JP2004339270A - グリース組成物,転がり軸受,転がり軸受装置,及び転動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れた潤滑性及び耐摩耗性を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリース組成物を提供する。
【解決手段】基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はポリα−オレフィン油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有しており、その含有量は組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とするグリース組成物。
【選択図】なし
【解決手段】基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はポリα−オレフィン油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有しており、その含有量は組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とするグリース組成物。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリース組成物に係り、特に、負荷荷重の高い建設機械用重機に使用される軸受(例えばショベルカー,クレーン車等のアーム支持部の回転部位や変角部位に使用される軸受)、鉄道車両,軍用車両,重量物運搬車,又は使用条件の厳しい自動車の部品(オルタネータ,電磁クラッチ,アイドラプーリ等)に使用される軸受、ハードディスクドライブ等の情報機器や複写機等の事務機器に使用される軸受等に好適なグリース組成物に関する。
また、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有していて、前述のような各種用途に好適な転がり軸受に関する。さらに、樹脂で構成されている部分にケミカルアタックを生じにくい転がり軸受装置及び転動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、前記建設機械用重機等の潤滑部分には、高荷重による摩擦が生じやすい。この潤滑部分の摩擦を防ぐことは、駆動効率を向上させるだけでなく、機械の寿命を延ばすことにもなるため極めて重要である。
耐荷重性や極圧性を付与するためには、グリース組成物に極圧剤を添加する方法が一般的である。そして、極圧剤としては、二硫化モリブデン,グラファイト等の固体潤滑剤の他、ニッケル,アンチモン,セレン,ビスマス,モリブデン,亜鉛等の金属の化合物が、従来より一般的に使用されている。これらの化合物の中でも、前記金属のジアルキルジチオカルバミン酸塩(DTC)又はジアルキルジチオリン酸塩(DTP)が好ましく、Mo−DTP,Mo−DTC,Zn−DTP等が特に好ましい。
【0003】
極圧性に優れるグリース組成物としては、基油が鉱油で、増ちょう剤がリチウム石けん又はウレア化合物であり、さらに添加剤として前述のような極圧剤を用いたグリース組成物が知られている。例えば、特開平10−324885号公報には、基油が鉱油で、増ちょう剤がリチウム石けんであり、添加剤としてモリブデン化合物を用いた、極圧性及び耐摩耗性に優れたグリース組成物が開示されている。
【0004】
一方、事務機器等の軽量化及びコスト低減のため、軸受支持部に樹脂材料を使用する場合が増加している。すなわち、事務機器に使用される軸受支持部(感光ドラム,定着ローラなど)、特に外輪が固定されるハウジング部が樹脂材料で構成される場合が増加している。使用される樹脂材料としては、ポリスチレン(PS),外的環境に強いポリオキシメチレン(POM)及びポリカーボネート(PC),アクリロニトリルスチレンブタジエン樹脂(ABS)等があげられる。
【0005】
軸受に耐食性を付与するためには、従来は防錆油の使用が不可欠であったが、防錆油には樹脂材料の強度を低下させ且つ連続した応力によって破壊に至らしめる作用(以下、ケミカルアタックと称す)があることが分かった。これは樹脂材料を構成するドメイン中に防錆油が侵入し、材料強度が低下することに起因する。樹脂の強度を低下させるのは防錆油に含有される極性の高い化合物であり、このような化合物としては、例えばエステル結合,エーテル結合等を分子構造中に有し酸素を含む炭化水素系化合物等があげられる。
【0006】
このような防錆油による樹脂材料の強度低下に対する対策として、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリース組成物を用いた例が、特開2002−69474号公報,特開2001−254745号公報等に開示されている。特開2002−69474号公報に記載のグリースは、基油として合成炭化水素油を使用し、添加剤として金属スルホネートを使用している。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−324885号公報
【特許文献2】
特開2002−69474号公報
【特許文献3】
特開2001−254745号公報
【特許文献4】
特開2002−221229号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年では、圧延機のロールネック軸受等のように高温,高荷重条件での使用が要求されているものが多くなってきている。このような条件下で使用される軸受においては、基油として鉱油を使用したグリース組成物では十分な潤滑性を付与することが困難である場合があった。
【0009】
また、前述の各公報に記載のグリース組成物は、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい性質は有しているものの、高温,高荷重条件下における潤滑性及び耐摩耗性は十分ではなかった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリース組成物を提供することを課題とする。また、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有する転がり軸受を提供することを併せて課題とする。さらに、樹脂で構成されている部分にケミカルアタックを生じにくい転がり軸受装置及び転動装置を提供することを併せて課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はポリα−オレフィン油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有しており、その含有量は組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0011】
ポリα−オレフィン油(以降はPAO油と記す)は極性を有していないので、エステル油等の極性油を基油として使用した場合と比べて、前記モリブデン化合物や前記亜鉛化合物のような極圧剤が転動装置等の摺動面に吸着されやすい。よって、本発明のグリース組成物は、転動装置等に使用されて十分な極圧性及び耐摩耗性を発揮する。このような効果は高温においてより顕著となり、また、増ちょう剤の種類によって効果の程度が異なる。
【0012】
十分な極圧性及び耐摩耗性を得るためには、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の合計の含有量を、組成物全体の0.5〜10質量%とする必要がある。0.5質量%未満では十分な極圧性及び耐摩耗性が得られにくく、10質量%を超えて使用しても極圧性及び耐摩耗性のさらなる向上は期待できない上、基油の含有量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0013】
また、極性を有していないPAO油を主成分としているので、本発明のグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい。PAO油の含有量が基油全体の50質量%未満であると、樹脂に対してケミカルアタックを生じるおそれがあるとともに、前述のような理由から前記モリブデン化合物や前記亜鉛化合物のような極圧剤による極圧性及び耐摩耗性が得られにくくなる。
