JP2018059207A - せん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板及び二相ステンレス線状鋼材 - Google Patents

せん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板及び二相ステンレス線状鋼材 Download PDF

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Abstract

【課題】せん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板及び二相ステンレス線状鋼材の提供を目的とする。【解決手段】所定の化学組成を有し、下記式(1)および(2)を満たし、圧延方向に垂直な断面において、フェライト/オーステナイト相界面間の距離の最大値が、フェライト相において100μm以下、オーステナイト相において30μm以下である二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板及び二相ステンレス線状鋼材を採用する。[Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]≧25.0 ・・・ (1)551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]≦80.0 ・・・ (2)【選択図】なし

Description

本発明は、せん断加工面の耐食性が、圧延面のそれに比べて劣化しないフェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼に関する。特に、本発明は、せん断加工のまま、せん断加工面に対して研磨等の加工処理を行わずに使用される用途に供して好適な、せん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼、鋼板及び線状鋼材に関する。
本願は、2016年10月6日に、日本に出願された特願2016−198220号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
二相ステンレス鋼はフェライト相(α相)とオーステナイト相(γ相)とからなる二相組織を有し、強度と耐食性とに優れた材料として幅広い分野に使用されている。このような二相ステンレス鋼の製造過程では、その利便性からせん断加工による打ち抜き、切断が行われることが多い。その一方で、二相ステンレス鋼は強度が高いため、フェライト系ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼よりも加工性が劣る。加工性を改善した二相ステンレス鋼の例として、特許文献1(特許第3720223号公報)では、ドリル加工性(被削性)に着目した二相ステンレス鋼が開示されている。
二相ステンレス鋼のせん断加工面の表面状態は、形状によってせん断面、破断面、バリに分類される。これらは切断ままでは平滑ではなく、特に破断面には被さりが生じ、微細なすきまが形成される。ステンレス鋼では、すきま内部は平滑な面よりも腐食が生じやすい。そのため、すきまの存在するせん断加工面の耐食性は、平滑な圧延面と比較して耐食性が劣る。先述の特許文献1は二相ステンレス鋼の加工性の改善を意図するものであり、耐食性については検討されていない。
そのため、加工面が腐食環境に曝される場合、研磨等によりせん断面、破断面、バリを除去し平滑とするか、耐食性向上のため合金成分の多い高価な鋼種を適用する必要があった。こういった背景から、特許文献2(特許第5375069号公報)のように、端面のバリの性状に着目し耐食性を確保しようとするステンレス鋼板が開示されているが、二相ステンレス鋼は先述の通りフェライト系ステンレス鋼よりも強度が高く、せん断加工面の性状が大きく異なる。このため、上記特許文献2に記載の方法では二相ステンレス鋼のせん断加工面の耐食性を改善するには不十分である。
特許第3720223号公報 特許第5375069号公報
フェライト系ステンレス鋼は比較的せん断加工性に優れ、加工面の被さりは軽減されるものの、Niが添加されていないため耐すきま腐食性が十分ではなく、発銹しやすい。これに対し、Moを含有することで耐すきま腐食性を改善したフェライト系ステンレス鋼が提供されているが、Moは高価であるため、合金コストの上昇につながる。オーステナイト系ステンレス鋼はNiを多量に含むため、フェライト系ステンレス鋼と比較して耐すきま腐食性は高いものの、靭性が高い上、加工硬化を生じやすい性質を有する。そのため、加工面の被さりが発生し、すきまが形成されやすい。また高価なNiを多量に含むため、合金コストが高価である。
二相ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼と比較して省Niでありながら、Cr量およびN量が多く、耐すきま腐食性が高く、フェライト系ステンレス鋼よりも靭性に優れ、またこれらのステンレス鋼と比較して強度が高い。しかしその一方で、二相ステンレス鋼は強度が高いため、加工性が低下し、すきま腐食の起点となる被さりが発生しやすい。そのため、従来のせん断加工面の耐食性の改善方法のみでは不十分であり、腐食発生の問題が残存している。
本発明は上記の問題を有利に解決するもので、せん断加工面が研磨等の処理を行われることなく腐食環境に曝される用途に適用可能な、せん断加工面の耐食性劣化が生じない二相ステンレス鋼、鋼板及び線状鋼材を提供することを目的とする。
発明者らは、二相ステンレス鋼としての鋼板または線状鋼材のせん断加工面の耐食性の改善を図るべく種々の検討を加えた。その結果、破断面の表面粗さを軽減させることで被さりが低減され、せん断加工面の耐食性が劣化しなくなり、高価なNi、Moの含有量を低減させつつ腐食発生を防止できることを見出した。
