JP2004332768A - 車両用転動装置及び電動モータ - Google Patents
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Abstract
【課題】走行中の車両において振動を受けながら間欠的に作動してもフレッチングが生じにくく長寿命な車両用転動装置及び電動モータを提供する。
【解決手段】正の内部すきまを有する転がり軸受10の空隙部内に、基油と増ちょう剤とイオウ化合物からなる添加剤とを含有するグリース組成物Gを封入した。
そして、この転がり軸受10を、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込んだ。
【選択図】 図1
【解決手段】正の内部すきまを有する転がり軸受10の空隙部内に、基油と増ちょう剤とイオウ化合物からなる添加剤とを含有するグリース組成物Gを封入した。
そして、この転がり軸受10を、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込んだ。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に積載される機器に好適な車両用転動装置及び電動モータに係り、特に、走行中の車両において間欠的に作動する(常時作動しているとは限らない)車両用転動装置及び電動モータに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車,鉄道車両等の車両は走行時には振動するので、前記車両に積載される機器(例えば、冷房装置等の空調装置やワイパー)は、前記車両の走行中には振動を受けることとなる。
このような車両に積載される機器に好適な電動モータ用転がり軸受としては、下記の特許文献1に記載のものがある。また、車両に積載される機器に使用されている転がり軸受に好適なグリース組成物としては、下記の特許文献2,3に記載のものがある。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−69700号公報
【特許文献2】
特開平8−113793号公報
【特許文献3】
特開平11−80770号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
車両に積載される機器は、例えば空調装置やワイパーのように、必ずしも常時作動しているとは限らず、間欠的に作動するものがある。つまり、車両は走行しているが前記機器は作動していないという場合がある。そうすると、前記機器に使用されている転がり軸受は、回転していない状態において振動を受けることとなるので、フレッチングが発生しやすく、早期に異音が発生するようになるという問題があった。
【0005】
しかしながら、前記公報に記載の電動モータ用転がり軸受やグリース組成物は、フレッチングについては特に考慮されていない。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、走行中の車両において振動を受けながら間欠的に作動してもフレッチングが生じにくく長寿命な車両用転動装置及び電動モータを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の車両用転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に封入されたグリース組成物と、を備えるとともに、走行中の車両に積載され且つ間欠的に作動する車両用転動装置であって、前記グリース組成物は基油と増ちょう剤とイオウ化合物からなる添加剤とを含有しており、前記イオウ化合物からなる添加剤の含有量は前記グリース組成物全体の0.5〜15質量%であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る請求項2の車両用転動装置は、請求項1に記載の車両用転動装置において、前記イオウ化合物からなる添加剤は、ベンジルスルフィド,ポリスルフィド,硫化油脂,チオウレア,チオカーボネート,モリブデンジチオフォスフェート,及びモリブデンジチオカーバメートの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0008】
前記グリース組成物は、イオウ化合物からなる添加剤を含有しているので、封入された転動装置に優れた耐フレッチング性を付与する性質を有している(すなわち、前記グリース組成物は優れたフレッチング防止性能を有している)。よって、上記のような構成の車両用転動装置は、走行中の車両において振動を受けながら間欠的に作動しても、フレッチングが生じにくく長寿命である。また、前記グリース組成物は優れた耐熱性を有しているので、本発明の車両用転動装置は高温環境下においても長寿命である。
【0009】
車両用転動装置の耐フレッチング性を十分なものとするためには、イオウ化合物からなる添加剤の含有量を、グリース組成物全体の0.5〜15質量%とすることが好ましい。0.5質量%未満では、耐フレッチング性が不十分となるおそれがある。一方、15質量%を超えて含有しても、耐フレッチング性のさらなる向上は期待できないばかりか、基油や増ちょう剤の含有量が相対的に少なくなるため、グリース組成物の潤滑性が不十分となって寿命(耐焼付き性)に対して悪影響を及ぼすおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、イオウ化合物からなる添加剤の含有量は、グリース組成物全体の1〜8質量%とすることがより好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係る請求項3の車両用転動装置は、請求項1又は請求項2に記載の車両用転動装置において、正の内部すきまを有する転がり軸受であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項4の電動モータは、請求項3に記載の転がり軸受によって回転軸が回転自在に支持されてなる電動モータであって、前記転がり軸受は、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする。
【0011】
