JP2004091764A - グリース組成物,転がり軸受,及び電動モータ - Google Patents
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Abstract
【課題】フレッチング防止性能に優れたグリース組成物を提供する。また、フレッチングが生じにくいこと、発塵が少ないこと、及びトルクが小さいことことに加えて、優れた音響寿命を有する転がり軸受を提供する。
【解決手段】エステル油を主成分とする基油と、リチウム石けん,リチウム複合石けん,及びウレア化合物のうちの少なくとも一種である増ちょう剤と、添加剤と、を含有するグリース組成物Gを、転がり軸受1の軸受空間内に充填した。エステル油の含有量は基油全体の50質量%以上であり、添加剤はスルホン酸塩を必須成分として含有している
【選択図】 図1
【解決手段】エステル油を主成分とする基油と、リチウム石けん,リチウム複合石けん,及びウレア化合物のうちの少なくとも一種である増ちょう剤と、添加剤と、を含有するグリース組成物Gを、転がり軸受1の軸受空間内に充填した。エステル油の含有量は基油全体の50質量%以上であり、添加剤はスルホン酸塩を必須成分として含有している
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた高温性能を有するグリース組成物に関する。また、本発明は、優れた音響寿命を有する転がり軸受に係り、特に、コンピュータに使用されるハードディスクドライブ(HDD)や各種事務機器等に好適な転がり軸受に関する。さらに、本発明は長寿命な電動モータに関する。
【0002】
【従来の技術】
HDD,フレキシブルディスクドライブ(FDD),コンパクトディスクドライブ(CDD),光磁気ディスクドライブ(MOD),ビデオテープレコーダ(VTR)等のような情報機器や、レーザービームプリンタ(LBP)等の事務機器に用いられる転がり軸受には、一般に、高速回転においても発塵(飛散)が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、長寿命であること等が要求される。
【0003】
特に、清浄な雰囲気下で使用されるHDDにおいては、回転時に軸受内部からガス状の油やグリースの微小な粒子が飛散すると、ディスクの表面を汚染して誤作動の原因となるため、飛散量を抑えることが最も重要なこととされている。
【0004】
このようなHDD用転がり軸受に封入されるグリース組成物としては、従来は、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースが用いられてきた。また、ジエステル油(例えばジオクチルセバケートなど)やポリオールエステル油(例えばペンタエリスリトールテトラエステルなど)のようなエステル油を基油としたリチウム石けんグリースや、炭酸エステルのようなエステル油を基油とした金属石けんグリースも、同様に用いられてきた。
さらに、ウレア化合物を増ちょう剤とし非エステル系油を基油とする、フレッチング防止性能に優れるグリース組成物が、特開2002−180077号公報に開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−180077号公報
【特許文献2】
特開2001−139979号公報
【特許文献3】
特開平8−209176号公報
【特許文献4】
特開2000−26875号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述のような従来のグリースが封入された転がり軸受は、前述した各種要求性能のすべてが十分に優れているとは言えなかった。
例えば、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースの場合は、飛散量は少ないものの、増ちょう剤の分散性が不十分で均質になりにくいため、転がり軸受が回転した際の音響性能や振動性能に問題があった。また、吸湿性が高く、グリースが経時的に硬化して転がり軸受内で流動性が低下するため、潤滑不良を起こしやすいという問題点も有していた。
【0007】
また、エステル油を基油としたリチウム石けんグリースの場合は、増ちょう剤の分散性が良好で音響性能や振動性能には問題がなく、転がり軸受は低トルクであるが、飛散性に問題があった。そのため、このような転がり軸受をHDDに用いる場合には、ディスクの汚染を防ぐために高価な磁性流体シールを併用していた。よって、コストアップに繋がり、また小型化に対するマイナス要因ともなっていた。
【0008】
さらに、近年、前述のような情報機器には記録密度の向上がますます求められているため、この情報機器に使用される転がり軸受には軸受精度及び回転速度の向上が図られている。その結果、転がり軸受の使用温度が上昇するため、エステル油を基油としたリチウム石けんグリースでは、音響性能やトルクが十分ではない場合があった。よって、高温においても同様以上の性能を発現するグリース組成物が望まれていた。
【0009】
さらに、前述した特開2002−180077号公報に開示のグリース組成物も、やはり高温においては音響寿命が十分ではないという問題点があった。
このような問題点を解決するために、モリブデンジチオフォスフェート等の極圧剤をグリースに配合した例(特開2001−139979号公報)が知られているが、十分な極圧効果が得られる量のモリブデンジチオフォスフェートを添加するとアウトガスが多くなるため、このようなグリースをHDD用転がり軸受に使用することには問題があった。また、HDDには極微量の硫黄成分でも悪影響があるので、硫黄成分を発生させるおそれのある前記極圧剤を含有するグリースをHDD用転がり軸受に使用することは好ましくなかった。
【0010】
一方、近年、前記情報機器に用いられる転がり軸受には、前述のような各種要求性能とともにフレッチングが生じにくいという性能が要求されるようになってきている。
前記情報機器は、運搬時又は携帯時に振動を受ける。また、近年、自動車に搭載されるカーナビゲーションシステムに前記情報機器が使用されるようになってきたため、前記情報機器が受ける振動はより大きくなってきている。
【0011】
情報機器に用いられている玉軸受,ころ軸受等の転がり軸受は、情報機器の運搬時等において生じる5〜10ヘルツ程度の低い周波数の振動によって、転がり軸受内の転動体(ボール又はころ)と軌道輪の軌道面とが損傷を受けて劣化しやすい。このようなフレッチングという現象が起きると、転がり軸受の音響性能が悪くなるばかりでなく、情報機器の性能そのものにも悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、フレッチング防止性能に優れたグリース組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、フレッチングが生じにくい転がり軸受を提供することを併せて課題とする。さらに、本発明は長寿命な電動モータを提供することを併せて課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はエステル油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記増ちょう剤は、リチウム石けん,リチウム複合石けん,及びウレア化合物のうちの少なくとも一種であり、前記添加剤はスルホン酸塩を含有していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る請求項2のグリース組成物は、請求項1のグリース組成物において、前記スルホン酸塩がジアルキルナフタレンスルホン酸塩であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記スルホン酸塩の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0015】
このようなグリース組成物は、エステル油を主成分とする基油と、スルホン酸塩を必須成分とする添加剤と、を含有しているので、転がり軸受に封入した場合等にフレッチング現象の発生を著しく抑制する性質を有している。また、発塵が少ないことに加えて、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を付与する性質も併せて有している。
【0016】
フレッチング現象の発生が抑制される理由は、以下に述べるようなものであると考えられる。すなわち、スルホン酸塩は金属に対して界面活性剤のように作用して、摺動面に生成した金属の新生面に吸着し、強固な被膜を形成する。そうすると、金属同士の直接的な接触が防止されるので、フレッチングによる損傷が抑制される。
【0017】
十分なフレッチング防止性能及び前記各種性能を得るためには、スルホン酸塩の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましい。
なお、増ちょう剤としては、リチウム石けん,リチウム複合石けん,及びウレア化合物のうちの少なくとも一種が用いられるが、これらのうちリチウム石けん又はリチウム複合石けんを使用すると、音響性能が良好である。
【0018】
また、本発明に係る請求項4のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記添加剤は、前記スルホン酸塩とともにイオウ−リン系添加剤を含有していることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項5のグリース組成物は、請求項4のグリース組成物において、前記イオウ−リン系添加剤の含有量は、グリース組成物全体の0.1〜0.5質量%であり、前記スルホン酸塩と前記イオウ−リン系添加剤との合計の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0019】
請求項4及び請求項5のグリース組成物は、前述の請求項1〜3のグリース組成物の場合と同様の理由により同様の性質を有しているが、添加剤としてスルホン酸塩とともにイオウ−リン系添加剤が併用されているため、フレッチング現象の発生を抑制する効果が高められている。
十分なフレッチング防止性能を得るためには、イオウ−リン系添加剤の含有量をグリース組成物全体の0.1〜0.5質量%とし、且つスルホン酸塩とイオウ−リン系添加剤との合計の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜10質量%とすることが好ましい。より好ましくは、イオウ−リン系添加剤の含有量がグリース組成物全体の0.1〜0.5質量%で、且つスルホン酸塩の含有量がグリース組成物全体の2〜8質量%である。このとき、イオウ−リン系添加剤の含有量が0.1質量%未満であるとフレッチング防止性能が不十分となり、0.5質量%超過であると、イオウ−リン系添加剤の種類によっては基油に完全に溶解せず、転がり軸受の音響性能が阻害されるおそれがある。
【0020】
また、本発明に係る請求項6のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記添加剤は、前記スルホン酸塩とともにモリブデン化合物及び亜鉛化合物を含有し、これら3種の化合物の合計の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜9質量%であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項7のグリース組成物は、請求項6のグリース組成物において、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の含有量は、それぞれグリース組成物全体の1.5質量%以下であることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明に係る請求項8のグリース組成物は、請求項6又は請求項7のグリース組成物において、前記モリブデン化合物の含有量と前記亜鉛化合物の含有量との質量比は、5:95〜95:5の範囲内であることを特徴とする。
請求項6〜8のグリース組成物は、前述の請求項1〜3のグリース組成物の場合と同様の理由により同様の性質を有しているが、添加剤としてスルホン酸塩とともにモリブデン化合物及び亜鉛化合物が併用されているため、低アウトガスであるという性質を併せて有している。
【0022】
アウトガス,フレッチング防止性能をはじめとする前述の各種性能を十分なものとするためには、スルホン酸塩とモリブデン化合物と亜鉛化合物との合計の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜9質量%とすることが好ましく、2〜7質量%とすることがより好ましい。
このとき、モリブデン化合物及び亜鉛化合物の含有量がそれぞれ1質量%を超えると、硫黄系のアウトガスの量が増加する傾向があるので、それぞれ1.5質量%以下とすることが好ましい。モリブデン化合物及び亜鉛化合物のうち一方を単独で使用した場合に含有量が1質量%以下であると、前述の各種性能を付与する効果が不十分となるが、両者を併用すればそれぞれの含有量が1質量%以下であっても、相乗効果によって前述の各種性能を付与する効果が十分となる。
【0023】
モリブデン化合物の含有量と亜鉛化合物の含有量との比(質量比)は5:95〜95:5の範囲内とすることが好ましく、この範囲から外れると前述の各種性能を付与する効果が不十分となる。
また、本発明に係る請求項9のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記増ちょう剤は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムと、ラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの少なくとも一方と、を含有し、前記スルホン酸塩の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜8.5質量%であることを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明に係る請求項10のグリース組成物は、請求項9のグリース組成物において、前記増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の5質量%以上且つ10質量%未満で、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの含有量とラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの合計の含有量とのモル比は、50:50〜90:10の範囲内であることを特徴とする。
【0025】
さらに、本発明に係る請求項11のグリース組成物は、請求項9又は請求項10のグリース組成物において、前記基油の40℃における動粘度は、15〜55mm2 /sであることを特徴とする。
請求項9〜11のグリース組成物は、前述の請求項1〜3のグリース組成物の場合と同様の理由により同様の性質を有しているが、増ちょう剤が上記のような構成であるため、それらの性質がさらに優れたものとなる。
【0026】
すなわち、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムにより形成される網目構造が、ラウリン酸リチウム,ミリスチン酸リチウムにより補完されるため、使用する増ちょう剤の量が少なくても、グリース組成物のちょう度が小さくなる。これは、石けん繊維の長さや径が均質化されたことにより生じるものと考えられ、このようなグリース組成物を転がり軸受に封入すれば、優れた音響性能を有する転がり軸受が得られる。
【0027】
また、増ちょう剤の量が少なくなった分だけ基油の量が相対的に多くなるので、転がり軸受を長寿命とすることができる。さらに、網目構造が均質化されたことにより、転がり軸受において転動体や転動面へのグリース組成物からの基油の供給が安定して迅速に行われるため、微小な振動による微小揺動部分にも十分に基油が供給される。よって、フレッチングによる損傷が効果的に抑制される。
【0028】
フレッチング防止性能をはじめとする前述の各種性能を十分なものとするためには、スルホン酸塩の含有量をグリース組成物全体の1.5〜8.5質量%とすることが好ましく、2〜6.5質量%とすることがより好ましい。
このとき、増ちょう剤の含有量は、通常はグリース組成物全体の10〜20質量%程度であるが、本発明の場合は前述のような理由により通常よりも少量で十分であり、グリース組成物全体の5質量%以上且つ10質量%未満とすることが好ましい。そうすると、グリース組成物のちょう度は300〜200となる。
【0029】
増ちょう剤の含有量がグリース組成物全体の10質量%以上であると、相対的に基油の量が少なくなるので、潤滑性能が不十分となるおそれがある。また、5質量%未満であるとちょう度が大きくなるので、転がり軸受内でのグリース組成物の動きが激しくなって、トルク値やトルク変動が悪化するおそれがある。
このような不都合がより生じにくくし、より安定して基油を供給するためには、増ちょう剤の含有量はグリース組成物全体の7〜9質量%とすることがより好ましい。その場合は、グリース組成物のちょう度は280〜230となる。
【0030】
また、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの含有量とラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの合計の含有量との比(モル比)は、50:50〜90:10の範囲内とすることが好ましく、60:40〜80:20の範囲内とすることがより好ましい。この範囲から外れると前述の各種性能をさらに優れたものとする効果が不十分となる。
【0031】
さらに、請求項9〜11のグリース組成物においては、基油の40℃における動粘度は15〜55mm2 /sであることが好ましく、18〜33mm2 /sであることがより好ましい。この範囲から外れると前述の各種性能が不十分となるおそれがある。
なお、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムとともに増ちょう剤として使用されるラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムは、脂肪酸のリチウム塩であり、脂肪酸に含まれる炭素原子数はラウリン酸リチウムの場合は12個で、ミリスチン酸リチウムの場合は14個である。
【0032】
炭素数が10個以下の脂肪酸のリチウム塩は基油に対する溶解性が低いので、本発明において12−ヒドロキシステアリン酸リチウムとともに増ちょう剤として使用するには好ましくない。また、炭素数が16個以上の脂肪酸のリチウム塩は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムと性質が似ているので、用いる意味が乏しい。
【0033】
さらに、炭素数が20個以上の脂肪酸のリチウム塩は基油に対する溶解性が高すぎるので、増ちょう剤として性能(増ちょう能力)が劣る。そのため、目的とするちょう度を得るためには多量に添加する必要が生じて、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムのみを増ちょう剤とする場合と比較して高コストとなる。
炭素数が奇数個の脂肪酸は高価であり、グリース組成物の原料コストが大きく増大するので、使用することは好ましくない。
【0034】
さらに、本発明に係る請求項12のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はエステル油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記増ちょう剤はウレア化合物であり、前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有していることを特徴とする。
【0035】
このようなグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有しているので、高温性能に優れている。また、転がり軸受に封入すると摺動面に極薄い酸化被膜が形成されることから、転がり軸受に優れた音響性能,耐フレッチング性能を付与する性質を有している。さらに、発塵が少ないことに加えて、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を転がり軸受に付与する性質も併せて有している。そして、添加剤としてモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有しているので、これらの性能がより一層優れたものとなる。
【0036】
さらに、本発明に係る請求項13のグリース組成物は、請求項12に記載のグリース組成物において、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の合計の含有量は、グリース組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とする。
0.5質量%未満であると、フレッチング防止性能をはじめとする前記各種性能が不十分となるおそれがある。一方、10質量%を超えて添加しても、前記各種性能のさらなる向上は期待できない。
【0037】
請求項12及び請求項13のグリース組成物においては、基油の40℃における動粘度は20〜80mm2 /sであることが好ましい。20mm2 /s未満であると、グリース組成物を封入した転がり軸受の音響寿命が不十分となるおそれがある。一方、80mm2 /s超過であると、グリース組成物を封入した転がり軸受のトルク性能に問題が生じるおそれがある。
【0038】
また、請求項12及び請求項13のグリース組成物においては、増ちょう剤であるウレア化合物の含有量は、グリース組成物全体の5〜30質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、グリース組成物の高温性能が不十分となるばかりでなく、増ちょう剤が少なすぎてグリース状とすることが困難となる。一方、30質量%超過であると、相対的に基油の量が少なくなるので、潤滑性能が不十分となるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、ウレア化合物の含有量は、グリース組成物全体の8〜25質量%であることがより好ましい。
【0039】
さらに、請求項12及び請求項13のグリース組成物においては、混和ちょう度は180〜330であることが好ましい。180未満であると、グリース組成物が硬すぎて、グリース組成物を封入した転がり軸受のトルク性能に問題が生じるおそれがある。一方、330超過であると、グリース組成物が柔らかすぎて、発塵が多くなる。
【0040】
さらに、本発明に係る請求項14の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1〜13のいずれかに記載のグリース組成物を充填したことを特徴とする。
【0041】