さらに検討を進めた結果、破断面の表面粗さの軽減については、フェライト/オーステナイト相界面間の距離を適切に制御し、フェライト相及びオーステナイト相を適切に分布させることが有効であるとの知見を得た。
加えて、加工面の耐すきま腐食性と添加元素量の関係について、種々添加元素量を変更した試験片を作製し腐食試験により調査した。その結果、各元素の耐すきま腐食性向上効果を定量化し、必要な元素量に関する知見を得た。
本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.10〜2.00%、
Mn:6.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Ni:1.00〜5.00%、
Cr:18.00〜25.00%、
Mo:0.01〜1.00%、
Cu:0.30〜4.00%、
W:0.005〜1.00%、
N:0.100〜0.250%、
Al:0.003〜0.050%及び
O:0.0070%以下を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、
下記式(1)および下記式(2)を満たし、
圧延方向に垂直な断面において、フェライト/オーステナイト相界面間の距離の最大値が、フェライト相において100μm以下、オーステナイト相において30μm以下であることを特徴とするせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼。
[Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]≧25.0 ・・・ (1)
551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]≦80.0 ・・・ (2)
なお、上記式(1)および(2)中の[]付き元素は、当該元素の鋼中の含有質量%を表す。
(2)さらに以下の群のうち少なくとも1群以上を含有することを特徴とする(1)に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼。
第1群:
質量%で、
Nb:0.005〜0.20%、
Ti:0.005〜0.20%、
Co:0.005〜0.25%及び
V:0.005〜0.15%
から選択される1種または2種以上。
第2群:
質量%で、
Sn:0.005〜0.20%、
Sb:0.005〜0.20%、
Ga:0.001〜0.050%、
Zr:0.005〜0.50%、
Ta:0.005〜0.100%、
B:0.0002〜0.0050%、
Ca:0.0002〜0.0050%及び
Mg:0.0002〜0.0050%
から選択される1種または2種以上。
(3)C、Mn、Cr、Ni及びNのうちいずれか1種以上の元素の含有量が、質量%で、C:0.007〜0.025%、Mn:0.50〜5.00%、Cr:20.00〜23.00%、Ni:1.30〜4.70%、N:0.110〜0.240%の範囲を満たし、
下記式(1a)を満たし、
圧延方向に垂直な断面において、フェライト/オーステナイト相界面間の距離の最大値が、フェライト相において80μm以下、オーステナイト相において25μm以下を満たすことを特徴とする(1)または(2)に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼。
[Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]≧30.0 ・・・ (1a)
なお、上記式(1a)中の[]付き元素は、当該元素の鋼中の含有質量%を表す。
(4)前記二相ステンレス鋼が二相ステンレス鋼板であることを特徴とする(1)乃至(3)の何れか一項に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼板。
(5)前記二相ステンレス鋼が二相ステンレス線状鋼材であることを特徴とする(1)乃至(3)の何れか一項に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス線状鋼材。
なお、上記の圧延方向について、圧延方向が複数ある場合の圧延方向は、最も圧下量の大きい圧延を施した際の圧延方向とする。
本発明の二相ステンレス鋼によれば、せん断加工面が研磨等の処理を行われることなく腐食環境に曝される用途に適用される二相ステンレス鋼において、高価なNi、Moの含有量を低減させつつ、せん断加工面の耐食性劣化が生じず腐食発生を防止することができる。その結果、このような用途に適するステンレス鋼板及び線状鋼材を安価に得ることができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板および二相ステンレス線状鋼材(以下、単に二相ステンレス鋼と記載する場合がある)の成分組成を限定した理由について説明する。なお、成分を示す%は質量%を意味する。
C:0.030%以下
C含有量が0.030%を超えると、Cr炭化物析出により耐食性が低下する。従ってC含有量は少ない方が望ましいが、0.030%以下までは許容できるため、これを上限とする。耐食性改善の観点から、好ましいC含有量の上限は0.025%以下である。下限は特に限定しないが、コストの観点から0.001%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.007%以上である。好ましいC含有量は、0.007〜0.025%である。
Si:0.10〜2.00%
Siは、脱酸のため0.10%以上の含有量が必要である。そのため、Si含有量の下限を0.10%以上とする。しかし、2.00%を超えて含有させると靭性が低下し、信頼性が損なわれるので、Si含有量の上限を2.00%以下とする。Si含有量の下限は0.30%以上が好ましく、上限は1.50%未満が好ましい。したがって、好ましいSi含有量は0.30〜1.50%未満である。
