JP2004043718A - グリース組成物,転がり軸受,及び電動モータ - Google Patents
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Abstract
【課題】フレッチング防止性能に優れたグリース組成物を提供する。また、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、回転停止時にフレッチングが生じにくい転がり軸受を提供する。
【解決手段】グリース組成物の基油を、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sである低粘度の基油と、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sである高粘度の基油と、を含有する混合基油とし、この混合基油の40℃における動粘度を15〜60mm2 /sとした。そして、このようなグリース組成物を転がり軸受の軸受空間内に充填した。
【選択図】 なし
【解決手段】グリース組成物の基油を、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sである低粘度の基油と、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sである高粘度の基油と、を含有する混合基油とし、この混合基油の40℃における動粘度を15〜60mm2 /sとした。そして、このようなグリース組成物を転がり軸受の軸受空間内に充填した。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フレッチング防止性能に優れたグリース組成物に関する。また、本発明は、フレッチングが生じにくい転がり軸受に係り、特に、コンピュータに使用されるハードディスクドライブ(HDD)等のような情報機器や各種事務機器などに好適な転がり軸受に関する。さらに、本発明は長寿命な電動モータに関する。
【0002】
【従来の技術】
HDD,フレキシブルディスクドライブ(FDD),コンパクトディスクドライブ(CDD),光磁気ディスクドライブ(MOD),ビデオテープレコーダ(VTR)等のような情報機器に用いられる転がり軸受には、一般に、高速回転においても発塵(飛散)が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、長寿命であること等が要求される。
【0003】
特に、清浄な雰囲気下で使用されるHDD等の情報機器においては、回転時に軸受内部からガス状の油やグリースの微小な粒子が飛散すると、ディスク等の表面を汚染して誤作動の原因となるため、飛散量を抑えることが最も重要なこととされている。
このようなHDD用転がり軸受に封入されるグリース組成物としては、従来は、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースや、有機酸とアルコールとの反応生成物である合成エステル(ジエステル油やポリオールエステル油等)を基油としたリチウム石けんグリースが用いられてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、前記情報機器に用いられる転がり軸受には、前述のような各種要求性能とともに回転停止時にフレッチングが生じにくいという性能が要求されるようになってきている。その理由は以下の通りである。
前記情報機器は、運搬時や携帯時に5〜10ヘルツ程度の低い周波数の振動を受ける。また、近年、自動車に搭載されるカーナビゲーションシステムに前記情報機器が使用されるようになってきたため、前記情報機器が受ける振動はより大きくなってきている。
【0005】
前記情報機器がこのような振動を受けると、前記情報機器に用いられている転がり軸受の転動体と軌道輪の軌道面とが繰り返し接触する。ところが、前記情報機器の運搬時や携帯時には転がり軸受は通常は回転しておらず停止しているので、転動体や軌道面の特定の部分に繰り返し負荷が作用することとなって、該部分に損傷が生じやすい。このようなフレッチングという現象が起きると、転がり軸受の音響性能が悪くなるばかりでなく、情報機器の性能そのものにも悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、フレッチング防止性能に優れたグリース組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、回転停止時にフレッチングが生じにくい転がり軸受を提供することを併せて課題とする。さらに、本発明は長寿命な電動モータを提供することを併せて課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のグリース組成物は、基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物において、前記基油を、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sである低粘度の基油と、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sである高粘度の基油と、を含有する混合基油とし、この混合基油の40℃における動粘度を15〜60mm2 /sとしたことを特徴とする。
【0008】
このようなグリース組成物は、低粘度の基油を含有しているので、転がり軸受に封入した場合に回転停止時のフレッチングの発生を著しく抑制する性質を有している。このことについて以下に詳細に説明する。
これまでは、転がり軸受に生じるフレッチングを防止するには、転がり軸受に封入するグリース組成物中の基油を高粘度とすることが有効であるとされてきた。しかしながら、これは回転時に生じるフレッチングについて成立することであって、前述のような回転停止状態の転がり軸受に振動によって生じるフレッチングについて成立するものではない。
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、回転停止状態の転がり軸受に振動によって生じるフレッチングを防止するには、グリース組成物中の基油を低粘度とすることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
つまり、低粘度の基油は流動性が高いので、回転停止時においても転動体と軌道面との間に進入しやすい。その結果、回転停止状態の転がり軸受に振動が与えられても、該基油の潤滑作用によって転動体や軌道面にフレッチングが生じることが抑制される。
【0010】
低粘度の基油は、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sである必要がある。35mm2 /s超過であると、転がり軸受の転動体と軌道面との間に進入しにくくなる。また、10mm2 /s未満であると、粘度が低すぎて潤滑作用が不十分となる。
ただし、基油全体の粘度が上記のような低粘度であると、転がり軸受に封入した際に音響性能(音響寿命)が不十分となる。よって、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sである高粘度の基油を前記低粘度の基油とともに含有させて、音響性能を十分なものとした。高粘度の基油の動粘度が50mm2 /s未満であると、音響性能が不十分となる。また、120mm2 /s超過であると、粘度が高すぎてフレッチング防止性能等の他の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0011】
また、転がり軸受に封入した際のトルク性能を考慮すると、基油全体の粘度はあまり大きくない方が好ましいので、基油全体の40℃における動粘度は15〜60mm2 /sとする必要がある。60mm2 /s超過であると、転がり軸受の回転時のトルクが大きくなるおそれがある。また、15mm2 /s未満であると、粘度が低すぎて音響性能等の他の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
