JP2016000816A - モータ用グリース封入軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れた耐フレッチング性を有し、軸受転走面等での摩耗を防止できるモータ用グリース封入軸受の提供。【解決手段】モータの回転子13をその回転軸11で支持するものであり、転動体の周囲に、基油と増ちょう剤と添加剤とを含むグリース組成物を封入され、上記基油がエステル油を必須成分として含み、40℃における動粘度が20〜50mm2/sであり、上記添加剤が式(1)又は(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、該亜リン酸エステルの含有量が基油及び増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部であるモータ用グリース封入軸受1。【選択図】図2
Description
本発明は、グリース潤滑されるモータ用グリース封入軸受に関し、特に産業機械用、電装機器用、電気自動車駆動用のモータなどに使用される転がり軸受に関する。
微小な往復運動や振動などを伴う環境で使用されるモータでは、一般に微動摩耗と呼ばれる摩耗現象(以下、フレッチングという)が生じる可能性がある。例えば、サーボモータ、ステッピングモータなどの産業機械用モータでは、駆動時の振動や、微小な往復運動により軸受転走面にフレッチングが生じるおそれがある。また、自動車などに用いられる電装機器用モータ、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータなどでは、エンジンなどの動力による微振動や、走行中の路面環境による微振動により、軸受転走面などにフレッチングが生じるおそれがある。特に、低温環境下など、軸受転走面などへの潤滑油の十分な供給が得られない場合には、フレッチングが生じやすい。
また、近年のモータの小型化に合わせて、モータの回転子を支持するモータ用軸受の小型化が進められている。そのため、モータ用軸受を構成する部材に負荷される接触面圧が高くなる傾向にある。また、モータの回転の高速化も進められており、モータの起動の際および停止の際において、モータ用軸受の回転の加減速が大きくなる傾向にある。転動体と軌道輪との間における面圧の上昇や急加減速によるすべりの増大は、該部分における油膜切れ(潤滑不良)を起こしやすくする。これにより、金属接触が発生して、転動体や軌道輪が摩耗しやすくなり、上記フレッチングが生じるおそれも高まる。
従来、このようなフレッチングを防止するために種々の方法が提案されているが、その一つとして、適切な潤滑剤を選択してフレッチングを防止する方法がある。その中で、ウレア系増ちょう剤に酸化パラフィン、ジフェニルハイドロゲンホスファイトおよびヘキサメチルホスホリックトリアミドから選ばれた少なくとも一つを配合したグリースが提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1のグリースは、微小な往復運動や振動が生じやすいモータ用途において、十分なフレッチング防止を図ることは困難であると考えられる。
また、潤滑に用いるグリースによる、耐フレッチング性の向上効果については十分に解明されていないのが現状である。例えば、同一の増ちょう剤を配合したグリースであっても試験法によっては耐フレッチング性について相反する結果を与える場合がある。その他、添加剤についてもリン酸塩やリン酸エステルなどのリン化合物を含むものが好ましいとする報告が多いが、その耐フレッチング性はリン化合物の構造により大きく異なっている。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、微小な往復運動や振動などを伴う環境で使用されながら、優れた耐フレッチング性を有し、軸受転走面などでの摩耗を防止できるモータ用グリース封入軸受を提供することを目的とする。
本発明のモータ用グリース封入軸受は、モータの回転子を支持するものであり、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、上記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられるシール部材とを有し、上記転動体の周囲に、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物を封入してなり、上記基油がエステル油を必須成分として含む合成油であり、該基油の40℃における動粘度が、20〜50mm2/sであり、上記添加剤が、式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、上記亜リン酸エステルの含有量が、上記基油および上記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部であることを特徴とする。
(式(1)(2)において、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれメチル基またはエチル基である。また、R1とR2とは、R3とR4とR5とは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
上記基油が、上記エステル油のみからなる合成油、または、上記エステル油とポリ−α−オレフィン(以下、PAOと記す)油との混合油であることを特徴とする。
上記グリース組成物が、上記式(1)または(2)で表される以外の亜リン酸エステル、および、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルを含まないことを特徴とする。
