明 細 書
耐食性にすぐれた二相ステン レス鋼
技術分野
本発明は、 石油精製、 化学工業などのプラン トにおける配管や熱交換 器等の用途に適した、 安価でかつ耐食性にすぐれた二相ステン レス鋼に 関する。 背景技術
石油精製や化学工業などのプラン 卜における工業用水や中間製品など の流体用に用いられる配管や熱交換器の構成材料には、 通常、 炭素鋼が 多く使用されている。 しかし、 炭素鋼の工業用水に対する耐食性は必ず しも十分ではないので、 腐食の進行程度によるが 3〜10年毎に取替えが 必要である。 近年、 増大する補修や取替の費用を低減するため、 プラン トの定期点検の期間の延長や機器の長寿命化が要求されており、 従来炭 素鋼が使用されていた機器にもステン レス鋼を代表とする耐食材料が使 用される傾向にある。
ステン レス鋼と しては、 J I S規格の SUS.304、 SUS316、 SUS304L, SUS 31 6Lなどオーステナイ ト系ステン レス鋼が、 耐食性および溶接性にすぐ れている点から多用されている。 しかし、 オーステナイ ト系ステン レス 鋼は、 孔食ゃ隙間腐食に対してはすぐれた耐食性を有していても、 応力 腐食割れ (以下 S C Cと記述) を起こ しやすい欠点がある。 石油精製や 化学工業などのブラン ト には、 冷却用などに工業用水が多用されるが、 工業用水に含まれる程度の 300PPID以下の微量の塩化物によつても S C C が発生する危険性がある。
フェライ ト系ステン レス鋼は耐 S C C性は非常にすぐれているが、 ォ —ステナイ ト系ステンレス鋼に比較して溶接性ゃ靱性が劣るので、 代替 に用いるには十分でない。 このような問題に対して、 オーステナイ ト系
ステンレス鋼に比べてすぐれた耐 sec性を有し、 かつ溶接性、 靱性に もすぐれた材質としてフェ ライ トとオーステナイ トの二相が混在した組 織を有する二相ステンレス鋼が開発された。 この鋼は、 耐食性が優れて いるばかりでなく フェライ ト系ステン レス鋼やオーステナイ ト系ステン レス鋼よりも強度が高いという大きな特徴を有している。
二相ステン レス鋼と しては、 18%C r— 3%M 0系の ASTM— UNS- S315 00、 23%C r— 0.4%M 0系の ASTM_UNS-S32304、 22%C r— 3%Mo 系の SUS329J3L (UNS-S31803) 、 25%C r— 3%Mo系の SUS329J札 (UNS-S31260, S32550) 等が ASTM規格や JIS規格で規格化されている。 これらの鋼は C rおよび Moの含有量が多いほど耐食性が向上する。 そ の中で C rや Moの含有量の低い UNS- S32304は、 安価な二相ステン レス 鋼であり、 耐食性も SUS316や SUS316Lといったオーステナイ ト系ステン レス鋼とほぼ同程度である。
二相ステン レス鋼は、 上述のような特徴からその適用範囲が拡大され つつある。 そして、 さ らにその性能改良に関する発明と して、 特開昭 52 - 716号公報には、 C r : 20%を超え 35%以下、 N i : 3〜12%、 Mo : 0.5〜 5.0%、 C u : 0.2〜 1.5%に Wと Vを含有させた、 海水よる粒 間腐食の耐性にすぐれた、 UNS- S31260系の二相ステン レス鋼が提示され 、 特開昭 56— 142855号公報には、 C r : 20〜35%、 N i : 3〜10%、 M 0 : 0.5〜 6.0%に Wまたは Vを含有し、 さ らに Bを含有させることで 熱間加工性と耐局部腐食性にすぐれた二相ステン レス鋼が開示されてい る。 また、 特開昭 6卜 56267号公報には、 C r : 21〜24.5%、 N i : ト 5.5%、 Mo : 0.01〜 1.0%に(: 11を0.01〜 1.0%含有する耐食性およ び溶接性にすぐれた二相ステン レス鋼が開示されている。 さ らにョ一口 ツバ特許公告 E P 0 337 846 Bl ( 1989年 10月 18日公開) には、 UNS-S3 2304に類似の、 23%C r— 0.4%M o系の鋼に C uを 1〜 3:5%添加し た、 硫酸中での摩耗腐食に対する抵抗性を増した鋼の発明が示されてい
る。
