JP2010060116A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下で使用されても、保持器の表面に形成した被膜の剥離や金属成分の溶出が生じにくく、すべり性、耐摩耗性に優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】複数の針状ころ3と、この針状ころ3を保持する保持器2とを備え、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下で使用される針状ころ軸受1であって、上記保持器は、Ni-B-W被膜を上記潤滑油が接触する該保持器の表面部位に形成したことを特徴とする。
【選択図】図2
【解決手段】複数の針状ころ3と、この針状ころ3を保持する保持器2とを備え、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下で使用される針状ころ軸受1であって、上記保持器は、Ni-B-W被膜を上記潤滑油が接触する該保持器の表面部位に形成したことを特徴とする。
【選択図】図2
Description
本発明は転がり軸受、特にエンジンのコンロッドに用いられる転がり軸受に関する。
2サイクルエンジンは、混合気の燃焼により直線往復運動を行なうピストンと、回転運動を出力するクランク軸と、ピストンとクランク軸とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドとを有する。コンロッドは、直線状棒体の下方に大端部を、上方に小端部を設けたものからなる。クランク軸は、コンロッドの大端部に、ピストンとコンロッドを連結するピストンピンは、コンロッドの小端部に、それぞれ係合穴に取り付けられたころ軸受を介して回転自在に支持されている。回転軸を支持するころ軸受は、複数のころと、複数のころを保持する保持器とからなる。
上記したコンロッドの小端部および大端部に設けられた係合穴に取り付けられ、ピストンピンおよびクランク軸を支持するころ軸受は、軸受投影面積が小さいにもかかわらず、高荷重の負荷を受けることができ、かつ、高剛性である針状ころ軸受が使用される。ここで、針状ころ軸受は、複数の針状ころと、複数の針状ころを保持する保持器とを含む。保持器には、針状ころを保持するためのポケットが設けられ、各ポケットの間に位置する柱部で、各針状ころの間隔を保持する。コンロッドの小端部および大端部における針状ころ軸受は、針状ころの自転運動および公転運動により針状ころ軸受にかかる荷重を軽減するために、積極的に小端部および大端部に設けられた係合穴の内径面に保持器の外径面を接触させる外径案内で使用される。
一方、一般の転がり軸受は、内輪と外輪とシール材等とで軸受内部が密閉され、その軸受内部に転動体と保持器とが設けられ、グリースが充填され、そのグリースで転動体と保持器が常に潤滑される。それに対して、上記針状ころ軸受は、内輪と外輪とシール材等とを有しないので軸受内部が密閉されず、グリースをその軸受内部に充填することができない。そのため、上記針状ころ軸受の回転の際には、ポンプ等で潤滑油を摺動部に常に供給する必要がある。
上記ポンプ等は、上記針状ころ軸受の回転と同時に稼動を開始するので、回転開始直後は針状ころ軸受の全体に潤滑油がまだ行きわたっておらず、十分な潤滑がなされない。そのため、保持器と針状ころとの間に大きな摩擦が生じ、保持器や針状ころの表面が摩耗したり、保持器外径面と実機ハウジング内径面とが摩耗し、最悪の場合、両者が焼き付いたりするおそれがある。そのため、上記針状ころ軸受の回転開始直後の摩耗や焼き付きを防止すべく、保持器の表面に潤滑性を有する被膜を予め形成する技術が提案されている。
例えば、浸炭処理で表面に硬化層を形成した鋼材からなる保持器の転動体の案内面に、硬質なダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCという。)の被膜をスパッタ法等で形成し、さらに、銀等の軟質金属被膜を形成する方法が知られている(特許文献1参照)。この軟質金属被膜が保持器と針状ころの間の摩擦、および保持器外径面とハウジング内径面との摩擦を低減するので、潤滑が不十分な回転開始直後でも保持器や針状ころの焼き付きが防止でき、しかも、この軟質金属被膜が使用に伴い摩耗しても、その下地のDLC被膜が新たに露出し、そのDLC被膜が摩耗を阻止するとされている。
また、保持器の表面に上記軟質金属被膜をめっき法で直接形成する技術も提案されている。例えば、低炭素鋼の表面に約 25〜50μm の銀めっき被膜を形成する方法が知られている(特許文献2参照)。この銀めっき被膜が保持器と針状ころとの間、保持器外径面とハウジングとの間の摩擦を、それぞれ低減するので、上記と同様に、潤滑が不十分な回転開始直後でも焼き付きを防止できるとされている。さらに、銅めっき被膜も銀めっき被膜と同様に、保持器と針状ころとの間の摩擦を低減する作用を有するので、焼き付きを防止できるとされている。
