %超過であると、油溜まり効果が若干低下するおそれがある。また、潤滑被膜が脱落 する可能性があるが、脱落した潤滑被膜は、特にグリース潤滑等の場合にはグリース 中に混合されて固体潤滑剤として作用する場合もある。また、潤滑被膜は、転動体等 の一部の表面のみに形成されて!、てもよ!/、。
[0014] 潤滑被膜の厚さは、 0. 05 μ m以上 8 μ m以下であることが好ましい。このような構 成であれば、転動装置がより長寿命となる。潤滑被膜の厚さが 0. 05 m未満である と、潤滑性が不十分となるおそれがある。このような不都合がより生じに《するために は、潤滑被膜の厚さは 0. 1 μ m以上とすることがより好ましぐ 0. 6 μ m以上とするこ とがさらに好ましぐ 0. 9 m以上とすることがさらにまた好ましい。また、潤滑被膜の 厚さが 8 μ m超過であると、潤滑被膜の強度が不十分となるおそれがある。
[0015] また、前記内方部材の軌道面,前記外方部材の軌道面,及び前記転動体の転動 面のうち少なくとも前記潤滑被膜が被覆されている部分には、深さ 0. 1 μ m以上 5 μ m以下のディンプルを形成してもよ!/、。
このような構成であれば、ディンプル内に固体潤滑剤が充填され、潤滑被膜が被覆 された部分と潤滑被膜との密着性が向上するため、ディンプルがない場合と比較して 転動装置がより長寿命となる。また、転動装置の駆動時にはディンプル内に固体潤 滑剤がトラップされるので、潤滑被膜の効果が長く維持される。このような効果を得る ためには、ディンプルの深さを 0. 1 μ m以上とする必要がある。ただし、ディンプルの 深さを 5 m超過としても、それ以上の効果は期待できないので、ディンプルの深さ は 5 m以下とすることが好ましい。なお、このような効果をさらに確実なものにするた
めには、ディンプルの深さを 0. 2 /z m以上 3 m以下とすること力 Sより好ましく、 0. 5 μ m以上 3 m以下とすることがさらに好ましい。なお、潤滑被膜の表面にも、上記と 同様のディンプルを形成してもよ 、。
[0016] さらに、前記潤滑被膜の表面の中心線平均粗さ Raは 1 μ m以下であることが好まし い。このような構成であれば、長寿命であるとともに、転動装置の音響特性が良好で ある。中心線平均粗さ Raが 1 μ m超過であると、潤滑条件が厳しくなり、表面起点型 の剥離が発生する場合がある。このような不都合がより生じにくくするためには、中心 線平均粗さ Raは 0. 5 m以下とすることがより好ましい。中心線平均粗さ Raの下限 値は特に限定されるものではないが、 0. 1 m以上であることが好ましい。 0. l ^ m 未満であると、微小な凹凸による油溜まり効果が低下するおそれがある。なお、中心 線平均粗さ Raを上記のような値としても、潤滑被膜の形成能力が著しく低下すること はない。
[0017] さらに、前記固体潤滑剤は、二硫ィ匕モリブデン,スズ,銅のうちの少なくとも 1種であ ることが好ましい。特に、転動する部分に潤滑被膜を形成する場合には、スズが好ま しい。この時、スズの純度は 95%以上が好ましぐ 98%以上がより好ましい。 95%以 上であれば、ムラのない潤滑被膜が得られやすい。このような構成により、特に転動 する部分におけるスミアリング,焼付き,摩耗,ピーリング等の少なくとも一つを改善す る効果が得られる。
[0018] なお、本発明は種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボ ールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。また、本発明における内方部 材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ 軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には 軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外 輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、 同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
[0019] また、本発明は、転動装置に使用される転動体の保持器に適用することができる。
射出成形法により製造される榭脂製保持器については、前述のディンプルに対応す る凸部を金型に設けておけば、表面にディンプルが形成された榭脂製保持器を射出
成形法により製造することができる。
さらに、本発明は、転動装置に使用されるシールに適用することができる。すなわち 、相手部材と接触するシールの摺接面に前述のような潤滑被膜を被覆してもよい。な お、シールの摺接面と接触する相手部材に潤滑被膜を被覆してもよいし、シールの 摺接面及び相手部材の両方に潤滑被膜を被覆してもよ ヽ。
[0020] さらに、本発明は、転がり軸受の内輪の内周面や、外輪の外周面に適用することが できる。すなわち、転がり軸受をハウジングと軸との間に嵌合させる場合には、内輪の 内周面のうち軸と接触する部分や、外輪の外周面のうちハウジングと接触する部分に 前述のような潤滑被膜を被覆してもよ!/、。
さらに、本発明は、ボールねじ,リニアガイド装置等において転動体同士の間に介 装される保持ピースに適用することができる。すなわち、保持ピースの転動体との接 触面に前述のような潤滑被膜を被覆してもよ ヽ。
[0021] さらに、本発明は、クラッチのフリクションプレートに適用することができる。
さらに、本発明は、電動パワーステアリング装置に使用されるウォームホイール減速 機のウォームに適用することができる。すなわち、ウォームやホイールのギア歯面に 前述のような潤滑被膜を被覆してもよ!/、。
さらに、本発明は、伸縮タイプのステアリング軸に適用することができる。すなわち、 互いにスプライン嵌合する雄軸と雌軸の軸方向に延びるトルク伝達溝を前記雄軸の 外周面及び前記雌軸の内周面に形成するとともに前記トルク伝達溝に係合するトル ク伝達ピンを前記雄軸と前記雌軸との間に配置した車両のステアリング用伸縮軸に ぉ 、て、前記トルク伝達ピンの外周面及び前記トルク伝達溝の溝面の少なくとも一方 に、前述のような潤滑被膜を被覆してもよい。
[0022] さらに、本発明は、相手部材と相対的にすべり接触する摺動面を有する摺動部材 に適用することができる。摺動部材の具体例としては、自動車のエンジンを構成する カム及びカムフォロア,ピストンリング,燃料噴射装置,フリクションプレート,クラッチ 部品や、すべり軸受を構成するすべり部材や、転がり軸受用,すべり軸受用のリテー ナがあげられる。
図面の簡単な説明
[図 1]本発明に係る転動装置の第一の実施形態であるスラスト針状ころ軸受の構造を 示す部分縦断面図である。
[図 2]潤滑被膜の断面図である。
[図 3]軸受の寿命試験に用いた試験機の断面図である。
圆 4]潤滑被膜の被覆率と軸受の寿命との相関を示すグラフである。
[図 5]第二の実施形態において、針状ころの表面に形成された潤滑被膜の面積率と
、寿命との関係を示すグラフである。
[図 6]第三の実施形態の Aに係るスラスト針状ころ軸受の構成を示す部分断面図であ る。
[図 7]第三の実施形態の Aに係るスラスト針状ころ軸受を適用したカーエアコンデイシ ョナー用コンプレッサの断面図である。
[図 8]第三の実施形態の Bに係る深溝玉軸受の断面図である。
[図 9]第四の実施形態において、針状ころの表面に形成された固体潤滑被膜の面積 率と、寿命との関係を示すグラフである。
[図 10]第五の実施形態に係る円錐ころ軸受の構成を示す断面図である。
[図 11]第五,第六の実施形態で用いた回転試験機を示す断面図である。
[図 12]第五の実施形態において、固体潤滑被膜の面積率と、軸受トルクとの関係を 示すグラフである。
[図 13]第六の実施形態において、固体潤滑被膜の面積率と、焼付き時間との関係を 示すグラフである。
[図 14]第七の実施形態に係るタペットローラ軸受の断面図である。
[図 15]図 14のタペットローラ軸受の A— A断面図である。
[図 16]図 14のタペットローラ軸受の変形例を示す断面図である。
[図 17]図 14のタペットローラ軸受の別の変形例を示す断面図である。
[図 18]図 14のタペットローラ軸受の別の変形例を示す断面図である。
[図 19]図 14のタペットローラ軸受の別の変形例を示す断面図である。
[図 20]図 14のタペットローラ軸受の別の変形例を示す断面図である。
[図 21]タペットローラの耐久試験を行う表面損傷試験機の構成を示す断面図である。
[図 22]回転試験前後の表面損傷の発生状況を示す図である。
[図 23]第七の実施形態において、潤滑被膜の被覆率と表面損傷発生率との相関を 示すグラフである。
[図 24]第七の実施形態において、潤滑被膜の被覆率とタペットローラ軸受の寿命と の相関を示すグラフである。
[図 25]第八の実施形態に係るボールねじの、ねじ軸およびナットの溝断面を示す図 である。
[図 26]ボールねじの一例を示す斜視図である。
[図 27]ボールねじの一例を示す断面図である。
[図 28]保持ピースを有するボールねじの一例を示す部分断面図である。
[図 29]保持ピースの一例を示す断面図である。
[図 30]保持ピースの一例を示す断面図である。
[図 31]第九の実施形態において、保持器の表面に形成された固体潤滑被膜の面積 率と寿命との関係を示すグラフである。
発明を実施するための最良の形態
[0024] 〔第一の実施形態〕
図 1は、本発明に係る転動装置の第一の実施形態であるスラスト針状ころ軸受の構 造を示す部分縦断面図である。
図 1のスラスト針状ころ軸受は、図示しない軸に固定される内輪 1 (内方部材)と、図 示しないハウジングに固定される外輪 2 (外方部材)と、内輪 1の軌道面 laと外輪 2の 軌道面 2aとの間に転動自在に配された複数の転動体 3と、複数の転動体 3を両輪 1 , 2の間に保持する保持器 4と、を備えている。
[0025] そして、内輪 1の軌道面 la,外輪 2の軌道面 2a,及び転動体 3の転動面 3aのうち少 なくとも一つは、面積率で 75%以上の部分に、固体潤滑剤で構成された潤滑被膜( 図示せず)が被覆されている。この潤滑被膜の厚さは、 0. 05 μ m以上 8 μ m以下で あることが好ましい。また、内輪 1の軌道面 la,外輪 2の軌道面 2a,及び転動体 3の 転動面 3aのうち少なくとも潤滑被膜が被覆された部分には、深さ 0. 1 μ m以上 5 μ m 以下のディンプルを設けることが好ましい。さらに、潤滑被膜の表面の中心線平均粗
さ Raは、 0. 1 m以上 1 μ m以下であることが好ましい。
[0026] さらに、転動体 3 (針状ころ)の有効長さ Lrと転動体 3 (針状ころ)の中心の軌道直径 PCDとの比(LrZPCD)が 0. 1以上で、且つ、軌道面 la, 2aの表層部分に 3体積% 以上の残留オーステナイトが含まれて 、ることが好まし!/、。
このようなスラスト針状ころ軸受は、潤滑被膜により金属間接触が抑制されるので、 油膜パラメータ Λが 3以下である境界潤滑環境下で使用された場合でも、スミアリン グ,焼付き,摩耗,ピーリング等の不具合の発生が低減され長寿命である。
[0027] なお、本実施形態にぉ 、ては、転動装置の例としてスラスト針状ころ軸受をあげて 説明したが、転がり軸受の種類はスラスト針状ころ軸受に限定されるものではなぐ本 発明は様々な種類の転がり軸受に対して適用することができる。例えば、深溝玉軸 受,アンギユラ玉軸受, 自動調心玉軸受,針状ころ軸受,円筒ころ軸受,円すいころ 軸受, 自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストこ ろ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。さらに、本発明は、転がり軸受に限らず、 他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リ ユアガイド装置,直動ベアリング等である。さらに、本発明はトロイダル無段変速機に 対してち適用することがでさる。
[0028] 〔実施例〕
以下に実施例を示して、第一の実施形態をさらに具体的に説明する。種々のスラス ト針状ころ軸受(内径 40mm,外径 70mm,幅 5. 5mm)を試験軸受として用意して 回転試験を行い、その寿命を評価した。試験軸受であるスラスト針状ころ軸受の構成 は、内輪の軌道面,外輪の軌道面,及び転動体の転動面のうち転動体の転動面の みに、固体潤滑剤で構成された潤滑被膜を被覆した点以外は、前述した図 1のスラ スト針状ころ軸受と同様である。
[0029] 転動体の転動面に被覆された潤滑被膜の被覆率,潤滑被膜の厚さ,ディンプルの 深さ,及び転動体の転動面の中心線平均粗さ Raは、表 1, 2に示す通りである。なお 、面積率の測定法は後述する。また、後述する前処理を施していないものに関しては 、ディンプルの深さを記載していない。
[0030] [表 1]
前処理 潤滑皮膜 ディンプル 中心線平均 吞ロ の種類' > 被覆率" 1 厚さ" の深さ 3) 粗さ R a3) 実施例 1 なし 7 5 1. 0 - 0. 1 0 6. 0 実施例 2 なし 8 0 0. 1 - 0. 2 0 6 - 2 実施例 3 なし 8 5 2. 0 - 0. 1 5 6. 5 実施例 4 なし 9 0 0 - 5 0. 2 0 6 - 3 実施例 5 なし 9 2 8. 0 - 0. 1 5 6. 2 実施例 6 なし 9 5 3. 0 ― 0. 3 0 6. 1 実施例 7 なし 9 6 0. 4 - 0. 2 0 6. 0 実施例 8 なし 1 0 0 6. 0 ― 0. 2 5 5. 9 実施例 9 ショット 7 5 2. 0 3. 0 0. 2 0 9. 0 実施例 1 0 ショット 8 0 0. 6 0. 3 0. 4 0 9. 5 実施例 1 1 ショット 8 5 0. 6 0. 2 0. 4 0 1 0. 0 実施例 1 1 ショット 9 0 4. 0 1. 0 0. 2 0 1 0. 0 実施例 1 3 ショッ卜 9 2 2. 0 3. 0 0. 1 5 9. 5 実施例 1 4 ショッ卜 9 5 1. 5 2. 0 0. 2 2 9. 5 実施例 1 5 ショット 9 5 0. 2 5. 0 0. 2 5 9. 3 実施例 1 6 ショット 1 0 0 8. 0 0. 2 0. 5 0 8. 9
1 ) ショット :ショットピ一ニンク処理、 パレル:バレル処理
2 ) 数値の単位は面積%である。
3 ) 数値の単位は; umである。
前処理 潤 Ϊ皮膜 ディンプル 中心線平均 ¾=叩
の種類,) 被覆率" 厚さ3' の深さ 3) 粗さ Ra3) 実施例 1 7 なし 8 5 0. 0 5 - 0. 2 0 5. 4 実施例 1 8 なし 8 5 1 0 0. 1 5 5 - 5 実施例 1 9 ショット 8 5 0. 0 5 0. 2 0. 3 0 1 1 実施例 2 0 ショッ卜 8 0 1 0 0 - 3 0. 2 5 1 0 実施例 2 1 ショッ卜 8 5 0. 6 0. 0 5 0. 2 0 1 1 実施例 2 2 ショッ卜 9 0 4. 0 6 0. Z 5 1 2 比較例 1 バレル 0 0 - 5 0. 1 5 1 - 0 比較例 1 ショッ卜 0 ― 0. 2 0. 1 5 1. 0 比較例 3 なし 0 0. 0 7 0 - 5 比較例 4 なし 7 2 0. 1 1. 0 0. 2 0 2. 7 比較例 5 なし 6 5 0 - 5 3. 0 0. 2 0 1 . 8 比較例 S ショッ卜 7 2 1. 0 0. 2 0. 1 5 3. 8 比較例 1 ショット 6 5 0. 1 0. 3 0. 4 0 2. 8
1 ) ショット : ショットピ一ニング処理、 バレル:パレル処理
2 ) 数値の単位は面積%である。
3) 数値の単位は/ である。
ここで、試験軸受であるスラスト針状ころ軸受の製造方法にっ 、て説明する。まず、 内輪,外輪,及び転動体は SUJ2を素材とし、 RXガスとエンリッチガスとアンモニアガ スとを含む雰囲気中で 840°Cで 3時間浸炭窒化処理を施した後、油焼入れ及び焼戻 しを施したものである。このような処理により、表層部分の残留オーステナイト量は 15 〜40体積0 /0、 ¾B5j!$«HRC62~67 (Hv746~900)【こ調整されて ヽる。なお、 浸炭窒化処理は施さず、ズブ焼入れを施したものでもよい。また、 SCM420, SCr4 20等の鋼を素材とし、浸炭窒化処理又は浸炭処理を施して表面を硬化させたもので ちょい。
こうして得られた転動体の転動面に前処理を施して、ディンプルを形成した。ディン プルの形成方法は特に限定されるものではな 、が、ショットピーニング処理及びバレ ル処理を採用した。ショットピーユング処理は、ショットピーユング装置を用いて行った
。ショット材には日本工業規格 JIS R6001〖こ規定された平均粒径 45 μ mの鋼球の 他、 SiC, SiO , AI O ,ガラスビーズ等のような被処理表面よりも硬いものを用い、
2 2 3
噴射圧力 196〜1470kPa、噴射時間 10〜20minの条件で、ショット材を転動体の 転動面に噴射した。なお、一度に処理する転動体の量は l〜6kgとした。
[0033] バレル処理は、種々のメディアや添加剤を配合したものを用いて転動体の転動面 に大きな凹凸を形成する ロェと、プラトー部の粗さを整える仕上げ加工とを行った 。なお、転動体の転動面に、ショットピーユング処理とバレル処理との両方を施しても よい。
投射材は、被処理表面の硬さよりも硬いものを使用することが好ましい。例えば、セ ラミック系のものが使用できる。また、形状は球形よりも多少の角があるものが好まし い。硬くて角を有する投射材を使用することにより、後の潤滑被膜に対するアンカー 効果が大きくなる。
[0034] ディンプルの深さを測定する方法は、以下の通りである。三次元非接触表面形状 計測システムにより、転動体の転動面を 100倍の倍率で 30視野観察し、得られた画 像を断面プロファイルに変換した。そして、 X方向及び Y方向それぞれの 5つの断面 において、ディンプルの深さを測定し、その結果を平均した。
次に、ディンプルを形成した転動体の転動面に、固体潤滑剤で構成された潤滑被 膜を被覆した。潤滑被膜を被覆する方法は特に限定されるものではないが、ショット ピー-ング処理を採用した。ショット材である固体潤滑剤には純度 98%以上の錫(平 均粒径 45 /z m)を用い、噴射圧力 196〜1470kPa、噴射時間 10〜20minの条件 で、錫を転動体の転動面に噴射した。一度に処理する転動体の質量は、 l〜6kgとし た
なお、ショット材の粒径と噴射圧力により、ショット材の衝突エネルギーをコントロー ルして、良好な潤滑被膜を形成することができる。ショット材の粒径は、二硫化モリブ デンの場合は 1 IX m以上 20 μ m以下が好ましぐ 1 μ m以上 5 μ m以下がより好まし
い。。また、錫の場合は 100 m以下が好ましぐ 20 m以上 100 m以下がより好 ましぐ 20 m以上 60 m以下がさらに好ましい。
[0035] また、噴射圧力は 196kPa以上 1470kPa以下が好ましぐ 392kPa以上 980kPa 以下がより好ましい。さらに、噴射速度は lOOmZs以上が好ましい。さらに、噴射時 間は 8min以上又は 8min超過が好ましぐ lOmin以上 20min未満又は lOmin以上 20min以下がより好ましい。噴射時間が 8min以上であれば、表面が平滑な潤滑被 膜(中心線平均粗さ Raが 0.: m以上 0. 5 m以下)を形成することができる。さら に、潤滑被膜が被覆される面の中心線平均粗さ Ra (潤滑被膜を被覆する前の段階 での粗さ)は、固体潤滑剤の付着性を良好なものにするためには、: L m以下である ことが好ましぐ 0. 1 m以上 0. 5 μ m以下であることがより好ましい。
[0036] 潤滑被膜の面積率を測定する方法は、以下の通りである。電子線マイクロアナライ ザ一により、転動体の転動面を 2000倍の倍率で 30視野観察した。一辺 200 mの 正方形部分を 1000倍に拡大して錫の特性 X線強度を 5力所測定し、全 150力所の 平均値を算出した。そして、前記平均値の 10分の 1以上の特性 X線強度が検出され た領域に潤滑被膜が被覆されて!ヽると判定した。 30視野にっ ヽてその結果を画像 解析し、潤滑被膜の面積率の平均値を算出した。
[0037] また、潤滑被膜の厚さを測定する方法は、以下の通りである。転動体を切断し、そ の断面をパフ研磨で鏡面仕上げした。電子顕微鏡 (SEM)により、鏡面仕上げした 断面を 5000倍の倍率で 30視野観察した。各視野にぉ 、て潤滑被膜の厚さを 5点測 定し、合計 150点の平均値を潤滑被膜の厚さとした。
図 2に、転動体の転動面に被覆した潤滑被膜の断面の SEM像を示す。符号 Lが潤 滑被膜であり、符号 Kが転動体である。この潤滑被膜 Lの厚さは、最大 2. 、最 小 0. 5 μ m程度である。