上記亜リン酸エステルが、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルであることを特徴とする。
上記増ちょう剤が、金属石けんであることを特徴とする。
上記グリース組成物の混和ちょう度が、200〜350であることを特徴とする。
上記モータ用グリース封入軸受が、深溝玉軸受であることを特徴とする。また、上記モータ用グリース封入軸受が、産業機械用、電装機器用、または電気自動車駆動用のモータの回転子を支持するものであることを特徴とする。
本発明のモータ用グリース封入軸受は、封入するグリース組成物について、エステル油を必須成分として含み、40℃における動粘度が20〜50mm2/sの基油(合成油)を用い、添加剤として亜リン酸エステルの中でも、特に上記式(1)または式(2)に表されるものを所定量配合した組成物を用いることで、微小な往復運動や振動などを伴う環境で使用されながら、優れた耐フレッチング性を有し、広い温度領域において軸受転走面などでのフレッチングの発生を防止できる。
このため、本発明のモータ用グリース封入軸受は、産業機械用モータ、電装機器用モータ、電気自動車駆動用モータなどの回転子を支持する軸受として好適に利用できる。
モータの回転子を支持するモータ用グリース封入軸受の一例を図1に示す。図1は、グリース組成物が封入されている深溝玉軸受の断面図である。深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4を保持する保持器が設けられている。また、外輪3などに固定されるシール部材6が、内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲にグリース組成物7が封入される。このグリース組成物7は、後述する添加剤として所定の亜リン酸エステルを配合したグリース組成物である。
本発明のモータ用グリース封入軸受を適用したモータの一例を図2に示す。図2はモータの構造の断面図である。モータは、ジャケット9の内周壁に配置されたモータ用マグネットからなる固定子10と、回転軸11に固着された巻線12を巻回した回転子13と、回転軸11に固定された整流子14と、ジャケット9に支持されたエンドフレーム17に配置されたブラシホルダ15と、このブラシホルダ15内に収容されたブラシ16と、を備えている。上記回転軸11は、深溝玉軸受1と、該軸受1のための支持構造とにより、ジャケット9に回転自在に支持されている。該軸受1が本発明のモータ用グリース封入軸受である。
本発明のモータ用封入軸受として、図1に示す深溝玉軸受のほか、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受なども使用できる。これらの中で高速回転での回転精度、耐荷重性、低コストを備える、深溝玉軸受を用いることが好ましい。
本発明のモータ用グリース封入軸受に封入するグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記添加剤が、所定の亜リン酸エステルを含むものである。
上記グリース組成物に使用する所定の亜リン酸エステルは、下記式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種である。これらの式で表される亜リン酸エステルは、1種を単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
(式(1)(2)において、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれメチル基またはエチル基である。また、R1とR2とは、R3とR4とR5とは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
式(1)または式(2)で表される亜リン酸エステルは、例えば、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸メチルエチルなどの亜リン酸ジエステル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸ジメチルエチル、亜リン酸メチルジエチルなどの亜リン酸トリエステルである。これらの中でも、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルが好ましい。
上記グリース組成物において、上記亜リン酸エステルの含有量は、基油および増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部である。亜リン酸エステルの含有量が0.5重量部未満であると、耐フレッチング性の向上が図れない可能性がある。また、亜リン酸エステルの含有量が4重量部をこえても、耐フレッチング性がそれ以上に向上しにくい。なお、2種以上の亜リン酸エステルを用いる場合は、その合計量を上記範囲内とする。
また、上記グリース組成物は、上記式(1)または(2)で表される亜リン酸エステル以外の亜リン酸エステルを含まないことが好ましい。また、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルも含まないことが好ましい。すなわち、上記式(1)または式(2)で表される亜リン酸エステルが酸化されたものなど以外は含まないことが好ましい。これらの亜リン酸エステルやリン酸エステルが含まれる場合、耐フレッチング性に劣るおそれがある。
上記グリース組成物は、添加剤に上記所定の低分子量の亜リン酸エステルを用いることで、従来、フレッチングや表面起点剥離を防止するために配合していた、ジチオリン酸亜鉛、リン酸トリクレシルなどの他のリン化合物や、他の極圧剤などを配合しない場合でも、フレッチングの発生を防止できる。
