JPWO2018051714A1 - 石英ガラスルツボ及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】マルチ引き上げなどの非常に長時間の単結晶引き上げ工程に耐えることができる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】石英ガラスルツボ1は、アルミニウム平均濃度が相対的に高い石英ガラスからなり、石英ガラスルツボ1の外面10bを構成するように設けられた高アルミニウム含有層14Bと、高アルミニウム含有層14Bよりもアルミニウム平均濃度が低い石英ガラスからなり、高アルミニウム含有層14Bの内側に設けられた低アルミニウム含有層14Aとを備え、低アルミニウム含有層14Aは、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層11を含み、高アルミニウム含有層14Bは不透明層11よりも気泡含有率が低減された透明又は半透明の石英ガラスからなる。
【選択図】図1

Description

本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によるシリコン単結晶の製造に用いられる石英ガラスルツボ及びその製造方法に関し、特に、石英ガラスルツボの強度を高める構造とその製造方法に関するものである。
CZ法によるシリコン単結晶の製造では石英ガラスルツボが用いられている。CZ法では、多結晶シリコン原料を石英ガラスルツボ内で加熱溶融し、回転するルツボ内のシリコン融液に種結晶を浸漬させた後、種結晶を徐々に引き上げて単結晶を成長させる。半導体デバイス用の高品質なシリコン単結晶を低コストで製造するためには、一回の引き上げ工程で単結晶収率を高めることができるだけでなく、ルツボ内にシリコン原料を追加して一つのルツボから複数本のシリコン単結晶インゴットを引き上げるいわゆるマルチ引き上げを実施できることが望ましく、そのためには長時間の使用に耐えることができる形状が安定したルツボが必要となる。
従来の石英ガラスルツボはシリコン単結晶引き上げ時の1400℃以上の高温下で粘度が低くなり、その形状を維持できず、座屈や内倒れなどのルツボの変形が生じ、これによりシリコン融液の液面レベルの変動やルツボの破損、炉内部品との接触などが問題になる。
このような問題を解決するため、例えば特許文献1には、ルツボの外層が高濃度アルミニウム添加石英層、中間層が天然石英層又は高純度合成石英層、内層が透明高純度合成石英層からなる3層構造の石英ガラスルツボが記載されている。この石英ガラスルツボを用いたシリコン単結晶の引き上げ工程では、シリコンの融点である1430℃まで昇温する前に1200℃以上で一定時間保持してルツボ外層の結晶化(核生成)が行なわれるので、クリストバライトの成長による顕著な粘性向上の効果を得ることができる。
特許文献2には、ルツボの外側から内側に向かって、低濃度のアルミニウムを含有する第一の外層、高濃度のアルミニウムを含有する第二の外層、天然原料シリカガラスからなる不透明中間層、天然原料シリカガラス又は合成原料シリカガラスからなる透明内層が順に設けられ、第一の外層と第二の外層とで結晶化速度を一定に維持し、耐久性を向上させることができる。またルツボの底部にアルミニウム含有層は設けられていないので、カーボンサセプタとの密着性を向上させることができる。
特許文献3には、ルツボ底部では外側から内側に向かって透明層、不透明層、透明層の三層構造とし、底部に透明又は半透明な層を設けて伝熱・放熱性を向上させ、ルツボ冷却時間を短縮し、外壁部は形状安定性のために気泡層とすることが記載されている。
特許文献4には、ルツボの内面から外面に向かって透明シリカガラス層、アルミニウム含有気泡含有シリカガラス層、半透明シリカガラス層が順に設けられており、半透明シリカガラス層の気泡含有率が0.5%以上1%未満であり且つOH基濃度が35ppm以上300ppm未満であることが記載されている。このシリカガラスルツボによれば、半透明シリカガラス層の内部のOH基を気泡でトラップし、膨張させて低密度化を図り、これにより内倒れ等を防止することができる。
特許文献5には、ルツボの外側から内側に向かって、不透明高濃度アルミニウム層、不透明中濃度アルミニウム層、透明低濃度アルミニウム層が順に形成され、アルミニウム濃度をルツボの外側に向かって順次高くすることでルツボの変形(うねり)を防止する方法が記載されている。
特許文献6には、耐熱性のあるリング状の型に結晶質シリカ粉末と窒化ケイ素粉末との混合粉末を充填した後電気炉に設置し、溶融温度以上にて加熱してガラス化させる不透明石英ガラスリングの製造方法において、混合粉末を真空雰囲気下で室温から加熱する昇温過程において、1400℃以上1650℃以下の温度で1時間以上保持することが記載されている。1400℃以上1650℃以下の温度で1時間以上保持することにより、結晶質シリカ粉末に由来する昇華ガスが型より外へ排出されるためにガラス中心部に空洞や大気泡の群落のない不透明石英ガラスリングを得ることが可能である。
特開2000−247778号公報 特開2009−084085号公報 特開2011−073925号公報 特開2012−006805号公報 国際公開第2004/106247号 特開平11−236234号公報
シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボにおいて、シリコン融液と接触するルツボ壁の内面は、シリコン融液の汚染を防止するため高純度であることが要求され、また気泡を内包していると気泡が破裂したときのルツボ破片などでシリコンの単結晶化が阻害されることを防止するため、無気泡層(透明層)であることが要求される。また、内面以外のルツボ壁は、ヒーターからの輻射熱が透過することなくルツボ内のシリコン融液が均一に加熱されるように気泡層であることが要求される。上述した従来の石英ガラスルツボはいずれも、ルツボの外側が気泡層、内側が透明層である二層構造であり、アルミニウム(Al)含有層が気泡層内に設けられ、多数の気泡を含む不透明ガラスからなるものである。
しかしながら、アルミニウム含有層やその近傍に気泡が存在すると、シリコン単結晶の引き上げ時の高温によってアルミニウム含有層が結晶化する際に、ガラスの構造内から離脱したガス(CO、N、OあるいはOH基)が周辺の気泡に拡散・膨張することにより、結晶化層とガラス層との界面近傍で発泡剥離が生じ、これによりルツボが変形するという問題がある。離脱したガスが気泡に拡散しない場合でも、アルミニウム含有層が気泡を含有したまま結晶化すると結晶化層中にクラックが発生しやすく、ルツボ壁が破損しやすい。
したがって、本発明の目的は、マルチ引き上げなどの非常に長時間の単結晶引き上げ工程に耐えることができる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明によるシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボは、アルミニウム平均濃度が相対的に高い石英ガラスからなり、前記石英ガラスルツボの外面を構成するように設けられた高アルミニウム含有層と、前記高アルミニウム含有層よりもアルミニウム平均濃度が低い石英ガラスからなり、前記高アルミニウム含有層の内側に設けられた低アルミニウム含有層とを備え、前記低アルミニウム含有層は、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層を含み、前記高アルミニウム含有層は、前記不透明層よりも気泡含有率が低減された透明又は半透明の石英ガラスからなることを特徴とする。
本発明による石英ガラスルツボは、ルツボの外面側に高アルミニウム含有層が設けられており、高アルミニウム含有層中に気泡が存在しないので、高アルミニウム含有層が結晶化し、またルツボの内部に向かって結晶化が進行しても、気泡の凝集や膨張が発生せず、よってルツボの変形を防止することができる。また気泡を含有しない結晶化層となるため、クラックが発生しにくい結晶化層を実現することができる。したがって、マルチ引き上げなど非常に長時間の単結晶引き上げ工程に耐えることができる。
本発明による石英ガラスルツボは、前記不透明層の内側であって前記石英ガラスルツボの内面を構成するように設けられた実質的に気泡を含まない内側透明層と、前記不透明層の外側であって前記石英ガラスルツボの前記外面を構成するように設けられた実質的に気泡を含まない外側透明層とを備え、前記高アルミニウム含有層の厚さは前記外側透明層よりも薄いことが好ましい。この構成によれば、高アルミニウム含有層を外側透明層内に収めることができ、気泡を含まない高アルミニウム含有層を実現することができる。また引き上げ中の加熱により高アルミニウム含有層が結晶化して結晶化層が厚くなっても気泡を含む不透明層まで到達しないので、気泡の凝集や膨張の発生を防止することができ、これによりルツボの変形を防止することができる。
本発明による石英ガラスルツボは、円筒状の直胴部と、湾曲した底部と、前記直胴部と前記底部とを繋ぐコーナー部とを有し、少なくとも前記直胴部に前記高アルミニウム含有層が設けられていることが好ましい。高アルミニウム含有層が少なくともルツボの直胴部に設けられていれば、長時間の結晶引き上げ工程中に内倒れが生じにくい石英ガラスルツボを実現することができる。