Mn:6.00%以下
Mnは比較的安価な元素でありながら、鋼中のγ相量を増加させ、さらに窒素の固溶度を上げることで、Cr窒化物の析出を抑制する効果がある。一方で、Crを過度に含有させると耐食性劣化の原因となるため、Cr含有量の上限を6.00%以下とする。Mn含有量の下限は0.50%以上が好ましく、上限は5.00%以下が好ましい。したがって、好ましいMn含有量は0.50〜5.00%である。
P:0.050%以下
Pは、鋼中に不可避的に含有される元素であるが、熱間加工性を劣化させるため、P含有量の上限は0.050%以下とする。P含有量の好ましい上限は0.040%以下である。P含有量の下限は特に限定しないが、コストの観点から0.005%以上とすることが好ましい。
S:0.0050%以下
SはPと同様に鋼中に不可避的に含有される元素であるが、熱間加工性、靭性、耐食性を劣化させるため、S含有量の上限は0.0050%以下とする。好ましくは0.0020%以下である。S含有量の下限は特に限定しないが、コストの観点から0.0001%以上とすることが好ましい。より好ましいS含有量の下限は0.0007%以上である。
Ni:1.00〜5.00%
Niは、ステンレス鋼の耐すきま腐食性を向上させる元素である。すきま腐食は、すきま内部のpHが低下し不働態皮膜が維持できなくなることにより発生する腐食であるが、Niは低pH環境でのステンレス鋼の溶解を抑制する効果がある。Ni含有量が過少では耐すきま腐食性を向上する効果が得られない。一方、Niを過剰に含有させると、コストが上昇するだけでなく、鋼中のγ相が過剰となり熱間加工性が低下する。このため、Ni含有量の下限は1.00%以上とし、上限は5.00%以下とする。したがって、Ni含有量は1.00〜5.00%とする。Ni含有量の下限は1.30%以上が好ましく、上限は4.70%以下が好ましい。したがって、好ましいNi含有量は1.30〜4.70%である。上限は更に好ましくは4.50%以下であり、より好ましいNi含有量は1.30〜4.50%である。
Cr:18.00〜25.00%
Crは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。特に本実施形態に係る二相ステンレス鋼は高価なMoの量を低減させているため、Crによる耐食性確保が必要となる。このため、Cr含有量の下限は18.00%以上とする。好ましいCr含有量の下限は19.00%以上である。更に好ましいCr量の下限は20.00%以上である。一方、Crはα相を増加させる元素であり、過剰に含有させると鋼中のα相が過剰になり、靭性が劣化する。このためCr含有量の上限は25.00%以下とする。好ましいCr含有量の上限は24.50%以下である。更に好ましいCr含有量の上限は23.00%以下である。
Mo:0.01〜1.00%
Moは、Crを超える高い耐食性向上効果を有するが、非常に高価な元素であり、またMo含有量が過剰だと硬質化を招き加工性を劣化させる。このため、Mo量の上限は1.00%以下とする。なお、好ましいMo含有量の上限は0.85%以下である。Moの耐食性を向上させる効果は、Mo含有量が0.01%未満では、その添加効果に乏しいため、Mo含有量の下限を0.01%以上とする。Mo含有量の下限は0.05%以上が好ましく、更に好ましくは0.20%以上である。
Cu:0.30〜4.00%
Cuは、Niと同様に低pH環境でのステンレス鋼の溶解を抑制する効果がある。ただし、Cuを過剰に含有させた場合、熱間加工性が著しく損なわれる。そのため、Cu含有量の上限は4.00%以下とする。好ましいCu含有量の上限は3.50%以下である。一方、Cu含有量が0.30%未満では上記効果が十分に発揮されない。したがって、Cu含有量の下限を0.30%以上とする。Cu含有量の下限は、好ましくは0.50%以上であり、更に好ましくは0.70%以上である。Cuを多量に含有すると熱間加工性の低下が生じる場合がある。そのため、熱間加工性を抑制する観点からは、Cu含有量の上限を1.50%以下とすることが好ましく、1.20%以下とすることが更に好ましい。
W:0.005〜1.00%
Wは、耐食性を向上させる効果がある。しかしWは、高価である上、過剰に含有させるとσ相の析出を促進することで耐食性の低下を招く。そのため、W含有量の上限は1.00%以下とする。なお、好ましいW含有量の上限は0.85%以下である。しかしながら、W含有量が0.005%未満では、上記効果は得られないため、W含有量の下限を0.005%以上とする。W含有量の下限は、好ましくは0.020%以上である。一方、Wの含有量が増えると、硬質化を招き、加工性を低下させるため、加工性の観点からは、W量の上限を0.50%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがさらに好ましい。
N:0.100〜0.250%
Nは、耐食性を著しく高め、γ相量を高める効果がある。この効果を得るためには、0.100%以上の含有量が必要である。したがって、N含有量の下限を0.100%以上とする。好ましいN含有量の下限は0.110%以上である。しかし、N含有量が0.250%を超えると、鋼中に窒化物を形成して耐食性や靭性を低下させる。そのため、N含有量の上限を0.250%以下とする。好ましいN含有量の上限は0.240%以下である。
Al:0.003〜0.050%
Alは、強力な脱酸作用を持つため、鋼中の酸素低減のため0.003%以上の含有量が必要である。したがって、Al含有量の下限を0.003%以上とする。しかし、AlはNとの間で窒化物を形成しやすく、窒化物が形成されると靭性が大きく低下する。そのため、Al含有量の上限を0.050%以下とする。したがって、Al含有量は0.003〜0.050%とする。また、Al含有量の下限は0.005%以上が好ましく、上限は0.040%以下が好ましい。したがって、好ましいAl含有量は0.005〜0.040%である。