また、上記グリース組成物には必要に応じて、上記亜リン酸エステル以外の公知の添加剤を含有させてもよい。このような添加剤として、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、カルボン酸塩、スルホン酸塩などの防錆剤、ポリアルキレングリコール、グリセリンなどの耐摩耗剤、塩素化パラフィン、硫化油、有機モリブデン化合物などの極圧剤、高級脂肪酸、合成エステルなどの油性向上剤、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤などが挙げられる。なお、これらは、単独または2種類以上組合せて添加できる。
上記グリース組成物の基油は、40℃における動粘度が20〜50mm2/sであり、より好ましくは20〜40mm2/sであり、最も好ましくは26〜40mm2/sである。40℃における動粘度が20mm2/s 未満の場合は粘度が低すぎて油膜切れを起こしやすくなったり、また油の蒸発も多くなる。一方、40℃における動粘度が50mm2/sより高いと、転走面への潤滑油の供給性に劣り、微小な往復運動や振動などを伴う環境で使用されるモータ用途では、フレッチングが起こりやすくなる。また、軸受のトルクが上昇するため、モータ駆動の際における動力損失が大きくなり、発熱も大きくなる。なお、基油として混合油を用いる場合は、該混合油の動粘度が上記範囲内であることが好ましい。
上記グリース組成物の基油の種類としては、上記動粘度範囲を満たすものであれば、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、鉱油、合成油、またはこれらの混合油が挙げられる。
上記鉱油としては、例えば、石油精製業の潤滑油製造プロセスで通常行われている方法により得られるもの、より具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの処理を1つ以上行って精製したものが挙げられる。
上記合成油としては、エステル油;ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマーなどのPAO油またはこれらの水素化物;アルキルナフタレン;アルキルベンゼン;ポリオキシアルキレングリコール;ポリフェニルエーテル;ジアルキルジフェニルエーテル;シリコーン油;フッ素油;フィッシャー・トロプシュ法により合成されるGTL油;などが挙げられる。
これらの中でも、耐熱性や潤滑性に優れることから、エステル油およびPAO油から選ばれた少なくとも1つの油を用いることが好ましい。特に、エステル油を必須とすることが好ましく、必要に応じてエステル油とPAO油との混合油とすることが好ましい。エステル油とPAO油の混合油とする場合、混合比率としては、PAO油/エステル油(重量比)=8/2〜2/8が好ましい。
エステル油は、分子内にエステル基を有し室温で液状を示す化合物であり、例えば、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油などが挙げられる。これらの中でも、芳香族エステル油またはポリオールエステル油が好ましい。
芳香族エステル油は、芳香族多塩基酸またはその誘導体と、高級アルコールとの反応で得られる化合物が好ましい。芳香族多塩基酸としては、トリメリット酸、ビフェニルトリカルボン酸、ナフタレントリカルボン酸などの芳香族トリカルボン酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸などの芳香族テトラカルボン酸、またはこれらの酸無水物などの誘導体が挙げられる。高級アルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコールなどの炭素数4以上の脂肪族1価アルコールが好ましい。芳香族エステル油の例としては、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどが挙げられる。
ポリオールエステル油は、ポリオールと一塩基酸との反応で得られる分子内にエステル基を複数個有する化合物が好ましい。ポリオールに反応させる一塩基酸は単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。なお、オリゴエステルの場合には二塩基酸を用いてもよい。ポリオールとしては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。一塩基酸としては、炭素数4〜18の1価の脂肪酸が挙げられる。例えば、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、牛脂酸、ステアリン酸、カプロレイン酸、ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アスクレピン酸、バクセン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、サビニン酸、リシノール酸などが挙げられる。ポリオールエステル油の例としては、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどが挙げられる。
その他、ジエステル油の例としては、ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ3−エチルヘキシルセバケートなどが挙げられる。