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じても軽微である。
【0012】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み込まれていることとなる。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0013】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0014】
しかしながら、本発明の電動モータは、前述したようなフレッチングが生じにくい転がり軸受を備えているので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。ここで、本発明における前記内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、前記外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0015】
以下に、本発明の車両用転動装置に使用される前記グリース組成物を構成する各成分について説明する。
〔増ちょう剤について〕
使用可能な増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、金属石けん,金属複合石けん,ウレア化合物等が好適であるが、特に、耐熱性や耐水性に優れるウレア化合物が好ましい。ウレア化合物としては、例えば、ジウレア,トリウレア,テトラウレア等のポリウレア化合物があげられる。
【0016】
増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の5〜40質量%であることが好ましい。5質量%未満では、グリース組成物の耐熱性が不十分となるばかりでなく、増ちょう剤が少なすぎて組成物をグリース状とすることが困難となる。一方、40質量%超過であると、基油の含有量が相対的に少なくなるため潤滑性が不十分となるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の8〜30質量%とすることがより好ましい。
【0017】
〔基油について〕
本発明において使用可能な基油の種類は特に限定されるものではなく、合成油系潤滑油,鉱油系潤滑油等があげられる。
合成油系潤滑油としては、合成炭化水素油(脂肪族系,芳香族系),エステル油,エーテル油,及びフッ素油等を使用できる。
【0018】
具体的には、脂肪族系の合成炭化水素油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられ、芳香族系の合成炭化水素油としては、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどがあげられる。
【0019】
エステル油としては、炭酸エステル,ジエステル油,ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油等があげられる。
エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0020】
フッ素油としてはパーフルオロポリエーテル油,フルオロシリコーン油,クロロパーフルオロエーテル油,フルオロフォスファゼン油等があげられる。
また、鉱油系潤滑油としては、パラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,及びそれらの混合油等があげられる。粘度指数120以上の高度精製された鉱油系潤滑油は、合成油系潤滑油と同等の温度−粘度特性を示すので、より好ましい。
【0021】
これらの各種油は単独で使用してもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。ただし、高温,高速条件下での潤滑性及び潤滑寿命を考慮すると、エステル油やエーテル油を含有していることが好ましい。そして、フレッチング防止性能を考えると、エステル油が特に好ましい。
基油の動粘度は特に限定されるものではないが、低温起動時の流動性や高温での油膜形成能を考えると、40℃における動粘度は60〜150mm2 /sであることが好ましい。
【0022】
〔イオウ化合物からなる添加剤について〕
本発明において使用可能なイオウ化合物からなる添加剤の種類は特に限定されるものではないが、ベンジルスルフィド,ポリスルフィド,硫化油脂,チオウレア,チオカーボネートが好ましい。また、モリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP),モリブデンジチオカーバメート(Mo−DTC)等の極圧性のモリブデン化合物も好ましい。
【0023】
〔その他の添加剤について〕
本発明におけるグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。例えば、防錆剤,金属不活性化剤,油性剤,酸化防止剤,極圧剤,摩耗防止剤,固体潤滑剤等があげられる。
防錆剤の種類は特に限定されるものではないが、スルホン酸,カルボン酸の金属塩系防錆剤、エステル系防錆剤、アミン系防錆剤、界面活性剤系防錆剤等があげられる。
【0024】
具体的には、スルホン酸のアンモニウム塩及び金属塩(アルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩(バリウム,カルシウム,マグネシウム等),亜鉛塩),カルボン酸塩,フェネート,ホスフェートがあげられる。また、アルキルコハク酸エステル,アルケニルコハク酸エステル等のアルキルコハク酸誘導体,アルケニルコハク酸誘導体も、防錆剤として好ましく使用できる。さらに、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル,オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類,1−メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類又はその金属塩,ステアリン酸等の高級脂肪酸又はそのエステル,2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等のチアジアゾール類,ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類,ジスルフィド化合物,トリスノニルフェニルフォスファイト等のリン酸エステル類,ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル化合物,亜硝酸塩等も使用可能である。
