JP2004156761A - 転動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい転動装置を提供する。
【解決手段】40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力が200〜800Paであるグリース組成物Gを、深溝玉軸受の内部に封入した。
【選択図】 図1
【解決手段】40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力が200〜800Paであるグリース組成物Gを、深溝玉軸受の内部に封入した。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい転動装置に係り、特に、コンピュータ等に使用されるハードディスクドライブ(HDD)や各種事務機器等、あるいは、清浄な環境が要求される半導体製造装置等に好適な転動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
HDD,フレキシブルディスクドライブ(FDD),コンパクトディスクドライブ(CDD),光磁気ディスクドライブ(MOD),ビデオテープレコーダ(VTR)等のような情報機器に用いられる転がり軸受には、一般に、高速回転においても発塵(飛散)が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、長寿命であること等の各種性能が要求される。
【0003】
特に、清浄な雰囲気下で使用されるHDDにおいては、回転時に軸受内部からガス状の油やグリースの微小な粒子が飛散すると、ディスクの表面を汚染して誤作動の原因となるため、発塵量を抑えることが最も重要なこととされている。
このようなHDD用転がり軸受に封入されるグリース組成物としては、従来は、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースが用いられてきた。また、ジエステル油(例えばジオクチルセバケートなど)やポリオールエステル油(例えばペンタエリスリトールテトラエステルなど)のようなエステル油を基油としたリチウム石けんグリースも同様に用いられてきた。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−9489号公報
【特許文献2】
特願2002−204469号明細書
【特許文献3】
特開2001−139969号公報
【特許文献4】
特開2001−139979号公報
【特許文献5】
特開2000−199526号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述のような従来のグリースが封入された転がり軸受は、前述した各種要求性能のすべてが十分に優れているとは言えなかった。
例えば、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースの場合は、飛散量は少ないものの、増ちょう剤の分散性が不十分で均質になりにくいため、転がり軸受が回転した際の音響性能や振動性能に問題があった。また、吸湿性が高く、グリースが経時的に硬化して転がり軸受内で流動性が低下するため、潤滑不良を起こしやすいという問題点も有していた。
【0006】
また、エステル油を基油としたリチウム石けんグリースの場合は、増ちょう剤の分散性が良好で音響性能や振動性能には問題がなく、転がり軸受は低トルクであるが、飛散性に問題があった。そのため、このような転がり軸受をHDDに用いる場合には、ディスクの汚染を防ぐために高価な磁性流体シールを併用していた。よって、コストアップに繋がり、また小型化の妨げともなっていた。
【0007】
一方、近年、前記情報機器に用いられる転がり軸受には、前述のような各種要求性能とともにフレッチングが生じにくいという性能が要求されるようになってきている。
前記情報機器は、運搬時又は携帯時に振動を受ける。また、近年、自動車に搭載されるカーナビゲーションシステムに前記情報機器が使用されるようになってきたため、前記情報機器が受ける振動はより大きくなってきている。
【0008】
情報機器に用いられている玉軸受,ころ軸受等の転がり軸受は、情報機器の運搬時等において生じる5〜10ヘルツ程度の低い周波数の振動によって、転がり軸受内の転動体(ボール又はころ)と軌道輪の軌道面とが損傷を受けて劣化しやすい。このようなフレッチングという現象が起きると、転がり軸受の音響性能が悪くなるばかりでなく、情報機器の性能そのものにも悪影響を及ぼすおそれがある。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい転動装置を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に充填されたグリース組成物と、を備える転動装置において、前記グリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するとともに、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力が200〜800Paであることを特徴とする。
【0010】
前記グリース組成物は、40〜80℃における見かけの粘度が20〜80Pa・sであることが好ましい。
また、前記グリース組成物は、酸化防止剤,極圧剤,及び防錆剤を添加剤として含有することが好ましく、これら3種の添加剤はいずれも極性を有する化合物であり、全添加剤の合計の含有量は組成物全体の1〜10質量%であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記グリース組成物の混和ちょう度は230〜350であることが好ましい。
さらに、前記基油の40℃における動粘度は15〜55mm2 /sであり、前記基油の50質量%以上はエステル油であることが好ましい。
さらに、前記増ちょう剤はリチウム石けんであり、その含有量は組成物全体の10〜30質量%であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明は、内部すきまを有する転がり軸受にも適用可能である。
以下に、前記グリース組成物の物性値及び前記グリース組成物を構成する各成分について説明する。
〔グリース組成物のせん断応力について〕
前述のような値のせん断応力を有するグリース組成物であれば、転動装置の駆動時の転動体と軌道面との接触部の移動にグリース組成物が追従し、グリース組成物が前記接触部に十分に供給されることとなる。よって、転動装置にフレッチングが生じにくい。
【0013】
せん断応力が200Pa未満であると、グリース組成物が微小な接触部から流出したり排除されたりしやすい。一方、800Pa超過であるとグリース組成物がバルク状となるので、前記接触部から排除されやすい。このような問題点がより生じにくくするためには、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力は330〜630Paであることがより好ましい。
【0014】
〔グリース組成物の見かけの粘度について〕
前述のような値の見かけの粘度を有するグリース組成物であれば、転動装置の駆動時の転動体と軌道面との接触部の移動にグリース組成物が追従し、グリース組成物が前記接触部に十分に供給されることとなる。よって、転動装置にフレッチングが生じにくい。
【0015】
見かけの粘度が20Pa・s未満であると、グリース組成物が微小な接触部から流出したり排除されたりしやすい。一方、80Pa・s超過であるとグリース組成物がバルク状となるので、前記接触部から排除されやすい。
なお、グリース組成物の構成が同一であっても、製造方法の違い等によってせん断応力,見かけの粘度等のようなレオロジー特性が異なる場合がある。本発明は、転動装置に封入するグリース組成物のレオロジー特性に着目し、これを最適化することによって転動装置の耐フレッチング性を向上させるというものである。所定のレオロジー特性を有するグリース組成物の製造方法については、その一例を後に詳述する。
【0016】