【0014】
また、本発明に係る請求項2のグリース組成物は、請求項1に記載のグリース組成物において、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物は、炭素数10以上のアルキル基を有していることを特徴とする。
炭素数10以上のアルキル基を有していると、PAO油に対する溶解性が良好であるので、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物を合計で5質量%以上添加することが可能である。炭素数が8程度のアルキル基を有するものはPAO油に対する溶解性が不十分であり、低温時での使用を考えると2質量%程度しか添加することができない。よって、本発明のグリース組成物は、転動装置等に優れた極圧性及び耐摩耗性を付与することが可能である。
【0015】
また、モリブデン化合物や亜鉛化合物のような添加剤は、樹脂に対してケミカルアタックを生じるおそれがあるが、アルキル基の鎖長が長いとPAO油に対する溶解性が良好であるため、樹脂に対するケミカルアタックが緩和される。
さらに、本発明に係る請求項3の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする。
【0016】
このような構成の転がり軸受は、前述のようなグリース組成物が封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性,極圧性,及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも好適に使用可能である。
【0017】
さらに、本発明に係る請求項4の転がり軸受装置は、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングと、該ハウジングに挿嵌された軸と、前記ハウジング及び前記軸の間に介装され前記ハウジング及び前記軸を相対回転自在に支持する転がり軸受と、を備える転がり軸受装置において、前記転がり軸受を、請求項3に記載の転がり軸受としたことを特徴とする。
【0018】
このような構成の転がり軸受装置は、前述のようなグリース組成物が転がり軸受に封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性,極圧性,及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングにグリース組成物が接触しても、前記ハウジングにケミカルアタックが生じにくい。さらに、本発明の転がり軸受装置は、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも、好適に使用可能である。
【0019】
さらに、本発明に係る請求項5の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備えるとともに、少なくとも一部分が樹脂で構成された転動装置において、前記内方部材及び前記外方部材の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする。
【0020】
このような構成の転動装置は、前述のようなグリース組成物が封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性,極圧性,及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、樹脂で構成された部分にグリース組成物が接触してもケミカルアタックが生じにくい。さらに、本発明の転動装置は、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも、好適に使用可能である。
【0021】
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。ここで、本発明における前記内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、前記外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0022】
以下に、本発明のグリース組成物を構成する各成分及び混和ちょう度について、さらに詳細に説明する。
〔基油について〕
本発明において使用可能なPAO油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のPAO油又はその水素化物などがあげらる。これらのPAO油は、単独で使用してもよいし2種以上を混合して使用してもよい。また、PAO油を主成分(50質量%以上)とするならば、鉱油,エステル油等の他の油を混合しても差し支えない。
【0023】
基油の40℃における動粘度は、100〜400mm2 /sが好ましい。100mm2 /s未満では、グリース組成物を転がり軸受等に封入した際に転がり軸受の音響寿命が悪くなるおそれがある。一方、400mm2 /s超過ではトルク性能が不十分となるおそれがある。
〔増ちょう剤について〕
本発明において使用可能な増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、金属石けん,金属複合石けん,ウレア化合物等が好適であるが、高温下で使用する場合にはウレア化合物が好適である。
【0024】
金属石けんとしてはリチウム石けんがあげられ、具体的には、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等のような1価の脂肪酸のリチウム塩があげられる。このようなリチウム石けんは、脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
また、ウレア化合物としてはジウレア,トリウレア,テトラウレア等のポリウレア化合物があげられるが、一般式R1 −NHCONH−R2 −NHCONH−R3 で表されるジウレアが特に好ましい。なお、R1 及びR3 は脂肪族炭化水素基,脂環式炭化水素基,芳香族炭化水素基,又は縮合炭化水素基を表し、R1 とR3 とは同一でも異なっていてもよい。また、R2 は2価の芳香族炭化水素基を表す。
【0025】
このようなジウレア化合物は、別途合成したものを基油に分散させてもよいし、基油中で合成することによって基油に分散させてもよい。ただし、後者の方法の方が、基油中に増ちょう剤を良好に分散させやすいので、工業的に製造する場合には有利である。
ジウレア化合物を基油中で合成する場合の合成方法は、特に限定されるものではないが、R2 の芳香族炭化水素基を有するジイソシアネート1モルと、R1 ,R3 の炭化水素基を有するモノアミン2モルとを反応させる方法が最も好ましい。
【0026】
増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の5〜30質量%であることが好ましい。5質量%未満では、増ちょう剤が少なすぎて組成物をグリース状とすることが困難となる。一方、30質量%超過であると、基油の含有量が相対的に少なくなるため潤滑性が不十分となるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の8〜25質量%とすることがより好ましい。
【0027】
〔モリブデン化合物及び亜鉛化合物について〕
本発明において極圧剤として使用されるモリブデン化合物及び亜鉛化合物の種類は特に限定されるものではないが、モリブデン化合物としては、例えばモリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP)やモリブデンのアミン錯体等があげられ、亜鉛化合物としては、例えば亜鉛ジチオフォスフェート(Zn−DTP),亜鉛スルフォネート,ナフテン酸亜鉛,亜鉛ジチオカーバメート(Zn−DTC)等があげられる。
【0028】
〔その他の添加剤について〕
本発明におけるグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。例えば、酸化防止剤,防錆剤,極圧剤,油性向上剤,金属不活性化剤等があげられる。
【0029】