【0025】
なお、フッ素系グリースに対しては、無機化合物(酸化マグネシウム,酸化チタン等),ベンゾトリアゾール系防錆剤,フッ素系防錆剤が好ましい。フッ素系防錆剤とは、具体的には、パーフルオロアルキル構造,パーフルオロエーテル構造,又はパーフルオロポリエーテル構造を有し、末端官能基がアルコール変性,カルボキシル変性,又はイソシアネート変性されたものである。
【0026】
また、金属不活性化剤の種類は特に限定されるものではないが、ベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物等があげられる。
さらに、油性剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、オレイン酸,ステアリン酸等の脂肪酸、オレイルアルコール等の脂肪族アルコール、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル等の脂肪酸エステル、リン酸、トリクレジルホスフェート、ラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸等のリン酸エステルなどがあげられる。
【0027】
さらに、酸化防止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族アミン,芳香族アミン等のアミン化合物や、フェノール系化合物などがあげられる。
さらに、耐荷重性を高める極圧剤,摩耗防止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、亜鉛,テルル,アンチモン,セレン,鉄,銅等のジチオカルバミン酸塩や、亜鉛,アンチモン等のジチオリン酸塩等があげられる。また、オクチル酸鉄,ナフテン酸銅,ジブチルスズサルファイド,フェネート,ホスフェート等も使用可能である。
【0028】
さらに、固体潤滑剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、グラファイト,ポリテトラフルオロエチレン,窒化ホウ素,窒化物微粒子,金属酸化物微粒子(マグネシア等)などがあげられる。
なお、上記したその他の添加剤の具体例の中には、スルホン酸塩,チアジアゾール類,ジスルフィド,リン酸エステル,ジチオカルバミン酸塩,ジチオリン酸塩等のイオウ化合物が含まれているが、これらのイオウ化合物は、前述したイオウ化合物からなる添加剤と同様に耐フレッチング性を付与する性質を有している。よって、これらのイオウ化合物は、それぞれの添加剤としての性能に加えて、耐フレッチング性を付与する性質も併せて有している。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明に係る車両用転動装置及び電動モータの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
基油,増ちょう剤,及び添加剤からなる11種のグリース組成物(実施例1〜6及び比較例1〜5)を用意して、その混和ちょう度及び滴点を測定した(JIS K2220による)。表1〜3に各グリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
表1〜3に示すように、実施例1〜6及び比較例1〜5のグリース組成物は、増ちょう剤として、ジウレア化合物及び12−ヒドロキシステアリン酸リチウムのいずれかを含有している。なお、表中のジウレアAとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレアBとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレアCとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0034】
また、実施例1〜6及び比較例1〜5のグリース組成物は、基油として、エーテル油,ポリオールエステル,ポリα−オレフィン油,及び鉱油のうちの1種又は2種を含有している。なお、基油の40℃における動粘度(2種の基油を混合した場合は混合基油の動粘度)は、表中に記載の通りである。
さらに、実施例1〜6のグリース組成物は、イオウ化合物からなる添加剤として、ジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)(旭電化社製サクラルーブ300)とイオウ−リン系添加剤であるトリ(アルキル化フェニル)フォスフォロチオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製イルガルーブ232)との少なくとも一方を含有している。
【0035】
さらに、実施例1〜6及び比較例1〜5のグリース組成物は、その他の添加剤として、酸化防止剤(チバガイギー社製イルガノックスL57)約1質量%と、防錆剤(KING社製Nasul BSN)約1質量%と、腐食防止剤(チバガイギー社製イルガメット39)0.1質量%とを含有している。なお、これら3種の添加剤の合計の含有量は2質量%である。
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性及び焼付き寿命を評価した。
【0036】
〔耐フレッチング性の評価方法について〕
耐フレッチング性の評価に使用する転がり軸受の構成について、図1の部分縦断面図を参照しながら説明する。この転がり軸受10は、呼び番号6202の転がり軸受(内径15mm,外径35mm,幅11mm,内部すきま11〜25μm)であり、内輪1と、外輪2と、内輪1と外輪2との間に転動自在に配設された複数の玉3と、内輪1と外輪2との間に複数の玉3を保持する鋼製の保持器4と、非接触形のゴムシール5,5と、で構成されている。
