本発明の態様に係る基板処理装置および基板処理方法について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。なお、本発明の態様は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、多様な変更または改良を加えたものも含まれる。つまり、以下に記載した構成要素には、実質的に同一のもの、または、当業者が容易に想定できるものが含まれ、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
[第1の実施の形態]
図1は、ロール・ツー・ロール方式の基板処理装置の全体的な構成を示し、図1の処理装置による処理は、チャンバーCBで囲まれた露光装置EX内で、電子デバイス用のパターンをシート基板Pの表面のレジスト層や感光性シランカップリング層等の感光層に露光することである。図1において、直交座標系XYZのXY面は処理装置が設置される工場の水平な床面と平行であり、Z軸方向は床面に対して垂直な重力方向とする。
感光層が塗布されてプリベイクされたシート基板Pは、供給ロールFRに巻かれた状態で、ロール保持部(第1のロール保持部)EPC1から−Y方向に突出した回転軸に装着される。ロール保持部EPC1は、巻出し/巻取り部10の−X側の側面に設けられ、全体として±Y方向に微動できるように構成される。供給ロールFRから引き出されたシート基板Pは、巻出し/巻取り部10に取付けられたエッジセンサーEps1、Y軸と平行な回転軸を有する複数のローラ、及びテンション付与とテンション計測を行うテンションローラRT1を介して、+X方向に隣り合ったクリーナー部11に取付けられたクリーニングローラCUR1に送られる。クリーニングローラCUR1は、外周面が粘着性を持つように加工されて、シート基板Pの表面と裏面との各々と接触して回転することで、シート基板Pの表裏面に付着した微粒子や異物を除去する2本のローラで構成される。
クリーナー部11を通ったシート基板Pは、張力調整部12のXZ面から−Y方向に突出して設けられるニップローラNR1と、テンションローラRT2とを介して、露光装置EXのチャンバーCBの側壁にY方向にスロット状に延びて形成された開口部CP1を通って、露光装置EX内に搬入される。シート基板Pの感光層が形成された面は、開口部CP1を通る際に上側(+Z方向)になっている。露光装置EX内で露光処理されたシート基板Pは、開口部CP1の−Z側であって、チャンバーCBの側壁にY方向にスロット状に延びて形成された開口部CP2を通って搬出される。その際、シート基板Pの感光層が形成された面は下側(−Z方向)になっている。開口部CP2を通って搬出されるシート基板Pは、張力調整部12のXZ面から−Y方向に突出して設けられるテンションローラRT3とニップローラNR2とを介して、−X方向に隣り合ったクリーナー部11のクリーニングローラCUR2に送られる。クリーニングローラCUR2は、クリーニングローラCUR1と同様に構成される。
クリーナー部11を通ったシート基板Pは、巻出し/巻取り部10のXZ面と平行な側面の下段部に取付けられたテンションローラRT4、エッジセンサーEps2、Y軸と平行な回転軸を有する複数のローラを介して、回収ロールRRで巻き取られる。回収ロールRRは、巻出し/巻取り部10の−X側の側面の下部に設けられ、全体として±Y方向に微動できるように構成されるロール保持部(第2のロール保持部)EPC2の回転軸に装着される。回収ロールRRは、シート基板Pの感光層が外周面側に向くようにシート基板Pを巻き上げる。以上のように、ロール保持部EPC1、EPC2の各回転軸と、巻出し/巻取り部10、クリーナー部11、張力調整部12の各々に設けられる各種のローラとは、いずれも回転中心軸がY軸と平行に設定され、シート基板Pは、その表面が常にY軸と平行な状態で長尺方向に搬送される。
ロール保持部EPC1は、供給ロールFRに所定の回転トルクを与えるモータやギアボックス(減速器)を備えており、そのモータは、テンションローラRT1で計測されるテンション量に基づいて搬送機構の制御ユニットによってサーボ制御される。同様にロール保持部EPC2は、回収ロールRRに所定の回転トルクを与えるモータやギアボックス(減速器)を備えており、そのモータはテンションローラRT4で計測されるテンション量に基づいて搬送機構の制御ユニットによってサーボ制御される。さらに、シート基板Pの一方の端部(エッジ部)のY方向の変位を計測するエッジセンサーEps1からの計測情報は、ロール保持部EPC1(及び供給ロールFR)を±Y方向に移動させるサーボモータの駆動制御部に送られ、エッジセンサーEps1を通って露光装置EXに向かうシート基板PのY方向の位置ずれを常に所定の許容範囲内に抑える。同様に、シート基板Pの一方の端部(エッジ部)のY方向の変位を計測するエッジセンサーEps2からの計測情報は、ロール保持部EPC2(及び回収ロールRR)を±Y方向に移動させるサーボモータの駆動制御部に送られ、エッジセンサーEps2を通るシート基板PのY方向の位置ずれに応じて回収ロールRRをY方向に移動させることで、シート基板Pの巻きムラを抑えている。
図1に示した搬送機構を構成する巻出し/巻取り部10、クリーナー部11、張力調整部12の各々の−Y方向側には、X方向に延びて工場床面に設置される段部13が設けられる。この段部13は、その上に操作者が上がって調整作業や保守作業を行えるように、Y方向に数十cmの幅を持たせてある。また、段部13の内部には、各種の電気配線、空調気体用の配管、冷却液体用の配管等が敷設される。段部13の+Y方向側には、電源ユニット14、露光用のビームを発生するレーザ光源を制御するレーザ制御ユニット15、レーザ光源や変調器等の発熱部を冷却する為に、冷却液を循環させる為のチラーユニット16、露光装置EXのチャンバーCB内に温調された気体を供給する空調ユニット17等が配置される。
以上の構成において、張力調整部12に取付けられたニップローラNR1とテンションローラRT2によって、露光装置EXの上流側のシート基板Pには、長尺方向(搬送方向)にほぼ一定のテンションが付与される。テンションローラRT2は、テンション計測部(センサー)を備え、計測したテンション量が指令された値になるように、サーボモータによって図1中で±Z方向に移動可能となっている。ニップローラNR1は、2本の平行なローラを一定の押圧力で対峙させ、その間でシート基板Pを挟持しつつ、一方のローラをサーボモータで回転駆動させることで、ニップローラNR1の上流側と下流側とでシート基板Pに付与されるテンションを分断することができる。ニップローラNR1の一方のローラのサーボモータによる回転駆動により、シート基板Pの搬送速度をアクティブに制御することができ、例えば、ニップローラNR1のサーボモータの回転を停止状態(速度ゼロ)にサーボロックすると、シート基板PをニップローラNR1の位置(特定位置)に係止(係留)することができる。
同様に、張力調整部12に取付けられたニップローラNR2とテンションローラRT3によって、露光装置EXの下流側のシート基板Pには、長尺方向(搬送方向)にほぼ一定のテンションが付与される。テンションローラRT3は、テンション計測部(センサー)を備え、計測したテンション量が指令された値になるように、サーボモータによって図1中で±Z方向に移動可能となっている。ニップローラNR2は、ニップローラNR1と同様にサーボモータによってアクティブに回転制御されるため、ニップローラNR2の上流側と下流側とでシート基板Pに付与されるテンションを分断することができる。ニップローラNR2のサーボモータの回転を停止状態(速度ゼロ)にサーボロックすることで、シート基板PはニップローラNR2の位置(特定位置)に係止(係留)されることになる。
さらに本実施の形態では、供給ロールFRを回転駆動するサーボモータと、ニップローラNR1を回転駆動するサーボモータとを、テンションローラRT1で計測されるテンション量に応じて同期制御することで、供給ロールFRからニップローラNR1までの搬送経路において、シート基板Pに所定のテンションを与えることができる。同様に、回収ロールRRを回転駆動するサーボモータと、ニップローラNR2を回転駆動するサーボモータとを、テンションローラRT4で計測されるテンション量に応じて同期制御することで、ニップローラNR2から回収ロールRRからまでの搬送経路において、シート基板Pに所定のテンションを与えることができる。
ところで、本実施の形態で扱うシート基板Pは、例えば、樹脂フィルム(プラスチック)、ステンレス鋼等の金属または合金からなる箔(フォイル)等が用いられる。樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂のうち1または2以上を含んだものを用いてもよい。また、シート基板Pの厚みや剛性(ヤング率)は、搬送される際に、シート基板Pに座屈による折れ目や非可逆的なシワが生じないような範囲であればよい。電子デバイスとして、フレキシブルなディスプレイパネル、タッチパネル、カラーフィルター、電磁波防止フィルタ、使い捨てのセンサーシート等を作る場合、厚みが25μm〜200μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂製シートが使われる。
また、シート基板Pは、PETやPEN等の樹脂製シートの一方の面、又は両面に、金属系の物質、有機系の物質、酸化物等による膜構造を積層したものであっても良い。特に、電子デバイスの製造の際には、電子部品を実装(ハンダ付け)したり、トランジスタ、コンデンサ、センサー等の電極層を形成したりする為に、銅やアルミニウム等の金属系の物質による導電膜(層)、が所定の厚み(例えば、1μm〜数十μm)で樹脂製シートに積層されたものが用いられるが、シート基板Pは、そのような導電層を積層したものでも良い。さらにシート基板Pは、薄膜トランジスタやコンデンサ等の絶縁層や半導体層をシート基板P上に形成する為に、樹脂製シートに絶縁層となる有機系の物質や半導体層となる酸化物系の物質を積層したもの、或いは、異なる物質による複数の層(例えば、導電層と半導体層)を積層した多層構造を有するものでも良い。
シート基板Pは、例えば、シート基板Pに施される各種処理において受ける熱による変形量が実質的に無視できるように、熱膨張係数が顕著に大きくないものを選定することが望ましい。また、ベースとなる樹脂製シートに、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化ケイ素等の無機フィラーを混合すると、熱膨張係数を小さくすることもできる。また、シート基板Pは、フロート法等で製造された厚さ100μm以下の湾曲可能な極薄ガラスの単層体であってもよいし、この極薄ガラスに上記の樹脂フィルム、またはアルミや銅等の金属層(箔)等を貼り合わせた積層体であってもよい。
ところで、シート基板Pの可撓性とは、シート基板Pに自重程度の力を加えてもせん断したり破断したりすることはなく、そのシート基板Pを撓めることが可能な性質をいう。また、自重程度の力によって屈曲する性質も可撓性に含まれる。また、シート基板Pの材質、大きさ、厚さ、シート基板P上に成膜される層構造、温度、湿度等の環境等に応じて、可撓性の程度は変わる。いずれにしろ、本実施の形態による図1の基板処理装置(或いは露光装置EX)内の搬送路に設けられる各種の搬送用ローラ、回転ドラム等の搬送方向転換用の部材にシート基板Pを正しく巻き付けた場合に、座屈して折り目がついたり、破損(破れや割れが発生)したりせずに、シート基板Pを滑らかに搬送できれば、可撓性の範囲と言える。
図2は、図1に示した露光装置EXの構成を示す図であり、この露光装置EXは、レーザ光源LSa、LSbの各々からの露光用のビームを6つのビームLB1〜LB6に時分割で分配して、6つの描画ユニットU1〜U6の各々に供給し、描画ユニットU1〜U6の各々でビームを回転ポリゴンミラー(ポリゴンミラー)によってシート基板P上で走査する直描型のパターン描画装置である。このようなパターン描画装置は、例えば、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されているので、レーザ光源LSa、LSbから各描画ユニットU1〜U6までの構成についての詳細説明は省略する。
本実施の形態では、張力調整部12のニップローラNR1を介して搬入されるシート基板Pが、ガイドローラR1、テンションローラRT5、回転ドラムDR、テンションローラRT6、ガイドローラR2、R3の順に掛け渡されてから、露光装置EXを搬出してニップローラNR2に達する。図1では、ニップローラNR1と露光装置EXとの間にテンションローラRT2が設けられているが、図2では省略してある。同様に、図1では、ニップローラNR2と露光装置EXとの間にテンションローラRT3が設けられているが、図2では省略してある。
回転ドラムDRは、Y軸と平行な中心線から一定半径の円筒状の外周面を有し、その外周面の+Z方向の約半周分でシート基板Pを密着支持する。回転ドラムDRは、シート基板Pにパターンを露光する際に、シート基板Pの表面を安定した面(円筒面)になるように支持する支持部材として機能すると共に、モータ等を含む回転駆動機構DV1による回転駆動により、シート基板Pの表面を長尺方向に制御された速度で精密に送る可動ステージ部材としても機能する。回転ドラムDRの回転角度位置や外周面の周方向の移動量は、エンコーダシステムのエンコーダヘッド(読取りヘッド)ECnによって検出される。エンコーダヘッドECnで計測される回転ドラムDRの回転角度位置(又は外周面の周方向の移動量)の情報は、描画ユニットU1〜U6によるパターン描画を統括的に制御する制御ユニット(詳しくは図5で後述)内のアライメント/ステージ制御部58に送られ、アライメント/ステージ制御部58は回転ドラムDRの回転を制御する駆動信号を回転駆動機構DV1に送る。
図3は、回転ドラムDRの外周面に沿って支持されるシート基板Pと、描画ユニットU1〜U6の各々からのビームLe1〜Le6の走査によって形成される描画ライン(走査線)SL1〜SLの配置と、各エンコーダヘッドEC1a、EC1b、EC2a、EC2bの配置を説明する図である。このような配置関係の説明は、前述の国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されているが、さらには国際公開第2013/146184号パンフレットにも開示されている。エンコーダヘッドEC1a、EC2aは、回転ドラムDRの−Y方向の端部側に延設されたシャフトSftの回転中心線AXoと同軸に取付けられたスケール円盤SDaの外周面のスケール部(格子状の目盛線)と対向するように配置され、エンコーダヘッドEC1b、EC2bは、回転ドラムDRの+Y方向の端部側に回転中心線AXoと同軸に取付けられたスケール円盤SDbの外周面のスケール部(格子状の目盛線)と対向するように配置される。スケール円盤SDa、SDbの外周面(スケール面)の半径は、回転ドラムDRの外周面の半径とほぼ一致させると良いが、数mm程度までなら差があっても良い。
図3に示すように、回転中心線AXoから見て、回転ドラムDRの周方向における奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5の方位と、スケール円盤SDa、SDbの周方向におけるエンコーダヘッドEC1a、EC1bの設置方位とは、計測時のアッベ誤差を小さくする為に、極力一致するように設定される。同様に、回転中心線AXoから見て、回転ドラムDRの周方向における偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6の方位と、スケール円盤SDa、SDbの周方向におけるエンコーダヘッドEC2a、EC2bの設置方位とは、計測時のアッベ誤差を小さくする為に極力一致するように設定される。奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5と偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6とは、回転ドラムDRの周方向に所定の角度分だけ離れており、6つの描画ラインSL1〜SL6の各々によって描画されるパターンは、描画ビームLB1〜LB6の各々の主走査方向であるシート基板P上のY方向(幅方向)に継ぎ合わされる。6つの描画ラインSL1〜SL6で囲まれる領域がパターン描画領域(描画領域)であり、その周方向の中間を中間位置Pocとする。なお、エンコーダヘッドECnの設置方位と対応する描画ラインSLnの方位とを極力一致させるとは、回転ドラムDRの外周面(又はスケール円盤SDのスケール面)上の周方向の距離として、例えば数mm以内、好ましくは1mm以内の差に設定することを意味する。
図2の説明に戻り、露光装置EXのレーザ光源LSa、LSbの各々のビーム射出口には、射出するビームを機械的に遮蔽する可動シャッター(シャッター)SHが設けられている。本実施の形態では、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々には、レーザ光源LSaからのビームが、ビームスイッチング用の光学変調部材OSMで3つのビームLB1、LB3、LB5に振分けられて使われ、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々には、レーザ光源LSbからのビームが、ビームスイッチング用の光学変調部材OSMで3つのビームLB2、LB4、LB6に振分けられて使われる。光学変調部材OSMとしては、音響光学変調(偏向)素子等が用いられるが、その機能や動作については、前述の国際公開第2015/166910号パンフレットに詳しく説明されている。レーザ光源LSa、LSbは、例えば発振周波数が数百MHzの紫外線パルスビーム(波長360nm以下)を発生するファイバーアンプレーザ光源(高調波変換レーザ光源)等で構成され、光学変調部材OSMと共に、露光装置EXのチャンバーCB内の最上段に配置された定盤BP1に取付けられる。レーザ光源LSa、LSbや光学変調部材OSM(及びそのドライバ回路等)は発熱源となるため、定盤BP1の内部には冷却用の流体(液体又は気体)を流す流路が形成されている。従って、定盤BP1は、発熱源からの熱によってチャンバーCB内の温度が上昇することを抑える放熱部材、或いは断熱部材として機能する。併せて、チャンバーCB内の最上段の空間内には温度と湿度が制御された清浄な空気、例えばHEPAフィルタの他にケミカルフィルタも用いて化学物質(有機物)等の粒子を除去した空気が所定の流量で流される。
光学変調部材OSMで振り分けられたビームLB1〜LB6の各々は、定盤BP1の下方に配置されたビーム光路調整機構BDUを介して、描画ユニットU1〜U6の各々に供給される。ビーム光路調整機構BDUは、ビームLB1〜LB6の各々が、対応する描画ユニットU1〜U6の各々に偏心誤差と傾き誤差とが許容範囲以下で正しく入射するようにビーム光路を微調整するもので、角度等を微調整可能な複数の反射ミラー、平行平板ガラス、プリズム等を含む。ビーム光路調整機構BDU内には、特に大きな熱源となる部材は設けられないが、ビームのゆらぎ等を抑える為に、ビーム光路調整機構BDUが収容されるチャンバーCBの中段の空間内にも、温度と湿度が制御された清浄な空気が所定の流量で流される。
回転ドラムDRの周囲で、シート基板Pの搬送方向に関して描画ユニットU1〜U6の上流側には、シート基板Pに形成されたアライメントマーク等を、顕微鏡対物レンズを介して2次元撮像素子(CMOS)で撮像して検出するアライメント系AMnが設けられている。アライメント系AMnで撮像されたアライメントマークの画像情報は、図5で後述するアライメント/ステージ制御部58に送られ、描画ユニットU1〜U6の各々がシート基板P上にパターン描画する際の位置合せに使われる。