また、本発明に係る請求項2のグリース組成物は、請求項1に記載のグリース組成物において、前記低粘度の基油をエステル油としたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3のグリース組成物は、請求項1に記載のグリース組成物において、前記低粘度の基油をジエステル油,ポリオールエステル油,及び炭酸エステルのうちの少なくとも1種としたことを特徴とする。
【0013】
このように基油としてエステル油を使用すると、エステル油のエステル基と転動体や軌道輪を構成する金属との間の相互作用によって、転動体と軌道面との接触部への油分の浸透がより良好となる。
さらに、本発明に係る請求項4のグリース組成物は、請求項1〜3のいずれかに記載のグリース組成物において、前記低粘度の基油の含有量を前記混合基油全体の40〜95質量%としたことを特徴とする。
【0014】
40質量%未満であると、低粘度の基油の含有量が少なすぎるので、前述のフレッチング防止性能が不十分となる。また、95質量%超過であると、高粘度の基油の含有量が5質量%未満となるので、音響性能が不十分となる。このような不都合がより生じにくくするためには、低粘度の基油の含有量は前記混合基油全体の50〜90質量%とすることがより好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る請求項5のグリース組成物は、請求項1〜4のいずれかに記載のグリース組成物において、前記増ちょう剤をリチウム石けんとしたことを特徴とする。
このような構成であれば、転がり軸受に封入した際に音響性能がより良好となる。音響性能を十分に良好なものとするためには、リチウム石けんの含有量はグリース組成物全体の5〜30質量%とすることが好ましく、10〜25質量%とすることがより好ましい。
【0016】
リチウム石けんの例としては、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等のような1価の脂肪酸のリチウム塩があげられる。このようなリチウム石けんは、脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
さらに、本発明に係る請求項6のグリース組成物は、請求項1〜5のいずれかに記載のグリース組成物において、スルホン酸金属塩を含有し、その含有量はグリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0017】
このような構成であれば、転がり軸受に封入した場合に回転停止時のフレッチングの発生がより抑制される。その理由は以下に述べるようなものであると考えられる。すなわち、スルホン酸金属塩は金属に対して界面活性剤のように作用して、摺動面に生成した金属の新生面に吸着し、強固な被膜を形成する。そうすると、金属同士の直接的な接触が防止されるので、フレッチングによる損傷が抑制される。
【0018】
フレッチング防止性能をより向上させるためには、スルホン酸金属塩の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましい。
さらに、本発明に係る請求項7のグリース組成物は、請求項1〜6のいずれかに記載のグリース組成物において、混和ちょう度が200〜265であることを特徴とする。
【0019】
混和ちょう度が200未満であると、グリース組成物が硬すぎて、転がり軸受に封入した際にトルク変動が生じやすくなるなどトルク性能が不十分となる。また、265超過であると、グリース組成物が軟らかすぎて発塵が多くなる。
さらに、本発明に係る請求項8の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1〜7のいずれかに記載のグリース組成物を充填したことを特徴とする。
【0020】
このような構成であれば、転がり軸受は、発塵が少ない、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を満足することに加えて、フレッチングが生じにくいという性能を備えている。よって、このような転がり軸受は、HDD,FDD,CDD,MOD,VTR等のような情報機器や各種事務機器等に好適に用いることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る請求項9の電動モータは、回転軸が軸受によって回転自在に支持されてなる電動モータにおいて、前記軸受を請求項8に記載の転がり軸受とするとともに、該転がり軸受は電動モータへの非組み込み時には正の内部すきまを有し、組み込み時には予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする。
【0022】
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0023】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受は、軸受単体で転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み立てられている。このような状態で転がり軸受が電動モータに組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体と軌道面との相対移動はフレッチングを発生させる振幅より小さく抑えられるので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0024】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0025】
しかしながら、本発明に係る請求項9の電動モータは、前述したようなフレッチングが生じにくい軸受を備えているので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で転がり軸受が組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
以下に、本発明のグリース組成物を構成する各成分について説明する。
【0026】
〔基油について〕
低粘度の基油の種類は、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sであれば特に限定されるものではないが、ジエステル油,ポリオールエステル油,炭酸エステルのようなエステル油が好ましい。
ジエステル油としては、例えば、一般式ROOC(CH2 )n COOR’で表されるものがあり、その具体例としては、アジピン酸ジオクチル,セバシン酸ジオクチル等があげられる。
【0027】
また、ポリオールエステル油としては、例えば、一般式C(CH2 OCOR)4 で表されるペンタエリスリトールテトラエステル(炭化水素基Rは、例えば直鎖状の炭素数6,8個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等)や、ジペンタエリスリトールヘキサエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6個のもの等)等があげられる。
【0028】
これらのエステル油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
一方、高粘度の基油の種類は、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sであれば特に限定されるものではなく、エステル油,エーテル油,合成炭化水素油,鉱油等のようなグリース組成物の基油として一般に使用される基油を問題なく使用することができる。
【0029】
エステル油の種類としては、前述のジエステル油,ポリオールエステル油,炭酸エステルの他、芳香族エステル油があげられる。芳香族エステル油の具体例としては、トリメリト酸トリオクチル,トリメリト酸トリデシルのようなトリメリト酸エステルや、ピロメリト酸テトラオクチルのようなピロメリト酸エステル等があげられる。
【0030】
また、エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0031】