〔グリース組成物の混和ちょう度について〕
グリース組成物の混和ちょう度は230〜350であることが好ましい。230未満であると、グリース組成物が硬すぎて、転動装置のトルク性能や耐フレッチング性が不十分となるおそれがある。350超過であると、グリース組成物が軟らかすぎて、発塵量が多くなったり転動装置からグリース組成物が漏洩しやすくなったりする。グリース組成物が前記接触部に十分に供給されやすく、且つより低発塵とするためには、グリース組成物の混和ちょう度は280〜300であることがより好ましい。
【0017】
〔基油について〕
グリース組成物に使用される基油の種類は特に限定されるものではなく、鉱物油,合成炭化水素油,エステル油,エーテル油,シリコン油,フッ素油等を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
ただし、グリース組成物を充填した転動装置に、低トルクである、音響性能に優れる、高速で駆動させても発塵が少ない、という各種性能を付与するためには、基油はエステル油を含有することが好ましい。そして、その含有量は基油全体の50質量%以上とすることが好ましく、より高い方が前記各種性能を優れたものとすることができる。エステル油の含有量が基油全体の50質量%未満であると、上記の各種性能が不十分となるおそれがあり、特に、音響性能に対する悪影響が大きい。
【0018】
また、基油の40℃における動粘度は、15〜100mm2 /sであることが好ましくい。より好ましくは15〜55mm2 /sであり、さらに好ましくは18〜33mm2 /sである。前記下限値よりも小さいと、耐熱性が乏しくなり蒸発量が多くなるほか、摺動部分に形成される油膜の厚さが不十分となるおそれがある。すなわち、寿命や発塵性に問題が生じるおそれがある。一方、前記上限値よりも大きいと転動装置のトルクが大きくなるおそれがあり、転動装置が転がり軸受である場合は小型モータへの使用が不適となる。
【0019】
エステル油の例としては、炭酸エステル,ジエステル油,ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油等があげられる。
ジエステル油の具体例としては、アジピン酸ジイソデシル,アゼライン酸ジイソデシル,セバシン酸ジオクチル等があげられる。
また、ポリオールエステル油の具体例としては、ネオペンチルグリコールジエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状又は分岐鎖状の炭素数9個のものやオレイル基等),トリメチロールプロパントリエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,7個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ペンタエリスリトールテトラエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,8個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ジペンタエリスリトールヘキサエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6個のもの等)などである。
【0020】
さらに、芳香族エステル油の具体例としては、トリメリト酸トリオクチル,トリメリト酸トリデシル,ピロメリト酸テトラオクチル等があげられる。
これらのエステル油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
〔増ちょう剤について〕
グリース組成物に使用される増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、金属石けん,金属複合石けん,ウレア化合物,無機化合物(ベントン,マイカ,シリカゲル,カーボンブラック等),フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン等)等を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0021】
ただし、転動装置の音響性能や耐フレッチング性を考えるとリチウム石けんが最も好ましい。リチウム石けんやその複合石けん、特にステアリン酸リチウムや12−ヒドロキシステアリン酸リチウムは鋼材料との密着性が良好で、転動装置に優れた耐フレッチング性や音響性能(グリースノイズ)を付与する。
ステアリン酸リチウム等のリチウム石けんは、1価の脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。また、リチウム複合石けんの例としては、上記のリチウム石けんと2価の脂肪酸のリチウム塩とで構成されるものがあげられる。このようなリチウム複合石けんは、1価の脂肪酸と2価の脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。金属石けん及び金属複合石けんの金属成分としては、例えば、Li,Ca,Al,Na,Ba等があげられる。
【0022】
また、ウレア化合物としては、例えば、脂肪族,脂環式,芳香族等のウレア化合物やポリウレア化合物があげられるが、特に、下記の一般式(I)で表されるジウレアが好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
なお、式(I)中のR1 及びR3 は脂肪族炭化水素基,芳香族炭化水素基,又は縮合炭化水素基を表し、R1 とR3 は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、R2 は2価の芳香族炭化水素基を表す。
このようなジウレアは、別途合成したものを基油に分散させてもよいし、基油中で合成することによって基油に分散させてもよい。ただし、後者の方法の方が、基油中に増ちょう剤を良好に分散させやすいので、工業的に製造する場合には有利である。
【0025】
ジウレアを基油中で合成する場合の合成方法は特に限定されるものではないが、R2 の芳香族炭化水素基を有するジイソシアネート1モルと、R1 及びR3 の炭化水素基を有するモノアミン2モルとを、反応させる方法が最も好ましい。
ジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート,トリレンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,ビフェニレンジイソシアネート,ジメチルジフェニレンジイソシアネート,又はこれらのアルキル基置換体等を好適に使用できる。
【0026】
また、R1 及びR3 が脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アニリン,シクロヘキシルアミン,オクチルアミン,トルイジン,ドデシルアニリン,オクタデシルアミン,ヘキシルアミン,ヘプチルアミン,ノニルアミン,エチルヘキシルアミン,デシルアミン,ウンデシルアミン,ドデシルアミン,テトラデシルアミン,ペンタデシルアミン,ノナデシルアミン,エイコデシルアミン,オレイルアミン,リノレイルアミン,リノレニルアミン,メチルシクロヘキシルアミン,エチルシクロヘキシルアミン,ジメチルシクロヘキシルアミン,ジエチルシクロヘキシルアミン,ブチルシクロヘキシルアミン,プロピルシクロヘキシルアミン,アミルシクロヘキシルアミン,シクロオクチルアミン,ベンジルアミン,ベンズヒドリルアミン,フェネチルアミン,メチルベンジルアミン,ビフェニルアミン,フェニルイソプロピルアミン,フェニルヘキシルアミン等を好適に使用できる。
【0027】
さらに、R1 及びR3 が縮合炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アミノインデン、アミノインダン、アミノ−1−メチレンインデン等のインデン系アミン化合物、アミノナフタレン(ナフチルアミン)、アミノメチルナフタレン、アミノエチルナフタレン、アミノジメチルナフタレン、アミノカダレン、アミノビニルナフタレン、アミノ−1,2−ジヒドロナフタレン、アミノ−1,4−ジヒドロナフタレン、アミノテトラヒドロナフタレン、アミノオクタリン等のナフタレン系アミン化合物、アミノベンタレン、アミノアズレン、アミノヘプタレン等の縮合二環系アミン化合物などが好適に用いられる。