以上の図2の構成において、ニップローラNR1を回転駆動するモータを含む駆動部DVaと、ニップローラNR2を回転駆動するモータを含む駆動部DVbは、搬送制御部TPCからの指令情報に基づいて、回転開始や停止の制御や回転速度の制御を行う。さらに、搬送制御部TPCは、テンションローラRT5、RT6に設けられたロードセル等からの各検出信号を入力して、テンションローラRT5と回転ドラムDRとの間でシート基板Pに付与されるテンション量と、回転ドラムDRとテンションローラRT6との間でシート基板Pに付与されるテンション量とを計測し、それらのテンション量が指定された値となるように、テンションローラRT5、RT6の各々のZ方向の位置を移動させたり、或いはZ方向への移動時のダンピング係数(粘性抵抗)を調整したりする。シート基板Pの搬送を一時的に停止させる場合は、搬送制御部TPCによって駆動制御されるニップローラNR1またはニップローラNR2を係留部材として機能させることができる。搬送制御部TPCは、図1に示した処理装置の全体のシーケンスやオペレーションを統括的に制御する主制御部50(図5で後述する)と接続される。
ところで、図1の処理装置のように、露光装置EXに対して同じ側(−X方向側)に供給ロールFRと回収ロールRRとを設けるのではなく、回収ロールRRが露光装置EXを挟んで供給ロールFRの反対側(+X方向側)に設置される場合は、図2に示すように、シート基板Pは回転ドラムDR、テンションローラRT7、ローラR4を介して、後続の張力調整部12’に送られる。張力調整部12’には、搬送制御部TPCからの指令情報を受ける駆動部DVcによって回転駆動されるニップローラNR2’が設けられている。ニップローラNR2’はニップローラNR2と同様に機能し、テンションローラRT7はテンションローラRT6と同様に搬送制御部TPCによってテンション計測されたり、テンション調整したりする機能を備える。ただし、ニップローラNR2’の後には次工程の処理装置が接続される場合がある。次工程の処理装置としては、例えば、露光後のシート基板Pのレジスト層を加熱するポストベーク装置、露光後のシート基板Pのレジスト層を現像/洗浄する現像装置、シート基板Pの感光層に形成された潜像に応じてメッキ核を析出させる無電解メッキ装置、シート基板Pの感光層に形成された潜像に応じてエッチングを行うエッチング装置、またはシート基板Pの感光層に形成された潜像の親撥液性に応じて選択的に機能性インク(金属、半導体、絶縁体等のナノ粒子を含有するインク)を塗布するプリント装置等がある。
さらに、本実施の形態では、露光装置EXによるシート基板Pへの露光処理を一時停止したときの位置や状態を表す情報パターン(バーコード等)を、シート基板Pの幅方向の周囲に刻印するレーザマーカー等のスタンプ装置STPが、シート基板Pの搬送経路中に設けられている。スタンプ装置STPは、露光処理を一時的に中断する直前又は直後であって、搬送中のシート基板Pに付与された所定のテンションを低減させる前に、情報パターンを刻印する。スタンプ装置STPは、アライメント系AMnによって検出可能な位置に、アライメントマークの形状と異なる特徴を持った指標パターンを刻印することもできる。その指標パターンは、シート基板Pに対する露光処理を再開する際の再スタート位置として利用できる。スタンプ装置STPも、主制御部50(図5で後述する)と接続され、一時停止のタイミングに合せて、指標パターンや情報パターンの刻印が制御される。なお、このようなスタンプ装置STPを用いると、例えば国際公開第2016/035842号パンフレットに開示されているように、複数の処理工程の各々でシート基板Pに施された処理の条件や状態を、シート基板P上に履歴として残すこともできる。
図4は、図2に示したアライメント系AMnの配置をXY面に展開して示した図であり、本実施の形態では、4つの顕微鏡対物レンズAM11〜AM14がY方向に所定の間隔で配置される。各顕微鏡対物レンズAM11〜AM14は、図4に示すように、シート基板Pに形成された複数のアライメントマーク(マーク)MKm(MK1〜MK4)を検出する。複数のアライメントマークMKm(MK1〜MK4)は、例えば、各々が200μm角の範囲内に形成される十字線状のマークであり、シート基板Pの被処理面上の露光領域Wに描画される所定のパターンと、シート基板Pとを相対的に位置合わせする(アライメントする)ための基準マークである。複数の顕微鏡対物レンズAM11〜AM14は、回転ドラムDRの外周面(円周面)で支持されているシート基板P上で、複数のアライメントマークMKm(MK1〜MK4)を検出する。複数の顕微鏡対物レンズAM11〜AM14は、各描画ユニットU1〜U6からのビームLBn(LB1〜LB6)のスポット光によるシート基板P上の被照射領域(描画ラインSL1〜SL6で囲まれた領域)よりも、シート基板Pの搬送方向の上流側(−X方向側)に設けられている。
アライメント系AMnは、各顕微鏡対物レンズAM11〜AM14を介して、アライメント用の照明光をシート基板Pに投射する光源と、シート基板Pの表面のアライメントマークMKmを含む局所領域(観察領域)Vw11〜Vw14の各々の拡大像を、シート基板Pが搬送方向に移動している間に高速シャッタスピードで撮像するCCD、CMOS等の2次元撮像素子とを有する。アライメント系AMnの2次元撮像素子によって撮像された画像情報(画像データ)は、アライメント/ステージ制御部58(図5を用いて後述する)によって画像解析され、シート基板P上のアライメントマークMKm(MK1〜MK4)の各位置(マーク位置情報)を検出する。なお、アライメント用の照明光は、シート基板P上の感光層に対してほとんど感度を持たない波長域の光、例えば、波長500〜800nm程度の光である。また、各観察領域Vw11〜Vw14のシート基板P上での大きさは、アライメントマークMK1〜MK4の大きさやアライメント精度(位置計測精度)に応じて設定されるが、100〜500μm角程度の大きさである。
複数のアライメントマーク(マーク)MK1〜MK4は、各露光領域Wの周りに設けられている。アライメントマークMK1、MK4は、露光領域Wのシート基板Pの幅方向(Y方向)の両側に、シート基板Pの長尺方向に沿って一定の間隔Dhで複数形成されている。アライメントマークMK1は、シート基板Pの幅方向の−Y方向側に、アライメントマークMK4は、シート基板Pの幅方向の+Y方向側にそれぞれ形成されている。このようなアライメントマークMK1、MK4は、シート基板Pが大きなテンションを受けたり、熱プロセスを受けたりして変形していない状態では、シート基板Pの長尺方向(X方向)に関して同一位置になるように配置される。さらに、アライメントマークMK2、MK3は、アライメントマークMK1とアライメントマークMK4の間であって、露光領域Wの+X方向側と−X方向側との余白部にシート基板Pの幅方向(短尺方向)に沿って形成されている。アライメントマークMK2、MK3は、露光領域Wと露光領域Wとの間に形成されている。なお、アライメントマークMK1、MK4の長尺方向の間隔Dhは、シート基板Pの材質、厚さ、剛性に応じて任意の値に設定できるが、テンションに対する変形率が大きいシート基板の場合は5mm程度にすると良い。また、アライメントマークMK1、MK4の長尺方向の間隔Dhは、シート基板Pの材質、厚さ、剛性(ヤング率)に関らず常に最も狭い一定値(例えば4mm)で形成しておき、シート基板Pの変形が大きい場合はシート基板Pが送られている間に間隔DhごとにアライメントマークMK1、MK4を検出し、シート基板Pの変形が小さい場合は1つ置き(間隔2Dh)、又は2つ置き(間隔3Dh)にアライメントマークMK1、MK4を間引き検出しても良い。
さらに、シート基板Pの−Y方向側の端部に配列されるアライメントマークMK1と余白部のアライメントマークMK2とのY方向の間隔、余白部のアライメントマークMK2とアライメントマークMK3のY方向の間隔、およびシート基板Pの+Y方向側の端部に配列されるアライメントマークMK4と余白部のアライメントマークMK3とのY方向の間隔は、いずれも同じ距離に設定されている。これらのアライメントマークMKm(MK1〜MK4)は、第1層のパターン層をシート基板P上に形成する際に一緒に形成されてもよい。例えば、第1層のパターンを露光する際に、パターンが露光される露光領域Wの周りにアライメントマーク用のパターンも一緒に露光してもよい。なお、アライメントマークMKmは、露光領域W内に形成されてもよい。例えば、露光領域W内であって、露光領域Wの輪郭に沿って形成されてもよい。また、露光領域W内に形成される電子デバイスのパターン中の特定位置のパターン部分、或いは特定形状の部分をアライメントマークMKmとして利用してもよい。
図5は、本実施の形態における基板処理装置(露光装置EX)を統括的に制御する装置の概略構成を示すブロック図である。主制御部(主コンピュータ)50には、図2に示した搬送制御部TPCとスタンプ装置STPが接続されると共に、描画制御部52が接続される。さらに、描画制御部52には、アライメント/ステージ制御部58が接続される。描画制御部52の下には、描画ユニット駆動部54、スイッチング素子駆動部56、及びレーザ光源LSa、LSbが接続される。スイッチング素子駆動部56は、光学変調部材OSMを構成する6つの音響光学偏向素子AOM1〜AOM6の各々を、6つの描画ユニットU1〜U6の各々の回転ポリゴンミラー(ポリゴンミラー)PMの回転角度位置に同期して、順次、高周波信号で駆動して、ビームLBn(LB1〜LB6)を対応する描画ユニットU1〜U6の各々に時分割で供給する。レーザ光源LSaからのビームLBaは、奇数番の描画ユニットU5、U3、U1の各々に対応した音響光学偏向素子AOM5、AOM3、AOM1の順に直列に通される。図5では、奇数番の描画ユニットU5、U3、U1のうちの描画ユニットU3に対応した音響光学偏向素子AOM3がオン状態(偏向状態)となって、他の音響光学偏向素子AOM1、AOM5がオフ状態(非偏向状態)となっている場合を示す。奇数番の音響光学偏向素子AOM5、AOM3、AOM1がいずれもオフ状態(非偏向状態)の場合で、レーザ光源LSaからビームLBa、又は強度が極めて低い漏れ光ビームが発生しているときは、ダンパー(光吸収体)DmpがビームLBaや漏れ光ビームを吸収する。
同様に、レーザ光源LSbからのビームLBbは、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々に対応した音響光学偏向素子AOM2、AOM4、AOM6の順に直列に通される。図5では、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6のうちの描画ユニットU4に対応した音響光学偏向素子AOM4がオン状態(偏向状態)となって、他の音響光学偏向素子AOM2、AOM6がオフ状態(非偏向状態)となっている場合を示す。偶数番の音響光学偏向素子AOM2、AOM4、AOM6がいずれもオフ状態(非偏向状態)の場合、レーザ光源LSbからビームLBbや漏れ光ビームが発生したときは、ダンパー(光吸収体)Dmpで吸収される。
描画ユニット駆動部54は、描画ユニットU1〜U6の各々の回転ポリゴンミラーPMを回転させるモータの回転速度を高精度に制御するポリゴン駆動回路を有する。また、描画ユニットU1〜U6の各々は、回転ポリゴンミラーPMの各反射面が描画用のビームLBnをシート基板P上の走査開始位置に投射する直前のタイミングで原点信号を発生する原点センサーを備えている。ポリゴン駆動回路は、描画ユニットU1〜U6の各々から発生する原点信号に基づいて、描画ユニットU1〜U6の各々の回転ポリゴンミラーPMの回転速度を精密に一致させると共に、回転ポリゴンミラーPMの回転角度位相が所定の状態になるように、回転ポリゴンミラーPMのモータを制御する。回転ポリゴンミラーPMの回転角度位相の設定とは、詳しくは国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されているが、例えば、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々の回転ポリゴンミラーPMの回転中に、描画用のビームLB1、LB3、LB5のうちのいずれか1つだけが、対応する描画ラインSL1、SL3、SL5上を走査するようなタイミングに設定されることを意味する。同様に、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々の回転ポリゴンミラーPMの回転中に、描画用のビームLB2、LB4、LB6のうちのいずれか1つだけが、対応する描画ラインSL2、SL4、SL6上を走査するようなタイミングに設定されることを意味する。
主制御部50と接続された描画制御部52は、描画ユニットU1〜U6の各々がシート基板P上に描画すべきパターン情報(例えば、描画領域を2次元の画素マップに細分化し、各画素に論理値「0」又は「1」を設定したビットマップデータ)を記憶する記憶部と、描画ユニット駆動部54を介して取得される描画ユニットU1〜U6の各々からの原点信号に応答して、パターン情報(ビットマップデータ)をビットシリアルな描画データに変換して、レーザ光源LSa、LSbの各々に送出するデータ送出部とを有する。レーザ光源LSa、LSbの各々をファイバーアンプレーザ光源とする場合、クロック信号のクロックパルスに応答して赤外波長域でパルス発光する種光をファイバー増幅器で増幅した後、波長変換素子によって紫外波長域(例えば355nm)のビームLBa、LBbに変換している。そこで、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されているように、ファイバー増幅器に入射する種光の状態を、レーザ光源LSa、LSbのクロック信号と同期してデータ送出部から出力されるビットシリアルな描画データ(論理値「0」、又は「1」)に応答して切り替えることで、描画データに応じて強度変調された描画用のビームLBn(LB1〜LB6)を得ることができる。
さらに描画制御部52は、描画ユニット駆動部54を介して得られる描画ユニットU1〜U6の各々からの原点信号に応答して、音響光学偏向素子AOM1〜AOM6の各々を駆動するスイッチング素子駆動部56に、奇数番の音響光学偏向素子AOM1、AOM3、AOM5のうちのいずれか1つを順番にオン状態にすると共に、偶数番の音響光学偏向素子AOM2、AOM4、AOM6のうちのいずれか1つを順番にオン状態にするような制御信号を出力する。図5の場合、例えばレーザ光源LSaからのビームLBaは、奇数番の音響光学偏向素子AOM3のみによって偏向されて、対応する描画ユニットU3に入射しているので、描画用のビームLB3が回転ポリゴンミラーPMで走査されて、描画ラインSL3に沿った1走査線分のパターン描画が行われている。その際、描画制御部52からレーザ光源LSaに送出される描画データは、描画ユニットU3で描画すべきパターン情報に基づいて生成されたものとなる。同様に、レーザ光源LSbからのビームLBbは、偶数番の音響光学偏向素子AOM4のみによって偏向されて、対応する描画ユニットU4に入射しているので、描画用のビームLB4が回転ポリゴンミラーPMで走査されて、描画ラインSL4に沿った1走査線分のパターン描画が行われている。その際、描画制御部52からレーザ光源LSbに送出される描画データは、描画ユニットU4で描画すべきパターン情報に基づいて生成されたものとなる。
このように、本実施の形態では、レーザ光源LSaから射出されるビームLBaは、描画ユニットU1、U3、U5のいずれか1つが描画すべきパターン情報の描画データに応答して強度変調を受けた状態で、対応する描画ユニットUnに入射している。同様に、レーザ光源LSbから射出されるビームLBbは、描画ユニットU2、U4、U6のいずれか1つが描画すべきパターン情報の描画データに応答して強度変調を受けた状態で、対応する描画ユニットUnに入射している。描画データ(ビットシリアル)は、例えばレーザ光源LSa、LSbからのクロック信号の1/2の周波数で送出されるように設定できる(1画素分を2パルス分のスポット光で描画できる)為、クロック信号を400MHz(ビームLBa、LBbのパルス発光の周波数と同じ)とした場合、描画データに基づくビームLBa、LBbの強度変調の周波数は最大で200MHzになる。この周波数は、音響光学変調(偏向)器(AOM)によるビームの強度変調(ビーム偏向)の最高応答周波数(概ね50MHz)よりも十分に高い。
アライメント/ステージ制御部58は、図2、図4で説明したアライメント系AMn(4つの顕微鏡対物レンズAM11〜AM14の各々に対応して設けられた2次元撮像素子を含む)からの画像情報に基づいて、シート基板P上のアライメントマークMKmの拡大像を画像解析して、各マークの位置や位置ずれ量を計測するマーク位置計測部を備える。さらにアライメント/ステージ制御部58は、回転ドラムDRの回転角度位置の変化を検出するエンコーダヘッドECnからの計測情報に基づいて、シート基板Pの搬送方向(回転ドラムDRの外周面に沿った周方向)における移動量を計測するカウンタ回路部を備える。アライメント/ステージ制御部58は、シート基板Pの移動速度が目標速度と一致するように、エンコーダヘッドECnからの計測情報又はカウンタ回路部による計測値に基づいて回転駆動機構DV1(図2参照)を制御する。また、アライメント/ステージ制御部58は、カウンタ回路部による計測値とマーク位置計測部で計測されたアライメントマークMKmの位置情報とに基づいて、シート基板P上の露光領域WのX方向の描画開始位置や描画終了位置を特定し、その描画開始位置や描画終了位置の情報(タイミング)を描画制御部52に送る。
以上、図1〜図5で説明した本実施の形態による処理装置の構成によって、供給ロールFRから巻き出されて露光装置EXに搬入されたシート基板Pには、図4で示した露光領域Wの各々に電子デバイス用のパターンが次々に描画(露光)され、露光装置EXから搬出されたシート基板Pは回収ロールRRで巻き取られる。供給ロールFRから回収ロールRRまでのシート基板Pの全体の搬送機構(図1、図2参照)によるシート基板Pの搬送誤差と、露光装置EX内の各描画ユニットUnでの回転ポリゴンミラーPMの駆動誤差、描画ラインSL1〜SL6の相対的な位置誤差と傾き誤差、描画倍率誤差、継ぎ誤差等とが、許容範囲内であれば、シート基板Pを一定速度で搬送し続けて、電子デバイス用のパターンをシート基板P上に繰り返し露光し続けることができる。
しかしながら、露光装置EXを長時間に渡って稼動し続けると、多かれ少なかれ経時的な変動が生じ得る。特に、本実施の形態による露光装置EXのように、ビームのスポット光を走査する直描方式のパターン描画装置の場合、ビームの強度変動、描画ユニットUnに入射するビームの位置や入射角度の変動等は、シート基板P上に描画されるパターンの品質を著しく損なうおそれがある。また、長時間の稼動によって、露光装置EX内の各部の温度が上昇し、特にビーム光路中の光学部品を保持する金物や筐体に熱変形が生じた場合、レーザ光源LSa、LSbからシート基板Pに至る光路を通るビームの径が小さい為に、シート基板P上に投射されるスポット光(例えば、直径3μm)の位置が数ミクロンオーダーで変動してしまうこともある。さらに、金物や筐体の熱変形によって、図4で示したアライメント系AMnの各観察領域Vw11〜Vw14と描画ユニットUnによる各描画ラインSL1〜SL6とのX方向(シート基板Pの長尺方向)の間隔、いわゆるベースライン長が変動する場合もある。
そこで、本実施の形態の基板処理装置(露光装置EX)では、シート基板Pを露光処理している間に、ビーム強度の変動、ビームの位置や入射角度の変動、或いは露光装置EX内の各部の温度変化等が生じた場合、或いは、供給ロールFRから回収ロールRRまでのシート基板Pの搬送経路で搬送誤差が生じた場合、露光装置EXによる露光処理を一時的に中断して、装置の状態を維持する為の調整作業を行う。その調整作業のために、露光装置EX内や搬送機構(図1)を通るシート基板Pの搬送動作が一時的に停止される。図1、図2に示した処理装置では、ニップローラNR1、NR2(NR2’)、及び回転ドラムDRがシート基板Pに搬送推力を与えており、それらの駆動部DVa、DVb、DVc、回転駆動機構DV1の各モータを停止状態に移行させることで、シート基板Pの搬送を停止できる。