O:0.0070%以下
Oは、鋼中に過剰に存在すると酸化物を生成し、靭性を低下させる。そのため、O含有量の上限を0.0070%以下とする。好ましいO含有量の上限は0.0050%以下である。O含有量の下限は特に限定しないが、コストの観点から0.0005%以上とすることが好ましい。
以上、本実施形態に係る二相ステンレス鋼の基本成分について説明したが、本実施形態に係る二相ステンレス鋼では、上述した基本元素の他にも耐食性改善のために、以下に述べる第1群および第2群のうち、少なくとも1群以上を含有させることができる。第1群および第2群の元素は、含有させてもよく、含有させなくてもよい。含有させない場合のそれぞれの元素の下限は0%である。
まず、第1群の元素について以下に説明する。第1群は、Nb:0.005〜0.20%、Ti:0.005〜0.20%、Co:0.005〜0.25%及びV:0.005〜0.15%から選択される1種または2種以上からなる。それぞれの元素について以下に説明する。
Nb:0.005〜0.20%
Nbは、C、Nを固定して、Cr炭化物の析出による耐食性低下を防ぎ、耐食性を向上させる元素である。しかしながら、Nb含有量が0.005%未満では、その添加効果が乏しいため、Nb含有量の下限を0.005%以上とする。一方、Nb含有量が0.20%を超えると、固溶強化によりα相が硬質化して加工性を低下させるため、Nb含有量の上限を0.20%以下とする。そのため、Nb量は0.005〜0.20%とすることが好ましい。
Ti:0.005〜0.20%
Tiは、C、Nを固定して、Cr炭化物の析出による鋭敏化を防ぎ、耐食性を向上させる元素である。しかしながらTi含有量が0.005%未満では、その添加効果が乏しいため、Ti含有量の下限を0.005%以上とする。一方、Ti含有量が0.20%を超えると、α相の硬質化を招き、靱性を低下させ、さらにTi系析出物により表面粗さの低下を招く。そのため、Ti含有量の上限を0.20%以下とする。従って、Ti含有量を0.005〜0.20%とすることが好ましい。
Co:0.005〜0.25%
Coは、Cr炭化物の析出を抑制し、耐食性の低下を抑制する効果がある。この効果は、0.005%以上のCoの添加によって認められるため、Co含有量の下限を0.005%以上とする。Niとの共存により微量のCoを添加しても、その効果を発現するが、Co量が0.005%未満では、その効果は認められない。一方、Coは稀少な元素であり高価であることから、多量のCoの添加は過大なコスト増加を招く。そのため、Co含有量の上限を0.25%以下とする。より好ましいCo含有量の上限は0.12%以下である。
V:0.005〜0.15%
Vは、強力な炭化物生成元素である。そのため、高温域で炭化物を形成しやすいVを添加すると、Cr炭化物の析出を抑制し、耐食性低下を抑制する効果が得られる。この効果は、0.005%以上のVの添加によって認められるため、V含有量の下限を0.005%以上とする。一方、過剰な量のVの添加は硬質化を招くため、V含有量の上限を0.15%以下とする。
次に、第2群の元素について説明する。第2群は、Sn:0.005〜0.20%、Sb:0.005〜0.20%、Ga:0.001〜0.050%、Zr:0.005〜0.50%、Ta:0.005〜0.100%、B:0.0002〜0.0050%、Ca:0.0002〜0.0050%及びMg:0.0002〜0.0050%から選択される1種または2種以上からなる。それぞれの元素について以下に説明する。
Sn:0.005〜0.20%、Sb:0.005〜0.20%
Sn、Sbは耐食性を向上させる元素であるが、α相の固溶強化元素でもあり、加工性の低下を招く元素でもある。そのため、Sn、Sbのそれぞれの含有量の上限を0.20%以下とする。Sn、Sbのいずれかの含有量が0.005%以上の場合、耐食性を向上させる効果が発揮されるため、Sn、Sbのそれぞれの含有量の下限を0.005%以上とする。したがって、Sn、Sbのそれぞれの含有量を0.005〜0.20%とすることが好ましい。Sn、Sbのそれぞれの含有量の下限は、好ましくは0.030%以上である。Sn、Sbのそれぞれの含有量の上限は、好ましくは0.10%以下である。
Ga:0.001〜0.050%
Gaは、耐食性を向上する効果がある元素である。Ga含有量が0.001%以上で、上記効果が発現する。そのため、Ga含有量の下限を0.001%以上とする。Ga含有量が0.050%を超えると、上記効果が飽和するため、Ga含有量の上限を0.050%以下とする。そのため、0.001〜0.050%の範囲の量でGaを含有させることができる。
Zr:0.005〜0.50%
Zrは、耐食性を向上する効果がある元素である。Zr含有量が0.005%以上で、上記効果が発現する。そのため、Zr含有量の下限を0.005%以上とする。Zr含有量が0.50%を超えると、上記効果が飽和するため、Zr含有量の上限を0.50%以下とする。そのため、0.005〜0.50%の範囲の含有量でZrを含有させることができる。
Ta:0.005〜0.100%
Taは、介在物の改質により耐食性を向上させる効果があり、必要に応じて含有してもよい。0.005%以上の量のTaによって上記効果が発揮されるため、Ta含有量の下限を0.005%以上とすれば良い。ただし、Ta含有量が0.100%を超えると、常温での延性の低下や靭性の低下を招く。このため、Ta含有量の上限を0.100%以下とする。Ta含有量の好ましい上限は0.050%以下である。また、少量のTa含有量によって上記効果を発現させる場合には、Ta含有量の上限を0.020%以下とすることが好ましい。
B:0.0002〜0.0050%