さらに、合成炭化水素油のうち脂肪族系の合成炭化水素油としては、具体的には、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられ、芳香族系の合成炭化水素油としては、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどがあげられる。
【0032】
さらに、鉱油の種類としては、パラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,及びそれらの混合油等があげられる。
さらに、牛脂,豚脂,大豆油,菜種油,米ぬか油,ヤシ油,パーム油,パーム核油等の油脂系油又はその水素化物などの天然油系潤滑油も使用可能である。 高粘度の基油は、上記のうちの1種でもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0033】
〔スルホン酸金属塩について〕
スルホン酸金属塩の種類は特に限定されるものではないが、金属の種類は、アルカリ金属,アルカリ土類金属,亜鉛,銅が好ましく、カルシウム,バリウムが特に好ましい。このようなスルホン酸金属塩は、スルホン酸と金属水酸化物とから合成できる。なお、スルホン酸のアンモニウム塩も好適に使用可能である。
【0034】
スルホン酸の種類は特に限定されるものではなく、脂肪族スルホン酸でもよいし芳香族スルホン酸でもよい。脂肪族スルホン酸としては、例えば、炭素数1〜24の炭化水素基を有するものが好ましい。
また、芳香族スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸やナフタレンスルホン酸等が好ましく、これらの芳香族基は、1個以上の炭素数1〜24の炭化水素基で置換されていてもよい。芳香族スルホン酸の中では、特にジアルキルナフタレンスルホン酸が好ましく、そのアルキル基の炭素数は8〜10がより好ましく、9が最も好ましい。
【0035】
なお、スルホン酸金属塩とともにモリブデン化合物や亜鉛化合物を併用してもよい。
〔その他の添加剤について〕
本発明のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。
【0036】
例えば、アミン系,フェノール系,硫黄系,ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤、石油スルフォン酸,カルシウムスルフォネート,ソルビタンエステル等の防錆剤、リン系,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸,動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明に係るグリース組成物,転がり軸受,及び電動モータの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図においては、同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
表1〜3に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
実施例1〜9のグリース組成物は、低粘度の基油と高粘度の基油とを混合した混合基油を、基油として用いたものである。
低粘度の基油は40℃における動粘度が10〜35mm2 /sのジエステル油,ポリオールエステル油(以降はPOEと記す),又はアルキルジフェニルエーテル(以降はADEと記す)であり、高粘度の基油は40℃における動粘度が50〜120mm2 /sのPOE,トリメリト酸エステル(以降はTMEと記す),ADE,又はポリα−オレフィン油(以降はPAOと記す)である。そして、それらの混合基油の40℃における動粘度は15〜60mm2 /sである。
【0042】
具体的には、低粘度の基油としては、40℃における動粘度が12mm2 /sのジオクチルセバケート(以降はDOSと記す)、同じく26mm2 /sのジトリデシルアジペート(以降はDTDAと記す)、同じく14mm2 /sのジイソデシルアジペート(以降はDIDAと記す)、同じく15mm2 /sのPOE(モービルケミカル社製NP341)、同じく20mm2 /sのPOE(ユニケマ社製3970)、同じく33mm2 /sのPOE(チバガイギー社製LPE602)、同じく15mm2 /sのADE(松村石油研究所社製LB15)のうちのいずれかを用いている。
【0043】
また、高粘度の基油としては、40℃における動粘度が92mm2 /sのPOE(ユニケマ社製3988)、同じく120mm2 /sのPOE(HATOCO社製H−2372)、同じく53mm2 /sのTME、同じく88mm2 /sのTME、同じく100mm2 /sのADE(松村石油研究所社製LB100)、同じく68mm2 /sのPAOのうちのいずれかを用いている。
【0044】
また、増ちょう剤としてリチウム石けんが使用され、添加剤としてスルホン酸金属塩とジフェニルアミン系の酸化防止剤とが使用されている。
スルホン酸金属塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN−HT)、スルホン酸カルシウム(KING社製Nasul CA−HT)、及びスルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS−HT)のうちのいずれかを用いている。
【0045】
なお、グリース組成物を製造する際には、スルホン酸金属塩はそのままで添加されるが、実施例1及び比較例1においてはDOSに溶解させて、その溶液を添加した。また、実施例2及び比較例2においてはPAOに溶解させて、その溶液を添加した。
これらのグリース組成物について、アウトガス(グリース組成物からの有機系ガスの発生量)を評価した。その方法は以下の通りである。20mgのグリース組成物を25mlのバイアルビンに密封し、70℃で18時間加熱する。そして、バイアルビン内のガスをガスクロマトグラフ分析装置で分析し、有機系ガスの量を測定した。
【0046】
また、各グリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,トルク性能(トルク値及びトルク変動),及び音響性能(初期音響性能及び音響耐久性)を評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号608の玉軸受(内径8mm,外径22mm,幅7mm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、グリース組成物Gが充填されている。また、この転がり軸受1は5〜10μmの内部すきまを有している。
【0047】
次に、上記各種性能の評価方法について説明する。
〔トルク性能の評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0048】
耐フレッチング性能及び音響性能の評価は、転がり軸受1を電動モータに組み込んで行った。電動モータの構成を図3を参照しながら説明する。一対の転がり軸受1,1が、シャフト51と円筒状のケーシング52との間に介装されている。このとき、転がり軸受1は、58.8Nの予圧(アキシアル荷重)が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。そして、シャフト51の外周面に固定されたステータ53と、該ステータ53にギャップを介して周面対向するようにケーシング52の内周面に固定されたロータ54と、で形成された駆動モータ55によって、ケーシング52がシャフト51を軸として回転駆動されるようになっている。
【0049】
〔音響性能の評価方法について〕
前記電動モータに組み込まれた転がり軸受1を、雰囲気温度70℃、回転速度10000min−1で500時間回転(外輪回転)させた。そして、回転初期の音響の大きさによって初期音響特性を評価し、前記回転で生じた音響の劣化の程度によって音響耐久性を評価した。
【0050】
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