二相ステン レス鋼は熱間加工性が悪く、 鋼塊の分塊圧延や熱間の製管 圧延時に表面疵が発生しやすい。 これは変形挙動の異るフ ェ ライ ト相と オーステナイ ト相が混在した組織であることによる。 熱間加工性の改善 のために、 S量や 0量を規制し、 C a、 M g、 R E M等を微量添加する 発明が特開平 3-82739号公報に提示されている。 このように、 二相ステ ン レス鋼は、 そのすぐれた耐食性と耐 S C C性を効果的に利用すベく、 用途に応じて種々の改良が加えられてきた。
石油精製や化学工業では、 工業用水以外の流体と して途中製品である 炭化水素系ガスを多く取り扱う。 これらのガスは、 十分脱水処理されて いないため水分を含んでおり、 さ らに、 塩化物や塩化水素あるいは硫化 水素などが含まれる場合も多い。 このため、 プラン ト内でその温度が低 下した場合に生成する凝結水は、 塩化物や塩化水素あるいは硫化水素を 含有する。 したがって、 プラン トの機器用材料と しては、 塩化物と塩化 水素や硫化水素を含有する水溶液中での腐食、 すなわち孔食ゃ隙間腐食 に対して耐食性がすぐれていることが要求される。 このような環境下で の耐食性に加えて、 耐久性のため強度も十分高く、 製造が容易でかつ経 済性まで配慮した使いやすい二相ステン レス鋼が要望される。 発明の開示
本発明の目的は、 石油精製、 化学工業における配管や熱交換器用材料 と して、 塩化物単独の腐食環境に加え、 塩化水素、 硫化水素を含有する 環境に対してもすぐれた耐食性を有し、 かつ高強度であって、 熱間加工 性もすぐれた製造が容易でより安価な二相ステン レス鋼を提供すること にある。
本発明者らは、 二相ステンレス鋼に関して、 塩化物単独の腐食環境に 加え、 塩化水素や硫化水素をも含有する環境での腐食におよぼす化学組
成や組織の影響を詳細に調査した。 まず、 炭素鋼に代えて最も安価に二 相ステン レス鋼とするには、 前述の UNS- S32304がある。 しかしながら、 この鋼は耐 S C C性や溶接性、 靱性など二相ステンレス鋼と しての特徴 は有しているが、 本発明が対象とする腐食環境では耐食性が不十分であ り、 強度も他の二相ステン レス鋼より低いので、 この鋼の適用による機 器の寿命延長の効果は期待できない。 強度が高く ないのは、 強化元素と しても効果のある M o含有量が少ないためである。
そこで、 種々の添加元素による耐食性の改善および強度の向上を検討 の結果、 C uおよび Nの添加に加えて V、 N bおよび T i の添加が重要 であると推測された。
従来、 C uの添加は耐酸性、 耐隙間腐食性の改善に有効であることが 知られており、 SUS31 6J 1等のオーステナイ 卜系ステン レス鋼には 2. 5% までの含有が許容されている。 しかし、 中性環境での使用を前提とする UNS-S32304 , SUS329J 4 Lなどの二相ステン レス鋼では、 C uの含有は耐 食性を劣化させることがあるため、 1 . 0%未満しか許容されていない。
ところが本発明者らは、 酸性環境における塩化水素や硫化水素を含む 水溶液中での二相ステン レス鋼の耐食性が、 C uを多量に含有させるこ とにより著しく向上することを見出した。 すなわち、 本発明が対象とす る腐食環境での耐食性を確保するには、 C uが極めて有効であり、 具体 的には C uを 1 . 0%を超えて含有させたところ、 他の性能を劣化させる ことなく耐食性にすぐれた二相ステンレス鋼が得られることを知ったの である。
さ らにこの C u含有に加え、 高 C r、 高 N含有鋼とすることによって 、 その耐食性を従来の高 N i 、 高 M 0含有二相ステン レス鋼と同等にま で改善できることがわかった。 Nは強力なオーステナイ ト生成元素であ り オーステナイ ト生成効果のために含有させる N i の代替と して、 二 相ス テン レス鋼の組織制御に利用できる。 この Nの多量の含有は、
耐孔食性の改善にも有効であった。 孔食の抑制には Moの添加が有効で あることが知られているが、 Nを多量に含有させると Moを含有させな いか、 含有させても少量で、 同等の効果がえられる。