図6は、露光装置EXを含む処理装置の一時停止の為の概略的な制御シーケンス(制御プログラムによるシーケンス制御)を説明するフローチャートである。図6のフローチャート(制御シーケンス)は、処理装置全体を統括制御するコンピュータや、処理装置が設置される工場のホストコンピュータによって実行することもできるが、ここでは図5の主制御部50内で実行されるものとして説明する。図6の制御シーケンスは、露光装置EXの主制御部50や搬送機構の制御系が何らかの停止要求を発生したときに、割込み処理として実行される。停止要求には大別して、装置内で直ちには回復できない異常(故障等)が起きたときに発せられる緊急停止の要求と、調整作業等のように一定時間だけ装置の稼働(シート基板Pの搬送)を停止させれば再稼働可能な一時停止の要求とがある。図1、図2に示した処理装置(露光装置EXを含む)には、シート基板Pの搬送に関る各種の異常や誤差を検知するモニターが設けられている。それらのモニターの主なものは、図1、図2に示した構成では、シート基板Pの長尺方向に与えられる張力を計測するテンションローラRT1〜RT7、シート基板Pの端部(エッジ部)の幅方向の変位を計測するエッジセンサーEps1、Eps2である。
その他のモニターとして、図2、図4に示したアライメント系AMn(顕微鏡対物レンズAM11〜AM14を含む)も、一定間隔Dhで形成されたマークMKmが予定される位置で認識できなかった場合には、シート基板Pの搬送に大きな誤差(異常)が発生したことを検知するセンサーとして利用することができる。さらに、処理装置内の各駆動部DVa、VDb、VDc、回転駆動機構DV1等の駆動源(モータ)の制御回路には、駆動状態の異常(サーボ応答の不良、ハンチングや振動の発生、異常発熱等)を検知するモニターやセンサーが組み込まれている。露光装置EX内の各種の駆動部(図5中の描画ユニット駆動部54、スイッチング素子駆動部56)やレーザ光源LSa、LSbにも、各機能の動作や状態を検知するセンサー(光源モニター)が設けられている。
また、不図示ではあるが、露光装置EXの回転ドラムDRの外周面に巻き付いたシート基板Pに、幅方向のランダムな位置で長尺方向に延びるような縦シワが発生することを検知する皺発生モニター(例えば、特開2002−211797号公報、特開2009−249159号公報)、シート基板Pが回転ドラムDRの外周面に巻き付く直前に発生した蛇行を検知する蛇行検知センサー(例えば、特開2001−233517号公報、特開2013−018557号公報)、等を設けて、シート基板Pの搬送誤差や搬送不良を検知することができる。従って、主制御部50は、上記のテンションローラRT1〜RT7、エッジセンサーEps1、Eps2、アライメント系AMn、各種の駆動部のモニターやセンサー、光源モニター、或いは皺発生モニターや蛇行検知センサー等からの検知情報を逐次収集して、搬送機構や露光装置EXで異常が発生したか否かを直ちに判定する。
さて、図6の制御シーケンスのステップ100において、主制御部50は、処理装置(露光装置EXと搬送機構)内の各所のセンサーやモニターの検知情報に基づいて、シート基板Pの搬送状態、または露光装置EXの稼動状態に回復困難な異常が発生したか否か、或いは近々回復困難な異常に達するか否かを解析し、異常が発生している、或いは近々異常が発生すると予測された場合は、緊急停止が必要と判断する。
〔緊急停止モード〕
緊急停止が必要と判断されると、主制御部50は、次のステップ102において、処理装置(搬送機構と露光装置EX)の稼動を完全に停止させるまでに時間的な猶予(余裕)があるか否かを判断し、猶予がある場合は、ステップ120以降の再稼働時の対応を考慮したシーケンスを実行する。ステップ102で時間的な猶予が無いと判定された場合、主制御部50は次のステップ104において、スタンプ装置STP(図2)によって、シート基板P上に情報パターンやバーコード等をスタンプ(打ち込み)可能か否かを判断する。スタンプ装置STPによってシート基板P上に打ち込まれる情報パターンやバーコード等は、例えば、露光処理が中断される露光領域Wのアドレス(シート基板Pの最初から数えた露光領域の番地)や、シート基板Pの長尺方向の起点位置から露光処理が中断した位置までの長さ等に関するものである。シート基板P上に打ち込む情報パターンやバーコードとして、さらに、緊急停止の要因(異常と判断された機構や機能)を表すコード番号、緊急停止と判断した日時、等を付加しても良い。
スタンプ装置STPによる情報パターンやバーコード等の打ち込みには、相応の時間がかかる為、主制御部50はステップ104において、その時間を考慮してスタンプ可能か否かを判断し、可能であれば、次のステップ106でスタンプ装置STPを起動して情報パターンやバーコード等をシート基板Pに打ち込む。ステップ104で、スタンプ(打ち込み)時間も無い程度の緊急性であると判断された場合は、ステップ106を省略してステップ108の急停止モードのパラメータ設定が実行される。
急停止モードでは、主に、シート基板Pを傷めずに素早く搬送停止状態に遷移するように、駆動部DVa、DVb、DVc、回転駆動機構DV1、及び供給ロールFRと回収ロールRRの各回転駆動部の各々の制御パラメータ(制御タイミングも含む)が設定される。急停止の場合、シート基板Pに付与されるテンション(長尺方向の張力)が急激に変動することがあるので、過度のテンションがシート基板Pに加わらないように、テンションローラRT1〜RT7で計測されるテンション量が設定範囲から外れないように駆動部DVa、DVb、DVc、回転駆動機構DV1、供給ロールFRと回収ロールRRの各回転駆動部がサーボ制御される。テンション量の設定範囲は、シート基板Pの材質、厚さ、ヤング率(剛性)、摩擦係数等に応じて変わるが、ニップローラNR1、NR2や回転ドラムDRの回転速度を急激に変化させると、テンションサーボの応答遅れのため、ニップローラNR1、NR2や回転ドラムDRと接触(密接)しているシート基板Pの表面部分や裏面部分で滑りが生じ、シート基板Pを傷めることになる。従って、急停止モードの場合も、なるべく滑りが生じないように、ニップローラNR1、NR2の回転速度と回転ドラムDRの回転速度とを同期させて低下させつつ、その速度低下に対応して目標テンション量も変化するように、テンション制御のパラメータも設定される。
なお、急停止モードの際、ニップローラNR1、NR2や回転ドラムDRの回転速度を低下させる制御と、シート基板Pに与えられるテンション量を調整する制御との連携に時間遅れ等があると、シート基板Pに付与されるテンションが一時的(瞬間的)に極端に低下するテンション抜けを起した後、過度なテンション状態にもたらされることもある。このような場合、搬送ローラや回転ドラムDRとシート基板Pとの間に大きな滑りが生じて、シート基板Pを傷付けるおそれもある。急停止モードでは、最低限、シート基板Pを傷付けないような搬送制御によってシート基板Pの搬送を停止させる必要がある。
次に、主制御部50はステップ110において、急停止モードとして設定される各種の制御パラメータを図2中の搬送制御部TPCと図5中のアライメント/ステージ制御部58に指令値として送出する。さらに、ステップ110では、主制御部50が図5中の描画制御部52にも稼動の緊急停止を表す指令を出力する。これに応答して描画制御部52は、シート基板P上の露光領域Wを露光(描画)中であったか否か、或いは1つの露光領域Wに対する露光(描画)が完了して次の露光領域Wに対する露光開始待ちであったか否かのフラグを主制御部50に送る。さらに描画制御部52は、レーザ光源LSa、LSbへの描画データ(ビットシリアル)の送出を中止すると共に、図2に示した可動シャッターSHを閉じる指令を出力する。緊急停止は、搬送機構や露光装置EXのいずれかに重大な問題が発生して、直ちに回復できないときに発動される。特に機械的な故障が原因で緊急停止する場合は、部品交換作業と調整作業が必須となるため、再稼働できるまでの時間は相当に長くなる。その時間の間、シート基板Pを供給ロールFRから回収ロールRRまでの搬送経路中に掛け渡したままとする場合、シート基板Pの搬送方向を折り曲げる多数のローラの各々と接触するシート基板Pの部分に、残留するテンションによって変形(曲げ癖)が発生するおそれもある。
そこで、図1、図2で説明した本実施の形態による処理装置では、ステップ110の実行による緊急停止によってシート基板Pの搬送が停止した後、供給ロールFRから回収ロールRRまでの搬送経路中に掛け渡されたシート基板Pの全ての部分において、テンションがほぼゼロの状態(無テンション状態)、又は極めて小さい状態(低テンション状態)となるように設定される。具体的には、供給ロールFRからニップローラNR1(係留位置)までの搬送経路、回転ドラムDRを含むニップローラNR1(係留位置)からニップローラNR2、やNR2’(係留位置)までの搬送経路、および、ニップローラNR2から回収ロールRRまでの搬送経路の各々において、シート基板Pに作用するテンションがほぼゼロの状態(無テンション状態)、又は低テンション状態となるように設定される。
ここで、低テンション状態とは、搬送経路中に配置される多数のローラのうちで、最も直径が小さいローラに掛け渡されているシート基板Pが、想定される停止時間に渡って停止し続けた場合であっても、シート基板Pに形成されるパターンや薄膜(層構造)に傷やマイクロクラック等のダメージを与えない範囲のテンション量(N/m)が作用していることを意味する。また、無テンション状態とは、シート基板Pが搬送経路中の多数のローラや回転ドラムDRと、ほぼゼロの摩擦力で掛け渡されていることを意味する。緊急停止の場合の多くの要因は、何らかの重大なトラブルであり、そのトラブルの解決に長時間を要することが多いため、本実施の形態では、緊急停止の際はシート基板Pを無テンション状態で停止させておくものとする。なお、緊急停止と一時停止のいずれの場合であっても、シート基板Pが停止した後は、搬送経路中に仕掛っているシート基板Pは、ステップ110によって無テンション状態と低テンション状態とのいずれかに設定される。
〔一時停止モード〕
一方、図6のステップ100において、緊急停止ではなく一時停止の要求が発生したと判断された場合、或いは、ステップ102で緊急停止の必要はあるが、停止までに時間的に猶予があると判断された場合、主制御部50はステップ120〜124を実行した後、ステップ110を実行する。ステップ120〜124は、処理装置(露光装置EX)の処理動作を短時間だけ中断させた後、シート基板P上の処理中断位置の続きから、処理動作を自動的に短時間の内に再開(再稼動)させる為の準備シーケンス(プログラム)を含んでいる。まず、ステップ120において、主制御部50は、一時停止要求の場合に処理動作(シート基板Pの搬送動作)を中断する停止時間(停止要求が発生した時点から実際の搬送停止までに必要な時間、又は停止時刻)Tsqと、一時停止状態を継続する停止継続時間Tcsと、停止要求が発生した時点でのシート基板P上の処理位置Xprとを確認し、シート基板Pを停止させる停止予定位置Xstと、シート基板Pに付与するテンション値(テンション量)Fnとを演算によって求めて、それぞれ目標値として設定する。なお、先のステップ102で、緊急停止モードではあるが停止までに時間的な猶予が有ると判断された場合、ステップ120で確認される停止時間Tsqには、ステップ102の判定時に判明している猶予の時間が設定される。
本実施の形態による露光装置EXの場合、一時停止させる要因によって停止継続時間Tcsには幾つかの段階が設定されている。例えば、描画用のスポット光の強度調整の為にレーザ光源LSa、LSb内の設定を微調整する際にダミー発振(発光)を行う場合は60秒程度、シート基板P上のマークMK1〜MK4がアライメント系AMnによって正しく認識されなかったときのマーク検出のリトライ動作(シート基板を所定距離だけ逆転搬送してから順方向に搬送し直す動作を含む)の場合は120〜180秒程度、また、複数の描画ラインSL1〜SL6による継ぎ精度を確認するキャリブレーション動作の場合は300秒〜500秒、と言うように予め決められた大まかな停止継続時間Tcsがプリセット値として用意されている。また、図2で示したように、後続の張力調整部12’のニップローラNR2’の後につながる次工程の処理装置(後工程処理装置)で、シート基板Pの搬送を一時的に停止する場合もある。その場合、後工程処理装置の一時停止に合せて、露光装置EX内でのシート基板Pの搬送を一時停止させることもある。その為には、後工程処理装置がシート基板Pの搬送を停止することを表す停止要求情報や予想される停止継続時間の情報等を主制御部50に送ると共に、主制御部50も露光装置EX内でのシート基板Pの搬送を停止することを表す停止要求情報や予想される停止継続時間Tcsの情報等を後工程処理装置に送るような双方向通信機能を設けておくのが良い。
以上のように、露光装置EX内の状況によってシート基板Pの搬送を一時停止する場合、主制御部50はステップ120において、停止要因に対応して予め用意されているプリセット値から、適切なものを選択して停止継続時間Tcsとして設定する。露光装置EX内でのシート基板Pの搬送動作を後工程処理装置側の状況で一時停止する場合、主制御部50はステップ120において、後工程処理装置から送られてくる停止継続時間の情報を参照して停止継続時間Tcsを設定したり、後工程処理装置から送られてくる停止要求情報に基づいて停止時間Tsqを設定したりする。
ここで、図7を参照して、6つの描画ラインSL1〜SL6によって順次露光される複数の露光領域W1a〜W6a・・・、W1b〜W6b・・・を有するシート基板Pを一時停止する場合の一例を説明する。図7は、回転ドラムDRに巻き付いた状態のシート基板Pを長尺方向に平面状に伸ばして示した図であり、便宜上、シート基板Pの長尺方向(搬送方向)をX方向、シート基板Pの短尺方向(幅方向)をY方向、そしてシート基板Pの表面と直交した方向をZ方向とする。図7において、露光領域W1a〜W6a、W1b〜W6bの各々は、例えば、携帯端末の表示パネル用の電子デバイスが形成される領域であり、シート基板Pの幅方向(Y方向)を長辺とする2面取りで配置される。露光領域(パターン形成領域)W1a〜W3a、W1b〜W3bの各々は、描画ラインSL1〜SL6によって既に露光されている。図7では、露光領域W4a、W4bが奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5の各々によって斜線部のように露光され、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6が丁度露光領域W4a、W4bの露光を開始する状態となっている。また、シート基板P上には、先の図4で説明したように、アライメント用のマークMK1、MK2、MK3、MK4の複数が形成されている。
また、図7では、シート基板Pの幅方向の両側に配置されるマークMK1、MK4の形成領域内に、長尺方向(X方向)の間隔を距離XG(XG>Dh)とした番地標記パターンAP1〜AP3が形成されている。番地標記パターンAP1〜AP3は、シート基板Pの先端側から順番に増加する番号をバーコード等で刻印、或いは印刷したものであり、アライメント系AMnのうちの顕微鏡対物レンズAM11、AM14の各々の観察領域Vw11、Vw14によって検出可能な位置とサイズに設定されている。なお、番地標記パターンAP1〜AP3の検出は、アライメント系AMn以外に設けた専用の番地検出機構(バーコードリーダ等)で行っても良い。その場合、番地標記パターンAP1〜AP3のサイズは、アライメント系AMnの観察領域Vw11、Vw14内に収める必要性が無いので、バーコードリーダ等によって確実に読み取れる大きさに設定される。また、距離XGは、露光処理の管理上で都合の良い任意の値に設定可能であるが、シート基板P上に形成する1つの電子デバイスの形成領域である露光領域Wna(W1a〜W6a・・・)、Wnb(W1b〜W6b・・・)のサイズに応じて決める場合は、一例として、その露光領域Wna、Wnbが長尺方向に数個分〜数十個分並ぶ距離に設定される。
図7のように、露光装置EXの描画ラインSL1〜SL6によってパターンの描画動作が連続して実行されている途中で一時停止の要求が発生した場合、主制御部50はステップ120において、設定された停止時間(停止までの時間的な猶予)Tsqに基づいて、実行中の描画動作(露光処理)を中断してシート基板Pの搬送を停止する条件や状態を、例えば図8に示すフローチャートに沿って設定する。図8のフローチャートを実行するプログラムは、図6中のステップ120内のサブルーチンとして組み込むことができる。
主制御部50は図8のステップ130において、シート基板P上で実際にパターン描画が行われている処理位置Xprを確認する。処理位置Xprは、シート基板P上の番地標記パターンAP1〜AP3とアライメント用のマークMKn(特にマークMK1、MK4)によって特定することができる。図7の場合、パターン描画が行われている露光領域W4a、W4bの処理位置Xprは、番地標記パターンAP1と番地標記パターンAP2との間であって、番地標記パターンAP1から上流側(図7中の−X方向)に2番目〜4番目のマークMK1、MK4の間の領域として確認される。番地標記パターンAP1と、それに続くマークMK1、MK4は、描画範囲(描画ラインSL1〜SL6を含む矩形領域)の上流側に配置されるアライメント系AMnやバーコードリーダ等によって既に読み取られて位置計測されているため、露光装置EXが露光領域W4a、W4bに対するパターン描画を開始する直前には、シート基板P上の処理位置Xprも特定されている。
さらに、ステップ130では、シート基板Pの搬送を一時停止させて描画動作を停止継続時間Tcsだけ中断した後、再びシート基板Pの搬送を開始して描画動作を再開するリスタート動作を考慮して、図3に示したエンコーダヘッドECna、ECnbと図5に示したアライメント/ステージ制御部(制御部)58とで計測される回転ドラムDRの外周面(シート基板P)の周方向の精密な位置情報(エンコーダ計測値)が、番地標記パターンAP1(AP2〜AP3も同じ)やマークMK1、MK4の長尺方向の位置情報としてアライメント/ステージ制御部58に記憶される。すなわち、図3のようにシート基板Pが回転ドラムDRに密着して巻き付いた周方向の範囲内では、番地標記パターンAP1やマークMK1、MK4の長尺方向の各々の位置が、エンコーダ計測値によって一義的に特定される。
次のステップ132において、主制御部50は、現時点で描画ユニットU1〜U6のいずれか1つがシート基板P上の露光領域Wna、Wnbに対する描画動作を実行中か否かを判断する。先の図7で例示した状態では、描画ユニットU1〜U6の各描画ラインSL1〜SL6によって、シート基板P上の露光領域W4a、W4bを露光している最中なので、主制御部50はステップ132を「Yes」で抜けて、次のステップ134を実行する。ステップ134では、主制御部50が現時点で実行中の描画動作(露光領域W4a、W4bに対する露光動作)が完了するまでの時間を完了予測時間Tdwとして推定演算する。図7(又は図4)に示したように、シート基板P上の露光領域Wna、Wnbに対する描画動作は、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5によって先行して開始され、後行の偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6によって完了する。従って、予め判っているシート基板Pの長尺方向(X方向)に関する露光領域W4a、W4bの長さLw(mm)、後行の偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6によって露光領域W4a、W4bの描画が開始されたときの位置情報Xp0(エンコーダ計測値)、エンコーダヘッドECn、ECnbで計測される現時点での位置情報Xp1(エンコーダ計測値)、及びシート基板Pの搬送速度Vf(mm/S)とに基づいて、主制御部50は完了予測時間Tdwを推定演算すると共に、露光領域W4a、W4bに対する描画動作が完了するまでのシート基板Pの現在位置(Xp1)からの搬送長(移動量)Luや完了位置Xp2(エンコーダ計測値)を演算する。