[0038] なお、本実施例にお!ヽては固体潤滑剤として錫を用いたが、固体潤滑剤の種類は 特に限定されるものではない。転動装置の転動部品の表面被膜として用いられた場 合に必要な強度を有し、且つ、転動部品の素材である鋼と密着性がよいものであれ ばよぐ例えば、二硫ィ匕モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、金属石けん、 フッ素榭脂、ナイロン、ポリアセタール、ポリオレフイン、ポリエステル、ポリエチレン、 P
TFE (ポリテトラフルォロエチレン)、黒鉛、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化 カーバイド、スズ、スズ合金、ニッケル、銅合金、純鉄、純銅、純クロムが挙げられる。
[0039] 錫を投射する場合は、平均粒径が 2〜6 μ mのものを用いることが好ま 、。比較的 大きな粒子を用いることにより、衝突エネルギーが大きく付着しやすい。また、転がり 面は摩擦抵抗の影響が相対的に少ないため、比較的軟質でアンカー効果が発揮さ れやすい錫が好ましい。
また、潤滑被膜を被覆した後に微小硬度計を用いて表面硬さを測定したところ、潤 滑被膜が被覆された転動面は、最表面から 2〜 15 mの深さ位置までの部分の硬さ が勾配を有していた。そして、最も硬い部分の硬さは 710〜1130Hvであり、未処理 のものの硬さに比べて、 5〜20%向上していた。
[0040] 次に、回転試験による寿命の評価方法について説明する。軸受の寿命の評価には 、「特殊鋼便覧 第一版」(電気製鋼研究所編、理工学社、 1969年 5月 25日発行)の 第 10〜21頁に記載のスラスト型軸受鋼寿命試験機を用いた(図 3を参照)。この試験 機について説明すると、下面に凹部が形成された上側固定部 22と上面に凹部が形 成された下側固定部 23とが、 Oリング 24を介して嵌合されることにより試験室 21が形 成され、この試験室 21は密閉可能となっている。そして、スピンドル 25は上側固定部 22に回転可能に支承され、スピンドル 25に取付けられた回転円盤部 25aの下面と下 側固定部 23の上面との間に、試験軸受 26を配置できるように構成されている。
[0041] なお、図 3における符号 31はスラスト軸受、符号 32はラジアル軸受、符号 33はシー ル、符号 34は間座である。また、符号 26aは軸受の上レース、符号 26bは軸受のころ 及び保持器、符号 26cは軸受の下レースである。さらに、符号 27は潤滑油であり、こ の潤滑油 27は潤滑油供給口(排出口) 28から試験室 21内に供給される。また、符号 29, 30は、それぞれ代替フロン用の導入口、排出口である。代替フロン 134aを導入 口 29より導入、排出口 30より真空ポンプで吸引し、試験室 21を代替フロン 134aで 満たした後は、導入口 29,排出口 30をバルブで閉鎖する。
[0042] このような試験機を用いて、下記のような条件でスラスト針状ころ軸受の回転試験を 行った。そして、振動値が初期値の 5倍となる力、又は、下レースが 150°Cとなった時 点で回転試験を停止した。振動値が 5倍となった場合は、実体顕微鏡で損傷の有無
を確認し、損傷がある場合は寿命とし、損傷がない場合は回転試験を再開した。また
、下レースが 150°Cとなった場合は、焼付きが生じたと判断し、寿命とした。
回転速度: 2000min— 1
荷重 :動定格荷重の 25% (PZC = 0. 25)
潤滑剤 : ISO粘度グレードが ISO VG10である鉱油
油膜パラメータ Λ : 0. 1〜: L 0
雰囲気温度:室温 (約 28°C)
軸受温度:下レースの外径にぉ 、て 100〜110°C
試験個数: 1種の軸受にっき 10個
回転試験の結果 (寿命)を表 1, 2に示す。また、潤滑被膜の被覆率と軸受の寿命と の相関を、図 4のグラフに示す。なお、表 1, 2及び図 4のグラフにおける寿命の数値 は、比較例 1の軸受の寿命を 1とした場合の相対値で示してある。
[0043] この比較例 1は、前述の特許文献 1に記載されている技術が適用された軸受であり 、独立した無数の微小くぼみをすベり面にランダムに設け、この微小くぼみを設けた 面の表面粗さを Rmaxl. O ^ m,表面粗さのパラメータ SK値を 2. 0、微小くぼみ の平均面積を 80 /z m2、表面に占める微小くぼみの面積の割合いを 25%としてある なお、比較例 1は前処理として二段バレル処理が施されており、比較例 2は前処理 として二段ショットピーユング処理が施されており、比較例 3は前処理として通常のバ レル処理(一段バレル処理)が施されて!/ヽる。
[0044] 実施例 1〜22は、潤滑被膜の被覆が面積率で 75%以上であるので、比較例 1と比 ベて格段に長寿命(5. 9以上)であった。比較例 4〜7は、潤滑被膜の厚さが好まし い範囲内であり、潤滑被膜の被覆率が好ましい範囲カゝら外れたものであるが、実施 例 1〜22と比べて短寿命であった。このことから、潤滑被膜の厚さの規定だけでは不 十分であり、潤滑被膜の面積率を規定することが重要であることが分かる。
〔第二の実施形態〕
本発明における潤滑被膜は、不活性ガス又は活性ガスを用いてショット材を加速す るショットピーユング法により形成することが好ましい。不活性ガスとしては、 N2ガス、
Heガス、 Neガス、 Arガス、 Xeガス、 Krガスから選択される一種又は二種以上を組み 合わせて用いることができる。また、 CFガス、 S Fガス、 NHガス、 CHガス、 C Hガ
4 2 6 3 4 2 6 ス、 C Hガス、 C H ガス、 C H ガス、 RXガス、 Oガス、 Hガス等から選択される一
3 6 4 10 5 12 2 2
種又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
[0045] これによれば、ショット材が衝突した転動部品の表面を活性ィ匕することができるため 、大気ガスによりショット材を加速する場合と比べて、表面と潤滑被膜との密着性をさ らに向上できる。特に、転動部品の表面に窒化層が形成される Nガスや NHガスを
2 3 用いたり、転動部品の表面に浸炭層が形成される CHガス、 C Hガス、 C Hガス、 C
4 2 6 3 6
H ガス、 C H ガス、 RXガスを用いたりすれば、表面の摩擦係数が小さくなるので、
4 10 5 12
表面と潤滑被膜との密着性をさらに向上させることができる。また、浸炭、窒化、或い は浸炭窒化により、強固な密着性が得られることから、 CHガス、 C Hガス、 C Hガ
4 2 6 3 6 ス、 C H ガス、 C H ガス、及び RXガスから選択される少なくとも一種と NHガスとを
4 10 5 12 3 混合して用いることが好まし 、。
[0046] なお、ショットピーユング時にショット材を加速する噴射雰囲気のみに不活性ガス又 は活性ガスを使用するだけでなぐショットピーユング装置内で潤滑被膜が施される 転動部品が設置される密封容器内に、前記噴射雰囲気で使用されるものと同種のガ スを充填することが好ましい。そうすれば、表面と潤滑被膜との密着性をさらに向上さ せることができる。また、ディンプルを表面に形成する時のショットピーユングにも、本 実施形態の各種ガス環境下での処理を適用できる。
[0047] 潤滑被膜の厚さは、 0. 05 μ m以上 8. 0 μ m以下であることが好ましい。これによれ ば、良好な潤滑状態を保ちながら転動部品として必要な強度を得ることができる。こ こで、潤滑被膜の厚さが 0. 05 /z m未満であると、良好な潤滑性が得られなくなり、一 方、 8. 0 m超過であると、転動部品として必要な強度が得られなくなる。
さらに、潤滑被膜が形成された表面には、深さが 0. 10 /z m以上 5. O /z m以下のデ インプル (以降は「微小くぼみ」と記すこともある)が形成されて 、ることが好ま 、。こ れによれば、表面に形成された微小くぼみに潤滑被膜が充填されて、転動部品の表 面と潤滑被膜との密着性をさらに向上できる。ここで、微小くぼみが 0. 10 m未満で あると、良好な密着性が得られなくなり、一方、 5. 0 m超過であると、得られる効果
が飽和する。
[0048] なお、転動部品の表面に微小くぼみを形成する方法は、基本的には第一の実施形 態と同様である。特に、微小くぼみ形成後における転動部品の表面の硬さを向上さ せて、転がり疲れ寿命をさらに長くするために、前記微小くぼみは、ショットピーユング 法により形成されており、前記表面の硬さは HRC58以上となっていることが好ましい さらに、潤滑被膜が形成された前記表面は、中心線平均粗さ (Ra)で 0. 10 /z m以 上 1 μ m以下となっていることが好ましぐ 0. 1 m以上 0. 5 μ m以下となっているこ とがより好ましい。これによれば、転動部品の表面と潤滑被膜との密着性をさらに向 上できる。ここで、表面の中心線粗さ(Ra)が 0. 10 /z m未満であると、表面と潤滑被 膜との密着性が不十分になり、一方、 1 m超過であると、潤滑条件が厳しくなり、表 面起点型剥離が生じ易くなる。
[0049] なお、内方部材,外方部材,転動体等の転動部品をなす金属素材は、特に限定さ れるものではなぐ例えば、 SUJ2等の軸受鋼に浸炭窒化、焼入れ及び焼戻しを行つ たものや、 SUJ2等の軸受鋼に焼入れ及び焼戻し (ずぶ焼)を行ったものや、 SCM4 20や SCr420等のステンレス鋼に浸炭窒化、浸炭、焼入れ及び焼戻しを行ったもの があげられる。
また、潤滑被膜が形成される転動部品の表面とは、潤滑不良により損傷が生じ易い 表面が含まれるのであれば特に限定されない。例えば、内方部材及び外方部材の 各軌道面、内方部材及び外方部材の各内外周面、及び転動体の転動面があげられ る。
[0050] さらに、潤滑被膜の素材としては、転動装置の転動部品の表面被膜として用いられ た場合に必要な強度を有し、且つ、転動部品の素材である鋼と密着性がよいもので あれば特に限定されない。例えば、二硫ィ匕モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホ ゥ素、金属石けん、フッ素榭脂、ナイロン、ポリアセタール、ポリオレフイン、ポリエステ ル、ポリエチレン、 PTFE (ポリテトラフルォロエチレン)、黒鉛、フッ化カルシウム、フッ ィ匕バリウム、フッ化カーバイド、スズ、スズ合金、ニッケル、銅合金、純鉄、純銅、純クロ ムが挙げられる。
[0051] このような潤滑被膜のガス環境下でも適用可能な形成方法としては、例えば、塗布 、焼成、溶射、スパッタリング、イオンプレーティング、及びショットピーユングがあげら れる。特に、潤滑被膜を形成した後の転動部品の表面の硬さを向上させることを考慮 すると、ショットピーニング法を適用することが好ましい。
このような転動装置によれば、内方部材、外方部材、及び転動体の少なくとも一つ の表面に特定面積率の潤滑被膜を形成することにより、表面損傷が生じ難くなる。よ つて、転動装置を、例えば、油膜パラメータ Λが 3以下の潤滑状態が不良の環境下 で使用した場合であっても、転がり疲れ寿命を長くできる。また、潤滑被膜の形成方 法や膜厚、及び潤滑被膜が形成される表面の形状をさらに特定することにより、内方 部材、外方部材、及び転動体の少なくとも一つの表面と潤滑被膜との密着性が向上 できるため、転がり疲れ寿命をさらに長くできるとともに、潤滑被膜の剥離により生じる 音響不良や振動不良を効果的に抑制できる。
[0052] 以下、第二の実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、図 1に示す スラスト針状ころ軸受と同様の軸受を、以下に示すようにして作製した。なお、このスラ スト針状ころ軸受の軸受寸法は、内径が 40mm、外径が 70mmで、幅が 5. 5mmとし た。
具体的には、まず高炭素クロム軸受鋼二種 (SUJ2)力もなる素材を所定形状にカロ ェし、 840°Cの混合ガス雰囲気(RXガス +エンリッチガス +アンモニアガス)で 3時間 浸炭窒化した後、油焼入れ及び焼戻しを行った。そして、内輪、外輪、及び針状ころ の各表層部(表面から 250 μ mの深さまでの部分)の残留オーステナイト量を 15〜4 0体積%とし、前記表層部の硬さを111¾ 62〜670^746〜900)に調整した。
[0053] 次に、このようにして得られた針状ころに対して、以下に示す処理を行い、表 3中に 示す No. 1〜31の針状ころを完成させた。まず、表 3に示す前処理が「有り」の針状 ころにお 、て、その表面に微小くぼみ (ディンプル)を形成する前処理を行った。 なお、表 3中で示す前処理「ショット A」とは、ショットピーユング装置を用いて、噴射 圧力 196〜1470kPa、噴射時間 10〜20分の条件下で、ショット材として JIS R600 1に規定された平均粒径 mの SiCを Nガスで加速して噴射することにより、針状
2
ころの各表面にディンプルを形成した処理を指す。
[0054] また、表 3中で示す前処理「ショット B」とは、ショットピーユング装置を用いて、噴射 圧力 196〜1470kPa、噴射時間 10〜20分の条件下で、粒径の異なる二種類のショ ット材 (JIS R6001〖こ規定された平均粒径 45 μ mの鋼球と平均粒径 3 μ mのアルミ ナ)を大気ガスで加速して噴射することにより、針状ころの各表面にディンプルを形成 した処理を指す。
さらに、表 3中で示す前処理「バレル」とは、種々のメディアや添加剤を配合して表 面に大きなディンプルを形成する粗加工を大気中で行った後、プラトー部(平坦部) の粗さを整える仕上げ加工を大気中で行 ヽ、針状ころの各表面にディンプルを形成 した処理を指す。
[0055] その後、前処理後の針状ころの表面におけるディンプルの深さを、以下に示すよう にして測定した。まず、三次元非接触表面形状測定システムを用いて、 100倍で 30 視野分の観察を行った。次に、得られた画像を断面プロファイルに変換して、 XY方 向のそれぞれ 5断面を測定した結果の平均値を算出した。この結果は、表 3に併せて 示した。
そして、前処理を行った後の針状ころ及び前処理を行わなかった針状ころの表面 における中心線平均粗さ(Ra)を、いずれも 0. 10 /z m以上 5. O /z m以下となるように 調節した。次に、針状ころの表面に潤滑被膜を形成した。具体的には、公知のショッ トビー-ング装置を用いて、噴射圧力 196〜1470kPa、噴射時間 10〜20分の条件 下で、ショット材としてスズ (純度 98%以上、平均粒径 45 μ m)を Nガスで加速して噴
2
射することにより、針状ころの各表面に潤滑被膜を形成した。
[0056] その後、形成された潤滑被膜の面積率及び膜厚を、第一の実施形態と同様に測定 した。さらに、潤滑被膜が形成された後の針状ころにおいて、第一の実施形態と同様 に硬さを測定したところ 5〜20%の硬さの向上が認められた。
なお、表 3中で比較例として示す No. 25, No. 26の針状ころは、前処理(ショットピ 一-ングゃバレル)を行ってディンプルを形成した力 潤滑被膜を形成して 、な 、も のである。また、表 3中で比較例として示す No. 27の針状ころは、前処理も潤滑被膜 の形成も行っていないものである。さらに、表 3中で比較例として示す No. 28〜No. 31の針状ころは、面積率が本発明の範囲外の潤滑被膜を形成したものである。
[0057] 次に、このようにして得られた内輪、外輪及び針状ころと、 SPCC製の保持器とを用 いて、スラスト針状ころ軸受を組み立てた。そして、このスラスト針状ころ軸受に対して 、油膜パラメータ Λが 3以下の潤滑状態が不良の環境下で使用することを想定した 以下に示す条件で寿命試験を行った。
この寿命試験は、第一の実施形態に試験に使用した図 3のスラスト型寿命試験機を 用いて行った。また、この寿命試験は、初期振動値の 5倍に達するか、外輪の外径温 度が 150°Cに達するまでスラスト針状ころ軸受を回転させることにより行い、試験開始 力も試験終了までの時間を寿命とした。
[0058] さらに、この寿命試験は、各実施例においてそれぞれ 10回ずつ行い、その平均寿 命を算出した。そして、比較例である No. 25の針状ころを用いたスラスト針状ころ軸 受の寿命を 1とした時の比として、表 3に併せて示した。
なお、 No. 25の針状ころは、その表面に上述した特許文献 1に記載のディンプル を形成した比較例であり、ディンプルを設けた面の最大表面粗さ (Ra)を 1. O ^ m, 表面粗さのパラメータ(SK値)を 2. 0、ディンプルの平均面積を 80 m2、ディンプ ルの面積率を 25%としたものである。
[0059] このとき、初期振動値の 5倍に達して試験を終了したスラスト針状ころ軸受において は、実体顕微鏡で損傷の有無を確認し、損傷が見られた場合には試験を終了して、 初期振動値の 5倍に達した時間を寿命とし、損傷が見られな力つた場合には試験を 再開した。
また、外輪の外径温度が 150°Cに達して試験を終了したスラスト針状ころ軸受にお いては、焼付きによる損傷が生じたものとして判断して試験を終了し、外輪の外径温 度が 150°Cに達するまでの時間を寿命とした。
[0060] 〔寿命試験条件〕
荷重:動定格荷重の 12% (PZC = 0. 12)
回転速度: 8000min— 1
潤滑油:鉱油 VG10
周囲温度:室温 (約 28°C)
軸受温度:外輪外径にお!、て 100〜 110°C
油膜パラメータ Λ : 0. 2〜
[表 3]
表 3に示すように、表面に面積率で 75%以上の潤滑被膜が形成された No. 1〜N o. 24の針状ころを用いたスラスト針状ころ軸受では、表面に潤滑被膜が形成されて いない No. 25〜No. 27の針状ころや、潤滑被膜の面積率が 75%未満の No. 28 〜No. 31の針状ころを用いた場合と比較して、転がり疲れ寿命が長ぐ No. 25の 5 . 1倍以上であった。
特に、 No. l〜No. 6と No. 7, No. 8の結果、及び No. 9〜No. 15と No. 16の
結果から、潤滑被膜の面積率を 75%以上とすることにより、転がり疲れ寿命がさらに 長くなつていることが分かる。
また、 No. 3と No. 17, No. 18の結果、 No. 11と No. 19の結果、及び No. 10と No. 20の結果から、潤滑被膜の厚さを 0. 10 /z m以上 8. 0 m以下とすることにより 、転がり疲れ寿命がさらに長くなつて 、ることが分かる。
[0063] さらに、 No. 4と No. 21の結果、及び No. 12と No. 22の結果から、不活性ガス又 は活性ガスでショット材を加速して衝突させることで潤滑被膜を形成することにより、 大気ガスでショット材を加速した場合と比べて、転がり疲れ寿命がさらに長くなつてい ることが分力ゝる。
さらに、 No. l〜No. 8と No. 9〜No. 16の結果、 No. 11と No. 23の結果、及び No. 12と No. 24の結果から、ショットピー-ング法によりディンプルの深さを 0. 10 m以上 5. 以下とすることによって、転がり疲れ寿命がさらに長くなつていること が分かる。この理由としては、ディンプル深さを上記範囲内にすることにより針状ころ の表面に潤滑被膜がさらに密着して形成されるとともに、ショットピーユング法により 針状ころの表面の硬さが向上したためであると考えられる。
[0064] また、 No. l〜No. 16と、 No. 28〜No. 31の結果を用いて、潤滑被膜の面積率 と寿命との関係を示す図 5のグラフを作成した。図 5に示すように、ショットピーニング 法によりディンプルの深さを調節した後に潤滑被膜を形成した針状ころを用いたスラ スト針状ころ軸受では、前処理を行わずに潤滑被膜を形成した針状ころを用いたもの よりも長寿命であったことが分かる。
以上の結果から、表面に潤滑被膜が特定面積率で形成された針状ころを用いるこ とにより、油膜パラメータ Λが 3以下の潤滑状態が不良の環境下で使用した場合であ つても、スラスト針状ころ軸受の転がり疲れ寿命を長くできることが分力つた。また、針 状ころの表面に形成する潤滑被膜の厚さやディンプルの深さにつ ヽても特定するこ とにより、スラスト針状ころ軸受の転がり疲れ寿命をさらに長くできることが分力つた。さ らに、潤滑被膜を不活性ガス又は活性ガスでショット材を加速して衝突させるショット ピー-ング法により形成することにより、スラスト針状ころ軸受の転がり疲れ寿命をさら に長くできることがわかった。
[0065] なお、本実施形態では、転動装置の一例としてスラスト針状ころ軸受の場合にっ ヽ て説明したが、これに限らず、本発明は、潤滑状態が不良な環境下で使用される他 の転動装置にも適用可能である。このような転動装置としては、例えば、深溝玉軸受 、アンギユラ玉軸受、 自動調心玉軸受、スラスト玉軸受等の玉軸受や、円筒ころ軸受 、 自動調心ころ軸受、スラストころ軸受等のころ軸受や、ボールねじ、リニアガイド、直 動ベアリング等の直動装置や、トロイダル型無段変速機等の転がり軸受ユニットが挙 げられる。
[0066] 〔第三の実施形態〕
本実施形態は転がり軸受に係り、具体的には、自動車の自動変速機やエアコンデ イショナ一の空調機に用いられるコンプレッサ等のような潤滑条件が悪く系内酸素濃 度が低 、状況にぉ 、ても軸受寿命を長期にわたつて維持することが可能な転がり軸 受に関する。