本発明において、前記高アルミニウム含有層中のアルミニウム平均濃度は20ppm以上であり、前記低アルミニウム含有層中のアルミニウム平均濃度は20ppm未満であることが好ましい。このように、高アルミニウム含有層中のアルミニウム濃度が20ppm以上であれば、アルミニウムによる結晶化促進作用を得ることができる。
本発明において、前記外側透明層中の気泡含有率は2.1%以下であることが好ましい。外側透明層中の気泡含有率が2.1%以下であれば、高アルミニウム含有層中に実質的に気泡が存在しないので、高アルミニウム含有層が結晶化し、またルツボの内部に向かって結晶化が進行しても、気泡の凝集や膨張が発生せず、よってルツボの変形を防止することができる。
本発明において、前記高アルミニウム含有層中のアルミニウム濃度分布は微視的に偏在していることが好ましい。この場合、高アルミニウム含有層中の1mmの領域内にアルミニウム濃度が高い部分が網目状に存在していることが好ましく、アルミニウム濃度が60ppm以上である高濃度領域とアルミニウム濃度が25ppm未満である低濃度領域とが1mmの範囲内に混在していることが特に好ましい。さらに、前記高濃度領域と前記低濃度領域との境界付近でのアルミニウム濃度勾配は1ppm/μm以上100ppm/μm以下であることが好ましく、1ppm/μm以上10ppm/μm以下であることがさらに好ましい。
本発明によれば、アルミニウム濃度が高い領域で石英ガラスの結晶化を促進させることができ、またアルミニウム濃度が低い領域で石英ガラスの粘度の低下を抑えることができ、高アルミニウム含有層全体が結晶化するまでの間にルツボの変形を防止することができる。また、高アルミニウム含有層の結晶化が早く進むので、単結晶引き上げ時に結晶核を生成するための温度に一定時間保持を行わなくても引き上げの初期からルツボの強度を確保することができ、結晶化がさらに進行することでルツボの強度をさらに高めることができる。
本発明において、前記高アルミニウム含有層中のカーボン及び硫黄それぞれの平均濃度は5ppm以下であることが好ましい。また、前記高アルミニウム含有層中の気泡含有率は0.5%未満であることが好ましい。
本発明によれば、シリコン単結晶の引き上げ中に高アルミニウム含有層が結晶化する際に気泡が発生する確率をさらに低減することができる。したがって、気泡が凝集・膨張することによって結晶化層とガラス層との界面近傍で発泡剥離が生じ、これによりルツボが変形する確率をさらに低減することができる。
また、本発明による石英ガラスルツボの製造方法は、回転するモールドの内面にアルミニウム添加石英粉及び天然石英粉を順に堆積させて原料石英粉の堆積層を形成する工程と、前記原料石英粉の堆積層を前記モールドの内側からアーク溶融する工程とを備え、前記原料石英粉の堆積層をアーク溶融する工程は、前記アーク溶融の開始時に前記モールドの内面に設けられた多数の通気孔からの減圧を強めて、実質的に気泡を含まない石英ガラスからなる内側透明層を形成する工程と、前記内側透明層の形成後に前記減圧を弱めて、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層を形成する工程と、前記不透明層の形成後に前記減圧を再び強めて、実質的に気泡を含まない石英ガラスからなる外側透明層を形成する工程とを含み、前記外側透明層を形成する工程では、前記アルミニウム添加石英粉を溶融して高アルミニウム含有層を形成すると共に、前記外側透明層の厚さが前記高アルミニウム含有層よりも厚くなるように、前記外側透明層を形成するために前記減圧を再び強めるタイミングを制御することを特徴とする。
本発明において「アルミニウム添加石英粉」とは、アルミニウム濃度が低い石英粉に対してアルミニウムが意図的に添加されたもののことを言い、また「天然石英粉」とはアルミニウムが意図的に添加されてない天然の石英粉のことを言う。一般的に、天然石英粉にはアルミニウムやアルカリ金属など種々な金属不純物が微量に含まれているが、このような天然石英粉は本発明におけるアルミニウム添加石英粉ではない。アルミニウム添加石英粉というためには、石英粉中のアルミニウムが自然界に存在しないくらい高濃度に含まれていることが必要であり、アルミニウム平均濃度が20ppm以上であることが必要である。
本発明によれば、モールドの内面に堆積させたアルミニウム添加石英粉を溶融する際に減圧を強めるので、実質的に気泡を含まない高アルミニウム含有層を含む外側透明層を確実且つ容易に形成することができる。したがって、結晶化層とガラス層との界面近傍での発泡剥離による変形が生じにくい石英ガラスルツボを製造することができる。
本発明において、前記高アルミニウム含有層の厚さは200μm以上であることが好ましい。高アルミニウム含有層の厚さが200μm以上であれば、結晶化層の厚さを200μm以上とすることができ、結晶化層を形成することによる効果を得ることができる。
本発明において、前記アルミニウム添加石英粉の平均粒径は100〜400μmであることが好ましく、200〜400μmであることがより好ましく、300〜400μmであることがさらに好ましい。また前記アルミニウム添加石英粉の極表面のアルミニウム濃度は60ppm以上であり、前記アルミニウム添加石英粉の中央部のアルミニウム濃度は25ppm未満であることが好ましい。なおアルミニウム添加石英粉の極表面とは、最表面から深さ30μmまでの範囲内のことをいう。
本発明によれば、高アルミニウム含有層中にアルミニウム濃度が高い領域と低い領域とを偏在させることができる。したがって、高アルミニウム含有層の結晶化促進効果と石英ガラスの粘度の向上によるルツボの変形の抑制効果を高めることができる。
本発明による石英ガラスルツボの製造方法は、前記アルミニウム添加石英粉を前記モールド内に充填する前に、前記アルミニウム添加石英粉を用意する工程をさらに含み、前記アルミニウム添加石英粉を用意する工程は、天然石英粉とアルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、脱水及び乾燥させてアルミニウムを前記天然石英粉に定着させる定着工程と、前記アルミニウムが定着した天然石英粉を1000℃以上1200℃以下の焼結しない温度で加熱して前記アルミニウムを前記天然石英粉の表層部に浸透させる第1の熱処理工程とを含むことが好ましい。この場合において、前記第1の熱処理工程における加熱時間は2時間以上20時間以下であることが好ましく、5時間以上10時間以下であることがさらに好ましい。これによれば、アルミニウムが石英粒の表面に濃縮したアルミニウム添加石英粉を簡単かつ確実に製造することができる。また、石英粉が焼結してしまい、石英粉に気泡が内包されることを防止することができる。
本発明においては、既存の石英ガラスルツボの高アルミニウム含有層中のアルミニウム濃度分布を二次イオン質量分析法により測定し、前記アルミニウム濃度分布の測定結果に基づいて、次の石英ガラスルツボの製造に使用する前記アルミニウム化合物を含む溶液の濃度又は前記アルミニウム添加石英粉の熱処理時間若しくは熱処理温度を調整することが好ましい。
本発明による石英ガラスルツボの製造方法は、前記アルミニウム添加石英粉を前記モールド内に充填する前に、前記アルミニウム添加石英粉に付着するカーボン、硫黄その他の製造工程由来の不純物成分を除去する工程をさらに含むことが好ましい。
本発明によれば、アルミニウム添加石英粉に付着するカーボン、硫黄、窒素、水分などの気泡の発生原因となる成分を予め除去することができる。したがって、シリコン単結晶の引き上げ中に高アルミニウム含有層が結晶化する際に気泡が発生する確率をさらに低減することができ、気泡が凝集・膨張することによって結晶化層とガラス層との界面近傍で発泡剥離が生じてルツボが変形する確率をさらに低減することができる。
本発明において、前記不純物成分を除去する工程は、前記アルミニウム添加石英粉を1000℃以上1200℃以下の常圧の大気雰囲気のチャンバー内で加熱する第2の熱処理工程と、前記チャンバー内を真空引きし、前記アルミニウム添加石英粉を真空中で一定時間保持する第1の保持工程と、前記チャンバー内を常圧のヘリウム雰囲気に変更し、前記アルミニウム添加石英粉を常圧のヘリウム雰囲気下で一定時間保持する第2の保持工程とを含むことが好ましい。この場合において、前記第2の熱処理工程における加熱時間は2時間以上20時間以下であることが好ましい。これによれば、石英粒の表面にアルミニウムを高濃度に定着させた状態まま、アルミニウム添加石英粉に付着するカーボンなどの気泡の発生原因となる成分を予め除去することができる。
本発明によれば、マルチ引き上げなどの非常に長時間の単結晶引き上げ工程に耐えることができる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することができる。