このような構成であれば、転がり軸受は、発塵が少ない、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各性能を満足することに加えて、フレッチングが生じにくいという性能を備えている。よって、このような転がり軸受は、HDD,FDD,CDD,MOD,VTR等のような情報機器や各種事務機器等に好適に用いることができる。
【0042】
さらに、本発明に係る請求項15の電動モータは、回転軸が軸受によって回転自在に支持されてなる電動モータにおいて、前記軸受を請求項14に記載の転がり軸受としたことを特徴とする。このような構成であれば、フレッチングが生じにくい軸受を備えているので電動モータが長寿命である。
さらに、本発明に係る請求項16の電動モータは、請求項15の電動モータにおいて、電動モータへの非組み込み時には正の内部すきまを有する前記転がり軸受は、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする。
【0043】
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じても軽微である。
【0044】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み込まれていることとなる。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0045】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0046】
しかしながら、本発明に係る請求項16の電動モータは、前述したようなフレッチングが生じにくい軸受を備えているので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
以下に、本発明のグリース組成物を構成する各成分について説明する。
【0047】
〔基油について〕
グリース組成物に十分なフレッチング防止性能を付与し、さらに、発塵が少ない、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を付与するためには、基油はエステル油を含有する必要があり、その含有量は基油全体の50質量%以上とする必要がある。エステル油の含有量が基油全体の50質量%未満であると、上記の各種性能が不十分となるおそれがあり、特に、音響性能に対する悪影響が大きい。
【0048】
基油の40℃における動粘度は、15〜55mm2 /sであることが好ましく、18〜33mm2 /sであることがより好ましい。前記下限値よりも小さいと寿命や発塵性に問題が生じるおそれがあり、前記上限値よりも大きいとトルク性能に問題が生じるおそれがある。
エステル油の例としては、炭酸エステル,ジエステル油,ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油等があげられる。
【0049】
ジエステル油としては、例えば、一般式ROOC(CH2 )n COOR’で表されるものがあげられ、その具体例としては、アジピン酸ジイソデシル,アジピン酸ジオクチル,アゼライン酸ジイソデシル,セバシン酸ジオクチル等があげられる。
【0050】
また、ポリオールエステル油の具体例としては、ネオペンチルグリコールジエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状又は分岐鎖状の炭素数9個のものやオレイル基等),トリメチロールプロパントリエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,7個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ペンタエリスリトールテトラエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,8個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ジペンタエリスリトールヘキサエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6個のもの等)などである。
【0051】
さらに、芳香族エステル油の具体例としては、トリメリト酸トリオクチル,トリメリト酸トリデシル,ピロメリト酸テトラオクチル等があげられる。
これらのエステル油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明のグリース組成物においては、エステル油を50質量%以上含有するならば、他種の油を混合した混合油を基油として用いてもよい。混合可能な他の油としては、鉱油系潤滑油,合成油系潤滑油,及び天然油系潤滑油等があげられる。
【0052】
その種類は特に制限されるものではないが、鉱物系潤滑油としては、パラフィン系鉱物油,ナフテン系鉱物油,及びそれらの混合油等があげられる。
また、合成油系潤滑油としては、合成炭化水素油(脂肪族系,芳香族系),エーテル油,及びフッ素油等を使用できる。
具体的には、脂肪族系の合成炭化水素油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられ、芳香族系の合成炭化水素油としては、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどがあげられる。
【0053】
エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0054】
フッ素油としてはパーフルオロエーテル油,フルオロシリコーン油,クロロトリフルオロエチレン油,フルオロフォスファゼン油等を使用することができる。
上記以外の合成油系潤滑油としては、トリクレジルフォスフェート,シリコーン油などがあげられる。
また、天然油系潤滑油としては、牛脂,豚脂,大豆油,菜種油,米ぬか油,ヤシ油,パーム油,パーム核油等の油脂系油又はその水素化物などがあげられる。
【0055】
エステル油に混合するこれらの基油は、1種でもよいし、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
〔リチウム石けん及びリチウム複合石けんについて〕
リチウム石けんの例としては、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等のような1価の脂肪酸のリチウム塩があげられる。このようなリチウム石けんは、脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
【0056】
また、リチウム複合石けんの例としては、上記のリチウム石けんと2価の脂肪酸のリチウム塩とで構成されるものがあげられる。このようなリチウム複合石けんは、1価の脂肪酸と2価の脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
〔ウレア化合物について〕
本発明のグリース組成物において増ちょう剤として使用されるウレア化合物には、ジウレア,トリウレア,テトラウレア等のポリウレア化合物が使用できるが、特に、下記の一般式(I)で表されるジウレアが好ましい。
【0057】
【化1】
【0058】
なお、式(I)中のR1 及びR3 は脂肪族炭化水素基,脂環式炭化水素基,芳香族炭化水素基,又は縮合炭化水素基を表し、R1 とR3 は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、R2 は2価の芳香族炭化水素基を表す。
このようなジウレアは、別途合成したものを基油に分散させてもよいし、基油中で合成することによって基油に分散させてもよい。ただし、後者の方法の方が、基油中に増ちょう剤を良好に分散させやすいので、工業的に製造する場合には有利である。
【0059】
ジウレアを基油中で合成する場合の合成方法は特に限定されるものではないが、R2 の芳香族炭化水素基を有するジイソシアネート1モルと、R1 及びR3 の炭化水素基を有するモノアミン2モルとを、反応させる方法が最も好ましい。
ジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート,トリレンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,ビフェニレンジイソシアネート,ジメチルジフェニレンジイソシアネート,又はこれらのアルキル基置換体等を好適に使用できる。
【0060】
また、R1 及びR3 が脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アニリン,シクロヘキシルアミン,オクチルアミン,トルイジン,ドデシルアニリン,オクタデシルアミン,ヘキシルアミン,ヘプチルアミン,ノニルアミン,エチルヘキシルアミン,デシルアミン,ウンデシルアミン,ドデシルアミン,テトラデシルアミン,ペンタデシルアミン,ノナデシルアミン,エイコデシルアミン,オレイルアミン,リノレイルアミン,リノレニルアミン,メチルシクロヘキシルアミン,エチルシクロヘキシルアミン,ジメチルシクロヘキシルアミン,ジエチルシクロヘキシルアミン,ブチルシクロヘキシルアミン,プロピルシクロヘキシルアミン,アミルシクロヘキシルアミン,シクロオクチルアミン,ベンジルアミン,ベンズヒドリルアミン,フェネチルアミン,メチルベンジルアミン,ビフェニルアミン,フェニルイソプロピルアミン,フェニルヘキシルアミン等を好適に使用できる。
【0061】
さらに、R1 及びR3 が縮合炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アミノインデン、アミノインダン、アミノ−1−メチレンインデン等のインデン系アミン化合物、アミノナフタレン(ナフチルアミン)、アミノメチルナフタレン、アミノエチルナフタレン、アミノジメチルナフタレン、アミノカダレン、アミノビニルナフタレン、アミノ−1,2−ジヒドロナフタレン、アミノ−1,4−ジヒドロナフタレン、アミノテトラヒドロナフタレン、アミノオクタリン等のナフタレン系アミン化合物、アミノベンタレン、アミノアズレン、アミノヘプタレン等の縮合二環系アミン化合物などが好適に用いられる。
【0062】
〔スルホン酸塩について〕
スルホン酸塩の種類は特に限定されるものではないが、スルホン酸金属塩が好適に使用される。金属の種類は、アルカリ金属,アルカリ土類金属,亜鉛,銅が好ましく、カルシウム,バリウムが特に好ましい。このようなスルホン酸金属塩は、スルホン酸と金属水酸化物とから合成できる。なお、スルホン酸のアンモニウム塩等のような金属塩以外のスルホン酸塩も好適に使用可能である。
【0063】
スルホン酸の種類は特に限定されるものではなく、脂肪族スルホン酸でもよいし芳香族スルホン酸でもよい。脂肪族スルホン酸としては、例えば、炭素数1〜24の炭化水素基を有するものが好ましい。
また、芳香族スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸やナフタレンスルホン酸等が好ましく、これらの芳香族基は、1個以上の炭素数1〜24の炭化水素基で置換されていてもよい。芳香族スルホン酸の中では、特にジアルキルナフタレンスルホン酸が好ましく、そのアルキル基の炭素数は8〜10がより好ましく、9が最も好ましい。
【0064】
〔イオウ−リン系添加剤について〕
イオウ−リン系添加剤の種類は特に限定されるものではないが、チオリン酸構造やジチオリン酸構造を有する化合物が特に好ましい。例えば、下記の式(II)のようなジチオリン酸エステルや、式(III )及び式(IV)のようなチオリン酸エステルである。
【0065】
【化2】
【0066】
【化3】
【0067】
【化4】
【0068】
〔モリブデン化合物及び亜鉛化合物について〕
モリブデン化合物の具体例としては、モリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP),モリブデンのアミン錯体等があげられる。また、亜鉛化合物の具体例としては、亜鉛ジアルキルジチオフォスフェートのような亜鉛ジチオフォスフェート(Zn−DTP),亜鉛スルフォネート,ナフテン酸亜鉛,亜鉛ジチオカーバメート(Zn−DTC)等があげられる。
【0069】
〔その他の添加剤について〕
本発明のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、スルホン酸塩,イオウ−リン系添加剤,モリブデン化合物,及び亜鉛化合物以外の添加剤を所望により混合してもよい。例えば、アミン系,フェノール系,硫黄系,ジチオリン酸ニッケル等の酸化防止剤、ソルビタンエステル等の防錆剤、リン系等の極圧剤、脂肪酸,動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0070】
【発明の実施の形態】
本発明に係るグリース組成物,転がり軸受,及び電動モータの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図においては、同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
〔第一実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けん又はウレア化合物を含有し、添加剤としてスルホン酸塩を含有するものであり、請求項1〜3のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表1〜3に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表1〜3に示すように、実施例A1〜A7及び比較例A3〜A7のグリース組成物は、増ちょう剤として、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム,ウレア化合物のいずれかを含有している。なお、表中のジウレアAとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレアBとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレアCとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0075】
また、基油としては、40℃における動粘度が32mm2 /sの炭酸エステル、同じく33mm2 /sのポリオールエステル、同じく32mm2 /sのエーテル油、同じく30mm2 /sの合成炭化水素油のうちの1種又は2種を用いている。
さらに、添加剤であるスルホン酸塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN)、スルホン酸カルシウム(KING社製Nasul CA)、スルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS)、スルホン酸アンモニウム(KING社製Nasul AS)のうちの1種以上を用いている。
【0076】
なお、グリース組成物を製造する際には、スルホン酸塩はそのままで添加されるが、実施例A1及び比較例A7においてはジオクチルセバケート(以降はDOSと記す)に溶解させて、その溶液を添加した。また、実施例A4,A6及び比較例A6においてはポリα−オレフィン油(以降はPAOと記す)に溶解させて、その溶液を添加した。
【0077】
さらに、添加剤として、油性剤と酸化防止剤とが添加されている。油性剤としては、表中に示すような各種脂肪酸誘導体を用い、酸化防止剤としてはフェニル−1−ナフチルアミンを用いた。
そして、比較例A1及びA2のグリース組成物は、市販品のグリース組成物である。比較例A1のグリース組成物は、増ちょう剤として前述のジウレアBが使用され、基油として40℃における動粘度が33mm2 /sのポリオールエステルが使用されている。また、比較例A2のグリース組成物は、増ちょう剤として12−ヒドロキシステアリン酸リチウムが使用され、基油として40℃における動粘度が33mm2 /sのポリオールエステルと同じく12mm2 /sのジエステル油との混合油が使用されている。
【0078】
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能(トルク値及びトルク変動)を評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号684の密封玉軸受(内径4mm,外径9mm,幅4mm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、10mgのグリース組成物Gが充填されている。また、この転がり軸受1は5〜10μmの内部すきまを有している。
【0079】
次に、上記各種性能の評価方法について説明する。
〔トルク性能の評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を回転速度12000min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させた。このときの転がり軸受1の雰囲気温度は85℃である。そして、24時間回転させた後に、回転時のトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0080】
耐フレッチング性能及び音響性能の評価は、転がり軸受1を電動モータに組み込んで行った。電動モータの構成を図3を参照しながら説明する。一対の転がり軸受1,1をシャフト51と円筒状のケーシング52との間に介装した。このとき、転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。そして、シャフト51の外周面に固定されたステータ53と、該ステータ53にギャップを介して周面対向するようにケーシング52の内周面に固定されたロータ54と、で形成された駆動モータ55によって、ケーシング52がシャフト51を軸として回転駆動されるようになっている。
【0081】
〔音響性能の評価方法について〕
転がり軸受1の回転時の音響の大きさを後述する回転試験前後で比較し、音響の劣化の程度によって音響性能(音響耐久性)を評価した。回転試験の条件は、転がり軸受1を組み込んだ前述の電動モータを、雰囲気温度85℃、回転速度12000min−1で300時間回転(外輪回転)させるというものである。
【0082】
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
前記電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で5時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0083】
この振動を与えた電動モータを12000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。
前記各種性能の評価結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3においては、それぞれの性能が比較例A1と比べて大きく優れていた場合を「A」、やや優れていた場合を「B」、同等である場合を「C」、劣っていた場合を「D」で示してある。
【0084】
表1〜3から分かるように、実施例A1〜A7の転がり軸受は、現在一般に使用されている市販品のグリース(比較例A1,A2)等と比較して、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能が優れている。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と耐フレッチング性能との相関性について説明する。
【0085】
実施例A5において炭酸エステルとエーテル油の含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、以下の通りである。
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、上記転がり軸受の初期のG値を測定した。続いて、この転がり軸受を図4に示すようなフレッチング試験機に装着して揺動させ、フレッチング試験を行った。すなわち、サーボモータ20の軸21に転がり軸受1の内輪を装着し、外輪をハウジング22に装着した。そして、ハウジング22の上にウェイト23を載置し、アキシアル荷重15Nを転がり軸受1に負荷した状態で、サーボモータ20を振り幅3°、周波数4Hzで60分間揺動させた。このようにしてフレッチング試験を行った転がり軸受1をフレッチング試験機から取り外し、前述のアンデロンメータでG値を測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。
【0086】
基油全体におけるエステル油の含有量とG値上昇量との相関を、図5のグラフに示す。なお、このグラフに示したG値上昇量は、実施例A5(グリース組成物全体における炭酸エステルの含有量が72質量%で、エーテル油の含有量が10質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるエステル油の含有量が87.8質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0087】
グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
次に、スルホン酸塩の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例A5のグリース組成物においてスルホン酸カルシウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸カルシウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0088】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク及び発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
【0089】
〔トルクの評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0090】
〔発塵性の評価方法について〕
前述した音響性能の評価と同様に転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0091】
評価結果を図6のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、実施例A5のグリース組成物、すなわち、スルホン酸カルシウムの含有量が4質量%(スルホン酸亜鉛と合わせたスルホン酸塩の含有量は5質量%)であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
【0092】
図6のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸塩の含有量を1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましいことが分かる。