【0037】
ゴムシール5は外輪2のシールみぞ2aに取り付けられていて、内輪1の外周面と外輪2の内周面との間の開口部分をほぼ覆っている。そして、内輪1と外輪2との間に形成され玉3が内設された空隙部内には0.8gのグリース組成物Gが充填され、シール5,5により軸受内部に密封されている。なお、ゴムシール5は接触形でもよい。
【0038】
耐フレッチング性の評価は、転がり軸受10を電動モータに組み込んで行った。電動モータの構成を図2を参照しながら説明する。一対の転がり軸受10,10を、駆動モータ33のシャフト31と円筒状のケーシング32との間に介装した。このとき、転がり軸受10,10は、49Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。
【0039】
電動モータに組み込まれた転がり軸受10にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で2時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受10は回転させない。
【0040】
この振動を与えた電動モータを、駆動モータ33により室温下12000min−1の回転速度で回転させ(内輪回転)、回転時の音響の大きさ(アンデロン値)をアンデロンメータを用いて測定した。そして、振動を与える前のアンデロン値からのアンデロン値の上昇量によって耐フレッチング性を評価した。
耐フレッチング性の評価結果を、表1〜3に併せて示す。なお、表1〜3に記載の耐フレッチング性は、比較例1のグリース組成物を封入した転がり軸受のアンデロン値の上昇量を1とした場合の相対値を算出し、その相対値が0.3以下であった場合は◎印、0.3超過0.5以下であった場合は○印、0.5超過0.9以下であった場合は△印、0.9超過であった場合は×印で示してある。
【0041】
〔焼付き寿命の評価方法について〕
焼付き寿命の評価に使用する転がり軸受は、呼び番号6303の深溝玉軸受(内径17mm,外径47mm,幅14mm)であり、前述の耐フレッチング性の評価に使用する転がり軸受と同様の構成である。この転がり軸受を196Nの予圧を負荷しつつ前述の電動モータに組み込んで、雰囲気温度170℃下13000min−1の回転速度で回転させ(内輪回転)、焼付きが生じるまでの時間を測定した。
【0042】
焼付き寿命の評価結果を、表1〜3に併せて示す。なお、表1〜3に記載の焼付き寿命は、比較例1のグリース組成物を封入した転がり軸受の焼付き寿命を1とした場合の相対値で示してある。
表1〜3から分かるように、実施例1〜6のグリース組成物を封入した転がり軸受は、比較例1〜5のグリース組成物を封入した転がり軸受と比べて、耐フレッチング性及び焼付き寿命が優れていた。
【0043】
次に、イオウ化合物からなる添加剤の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例2のグリース組成物においてイオウ−リン系添加剤の含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、イオウ−リン系添加剤の含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0044】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性及び焼付き寿命を評価した。耐フレッチング性の評価方法は前述の方法とほぼ同様であるが、以下の点が異なっている。すなわち、実施例2のグリース組成物を封入した転がり軸受にフレッチングを生じさせるべく、前述と同様にして振動を2時間与えた後、前述と同様にしてアンデロン値の上昇量を測定した。そして、他のグリース組成物を封入した転がり軸受については、アンデロン値の上昇量が実施例2の場合と同じになるような振動時間(フレッチングを生じさせるべく与えた振動の時間)を調査した。評価結果を図3のグラフに示す。なお、このグラフにおける耐フレッチング性の数値は、実施例2のグリース組成物を封入した転がり軸受の耐フレッチング性(すなわち振動時間=2時間)を1とした場合の相対値で示してある。
【0045】
また、焼付き寿命の評価方法は前述と全く同様である。評価結果を図3のグラフに併せて示す。なお、このグラフにおける焼付き寿命の数値は、実施例2のグリース組成物を封入した転がり軸受の焼付き寿命を1とした場合の相対値で示してある。
グラフから分かるように、イオウ化合物からなる添加剤の含有量がグリース組成物全体の15質量%を超えると焼付き寿命が急激に悪化し、0.5質量%未満であると耐フレッチング性が急激に悪化した。グラフから、イオウ化合物からなる添加剤の含有量はグリース組成物全体の0.5〜15質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましいと言える。
【0046】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。
例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0047】
【発明の効果】
以上のように、本発明の車両用転動装置及び電動モータは、走行中の車両において振動を受けながら間欠的に作動してもフレッチングが生じにくく長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車両用転動装置の一実施形態である転がり軸受の構成を示す部分縦断面図である。
【図2】転がり軸受が組み込まれた電動モータの構成を示す縦断面図である。
【図3】グリース組成物全体におけるイオウ化合物からなる添加剤の含有量と、転がり軸受の耐フレッチング性及び焼付き寿命と、の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
3 玉
10 転がり軸受
31 シャフト
G グリース組成物