V、 N bぉょびT i は、 フヱライ ト系ステンレス鋼またはオーステナ イ ト系ステンレス鋼において、 鋭敏化による耐食性ゃ靭性の劣化を抑制 するため、 Cや Nの固定を目的と して添加されることがある。 しかし、 二相ステンレス鋼においては、 これらの元素の添加により強度の大幅向 上ができることがわかつた。 これは一つには炭化物や窒化物の微細析出 による析出硬化のためと考えられる。 また、 熱間加工性の改善対策を検 討した結果、 Bまたは C aを添加することが有効であることも明らかに なり、 必要に応じて含有させる。
以上のような各知見に基づいてさ らに検討を進め、 本発明を完成させ るに至った。 本発明の要旨は以下のとおりである。 なお、 以下に 「%」 と しているのはすべて 「重量%」 である。
(1) S i : 0.05〜 2.0%、 Mn : 0.1~ 4.0%、 N i : 1.0〜 4.0% 、 15C r : 20.0〜26.0%、 C u : に 0%を超え 3.0%以下、 A 1 : 0.0 02〜0.05%、 N : 0.10-0.40%で、 V、 T i または N bの 1種以上を合 計量にて 0.05〜0.50%含み、 残部が F e及び不可避的不純物からなり、 不純物の中では、 C : 0.05%以下、 P : 0.03%以下、 S : 0.005%以下 なる化学組成を有しかつ、 下記①式で表される N i 値が一 11.0〜一 8.0であることを特徴とする耐食性にすぐれた二相ステンレス鋼。
ただし、
N i bE . = N i 1.1 x C r e , + 8.2 ① ここで、
N i c , = N i (%) + 0.5x C u (%) +30x {C (%) +N (%) } ②
C r t., = C r (%) + 1.5x S i (%) +M o (%) +W (%)
③ とする。
(2) S i : 0.05- 2.0%、 M n : 0.卜 4.0%、 N i : 1·0〜 4.0%、 C r : 20.0〜26.0%、 C u : 1.0%を超え 3.0%以下、 A 1 : 0.002〜 0.05%、 N : 0.10~0.40%で、 V、 T i または N bの 1種以上を合計量 にて 0.05〜0.50%と、 さらに Mo : 0.50%以下および W : 0.50%以下を 含み、 残部が F e及び不可避的不純物からなり、 不純物の中では、 C : 0.05%以下、 P : 0.03%以下、 S : 0.005%以下であって、 かつ、 上記 ①式で表される N i b 値が一 11.0〜一 8.0であることを特徴とする耐 食性にすぐれた二相ステン レス鋼。
(3) S i : 0.05〜 2.0%、 n : 0.卜 4.0%、 N i : 1.0〜 4.0%、 C r : 20.0〜26.0%、 C u : 1.0%を超え 3.0%以下、 A 1 : 0.002〜 0.05%、 N : 0.10~0.40%で、 V、 Τ ι または N bの 1種以上を合計量 にて 0.05〜0.50%と、 さらに B : 0.0030%以下および C a : 0.0030%以 下を含み、 残部が F e及び不可避的不純物からなり、 不純物の中では、 C : 0.05%以下、 P : 0.03%以下、 S : 0.005%以下であって、 かつ、 上記①式で表される N i 値が— 11.0〜一 8.0であることを特徴とす る耐食性にすぐれた二相ステン レス鋼。
(4) S i : 0.05〜 2.0%、 Mn : 0.!〜 4.0%、 N ι : 1.0〜 4.0%、 C r : 20.0〜26.0%、 C u : 1.0%を超え 3.0%以下、 A 1 : 0.002〜
0.05%、 N : 0.10〜0.40%で、 V、 T i または N bの 1種以上を合計量 にて 0.05〜0.50%と、 Mo : 0.50%以下、 W : 0.50%以下、 B : 0.0030 %以下および C a : 0.0030%以下を含み、 残部が F e及び不可避的不純 物からなり、 不純物の中では、 C : 0.05%以下、 P : 0.03%以下、 S : 0.005%以下であって、 かつ、 上記①式で表される N i 」 : 値が— 11.0 〜一 8.0であることを特徴とする耐食性にすぐれた二相ステン レス鋼。
図面の簡単な説明