図1は、本発明の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略断面図である。 図2は、加熱によって外面10bが結晶化した状態の石英ガラスルツボ1の構造を示す略断面図である。 図3は、結晶化層15とその内側のガラス層との界面近傍での発泡剥離のメカニズムを説明するための模式図であって、(a)〜(c)は従来の二層構造の石英ガラスルツボの場合、(d)〜(f)は本発明による三層構造の石英ガラスルツボの場合をそれぞれ示している。 図4は、石英ガラスのアルミニウム濃度と1450℃の高温下での粘度との関係を示すグラフであって、横軸はアルミニウム濃度(ppm)、縦軸は粘度logη(poise)をそれぞれ示している。 図5は、本実施形態による石英ガラスルツボ1の製造方法を概略的に示すフローチャートである。 図6は、回転モールド法によるルツボの製造方法を説明するための図であって、(a)はモールドの構成を模式的に示す側面図、(b)は減圧溶融の有無による石英ガラス中の気泡の状態を説明するための模式図である。 図7は、アルミニウム添加石英粉から取り出した一粒のアルミニウム含有石英粒の体積内のアルミニウム濃度分布をレーザ照射方法により測定した結果であって、(a)は測定方法の説明図、(b)は測定結果の表である。 図8は、高アルミニウム含有層14B中のアルミニウムイオン濃度分布を示すTOF−SIMSイオン像マップである。 図9は、石英ガラスルツボのサンプル#1〜#3のカーボン濃度、硫黄濃度及び気泡含有率の測定結果を示す表である。 図10は、石英ガラスルツボの加熱試験の結果を示す表である。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略断面図である。
図1に示すように、石英ガラスルツボ1は、シリコン融液を支持するための有底円筒状の容器であり、円筒状の直胴部1aと、緩やかに湾曲した底部1bと、底部1bよりも大きな曲率を有し、直胴部1aと底部1bとを繋ぐコーナー部1cとを有している。
石英ガラスルツボ1の直径D(口径)は24インチ(約600mm)以上であり、32インチ(約800mm)以上であることが好ましい。このような大口径のルツボは直径300mm以上の大型のシリコン単結晶インゴットの引き上げに用いられ、長時間使用しても変形しにくいことが求められるからである。近年、シリコン単結晶の大型化に伴うルツボの大型化、引き上げ工程の長時間化に伴い、ルツボの熱環境が厳しくなっており、大型ルツボの耐久性の向上は極めて重要な課題である。ルツボの肉厚はその部位によって多少異なるが、24インチ以上のルツボの直胴部1aの肉厚は8mm以上であることが好ましく、32インチ以上の大型ルツボの直胴部1aの肉厚は10mm以上であることが好ましく、40インチ(約1000mm)以上の大型ルツボの直胴部1aの肉厚は13mm以上であることがより好ましい。
本実施形態による石英ガラスルツボ1は三層構造であって、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層11(気泡層)と、不透明層11の内側に設けられた実質的に気泡を含まない石英ガラスからなる内側透明層12Aと、不透明層11の外側に設けられた実質的に気泡を含まない石英ガラスからなる外側透明層12Bとを備えている。
不透明層11は、単結晶引き上げ装置のヒーターからの輻射熱がルツボ壁を透過することなくルツボ内のシリコン融液をできるだけ均一に加熱するために設けられている。そのため、不透明層11はルツボの直胴部1aから底部1bまでのルツボ全体に設けられている。不透明層11の厚さは、ルツボ壁の厚さから内側透明層12A及び外側透明層12Bの厚さを差し引いた値であり、ルツボの部位によって異なる。
不透明層11を構成する石英ガラス中の気泡含有率は2.5%以上であることが好ましい。不透明層11の気泡含有率は、比重測定(アルキメデス法)により求めることができる。ルツボから単位体積(1cm)の不透明石英ガラス片を切り出し、その質量をAとし、気泡を含まない石英ガラスの比重(石英ガラスの真密度)B=2.2g/cmとするとき、気泡含有率P(%)は、P=(B−A)/B×100となる。
内側透明層12Aは、シリコン融液と接触するルツボ壁の内面10aを構成する層であって、気泡を内包していると気泡が破裂したときのルツボ破片などで単結晶が有転位化することを防止するために設けられている。またシリコン融液の汚染を防止するため内側透明層12Aには高純度であることも要求される。内側透明層12Aの厚さは0.5〜10mmであることが好ましく、単結晶の引き上げ工程中の溶損によって完全に消失して不透明層11が露出することがないよう、ルツボの部位ごとに適切な厚さに設定される。不透明層11と同様、内側透明層12Aはルツボの直胴部1aから底部1bまでのルツボ全体に設けられていることが好ましいが、シリコン融液と接触しないルツボの上端部(リム部)において内側透明層12Aの形成を省略することも可能である。
内側透明層12Aが「実質的に気泡を含まない」とは、気泡が破裂したときのルツボ破片が原因で単結晶化率が低下しない程度の気泡含有率及び気泡サイズであることを意味し、気泡含有率が0.8%以下であり、気泡の平均直径が100μm以下であることをいう。不透明層11と内側透明層12Aとの境界において気泡含有率の変化は急峻であり、両者の境界は肉眼で明確である。
外側透明層12Bは、結晶引き上げ工程中にルツボを支持する黒鉛ルツボの内面と接触するルツボ壁の外面10bを構成する層である。外側透明層12Bは、ルツボの外面10bが結晶化して結晶化層が形成されたとき、結晶化層とガラス層との界面近傍で発泡剥離が生じ、これが原因となってルツボが変形することを回避するために設けられている。
外側透明層12Bの厚さはその部位によって多少異なるが、1〜7mmであることが好ましく、3〜5mmであることが特に好ましい。外側透明層12Bは、ルツボの外面10bに形成される結晶化層の厚さが外側透明層12Bの厚さを超えることがないよう、ルツボの部位ごとに十分な厚さに設定される。
外側透明層12Bが「実質的に気泡を含まない」とは、気泡の凝集・膨張が原因で結晶化層とガラス層との界面近傍で発泡剥離が生じることがない程度の気泡含有率及び気泡サイズであることを意味し、気泡含有率が2.1%以下であり、気泡の平均直径が100μm以下であることをいう。不透明層11と外側透明層12Bとの境界においても気泡含有率の変化は急峻であり、両者の境界は肉眼で明確である。
内側透明層12A及び外側透明層12Bの気泡含有率は、光学的検出手段を用いて非破壊的に測定することができる。光学的検出手段は、検査対象のルツボの内面に照射した光の反射光を受光する受光装置を備える。照射光の発光手段は内蔵されたものでもよく、また外部の発光手段を利用するものでもよい。また、光学的検出手段は、ルツボの内面に沿って回動操作できるものが好ましく用いられる。照射光としては、可視光、紫外線及び赤外線のほか、X線もしくはレーザ光などを利用でき、反射して気泡を検出できるものであれば何れも適用できる。受光装置は照射光の種類に応じて選択されるが、例えば受光レンズ及び撮像部を含む光学カメラを用いることができる。
上記光学検出手段による測定結果は画像処理装置に取り込まれ、気泡含有率が算出される。詳細には、光学カメラを用いてルツボの内面の画像を撮像し、ルツボの内面を一定面積ごとに区分して基準面積S1とし、この基準面積S1ごとに気泡の占有面積S2を求め、P=(S2/S1)×100により気泡含有率P(%)が算出される。石英ガラスの表面から一定の深さに存在する気泡を検出するには、受光レンズの焦点を表面から深さ方向に走査すればよく、こうして複数の画像を撮影し、各画像の気泡含有率に基づいて空間内の気泡含有率を求めればよい。
本実施形態による石英ガラスルツボ1の外面10bの表層部には、アルミニウム平均濃度が相対的に高い石英ガラスからなる高アルミニウム含有層14Bが設けられている。高アルミニウム含有層14Bは、シリコン単結晶の引き上げ工程中の高温下でルツボ壁の外面10bの結晶化を促進させる役割を果たすものである。高アルミニウム含有層14Bよりも内側は、高アルミニウム含有層14Bよりもアルミニウム平均濃度が低い石英ガラスからなる低アルミニウム含有層14Aである。高アルミニウム含有層14Bは、少なくともルツボの直胴部1aに設けられている必要があり、直胴部1a及びコーナー部1cに設けられていることが好ましい。直胴部1aはシリコン単結晶の引き上げが進んで融液面が低下した後、内側からの圧力がなくなり、内倒れが生じやすいからであり、またコーナー部はルツボ直胴部の自重が上からかかるため、ルツボ壁が内側に膨らむ形で変形が生じやすいからである。
低アルミニウム含有層14Aは、アルミニウム濃度が低い石英粉を原料にして形成された石英ガラス層であり、そのアルミニウム平均濃度は20ppm未満である。一方、高アルミニウム含有層14Bは、アルミニウムが添加された天然石英粉(アルミニウム添加石英粉)を原料にして形成された石英ガラス層であり、そのアルミニウム平均濃度は20ppm以上であり、30ppm以上であることが好ましい。すなわち、高アルミニウム含有層14Bのアルミニウム平均濃度は、低アルミニウム含有層14Aよりも10ppm以上高いことが好ましい。
石英ガラスルツボ1の内面10aの表層部には、合成石英粉を原料とする合成石英ガラス層が形成されていることが好ましい。すなわち、低アルミニウム含有層14Aは、アルミニウム添加石英粉に比べてアルミニウム濃度が低い天然石英粉を原料とする天然石英ガラス層と上記の合成石英ガラス層との二層構造であることが好ましい。合成石英ガラス層は、溶損によって完全に消失して天然石英ガラス層が露出することがないよう、十分な厚さに設定されることが好ましい。