〔第二実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けん又はリチウム複合石けんを含有し、添加剤としてスルホン酸塩及びイオウ−リン系添加剤を含有するものであり、請求項4,5のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表4,5に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示す。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
これら10種(実施例B1〜B7及び比較例B1〜B3)のグリース組成物は、増ちょう剤として、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム,リチウム複合石けんのいずれかを用いた。なお、リチウム複合石けんは、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム75質量部とアゼライン酸リチウム25質量部とから構成されるものである。
【0096】
また、基油としては、40℃における動粘度が20〜23.3mm2 /sのものを使用して、混和ちょう度が255〜273になるようにグリース組成物を製造した。なお、2種の基油を混合して使用した場合は、表4,5には混合基油の動粘度を示してある。
さらに、イオウ−リン系添加剤としては、チバガイギ−社製のIrgalube 63(前記式(II)の化合物)を使用した。この他では、同社のIrgalube 211(前記式(III )の化合物)やIrgalube TPPT(前記式(IV)の化合物)等を好適に使用することができる。
【0097】
これら10種のグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能と音響性能とを評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号B5−39の深溝玉軸受(内径5mm,外径13mm,幅3mm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、該軸受空間容積の15体積%のグリース組成物Gが充填されている。
【0098】
次に、耐フレッチング性能と音響性能の評価方法について説明する。
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、上記転がり軸受1の初期のG値を測定した。続いて、この転がり軸受1を図4に示すようなフレッチング試験機に装着して揺動させ、フレッチング試験を行った。すなわち、サーボモータ20の軸21に転がり軸受1の内輪を装着し、外輪をハウジング22に装着した。そして、ハウジング22の上にウェイト23を載置し、アキシアル荷重15Nを転がり軸受1に負荷した状態で、サーボモータ20を振り幅3°、周波数4Hzで60分間揺動させた。このようにしてフレッチング試験を行った転がり軸受1をフレッチング試験機から取り外し、前述のアンデロンメータでG値を測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって、転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。初期のG値及びG値上昇量を、表4及び表5に示す。
【0099】
〔音響性能の評価方法について〕
上記転がり軸受1を図7に示すようなスピンドルモータに組み込んで回転させ、その際の騒音によって音響性能を評価した。すなわち、一対の転がり軸受1,1をモータ33のシャフト31に取り付け、ケーシング32で固定した。そして、アキシアル荷重12Nを転がり軸受1に負荷した状態で、内輪を室温下、回転速度5400min−1で回転させた。
【0100】
このときに発生する騒音を、スピンドルモータのハブ端面から1m離れた位置でマイクロホンにより測定した。そして、騒音が初期値よりも5dBA上昇するまでの時間を音響寿命として、この音響寿命により音響性能を評価した。音響寿命を表4及び表5に示す。なお、表4及び表5に記載の音響寿命は、比較例B1の転がり軸受の音響寿命を1とした場合の相対値で示してある。
【0101】
まず、音響性能の評価結果について考察する。実施例B1〜B7の転がり軸受は、いずれも十分に低騒音であった。また、実施例B1〜B7と比較例B1とを比べると、スルホン酸塩とイオウ−リン系添加剤とを添加すれば音響寿命が若干向上することがわかる。
次に、耐フレッチング性能の評価結果について考察する。実施例B5と比較例B2とは、グリース組成物の基油はジエステル油と合成炭化水素油の混合油であるが、両者の比較により、ジエステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。また、このことは、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチング試験後のG値上昇量との相関を示した図8のグラフからも、明らかである。
【0102】
なお、その理由は、スルホン酸塩とエステル油分子中に含まれる反応性に富むカルボニル基との間に何らかの化学的な相互作用が存在し、それがフレッチング防止性能に有利に作用しているためであると予測される。このような仮説は実施例B7から裏付けられる。すなわち、実施例B7においては、ジエステル油の含有量は基油全体の50質量%未満であるが、ジエステル油と同様にカルボニル基を有する炭酸エステル油を併用しているため、優れたフレッチング防止性能を有している。
【0103】
また、実施例B1〜B3の結果から分かるように、スルホン酸バリウムの含有量がグリース組成物全体の2質量%以上であれば、十分なフレッチング防止性能をグリース組成物に付与することができる。また、実施例B4と比較例B3との比較から、イオウ−リン系添加剤がスルホン酸バリウムと共存することによって、より優れたフレッチング防止性能を発揮することがわかる。
【0104】
ここで、スルホン酸塩及びイオウ−リン系添加剤の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例B1のグリース組成物において、イオウ−リン系添加剤の含有量を0.2質量%に固定し、スルホン酸バリウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸バリウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0105】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。トルク及び発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
〔トルクの評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0106】
〔発塵性の評価方法について〕
音響性能の評価と同様にして、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
評価結果を図9のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、スルホン酸バリウムの含有量が3.8質量%で、イオウ−リン系添加剤の含有量が0.2質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
【0107】
図9のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸バリウムとイオウ−リン系添加剤との合計の含有量を1.5〜10質量%とすることが好ましく、2.2〜8.2質量%(イオウ−リン系添加剤の含有量は0.2質量%であるから、スルホン酸バリウムの含有量は2〜8質量%となる)とすることがより好ましいことが分かる。
【0108】
〔第三実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有し、添加剤としてスルホン酸塩及びイオウ−リン系添加剤を含有するものであり、請求項4,5のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表6,7に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示す。
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
これら10種(実施例B11〜B16及び比較例B11〜B14)のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を用い、基油としては、40℃における動粘度が28.4〜32.0mm2 /sのものを使用して、混和ちょう度が238〜260になるようにグリース組成物を製造した。なお、2種の基油を混合して使用した場合は、表6,7には混合基油の動粘度を示してある。
【0112】
さらに、イオウ−リン系添加剤としては、チバガイギ−社製のIrgalube 63(前記式(II)の化合物)を使用した。この他では、同社のIrgalube 211(前記式(III )の化合物)やIrgalube TPPT(前記式(IV)の化合物)等を好適に使用することができる。
これら10種のグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能と音響性能とを評価した。
【0113】
転がり軸受の構成は第二実施形態と同様であるので、その説明は省略する。また、耐フレッチング性能と音響性能の評価方法は、一部の試験条件を除いては第二実施形態と同様であるので、異なる試験条件のみ説明する。すなわち、耐フレッチング性能の評価におけるアキシアル荷重は20Nであり、揺動時間は90分間である。また、音響性能の評価におけるアキシアル荷重は14.7Nであり、回転速度は7200min−1である。
【0114】
耐フレッチング性能の評価結果について考察する。実施例B15と比較例B13とは、グリース組成物の基油はポリオールエステル油及びエーテル油の混合油であるが、両者の比較により、ポリオールエステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
【0115】
なお、その理由は、スルホン酸塩とエステル油分子中に含まれる反応性に富むカルボニル基との間に何らかの化学的な相互作用が存在し、それがフレッチング防止性能に有利に作用しているためであると予測される。このような仮説は実施例B16から裏付けられる。すなわち、実施例B16においては、ポリオールエステル油の含有量は基油全体の50質量%未満であるが、ポリオールエステル油と同様にカルボニル基を有する炭酸エステル油を併用しているため、優れたフレッチング防止性能を有している。
【0116】
また、実施例B11〜B13の結果から分かるように、スルホン酸バリウムの含有量がグリース組成物全体の2質量%以上であれば、十分なフレッチング防止性能をグリース組成物に付与することができる。また、実施例B14と比較例B14との比較から、イオウ−リン系添加剤がスルホン酸バリウムと共存することによって、より優れたフレッチング防止性能を発揮することがわかる。
【0117】
〔第四実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けんを含有し、添加剤としてスルホン酸塩,モリブデン化合物,及び亜鉛化合物を含有するものであり、請求項6〜8のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表8〜10に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0118】
【表8】
【0119】
【表9】
【0120】
【表10】
【0121】
表8〜10に示すように、実施例C1〜C7及び比較例C1〜C7のグリース組成物は、増ちょう剤として、ステアリン酸リチウム及び12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの少なくとも一方を含有している。
また、基油としては、40℃における動粘度が18mm2 /sの炭酸エステル、同じく32mm2 /sの炭酸エステル、同じく20mm2 /sのトリメリト酸トリオクチル(以降はTOTMと記す)、同じく11mm2 /sのDOS、同じく20mm2 /sのポリオールエステル油(以降はPOEと記す)、同じく32mm2 /sのアルキルジフェニルエーテル(以降はADEと記す)、同じく30mm2 /sのPAOのうちの2種以上を混合してを用いている。
【0122】
さらに、添加剤であるスルホン酸塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN)及びスルホン酸カルシウム(KING社製NasulCA)の少なくとも一方を用いている。ただし、比較例の中にはスルホン酸塩を用いていないものもある。
なお、グリース組成物を製造する際には、スルホン酸塩はそのままで添加されるが、実施例C1及びC6においてはDOSに溶解させて、その溶液を添加した。また、実施例C4及びC7においてはPAOに溶解させて、その溶液を添加した。
【0123】
さらに、添加剤である亜鉛化合物としては、スルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS)、ジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)(旭電化社製キクルーブZ−112)、ジンクジチオカーバメイト(Zn−DTC)(バンダービルト社製Vanlube AZ)のうちのいずれかを用いている。ただし、比較例の中には亜鉛化合物を用いていないものもある。
【0124】
さらに、添加剤であるモリブデン化合物としては、ジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)(旭電化社製サクラルーブ300及びサクラルーブ310G)、モリブデンジチオカーバメイト(Mo−DTC)(旭電化社製サクラルーブ100)、モリブデン・アミン錯体(Mo−AM)(旭電化社製サクラルーブ700G)のうちのいずれかを用いている。ただし、比較例の中にはモリブデン化合物を用いていないものもある。
【0125】
さらに、その他の添加剤として、ジフェニルアミン系の酸化防止剤が添加されている。
これらのグリース組成物について、アウトガス(グリース組成物からの硫黄系ガスの発生量)を評価した。その方法は以下の通りである。0.02gのグリース組成物を25mlのバイアルビンに密封し、70℃で15時間加熱する。そして、バイアルビン内のガスをガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)で分析し、硫黄系ガスの量を測定した。
【0126】
また、各グリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,トルク性能(トルク値及びトルク変動),音響性能,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。なお、使用した転がり軸受の構成は、5〜10μmの内部すきまを有していることを除いては、第二実施形態において説明した呼び番号B5−39の深溝玉軸受と同様であるので、その説明は省略する。
【0127】
次に、耐フレッチング性能及びトルク性能の評価方法について説明する。
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
転がり軸受1を図4に示すようなフレッチング試験機に装着して揺動させ、フレッチング試験を行った。すなわち、サーボモータ20の軸21に転がり軸受1の内輪を装着し、外輪をハウジング22に装着した。そして、ハウジング22の上にウェイト23を載置し、アキシアル荷重15Nを転がり軸受1に負荷した状態で、サーボモータ20を振り幅3°、周波数4Hzで60分間揺動させた。
【0128】
このようにしてフレッチング試験を行った転がり軸受1をフレッチング試験機から取り外し、9Hzの振動及び29.3ラジアン/s2 の角加速度を付与しながら60分間回転させ、回転時に発生する音を測定した。そして、その音の大きさによって耐フレッチング性能を評価した。
〔トルク性能の評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0129】
次に、音響性能及び発塵性の評価方法について説明する。音響性能及び発塵性の評価は、第一実施形態と同様に転がり軸受1を電動モータ(図3を参照)に組み込んで行った(転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている)。
〔音響性能の評価方法について〕
前記電動モータを室温下にて回転速度5400min−1で回転(外輪回転)させ、回転時に発生する音響の大きさ評価した。なお、音響は、電動モータのケーシング52の上端面から1m離れた所に設置したマイクロホンで測定した。
【0130】
〔発塵性の評価方法について〕
音響性能の評価と同様にして、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、回転前後での転がり軸受の重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
前記各種性能の評価結果を表8〜10に示す。なお、表8〜10においては、情報機器用転がり軸受に用いるグリース組成物に要求される性能を基準として、特に優れていた場合を「A」、やや優れていた場合を「B」、同等である場合を「C」、劣っていた場合を「D」で示してある。
【0131】
表8〜10から分かるように、実施例C1〜C7は、アウトガス性能,耐フレッチング性能,音響性能,トルク性能,及び発塵性が優れていた。特に、アウトガス性能に関しては、比較例と比べて非常に優れていた。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と耐フレッチング性能との相関性について説明する。
【0132】
実施例C5において炭酸エステルとPAOの含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、前述したG値上昇量による方法である。
基油全体におけるエステル油の含有量とG値上昇量との相関を、図10のグラフに示す。なお、このグラフに示したG値上昇量は、実施例C5(グリース組成物全体における炭酸エステルの含有量が65.8質量%で、PAOの含有量が10質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるエステル油の含有量が86.8質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0133】
グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
次に、スルホン酸塩とモリブデン化合物と亜鉛化合物との好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例C5のグリース組成物においてスルホン酸バリウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸バリウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0134】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク及び発塵性の評価方法は、前述の方法(表8〜10に記載した両性能の評価方法)と同様である。
評価結果を図11のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、実施例C5のグリース組成物、すなわち、スルホン酸バリウムの含有量が2.5質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
【0135】
図11のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸塩とモリブデン化合物と亜鉛化合物との合計の含有量を1.5〜9質量%とすることが好ましく、2〜7質量%とすることがより好ましいことが分かる。
〔第五実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けんを含有し、添加剤としてスルホン酸塩を含有するものであり、請求項9〜11のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表11〜13に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度を併せて示す。
【0136】
【表11】
【0137】
【表12】
【0138】
【表13】
【0139】
表11に示すように、実施例D1〜D5のグリース組成物は、増ちょう剤として、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムとともに、ミリスチン酸リチウム又はラウリン酸リチウムを含有している。また、表12,13に示すように、比較例D1〜D6のグリース組成物は、増ちょう剤の構成や量、基油の構成等が本発明の好ましい範囲から外れたものである。
【0140】
なお、表11〜13の12−ヒドロキシステアリン酸リチウム,ミリスチン酸リチウム,ラウリン酸リチウムの欄に記載した数値は、グリース組成物に含有される前記3種の物質のモル比を示している。また、増ちょう剤量の欄に記載した数値は、グリース組成物全体における増ちょう剤の含有量(質量%)を示している。
【0141】
また、基油としては、40℃における動粘度が18mm2 /sの炭酸エステル、同じく32mm2 /sの炭酸エステル、同じく12mm2 /sのDOS、同じく33mm2 /sのPOE、同じく15mm2 /sのADE、同じく30mm2 /sのPAOのうちの2種以上を混合して用いている。
さらに、添加剤であるスルホン酸塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN),スルホン酸カルシウム(KING社製Nasul CA),スルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS),スルホン酸マグネシウム(KING社製Nasul MG),及びスルホン酸アンモニウム(KING社製Nasul AS)のうちの1種又は2種を用いている。ただし、比較例の中にはスルホン酸塩を用いていないものもある。
【0142】
さらに、その他の添加剤として、酸化防止剤であるアルキルジフェニルアミンが添加されている。なお、比較例D6のみには、極圧剤であるMo−DTP(旭電化社製サクラルーブ300)が添加されている。
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,トルク性能(トルク値),及び音響性能(初期音響性能及び音響耐久性)を評価した。上記の各種性能の評価方法について説明する。
【0143】