しかしながら、特許文献1に示す方法では、軟質金属が摩耗して消失したあと硬質被膜が露出し、ハウジング内径部は硬質被膜と摺動することになる。この場合、保持器は摩耗しないが保持器表面の硬質被膜によりハウジング内径部が摩耗するおそれがある。また、製造の観点では保持器に浸炭処理を行ない、スパッタ装置でDLC被膜を形成し、軟質金属被膜を形成するので、作業工程が複雑で多くの工数を要する。しかも、スパッタ装置は高価で生産効率も良くないので、その装置を用いた処理はコストが嵩むという問題がある。
また、特許文献2に示す方法では、硫黄系添加剤を含有する潤滑系において、保持器表面に形成された銀めっき被膜が、潤滑油に含まれる硫黄成分と結合して硫化銀となり、この硫化銀が銀めっき被膜の表面を被覆する。この硫化銀は銀と比べて脆いため、被膜が剥離したり、耐油性に劣ったりするため、潤滑油により被膜が溶解する。その結果、銀めっき被膜が消失した保持器外径面とハウジング内径面との間の摩擦が増大し、焼き付きが生じやすくなるという問題がある。また、銅めっき被膜も同様に、硫化銅が生成され、被膜の剥離や溶解により保持器の潤滑性が劣化するという問題がある。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下で使用されても、保持器の表面に形成した被膜の剥離や金属成分の溶出が生じにくく、すべり性、耐摩耗性に優れる転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の転がり軸受は、複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備える転がり軸受であって、上記保持器の表面部位にNi-B-W被膜を形成したことを特徴とする。また、上記転がり軸受は、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下で使用され、上記Ni-B-W被膜が形成される上記保持器の表面部位は、上記潤滑油が接触する表面部位であることを特徴とする。
上記Ni-B-W被膜の組成において、Bが 0.3〜1.3 原子%、Wが 0.1〜1.1 原子%であることを特徴とする。また、上記Ni-B-W被膜の膜厚が、3〜100μmであることを特徴とする。
上記保持器が鉄系金属材料の成形体であることを特徴とする。特に、軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼、冷間圧延鋼、または熱間圧延鋼であることを特徴とする。
上記転動体がころ形状であることを特徴とする。特に、針状ころ形状であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの大端部に設けられた係合穴に取り付けられ、上記保持器の外径面で案内されるころ軸受であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備え、上記保持器の表面部位にNi-B-W被膜を形成したので、保持器の該部位において従来の金属めっきと同等以上に摩擦係数が低く、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下で使用された場合でも、被膜の剥離や潤滑油への被膜成分の溶出を抑えることができ、従来の金属めっきよりも長期間保持器の潤滑性を維持することができる。
上記転動体がころ形状を有するので、高荷重の負荷を受けることができる。また、高剛性である針状ころ軸受を使用することにより、さらに高荷重の負荷を受けることができる。
本発明の転がり軸受は、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの大端部に設けられた係合穴に取り付けられ、上記保持器の外径面で案内されるころ軸受であるので、上記被膜が従来の金属めっきよりも長期間保持器の潤滑性を維持でき、保持器外径面や係合穴内径面の摩耗が防止され、装置全体の長寿命化を図ることができる。
硫黄成分を含む潤滑油と接触する環境下において使用する転がり軸受について鋭意検討の結果、保持器の表面部位に従来の銅や銀めっきの代わりに、無電解めっきにより形成したNi-B-W被膜は、従来の銀めっき等と同等以上に摩擦係数を低く維持できるとともに、硫黄成分を含む潤滑油に浸漬しても潤滑油中への被膜成分の溶出が生じにくいことがわかった。本発明はこのような知見に基づくものである。
本発明の転がり軸受の使用態様を図面に基づいて説明する。図1は本発明の転がり軸受として針状転がり軸受を使用した2サイクルエンジンの縦断面図である。図1に示すように2サイクルエンジンは、ガソリンと、エンジンオイルである潤滑油とを混合した混合気の燃焼により直線往復運動を行なうピストン8と、回転運動を出力するクランク軸6と、ピストン8とクランク軸6とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド7とを有する。クランク軸6は、回転中心軸12を中心に回転し、バランスウェイト13によって回転のバランスをとっている。