コンプレッサの一タイプとして、容量可変式のコンプレッサの例を以下に述べる。容 量可変式のコンプレッサは、ノ、ウジングに対して駆動軸を回転自在に嵌挿し、この駆 動軸に対して斜板を傾斜角度可変に連結し、この斜板に対しゥォブル板を摺動自在 に取付けてある。斜板とゥォブル板との間には、スラスト軸受が配設されている。ゥォ ブル板には、複数のピストンロッドの一端が円周方向等間隔に取付けてあり、このピ ストンロッドの他端はピストンに連結している。このピストンは、ハウジング内に設けら れたシリンダの内部で摺動するように設けられ、このシリンダのボア内に流入される冷 媒ガスを圧縮し吐出するようにしている。つまり、斜板が回転すると、ゥォブル板が、い わゆるみそすり的動作をし、ピストンロッドを介してピストンを軸線方向に往復運動さ せ、冷媒ガスを圧縮し吐出するようになっている。
[0067] コンプレッサの動作時には、斜板を介して駆動軸は力を受けるので、力かる駆動軸 をノヽウジングに対してスラスト方向に支持するスラスト軸受が必要となる。しかるに、か 力るスラスト軸受は、駆動軸に連結されベルトから回転量を受けるプーリユニット側に 配置されているので、ミスト状になって供給される潤滑油の供給元力 遠い位置にあ り、それ故、転動体と軌道面との間の油膜形成が悪くなりやすいという問題がある。 このように潤滑条件が悪 、だけでなくコンプレッサ特有の問題として、冷媒を封入す
る際に系内の大気を排気するため系内酸素濃度が低いことが挙げられる。一般に大 気中で油膜形成が不十分な時、使用される転がり軸受の転動体の表面及び Z又は 軌道輪の軌道面などの接触部は油膜破断によって金属接触を引き起こすが、速や かに雰囲気の酸素によって表面酸化膜が形成され、それ以上の金属接触を防止し て凝着摩耗を抑制する自己修復作用が存在する。しかし、油膜形成が十分でなくか つ酸素濃度が低 、場合は力かる表面酸ィ匕が起きな 、ため、転動体の表面及び Z又 は軌道輪の軌道面等が一度接触を起こすと、それ以降の接触は常に金属 金属接 触を繰り返し、凝着摩耗が止まることなく進行する。
[0068] このように潤滑条件が悪く系内酸素濃度が低!、状況にお!、ても軸受寿命を長期に わたって維持するため、転動体の表面又は内外輪の転動面の表面に微小なくぼみ を無数にランダムに設け、面粗さのパラメータであるスキューネス Rskの値を 1. 6 以下とすることにより、油溜まりによる油膜形成率を高めて軸受寿命の向上を図るよう にしたものが知られている(例えば、日本国特許公報 第 2724219号を参照)。 しかしながら、 日本国特許公報 第 2724219号に記載された転がり軸受は、転動 体表面又は内外輪の転動面の形状を工夫して長寿命化を図ったものであり、表面損 傷を低減するのに有効な手段である力 転動表面にスキューネス Rskの値を 1. 6 以下とした油溜りを付ける表面加工を施すだけでは寿命延長に限界があることもわか つてきた。
[0069] 本発明はこのような技術的背景に鑑みてなされたものであり、微量油又は枯渴潤滑 下のような潤滑条件が悪い使用条件下においても寿命の延長を図ることができる転 力 Sり軸受を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は、転動表面を潤滑被膜 (以降は固体潤滑剤 被膜と記すこともある)で被覆する事とした。即ち、本発明者らは、鋭意研究の結果、 固体潤滑剤被膜を転動表面に形成することにより、転動体及び Z又は軌道輪におけ る軌道面の早期摩耗を回避できることを見出した。
[0070] 本発明は、このような知見に基づきなされたものであり、複数個の転動体と、前記転 動体を転動自在に保持する保持器と、前記転動体及び前記保持器を配設した一組 の軌道輪とを備えた転がり軸受であって、前記転動体の表面及び Z又は前記軌道
輪の軌道面に、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、金属石けん、 フッ素榭脂、ナイロン、ポリアセタール、ポリオレフイン、ポリエステル、ポリエチレン、 p TFE (ポリテトラフルォロエチレン)、黒鉛、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化 カーバイド、スズ、スズ合金、ニッケル、銅合金、純鉄、純銅、純クロム力もなる群から 選択された少なくとも一種からなる固体潤滑剤被膜が形成され、かつ、当該固体潤 滑剤被膜の占める面積が前記転動体の表面及び Z又は前記軌道輪の軌道面に対 し 75%以上である転がり軸受である。なお、前記群の中では、二硫化モリブデン (M oS )、二硫化タングステン (WS )、スズ (Sn)、及び窒化ホウ素(BN)が好ましい。
2 2
[0071] 本発明者らの研究によれば、従来の転動体及び軌道輪は通常の焼き入れ焼き戻 しを行なっているのみである。それ故、転動体や軌道輪の軌道面の摩耗が早期に増 大する傾向があった。これは上述のように、金属接触を繰り返しながら凝着摩耗が進 行するためである。これに対し、本発明の上記構成によれば、転動体の表面及び Z 又は軌道輪の軌道面に固体潤滑剤被膜を形成することで、転動体の表面及び Z又 は軌道輪の軌道面での金属間接触が抑えられ、摩耗及びピーリング等の表面損傷 が著しく低減される。
[0072] 前記固体潤滑剤被膜の占める面積は、前記転動体の表面及び Z又は前記軌道輪 の軌道面に対し 75%以上であることが好ましい。固体潤滑剤被膜を力かる範囲で被 膜することにより、効果的に金属間接触を抑え、摩耗及びピーリング等の表面損傷を 著しく低減させることができる。
前記固体潤滑剤被膜は、その被膜厚さが 0. 05〜8. 0 mであることが好ましい。 これにより、更に耐摩耗性能を向上させることができる。
[0073] 前記転動体の表面及び Z又は前記軌道輪の軌道面に、ディンプル形状の窪み( 以降はディンプルと記すこともある)が形成されることが好ましい。前記窪みは、その 深さが 0. 1〜5 /ζ πιであることが好ましい。これにより、更に耐摩耗性を向上させること ができる。
前記固体潤滑剤被膜の表面の中心線平均粗さ Raは、 1 μ m以下であることが好ま しい。より好ましくは 0. 1 m以上 0. 5 m以下、さらに好ましくは 0. 15 m以上 0. 45 m以下である。これにより、更に効果的に摩耗を抑制することが可能となる。
[0074] 前記転動体及び Z又は前記軌道輪の表面層に、 2〜30体積%の残留オーステナ イト( γ R)を有することが好ま 、。残留オーステナイト( γ R)量を上記の量にするこ とで、ショットピーユング加工後の表面形状における凸部を低減することができ、更な る長寿命化が達成される。
本発明に係る転がり軸受によれば、微量油又は枯渴潤滑下のような潤滑条件が悪 V、使用条件下にお!/ヽても寿命の延長を図ることができる。
[0075] 以下、図面を参照して、第三の実施形態について詳細に説明する。
〔第三の実施形態の Α〕
図 6は、第三の実施形態の Αに係るスラスト針状ころ軸受 201の構成を示す部分断 面図である。このスラスト針状ころ軸受 201は、図示しない軸に固定される内輪 210と 図示しないハウジングに固定される外輪 212とを備えており、該両輪 210、 212の対 向する軌道面 210a、 212aの間に転動自在に配設された転動体としての複数の針 状ころ 214が保持器 216によって保持されている。
[0076] このスラスト針状ころ軸受 201は、ころ直径 3. 5mm、長さ 5. 8mmの針状ころ 214と され、針状ころ 214の数は 28個で保持器 216によって周方向に等配に保持されてい る。スラスト針状ころ軸受 201の外径は 67mm、内径は 42mmである。軸受の材料は 、内外輪 210, 212及び針状ころ 214は SUJ2、保持器 216は SPCCとし、必要に応 じて浸炭もしくは浸炭窒化を施した。また、内外輪 210, 212は、熱処理後にバリ取と つや出しを目的としてバレル力卩ェで仕上げ、針状ころ 214は、研削後につや出しを 目的としてバレル力卩ェを行って仕上げている。
[0077] 前記転動体の表面及び Z又は前記軌道輪の軌道面には、 MoS、 Sn、 BN
2 、及び
WSカゝらなる群カゝら選択された少なくとも一種カゝらなる固体潤滑剤による被膜が形成
2
されている。なお、固体潤滑剤として、上記以外にも、同様な効果を得ることができれ ば上記の固体潤滑剤に限定されることはなく、他の固体潤滑剤を使用することもでき る。他の固体潤滑剤の具体例としては、ポリエチレン、フッ素榭脂、ナイロン、ポリアセ タール、ポリオレフイン、ポリエステル、ポリテトラフルォロエチレン、金属石鹼、黒鉛、 フッ化カルシウム、フッ化バリウム、錫合金、銅合金等を挙げることができる。
[0078] 前記固体潤滑剤の平均粒子径は、 1〜: L00 μ mであることが好ましぐ 1〜60 μ m
であることがより好ましぐ 2〜60 μ mであることが更に好ましい。
固体潤滑剤被膜の形成は、ショットピーユング加工により行うことができる。ショットピ 一-ング加工の条件は、噴射圧力 196〜1470kPa (より好ましくは 392〜1470kPa
)、噴射時間 10〜20分、被投射材重量 l〜6kgとすることが好ましい。
[0079] また、本実施形態に係るスラスト針状ころ軸受 201は、針状ころ 214及び Z又は内 外輪 210, 212の軌道面 210a, 212aに、前処理として中心線平均粗さ Raが 0. 15
〜0. 45 mの凹凸をつけた後に、固体潤滑剤被膜を形成した。
前処理には、バレル力卩ェ、ショットピー-ングカ卩ェ等、第一の実施形態と同様の方 法を採用することができる。
前記固体潤滑剤被膜の被膜厚さは、 0. 05〜8 /z mであることが好ましぐ 0. 5〜5 μ mであることがより好ましぐ 0. 5〜3 μ mであることが更に好ましい。
[0080] 本実施形態に係るスラスト針状ころ軸受 201について、固体潤滑剤のショット後に、 第一の実施形態と同様にして硬さを測定したところ、 5〜20%の硬さの向上が認めら れた。
これらの固体潤滑剤被膜の厚さや面積率及び母材最表面からの硬さ勾配は、本発 明に係るスラスト針状ころ軸受を特徴付ける値であり、実施例に係るスラスト針状ころ 軸受によって得られる効果に関係すると考えられる。
[0081] また、針状ころ 214及び Z又は内外輪 210, 214の軌道面 210a, 212aの残留ォ ーステナイト(y R)量は、 2〜30体積0 /0であることが好ましぐ 10〜30体積0 /0である ことがより好ましぐ 20〜30体積%であることが更に好ましい。 量を上記の範囲と することで、ショットピーユング加工後の表面形状を最適化して、より一層の長寿命化 が達成される。
〔第三の実施形態の B〕
図 7は、第三の実施形態の Bに係るスラスト針状ころ軸受 210を適用したカーエアコ ンデイショナー用コンプレッサ 202の断面図である。図 7において、カーエアコンディ ショナ一用のコンプレッサ 202である容量可変式のコンプレッサは、ハウジング 220に 対して駆動軸 222を回転自在に嵌挿し、この駆動軸 222に対して斜板 224を傾斜角 度可変に連結し、この斜板 224に対しゥォブル板 226を摺動自在に取付けてある。
[0082] 斜板 224とゥォブル板 226との間には、スラスト軸受 228が配設されている。ゥォブ ル板 226には、複数のピストンロッド 230の一端が円周方向等間隔に取付けてあり、 このピストンロッド 230の他端はピストン 232に連結している。このピストン 232は、ハウ ジング 220内に設けられたシリンダ 220aの内部で揺動するように設けられ、このシリ ンダ 220aのボア内に流入される冷媒ガスを圧縮し吐出するようにしている。
[0083] 駆動軸 222の図面右端は、クラッチ機構 CMを介してプーリ 234に連結されており、 駆動軸 222のプーリ 234側外周には、一体的に回転するようにスラスト板 236が圧入 され、スラスト板 236とハウジング 220との間には、スラスト針状ころ軸受 201が配置さ れている。このコンプレッサ系内は真空排気された後、冷媒及び潤滑油が封止され ている。
クラッチ機構 CMがオンされると、カーエアコンディショナー用コンプレッサ 202の動 作が開始する。かかる場合、図示しないベルトによりプーリ 234が駆動すると、駆動軸 222が回転駆動し、それにより斜板 224が回転すると、ゥォブル板 226が、いわゆる みそすり的動作をし、ピストンロッド 232を介してピストン 230を軸線方向に往復運動 させ、冷媒ガスを圧縮し吐出するようになっている。
[0084] このとき、駆動軸 222には、冷媒ガスの圧縮力がスラスト力として伝達され、スラスト 針状ころ軸受 201は、スラスト板 236とハウジング 220との間で、力かるスラスト力を支 持するようになっている。
なお、ピストン 207の動作に伴って発生する冷媒ブローバイガス力 図 7で矢印方 向に流れ、その冷媒ブローバイガスに含まれたミスト状の潤滑油を用いて、各部の潤 滑を行う。このとき、スラスト針状ころ軸受 201は、ピストン 232から離れた位置に配設 されて 、るので十分な潤滑油がスラスト針状ころ軸受 201に行き渡らず、潤滑条件的 には厳しくなつている。
[0085] そのため、転動体の表面及び Z又は軌道輪の軌道面に、 MoS、 Sn、 BN、及び W
2
sカゝらなる群カゝら選択された少なくとも一種カゝらなる固体潤滑剤被膜が形成されてい
2
ない従来のスラスト針状ころ軸受は、一旦油膜破断が起きると金属接触が発生し、凝 着摩耗が進行していた。
これに対し、第三の実施形態の Bに係るスラスト針状ころ軸受 201は、転動体の表
面及び Z又は軌道輪の軌道面に MoS、 Sn、 BN、及び WSからなる群から選択さ
2 2
れた少なくとも一種カゝらなる固体潤滑剤被膜が形成されているため、特に面圧が高 いとされる領域 R (図 6中、ダブルハッチングで示す)において、摩耗を抑制することが できる。
[0086] また、固体潤滑剤被膜が、針状ころ 214の表面及び Z又は内外輪の軌道面 210a , 212aの面積率で 75%以上の部分に付着している。被膜面積率が 75%未満の場 合は摩耗が大きくなり、満足の 、く寿命が得られな!/、。
〔第三の実施形態の C〕
図 8は、第三の実施形態の Cに係る深溝玉軸受 203の断面図である。この深溝玉 軸受 203は、例えば、図 7における駆動軸 222の図面左側に配設されているスラスト 軸受 238に代えて使用することができる。
[0087] 図 8に示すように、本実施形態に係る深溝玉軸受 203は、図 7に示す駆動軸 222に 取り付けられる内輪 240と、図 7に示すノ、ウジング 220に取り付けられる外輪 42と、こ れら駆動輪としての内外輪 240, 242の間に転動自在に配置された転動体としての 玉 244と、複数の玉 244を周方向に等間隔に保持する保持器 246とからなる。
保持器 246は、 2枚の鋼板を折り曲げて組み合わせて形成されているが、その他榭 脂で形成しても作用は同じである。
[0088] 第三の実施形態の Aに係るスラスト針状ころ軸受 201と同様に、本実施形態に係る 深溝軸受 203においても、同様の処理が有効である。
〔実施例〕
表 4に示すように、前処理の有無、被膜部位、被膜厚さ、被膜面積率、残留オース テナイト( γ R)量、及び中心線平均粗さを適宜変更して、平均粒径 45 μ mの錫を用 いて各種スラスト針状ころ軸受を製造した。製造方法は、第一の実施形態と同様であ る。
[0089] 残留オーステナイト量 (表面 γ R量)の測定は、 X線分析装置を用いて行った。なお 、本実施形態における表面 γ R量における「表面」とは、転動面の最表面から 20 μ m の深さまでの部分を意味する。
[0090] [表 4]
被膜厚さ 被膜 表面 中心線
前処理 被膜部位 面櫝率 7 R量 平均粗さ
(um)
(%) (Vol ) ( m)
実施例 1 ころ 0.05 75 1 0.09
実施例 2 無 ころ 1 85 0 0.13
実施例 3 ころ 2 88 0 0.11
実施例 4 Iffi ころ 2 80 1 0.12
実施例 5 軌道面 1 95 0 0.12
実施例 6 軌道面 2 92 1 0.11
実施例 7 4ffi 軌道面 0.5 90 1 0.13
実施例 8 jm 軌道面 1.5 85 0 0.13
実施例 9 有(ショット) ころ 2 85 0 0.20
実施例 10 有(ショット) ころ 4 95 0 0.40
実施例 11 有 (ショット) ころ 2 80 1 0.35
実施例 12 有(ショット) ころ 3 95 0 0.45
実施例 13 有(ショット) 軌道面 3 95 0 0.15
実施例 14 有(ショット) 軌道面 1 90 0 0.25
実施例 15 有 (ショ ト) 軌道面 8 95 1 0.32
実施例 16 有 (ショット) 軌道面 5 95 0 0.42
実施例 17 有(ショット) ころ 2 80 15 0.18
実施例 18 有 (ショット) ころ 4 95 2 0.35
実施例 19 有 (シ 3ット) ころ 3 90 5 0.38
実施例 20 有(ショット) ころ 2 90 10 0.30
実施例 21 有(ショ " 軌道面 4 95 30 0.16
実施例 22 有 (ショット) 軌道面 3 90 20 0.32
実施例 23 有 (ショット) 軌道面 3 88 8 0.38
実施例 24 - (ショット) 軌道面 2 95 15 0.40
実施例 25 有 (ショ ト) ころ 2 90 32 0.15
実施例 26 有(ショ ト) ころ 5 95 35 0.16
実施例 27 有 (ショ ) 軌道面 2 85 37 0.15
実施例 28 有(バレル) 軌道面 2 90 7 0.20
実施例 29 有(バレル) ころ 3 95 6 0.22
実施例 30 有(バレル) 軌道面 5 90 5 0.32
実施例 31 有(バぃレ) ころ 3 95 5 0.32
実施例 32 有(バレル +ショ " 軌道面 2 90 4 0.22
実施例 33 有(バレル +ショ " ころ 1 95 2 0.25
実施例 34 有(バレル +ショ " 軌道面 5 80 2 0.40
実施例 35 有(バレル +シヨ ト) ころ 4 95 2 0.45
実施例 36 IB ころ 2 95 1 0.31
比較例 1 ころ 0.02 78 4 0.07
比較例 2 有(バレル +ショット) ころ 12 95 1 0.42
比較例 3 修 ころ 0.05 60 5 0.10
比較例 4 ia ころ 1 72 4 0.13
比較例 5 有 (ショ ト) ころ ― 2 0.20
比較例 6 有 (ショ'ソト) 軌道面 ― 6 0.28
比較例 7 iu ころ 3 0.21
比較例 8 有(バレル) ころ 6 0.07
比較例 9 有(バレル) ころ 2 0.20 [試験例 1]摩耗試験 (組み立て高さ減少量の測定)
上記実施例及び比較例のスラスト針状ころ軸受を用い、以下の要領で摩耗試験( 組み立て高さ減少量の測定)を行った。なお、転動体及び軌道輪は、軸受鋼(SUJ2 )で構成され、焼入れ(820〜830°Cで 0.5〜1時間)及び焼戻し(160〜200でで1 〜2時間)を施した。また、必要に応じて浸炭又は浸炭窒化を施した。更に、内外輪
には上記熱処理 (焼き入れ及び焼き戻し)後に、ノ リ取りとつや出しを目的としたバレ ル加工を行い、ころには研削後につや出しを目的としたバレル力卩ェを行った。
試験条件
供試軸受サイズ (内径 X外径 X高さ): 40 X 60 X 5 (mm)
アキシャル荷重(スラスト力): 1500N
回転速度: 4000min— 1
保持器形式:図 6に示す 1枚保持器
供試時間: 500h
雰囲気: HCFC134a (ポリアルキレンダルコール含有)
組み立て高さの減少量の測定は、試験前後のスラスト針状ころ軸受の組み立て高 さ h (図 6参照)を測定し、組立て前の高さから組立て後の高さを差し引くことにより求 めた。結果を表 5に示す。
[0092] [試験例 2]寿命の評価
上記実施例及び比較例のスラスト針状ころ軸受を用い、以下の要領で寿命の評価 を行った。試験に使用した軸受用の寿命試験機は、第一の実施形態で使用したもの と同様である。以下の条件で試験を行った。
試験条件
Pmax: 11000MPa
回転速度: 3000min— 1
潤滑油 : VG10相当
なお、試験は試験片 (軸受)の振動値が初期値の 2倍に達した時点で中断し、試験 片 (軸受)を観察してピーリングの発生を確認した時点を寿命とした。また、それぞれ の実施例や比較例につき 3〜5回試験を行 、、その結果力 ワイブルプロットを作成 して、 L10寿命(定格寿命)を求めた。そして、比較例 9の寿命値を 1として、他の実施 例と比較例の寿命比を求めた。結果を表 5に示す。
[0093] [表 5]