前記電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で6時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0051】
この振動を与えた電動モータを10000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。
前記各種性能の評価結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3においては、情報機器用転がり軸受に用いるグリース組成物に要求される性能を基準として、優れていた場合を「A」、同等である場合を「B」、劣っていた場合を「C」で示してある。
【0052】
表から分かるように、実施例1〜7は、グリース組成物からのアウトガスが少なく、また、転がり軸受の耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能が非常に優れていた。
低粘度の基油としてADEを用いた実施例8及び9は、エステル油を用いた実施例1〜7と比べると耐フレッチング性能が若干低いものの、上記各種性能は十分なものであった。
【0053】
それに対して、比較例1は、低粘度の基油しか使用しておらず基油の粘度が低すぎるので、音響性能が劣っていた。また、比較例2は、低粘度の基油の量が少なく、混合基油の粘度が高すぎるので、耐フレッチング性能及びトルク性能が劣っていた。さらに、比較例3は、低粘度の基油を使用しておらず基油の粘度が高すぎるので、耐フレッチング性能及びトルク性能が劣っていた。
【0054】
次に、基油全体における低粘度の基油の含有量と耐フレッチング性能及び音響耐久性との相関性について説明する。
実施例1においてDOSとADEの含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能及び音響耐久性を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、以下の通りである。
【0055】
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、上記転がり軸受の初期のG値を測定した。続いて、前述した耐フレッチング性能の評価方法と同様に、電動モータに組み込んで転がり軸受にフレッチングを生じさせるべく電動モータに振動を加えた。振動を加えた転がり軸受のG値を前述のアンデロンメータで測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。
【0056】
次に、ここでの音響耐久性の評価方法を説明する。
はじめに、前述のアンデロンメータを用いて、転がり軸受の初期のG値を測定した。続いて、前述した音響耐久性の評価方法と同様に、電動モータに組み込んで回転させた。回転後の転がり軸受のG値を前述のアンデロンメータで測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって転がり軸受の音響耐久性を評価した。
【0057】
基油全体における低粘度の基油の含有量と前記2つのG値上昇量との相関を、図4のグラフに示す。グラフ中の○印はフレッチング試験後のG値上昇量であり、△印は音響耐久性試験後のG値上昇量である。
なお、このグラフに示した上記2種のG値上昇量は、実施例1(グリース組成物全体におけるDOSの含有量が52質量%で、ADEの含有量が22質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるDOS(低粘度の基油)の含有量が70.3質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれのG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0058】
グラフから分かるように、基油全体における低粘度の基油の含有量が40〜95質量%であれば、2種のG値上昇量(相対値)がともに2以下となり、耐フレッチング性能と音響耐久性との両方が優れたものとなることが分かる。そして、50〜90質量%であれば、2種のG値上昇量(相対値)がともに1.5以下となり、耐フレッチング性能と音響耐久性との両方がさらに優れたものとなることが分かる。
【0059】
次に、スルホン酸金属塩の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例1のグリース組成物においてスルホン酸バリウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸バリウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0060】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク値の評価方法は前述のものと同様であり、発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
〔発塵性の評価方法について〕
前述と同様に転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0061】
評価結果を図5のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性の測定値は、スルホン酸バリウムの含有量が5質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
図5のグラフから、耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸金属塩の含有量を1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましいことが分かる。
【0062】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0063】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る請求項1〜請求項7のグリース組成物は、フレッチング防止性能に優れている。
また、本発明に係る請求項8の転がり軸受は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、回転停止時にフレッチングが生じにくい。
【0064】
さらに、本発明に係る請求項9の電動モータは長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である転がり軸受の構成を示す縦断面図である。
【図2】トルク測定装置の構成を示す概略図である。
【図3】転がり軸受が組み込まれた電動モータの構成を示す縦断面図である。
【図4】基油全体における低粘度の基油の含有量とフレッチング試験後のG値上昇量及び音響耐久性試験後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図5】スルホン酸金属塩の含有量と、耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 転がり軸受
10 内輪
11 外輪
12 玉
G グリース組成物
【発明の属する技術分野】
本発明は、フレッチング防止性能に優れたグリース組成物に関する。また、本発明は、フレッチングが生じにくい転がり軸受に係り、特に、コンピュータに使用されるハードディスクドライブ(HDD)等のような情報機器や各種事務機器などに好適な転がり軸受に関する。さらに、本発明は長寿命な電動モータに関する。
【0002】
【従来の技術】
HDD,フレキシブルディスクドライブ(FDD),コンパクトディスクドライブ(CDD),光磁気ディスクドライブ(MOD),ビデオテープレコーダ(VTR)等のような情報機器に用いられる転がり軸受には、一般に、高速回転においても発塵(飛散)が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、長寿命であること等が要求される。
【0003】