図9は、露光領域W4a(W4b)に対して、奇数番の描画ラインSL1(SL3、SL5)と偶数番の描画ラインSL2(SL4、SL6)とによってパターン描画されている途中の状態を模式的に示す図であり、露光領域W4aの+X側の端部が描画ラインSL2と重なった時点で、エンコーダヘッドEC2a、EC2bで計測されるエンコーダ計測値が、描画ラインSL2による描画開始の位置情報Xp0となる。図8のステップ130〜134の実行時を現時点とすると、現時点でエンコーダヘッドEC2a、EC2bによって計測されるエンコーダ計測値が位置情報Xp1となる。主制御部50は、描画完了までのシート基板Pの現時点からの搬送長(移動量)Luを、Lu=Lw−(Xp1−Xp0)の演算によって算出し、搬送長Luに対応したエンコーダヘッドEC2a、EC2bによるエンコーダ計測値を完了位置Xp2として推定する。さらに主制御部50は、現時点から露光領域W4aの−X側の端部が描画ラインSL2と重なるまでの完了予測時間Tdwを、Tdw=Lu/Vfの演算によって求める。主制御部50は次のステップ136で、完了予測時間Tdwと停止時間(停止までの時間的な猶予)Tsqとを比較して、Tsq>Tdwの場合はステップ138で停止時間Tsqを実時間で減じてから、再びステップ130〜136を実行する。ステップ130〜138のループは一定時間(例えば1秒〜数秒)毎に繰り返し実行され、ステップ132の判断で、他のステップ144に抜け出す。
ところで、ステップ136では、完了予測時間Tdwと停止時間Tsqとの長短を単純に比較したが、シート基板Pの搬送速度を減少させて搬送動作を完全に停止させるまでの猶予時間が停止時間Tsqである場合は、シート基板Pの搬送速度を零まで減速させるのに要する時間を減速時間Tvaとして予め求めておき、(Tsq−Tva)>Tdwで長短を比較すれば良い。さらに、ステップ136の判定では、停止時間Tsq(又はTsq−Tva)内に、次の露光領域W5a(W5b)に対するパターン描画動作が完了可能か否かの判断を行うこともできる。図9に示すように、現時点で露光処理中の露光領域W4a(W4b)と次の露光領域W5a(W5b)との間の余白部の長尺方向(X方向)の間隔をLz(mm)とした場合、露光領域W4a(W4b)に対する描画動作が完了してから、次の露光領域W5a(W5b)に対する描画動作が完了するまでの追加処理時間Tadは、Tad=(Lz+Lw)/Vfによって一義的に求まる。そこでステップ136では、完了予測時間Tdwと追加処理時間Tadとの和が、停止時間Tsq(又はTsq−Tva)を越えないか否かを判断し、超えない場合は、ステップ136を「Yes」で抜けてステップ138に進むようにしても良い。
追加処理時間Tadを考慮する場合、ステップ136を「Yes」で抜けてステップ130に戻る前に、完了位置Xp2を次の露光領域W5a(W5b)の−X方向の端部に再設定することができるので、主制御部50は、次のループ実行には、ステップ134で算出される搬送長(移動量)Luに(Lz+Lw)を加算した値を用いて、完了予測時間Tdwを求める。このように、追加処理時間Tadを考慮することによって、一時停止(又は緊急停止)の要求が発生してからシート基板Pの搬送速度を減速し始めるまでの間に露光される露光領域Wna、Wnbの数を、設定された停止時間Tsq内で最大にすることができる。
ステップ136で、完了予測時間Tdw(又はTdw+Tad)が停止時間Tsq(又はTsq−Tva)を超えると判断される場合、主制御部50はステップ136を「No」で抜けてステップ140を実行する。ステップ136で「No」と判断される状態は、現時点で露光処理されている露光領域W4a、W4bに対する描画動作が完了する完了予測時間Tdwに比べて、設定された停止時間Tsqが短い場合である。すなわち、露光領域W4a、W4bに対する描画動作を途中で中止して、シート基板Pの搬送動作を直ちに停止させることを意味する。従ってこの場合、現時点で露光処理されている露光領域W4a、W4bは、描画不良として主制御部50に登録される。露光領域W4a、W4bのシート基板P上での絶対的な位置(一義的な位置)は、先のステップ130で番地標記パターンAP1とマークMK1、MK4とによって特定された処理位置Xprとして登録される。また、先の図2で説明したスタンプ装置STPに、描画不良となる露光領域W4a、W4bの処理位置Xprの情報を送り、その情報パターンをシート基板Pにスタンプ(マーキング)するようにしても良い。
次に主制御部50はステップ142において、シート基板Pの搬送を停止する際に、図2に示した搬送制御部TPCで制御される回転駆動機構DV1、駆動部DVa〜DVcの各々に対する各種の制御パラメータ(サーボ制御時のゲイン、応答時定数、フィードバック量等)を搬送制御部TPCに送出する。併せて主制御部50は、シート基板Pの搬送速度の減速開始から完全停止に至る期間中に、供給ロールFRから回収ロールRRまでの搬送経路中でシート基板Pに付与される各部のテンション量Fnの設定値(指令値)、又はその設定値の速度変化に応じた変化特性等を搬送制御部TPCに送出する。露光装置EXでの露光処理(パターン描画)に適したシート基板Pの初期の搬送速度を減速させる場合、シート基板Pを傷付けないことが重要である。例えば、初期の搬送速度でシート基板Pを送るときに、図2中のニップローラNR1からニップローラNR2(又はNR2’)までのシート基板Pに比較的大きなテンション量が付与されている状態で、回転ドラムDRの回転を急激に停止したり、ニップローラNR1、NR2(又はNR2’)の回転を急激に停止したりすると、シート基板Pに瞬間的に過度なテンションがかかったり、回転ドラムDRやニップローラNR1、NR2(又はNR2’)の外周面(接触面)でシート基板Pが擦られる(スリップする)おそれがある。従って、シート基板Pの搬送速度を零まで低下させる間、搬送制御部TPCは、テンションローラRT5、RT6(又はRT7)の各々のロードセルで計測されるテンション量が設定値になるようにモニターしながら、回転ドラムDRの回転速度とニップローラNR1、NR2(又はNR2’)の各回転速度とが同期して滑らかに低下するように、回転駆動機構DV1、駆動部DVa、DVb(又はDVc)を制御する。
図6のステップ120内の処理として実行される図8のプログラムは、主に露光装置EXの稼動を停止継続時間Tcsの間、一時的に中断(シート基板Pも搬送停止)した後に、再びシート基板Pに対する露光処理を再開することを前提としたものである。連続的に搬送されるシート基板Pへの処理を中断した後、シート基板P上の中断部分から引き続き中断前と同じ状態、同じ精度で処理が再開されるのが好ましい。そのため、本実施の形態では、シート基板Pの搬送を停止させる際に、少なくとも回転ドラムDRに巻き付いているシート基板Pが、回転ドラムDRの外周面上で許容量以上の滑りを起さないように、回転ドラムDRの回転速度の減速率と、回転ドラムDRの上流側と下流側のシート基板Pに付与されるテンション量とが調整される。その調整量や範囲は、シート基板Pの厚みや剛性(ヤング率)、シート基板Pと回転ドラムDRの外周面との間の摩擦等に応じて設定される。シート基板Pの速度を零まで低下させる間に、回転ドラムDR上でシート基板Pが長尺方向に大きく滑ると、稼動再開時に露光装置EXが描画すべき最初の露光領域Wna、Wnbの描画開始位置と、エンコーダヘッドECna、ECnbによって稼動中断前に計測されていた回転ドラムDRの外周面、すなわちシート基板Pの搬送方向(長尺方向)の位置との間に大きなズレが生じ、シート基板Pの露光領域Wna、Wnbに対して精密に位置合せした状態でパターン描画を開始することが困難になる。
特に、回転ドラムDR上でシート基板Pが搬送方向に滑って止まった場合、稼動再開時にアライメント系AMnで検出すべきマークMK1、MK4(或いはMK2、MK3)が本来の位置のものと異なったマークになったり、或いは、検出不能になったりする。そこで、本実施の形態では、回転ドラムDRの回転速度を初期の値から零まで低下させる間に、シート基板Pが回転ドラムDRの外周面上を長尺方向に滑ったとしても、その滑りの許容量を、図4又は図7で示したマークMK1、MK4の搬送方向の間隔Dh以内に抑えるのが望ましい。なお、シート基板Pが回転ドラムDRの外周面上を滑ったか否かは、シート基板Pの搬送速度を低下させている間に、アライメント系AMnによって逐次マークMK1、MK4を検知し続け、マークMK1、MK4が観察領域Vw11、Vw14内で次々に検知されたときのエンコーダヘッドECna、ECnbによる各計測値を記憶し、その差分が間隔Dhに対してどれくらい異なっているかを解析することで確認できる。シート基板Pが樹脂製で厚さが100μmよりも薄くなると、シート基板P自体の熱処理による変形や、湿式処理(インク塗布、液体浸漬等)を受けた後の水分含有の増加による変形が大きいので、マークMK1、MK4の搬送方向の間隔(ピッチ)Dhは数mm程度に設定される。
なお、シート基板Pの搬送速度を低下させている間、シート基板Pの搬送方向に何らかのテンションを与え続けておけば、シート基板Pの回転ドラムDR上での滑りは主に搬送方向に生じ、搬送方向と直交するシート基板Pの幅方向(Y方向)にはほとんど生じない。しかしながら、搬送制御のパラメータ設定が不適切でテンションが一時的に激減するテンション抜けが生じると、回転ドラムDR上でシート基板Pが幅方向にも滑る可能性がある。本実施の形態では、そのような幅方向の滑り(横滑り)が発生しないように、シート基板Pの搬送速度を零まで低下させている間、テンション抜けが起きないように搬送制御のパラメータが設定される。これは、アライメント系AMnの顕微鏡対物レンズAM11〜AM14の観察領域Vw11〜Vw14の大きさが1mm角以下であることから、ミリ単位の横滑りが生じると、再稼働後にアライメント系AMnがマークMK1〜MK4を捉えられなくなるからである。
さらにステップ142において、主制御部50は、シート基板Pの搬送停止時に設定される制御パラメータ(特に速度の変化率)に基づいて、シート基板Pが停止する停止予定位置Xstを決定する。この停止予定位置Xstは、エンコーダヘッドECna、ECnbによって計測される回転ドラムDRの外周面(シート基板P)の搬送方向の位置(又は現在位置からの移動量)として演算される。なお、シート基板Pの特質(厚みや剛性等)に応じて、搬送系のサーボ制御が予定された状態から少し変動することもあるので、ステップ142で決定される停止予定位置Xstは、回転ドラムDRの回転が実際に停止したときの位置(エンコーダ計測値)とわずかにずれることもある。
以上のステップ130〜142において、ステップ136の判定を「Yes」で抜けてループを繰り返している間、パターン描画中であった露光領域Wna、Wnb(図7ではW4a、W4b)の露光処理が終了すると、主制御部50はステップ132を「No」と判断し、ステップ144を実行する。ステップ144では、露光が完了した露光領域の後に続く露光領域Wna、Wnb(図7ではW5a、W5b以降)に対する描画動作を中断する信号(描画イネーブル)が、主制御部50から描画制御部52(図5)に送出される。ここで、シート基板Pの搬送方向に関して上流側に位置する奇数番の描画ユニットU1、U3、U5が描画動作中である場合を第1状態、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5は描画動作を停止し、且つ偶数番の描画ユニットU2、U4、U6が描画動作中である場合を第2状態、及び、奇数番と偶数番の全ての描画ユニットU1〜U6が描画動作を停止している場合を第3状態とする。第1状態のときはステップ132で無条件に「Yes」と判断され、第2状態になったときはステップ132で奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の以降の描画動作(ビームがシート基板Pに投射される状況)を禁止状態とした上で「Yes」と判断され、そして第3状態になったときはステップ132で「No」と判断される。以上により、ステップ140が実行されるときは、シート基板P上のパターン描画中の露光領域Wna、Wnbに対する描画動作が途中で終わる露光不良となり、ステップ144が実行されるときは、パターン描画中の露光領域Wna、Wnbに対する描画動作が正しく完了することになる。
主制御部50は、ステップ144を実行した後、シート基板Pの搬送動作を停止させる為に、先に説明したステップ142を実行し、シート基板Pの搬送を停止する為の搬送系の制御パラメータの設定、搬送速度の減速時の適切なテンション量Fnの設定、及び停止予定位置Xstを決定する。
主制御部50は、以上の図8のプログラムの最後のステップ142を実行した後、図6のステップ122を実行する。ステップ122は、露光装置EXとしての処理動作を停止させてシート基板Pの搬送を停止させた後、停止継続時間Tcsが経過した後に再びシート基板Pの搬送動作を開始して露光装置EXによる処理動作を再開する再稼動時の状況を予め推定(確認)しておくものである。このステップ122では、主に、ステップ120(図8のステップ130〜142)で設定または決定された各種の条件と共に、搬送系の特性、シート基板Pの特性、或いはアライメント系AMnとエンコーダヘッドECna、ECnbとによりそれまでに取得されたマークMK1〜MK4の各位置情報等に基づいて、シート基板P上の未露光の露光領域Wna、Wnbから正常にパターン描画動作を再開させるようなシート基板Pの搬送制御の条件等が総合的に確認される。特に、再稼働時には、シート基板P上の新たに露光すべき露光領域Wna、Wnbの周囲や近傍に形成されているマークMK1〜MK4の各位置が、回転ドラムDRの回転角度位置(エンコーダヘッドECna、ECnbにより計測されるエンコーダ計測値)と一義的に対応付けられていること、すなわち停止継続時間Tcsの間、シート基板Pの搬送方向における位置が回転ドラムDR上でずれることなく維持され、再稼動時にはアライメント系AMn(顕微鏡対物レンズAM11〜AM14)によって直ちにマークMK1〜MK4の位置計測が可能な状態になっていることが望ましい。
図10は、先の図7に示したシート基板Pにおいて、ステップ122で推定される搬送停止時における予想停止状況を説明する図である。図10では、図7で示した露光領域W4a、W4bまでが正常に露光処理され、その後の露光領域W5a、W5bから露光処理が禁止され、さらにその次の露光領域W6a、W6bの途中に停止予定位置Xstが設定されるものとする。停止予定位置XstはエンコーダヘッドECna、ECnbによるエンコーダ計測値に対応して求められるが、ここではエンコーダヘッドEC1a、EC2aの各々で計測されるエンコーダ計測値の平均値とする。その平均値は、図3に示した中間位置Pocに対応している。図2、図3に示したように、シート基板Pは回転ドラムDRの外周面上に中間位置Pocに対して上流側と下流側の各々に約1/4周回分だけ巻き付けられている。中間位置Pocの上流側でシート基板Pが回転ドラムDRの外周面に接触し始める位置をXfa、中間位置Pocの下流側でシート基板Pが回転ドラムDRの外周面から離れる位置をXfbとする。すなわち、シート基板Pの搬送が停止した直後では、位置Xfa〜位置Xfbの間でシート基板Pは回転ドラムDRの外周面に所定のテンションが付与された状態で支持されている。このとき、アライメント系AMnの各観察領域Vw11〜Vw14は、シート基板P上では中間位置Pocと位置Xfaとの間のほぼ中央に位置する。従って、観察領域Vw11〜Vw14よりも下流側(図10中の+X方向)に位置するマークMK1〜MK4の各々の位置情報は、アライメント系AMn、エンコーダヘッドECna、ECnb、及びアライメント/ステージ制御部58によって計測され、主制御部50にて記憶される。
アライメント用のマークMK1〜MK4は、シート基板Pの先頭部分から一定の間隔で多数設けられている為、主制御部50が観察領域Vw11〜Vw14よりも下流側に位置する計測済みのマークMK1〜MK4の全ての位置情報を記憶するようにしても良いが、停止後の再稼働時に必要とされる個数に制限しても良い。例えば、停止予定位置Xst(又は観察領域Vw11〜Vw14)の下流側で正常に露光処理された露光領域Wna、Wnbの1つ又は数個に付随したマークMK1〜MK4の各位置情報、或いは、停止予定位置Xst(又は観察領域Vw11〜Vw14)の下流側で位置Xfbまでの範囲に存在するマークMK1〜MK4の各位置情報に制限して記憶しても良い。なお、停止予定位置Xst(又は観察領域Vw11〜Vw14)の下流側で記憶しておくべきマークMK1〜MK4の存在範囲内に番地標記パターンAP1、AP2等があった場合、主制御部50がその番地標記パターンAPnを記憶するようにしても良い。
主制御部50は、以上のようにして取得された再稼働時に必要なマークMK1〜MK4の各位置情報や番地標記パターンAPnの情報に基づいて、再稼働によって露光処理を開始する露光領域Wna、Wnbをステップ122で設定する。例えば、図10のように露光領域W4a、W4bまでが正常に露光処理されて停止状態になった場合、その次の露光領域W5a、W5bから露光処理を再開するのが望ましい。しかしながら、露光処理中止の直前までにアライメント系AMnで検出していたマークMK1〜MK4の位置計測精度に低下傾向が見られた場合には、次の露光領域W5a、W5bに付随したマークMK1〜MK4が傷んでいたり、歪んだりしている可能性があるので、次の露光領域W5a、W5bに対する露光処理はスキップして、さらにその次の露光領域W6a、W6bから露光処理を再開するようにしても良い。スキップする露光領域Wna、Wnbの数は1つに限られないが、生産性を高める為には、露光領域Wna、Wnbのスキップ数は少ない方が良い。
さらに主制御部50は、ステップ122で、再稼働の開始時にシート基板Pを順方向(図10中の+X方向)に搬送し始めるか、逆方向(図10中の−X方向)に搬送し始めるかを設定する。図10に示すように、停止予定位置Xstは、正常に露光処理された露光領域W4a、W4bに対して上流側に位置する次の露光領域W5a、W5b以降に設定される。その為、次の露光領域W5a、W5bから正常な露光処理を再開する為には、シート基板Pを停止予定位置Xstから所定距離だけ逆方向に搬送した後、順方向に搬送する必要がある。また、正常に露光処理された露光領域W4a、W4bから所定数分だけスキップした露光領域Wna、Wnbから露光処理を再開する場合であって、シート基板Pの搬送速度が目標速度に達してから露光処理を開始するまでに時間的な余裕がある場合は、停止予定位置Xstから順方向に搬送を開始しても良い。
さらに主制御部50は、ステップ122で、再稼動までの停止継続時間Tcsの長短に基づいて、搬送停止中のシート基板Pに所定のテンションを掛け続けるか否か、テンションを掛ける場合のテンション量、シート基板Pを特定位置に係留するか否か等についての確認も行う。例えば、図6のステップ100で緊急停止の要求であると判定され、ステップ102で時間的な猶予が無い(直ちに稼動停止)と判定された場合、停止継続時間Tcsは相当に長く設定されるか、無設定となるため、主制御部50はステップ122において、搬送停止後にシート基板Pに付与されているテンションを解放するものと判断する。また、停止中のテンションによってシート基板Pにローラ等による巻き癖(湾曲)がつかない程度に停止継続時間Tcsが短い場合は、所定のテンションを掛けた状態とする。さらに、停止継続時間Tcsが長くても、シート基板Pを搬送経路中のローラや回転ドラムDRから外すことなく復旧(再稼働)可能な状況のときは、シート基板Pを特定位置に係留しつつ無テンション状態にするものと判断する。その他、再稼働時までの停止継続時間Tcsの長短やシート基板Pを搬送経路から外す(引き出す)必要性の有無等に応じて、搬送停止中にシート基板Pに付与するテンションの有無や係留の有無が事前に確認される。なお、本実施の形態の場合、シート基板Pを係留する特定位置は、図2に示したニップローラNR1、NR2、NR2’のいずれかの位置とする。