組み立て高さ減少量 寿命比 ( Ai m ) 実施例 1 0.7 1.5 実施例 2 0.6 2.2 実施例 3 0.7 1.7 実施例 4 0.7 1.5 実施例 5 0.6 1.8 実施例 6 0.6 2.0 実施例 7 0.7 1.5 実施例 8 0.7 1.6 実施例 9 0.5 3.0 実施例 10 0.4 4.0 実施例 11 0.5 2.5 実施例 12 0.5 2.7 実施例 13 0.5 3.2 実施例 14 0.4 3.8 実施例 15 0.5 2.8 実施例 16 0.5 2.6 実施例 17 0.2 6.0 実施例 18 0. 1 8.8 実施例 19 0.3 5.0 実施例 20 0.3 5.2 実施例 21 0.2 6.6 実施例 22 0. 1 8.5 実施例 23 0.3 5.2 実施例 24 0.2 6.0 実施例 25 0.5 3.0 実施例 26 0.4 3.8 実施例 27 0.5 2.8 実施例 28 0.5 2.8 実施例 29 0.5 2.5 実施例 30 0.4 3.0 実施例 31 0.4 3.5 実施例 32 0.4 3.5 実施例 33 0.4 3.3 実施例 34 0.4 4.0 実施例 35 0.4 3.8 実施例 36 0.7 1.5 比較例 1 8.0 0.5 比較例 2 4.0 1.0 比較例 3 6.0 0.7 比較例 4 6.0 0.7 比較例 5 6.0 0.7 比較例 6 6.0 0.7 比較例 Ί 1 0.0 0.3 比較例 8 8.0 0.5 比較例 9 3.0 1.0
[0094] 実施例 1〜36に係るスラスト針状ころ軸受は、組み立て高さ減少量に関して、従来 品 (比較例 5及び 6)の 10倍以上の耐摩耗性を示すことが判明した。また、寿命に関 しては、従来品の 1. 5倍以上の長寿命化が達成されることが判明した。これは、ショッ トビー-ング加工で被膜厚さ 0. 05〜8 /ζ πι、被膜面積率 75%以上の固体潤滑剤被 膜を形成することにより、金属間接触や接線力を効果的に抑えたこと、及び母材の最 表面部の硬さが増大したことが複合的に作用したためと推測された。
また、実施例 9〜35に係るスラスト針状ころ軸受は、組み立て高さ減少量に関して、 固体潤滑剤をショットピーユングカ卩ェする前にショットピーユング力卩ェゃバレルカロェ により前処理を行ったものは粗さ Raが 0. 15〜0. 45 mと前処理を行わないものよ りも大きぐ従来品の 10倍以上の耐摩耗性を示すことが判明した。寿命に関しては、 比較例の 2. 5倍以上と更に長寿命化が達成されることが判明した。これは、被膜を 施す表面の粗さ Raを 0. 15〜4. 0 mの範囲で粗くしたこと〖こより、固体潤滑剤のト ラップ効果が高まり、固体潤滑剤の効果を持続することができるためと推測された。
[0095] また、実施例 17〜24に係るスラスト針状ころ軸受は、組み立て高さ減少量に関して 、 量を 8〜25%としたものは摩耗量が特に少なぐ比較例の 1Z60の摩耗量であ つた。寿命に関しては、寿命比が 5. 0以上とさらに長寿命化が達成されることが判明 した。この理由を明らかにするため、光干渉型三次元形状測定機を用いた調査を行 つたところ、母材中に軟質な が 8〜25%の範囲で存在すれば、ショット後の表面 凸部が低減されることが判明し、これにより金属間接触を抑える効果がより十分に発 揮できたためと推測された。
[0096] し力しながら、実施例 25〜27に示すように、 γ R量を 25%より多くすると、母材の硬 さが低下するため、耐摩耗性能は低下する傾向にあり、寿命比は 5を下回ることが判 明した。
一方、比較例 1は被膜厚さが 0. 05 m未満と十分な被膜厚さが得られな力 たた め、耐摩耗性能が得られず、寿命比も低カゝつた。
比較例 2も摩耗が大き力つたが、これは被膜厚さが 8 mより大きぐ局所的に凝集 した部分があつたため、転動中に被膜が剥れて摩耗が大きくなり、短寿命となったも のである。
[0097] 比較例 3及び 4はともに被膜の面積率が 75%未満と不十分であったため摩耗が大 きぐ寿命比も低力つた。
比較例 5、 6は従来品の例で、前処理でショットピー-ングカ卩ェを行ったのみで、固 体潤滑剤を用いたショットピーユング力卩ェを行わなカゝつたため十分な耐摩耗性を得る ことができず、短寿命となった例である。
比較例 7はバレル加工仕上げを行わすに研削で仕上げたもの、比較例 8はバレル 加工仕上げのものであり、いずれも固体潤滑剤を用いたショットピーユング力卩ェを行 つて 、な!/、ため摩耗が大きぐ寿命比は低力つた。
[0098] 以上説明したように、本発明によれば、転動体の表面及び Z又は軌道輪の軌道面 を固体潤滑剤で被覆し、かつ、被膜面積率を 75%以上とすることで、摩耗が低減し 長寿命化が可能となる。更に、被膜厚さを 0. 05〜8 111とし、固体潤滑剤を用いた ショットピー-ングカ卩ェの前処理としてのショットピー-ングカ卩ェゃバレル力卩ェを行い
、中心線平均粗さ Raを 0. 15〜0. 45 mとし、残留オーステナイト(y R)量を 8〜2
5%とすることで、さらなる長寿命化が達成可能である。
[0099] 本発明に係る転がり軸受は、上述したカーエアコンディショナー用コンプレッサのほ 力 産業用、家庭用を問わず冷媒を圧縮するコンプレッサ等に好適に利用可能であ る。特に、自然冷媒コンプレッサの場合は、冷媒中の酸素分圧が低いため、より効果 が明確になる。
〔第四の実施形態〕
本発明の転動装置に用いられる転動部材(内方部材,外方部材,及び転動体)は 、以下のようにして製造することができる。
[0100] すなわち、金属からなる素材を所定形状に加工する工程と、熱処理を施す工程と、 100°C以上 300°C以下の条件でショットピーユング処理を施すことにより、転がり面を なす少なくとも一部の表面に、面積率 75%以上の潤滑被膜 (以降は固体潤滑被膜と 記すこともある)を形成する工程と、を有することを特徴とする転動装置の転動部材の 製造方法である。
本発明によれば、転動部材に対するショットピーユング処理を特定の条件で行うこと により、転動部材の母相が塑性変形を起こして、固体潤滑被膜をなすショット材が母
相に拡散結合し易くなるため、転動部材の表面に拡散層を含む強固な固体潤滑被 膜を密着して形成できる。また、転動部材の表面に形成する固体潤滑被膜の面積率 を特定することにより、転動部材の表面に固体潤滑被膜を密着して形成できるととも に、転動部材に必要な潤滑性を付与できる。
[0101] したがって、スミアリング、焼付き、摩耗、ピーリング等の表面損傷が、転動部材に生 じ難くなるとともに、固体潤滑被膜の剥離によって生じる音響不良や振動不良を抑制 できる。
なお、ショットピーユング処理の条件は、転動部材の表面に 100°C以上 300°C以下 の条件で固体潤滑被膜を形成するのであれば特に限定されない。具体的には、転 動部材自身を 100°C以上 300°C以下の温度に加熱した状態で固体潤滑被膜を形成 してもょ 、し、固体潤滑被膜をなすショット材自身を 100°C以上 300°C以下の温度に 加熱した状態で転動部材の表面に衝突させ固着させてもょ 、し、ショットピーユング 処理を行う雰囲気全体を 100°C以上 300°C以下の温度に加熱してもよい。
[0102] ショットピーユング処理が 100°C以上で行われると、転動部材をなす母相の塑性変 形が生じやすくなり、固体潤滑被膜をなすショット材が母相に拡散しやすくなる。一方 、ショットピーユング処理が 300°C以下であれば、転動部材をなす母相の変形が少な い。
また、本発明に係る転動装置の転動部材の製造方法においては、処理温度以外 は第一の実施形態と同様に行うことが好ましい。
本発明に係る転動装置の転動部材の製造方法によれば、転動部材に特定の温度 条件でショットピーユング処理を施して、転がり面をなす少なくとも一部の表面に特定 面積率の固体潤滑被膜を形成することにより、転動部材の表面に固体潤滑被膜を密 着して形成できる。そのため、表面損傷が生じ難い転動部材を製造できる。
[0103] また、本発明に係る転動装置の製造方法によれば、固体潤滑被膜の膜厚や、固体 潤滑被膜を形成する表面の形状をさらに特定することにより、転動部材の表面に固 体潤滑被膜をさらに密着して形成できる。そのため、表面損傷がさらに生じ難い転動 部材を製造できる。
よって、本発明の製造方法で製造された転動部材を用いることにより、例えば、油
膜パラメータ Λが 3以下の潤滑状態が不良の環境下で使用した場合でも、転がり疲 れ寿命が長!ヽ転動装置を提供できる。
[0104] 以下、第四の実施形態について説明する。第四の実施形態のスラスト針状ころ軸 受の構成は、図 1の第一の実施形態と同様である。スラスト針状ころ軸受の軸受寸法 は、内径が 45mm、外径が 82mmで、幅が 5. 5mmとした。
本実施形態では、スラスト針状ころ軸受の内輪 (内方部材)、外輪 (外方部材)、及 び針状ころ (転動体)を、以下に示すようにして作製した。まず、高炭素クロム軸受鋼 二種 (SUJ2)力 なる素材を内輪、外輪、及び針状ころの各形状に加工し、 840°Cの 混合ガス雰囲気 (RXガス +エンリッチガス +アンモニアガス)で 3時間浸炭窒化した 後、油焼入れ及び焼戻しを行った。そして、内輪、外輪、及び針状ころの各表層部( 表面から 250 mの深さまでの部分)の残留オーステナイト量を 15〜40体積%とし、 前記表層部の硬さを HRC58〜67 (Hv653〜900)に調整した。
[0105] 次に、このようにして得られた針状ころに対して、第一の実施形態と同様の処理を 行い、表面に錫を被覆して、表 6に示す No. 1〜37の針状ころを完成させた。
さら〖こ、固体潤滑被膜が形成された後の針状ころにおいて、第一の実施形態と同 様に硬さを測定したところ、 5〜20%の硬さの向上が認められた。
なお、表 6中で比較例として示す No. 27の針状ころは、その表面に前処理 (バレル A)を行って、上述した特許文献 1に記載のディンプル (最大表面粗さ Raが 1. 0 m ,表面粗さのパラメータ SK値が 2. 0,ディンプルの平均面積が 80 m2,ディンプ ルの面積率を 25%)を形成したが、固体潤滑被膜を形成して 、な 、ものである。
[0106] 続ヽて、このようにして得られた内輪、外輪及び針状ころと、 SPCC製の保持器とを 用いて、スラスト針状ころ軸受を組み立てた。そして、このスラスト針状ころ軸受に対し て、油膜パラメータ Λが 3以下の潤滑状態が不良の環境下で使用することを想定した 以下に示す条件で寿命試験を行った。この寿命試験は、図 3に示すスラスト型寿命 試験機を用いて行った。このスラスト型寿命試験機の構造は、第一の実施形態にお いて述べた通りであるので、その説明は省略する。
[0107] この寿命試験は、初期振動値の 5倍に達するか、外輪の外径温度が 150°Cに達す るまでスラスト針状ころ軸受を回転させることにより行い、試験開始から試験終了まで
の時間を寿命とした。
さらに、この寿命試験は、各実施例においてそれぞれ 10回ずつ行い、その平均寿 命を算出した。そして、比較例である No. 27の針状ころを用いたスラスト針状ころ軸 受の寿命を 1とした時の比として、表 6に併せて示した。
[0108] このとき、初期振動値の 5倍に達して試験を終了したスラスト針状ころ軸受において は、実体顕微鏡で損傷の有無を確認し、損傷が見られた場合には試験を終了して、 初期振動値の 5倍に達した時間を寿命とし、損傷が見られな力つた場合には試験を 再開した。また、外輪の外径温度が 150°Cに達して試験を終了したスラスト針状ころ 軸受においては、焼付きによる損傷が生じたものとして判断して試験を終了し、外輪 の外径温度が 150°Cに達するまでの時間を寿命とした。
[0109] 〔寿命試験条件〕
荷重:動定格荷重の 12% (PZC = 0. 12)
回転速度: 6500min— 1
潤滑油: VG32
周囲温度:室温 (約 28°C)
軸受温度:外輪外径にお!、て 100〜 110°C
油膜パラメータ Λ :0. 2〜0. 3
[0110] [表 6]
針状 こ ろ の構成
命 ίί験
No. 被膜形成時の
被膜面積率平均被膜厚さ 表面粗さ
前処理 針状ころの Raディンプルの 結果 備考 温度 ( ) (%) (/Um) ( zm) 深さ( m) (比)
1 M 100 75 1.00 0.50 ― 8.1
2 iffi 150 80 0.10 0.50 一 8.6
3 ffi 180 85 1.50 0.20 ― 8.9
4 無 120 90 0.50 0.25 ― 9.6
5 120 92 6.00 0.30 ― 8.9
6 to 300 95 2.80 0.10 ― 8.4
7 flE 240 96 0.40 0.20 ― 8.0
8 iBf 100.0 100 8.00 0.40 ― 8.0
9 有(ショット A) 100.0 75 2.50 0.30 4.9 11.3
10 有(ショット A) 120 80 0.80 0.10 0.4 13.1
11 有(ショット A) 180 85 0.50 0.20 0.3 13.9
12 有(ショット A > 120 90 3.50 0.15 1.5 13.1
13 有 (ショット A) 150 92 2.40 0.20 2.3 12.4
実施例
14 有(ショット A) 120 95 1.50 0.30 2.6 11.8
15 有(ショット A) 240 95 8.00 0.25 4.6 11.6
16 有(ショ "ノト A) 300 100 2.40 0.40 0.2 11.0
17 180 85 0.05 0.20 ― 6.8
18 180 85 10.00 0.20 ― 5.6
19 有(ショット A ) 180 85 0.05 0.20 0.3 10.8
20 有(ショット A) 180 85 10.00 0.20 0.3 10.7
21 有(ショット A) 180 85 0.60 0.20 0.05 10.1
22 有(ショット A) 180 85 0.60 0.20 6. 10.7
23 120 85 1.50 0.09 ― 8.4
24 140 85 1.50 0.51 ― 7.2
25 有(ショット A) 180 85 0.50 0.09 0.3 7.5
26 有 (ショ ト A) 150 85 0.50 0.51 0.3 6.8
27 有(バレル A) 100 ― 0.20 (L2 1
28 有(ショット B) 30 ― ― 0.25 02 1.0
29 有(バレル B) 100 ― ― 0.30 ― 0.4
30 4ϊ 9CI 90 0.50 0.30 ― 4.5
31 320 90 0.50 0.20 ― 3.8
32 有(ショット A) 90 3.50 0.40 1.5 3.9 比較例
33 有(ショット A) 320 90 3.50 0.20 1.5 4.1
34 ff 150 7 0.10 0.30 一 2.1
35 to 120 6 6.00 0.40 ― 1.2
36 有 (ショット A) 150 1 2.40 0.15 2.3 2.9
37 有(ショット A) 120 6_5 0.80 0.30 0.4 2.4 表 6に示すように、 100°C以上 300°C以下の条件でショットピーユング処理が施され て、表面に面積率で 75%以上の固体潤滑被膜が形成された No. l〜No.26の針 状ころを用いたスラスト針状ころ軸受では、表面に固体潤滑被膜が形成されて 、な ヽ No.27〜No.29の針状ころや、上記範囲外の温度で加熱された状態で、固体潤 滑被膜が形成された No.30〜33の針状ころや、固体潤滑被膜が上記範囲外の面 積率で形成された No.34〜37の針状ころを用いた場合と比べて、転がり疲れ寿命
力 S長く、 No. 27の 5. 6倍以上であった。
特に、 No. l〜No. 6と No. 7, No. 8の結果、及び No. 9〜No. 15と No. 16の 結果から、固体潤滑被膜の面積率を 75%以上とすることにより、転がり疲れ寿命がさ らに長くなつていることが分かる。
また、 No. 3と No. 17, No. 18の結果、及び No. 11と No. 19, No. 20の結果力 ら、固体潤滑被膜の厚さを 0. 10 m以上 8. 0 m以下とすることにより、転がり疲れ 寿命がさらに長くなつていることが分かる。
[0112] さらに、 No. 11と No. 21, No. 22の結果から、固体潤滑被膜を形成する表面の ディンプルの深さを 0. 10 m以上 5. 0 m以下に調整することにより、転がり疲れ 寿命がさらに長くなつていることが分かる。
この理由としては、ディンプルの深さをショットピーユング処理により上記範囲内に することにより、針状ころの表面に固体潤滑被膜がさらに密着して形成されるとともに 、針状ころの表面の硬さが向上したためであると考えられる。
[0113] さらに、 No. 3と No. 23, No. 24との結果、及び No. 11と No. 25, No. 26の結 果から、表面の平均線中心粗さ (Ra)を 0. 10 111以上0. 50 m以下とすることによ り、転がり疲れ寿命がさらに長くなつていることが分かる。
続 ヽて、表 6で示す結果のうち、 No. l〜No. 16と、 No. 34〜No. 37の結果を用 いて、固体潤滑被膜の面積率と寿命との関係を示す図 9のグラフを作成した。図 9〖こ 示すように、面積率で 75%以上の固体潤滑被膜を形成した針状ころを用いたスラス ト針状ころ軸受では、面積率で 75%未満の固体潤滑被膜を形成した針状ころを用い た場合と比べて、長寿命であったことが分かる。
[0114] また、ショットピーユング処理によりディンプルの深さを調節した後に固体潤滑膜を 形成した針状ころを用いたスラスト針状ころ軸受では、前処理を行わずに固体潤滑被 膜を形成した針状ころを用いた場合よりも長寿命であったことが分力る。
以上の結果から、特定の温度条件でショットピーニング処理が施され、表面に特定 面積率の固体潤滑被膜が形成された針状ころを用いることにより、油膜パラメータ Λ 力 S3以下の潤滑状態が不良の環境下で使用した場合であっても、スラスト針状ころ軸 受の転がり疲れ寿命を長くできることが分力つた。
[0115] また、針状ころの表面に形成する固体潤滑被膜の厚さや、表面のディンプルの深さ 及び中心線平均粗さについても特定することにより、スラスト針状ころ軸受の転がり疲 れ寿命をさらに長くできることが分力つた。
なお、本実施形態では、本発明を、転動装置の一例であるスラスト針状ころ軸受に 適用した場合について説明したが、これに限らず、本発明は、潤滑状態が不良な環 境下で使用される転動装置で好適に用いることができる。このような転動装置として は、例えば、深溝玉軸受、アンギユラ玉軸受、自動調心玉軸受、スラスト玉軸受等の 玉軸受や、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受、スラストころ軸受等のころ軸受があげ られる。また、ボールねじ、リニアガイド、直動ベアリング等の直動装置や、トロイダル 型無段変速機等の転がり軸受ユニットが挙げられる。
[0116] また、本実施形態では、本発明の製造方法を、スラスト針状ころ軸受の針状ころの みに適用した場合について説明したが、これに限らず、本発明は、内輪のみや外輪 のみに適用しても構わないし、内輪、外輪、及び針状ころのうち二つ以上に適用して も構わない。
〔第五の実施形態〕
本発明は、円錐ころ軸受、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受等のころ軸受に適用 することができる。
[0117] 転がり軸受は、繰り返し剪断応力を受けて使用される。よって、転がり軸受を構成す る転動部材(内輪、外輪、転動体)には、繰り返し剪断応力を受けても転がり疲れ寿 命を長くできるように、高硬度、耐高負荷性、及び耐摩耗性が要求されている。
このような転動部材としては、通常、 SUJ2等の軸受鋼や、 SCR420等の肌焼鋼に 対して、焼入れ及び焼戻し処理が施されたり、浸炭又は浸炭窒化処理と焼入れ及び 焼戻し処理が施されたりすることにより、転がり面をなす表層部の硬さを HRC58〜6 4としたものが用いられて!/、る。
[0118] 特に、大きな荷重が加わる回転部を支持する場合には、転動体として円錐ころ、円 筒ころ、球面ころ等のころを用いたころ軸受が使用されて 、る。
このようなころ軸受は、玉軸受と比較して、剛性が高ぐより高荷重条件下で使用で きるが、トルクが大きいため、使用時の回転速度が制限されるという問題がある。この
ため、ころ軸受の設計を工夫したり、潤滑油の供給方法を工夫したりすることにより、 ころ軸受の低トルク化を実現するための技術が提案されている。
[0119] 日本国特許公開公報 2001年第 12461号では、接触角(外輪の軌道面が外輪の 中心軸に対して傾斜している角度) αを 22〜28° とし、円錐ころの大径側端部の直 径 Daと円錐ころの長さ Lとの比 Da/Lを 0. 51〜: L 0とし、複数の円錐ころのピッチ 円直径を dmとし、円錐ころの数を zとした場合に、 k= (dmZDa) ' sin (180° Zz)で 表されるころ数係数 kを 1. 16〜: L 32とすることにより、転がり疲れ寿命及び軸受の 剛性を確保しつつ、低トルク化を実現しょうとする技術が提案されている。
