JP2004196997A - ベアリング - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ボールねじ用のグリースとして、モノスルフィド、ジスルフィド、スルフォキシド、およびチオールスルフィネートのうちの少なくとも一種からなる硫黄系極圧添加剤を含有するものを使用する。前記極圧添加剤の含有量を、グリース中の硫黄含有率が0.08質量%以上2.08質量%以下となる量にする。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、転動体とこれを転動させる軌道溝が形成された二つの部材とを備えたベアリング(例えば、転がり軸受、リニアガイド装置やボールねじ装置等の直動案内装置)であって、基油と増ちょう剤とを主成分として構成されたグリースにより潤滑されているものに関する。
【0002】
【従来の技術】
ボールねじは、ねじ軸およびナットに設けた両ボール溝で構成される軌道をボールが負荷状態で転動することで、ナットがねじ軸に沿って直線移動する装置である。また、前記軌道の終点から始点へボールを移動させる戻し路を有し、この戻し路と前記軌道によりボール循環経路が構成されている。
【0003】
このようなボールねじでは、ボールとボールの間に保持ピース(「セパレータ」とも称される。)を配置することで、ボール同士の競り合いをなくし、作動性と耐久性を向上させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
また、従来より、ボールねじの潤滑方法として、基油と増ちょう剤とを主成分として構成されたグリースを使用する方法が行われている。例えば、特許文献2乃至5には、ボールねじの潤滑に特定のグリースを使用することが開示されている。また、特許文献6には、ボールねじ用のグリースが開示されている。また、特許文献7には、工作機械のスピンドルの主軸支持用転がり軸受で好適に使用されるグリースが開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−315835号公報
【特許文献2】
特開平9−273552号公報
【特許文献3】
特開2000−230616号公報
【特許文献4】
特開2000−303089号公報
【特許文献5】
特開2001−049278号公報
【特許文献6】
特開2001−049274号公報
【特許文献7】
特開2002−206095号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のボールねじには、高速駆動且つ高負荷時の耐摩耗性に関して改善の余地がある。
本発明は、ボールねじ等の、転動体とこれを転動させる軌道溝が形成された二つの部材とを備えたベアリングにおいて、高速駆動且つ高負荷時の耐摩耗性に特に優れたものを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、基油と増ちょう剤とを主成分として構成されたグリースにより潤滑され、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングにおいて、前記グリースは、モノスルフィド、ジスルフィド、スルフォキシド、およびチオールスルフィネートのうちの少なくとも一種からなる硫黄系極圧添加剤を含有することを特徴とするベアリングを提供する。
【0007】
本発明のベアリングは、使用するグリースの硫黄系極圧添加剤を、モノスルフィド、ジスルフィド、スルフォキシド、およびチオールスルフィネートのうちの少なくとも一種とすることにより、高速駆動且つ高負荷時の耐摩耗性が高くなる。
これらの硫黄系極圧添加剤は、鉄鋼材料からなる第1部材、第2部材、および転動体を使用する場合に、この転動体と軌道溝との摩擦面下で硫化鉄膜を形成する。これにより、転動体と軌道溝との焼き付きが効果的に防止される。例えば、ジスルフィドを用いた場合、摩擦面でジスルフィドと鉄が反応して、この摩擦面に先ず鉄メルカプチド膜が形成され、そのC−S結合が解離することで硫化鉄膜が形成される。
【0008】
したがって、C−S結合が解離され易いものほど摩擦面下に硫化鉄膜を形成し易い。このC−S結合の解離され易さは分子構造によって異なる。一般に、アリル基、ベンジル基、またはシンナミル基が硫黄原子の隣にある分子構造を有する有機硫黄化合物は、C−S結合の結合エネルギーが小さいため反応性が高い。これは、アリル基、ベンジル基、またはシンナミル基が、それぞれ下記の化1〜化3に示す共鳴構造を有することから理解できる。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
【化3】