高アルミニウム含有層14Bの厚さは2〜3mmであり、外側透明層12Bの厚さよりも薄く、外側透明層12Bの形成領域内に収まっている。すなわち、高アルミニウム含有層14Bは実質的に気泡を含まない透明石英ガラスからなる。高アルミニウム含有層14Bの気泡含有率は、高アルミニウム含有層14Bを含む外側透明層12B全体の気泡含有率と実質的に等しく、0.8%以下であることが好ましい。石英ガラス中のアルミニウム濃度が高いと石英ガラスの結晶化速度が速く、結晶中に気泡が残存・凝集しやすく、発泡剥離が生じやすい。しかし、高アルミニウム含有層14Bが外側透明層12Bの一部となっているので、結晶化層はガス含有量が少ない石英ガラスのみが結晶化したものとなり、結晶中に気泡が残存・凝集することがない。したがって、結晶化層が成長して厚くなったとしても結晶化層とガラス層との界面近傍での発泡剥離を防止することができる。
発泡剥離の確率は、高アルミニウム含有層14Bを構成する石英ガラス中の気泡含有率がたとえ一定であったとしても、引き上げ工程中の温度が高くなるほど高くなり、またアルミニウム濃度が高くなるほど高くなる。したがって、例えば引き上げ工程中の温度を比較的高い温度に設定したり、高アルミニウム含有層14B中のアルミニウム平均濃度を高くする場合には、高アルミニウム含有層14Bの気泡含有率をより一層低くすることが好ましい。
引き上げ工程中の温度が高くなるか、あるいはアルミニウム濃度が高くなると、高アルミニウム含有層の結晶化速度が速くなるため、石英ガラス層中に気泡が含まれていると、ルツボ壁内部に気泡ないガスが拡散する時間が少なくなり、その結果、結晶化層と結晶化する前の石英ガラス層との界面に残存する気泡が多くなる。そのため、高アルミニウム含有層14B内部の気泡含有率をできるだけ低くすることが好ましい。具体的には、Xを気泡含有率(%)、Yをアルカリ金属、Ba、Sr、Al及びCaの合計濃度(ppm)とするとき、Y<−140X+310の関係式を満たすようにすることで発砲・剥離を防止することができる。なお、発泡・剥離とは、結晶化層と結晶化していない石英ガラス層とが分離し、強度(粘度)が低い結晶化していない層が膨らむ現象のことをいう。
図2は、加熱によって外面10bが結晶化した状態の石英ガラスルツボ1の構造を示す略断面図である。
図2に示すように、高アルミニウム含有層14Bが設けられた石英ガラスルツボ1の外面10bは、単結晶の引き上げ工程中の1400℃以上の加熱によってその結晶化が促進され、これにより結晶化層15が形成される。このようにルツボの外面10bの表層部を結晶化させることにより、ルツボの強度を高めることができ、座屈や内倒れなどのルツボの変形を抑えることができる。
結晶化層15の厚さは、ルツボの部位によって異なるが、200μm以上あることが必要であり、400μm以上であることが好ましい。200μm未満では結晶化層15を設けることによるルツボの強度向上の効果が得られない場合があるからである。結晶化層15の厚さが400μm以上であればルツボの強度を確実に向上させることができる。一方、結晶化層15があまり厚くなりすぎると結晶化層15と石英ガラス層との界面15Sで気泡が凝集・膨張しやすくなるため、適切な厚さとする必要があり、最大でも5mm以下、より好ましくは2mm以下であることが好ましい。結晶化層15の厚さは、高アルミニウム含有層14Bの厚さとほぼ同じか少し厚い程度に留まるため、高アルミニウム含有層14Bを適切な厚さに設定することで結晶化層15の厚さを容易に制御することができる。
図3は、結晶化層15とその内側のガラス層との界面近傍での発泡剥離のメカニズムを説明するための模式図であって、(a)〜(c)は従来の二層構造の石英ガラスルツボの場合、(d)〜(f)は本実施形態による三層構造の石英ガラスルツボの場合をそれぞれ示している。
図3(a)に示すように、内側透明層12Aと不透明層(気泡層)11のみからなる従来の二層構造の石英ガラスルツボの場合、高アルミニウム含有層14Bは不透明層11内に設けられることになるので、結晶化層15は多数の気泡を含む石英ガラスが溶融して結晶化することにより形成される。
図3(b)に示すように、不透明層11の結晶化はルツボの外面10b側から内面10a側に向かって進み、気泡を内包する石英ガラスが結晶化する際にガラス中の気泡やガラス中に溶け込んでいるガス成分は結晶化層15から排出され、左向きの矢印で示すように未溶融の石英ガラス層(不透明層11)のほうに溶け込んでいく。特に、不透明層11中の気泡はガラス中にガスを供給するタンクの役目を果たすため、不透明層11が結晶化した場合には結晶化層15からガラス層側に多くガスが受け渡されることとなる。
そして、結晶化層15が厚く成長すればするほど、未溶融の石英ガラス層側に固溶しようとするガスの量が多くなり、ガラス層がガスの固溶を受け入れることが出来なくなると、図3(c)に示すように結晶化層15とガラス層との界面近傍で多くの気泡が発生し、発泡剥離の確率が高まる。
一方、図3(d)に示すように、内側透明層12A、不透明層(気泡層)11及び外側透明層12Bを有する三層構造の石英ガラスルツボの場合、高アルミニウム含有層14Bは外側透明層12B内に設けられることになるので、結晶化層15は気泡を含まない石英ガラスが溶融して結晶化することにより形成される。
図3(e)に示すように、外側透明層12Bの結晶かはルツボの外面10b側から内面10a側に向かって結晶化が進むが、気泡を含まない石英ガラスが結晶化しても気泡やガス成分は排出されないので、未溶融の石英ガラス層(不透明層11)のほうにガス成分が溶け込むことはない。
したがって、図3(f)に示すように、結晶化層15が厚くなっても結晶化層15とガラス層との界面において発泡剥離が生じることはない。このように、ルツボの外面10b側の結晶化領域を無気泡層にして発泡の主な原因(ガス供給源)をなくすことにより、発泡剥離の確率を大幅に低減することができる。
結晶化層とガラス層との界面近傍での発泡剥離は、ガラス中に固溶しているカーボン、硫黄などの不純物成分の他、窒素や水分によっても発生し得る。したがって、ガラス中に固溶するガス成分をできるだけ排除しておくことにより、発泡剥離の発生確率をさらに低減することが可能となる。
高アルミニウム含有層14Bに含まれるカーボン及び硫黄それぞれの濃度はできるだけ低いことが好ましく、特に高アルミニウム含有層14B中のカーボン及び硫黄それぞれの平均濃度は5ppm以下であることが好ましい。詳細は後述するが、高アルミニウム含有層14Bの原料となるアルミニウム添加石英粉には、カーボン、硫黄その他の製造工程由来の不純物成分が付着しており、そのようなアルミニウム添加石英粉を用いて高アルミニウム含有層14Bを形成した場合には、高アルミニウム含有層14B中の不純物濃度が高くなる。高アルミニウム含有層14B中の不純物濃度が高いと、たとえ高アルミニウム含有層14Bを外側透明層12B内に形成したとしても、不純物がガスの発生原因となり、高アルミニウム含有層14Bが結晶化したときに結晶化層中の気泡含有率を十分に低減することができない。
しかし、アルミニウム添加石英粉に付着するカーボンなどのガス成分を予め除去し、これにより高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度が低く抑えられている場合には、高アルミニウム含有層14Bの気泡含有率を0.5%未満に抑えることができ、シリコン単結晶の引き上げ中に高アルミニウム含有層14Bが結晶化する際に気泡が発生する確率をさらに低減することができる。したがって、気泡が凝集・膨張することによって結晶化層とガラス層との界面近傍で発泡剥離が生じ、これによりルツボが変形する確率をさらに低減することができる。
高アルミニウム含有層14B中のアルミニウム濃度は高ければ高いほど石英ガラスの結晶化を促進させることができるが、アルミニウムの高濃度化がルツボの変形の抑制に必ずしも寄与するわけではない。アルミニウム濃度を非常に高くすると石英ガラスの粘度が低下する傾向が見られるからである。
図4は、石英ガラスのアルミニウム濃度と1450℃の高温下での粘度との関係を示すグラフであって、横軸はアルミニウム濃度(ppm)、縦軸は粘度logη(poise)をそれぞれ示している。
図4において、アルミニウムが添加されていない天然石英粉を用いた石英ガラスのアルミニウム濃度は約16ppmであり、1450℃のときの粘度は10.2poiseであり、温度が上がると粘度も低くなる。これに対し、アルミニウムが約5ppm追加的に添加された天然石英粉を用いた石英ガラスのアルミニウム濃度は21ppmであり、1450℃のときの粘度は約10.3poiseである。また、アルミニウムが約12ppm追加的に添加された天然石英粉を用いた石英ガラスのアルミニウム濃度は33ppmであり、1450℃のときの粘度は約10.15poiseである。アルミニウムが約109ppmと非常に高濃度に添加された天然石英粉を用いた石英ガラスの粘度はより一層低くなり、1450℃のときの粘度は≒10.0poiseである。
このように、アルミニウム濃度をわずかに添加する程度であれば添加していないものに比べて粘度を高くすることができるが、アルミニウム濃度を高くすればするほど石英ガラスの粘度が高くなるわけではなく、むしろ粘度が低くなる傾向がある。
このように、高アルミニウム含有層14Bは、結晶化してしまえば高温下で変形しにくい十分な耐久性を得ることができ、アルミニウム濃度が高いほど結晶化速度を高めることができるが、結晶化する前はアルミニウム濃度が高いと石英ガラスの粘性が低くなり、ルツボの変形しやすくなるという問題がある。