[0120] 日本国公開実用新案公報 平成 6年第 40460号では、ころに加わる集中荷重の緩 和を図るために、ころの中心部に回転軸線に沿う貫通孔を設けたころ軸受において、 低トルク化を実現しょうとする技術が提案されている。すなわち、ころの貫通孔の内周 に螺旋溝を形成することにより、貫通孔内に蓄積された異物の排出を促進し、且つ、 ころ自身の冷却能を高めて、ころ軸受の低トルク化を実現しょうとする技術である。 し力しながら、上述した両公報に記載の技術は、いずれも潤滑状態が良好な環境 下で使用されるころ軸受を考慮してなされたものである。よって、上述した両公報に 記載の技術を潤滑状態が良好ではない環境下で使用されるころ軸受に適用した場 合には、軌道輪ところとの転がり面や、軌道輪やころと保持器との接触面で金属接触 による摩耗が生じ、ころ軸受の低トルク化を実現するのは難しいという問題がある。
[0121] このため、金属接触による摩耗の発生を抑制することにより、潤滑状態が良好では ない環境下で使用された場合であっても、ころ軸受の低トルク化を実現するための技 術が提案されている。 日本国特許公報 第 3567942号では、内輪の軌道面、外輪 の軌道面、転動体の転走面、及び保持器の案内面のうち少なくとも一つに、少なくと も二硫ィ匕モリブデン、四フッ化工チレンを含む固体潤滑被膜を結合剤を介して形成 することが提案されている。
[0122] しかしながら、 日本国特許公報 第 3567942号に記載の技術では、固体潤滑被膜 を結合剤を介して形成しているため、固体潤滑被膜を構成する固体潤滑剤自体の性 能が効果的に得られず、且つ、固体潤滑被膜が剥離し易いという問題がある。
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、潤滑状態が良好で
はない環境下で使用された場合であっても、低トルク化を実現できるころ軸受を提供 することを課題としている。
[0123] このような課題を解決するために、本発明は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記 外輪の間に転動自在に配設されるころと、を備えたころ軸受において、前記内輪、前 記外輪、及び前記ころのうち少なくとも一つにおいて、その転がり面を含む面積率で 75%以上の表面に、固体潤滑被膜が形成されていることを特徴とするころ軸受を提 供する。
これによれば、内輪、外輪、及びころのうち少なくとも一つの構成部材において、そ の転がり面を含む特定面積率の表面に固体潤滑被膜を形成したことにより、構成部 材の表面に固体潤滑被膜を密着して形成できるため、この固体潤滑被膜が形成され た構成部材に金属接触による摩耗が生じ難くなる。よって、潤滑状態が良好ではな Vヽ環境下で使用された場合であっても、ころ軸受の低トルク化を実現できる。
[0124] 本発明のころ軸受において、前記固体潤滑被膜は、 0. 05 m以上 8. 0 m以下 の厚さで形成されていることが好ましい。これによれば、この固体潤滑被膜が形成さ れた構成部材において、金属接触による摩耗の発生を効果的に抑制しつつ、ころ軸 受の構成部材として必要な強度を確保できる。よって、潤滑状態が良好ではない環 境下で使用された場合であっても、ころ軸受のさらなる低トルク化を実現できる。 ここで、固体潤滑被膜の厚さが 0. 05 m未満であると、構成部材において金属接 触による摩耗の発生を効果的に抑制できなくなる。一方、 8. O /z m超過であると、構 成部材に対して被膜の付着強度が得られなくなる。
[0125] また、本発明のころ軸受において、前記固体潤滑被膜の表面の中心線平均粗さ( Ra)は、 0. 10 111以上0. 50 m以下であることが好ましい。
また、各実施形態に共通であるが、構成部材の表面に固体潤滑被膜をさらに密着 して形成するため、ディンプルの形成前又は固体潤滑被膜の形成前の構成部材の 表面の中心線平均粗さ(Ra)は、 1 μ m以下であることが好ましぐ 0. 1 m以上 0. 5 μ m以下であることがより好ましい。
[0126] さらに、本発明のころ軸受において、前記固体潤滑被膜は、 0. 10 m以上 5. Ο μ m以下の深さの微小くぼみ (ディンプル)を有する表面に形成されていることが好まし
い。
これによれば、表面に形成された微小くぼみ(さらには、表面粗さを形成する微小な 凹部に)に固体潤滑被膜が充填されて、構成部材の表面に固体潤滑被膜をさらに密 着して形成できる。よって、潤滑状態が良好ではない環境下で使用された場合であ つても、ころ軸受のさらなる低トルク化を実現できるとともに、優れた音響特性を実現 できる。
[0127] ここで、表面の微小くぼみが 0. 10 μ m未満であると、構成部材の表面と固体潤滑 被膜との密着性が不十分になる。一方、 5. O /z mを超えると、微小くぼみにより得ら れる効果が飽和する。
なお、本発明においてころ軸受の種類は特に限定されるものではなぐ例えば、円 錐ころ軸受、円筒ころ軸受、及び自動調心ころ軸受が挙げられる。
また、本発明で用いられる構成部材は、特に限定されるものではなぐ例えば、 SUJ 2等の軸受鋼や、 SCR420等の肌焼鋼や、 SUS440等のステンレス鋼に、焼入れ及 び焼戻し処理を施したり、浸炭又は浸炭窒化処理と焼入れ及び焼戻しとを施したりし たものが挙げられる。
[0128] さらに、本発明における転がり面とは、相手部材との転がり面を指し、例えば、内輪 及び外輪の軌道面や、ころの転動面を指す。
さらに、本発明において固体潤滑被膜は、少なくとも内輪及び外輪の軌道面や、こ ろの転動面を含む表面に形成されるのであれば特に限定されないが、少なくともころ の転動面を含む表面に形成されることが好ま 、。
さらに、本発明で用いられる固体潤滑被膜の素材としては、ころ軸受の構成部材の 表面被膜として用いられた場合に必要な強度を有し、且つ、固体潤滑被膜が形成さ れる構成部材と密着性がよいものであれば特に限定されない。例えば、二硫化モリブ デン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、金属石けん、フッ素榭脂、ナイロン、ポリアセ タール、ポリオレフイン、ポリエステル、ポリエチレン、 PTFE (ポリテトラフルォロェチレ ン)、黒鈴、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化カーバイド、スズ、スズ合金、ニッ ケル、銅合金、純鉄、純銅、純クロムが挙げられる。
[0129] さらに、本発明において固体潤滑被膜を形成する方法は、特に限定されるもので
はなぐ第一の実施形態と同様にして形成できる。
また、本発明のころ軸受によれば、固体潤滑被膜の膜厚や、固体潤滑被膜を形成 する表面の形状をさらに特定することにより、潤滑状態が良好ではない環境下で使 用された場合であってもさらなる低トルク化を実現できる。
以下、第五の実施形態について図面を参照しながら説明する。図 10に示す本実 施形態の円錐ころ軸受 310は、 日本精工株式会社製の呼び番号 HR30307C (内径 : 35mm,外径: 80mm,最大幅: 22. 75mm)の円錐ころ軸受である。
[0130] この円錐ころ軸受 310は、内輪軌道面 (転がり面) 301aを有する内輪 301と、外輪 軌道面 (転がり面) 302aを有する外輪 302と、内輪軌道面 301a及び外輪軌道面 30 2a間に転動自在に配設され、転動面 (転がり面) 303aを有する円錐状の複数のころ 303と、ころ 303を転動自在に保持する保持器 304と、からなる。
また、この円錐ころ軸受 310では、内輪 301の軸方向両端部に鍔部 301A, 301B が形成されており、この鍔部 301A, 301Bに対してころ 303の軸方向端面が転がり 接触した状態で案内されるように構成されている。
[0131] 内輪 301、外輪 302、及びころ 303は、以下に示すようにして作製した。まず、高炭 素クロム軸受鋼二種(SUJ2)力もなる素材を内輪 301、外輪 302、及びころ 303の各 形状に加工し、 840°Cの混合ガス雰囲気 (RXガス +エンリッチガス +アンモニアガス )で 3時間浸炭窒化した後、油焼入れ及び焼戻しを行った。そして、内輪 301、外輪 3 02、及びころ 303の各表層部(表面から 250 μ mの深さまでの部分)の残留オーステ ナイト量を 15〜40体積%とし、前記表層部の硬さを111¾ 62〜67 (1^746〜900) に調整した。
[0132] 次に、このようにして得られたころ 303に対して、第一の実施形態と同様の処理を行 、、表 7【こ示す No. 1〜27のころ 303を完成させた。
固体潤滑剤として JIS R6001に規定された平均粒径 3 μ mの二硫ィ匕モリブデンを 大気中で加速して噴射することにより、ころ 303の転動面 303aを含む表面に固体潤 滑被膜を形成した。
また、表 7中に示す被膜形成方法「焼成」とは、上述した日本国特許公報 第 3567 942号に記載のものと同様の方法である。すなわち、結合剤としてポリアミドイミドを混
入させたアルコール系溶剤中に、固体潤滑剤として二硫ィ匕モリブデンを添加して調 整したサスペンジョン液を噴射した後、熱処理により焼成させることにより、ころ 303の 転動面 303aを含む表面に固体潤滑被膜を形成した処理である。
[0133] さらに、固体潤滑被膜が形成された後のころ 303において、第一の実施形態と同様 に硬さを測定したところ、 5〜20%の硬さの向上が認められた。
続いて、このようにして得られた内輪 301、外輪 302及びころ 303と、 SPCC製の保 持器 304とを用いて、円錐ころ軸受 310を組み立てて、以下に示す条件で回転試験 を行った。
この回転試験は、図 11に示す縦型内輪回転式試験機を用いて行った。この試験 機は、図 11に示すように、主軸 321と、この主軸 321の軸方向一端部 321aに設けら れた支持軸受 322と、本体部 323と、この本体部 323の軸方向上端面に設けられた 静圧軸受 324と、からなり、試験軸受である円錐ころ軸受 310の内輪 301を主軸 321 に内嵌させ、外輪 302を本体部 323に内嵌させた状態で使用されるように構成され ている。
[0134] また、静圧軸受 324の上方からはアキシャル荷重 Faを付与できるように構成されて いる。さらに、本体部 323の側面には、棒材 325を介してロードセル 326が接続され ており、本体部 323に加わる動摩擦トルクを検出できるように構成されている。さらに 、本体部 323の側面には、試験軸受である円錐ころ軸受 310の転がり面に潤滑油 Jを 供給するための通路 327と、転がり面の温度を検出するための熱電対 328とが設け られている。
[0135] また、この回転試験は、通常量(300mlZmin)よりも少な 、量の潤滑油 Jを供給し つつ、以下に示す条件で内輪 301を回転させることで行い、内輪 301を一定時間(2 4時間)回転させた後の軸受トルクを測定した。この結果は、比較例である No. 22の ころ 303を用いた円錐ころ軸受 310の軸受トルクを 1とした時の比として、表 7に併せ て示した。
〔回転試験条件〕
荷重: 9. 8kN
回転速度: 1500min— 1
潤滑油:タービン油(ISO VG32)
軸受油量: 200mlZmin
潤滑油温度: 30± 3°C
[0136] [表 7]
[0137] 表 7に示すように、面積率で 75%以上の表面にショットピーユング処理により固体 潤滑被膜が形成された No. l〜No. 21のころ 3を用いた円錐ころ軸受 310では、表 面に焼成により固体潤滑被膜が形成された No. 22のころ 303や、表面に固体潤滑 被膜が形成されていない No. 23のころ 303や、固体潤滑被膜が上記範囲外の面積 率で形成された No. 24〜27のころ 303を用いた場合と比べて、軸受トルクが小さぐ No. 22の 0. 59倍以下であった。
特に、 No. l〜No. 5と No. 6との結果、及び No. 7〜No. 12と No. 13との結果 から、固体潤滑被膜の面積率を 75%以上とすることにより、軸受トルクがさらに小さく なっていることが分かる。
No. l〜No. 5と No. 14, No. 15との結果、及び No. 7〜No. 12と No. 16, No . 17との結果から、固体潤滑被膜の厚さを 0. l /z m以上 8. O /z m以下とすることによ り、軸受トルクがさらに小さくなつていることが分かる。
[0138] さらに、 No. 7〜No. 12と No. 18, No. 19との結果力ら、固体潤滑被膜を形成す る表面のディンプルの深さを 0. 10 m以上 5. 0 m以下に調整することにより、軸 受トルクがさらに小さくなつていることが分かる。
さらに、 No. l〜No. 5と No. 20との結果、及び No. 7〜No. 12と No. 21との結 果から、表面の中心線平均粗さ (Ra)を 0. 10 111以上0. 50 m以下とすることによ り、軸受トルクがさらに小さくなつていることが分かる。
[0139] 続 ヽて、表 7で示す結果のうち、 No. l〜No. 13と、 No. 24〜No. 27の結果を用 いて、固体潤滑被膜の面積率と軸受トルクとの関係を示す図 12のグラフを作成した。 図 12に示すように、転動面 303aを含む部分に面積率で 75%以上の固体潤滑被 膜を形成したころ 303を用いた円錐ころ軸受 310では、面積率で 75%未満の固体潤 滑被膜を形成したころ 303を用いた場合と比べて、軸受トルクが小さくなつていること が分かる。
[0140] また、ディンプルの深さを調節するための前処理を行った後に固体潤滑被膜を形 成したころ 303を用いた円錐ころ軸受 310では、前処理を行わずに固体潤滑被膜を 形成したころ 303を用いた場合と比べて、軸受トルクが小さくなつていることが分かる 以上の結果から、転動面 303aを含む部分に面積率で 75%以上の固体潤滑被膜 が形成されたころ 303を用いることにより、潤滑状態が良好ではない環境下で使用し た場合であっても、円錐ころ軸受 310の軸受トルクを小さくできることが分力つた。
[0141] また、ころ 303の表面に形成する固体潤滑被膜の厚さや、表面のディンプルの深さ 及び中心線平均粗さについても特定することにより、潤滑状態が良好ではない環境 下で使用した場合であっても、円錐ころ軸受 310の軸受トルクをさらに小さくできるこ
とが分力つた。
なお、本実施形態では、本発明を、円錐ころ軸受 310のころ 303のみに適用した場 合について説明した力 これに限らず、本発明を、内輪 301のみや、外輪 302のみ に適用しても構わないし、内輪 301、外輪 302、及びころ 303のうち二つ以上に適用 しても構わない。
[0142] また、本実施形態では、本発明のころ軸受の一例として単列円錐ころ軸受をあげて 説明したが、これに限らず、本発明は、潤滑状態が良好ではない環境下で使用され るその他のころ軸受にも好適に用いることができる。例えば、本発明は、図 13に示す ように、背面組合せ型円錐ころ軸受ゃ正面組合せ型円錐ころ軸受に適用してもよい 。また、本発明は、図 14に示すように、各種円筒ころ軸受に適用してもよいし、公知 の自動調心ころ軸受に適用してもよ!、。
[0143] 〔第六の実施形態〕
本発明は、円錐ころ軸受、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受等のころ軸受、特に、 内輪及び外輪のうち少なくとも一つの軌道輪にころを支持する鍔部が形成されたころ 軸受に適用することができる。第五の実施形態との差異は、鍔部ところの端面のみ、 鍔部のみ、又はころの端面のみに、固体潤滑被膜を設けた点である。
鍔部を有する軸受においては、軌道面ところとの間の潤滑油膜が十分に形成され ていても、鍔部ところとの摺接面に潤滑油膜が十分に形成されないと、ころにスキュ 一が生じて、鍔部ところとの摺接面が外周側にずれやすい。そして、このずれが大き くなると、鍔部ところとの摺接面が小さくなり、摺接面全体の接触圧が増大して潤滑油 膜の膜厚が薄くなるとともに、エッジ応力が作用して潤滑油膜が破断し易くなる。この 結果、鍔部ところとの摺接面に金属接触が生じ易くなり、かじりや焼付き等の表面損 傷が生じ易くなることがある。
[0144] 以下、第六の実施形態について説明する。第五の実施形態と同様の処理を、ころ を整列状態にして行い、ころの端面のみに二硫ィ匕モリブデン被膜を形成した。その 後、第五の実施形態と同様に、以下の条件で試験を行った。
〔焼付き試験条件〕
荷重: 9. 8kN
回転速度: 300min
潤滑油:タービン油(ISO VG32)
軸受油量: 200mlZmin
潤滑油温度: 30± 3°C
[表 8]
表 8に示すように、大径側端面に面積率で 75%以上の表面にショットピー-ング処 理により固体潤滑被膜が形成された No. l〜No. 21のころを用いた円錐ころ軸受で は、表面にスプレー噴射により固体潤滑被膜が形成された No. 22のころや、表面に 固体潤滑被膜が形成されていない No. 23, No. 24のころや、固体潤滑被膜が上記 範囲外の面積率で形成された No. 25〜No. 28のころを用いた場合と比べて、焼付
き時間が長ぐ No. 22の 3. 7倍以上であった。
特に、 No. l〜No. 5と No. 6との結果、及び No. 7〜No. 12と No. 13との結果 から、ころの大径側端面に形成する固体潤滑被膜の面積率を 75%以上 95%以下と することにより、焼付き時間がさらに長くなつていることが分かる。
また、 No. l〜No. 5と No. 14, No. 15との結果、及び No. 7〜No. 12と No. 16 , No. 17との結果から、固体潤滑被膜の厚さを 0. l /z m以上 8. O /z m以下とするこ とにより、焼付き時間がさらに長くなつていることが分かる。
[0147] さらに、 No. 7〜No. 12と No. 18, No. 19との結果力ら、固体潤滑被膜を形成す る表面のディンプルの深さを 0. 10 m以上 5. 0 m以下に調整することにより、焼 付き時間がさらに長くなつていることが分力る。
さらに、 No. l〜No. 5と No. 20との結果、及び No. 7〜No. 12と No. 21との結 果から、ころの大径側端面をなす表面の中心線平均粗さ (Ra)を 0. 10 /z m以上 0. 5 0 m以下とすることにより、焼付き時間がさらに長くなつていることが分かる。
[0148] 続 ヽて、表 8で示す結果のうち、 No. l〜No. 13と、 No. 25〜No. 28の結果を用 いて、ころの大径側端面に形成された固体潤滑被膜の面積率と焼付き時間との関係 を示す図 13のグラフを作成した。
図 13に示すように、大径側端面に面積率 75%以上の固体潤滑被膜を形成したこ ろを用いた円錐ころ軸受では、面積率 75%未満の固体潤滑被膜を形成したころを 用いた場合と比べて、焼付き時間がさらに長くなつていることが分かる。
[0149] また、ディンプルの深さを調節するための前処理を行った後に固体潤滑被膜を形 成したころを用いた円錐ころ軸受では、前処理を行わずに固体潤滑被膜を形成した ころを用いた場合と比べて、焼付き時間がさらに長くなつていることが分力る。
以上の結果から、大径側端面に面積率で 75%以上の固体潤滑被膜が形成された ころを用いることにより、鍔部ところとの摺接面に潤滑油膜が十分に形成され難い環 境下で使用された場合であっても、その摺接面に焼付きが生じ難ぐ円錐ころ軸受の 転がり疲れ寿命を長くできることが分力つた。
[0150] また、ころの大径側端面をなす表面に形成する固体潤滑被膜の厚さや、その表面 のディンプルの深さ及び中心線平均粗さについても特定することにより、鍔部ところと
の摺接面に潤滑油膜が十分に形成され難い環境下で使用された場合でも、円錐こ ろ軸受の転がり疲れ寿命をさらに長くできることが分力つた。
なお、本実施形態では、固体潤滑被膜を、円錐ころ軸受のころの大径側端面をな す表面のみに形成した場合について説明したが、これに限らず、固体潤滑被膜を、 ころの大径側端面をなす表面に加えて、ころの小径側端面をなす表面に形成しても よいし、ころと摺接する鍔部が形成された内輪の内側面に形成しても構わない。
[0151] また、本実施形態では、本発明を、ころと摺接する鍔部が内輪に形成された円錐こ ろ軸受に適用した場合について説明したが、これに限らず、本発明を、ころと摺接す る鍔部が外輪に形成された円錐ころ軸受に適用しても構わない。
さらに、本実施形態では、本発明のころ軸受の一例として単列円錐ころ軸受をあげ て説明したが、これに限らず、本発明は、鍔部ところとの摺接面に潤滑油膜が十分に 形成され難 、環境下で使用されるその他のころ軸受に適用しても構わな ヽ。例えば 、図示しないが、公知の円筒ころ軸受ゃ自動調心ころ軸受等に適用しても構わない。
[0152] 〔第七の実施形態〕
本発明は、タペットローラ軸受、特に、内燃機関の燃料噴射装置や給排気弁駆動 装置等の被駆動部品に好適に使用されるタペットローラ軸受に適用することができる
エンジン内部での摩擦低減を図り、燃料消費率を低減することを目的として、クラン クシャフトと同期したカムシャフトの回転を給気弁及び排気弁の往復運動に変換する 部分に、タペットローラ軸受を利用することが一般的に行われている。