次に、主制御部50は、図6のステップ124を実行する。ステップ124は、ステップ120(図8のステップ130〜142)で設定された各種の条件や状態、ステップ122で確認又は設定される条件に基づいて、稼動停止に向けたシート基板Pの搬送停止までの搬送動作のシーケンスやタイミングを設定すると共に、シート基板Pの搬送を停止した後、再稼働可能な状態になるように露光装置EX内の各部を設定するものである。さらにステップ124では、必要に応じてステップ106と同様にスタンプの打ち込み設定を行う。ここで打込まれるスタンプ情報は、例えば、描画不良となる露光領域Wna、Wnbの位置情報(番地標記パターンAPn等)や、再稼働時にスキップ処理される露光領域Wna、Wnbの位置情報、再稼働開始時のシート基板Pの搬送方向(順方向スタートか逆方向スタートか)の情報等である。以上のステップ124での各種設定が完了すると、主制御部50は、ステップ110を実行する。図6のフローチャートにおいて、ステップ108の後にステップ110が実行される場合は緊急停止モードであったが、ステップ124の後にステップ110が実行される場合は、再稼働可能な状態での停止モードである為、各制御部や駆動部に送出される複数のパラメータは緊急時のものと異なる値に設定されるものもある。
ステップ110が実行されると、主制御部50は、図5の描画制御部52に対して稼動中止のためのパターン描画動作を指示すると共に、アライメント/ステージ制御部58を介して回転ドラムDRの回転駆動機構DV1に回転速度の低下を指示する。同時に主制御部50は、図4の搬送制御部TPCに対して各駆動部DVa、DVb、DVcが適切な速度で低下するように支持する。搬送制御部TPCは、シート基板Pの搬送速度(回転ドラムDRの回転速度、ニップローラNR1、NR2、NR2’の各回転速度)の低下に応じて、回転ドラムDR上でシート基板Pが滑らないように、テンションローラRT5、RT6(RT7)によるテンション量を調整していく。露光装置EXが正常に稼動している場合、シート基板Pは通常時の搬送速度(例えば、5mm/秒〜20mm/秒の範囲の一定値)で送られるので、回転ドラムDRに巻き付いたシート基板Pの上流側又は下流側には、その通常時の搬送速度において、シート基板Pが回転ドラムDR上で滑りを起さないようなテンションが付与されている。しかしながら、シート基板Pを通常時の搬送速度から低下させて停止させる場合、回転ドラムDRの回転速度とニップローラNR1、NR2(NR2’)の回転速度とを連携させながら低下させることになる。本実施の形態では、その連携に誤差やタイミングズレが生じないように、さらにはテンションローラRT5、RT6(RT7)の応答遅れも加味して、図6のステップ124、110等において各種のパラメータが設定される。
主制御部50は、回転ドラムDRとニップローラNR1、NR2(NR2’)の各回転速度が零になった時点で、シート基板Pの搬送が停止したものと判定する。シート基板Pの搬送速度を低下させてゼロに至る間にシート基板Pが回転ドラムDR上で滑りを起さなければ、図10等で説明したように、シート基板Pは描画ユニットU1〜U6の各々による描画ラインSL1〜SL6が含まれる描画領域の位置(或いは回転ドラムDRの回転角度位置)との関係が一義的に特定される停止予定位置Xstで停止する。シート基板Pが回転ドラムDR上で滑ることなく停止した場合、主制御部50は、図6のステップ120で確認又は設定された停止継続時間Tcsの長短に応じて、シート基板Pに付与されているテンション量を調整するか否か、調整する場合はどの程度調整するか等を判断する。シート基板Pの搬送速度が零になった時点でも、シート基板Pには一定のテンションが付与され続けている。その為、先に説明したように、そのテンション量を停止継続時間Tcsの間に掛け続けた場合、シート基板P上に既に形成された電子デバイス用の層構造が、搬送経路中の各種のローラ(R1、R2、R3、R4、RT5、RT6、RT7等)との接触等によってダメージを受ける可能性もある。
搬送が停止した直後のシート基板Pに付与されているテンション量を調整する場合、再稼動時のシート基板Pの搬送位置の管理を容易にする為、ニップローラNR1、NR2(NR2’)の回転は停止状態にしたまま、テンションローラRT5、RT6(RT7)によって付与されるテンション量を調整するのが良い。ニップローラNR1、NR2(NR2’)を回転駆動させずに停止(サーボロック)させておくと、シート基板PはニップローラNR1の位置とニップローラNR2(NR2’)の位置との両方で係留されることになる。そのため、稼動停止中は、例えばニップローラNR1からニップローラNR2(NR2’)の間のシート基板Pを無テンション状態とした場合であっても、再稼働開始時にテンションローラRT5、RT6(RT7)によって元のテンション量を付与すれば、シート基板Pを回転ドラムDR上の停止直後の元の位置に復帰させることができる。本実施の形態では、シート基板Pが回転ドラムDR上で短尺方向(幅方向)に横ずれすることを避けるため、停止継続時間Tcsの間、シート基板Pが回転ドラムDRの外周面に常に接触し続ける程度のテンション量は与え続けるものとする。しかしながら、回転ドラムDRの外周面の周方向の一部に真空(減圧)吸着用の複数の微小孔(或いは、微細な溝や多孔質部材)を設け、シート基板Pの搬送速度がゼロになった時点で真空(減圧)吸着用の微小孔(或いは溝や多孔質部材)によってシート基板Pの裏面を回転ドラムDRの外周面に密着させるようにしても良い。この場合、回転ドラムDRの回転が停止しているので、真空(減圧)吸着用の微小孔(或いは溝や多孔質部材)は、シート基板Pを搬送経路中に係止する係留部材として機能する。このように、回転ドラムDRの外周面の一部でシート基板Pを真空(減圧)吸着する場合、回転ドラムDRの内部に真空(減圧)を供給する流路やパイプを設け、それを回転ドラムDRの外部の真空(減圧)源に接続する配管機構が必要になる。回転ドラムDRのような回転円筒体でシート基板を吸引支持する構成は、例えば特開2004−026348号公報、特開2011−051782号公報に示されている。
その他、停止した回転ドラムDRの外周面上でシート基板Pを係留する機構としては、例えば、図11A、図11Bに示すように、回転ドラムDRの周囲に進退可能なニップローラNRaを設けても良い。図11Aは回転ドラムDRとニップローラNRaとの配置をXZ面内で見た図であり、図11Bは回転ドラムDRとニップローラNRaとの配置をXY面内で見た図である。ニップローラNRaは、描画ラインSL1〜SL6が位置する描画領域よりも下流側であって、シート基板Pが回転ドラムDRの外周面から離れる位置より上流側に配置され、Y軸と平行な回転軸Sfgの回りに回転可能に設けられている。ニップローラNRaは、図11Bに示すように、シート基板Pの露光領域Wの外側で幅方向の両端部分と接触するように、軸方向(Y方向)の幅が設定されている。ニップローラNRaを軸支する回転軸Sfgは、回動軸AXgの回りに揺動回転するアーム部材LAの先端に設けられている。回動軸AXgは、回転ドラムDRのシャフトSftを軸支する本体フレームに取付けられ、アーム部材LAの揺動回転により、ニップローラNRaの位置は、シート基板Pの端部分を回転ドラムDRの外周面に所定圧力で押し付ける位置と、回転ドラムDRの外周面から離れた位置(図11A中の破線で示した位置)とに切替えられる。
ニップローラNRaは、停止中の回転ドラムDRの外周面にシート基板Pを押し付けて係留するものであるので、シート基板Pの表面に傷を付けないようなゴム製、合成樹脂(プラスチック、テフロン(登録商標)、ビニール等)製のローラとしても良いし、円筒面を持たずに回転不能なローラ以外の形状、例えば、回転ドラムDRの外周面と同じ曲率を持つ短冊状のパッドや単なる板状のパッド等のニップ部材(係止部材)であっても良い。ニップ部材としてフェルト材を使っても良い。図11A、図11BのようなニップローラNRa、或いはローラ以外のニップ部材によってシート基板Pを回転ドラムDRに係留する場合も、その係留位置ではシート基板Pを長尺方向と短尺方向との2方向について位置ずれしないように係止することができる。以上のように、真空(減圧)吸引やニップローラNRa(又はニップ部材)によって、回転ドラムDRの外周面の一部にシート基板Pを係留する機構を設けた場合は、それ以降、回転ドラムDRが回転しないようにサーボロックされるので、図2に示したニップローラNR1、NR2、NR2’によるシート基板Pのニップ状態を解除しても良い。また、シート基板Pを回転ドラムDR上で係留せずに、ニップローラNR1、NR2(NR2’)で係留する場合、回転ドラムDRの上流側のニップローラNR1と下流側のニップローラNR2(NR2’)とのいずれか一方は、シート基板Pのニップ状態を解放して非係留状態にしても良い。
以上のようにして、回転ドラムDR上でシート基板Pが滑ることなく安定に停止した場合、回転ドラムDRの回転角度位置(エンコーダ計測値)とシート基板P上のマークMK1〜MK4の各位置との相対的な関係は変化しないので、停止継続時間Tcsの経過後にシート基板Pへのパターン描画処理を再開するための動作は容易である。しかしながら、シート基板Pの搬送速度を低下させて停止させるまでの間、或いは停止継続時間Tcsの間に、シート基板Pが回転ドラムDR上で滑る場合も有り得る。シート基板Pの長尺方向に関する滑り量は、望ましくは、図4または図7(図10)で示したアライメント用のマークMK1、MK4の長尺方向(搬送方向)の間隔Dh以内に抑えられるのが良い。さらに、シート基板Pが回転ドラムDR上で滑った場合を想定して、その滑り量を定量的に計測できる構成を設けておくと良い。その為には、シート基板Pの搬送速度を減速させる直前までに正常に検出されたマークMK1〜MK4の各位置を、図5に示したアライメント/ステージ制御部58によって、各エンコーダヘッドECnによるエンコーダ計測値として記憶しておけば良い。
そしてシート基板Pの搬送速度が減速している間も、アライメント系AMnによってマークMK1〜MK4を検出し、記憶したエンコーダ計測値を基準(起点)にして、搬送方向の間隔Dhごとに、マークMK1、MK4がアライメント系AMnの観察領域Vw11、Vw14内の同じ位置で検出されるか否かを順次確認すれば良い。シート基板Pの搬送停止前の最後に検出したマークMK1、MK4が観察領域Vw11、Vw14内の同じ位置で検出されずにずれていた場合、主制御部50はそのずれ量を滑り量として記憶する。記憶した滑り量の大きさによって、再稼働時にアライメント系AMnによるマークMK1〜MK4の検出動作を必要とするか否かが判る。なお、再稼働時には、シート基板Pを所定の搬送速度になるように搬送機構の駆動源(ニップローラNR1、NR2や回転ドラムDR)を加速させるが、その際にも回転ドラムDR上でシート基板Pが滑らないように、搬送制御の各種パラメータ(速度の上昇率とテンションの変化量等)が設定される。もちろん、シート基板Pの搬送速度を加速させていく間も、回転ドラムDR上でシート基板Pが滑る可能性もあるので、停止時のときと同様にして、間隔DhごとにマークMK1、MK4の各々が位置検出されるか否かを確認することで、滑り量を定量的に計測することができる。
〔一時停止中の作業と動作〕
以上、図6、図8のシーケンスによって、図10のような状態でシート基板Pの搬送が停止してパターン描画動作が中断された後、主制御部50は一時停止中に行う作業の為の動作を実行する。本実施の形態では、一時停止の要求が発せられる主な要因として、(1)アライメント系AMnによるマークMK1〜MK4の位置検出精度が大きく低下したときにマーク検出動作をやり直すリトライ動作、(2)露光装置EX内の特に描画系(レーザ光源LSa、LSbから各描画ユニットU1〜U6)やアライメント系AMnに関るドリフト等をキャリブレーションする較正作業、及び、(3)搬送経路中の各種ローラや回転ドラムDRに付着したゴミ(異物)等をクリーニングする保守作業、の3種の作業が必要になった場合を想定する。図12は、一時停止中に露光装置EXが上記3種の作業の少なくとも1つを実行する場合の概略的なフローチャートを示す。図12のフローチャートに基づくシーケンス制御は、主制御部50によって実行されるものとするが、工場内のホストコンピュータの管理下で実行しても良い。また、図12のフローチャートは、一時停止中における露光装置EXの停止要因毎の作業に関わる動作を、一時停止の前に推定計算(シミュレーション)するものでもある。なお、図12のようなフローチャートは、露光装置EXの上流側に設置される感光層の塗布処理装置、又は下流側に設置される感光層に対する湿式処理装置(現像処理装置等)が処理を一時停止できる構成とした場合、それらの塗布処理装置、湿式処理装置の各々に対しても、適宜必要な作業要因に基づいて同様に作成される。
図12において、主制御部50は、ステップ300、302、304の順に、一時停止期間中の作業が(1)リトライ動作、(2)較正作業、(3)保守作業のいずれであるかを判定する。この3種の作業以外の作業や動作が設定されている場合、主制御部50はステップ306でそれを判定し、上記3種の作業でもなく、その他の作業でもないとき、主制御部50はステップ308のエラー処理を実行する。通常、一時停止モードへの遷移が要求されると、その一時停止が必要となる作業内容と共に停止継続時間Tcs等が設定されてくるので、何らかの設定ミスが無い限り、ステップ306からステップ308のエラー処理に進むことは皆無である。主制御部50は、ステップ300、302、304、306の各々において、何らかの設定ミスが無いか否かも判定している。例えば停止継続時間Tcsが当該作業の内容に見合った長さから著しく逸脱している等の場合は、ステップ300、302、304、306の各々を全て「No」と判断し、ステップ308を実行する。なお、ステップ306の他の作業には、例えば、図2で示したニップローラNR2’を含む張力調整部12’の後に接続される 後工程用の処理装置、或いは露光装置EXの上流側に接続される前工程用の処理装置での処理に遅延や滞留が生じ、その状況が改善されるまで露光装置EXの処理動作(パター描画とシート基板Pの搬送)を一時的に止める待ち動作も含まれる。
ステップ308では、一時停止の状態になったときにシート基板Pに付与されているテンション量が大きいときに、そのテンション(張力)を解放したり、ニップローラNR1、NR2(NR2’)、NRa等によるシート基板Pの係留を解放したりする。シート基板Pのテンションや係留を解放することで、シート基板Pを傷めることが無くなる。ステップ308が実行される場合は、もはや自動的な再稼働が難しい状況になるので、主制御部50は警報を発生してオペレータによるアシストを要請する。
ステップ300で、リトライ動作であると判定されると、主制御部50はステップ310で、シート基板Pの搬送停止前に検出していたシート基板P上の幾つかのマークMK1〜MK4の各々を再度計測するシーケンス(動作)を実施する。この場合、図10に示した停止予定位置Xstにあるシート基板Pの部分が位置Xfa付近まで戻るように、回転ドラムDRを一定角度だけ逆回転させる。回転ドラムDRが停止している状態から逆回転させる際は、ニップローラNR1、NR2(NR2’)の回転駆動と回転ドラムDRの回転駆動とを同期制御しつつ、回転ドラムDR上でシート基板Pが滑らないようにテンション量を調整しながら、低速(低加速度)でシート基板Pを逆方向に搬送する。なお、主制御部50は、一時停止の要求がリトライ動作であることを先の図6のステップ120で作業内容として認識可能なので、シート基板Pの搬送速度が零になった時点で、先の図11で説明したようなニップローラNRa(又はニップ部材)によるシート基板Pの係留動作や、回転ドラムDRの外周面の真空(減圧)吸引部等によるシート基板Pの係留動作は実行しない。リトライ動作のときは、回転ドラムDRの順方向への回転が停止した後、直ちに逆方向への回転が行われるので、回転ドラムDRの上流側と下流側の各々でシート基板Pに付与されるテンション量を大きいままにして、回転ドラムDRの逆方向への回転時のシート基板Pの滑りを抑制するようにしても良い。このリトライ動作のように、本来一方向に搬送されるシート基板Pを少しだけ逆方向に戻してアライメント用のマークMK1〜MK4を再検出/再計測する方法に関しては、例えば、特開2015−145971号公報、特開2016−095387号公報に開示されている。
ステップ300でリトライ動作ではないと判定されると、主制御部50は次のステップ302で、要求された作業内容が較正作業(キャリブレーション作業)か否かを判定し、較正作業でない場合は次のステップ304で保守作業か否かを判定する。通常は、一時停止が必要とされる作業は、リトライ動作、較正作業、保守作業の3種であるが、その他の要因で一時停止が必要となる場合、主制御部50はステップ306で他の作業(予め設定されている)か否かを判定する。このステップ306で設定される他の作業には、例えば、露光装置EXの上流側または下流側の処理装置でのシート基板Pの搬送速度(処理長)に大きな変動が発生した場合に、一定時間だけ露光装置EXの露光処理を中断する単なる待ち動作も含まれる。
ステップ306で、予め設定されている他の作業でもないと判定されると、主制御部50はステップ308のエラー処理を実行する。通常は、一時停止する為の要因や一時停止中の作業内容が決まっているので、ステップ308が実行されることが無いが、作業内容の種別指定が抜けていた場合を考慮して、ステップ308のエラー処理を設定しておく。ステップ308のエラー処理では、作業内容が不明であることから、シート基板Pに掛っているテンションを解放すると共に、係留動作が行われた場合にはその係留も解放するように、各駆動部が制御され、緊急停止のモードで露光装置EXが停止したのと同様に、再稼動しない停止状態に移行する。
〔リトライ動作〕
一方、以上のステップ300においてリトライ動作と判定されると、主制御部50はステップ310において、シート基板P上のマークMK1〜MK4を再計測する為の指令を各駆動部やアライメント系AMn等に送出する。マークMK1〜MK4の再計測によって、再び正常に描画位置の設定が可能となった場合、主制御部50は復帰可能と判断し、復帰の為の準備動作(シート基板Pの停止予定位置Xst、或いは停止予定位置Xstから所定長だけずれた再スタート位置への復帰動作等)を実行し、その後、ステップ320を実行する。ステップ320では、シート基板Pを再び元の状態で搬送させるように、搬送制御部TPCと描画制御部52の各々に再稼働の為の各種のパラメータを設定する。再稼働時の各種のパラメータには、シート基板Pを停止状態から一定速度まで加速させていく間、シート基板Pが回転ドラムDRで滑り(マイクロスリップ等)を起さないように、回転ドラムDRの回転速度を指令する制御パターンや、シート基板Pに与えられるテンション量の変化パターン等の情報が含まれている。また、ステップ310で、シート基板P上のマークMK1〜MK4を再計測した結果、依然としてマーク位置が特定できなかったか、マーク位置の計測精度が確保できなかった場合、主制御部50は、リトライ動作後の復帰が不可と判断し、ステップ308のエラー処理を実行する。これによって、露光装置EXは再稼働しない停止状態に移行する。
〔較正作業(キャリブレーション)〕
また、ステップ302において較正作業と判定されると、主制御部50はステップ312において、予め設定されている較正内容に基づいて各種の計測処理や調整処理を行うように、露光装置EX内の各部に指令を送出する。較正作業には、回転ドラムDRの外周空間からシート基板Pを退避させた状態で行う作業と、退避させなくても可能な作業とがあり、さらには、較正の為に回転ドラムDRを利用する作業もある。回転ドラムDRの外周空間からシート基板Pを退避させる場合、主制御部50は、例えば図2に示した上流側のニップローラNR1と下流側のニップローラNR2(NR2’)のいずれか一方が係留状態(回転停止状態)を継続し、他方が所定長さだけシート基板Pを送って、ニップローラNR1とニップローラNR2(NR2’)との間でシート基板Pが大きくたるむ(無テンション状態になる)ように設定する。これによって、シート基板Pを回転ドラムDRの外周空間からY方向(幅方向)にずらすことができ、描画ユニットU1〜U6と回転ドラムDRとの間からシート基板Pを抜き出すことができる。抜き出されたシート基板Pは、適当なクリップ部材を使って、回転ドラムDRの側端側の装置壁面等に手動で係止される。