特に、清浄な雰囲気下で使用されるHDD等の情報機器においては、回転時に軸受内部からガス状の油やグリースの微小な粒子が飛散すると、ディスク等の表面を汚染して誤作動の原因となるため、飛散量を抑えることが最も重要なこととされている。
このようなHDD用転がり軸受に封入されるグリース組成物としては、従来は、鉱油を基油としたナトリウムコンプレックス石けんグリースや、有機酸とアルコールとの反応生成物である合成エステル(ジエステル油やポリオールエステル油等)を基油としたリチウム石けんグリースが用いられてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、前記情報機器に用いられる転がり軸受には、前述のような各種要求性能とともに回転停止時にフレッチングが生じにくいという性能が要求されるようになってきている。その理由は以下の通りである。
前記情報機器は、運搬時や携帯時に5〜10ヘルツ程度の低い周波数の振動を受ける。また、近年、自動車に搭載されるカーナビゲーションシステムに前記情報機器が使用されるようになってきたため、前記情報機器が受ける振動はより大きくなってきている。
【0005】
前記情報機器がこのような振動を受けると、前記情報機器に用いられている転がり軸受の転動体と軌道輪の軌道面とが繰り返し接触する。ところが、前記情報機器の運搬時や携帯時には転がり軸受は通常は回転しておらず停止しているので、転動体や軌道面の特定の部分に繰り返し負荷が作用することとなって、該部分に損傷が生じやすい。このようなフレッチングという現象が起きると、転がり軸受の音響性能が悪くなるばかりでなく、情報機器の性能そのものにも悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、フレッチング防止性能に優れたグリース組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、回転停止時にフレッチングが生じにくい転がり軸受を提供することを併せて課題とする。さらに、本発明は長寿命な電動モータを提供することを併せて課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のグリース組成物は、基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物において、前記基油を、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sである低粘度の基油と、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sである高粘度の基油と、を含有する混合基油とし、この混合基油の40℃における動粘度を15〜60mm2 /sとしたことを特徴とする。
【0008】
このようなグリース組成物は、低粘度の基油を含有しているので、転がり軸受に封入した場合に回転停止時のフレッチングの発生を著しく抑制する性質を有している。このことについて以下に詳細に説明する。
これまでは、転がり軸受に生じるフレッチングを防止するには、転がり軸受に封入するグリース組成物中の基油を高粘度とすることが有効であるとされてきた。しかしながら、これは回転時に生じるフレッチングについて成立することであって、前述のような回転停止状態の転がり軸受に振動によって生じるフレッチングについて成立するものではない。
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、回転停止状態の転がり軸受に振動によって生じるフレッチングを防止するには、グリース組成物中の基油を低粘度とすることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
つまり、低粘度の基油は流動性が高いので、回転停止時においても転動体と軌道面との間に進入しやすい。その結果、回転停止状態の転がり軸受に振動が与えられても、該基油の潤滑作用によって転動体や軌道面にフレッチングが生じることが抑制される。
【0010】
低粘度の基油は、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sである必要がある。35mm2 /s超過であると、転がり軸受の転動体と軌道面との間に進入しにくくなる。また、10mm2 /s未満であると、粘度が低すぎて潤滑作用が不十分となる。
ただし、基油全体の粘度が上記のような低粘度であると、転がり軸受に封入した際に音響性能(音響寿命)が不十分となる。よって、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sである高粘度の基油を前記低粘度の基油とともに含有させて、音響性能を十分なものとした。高粘度の基油の動粘度が50mm2 /s未満であると、音響性能が不十分となる。また、120mm2 /s超過であると、粘度が高すぎてフレッチング防止性能等の他の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0011】
また、転がり軸受に封入した際のトルク性能を考慮すると、基油全体の粘度はあまり大きくない方が好ましいので、基油全体の40℃における動粘度は15〜60mm2 /sとする必要がある。60mm2 /s超過であると、転がり軸受の回転時のトルクが大きくなるおそれがある。また、15mm2 /s未満であると、粘度が低すぎて音響性能等の他の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
また、本発明に係る請求項2のグリース組成物は、請求項1に記載のグリース組成物において、前記低粘度の基油をエステル油としたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3のグリース組成物は、請求項1に記載のグリース組成物において、前記低粘度の基油をジエステル油,ポリオールエステル油,及び炭酸エステルのうちの少なくとも1種としたことを特徴とする。
【0013】
このように基油としてエステル油を使用すると、エステル油のエステル基と転動体や軌道輪を構成する金属との間の相互作用によって、転動体と軌道面との接触部への油分の浸透がより良好となる。
さらに、本発明に係る請求項4のグリース組成物は、請求項1〜3のいずれかに記載のグリース組成物において、前記低粘度の基油の含有量を前記混合基油全体の40〜95質量%としたことを特徴とする。
【0014】
40質量%未満であると、低粘度の基油の含有量が少なすぎるので、前述のフレッチング防止性能が不十分となる。また、95質量%超過であると、高粘度の基油の含有量が5質量%未満となるので、音響性能が不十分となる。このような不都合がより生じにくくするためには、低粘度の基油の含有量は前記混合基油全体の50〜90質量%とすることがより好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る請求項5のグリース組成物は、請求項1〜4のいずれかに記載のグリース組成物において、前記増ちょう剤をリチウム石けんとしたことを特徴とする。
このような構成であれば、転がり軸受に封入した際に音響性能がより良好となる。音響性能を十分に良好なものとするためには、リチウム石けんの含有量はグリース組成物全体の5〜30質量%とすることが好ましく、10〜25質量%とすることがより好ましい。
【0016】
リチウム石けんの例としては、ステアリン酸リチウム,12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等のような1価の脂肪酸のリチウム塩があげられる。このようなリチウム石けんは、脂肪酸と水酸化リチウムとから合成できる。
さらに、本発明に係る請求項6のグリース組成物は、請求項1〜5のいずれかに記載のグリース組成物において、スルホン酸金属塩を含有し、その含有量はグリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0017】