図 1は鋼の化学組成を示す表であり、 実施例と して試作した本発明範 囲の鋼のものである。
図 2は鋼の化学組成を示す表であり、 実施例として比較のため試作し た本発明範囲外の鋼である。
図 3は鋼の腐食試験の条件を示す表である。
図 4は試作した鋼の引張り試験による降伏強さ、 および腐食試験の結 果を示す表である。
図 5は Bおよび C aの含有量の、 950°Cでの引張り試験の絞り率に対 する影響を示す図である。 発明を実施するための形態
本発明における化学組成の限定理由を以下に詳細に述べる。 なお、 以 下に述べる 「%」 はすべて 「重量%」 のことである。
S i : 0.05%〜 2.0%
S i は、 耐孔食性、 耐 S C C性改善に有効なので、 0.05%以上含有さ せる。 ただし、 その量が 2.0%を超えると熱間加工性が劣化すると共に 、 C rと同様に金属間化合物の析出を加速し靱性を悪くする。 そこで S 1含有量は 0.05%以上 2.0%以下とする。
Mn : 0.1〜4.0%
Mnは、 オーステナイ トを安定化させ、 C rと同様に Nの固溶度を増 加させる効果があるので 0.1%以上含有させる。 しかし、 耐食性の観点 からは、 孔食の起点となる M n硫化物を生成させるので量が増すのは好 ま しく ない。 ことに 4.0%を超えると耐食性への悪影響が顕著になる。 そこで、 Mn含有量を 0.1〜 4.0%とする。
N i : 1.0〜 4.0%
N 1 の含有はオーステナイ 卜相の安定化と耐食性向上に効果がある。
N i含有量が 1.0%未満ではその効果は不十分である。 一方、 N i は M oと同様に高価な合金元素であるため、 多量に含有させると材料のコス トアップになり、 そのオーステナイ ト生成効果は、 後述する Nで十分補 えるので、 上限を 4.0%と した。 したがって、 N i含有量は 1.0〜 4.0 %とする。 また、 本発明の目的の一つの安価な材料であるということを 考慮すると、 上限は 3.0%未満とするのが望ま しい。
C r : 20.0〜26.0%
C rは耐食性を維持するために必要な基本元素であり、 かつフ ライ ト生成元素である。 C rは鋼中 Nの固溶度を増加させる効果を有するた め、 Nを有効に活用する本発明では 20.0%以上の含有が必要である。 一 方、 含有量が 26.0%を超えるとシグマ相などの金属間化合物の析出を加 速し、 製造時の熱間加工性、 溶接部靱性さ らには耐食性をも劣化させる 。 したがって C r含有量を 20.0〜26.0%と した。
C u : 1.0%を超え 3.0%以下
C uは Nと並んで本発明における重要な合金元素であり、 耐食性を大 幅に向上させる効果がある。 塩化物に加えて塩化水素や硫化水素を含有 する環境での耐食性向上には 1.0%を超えての含有が必要である。 一方 、 3.0%を超えて含有させてもその効果が飽和する。 したがって、 C u 含有量は 1.0%を超え 3.0%以下とした。 さ らに安定した効果を得るに は、 1.5%を超えて含有させるのが好ま しい。
A 1 : 0.00ト 0.05%
A 1 は健全な銬片を得るための脱酸剤と して用いるので、 0.002%以 上の含有が必要である。 しカゝし、 N含有量が高い場合、 鋼中の Nと窒化 物を生成しやすく、 それにより耐食性が劣化するので、 含有量を制限す る必要がある。 すなわち A 1含有量は 0.05%以下とする。 したがって、 A 1含有量は 0.002〜0.05%である。
: 0.10〜0.40%
Nは本発明の一つの特徴となる合金元素であり、 オーステナイ トを安 定化させるので二相ステン レス鋼の組織を制御するために重要である。 また、 耐孔食性の改善にも有効であり、 これらの効果を得るためには含 有量を 0. 10%以上にする必要がある。 一方、 N含有 iが 0. 40%を超える と Nが固溶しきれず C r窒化物と して析出するため、 耐食性を逆に劣化 させる。 したがって、 N含有量は 0. 10〜0. 40%とする。
V、 N b、 または T i : 合計量で 0. 05〜 0. 5%