回転ドラムDRと描画ユニットU1〜U6との間からシート基板Pを退避させると、回転ドラムDRの外周面に形成された基準マークや基準パターンをアライメント系AMnで検出することができ、さらに描画ユニットU1〜U6の各々に設けられている反射光モニターによって、描画ラインSL1〜SL6の相互の位置誤差、傾き誤差、継ぎ誤差、またはアライメント系AMnの観察領域(観察視野)Vw11〜Vw14の各々と描画ラインSL1〜SL6との相互の位置関係の誤差(ベースライン誤差)等を、回転ドラムDRの回転を利用して計測することができる。このように、回転ドラムDRの外周面に基準マークや基準パターンを形成し、それを使って露光装置EXをキャリブレーション(計測された誤差に基づいた補正や調整)する一例は、国際公開第2014/034161号パンフレット、または国際公開第2015/152217号パンフレットに開示されている。
その他、シート基板Pを退避させた状態での較正作業としては、描画ユニットU1〜U6の各々から射出される描画ビームLB1〜LB6の各強度(光量)の絶対値やばらつきを計測して、描画ビームLB1〜LB6の各強度を揃える補正作業、描画ビームLB1〜LB6の回転ドラムDRの外周面(基準パターンが形成される面)を基準としたフォーカス位置(集光位置)のばらつきを計測して調整する作業、描画ビームLB1〜LB6の各々のスポット光の寸法(直径)誤差や球面収差等を計測して描画ユニットU1〜U6内の光学部材等を調整する作業、描画ラインSL1〜SL6の各々で描画されるパターンの主走査方向(図3中のY方向)に関する描画倍率の設定精度を確認して調整する作業等がある。これらの作業の際にも、描画ユニットU1〜U6の各々に設けられている反射光モニターを用いて、回転ドラムDRの外周面の基準マークや基準パターンからの反射光を検知することで、描画ビームLB1〜LB6の強度(光量)の状態、フォーカス状態、球面収差の状態が計測できる。また、回転ドラムDRの外周面に数ミリ径程度の小孔又は窪みを形成し、そこに、描画ビームLB1〜LB6の各々を受光するピンホール板と光電素子等とを埋め込み、光電素子からの出力信号に基づいて、描画ビームLB1〜LB6の強度(光量)の状態、フォーカス状態、球面収差の状態等を計測しても良い。
シート基板Pを回転ドラムDRに巻き付けた状態でも可能な較正作業としては、描画ユニットU1〜U6の各々のビームLB1〜LB6の入射位置に可動遮蔽板(シャッター)を配置して、描画ユニットU1〜U6の各々へのビームLB1〜LB6の入射を阻止した状態、或いは、回転ドラムDRに巻き付いたシート基板Pと描画ユニットU1〜U6の間に、露光用の紫外線に対して遮光性を有する保護シートを差し込んだ状態で、図2に示したレーザ光源LSa、LSb、光学変調部材OSM、及びビーム光路調整機構BDUの各々の光路を通るビームLB1〜LB6の僅かな傾きや横ずれ等を調整する光学調整作業が実施可能である。そのような光学調整の為に、レーザ光源LSa、LSbからビーム光路調整機構BDU内(又は描画ユニットU1〜U6内)に至る光路中の適当な位置に、ビームの傾き誤差や横ずれ誤差を計測するビーム変動検出系(レンズ、ミラー、光電素子、撮像素子等を含む)が設けられている。
本実施の形態のように、スポット光でパターン描画する露光装置EXでは、描画ユニットU1〜U6の各々によるスポット光の走査位置が安定していることが重要であるが、レーザ光源LSa、LSbからシート基板Pまでのビーム光路中には、温度(又は湿度)や大気圧と言った環境の変化によって影響を受けやすい光学部材もある。その為、露光装置EX内の光路には、環境変化があってもビーム変動が抑制されるような光学設計(配置条件)で光学部品を配置したり、補正系を組み込んだりしている。しかしながら、環境変化に対するビーム変動の量が許容範囲から外れるような場合も有り得る。そのような場合、露光装置EXの稼動を一時的に停止させて、ビーム変動の量が許容範囲内に戻るように、レーザ光源LSa、LSbからビーム光路調整機構BDU内(又は描画ユニットU1〜U6内)に至る光路中の光学部品や電気光学的な部品の機械的な調整、または電気的な調整が行われる。この調整作業は、ビーム変動検出系によって計測された誤差情報に基づいて、一時停止の間に電気的な調整が可能な部分については自動的に実施され得るが、手動で実施することもある。
以上の較正作業によって、露光装置EXの各部が再び初期の性能に戻された場合、主制御部50は復帰可能と判断し、復帰の為の準備動作(シート基板Pの停止予定位置Xst、或いは停止予定位置Xstから所定長だけずれた再スタート位置への復帰動作等)を実行し、その後、先に説明したステップ320を実行する。またステップ312の較正作業を実施しても性能を元の状態に戻せずに、再稼働後の露光処理に問題が生じる可能性がある場合、主制御部50は較正作業後の復帰が不可と判断し、ステップ308のエラー処理を実行する。これによって、露光装置EXは再稼働しない停止状態に移行する。また、較正作業の内容によっては、ステップ312での較正作業が終わった後に、アライメント系AMnによってシート基板P上のマークMK1〜MK4を検出し、観察された各マークMK1〜MK4の画像情報や位置情報を確認することもある。較正作業後にシート基板P上のマークMK1〜MK4の検出が必要な場合、主制御部50はステップ312の後にステップ310を実行する。なお、シート基板Pを回転ドラムDRの外周面から外した場合でも、復帰の為の準備動作の際には、ニップローラNR1、NR2(NR2’)のうちのニップしていない方のローラをニップ状態にして低速回転することにより、シート基板Pを再び回転ドラムDRの外周面に巻き付けることができる。その際、シート基板PはニップローラNR1、又はニップローラNR2(NR2’)の位置で係留(係止)されているので、アライメント系AMnの各観察領域Vw11〜Vw14、又は描画ラインSL1〜SL6とシート基板P上の位置とを、一時停止した直後の特定の位置関係に復帰させることができる。ただし、その位置関係をミクロン精度で復帰させることは難しいので、ステップ310を実行するのが良い。
〔保守作業(メンテナンス)〕
さて、ステップ302において、一時停止の理由が較正作業ではない場合、主制御部50は次のステップ304において一時停止の理由が保守作業か否かを判断する。ステップ304で保守作業と判定された場合、主制御部50は、ステップ314において保守作業の内容に基づいて、露光装置EX内の各部を保守作業に適した状態に設定(準備)する。多くの場合、保守作業は手動(人手)で行われるので、主制御部50は、その手動作業が可能となるように準備する。保守作業の典型例は、露光装置EX内の搬送系のうちシート基板Pと接触する部材(各種のローラーや回転ドラムDR)の清掃作業である。特に、図2に示したニップローラNR1、NR2(NR2’)、ローラR3、テンションローラRT5、或いは、図1中に示した各種ローラのように、シート基板Pの感光層が形成されている表面側と接触するローラには、シート基板Pの幅方向(Y方向)の端部の感光層がミリオーダー以下で細かく剥離(粉砕)して異物となって付着することがある。この異物は、シート基板Pの表面に再付着して、露光装置EX内の描画ラインSL1〜SL6の位置まで運ばれると、描画ビームLB1〜LB6によるスポット光を遮光又は減光したり、散乱させたりすることになり、パターンの描画品質を著しく劣化させることになる。さらに、異物がシート基板P上のアライメント用のマークMK1〜MK4上やその近傍に付着すると、アライメントエラー(マークの検出不能、計測精度の著しい低下)が発生することがある。また、そのような異物が回転ドラムDRの外周面上の特定部分に付着すると、その特定部分の上に巻き付けられるシート基板Pが異物の大きさ(厚み)に応じてふくらむことになり、その特定部分において、スポット光のフォーカス誤差が増大して、パターンの描画品質を悪化させることがある。
従って、搬送系を構成する各種ローラや回転ドラムDRの外周面を時々清掃することが必要となる。清掃のタイミングや間隔には特段の決まりはないが、シート基板Pに塗布された感光層の材質、厚み、密着性等によって設定される。感光層として、例えば感光性シランカップリング剤が塗布されたシート基板Pを露光処理し続けている場合、感光層はシート基板Pの表面と化学的に密に結合した自己組織化単分子膜(SAM膜)として形成されるため、剥離する可能性は低い。これに対して、液体のフォトレジストをミクロンオーダーの厚さで塗布して乾燥させた感光層やドライフィルムの感光層(数μm以上の厚み)は、シート基板Pの搬送中のローラとの接触により微粉(異物)となって剥離する可能性がある。従って、微粉となって剥離する可能性が高い感光層が形成されたシート基板を処理し続ける場合、清掃の頻度が高く設定される。清掃頻度は、実際のデバイス製造時の経験則に基づいて設定されるが、一部のローラの外周面、又は回転ドラムDRの外周面に問題となる異物が付着したか否かを光学的に検査する異物検査ユニットや表面検査ユニットと言った検査機構を露光装置EX内に組み込み、検査機構による検査結果に基づいて、清掃の要否や清掃の時期を判断しても良い。この場合、検査機構による検査結果に基づいて一時停止や緊急停止の要求信号を発生(生成)させることができる。
回転中の各種ローラや回転ドラムDRの外周面に異物が付着しているか否かを検査する検査機構としては、例えば、特開2015−184053号公報に開示された方法が利用でき、ローラによる搬送中にシート基板P上に異物が付着しているか否かを検査する検査機構としては、例えば、特開2009−085869号公報に開示された方法が利用できる。異物付着の検査や清掃作業の際には、先の較正作業のときのように、シート基板Pを回転ドラムDRや各種のローラから外す(緩める)ことになるが、ニップローラNR1とニップローラNR2(NR2’)のいずれか一方の位置でシート基板Pが係留(係止)されているので、較正作業の完了後には、シート基板Pを回転ドラムDR上で一時停止直後の位置に復帰させることができる。
また保守作業としては、それほど頻繁に実施されるものではないが、露光装置EX内の各部を温調する為の水冷装置、例えば、図1に示したチラーユニット16内の冷却媒体(クーラント液)の交換作業、フィルタ交換作業、冷却媒体の温度と流量の設定作業等がある。特に、図2に示したレーザ光源LSa、LSbや光学変調部材OSMの冷却は、描画用のビームLB1〜LB6の各スポット光をシート基板P上で変動(ドリフト)なく安定的に走査する為に重要である。チラーユニット16の保守作業にかかる時間は保守の内容によって異なるが、チラーユニット16内の制御部(CPU)に、制御状態、保守内容、保守に要する時間等のステータス情報を主制御部50に通知する機能(LANポート等)を設けることにより、保守作業にかかるおおよその時間を予め把握できる。その他の保守作業としては、レーザ光源LSa、LSb内の各種の光学部品の特性低下や使用時間に応じた部品交換の作業等もあり得る。使用中の光学部品を予備の光学部品に交換する機構がレーザ光源LSa、LSb内に設けられている場合、部品交換は、レーザ光源LSa、LSbの発振動作を停止させた後、単なる交換だけで完了するものと、交換後に調整を要するものとがある。交換後に調整を要する光学部品の場合で、調整作業に長時間(例えば30分以上)が経過したときは、一時停止のモードを中止して、再稼働しない停止状態(ステップ308)に移行させることもある。
以上の保守作業によって、露光装置EXの各部が再び初期の性能に戻された場合、主制御部50は復帰可能と判断し、復帰の為の準備動作(シート基板Pの停止予定位置Xst、或いは停止予定位置Xstから所定長だけずれた再スタート位置への復帰動作等)を実行し、その後、先に説明したステップ320を実行する。またステップ314の保守作業を実施しても性能を元の状態に戻せずに、再稼働後の露光処理に問題が生じる可能性がある場合、主制御部50は保守作業後の復帰が不可と判断し、ステップ308のエラー処理を実行する。これによって、露光装置EXは再稼働しない停止状態に移行する。また、保守作業の内容によっては、ステップ314での保守作業が終わった後に、アライメント系AMnによってシート基板P上のマークMK1〜MK4を検出し、観察された各マークMK1〜MK4の画像情報や位置情報を確認することもある。保守作業後にシート基板P上のマークMK1〜MK4の検出が必要な場合、主制御部50はステップ314の後にステップ310を実行する。
〔他の作業〕
先に説明したように、ステップ306は必ずしも必要ないが、ステップ306が設定されている場合、主制御部50が一時停止中の作業を予め設定されている他の作業(露光装置EXの単なる一時停止も含む)と判定すると、ステップ316が実行される。ステップ316では、他の作業の後に復帰(再稼働)可能か否かの判断と、復帰可能な場合の準備動作が実行される。他の作業が露光装置EXの単なる一時停止の場合、上流側または下流側の処理装置(隣接処理装置)の稼働が一時的に停止してシート基板Pの搬送が停止状態にあると判断されるので、露光装置EXは隣接処理装置が稼働を再開するまで停止状態で待機していれば良い。従って、このような場合、ステップ316では、例えば隣接処理装置が停止状態から再稼働するまでの時間の長短に基づいて、露光装置EXを復帰(再稼働)させるか否かが判断される。その為に、隣接処理装置には再稼働までの時間や停止原因等の情報を含むステータス情報を発信する機能を設け、露光装置EXの主制御部50には隣接処理装置のステータス情報を受信する機能を設けるのが良い。
ステップ316で復帰(再稼働)可能と判断された場合、主制御部50はステップ320を実行し、他の作業の後にシート基板P上のマークMK1〜MK4の位置計測が必要な場合は、ステップ316の後にステップ310を実行する。また他の作業として、露光装置EXが隣接処理装置の稼働再開まで単に停止状態で待機する場合、その待機時間が例えば30分以上に及ぶとき、或いは待機時間が不明なときは、ステップ316で復帰(再稼働)不可と判断し、主制御部50はステップ308のエラー処理を実行する。
以上、図12のシーケンスによれば、露光装置EXが各種の作業のために一時停止する状況から再稼働の可否を判定し、再稼働時のときの装置内各部の制御状態を適切に設定することができる。さらに、本実施の形態では、各種作業後に露光装置EXを停止状態から復帰させる際に、シート基板P上の特定位置と、アライメント系AMnの検出位置(Vw11〜Vw14)や描画ユニットU1〜U6の各々の露光位置(SL1〜SL6)との関係が、停止直前の位置関係から大きくずれることがない。その為、復帰(再稼働)までに要する時間が短くて済み、シート基板Pの搬送が一時停止した直後の状態から正確に位置決めされたパターン描画(露光)動作を継続することができる。
[第2の実施の形態]
図13は、第2の実施の形態における一時停止の際のシート基板Pの状態を説明する図であり、シート基板PをXY面と平行に展開したものである。第2の実施の形態では、シート基板Pの長尺方向を長辺とする長方形の露光領域W1〜W4が余白部SSa、又は余白部SSbを挟んでシート基板P上に配列される。露光領域W1と露光領域W2の間、露光領域W2と露光領域W3の間の余白部SSaは、例えば数cm以下の狭い間隔に設定され、露光領域W3と露光領域W4の間の余白部SSbは、例えば数cm以上の広い間隔に設定される。広い間隔の余白部SSbは、係留部材としてのニップローラNR1(NR2、NR2’、NRaのいずれかでも良い)で係留するために、複数の露光領域Wnごとにシート基板P上に設けられる。余白部SSbのX方向の中心位置と回転ドラムDR上の描画ラインSL1〜SL6の間の中心位置である中間位置PocとのX方向の間隔Lsxは、図2に示したテンションローラRT5のZ方向の位置によって若干変わり得るが、ほぼ一定となる。そのため、露光領域WnのX方向(長尺方向)の長さによっては、図13のように、シート基板Pの搬送が停止してニップローラNR1が余白部SSbを係留したとき、描画ラインSL1〜SL6による描画位置は露光領域W1上に位置する。
従って、シート基板P上に余白部SSbのような係留領域が設定されている場合、一時停止(又は緊急停止)の要求が発生したとき、主制御部50は余白部SSbがニップローラNR1の位置にもたらされたときに、シート基板Pの搬送を停止するように各駆動機構を制御する。ただし、図13の場合、ニップローラNR1の位置に余白部SSbがきたとき、露光領域W1が描画ラインSL1〜SL6によってパターン描画される位置であるため、稼働停止までに時間的に余裕があるとき(緊急停止以外のとき)は、露光領域W1のパターン描画が完了した後に次の露光領域W2に対する描画動作を中止して、シート基板Pの搬送停止シーケンスが開始される。従って、図13のような場合、先の第1の実施の形態では、シート基板Pの搬送速度が零になった時点で、ニップローラNR1の位置が余白部SSbから外れた露光領域W4上になる可能性が高い。そこで、本実施の形態では、シート基板P上の露光領域W1のパターン描画が完了した後にシート基板Pの順方向の搬送を停止し、その後、余白部SSbがニップローラNR1の位置で停止するまでシート基板Pを低速で逆方向に搬送する。
シート基板Pの順方向の搬送が停止したときのニップローラNR1とシート基板P上の位置との関係は、図13に示した間隔Lsxと、回転ドラムDRの角度位置を計測するエンコーダヘッドECnによる計測値とに基づいて特定される。さらに、図10に示した番地標記パターンAPnの検知結果、アライメント用のマークMK1、MK4の検知位置の結果に基づいて、シート基板P上の余白部SSbの搬送方向の位置を特定することができる。これにより、シート基板P上の余白部SSbがニップローラNR1(或いはNR2、NR2’、NRa)の位置で停止した状態で係留動作に移行させることができる。余白部SSbには露光領域Wnが形成されていないため、長い時間に渡ってニップローラNR1等の係留部材によるニップ状態を続けることができる。従って、ニップローラNR1等の係留部材による係留力(ニップ圧)に抗してシート基板Pが滑った(擦れた)場合であっても、余白部SSbの搬送方向の寸法を長めに設定することで、前後の露光領域W3、W4に傷を付ける可能性を低くできる。
[第3の実施の形態]
図14は、第3の実施の形態によるデバイス製造システム(処理システム、製造システム)の概略的な構成を示す概略構成図である。図14のデバイス製造システムは、例えば、電子デバイスとしてのフレキシブル・ディスプレイの一部のパターン層(薄膜トランジスタの電極層、バスライン配線層、絶縁層、透明電極層等のうちの1つの層構造)を製造するライン(フレキシブル・ディスプレイ製造ライン)である。フレキシブル・ディスプレイとしては、例えば、有機ELディスプレイまたは液晶ディスプレイ等がある。このデバイス製造システムは、供給ロールFRから送り出されるシート基板Pに対して各種処理を連続的に施した後、処理後のシート基板Pを回収ロールRRで巻き取るロール・ツー・ロール方式となっている。本実施の形態では、供給ロールFRから送り出されたシート基板Pが、少なくとも処理装置PR1、PR2、PR3、PR4、PR5を経て、回収ロールRRに巻き取られるまでの例を示している。図14では、X方向、Y方向およびZ方向が直交する直交座標系となっている。X方向は、水平面内において、シート基板Pの搬送方向であり、供給ロールFRおよび回収ロールRRを結ぶ方向である。Y方向は、水平面内においてX方向に直交する方向であり、シート基板Pの幅方向である。Z方向は、X方向とY方向とに直交する方向(鉛直方向)である。
この処理装置PR1は、供給ロールFRから搬送されてきたシート基板Pを長尺方向に沿った搬送方向(+X方向)に搬送しつつ、シート基板Pに対してプラズマ表面処理を行う表面処理装置である。この処理装置PR1によって、シート基板Pの表面が改質され、感光性機能層の接着性が向上する。処理装置PR2は、処理装置PR1から搬送されてきたシート基板Pを搬送方向(+X方向)に搬送しつつ、感光性機能層の成膜処理を行う成膜装置(塗布装置)である。処理装置PR2は、シート基板Pの表面に感光性機能液を選択的または一様にすることで、シート基板Pの表面に感光性機能層(感光性薄膜、被覆層、被膜層)を選択的または一様に形成する。また、処理装置PR3は、処理装置PR2から送られてきたシート基板Pを搬送方向(+X方向)に搬送しつつ、露光処理を行う露光装置EXを含む。処理装置PR3の露光装置EXは、シート基板Pの表面(感光面)にディスプレイパネル用の回路または配線等のパターンに応じた光パターンを照射する。これにより、感光性機能層に前記パターンに対応した潜像(改質部)が形成される。処理装置PR4は、処理装置PR3から搬送されてきたシート基板Pを搬送方向(+X方向)に搬送しつつ、湿式による現像処理の処理工程を行う現像装置である。これにより、感光性機能層に潜像に応じたパターンのレジスト層等が出現する。処理装置PR5は、処理装置PR4から搬送されてきたシート基板Pを搬送方向(+X方向)に搬送しつつ、パターンが形成された感光性機能層をマスクとしてエッチング処理を行うエッチング装置である。これにより、シート基板P上に電子デバイス用の配線や電極の導電材料、半導体材料、絶縁材料等によるパターンが出現する。