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に積載される機器に好適な車両用転動装置及び電動モータに係り、特に、走行中の車両において間欠的に作動する(常時作動しているとは限らない)車両用転動装置及び電動モータに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車,鉄道車両等の車両は走行時には振動するので、前記車両に積載される機器(例えば、冷房装置等の空調装置やワイパー)は、前記車両の走行中には振動を受けることとなる。
このような車両に積載される機器に好適な電動モータ用転がり軸受としては、下記の特許文献1に記載のものがある。また、車両に積載される機器に使用されている転がり軸受に好適なグリース組成物としては、下記の特許文献2,3に記載のものがある。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−69700号公報
【特許文献2】
特開平8−113793号公報
【特許文献3】
特開平11−80770号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
車両に積載される機器は、例えば空調装置やワイパーのように、必ずしも常時作動しているとは限らず、間欠的に作動するものがある。つまり、車両は走行しているが前記機器は作動していないという場合がある。そうすると、前記機器に使用されている転がり軸受は、回転していない状態において振動を受けることとなるので、フレッチングが発生しやすく、早期に異音が発生するようになるという問題があった。
【0005】
しかしながら、前記公報に記載の電動モータ用転がり軸受やグリース組成物は、フレッチングについては特に考慮されていない。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、走行中の車両において振動を受けながら間欠的に作動してもフレッチングが生じにくく長寿命な車両用転動装置及び電動モータを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の車両用転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に封入されたグリース組成物と、を備えるとともに、走行中の車両に積載され且つ間欠的に作動する車両用転動装置であって、前記グリース組成物は基油と増ちょう剤とイオウ化合物からなる添加剤とを含有しており、前記イオウ化合物からなる添加剤の含有量は前記グリース組成物全体の0.5〜15質量%であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る請求項2の車両用転動装置は、請求項1に記載の車両用転動装置において、前記イオウ化合物からなる添加剤は、ベンジルスルフィド,ポリスルフィド,硫化油脂,チオウレア,チオカーボネート,モリブデンジチオフォスフェート,及びモリブデンジチオカーバメートの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0008】
前記グリース組成物は、イオウ化合物からなる添加剤を含有しているので、封入された転動装置に優れた耐フレッチング性を付与する性質を有している(すなわち、前記グリース組成物は優れたフレッチング防止性能を有している)。よって、上記のような構成の車両用転動装置は、走行中の車両において振動を受けながら間欠的に作動しても、フレッチングが生じにくく長寿命である。また、前記グリース組成物は優れた耐熱性を有しているので、本発明の車両用転動装置は高温環境下においても長寿命である。
【0009】
車両用転動装置の耐フレッチング性を十分なものとするためには、イオウ化合物からなる添加剤の含有量を、グリース組成物全体の0.5〜15質量%とすることが好ましい。0.5質量%未満では、耐フレッチング性が不十分となるおそれがある。一方、15質量%を超えて含有しても、耐フレッチング性のさらなる向上は期待できないばかりか、基油や増ちょう剤の含有量が相対的に少なくなるため、グリース組成物の潤滑性が不十分となって寿命(耐焼付き性)に対して悪影響を及ぼすおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、イオウ化合物からなる添加剤の含有量は、グリース組成物全体の1〜8質量%とすることがより好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係る請求項3の車両用転動装置は、請求項1又は請求項2に記載の車両用転動装置において、正の内部すきまを有する転がり軸受であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項4の電動モータは、請求項3に記載の転がり軸受によって回転軸が回転自在に支持されてなる電動モータであって、前記転がり軸受は、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする。
【0011】
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じても軽微である。
【0012】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み込まれていることとなる。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0013】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0014】
しかしながら、本発明の電動モータは、前述したようなフレッチングが生じにくい転がり軸受を備えているので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。ここで、本発明における前記内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、前記外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0015】
以下に、本発明の車両用転動装置に使用される前記グリース組成物を構成する各成分について説明する。
〔増ちょう剤について〕