そこで本実施形態による高アルミニウム含有層14Bは、1mm前後の微視的なスケールで見たときに、アルミニウム濃度が高い領域と低い領域とが混在した分布を有することが好ましい。アルミニウム濃度が高い領域が石英ガラスの結晶化を促進させる一方で、アルミニウム濃度が低い領域が石英ガラスの粘度を確保し、高アルミニウム含有層14Bが十分に結晶化するまでの間、変形に耐える役割を果たす。アルミニウム濃度が高い部分は1mm程度の領域内に網目状に存在していることが好ましい。高アルミニウム含有層14B中のアルミニウム濃度が高い領域のアルミニウム濃度は60ppm以上であることが好ましく、300ppm以上であることがより好ましい。また高アルミニウム含有層14B中のアルミニウム濃度が低い領域の濃度は25ppm未満であることが好ましく、20ppm未満であることがより好ましい。さらにアルミニウム濃度が高い領域と低い領域との間のアルミニウム濃度勾配は1ppm/μm以上100ppm/μm以下であることが好ましく、1ppm/μm以上10ppm/μm以下であることがさらに好ましい。
アルミニウムが不均一に分布している場合には、アルミニウムが高濃度に存在しているところから結晶核の生成が始まり、その周囲に存在する粘度が低下したガラスは結晶化しやすいので、アルミニウムが均一に分布する場合よりも結晶化層15が所望の厚さに到達するまでの時間も短い。そして石英ガラスが結晶化するまでの期間中はアルミニウム濃度が低い領域の石英ガラスの粘度そのもので変形に耐えることができる。したがって、結晶化の促進とルツボの強度の向上との両立を図ることができる。
このような高アルミニウム含有層14B中のアルミニウムの不均一な分布は、原料となるアルミニウム添加石英粉に含まれるアルミニウムの石英粒への付着状態に起因する。一粒のアルミニウム含有石英粒の最大径は300〜400μmであり、アルミニウムは個々の石英粒の表面近傍に濃縮している。このようなアルミニウム添加石英粉をアーク溶融してガラス化すると、アーク溶融中の10〜15分という短時間ではアルミニウムが石英ガラス中に拡散することは少ないので、アルミニウムの高濃度領域と低濃度領域とが微視的に混在した石英ガラス層を形成することができる。
図5は、本実施形態による石英ガラスルツボ1の製造方法を概略的に示すフローチャートである。また、図6は、回転モールド法によるルツボの製造方法を説明するための図であって、(a)はモールドの構成を模式的に示す側面図、(b)は減圧溶融の有無による石英ガラス中の気泡の状態を説明するための模式図である。
図5に示すように、石英ガラスルツボ1の製造では、まず原料石英粉として、天然石英粉と、アルミニウムが添加されたアルミニウム添加石英粉とを用意する(ステップS11)。内側透明層12Aの原料として高純度合成石英粉をさらに用意してもよい。
「アルミニウム添加石英粉」とは、アルミニウム濃度が低い石英粉に対してアルミニウムが意図的に添加されたもののことを言い、また「天然石英粉」とは、アルミニウムが意図的に添加されてない通常の天然石英粉のことを言う。一般的に、天然石英粉にはアルミニウムやアルカリ金属など種々な金属不純物が微量に含まれているが、例えばアルミニウム平均濃度は20ppm未満であり、このような天然石英粉はアルミニウム添加石英粉と区別される。アルミニウム添加石英粉というためには、アルミニウム平均濃度が30ppm以上であることが必要である。アルミニウム添加石英粉の平均粒径は100〜400μmであり、好ましくは200〜400μmであり、さらに好ましくは300〜400μmである。アルミニウム添加石英粉の極表面のアルミニウム濃度は60ppm以上であり、アルミニウム添加石英粉の中央部のアルミニウム濃度は25ppm未満であることが好ましい。
アルミニウム添加石英粉は、平均粒径が100〜400μmの通常の天然石英粉に、例えば、アルミニウムアルコキシドや硫化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を混ぜ合わせた後、1000〜1200℃の非酸素雰囲気下で5時間以上の熱処理(第1の熱処理工程)を施すことによって生成することができる。アーク溶融時の10〜15分という短時間ではアルミニウムが拡散することはないが、アルミニウム添加石英粉を生成するための数時間から数十時間という加熱時間ではアルミニウムが拡散するので、アルミニウムを石英粉の表層部に浸透させることができる。ただし加熱時間が長すぎると石英粉の内部までアルミニウムが石英粉の内部まで浸透しすぎてアルミニウムが極表面に濃縮した分布にならないので、加熱時間は2〜20時間が適切であり、5〜10時間が特に好ましい。非酸素雰囲気下で熱処理する理由は、アルミニウム化合物の酸化を防止するためであり、酸素雰囲気下で熱処理するとアルミニウム化合物がアルミナに変化し、アルミナと石英とではほとんど反応しなくなり、アルミニウムを石英粉に浸透させることができないからである。
上記のような方法で生成されたアルミニウム添加石英粉はカーボン、硫黄等の製造工程由来の不純物を含み、これらの不純物が石英粒に付着していると気泡の発生原因となるため、本実施形態ではアルミニウム添加石英粉中の不純物成分を除去するための脱ガス処理(前処理)を行う(ステップS12)。
脱ガス処理では、まずアルミニウム添加石英粉をチャンバー内にセットし、チャンバー内を1気圧(常圧)の大気雰囲気とした後、1000〜1200℃まで昇温し、石英粉が焼結しない温度で5〜10時間保持する。この熱処理(第2の熱処理工程)により、アルミニウム添加石英粉に付着しているカーボン、硫黄等の不純物成分が除去される。高温保持時間が長いほど気泡の発生原因となる不純物成分を低減することができるが、アルミニウムが石英粒の内部に浸透してしまうので、高温保持時間を非常に長くすることは好ましくなく、2〜20時間が適切である。脱ガス処理の温度を1000〜1200℃としたのは、熱処理の温度が高くなると石英粉が焼結してしまい、石英粉の内部にガスが閉じ込められて気泡となってしまうからである。気泡を内包する石英粉を用いてルツボを製造すると石英ガラス層中に気泡が残存してしまう。しかし、石英粉が焼結しない温度帯で熱処理する場合には、気泡の残存を防止することができる。
次に、チャンバー内を真空引きし、アルミニウム添加石英粉を真空中で一定時間保持する(第1の保持工程)。上記のように大気圧雰囲気で熱処理した場合には石英粉に窒素が拡散するので、1気圧から真空雰囲気に減圧し、例えば5時間保持することにより、窒素を除去することができる。窒素リッチな石英粉は石英粉溶融工程で多くの気泡を発生させるが、窒素を除去することにより、気泡の発生を抑えることができる。
その後、チャンバー内を1気圧のヘリウム雰囲気に変更し、アルミニウム添加石英粉を常圧のヘリウム雰囲気下で一定時間保持する(第2の保持工程)。アルミニウム添加石英粉をヘリウム雰囲気下で保持することにより、アルミニウム添加石英粉の表面に付着・残存しているガス成分、カーボン、窒素等を、不活性であり拡散速度が速いヘリウムに置換しておくことができる。ヘリウムは窒素に比べると原子が小さいので、ガラス中で非常に速く拡散する。そのため、石英粉溶融工程において気泡が多少発生したとしてもヘリウムガスはガラス中で容易に拡散し、気泡は消滅する。したがって、アルミニウムを添加していない石英粉からなる石英ガラス層まで結晶化が進んでも発泡・剥離を防止することができる。
以上の処理により、潜在的な気泡の原因となるカーボン、硫黄、窒素等の不純物成分を予め除去し、これによりルツボの外面が結晶化したときの結晶化層とガラス層との界面近傍での発泡剥離を防止することができ、これによりルツボの強度を向上させることができる。
上記の脱ガス処理は、アルミニウム添加石英粉のみならず、アルミニウムを添加していない通常の天然石英粉に対して行われることもまた好ましい。特に、アルミニウム添加石英粉の内側に配置される石英粉に対しても脱ガス処理を行うことで石英粉に付着している水分(OH基)を離脱させることができ、アルミニウムを添加していない石英粉からなる石英ガラス層まで結晶化が進んでも発砲・剥離を防止することができる。
上述のアルミニウム添加処理においては、既存の石英ガラスルツボの高アルミニウム含有層中のアルミニウム濃度分布を二次イオン質量分析法により測定し、アルミニウム濃度分布の測定結果に基づいて、次の石英ガラスルツボの製造に使用するアルミニウム化合物を含む溶液の濃度又はアルミニウム添加石英粉の熱処理時間若しくは熱処理温度を調整することが好ましい。このようにすることで、アルミニウム含有層を形成するのに好適なアルミニウム添加石英粉を用意することができる。
次に、上記の原料石英粉を用いて石英ガラスルツボを回転モールド法により製造する。図6(a)に示すように、回転モールド法による石英ガラスルツボの製造では、回転するモールド20の内面20aに、アルミニウム添加石英粉16B及び天然石英粉16Aを順に堆積させて原料石英粉の堆積層16を形成する(ステップS13)。内側透明層12Aの原料として合成石英粉を用いる場合には、天然石英粉16Aの上に合成石英粉を堆積させればよい。これらの原料石英粉16は遠心力によってモールド20の内面20aに張り付いたまま一定の位置に留まり、その形状に維持される。