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm,内部すきま5〜10μm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図3に示すような電動モータに組み込んだ。このとき、転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。なお、電動モータの詳細な構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0144】
電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で2時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0145】
この振動を与えた電動モータを12000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。
〔音響性能の評価方法について〕
呼び番号608VVの転がり軸受(内径8mm,外径22mm,幅7mm)に前記各グリース組成物を300mg充填した(軸受空間容積の約40体積%)。そして、この転がり軸受を温度75℃,回転速度3600min−1の条件で1250時間回転させた。そして、この回転前後のアンデロン値を測定し、回転前のアンデロン値により初期音響特性を評価し、回転後のアンデロン値により音響耐久性を評価した。
【0146】
〔トルク性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図2に示すようなトルク測定装置に組み込んだ。トルク測定装置の構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0147】
そして、室温下、回転速度10000min−1で2時間回転させて(内輪回転)、その後の回転時のトルク値を測定した。
前記各種性能の評価結果を表11〜13に示す。なお、表11〜13においては、情報機器用転がり軸受に用いるグリース組成物に要求される性能を基準として、特に優れていた場合を「A」、やや優れていた場合を「B」、同等である場合を「C」、劣っていた場合を「D」で示してある。
【0148】
表11〜13から分かるように、実施例D1〜D5は、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能が優れていた。特に、耐フレッチング性能に関しては、比較例と比べて非常に優れていた。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と耐フレッチング性能との相関性について説明する。
【0149】
実施例D1において炭酸エステルとPAOの含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、前述したG値上昇量による方法である。
基油全体におけるエステル油の含有量とG値上昇量との相関を、図12のグラフに示す。なお、このグラフに示したG値上昇量は、実施例D1(グリース組成物全体における炭酸エステルの含有量が77.5質量%で、PAOの含有量が10質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるエステル油の含有量が88.6質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0150】
グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
次に、スルホン酸塩の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例D1のグリース組成物においてスルホン酸カルシウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸カルシウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0151】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク及び発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
〔トルクの評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図2に示すようなトルク測定装置に組み込んだ。トルク測定装置の構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。
【0152】
〔発塵性の評価方法について〕
第四実施形態における発塵性の評価と同様である。すなわち、転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0153】
評価結果を図13のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、実施例D1のグリース組成物、すなわち、スルホン酸カルシウムの含有量が3質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
図13のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸塩の含有量を1.5〜8.5質量%とすることが好ましく、2〜6.5質量%とすることがより好ましいことが分かる。
【0154】
〔第六実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有し、添加剤としてモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有するものであり、請求項12,13のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表14〜16に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0155】
【表14】
【0156】
【表15】
【0157】
【表16】
【0158】
表14〜16に示すように、実施例E1〜E7及び比較例E1〜E3のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有している。なお、表中のジウレアAとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレアBとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレアCとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0159】
また、実施例E1〜E7のグリース組成物は、基油としてエステル油を含有している。
さらに、実施例E1〜E7のグリース組成物は、添加剤としてモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有している。モリブデン化合物としてはジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)(旭電化社製サクラルーブ300)を用い、亜鉛化合物としてはジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)(旭電化社製キクルーブZ−112)を用いた。
【0160】
さらに、実施例E1〜E7及び比較例E1〜E5のグリース組成物は、その他の添加剤として、酸化防止剤(チバガイギー社製イルガノックスL57)約1質量%と、防錆剤(KING社製Nasul BSN)約1質量%と、腐食防止剤(チバガイギー社製イルガメット39)0.1質量%とを含有している。なお、これら3種の添加剤の合計の含有量は2質量%である。
【0161】
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能(トルク値)を評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号695VVの密封玉軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm,内部すきま5〜10μm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、10mgのグリース組成物Gが充填されている。
【0162】
次に、前述の各種性能の評価方法について説明する。
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図3に示すような電動モータに組み込んだ。このとき、転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。なお、電動モータの詳細な構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0163】
電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で2時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0164】
この振動を与えた電動モータを12000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。表14〜16においては、振動を与える前の音響の大きさの1.5倍以下であった場合は○印、1.5倍超過3倍以下であった場合は△印、3倍超過であった場合は×印で示してある。
【0165】
〔音響性能の評価方法について〕
呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を12mg充填した。この転がり軸受を図7に示すようなスピンドルモータに組み込んで回転させ、その際の騒音(アンデロンメータによるアンデロン値)によって音響性能を評価した。
【0166】
すなわち、一対の転がり軸受1,1をモータ33のシャフト31に取り付け、ケーシング32で固定した。そして、アキシアル荷重14.7Nを転がり軸受1に負荷した状態で、雰囲気温度120℃,回転速度2000min−1の条件で、内輪を2000時間回転させた。
そして、この回転前後のアンデロン値を測定し、アンデロン値の上昇量によって音響性能を評価した。表14〜16においては、回転後のアンデロン値が、回転前のアンデロン値の1.5倍以下であった場合は○印、1.5倍超過3倍以下であった場合は△印、3倍超過であった場合は×印で示してある。
【0167】
〔トルク性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を12mg充填し、図2に示すようなトルク測定装置に組み込んだ。トルク測定装置の構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0168】
そして、室温下、回転速度1800min−1で1時間回転(内輪回転)させた後に、同条件で回転時のトルク値を10分間測定した。表14〜16においては、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を用いた場合と比べてトルク値が小さかった場合は○印、同程度であった場合は△印、大きかった場合は×印で示してある。
【0169】
表14〜16から分かるように、実施例E1〜E7は、耐フレッチング性能,高温下での音響性能,及びトルク性能が優れていた。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と音響性能との相関性について説明する。
実施例E6においてポリオールエステル油とエーテル油の含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の音響性能を評価した。ここでの音響性能の評価方法は、前述したアンデロン値の上昇量による方法である。
【0170】
基油全体におけるエステル油の含有量と音響性能(アンデロン値の上昇量)との相関を、図14のグラフに示す。なお、このグラフに示したアンデロン値の上昇量は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受のアンデロン値の上昇量を1とした場合の相対値で示してある。グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上であると、優れた音響性能が発現されることが分かる。
【0171】
次に、基油粘度(40℃における動粘度)と音響寿命及びトルク性能との相関性について説明する。
実施例E1においてポリオールエステル油の動粘度を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の音響寿命及びトルク性能を評価した。ここでの音響寿命の評価方法は前述した方法と同様であり、また、トルク性能の評価方法は、図2のトルク測定装置により前述のようにトルク値を測定する方法(1時間回転させた後に10分間トルク値を測定する方法)である。
【0172】
ここで、音響寿命の評価方法を説明する。日本精工株式会社製の呼び番号B5−39の深溝玉軸受(内径5mm,外径13mm,幅3mm)の軸受空間内に、該軸受空間容積の15体積%の前記各グリース組成物を充填した。この転がり軸受1を図7に示すようなスピンドルモータに組み込んで回転させ、その際の騒音を測定した。
【0173】
すなわち、一対の転がり軸受1,1をモータ33のシャフト31に取り付け、ケーシング32で固定した。そして、アキシアル荷重12Nを転がり軸受1に負荷した状態で、内輪を室温下、回転速度5400min−1で回転させた。このときに発生する騒音を、スピンドルモータのハブ端面から1m離れた位置でマイクロホンにより測定した。そして、騒音が初期値よりも5dBA上昇するまでの時間を音響寿命とした。
【0174】
基油粘度(40℃における動粘度)と音響寿命及びトルク性能(トルク値)との相関を、図15のグラフに示す。なお、このグラフに示した音響寿命及びトルク値は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受の音響寿命及びトルク値を1とした場合の相対値で示してある。グラフから分かるように、基油の40℃における動粘度が20mm2 /s未満であると音響寿命が不十分であり、80mm2 /s超過であるとトルク値が高い。よって、音響寿命及びトルク性能をともに優れたものとするためには、基油の40℃における動粘度は20〜80mm2 /sであることが好ましい。
【0175】
次に、モリブデン化合物(Mo−DTP)の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例E1のグリース組成物においてMo−DTPの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、Mo−DTPの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0176】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能及び初期音響性能を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、図3の電動モータに転がり軸受を組み込んで行った前述の方法と全く同様である。また、初期音響性能は、前述の音響性能の評価(図7のスピンドルモータに転がり軸受を組み込んで回転前後のアンデロン値を測定する方法)において測定した「回転前のアンデロン値」によって評価した。
【0177】
Mo−DTPの含有量と耐フレッチング性能及び初期音響性能との相関を、図16のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能及び初期音響性能は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能及び初期音響性能を1とした場合の相対値で示してある。
【0178】
グラフから分かるように、Mo−DTPの含有量が0.5質量%未満であると耐フレッチング性能が不十分であり、10質量%超過であると初期音響性能が劣っていた。よって、耐フレッチング性能及び初期音響性能をともに優れたものとするためには、Mo−DTPの含有量は0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0179】
次に、増ちょう剤の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例E1のグリース組成物において増ちょう剤であるウレア化合物の含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、増ちょう剤の含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との合計量を一定に保ったまま、基油の含有量を変化させた。
【0180】
そして、各転がり軸受の発塵性(グリース組成物の飛散量)及び初期音響性能を評価した。
初期音響性能は、前述のように「回転前のアンデロン値」により評価した。また、発塵性も前述と全く同様にして評価した。すなわち、転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0181】
増ちょう剤の含有量と発塵性(グリース組成物の飛散量)及び初期音響性能との相関を、図17のグラフに示す。なお、このグラフに示したグリース組成物の飛散量及び初期音響性能は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受のグリース組成物の飛散量及び初期音響性能を1とした場合の相対値で示してある。
【0182】
グラフから分かるように、増ちょう剤の含有量が5質量%未満であるとグリース組成物の飛散量が多く、30質量%超過であると初期音響性能が劣っていた。よって、発塵性及び初期音響性能をともに優れたものとするためには、増ちょう剤の含有量は5〜30質量%であることが好ましい。
なお、これらの実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は前記各実施形態に限定されるものではない。
【0183】
例えば、前記各実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0184】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る請求項1〜請求項13のグリース組成物は、フレッチング防止性能に優れている。
また、本発明に係る請求項14の転がり軸受は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、フレッチングが生じにくい。
さらに、本発明に係る請求項15及び請求項16の電動モータは長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である転がり軸受の構成を示す縦断面図である。
【図2】トルク測定装置の構成を示す概略図である。
【図3】転がり軸受が組み込まれた電動モータの構成を示す縦断面図である。
【図4】フレッチング試験機の構成を示す概略図である。
【図5】第一実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図6】第一実施形態において、スルホン酸塩の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図7】音響性能の評価方法を説明するスピンドルモータの縦断面図である。
【図8】第二実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図9】第二実施形態において、スルホン酸バリウム及びイオウ−リン系添加剤の合計の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図10】第四実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図11】第四実施形態において、スルホン酸塩,モリブデン化合物,亜鉛化合物の合計の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図12】第五実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図13】第五実施形態において、スルホン酸塩の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図14】第六実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とアンデロン値の上昇量との相関を示すグラフである。
【図15】第六実施形態において、基油の動粘度と音響寿命及びトルク値との相関を示すグラフである。
【図16】第六実施形態において、Mo−DTPの含有量と耐フレッチング性能及び初期音響性能との相関を示すグラフである。
【図17】第六実施形態において、増ちょう剤の含有量とグリース組成物の飛散量及び初期音響性能との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 転がり軸受
10 内輪
11 外輪
12 玉
G グリース組成物
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた高温性能を有するグリース組成物に関する。また、本発明は、優れた音響寿命を有する転がり軸受に係り、特に、コンピュータに使用されるハードディスクドライブ(HDD)や各種事務機器等に好適な転がり軸受に関する。さらに、本発明は長寿命な電動モータに関する。
【0002】
【従来の技術】
HDD,フレキシブルディスクドライブ(FDD),コンパクトディスクドライブ(CDD),光磁気ディスクドライブ(MOD),ビデオテープレコーダ(VTR)等のような情報機器や、レーザービームプリンタ(LBP)等の事務機器に用いられる転がり軸受には、一般に、高速回転においても発塵(飛散)が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、長寿命であること等が要求される。
【0003】
特に、清浄な雰囲気下で使用されるHDDにおいては、回転時に軸受内部からガス状の油やグリースの微小な粒子が飛散すると、ディスクの表面を汚染して誤作動の原因となるため、飛散量を抑えることが最も重要なこととされている。
【0004】
このようなHDD用転がり軸受に封入されるグリース組成物としては、従来は、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースが用いられてきた。また、ジエステル油(例えばジオクチルセバケートなど)やポリオールエステル油(例えばペンタエリスリトールテトラエステルなど)のようなエステル油を基油としたリチウム石けんグリースや、炭酸エステルのようなエステル油を基油とした金属石けんグリースも、同様に用いられてきた。
さらに、ウレア化合物を増ちょう剤とし非エステル系油を基油とする、フレッチング防止性能に優れるグリース組成物が、特開2002−180077号公報に開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−180077号公報