酸化防止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,硫黄系酸化防止剤,ジチオリン酸亜鉛等があげられる。また、防錆剤の種類は特に限定されるものではないが、石油スルホン酸塩,カルシウムスルフォネート,ソルビタンエステル等があげられる。さらに、極圧剤の種類は特に限定されるものではないが、リン系の極圧剤等があげられる。さらに、油性向上剤の種類は特に限定されるものではないが、脂肪酸,動植物油等があげられる。さらに、金属不活性化剤の種類は特に限定されるものではないが、ベンゾトリアゾール等があげられる。
【0030】
なお、これらの添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
〔混和ちょう度について〕
グリース組成物の混和ちょう度は、180〜330であることが好ましい。ここでいう混和ちょう度とは、日本工業規格(JIS)のK2220に従って測定した値をいう。混和ちょう度が180未満であると、転がり軸受等に封入した際にグリース組成物が硬すぎてトルク性能が悪くなり、330超過だとグリース組成物が柔らかすぎて転がり軸受等の外部へ漏出するおそれがある。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。この深溝玉軸受1は、日本精工株式会社製の呼び番号6306の深溝玉軸受(内径30mm,外径72mm,幅19mm)であり、内輪10と、外輪11と、内輪10と外輪11との間に転動自在に配設された複数の玉12と、内輪10と外輪11との間に複数の玉12を保持する樹脂製の保持器13と、外輪11に取り付けられて内輪10と外輪11との間に介在された接触形のシール14,14と、で構成されている。
【0032】
また、内輪10と外輪11とシール14,14とで囲まれた空隙部内には、該空隙部の容積の15体積%のグリース組成物Gが充填され、シール14により深溝玉軸受1内に密封されている。そして、このようなグリース組成物Gにより、内輪10及び外輪11の軌道面と玉12との接触面が潤滑されている。
このグリース組成物Gは、増ちょう剤であるジウレア化合物19質量%と、基油であるPAO油75質量%と、極圧剤であるモリブデン化合物及び亜鉛化合物それぞれ2質量%と、酸化防止剤等のその他の添加剤2質量%と、で構成されている。
【0033】
このグリース組成物Gは、基油として極性を有していないPAO油が用いられており、さらに、モリブデン化合物,亜鉛化合物のような極圧剤が添加されているので、優れた潤滑性及び耐摩耗性を転動装置等に付与する性質を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい。また、増ちょう剤としてジウレア化合物が用いられているので、高温においても優れた潤滑性及び耐摩耗性を転動装置等に付与する性質を有している。
【0034】
また、図1の深溝玉軸受は、前述のような性質を有するグリース組成物Gが充填されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性及び耐摩耗性を有している。しかも、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも好適に使用可能である。例えば、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングと、該ハウジングに挿嵌された軸と、前記ハウジング及び前記軸の間に介装され前記ハウジング及び前記軸を相対回転自在に支持する転がり軸受と、を備える転がり軸受装置において、前記転がり軸受に本実施形態の深溝玉軸受を適用することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0036】
また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
このような転動装置は、前述のようなグリース組成物が封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、その一部分が樹脂で構成されていたとしても、樹脂で構成された部分にグリース組成物が接触してケミカルアタックが生じるという不都合が生じにくい。さらに、このような転動装置は、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも、好適に使用可能である。
【0037】
次に、基油と増ちょう剤と添加剤とからなる22種(実施例1〜13及び比較例1〜9)のグリース組成物を用意して、混和ちょう度,滴点,耐荷重性,耐摩耗性,及び樹脂に対するケミカルアタック性の評価を行った。各グリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)及び各評価結果を、表1〜4にまとめて示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
表1〜4に示すように、実施例1〜7及び比較例1〜4のグリース組成物は、増ちょう剤としてジウレア化合物を含有しており、実施例8〜13及び比較例5〜9のグリース組成物は、増ちょう剤としてステアリン酸リチウム又は12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを含有している。なお、表中のジウレア化合物Aとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレア化合物Bとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレア化合物Cとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0043】
また、各グリース組成物は、基油として、PAO油,ポリオールエステル,エーテル油,及び鉱油のうちの少なくとも1種を含有している。なお、基油の40℃における動粘度(2種以上の基油を混合した場合は混合基油の動粘度)は、各表中に記載の通りである。
さらに、各グリース組成物(比較例4,9を除く)は、モリブデン化合物であるMo−DTP(旭電化社製のサクラルーブ300)と亜鉛化合物であるZn−DTP(旭電化社製のキクルーブZ−112)との少なくとも一方を含有している。キクルーブZ−112は、炭素数10以上のアルキル基を有するZn−DTPである。
【0044】
さらに、各グリース組成物は、その他の添加剤として、酸化防止剤(チバガイギー社製のイルガノックスL57)約1質量%と、防錆剤(KING社製Nasul BSN)約1質量%と、腐食防止剤(チバガイギー社製イルガメット39)0.1質量%とを含有している。なお、これら3種の添加剤の合計の含有量は2質量%である。
【0045】
次に、グリース組成物に関する前記各性能の評価方法について説明する。
〔混和ちょう度及び滴点の測定方法について〕
混和ちょう度及び滴点は、JIS K2220に従って測定した。
〔耐荷重性の評価方法について〕
耐荷重性はシェル四球試験により評価した。すなわち、3個の試験球(玉軸受用のSUJ2製鋼球で、直径は1/2インチである)を相互に接するように正三角形状に配置して固定し、その中心に形成された凹部に1個の試験球を載置した(図2を参照)。そして、評価対象であるグリース組成物をすべての試験球に塗布した後、荷重を負荷した状態で載置した試験球を一定の回転速度(2000min−1)で5秒間回転させた。
【0046】
最初の荷重は1960Nとし、5秒間の回転後に融着が生じなかった場合は、負荷する荷重を490Nずつ増加させて回転させ、融着が生じた時点の荷重により耐荷重性を評価した。各表においては、荷重6080Nでも融着が生じなかった場合は○印、2940〜5590Nで融着が生じた場合は△印、1960〜2450Nで融着が生じた場合は×印で示してある。
【0047】
なお、実施例1〜7及び比較例1〜5については120℃で評価を行い、実施例8〜13及び比較例6〜9については常温で評価を行った。
〔耐摩耗性の評価方法について〕
耐荷重性と同様にシェル四球試験により評価した。耐摩耗性の場合は、980Nの荷重を負荷した状態で載置した試験球を一定の回転速度(2000min−1)で5秒間回転させた後、生じた摩耗痕の大きさを顕微鏡観察により測定した。各表においては、摩耗痕の直径が0.8mm未満であった場合は○印、0.8mm以上1.2mm以下であった場合は△印、1.2mm超過であった場合は×印で示してある。