次に、モールド内にアーク電極を設置し、モールド20の内面20a側から原料石英粉の堆積層16をアーク溶融する(ステップS14)。加熱時間、加熱温度等の具体的条件は原料やルツボのサイズなどの条件を考慮して適宜定められる。このとき、モールド20の内面20aに設けられた多数の通気孔22から原料石英粉の堆積層16を真空引きすることにより、溶融石英ガラス中の気泡量をコントロールする。
具体的には、アーク溶融の開始時にモールド20の内面20aに設けられた多数の通気孔22からの減圧を強めて内側透明層12Aを形成し(ステップS15)、内側透明層12Aの形成後に減圧を弱めて不透明層11を形成し(ステップS16)、不透明層11の形成後に再び減圧を強めて外側透明層12Bを形成する(ステップS17)。特に、外側透明層12Bを形成する際は、外側透明層12Bの厚さがアルミニウム添加石英粉16Bの堆積層が溶融することによって形成される高アルミニウム含有層14Bよりも厚くなるように、減圧溶融を再開するタイミングが制御される。内側透明層12A及び外側透明層12Bを形成する場合、減圧力の強さは−70〜−95kPaであることが好ましい。また気泡含有層である不透明層11を形成する場合、減圧力の強さは約大気圧〜−35kPaであることが好ましい。
アーク熱は原料石英粉の堆積層16の内側から外側に向かって徐々に伝わり原料石英粉を融解していくので、原料石英粉が溶融し始めるタイミングで減圧条件を変えることにより、透明層と不透明層とを作り分けることができる。すなわち図6(b)に示すように、石英粉31が融解するタイミングで減圧を強める減圧溶融を行えば、アーク雰囲気ガス32がガラス中に閉じ込められず、左図のように気泡33をほとんど含まない石英ガラス34になる。また、石英粉31が融解するタイミングで減圧を弱める通常溶融(大気圧溶融)を行えば、アーク雰囲気ガス32がガラス中に閉じ込められ、右図のように多くの気泡33を含む石英ガラス34になる。
その後、アーク溶融を終了し、ルツボを冷却する(ステップS18)。以上により、ルツボ壁の内側から外側に向かって内側透明層12A、不透明層11及び外側透明層12Bが順に設けられた石英ガラスルツボ1が完成する。
以上説明したように、本実施形態による石英ガラスルツボ1は、ルツボの外面10b側に高アルミニウム含有層14Bが設けられており、高アルミニウム含有層14B中に気泡が存在しないので、高アルミニウム含有層14Bが結晶化し、またルツボの内部に向かって結晶化が進行しても、結晶化層15とガラス層との界面近傍で気泡の凝集や膨張が発生せず、よってルツボの変形を防止することができる。また気泡を含有しない結晶化層となるため、クラックが発生しにくい結晶化層を実現することができる。したがって、マルチ引き上げなど非常に長時間の単結晶引き上げ工程に耐えることができる。
また、本実施形態においては、前記高アルミニウム含有層14B中にアルミニウム濃度が高濃度な領域と低濃度な領域とが微視的に偏在しているので、アルミニウム濃度が高い領域では石英ガラスの結晶化を促進させることができ、またアルミニウム濃度が低い領域では石英ガラスの粘度を高めて高アルミニウム含有層14Bが結晶化するまでの間のルツボの変形を防止することができる。また、結晶化が早く進むことで単結晶引き上げ時に結晶核を生成するための温度に一定時間保持を行わなくても引き上げの初期からルツボの強度を確保することができ、結晶化がさらに進行することでルツボの強度をさらに高めることができる。
さらに、本実施形態においては、アルミニウム添加石英粉を用いて石英ガラスルツボを回転モールド法により製造する際に、アルミニウム添加石英粉に付着するカーボン、硫黄その他の製造工程由来の不純物成分を予め除去し、これにより石英ガラスルツボの高アルミニウム含有層14B中のカーボン及び硫黄それぞれの平均濃度を5ppm以下に抑えるので、潜在的な気泡の原因を予め除去することができる。したがって、ルツボの外面が結晶化したときに結晶化層とガラス層との界面近傍で気泡が凝集・膨張することによって発泡剥離が生じ、これによりルツボが変形する確率をさらに低減することができる。
また、本実施形態による石英ガラスルツボ1の製造方法は、回転するモールドの内面に堆積させたアルミニウム添加石英粉を溶融する際に減圧を強めて高アルミニウム含有層14Bよりも厚い外側透明層12Bを形成するので、実質的に気泡を含まない高アルミニウム含有層14Bを含む外側透明層12Bを確実且つ容易に形成することができる。したがって、結晶化層とガラス層との界面近傍での発泡剥離による変形が生じにくい石英ガラスルツボを製造することができる。
また、本実施形態においては、高アルミニウム含有層14Bを形成するために使用するアルミニウム添加石英粉の平均粒径が300〜400μmであり、アルミニウム添加石英粉の各粒の極表面のアルミニウム濃度は60ppm以上であり、各粒の中央部のアルミニウム濃度は25ppm未満であるので、高アルミニウム含有層14B中にアルミニウム濃度が高い高濃度領域とアルミニウム濃度が低い低濃度領域とを偏在させることができる。したがって、高アルミニウム含有層14Bの結晶化促進効果と石英ガラスの粘度の向上によるルツボの変形の抑制効果を高めることができる。
さらに、本実施形態においては、アルミニウム添加石英粉をモールド内に充填する前にアルミニウム添加石英粉に付着するカーボン、硫黄その他の製造工程由来の不純物成分を除去するので、アルミニウム添加石英粉に付着するカーボンなどの気泡の発生原因となる成分を予め除去することができる。したがって、単結晶の引き上げ工程中に高アルミニウム含有層14Bが結晶化する際に気泡が発生する確率をさらに低減することができる。したがって、気泡が凝集・膨張することによって結晶化層とガラス層との界面近傍で発泡剥離が生じ、これによりルツボが変形する確率をさらに低減することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
例えば、上記実施形態においては、微視的に不均一なアルミニウム濃度分布を有する高アルミニウム含有層14Bが気泡を含まない外側透明層12B内に設けられている場合を例に挙げたが、不透明層11及び内側透明層12Aからなる従来の二層構造のルツボにおいて、高アルミニウム含有層14Bを不透明層11内に形成してもよい。すなわち、微視的に不均一なアルミニウム濃度分布を有する高アルミニウム含有層14Bが多数の気泡を含む石英ガラスからなるものであってもよい。
また、上記実施形態においては、気泡を含まない高アルミニウム含有層14Bを有する石英ガラスルツボの製造方法において、アルミニウム添加石英粉に付着するカーボン、硫黄その他の製造工程由来の不純物成分を除去する工程を導入する場合について説明したが、本発明はこのような場合に限定されず、気泡を含む高アルミニウム含有層14Bを有する石英ガラスルツボの製造方法において、アルミニウム添加石英粉に付着するカーボン等の不純物成分を除去する工程を導入するものであってもよい。
石英ガラスルツボを回転モールド法により製造し、その発泡試験を行って発泡剥離の有無を評価した。石英ガラスルツボの原料石英粉としては、天然石英粉及びアルミニウム添加石英粉を用意した。天然石英粉の平均粒径は約400μmであり、フッ酸に溶かした状態でのアルミニウム平均濃度は20ppmであった。
アルミニウム添加石英粉は、この天然石英粉にアルミニウム添加処理を行うことにより生成した。アルミニウム添加処理では、天然石英粉にジエチルアルミニウムクロライドを非酸素雰囲気下で混ぜ合わせた後、600℃の非酸素雰囲気下で5時間保持し、アルミニウムを天然石英粉に定着させた。このアルミニウム添加石英粉をフッ酸に溶かした状態でのアルミニウム平均濃度は100ppmであった。
次に、アルミニウム添加石英粉から取り出した一粒のアルミニウム含有石英粒の体積内のアルミニウム濃度分布をレーザ照射方法により測定した。図7(a)に示すように、レーザスポット径は30μmとし、アルミニウム含有石英粒の極表面から内部に向かって10μmの間隔を空けて7つのスポットを測定した。その結果、図7(b)に示すように、当該石英粒の極表面のアルミニウム濃度は378ppmであったが、石英粒の内部のアルミニウム濃度は13〜16ppmであった。すなわち、石英粒の極表面にアルミニウムが高濃度に偏在していることが明らかとなった。
次に、上記天然石英粉及びアルミニウム添加石英粉を用いて3種類の石英ガラスルツボのサンプル#1、#2、#3を回転モールド法により製造した。いずれの石英ガラスルツボも不透明層11と内側透明層12Aからなる従来の二層構造のルツボとし、ルツボの外面近傍の減圧溶融(図5のステップS17)は行わなかった。
石英ガラスルツボのサンプル#1は、ルツボの外側に高アルミニウム含有層14Bが設けられていない石英ガラスルツボであり、サンプル#2、#3は、高アルミニウム含有層14Bを設けた石英ガラスルツボである。特に、サンプル#2は脱ガス処理を行わなかったアルミニウム添加石英粉を用いて高アルミニウム含有層14Bを形成したものであり、サンプル#3は脱ガス処理を行ったアルミニウム添加石英粉を用いて高アルミニウム含有層14Bを形成したものである。
次に、アルミニウム添加石英粉を用いて製造された石英ガラスルツボのサンプル#2の高アルミニウム含有層のアルミニウム濃度の面内分布をTOF−SIMS(Time-Of-Flight Secondary Mass Spectrometry:飛行時間型二次イオン質量分析法)により測定した。