【特許文献2】
特開2001−139979号公報
【特許文献3】
特開平8−209176号公報
【特許文献4】
特開2000−26875号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述のような従来のグリースが封入された転がり軸受は、前述した各種要求性能のすべてが十分に優れているとは言えなかった。
例えば、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースの場合は、飛散量は少ないものの、増ちょう剤の分散性が不十分で均質になりにくいため、転がり軸受が回転した際の音響性能や振動性能に問題があった。また、吸湿性が高く、グリースが経時的に硬化して転がり軸受内で流動性が低下するため、潤滑不良を起こしやすいという問題点も有していた。
【0007】
また、エステル油を基油としたリチウム石けんグリースの場合は、増ちょう剤の分散性が良好で音響性能や振動性能には問題がなく、転がり軸受は低トルクであるが、飛散性に問題があった。そのため、このような転がり軸受をHDDに用いる場合には、ディスクの汚染を防ぐために高価な磁性流体シールを併用していた。よって、コストアップに繋がり、また小型化に対するマイナス要因ともなっていた。
【0008】
さらに、近年、前述のような情報機器には記録密度の向上がますます求められているため、この情報機器に使用される転がり軸受には軸受精度及び回転速度の向上が図られている。その結果、転がり軸受の使用温度が上昇するため、エステル油を基油としたリチウム石けんグリースでは、音響性能やトルクが十分ではない場合があった。よって、高温においても同様以上の性能を発現するグリース組成物が望まれていた。
【0009】
さらに、前述した特開2002−180077号公報に開示のグリース組成物も、やはり高温においては音響寿命が十分ではないという問題点があった。
このような問題点を解決するために、モリブデンジチオフォスフェート等の極圧剤をグリースに配合した例(特開2001−139979号公報)が知られているが、十分な極圧効果が得られる量のモリブデンジチオフォスフェートを添加するとアウトガスが多くなるため、このようなグリースをHDD用転がり軸受に使用することには問題があった。また、HDDには極微量の硫黄成分でも悪影響があるので、硫黄成分を発生させるおそれのある前記極圧剤を含有するグリースをHDD用転がり軸受に使用することは好ましくなかった。
【0010】
一方、近年、前記情報機器に用いられる転がり軸受には、前述のような各種要求性能とともにフレッチングが生じにくいという性能が要求されるようになってきている。
前記情報機器は、運搬時又は携帯時に振動を受ける。また、近年、自動車に搭載されるカーナビゲーションシステムに前記情報機器が使用されるようになってきたため、前記情報機器が受ける振動はより大きくなってきている。
【0011】
情報機器に用いられている玉軸受,ころ軸受等の転がり軸受は、情報機器の運搬時等において生じる5〜10ヘルツ程度の低い周波数の振動によって、転がり軸受内の転動体(ボール又はころ)と軌道輪の軌道面とが損傷を受けて劣化しやすい。このようなフレッチングという現象が起きると、転がり軸受の音響性能が悪くなるばかりでなく、情報機器の性能そのものにも悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、フレッチング防止性能に優れたグリース組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、フレッチングが生じにくい転がり軸受を提供することを併せて課題とする。さらに、本発明は長寿命な電動モータを提供することを併せて課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はエステル油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記増ちょう剤は、リチウム石けん,リチウム複合石けん,及びウレア化合物のうちの少なくとも一種であり、前記添加剤はスルホン酸塩を含有していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る請求項2のグリース組成物は、請求項1のグリース組成物において、前記スルホン酸塩がジアルキルナフタレンスルホン酸塩であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記スルホン酸塩の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0015】
このようなグリース組成物は、エステル油を主成分とする基油と、スルホン酸塩を必須成分とする添加剤と、を含有しているので、転がり軸受に封入した場合等にフレッチング現象の発生を著しく抑制する性質を有している。また、発塵が少ないことに加えて、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を付与する性質も併せて有している。
【0016】
フレッチング現象の発生が抑制される理由は、以下に述べるようなものであると考えられる。すなわち、スルホン酸塩は金属に対して界面活性剤のように作用して、摺動面に生成した金属の新生面に吸着し、強固な被膜を形成する。そうすると、金属同士の直接的な接触が防止されるので、フレッチングによる損傷が抑制される。
【0017】
十分なフレッチング防止性能及び前記各種性能を得るためには、スルホン酸塩の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましい。
なお、増ちょう剤としては、リチウム石けん,リチウム複合石けん,及びウレア化合物のうちの少なくとも一種が用いられるが、これらのうちリチウム石けん又はリチウム複合石けんを使用すると、音響性能が良好である。
【0018】
また、本発明に係る請求項4のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記添加剤は、前記スルホン酸塩とともにイオウ−リン系添加剤を含有していることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項5のグリース組成物は、請求項4のグリース組成物において、前記イオウ−リン系添加剤の含有量は、グリース組成物全体の0.1〜0.5質量%であり、前記スルホン酸塩と前記イオウ−リン系添加剤との合計の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0019】
請求項4及び請求項5のグリース組成物は、前述の請求項1〜3のグリース組成物の場合と同様の理由により同様の性質を有しているが、添加剤としてスルホン酸塩とともにイオウ−リン系添加剤が併用されているため、フレッチング現象の発生を抑制する効果が高められている。
十分なフレッチング防止性能を得るためには、イオウ−リン系添加剤の含有量をグリース組成物全体の0.1〜0.5質量%とし、且つスルホン酸塩とイオウ−リン系添加剤との合計の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜10質量%とすることが好ましい。より好ましくは、イオウ−リン系添加剤の含有量がグリース組成物全体の0.1〜0.5質量%で、且つスルホン酸塩の含有量がグリース組成物全体の2〜8質量%である。このとき、イオウ−リン系添加剤の含有量が0.1質量%未満であるとフレッチング防止性能が不十分となり、0.5質量%超過であると、イオウ−リン系添加剤の種類によっては基油に完全に溶解せず、転がり軸受の音響性能が阻害されるおそれがある。
【0020】
また、本発明に係る請求項6のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記添加剤は、前記スルホン酸塩とともにモリブデン化合物及び亜鉛化合物を含有し、これら3種の化合物の合計の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜9質量%であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項7のグリース組成物は、請求項6のグリース組成物において、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の含有量は、それぞれグリース組成物全体の1.5質量%以下であることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明に係る請求項8のグリース組成物は、請求項6又は請求項7のグリース組成物において、前記モリブデン化合物の含有量と前記亜鉛化合物の含有量との質量比は、5:95〜95:5の範囲内であることを特徴とする。
請求項6〜8のグリース組成物は、前述の請求項1〜3のグリース組成物の場合と同様の理由により同様の性質を有しているが、添加剤としてスルホン酸塩とともにモリブデン化合物及び亜鉛化合物が併用されているため、低アウトガスであるという性質を併せて有している。
【0022】
アウトガス,フレッチング防止性能をはじめとする前述の各種性能を十分なものとするためには、スルホン酸塩とモリブデン化合物と亜鉛化合物との合計の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜9質量%とすることが好ましく、2〜7質量%とすることがより好ましい。
このとき、モリブデン化合物及び亜鉛化合物の含有量がそれぞれ1質量%を超えると、硫黄系のアウトガスの量が増加する傾向があるので、それぞれ1.5質量%以下とすることが好ましい。モリブデン化合物及び亜鉛化合物のうち一方を単独で使用した場合に含有量が1質量%以下であると、前述の各種性能を付与する効果が不十分となるが、両者を併用すればそれぞれの含有量が1質量%以下であっても、相乗効果によって前述の各種性能を付与する効果が十分となる。
【0023】
モリブデン化合物の含有量と亜鉛化合物の含有量との比(質量比)は5:95〜95:5の範囲内とすることが好ましく、この範囲から外れると前述の各種性能を付与する効果が不十分となる。
また、本発明に係る請求項9のグリース組成物は、請求項1又は請求項2のグリース組成物において、前記増ちょう剤は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムと、ラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの少なくとも一方と、を含有し、前記スルホン酸塩の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜8.5質量%であることを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明に係る請求項10のグリース組成物は、請求項9のグリース組成物において、前記増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の5質量%以上且つ10質量%未満で、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの含有量とラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの合計の含有量とのモル比は、50:50〜90:10の範囲内であることを特徴とする。
【0025】
さらに、本発明に係る請求項11のグリース組成物は、請求項9又は請求項10のグリース組成物において、前記基油の40℃における動粘度は、15〜55mm2 /sであることを特徴とする。
請求項9〜11のグリース組成物は、前述の請求項1〜3のグリース組成物の場合と同様の理由により同様の性質を有しているが、増ちょう剤が上記のような構成であるため、それらの性質がさらに優れたものとなる。
【0026】
すなわち、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムにより形成される網目構造が、ラウリン酸リチウム,ミリスチン酸リチウムにより補完されるため、使用する増ちょう剤の量が少なくても、グリース組成物のちょう度が小さくなる。これは、石けん繊維の長さや径が均質化されたことにより生じるものと考えられ、このようなグリース組成物を転がり軸受に封入すれば、優れた音響性能を有する転がり軸受が得られる。
【0027】
また、増ちょう剤の量が少なくなった分だけ基油の量が相対的に多くなるので、転がり軸受を長寿命とすることができる。さらに、網目構造が均質化されたことにより、転がり軸受において転動体や転動面へのグリース組成物からの基油の供給が安定して迅速に行われるため、微小な振動による微小揺動部分にも十分に基油が供給される。よって、フレッチングによる損傷が効果的に抑制される。
【0028】
フレッチング防止性能をはじめとする前述の各種性能を十分なものとするためには、スルホン酸塩の含有量をグリース組成物全体の1.5〜8.5質量%とすることが好ましく、2〜6.5質量%とすることがより好ましい。
このとき、増ちょう剤の含有量は、通常はグリース組成物全体の10〜20質量%程度であるが、本発明の場合は前述のような理由により通常よりも少量で十分であり、グリース組成物全体の5質量%以上且つ10質量%未満とすることが好ましい。そうすると、グリース組成物のちょう度は300〜200となる。
【0029】
増ちょう剤の含有量がグリース組成物全体の10質量%以上であると、相対的に基油の量が少なくなるので、潤滑性能が不十分となるおそれがある。また、5質量%未満であるとちょう度が大きくなるので、転がり軸受内でのグリース組成物の動きが激しくなって、トルク値やトルク変動が悪化するおそれがある。
このような不都合がより生じにくくし、より安定して基油を供給するためには、増ちょう剤の含有量はグリース組成物全体の7〜9質量%とすることがより好ましい。その場合は、グリース組成物のちょう度は280〜230となる。
【0030】
また、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの含有量とラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの合計の含有量との比(モル比)は、50:50〜90:10の範囲内とすることが好ましく、60:40〜80:20の範囲内とすることがより好ましい。この範囲から外れると前述の各種性能をさらに優れたものとする効果が不十分となる。
【0031】
さらに、請求項9〜11のグリース組成物においては、基油の40℃における動粘度は15〜55mm2 /sであることが好ましく、18〜33mm2 /sであることがより好ましい。この範囲から外れると前述の各種性能が不十分となるおそれがある。
なお、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムとともに増ちょう剤として使用されるラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムは、脂肪酸のリチウム塩であり、脂肪酸に含まれる炭素原子数はラウリン酸リチウムの場合は12個で、ミリスチン酸リチウムの場合は14個である。
【0032】
炭素数が10個以下の脂肪酸のリチウム塩は基油に対する溶解性が低いので、本発明において12−ヒドロキシステアリン酸リチウムとともに増ちょう剤として使用するには好ましくない。また、炭素数が16個以上の脂肪酸のリチウム塩は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムと性質が似ているので、用いる意味が乏しい。
【0033】
さらに、炭素数が20個以上の脂肪酸のリチウム塩は基油に対する溶解性が高すぎるので、増ちょう剤として性能(増ちょう能力)が劣る。そのため、目的とするちょう度を得るためには多量に添加する必要が生じて、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムのみを増ちょう剤とする場合と比較して高コストとなる。
炭素数が奇数個の脂肪酸は高価であり、グリース組成物の原料コストが大きく増大するので、使用することは好ましくない。
【0034】
さらに、本発明に係る請求項12のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、前記基油はエステル油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、前記増ちょう剤はウレア化合物であり、前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有していることを特徴とする。
【0035】
このようなグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有しているので、高温性能に優れている。また、転がり軸受に封入すると摺動面に極薄い酸化被膜が形成されることから、転がり軸受に優れた音響性能,耐フレッチング性能を付与する性質を有している。さらに、発塵が少ないことに加えて、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を転がり軸受に付与する性質も併せて有している。そして、添加剤としてモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有しているので、これらの性能がより一層優れたものとなる。
【0036】
さらに、本発明に係る請求項13のグリース組成物は、請求項12に記載のグリース組成物において、前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の合計の含有量は、グリース組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とする。
0.5質量%未満であると、フレッチング防止性能をはじめとする前記各種性能が不十分となるおそれがある。一方、10質量%を超えて添加しても、前記各種性能のさらなる向上は期待できない。
【0037】
請求項12及び請求項13のグリース組成物においては、基油の40℃における動粘度は20〜80mm2 /sであることが好ましい。20mm2 /s未満であると、グリース組成物を封入した転がり軸受の音響寿命が不十分となるおそれがある。一方、80mm2 /s超過であると、グリース組成物を封入した転がり軸受のトルク性能に問題が生じるおそれがある。
【0038】
また、請求項12及び請求項13のグリース組成物においては、増ちょう剤であるウレア化合物の含有量は、グリース組成物全体の5〜30質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、グリース組成物の高温性能が不十分となるばかりでなく、増ちょう剤が少なすぎてグリース状とすることが困難となる。一方、30質量%超過であると、相対的に基油の量が少なくなるので、潤滑性能が不十分となるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、ウレア化合物の含有量は、グリース組成物全体の8〜25質量%であることがより好ましい。
【0039】
さらに、請求項12及び請求項13のグリース組成物においては、混和ちょう度は180〜330であることが好ましい。180未満であると、グリース組成物が硬すぎて、グリース組成物を封入した転がり軸受のトルク性能に問題が生じるおそれがある。一方、330超過であると、グリース組成物が柔らかすぎて、発塵が多くなる。
【0040】
さらに、本発明に係る請求項14の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1〜13のいずれかに記載のグリース組成物を充填したことを特徴とする。
【0041】
このような構成であれば、転がり軸受は、発塵が少ない、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各性能を満足することに加えて、フレッチングが生じにくいという性能を備えている。よって、このような転がり軸受は、HDD,FDD,CDD,MOD,VTR等のような情報機器や各種事務機器等に好適に用いることができる。
【0042】
さらに、本発明に係る請求項15の電動モータは、回転軸が軸受によって回転自在に支持されてなる電動モータにおいて、前記軸受を請求項14に記載の転がり軸受としたことを特徴とする。このような構成であれば、フレッチングが生じにくい軸受を備えているので電動モータが長寿命である。
さらに、本発明に係る請求項16の電動モータは、請求項15の電動モータにおいて、電動モータへの非組み込み時には正の内部すきまを有する前記転がり軸受は、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする。
【0043】
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じても軽微である。
【0044】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み込まれていることとなる。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0045】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0046】
しかしながら、本発明に係る請求項16の電動モータは、前述したようなフレッチングが生じにくい軸受を備えているので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
以下に、本発明のグリース組成物を構成する各成分について説明する。
【0047】
〔基油について〕
グリース組成物に十分なフレッチング防止性能を付与し、さらに、発塵が少ない、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を付与するためには、基油はエステル油を含有する必要があり、その含有量は基油全体の50質量%以上とする必要がある。エステル油の含有量が基油全体の50質量%未満であると、上記の各種性能が不十分となるおそれがあり、特に、音響性能に対する悪影響が大きい。
【0048】
基油の40℃における動粘度は、15〜55mm2 /sであることが好ましく、18〜33mm2 /sであることがより好ましい。前記下限値よりも小さいと寿命や発塵性に問題が生じるおそれがあり、前記上限値よりも大きいとトルク性能に問題が生じるおそれがある。
エステル油の例としては、炭酸エステル,ジエステル油,ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油等があげられる。
【0049】
ジエステル油としては、例えば、一般式ROOC(CH2 )n COOR’で表されるものがあげられ、その具体例としては、アジピン酸ジイソデシル,アジピン酸ジオクチル,アゼライン酸ジイソデシル,セバシン酸ジオクチル等があげられる。
【0050】