使用可能な増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、金属石けん,金属複合石けん,ウレア化合物等が好適であるが、特に、耐熱性や耐水性に優れるウレア化合物が好ましい。ウレア化合物としては、例えば、ジウレア,トリウレア,テトラウレア等のポリウレア化合物があげられる。
【0016】
増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の5〜40質量%であることが好ましい。5質量%未満では、グリース組成物の耐熱性が不十分となるばかりでなく、増ちょう剤が少なすぎて組成物をグリース状とすることが困難となる。一方、40質量%超過であると、基油の含有量が相対的に少なくなるため潤滑性が不十分となるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体の8〜30質量%とすることがより好ましい。
【0017】
〔基油について〕
本発明において使用可能な基油の種類は特に限定されるものではなく、合成油系潤滑油,鉱油系潤滑油等があげられる。
合成油系潤滑油としては、合成炭化水素油(脂肪族系,芳香族系),エステル油,エーテル油,及びフッ素油等を使用できる。
【0018】
具体的には、脂肪族系の合成炭化水素油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられ、芳香族系の合成炭化水素油としては、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどがあげられる。
【0019】
エステル油としては、炭酸エステル,ジエステル油,ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油等があげられる。
エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0020】
フッ素油としてはパーフルオロポリエーテル油,フルオロシリコーン油,クロロパーフルオロエーテル油,フルオロフォスファゼン油等があげられる。
また、鉱油系潤滑油としては、パラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,及びそれらの混合油等があげられる。粘度指数120以上の高度精製された鉱油系潤滑油は、合成油系潤滑油と同等の温度−粘度特性を示すので、より好ましい。
【0021】
これらの各種油は単独で使用してもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。ただし、高温,高速条件下での潤滑性及び潤滑寿命を考慮すると、エステル油やエーテル油を含有していることが好ましい。そして、フレッチング防止性能を考えると、エステル油が特に好ましい。
基油の動粘度は特に限定されるものではないが、低温起動時の流動性や高温での油膜形成能を考えると、40℃における動粘度は60〜150mm2 /sであることが好ましい。
【0022】
〔イオウ化合物からなる添加剤について〕
本発明において使用可能なイオウ化合物からなる添加剤の種類は特に限定されるものではないが、ベンジルスルフィド,ポリスルフィド,硫化油脂,チオウレア,チオカーボネートが好ましい。また、モリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP),モリブデンジチオカーバメート(Mo−DTC)等の極圧性のモリブデン化合物も好ましい。
【0023】
〔その他の添加剤について〕
本発明におけるグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。例えば、防錆剤,金属不活性化剤,油性剤,酸化防止剤,極圧剤,摩耗防止剤,固体潤滑剤等があげられる。
防錆剤の種類は特に限定されるものではないが、スルホン酸,カルボン酸の金属塩系防錆剤、エステル系防錆剤、アミン系防錆剤、界面活性剤系防錆剤等があげられる。
【0024】
具体的には、スルホン酸のアンモニウム塩及び金属塩(アルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩(バリウム,カルシウム,マグネシウム等),亜鉛塩),カルボン酸塩,フェネート,ホスフェートがあげられる。また、アルキルコハク酸エステル,アルケニルコハク酸エステル等のアルキルコハク酸誘導体,アルケニルコハク酸誘導体も、防錆剤として好ましく使用できる。さらに、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル,オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類,1−メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類又はその金属塩,ステアリン酸等の高級脂肪酸又はそのエステル,2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等のチアジアゾール類,ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類,ジスルフィド化合物,トリスノニルフェニルフォスファイト等のリン酸エステル類,ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル化合物,亜硝酸塩等も使用可能である。
【0025】
なお、フッ素系グリースに対しては、無機化合物(酸化マグネシウム,酸化チタン等),ベンゾトリアゾール系防錆剤,フッ素系防錆剤が好ましい。フッ素系防錆剤とは、具体的には、パーフルオロアルキル構造,パーフルオロエーテル構造,又はパーフルオロポリエーテル構造を有し、末端官能基がアルコール変性,カルボキシル変性,又はイソシアネート変性されたものである。
【0026】
また、金属不活性化剤の種類は特に限定されるものではないが、ベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物等があげられる。