このような構成であれば、転がり軸受に封入した場合に回転停止時のフレッチングの発生がより抑制される。その理由は以下に述べるようなものであると考えられる。すなわち、スルホン酸金属塩は金属に対して界面活性剤のように作用して、摺動面に生成した金属の新生面に吸着し、強固な被膜を形成する。そうすると、金属同士の直接的な接触が防止されるので、フレッチングによる損傷が抑制される。
【0018】
フレッチング防止性能をより向上させるためには、スルホン酸金属塩の含有量を、グリース組成物全体の1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましい。
さらに、本発明に係る請求項7のグリース組成物は、請求項1〜6のいずれかに記載のグリース組成物において、混和ちょう度が200〜265であることを特徴とする。
【0019】
混和ちょう度が200未満であると、グリース組成物が硬すぎて、転がり軸受に封入した際にトルク変動が生じやすくなるなどトルク性能が不十分となる。また、265超過であると、グリース組成物が軟らかすぎて発塵が多くなる。
さらに、本発明に係る請求項8の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1〜7のいずれかに記載のグリース組成物を充填したことを特徴とする。
【0020】
このような構成であれば、転がり軸受は、発塵が少ない、トルクが小さい、音響性能が優れている、及び長寿命である、という各種性能を満足することに加えて、フレッチングが生じにくいという性能を備えている。よって、このような転がり軸受は、HDD,FDD,CDD,MOD,VTR等のような情報機器や各種事務機器等に好適に用いることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る請求項9の電動モータは、回転軸が軸受によって回転自在に支持されてなる電動モータにおいて、前記軸受を請求項8に記載の転がり軸受とするとともに、該転がり軸受は電動モータへの非組み込み時には正の内部すきまを有し、組み込み時には予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする。
【0022】
正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷することなく組み込むと、転動体及び軌道面はまったく拘束されないから、転動体と軌道面との接触位置は自由に変化しうる状態となっている。このような状態で転がり軸受が組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体や軌道面の特定の位置に繰り返し負荷が作用することがないので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0023】
また、負の内部すきまを有する転がり軸受は、軸受単体で転動体と軌道面とが接触し拘束された状態で組み立てられている。このような状態で転がり軸受が電動モータに組み込まれていると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けても、転動体と軌道面との相対移動はフレッチングを発生させる振幅より小さく抑えられるので、転動体や軌道面に損傷が生じる可能性はほとんどない。
【0024】
ところが、正の内部すきまを有する転がり軸受を電動モータに組み込む際に、予圧を負荷して組み込んで所定の接触角を有する状態とすると、転動体と軌道面とは接触し拘束されてはいるものの、その接触位置は移動しうる状態となっている。そうすると、電動モータの運搬時,携帯時等に振動を受けた際に、初期の接触位置を中心として接触位置が移動を繰り返すため、初期の接触位置の近傍に繰り返し負荷が作用することとなって、フレッチングが生じやすい。
【0025】
しかしながら、本発明に係る請求項9の電動モータは、前述したようなフレッチングが生じにくい軸受を備えているので、上記のようなフレッチングが生じやすい状態で転がり軸受が組み込まれていてもフレッチングが生じにくく長寿命である。
以下に、本発明のグリース組成物を構成する各成分について説明する。
【0026】
〔基油について〕
低粘度の基油の種類は、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sであれば特に限定されるものではないが、ジエステル油,ポリオールエステル油,炭酸エステルのようなエステル油が好ましい。
ジエステル油としては、例えば、一般式ROOC(CH2 )n COOR’で表されるものがあり、その具体例としては、アジピン酸ジオクチル,セバシン酸ジオクチル等があげられる。
【0027】
また、ポリオールエステル油としては、例えば、一般式C(CH2 OCOR)4 で表されるペンタエリスリトールテトラエステル(炭化水素基Rは、例えば直鎖状の炭素数6,8個のもの、分岐鎖状の炭素数8個のもの、イソステアリル基、オレイル基等)や、ジペンタエリスリトールヘキサエステル(炭化水素基は、例えば直鎖状の炭素数6個のもの等)等があげられる。
【0028】
これらのエステル油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
一方、高粘度の基油の種類は、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sであれば特に限定されるものではなく、エステル油,エーテル油,合成炭化水素油,鉱油等のようなグリース組成物の基油として一般に使用される基油を問題なく使用することができる。
【0029】
エステル油の種類としては、前述のジエステル油,ポリオールエステル油,炭酸エステルの他、芳香族エステル油があげられる。芳香族エステル油の具体例としては、トリメリト酸トリオクチル,トリメリト酸トリデシルのようなトリメリト酸エステルや、ピロメリト酸テトラオクチルのようなピロメリト酸エステル等があげられる。
【0030】
また、エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0031】
さらに、合成炭化水素油のうち脂肪族系の合成炭化水素油としては、具体的には、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられ、芳香族系の合成炭化水素油としては、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどがあげられる。
【0032】
さらに、鉱油の種類としては、パラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,及びそれらの混合油等があげられる。
さらに、牛脂,豚脂,大豆油,菜種油,米ぬか油,ヤシ油,パーム油,パーム核油等の油脂系油又はその水素化物などの天然油系潤滑油も使用可能である。 高粘度の基油は、上記のうちの1種でもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0033】
〔スルホン酸金属塩について〕
スルホン酸金属塩の種類は特に限定されるものではないが、金属の種類は、アルカリ金属,アルカリ土類金属,亜鉛,銅が好ましく、カルシウム,バリウムが特に好ましい。このようなスルホン酸金属塩は、スルホン酸と金属水酸化物とから合成できる。なお、スルホン酸のアンモニウム塩も好適に使用可能である。
【0034】
スルホン酸の種類は特に限定されるものではなく、脂肪族スルホン酸でもよいし芳香族スルホン酸でもよい。脂肪族スルホン酸としては、例えば、炭素数1〜24の炭化水素基を有するものが好ましい。
また、芳香族スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸やナフタレンスルホン酸等が好ましく、これらの芳香族基は、1個以上の炭素数1〜24の炭化水素基で置換されていてもよい。芳香族スルホン酸の中では、特にジアルキルナフタレンスルホン酸が好ましく、そのアルキル基の炭素数は8〜10がより好ましく、9が最も好ましい。
【0035】
なお、スルホン酸金属塩とともにモリブデン化合物や亜鉛化合物を併用してもよい。
〔その他の添加剤について〕
本発明のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。