また、ポリオールエステル油の具体例としては、ネオペンチルグリコールジエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状又は分岐鎖状の炭素数9個のものやオレイル基等),トリメチロールプロパントリエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,7個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ペンタエリスリトールテトラエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,8個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ジペンタエリスリトールヘキサエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6個のもの等)などである。
【0051】
さらに、芳香族エステル油の具体例としては、トリメリト酸トリオクチル,トリメリト酸トリデシル,ピロメリト酸テトラオクチル等があげられる。
これらのエステル油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明のグリース組成物においては、エステル油を50質量%以上含有するならば、他種の油を混合した混合油を基油として用いてもよい。混合可能な他の油としては、鉱油系潤滑油,合成油系潤滑油,及び天然油系潤滑油等があげられる。
【0052】
その種類は特に制限されるものではないが、鉱物系潤滑油としては、パラフィン系鉱物油,ナフテン系鉱物油,及びそれらの混合油等があげられる。
また、合成油系潤滑油としては、合成炭化水素油(脂肪族系,芳香族系),エーテル油,及びフッ素油等を使用できる。
具体的には、脂肪族系の合成炭化水素油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられ、芳香族系の合成炭化水素油としては、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどがあげられる。
【0053】
エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0054】
フッ素油としてはパーフルオロエーテル油,フルオロシリコーン油,クロロトリフルオロエチレン油,フルオロフォスファゼン油等を使用することができる。
上記以外の合成油系潤滑油としては、トリクレジルフォスフェート,シリコーン油などがあげられる。
また、天然油系潤滑油としては、牛脂,豚脂,大豆油,菜種油,米ぬか油,ヤシ油,パーム油,パーム核油等の油脂系油又はその水素化物などがあげられる。
【0055】
エステル油に混合するこれらの基油は、1種でもよいし、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
〔リチウム石けん及びリチウム複合石けんについて〕
リチウム石けんの例としては、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等のような1価の脂肪酸のリチウム塩があげられる。このようなリチウム石けんは、脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
【0056】
また、リチウム複合石けんの例としては、上記のリチウム石けんと2価の脂肪酸のリチウム塩とで構成されるものがあげられる。このようなリチウム複合石けんは、1価の脂肪酸と2価の脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
〔ウレア化合物について〕
本発明のグリース組成物において増ちょう剤として使用されるウレア化合物には、ジウレア,トリウレア,テトラウレア等のポリウレア化合物が使用できるが、特に、下記の一般式(I)で表されるジウレアが好ましい。
【0057】
【化1】
【0058】
なお、式(I)中のR1 及びR3 は脂肪族炭化水素基,脂環式炭化水素基,芳香族炭化水素基,又は縮合炭化水素基を表し、R1 とR3 は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、R2 は2価の芳香族炭化水素基を表す。
このようなジウレアは、別途合成したものを基油に分散させてもよいし、基油中で合成することによって基油に分散させてもよい。ただし、後者の方法の方が、基油中に増ちょう剤を良好に分散させやすいので、工業的に製造する場合には有利である。
【0059】
ジウレアを基油中で合成する場合の合成方法は特に限定されるものではないが、R2 の芳香族炭化水素基を有するジイソシアネート1モルと、R1 及びR3 の炭化水素基を有するモノアミン2モルとを、反応させる方法が最も好ましい。
ジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート,トリレンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,ビフェニレンジイソシアネート,ジメチルジフェニレンジイソシアネート,又はこれらのアルキル基置換体等を好適に使用できる。
【0060】
また、R1 及びR3 が脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アニリン,シクロヘキシルアミン,オクチルアミン,トルイジン,ドデシルアニリン,オクタデシルアミン,ヘキシルアミン,ヘプチルアミン,ノニルアミン,エチルヘキシルアミン,デシルアミン,ウンデシルアミン,ドデシルアミン,テトラデシルアミン,ペンタデシルアミン,ノナデシルアミン,エイコデシルアミン,オレイルアミン,リノレイルアミン,リノレニルアミン,メチルシクロヘキシルアミン,エチルシクロヘキシルアミン,ジメチルシクロヘキシルアミン,ジエチルシクロヘキシルアミン,ブチルシクロヘキシルアミン,プロピルシクロヘキシルアミン,アミルシクロヘキシルアミン,シクロオクチルアミン,ベンジルアミン,ベンズヒドリルアミン,フェネチルアミン,メチルベンジルアミン,ビフェニルアミン,フェニルイソプロピルアミン,フェニルヘキシルアミン等を好適に使用できる。
【0061】
さらに、R1 及びR3 が縮合炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アミノインデン、アミノインダン、アミノ−1−メチレンインデン等のインデン系アミン化合物、アミノナフタレン(ナフチルアミン)、アミノメチルナフタレン、アミノエチルナフタレン、アミノジメチルナフタレン、アミノカダレン、アミノビニルナフタレン、アミノ−1,2−ジヒドロナフタレン、アミノ−1,4−ジヒドロナフタレン、アミノテトラヒドロナフタレン、アミノオクタリン等のナフタレン系アミン化合物、アミノベンタレン、アミノアズレン、アミノヘプタレン等の縮合二環系アミン化合物などが好適に用いられる。
【0062】
〔スルホン酸塩について〕
スルホン酸塩の種類は特に限定されるものではないが、スルホン酸金属塩が好適に使用される。金属の種類は、アルカリ金属,アルカリ土類金属,亜鉛,銅が好ましく、カルシウム,バリウムが特に好ましい。このようなスルホン酸金属塩は、スルホン酸と金属水酸化物とから合成できる。なお、スルホン酸のアンモニウム塩等のような金属塩以外のスルホン酸塩も好適に使用可能である。
【0063】
スルホン酸の種類は特に限定されるものではなく、脂肪族スルホン酸でもよいし芳香族スルホン酸でもよい。脂肪族スルホン酸としては、例えば、炭素数1〜24の炭化水素基を有するものが好ましい。
また、芳香族スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸やナフタレンスルホン酸等が好ましく、これらの芳香族基は、1個以上の炭素数1〜24の炭化水素基で置換されていてもよい。芳香族スルホン酸の中では、特にジアルキルナフタレンスルホン酸が好ましく、そのアルキル基の炭素数は8〜10がより好ましく、9が最も好ましい。
【0064】
〔イオウ−リン系添加剤について〕
イオウ−リン系添加剤の種類は特に限定されるものではないが、チオリン酸構造やジチオリン酸構造を有する化合物が特に好ましい。例えば、下記の式(II)のようなジチオリン酸エステルや、式(III )及び式(IV)のようなチオリン酸エステルである。
【0065】
【化2】
【0066】
【化3】
【0067】
【化4】
【0068】
〔モリブデン化合物及び亜鉛化合物について〕
モリブデン化合物の具体例としては、モリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP),モリブデンのアミン錯体等があげられる。また、亜鉛化合物の具体例としては、亜鉛ジアルキルジチオフォスフェートのような亜鉛ジチオフォスフェート(Zn−DTP),亜鉛スルフォネート,ナフテン酸亜鉛,亜鉛ジチオカーバメート(Zn−DTC)等があげられる。
【0069】
〔その他の添加剤について〕
本発明のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、スルホン酸塩,イオウ−リン系添加剤,モリブデン化合物,及び亜鉛化合物以外の添加剤を所望により混合してもよい。例えば、アミン系,フェノール系,硫黄系,ジチオリン酸ニッケル等の酸化防止剤、ソルビタンエステル等の防錆剤、リン系等の極圧剤、脂肪酸,動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0070】
【発明の実施の形態】
本発明に係るグリース組成物,転がり軸受,及び電動モータの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図においては、同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
〔第一実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けん又はウレア化合物を含有し、添加剤としてスルホン酸塩を含有するものであり、請求項1〜3のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表1〜3に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表1〜3に示すように、実施例A1〜A7及び比較例A3〜A7のグリース組成物は、増ちょう剤として、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム,ウレア化合物のいずれかを含有している。なお、表中のジウレアAとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレアBとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレアCとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0075】
また、基油としては、40℃における動粘度が32mm2 /sの炭酸エステル、同じく33mm2 /sのポリオールエステル、同じく32mm2 /sのエーテル油、同じく30mm2 /sの合成炭化水素油のうちの1種又は2種を用いている。
さらに、添加剤であるスルホン酸塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN)、スルホン酸カルシウム(KING社製Nasul CA)、スルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS)、スルホン酸アンモニウム(KING社製Nasul AS)のうちの1種以上を用いている。
【0076】
なお、グリース組成物を製造する際には、スルホン酸塩はそのままで添加されるが、実施例A1及び比較例A7においてはジオクチルセバケート(以降はDOSと記す)に溶解させて、その溶液を添加した。また、実施例A4,A6及び比較例A6においてはポリα−オレフィン油(以降はPAOと記す)に溶解させて、その溶液を添加した。
【0077】
さらに、添加剤として、油性剤と酸化防止剤とが添加されている。油性剤としては、表中に示すような各種脂肪酸誘導体を用い、酸化防止剤としてはフェニル−1−ナフチルアミンを用いた。
そして、比較例A1及びA2のグリース組成物は、市販品のグリース組成物である。比較例A1のグリース組成物は、増ちょう剤として前述のジウレアBが使用され、基油として40℃における動粘度が33mm2 /sのポリオールエステルが使用されている。また、比較例A2のグリース組成物は、増ちょう剤として12−ヒドロキシステアリン酸リチウムが使用され、基油として40℃における動粘度が33mm2 /sのポリオールエステルと同じく12mm2 /sのジエステル油との混合油が使用されている。
【0078】
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能(トルク値及びトルク変動)を評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号684の密封玉軸受(内径4mm,外径9mm,幅4mm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、10mgのグリース組成物Gが充填されている。また、この転がり軸受1は5〜10μmの内部すきまを有している。
【0079】
次に、上記各種性能の評価方法について説明する。
〔トルク性能の評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を回転速度12000min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させた。このときの転がり軸受1の雰囲気温度は85℃である。そして、24時間回転させた後に、回転時のトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0080】
耐フレッチング性能及び音響性能の評価は、転がり軸受1を電動モータに組み込んで行った。電動モータの構成を図3を参照しながら説明する。一対の転がり軸受1,1をシャフト51と円筒状のケーシング52との間に介装した。このとき、転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。そして、シャフト51の外周面に固定されたステータ53と、該ステータ53にギャップを介して周面対向するようにケーシング52の内周面に固定されたロータ54と、で形成された駆動モータ55によって、ケーシング52がシャフト51を軸として回転駆動されるようになっている。
【0081】
〔音響性能の評価方法について〕
転がり軸受1の回転時の音響の大きさを後述する回転試験前後で比較し、音響の劣化の程度によって音響性能(音響耐久性)を評価した。回転試験の条件は、転がり軸受1を組み込んだ前述の電動モータを、雰囲気温度85℃、回転速度12000min−1で300時間回転(外輪回転)させるというものである。
【0082】
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
前記電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で5時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0083】
この振動を与えた電動モータを12000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。
前記各種性能の評価結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3においては、それぞれの性能が比較例A1と比べて大きく優れていた場合を「A」、やや優れていた場合を「B」、同等である場合を「C」、劣っていた場合を「D」で示してある。
【0084】
表1〜3から分かるように、実施例A1〜A7の転がり軸受は、現在一般に使用されている市販品のグリース(比較例A1,A2)等と比較して、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能が優れている。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と耐フレッチング性能との相関性について説明する。
【0085】
実施例A5において炭酸エステルとエーテル油の含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、以下の通りである。
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、上記転がり軸受の初期のG値を測定した。続いて、この転がり軸受を図4に示すようなフレッチング試験機に装着して揺動させ、フレッチング試験を行った。すなわち、サーボモータ20の軸21に転がり軸受1の内輪を装着し、外輪をハウジング22に装着した。そして、ハウジング22の上にウェイト23を載置し、アキシアル荷重15Nを転がり軸受1に負荷した状態で、サーボモータ20を振り幅3°、周波数4Hzで60分間揺動させた。このようにしてフレッチング試験を行った転がり軸受1をフレッチング試験機から取り外し、前述のアンデロンメータでG値を測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。
【0086】
基油全体におけるエステル油の含有量とG値上昇量との相関を、図5のグラフに示す。なお、このグラフに示したG値上昇量は、実施例A5(グリース組成物全体における炭酸エステルの含有量が72質量%で、エーテル油の含有量が10質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるエステル油の含有量が87.8質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0087】
グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
次に、スルホン酸塩の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例A5のグリース組成物においてスルホン酸カルシウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸カルシウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0088】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク及び発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
【0089】
〔トルクの評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0090】
〔発塵性の評価方法について〕
前述した音響性能の評価と同様に転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0091】
評価結果を図6のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、実施例A5のグリース組成物、すなわち、スルホン酸カルシウムの含有量が4質量%(スルホン酸亜鉛と合わせたスルホン酸塩の含有量は5質量%)であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
【0092】
図6のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸塩の含有量を1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましいことが分かる。
〔第二実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けん又はリチウム複合石けんを含有し、添加剤としてスルホン酸塩及びイオウ−リン系添加剤を含有するものであり、請求項4,5のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表4,5に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示す。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
これら10種(実施例B1〜B7及び比較例B1〜B3)のグリース組成物は、増ちょう剤として、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム,リチウム複合石けんのいずれかを用いた。なお、リチウム複合石けんは、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム75質量部とアゼライン酸リチウム25質量部とから構成されるものである。
【0096】
また、基油としては、40℃における動粘度が20〜23.3mm2 /sのものを使用して、混和ちょう度が255〜273になるようにグリース組成物を製造した。なお、2種の基油を混合して使用した場合は、表4,5には混合基油の動粘度を示してある。
さらに、イオウ−リン系添加剤としては、チバガイギ−社製のIrgalube 63(前記式(II)の化合物)を使用した。この他では、同社のIrgalube 211(前記式(III )の化合物)やIrgalube TPPT(前記式(IV)の化合物)等を好適に使用することができる。
【0097】
これら10種のグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能と音響性能とを評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号B5−39の深溝玉軸受(内径5mm,外径13mm,幅3mm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、該軸受空間容積の15体積%のグリース組成物Gが充填されている。
【0098】
次に、耐フレッチング性能と音響性能の評価方法について説明する。
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、上記転がり軸受1の初期のG値を測定した。続いて、この転がり軸受1を図4に示すようなフレッチング試験機に装着して揺動させ、フレッチング試験を行った。すなわち、サーボモータ20の軸21に転がり軸受1の内輪を装着し、外輪をハウジング22に装着した。そして、ハウジング22の上にウェイト23を載置し、アキシアル荷重15Nを転がり軸受1に負荷した状態で、サーボモータ20を振り幅3°、周波数4Hzで60分間揺動させた。このようにしてフレッチング試験を行った転がり軸受1をフレッチング試験機から取り外し、前述のアンデロンメータでG値を測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって、転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。初期のG値及びG値上昇量を、表4及び表5に示す。