さらに、油性剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、オレイン酸,ステアリン酸等の脂肪酸、オレイルアルコール等の脂肪族アルコール、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル等の脂肪酸エステル、リン酸、トリクレジルホスフェート、ラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸等のリン酸エステルなどがあげられる。
【0027】
さらに、酸化防止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族アミン,芳香族アミン等のアミン化合物や、フェノール系化合物などがあげられる。
さらに、耐荷重性を高める極圧剤,摩耗防止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、亜鉛,テルル,アンチモン,セレン,鉄,銅等のジチオカルバミン酸塩や、亜鉛,アンチモン等のジチオリン酸塩等があげられる。また、オクチル酸鉄,ナフテン酸銅,ジブチルスズサルファイド,フェネート,ホスフェート等も使用可能である。
【0028】
さらに、固体潤滑剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、グラファイト,ポリテトラフルオロエチレン,窒化ホウ素,窒化物微粒子,金属酸化物微粒子(マグネシア等)などがあげられる。
なお、上記したその他の添加剤の具体例の中には、スルホン酸塩,チアジアゾール類,ジスルフィド,リン酸エステル,ジチオカルバミン酸塩,ジチオリン酸塩等のイオウ化合物が含まれているが、これらのイオウ化合物は、前述したイオウ化合物からなる添加剤と同様に耐フレッチング性を付与する性質を有している。よって、これらのイオウ化合物は、それぞれの添加剤としての性能に加えて、耐フレッチング性を付与する性質も併せて有している。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明に係る車両用転動装置及び電動モータの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
基油,増ちょう剤,及び添加剤からなる11種のグリース組成物(実施例1〜6及び比較例1〜5)を用意して、その混和ちょう度及び滴点を測定した(JIS K2220による)。表1〜3に各グリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
表1〜3に示すように、実施例1〜6及び比較例1〜5のグリース組成物は、増ちょう剤として、ジウレア化合物及び12−ヒドロキシステアリン酸リチウムのいずれかを含有している。なお、表中のジウレアAとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。また、ジウレアBとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとをモル比1:2で反応させたウレア化合物である。さらに、ジウレアCとは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとオクチルアミンとをモル比1:1:1で反応させたウレア化合物である。
【0034】
また、実施例1〜6及び比較例1〜5のグリース組成物は、基油として、エーテル油,ポリオールエステル,ポリα−オレフィン油,及び鉱油のうちの1種又は2種を含有している。なお、基油の40℃における動粘度(2種の基油を混合した場合は混合基油の動粘度)は、表中に記載の通りである。
さらに、実施例1〜6のグリース組成物は、イオウ化合物からなる添加剤として、ジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)(旭電化社製サクラルーブ300)とイオウ−リン系添加剤であるトリ(アルキル化フェニル)フォスフォロチオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製イルガルーブ232)との少なくとも一方を含有している。
【0035】
さらに、実施例1〜6及び比較例1〜5のグリース組成物は、その他の添加剤として、酸化防止剤(チバガイギー社製イルガノックスL57)約1質量%と、防錆剤(KING社製Nasul BSN)約1質量%と、腐食防止剤(チバガイギー社製イルガメット39)0.1質量%とを含有している。なお、これら3種の添加剤の合計の含有量は2質量%である。
これらのグリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性及び焼付き寿命を評価した。
【0036】
〔耐フレッチング性の評価方法について〕
耐フレッチング性の評価に使用する転がり軸受の構成について、図1の部分縦断面図を参照しながら説明する。この転がり軸受10は、呼び番号6202の転がり軸受(内径15mm,外径35mm,幅11mm,内部すきま11〜25μm)であり、内輪1と、外輪2と、内輪1と外輪2との間に転動自在に配設された複数の玉3と、内輪1と外輪2との間に複数の玉3を保持する鋼製の保持器4と、非接触形のゴムシール5,5と、で構成されている。
【0037】
ゴムシール5は外輪2のシールみぞ2aに取り付けられていて、内輪1の外周面と外輪2の内周面との間の開口部分をほぼ覆っている。そして、内輪1と外輪2との間に形成され玉3が内設された空隙部内には0.8gのグリース組成物Gが充填され、シール5,5により軸受内部に密封されている。なお、ゴムシール5は接触形でもよい。
【0038】
耐フレッチング性の評価は、転がり軸受10を電動モータに組み込んで行った。電動モータの構成を図2を参照しながら説明する。一対の転がり軸受10,10を、駆動モータ33のシャフト31と円筒状のケーシング32との間に介装した。このとき、転がり軸受10,10は、49Nの予圧が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。
【0039】
電動モータに組み込まれた転がり軸受10にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で2時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受10は回転させない。
【0040】