Bは、2次加工脆化や熱間加工性の劣化を防止するのに有用な元素であり、耐食性には影響を与えない元素である。そのため、B含有量の下限を0.0002%以上としてBを含有させることができる。しかし、B含有量が0.0050%を超えると、かえって熱間加工性が劣化するので、B含有量の上限を0.0050%以下とする。B含有量の上限は、好ましくは0.0020%以下である。
Ca:0.0002〜0.0050%
Caは、熱間加工性を改善するのに有用な元素である。そのため、Ca含有量の下限を0.0002%以上としてCaを含有させることができる。しかし、Ca含有量が0.0050%を超えると、かえって熱間加工性が劣化するので、Ca含有量の上限を0.0050%以下とする。Ca含有量の下限は、好ましくは0.0005%以上である。
Mg:0.0002〜0.0050%
Mgは、熱間加工性を改善するのに有用な元素である。そのため、Mg含有量の下限を0.0002%以上としてMgを含有させることができる。しかし、Mg含有量が0.0050%を超えると、かえって熱間加工性が劣化するので、Mg含有量の上限を0.0050%以下とする。Mg含有量の下限は、好ましくは0.0005%以上である。
本実施形態に係る二相ステンレス鋼は、上述した元素以外の残部は、Fe及び不可避的不純物であるが、上述した各元素以外の他の元素も、本実施形態の効果を損なわない範囲で含有させることが出来る。
次に、本実施形態に係る二相ステンレス鋼は、加工面の耐すきま腐食性確保のために、下記の添加元素量の式(1)を満たす必要がある。下記式(1)の左辺で表されるCCRIは、「鉄と鋼」Vol.63 No.11 p.396に記載されている成分式に、発明者らがN及びWの効果を確認し追加したものである。耐すきま腐食性を高める元素の添加量が小さい場合、すなわち下記式(1)の左辺で表されるCCRIが25.0未満の場合、母材素地の耐食性が劣化するため、加工面においてすきま腐食が発生する。なお、耐すきま腐食性をより向上させるためには、下記式(1a)を満たすことがより好ましい。下記式(1)および下記式(1a)中の[Cr]、[Mo]、[W]、[Cu]、[Ni]及び[N]は、当該元素の鋼中の含有質量%を表す。
[Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]≧25.0 ・・・ (1)
[Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]≧30.0 ・・・ (1a)
下記式(2)の左辺で表されるMd30は、一般にオーステナイト系ステンレス鋼において、加工誘起マルテンサイトによる加工硬化の度合いを示す成分式として知られており、「鉄と鋼」Vol.63 No.5 p.772等に記載されている。一般に合金元素の添加量が少ないほどMd30が高くなり、加工硬化しやすくなる傾向にある。本発明鋼は二相ステンレス鋼であるが、省合金タイプのためγ相は従来の二相ステンレス鋼より加工硬化しやすいと考えられる。加工硬化が大きい場合、破断面の表面粗さが大きくなり、すきまが形成され耐食性が劣化する。そのため、本実施形態に係る二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板および二相ステンレス線状鋼材では、破断面の表面粗さを良好とするために、下記式(2)の左辺で表されるMd30を80.0以下とする。なお、下記式(2)中の[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Ni][Cu]、[Cr]および[Mo]は、当該元素の鋼中の含有質量%を表す。
551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]≦80.0 ・・・ (2)
本実施形態に係る二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板および二相ステンレス線状鋼材は、圧延方向に垂直な断面において、α/γ相界面間の距離の最大値が、α相において100μm以下、γ相において30μm以下であることを特徴とする。ここで、上記の圧延方向について、圧延方向が複数ある場合の圧延方向は、最も圧下量の大きい圧延を施した際の圧延方向とする。
α相及びγ相からなる二相ステンレス鋼では、せん断に伴う割れはα相とγ相を交互に進展する。本発明者らは、耐食性試験及びミクロ組織観察を行い、α相、γ相のいずれの相においても、結晶粒径とは無関係に、単一の相を連続して貫通する距離が長くなると、表面粗さが大きくなって破断面にすきまが形成され、耐食性が劣化することを見出した。さらに詳細に解析を進めた結果、α/γ相界面間の距離の最大値が、α相において100μm、γ相において30μmを超えた場合に耐食性が劣化することを見出した。そのため、本実施形態に係る二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板および二相ステンレス線状鋼材では、α/γ相界面間の距離の最大値を、α相において100μm以下、γ相において30μm以下とする。より好ましいα/γ相界面間の距離の最大値は、α相において80μm以下、γ相において25μm以下である。
本実施形態に係る二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板および二相ステンレス線状鋼材では、上述した化学組成を満たし、さらにC、Mn、Cr、Ni及びNのうちいずれか1種以上の元素の含有量が、C:0.007〜0.025%、Mn:0.50〜5.00%、Cr:20.00〜23.00%、Ni:1.30〜4.70%及びN:0.110〜0.240%の範囲を満たし、上記式(1a)および(2)を満たし、更に圧延方向に垂直な断面において、フェライト/オーステナイト相界面間の距離の最大値が、フェライト相において80μm以下、オーステナイト相において25μm以下を満たすことで、より耐食性を向上させることができる。