【0012】
また、炭素鎖が短いものほど有機硫黄化合物中の硫黄含有率が高いため、硫黄含有率の高い硫化鉄膜が摩擦面下に形成され易い。そのため、グリースの極圧添加剤として炭素鎖の短い有機硫黄化合物を使用することで、より高い耐摩耗性が得られる。
モノスルフィドとジスルフィドとの比較では、ジスルフィドの耐摩耗性の方がモノスルフィドよりも高い。その理由を以下に述べる。
【0013】
モノスルフィドは「C−S−C」結合を有するため、摩擦面下に硫化鉄膜が形成されるためには、鉄メルカプチド膜を形成する際に一方のC−S結合が切断され、硫化鉄膜を形成する際に他方のC−S結合が切断される必要がある。これに対して、ジスルフィドは「C−S−S−C」結合を有するため、鉄メルカプチド膜を形成する際にC−S結合より結合力の弱いS−S結合が切断され、硫化鉄膜を形成する際に一方のC−S結合が切断されることで、摩擦面下に硫化鉄膜が形成される。
【0014】
このように、摩擦面下に硫化鉄膜が形成されるために必要なエネルギーが、ジスルフィドよりもモノスルフィドの方が大きいため、ジスルフィドの方がモノスルフィドよりも摩擦面下に硫化鉄膜が形成され易い。その結果、ジスルフィドの耐摩耗性の方がモノスルフィドよりも高い。
モノスルフィドおよびジスルフィドと、スルフォキシドおよびチオールスルフィネートとの比較では、分子に酸素原子を含む後者の方が、C−S結合の結合エネルギーが小さいため、より高い耐摩耗性が得られる。
【0015】
本発明のベアリングの一例としては、外周面に螺旋状のボール転動溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状のボール転動溝を有するナットと、これらのボール転動溝で形成される軌道内に配置された複数のボールと、軌道の終点から始点へボールを移動させる戻し路とを備え、基油と増ちょう剤とを主成分として構成されたグリースにより潤滑されているボールねじにおいて、前記グリースは、モノスルフィド、ジスルフィド、スルフォキシド、およびチオールスルフィネートのうちの少なくとも一種からなる硫黄系極圧添加剤を含有することを特徴とするボールねじが挙げられる。
【0016】
前記硫黄系極圧添加剤の含有量は、グリース中の硫黄含有率が0.08質量%以上2.08質量%以下となる量であることが好ましい。ここで、グリース中の硫黄含有率は、グリース中の硫黄系極圧添加剤の含有率に「(硫黄系極圧添加剤一分子に含まれる硫黄原子の個数×硫黄の原子量)/硫黄系極圧添加剤の分子量」を乗じることで算出される。
【0017】
前記グリースを構成する基油は、鉱油を30質量%以上の割合で含有することが好ましい。鉱油は、石油からの精製過程で残留する不純物を含み、この不純物が摩耗防止剤として作用するため、基油として鉱油を含むグリースを使用することでボールネジの耐久性が高くなる。
前記グリースを構成する増ちょう剤については、グリース中の含有率を例えば3質量%以上40質量%以下とする。耐摩耗性およびトルク特性の点からは、増ちょう剤のグリース中の含有率を10質量%以上35質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[ボールねじの例]
図1は、本発明のベアリングの一実施形態に相当するボールねじを示す図である。
【0019】
このボールねじは、ボールの戻し路としてチューブを用いるチューブ式ボールねじであり、ねじ軸1と、ナット2と、ボール3と、チューブ(戻し路)4と、シール5で構成されている。図1は、ナット2のみを、軸線を含む平面で2分割した図になっている。
ねじ軸1の外周面とナット2の内周面には、それぞれ螺旋状の溝11,21が形成されており、これらの螺旋溝11,21でボール3の軌道が形成されている。そして、ボール3がこの軌道を負荷状態で転動することにより、ナット2はねじ軸1に対して相対的に直線移動する。すなわち、ねじ軸1およびナット2の螺旋溝11,21がボール転動溝となっている。また、ナット2の軸方向両端部に、ナット2とねじ軸1との隙間を塞ぐシール5が取り付けられている。
【0020】
チューブ4は略門形に形成され、その両端部が、ナット2をなす円筒に設けた貫通穴内に挿入され、軌道の始点と終点を連結するように、ねじ軸1を挟んで斜向かいに配置されている。したがって、軌道の終点に達したボール3はこのチューブ4を通って軌道の始点に戻される。
図1の構造のボールねじとして、ねじ軸1、ナット2、およびボール3がSUJ2製であって、ねじ軸1の外径が25mm、リードが10mm、ボールの直径が4.762mm、ボールピッチ円の直径が25.5mmであるもの(日本精工のボールねじ「DFT2510−3.5」)を用意し、ナット2とねじ軸1の間に封入するグリースのみを変えた各サンプルについて耐久性試験を行った。