V、 N b、 または T i の添加はいずれも強度の向上に効果があり、 少 なく とも 1種を含有させる。 添加する元素は 1種でも 2種または 3種で もかまわないが、 強度上昇の効果を得るにために合計量と して少なく と も 0. 05%以上の含有が必要である。 ただし、 0. 5 %を超えると金属間化 合物が生成し溶接部の耐食性ゃ靱性が劣化してく る。 したがって、 合計 の含有量を 0. 05〜0. 5%とする。
M o : 0. 50%以下および W : 0. 50%以下
M 0および Wは添加しなくてもよいが、 耐食性を改善させる元素であ り、 必要により含有させる。 これらの元素の添加は高価になるので、 本 発明では、 その代替に C rおよび Nの含有量を増加させている。 しかし 、 M oおよび Wの添加を排除するものではなく、 必要に応じ含有させれ ばよい。 その場合、 望ま しいのはいずれの元素も 0. 05%以上の含有であ る。 しかし、 0. 5%を超えて含有させても効果が飽和するので、 含有量 の上限はいずれの元素も 0. 50%以下とする。
B : 0. 0030%以下
Bは添加しなくてもよいが、 含有させると熱間加工性を改善する効果 がある。 これは、 結晶粒界に偏折し、 結晶粒界を強化して加工性を改善 することによると考えられる。 添加する場合、 多く含有させると溶接部 の耐孔食性を悪くするので 0. 0030%以下とする。 ただし、 0. 0005%未満 の含有では効果が小さいので、 その望ま しい含有量は 0. 0005〜0. 0030%
である。
C a : 0.0030%以下
C aは、 添加しなくてもよいが熱間加工性を改善する効果があり、 必 要により添加する。 これは、 結晶粒界に偏祈して粒界強度を低下させ加 ェ割れを誘発する Sを、 C a硫化物と して無害な形に安定化させるため と考えられる。 添加する場合、 多すぎると耐孔食性が劣化してく るので 上限を 0.0030%とする。 また、 添加する場合は、 少なければ効果が小さ いので、 望ま しいのは 0.0005〜0.0030%である。
以下は、 不純物と して含まれる元素である。
C : 0.05%以下
Cは、 含有量が 0.05%を超えると C r炭化物が析出し、 靱性ゃ耐食性 を劣化させる。 したがって、 C含有量を 0.05%以下とする。
P : 0.03%以下
Pが多いと溶接時に割れが生じやすく なり、 溶接部の耐食性も劣化さ せる。 その含有量が 0.03%を超えると、 割れの発生や耐食性の劣化が頭 著となるため 0.03%以下とする。
S : 0.005%以下
Sは、 M nの項で述べたように孔食の起点となる Mn硫化物を生成し やすく 、 熟間加工性も悪くするので、 極力低減する必要がある。 Sが 0. 005 %以下になると、 Mn Sの Mnがー部 C rに転換して C r Sとなり 耐食性の劣化が抑制される。 そこで、 S含有量を 0.005%以下と した。 望ま しくは 0.001%以下である。
〇 (酸素) : 0.01%以下
〇は鋼中で酸化物系介在物を生成しこれが孔食の起点となるので、 で きるだけ少なくする.。 その含有量が増すと、 耐食性の劣化が顕著となる ため 0.01%以下とする。
N 1 一 値 : 一 11.0〜― 8.0
本発明鋼の合金元素の含有量から計算される N i ba : 値は、 二相ステ ン レス鋼のオーステナイ ト相とフ ェライ ト相との比率を予測する指標で ある。 N i b2 : 値が— 11.0未満では、 フ ライ ト生成元素が過剰となり 耐食性ゃ靱性が劣化する。 一方、 N i ; 値が一 8.0を超えるとオース テナイ トが過剰となり耐食性、 ことに耐 S C C性が劣化する。 そこで、 フェライ 卜系ステンレス鋼とオーステナイ ト系ステンレス鋼が有するす ぐれた耐食性、 および靱性の両方の性能を確保できるように、 本発明の 二相ステン レス鋼ではオーステナイ 卜相とフ ェ ライ ト相との比率を、 面 積率で 35〜65%とする。 そのために、 N i b 値を一 11.0〜一 8.0と し た。 望ま しいのは、 一 1 0〜一 9.0である。
(実施例 1 )