【0048】
なお、実施例1〜7及び比較例1〜5については120℃で評価を行い、実施例8〜13及び比較例6〜9については常温で評価を行った。
〔樹脂に対するケミカルアタック性の評価方法について〕
評価方法を、図3を参照しながら説明する。ポリカーボネート製の試験片31(幅13mm,長さ64mm,厚さ3mm)を固定用ボルト32で治具33上に固定し、試験片31に曲げストレスを加えたままグリース組成物を塗布した。そして、25℃,60%RHの環境下において試験片31に割れや亀裂が生じるまでの時間により、樹脂に対するケミカルアタック性を評価した。
【0049】
各表においては、15日間経過しても割れや亀裂が生じなかった場合はA、3日超過15日未満で割れや亀裂が生じた場合はB、1日超過3日以内に割れや亀裂が生じた場合はC、1日以内に割れや亀裂が生じた場合はDで示してある。
表1〜4から分かるように、各実施例のグリース組成物は、各比較例のグリース組成物と比べて耐荷重性及び耐摩耗性が優れており、しかも樹脂に対するケミカルアタックがほとんど生じなかった。また、実施例8〜10と実施例11,12との比較から分かるように、ヒドロキシル基を有していない増ちょう剤を用いた方が、耐荷重性が優れていた。この理由は、増ちょう剤がヒドロキシル基を有しておらず極性が低い方が、極圧剤の効果がより有効となるためと思われる。
【0050】
次に、実施例13のグリース組成物において、基油中のPAO油の含有率を種々変更したものを用意して、前述と同様の方法により樹脂に対するケミカルアタック性(試験片に割れや亀裂が生じるまでの時間)を調査した。結果を図4のグラフに示す。なお、このグラフにおける樹脂に対するケミカルアタック性の数値は、PAO油の含有率が0質量%(ポリオールエステル油の含有率が100質量%)であるグリース組成物におけるケミカルアタック性(試験片に割れや亀裂が生じるまでの時間)を1とした場合の相対値で示してある。
【0051】
図4のグラフから分かるように、基油中のPAO油の含有率が50質量%以上であると、樹脂に対するケミカルアタック性が優れていた。
次に、実施例1のグリース組成物において、基油の40℃における動粘度を種々変更したものを用意して、高温耐久性及び0℃における起動トルク値を評価した。
【0052】
高温耐久性の評価方法について説明する。グリース組成物5gを前述のような構成の深溝玉軸受に封入し、図5に示すようなASTM D 1741の軸受寿命試験機に類似の試験機に装着した。そして、温度125℃、ラジアル荷重180N、アキシアル荷重120Nの下で3500min−1の回転速度で回転させ、モータが過負荷にて停止した時間、又は軸受の温度が130℃を超えた時間を寿命とした。
【0053】
0℃における起動トルク値の評価方法について説明する。図6に示すようなトルク測定装置を用いて、前述のような構成の深溝玉軸受のトルク値を測定した。深溝玉軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、0℃においてエアスピンドル41を回転させて深溝玉軸受1の内輪を回転させ、起動時のトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0054】
結果を図7のグラフに示す。なお、このグラフにおける高温耐久性及び0℃における起動トルク値は、実施例1の高温耐久性及び0℃における起動トルク値を1とした場合の相対値でそれぞれ示してある。グラフから分かるように、基油の40℃における動粘度が100mm2 /s未満であると高温耐久性が悪く且つ0℃における起動トルク値が小さかった。一方、400mm2 /s超過であると、0℃における起動トルク値が大きかった。
【0055】
次に、実施例1のグリース組成物において、グリース組成物全体における増ちょう剤の含有量を種々変更したものを用意して、高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量を評価した。
高温耐久性の評価方法は前述と同様であるので、その説明は省略し、125℃におけるグリース組成物の漏れ量の評価方法について説明する。
【0056】
グリース組成物5gを前述のような構成の深溝玉軸受に封入し、図5に示す試験機に装着した。そして、温度125℃、ラジアル荷重100N、アキシアル荷重50Nの条件下で1000min−1の回転速度で24時間回転させた。そして、深溝玉軸受の回転終了後の質量と回転前の質量と比較することにより、回転中に軸受から漏洩したグリース組成物の質量を測定した。
【0057】
結果を図8のグラフに示す。なお、このグラフにおける高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量は、実施例1の高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量を1とした場合の相対値でそれぞれ示してある。
グラフから分かるように、増ちょう剤の含有量が30質量%以下であると高温耐久性が優れており、25質量%以下であると高温耐久性がより優れていた。また、増ちょう剤の含有量が5質量%以上であると125℃におけるグリース組成物の漏れ量が少量であり、8質量%以上であると125℃におけるグリース組成物の漏れ量がより少量であった。以上のことから、増ちょう剤の含有量は5〜30質量%であることが好ましく、8〜25質量%であることがより好ましいと言える。
【0058】
次に、実施例4のグリース組成物において、グリース組成物全体におけるMo−DTPの含有量を種々変更したものを用意して、耐摩耗性及び耐荷重性を評価した。耐摩耗性及び耐荷重性の評価方法は前述と同様であるので、その説明は省略する。
結果を図9のグラフに示す。なお、このグラフにおける耐摩耗性及び耐荷重性は、実施例4の耐摩耗性及び耐荷重性を1とした場合の相対値でそれぞれ示してある。グラフから分かるように、Mo−DTPの含有量が0.5〜10質量%であると、耐摩耗性及び耐荷重性の両方が優れていた。
【0059】
【発明の効果】
以上のように、本発明のグリース組成物は、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい。また、本発明の転がり軸受は、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有する。さらに、本発明の転がり軸受装置及び転動装置は、樹脂で構成された部分にグリース組成物が接触してケミカルアタックが生じるという不都合が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である深溝玉軸受の構成を示す縦断面図である。
【図2】四球試験の方法を説明する斜視図である。
【図3】樹脂に対するケミカルアタック性を評価する方法を説明する断面図である。
【図4】PAO油の含有率と樹脂に対するケミカルアタック性との相関を示すグラフである。
【図5】グリース組成物の潤滑寿命を評価する軸受寿命試験機の構成を示す断面図である。
【図6】トルク測定装置の構成を示す概略図である。
【図7】40℃における基油の動粘度と、高温耐久性及び0℃における起動トルク値と、の相関を示すグラフである。
【図8】グリース組成物全体における増ちょう剤の含有量と、高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量と、の相関を示すグラフである。
【図9】グリース組成物全体におけるMo−DTPの含有量と、耐摩耗性及び耐荷重性と、の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 深溝玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 玉
G グリース組成物
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリース組成物に係り、特に、負荷荷重の高い建設機械用重機に使用される軸受(例えばショベルカー,クレーン車等のアーム支持部の回転部位や変角部位に使用される軸受)、鉄道車両,軍用車両,重量物運搬車,又は使用条件の厳しい自動車の部品(オルタネータ,電磁クラッチ,アイドラプーリ等)に使用される軸受、ハードディスクドライブ等の情報機器や複写機等の事務機器に使用される軸受等に好適なグリース組成物に関する。