[0153] 例えば、日本国特許公開公報 2000年第 34907号には、このようなタペットローラ 軸受の構造が開示されている。すなわち、エンジンのクランクシャフトと同期して回転 するカムシャフトに固定したカムに対向して、このカムの動きを受ける揺動部材である ロッカーアームが設けられている。このロッカーアームの端部には、一対の支持壁部 が互いに間隔を開けて設けられており、この一対の支持壁部の間には鋼製の支持軸 が掛け渡されている。この支持軸は、カムの外周面に当接するタペットローラの貫通 孔に揷通されており、タペットローラを回転自在に支持して 、る。
[0154] エンジンの運転時には、カムの外周面とタペットローラの外周面、及び、支持軸の
外周面とタペットローラの内周面が転がり接触するので、これらの部分はエンジンオイ ルによって潤滑される。このような構成のタペットローラ軸受が組み込まれたエンジン の動弁機構によれば、ロッカーアームとカムとの間に働く摩擦力が低減されるので、 エンジン運転時における燃料消費率の低減が図られる。
このようなタペットローラ軸受を構成するタペットローラの外周面と相手部材である力 ムの外周面との転がり接触部、及び、タペットローラの内周面と相手部材である支持 軸の外周面との転がり接触部には、回転時に希薄な潤滑環境下で大きな力が加わる ため、これら転がり接触部に摩耗やピーリング等の表面損傷が生じるという問題があ る。そこで、両転がり接触部の潤滑性を向上させる様々な工夫が、従来力もなされて いる。
[0155] 例えば、日本国特許公報 第 2758518号 (以降は文献 8— 2と記す)には、タペット ローラの外周面の表面損傷を低減する有効な手段として、滑り面にランダムに形成し た微小なくぼみによる油溜まり効果 (マイクロ弾性流体潤滑効果)によって、油膜保持 性を向上させる技術が開示されている。また、日本国特許公報 第 3496286号 (以 降は文献 8— 3と記す)には、タペットローラの内周面及び支持軸の外周面の表面損 傷を低減する有効な手段として、固体潤滑剤被膜を熱硬化性榭脂とともに焼成する ことによりタペットローラ及び支持軸の表面に表面処理層を形成する技術が開示され ている。
[0156] し力しながら、文献 8— 2に開示の技術は、転動表面の形状を工夫して長寿命化を 図ったものであり、表面損傷を低減することに対しては有効な手段であるが、スキュー ネス Rskの値を 1. 6以下とした油溜りを形成する表面加工を転動表面に施すだけ では寿命向上に限界があることも分力つてきた。
また、文献 8— 3に開示の技術のように、固体潤滑剤被膜を熱硬化性榭脂とともに 焼成することにより表面処理層を形成すると、焼成のための熱処理が必要となりコスト が嵩む。また、熱硬化性榭脂をバインダーとして用いているため、固体潤滑剤の占め る割合が限られてしまい固体潤滑剤本来の性能を十分に利用できず、改良の余地 が残されていた。
[0157] そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、希薄潤滑環境
下又は枯渴潤滑環境下において使用されてもスミアリング,焼付き,摩耗,ピーリング 等の不具合が生じに《長寿命なタペットローラ軸受を提供することを課題とする。 前記課題を解決するため、本発明は次のような構成カゝらなる。すなわち、本発明に 係るタペットローラ軸受は、カムの回転に対応して運動するタペットに備えられ、前記 カムに当接するローラと、前記ローラを回転自在に支持する支持軸と、を備えるタぺ ットローラ軸受において、前記ローラの前記カムとの当接面,前記ローラの前記支持 軸との接触面,及び前記支持軸の前記ローラとの接触面のうち少なくとも一つは、面 積率で 75%以上の部分に、固体潤滑剤で構成された潤滑被膜が被覆されて ヽるこ とを特徴とする。
[0158] このような構成であれば、潤滑被膜により金属間接触が抑制されるので、例えば希 薄潤滑環境下又は枯渴潤滑環境下において使用された場合でも、スミアリング,焼 付き,摩耗,ピーリング等の不具合の発生が低減され長寿命となる。潤滑被膜が被覆 されて 、る部分が面積率で 75%未満であると、タペットローラ軸受の寿命が不十分と なるおそれがある。
本発明のタペットローラ軸受においては、前記潤滑被膜の厚さが 0. 05 m以上 8 μ m以下であることが好ましい。
[0159] このような構成であれば、タペットローラ軸受がより長寿命となる。潤滑被膜の厚さが 0. 05 m未満であると、潤滑性が不十分となるおそれがある。一方、潤滑被膜の厚 さが 8 m超過であると、潤滑被膜の強度が不十分となり脱落しやすくなる。潤滑被 膜が脱落すると、異物となって音響不良及び振動を引き起こすおそれがある。
また、本発明のタペットローラ軸受においては、前記ローラの前記カムとの当接面, 前記ローラの前記支持軸との接触面,及び前記支持軸の前記ローラとの接触面のう ち少なくとも前記潤滑被膜が被覆された部分に、深さ 0. 1 μ m以上 5 μ m以下のディ ンプルを設けることが好ま U、。
[0160] このような構成であれば、ディンプル内に固体潤滑剤が充填され、潤滑被膜が被覆 された部分と潤滑被膜との密着性が向上するため、ディンプルがない場合と比較して タペットローラ軸受がより長寿命となる。また、タペットローラ軸受の駆動時にはディン プル内に固体潤滑剤がトラップされるので、潤滑被膜の効果が長く維持される。この
ような効果を得るためには、ディンプルの深さを 0. 1 m以上とすることが好ましい。 ただし、ディンプルの深さを 5 μ m超過としても、それ以上の効果は期待できないので 、ディンプルの深さは 5 m以下とすることが好ましい。なお、このような効果をより確 実なものにするためには、ディンプルの深さを 0. 2 μ m以上 3 μ m以下とすることがよ り好ましい。
[0161] さらに、本発明のタペットローラ軸受においては、前記潤滑被膜の表面は、中心線 平均粗さ Raが 0. 1 μ m以上 1 μ m以下であることが好ましい。
このような構成であれば、長寿命であるとともに、タペットローラ軸受の音響特性が 良好である。中心線平均粗さ Raが 1 m超過であると、潤滑条件が厳しくなり、表面 起点型の剥離が発生する場合がある。なお、中心線平均粗さ Raを上記のような値と しても、潤滑被膜の形成能力が著しく低下することはない。
[0162] このような本発明のタペットローラ軸受は長寿命である。
第七の実施形態に係るタペットローラ軸受について、図面を参照しながら詳細に説 明する。図 14は、タペットローラ軸受を軸方向に沿う面で破断した場合の断面図であ り、図 15は、図 14のタペットローラ軸受の A— A断面図である。なお、以降に示す各 図においては、同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
図 14, 15のタペットローラ軸受は、エンジン内部での摩擦低減を図り燃料消費率を 低減することを目的として、クランクシャフトと同期したカムシャフトの回転を給気弁及 び排気弁の往復運動に変換する部分に利用されるものである。
[0163] 図示しないエンジンのクランクシャフトと同期して回転するカムシャフト 501に固定さ れたカム 502に対向して、このカム 502の回転に対応して揺動するロッカーアーム 50 3 (タペット)が配置されている。ロッカーアーム 503の端部には一対の支持壁部 504 , 504が互いに間隔を開けて設けられており、この一対の支持壁部 504, 504の間に は、鋼製で中空又は中実の支持軸 505が掛け渡されている。支持軸 505の両端部 には焼入れは施されておらず、支持軸 505を支持壁部 504, 504に固定する際には 、この非焼入れ部を支持壁部 504, 504に形成した通孔 507, 507に嵌入して加締 め付けている。
[0164] この支持軸 505はタペットローラ 506の中心部に設けられた貫通孔に揷通され、タ
ペットローラ 506を回転自在に支持している。そして、タペットローラ 506の外周面が 、カム 502の外周面に当接されている。
そして、タペットローラ 506のカム 502との当接面 506a (タペットローラ 506の外周 面),タペットローラ 506の支持軸 505との接虫面 506b (タペットローラ 506の内周面 ) ,及び支持軸 505のタペットローラ 506との接触面 505a (支持軸 505の外周面)のう ち少なくとも一つは、面積率で 75%以上の部分に、固体潤滑剤で構成された潤滑被 膜 (図示せず)が被覆されている。
[0165] この潤滑被膜の厚さは、 0. 05 μ m以上 8 μ m以下であることが好ましい。また、タ ペットローラ 506のカム 502との当接面 506a,タペットローラ 506の支持軸 505との 接触面 506b,及び支持軸 505のタペットローラ 506との接触面 505aのうち少なくとも 潤滑被膜が被覆された部分には、深さ 0. 1 μ m以上 5 μ m以下のディンプルを設け ることが好ましい。さらに、タペットローラ 506のカム 502との当接面 506a,タペット口 ーラ 506の支持軸 505との接虫面 506b,及び支持軸 505のタペットローラ 506との 接触面 505aのうち少なくとも潤滑被膜が被覆された部分は、中心線平均粗さ Raが 0 . 1 μ m以上 1 μ m以下であることが好ましい。
[0166] このようなタペットローラ軸受は、潤滑被膜により金属間接触が抑制されるので、希 薄潤滑環境下又は枯渴潤滑環境下において使用されてもスミアリング,焼付き,摩 耗,ピーリング等の不具合が生じに《長寿命である。
なお、タペットローラ 506の設置部分には、エンジンの運転時にエンジンオイルが 供給される。そして、このエンジンオイルによって、カム 502の外周面とタペットローラ 506の外周面との間、及び、支持軸 505の外周面とタペットローラ 506の内周面との 間が潤滑される。
[0167] この際に、支持軸 505の外周面とタペットローラ 506の内周面との間に効率良くェ ンジンオイルが供給されるようにするため、図 16に示すように、支持軸 505の内部に 通油孔 508を設けてもよい。この図 16に示したタペットローラ軸受の場合は、通油孔 508の両端部は、支持軸 505の外周面のうち、タペットローラ 506の外部に突出した 端部と、タペットローラ 506の内側に配置した中間部とに、それぞれ開口している。そ して、この通油孔 508を通じて、外部空間力 支持軸 505の外周面とタペットローラ 5
06の内周面との間に、エンジンオイルが効率良く供給されるようになって!/、る。
[0168] また、タペットローラの回転抵抗を小さくするため、図 17に示すように、タペットロー ラを二重構造としてもよい。この図 17の場合は、支持軸 505の周囲に内径側ローラ 5 09を回転自在〖こ支持し、さらにこの内径側ローラ 509の周囲に外径側ローラ 510を、 この内径側ローラ 509に対して回転自在に支持している。このように、タペットローラ を二重構造として、滑り面を 2個所にすることにより、カム 502と当接する外径側ローラ 510の回転が、円滑に行なわれるようになつている。この場合も、支持軸 505と内径 側ローラ 509の互いに対向する周面同士の間、及び、内径側ローラ 509と外径側各 ローラ 510の互いに対向する周面同士の間には、エンジンの運転時にはエンジンォ ィルを供給し、これら各部分を潤滑する。
[0169] さらに、やはりタペットローラの回転抵抗を小さくするため、図 18に示すように、支持 軸 505とタペットローラ 506との間にラジアル-一ドル軸受 511を介在させ、このラジ アル-一ドル軸受 511を介してタペットローラ 506を回転自在に支持してもよ 、。この 図 18の場合も、ラジアル-一ドル軸受 511にはエンジンの運転時にエンジンオイル を供給し、このラジアル-一ドル軸受 511を構成する複数の-一ドル 512の転動面と 、支持軸 505の外周面及びタペットローラ 506の内周面との転がり接触部の潤滑を 行なう。
[0170] さらに、タペットローラ軸受を図 19, 20に示すような構造としてもよい。すなわち、図 19に示す例の場合には、ラジアル-一ドル軸受 511を構成する複数の-一ドル 512 の軸方向両端側に円輪状の滑りヮッシャ 513a, 513aを設け、図 20に示す例の場合 には、複数の-一ドル 512及びタペットローラ 506の軸方向両端側に円輪状の滑りヮ ッシャ 513b, 513bを、それぞれ設けている。そして、これら滑りヮッシャ 513a, 513b により、ニードノレ 512及びタペットローラ 506の両佃 J面と、 1対の支持壁咅 504, 504 ( 図 14, 17を参照)の内側面とが互いに直接接触しないようにして、これら各接触部の 摺動抵抗を低減できるようになって!/ヽる。
[0171] 〔実施例〕
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。前述した図 14のタぺッ トローラ軸受とほぼ同様の構成を有する種々のタペットローラ軸受を用意して回転試
験を行い、寿命等の性能を評価した。
ここで、タペットローラ及び支持軸の製造方法について詳細に説明する。まず、タぺ ットローラ及び支持軸は高炭素クロム軸受鋼 SUJ2を素材とし、 RXガスとエンリッチガ スとアンモニアガスとを含む雰囲気中で 820〜890°Cにて 2〜4時間浸炭窒化処理を 施した後、さらに 60〜100°Cでの油焼入れ、 150〜190°Cで 2時間の焼戻し、及び 研削仕上げを施したものである。
[0172] 研削仕上げ後の表面硬さは HRC62〜67、少なくとも厚さ 1 mの表面層の残留ォ ーステナイト量は 15〜40体積%、前記表面層の炭素含有量は 1. 0〜2. 0質量%、 前記表面層の窒素含有量は 0. 05-0. 5質量%に調整されている。表面層の表面 硬さは、表面損傷を抑制して寿命を向上させるためには、カムよりも硬くすることが好 ましぐより長寿命とするためには本実施形態のように浸炭窒化処理を施して HRC6 2以上とすることがより好まし 、。
[0173] また、前記表面層の残留オーステナイト量は、表面損傷を抑制するため 15体積% 以上とすることが好ましぐ表面硬さを保持するため 40体積%以下とすることが好まし い。さらに、表面層の炭素含有量は、摩耗を抑制するため 1. 0質量%以上とすること が好ましぐ巨大炭化物の発生を抑制するため 2. 0質量%以下とすることが好ましい 。さらに、表面層の窒素含有量は、摩耗を抑制するため 0. 05質量%以上とすること が好ましぐ浸炭窒化層の脱落を抑制するため及び浸炭窒化時間の短縮のため 0. 5質量%以下とすることが好ましい。さらに、研削仕上げ後の表面粗さは、研削仕上 げ後にショットピーユング処理やバレル処理で微細なディンプルを設ける場合には、 ディンプル形状や深さを適切にするために 1 μ mRa以下とすることが好ましい。
[0174] こうして得られたタペットローラ及び支持軸に、第一の実施形態と同様の処理を施し た。処理を施す面は、タペットローラの外周面及び内周面と支持軸の外周面とである 1S 以降の説明においてはこれらの面を処理面と記すこともある。固体潤滑剤として は、平均粒径 45 μ mの錫粉又は平均粒径 3 μ mの二硫ィ匕モリブデン粉末を用いた。 なお、本実施例にぉ 、ては固体潤滑剤として錫や二硫ィ匕モリブデンを用いたが、 固体潤滑剤の種類は特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン,フッ素榭 脂,ナイロン,ポリアセタール,ポリオレフイン,ポリエステル,ポリテトラフルォロェチレ
ン,金属石鹼,二硫化タングステン,窒化ホウ素,黒鉛,フッ化カルシウム,フッ化バリ ゥム,錫合金が使用可能である。ただし、不純物による潤滑被膜の潤滑性の低下や 潤滑被膜の剥離を抑制するためには、高純度の固体潤滑剤を用いることが好ましい ので、純度 95%以上のものが好ましぐ純度 98%以上のものがより好ましい。
[0175] また、第一の実施形態と同様にして、潤滑被膜を被覆した後に微小硬度計を用い て表面硬さを測定したところ、 5〜25%の硬さの向上が認められた。
次に、タペットローラ軸受の性能の評価方法について説明する。タペットローラの力 ムとの当接面 (タペットローラの外周面)には潤滑被膜が被覆してあり、タペットローラ の支持軸との接触面(タペットローラの内周面)及び支持軸のタペットローラとの接触 面 (支持軸の外周面)には潤滑被膜が被覆していないタペットローラ軸受を、図 21に 示すような表面損傷試験機に装着して回転させ、タペットローラの外周面に形成され る表面損傷の状態とタペットローラ軸受の寿命とを評価した。
[0176] タペットローラのカムとの当接面 (タペットローラの外周面)に被覆された潤滑被膜の 被覆率,潤滑被膜の平均厚さ,ディンプルの深さ,及び前記当接面の中心線平均粗 さ Raは、表 9, 10に示す通りである。
[0177] [表 9]
前処理 潤?被膜 ディンプル 中心線平均 表面損傷発 の種類') 被覆率" 厚さ 3) の深さ ·" 粗さ R a3) 生率 (%) 実施例 1 なし 78 1. 0 0. 2 0. Z 6 1 0 実施例 2 なし 80 0. 5 0. 3 0. 25 1 0 実施例 3 なし 75 0. 1 0. 2 0. 1 5 1 0 実施例 4 なし 88 1. 5 0. 1 0. 1 0 1 0 実施例 5 なし 95 1. 0 0. 5 0. 25 1 0 実施例 6 なし 84 0. 5 1. 0 0. 25 1 0 実施例 7 ショット 9 5 3. 0 5. 0 0. 75 0 実施例 8 バレル 75 8. 0 0. 5 0. 40 0 実施例 9 ショ ッ卜 8 5 1. 0 4. 0 1. 00 0 実施例 1 0 バレル 90 1. 0 1. 0 0. 50 0 実施例 1 1 ショッ卜 82 0. 5 1. 0 0. 60 0 実施例 1 2 ショ ッ卜 90 2. 5 3. 0 0. 35 0 実施例 1 3 なし 95 0. 05 0. 5 0. 25 20 実施例 1 4 なし 90 1 0 0. 5 0. 1 5 20
1 ) ショット : ショットビ一ニンク処理、 ノ \'レル:バレル処理
2 ) 数値の単位は面積%である。
3)数値の単位は μηηである。
前処理 潤 ί皮膜 ディンプル 中心線平均 表面損傷発 の種類,' 被覆率 " 厚さ3 > の深さ" 粗さ Ra" 生率 (%) 実施例 1 5 ショッ ト 86 0. 05 3. 0 0. 30 20
実施例 1 6 バレル 8 2 1 0 2. 0 0. 20 20 実施例 1 7 なし 84 ^ . 0 0. 05 0. 20 20
実施例 1 8 なし 94 0. 5 7. 0 0. 20 20 実施例 1 9 ショッ卜 78 5 - 0 0. 05 0. 40 20
実施例 20 バレル 76 2. 0 7 - 0 0. 35 20
比較例 1 バレル 0 1. 5 0. 23 60 比較例 2 なし 0 - - 0. 05 1 00 比較例 3 ショッ卜 0 0 5 0. 80 80 比較例 4 なし 7 Ί 0. 2 0. 1 0. 20 60 比較例 5 なし 6 5 0. 1 0. 3 0. 20 60 比較例 6 ショ 'ン卜 64 0. 5 1. 0 0. 25 50 比較例 7 ショッ ト 69 2. 0 2. 0 0. 35 50
Ί ) ショッ ト : ショットビ一ニング処理、 バレル:バレル処理
2)数値の単位は面積%である。
3)数値の単位は である。 図示しない電動モータにより回転駆動される回転軸 520の中間部には、カムに相 当するリング 521が取り付けられている。そして、支持軸 505により回転自在に支持さ れたタペットローラ 506の外周面力 負荷用レバー 522からのラジアル荷重によって 、リング 521の外周面に押圧されている。タペットローラ 506の外周面とリング 521の 外周面との間に潤滑油を滴下し、タペットローラ 506の内周面と支持軸 505の外周面 との間には潤滑油を滴下せずに、下記の条件にて回転試験を行った。
タペットローラの回転速度: 2000min— 1
ラジアル荷重 :1960N
潤滑油 :エンジンオイル
潤滑油の温度 :110°C
潤滑油の滴下量 :0. lmlZmin
このような回転試験を 20時間行った後、タペットローラ 506の外周面の表面損傷を 金属顕微鏡により観察した。 10個のタペットローラについて試験を行って、表面損傷 が認められたタペットローラの割合を表面損傷発生率として算出した。例えば、全て のタペットローラについて表面損傷が認められな力 た場合は、表面損傷発生率は 0 %である。その結果を表 9, 10に示す。なお、回転試験前後のタペットローラの外周 面の光学顕微鏡写真を図 22に示す。回転試験前には見られな力つた表面の微小剥 離 (ピーリング)が、回転試験後には見られる。
[0180] 実施例 1〜20は、潤滑被膜の被覆が面積率で 75%以上であるので、従来技術 (前 述の文献 8— 2に記載の技術)である比較例 1と比べて格段に長寿命であり、表面損 傷発生率は 20%以下であった。この比較例 1は、潤滑被膜を有しておらず、表面粗 さのパラメータのスキューネス Rskの値を 1. 6以下としたものである。なお、比較例 1〜3は潤滑被膜を有しておらず、比較例 1は前処理としてバレル処理が施されてお り、比較例 2は前処理として研磨が施されており、比較例 3は前処理として二段ショット ピー-ング処理が施されて 、る。