この振動を与えた電動モータを、駆動モータ33により室温下12000min−1の回転速度で回転させ(内輪回転)、回転時の音響の大きさ(アンデロン値)をアンデロンメータを用いて測定した。そして、振動を与える前のアンデロン値からのアンデロン値の上昇量によって耐フレッチング性を評価した。
耐フレッチング性の評価結果を、表1〜3に併せて示す。なお、表1〜3に記載の耐フレッチング性は、比較例1のグリース組成物を封入した転がり軸受のアンデロン値の上昇量を1とした場合の相対値を算出し、その相対値が0.3以下であった場合は◎印、0.3超過0.5以下であった場合は○印、0.5超過0.9以下であった場合は△印、0.9超過であった場合は×印で示してある。
【0041】
〔焼付き寿命の評価方法について〕
焼付き寿命の評価に使用する転がり軸受は、呼び番号6303の深溝玉軸受(内径17mm,外径47mm,幅14mm)であり、前述の耐フレッチング性の評価に使用する転がり軸受と同様の構成である。この転がり軸受を196Nの予圧を負荷しつつ前述の電動モータに組み込んで、雰囲気温度170℃下13000min−1の回転速度で回転させ(内輪回転)、焼付きが生じるまでの時間を測定した。
【0042】
焼付き寿命の評価結果を、表1〜3に併せて示す。なお、表1〜3に記載の焼付き寿命は、比較例1のグリース組成物を封入した転がり軸受の焼付き寿命を1とした場合の相対値で示してある。
表1〜3から分かるように、実施例1〜6のグリース組成物を封入した転がり軸受は、比較例1〜5のグリース組成物を封入した転がり軸受と比べて、耐フレッチング性及び焼付き寿命が優れていた。
【0043】
次に、イオウ化合物からなる添加剤の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例2のグリース組成物においてイオウ−リン系添加剤の含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、イオウ−リン系添加剤の含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0044】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性及び焼付き寿命を評価した。耐フレッチング性の評価方法は前述の方法とほぼ同様であるが、以下の点が異なっている。すなわち、実施例2のグリース組成物を封入した転がり軸受にフレッチングを生じさせるべく、前述と同様にして振動を2時間与えた後、前述と同様にしてアンデロン値の上昇量を測定した。そして、他のグリース組成物を封入した転がり軸受については、アンデロン値の上昇量が実施例2の場合と同じになるような振動時間(フレッチングを生じさせるべく与えた振動の時間)を調査した。評価結果を図3のグラフに示す。なお、このグラフにおける耐フレッチング性の数値は、実施例2のグリース組成物を封入した転がり軸受の耐フレッチング性(すなわち振動時間=2時間)を1とした場合の相対値で示してある。
【0045】
また、焼付き寿命の評価方法は前述と全く同様である。評価結果を図3のグラフに併せて示す。なお、このグラフにおける焼付き寿命の数値は、実施例2のグリース組成物を封入した転がり軸受の焼付き寿命を1とした場合の相対値で示してある。
グラフから分かるように、イオウ化合物からなる添加剤の含有量がグリース組成物全体の15質量%を超えると焼付き寿命が急激に悪化し、0.5質量%未満であると耐フレッチング性が急激に悪化した。グラフから、イオウ化合物からなる添加剤の含有量はグリース組成物全体の0.5〜15質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましいと言える。
【0046】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。
例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0047】
【発明の効果】
以上のように、本発明の車両用転動装置及び電動モータは、走行中の車両において振動を受けながら間欠的に作動してもフレッチングが生じにくく長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車両用転動装置の一実施形態である転がり軸受の構成を示す部分縦断面図である。
【図2】転がり軸受が組み込まれた電動モータの構成を示す縦断面図である。
【図3】グリース組成物全体におけるイオウ化合物からなる添加剤の含有量と、転がり軸受の耐フレッチング性及び焼付き寿命と、の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
3 玉
10 転がり軸受
31 シャフト
G グリース組成物
Claims (4)
- 外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に封入されたグリース組成物と、を備えるとともに、走行中の車両に積載され且つ間欠的に作動する車両用転動装置であって、
前記グリース組成物は基油と増ちょう剤とイオウ化合物からなる添加剤とを含有しており、前記イオウ化合物からなる添加剤の含有量は前記グリース組成物全体の0.5〜15質量%であることを特徴とする車両用転動装置。 - 前記イオウ化合物からなる添加剤は、ベンジルスルフィド,ポリスルフィド,硫化油脂,チオウレア,チオカーボネート,モリブデンジチオフォスフェート,及びモリブデンジチオカーバメートの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の車両用転動装置。
- 正の内部すきまを有する転がり軸受であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用転動装置。
- 請求項3に記載の転がり軸受によって回転軸が回転自在に支持されてなる電動モータであって、前記転がり軸受は、予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする電動モータ。
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