また、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有していて、前述のような各種用途に好適な転がり軸受に関する。さらに、樹脂で構成されている部分にケミカルアタックを生じにくい転がり軸受装置及び転動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、前記建設機械用重機等の潤滑部分には、高荷重による摩擦が生じやすい。この潤滑部分の摩擦を防ぐことは、駆動効率を向上させるだけでなく、機械の寿命を延ばすことにもなるため極めて重要である。
耐荷重性や極圧性を付与するためには、グリース組成物に極圧剤を添加する方法が一般的である。そして、極圧剤としては、二硫化モリブデン,グラファイト等の固体潤滑剤の他、ニッケル,アンチモン,セレン,ビスマス,モリブデン,亜鉛等の金属の化合物が、従来より一般的に使用されている。これらの化合物の中でも、前記金属のジアルキルジチオカルバミン酸塩(DTC)又はジアルキルジチオリン酸塩(DTP)が好ましく、Mo−DTP,Mo−DTC,Zn−DTP等が特に好ましい。
【0003】
極圧性に優れるグリース組成物としては、基油が鉱油で、増ちょう剤がリチウム石けん又はウレア化合物であり、さらに添加剤として前述のような極圧剤を用いたグリース組成物が知られている。例えば、特開平10−324885号公報には、基油が鉱油で、増ちょう剤がリチウム石けんであり、添加剤としてモリブデン化合物を用いた、極圧性及び耐摩耗性に優れたグリース組成物が開示されている。
【0004】
一方、事務機器等の軽量化及びコスト低減のため、軸受支持部に樹脂材料を使用する場合が増加している。すなわち、事務機器に使用される軸受支持部(感光ドラム,定着ローラなど)、特に外輪が固定されるハウジング部が樹脂材料で構成される場合が増加している。使用される樹脂材料としては、ポリスチレン(PS),外的環境に強いポリオキシメチレン(POM)及びポリカーボネート(PC),アクリロニトリルスチレンブタジエン樹脂(ABS)等があげられる。
【0005】
軸受に耐食性を付与するためには、従来は防錆油の使用が不可欠であったが、防錆油には樹脂材料の強度を低下させ且つ連続した応力によって破壊に至らしめる作用(以下、ケミカルアタックと称す)があることが分かった。これは樹脂材料を構成するドメイン中に防錆油が侵入し、材料強度が低下することに起因する。樹脂の強度を低下させるのは防錆油に含有される極性の高い化合物であり、このような化合物としては、例えばエステル結合,エーテル結合等を分子構造中に有し酸素を含む炭化水素系化合物等があげられる。
【0006】
このような防錆油による樹脂材料の強度低下に対する対策として、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリース組成物を用いた例が、特開2002−69474号公報,特開2001−254745号公報等に開示されている。特開2002−69474号公報に記載のグリースは、基油として合成炭化水素油を使用し、添加剤として金属スルホネートを使用している。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−324885号公報
【特許文献2】
特開2002−69474号公報
【特許文献3】
特開2001−254745号公報
【特許文献4】
特開2002−221229号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年では、圧延機のロールネック軸受等のように高温,高荷重条件での使用が要求されているものが多くなってきている。このような条件下で使用される軸受においては、基油として鉱油を使用したグリース組成物では十分な潤滑性を付与することが困難である場合があった。
【0009】
また、前述の各公報に記載のグリース組成物は、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい性質は有しているものの、高温,高荷重条件下における潤滑性及び耐摩耗性は十分ではなかった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリース組成物を提供することを課題とする。また、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有する転がり軸受を提供することを併せて課題とする。さらに、樹脂で構成されている部分にケミカルアタックを生じにくい転がり軸受装置及び転動装置を提供することを併せて課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はポリα−オレフィン油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有しており、その含有量は組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0011】
ポリα−オレフィン油(以降はPAO油と記す)は極性を有していないので、エステル油等の極性油を基油として使用した場合と比べて、前記モリブデン化合物や前記亜鉛化合物のような極圧剤が転動装置等の摺動面に吸着されやすい。よって、本発明のグリース組成物は、転動装置等に使用されて十分な極圧性及び耐摩耗性を発揮する。このような効果は高温においてより顕著となり、また、増ちょう剤の種類によって効果の程度が異なる。
【0012】
十分な極圧性及び耐摩耗性を得るためには、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の合計の含有量を、組成物全体の0.5〜10質量%とする必要がある。0.5質量%未満では十分な極圧性及び耐摩耗性が得られにくく、10質量%を超えて使用しても極圧性及び耐摩耗性のさらなる向上は期待できない上、基油の含有量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0013】
また、極性を有していないPAO油を主成分としているので、本発明のグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい。PAO油の含有量が基油全体の50質量%未満であると、樹脂に対してケミカルアタックを生じるおそれがあるとともに、前述のような理由から前記モリブデン化合物や前記亜鉛化合物のような極圧剤による極圧性及び耐摩耗性が得られにくくなる。
【0014】
また、本発明に係る請求項2のグリース組成物は、請求項1に記載のグリース組成物において、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物は、炭素数10以上のアルキル基を有していることを特徴とする。
炭素数10以上のアルキル基を有していると、PAO油に対する溶解性が良好であるので、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物を合計で5質量%以上添加することが可能である。炭素数が8程度のアルキル基を有するものはPAO油に対する溶解性が不十分であり、低温時での使用を考えると2質量%程度しか添加することができない。よって、本発明のグリース組成物は、転動装置等に優れた極圧性及び耐摩耗性を付与することが可能である。
【0015】
また、モリブデン化合物や亜鉛化合物のような添加剤は、樹脂に対してケミカルアタックを生じるおそれがあるが、アルキル基の鎖長が長いとPAO油に対する溶解性が良好であるため、樹脂に対するケミカルアタックが緩和される。
さらに、本発明に係る請求項3の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする。
【0016】
このような構成の転がり軸受は、前述のようなグリース組成物が封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性,極圧性,及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも好適に使用可能である。
【0017】