図8は、高アルミニウム含有層14B中のアルミニウムイオン濃度分布を示すTOF−SIMSイオン像マップであり、任意の3ヶ所の測定結果を示している。同図に示すように、上述のアルミニウム添加石英粉を用いて形成された高アルミニウム含有層14B中には、1mmの範囲内にアルミニウム濃度が高い領域(アルミニウム線状濃化部)と前記アルミニウム濃度が低い領域(アルミニウム非濃化部)とが混在していることがTOF−SIMSイオン像マップ上で確認された。そしていずれの測定結果も、アルミニウム濃度が高い領域におけるアルミニウム濃度は60ppm以上であり、アルミニウム濃度が低い領域におけるアルミニウム濃度は25ppm未満であった。
次に、各石英ガラスルツボのサンプル#1〜#3のルツボ壁中のカーボン濃度及び気泡含有率を評価した。カーボン濃度はLECO分析により行った。また気泡含有率(%)は、アルキメデス法により測定した。
図9は、石英ガラスルツボのサンプル#1〜#3のカーボン濃度、硫黄濃度及び気泡含有率の測定結果を示す表である。
図9に示すように、アルミニウム添加石英粉を用いず天然石英粉のみで形成された石英ガラスルツボのサンプル#1の天然石英ガラス層(天然層)中のカーボン濃度は4.2ppmとなり、硫黄濃度は4.7ppmとなった。また天然石英ガラス層中の気泡含有率は2.5%となった。なお高アルミニウム含有層14Bは設けられていないので、高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度、硫黄濃度及び気泡含有率の測定値はない。
脱ガス処理なしのアルミニウム添加石英粉を用いて形成された石英ガラスルツボのサンプル#2の天然石英ガラス層(天然層)中のカーボン濃度は4.2ppmとなり、硫黄濃度は4.7ppmとなり、気泡含有率は2.5%となり、サンプル#1の測定値と変わらなかった。一方、高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度は6.8ppmとなり、硫黄濃度は8.2ppmとなり、気泡含有率は2.7%となった。すなわち、高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度、硫黄濃度及び気泡含有率は天然石英ガラス層よりも高くなった。高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度及び硫黄濃度が天然石英ガラス層よりも高くなる理由は、アルミニウム添加石英粉に付着する製造工程由来のカーボン成分や硫黄成分が原因であると考えられる。また、高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率が天然石英ガラス層よりも高くなる理由は、高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度や硫黄濃度が高いことが原因であると考えられる。
脱ガス処理ありのアルミニウム添加石英粉を用いて形成された石英ガラスルツボのサンプル#3の天然石英ガラス層(天然層)中のカーボン濃度は4.2ppmとなり、硫黄濃度は4.7ppmとなり、気泡含有率は2.0ppmとなり、サンプル#1及び#2の測定値と変わらなかった。一方、高アルミニウム含有層14Bのカーボン濃度は4.9ppmとなり、硫黄濃度は3.2ppmとなり、気泡含有率は2.1%となった。すなわち、アルミニウム添加石英粉の脱ガス処理によって高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度、硫黄濃度及び気泡含有率が低下することが分かった。
次に、上述したアルミニウム平均濃度が100ppmのアルミニウム添加石英粉のほか、アルミニウム平均濃度が20ppm及び30ppmのアルミニウム添加石英粉をそれぞれ用意し、これらの原料石英粉を用いて高アルミニウム含有層14Bを有する石英ガラスルツボを製造した。石英ガラスルツボの製造では、アルミニウム濃度が100ppm、30ppm、20ppmそれぞれのアルミニウム添加石英粉につき、脱ガス処理の有無及び外側透明層12Bの有無をパラメータとする種々な石英ガラスルツボを製造した。すなわち、(1)脱ガス処理なし且つ外側透明層12Bなし、(2)脱ガス処理あり且つ外側透明層12Bなし、(3)脱ガス処理なし且つ外側透明層12Bあり、(4)脱ガス処理あり且つ外側透明層12Bあり、の4通りの組み合わせについてそれぞれ評価した。
次に、これらの石英ガラスルツボに対して発泡試験(加熱試験)を行って、発泡剥離の発生の有無を評価した。発泡試験は、温度1580℃、圧力20torrの加熱試験炉内でルツボを50時間保持した後、1680℃まで昇温してさらに5時間保持した。
図10は、石英ガラスルツボの加熱試験の結果を示す表である。
図10に示すように、アルミニウム平均濃度が100ppmの高アルミニウム含有層14Bを有する比較例1、2及び実施例1の石英ガラスルツボの結晶化速度は約48μm/hであった。このうち、アルミニウム添加石英粉を前処理しなかった比較例1のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は2.7%であり、このルツボでは発泡試験後に発泡剥離が発生した。アルミニウム添加石英粉を前処理した比較例2のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は2.2%に低下したが、発泡剥離が発生した。アルミニウム添加石英粉を前処理しなかった場合でも、最外層を減圧溶融して外側透明層12Bを形成した実施例1のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は1.0%まで低下し、発泡試験後に発泡剥離は発生しなかった。
アルミニウム平均濃度が30ppmの高アルミニウム含有層14Bを有する比較例3、4及び実施例2、3の石英ガラスルツボの結晶化速度は約20μm/hであった。このうち、アルミニウム添加石英粉を前処理しなかった比較例3のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は2.5%であり、このルツボでは発泡試験後に発泡剥離が発生した。アルミニウム添加石英粉を前処理した比較例4のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は2.0%に低下したが、後述する実施例4と比べて結晶化速度が速かったため発泡剥離が発生した。アルミニウム添加石英粉を前処理しなかった場合でも、最外層を減圧溶融して外側透明層12Bを形成した実施例2のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は0.6%まで低下し、発泡剥離は発生しなかった。さらに、アルミニウム添加石英粉を前処理し且つ最外層を減圧溶融して外側透明層12Bを形成した実施例3のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は0.4%まで低下し、発泡試験後に発泡剥離は発生しなかった。
アルミニウム平均濃度が20ppmの高アルミニウム含有層14Bを有する比較例5及び実施例4、5の石英ガラスルツボの結晶化速度は約12μm/hであり、アルミニウム添加石英粉を前処理しなかった比較例5のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は2.4%であり、このルツボでは発泡試験後に発泡剥離が発生した。アルミニウム添加石英粉を前処理した実施例4のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は2.0%に低下し、発泡試験後に発泡剥離は発生しなかった。アルミニウム添加石英粉を前処理しなかった場合でも、最外層を減圧溶融して外側透明層12Bを形成した実施例5のルツボの高アルミニウム含有層14B中の気泡含有率は0.5%まで低下し、発泡試験後に発泡剥離は発生しなかった。
1 石英ガラスルツボ
1a 直胴部
1b 底部
1c コーナー部
10a ルツボの内面
10b ルツボの外面
11 不透明層
12A 内側透明層
12B 外側透明層
14A 低アルミニウム含有層
14B 高アルミニウム含有層
15 結晶化層
15S 結晶化層と石英ガラス層との界面
16 原料石英粉(原料石英粉の堆積層)
16A 天然石英粉
16B アルミニウム添加石英粉
20 モールド
20a モールドの内面
22 通気孔
31 石英粉
32 アーク雰囲気ガス
33 気泡
34 石英ガラス
図3(e)に示すように、外側透明層12Bはルツボの外面10b側から内面10a側に向かって結晶化が進むが、気泡を含まない石英ガラスが結晶化しても気泡やガス成分は排出されないので、未溶融の石英ガラス層(不透明層11)のほうにガス成分が溶け込むことはない。
このように、アルミニウムをわずかに添加する程度であれば添加していないものに比べて粘度を高くすることができるが、アルミニウム濃度を高くすればするほど石英ガラスの粘度が高くなるわけではなく、むしろ粘度が低くなる傾向がある。