【0028】
このような増ちょう剤の含有量は、グリース組成物の10〜30質量%であることが好ましく、18〜25質量%であることがより好ましい。10質量%未満であるとグリース組成物が軟らかくなりすぎて、30質量%超過であると硬くなりすぎる。そうすると、グリース組成物の混和ちょう度を230〜350に保って前記せん断応力(40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力)を200〜800Paとすることが困難となる。また、18〜25質量%の範囲を外れると、グリース組成物の混和ちょう度を280〜300に保って前記せん断応力を330〜630Paとすることが困難となる。
【0029】
〔添加剤について〕
グリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤,極圧剤,防錆剤,油性向上剤,金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0030】
特に、酸化防止剤,極圧剤,及び防錆剤を添加剤として使用し、しかも、これら3種の添加剤をいずれも極性を有する化合物とすれば、グリース組成物のせん断応力が適正な値となりやすい。全添加剤の合計の含有量は組成物全体の1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。この範囲から外れると、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力を200〜800Paとすることが困難となる。
【0031】
酸化防止剤としては、例えば、脂肪族アミン,芳香族アミン等のアミン系化合物があげられる。極圧剤としては、例えば、正リン酸エステル,亜リン酸エステル,イオウーリン系化合物,亜鉛ジチオカーバメート,モリブデンジチオカーバメート,モリブデンジチオフォスフェート等の硫黄化合物があげられる。防錆剤としては、例えば、バリウムスルホネート,カルシウムスルホネート,亜鉛スルホネート等のスルホネート系化合物があげられる。
【0032】
また、油性向上剤としては、例えば、オレイン酸,コハク酸等の脂肪酸やそのエステル及びその酸無水物があげられる。また、グリセリン化合物も油性向上剤として使用できる。さらに、金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等があげられる。
酸化防止剤,極圧剤,及び防錆剤の3種の添加剤を使用する場合には、その組み合わせは、アミン系化合物−モリブデン化合物−スルホネート系化合物が好ましく、アルキルジフェニルアミン−モリブデンジチオフォスフェート−亜鉛スルホネートが特に好ましい。
【0033】
〔内部すきまについて〕
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータ等の装置に組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータ等の装置の運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じても軽微である。
【0034】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータ等の装置に組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み込まれていることとなる。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータ等の装置の運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0035】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータ等の装置に組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータ等の装置の運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0036】
しかしながら、本発明に係る転動装置は、前述したようにフレッチングが生じにくいので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で電動モータ等の装置組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができ、例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等があげられる。
【0037】
本発明における前記内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、前記外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明に係る転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
この玉軸受(呼び番号695、内径5mm,外径13mm,幅3mm)は、内輪1と、外輪2と、内輪1と外輪2との間に転動自在に配設された複数の玉3と、複数の玉3を保持する保持器4と、外輪2のシール溝2a,2aに取り付けられた非接触形のゴムシール5,5と、で構成されている。また、内輪1と外輪2とゴムシール5,5とで囲まれた軸受空間にはその空間容積の15体積%のグリース組成物Gが充填され、ゴムシール5により玉軸受内に密封されている。そして、このようなグリース組成物Gにより、前記両輪1,2の軌道面と玉3との接触面が潤滑されている。さらに、この玉軸受は8〜13μmの内部すきまを有している。
【0039】
このグリース組成物Gは、リチウム石けんを増ちょう剤として使用しており、40℃における動粘度が15〜55mm2 /sであるエステル油を基油として使用している。また、極圧剤,酸化防止剤,及び防錆剤(いずれの添加剤も極性を有する化合物である)を添加剤として使用している。その組成比は、ステアリン酸リチウムが10〜30質量%で、3種の添加剤の合計が1〜10質量%で、残部がエステル油である。
【0040】
また、グリース組成物Gのせん断応力(40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力)は200〜800Paであり、40〜80℃における見かけの粘度は20〜80Pa・sである。さらに、混和ちょう度は230〜350である。
このグリース組成物Gは、以下のようにして製造したものである。まず、エステル油にリチウム石けんを溶解し急冷してベースグリースを得た後、前記3種の添加剤を添加した。次に、この混合物を、70〜90℃で数時間(好ましくは3〜5時間)ニーダで混練した。この混練によって増ちょう剤の3次元的な絡み合い構造が若干崩れるため、せん断応力が200〜800Paであるグリース組成物が得られる。
【0041】
グリース組成物の組成比が前記と全く同一であっても、せん断を付与する等の方法によって、せん断応力等のレオロジー特性が異なるグリース組成物を製造することができる。また、グリース組成物に機械的にせん断を加えるだけでは、前述のようなレオロジー特性を有するグリース組成物を得ることが容易ではない場合があるが、極圧剤は増ちょう剤の3次元的な絡み合い構造を好ましい程度崩す作用を有しているので、極圧剤を添加してせん断を加えれば前述のようなレオロジー特性を有するグリース組成物を容易に製造することができる。
【0042】
このようなレオロジー特性を有するグリース組成物を充填した玉軸受は、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい。よって、コンピュータ等に使用されるハードディスクドライブ(HDD)や各種事務機器等、あるいは、清浄な環境が要求される半導体製造装置等に好適である。