さらに、本発明に係る請求項4の転がり軸受装置は、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングと、該ハウジングに挿嵌された軸と、前記ハウジング及び前記軸の間に介装され前記ハウジング及び前記軸を相対回転自在に支持する転がり軸受と、を備える転がり軸受装置において、前記転がり軸受を、請求項3に記載の転がり軸受としたことを特徴とする。
【0018】
このような構成の転がり軸受装置は、前述のようなグリース組成物が転がり軸受に封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性,極圧性,及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングにグリース組成物が接触しても、前記ハウジングにケミカルアタックが生じにくい。さらに、本発明の転がり軸受装置は、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも、好適に使用可能である。
【0019】
さらに、本発明に係る請求項5の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備えるとともに、少なくとも一部分が樹脂で構成された転動装置において、前記内方部材及び前記外方部材の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする。
【0020】
このような構成の転動装置は、前述のようなグリース組成物が封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性,極圧性,及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、樹脂で構成された部分にグリース組成物が接触してもケミカルアタックが生じにくい。さらに、本発明の転動装置は、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも、好適に使用可能である。
【0021】
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。ここで、本発明における前記内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、前記外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0022】
以下に、本発明のグリース組成物を構成する各成分及び混和ちょう度について、さらに詳細に説明する。
〔基油について〕
本発明において使用可能なPAO油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のPAO油又はその水素化物などがあげらる。これらのPAO油は、単独で使用してもよいし2種以上を混合して使用してもよい。また、PAO油を主成分(50質量%以上)とするならば、鉱油,エステル油等の他の油を混合しても差し支えない。
【0023】
基油の40℃における動粘度は、100〜400mm2 /sが好ましい。100mm2 /s未満では、グリース組成物を転がり軸受等に封入した際に転がり軸受の音響寿命が悪くなるおそれがある。一方、400mm2 /s超過ではトルク性能が不十分となるおそれがある。
〔増ちょう剤について〕
本発明において使用可能な増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、金属石けん,金属複合石けん,ウレア化合物等が好適であるが、高温下で使用する場合にはウレア化合物が好適である。
【0024】
金属石けんとしてはリチウム石けんがあげられ、具体的には、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等のような1価の脂肪酸のリチウム塩があげられる。このようなリチウム石けんは、脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
また、ウレア化合物としてはジウレア,トリウレア,テトラウレア等のポリウレア化合物があげられるが、一般式R1 −NHCONH−R2 −NHCONH−R3 で表されるジウレアが特に好ましい。なお、R1 及びR3 は脂肪族炭化水素基,脂環式炭化水素基,芳香族炭化水素基,又は縮合炭化水素基を表し、R1 とR3 とは同一でも異なっていてもよい。また、R2 は2価の芳香族炭化水素基を表す。
【0025】
このようなジウレア化合物は、別途合成したものを基油に分散させてもよいし、基油中で合成することによって基油に分散させてもよい。ただし、後者の方法の方が、基油中に増ちょう剤を良好に分散させやすいので、工業的に製造する場合には有利である。
ジウレア化合物を基油中で合成する場合の合成方法は、特に限定されるものではないが、R2 の芳香族炭化水素基を有するジイソシアネート1モルと、R1 ,R3 の炭化水素基を有するモノアミン2モルとを反応させる方法が最も好ましい。
【0026】
増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の5〜30質量%であることが好ましい。5質量%未満では、増ちょう剤が少なすぎて組成物をグリース状とすることが困難となる。一方、30質量%超過であると、基油の含有量が相対的に少なくなるため潤滑性が不十分となるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の8〜25質量%とすることがより好ましい。
【0027】
〔モリブデン化合物及び亜鉛化合物について〕
本発明において極圧剤として使用されるモリブデン化合物及び亜鉛化合物の種類は特に限定されるものではないが、モリブデン化合物としては、例えばモリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP)やモリブデンのアミン錯体等があげられ、亜鉛化合物としては、例えば亜鉛ジチオフォスフェート(Zn−DTP),亜鉛スルフォネート,ナフテン酸亜鉛,亜鉛ジチオカーバメート(Zn−DTC)等があげられる。
【0028】
〔その他の添加剤について〕
本発明におけるグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。例えば、酸化防止剤,防錆剤,極圧剤,油性向上剤,金属不活性化剤等があげられる。
【0029】
酸化防止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,硫黄系酸化防止剤,ジチオリン酸亜鉛等があげられる。また、防錆剤の種類は特に限定されるものではないが、石油スルホン酸塩,カルシウムスルフォネート,ソルビタンエステル等があげられる。さらに、極圧剤の種類は特に限定されるものではないが、リン系の極圧剤等があげられる。さらに、油性向上剤の種類は特に限定されるものではないが、脂肪酸,動植物油等があげられる。さらに、金属不活性化剤の種類は特に限定されるものではないが、ベンゾトリアゾール等があげられる。
【0030】
なお、これらの添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
〔混和ちょう度について〕
グリース組成物の混和ちょう度は、180〜330であることが好ましい。ここでいう混和ちょう度とは、日本工業規格(JIS)のK2220に従って測定した値をいう。混和ちょう度が180未満であると、転がり軸受等に封入した際にグリース組成物が硬すぎてトルク性能が悪くなり、330超過だとグリース組成物が柔らかすぎて転がり軸受等の外部へ漏出するおそれがある。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。この深溝玉軸受1は、日本精工株式会社製の呼び番号6306の深溝玉軸受(内径30mm,外径72mm,幅19mm)であり、内輪10と、外輪11と、内輪10と外輪11との間に転動自在に配設された複数の玉12と、内輪10と外輪11との間に複数の玉12を保持する樹脂製の保持器13と、外輪11に取り付けられて内輪10と外輪11との間に介在された接触形のシール14,14と、で構成されている。
【0032】
また、内輪10と外輪11とシール14,14とで囲まれた空隙部内には、該空隙部の容積の15体積%のグリース組成物Gが充填され、シール14により深溝玉軸受1内に密封されている。そして、このようなグリース組成物Gにより、内輪10及び外輪11の軌道面と玉12との接触面が潤滑されている。