コンロッド7は、直線状棒体の下方に大端部15を、上方に小端部16を設けたものからなる。クランク軸6は、コンロッド7の大端部15の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受1aを介して回転自在に支持されている。また、ピストン8とコンロッド7を連結するピストンピン14は、コンロッド7の小端部16の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受1bを介して回転自在に支持されている。ガソリンと潤滑油とを混合した混合気は、吸気孔9からクランク室5へ送り込まれてから、ピストン8の上下動作に応じてシリンダ4の上方の燃焼室11へ導かれ燃焼される。燃焼された排気ガスは排気孔10から排出される。
図2は本発明の転がり軸受の一実施例である針状ころ軸受を示す斜視図である。図2に示すように、針状ころ軸受1は複数の針状ころ3と、この針状ころ3を一定間隔、もしくは不等間隔で保持する保持器2とで構成される。内輪および外輪は設けられず、直接に、保持器2の内径側にクランク軸6やピストンピン14等の軸が挿入され、保持器2の外径側がハウジングであるコンロッド7の係合穴に嵌め込まれる(図1参照)。内外輪を有さず、長さに比べて直径が小さい針状ころ3を転動体として用いるので、この針状ころ軸受1は、内外輪を有する一般の転がり軸受に比べて、コンパクトなものとなる。
保持器2には、針状ころ3を保持するためのポケット2aが設けられ、各ポケットの間に位置する柱部2bで、各針状ころ3の間隔を保持する。保持器2の表面部位には後述する被膜が形成されている。被膜を形成する保持器の表面部位は潤滑油と接触する部位であり、針状ころ3と接触するポケット2aの表面を含めた保持器2の全表面が好ましい。また、保持器2の表面部位に加えて転動体である針状ころ3の表面にも同様の被膜を形成することができる。
本発明の転がり軸受は、硫黄系添加剤を配合した潤滑油に接触する環境下において適用可能である。潤滑油に接触する環境としては、例えば上記したように、転がり軸受が2サイクルエンジンまたは4サイクルエンジンのコンロッドに取付けられて、ガソリンとエンジンオイルである潤滑油とを混合した混合気、またはエンジンオイルに接触する場合や、転がり軸受の保持器ポケット部等への注油等により接触する場合が挙げられる。
硫黄系添加剤とは、硫黄系化合物を含む添加剤であり、この添加剤種類としては、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、清浄分散剤、金属不活性剤、摩耗防止剤などが挙げられる。硫黄系化合物を含む添加剤が添加される潤滑油としては、鉱油、合成油、エステル油、エーテル油などが挙げられる。
硫黄系化合物としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPと記す)、ジアリルジチオリン酸亜鉛等のチオリン酸塩、硫化テルペン、フェノチアジン、メルカプトベンゾチアゾール、石油スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリブテン−P2S5 反応生成物塩、有機スルホン酸のアンモニウム塩、アルカリ土類金属の有機スルホン酸塩、1-メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類あるいはその金属塩、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール等のチアゾール類、2-(デシルジチオ)-ベンズイミダゾール、2,5-ビス(ドデシルジチオ)-ベンズイミダゾール等のジスルフィド系化合物、ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル系化合物、二硫化ジベンジル、二硫化ジフェニル、硫化スパーム油などの硫化油脂、硫化オレフィン、硫化脂肪エステルなどの硫化エステル、ジベンジルジサルファイド、アルキルポリサルファイド、オレフィンポリサルファイド、ザンチックサルファイド等のサルファイド、カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、アルキルジチオリン酸アミン等を挙げることができる。上記硫黄系化合物の中でコンロッド用のころ軸受に影響を与えやすい化合物はZnDTPである。
本発明において「硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下において剥離または溶出が生じにくい」とは、例えば、3 mm×3 mm×20 mm の寸法(表面積 258 mm2 )を有するSCM415製基材片 に上記被膜を形成した試験片 3 個をZnDTPを 1 重量%含有させたポリ-α-オレフィン(PAO)油 2.2 g 中に 150℃にて 200 時間浸漬処理したときに、試験片から上記潤滑油中に溶出する被膜成分量が蛍光X線測定装置による測定にて、潤滑油中で 200 ppm 以下であることをいう。