【0043】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、基油及び増ちょう剤の種類は前述のものに限定されるものではなく、また、グリース組成物Gには前記以外の各種添加剤を添加してもよい。
また、本実施形態においては転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0044】
また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
次に、前述とほぼ同様の構成のグリース組成物を5種類用意して、そのレオロジー特性を評価した。また、そのグリース組成物を前述と同様の構成の玉軸受に封入して、玉軸受の耐フレッチング性及び音響寿命を評価した。
【0045】
玉軸受に封入されたグリース組成物の組成は、表1に示す通りである。なお、5種類のグリース組成物において使用した増ちょう剤は、全てステアリン酸リチウムである。また、極圧剤はモリブデン化合物、酸化防止剤はアミン系化合物、防錆剤はスルホネート系化合物である。
【0046】
【表1】
【0047】
ここで、グリース組成物のレオロジー特性の評価方法について説明する。
図2は、グリース組成物のレオロジー特性を測定するレオメータに備えられた測定部を示す断面図である。断熱壁11に囲まれた平板状のステージ12の上方に、ギャップを介して円盤状の測定プレート13(パラレルプレート)が配置されており、測定プレート13の平坦な下面はステージ12と平行をなしている。そして、測定プレート13とステージ12との間に形成された前記ギャップには、グリース組成物10が満たされている。図2の符号14は、冷却時に使用する通気口である。
【0048】
ステージ12に内蔵された温度制御装置でグリース組成物10の温度を制御しながら、測定プレート13を一方向に回転させてグリース組成物10にせん断速度を加え、せん断応力や見かけの粘度を測定する。せん断応力の測定条件は、温度が60℃で、せん断速度が10s−1である。また、測定プレート13の直径は20mmで、ギャップは0.1mmである。なお、測定プレート13は、パラレルプレートに代えてコーンプレートとすることもできる。また、適当な周波数でオシレーションを与えれば、グリース組成物10の粘弾性を測定することもできる。
【0049】
せん断応力及び見かけの粘度の測定結果を、表1に併せて示す。また、せん断速度を種々変更して測定したせん断応力及び見かけの粘度を、図3及び図4のグラフにそれぞれ示す。
さらに、実施例3のグリース組成物において3種の添加剤の合計の含有量を種々変更し、それらのせん断応力を前述と同様にして測定した。その結果を図5のグラフに示す。このグラフから、せん断応力を適正な値とするためには、全添加剤の含有量は1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましいことが分かる。
【0050】
次に、玉軸受の耐フレッチング性及び音響寿命の評価方法について説明する。
〔音響寿命の評価方法について〕
玉軸受の音響寿命は、図6の電動モータを使用して測定した。まず、電動モータの構成を図6を参照しながら説明する。一対の玉軸受20,20が、シャフト21と円筒状のケーシング22との間に介装されている。このとき、玉軸受20は、12Nの予圧(アキシアル荷重)が負荷された状態で電動モータに組み込まれている。そして、シャフト21の外周面に固定されたロータ23と、該ロータ23にギャップを介して周面対向するようにケーシング22の内周面に固定されたステータ24と、で形成された駆動モータ25によって、シャフト21が回転駆動されるようになっている。
【0051】
このような電動モータを、常温下において回転速度5400min−1で回転(内輪回転)させ、このときに発生する騒音を、電動モータのケーシング22の上端面から1m離れた所に設置したマイクロホンで測定した。そして、騒音が初期値よりも5dBA上昇するまでの回転時間を音響寿命とした。
測定結果を表1に併せて示す。なお、表1に記載の音響寿命は、比較例1の玉軸受の音響寿命を1とした場合の相対値で示してある。
【0052】
表1から分かるように、実施例1〜3の玉軸受は、グリース組成物のせん断応力が適切な値であるため、比較例1,2と比べて音響寿命が優れていた。
〔耐フレッチング性の評価方法について〕
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、玉軸受の初期のG値を測定した。続いて、その玉軸受を、前述した音響寿命の測定方法と同様に電動モータに組み込んだ。そして、玉軸受にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で3時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は5〜150Hzの間で、振幅は0.5〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、玉軸受30は回転させない。
【0053】
振動を与えた玉軸受のG値を前述のアンデロンメータで測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって玉軸受の耐フレッチング性を評価した。なお、初期のG値は、玉軸受の初期の音響性能(騒音)を表す指標ともなる。評価結果を表1に併せて示す。
表1から分かるように、実施例1〜3の玉軸受は、グリース組成物のせん断応力が適切な値であるため、比較例1,2と比べて耐フレッチング性能が非常に優れていた。
【0054】
次に、グリース組成物のせん断応力と耐フレッチング性及び音響寿命との相関性を、図7のグラフを参照しながら考察する。このグラフには、実施例1〜3と比較例1,2との玉軸受の評価結果がプロットしてある。また、図5の説明において前述した、実施例3のグリース組成物において3種の添加剤の合計量を種々変更したものを充填した玉軸受についても、同様に耐フレッチング性及び音響寿命を評価して図7のグラフにプロットしてある。
【0055】
図7のグラフから、グリース組成物のせん断応力が200〜800Paであると、耐フレッチング性及び音響寿命の両方が好ましく、330〜630Paであると、耐フレッチング性及び音響寿命の両方がより好ましいことが分かる。
【0056】
【発明の効果】
以上のように、本発明の転動装置は、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力が200〜800Paであるグリース組成物が充填されているので、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図2】レオメータに備えられた測定部を示す断面図である。
【図3】グリース組成物のせん断速度とせん断応力との相関を示すグラフである。
【図4】グリース組成物のせん断速度と見かけの粘度との相関を示すグラフである。
【図5】添加剤の含有量とせん断応力との相関を示すグラフである。
【図6】電動モータの構成を示す断面図である。
【図7】グリース組成物のせん断応力と、玉軸受のG値上昇量及び音響寿命と、の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
3 玉
G グリース組成物
【発明の属する技術分野】
本発明は、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい転動装置に係り、特に、コンピュータ等に使用されるハードディスクドライブ(HDD)や各種事務機器等、あるいは、清浄な環境が要求される半導体製造装置等に好適な転動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