【0036】
例えば、アミン系,フェノール系,硫黄系,ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤、石油スルフォン酸,カルシウムスルフォネート,ソルビタンエステル等の防錆剤、リン系,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸,動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明に係るグリース組成物,転がり軸受,及び電動モータの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図においては、同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
表1〜3に実施例及び比較例のグリース組成物の組成(数値の単位は質量%である)を示し、さらにその混和ちょう度と滴点を併せて示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
実施例1〜9のグリース組成物は、低粘度の基油と高粘度の基油とを混合した混合基油を、基油として用いたものである。
低粘度の基油は40℃における動粘度が10〜35mm2 /sのジエステル油,ポリオールエステル油(以降はPOEと記す),又はアルキルジフェニルエーテル(以降はADEと記す)であり、高粘度の基油は40℃における動粘度が50〜120mm2 /sのPOE,トリメリト酸エステル(以降はTMEと記す),ADE,又はポリα−オレフィン油(以降はPAOと記す)である。そして、それらの混合基油の40℃における動粘度は15〜60mm2 /sである。
【0042】
具体的には、低粘度の基油としては、40℃における動粘度が12mm2 /sのジオクチルセバケート(以降はDOSと記す)、同じく26mm2 /sのジトリデシルアジペート(以降はDTDAと記す)、同じく14mm2 /sのジイソデシルアジペート(以降はDIDAと記す)、同じく15mm2 /sのPOE(モービルケミカル社製NP341)、同じく20mm2 /sのPOE(ユニケマ社製3970)、同じく33mm2 /sのPOE(チバガイギー社製LPE602)、同じく15mm2 /sのADE(松村石油研究所社製LB15)のうちのいずれかを用いている。
【0043】
また、高粘度の基油としては、40℃における動粘度が92mm2 /sのPOE(ユニケマ社製3988)、同じく120mm2 /sのPOE(HATOCO社製H−2372)、同じく53mm2 /sのTME、同じく88mm2 /sのTME、同じく100mm2 /sのADE(松村石油研究所社製LB100)、同じく68mm2 /sのPAOのうちのいずれかを用いている。
【0044】
また、増ちょう剤としてリチウム石けんが使用され、添加剤としてスルホン酸金属塩とジフェニルアミン系の酸化防止剤とが使用されている。
スルホン酸金属塩としては、スルホン酸バリウム(KING社製Nasul BSN−HT)、スルホン酸カルシウム(KING社製Nasul CA−HT)、及びスルホン酸亜鉛(KING社製Nasul ZS−HT)のうちのいずれかを用いている。
【0045】
なお、グリース組成物を製造する際には、スルホン酸金属塩はそのままで添加されるが、実施例1及び比較例1においてはDOSに溶解させて、その溶液を添加した。また、実施例2及び比較例2においてはPAOに溶解させて、その溶液を添加した。
これらのグリース組成物について、アウトガス(グリース組成物からの有機系ガスの発生量)を評価した。その方法は以下の通りである。20mgのグリース組成物を25mlのバイアルビンに密封し、70℃で18時間加熱する。そして、バイアルビン内のガスをガスクロマトグラフ分析装置で分析し、有機系ガスの量を測定した。
【0046】
また、各グリース組成物を封入した転がり軸受について、耐フレッチング性能,トルク性能(トルク値及びトルク変動),及び音響性能(初期音響性能及び音響耐久性)を評価した。
まず、転がり軸受の構成について、図1を参照しながら説明する。図1の転がり軸受1は日本精工株式会社製の呼び番号608の玉軸受(内径8mm,外径22mm,幅7mm)であり、内輪10と、外輪11と、該両輪10,11の間に転動自在に配設された複数の玉12と、両輪10,11の間に玉12を保持するプラスチック製の保持器13と、外輪11に取り付けられて両輪10,11の間に介在されたシール14,14と、を備えている。そして、両輪10,11とシール14,14とに囲まれた軸受空間内に、グリース組成物Gが充填されている。また、この転がり軸受1は5〜10μmの内部すきまを有している。
【0047】
次に、上記各種性能の評価方法について説明する。
〔トルク性能の評価方法について〕
図2に示すようなトルク測定装置を用いて、転がり軸受のトルクを測定した。転がり軸受1の内輪がアーバ42を介してエアスピンドル41に固定され、外輪がエアベアリング43を備えたアルミキャップ44に固定されている。そして、エアスピンドル41を室温下、回転速度5400min−1で回転させて転がり軸受1の内輪を回転させ、そのときのトルク値をアルミキャップ44に接続したストレインケージ45で測定した。この測定値は、ストレインアンプ46及びローパスフィルタ47を経由して、レコーダ48にて記録される。
【0048】
耐フレッチング性能及び音響性能の評価は、転がり軸受1を電動モータに組み込んで行った。電動モータの構成を図3を参照しながら説明する。一対の転がり軸受1,1が、シャフト51と円筒状のケーシング52との間に介装されている。このとき、転がり軸受1は、58.8Nの予圧(アキシアル荷重)が負荷され所定の接触角を有する状態で電動モータに組み込まれている。そして、シャフト51の外周面に固定されたステータ53と、該ステータ53にギャップを介して周面対向するようにケーシング52の内周面に固定されたロータ54と、で形成された駆動モータ55によって、ケーシング52がシャフト51を軸として回転駆動されるようになっている。
【0049】
〔音響性能の評価方法について〕
前記電動モータに組み込まれた転がり軸受1を、雰囲気温度70℃、回転速度10000min−1で500時間回転(外輪回転)させた。そして、回転初期の音響の大きさによって初期音響特性を評価し、前記回転で生じた音響の劣化の程度によって音響耐久性を評価した。
【0050】
〔耐フレッチング性能の評価方法について〕
前記電動モータに組み込まれた転がり軸受1にフレッチングを生じさせるべく、電動モータに軸方向の振動を常温下で6時間与えた。与えた振動は、周波数及び振幅がランダムに変化する振動であり、周波数は3〜150Hzの間で、振幅は0.1〜5mmの間でランダムに変化させた。なお、振動を与える間は、転がり軸受1は回転させない。
【0051】
この振動を与えた電動モータを10000min−1の回転速度で回転させ(外輪回転)、回転時の音響の大きさを測定した。そして、振動を与える前の音響の大きさからの音響の上昇量によって耐フレッチング性能を評価した。
前記各種性能の評価結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3においては、情報機器用転がり軸受に用いるグリース組成物に要求される性能を基準として、優れていた場合を「A」、同等である場合を「B」、劣っていた場合を「C」で示してある。
【0052】
表から分かるように、実施例1〜7は、グリース組成物からのアウトガスが少なく、また、転がり軸受の耐フレッチング性能,音響性能,及びトルク性能が非常に優れていた。
低粘度の基油としてADEを用いた実施例8及び9は、エステル油を用いた実施例1〜7と比べると耐フレッチング性能が若干低いものの、上記各種性能は十分なものであった。
【0053】
それに対して、比較例1は、低粘度の基油しか使用しておらず基油の粘度が低すぎるので、音響性能が劣っていた。また、比較例2は、低粘度の基油の量が少なく、混合基油の粘度が高すぎるので、耐フレッチング性能及びトルク性能が劣っていた。さらに、比較例3は、低粘度の基油を使用しておらず基油の粘度が高すぎるので、耐フレッチング性能及びトルク性能が劣っていた。