本発明の転がり軸受において保持器に形成する被膜は、Ni-B-W被膜である。これらの被膜は、無電解めっき処理により保持器の表面部位に形成される。無電解めっき処理は、被膜厚さを均一にでき寸法精度に優れるとともに、添加する微粉体を膜中において均一に分散できる。
Ni-B-W被膜は、Ni(ニッケル)、B(ホウ素・ボロン)、W(タングステン)の複合被膜である。Ni-B-W被膜の組成としては、Niが93.8〜94.8原子%、Bが 0.3〜1.3 原子%、Wが 0.1〜1.1 原子%であることが好ましい。このようなNi-B-W被膜は、Ni-P被膜より硬く、すべり性、耐摩耗性にも優れるので、保持器外径面やハウジング(係合穴)内径面の摩耗を防止できる。また、後述する実施例に示すように、上記硫黄系添加剤を配合した潤滑油に接触する環境下においても、被膜成分が溶出しにくい。Ni-B-Wめっきの市販品としては、例えば、日本プロトン社製:プロトニクスシステムJA(商品名)が挙げられる。
保持器表面に形成するNi-B-W被膜の膜厚としては、3〜100μm であることが好ましく、さらに好ましくは 5〜60μm である。3μm 未満であると初期摩耗により被膜が消滅する危険性があり、100μmをこえると保持器の真円度が悪化して好ましくない。
本発明の転がり軸受は、表面に被膜を後加工にて形成した保持器を用いることから、保持器本体としては軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼、冷間圧延鋼、または熱間圧延鋼を用いることができる。これらの中で耐熱性が高く高荷重に耐える剛性を有する浸炭鋼を用いることが好ましい。浸炭鋼としては例えばSCM415等を挙げることができる。
本発明において転がり軸受に用いる転動体は、ころ形状を有するので、本発明の転がり軸受は上記コンロッドの小端部および大端部に設けられた係合穴に取り付けられ、ピストンピンおよびクランク軸を支持することができ、軸受投影面積が小さいにもかかわらず、高荷重の負荷を受けることができる。特に、高剛性である針状ころを転動体として使用した転がり軸受は、ころを転動体として使用した転がり軸受よりも、さらに高荷重の負荷を受けることができる。
本発明の転がり軸受は、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの大端部に設けられた係合穴に取り付けられ、上記被膜を有する保持器の外径面で案内されるころ軸受であるので、被膜の剥離や、潤滑油への金属成分の溶出がほとんどなく、従来の金属めっきよりも長期間保持器の潤滑性を維持することができ、保持器外径面や係合穴内径面の摩耗が防止され、装置全体の長寿命化を図ることができる。
本発明の転がり軸受は、図1で示したように、直線往復運動を出力するピストンピンを支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの小端部に設けられた係合穴に取り付けることもできる。
本発明の転がり軸受の構造は、コンロッド用針状ころ軸受に限らず、溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受などにも適用可能である。
実施例1
3 mm×3 mm×20 mm の寸法(表面積 258 mm2 )を有するSCM415製板状基材片 3 個と、外径 40 mm×内径 20 mm×t10 mm (副曲率 R 60 mm )の寸法を有するSUJ2製リング状基材験片 1 個とに、それぞれNi-B-Wめっき(日本プロトン社製:プロトニクスシステムJA:Bが 0.85 原子%、Wが 0.60 原子%、Niが 94.27 原子%)を用いて無電解めっき処理を施し、10μm のNi-B-W被膜を形成して、板状試験片およびリング状試験片を得た。板状試験片を以下に示す潤滑油浸漬試験に、リング状試験片を以下に示す摺動試験に、それぞれ供し、被膜成分が潤滑油中に溶出する量および被膜の摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。
3 mm×3 mm×20 mm の寸法(表面積 258 mm2 )を有するSCM415製板状基材片 3 個と、外径 40 mm×内径 20 mm×t10 mm (副曲率 R 60 mm )の寸法を有するSUJ2製リング状基材験片 1 個とに、それぞれNi-B-Wめっき(日本プロトン社製:プロトニクスシステムJA:Bが 0.85 原子%、Wが 0.60 原子%、Niが 94.27 原子%)を用いて無電解めっき処理を施し、10μm のNi-B-W被膜を形成して、板状試験片およびリング状試験片を得た。板状試験片を以下に示す潤滑油浸漬試験に、リング状試験片を以下に示す摺動試験に、それぞれ供し、被膜成分が潤滑油中に溶出する量および被膜の摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。