HDD,フレキシブルディスクドライブ(FDD),コンパクトディスクドライブ(CDD),光磁気ディスクドライブ(MOD),ビデオテープレコーダ(VTR)等のような情報機器に用いられる転がり軸受には、一般に、高速回転においても発塵(飛散)が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、長寿命であること等の各種性能が要求される。
【0003】
特に、清浄な雰囲気下で使用されるHDDにおいては、回転時に軸受内部からガス状の油やグリースの微小な粒子が飛散すると、ディスクの表面を汚染して誤作動の原因となるため、発塵量を抑えることが最も重要なこととされている。
このようなHDD用転がり軸受に封入されるグリース組成物としては、従来は、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースが用いられてきた。また、ジエステル油(例えばジオクチルセバケートなど)やポリオールエステル油(例えばペンタエリスリトールテトラエステルなど)のようなエステル油を基油としたリチウム石けんグリースも同様に用いられてきた。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−9489号公報
【特許文献2】
特願2002−204469号明細書
【特許文献3】
特開2001−139969号公報
【特許文献4】
特開2001−139979号公報
【特許文献5】
特開2000−199526号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述のような従来のグリースが封入された転がり軸受は、前述した各種要求性能のすべてが十分に優れているとは言えなかった。
例えば、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースの場合は、飛散量は少ないものの、増ちょう剤の分散性が不十分で均質になりにくいため、転がり軸受が回転した際の音響性能や振動性能に問題があった。また、吸湿性が高く、グリースが経時的に硬化して転がり軸受内で流動性が低下するため、潤滑不良を起こしやすいという問題点も有していた。
【0006】
また、エステル油を基油としたリチウム石けんグリースの場合は、増ちょう剤の分散性が良好で音響性能や振動性能には問題がなく、転がり軸受は低トルクであるが、飛散性に問題があった。そのため、このような転がり軸受をHDDに用いる場合には、ディスクの汚染を防ぐために高価な磁性流体シールを併用していた。よって、コストアップに繋がり、また小型化の妨げともなっていた。
【0007】
一方、近年、前記情報機器に用いられる転がり軸受には、前述のような各種要求性能とともにフレッチングが生じにくいという性能が要求されるようになってきている。
前記情報機器は、運搬時又は携帯時に振動を受ける。また、近年、自動車に搭載されるカーナビゲーションシステムに前記情報機器が使用されるようになってきたため、前記情報機器が受ける振動はより大きくなってきている。
【0008】
情報機器に用いられている玉軸受,ころ軸受等の転がり軸受は、情報機器の運搬時等において生じる5〜10ヘルツ程度の低い周波数の振動によって、転がり軸受内の転動体(ボール又はころ)と軌道輪の軌道面とが損傷を受けて劣化しやすい。このようなフレッチングという現象が起きると、転がり軸受の音響性能が悪くなるばかりでなく、情報機器の性能そのものにも悪影響を及ぼすおそれがある。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい転動装置を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に充填されたグリース組成物と、を備える転動装置において、前記グリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するとともに、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力が200〜800Paであることを特徴とする。
【0010】
前記グリース組成物は、40〜80℃における見かけの粘度が20〜80Pa・sであることが好ましい。
また、前記グリース組成物は、酸化防止剤,極圧剤,及び防錆剤を添加剤として含有することが好ましく、これら3種の添加剤はいずれも極性を有する化合物であり、全添加剤の合計の含有量は組成物全体の1〜10質量%であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記グリース組成物の混和ちょう度は230〜350であることが好ましい。
さらに、前記基油の40℃における動粘度は15〜55mm2 /sであり、前記基油の50質量%以上はエステル油であることが好ましい。
さらに、前記増ちょう剤はリチウム石けんであり、その含有量は組成物全体の10〜30質量%であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明は、内部すきまを有する転がり軸受にも適用可能である。
以下に、前記グリース組成物の物性値及び前記グリース組成物を構成する各成分について説明する。
〔グリース組成物のせん断応力について〕
前述のような値のせん断応力を有するグリース組成物であれば、転動装置の駆動時の転動体と軌道面との接触部の移動にグリース組成物が追従し、グリース組成物が前記接触部に十分に供給されることとなる。よって、転動装置にフレッチングが生じにくい。
【0013】
せん断応力が200Pa未満であると、グリース組成物が微小な接触部から流出したり排除されたりしやすい。一方、800Pa超過であるとグリース組成物がバルク状となるので、前記接触部から排除されやすい。このような問題点がより生じにくくするためには、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力は330〜630Paであることがより好ましい。
【0014】
〔グリース組成物の見かけの粘度について〕
前述のような値の見かけの粘度を有するグリース組成物であれば、転動装置の駆動時の転動体と軌道面との接触部の移動にグリース組成物が追従し、グリース組成物が前記接触部に十分に供給されることとなる。よって、転動装置にフレッチングが生じにくい。
【0015】
見かけの粘度が20Pa・s未満であると、グリース組成物が微小な接触部から流出したり排除されたりしやすい。一方、80Pa・s超過であるとグリース組成物がバルク状となるので、前記接触部から排除されやすい。
なお、グリース組成物の構成が同一であっても、製造方法の違い等によってせん断応力,見かけの粘度等のようなレオロジー特性が異なる場合がある。本発明は、転動装置に封入するグリース組成物のレオロジー特性に着目し、これを最適化することによって転動装置の耐フレッチング性を向上させるというものである。所定のレオロジー特性を有するグリース組成物の製造方法については、その一例を後に詳述する。
【0016】
〔グリース組成物の混和ちょう度について〕
グリース組成物の混和ちょう度は230〜350であることが好ましい。230未満であると、グリース組成物が硬すぎて、転動装置のトルク性能や耐フレッチング性が不十分となるおそれがある。350超過であると、グリース組成物が軟らかすぎて、発塵量が多くなったり転動装置からグリース組成物が漏洩しやすくなったりする。グリース組成物が前記接触部に十分に供給されやすく、且つより低発塵とするためには、グリース組成物の混和ちょう度は280〜300であることがより好ましい。
【0017】
〔基油について〕
グリース組成物に使用される基油の種類は特に限定されるものではなく、鉱物油,合成炭化水素油,エステル油,エーテル油,シリコン油,フッ素油等を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
ただし、グリース組成物を充填した転動装置に、低トルクである、音響性能に優れる、高速で駆動させても発塵が少ない、という各種性能を付与するためには、基油はエステル油を含有することが好ましい。そして、その含有量は基油全体の50質量%以上とすることが好ましく、より高い方が前記各種性能を優れたものとすることができる。エステル油の含有量が基油全体の50質量%未満であると、上記の各種性能が不十分となるおそれがあり、特に、音響性能に対する悪影響が大きい。