このグリース組成物Gは、増ちょう剤であるジウレア化合物19質量%と、基油であるPAO油75質量%と、極圧剤であるモリブデン化合物及び亜鉛化合物それぞれ2質量%と、酸化防止剤等のその他の添加剤2質量%と、で構成されている。
【0033】
このグリース組成物Gは、基油として極性を有していないPAO油が用いられており、さらに、モリブデン化合物,亜鉛化合物のような極圧剤が添加されているので、優れた潤滑性及び耐摩耗性を転動装置等に付与する性質を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい。また、増ちょう剤としてジウレア化合物が用いられているので、高温においても優れた潤滑性及び耐摩耗性を転動装置等に付与する性質を有している。
【0034】
また、図1の深溝玉軸受は、前述のような性質を有するグリース組成物Gが充填されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性及び耐摩耗性を有している。しかも、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも好適に使用可能である。例えば、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングと、該ハウジングに挿嵌された軸と、前記ハウジング及び前記軸の間に介装され前記ハウジング及び前記軸を相対回転自在に支持する転がり軸受と、を備える転がり軸受装置において、前記転がり軸受に本実施形態の深溝玉軸受を適用することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0036】
また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
このような転動装置は、前述のようなグリース組成物が封入されているので、高荷重条件下においても優れた潤滑性及び耐摩耗性を有している。また、封入されているグリース組成物は樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいので、その一部分が樹脂で構成されていたとしても、樹脂で構成された部分にグリース組成物が接触してケミカルアタックが生じるという不都合が生じにくい。さらに、このような転動装置は、樹脂で構成された部材が周辺に存在するような環境でも、好適に使用可能である。
【0037】
次に、基油と増ちょう剤と添加剤とからなる22種(実施例1〜13及び比較例1〜9)のグリース組成物を用意して、混和ちょう度,滴点,耐荷重性,耐摩耗性,及び樹脂に対するケミカルアタック性の評価を行った。各グリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)及び各評価結果を、表1〜4にまとめて示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
表1〜4に示すように、実施例1〜7及び比較例1〜4のグリース組成物は、増ちょう剤としてジウレア化合物を含有しており、実施例8〜13及び比較例5〜9のグリース組成物は、増ちょう剤としてステアリン酸リチウム又は12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを含有している。なお、表中のジウレア化合物Aとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレア化合物Bとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレア化合物Cとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0043】
また、各グリース組成物は、基油として、PAO油,ポリオールエステル,エーテル油,及び鉱油のうちの少なくとも1種を含有している。なお、基油の40℃における動粘度(2種以上の基油を混合した場合は混合基油の動粘度)は、各表中に記載の通りである。
さらに、各グリース組成物(比較例4,9を除く)は、モリブデン化合物であるMo−DTP(旭電化社製のサクラルーブ300)と亜鉛化合物であるZn−DTP(旭電化社製のキクルーブZ−112)との少なくとも一方を含有している。キクルーブZ−112は、炭素数10以上のアルキル基を有するZn−DTPである。
【0044】
さらに、各グリース組成物は、その他の添加剤として、酸化防止剤(チバガイギー社製のイルガノックスL57)約1質量%と、防錆剤(KING社製Nasul BSN)約1質量%と、腐食防止剤(チバガイギー社製イルガメット39)0.1質量%とを含有している。なお、これら3種の添加剤の合計の含有量は2質量%である。
【0045】
次に、グリース組成物に関する前記各性能の評価方法について説明する。
〔混和ちょう度及び滴点の測定方法について〕
混和ちょう度及び滴点は、JIS K2220に従って測定した。
〔耐荷重性の評価方法について〕
耐荷重性はシェル四球試験により評価した。すなわち、3個の試験球(玉軸受用のSUJ2製鋼球で、直径は1/2インチである)を相互に接するように正三角形状に配置して固定し、その中心に形成された凹部に1個の試験球を載置した(図2を参照)。そして、評価対象であるグリース組成物をすべての試験球に塗布した後、荷重を負荷した状態で載置した試験球を一定の回転速度(2000min−1)で5秒間回転させた。
【0046】
最初の荷重は1960Nとし、5秒間の回転後に融着が生じなかった場合は、負荷する荷重を490Nずつ増加させて回転させ、融着が生じた時点の荷重により耐荷重性を評価した。各表においては、荷重6080Nでも融着が生じなかった場合は○印、2940〜5590Nで融着が生じた場合は△印、1960〜2450Nで融着が生じた場合は×印で示してある。
【0047】
なお、実施例1〜7及び比較例1〜5については120℃で評価を行い、実施例8〜13及び比較例6〜9については常温で評価を行った。
〔耐摩耗性の評価方法について〕
耐荷重性と同様にシェル四球試験により評価した。耐摩耗性の場合は、980Nの荷重を負荷した状態で載置した試験球を一定の回転速度(2000min−1)で5秒間回転させた後、生じた摩耗痕の大きさを顕微鏡観察により測定した。各表においては、摩耗痕の直径が0.8mm未満であった場合は○印、0.8mm以上1.2mm以下であった場合は△印、1.2mm超過であった場合は×印で示してある。
【0048】
なお、実施例1〜7及び比較例1〜5については120℃で評価を行い、実施例8〜13及び比較例6〜9については常温で評価を行った。
〔樹脂に対するケミカルアタック性の評価方法について〕
評価方法を、図3を参照しながら説明する。ポリカーボネート製の試験片31(幅13mm,長さ64mm,厚さ3mm)を固定用ボルト32で治具33上に固定し、試験片31に曲げストレスを加えたままグリース組成物を塗布した。そして、25℃,60%RHの環境下において試験片31に割れや亀裂が生じるまでの時間により、樹脂に対するケミカルアタック性を評価した。
【0049】
各表においては、15日間経過しても割れや亀裂が生じなかった場合はA、3日超過15日未満で割れや亀裂が生じた場合はB、1日超過3日以内に割れや亀裂が生じた場合はC、1日以内に割れや亀裂が生じた場合はDで示してある。
表1〜4から分かるように、各実施例のグリース組成物は、各比較例のグリース組成物と比べて耐荷重性及び耐摩耗性が優れており、しかも樹脂に対するケミカルアタックがほとんど生じなかった。また、実施例8〜10と実施例11,12との比較から分かるように、ヒドロキシル基を有していない増ちょう剤を用いた方が、耐荷重性が優れていた。この理由は、増ちょう剤がヒドロキシル基を有しておらず極性が低い方が、極圧剤の効果がより有効となるためと思われる。
【0050】
次に、実施例13のグリース組成物において、基油中のPAO油の含有率を種々変更したものを用意して、前述と同様の方法により樹脂に対するケミカルアタック性(試験片に割れや亀裂が生じるまでの時間)を調査した。結果を図4のグラフに示す。なお、このグラフにおける樹脂に対するケミカルアタック性の数値は、PAO油の含有率が0質量%(ポリオールエステル油の含有率が100質量%)であるグリース組成物におけるケミカルアタック性(試験片に割れや亀裂が生じるまでの時間)を1とした場合の相対値で示してある。