<潤滑油浸漬試験>
ZnDTP(LUBRIZOL社製:LUBRIZOL677A)を 1 重量%含有させたPAO油(三井化学社製:LUCANT HC−10) 2.2 g 中に板状試験片 3 個を 150℃にて 200 時間浸漬処理したときに、試験片から上記潤滑油中に溶出する被膜成分量を蛍光X線測定装置(リガク社製:Rigaku ZSX100e)を用いて測定する。
ZnDTP(LUBRIZOL社製:LUBRIZOL677A)を 1 重量%含有させたPAO油(三井化学社製:LUCANT HC−10) 2.2 g 中に板状試験片 3 個を 150℃にて 200 時間浸漬処理したときに、試験片から上記潤滑油中に溶出する被膜成分量を蛍光X線測定装置(リガク社製:Rigaku ZSX100e)を用いて測定する。
<摺動試験>
図3に示す摺動試験機(サバン型摩擦摩耗試験機)を用いた。図3(a)は正面図を、図3(b)は側面図をそれぞれ表す。回転軸18にリング状試験片17を取り付け、アーム部19のエアスライダー21に鋼板20を固定する。リング状試験片17は所定の荷重22を図面上方から印加されながら鋼板20に回転接触すると共に潤滑油が含浸されたフェルトパッド24より潤滑油がリング状試験片17の外周面に供給される。リング状試験片17を回転させたときに発生する摩擦力はロードセル23により検出される。鋼板20はSCM415浸炭焼入れ焼戻し処理品(Hv 700 )を、潤滑油はモービルベロシティオイルNo.3(エクソンモービル社製:VG2)をそれぞれ用いた。荷重は 50 N 、滑り速度は 5 m /秒、試験時間は 30 分である。摩擦係数は試験終了前 10 分間の平均値として表した。
図3に示す摺動試験機(サバン型摩擦摩耗試験機)を用いた。図3(a)は正面図を、図3(b)は側面図をそれぞれ表す。回転軸18にリング状試験片17を取り付け、アーム部19のエアスライダー21に鋼板20を固定する。リング状試験片17は所定の荷重22を図面上方から印加されながら鋼板20に回転接触すると共に潤滑油が含浸されたフェルトパッド24より潤滑油がリング状試験片17の外周面に供給される。リング状試験片17を回転させたときに発生する摩擦力はロードセル23により検出される。鋼板20はSCM415浸炭焼入れ焼戻し処理品(Hv 700 )を、潤滑油はモービルベロシティオイルNo.3(エクソンモービル社製:VG2)をそれぞれ用いた。荷重は 50 N 、滑り速度は 5 m /秒、試験時間は 30 分である。摩擦係数は試験終了前 10 分間の平均値として表した。
比較例1
実施例1において Ni-B-W被膜の代わりに銅めっき処理を施し 5μm の銅被膜を下地被膜として形成した後、さらに銀めっき処理を施し 25μm の銀被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様に処理し、得られた試験片について実施例1と同様の試験および測定を実施した。結果を表1に示す。
実施例1において Ni-B-W被膜の代わりに銅めっき処理を施し 5μm の銅被膜を下地被膜として形成した後、さらに銀めっき処理を施し 25μm の銀被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様に処理し、得られた試験片について実施例1と同様の試験および測定を実施した。結果を表1に示す。
比較例2
実施例1においてNi-B-W被膜の代わりに銅めっき処理を施し 30μm の銅被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様に処理し、得られた試験片について実施例1と同様の試験および測定を実施した。結果を表1に示す。
実施例1においてNi-B-W被膜の代わりに銅めっき処理を施し 30μm の銅被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様に処理し、得られた試験片について実施例1と同様の試験および測定を実施した。結果を表1に示す。
比較例3
実施例1においてNi-B-W被膜の代わりにNi-P無電解めっき処理を施し 10μm のNi-P被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様に処理し、得られた試験片について実施例1と同様の試験および測定を実施した。結果を表1に示す。
実施例1においてNi-B-W被膜の代わりにNi-P無電解めっき処理を施し 10μm のNi-P被膜を形成したこと以外は、実施例1と同様に処理し、得られた試験片について実施例1と同様の試験および測定を実施した。結果を表1に示す。