【0018】
また、基油の40℃における動粘度は、15〜100mm2 /sであることが好ましくい。より好ましくは15〜55mm2 /sであり、さらに好ましくは18〜33mm2 /sである。前記下限値よりも小さいと、耐熱性が乏しくなり蒸発量が多くなるほか、摺動部分に形成される油膜の厚さが不十分となるおそれがある。すなわち、寿命や発塵性に問題が生じるおそれがある。一方、前記上限値よりも大きいと転動装置のトルクが大きくなるおそれがあり、転動装置が転がり軸受である場合は小型モータへの使用が不適となる。
【0019】
エステル油の例としては、炭酸エステル,ジエステル油,ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油等があげられる。
ジエステル油の具体例としては、アジピン酸ジイソデシル,アゼライン酸ジイソデシル,セバシン酸ジオクチル等があげられる。
また、ポリオールエステル油の具体例としては、ネオペンチルグリコールジエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状又は分岐鎖状の炭素数9個のものやオレイル基等),トリメチロールプロパントリエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,7個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ペンタエリスリトールテトラエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6,8個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等),ジペンタエリスリトールヘキサエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6個のもの等)などである。
【0020】
さらに、芳香族エステル油の具体例としては、トリメリト酸トリオクチル,トリメリト酸トリデシル,ピロメリト酸テトラオクチル等があげられる。
これらのエステル油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
〔増ちょう剤について〕
グリース組成物に使用される増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、金属石けん,金属複合石けん,ウレア化合物,無機化合物(ベントン,マイカ,シリカゲル,カーボンブラック等),フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン等)等を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0021】
ただし、転動装置の音響性能や耐フレッチング性を考えるとリチウム石けんが最も好ましい。リチウム石けんやその複合石けん、特にステアリン酸リチウムや12−ヒドロキシステアリン酸リチウムは鋼材料との密着性が良好で、転動装置に優れた耐フレッチング性や音響性能(グリースノイズ)を付与する。
ステアリン酸リチウム等のリチウム石けんは、1価の脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。また、リチウム複合石けんの例としては、上記のリチウム石けんと2価の脂肪酸のリチウム塩とで構成されるものがあげられる。このようなリチウム複合石けんは、1価の脂肪酸と2価の脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。金属石けん及び金属複合石けんの金属成分としては、例えば、Li,Ca,Al,Na,Ba等があげられる。
【0022】
また、ウレア化合物としては、例えば、脂肪族,脂環式,芳香族等のウレア化合物やポリウレア化合物があげられるが、特に、下記の一般式(I)で表されるジウレアが好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
なお、式(I)中のR1 及びR3 は脂肪族炭化水素基,芳香族炭化水素基,又は縮合炭化水素基を表し、R1 とR3 は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、R2 は2価の芳香族炭化水素基を表す。
このようなジウレアは、別途合成したものを基油に分散させてもよいし、基油中で合成することによって基油に分散させてもよい。ただし、後者の方法の方が、基油中に増ちょう剤を良好に分散させやすいので、工業的に製造する場合には有利である。
【0025】
ジウレアを基油中で合成する場合の合成方法は特に限定されるものではないが、R2 の芳香族炭化水素基を有するジイソシアネート1モルと、R1 及びR3 の炭化水素基を有するモノアミン2モルとを、反応させる方法が最も好ましい。
ジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート,トリレンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,ビフェニレンジイソシアネート,ジメチルジフェニレンジイソシアネート,又はこれらのアルキル基置換体等を好適に使用できる。
【0026】
また、R1 及びR3 が脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アニリン,シクロヘキシルアミン,オクチルアミン,トルイジン,ドデシルアニリン,オクタデシルアミン,ヘキシルアミン,ヘプチルアミン,ノニルアミン,エチルヘキシルアミン,デシルアミン,ウンデシルアミン,ドデシルアミン,テトラデシルアミン,ペンタデシルアミン,ノナデシルアミン,エイコデシルアミン,オレイルアミン,リノレイルアミン,リノレニルアミン,メチルシクロヘキシルアミン,エチルシクロヘキシルアミン,ジメチルシクロヘキシルアミン,ジエチルシクロヘキシルアミン,ブチルシクロヘキシルアミン,プロピルシクロヘキシルアミン,アミルシクロヘキシルアミン,シクロオクチルアミン,ベンジルアミン,ベンズヒドリルアミン,フェネチルアミン,メチルベンジルアミン,ビフェニルアミン,フェニルイソプロピルアミン,フェニルヘキシルアミン等を好適に使用できる。
【0027】
さらに、R1 及びR3 が縮合炭化水素基である場合のモノアミンとしては、例えば、アミノインデン、アミノインダン、アミノ−1−メチレンインデン等のインデン系アミン化合物、アミノナフタレン(ナフチルアミン)、アミノメチルナフタレン、アミノエチルナフタレン、アミノジメチルナフタレン、アミノカダレン、アミノビニルナフタレン、アミノ−1,2−ジヒドロナフタレン、アミノ−1,4−ジヒドロナフタレン、アミノテトラヒドロナフタレン、アミノオクタリン等のナフタレン系アミン化合物、アミノベンタレン、アミノアズレン、アミノヘプタレン等の縮合二環系アミン化合物などが好適に用いられる。
【0028】
このような増ちょう剤の含有量は、グリース組成物の10〜30質量%であることが好ましく、18〜25質量%であることがより好ましい。10質量%未満であるとグリース組成物が軟らかくなりすぎて、30質量%超過であると硬くなりすぎる。そうすると、グリース組成物の混和ちょう度を230〜350に保って前記せん断応力(40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力)を200〜800Paとすることが困難となる。また、18〜25質量%の範囲を外れると、グリース組成物の混和ちょう度を280〜300に保って前記せん断応力を330〜630Paとすることが困難となる。
【0029】
〔添加剤について〕
グリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤,極圧剤,防錆剤,油性向上剤,金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0030】