アルミニウム添加石英粉は、平均粒径が100〜400μmの通常の天然石英粉に、例えば、アルミニウムアルコキシドや硫化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を混ぜ合わせた後、1000〜1200℃の非酸素雰囲気下で5時間以上の熱処理(第1の熱処理工程)を施すことによって生成することができる。アーク溶融時の10〜15分という短時間ではアルミニウムが拡散することはないが、アルミニウム添加石英粉を生成するための数時間から数十時間という加熱時間ではアルミニウムが拡散するので、アルミニウムを石英粉の表層部に浸透させることができる。ただし加熱時間が長すぎるとアルミニウムが石英粉の内部まで浸透しすぎてアルミニウムが極表面に濃縮した分布にならないので、加熱時間は2〜20時間が適切であり、5〜10時間が特に好ましい。非酸素雰囲気下で熱処理する理由は、アルミニウム化合物の酸化を防止するためであり、酸素雰囲気下で熱処理するとアルミニウム化合物がアルミナに変化し、アルミナと石英とではほとんど反応しなくなり、アルミニウムを石英粉に浸透させることができないからである。
脱ガス処理ありのアルミニウム添加石英粉を用いて形成された石英ガラスルツボのサンプル#3の天然石英ガラス層(天然層)中のカーボン濃度は4.2ppmとなり、硫黄濃度は4.7ppmとなり、気泡含有率は2.5%となり、サンプル#1及び#2の測定値と変わらなかった。一方、高アルミニウム含有層14Bのカーボン濃度は4.9ppmとなり、硫黄濃度は3.2ppmとなり、気泡含有率は2.1%となった。すなわち、アルミニウム添加石英粉の脱ガス処理によって高アルミニウム含有層14B中のカーボン濃度、硫黄濃度及び気泡含有率が低下することが分かった。

Claims (20)

  1. シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボであって、
    アルミニウム平均濃度が相対的に高い石英ガラスからなり、前記石英ガラスルツボの外面を構成するように設けられた高アルミニウム含有層と、
    前記高アルミニウム含有層よりもアルミニウム平均濃度が低い石英ガラスからなり、前記高アルミニウム含有層の内側に設けられた低アルミニウム含有層とを備え、
    前記低アルミニウム含有層は、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層を含み、
    前記高アルミニウム含有層は、前記不透明層よりも気泡含有率が低減された透明又は半透明の石英ガラスからなることを特徴とする石英ガラスルツボ。
  2. 前記不透明層の内側であって前記石英ガラスルツボの内面を構成するように設けられた実質的に気泡を含まない内側透明層と、
    前記不透明層の外側であって前記石英ガラスルツボの前記外面を構成するように設けられた実質的に気泡を含まない外側透明層とを備え、
    前記高アルミニウム含有層の厚さは前記外側透明層よりも薄い、請求項1に記載の石英ガラスルツボ。
  3. 円筒状の直胴部と、湾曲した底部と、前記直胴部と前記底部とを繋ぐコーナー部とを有し、
    少なくとも前記直胴部に前記高アルミニウム含有層が設けられている、請求項1又は2に記載の石英ガラスルツボ。
  4. 前記高アルミニウム含有層中のアルミニウム平均濃度が20ppm以上であり、
    前記低アルミニウム含有層中のアルミニウム平均濃度が20ppm未満である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
  5. 前記外側透明層中の気泡含有率が2.1%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
  6. 前記高アルミニウム含有層中のアルミニウム濃度分布が微視的に偏在している、請求項1乃至5のいずれかに記載の石英ガラスルツボ。
  7. 前記高アルミニウム含有層中の1mmの領域内にアルミニウム濃度が高い部分が網目状に存在している、請求項6に記載の石英ガラスルツボ。
  8. アルミニウム濃度が60ppm以上である高濃度領域とアルミニウム濃度が25ppm未満である低濃度領域とが1mmの範囲内に混在している、請求項7に記載の石英ガラスルツボ。
  9. 前記高濃度領域と前記低濃度領域との境界付近でのアルミニウム濃度勾配が1ppm/μm以上100ppm/μm以下である、請求項8に記載の石英ガラスルツボ。
  10. 前記高アルミニウム含有層中のカーボン及び硫黄それぞれの平均濃度が5ppm以下である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
  11. 前記高アルミニウム含有層中の気泡含有率が0.5%未満である、請求項10に記載の石英ガラスルツボ。
  12. 回転モールド法による石英ガラスルツボの製造方法であって、
    回転するモールドの内面にアルミニウム添加石英粉及び天然石英粉を順に堆積させて原料石英粉の堆積層を形成する工程と、
    前記原料石英粉の堆積層を前記モールドの内側からアーク溶融する工程とを備え、
    前記原料石英粉の堆積層をアーク溶融する工程は、
    前記アーク溶融の開始時に前記モールドの内面に設けられた多数の通気孔からの減圧を強めて、実質的に気泡を含まない石英ガラスからなる内側透明層を形成する工程と、
    前記内側透明層の形成後に前記減圧を弱めて、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層を形成する工程と、
    前記不透明層の形成後に前記減圧を再び強めて、実質的に気泡を含まない石英ガラスからなる外側透明層を形成する工程とを含み、
    前記外側透明層を形成する工程では、前記アルミニウム添加石英粉を溶融して高アルミニウム含有層を形成すると共に、前記外側透明層の厚さが前記高アルミニウム含有層よりも厚くなるように、前記外側透明層を形成するために前記減圧を再び強めるタイミングを制御することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
  13. 前記高アルミニウム含有層の厚さが200μm以上である、請求項12に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
  14. 前記アルミニウム添加石英粉の平均粒径が100〜400μmであり、
    前記アルミニウム添加石英粉の極表面のアルミニウム濃度が60ppm以上であり、
    前記アルミニウム添加石英粉の中央部のアルミニウム濃度が25ppm未満である、請求項12又は13に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
  15. 前記アルミニウム添加石英粉を前記モールド内に充填する前に、前記アルミニウム添加石英粉を用意する工程をさらに含み、
    前記アルミニウム添加石英粉を用意する工程は、
    天然石英粉とアルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、脱水及び乾燥させてアルミニウムを前記天然石英粉に定着させる定着工程と、
    前記アルミニウムが定着した天然石英粉を1000℃以上1200℃以下の焼結しない温度で加熱して前記アルミニウムを前記天然石英粉の表層部に浸透させる第1の熱処理工程とを含む、請求項14に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
  16. 前記第1の熱処理工程における加熱時間が2時間以上20時間以下である、請求項15に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
  17. 既存の石英ガラスルツボの高アルミニウム含有層中のアルミニウム濃度分布を二次イオン質量分析法により測定し、前記アルミニウム濃度分布の測定結果に基づいて、次の石英ガラスルツボの製造に使用する前記アルミニウム化合物を含む溶液の濃度又は前記アルミニウム添加石英粉の熱処理時間若しくは熱処理温度を調整する、請求項15又は16に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
  18. 前記アルミニウム添加石英粉を前記モールド内に充填する前に、前記アルミニウム添加石英粉に付着するカーボン、硫黄その他の製造工程由来の不純物成分を除去する工程をさらに含む、請求項12乃至17のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
  19. 前記不純物成分を除去する工程は、
    前記アルミニウム添加石英粉を1000℃以上1200℃以下の常圧の大気雰囲気のチャンバー内で加熱する第2の熱処理工程と、
    前記チャンバー内を真空引きし、前記アルミニウム添加石英粉を真空中で一定時間保持する第1の保持工程と、
    前記チャンバー内を常圧のヘリウム雰囲気に変更し、前記アルミニウム添加石英粉を常圧のヘリウム雰囲気下で一定時間保持する第2の保持工程とを含む、請求項18に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
  20. 前記第2の熱処理工程における加熱時間が2時間以上20時間以下である、請求項19に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
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