表1に示すように、従来から使用されている金属めっきである比較例1および比較例2は潤滑油浸漬試験において潤滑油に金属成分が溶出した。特に、銅めっきの溶出が多い結果となった。また、比較例3のNi-P被膜は、金属成分の溶出こそないものの、すべり性や耐摩耗性に劣ることから、試験中に試験片が大きく振動して試験を中断する結果となった。これらに対して、Ni-B-W被膜を用いる実施例1は、従来の金属めっきと同等以上に摩擦係数が低く、かつ、金属成分の溶出もなかった。
本発明の転がり軸受は、保持器表面に所定の被膜を設けたので、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下において長期間保持器の潤滑性を維持することができ、この環境下で使用する転がり軸受として好適に利用できる。
1 針状ころ軸受(転がり軸受)
1a 針状ころ軸受
1b 針状ころ軸受
2 保持器
2a ポケット部
2b 柱部
3 針状ころ(転動体)
4 シリンダ
5 クランク室
6 クランク軸
7 コンロッド
8 ピストン
9 吸気孔
10 排気孔
11 燃焼室
12 回転中心軸
13 バランスウェイト
14 ピストンピン
15 大端部
16 小端部
17 リング状試験片
18 回転軸
19 アーム部
20 鋼板
21 エアスライダー
22 荷重
23 ロードセル
24 フェルトパッド
1a 針状ころ軸受
1b 針状ころ軸受
2 保持器
2a ポケット部
2b 柱部
3 針状ころ(転動体)
4 シリンダ
5 クランク室
6 クランク軸
7 コンロッド
8 ピストン
9 吸気孔
10 排気孔
11 燃焼室
12 回転中心軸
13 バランスウェイト
14 ピストンピン
15 大端部
16 小端部
17 リング状試験片
18 回転軸
19 アーム部
20 鋼板
21 エアスライダー
22 荷重
23 ロードセル
24 フェルトパッド
Claims (9)
- 複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、前記保持器の表面部位にNi-B-W被膜を形成したことを特徴とする転がり軸受。
- 前記転がり軸受は、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下で使用され、前記Ni-B-W被膜が形成される前記保持器の表面部位は、前記潤滑油が接触する部位であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
- 前記Ni-B-W被膜の組成において、Bが 0.3〜1.3 原子%、Wが 0.1〜1.1 原子%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。
- 前記Ni-B-W被膜の膜厚が、3〜100μmであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の転がり軸受。
- 前記保持器が、鉄系金属材料の成形体であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の転がり軸受。
- 前記鉄系金属材料は、軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼、冷間圧延鋼、または熱間圧延鋼であることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受。
- 前記転動体が、ころ形状を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の転がり軸受。
- 前記ころ形状が、針状ころ形状であることを特徴とする請求項7記載の転がり軸受。
- 前記転がり軸受が、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの大端部に設けられた係合穴に取り付けられ、前記保持器の外径面で案内されるころ軸受であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項記載の転がり軸受。
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- 2009-08-28 CN CN2009801344437A patent/CN102144106A/zh active Pending
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Publication number | Publication date |
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CN102144106A (zh) | 2011-08-03 |
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