[0181] 実施例 1〜6は、前処理が施されておらず微細なディンプルが形成されて!ヽな 、も のであり、実施例 7〜12は前処理が施されており微細なディンプルが形成されている ものである。図 23のグラフ力も分力るように、前処理を施して微細なディンプルを形成 することが好ましい。
比較例 4〜7は、潤滑被膜の厚さが好ましい範囲内であり、潤滑被膜の被覆の面積 率が好ましい範囲力も外れたものであるが、実施例 1〜20と比べて表面損傷発生率 が高力つた。このことから、潤滑被膜の厚さの規定だけでは不十分であり、潤滑被膜 の被覆の面積率を規定することが重要であることが分かる。
[0182] 次に、タペットローラの支持軸との接触面 (タペットローラの内周面)又は支持軸のタ ペットローラとの接触面 (支持軸の外周面)には潤滑被膜が被覆してあり、タペット口 ーラのカムとの当接面 (タペットローラの外周面)には潤滑被膜が被覆していないタぺ
ットローラ軸受を、図 21に示すような表面損傷試験機に装着して回転させ、その寿命 を評価した。
潤滑被膜が被覆された部材 (タペットローラ又は支持軸),タペットローラの支持軸と の接触面 (タペットローラの内周面)又は支持軸のタペットローラとの接触面 (支持軸 の外周面)に被覆された潤滑被膜の被覆の面積率,潤滑被膜の平均厚さ,ディンプ ルの深さ,及び前記接触面の中心線平均粗さ Raは、表 11, 12に示す通りである。
[表 11]
1 ) ショット : ショットピーニング処理、 ノ\ 'レル:バレル処理
2 ) 数値の単位は面積%である。
3 ) 数値の単位は/ i mである。
[0184] [表 12]
1 ) ショット : ショットピ一ニング処理、 バレル:バレル処理
2 ) 数値の単位は面積%である。
3 ) 数値の単位は / mである。
[0185] 回転試験の際には、タペットローラ 506の外周面とリング 521の外周面との間に潤 滑油を滴下し、タペットローラ 506の内周面と支持軸 505の外周面との間には潤滑油 を滴下せずに、下記の条件にて回転試験を行った。そして、タペットローラ 506の内 周面に表面損傷が発生してタペットローラ 506の温度が異常に上昇するまでの時間 、著しい振動が発生するまでの時間、又はシャフト 520を駆動するための電動モータ の電流値が過電流値になるまでの時間を寿命とした。
タペットローラの回転速度: 2000min— 1
ラジアル荷重 : 1470N
潤滑油 :エンジンオイル
潤滑油の温度 :110°C
潤滑油の滴下量 :0. 4ml/min
評価結果を表 11, 12に併せて示す。また、潤滑被膜の被覆率とタペットローラ軸受 の寿命との相関を、図 24のグラフに示す。なお、表 11, 12及び図 24のグラフに示し た寿命の数値は、比較例 31のタペットローラ軸受の寿命を 1とした場合の相対値で 示してある。この比較例 31のタペットローラ軸受は、表面に固体潤滑剤を熱硬化性 榭脂とともに焼成することにより潤滑被膜を形成する従来技術 (前述の文献 8— 3に 記載の技術)によって得られたものである。また、比較例 32, 33は潤滑被膜を有して おらず、比較例 32は前処理として SF処理が施されており、比較例 33は前処理として 二段ショットピーユング処理が施されて 、る。
[0186] 表 11, 12から分力るように、実施例 31〜50は、潤滑被膜の被覆が面積率で 75% 以上、又は、 75%以上であるので、従来技術である比較例 31と比べて格段に長寿 命(5. 3以上)であった。
実施例 31〜36は、前処理が施されておらず微細なディンプルが形成されて!ヽな ヽ ものであり、実施例 37〜42は前処理が施されており微細なディンプルが形成されて いるものである。図 24のグラフから分力ゝるように、前処理を施して微細なディンプルを 形成することが好ましい。
[0187] 比較例 34〜37は、潤滑被膜の厚さが好ま 、範囲内であり、潤滑被膜の被覆の 面積率が好ましい範囲力も外れたものである力 実施例 31〜50と比べて短寿命であ つた。このことから、潤滑被膜の厚さの規定だけでは不十分であり、潤滑被膜の面積 率を規定することが重要であることが分かる。
〔第八の実施形態〕
本発明は、リニアガイド装置,ボールねじ等の直動装置に適用することができる。す なわち、本発明は、外面に軌道面を有する軸と、前記軸の軌道面に対向する軌道面 を有するとともに軸方向に相対移動可能に前記軸に取り付けられた直動体と、前記 軸の軌道面と前記直動体の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、
を備える直動装置において、前記軸の軌道面、前記直動体の軌道面、及び前記転 動体の転動面のうち少なくとも一つは、面積率が 75%以上の固体潤滑剤で構成され た潤滑被膜が被覆されて 、る直動装置である。
[0188] 前記潤滑被膜の素材としては、直動装置の構成部材の表面被膜として用いられた 場合に必要な強度を有し、且つ、潤滑被膜が形成される構成部材と密着性がよいも のであれば特に限定されない。例えば、二硫ィ匕モリブデン、二硫化タングステン、窒 化ホウ素、金属石けん、フッ素榭脂、ナイロン、ポリアセタール、ポリオレフイン、ポリエ ステル、ポリエチレン、 PTFE (ポリテトラフルォロエチレン)、黒鉛、フッ化カルシウム、 フッ化バリウム、フッ化カーバイド、スズ、スズ合金、ニッケル、銅合金、純鉄、純銅、 純クロムが挙げられる。
[0189] このような直動装置には、前記両軌道面間に形成された転動体転動路の終点から 始点へ前記転動体を循環させる転動体戻し路を設けてもよい。また、転動体にそれ ぞれ対面する 2つの凹面を有するリテ一二ングピースを、隣接する転動体の間に配し てもよい。さらに、前記転動体の転動面の表面硬さは HRC63以上であることが好ま しい。
以下に、本発明の直動装置について、ボールねじを例に詳細に説明する。 従来のボールねじの一例を図 26 (斜視図)および図 27 (断面図)に示す。このボー ルねじは、ボールの戻し路としてチューブを用いるチューブ式ボールねじであり、ね じ軸 601とナット 602とボール 603とチューブ 604とで構成されている。
[0190] 図 26の符号 606はチューブ 604をナット 602に固定するチューブ押えであり、図 2 7ではこのチューブ押え 606が省略されている。ねじ軸 601の外周面とナット 602の 内周面には、螺旋状の溝 611, 621が形成されており、これらの溝 611, 621でボー ル 603の軌道 Kが形成されている。そして、ボール 603がこの軌道 Kを負荷状態で転 動することにより、ナット 602はねじ軸 601に対して相対的に直線移動する。
[0191] チューブ 604は略門形に形成され、その両端部が、ナット 602をなす円筒に設けた 貫通穴 622内に挿入され、軌道 Kの始点と終点を連結するように、ねじ軸 601を挟ん で斜向かいに配置されている。したがって、軌道 Kの終点に達したボール 603はこの チューブ 604を通って軌道 Kの始点に戻される。この例では、ボール循環経路(軌道
+戻し路)を 2つ有するため、チューブ 604を 2本備えて 、る。
電動射出成形機やプレス機械用のボールねじは、比較的大型で高荷重を受ける。 具体的には、瞬間的に高負荷が加わり、短いストロークで使用され、最大負荷が作用 した状態で一旦停止した後に逆回転する往復運動を繰り返す。このような厳しい条件 下で使用されるため、前記用途のボールねじとしては、従来より、シングルナットで、 組み立てすきまを極僅か (ボール直径に対する比で 1Z400程度)にしたものが使用 されている。ボールねじの負荷容量を上げて寿命を長くする方法としては、ボール 60 3の直径 (D)に対する(ねじ軸 601およびナット 602の)溝 611, 621の断面円弧の半 径 (R)の比 (RZD)を、従来の 52. 0〜54. 0%よりも小さくする方法が挙げられる。
[0192] し力しながら、この方法では、従来のボールねじよりもボールと軌道をなす溝との接 触楕円の長軸が長くなつて、滑り成分が大きくなる。これに伴って、接触楕円内にお ける接線力が大きくなるため、表面起点剥離が発生したり、白色組織による内部起点 剥離が発生したりする可能性が否定できない。また、ボールねじは玉軸受等の一般 的な転がり軸受と比較して、ボールの転がり速度が遅いため、油膜が形成され難い。 よって、ボールねじで前記比 (RZD)を 52. 0〜54. 0%よりも小さくする場合には、 早期損傷に至らな 、ような対策を講じる必要がある。
[0193] ボールねじの潤滑特性を向上させる対策の従来例としては、以下に示すものが挙 げられる。 日本国特許公開公報 2001年第 49274号には、電動射出成形機の駆 動系に用いるボールねじの早期剥離を防止するために、特定のグリースを用いること が記載されている。
日本国特許公開公報 平成 6年第 109022号 (以降は文献 9— 2と記す)には、転 動体を使用した機械部品の転がり摩擦面および滑り摩擦面の少なくとも一部の摩擦 面に、金、銀、鉛、亜鉛、錫、インジウム等の軟質金属やポリ四フッ化工チレン (PTF E)やペルフルォロアルコキシフッ素榭脂(PTA)等力 なる微粒子を、ノズルから空 気とともに吹き付けて固体潤滑被膜を形成することが開示されている。
[0194] 日本国特許公開公報 2004年第 60742号 (以降は文献 9— 3と記す)には、ボー ルねじのねじ軸の溝、ナットの溝、およびボールの少なくともいずれかの摺接部分( 表面)に、二硫ィ匕モリブデンの微粒子を噴射して衝突固着させ、厚み寸法が 0. 5 μ
m以下の潤滑剤被膜を形成することが開示されている。この文献 9— 3には、文献 9 2の方法で形成された被膜の厚さが 1〜5 μ mであるのに対して、 0. 5 μ m以下と することで、被膜の前記摺接部分に対する固着性が向上して被膜が剥離し難くする とともに、剥離した場合でも寸法変化を小さく抑えることができると記載されている。
[0195] 本発明の課題は、負荷容量が大きいボールねじの寿命を長くすることにある。
上記課題を解決するために、本発明は、外周面に螺旋状の溝が形成されたねじ軸 と、内周面に螺旋状の溝が形成されたナットと、ねじ軸の溝とナットの溝が互いに対 向して形成される軌道と、この軌道の終点と始点を連結する戻し路と、この戻し路内 および前記軌道内に配置された複数のボールと、を備えたボールねじにおいて、ね じ軸およびナットの少なくとも 、ずれかは、前記溝の断面がゴシックアーク状(半径が 同じで中心が異なる二つの円弧が連結された形状)であり、ボールの直径 (D)に対 する前記溝の断面のゴシックアークを形成している円弧の半径 (R)の比 (RZD)が 5 1. 0%以上 52. 0%以下であり、前記ねじ軸の溝、ナットの溝、およびボールの少な くとも一つは、表面に固体潤滑剤被膜が形成されていることを特徴とするボールねじ を提供する。
[0196] このボールねじによれば、ねじ軸およびナットの少なくともいずれかについて、前記 溝の断面をゴシックアーク状とし、前記比 (RZD)を 51. 0%以上 52. 0%以下とする ことで、負荷容量を大きくできる。また、これに伴って、ボールと軌道をなす溝との接 触楕円の長軸が長くなつて、滑り成分が大きくなるが、ねじ軸の溝、ナットの溝、およ びボールの少なくとも一つの表面に固体潤滑剤被膜が形成されて 、るため、良好な 潤滑特性が確保されて、早期損傷が防止される。また、第一〜第七の実施形態と同 様に、ねじ軸の溝、ナットの溝、ボール、固体潤滑剤被膜の表面にディンプルを設け てもよい。
[0197] 電動射出成形機やプレス機械用のボールねじは前記ボールと軌道の隙間が 5 μ m 以上 70 μ m以下であるため、前記固体潤滑剤被膜の厚さを 0. 05 μ m以上 8 μ m以 下 (好ましくは 0. 5 m以上 3. 0 m以下)とすることで、良好な潤滑特性が得られる 。前記固体潤滑剤被膜としては、二硫化モリブデン (MoS )または錫 (Sn)カゝらなる
2
被膜が例示できる。本発明のボールねじは、前記ボール間に保持ピースが配置され
ていることが好ましい。
[0198] このような本発明によれば、負荷容量が大きく寿命の長いボールねじが提供される 以下、第八の実施形態について説明する。図 25は、この実施形態のボールねじの ねじ軸およびナットの溝断面を示す図である。ねじ軸 601の溝 611の断面は、ゴシッ クアーク状、すなわち、半径が同じ (R )で中心 O , Ο が異なる二つの円弧が連結さ
1 11 12
れた形状である。ナット 602の溝 621の断面も、ゴシックアーク状、すなわち、半径が 同じ (R =R )で中心 Ο , Ο が異なる二つの円弧が連結された形状である。また、
2 1 21 22
ボール 603の直径 (D)に対する溝 611 , 621の断面円弧の半径 (R)の比(RZD)が 、 51. 0%以上 52. 0%以下である。
[0199] そして、ボール 603の表面に、二硫化モリブデン(MoS )からなる被膜が 0. 5 m
2
以上 3. 0 m以下の厚さで形成されている。また、ねじ軸 601およびナット 602の溝 611, 621で形成される軌道とボール 603との隙間は、 5 m以上 70 m以下である 。これにより、この実施形態のボールねじは、従来のボールねじよりも負荷容量が大き ぐ寿命が長くなる。
なお、この実施形態では、ボール 603に固体潤滑剤被膜を形成しているが、固体 潤滑剤被膜をボール 603に形成せずに、ねじ軸 601の溝 611およびナット 602の溝 621のいずれかまたは双方に形成してもよいし、ボール 603とねじ軸 601の溝 611お よびナット 602の溝 621のいずれかまたは双方とに形成してもよい。また、固体潤滑 剤被膜の材質は二硫ィ匕モリブデン (MoS )以外のもの(例えば、前述の文献 9 2に
2
記載されて 、るもの)であってもよ!/、。
[0200] また、この実施形態では、ボール同士が接触する総ボール構造のボールねじにつ いて説明したが、本発明のボールねじは、図 28に示すように、ボール 603間に保持 ピース 607を配置して、保持ピース 607でボール 603を保持する構造であってもよ!/ヽ 保持ピース 607は、合成樹脂を所定形状に成形して得ることができる。使用できる 合成樹脂としては、ポリアミド 6、ポリアミド 66、ポリアミド 64、芳香族ポリアミド等のポリ アミド榭脂、ポリアセタール榭脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレ
ート系エラストマ一、ポリブチレンナフタレート系エラストマ一等が挙げられる。また、こ れらの合成樹脂には、補強材として、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン繊維、力リウ ムゥイス力、硼酸アルミニウムウイスカ等を配合してもよい。
[0201] 保持ピースの形状の例として、図 29および図 30に示すものが挙げられる。図 29の 保持ピース 607は、略円柱状であって、円柱の 2つの底面にボール 603を受ける凹 面 671が形成されている。この保持ピース 607は、凹面 671の形状を、曲率半径尺が ボール 603の半径 rよりも大きい球面にしているため、保持ピース 607の周縁部の厚 さ Lに対して中央部の厚さ tが小さくなつている。これにより、多数のボール 603を軌道 K内に配設することができるとともに、ボール 603と保持ピース 607との接触面積を小 さくして、摺動抵抗を小さくすることができる。
[0202] 保持ピース 607の凹面 671の形状は、 2個の円弧が連結されたゴシックアーク状と したり、円錐形状とすることもできる。また、凹面 671に貫通穴を設け、この貫通穴内 に潤滑剤を保持させて、ボール 603との接触抵抗を低減させるようにしてもよい。保 持ピース 607が軌道 Kおよびチューブ 604内を通過する際に、これらの軌道 K、チュ ーブ 604、および接続部に干渉せず、滑らかに循環できるように、保持ピース 607の 外径寸法はボール 603の直径よりも小さく設定される。具体的には、保持ピース 607 の外径寸法を、ボール 603の直径寸法の 0. 5倍〜 0. 9倍とすることが好ましい。
[0203] 図 30の保持ピース 670は、球体の互いに反対側となる二つの側部が凹球面 672 で除去された形状であり、外周が凸面となっている。また、複数の保持ピースを連結 部材で連結した部材でボールを保持してもよい。また、本発明のボールねじは、電動 射出成形機やプレス機械用以外にも、たとえば自動車のブレーキ用、自動車の無段 変速機 (ベルト式 CVT)用などの用途に好適である。
〔実施例〕
日本精ェ株式会社製のシングルナットチューブ式ボールねじ「: BS6316— 10. 5」 を用い、ねじ軸およびナットのゴシックアーク状溝断面の円弧の半径 (R=R =R )の
1 2 ボール直径 (D)に対する比 (RZD)と、固体潤滑剤被膜の材質および膜厚を、下記 の表 13に示すように変化させて、寿命試験を行った。
[0204] MoS (二硫ィ匕モリブデン)被膜および Sn (錫)被膜は、ショットピーユングにより、所
定厚さの被膜が得られるように処理時間を調整して形成した。これらの被膜の厚さは
、被膜形成前後のボール直径を電気式ダイヤルゲージで測定し、両者の差を 2で割 ることにより算出した。
「BS6316— 10. 5」の諸元は、有効巻き数: 3. 5巻き X 3列、ねじ軸外径: 65mm、 リード: 16mm、ボール直径: 12. 7mm、 BCD : 65mm,単体すきま: 20〜30 mで ある。
[0205] 各ボールねじを日本精工株式会社製のボールねじ耐久寿命試験機に装着して、 試験荷重(軸方向荷重): 300kN、ストローク: 80mm、回転速度: 500min— 温度: ナットの外周部を温度 80°Cに保持、潤滑剤:リューべ株式会社製「YS 2グリース」を 自動給脂装置にて自動供給の条件で、ボールねじを往復運動させる耐久寿命試験 を行った。この試験は、ねじ軸またはナットの溝、あるいはボールのいずれかに剥離 が生じるまでの走行距離を寿命として測定した。次に、各サンプルで得られた寿命か ら、サンプル No. 10の寿命を「1」とした相対値を算出した。これらの結果も下記の表 13に併せて示す。
[0206] [表 13]
R/D 主 A
固体潤滑剤被膜 弄ロロ
No. (%) 材質 厚さ(jum) (相対値)
1 51.3 MoS2 0.4 1.11
2 51.7 MoS2 1.8 1.37
3 51.2 MoS2 1.3 1.62
4 51.5 MoS2 2.6 1.58
5 51.5 MoS2 3.6 1.20
6 51.4 MoS2 5.7 1.11
7 51.2 Sn 1.5 1.62
8 51.9 Sn 2.7 1.28
9 51.8 Sn 1.9 1.67
10 52.1 無し 1
11 51.6 無し 0.95
12 53.2 MoS2 2.2 1.06
13 52.5 Sn 2.8 1.02
この表から、本発明の実施例に相当する No.1〜9のボールねじは、比較例に相当 する Νο.10〜13より寿命が長くなつた。 No.1〜9のうち、固体潤滑剤被膜の膜厚が 1. 以上 2. 以下である No.2〜4, 7〜9の寿命は、 No.10の 1.28〜: L 67倍であったのに対して、膜厚力 SO.4 /zmである No.1、 3.6 mである No.5、およ び 5. である No.6の寿命 ίま、 No.10の 1. 11〜1.20倍であった。この結果力 ら分力るように、固体潤滑剤被膜の厚さは 0.5/ζπι〜3. であることが好ましい
No.12と 13では、固体潤滑剤被膜を厚さ 2.2〜2.8 mで形成している力 R/ Dが本発明の範囲力も外れるため、 No.10と同等程度の寿命となった。 No.11では 、RZDを 51.6%としているが固体潤滑剤被膜を形成していないため、 No.10より 寿命が短かった。
〔第九の実施形態〕
本発明は、転動装置に組み込まれる金属製保持器にも適用することができる。転動 装置の一例である転がり軸受は、内輪(内方部材)と、外輪 (外方部材)と、内輪及び
外輪間で転動自在に配設される転動体と、この転動体を内輪及び外輪間で転動可 能に支持する保持器と、力も構成されている。このような転がり軸受の転がり疲れ寿 命 (転がり軸受の回転運動に伴って、転がり面に受ける繰り返し剪断応力により転動 部品が疲労し、その表面の一部に剥離が生じるまでの総回転数)を長くするために、 転がり軸受が使用される環境に応じた保持器を用いることが一般的に行われている。
[0208] 例えば、高速回転、自己潤滑性、低摩擦特性、軽量、耐食性、低騒音等が要求さ れる環境下で使用される転がり軸受には、 4 6ナイロンや 6— 6ナイロン等の榭脂製 保持器が用いられ、耐熱性や耐久性が要求される環境下で使用される転がり軸受に は、肖 ijり加工により形成されるもみ抜き保持器やプレス加工により形成される打ち抜き 保持器等の金属製保持器が用いられるのが一般的である。