処理装置PR2と処理装置PR3との間には、シート基板Pを所定長に亘って蓄積可能な第1蓄積装置BF1が設けられ、処理装置PR3と処理装置PR4との間には、シート基板Pを所定長に亘って蓄積可能な第2蓄積装置BF2が設けられている。従って、処理装置PR3の露光装置EXには、第1蓄積装置BF1を介して処理装置PR2から送られてきたシート基板Pが搬入し、処理装置PR3は、第2蓄積装置BF2を介してシート基板Pを処理装置PR4に搬出する。処理装置PR1〜PR5は、製造工場の設置面に配置される。この設置面は、設置土台上の面であってもよく、床であってもよい。露光装置EX、第1蓄積装置BF1、および第2蓄積装置BF2を含む処理装置PR3は、シート基板P上に電子デバイス用のパターンを形成するパターニング装置であり、露光装置EXの代わりに精密な印刷装置やインクジェットプリンタを用いても良い。その場合、前後の処理装置PR2(成膜処理)、処理装置PR4(現像処理)、処理装置PR5(エッチング処理)は、別の処理工程を実施する装置に置き換えられる。
上位制御装置200は、デバイス製造システムの各処理装置PR1〜PR5、第1蓄積装置BF1、第2蓄積装置BF2を制御する。この上位制御装置200は、コンピュータと、プログラムが記憶された記憶媒体とを含み、該コンピュータが記憶媒体に記憶されたプログラムを実行することで、本実施の形態のデバイス製造システムを統括制御する。上位制御装置200には、先の図6、図8、図12で説明したような、露光装置EXの緊急時、又は一時停止中の作業(付加作業とも呼ぶ)時の停止シーケンスや再稼働時のシーケンスを実行するプログラムを記憶しても良い。なお、本実施の形態のデバイス製造システムは、5つの処理装置PR1〜PR5を備えるようにしたが、2以上の処理装置PRを備えるものであればよい。例えば、本実施の形態のデバイス製造システムとしては、処理装置PR2、PR3、または、処理装置PR3、PR4の計2つの処理装置PRを備えるもの、或いは処理装置PR2〜PR4の計3つの処理装置PRを備えるものであってもよい。
第1蓄積装置(蓄積装置)BF1と第2蓄積装置(蓄積装置)BF2は、例えば図15のように、シート基板Pの搬入側のニップローラ500a、500bと、搬出側のニップローラ503a、503bと、X方向に一列に配置される複数の固定ローラ501a〜501dと、複数のダンサーローラ502a〜502eと、ダンサーローラ502a〜502eをX方向に一列に支持し、支柱506a、506bに沿ってZ方向に上下動する支持部材504と、支持部材504のZ方向の位置計測と駆動とを行う制御部508とで構成される。制御部508で計測される支持部材504のZ方向の位置情報は、蓄積装置BF1、BF2の各々に蓄積されるシート基板Pの長さ(蓄積長)に対応したものであり、図14の上位制御装置200と共に図5の主制御部50にも送られる。従って、露光装置EXの主制御部50は、上流側の蓄積装置BF1と下流側の蓄積装置BF2との各々に蓄積されているシート基板Pの現時点での実蓄積長、或いは蓄積限界長までのシート基板Pの蓄積可能長を把握することができる。
蓄積装置BF1、BF2は、露光装置EXを通るシート基板Pの搬送速度と、上流側の処理装置PR2と下流側の処理装置PR4との各々を通るシート基板Pの搬送速度との差を吸収するために設けられる。本実施の形態では、露光装置EXの稼働を一時停止するシーケンスの実行前に、上位制御装置200或いは主制御部50が、蓄積装置BF1、BF2の各々のその時点におけるシート基板Pの実蓄積長と蓄積可能長とを判定する。図14の製造ラインの場合、シート基板Pは、蓄積装置BF1、露光装置EX、蓄積装置BF2の順に通るので、露光装置EXの稼動(シート基板Pの搬送)を一時的に停止させる直前の時点で、上流側の蓄積装置BF1はシート基板Pをほとんど蓄積していない状態(実蓄積長≒最低蓄積長、蓄積可能長≒蓄積限界長の状態)にし、下流側の蓄積装置BF2はシート基板Pをほぼ一杯に蓄積した状態(実蓄積長≒蓄積限界長、蓄積可能長≒零)にしておくのが好ましい。
図15のように、ダンサーローラ502a〜502eを支持する支持部材504がZ方向の最も負側(最下方)に位置すると、固定ローラ501a〜501dとダンサーローラ502a〜502e(破線で示す)とのZ方向の位置関係が反転し、搬入側のニップローラ500a、500bから搬出側のニップローラ503a、503bまで、シート基板PをX方向に直線的に搬送可能となる。シート基板Pがニップローラ500a、500bからニップローラ503a、503bまで直線的に搬送されている状態は、実蓄積長が最低蓄積長(或いは零)の状態である。また、支持部材504がZ方向の最も正側(最上方)に位置すると、シート基板Pはダンサーローラ502a〜502eと固定ローラ501a〜501dとの間を交互に掛け回された状態で、ニップローラ500a、500bからニップローラ503a、503bまで搬送される。支持部材504が最上方に位置したときに、ニップローラ500a、500bとニップローラ503a、503bとの間に蓄積されるシート基板Pの長さが蓄積限界長となる。
そこで、上位制御装置200或いは主制御部50は、露光装置EXの一時停止の可否を判断する際に、蓄積装置BF1、BF2の各々におけるシート基板Pの実蓄積長を、制御部508で計測される支持部材504のZ方向の位置に基づいて推定する。さらに、露光装置EXがシート基板Pの搬送を停止したときに、シート基板Pの処理装置PR2からの搬出速度に基づいて、蓄積装置BF1の実蓄積長が蓄積限界長に達するまでの時間ΔTbf1を推定し、シート基板Pの処理装置PR4への搬入速度に基づいて、蓄積装置BF2の実蓄積長が最低蓄積長に達するまでの時間ΔTbf2を推定する。この2つの時間ΔTbf1、ΔTbf2のいずれもが、一時停止の停止継続時間Tcs(図6で説明)よりも長い場合、上位制御装置200或いは主制御部50は、直ちに一時停止のシーケンス(図6、図8、図12)を実行可能と判断する。時間ΔTbf1、ΔTbf2の少なくとも一方が、一時停止の停止継続時間Tcsよりも短い場合は、直ちに一時停止のシーケンスを開始できないと判断し、上位制御装置200は、蓄積装置BF1、BF2の各々における実蓄積長の調整が可能か否かを判断する。図14のようなロール・ツー・ロール方式の製造ラインでは、通常、どの処理装置PR1〜PR5でもシート基板Pの搬送速度が同じになるように設定されるが、処理装置によっては、一時的にシート基板Pの搬送速度を高めたり低めたりすることが可能な場合がある。
図14の製造ラインの場合、露光装置EXの上流側の処理装置PR2を通るシート基板Pの搬送速度を通常の規定速度から一時的に低下させることが可能なときは、それによって、蓄積装置BF1の実蓄積長が徐々に短くなり、結果として時間ΔTbf1を長くすることができる。また、下流側の処理装置PR4を通るシート基板Pの搬送速度を規定速度から一時的に増加させることが可能なときは、それによって、蓄積装置BF2の実蓄積長が徐々に長くなり、結果として時間ΔTbf2を長くすることができる。上位制御装置200は、処理装置PR2と処理装置PR4の各々において、そのような搬送速度(時間ΔTbf1、ΔTbf2)の調整が、稼動停止までの猶予時間である停止時間Tsq(図6で説明)の間に可能か否かを判定する。停止時間Tsq内に搬送速度(時間ΔTbf1、ΔTbf2)の調整が可能な場合、上位制御装置200は処理装置PR2と処理装置PR4の両方、又はいずれか一方におけるシート基板Pの搬送速度の一時的な変更を指令し、処理装置PR2又は処理装置PR4は指令された搬送速度でシート基板Pに所定の処理を施すように、他の制御パラメータを調整する。停止時間Tsq内に搬送速度(時間ΔTbf1、ΔTbf2)の調整が不可能な場合、上位制御装置200は主制御部50に、蓄積装置BF1、BF2での蓄積長の調整が不可能であることを通知すると共に、製造ラインの全ての処理装置PR1〜PR5に対して稼動中止の指令を送る。これは、露光装置EXの付加作業の実施の為に、製造ライン全体を停止せざるを得ないことを意味する。
しかしながら、露光装置EXの上流側と下流側に蓄積装置BF1、BF2を設けることで、露光装置EXの稼動を一時停止できる可能性を格段に高くでき、それによって、他の処理装置PR1、PR2、PR4、PR5の稼動を一時停止させることなく、露光装置EXの付加作業(リトライ、較正作業、保守作業等)を実行することができる。一例として、製造ラインにおけるシート基板Pの搬送速度の規定値を10mm/秒とした場合、シート基板Pは1分間に0.6m進むので、約30分程度の蓄積長を確保するには、蓄積装置BF1、BF2は、約18m分のシート基板Pが溜め込めるように、ダンサーローラ502a〜502eと固定ローラ501a〜501dとによる折り返し回数と、ダンサーローラ502a〜502eと固定ローラ501a〜501dとのZ方向の最大離間寸法とを設定すれば良い。ダンサーローラ502a〜502eと固定ローラ501a〜501dとのZ方向の最大離間寸法を1.8m程度にすると、シート基板Pの折り返し回数は10回程度となる。
以上、第3の実施の形態によれば、製造ライン中の露光装置EX(パターニング装置)が短時間の付加作業を必要とする際でも、他の処理装置の稼働を一時停止させることなく露光装置EX(パターニング装置)の稼動を一時停止できる。また、第3の実施の形態においても、第1又は第2の実施の形態と同様に、露光装置EX(パターニング装置)を再稼働させる際には、シート基板P上の位置と露光位置(描画ラインSL1〜SL6)との相対的な位置関係をほぼ正確に再現することが可能なので、再稼働開始からシート基板Pを安定に処理するまでの立ち上り時間を短くでき、ダウンタイムを低減できるといった利点が得られる。
〔露光装置に関する変形例1〕
以上の第1、第2、第3の各実施の形態では、走査ビームのスポット光によってパターンを露光する直描方式の露光装置EXを使う場合の構成を説明したが、その他の露光方式の露光装置であっても良い。例えば、平面マスクや円筒マスクに形成されたマスクパターンを紫外波長域の照明光で照明し、マスクパターンからの透過光または反射光をシート基板P上に近接(プロキシミティ)方式、或いは投影(プロジェクション)方式で露光する装置構成であっても良い。また、姿勢変化可能な微小ミラーの複数をマトリックス状に配列したDMD(デジタル・ミラー・デバイス)やSLM(空間光変調器)と、マイクロレンズアレーとを用いて、パターンのCADデータに基づいて、基板上に2次元でパターンを描画するマスクレス露光機であっても良い。
〔露光装置に関する変形例2〕
露光装置が正常に稼働している場合、シート基板P上にはほぼ絶え間なくパターンが描画又は露光され続けるため、露光装置内のビーム光路や各光学部品、或いは各部品の設置部は、ほぼ一定の温度範囲(例えば±0.5℃以内)で安定している場合が多い。しかしながら、稼動中である露光装置を一時停止させると、露光装置内の熱源となり得る部材や部品の動作状態が大きく変わり、露光装置内の環境温度の分布も大きく変化する。その為、熱源となり得る部材や部品が再稼働時に起動することで、再び環境温度の分布も変化し、それによって再稼働の直後にシート基板P上に転写されるパターンの品質が劣化する可能性もある。そこで、第1の実施の形態(図2〜図5)で説明した露光装置EXにおいては、一時停止中にレーザ光源LSa、LSbの発振を止めたり、図2のようにレーザ光源LSa、LSbのビームの射出窓の直後に設置したシャッターSHでビームを遮蔽したりする場合でも、図5に示した音響光学偏向素子AOM1〜AOM6が稼動時とほぼ同じ条件でOn/Off駆動されるように、スイッチング素子駆動部56で制御し続ける。さらに、各描画ユニットU1〜U6内のポリゴンミラーPMも、稼動時とほぼ同じ条件(回転速度)で回転するように制御し続ける。
〔露光装置に関する変形例3〕
また、図5に示したダンパー(光吸収体)Dmpは、露光装置EXがシート基板Pにパターン描画をしている間、音響光学偏向素子AOM1〜AOM6がOff状態のタイミングで、レーザ光源LSa、LSbからのビームLBa、LBbを吸収する為、熱源となり得る。そのため、一時停止の際にレーザ光源LSa、LSbからのビームLBa、LBbの発振を止めたり、シャッターSHでビームLBa、LBbを遮蔽した場合、ダンパーDmpの温度が大きく変化(低下)する。そこで、ダンパーDmpの温度変化をモニターする温度センサーや、ダンパーDmpの温度を稼働時の状態と同様の温度に保つための温調機構を設けるのが良い。なお、ダンパーDmpの熱が周囲の光学部品やその設置部に伝わることを抑制する為に、ダンパーDmpの周囲に断熱構造(セラミックの断熱材やアクティブな冷却機構等)を設けても良い。その他、連続してパターン描画を行っている稼動状態からパターン描画を中断した非稼働状態に移行したとき、又はその逆のときに、描画用のビームの透過や反射によって比較的早く温度変化する光学部材が存在する場合は、その光学部材の温度変化が抑えられるような個別の温調機構や放熱機構を設けるのが良い。
〔露光装置に関する変形例4〕
露光装置EXの稼動が停止(シート基板Pの搬送が停止)すると、アライメント系AMnによるシート基板P上のマークMK1〜MK4の検出動作も中止される。アライメント系AMnは、シート基板P上の感光層に対して非感光性の波長域のアライメント用の照明光を照射するが、稼動停止中は、アライメント用の照明光の照射を中止し、アライメント系AMnの対物レンズを介してマークMK1〜MK4の拡大像を検出する2次元撮像素子(CCD、CMOS等)の撮像動作も停止状態にする。図2に示したように、アライメント系AMnは描画ユニットU1、U3、U5と回転ドラムDRとの間の狭い空間内に設置される為、アライメント用の照明光がアライメント系AMnを通ることによって、アライメント系AMn自体の温度が外気温度よりも上昇し易い。さらに、2次元撮像素子も、ほぼ一定の時間間隔で撮像動作(画像取込み動作、又はシャッター動作とも呼ぶ)を続けている場合、2次元撮像素子の駆動回路や画像信号の増幅回路等が外気温に対して大きく温度上昇する。そこで、露光装置EXが稼動停止状態の間、アライメント系AMnのアライメント用の照明光はシート基板P(又は回転ドラムDR)を照射し続けるようにし、2次元撮像素子は、稼動時のマークMK1〜MK4の検出時とほぼ同じインターバル、同じ条件で撮像動作(画像取込み動作、シャッター動作)を続けるように制御しても良い。これによって、稼動状態から非稼働状態に遷移したり、非稼働状態から稼働状態に遷移したりする場合であっても、アライメント系AMnを外気温に対してほぼ一定量だけ上昇した温度に安定させることができる。
また、アライメント用の照明光をアライメント系AMnに通し続ける場合、稼動停止中のシート基板P上の同じ位置にアライメント用の照明光が投射され続けるので、感光層の種類と投射継続時間(停止継続時間Tcs)によっては、感光層に影響を与えることもある。そこで、アライメント系AMn内の対物レンズの直前または直後に、アライメント用の照明光を遮蔽する可動シャッターを設けて、一時停止、又は緊急停止のシーケンスによってシート基板Pの搬送が停止される際に、可動シャッターを光路中に挿入して、アライメント用の照明光のシート基板Pへの投射を阻止しても良い。その場合でも、2次元撮像素子は、稼動時のマークMK1〜MK4の検出時とほぼ同じインターバル、同じ条件で撮像動作(画像取込み動作、シャッター動作)を続けるように制御される。
〔露光装置に関する変形例5〕
シート基板Pの複数の露光領域Wn(Wna、Wnb)への露光処理が、重ね合せ露光(セカンド露光)の場合は、図7や図10に示したように、シート基板P上の各露光領域Wn(Wna、Wnb)には、ファースト露光の際に描画されたマークMK1〜MK4や番地標記パターンAPnが形成される。そのため、再稼働時には、それらのマークMK1〜MK4や番地標記パターンAPnをアライメント系AMn等で検知することで、再稼働時に最初にパターン描画すべき露光領域(ショット領域)と、その露光領域に対する描画開始位置とが特定される。特に、描画開始位置は、重ね合せ精度を許容誤差範囲内に抑えるために重要である。そこで、ファースト露光の際に、例えば図16に示すように、各露光領域Wn(Wna、Wnb)の描画開始位置(先頭位置)を表すトリガーマークMTg1、MTg2、MTg3を、シート基板P上のアライメント系AMnで検出可能な位置、或いは描画ラインSL1〜SL6の少なくとも1つによって走査可能な位置に形成しておく。
図16において、3つのトリガーマークMTg1、MTg2、MTg3は、搬送方向(X方向)に隣り合う露光領域Wn、Wn−1の間の余白部に配置され、各トリガーマークMTgnは、搬送方向に上底辺と下底辺が並ぶ台形に形成されている。各トリガーマークMTgnの上底辺と下底辺との搬送方向の寸法ΔLgaは数十μm〜数百μm程度であり、各トリガーマークMTgnの上底辺と露光領域Wnの先頭位置との搬送方向の間隔寸法ΔLgbは、数μm〜数十μm程度に設定されている。各トリガーマークMTgnの下底辺のY方向の寸法は数十μm程度に設定される。トリガーマークMTg1は、Y方向に関してマークMK1とほぼ同じ位置(アライメント系の顕微鏡対物レンズAM11で検出可能な位置)に配置され、トリガーマークMTg3は、Y方向に関してマークMK4とほぼ同じ位置(アライメント系AM14で検出可能な位置)に配置される。トリガーマークMTg2は、Y方向に関してトリガーマークMTg1とMTg3の中間位置に配置されるため、アライメント系AM12、AM13では検出不能である。さらにトリガーマークMTg1は、描画ラインSL1のY方向の端部付近でスポット光によって走査可能な位置に配置され、トリガーマークMTg3は、描画ラインSL6のY方向の端部付近でスポット光によって走査可能な位置に配置される。トリガーマークMTg2は、描画ラインSL3又はSL4のY方向の端部付近でスポット光によって走査可能な位置に配置される。
ファースト露光の後にプロセス(現像処理と、エッチング又はメッキ処理)を経たシート基板Pには、これらのマークMK1〜MK4、トリガーマークMTg1〜MTg3が金属層として形成されることが多い。そこで、再稼働直後の最初の露光が露光領域Wnに対して行われるものとすると、アライメント系の顕微鏡対物レンズAM11〜AM14の位置に対して、余白部が上流側に位置するようにシート基板Pを送った後、シート基板Pを順方向に一定速度で搬送しつつ、アライメント系の顕微鏡対物レンズAM11によってトリガーマークMTg1を検出したときの位置(図3のエンコーダヘッドECnで計測される位置)と、アライメント系AM14によってトリガーマークMTg3を検出したときの位置(図3のエンコーダヘッドECnで計測される位置)とを記憶する。
その後、アライメント系AMnから奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5、又は偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6までのベースライン長、シート基板Pの送り量等に基づいて、トリガーマークMTg1が描画ラインSL1に達する位置を推定する。トリガーマークMTg1が描画ラインSL1で走査される位置に来たら、描画ユニットU1によって、トリガーマークMTg1を含む描画ラインSL1中のY方向の一部分に渡ってスポット光が連続的に走査されるように、実パターンの描画データとは異なるダミーデータで、トリガーマークMTg1を含む大きさの矩形状パターン(ダミーパターン)を描画する。ダミーパターンのシート基板P上の位置、特に搬送方向(副走査方向)の位置は回転ドラムDRの回転角度位置を計測するエンコーダシステム(エンコーダヘッドECn、アライメント/ステージ制御部58内のカウンタ)によって精密に計測されている。ダミーパターンを描画する際、描画ラインSL1に沿ってシート基板P上を走査するスポット光がトリガーマークMTg1(金属層)を横切ると、トリガーマークMTg1の周囲部分とトリガーマークMTg1自体との反射率の差に応じて強度変化する反射光(正反射光)が発生する。描画ユニットU1内に、その反射光を検出する光電センサーを設けると、描画用のビームLB1のスポット光を計測プローブとしたトリガーマークMTg1の位置検出系(所謂、アライメントセンサー)を構成することができる。