【0021】
各サンプルのグリースの構成(基油、増ちょう剤、および極圧添加剤の成分)を下記の表1に示す。これらのグリースは全て、使用した基油の動粘度が40℃で50mm2 /sであり、混合比は質量比で、基油:増ちょう剤:極圧添加剤=83.0:15.5:1.5であり、ちょう度が300である。
試験条件は、荷重:2.5GPa(ボールとボール転動溝との接触最大面圧)、回転速度:1200rpm、雰囲気温度:80℃、グリース封入量:10mlとした。この条件で、ボールねじを、スピンドルモータにより、正回転1秒、停止1秒、逆回転1秒を1サイクルとして連続駆動させ、スピンドルモータによる駆動ができなくなった時点のサイクル数を調べた。
【0022】
得られた各サンプル(No. 1−1〜No. 1−10)のサイクル数をNo. 1−10のサイクル数で除算して、各サンプルのボールねじの耐久性を、硫黄系極圧添加剤を含有しないNo. 10のグリースを用いたNo. 1−10のボールねじの寿命を「1」とした「寿命比」で表した。その結果を下記の表2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
この表に示すように、本発明の実施例に相当するNo. 1−1〜1−9のボールねじは、前記条件での耐久性が、比較例に相当するNo. 1−10のボールねじの2倍以上となった。極圧添加剤の成分のみが異なるNo. 1〜4のグリースを使用したNo. 1−1〜1−4のボールねじでの比較では、極圧添加剤がジベンジルモノスルフィドであるNo. 2のグリースを使用したNo. 1−2のボールねじよりも、極圧添加剤がジベンジルジスルフィドであるNo. 1、ジベンジルスルフォキシドであるNo. 3、およびジベンジルチオールスルフィネートであるNo. 4の各グリースを使用したNo. 1−1,1−3,1−4のボールねじの方が、耐久性に優れていた。
【0026】
また、基油の成分のみが異なるNo. 5〜7のグリースを使用したボールねじの比較では、基油が鉱油であるNo. 7のグリースを用いたNo. 1−7のボールねじが、基油が鉱油以外であるNo. 5および6のグリースを用いたNo. 1−5およびNo. 1−6のボールねじよりも耐久性に優れていた。また、増ちょう剤の成分のみが異なるNo. 7と8のグリースを使用したNo. 1−7とNo. 1−8のボールねじの比較では、増ちょう剤がジウレアであるNo. 8のグリースを用いたNo. 1−8のボールねじが、増ちょう剤がリチウムステアレートであるNo. 7のグリースを用いたNo. 1−7よりも耐久性に優れていた。
【0027】
次に、極圧添加剤の含有率を変化させた以外はNo. 1と同じ構成のグリースを、前述のボールねじに封入して、上記と同じ耐久性試験を行った。その結果を図2にグラフで示す。このグラフの横軸は、グリース中の硫黄の含有率(質量%)であり、この値は、極圧添加剤として添加したジベンジルジスルフィドのグリース中の含有率に、「(ジベンジルジスルフィド一分子に含まれる硫黄原子の個数×硫黄の原子量)/ジベンジルジスルフィドの分子量」を乗じた値である。
【0028】
図2のグラフから分かるように、グリース中の硫黄の含有率を0.08質量%以上2.08質量%以下とすることで、寿命比を2以上とすることができる。また、グリース中の硫黄の含有率を0.25質量%以上1.56質量%以下とすることで、寿命比を2.5以上とすることができる。
このように、グリース中の硫黄の含有率が少なすぎると、前述の硫化鉄膜の形成による耐摩耗性向上効果が発揮されないが、多すぎる場合には硫黄による摩擦面の腐食反応が顕著になることに起因して耐久性が低下する。
【0029】
次に、基油としてポリオールエステルと鉱油との混合油を使用し、その混合比を変化させた以外はNo. 1と同じ構成のグリースを、前述のボールねじに封入して、上記と同じ耐久性試験を行った。その結果を図3にグラフで示す。このグラフの横軸は、基油中の鉱油含有率である。
図3のグラフに示すように、グリースを構成する基油中の鉱油含有率が0である(表2のNo. 1−1)場合には寿命比が2.54であるが、鉱油含有率の上昇に伴って寿命比は急激に上昇し、この上昇率は30質量%付近から小さくなって、50質量%以上になると飽和している。この結果から分かるように、グリースを構成する基油中の鉱油含有率を30質量%以上に(好ましくは40質量%以上に)することで、基油として鉱油を使用することによる耐久性向上効果が十分に得られる。
【0030】