【0054】
次に、基油全体における低粘度の基油の含有量と耐フレッチング性能及び音響耐久性との相関性について説明する。
実施例1においてDOSとADEの含有量の比を種々変更したものを用意して、各グリース組成物を充填した転がり軸受の耐フレッチング性能及び音響耐久性を評価した。ここでの耐フレッチング性能の評価方法は、以下の通りである。
【0055】
はじめに、振動加速度(G値)を測定できるように改造したアンデロンメータを用いて、上記転がり軸受の初期のG値を測定した。続いて、前述した耐フレッチング性能の評価方法と同様に、電動モータに組み込んで転がり軸受にフレッチングを生じさせるべく電動モータに振動を加えた。振動を加えた転がり軸受のG値を前述のアンデロンメータで測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって転がり軸受の耐フレッチング性能を評価した。
【0056】
次に、ここでの音響耐久性の評価方法を説明する。
はじめに、前述のアンデロンメータを用いて、転がり軸受の初期のG値を測定した。続いて、前述した音響耐久性の評価方法と同様に、電動モータに組み込んで回転させた。回転後の転がり軸受のG値を前述のアンデロンメータで測定して、初期のG値からの上昇量を算出した。そして、このG値の上昇量によって転がり軸受の音響耐久性を評価した。
【0057】
基油全体における低粘度の基油の含有量と前記2つのG値上昇量との相関を、図4のグラフに示す。グラフ中の○印はフレッチング試験後のG値上昇量であり、△印は音響耐久性試験後のG値上昇量である。
なお、このグラフに示した上記2種のG値上昇量は、実施例1(グリース組成物全体におけるDOSの含有量が52質量%で、ADEの含有量が22質量%)のグリース組成物、すなわち、基油全体におけるDOS(低粘度の基油)の含有量が70.3質量%のグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれのG値上昇量を1とした場合の相対値で示してある。
【0058】
グラフから分かるように、基油全体における低粘度の基油の含有量が40〜95質量%であれば、2種のG値上昇量(相対値)がともに2以下となり、耐フレッチング性能と音響耐久性との両方が優れたものとなることが分かる。そして、50〜90質量%であれば、2種のG値上昇量(相対値)がともに1.5以下となり、耐フレッチング性能と音響耐久性との両方がさらに優れたものとなることが分かる。
【0059】
次に、スルホン酸金属塩の好適な含有量の範囲を調査するため、以下のような試験を行った。すなわち、実施例1のグリース組成物においてスルホン酸バリウムの含有量を種々変化させたものを製造し、各グリース組成物を充填した転がり軸受を用意した。なお、スルホン酸バリウムの含有量の増減に合わせて、基油と増ちょう剤との比率を一定に保ったまま、基油及び増ちょう剤の含有量を変化させた。
【0060】
そして、各転がり軸受の耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性(グリース組成物の発塵性)を評価した。耐フレッチング性能の評価方法は、前述のG値上昇量による評価方法である。また、トルク値の評価方法は前述のものと同様であり、発塵性の評価方法は以下に示す通りである。
〔発塵性の評価方法について〕
前述と同様に転がり軸受を電動モータに組み込んで、室温下、回転速度5400min−1で500時間回転させ、転がり軸受の回転前後での重量差を求めた。そして、この重量差によって、グリース組成物の発塵性を評価した。
【0061】
評価結果を図5のグラフに示す。なお、このグラフに示した耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性の測定値は、スルホン酸バリウムの含有量が5質量%であるグリース組成物を充填した転がり軸受のそれぞれの測定値を1とした場合の相対値で示してある。
図5のグラフから、耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性のすべてを良好なものとするためには、スルホン酸金属塩の含有量を1.5〜10質量%とすることが好ましく、2〜8質量%とすることがより好ましいことが分かる。
【0062】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0063】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る請求項1〜請求項7のグリース組成物は、フレッチング防止性能に優れている。
また、本発明に係る請求項8の転がり軸受は、発塵が少ないこと、トルクが小さいこと、音響性能が優れていること、及び長寿命であることに加えて、回転停止時にフレッチングが生じにくい。
【0064】
さらに、本発明に係る請求項9の電動モータは長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である転がり軸受の構成を示す縦断面図である。
【図2】トルク測定装置の構成を示す概略図である。
【図3】転がり軸受が組み込まれた電動モータの構成を示す縦断面図である。
【図4】基油全体における低粘度の基油の含有量とフレッチング試験後のG値上昇量及び音響耐久性試験後のG値上昇量との相関を示すグラフである。
【図5】スルホン酸金属塩の含有量と、耐フレッチング性能,トルク値,及び発塵性の評価結果との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 転がり軸受
10 内輪
11 外輪
12 玉
G グリース組成物
Claims (9)
- 基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物において、
前記基油を、40℃における動粘度が10〜35mm2 /sである低粘度の基油と、40℃における動粘度が50〜120mm2 /sである高粘度の基油と、を含有する混合基油とし、
この混合基油の40℃における動粘度を15〜60mm2 /sとしたことを特徴とするグリース組成物。 - 前記低粘度の基油をエステル油としたことを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
- 前記低粘度の基油をジエステル油,ポリオールエステル油,及び炭酸エステルのうちの少なくとも1種としたことを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
- 前記低粘度の基油の含有量を前記混合基油全体の40〜95質量%としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリース組成物。
- 前記増ちょう剤をリチウム石けんとしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグリース組成物。
- スルホン酸金属塩を含有し、その含有量はグリース組成物全体の1.5〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のグリース組成物。
- 混和ちょう度が200〜265であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のグリース組成物。
- 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、
前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1〜7のいずれかに記載のグリース組成物を充填したことを特徴とする転がり軸受。 - 回転軸が軸受によって回転自在に支持されてなる電動モータにおいて、前記軸受を請求項8に記載の転がり軸受とするとともに、該転がり軸受は電動モータへの非組み込み時には正の内部すきまを有し、組み込み時には予圧が負荷され所定の接触角を有する状態とされていることを特徴とする電動モータ。
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