図 1および図 2の化学組成を有する鋼を真空誘導加熱炉により溶製し 、 熱間鍛造、 熱間圧延により厚さ 5minの鋼板と して、 1050°Cにて 15分の 加熱後水冷する固溶化熱処理を施した。 これらの鋼板より、 平行部の直 径 4龍、 長さ 30關の引張り試験片を機械加工により作製し、 引張り試験 をおこなった。 またこれらの鋼板から、 幅.10龍、 長さ 75mm、 厚さ 2nimの 試験片を機械加工により作製し、 表面を湿式エメ リーにて 600香まで研 磨し、 アセ ト ンで洗浄した後、 U字型に曲げ、 U字の脚部をチタ ン製ボ ル卜 とナツ 卜により拘束して腐食試験に供した。
腐食試験は、 図 3に示すように塩化物と塩化水素を含む水溶液中に浸 漬する条件 1と、 さ らに硫化水素を含有させた水溶液の条件 IIとの 2種 類と した。 試験前後の重量変化から腐食速度を求めるとともに、 試験片 表面の目視観察により孔食ゃ応力腐食割れ (SCC) の発生状況を調査 した。
図 4に引張り試験の耐カおよび腐食試験結果を示す。 同時に試験した 比較鋼のうち、 No.21はオーステナイ ト系ステン レス鋼、 No.22はフ エ
ライ ト系ステンレス鋼である。 また、 No.】 No.23および No.24は、 それぞれ UNS-32304相当、 SUS329J3L相当、 および UNS-S31500相当の二相 ステン レス鋼である。 これらの鋼の試験結果から、 No.21は局部腐食す なわち耐 S C C性や耐孔食性が劣り、 No.22は環境条件によっては著し く腐食速度が大きいことがわかる。 それらに対して、 二相ステン レス鋼 の No.23は腐食速度、 局部腐食ともすぐれているが、 N i および Moを 多量に含有している。 二相ステン レス鋼でも M 0量の少ない No.14や C rがやや低い No.24では、 腐食条件によっては耐食性が不十分である。 ところが、 本発明の定める化学組成範囲に入る No.1〜13の鋼は、 M o を含有しないか、 含有していてもその量は少なく、 N i も少ない含有量 で、 Mo含有量や N i 含有量の高い No.23の鋼と同等ないしはそれ以上 の耐食性を示した。 また、 0.2%耐カと して示した強度も、 M o含有量 の高い No.23および No.24の二相ステン レス鋼と同等である。 また、 他 の化学組成が本発明の定める範囲にあっても、 N含有量または N i 含有 量が本発明範囲を外れる No.15、 No.16は、 M 0量の少ない No.14や C rがやや低い No.24と同程度の耐食性であった。 さ らに、 No.17と No. 18〜20の 3鋼種との比較からわかるように、 V、 113ぉょび丁 1 など炭 窒化物形成元素を含まない場合、 耐局部腐食性がやや劣り、 これらの元 素を含んでいると耐食性が良好である。 しかし、 その量が少なければ十 分な強度が得られない。
(実施例 2)
本発明の定める範囲である 0.02%C— 0.5% S i 一 1.5%M n -24% C r一 4%N i — 1. %C u - 0.01%A 1 -0.15%N- 0.2%M o - 0. 2 %Wの化学組成で、 これに B、 C aを種々の量含有させた鋼を真空誘 誘導式加熱炉により溶製した。 得られた铸塊から直径 10mm、 長さ 130匪 の丸棒試験片を削り出し、 これらの試験片により 950°Cにて歪み速度 1 .0/ sで引張り破断させ、 その時の絞り値を測定して、 鋼の熱間加工性
を比較した。 この場合、 絞り値の大きいほど熱間加工性がすぐれている
。 950での試験における絞り値が 80%を超える鋼、 75〜80%の鋼、 およ び 75%未満の鋼について、 Bおよび C aの含有量との関係を調べた結果 、 図 5が得られた。 この図からわかるように、 Bでも C aでも 0. 0005% 以上含有させることにより、 熱間加工性が改善される。 産業上の利用可能性
本発明鋼は、 既存のオーステナイ ト ステン レス鋼、 フ ヱ ライ ト ステン レス鋼および二相ステン レス鋼に比べ、 塩化物に加えて塩化水素や硫化 水素を含有する水溶液中で、 それらと同等かそれ以上のすぐれた耐食性 を有し、 強度も十分高く、 かつ熱間加工性が良好である。 しかも、 M o を含有しないか、 または含有しても少量であり、 安価である。 このよう な特徴ある性能を持つ鋼は、 石油精製、 化学プラン トの配管および熱交 換器用材料と して適している。