次に、図4に示す往復動摩擦摩耗試験機を用いて、グリースを構成する基油として使用される、鉱油、ポリエーテルエステル(POE)、アルキルジフェニルエーテル(ADE)、ポリアルファオレイン(PAO)の耐摩耗性を調べる試験を行った。いずれも40℃での動粘度が30〜35mm2 /sであるものを使用した。
【0031】
この試験機は、平板状試験体61を載せる試験台71と、カム72から延びるアーム73の先端に設けた上部ホルダー74と、ロードセル75と、ヒータ76と、熱電対77とで構成される。試験を行う際には、試験台71に平板状試験体61を載せ、上部ホルダー74に球状試験体62を取り付けて、上部ホルダー74に垂直荷重を付与するとともに、カム72によりアーム73の往復運動させるこれにより、球状試験体62を平板状試験体61に押し付けながら往復運動させる。
【0032】
ここでは、平板状試験体61として、SUJ2製で、表面硬さがHRC62〜67で、表面粗さがRaで0.076μmであるものを、球状試験体62として、直径が10mmで、SUJ2製で、表面硬さがHRC62〜67で、表面粗さがRaで0.009μmであるものを用意した。また、試験条件は、試験温度:35〜140℃、最大面圧:1.1〜1.9GPa、揺動周波数:10Hz、揺動幅:0.7m、試験時間:10分とした。
【0033】
図5に示すように、この試験により、平板状試験体61の表面に摩耗圧痕8が生じる。この摩耗圧痕8の揺動方向Yに垂直な方向での寸法(摩耗痕径)Kを測定した。この測定値と試験温度との関係を図6にグラフで示す。
このグラフから、鉱油は、ポリエーテルエステル(POE)、アルキルジフェニルエーテル(ADE)、およびポリアルファオレイン(PAO)と比較して、全温度範囲において耐摩耗性が高いことが分かる。
[リニアガイドの例]
次に、呼び番号「LY15AN」のリニアガイド(日本精工製)を用意し、スライダと案内レールとの間に封入するグリースのみを変えた各サンプルNo. 2−1〜No. 2−10について磨耗試験を行った。各サンプルNo. 2−1〜No. 2−10では、表3に示すように、表1に示す構成(基油、増ちょう剤、および極圧添加剤の成分)のグリースNo. 1〜10を使用した。
【0034】
磨耗試験は以下のようにして行った。先ず、ボールとボール転動溝との接触最大面圧が2.5GPaとなるように荷重を付加した状態で、スライダを連続的に往復移動させ、往復移動の合計距離が100kmに達した時点で移動を停止した。次に、このリニアガイドから任意に10個のボールを取り出して、各ボールの直径を測定した。次に、これらの直径の平均値を算出し、この値と試験開始前のボールの直径との差を磨耗量として算出した。次に、各サンプルNo. 2−1〜No. 2−10の磨耗量について、No. 10のグリースを用いたサンプルNo. 2−10の磨耗量を「1」とした相対値を算出した。その結果を下記の表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
この表に示すように、本発明の実施例に相当するNo. 2−1〜2−9のリニアガイドは、前記条件での磨耗量が、比較例に相当するNo. 2−10のリニアガイドの半分以下となった。極圧添加剤の成分のみが異なるNo. 2〜4のグリースを使用したNo. 2−1〜2−4のリニアガイドでの比較では、極圧添加剤がジベンジルモノスルフィドであるNo. 2のグリースを使用したNo. 2−2のリニアガイドよりも、極圧添加剤がジベンジルジスルフィドであるNo. 1、ジベンジルスルフォキシドであるNo. 3、およびジベンジルチオールスルフィネートであるNo. 4の各グリースを使用したNo. 2−1,2−3,2−4のリニアガイドの方が、耐磨耗性に優れていた。
【0037】
また、基油の成分のみが異なるNo. 5〜7のグリースを使用したリニアガイドの比較では、基油が鉱油であるNo. 7のグリースを用いたNo. 2−7のリニアガイドが、基油が鉱油以外であるNo. 5および6のグリースを用いたNo. 2−5およびNo. 2−6のリニアガイドよりも耐磨耗性に優れていた。また、増ちょう剤の成分のみが異なるNo. 7と8のグリースを使用したNo. 2−7とNo. 2−8のリニアガイドの比較では、増ちょう剤がジウレアであるNo. 8のグリースを用いたNo. 2−8のリニアガイドが、増ちょう剤がリチウムステアレートであるNo. 7のグリースを用いたNo. 2−7よりも耐磨耗性に優れていた。
[転がり軸受の例]
次に、呼び番号「NU1012」の単列円筒ころ軸受(日本精工製、外形95mm、内径60mm、幅18mm)を用意し、軸受内に封入するグリースのみを変えた各サンプルNo. 3−1〜No. 3−10について寿命試験を行った。各サンプルNo. 3−1〜No. 3−10では、表4に示すように、表1に示す構成(基油、増ちょう剤、および極圧添加剤の成分)のグリースNo. 1〜10を使用した。