次に、本実施形態に係る二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼板および二相ステンレス線状鋼材の製造方法について説明する。
α/γ相界面間の距離を上記の範囲に制御するためには、熱間圧延において適切な条件を選ぶことが重要である。熱間圧延前の鋳片加熱温度について、1300℃以上とするとα相が過剰に成長し、α相での相界面間の距離が大きくなる。一方、1050℃未満では圧延時の変形抵抗が過大となり製造が困難となる。このため、熱間圧延前の鋳片加熱温度を1050℃以上1300℃未満とする。好ましい熱間圧延前の鋳片加熱温度の下限は1100℃以上である。また、加熱時間が長いとα相が過剰に成長し、α相での相界面間の距離が大きくなるため、所定の温度に到達した後の保定時間は360min以下とする。
熱間圧延では、適切な圧下量を選ぶことが重要である。具体的には、鋼板ではパス数を少なくとも10パス以上とし、3パス目までは各パス毎に圧延前板厚/圧延後板厚≦1.05となるよう圧下し、最終パスから数えて3パス以内の少なくとも1パス以上で圧延前板厚/圧延後板厚>1.25となるように圧下し、鋳片厚さ/製品厚さ≧5.0となるように圧下することで、α相、γ相それぞれの界面間の距離が上述の範囲となる組織が得られる。また、線状鋼材では、パス数を少なくとも10パス以上とし、3パス目までは各パス毎に圧延前断面積/圧延後断面積≦1.02となるよう圧下し、最終パスから数えて3パス以内の少なくとも1パス以上で圧延前断面積/圧延後断面積>1.12となるよう圧下し、鋳片断面積/製品断面積≧2.2となるよう圧下することで、α相、γ相それぞれの界面間の距離が上述の範囲となる組織が得られる。なお、鋳片厚さ/製品厚さ、鋳片断面積/製品断面積は、圧減比という場合がある。また、熱間圧延時における3パス目までの各パス毎の圧減比を初期3パス圧減比という場合があり、最終パスから数えて3パス以内の各パス毎の圧減比を最終3パス圧減比という場合がある。
パス数について、本願所定範囲の組織を得るためには圧下量を大きくする必要があるが、1パスあたりの圧下量が大きいと鋼材形状の悪化や割れを招く。そのため、鋼板では、パス数は10パス以上とし、板厚が大きい圧延初期(具体的には3パス目まで)は各パス毎の圧減比を圧延前板厚/圧延後板厚≦1.05として1パスあたりの圧下量を小さくする。すなわち鋼板では、初期3パス圧減比の最大値を1.05以下とする。線状鋼材では、パス数は10パス以上とし、断面積が大きい圧延初期(具体的には3パス目まで)は各パス毎の圧減比を圧延前断面積/圧延後断面積≦1.02として1パスあたりの圧下量を小さくする。すなわち線状鋼材では、初期3パス圧減比の最大値を1.02以下とする。
また、圧延時にはγ相の再結晶及び粒成長により、圧延後期(具体的には最終パスから数えて4パス目終了時点)ではγ相での相界面の距離が本願の範囲より大きくなる。また、熱間圧延後の固溶化熱処理においてもγ相の再結晶及び粒成長が生じ、γ相での相界面の距離が大きくなる。そこで、鋼板および線状鋼材のいずれにおいても、最終パスから数えて3パス以内で上記の圧下をそれぞれ行うことにより、γ相での相界面の距離が本願所定範囲に入り、鋼材の特性を発現できる。すなわち鋼板では、最終3パス圧減比の最大値を1.25超とし、線状鋼材では、最終3パス圧減比の最大値を1.12超とする。
鋼板における鋳片厚さ/製品厚さ(圧減比)について、より好ましい範囲は鋳片厚さ/製品厚さ≧7.0である。線状鋼材における鋳片断面積/製品断面積(圧減比)について、より好ましい範囲は鋳片断面積/製品断面積≧2.7である。熱間圧延後の固溶化熱処理条件は、通常の範囲(900〜1100℃、2〜40分)とすれば良い。固溶化熱処理後の冷却方法は、γ相が過剰に成長して、γ相での相界面の距離が大きくなることを防ぐため水冷とする。具体的には水中浸漬等を選択すれば良い。
上記の製造方法で得られた熱間圧延鋼板は、さらに冷間圧延、焼鈍、酸洗を行ってもよい。これらの工程については特に制限はなく、条件は適宜選択すれば良い。
上記の製造方法で得られた熱間圧延線状鋼材は、さらに冷間加工、焼鈍、酸洗を行ってもよい。これらの工程については特に制限はなく、条件は適宜選択すれば良い。
以下に本発明の実施例について説明する。
表1及び表2に示す組成の鋼を溶製した。表中のCCRIは下記式の値を示す。
CCRI=[Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]
なお、上記式(1)中の[]付き元素は、当該元素の鋼中の含有質量%を表す。
表1(鋼種1〜21)及び表2(鋼種a〜w)に示す組成の鋼を溶製した。次に表1に示す組成の鋼を、鋼板は表3(No.1〜21)及び表4(No.22〜27)、線状鋼材は表5(No.28〜48)及び表6(No.49〜54)に示す条件で熱間圧延(圧延前加熱時間300min)を施し、その後、いずれも固溶化熱処理(1030℃、8min、水冷)を行うことにより製造した。
また、表2に示す組成の鋼を、鋼板は表7(No.55〜77)、線状鋼材は表8(No.78〜100)の条件で熱間圧延(圧延前加熱時間300min)をし、その後、いずれも固溶化熱処理(1030℃、8min、水冷)を行うことにより製造した。表3〜8中の圧減比は、鋼板(表3、4、7)では鋳片厚さ/製品厚さ、線状鋼材(表5、6、8)では鋳片断面積/製品断面積の値を示す。固溶化熱処理を行った全ての鋼板および線状鋼材をスケール除去のため酸洗した。なお、表1〜8中の下線は本発明の範囲外であること、もしくは製造条件が好ましくないことを示す。なお、表3〜8の圧延前加熱温度は、熱間圧延前の鋳片加熱温度を意味する。