上記グリース組成物の増ちょう剤は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、フッ素樹脂などの非石けん系増ちょう剤を使用できる。金属石けんとしては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けんなどが挙げられる。ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、コストなどを考慮するとウレア化合物またはリチウム石けんを用いることが好ましい。また、ウレア化合物、リチウム石けんは、転走面などへの介入性と付着性にも優れ、フレッチングを防止しやすくなる。
ウレア化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられる。ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。
モータでは、その使用用途上から、静音性および低トルクが要求されるため、上記ウレア化合物の中でも、ジフェニルメタンジイシアネートなどのジイソシアネートと、オクチルアミンなどの脂肪族モノアミンとを反応させて得られた脂肪族ウレア化合物を用いることが好ましい。
基油に、上記リチウム石けんやウレア化合物などの増ちょう剤を配合して、上記の各添加剤を配合するためのベースグリースが得られる。なお、ウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中で上記ジイソシアネートとモノアミンとを反応させる等して作製する。
ベースグリース100重量部中に占める増ちょう剤の含有量は、3〜40重量部が好ましく、5〜30重量部がより好ましい。この範囲内であることが、グリース組成物本来の潤滑性を得るために適する。増ちょう剤の含有量が3重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となる。増ちょう剤の含有量が40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
上記グリース組成物の混和ちょう度(JIS K 2220)は、200〜350の範囲にあることが好ましい。ちょう度が200未満である場合は、低温での油分離が小さく潤滑不良となり、フレッチングが起こりやすくなる。一方、ちょう度が350をこえる場合は、グリースが軟質で軸受外に流出しやすくなり好ましくない。
本発明のモータ用転がり軸受を適用できるモータとしては、換気扇用モータ、燃料電池用ブロアモータ、クリーナモータ、ファンモータ、サーボモータ、ステッピングモータなどの産業機械用モータ、自動車のスタータモータ、電動パワーステアリングモータ、ステアリング調整用チルトモータ、ブロワーモータ、ワイパーモータ、パワーウィンドウモータなどの電装機器用モータ、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータなどが挙げられる。また、微小な往復運動や振動などを伴う環境で使用される他のモータにも適用できる。
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例4
表1〜3に示すごとく、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調整した。ベースグリースの組成は、増ちょう剤、基油を合計して100重量部としてある。ここで、各表中の増ちょう剤である「リチウム石けん」は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである。また、「脂肪族ウレア」を増ちょう剤とするグリースについては、各表に示した基油の半量に、MDI(日本ポリウレタン工業社製:MILLIONATE MT(主成分:ジフェニルメタンジイソシアネート))を溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるオクチルアミンを溶解し、これらを撹拌しながら混合することで得た。
表1〜3に示すごとく、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調整した。ベースグリースの組成は、増ちょう剤、基油を合計して100重量部としてある。ここで、各表中の増ちょう剤である「リチウム石けん」は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである。また、「脂肪族ウレア」を増ちょう剤とするグリースについては、各表に示した基油の半量に、MDI(日本ポリウレタン工業社製:MILLIONATE MT(主成分:ジフェニルメタンジイソシアネート))を溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるオクチルアミンを溶解し、これらを撹拌しながら混合することで得た。
実施例1〜6と比較例1〜2における表中の「エステル油」は、エステル油1(新日鐵化学社製:ハトコールH3110、40℃における動粘度12mm2/s (ジエステル油))と、エステル油2(ADEKA社製:アデカルーブ60Z01A、40℃における動粘度32mm2/s(ポリオールエステル油))とを、エステル油1:エステル油2=3:7の割合(重量比)で混合した油である。
また、実施例7〜12と比較例3〜4における表中の「PAO油」は、新日鐵化学社製:シンフルード601(40℃における動粘度30mm2/s)であり、「エステル油」は、新日鐵化学社製:ハトコールH2362(40℃における動粘度72mm2/s(ポリオールエステル油)である。実施例7〜12および比較例3〜4における基油は、上記エステル油:上記PAO=1:3の割合(重量比)で混合した油である。