【0038】
寿命試験は、各サンプルの軸受を簡易型の耐久試験機に取り付け、雰囲気温度100℃、回転速度7500mm-1、ラジアル荷重200Nの条件で、軸受の外輪の温度が定常値から10℃上昇するまで、あるいは回転トルクが増大してモータ電流が5Aを超えるまで回転させることで行った。そして、この回転時間を軸受寿命とし、No. 10のグリースを用いたサンプルNo. 3−10の回転時間を「1」とした相対値を算出して寿命比とした。その結果を下記の表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
この表に示すように、本発明の実施例に相当するNo. 3−1〜3−9の軸受は、前記条件での寿命が、比較例に相当するNo. 3−10の軸受の2倍以上となった。極圧添加剤の成分のみが異なるNo. 1〜4のグリースを使用したNo. 3−1〜3−4の軸受での比較では、極圧添加剤がジベンジルモノスルフィドであるNo. 2のグリースを使用したNo. 3−2の軸受よりも、極圧添加剤がジベンジルジスルフィドであるNo. 1、ジベンジルスルフォキシドであるNo. 3、およびジベンジルチオールスルフィネートであるNo. 4の各グリースを使用したNo. 3−1,3−3,3−4の軸受の方が、寿命が長かった。
【0041】
また、基油の成分のみが異なるNo. 5〜7のグリースを使用した軸受の比較では、基油が鉱油であるNo. 7のグリースを用いたNo. 3−7の軸受が、基油が鉱油以外であるNo. 5および6のグリースを用いたNo. 3−5およびNo. 3−6の軸受よりも寿命が長かった。また、増ちょう剤の成分のみが異なるNo. 7と8のグリースを使用したNo. 3−7とNo. 3−8の軸受の比較では、増ちょう剤がジウレアであるNo. 8のグリースを用いたNo. 3−8の軸受が、増ちょう剤がリチウムステアレートであるNo. 7のグリースを用いたNo. 3−7よりも寿命が長かった。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、転動体とこれを転動させる軌道溝が形成された二つの部材とを備えたベアリングとして、高速駆動且つ高負荷時の耐摩耗性に特に優れたベアリング(ボールねじ、リニアガイド、転がり軸受等)が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に相当するボールねじを示す図であって、ナットのみを、軸線を含む平面で2分割した図である。
【図2】実施形態の試験結果から得られた、グリース中の硫黄含有率と寿命比との関係を示すグラフである。
【図3】実施形態の試験結果から得られた、グリースを構成する基油中の鉱油含有率と寿命比との関係を示すグラフである。
【図4】実施形態で行った試験で使用した往復動摩擦摩耗試験機を示す概略構成図である。
【図5】往復動摩擦摩耗試験機による試験で板状試験体の表面に生じる摩耗圧痕についての説明図である。
【図6】実施形態で行った往復動摩擦摩耗試験の結果から得られた、摩耗痕径と試験温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ねじ軸
11 ねじ軸のボール転動溝
2 ナット
21 ナットのボール転動溝
3 ボール
4 チューブ(戻し路)
5 シール
61 平板状試験体
62 球状試験体
71 試験台
72 カム
73 アーム
74 上部ホルダー
75 ロードセル
76 ヒータ
77 熱電対
Claims (3)
- 互いに対向配置される軌道溝を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、基油と増ちょう剤とを主成分として構成されたグリースにより潤滑され、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動するベアリングにおいて、
前記グリースは、モノスルフィド、ジスルフィド、スルフォキシド、およびチオールスルフィネートのうちの少なくとも一種からなる硫黄系極圧添加剤を含有することを特徴とするベアリング。 - 前記硫黄系極圧添加剤の含有量は、グリース中の硫黄含有率が0.08質量%以上2.08質量%以下となる量である請求項1記載のベアリング。
- 前記グリースを構成する基油は、鉱油を30質量%以上の割合で含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のベアリング。
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