上記の製造方法で得られた鋼板及び線状鋼材を圧延方向に対して垂直な方向に切断し、切断面を鏡面研磨した。この研磨面において、鋼板であれば板厚中心からの距離≦0.5mmかつ板幅中心からの距離≦20mm、線状鋼材であれば中心からの距離≦0.5mmとなる範囲で、走査型電子顕微鏡を用いて電子線後方散乱回折(EBSD)法によりα相とγ相を分離した組織図を得た。これらの組織図上で、鋼板であれば圧延方向に対して垂直な方向に長さ0.25mmの直線を0.3mm以上の間隔を開けて10カ所、線状鋼材であれば中心から長さ0.25mmの直線を20°以上の角度を開けて10カ所選び、これらの直線上における各相でのα/γ相界面間の距離の最大値を測定した。なお、いずれかの直線上においてα/γ相界面が1個以下となる場合は、α相もしくはγ相において単一の相を連続して貫通する距離が長いことを示すものであり、本発明の範囲外とした。α/γ相界面間の距離の最大値の測定結果を表3〜8に示す。表中のLα及びLγは、それぞれα相及びγ相におけるα/γ相界面間の距離の最大値を示す。なお、EBSD法による相の同定では加速電圧を25kV、ステップサイズを0.5μmとした。
耐食性試験の試験片は、鋼板は20mm×40mmの大きさ、線状鋼材は30mmの長さにシャーにより切り出した後、せん断加工面を除く全面を#600まで湿式研磨し、アセトンにより脱脂したものを用いた。傾き75°でサイクル試験機に試験片を設置した。JASO M 609−91に準拠したサイクル腐食試験を6サイクル行い、せん断加工面において×10のルーペを用いて目視にて観察し、錆の有無を評価した結果を表3〜8に示す。なお錆発生量の基準として、点銹の発生のないもの(SUS316Lと同等以上)を◎、加工面全体にわずかに点銹が生じたもの(SUS304と同等以上)を○、明確に点銹が発生したものを×とした。
各試験片のα/γ相界面間の距離の最大値と耐食性試験の結果を表3〜8に示す。表3(No.1〜21)、表5(No.28〜48)から、鋼の化学組成、CCRI、Md30及びα/γ相界面間の距離の最大値(Lα及びLγ)が本発明の範囲を満足していれば、鋼板および線状鋼材においてもせん断加工面の耐食性が良好となることがわかる。特に、C、Mn、Cr、Ni及びNのうちいずれか1種以上の含有量が、C:0.007〜0.025%、Mn:0.50〜5.00%、Cr:20.00〜23.00%、Ni:1.30〜4.70%、N:0.110〜0.240%となる条件を満たし、さらに、CRRIが30.0以上、Md30が80.0以下、Lαが80μm以下、Lγが25μm以下の全ての条件を満たす表3のNo.1、18、表5のNo.28、43、45、46で、点銹の発生がないことがわかる。
一方、表4および6から、好ましくない製造条件により、LαまたはLγが本発明の範囲から外れると錆が発生することがわかり、表7、8から、化学組成、CCRIまたはMd30が本発明の範囲から外れると錆が発生することがわかる。なお、表4のNo.23と表6のNo.50は、熱間圧延前の鋳片加熱温度(以下、圧延前加熱温度と記載する)が低く、変形抵抗が大きく圧延できなかったため、製造を中止した。また、表4のNo.27と表6のNo.54は、厚減比が小さかったため、いずれもLαおよびLγが本発明の範囲外となり、錆が発生した。
表4において、No.22は、圧延前加熱温度が高かったため、Lγが本発明の範囲外となり、錆が発生した例である。
No.24は、熱間圧延のパス数が少なかったため、LαおよびLγが本発明の範囲外となり、錆が発生した例である。
No.25は、初期3パスにおける圧減比の最大値が高く、鋼板の形状が悪化し、また割れが発生したため、製造を中止した例である。
No.26は、最終3パスにおける圧減比の最大値が小さかったため、Lγが本発明の範囲外となり、錆が発生した例である。
表6において、No.49は、圧延前加熱温度が高かったため、Lγが本発明の範囲外となり、錆が発生した例である。
No.51は、熱間圧延のパス数が少なかったため、Lγが本発明の範囲外となり、錆が発生した例である。
No.52は、初期3パスにおける圧減比の最大値が高く、鋼板の形状が悪化し、また割れが発生したため、製造を中止した例である。
No.53は、最終3パスにおける圧減比の最大値が小さかったため、Lγが本発明の範囲外となり、錆が発生した例である。
表7において、No.55〜75は、含有元素のいずれかが本発明の範囲外であったため、いずれの鋼板においても錆が発生した例である。
No.76は、CCRIが本発明の範囲外であったため、錆が発生した例であり、No.77は、Md30が本発明の範囲外であったため、錆が発生した例である。
表8において、No.78〜98は、含有元素のいずれかが本発明の範囲外であったため、いずれの線状鋼材においても錆が発生した例である。
No.99は、CCRIが本発明の範囲外であったため、錆が発生した例であり、No.100は、Md30が本発明の範囲外であったため、錆が発生した例である。
次に、表1に示す供試材を表3に示す条件で熱間圧延を行って得られた鋼板に、表9(No.101〜121)に示す条件で冷間圧延を行い、950℃で焼鈍した後酸洗を行った。なお、表9中のパラメータ(圧延前加熱温度、パス数、初期3パス圧減比最大値、最終3パス圧減比最大値および圧減比)は、熱間圧延時のものである。すなわち、表9中の上記パラメータは、表3のものと同一である。
このようにして得られた鋼板について上述の耐食性試験を行った結果、いずれの試験片においてもせん断加工面に明確な点銹は発生しなかった。特に、C、Mn、Cr、Ni及びNのうちいずれか1種以上の含有量が、C:0.007〜0.025%、Mn:0.50〜5.00%、Cr:20.00〜23.00%、Ni:1.30〜4.70%、N:0.110〜0.240%となる条件を満たし、さらに、CRRIが30.0以上、Md30が80.0以下、Lαが80μm以下、Lγが25μm以下の全て条件を満たす表9のNo.101、102、104、108、110、111、116、118および119で、点銹の発生がないことがわかる。