上記で作製したベースグリース100重量部に対して、各表に示す割合で添加剤を添加して攪拌脱泡機にて十分攪拌して供試グリースを得た。なお、表2および表3における1)2)は、表1下部に示した1)2)と同様である。得られた供試グリースについて、以下に示すフレッチング試験に供し、摩耗量を測定した。その結果を各表に併記した。
<フレッチング試験>
ASTM D4170に準拠し、ファフナー微動摩耗試験機を用いて性能評価試験を行なった。軸受として51204Jを用い、最大接触面圧が1.7GPa、揺動サイクル30Hz、揺動角12°、雰囲気室温(20℃)の条件下で、試験時間は2時間とした。軸受1個あたりの摩耗量(mg)で評価した。
ASTM D4170に準拠し、ファフナー微動摩耗試験機を用いて性能評価試験を行なった。軸受として51204Jを用い、最大接触面圧が1.7GPa、揺動サイクル30Hz、揺動角12°、雰囲気室温(20℃)の条件下で、試験時間は2時間とした。軸受1個あたりの摩耗量(mg)で評価した。
比較例1、3に示すように、添加剤を添加しない場合では、耐フレッチング性能に劣った。また、比較例2、4に示すように、本発明で用いる亜リン酸エステル以外の添加剤(TCP)を添加した場合では、これを添加しない場合と同じ結果であり、フレッチング性能の改善が図れなかった。一方、これらの比較例に対して、各実施例では、優れた耐フレッチング性を得ることができた。
本発明のモータ用グリース封入軸受は、微小な往復運動や振動などを伴う環境で使用されながら、優れた耐フレッチング性を有し、低温から高温までの広い温度領域において軸受転走面などでのフレッチングの発生を防止できるので、産業機械用モータ、電装機器用モータ、電気自動車駆動用モータの回転子を支持する軸受として好適に利用できる。
1 深溝玉軸受(モータ用グリース封入軸受)
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a、8b 開口部
9 ジャケット
10 固定子
11 回転軸
12 巻線
13 回転子
14 整流子
15 ブラシホルダ
16 ブラシ
17 エンドフレーム
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a、8b 開口部
9 ジャケット
10 固定子
11 回転軸
12 巻線
13 回転子
14 整流子
15 ブラシホルダ
16 ブラシ
17 エンドフレーム
Claims (7)
- モータの回転子を支持するモータ用グリース封入軸受であって、該軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、前記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられるシール部材とを有し、前記転動体の周囲に、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物を封入してなり、
前記基油がエステル油を必須成分として含む合成油であり、該基油の40℃における動粘度が、20〜50mm2/sであり、
前記添加剤が、式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、前記亜リン酸エステルの含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部であり、
前記グリース組成物が、式(1)または(2)で表される以外の亜リン酸エステル、および、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルを含まないことを特徴とするモータ用グリース封入軸受。
- 前記基油が、前記エステル油のみからなる合成油、または、前記エステル油とポリ−α−オレフィン油との混合油であることを特徴とする請求項1記載のモータ用グリース封入軸受。
- 前記亜リン酸エステルが、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のモータ用グリース封入軸受。
- 前記増ちょう剤が、金属石けんであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のモータ用グリース封入軸受。
- 前記グリース組成物の混和ちょう度が、200〜350であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載のモータ用グリース封入軸受。
- 前記モータ用グリース封入軸受が、深溝玉軸受であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載のモータ用グリース封入軸受。
- 前記モータ用グリース封入軸受が、産業機械用、電装機器用、または電気自動車駆動用のモータの回転子を支持するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載のモータ用グリース封入軸受。
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JP2015143892A JP5938500B2 (ja) | 2015-07-21 | 2015-07-21 | モータ用グリース封入軸受 |
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JPH01170691A (ja) * | 1987-12-26 | 1989-07-05 | Showa Shell Sekiyu Kk | リチウムコンプレックスグリース |
JPH06172775A (ja) * | 1992-07-10 | 1994-06-21 | Lubrizol Corp:The | グリース組成物 |
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