【0099】
〔音響性能の評価方法について〕
上記転がり軸受1を図7に示すようなスピンドルモータに組み込んで回転させ、その際の騒音によって音響性能を評価した。すなわち、一対の転がり軸受1,1をモータ33のシャフト31に取り付け、ケーシング32で固定した。そして、アキシアル荷重12Nを転がり軸受1に負荷した状態で、内輪を室温下、回転速度5400min−1で回転させた。
【0100】
このときに発生する騒音を、スピンドルモータのハブ端面から1m離れた位置でマイクロホンにより測定した。そして、騒音が初期値よりも5dBA上昇するまでの時間を音響寿命として、この音響寿命により音響性能を評価した。音響寿命を表4及び表5に示す。なお、表4及び表5に記載の音響寿命は、比較例B1の転がり軸受の音響寿命を1とした場合の相対値で示してある。
【0101】
まず、音響性能の評価結果について考察する。実施例B1〜B7の転がり軸受は、いずれも十分に低騒音であった。また、実施例B1〜B7と比較例B1とを比べると、スルホン酸塩とイオウ−リン系添加剤とを添加すれば音響寿命が若干向上することがわかる。
次に、耐フレッチング性能の評価結果について考察する。実施例B5と比較例B2とは、グリース組成物の基油はジエステル油と合成炭化水素油の混合油であるが、両者の比較により、ジエステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。また、このことは、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチング試験後のG値上昇量との相関を示した図8のグラフからも、明らかである。
【0102】
なお、その理由は、スルホン酸塩とエステル油分子中に含まれる反応性に富むカルボニル基との間に何らかの化学的な相互作用が存在し、それがフレッチング防止性能に有利に作用しているためであると予測される。このような仮説は実施例B7から裏付けられる。すなわち、実施例B7においては、ジエステル油の含有量は基油全体の50質量%未満であるが、ジエステル油と同様にカルボニル基を有する炭酸エステル油を併用しているため、優れたフレッチング防止性能を有している。
【0103】
また、実施例B1〜B3の結果から分かるように、スルホン酸バリウムの含有量がグリース組成物全体の2質量%以上であれば、十分なフレッチング防止性能をグリース組成物に付与することができる。また、実施例B4と比較例B3との比較から、イオウ−リン系添加剤がスルホン酸バリウムと共存することによって、より優れたフレッチング防止性能を発揮することがわかる。
【0104】
ここで、スルホン酸塩及びイオウ−リン系添加剤の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例B1のグリース組成物において、イオウ−リン系添加剤の含有量を0.2質量%に固定し、スルホン酸バリウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸バリウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0105】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。トルク及び発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
〔トルクの評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0106】
〔発塵性の評価方法について〕
音響性能の評価と同様にして、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
評価結果を図9のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、スルホン酸バリウムの含有量が3.8質量%で、イオウ−リン系添加剤の含有量が0.2質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
【0107】
図9のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸バリウムとイオウ−リン系添加剤との合計の含有量を1.5〜10質量%とすることが好ましく、2.2〜8.2質量%(イオウ−リン系添加剤の含有量は0.2質量%であるから、スルホン酸バリウムの含有量は2〜8質量%となる)とすることがより好ましいことが分かる。
【0108】
〔第三実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有し、添加剤としてスルホン酸塩及びイオウ−リン系添加剤を含有するものであり、請求項4,5のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表6,7に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示す。
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
これら10種(実施例B11〜B16及び比較例B11〜B14)のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を用い、基油としては、40℃における動粘度が28.4〜32.0mm2 /sのものを使用して、混和ちょう度が238〜260になるようにグリース組成物を製造した。なお、2種の基油を混合して使用した場合は、表6,7には混合基油の動粘度を示してある。
【0112】
さらに、イオウ−リン系添加剤としては、チバガイギ−社製のIrgalube 63(前記式(II)の化合物)を使用した。この他では、同社のIrgalube 211(前記式(III )の化合物)やIrgalube TPPT(前記式(IV)の化合物)等を好適に使用することができる。
これら10種のグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能と音響性能とを評価した。
【0113】
転がり軸受の構成は第二実施形態と同様であるので、その説明は省略する。また、耐フレッチング性能と音響性能の評価方法は、一部の試験条件を除いては第二実施形態と同様であるので、異なる試験条件のみ説明する。すなわち、耐フレッチング性能の評価におけるアキシアル荷重は20Nであり、揺動時間は90分間である。また、音響性能の評価におけるアキシアル荷重は14.7Nであり、回転速度は7200min−1である。
【0114】
耐フレッチング性能の評価結果について考察する。実施例B15と比較例B13とは、グリース組成物の基油はポリオールエステル油及びエーテル油の混合油であるが、両者の比較により、ポリオールエステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
【0115】
なお、その理由は、スルホン酸塩とエステル油分子中に含まれる反応性に富むカルボニル基との間に何らかの化学的な相互作用が存在し、それがフレッチング防止性能に有利に作用しているためであると予測される。このような仮説は実施例B16から裏付けられる。すなわち、実施例B16においては、ポリオールエステル油の含有量は基油全体の50質量%未満であるが、ポリオールエステル油と同様にカルボニル基を有する炭酸エステル油を併用しているため、優れたフレッチング防止性能を有している。
【0116】
また、実施例B11〜B13の結果から分かるように、スルホン酸バリウムの含有量がグリース組成物全体の2質量%以上であれば、十分なフレッチング防止性能をグリース組成物に付与することができる。また、実施例B14と比較例B14との比較から、イオウ−リン系添加剤がスルホン酸バリウムと共存することによって、より優れたフレッチング防止性能を発揮することがわかる。
【0117】
〔第四実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けんを含有し、添加剤としてスルホン酸塩,モリブデン化合物,及び亜鉛化合物を含有するものであり、請求項6〜8のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表8〜10に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0118】
【表8】
【0119】
【表9】
【0120】
【表10】
【0121】
表8〜10に示すように、実施例C1〜C7及び比較例C1〜C7のグリース組成物は、増ちょう剤として、ステアリン酸リチウム及び12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの少なくとも一方を含有している。
また、基油としては、40℃における動粘度が18mm2 /sの炭酸エステル、同じく32mm2 /sの炭酸エステル、同じく20mm2 /sのトリメリト酸トリオクチル(以降はTOTMと記す)、同じく11mm2 /sのDOS、同じく20mm2 /sのポリオールエステル油(以降はPOEと記す)、同じく32mm2 /sのアルキルジフェニルエーテル(以降はADEと記す)、同じく30mm2 /sのPAOのうちの2種以上を混合してを用いている。
【0122】
さらに、添加剤であるスルホン酸塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN)及びスルホン酸カルシウム(KING社製NasulCA)の少なくとも一方を用いている。ただし、比較例の中にはスルホン酸塩を用いていないものもある。
なお、グリース組成物を製造する際には、スルホン酸塩はそのままで添加されるが、実施例C1及びC6においてはDOSに溶解させて、その溶液を添加した。また、実施例C4及びC7においてはPAOに溶解させて、その溶液を添加した。
【0123】
さらに、添加剤である亜鉛化合物としては、スルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS)、ジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)(旭電化社製キクルーブZ−112)、ジンクジチオカーバメイト(Zn−DTC)(バンダービルト社製Vanlube AZ)のうちのいずれかを用いている。ただし、比較例の中には亜鉛化合物を用いていないものもある。
【0124】
さらに、添加剤であるモリブデン化合物としては、ジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)(旭電化社製サクラルーブ300及びサクラルーブ310G)、モリブデンジチオカーバメイト(Mo−DTC)(旭電化社製サクラルーブ100)、モリブデン・アミン錯体(Mo−AM)(旭電化社製サクラルーブ700G)のうちのいずれかを用いている。ただし、比較例の中にはモリブデン化合物を用いていないものもある。
【0125】
さらに、その他の添加剤として、ジフェニルアミン系の酸化防止剤が添加されている。
これらのグリース組成物について、アウトガス(グリース組成物からの硫黄系ガスの発生量)を評価した。その方法は以下の通りである。0.02gのグリース組成物を25mlのバイアルビンに密封し、70℃で15時間加熱する。そして、バイアルビン内のガスをガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)で分析し、硫黄系ガスの量を測定した。
【0126】
また、各グリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,トルク性能(トルク値及びトルク変動),音響性能,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。なお、使用した転がり軸受の構成は、5〜10μmの内部すきまを有していることを除いては、第二実施形態において説明した呼び番号B5−39の深溝玉軸受と同様であるので、その説明は省略する。
【0127】
次に、耐フレッチング性能及びトルク性能の評価方法について説明する。
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
転がり軸受1を図4に示すようなフレッチング試験機に装着して揺動させ、フレッチング試験を行った。すなわち、サーボモータ20の軸21に転がり軸受1の内輪を装着し、外輪をハウジング22に装着した。そして、ハウジング22の上にウェイト23を載置し、アキシアル荷重15Nを転がり軸受1に負荷した状態で、サーボモータ20を振り幅3°、周波数4Hzで60分間揺動させた。
【0128】
このようにしてフレッチング試験を行った転がり軸受1をフレッチング試験機から取り外し、9Hzの振動及び29.3ラジアン/s2 の角加速度を付与しながら60分間回転させ、回転時に発生する音を測定した。そして、その音の大きさによって耐フレッチング性能を評価した。
〔トルク性能の評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0129】
次に、音響性能及び発塵性の評価方法について説明する。音響性能及び発塵性の評価は、第一実施形態と同様に転がり軸受1を電動モータ(図3を参照)に組み込んで行った(転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている)。
〔音響性能の評価方法について〕
前記電動モータを室温下にて回転速度5400min−1で回転(外輪回転)させ、回転時に発生する音響の大きさ評価した。なお、音響は、電動モータのケーシング52の上端面から1m離れた所に設置したマイクロホンで測定した。
【0130】
〔発塵性の評価方法について〕
音響性能の評価と同様にして、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、回転前後での転がり軸受の重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
前記各種性能の評価結果を表8〜10に示す。なお、表8〜10においては、情報機器用転がり軸受に用いるグリース組成物に要求される性能を基準として、特に優れていた場合を「A」、やや優れていた場合を「B」、同等である場合を「C」、劣っていた場合を「D」で示してある。
【0131】
表8〜10から分かるように、実施例C1〜C7は、アウトガス性能,耐フレッチング性能,音響性能,トルク性能,及び発塵性が優れていた。特に、アウトガス性能に関しては、比較例と比べて非常に優れていた。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と耐フレッチング性能との相関性について説明する。
【0132】
実施例C5において炭酸エステルとPAOの含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、前述したG値上昇量による方法である。
基油全体におけるエステル油の含有量とG値上昇量との相関を、図10のグラフに示す。なお、このグラフに示したG値上昇量は、実施例C5(グリース組成物全体における炭酸エステルの含有量が65.8質量%で、PAOの含有量が10質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるエステル油の含有量が86.8質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0133】
グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
次に、スルホン酸塩とモリブデン化合物と亜鉛化合物との好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例C5のグリース組成物においてスルホン酸バリウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸バリウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0134】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク及び発塵性の評価方法は、前述の方法(表8〜10に記載した両性能の評価方法)と同様である。
評価結果を図11のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、実施例C5のグリース組成物、すなわち、スルホン酸バリウムの含有量が2.5質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
【0135】
図11のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸塩とモリブデン化合物と亜鉛化合物との合計の含有量を1.5〜9質量%とすることが好ましく、2〜7質量%とすることがより好ましいことが分かる。
〔第五実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてリチウム石けんを含有し、添加剤としてスルホン酸塩を含有するものであり、請求項9〜11のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表11〜13に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度を併せて示す。
【0136】
【表11】
【0137】
【表12】
【0138】
【表13】
【0139】
表11に示すように、実施例D1〜D5のグリース組成物は、増ちょう剤として、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムとともに、ミリスチン酸リチウム又はラウリン酸リチウムを含有している。また、表12,13に示すように、比較例D1〜D6のグリース組成物は、増ちょう剤の構成や量、基油の構成等が本発明の好ましい範囲から外れたものである。
【0140】
なお、表11〜13の12−ヒドロキシステアリン酸リチウム,ミリスチン酸リチウム,ラウリン酸リチウムの欄に記載した数値は、グリース組成物に含有される前記3種の物質のモル比を示している。また、増ちょう剤量の欄に記載した数値は、グリース組成物全体における増ちょう剤の含有量(質量%)を示している。
【0141】
また、基油としては、40℃における動粘度が18mm2 /sの炭酸エステル、同じく32mm2 /sの炭酸エステル、同じく12mm2 /sのDOS、同じく33mm2 /sのPOE、同じく15mm2 /sのADE、同じく30mm2 /sのPAOのうちの2種以上を混合して用いている。
さらに、添加剤であるスルホン酸塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN),スルホン酸カルシウム(KING社製Nasul CA),スルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS),スルホン酸マグネシウム(KING社製Nasul MG),及びスルホン酸アンモニウム(KING社製Nasul AS)のうちの1種又は2種を用いている。ただし、比較例の中にはスルホン酸塩を用いていないものもある。
【0142】
さらに、その他の添加剤として、酸化防止剤であるアルキルジフェニルアミンが添加されている。なお、比較例D6のみには、極圧剤であるMo−DTP(旭電化社製サクラルーブ300)が添加されている。
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,トルク性能(トルク値),及び音響性能(初期音響性能及び音響耐久性)を評価した。上記の各種性能の評価方法について説明する。
【0143】
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm,内部すきま5〜10μm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図3に示すような電動モータに組み込んだ。このとき、転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。なお、電動モータの詳細な構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0144】
電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で2時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0145】
この振動を与えた電動モータを12000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。
〔音響性能の評価方法について〕
呼び番号608VVの転がり軸受(内径8mm,外径22mm,幅7mm)に前記各グリース組成物を300mg充填した(軸受空間容積の約40体積%)。そして、この転がり軸受を温度75℃,回転速度3600min−1の条件で1250時間回転させた。そして、この回転前後のアンデロン値を測定し、回転前のアンデロン値により初期音響特性を評価し、回転後のアンデロン値により音響耐久性を評価した。
【0146】
〔トルク性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図2に示すようなトルク測定装置に組み込んだ。トルク測定装置の構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0147】
そして、室温下、回転速度10000min−1で2時間回転させて(内輪回転)、その後の回転時のトルク値を測定した。
前記各種性能の評価結果を表11〜13に示す。なお、表11〜13においては、情報機器用転がり軸受に用いるグリース組成物に要求される性能を基準として、特に優れていた場合を「A」、やや優れていた場合を「B」、同等である場合を「C」、劣っていた場合を「D」で示してある。
【0148】
表11〜13から分かるように、実施例D1〜D5は、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能が優れていた。特に、耐フレッチング性能に関しては、比較例と比べて非常に優れていた。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と耐フレッチング性能との相関性について説明する。
【0149】
実施例D1において炭酸エステルとPAOの含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、前述したG値上昇量による方法である。
基油全体におけるエステル油の含有量とG値上昇量との相関を、図12のグラフに示す。なお、このグラフに示したG値上昇量は、実施例D1(グリース組成物全体における炭酸エステルの含有量が77.5質量%で、PAOの含有量が10質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるエステル油の含有量が88.6質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0150】
グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上でないと、十分なフレッチング防止性能を発揮できないことが分かる。
次に、スルホン酸塩の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例D1のグリース組成物においてスルホン酸カルシウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸カルシウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0151】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク及び発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
〔トルクの評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図2に示すようなトルク測定装置に組み込んだ。トルク測定装置の構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。
【0152】
〔発塵性の評価方法について〕
第四実施形態における発塵性の評価と同様である。すなわち、転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0153】
評価結果を図13のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の測定値は、実施例D1のグリース組成物、すなわち、スルホン酸カルシウムの含有量が3質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
図13のグラフから、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸塩の含有量を1.5〜8.5質量%とすることが好ましく、2〜6.5質量%とすることがより好ましいことが分かる。
【0154】
〔第六実施形態〕
以下に説明する実施例のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有し、添加剤としてモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有するものであり、請求項12,13のグリース組成物の実施形態に相当するものである。表14〜16に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0155】
【表14】
【0156】
【表15】
【0157】
【表16】
【0158】
表14〜16に示すように、実施例E1〜E7及び比較例E1〜E3のグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を含有している。なお、表中のジウレアAとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレアBとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレアCとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0159】
また、実施例E1〜E7のグリース組成物は、基油としてエステル油を含有している。
さらに、実施例E1〜E7のグリース組成物は、添加剤としてモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有している。モリブデン化合物としてはジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)(旭電化社製サクラルーブ300)を用い、亜鉛化合物としてはジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)(旭電化社製キクルーブZ−112)を用いた。
【0160】
さらに、実施例E1〜E7及び比較例E1〜E5のグリース組成物は、その他の添加剤として、酸化防止剤(チバガイギー社製イルガノックスL57)約1質量%と、防錆剤(KING社製Nasul BSN)約1質量%と、腐食防止剤(チバガイギー社製イルガメット39)0.1質量%とを含有している。なお、これら3種の添加剤の合計の含有量は2質量%である。
【0161】
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能(トルク値)を評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号695VVの密封玉軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm,内部すきま5〜10μm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、10mgのグリース組成物Gが充填されている。
【0162】
次に、前述の各種性能の評価方法について説明する。
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を10mg充填し(軸受空間容積の約10体積%)、図3に示すような電動モータに組み込んだ。このとき、転がり軸受1は、19.6Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。なお、電動モータの詳細な構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0163】
電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で2時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0164】
この振動を与えた電動モータを12000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。表14〜16においては、振動を与える前の音響の大きさの1.5倍以下であった場合は○印、1.5倍超過3倍以下であった場合は△印、3倍超過であった場合は×印で示してある。
【0165】
〔音響性能の評価方法について〕
呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を12mg充填した。この転がり軸受を図7に示すようなスピンドルモータに組み込んで回転させ、その際の騒音(アンデロンメータによるアンデロン値)によって音響性能を評価した。
【0166】
すなわち、一対の転がり軸受1,1をモータ33のシャフト31に取り付け、ケーシング32で固定した。そして、アキシアル荷重14.7Nを転がり軸受1に負荷した状態で、雰囲気温度120℃,回転速度2000min−1の条件で、内輪を2000時間回転させた。
そして、この回転前後のアンデロン値を測定し、アンデロン値の上昇量によって音響性能を評価した。表14〜16においては、回転後のアンデロン値が、回転前のアンデロン値の1.5倍以下であった場合は○印、1.5倍超過3倍以下であった場合は△印、3倍超過であった場合は×印で示してある。
【0167】
〔トルク性能の評価方法について〕
ゴムシールを備えた呼び番号695VVの転がり軸受(内径5mm,外径13mm,幅4mm)に前記各グリース組成物を12mg充填し、図2に示すようなトルク測定装置に組み込んだ。トルク測定装置の構成は前述のものと同様であるので、その説明は省略する。
【0168】
そして、室温下、回転速度1800min−1で1時間回転(内輪回転)させた後に、同条件で回転時のトルク値を10分間測定した。表14〜16においては、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を用いた場合と比べてトルク値が小さかった場合は○印、同程度であった場合は△印、大きかった場合は×印で示してある。
【0169】
表14〜16から分かるように、実施例E1〜E7は、耐フレッチング性能,高温下での音響性能,及びトルク性能が優れていた。
次に、基油全体におけるエステル油の含有量と音響性能との相関性について説明する。
実施例E6においてポリオールエステル油とエーテル油の含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の音響性能を評価した。ここでの音響性能の評価方法は、前述したアンデロン値の上昇量による方法である。
【0170】
基油全体におけるエステル油の含有量と音響性能(アンデロン値の上昇量)との相関を、図14のグラフに示す。なお、このグラフに示したアンデロン値の上昇量は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受のアンデロン値の上昇量を1とした場合の相対値で示してある。グラフから分かるように、エステル油の含有量が基油全体の50質量%以上であると、優れた音響性能が発現されることが分かる。
【0171】
次に、基油粘度(40℃における動粘度)と音響寿命及びトルク性能との相関性について説明する。
実施例E1においてポリオールエステル油の動粘度を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の音響寿命及びトルク性能を評価した。ここでの音響寿命の評価方法は前述した方法と同様であり、また、トルク性能の評価方法は、図2のトルク測定装置により前述のようにトルク値を測定する方法(1時間回転させた後に10分間トルク値を測定する方法)である。
【0172】
ここで、音響寿命の評価方法を説明する。日本精工株式会社製の呼び番号B5−39の深溝玉軸受(内径5mm,外径13mm,幅3mm)の軸受空間内に、該軸受空間容積の15体積%の前記各グリース組成物を充填した。この転がり軸受1を図7に示すようなスピンドルモータに組み込んで回転させ、その際の騒音を測定した。
【0173】
すなわち、一対の転がり軸受1,1をモータ33のシャフト31に取り付け、ケーシング32で固定した。そして、アキシアル荷重12Nを転がり軸受1に負荷した状態で、内輪を室温下、回転速度5400min−1で回転させた。このときに発生する騒音を、スピンドルモータのハブ端面から1m離れた位置でマイクロホンにより測定した。そして、騒音が初期値よりも5dBA上昇するまでの時間を音響寿命とした。
【0174】
基油粘度(40℃における動粘度)と音響寿命及びトルク性能(トルク値)との相関を、図15のグラフに示す。なお、このグラフに示した音響寿命及びトルク値は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受の音響寿命及びトルク値を1とした場合の相対値で示してある。グラフから分かるように、基油の40℃における動粘度が20mm2 /s未満であると音響寿命が不十分であり、80mm2 /s超過であるとトルク値が高い。よって、音響寿命及びトルク性能をともに優れたものとするためには、基油の40℃における動粘度は20〜80mm2 /sであることが好ましい。
【0175】
次に、モリブデン化合物(Mo−DTP)の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例E1のグリース組成物においてMo−DTPの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、Mo−DTPの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0176】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能及び初期音響性能を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、図3の電動モータに転がり軸受を組み込んで行った前述の方法と全く同様である。また、初期音響性能は、前述の音響性能の評価(図7のスピンドルモータに転がり軸受を組み込んで回転前後のアンデロン値を測定する方法)において測定した「回転前のアンデロン値」によって評価した。
【0177】
Mo−DTPの含有量と耐フレッチング性能及び初期音響性能との相関を、図16のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能及び初期音響性能は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能及び初期音響性能を1とした場合の相対値で示してある。
【0178】
グラフから分かるように、Mo−DTPの含有量が0.5質量%未満であると耐フレッチング性能が不十分であり、10質量%超過であると初期音響性能が劣っていた。よって、耐フレッチング性能及び初期音響性能をともに優れたものとするためには、Mo−DTPの含有量は0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0179】
次に、増ちょう剤の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例E1のグリース組成物において増ちょう剤であるウレア化合物の含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、増ちょう剤の含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との合計量を一定に保ったまま、基油の含有量を変化させた。
【0180】
そして、各転がり軸受の発塵性(グリース組成物の飛散量)及び初期音響性能を評価した。
初期音響性能は、前述のように「回転前のアンデロン値」により評価した。また、発塵性も前述と全く同様にして評価した。すなわち、転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0181】
増ちょう剤の含有量と発塵性(グリース組成物の飛散量)及び初期音響性能との相関を、図17のグラフに示す。なお、このグラフに示したグリース組成物の飛散量及び初期音響性能は、市販のグリース組成物(協同油脂株式会社製マルテンプSRL)を充填した転がり軸受のグリース組成物の飛散量及び初期音響性能を1とした場合の相対値で示してある。
【0182】
グラフから分かるように、増ちょう剤の含有量が5質量%未満であるとグリース組成物の飛散量が多く、30質量%超過であると初期音響性能が劣っていた。よって、発塵性及び初期音響性能をともに優れたものとするためには、増ちょう剤の含有量は5〜30質量%であることが好ましい。
なお、これらの実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は前記各実施形態に限定されるものではない。
【0183】
例えば、前記各実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0184】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る請求項1〜請求項13のグリース組成物は、フレッチング防止性能に優れている。
また、本発明に係る請求項14の転がり軸受は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、フレッチングが生じにくい。
さらに、本発明に係る請求項15及び請求項16の電動モータは長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である転がり軸受の構成を示す縦断面図である。
【図2】トルク測定装置の構成を示す概略図である。
【図3】転がり軸受が組み込まれた電動モータの構成を示す縦断面図である。
【図4】フレッチング試験機の構成を示す概略図である。
【図5】第一実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図6】第一実施形態において、スルホン酸塩の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図7】音響性能の評価方法を説明するスピンドルモータの縦断面図である。
【図8】第二実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図9】第二実施形態において、スルホン酸バリウム及びイオウ−リン系添加剤の合計の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図10】第四実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図11】第四実施形態において、スルホン酸塩,モリブデン化合物,亜鉛化合物の合計の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図12】第五実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とフレッチングさせた後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図13】第五実施形態において、スルホン酸塩の含有量と、耐フレッチング性能,トルク,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【図14】第六実施形態において、基油全体におけるエステル油の含有量とアンデロン値の上昇量との相関を示すグラフである。
【図15】第六実施形態において、基油の動粘度と音響寿命及びトルク値との相関を示すグラフである。
【図16】第六実施形態において、Mo−DTPの含有量と耐フレッチング性能及び初期音響性能との相関を示すグラフである。
【図17】第六実施形態において、増ちょう剤の含有量とグリース組成物の飛散量及び初期音響性能との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 転がり軸受
10 内輪
11 外輪
12 玉
G グリース組成物
Claims (16)
- 基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、
前記基油はエステル油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、
前記増ちょう剤は、リチウム石けん,リチウム複合石けん,及びウレア化合物のうちの少なくとも一種であり、
前記添加剤はスルホン酸塩を含有していることを特徴とするグリース組成物。 - 前記スルホン酸塩がジアルキルナフタレンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
- 前記スルホン酸塩の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
- 前記添加剤は、前記スルホン酸塩とともにイオウ−リン系添加剤を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
- 前記イオウ−リン系添加剤の含有量は、グリース組成物全体の0.1〜0.5質量%であり、前記スルホン酸塩と前記イオウ−リン系添加剤との合計の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする請求項4に記載のグリース組成物。
- 前記添加剤は、前記スルホン酸塩とともにモリブデン化合物及び亜鉛化合物を含有し、これら3種の化合物の合計の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜9質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
- 前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の含有量は、それぞれグリース組成物全体の1.5質量%以下であることを特徴とする請求項6に記載のグリース組成物。
- 前記モリブデン化合物の含有量と前記亜鉛化合物の含有量との質量比は、5:95〜95:5の範囲内であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のグリース組成物。
- 前記増ちょう剤は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムと、ラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの少なくとも一方と、を含有し、
前記スルホン酸塩の含有量は、グリース組成物全体の1.5〜8.5質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。 - 前記増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の5質量%以上且つ10質量%未満で、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの含有量とラウリン酸リチウム及びミリスチン酸リチウムの合計の含有量とのモル比は、50:50〜90:10の範囲内であることを特徴とする請求項9に記載のグリース組成物。
- 前記基油の40℃における動粘度は、15〜55mm2 /sであることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のグリース組成物。
- 基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、
前記基油はエステル油を含有しており、その含有量は基油全体の50質量%以上であり、
前記増ちょう剤はウレア化合物であり、
前記添加剤はモリブデン化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有していることを特徴とするグリース組成物。 - 前記モリブデン化合物及び前記亜鉛化合物の合計の含有量は、グリース組成物全体の0.5〜10質量%であることを特徴とする請求項12に記載のグリース組成物。
- 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、
前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1〜13のいずれかに記載のグリース組成物を充填したことを特徴とする転がり軸受。 - 回転軸が軸受によって回転自在に支持されてなる電動モータにおいて、前記軸受を請求項14に記載の転がり軸受としたことを特徴とする電動モータ。
- 電動モータへの非組み込み時には正の内部すきまを有する前記転がり軸受は、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする請求項15に記載の電動モータ。
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