さらに表1に示す供試材を表5に示す条件で熱間圧延を行って得られた線状鋼材に、表10(No.122〜142)に示す条件で冷間加工を行い、950℃で焼鈍した後酸洗を行った。なお、表10中のパラメータ(圧延前加熱温度、パス数、初期3パス圧減比最大値、最終3パス圧減比最大値および圧減比)は、熱間圧延時のものである。すなわち、表10中の上記パラメータは、表5のものと同一である。
このようにして得られた線状鋼材について上述の耐食性試験を行った結果、いずれの試験片においてもせん断加工面に明確な点銹は発生しなかった。特に、C、Mn、Cr、Ni及びNのうちいずれか1種以上の含有量が、C:0.007〜0.025%、Mn:0.50〜5.00%、Cr:20.00〜23.00%、Ni:1.30〜4.70%、N:0.110〜0.240%となる条件を満たし、さらに、CRRIが30.0以上、Md30が80.0以下、Lαが80μm以下、Lγが25μm以下の全て条件を満たす表10のNo.122、123、125、129、131、132、137、139、140で、点銹の発生がないことがわかる。
Figure 2018059207
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本発明の二相ステンレス鋼によれば、高価なNi、Moの含有量を低減させつつ、せん断加工面の耐食性劣化が生じないため、研磨等の処理を行われることなく腐食環境に曝される用途に適用可能な二相ステンレス鋼板及び二相ステンレス線状鋼材を提供できる。本発明の二相ステンレス鋼によって得られる二相ステンレス鋼板及び二相ステンレス線状鋼材は、タンク、配管、チャンバー、屋根材、ローラーチェーン、パンチングメタル、通風パネル等の様々な用途に対し好適に使用できる。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.030%以下、
    Si:0.10〜2.00%、
    Mn:6.00%以下、
    P:0.050%以下、
    S:0.0050%以下、
    Ni:1.00〜5.00%、
    Cr:18.00〜25.00%、
    Mo:0.01〜1.00%、
    Cu:0.30〜4.00%、
    W:0.005〜1.00%、
    N:0.100〜0.250%、
    Al:0.003〜0.050%及び
    O:0.0070%以下を含有し、
    残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    下記式(1)および下記式(2)を満たし、
    圧延方向に垂直な断面において、フェライト/オーステナイト相界面間の距離の最大値が、フェライト相において100μm以下、オーステナイト相において30μm以下であることを特徴とするせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼。
    [Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]≧25.0 ・・・ (1)
    551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]≦80.0 ・・・ (2)
    なお、上記式(1)および(2)中の[]付き元素は、当該元素の鋼中の含有質量%を表す。
  2. さらに以下の群のうち少なくとも1群以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼。
    第1群:
    質量%で、
    Nb:0.005〜0.20%、
    Ti:0.005〜0.20%、
    Co:0.005〜0.25%及び
    V:0.005〜0.15%
    から選択される1種または2種以上。
    第2群:
    質量%で、
    Sn:0.005〜0.20%、
    Sb:0.005〜0.20%、
    Ga:0.001〜0.050%、
    Zr:0.005〜0.50%、
    Ta:0.005〜0.100%、
    B:0.0002〜0.0050%、
    Ca:0.0002〜0.0050%及び
    Mg:0.0002〜0.0050%
    から選択される1種または2種以上。
  3. C、Mn、Cr、Ni及びNのうちいずれか1種以上の元素の含有量が、質量%で、C:0.007〜0.025%、Mn:0.50〜5.00%、Cr:20.00〜23.00%、Ni:1.30〜4.70%、N:0.110〜0.240%の範囲を満たし、
    下記式(1a)を満たし、
    圧延方向に垂直な断面において、フェライト/オーステナイト相界面間の距離の最大値が、フェライト相において80μm以下、オーステナイト相において25μm以下を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼。
    [Cr]+3[Mo]+1.5[W]+2[Cu]+0.5[Ni]+20[N]≧30.0 ・・・ (1a)
    なお、上記式(1a)中の[]付き元素は、当該元素の鋼中の含有質量%を表す。
  4. 前記二相ステンレス鋼が二相ステンレス鋼板であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス鋼板。
  5. 前記二相ステンレス鋼が二相ステンレス線状鋼材であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のせん断加工面の耐食性に優れた二相ステンレス線状鋼材。
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