特に、酸化防止剤,極圧剤,及び防錆剤を添加剤として使用し、しかも、これら3種の添加剤をいずれも極性を有する化合物とすれば、グリース組成物のせん断応力が適正な値となりやすい。全添加剤の合計の含有量は組成物全体の1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。この範囲から外れると、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力を200〜800Paとすることが困難となる。
【0031】
酸化防止剤としては、例えば、脂肪族アミン,芳香族アミン等のアミン系化合物があげられる。極圧剤としては、例えば、正リン酸エステル,亜リン酸エステル,イオウーリン系化合物,亜鉛ジチオカーバメート,モリブデンジチオカーバメート,モリブデンジチオフォスフェート等の硫黄化合物があげられる。防錆剤としては、例えば、バリウムスルホネート,カルシウムスルホネート,亜鉛スルホネート等のスルホネート系化合物があげられる。
【0032】
また、油性向上剤としては、例えば、オレイン酸,コハク酸等の脂肪酸やそのエステル及びその酸無水物があげられる。また、グリセリン化合物も油性向上剤として使用できる。さらに、金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等があげられる。
酸化防止剤,極圧剤,及び防錆剤の3種の添加剤を使用する場合には、その組み合わせは、アミン系化合物−モリブデン化合物−スルホネート系化合物が好ましく、アルキルジフェニルアミン−モリブデンジチオフォスフェート−亜鉛スルホネートが特に好ましい。
【0033】
〔内部すきまについて〕
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータ等の装置に組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータ等の装置の運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じても軽微である。
【0034】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータ等の装置に組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み込まれていることとなる。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータ等の装置の運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0035】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータ等の装置に組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータ等の装置の運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0036】
しかしながら、本発明に係る転動装置は、前述したようにフレッチングが生じにくいので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で電動モータ等の装置組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができ、例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等があげられる。
【0037】
本発明における前記内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、前記外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明に係る転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
この玉軸受(呼び番号695、内径5mm,外径13mm,幅3mm)は、内輪1と、外輪2と、内輪1と外輪2との間に転動自在に配設された複数の玉3と、複数の玉3を保持する保持器4と、外輪2のシール溝2a,2aに取り付けられた非接触形のゴムシール5,5と、で構成されている。また、内輪1と外輪2とゴムシール5,5とで囲まれた軸受空間にはその空間容積の15体積%のグリース組成物Gが充填され、ゴムシール5により玉軸受内に密封されている。そして、このようなグリース組成物Gにより、前記両輪1,2の軌道面と玉3との接触面が潤滑されている。さらに、この玉軸受は8〜13μmの内部すきまを有している。
【0039】
このグリース組成物Gは、リチウム石けんを増ちょう剤として使用しており、40℃における動粘度が15〜55mm2 /sであるエステル油を基油として使用している。また、極圧剤,酸化防止剤,及び防錆剤(いずれの添加剤も極性を有する化合物である)を添加剤として使用している。その組成比は、ステアリン酸リチウムが10〜30質量%で、3種の添加剤の合計が1〜10質量%で、残部がエステル油である。
【0040】
また、グリース組成物Gのせん断応力(40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力)は200〜800Paであり、40〜80℃における見かけの粘度は20〜80Pa・sである。さらに、混和ちょう度は230〜350である。
このグリース組成物Gは、以下のようにして製造したものである。まず、エステル油にリチウム石けんを溶解し急冷してベースグリースを得た後、前記3種の添加剤を添加した。次に、この混合物を、70〜90℃で数時間(好ましくは3〜5時間)ニーダで混練した。この混練によって増ちょう剤の3次元的な絡み合い構造が若干崩れるため、せん断応力が200〜800Paであるグリース組成物が得られる。
【0041】
グリース組成物の組成比が前記と全く同一であっても、せん断を付与する等の方法によって、せん断応力等のレオロジー特性が異なるグリース組成物を製造することができる。また、グリース組成物に機械的にせん断を加えるだけでは、前述のようなレオロジー特性を有するグリース組成物を得ることが容易ではない場合があるが、極圧剤は増ちょう剤の3次元的な絡み合い構造を好ましい程度崩す作用を有しているので、極圧剤を添加してせん断を加えれば前述のようなレオロジー特性を有するグリース組成物を容易に製造することができる。
【0042】
このようなレオロジー特性を有するグリース組成物を充填した玉軸受は、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい。よって、コンピュータ等に使用されるハードディスクドライブ(HDD)や各種事務機器等、あるいは、清浄な環境が要求される半導体製造装置等に好適である。
【0043】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、基油及び増ちょう剤の種類は前述のものに限定されるものではなく、また、グリース組成物Gには前記以外の各種添加剤を添加してもよい。
また、本実施形態においては転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0044】
また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
次に、前述とほぼ同様の構成のグリース組成物を5種類用意して、そのレオロジー特性を評価した。また、そのグリース組成物を前述と同様の構成の玉軸受に封入して、玉軸受の耐フレッチング性及び音響寿命を評価した。
【0045】
玉軸受に封入されたグリース組成物の組成は、表1に示す通りである。なお、5種類のグリース組成物において使用した増ちょう剤は、全てステアリン酸リチウムである。また、極圧剤はモリブデン化合物、酸化防止剤はアミン系化合物、防錆剤はスルホネート系化合物である。
【0046】
【表1】
【0047】
ここで、グリース組成物のレオロジー特性の評価方法について説明する。