また、転がり軸受の転がり疲れ寿命は、その転がり面の潤滑状態と密接に関係して いることが知られている。つまり、転がり面の潤滑状態の良否は、転がり面の表面粗さ と転がり面に形成される油膜厚さとの比である油膜パラメータ Λで表わされる。この油 膜パラーメータ Λは、 Λ =1ιΖ σなる式で算出される。なお、この式中の符号 hは ΕΗ L油膜厚さを指し、 σは接触する二面の粗さ(二乗平均粗さ) σ , σ の合成表面粗さ
1 2
(σ 2+ σ 2)を指す。
1 2
[0209] ここで、油膜パラメータ Λが大きくなるにつれて、表面の微小突起間の接触による 表面起点型剥離が生じ難くなるため、潤滑状態は良くなる。一方、油膜パラメータ Λ が小さくなるにつれて、表面微小突起間の接触による表面起点型剥離が生じ易くな るため、潤滑状態が不良となる。この結果、転がり面にピーリング損傷や焼付きが生じ 易くなるとともに、転動体と保持器との間や、内輪及び外輪と保持器との間で摩耗が 生じて、保持器切断等の不具合が生じ易くなるため、転がり疲れ寿命が短くなる。
[0210] このような潤滑不良の環境下で使用される軸受としては、例えば、トランスミッション 等に使用されるプラネタリ一ギア用軸受や、ェアコンデイショナ一等に使用されるコン プレッサ用軸受が挙げられる。
プラネタリーギア用軸受では、プラネタリーギア(内方部材)からプラネタリーシャフト (外方部材)への力の伝達が円滑に行われるように、はすば歯車が使用されているた め、プラネタリーシャフトの走行跡がねじれた形状となる。また、このプラネタリーギア
用軸受は、 lOOOOmin— 1を超える高速回転下で使用される。このため、プラネタリーギ ァとプラネタリーシャフトとの間に配設される針状ころを保持する保持器は、ねじれや 遠心力の作用によりプラネタリーギアと摺接して潤滑状態が不良となるため、摩耗が 著しく生じ、最終的には軸受自体が破損する場合がある。
[0211] また、近年の CO 排出規制に伴う燃費向上の観点から、高速回転時の回転効率を
2
高めるために潤滑油の低粘度化が進むにつれて、プラネタリーギア用軸受において も高速回転時の耐焼付き性や耐久性が要求されるようになってきて!、る。
ここで、高速回転下で使用される転がり軸受においては、上述したように榭脂製保 持器を用いるのが一般的である力 プラネタリーギア用軸受では使用温度が 150°C 以上と高温であることから、榭脂製保持器を用いると強度的に不十分となる。よって、 プラネタリーギア用軸受では、高速回転下で使用されるにも関わらず、金属製保持器 を用いることが多い。
[0212] ところが、高速回転時に耐焼付き性や耐久性を向上させるために、ブラネタリーギ ァ用軸受の針状ころを複列化するとともに、軸端から軸受内部まで連通する軸穴を 設け、この軸穴を通じて給油を行う軸穴給油方式を採用すると、潤滑油量が不十分 である場合には金属製保持器の外周面に摩耗が生じるという問題がある。
一方、コンプレッサ用軸受では、アイドリング時の低速回転から加速時の高速回転 まで幅広!/、回転速度で動作する駆動軸を支持するために、高速回転から低速回転 や、無負荷状態から重負荷状態まで幅広い条件下で使用される。このコンプレッサ 用軸受でも、上述したプラネタリーギア用軸受と同様に、榭脂製保持器では強度が 不十分であることから、金属製保持器が用いられることが多!、。
[0213] ところが、このコンプレッサ用軸受を無負荷状態で高速回転すると、振れが大きくな り、潤滑状態が良好ではなくなるため、保持器の外周面が摩耗し易ぐまた、保持器 のポケット部で針状ころがせり出して保持器が破損すると 、う問題がある。
このような摩耗を防止するための技術として、下記のような 3つの文献に記載の技術 が提案されている。
日本国特許公報 第 2548811号 (以降は文献 10— 1と記す)では、スラスト荷重を 受けながらすべり接触するすべり面を備えた機械部品において、すべり面に独立し
た微小くぼみを無数にランダムに設け、この微小くぼみの平均面積を 35〜 150 m2 、微小くぼみの面積率を 10〜40%とすることが提案されている。
[0214] 日本国特許公開公報 2002年第 339083号 (以降は文献 10— 2と記す)では、平 均粒子径が約 1〜20 μ mの二硫ィ匕モリブデンを約 95重量%以上含有したニ硫ィ匕モ リブデン投射用材料カゝらなる固体潤滑被膜を、金属、榭脂、ガラス、セラミックスのい ずれ力からなる物質表面に形成することが提案されている。
日本国特許公開公報 2004年第 60742号 (以降は文献 10— 3と記す)では、ねじ 軸、ナット、及びボールの少なくともいずれか一つの摺接面に、二硫化モリブデンの 微粒子を固着させて、厚さ 0. 5 m以下の固体潤滑被膜を形成することが提案され ている。
[0215] ところで、近年、装置の小型化に伴い、上述したプラネタリーギア用軸受ゃコンプレ ッサ用軸受がより高速回転下及び高温下で使用されるようになつてきて 、る。このた め、高速回転下及び高温下で使用されても、摩耗が生じ難ぐ転がり疲れ寿命を長く できる保持器が要求されて 、る。
し力しながら、上述した文献 10—1に記載の技術では、低粘度の潤滑油が使用さ れたり、潤滑油量が不十分である場合には、微小くぼみ内に潤滑油を十分に保持で きず、摩耗を防止することが難しい。
[0216] また、上述した文献 10— 2では、固体潤滑被膜の材料を特定したのみであり、摩耗 を生じ難くできる固体潤滑被膜の厚さや面積率にっ ヽての言及がなされて ヽな 、。 さらに、上述した文献 10— 3に記載の技術では、固体潤滑被膜の密着性が不十分 であり、固体潤滑被膜が容易に脱落することが考えられる。また、軸受のさらなる高速 回転下及び高温ィ匕が進むにつれて、厚さが 0. 5 m以下の固体潤滑被膜では対処 仕切れない場合がある。
[0217] そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高速回転下及び高 温下で使用される転動装置に用いられた場合であっても、摩耗が生じ難ぐ転がり疲 れ寿命を長くできる転動装置用保持器を提供することを課題としている。
このような課題を解決するために、本発明は、外面に軌道面を有する内方部材と、 該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方
部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置 で用いられ、前記内方部材と前記外方部材との間に前記転動体を保持する金属製 保持器にお!、て、面積率が 75%以上の固体潤滑被膜が形成されて!、る保持器を提 供するものである。
[0218] これにより、金属製保持器に良好な潤滑性が付与されて、内方部材及び外方部材 や転動体と摺接することによる摩耗が生じ難くなる。このため、高速回転下及び高温 下で使用される転動装置に用いた場合であっても、転動装置の転がり疲れ寿命を長 くでさる。
なお、本発明において、転動装置とは、例えば、転がり軸受、ボールねじ、リニアガ イドを指す。ここで、転動装置が転がり軸受の場合には、内方部材及び外方部材は 内輪及び外輪を指す。また、転動装置がボールねじの場合には、内方部材及び外 方部材はねじ軸及びナットを指す。さらに、転動装置がリニアガイドの場合には、内 方部材及び外方部材は案内レール及びスライダを指す。
[0219] また、本発明において、金属製保持器とは、例えば、冷間加工鋼板 (SPCC等)及 び低合金鋼板 (SCM435等)や、これらに浸炭又は浸炭窒化等の硬化熱処理を施 したものや、黄銅等の非鉄材料で形成される保持器を指し、もみ抜き保持器や打ち 抜き保持器等が挙げられる。
さらに、本発明において、固体潤滑被膜が形成される保持器の表面とは、摩耗が 生じ易い表面が含まれるのであれば特に限定されず、例えば、保持器の外周面、内 周面、及びポケット部の表面が挙げられる。
[0220] さらに、本発明において、固体潤滑被膜の素材としては、転動装置用保持器の表 面被膜として用いられた場合に必要な強度を有し、且つ、保持器の素材である金属 材料との密着性がよいものであれば特に限定されない。例えば、二硫化モリブデン、 二硫化タングステン、窒化ホウ素、金属石けん、フッ素榭脂、ナイロン、ポリアセター ル、ポリオレフイン、ポリエステル、 PTFE (ポリテトラフルォロエチレン)、黒鉛、フツイ匕 カルシウム、フッ化バリウム、スズ、スズ合金、及び金属酸化物が挙げられる。
[0221] このような固体潤滑被膜の形成方法としては、例えば、塗布、焼成、溶射、スパッタ リング、イオンプレーティング、及びショットピーユングが挙げられる。特に、固体潤滑
被膜を形成した後の保持器の表面の硬さを向上させることを考慮すると、ショットピー ニング法を適用することが好まし 、。
また、本発明に係る転動装置用保持器において、前記固体潤滑被膜の厚さは、 0. 10 /z m以上 8. 0 m以下であることが好ましい。これにより、良好な潤滑状態を保ち ながら保持器として必要な強度が得られるため、転がり疲れ寿命をさらに長くできる。 ここで、固体潤滑被膜の厚さが 0. 10 /z m未満であると、良好な潤滑性が得られなく なる。一方、 8. 0 m超過であると、保持器として必要な強度が得られなくなる。
[0222] さらに、本発明に係る転動装置用保持器において、前記固体潤滑被膜が形成され た前記表面には、深さが 0. 10 μ m以上 5. 0 μ m以下の微小くぼみ(ディンプル)が 形成されていることが好ましい。これにより、表面に形成された微小くぼみに固体潤滑 被膜が充填されて、保持器の表面に固体潤滑被膜を密着して形成することができる ため、転がり疲れ寿命をさらに長くできる。ここで、微小くぼみが 0. 10 /z m未満である と、良好な密着性が得られなくなる。一方、 5. 0 m超過であると、得られる効果が飽 和する。
[0223] なお、本発明において、保持器の表面に微小くぼみを形成する方法としては、例え ば、 JIS R6001に規定された平均粒径 45 μ mの鋼球や、炭化ケィ素、二酸化ケィ 素、アルミナ、ガラスビーズ等のショット材を用いたショットピーユング方法や、バレル 法を単独又は組み合わせて行う方法が挙げられる。
さらに、本発明に係る転動装置用保持器においては、前記微小くぼみがショットピ 一ユング法により形成されていることが好ましい。これにより、微小くぼみ形成後にお ける保持器の表面の硬さが向上するため、転がり疲れ寿命をさらに長くできる。
[0224] このような本発明の転動装置用保持器によれば、その表面に特定面積率の固体潤 滑被膜を形成したことにより、内方部材及び外方部材ゃ転動体と摺接することによる 摩耗が生じ難くなる。よって、本発明の転動装置用保持器を高速回転下及び高温下 で使用される転動装置に用いることにより、転動装置の転がり疲れ寿命を長くできる。 このような保持器を備えた転動装置は、高速回転下及び高温下で使用されても長 寿命である。この転動装置においては、保持器と内方部材,外方部材,転動体とが 接触する部分に、前述の固体潤滑被膜を形成してもよい。
[0225] すなわち、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌 道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自 在に配された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に前記転動体 を保持する保持器と、を備える転動装置において、前記内方部材の前記保持器との 接触面,前記外方部材の前記保持器との接触面,前記保持器の前記内方部材との 接触面,前記保持器の前記外方部材との接触面,及び前記保持器の前記転動体と の接触面のうち少なくとも一つは、面積率で 75%以上の部分に、固体潤滑剤で構成 された潤滑被膜が被覆されていてもよい。ここで、内方部材,外方部材の保持器との 接触面としては、保持器案内面が挙げられる。また、保持器の内方部材,外方部材と の接触面としては、前記保持器案内面と接触する保持器の表面が挙げられる。
[0226] 以下、第九の実施形態について図面を参照しながら説明する。図 1に示すように、 スラスト針状ころ軸受は、内輪 1と、外輪 2と、内輪軌道面 la及び外輪軌道面 2a間に 転動自在に配設される複数の針状ころ 3と、針状ころ 3を転動可能に保持する保持器 4と、力もなる。なお、このスラスト針状ころ軸受の軸受寸法は、内径が 40mm、外径 力 S70mmで、幅が 5. 5mmとした。
第一に、スラスト針状ころ軸受に用いられる冷間圧延鋼板一種 (SPCC)製の打ち 抜き保持器 4を、以下に示すようにして作製した。
[0227] まず、表 14に示す前処理「有り」の保持器 4においては、その表面に微小くぼみ (デ インプル)を形成する前処理を行った。
なお、表 14中で「前処理有り(ショット)」と示す保持器 4には、ショットピーユング装 置を用いて、噴射圧力 98〜392kPa、噴射時間 10〜20分の条件下でショット材とし て JIS R6001に規定された平均粒径 45 μ mの鋼球を噴射することにより、保持器 4 の各表面にディンプルを形成した。
[0228] また、表 14中で「前処理有り(バレル)」と示す保持器 4には、種々のメディアや添カロ 剤を配合して表面に大きなディンプルを形成する粗加工を行った後、プラトー部(平 坦部)の粗さを整える仕上げ加工を行い、保持器 4の各表面にディンプルを形成した 次に、保持器 4の表面に固体潤滑被膜を形成した。具体的には、ショットピーユング
装置を用いて、噴射圧力 98〜392kPa、噴射時間 10〜20分の条件下でスズを噴射 することにより、保持器 4の各表面に固体潤滑被膜を形成した。ディンプルの深さ及 び面積率は、第一の実施形態と同様に測定した。
[0229] 第二に、スラスト針状ころ軸受に用いられる内輪 1、外輪 2、及び針状ころ 3を、以下 に示すようにして作製した。まず、高炭素クロム軸受用鋼二種 (SUJ2)を所定形状に 加工し、 840°Cの混合ガス雰囲気(RXガス +エンリッチガス +アンモニアガス)で 3時 間浸炭窒化した後、油焼入れ及び焼戻しを行った。そして、内輪 外輪 2、及び針 状ころ 3の各表層部(表面から 250 μ mの深さまでの部分)の残留オーステナイト量を 15〜40体積0 /0とし、前記表層咅の硬さを111¾ 62〜6701 746〜900)に調整した
[0230] このようにして得られた保持器 4と、内輪 外輪 2及び針状ころ 3とを用いて、スラス ト針状ころ軸受を組み立てて、高速回転下及び潤滑不良の環境下で使用することを 想定した以下に示す条件で寿命試験を行った。この寿命試験は、図 3に示すスラスト 型寿命試験機を用いて行った。このスラスト型寿命試験機の構造は、第一の実施形 態において述べた通りであるので、その説明は省略する。
そして、この寿命試験は、初期振動値の 5倍に達するか、外輪 2の外径温度が 150 °Cに達するまでスラスト針状ころ軸受を回転させることにより行い、試験開始力 試験 終了までの時間を寿命とした。また、この寿命試験は、各実施例においてそれぞれ 1 0回ずつ行い、その平均寿命を算出した。そして、比較例である No. 23の寿命を 1と した時の比として、表 14に併せて示した。
[0231] なお、保持器 No. 23は、その表面に上述した文献 10— 1に記載のディンプルを形 成した比較例であり、ディンプルを設けた面の最大表面粗さ(Ra)を 1. O ^ m,表面 粗さのパラメータ(SK値)を 2. 0、ディンプルの平均面積を 80 m2で、ディンプル の面積率を 25%としたものである。
このとき、初期振動値の 5倍に達して試験を終了したスラスト針状ころ軸受において は、実体顕微鏡で損傷の有無を確認し、損傷が見られた場合には試験を終了して、 初期振動値の 5倍に達した時間を寿命とし、損傷が見られな力つた場合には試験を 再開した。
[0232] また、外輪 2の外径温度が 150°Cに達して試験を終了したスラスト針状ころ軸受に おいては、焼付きによる損傷が生じたものとして判断して試験を終了し、外輪 2の外 径温度が 150°Cに達するまでの時間を寿命とした。
〔寿命試験条件〕
荷重:動定格荷重の 5% (PZC = 0. 05)
回転速度: 12000mm"1
潤滑油:鉱油 VG10
周囲温度:室温 (約 28°C)
軸受温度:外輪外径にお!、て 100〜 110°C
油膜パラメータ Λ :0. 1〜0. 5
[0233] [表 14]
保持器の構成
No. 寿命試験結果
被膜面積率 平均被膜厚さ ディンプルの 備考
前処理 (% ) ( m ) 深さ(〃m) (比)
1 無 7 5 1.00 5.7
2 80 0.10 5.7
3 85 2.00 ― 5.7
4 無 90 0.40 ― 5.7
5 92 6.00 ― 5.9
6 to 9 5 3.00 ― 5.7
7 9 6 1.50 5.3
8 1 00 8.00 5.2
9 有 (ショット) 75 2.50 ■·. 8.6
10 (ショット) 80 0.80 0.30 9.0
11 有(ショット) 85 0.50 0.50 10.0
実施例
12 有(ショット) 90 3.50 0.80 10.0
13 有(ショット) 92 2.40 2.50 9.1
14 <fr (シ t 9 5 1.5 0 3.0 0 9.2
15 有(ショット) 9 5 0.20 4.80 8.8
16 有 (ショ ト) 100 1.50 2.00 8.1
17 85 0.05 ― 5.0
18 85 1 0.0 ― 5.1
19 有(ショット) 85 0.0 5 0.50 7.8
20 有 (ショット) 80 1 0.0 0.30 5.0
21 有 (ショ ト) 85 0.50 0.05 7.5
22 有 (ショット) 90 3.50 6.00 9.0
23 有(·πレル) ― ― 0.30 1
24 有 (ショット) ― ― 0.40 1.0
25 ― ― 0.4
26 無 72. 0.10 ― 2.4 比較例
27 65 2.40 1.5
28 有 (ショット) 72 6.00 0.50 3.1
29 有 (ショ ) 65 0.80 0.30 2.2
表 14に示すように、表面に面積率で 75%以上の固体潤滑被膜が形成された No. l No. 22の保持器 4を用いたスラスト針状ころ軸受では、表面に固体潤滑被膜が 形成されていない No. 23 No. 25の保持器 4や、固体潤滑被膜の面積率が 75% 未満の No. 26 No. 29の保持器 4を用いた場合と比較して、転がり疲れ寿命が長 く、 No. 23の 5. 2倍以上であった。
特に、 No. l No. 6と No. 7, No. 8の結果と、 No. 9 No. 15と No. 16の結果 から、固体潤滑被膜の面積率を 75%以上 95%以下とすることにより、転がり疲れ寿 命がさらに長くなつて 、ることが分かる。
また、 No. 3と No. 17, No. 18の結果と、 No. 10, No. 11と No. 19, No. 20の
結果から、固体潤滑被膜の厚さを 0. 10 /z m以上 8. 0 m以下とすることにより、転 力 Sり疲れ寿命がさらに長くなつていることが分かる。
[0235] さらに、 No. l〜No. 8と No. 9〜No. 16の結果と、 No. 11, No. 12と No. 21, No. 22の結果から、ショットピー-ング法によりディンプルの深さを 0. 10 m以上 5 . O /z m以下とすることにより、転がり疲れ寿命がさらに長くなつていることが分かる。こ の理由としては、ディンプルの深さを上記範囲内にすることで保持器 4の表面に固体 潤滑被膜がさらに密着して形成されるとともに、ショットピーユング法により保持器 4の 表面の硬さが向上したためであると考えられる。
[0236] また、得られた No. l〜No. 16と、 No. 26〜No. 29の結果より、固体潤滑被膜の 面積率と寿命との関係を示す図 31のグラフを作成した。図 31に示すように、ショット ピー-ング法によりディンプルの深さを調節した後に固体潤滑被膜を形成した保持 器 4を用いたスラスト針状ころ軸受では、前処理を行わずに固体潤滑被膜を形成した 保持器 4を用いたものよりも長寿命であったことが分かる。
以上の結果から、表面に固体潤滑被膜を特定面積率で形成した保持器 4を用いる ことにより、高速回転下及び潤滑不良の環境下で使用した場合であっても、スラスト 針状ころ軸受の転がり疲れ寿命を長くできることが分力つた。
[0237] また、保持器 4の表面に形成する固体潤滑被膜の厚さやディンプルの深さにつ!/、 ても特定することにより、スラスト針状ころ軸受の転がり疲れ寿命をさらに長くできるこ とが分力つた。
なお、本実施形態では、本発明の転動装置用保持器を、転動装置の一例であるス ラスト針状ころ軸受に適用した場合について説明した力 これに限らず、本発明の転 動装置用保持器は、潤滑不良により保持器の摩耗が問題となる環境下で使用される 転動装置で好適に用いることができる。このような転動装置としては、例えば、深溝玉 軸受、アンギユラ玉軸受、自動調心玉軸受、スラスト玉軸受等の玉軸受や、円筒ころ 軸受、自動調心ころ軸受、スラストころ軸受等のころ軸受や、ボールねじ、リニアガイド 、直動ベアリング等の直動装置や、トロイダル型無段変速機等の転がり軸受ユニット が挙げられる。
産業上の利用可能性
[0238] 本発明の転動装置は、工作機械等に適用可能である。