【0051】
図4のグラフから分かるように、基油中のPAO油の含有率が50質量%以上であると、樹脂に対するケミカルアタック性が優れていた。
次に、実施例1のグリース組成物において、基油の40℃における動粘度を種々変更したものを用意して、高温耐久性及び0℃における起動トルク値を評価した。
【0052】
高温耐久性の評価方法について説明する。グリース組成物5gを前述のような構成の深溝玉軸受に封入し、図5に示すようなASTM D 1741の軸受寿命試験機に類似の試験機に装着した。そして、温度125℃、ラジアル荷重180N、アキシアル荷重120Nの下で3500min−1の回転速度で回転させ、モータが過負荷にて停止した時間、又は軸受の温度が130℃を超えた時間を寿命とした。
【0053】
0℃における起動トルク値の評価方法について説明する。図6に示すようなトルク測定装置を用いて、前述のような構成の深溝玉軸受のトルク値を測定した。深溝玉軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、0℃においてエアスピンドル41を回転させて深溝玉軸受1の内輪を回転させ、起動時のトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0054】
結果を図7のグラフに示す。なお、このグラフにおける高温耐久性及び0℃における起動トルク値は、実施例1の高温耐久性及び0℃における起動トルク値を1とした場合の相対値でそれぞれ示してある。グラフから分かるように、基油の40℃における動粘度が100mm2 /s未満であると高温耐久性が悪く且つ0℃における起動トルク値が小さかった。一方、400mm2 /s超過であると、0℃における起動トルク値が大きかった。
【0055】
次に、実施例1のグリース組成物において、グリース組成物全体における増ちょう剤の含有量を種々変更したものを用意して、高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量を評価した。
高温耐久性の評価方法は前述と同様であるので、その説明は省略し、125℃におけるグリース組成物の漏れ量の評価方法について説明する。
【0056】
グリース組成物5gを前述のような構成の深溝玉軸受に封入し、図5に示す試験機に装着した。そして、温度125℃、ラジアル荷重100N、アキシアル荷重50Nの条件下で1000min−1の回転速度で24時間回転させた。そして、深溝玉軸受の回転終了後の質量と回転前の質量と比較することにより、回転中に軸受から漏洩したグリース組成物の質量を測定した。
【0057】
結果を図8のグラフに示す。なお、このグラフにおける高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量は、実施例1の高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量を1とした場合の相対値でそれぞれ示してある。
グラフから分かるように、増ちょう剤の含有量が30質量%以下であると高温耐久性が優れており、25質量%以下であると高温耐久性がより優れていた。また、増ちょう剤の含有量が5質量%以上であると125℃におけるグリース組成物の漏れ量が少量であり、8質量%以上であると125℃におけるグリース組成物の漏れ量がより少量であった。以上のことから、増ちょう剤の含有量は5〜30質量%であることが好ましく、8〜25質量%であることがより好ましいと言える。
【0058】
次に、実施例4のグリース組成物において、グリース組成物全体におけるMo−DTPの含有量を種々変更したものを用意して、耐摩耗性及び耐荷重性を評価した。耐摩耗性及び耐荷重性の評価方法は前述と同様であるので、その説明は省略する。
結果を図9のグラフに示す。なお、このグラフにおける耐摩耗性及び耐荷重性は、実施例4の耐摩耗性及び耐荷重性を1とした場合の相対値でそれぞれ示してある。グラフから分かるように、Mo−DTPの含有量が0.5〜10質量%であると、耐摩耗性及び耐荷重性の両方が優れていた。
【0059】
【発明の効果】
以上のように、本発明のグリース組成物は、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有するとともに、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくい。また、本発明の転がり軸受は、優れた潤滑性及び耐摩耗性を有する。さらに、本発明の転がり軸受装置及び転動装置は、樹脂で構成された部分にグリース組成物が接触してケミカルアタックが生じるという不都合が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である深溝玉軸受の構成を示す縦断面図である。
【図2】四球試験の方法を説明する斜視図である。
【図3】樹脂に対するケミカルアタック性を評価する方法を説明する断面図である。
【図4】PAO油の含有率と樹脂に対するケミカルアタック性との相関を示すグラフである。
【図5】グリース組成物の潤滑寿命を評価する軸受寿命試験機の構成を示す断面図である。
【図6】トルク測定装置の構成を示す概略図である。
【図7】40℃における基油の動粘度と、高温耐久性及び0℃における起動トルク値と、の相関を示すグラフである。
【図8】グリース組成物全体における増ちょう剤の含有量と、高温耐久性及び125℃におけるグリース組成物の漏れ量と、の相関を示すグラフである。
【図9】グリース組成物全体におけるMo−DTPの含有量と、耐摩耗性及び耐荷重性と、の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 深溝玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 玉
G グリース組成物
Claims (5)
- 基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、
前記基油はポリα−オレフィン油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、
前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有しており、その含有量は組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とするグリース組成物。 - 前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物は、炭素数10以上のアルキル基を有していることを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
- 内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、
前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。 - 少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングと、該ハウジングに挿嵌された軸と、前記ハウジング及び前記軸の間に介装され前記ハウジング及び前記軸を相対回転自在に支持する転がり軸受と、を備える転がり軸受装置において、
前記転がり軸受を、請求項3に記載の転がり軸受としたことを特徴とする転がり軸受装置。 - 外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備えるとともに、少なくとも一部分が樹脂で構成された転動装置において、
前記内方部材及び前記外方部材の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転動装置。
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-
2003
- 2003-05-13 JP JP2003134445A patent/JP2004339270A/ja active Pending
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