図2は、グリース組成物のレオロジー特性を測定するレオメータに備えられた測定部を示す断面図である。断熱壁11に囲まれた平板状のステージ12の上方に、ギャップを介して円盤状の測定プレート13(パラレルプレート)が配置されており、測定プレート13の平坦な下面はステージ12と平行をなしている。そして、測定プレート13とステージ12との間に形成された前記ギャップには、グリース組成物10が満たされている。図2の符号14は、冷却時に使用する通気口である。
【0048】
ステージ12に内蔵された温度制御装置でグリース組成物10の温度を制御しながら、測定プレート13を一方向に回転させてグリース組成物10にせん断速度を加え、せん断応力や見かけの粘度を測定する。せん断応力の測定条件は、温度が60℃で、せん断速度が10s−1である。また、測定プレート13の直径は20mmで、ギャップは0.1mmである。なお、測定プレート13は、パラレルプレートに代えてコーンプレートとすることもできる。また、適当な周波数でオシレーションを与えれば、グリース組成物10の粘弾性を測定することもできる。
【0049】
せん断応力及び見かけの粘度の測定結果を、表1に併せて示す。また、せん断速度を種々変更して測定したせん断応力及び見かけの粘度を、図3及び図4のグラフにそれぞれ示す。
さらに、実施例3のグリース組成物において3種の添加剤の合計の含有量を種々変更し、それらのせん断応力を前述と同様にして測定した。その結果を図5のグラフに示す。このグラフから、せん断応力を適正な値とするためには、全添加剤の含有量は1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましいことが分かる。
【0050】
次に、玉軸受の耐フレッチング性及び音響寿命の評価方法について説明する。
〔音響寿命の評価方法について〕
玉軸受の音響寿命は、図6の電動モータを使用して測定した。まず、電動モータの構成を図6を参照しながら説明する。一対の玉軸受20,20が、シャフト21と円筒状のケーシング22との間に介装されている。このとき、玉軸受20は、12Nの予圧(アキシアル荷重)が負荷された状態で電動モータに組み込まれている。そして、シャフト21の外周面に固定されたロータ23と、該ロータ23にギャップを介して周面対向するようにケーシング22の内周面に固定されたステータ24と、で形成された駆動モータ25によって、シャフト21が回転駆動されるようになっている。
【0051】
このような電動モータを、常温下において回転速度5400min−1で回転(内輪回転)させ、このときに発生する騒音を、電動モータのケーシング22の上端面から1m離れた所に設置したマイクロホンで測定した。そして、騒音が初期値よりも5dBA上昇するまでの回転時間を音響寿命とした。
測定結果を表1に併せて示す。なお、表1に記載の音響寿命は、比較例1の玉軸受の音響寿命を1とした場合の相対値で示してある。
【0052】
表1から分かるように、実施例1〜3の玉軸受は、グリース組成物のせん断応力が適切な値であるため、比較例1,2と比べて音響寿命が優れていた。
〔耐フレッチング性の評価方法について〕
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、玉軸受の初期のG値を測定した。続いて、その玉軸受を、前述した音響寿命の測定方法と同様に電動モータに組み込んだ。そして、玉軸受にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で3時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は5〜150Hzの間で、振幅は0.5〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、玉軸受30は回転させない。
【0053】
振動を与えた玉軸受のG値を前述のアンデロンメータで測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって玉軸受の耐フレッチング性を評価した。なお、初期のG値は、玉軸受の初期の音響性能(騒音)を表す指標ともなる。評価結果を表1に併せて示す。
表1から分かるように、実施例1〜3の玉軸受は、グリース組成物のせん断応力が適切な値であるため、比較例1,2と比べて耐フレッチング性能が非常に優れていた。
【0054】
次に、グリース組成物のせん断応力と耐フレッチング性及び音響寿命との相関性を、図7のグラフを参照しながら考察する。このグラフには、実施例1〜3と比較例1,2との玉軸受の評価結果がプロットしてある。また、図5の説明において前述した、実施例3のグリース組成物において3種の添加剤の合計量を種々変更したものを充填した玉軸受についても、同様に耐フレッチング性及び音響寿命を評価して図7のグラフにプロットしてある。
【0055】
図7のグラフから、グリース組成物のせん断応力が200〜800Paであると、耐フレッチング性及び音響寿命の両方が好ましく、330〜630Paであると、耐フレッチング性及び音響寿命の両方がより好ましいことが分かる。
【0056】
【発明の効果】
以上のように、本発明の転動装置は、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力が200〜800Paであるグリース組成物が充填されているので、低発塵,低トルクで音響性能が優れていることに加えて、フレッチングが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図2】レオメータに備えられた測定部を示す断面図である。
【図3】グリース組成物のせん断速度とせん断応力との相関を示すグラフである。
【図4】グリース組成物のせん断速度と見かけの粘度との相関を示すグラフである。
【図5】添加剤の含有量とせん断応力との相関を示すグラフである。
【図6】電動モータの構成を示す断面図である。
【図7】グリース組成物のせん断応力と、玉軸受のG値上昇量及び音響寿命と、の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
3 玉
G グリース組成物
Claims (7)
- 外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に充填されたグリース組成物と、を備える転動装置において、
前記グリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するとともに、40〜80℃で10s−1のせん断速度を一方向に加えた場合のせん断応力が200〜800Paであることを特徴とする転動装置。 - 前記グリース組成物は、40〜80℃における見かけの粘度が20〜80Pa・sであることを特徴とする請求項1に記載の転動装置。
- 前記グリース組成物は、酸化防止剤,極圧剤,及び防錆剤を添加剤として含有しており、これら3種の添加剤はいずれも極性を有する化合物であり、全添加剤の合計の含有量は組成物全体の1〜10質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転動装置。
- 前記グリース組成物の混和ちょう度が230〜350であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転動装置。
- 前記基油の40℃における動粘度は15〜55mm2 /sであり、前記基油の50質量%以上はエステル油であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転動装置。
- 前記増ちょう剤はリチウム石けんであり、その含有量は組成物全体の10〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の転動装置。
- 内部すきまを有する転がり軸受であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の転動装置。
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