図17は、シート基板P(又は回転ドラムDRの外周面)からの反射光を検出可能とした描画ユニットU1の概略的な構成を示す斜視図である。ビーム光路調整機構BDU(図2参照)から落射される描画用のビームLB1は、ミラーM10で直角にX方向に折り曲げられた後、ミラーM11によってY方向に折り曲げられる。ミラーM11で反射したビームLB1は、光分割部材(偏向ビームスプリッタ)BS1でX方向に反射され、ミラーM12でZ方向に反射され、ミラーM13によってX方向に進むように反射される。ミラーM13からのビームLB1はシリンドリカルレンズCYaでZ方向に収斂された状態で、ミラーM14を介してポリゴンミラーPMの反射面に投射される。ポリゴンミラーPMの反射面で反射したビームLB1(走査ビーム)は、f−θレンズFTを通り、ミラーM15でZ方向に反射され、シリンドリカルレンズCYbを通ってシート基板P上にスポット光SPとして集光される。このような構成で、ポリゴンミラーPMの回転駆動モータRMによってスポット光SPはY方向に主走査され、描画ラインSL1が形成される。描画ラインSL1上のどの位置においても、スポット光SPとなる描画ビームLB1の主光線がシート基板Pの表面(回転ドラムDRの外周面)と垂直になるように、f−θレンズFTはテレセントリック系となるように設計される。テレセントリック系とは、f−θレンズFTから射出する描画用のビームLB1の主光線が、常にf−θレンズFTの光軸AXfと平行になるような系である。なお、シリンドリカルレンズCYa、CYbはポリゴンミラーPMの反射面の僅かな倒れによる影響を補正する面倒れ補正系として機能する。また図17では、光路中の適当に配置される複数のレンズは図示を省略してある。
スポット光SPがシート基板P上に投射されると、シート基板Pの表面の反射率に応じた強度で正反射光が発生する。その正反射光は、f−θレンズFTがテレセントリック系であることから、シリンドリカルレンズCYb、ミラーM15、f−θレンズFT、ポリゴンミラーPM、ミラーM14、シリンドリカルレンズCYa、ミラーM13、M12を介して、光分割部材BS1まで戻ってくる。光分割部材BS1を透過した正反射光は、光電センサーDT1で受光される。光電センサーDT1は、応答性が高いPINフォトダイオード等で構成され、スポット光SPが主走査される間に発生する正反射光の強度変化に応じた光電信号を出力する。さらに、描画ユニットU1内には、ポリゴンミラーPMの各反射面の角度が所定角度になった瞬間を表す原点信号を生成する為に、ポリゴンミラーPMの反射面に向けて計測ビームを投射する光源部60aと、ポリゴンミラーPMの反射面で反射した計測ビームを受光して原点信号を出力する受光部60bとが設けられている。ポリゴンミラーPMの回転速度が既知の場合、描画ラインSL1上におけるスポット光SPの走査位置、すなわちシート基板P上でのY方向の位置は、原点信号(パルス信号)を基準とした時間経過、例えばレーザ光源LSa、LSbのクロック信号のクロックパルスの計数値で把握することができる。なお、光電センサーDT1の受光面は、光路中に配置される不図示のレンズ系によって、シート基板Pの表面(スポット光SP)と光学的に共役な関係に設定される。
そこで、図17の光電センサーDT1からの光電信号の波形変化を、レーザ光源LSa、LSbのクロック信号に応答して高速にデジタルサンプリングし、その波形変化を解析することによって、矩形状に描画されるダミーパターンの位置を基準としたトリガーマークMTg1の相対的な位置関係(副走査方向と主走査方向の位置誤差)を求める。トリガーマークMTg1は、露光すべき露光領域Wnの先頭位置に対して既知の間隔寸法ΔLgbだけ手前に形成されているので、求められた相対的な位置関係に基づいて、描画用のビームLB1のスポット光SPによる描画開始位置を露光領域Wnの先頭位置に精密に合わせる為の補正が、露光領域Wnの露光開始の直前に可能となる。
以上のように、他の描画ユニットU2〜U6にも同様の光電センサーDT1を設けて、正反射光を検出する機能を設けることによって、シート基板P上の他のトリガーマークMTg2、MTg3の位置を、描画用のビームで直接計測することが可能となり、露光領域Wnの先頭位置から精密に位置合せされた状態で重ね合せ露光ができる。また、トリガーマークMTg1〜MTg3の各々の描画用のビームによる位置計測は、図16におけるX方向とY方向の2次元で可能であるので、描画ラインSL1〜SL6によるパターン描画のY方向の位置と露光領域WnのY方向の位置との相対的な誤差を求めて、その誤差が補正されるようにパターン描画位置をY方向に微小シフトさせることもできる。
以上、描画用のビームを計測プローブとしたシート基板P(露光領域Wn)の位置計測の為に、専用のトリガーマークMTg1〜MTg3を予めシート基板P上の特定位置に形成するものとしたが、トリガーマークMTg1〜MTg3の代わりに、アライメント用のマークMK1〜MK4を用いても良い。マークMK1〜MK4も、ファースト露光後のプロセスによって金属層として形成されることになるので、描画ユニットU1〜U6の各々に設けられた光電センサーDT1のいずれかの光電信号をモニターすることで、露光領域Wnに対するパターン描画動作の開始直前に、露光領域Wnの先頭位置を精密に特定することができ、良好な重ね合せ精度を維持した露光処理が継続できる。
図16、図17で説明したように、描画用のビーム(露光用ビーム)を用いて、周囲と反射率が異なるシート基板P上の特定のパターン(又はマーク、或いは回路パターン中の特定パターン)の位置を、露光領域Wnに対する露光動作開始の直前に検知し、相対的な位置誤差を求めて補正する露光シーケンスは、一時停止後の再稼働後の露光動作に限られず、露光装置EXがシート基板Pに対して正常に露光動作を続けている間も実施することができる。これにより、シート基板Pの比較的に大きな伸縮や変形に応じて発生する露光領域Wnの各々の形状歪の傾向が個々に異なっている場合であっても、露光領域Wn毎に精密な重ね合せ露光が可能となる。
〔露光装置に関する変形例6〕
先の各実施の形態では、一時停止の際にシート基板Pの搬送を停止させた場合、回転ドラムDRの回転も停止させるものとした。しかしながら、回転ドラムDRを回転駆動するモータ等の駆動を停止した場合、露光装置EXのチャンバーCB(図1、図2参照)内の空調状態が変化し、再稼働時に温度変化に起因したドリフトが発生するおそれもある。そこで、本変形例では、シート基板Pの搬送は停止状態にしたまま、回転ドラムDRを稼働時と同じ条件で回転させ続けるようにする。図2に示した構成において、シート基板Pの搬送を停止させたときに、例えば、上流側のニップローラNR1でシート基板Pを係留した後、テンションローラRT5、RT6(RT7)によるテンションがシート基板Pに作用しない状態まで、下流側のニップローラNR2(NR2’)を少しだけ逆転させる。これによって、シート基板Pは、ニップローラNR1とニップローラNR2(NR2’)との間で弛んだ状態で係止される。その後、弛んだシート基板Pの裏面側で回転ドラムDRの外周面を滑らせるように、回転ドラムDRを稼働時と同じ速度で回転駆動させる。
この場合、シート基板Pの裏面側が回転ドラムDRの外周面と擦れることにより、シート基板Pに傷がついたり、塵埃(異物)が発生したりするおそれがある。傷や塵埃の発生を避ける必要がある場合、回転ドラムDRの外周面に無数の微小な気体噴出孔を設け、回転ドラムDRの内部に圧力気体を供給して外周面の気体噴出孔から気体を噴出し、回転ドラムDRの外周面からシート基板Pの裏面を少し浮かせることで、接触を避けることができる。また、ニップローラNR1とニップローラNR2(NR2’)との間でシート基板Pを弛んだ状態にした後、回転ドラムDRの外周面とシート基板Pとの間に、径が小さい補助ローラ又は剛性の高い単なる丸棒を複数ヶ所に差し入れて、シート基板Pを回転ドラムDRの外周面から径方向に離間させるように、保持ローラを移動させても良い。
〔搬送装置に関する変形例1〕
図14に示した第3の実施の形態のように、露光装置EXの上流側や下流側に蓄積装置BF1、BF2が設けられている場合で、露光装置EXの一時停止の停止継続時間Tcsが長くなり、蓄積装置BF1、BF2でのシート基板Pの溜め込みや掃出しに限界が達してしまう場合、或いは、処理装置PR1〜PR5のいずれかの重大なトラブルによって緊急停止させる必要が生じた場合、製造ライン全体の稼動を停止させることになる。その場合、蓄積装置BF1、BF2内に溜め込まれたシート基板Pは、例えば図15で示した搬入側のニップローラ500a、500bと搬出側のニップローラ503a、503bとの間で所定のテンションが与えられたまま搬送停止状態になる。従って、蓄積装置BF1の上流側の処理装置PR2と下流側の露光装置EXとの両方が稼動停止になるとき、又は蓄積装置BF2の下流側の処理装置PR4と上流側の露光装置EXとの両方が稼動停止となるときは、蓄積装置BF1、BF2内のシート基板Pにテンションが付与されないように、各ニップローラである固定ローラ501a、501b、503a、503bのニップを解除したり、ダンサーローラ502a〜502eを支持する支持部材504を下方に移動させたりする。
〔他の処理装置に関する変形例1〕
図14に示した第3の実施の形態のように、露光装置EXが前後の処理工程をつかさどる複数の処理装置とインラインで組み合されてロール・ツー・ロール方式でシート基板Pを処理する場合、図14では図示を省略したが、成膜処理装置PR2、現像処理装置PR4、エッチング処理装置PR5のようなシート基板Pのウェット処理工程の後には、シート基板Pを洗浄、乾燥・加熱させる工程が必要となる。乾燥・加熱工程では、乾燥の為の加熱領域の搬送路長とシート基板Pの搬送速度とに応じて、乾燥(加熱)時間を設定する場合がある。緊急停止の要求に基づいて製造ライン全体の稼動を停止させる場合、或いはウェット処理装置(PR2、PR4、PR5)のいずれか1つを一時停止する場合、ウェット処理装置に付随した乾燥・加熱処理部でも、シート基板Pの搬送が停止することになる。緊急停止の場合は、重大なトラブルが解消されて再稼働できるまでの時間が長いので、乾燥・加熱処理部は緊急停止の要求を受けた時点で、加熱用のヒータの駆動や温調気体の送風を停止し、加熱領域を環境温度まで低下させる。
一方、ウェット処理装置が一時停止する場合であって、その停止継続時間が比較的に短い場合は、加熱用のヒータの駆動や温調気体の送風を調整して、正常稼働時に設定される加熱領域の目標温度を予想される停止継続時間に応じて低下させる。一例として、シート基板PがPETフィルムの場合、そのガラス転移温度は110℃前後であるが、大きな伸縮を避ける為には加熱温度として100℃程度までに抑えるのが良い。しかしながら、一時停止によって加熱領域内で設定時間以上に渡って、シート基板Pが100℃の温度に曝されていると、シート基板Pが大きく変形する可能性もある。そこで、シート基板Pの搬送が一時停止する停止継続時間が短いときは、初期の目標温度100℃を、例えば70℃程度に低下させ、停止継続時間が長くなるときは、初期の目標温度100℃を、例えば40℃程度に低下させる。停止継続時間が短い場合、シート基板Pの搬送が停止してから再び搬送が開始するまでの時間が短いので、加熱領域の温度を大きく下げてしまうと、加熱領域を再び元の目標温度に戻す為に時間がかかってしまうからである。
このように、ウェット処理後の乾燥・加熱処理部の温度設定を、予想される一時停止の停止継続時間に応じて変えることにより、停止継続時間が経過した後の再稼働時から、元の温度条件による乾燥・加熱処理が再開できる。しかも、一時停止中にシート基板Pに熱的なダメージを与えることが抑えられる。なお、乾燥・加熱処理部の加熱領域に設定される目標温度を、予想される停止継続時間の経過に伴って動的に変更しても良い。例えば、一時停止の直後には目標温度を一旦大きく落とした後、停止継続時間の経過に伴って目標温度を徐々に上げ、停止継続時間の終了時点では、ほぼ当初の目標温度になるように連続的または段階的に温度変化させても良い。このようにすると、乾燥・加熱処理部での消費電力を抑えつつ、予想される再稼動のタイミングで適正な温度設定の下での処理が再開でき、生産性の低下を抑えることができる。
[第4の実施の形態]
図18は、第4の実施の形態によるデバイス製造システム(ロール・ツー・ロール方式の一貫製造ライン)の概略的な外観を示す斜視図であり、先の図14で説明した製造システムをベースとして、基板供給ユニット30A、処理装置PR1、PR2、PR3、及び基板回収ユニット30Bが、工場の床面上にシート基板Pの搬送方向(長尺方向)であるX方向に一列に並べて設置される。処理装置PR1、PR2、PR3の各々の内部の温度や空調状態(風量や湿度等の状態)は、個別に設定される場合が多い為、処理装置PR1、PR2、PR3は、それぞれ適切なチャンバー内に収容されている。
基板供給ユニット30Aに装着される2つの供給ロールFRa、FRbのうち、シート基板Pを送り出しているのは供給ロールFRaであり、供給ロールFRbは、供給ロールFRaからのシート基板Pの終端近傍に接合される新たなシート基板Pが巻き回された予備の供給ロールである。基板供給ユニット30Aは、例えば、国際公開第2013/175882号パンフレットに開示されているようなシート基板の切断機構と、2つのシート基板Pの一方に、他方のシート基板の先端部を接合する接合機構とを備えている。処理装置PR1、PR2、PR3を経て処理されたシート基板Pを回収する基板回収ユニット30Bは、基板供給ユニット30Aと同様に構成される切断機構と接合機構とを備え、基板供給ユニット30AをXY面内(工場の床面上)でZ軸と平行な軸線回りに180度回転させて配置したものである。図18では不図示であるが、基板回収ユニット30Bにも、基板回収用の2つの回収ロールRRa、RRbが装着可能となっている。このように、2つの供給ロールを装着して、シート基板を継ぎ足して連続供給する基板供給ユニット30Aと、2つの回収ロールを装着して、シート基板を連続して回収可能とする基板回収ユニット30Bとが、同じ機構で実現できることも、先の国際公開第2013/175882号パンフレットに開示されている。
基板供給ユニット30Aから搬出されるシート基板Pは、処理装置PR1にて、シート基板Pの表面の活性化や清掃、帯電荷除去の処理を受けた後、処理装置(成膜処理装置)PR2に送られる。処理装置PR2は、シート基板Pの表面に感光性機能層としてのフォトレジスト(液体)を一様な厚さで塗布するダイコータ方式の塗布部PR2Aと、塗布されたフォトレジストから溶剤を蒸発させてフォトレジストを硬化させる加熱乾燥部PR2Bとで構成される。加熱乾燥部PR2Bは、シート基板P上に形成されるフォトレジスト層をプリベイクする機能も有し、シート基板Pに所定の時間に渡って高い温度(100℃以下)が与え続けられるような搬送路を備えている。処理装置PR2の加熱乾燥部PR2Bから搬出されるシート基板Pは、図14と同様に、搬送路の上流側と下流側の各々に蓄積装置BF1、BF2が配置される露光装置EXを含む処理装置PR3に送られる。蓄積装置BF1は、例えば図15に示したように、複数のダンサーローラ502a〜502eや複数の固定ローラ501a〜501dを備えると共に、加熱乾燥部PR2Bで温められたシート基板Pを常温(例えば23℃)まで冷やす為の温調機構を備えている。この温調機構は、蓄積装置BF1を覆うチャンバー内で常温に制御された温調気体を所定の流量で送風(循環)させる構成、固定ローラ501a〜501d(又はダンサーローラ502a〜502e)に向けて温度制御された温調気体をノズルから噴射する構成、或いは、蓄積装置BF1内に搬入したシート基板Pが最初に接触するニップローラ500a、500bを、常温よりも低い温度に制御する構成、等によって実現できる、
蓄積装置BF1を通ったシート基板P(フォトレジスト付)は、露光装置EXに搬入されて、電子デバイス(表示パネル用の回路、電子部品実装用の配線回路等)に対応したパターンがフォトレジスト層に露光される。露光装置EXは、図2、図17に示したような直描方式のパターン描画装置、平面マスクや円筒マスクを用いるプロキシミティ方式やプロジェクション方式の露光装置、DMDやSLM等を用いたマスクレス露光機のいずれかで構成される。露光処理されたシート基板Pは、下流側の蓄積装置BF2を通って処理装置PR4に送られる。露光後のシート基板P上のフォトレジスト層には、紫外線の照射を受けた部分と未照射の部分とに応じたパターンの潜像が転写されているが、その潜像のにじみを抑える為にシート基板Pを加熱するポストベーク処理が行われる場合もある。その場合は、蓄積装置BF2を収容するチャンバー内に電熱ヒータ、赤外線光源、温風噴射ノズル等を設けて、シート基板Pを加熱すれば良い。本実施の形態では、処理装置PR4はシート基板Pを現像液に浸漬してフォトレジスト層を現像した後、純水洗浄を行う現像処理部PR4Aと、現像処理、洗浄処理で濡れたシート基板Pから水分を蒸発させる乾燥処理部PR4Bとで構成される。処理装置PR4の乾燥処理部PR4Bで乾燥されたシート基板Pの表面にはパターニングされたレジスト層が形成され、シート基板Pは基板回収ユニット30Bで回収ロール(RRa、RRbのいずれか一方)に巻き取られる。
図18のデバイス製造システムによって、シート基板P上にサブトラクト方式(引き算方式)で電極パターンや配線パターン等を形成する場合、供給ロールFRaに巻かれたシート基板Pの表面には、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、酸化インジウムスズ(ItO)等を材料とする導電性の薄膜(導電層)が形成され、処理装置PR2では、その導電層の上にフォトレジスト層が塗布される。図18では、処理装置PR4で現像/乾燥処理されたシート基板Pが回収ロール(RRa、又はRRb)で巻き取られるものとしたが、引き続き、導電層に対してエッチング処理を行う湿式の処理装置PR5(図14参照)にシート基板Pを通し、乾燥処理を行ってから回収ロールで巻き取るのが望ましい。
また、図18のデバイス製造システムによって、シート基板P上にアディティブ方式(足し算方式)で電極パターンや配線パターン等を形成する場合、処理装置PR2はシート基板Pの表面に、感光性機能液として、例えば国際公開第2016/163525号パンフレットに開示されているような感光性のメッキ還元剤(紫外線の照射により保護基(フッ素基)が外れて金属イオンを還元するようなアミン基が露出する高分子材料)の溶液を塗布し、乾燥させる。処理装置PR3(露光装置EX)は、露光量(ビーム強度)を補正する程度の調整行って、電子デバイスの電極や配線のパターンに対応した紫外線の露光光をシート基板Pの感光性機能層に投射する。処理装置PR4は、シート基板Pの表面に無電解メッキ用のメッキ液(例えば、パラジウムイオンを含む)を浸漬させて、電極や配線のパターンの形状に応じてメッキ核(パラジウム)を析出させる第1メッキ処理部と、メッキ核の上にニッケル・リン(NiP)による無電解メッキを施す第2メッキ処理部と、純水によってシート基板Pを洗浄する洗浄部と、シート基板Pを乾燥する乾燥部とで構成される。この場合、基板回収ユニット30Bの回収ロールで巻き取られるシート基板Pの表面には、NiPの金属層による電極パターンや配線パターンが形成される。
本実施の形態では、図18に示したデバイス製造システムの全体の状態、又は、処理装置PR1〜PR4、基板供給ユニット30A、基板回収ユニット30Bの個々の状態を管理する為に、工場の床面上をキャスター等によって移動可能な制御ラックRCUが設けられる。制御ラックRCUは、工場のホストコンピュータとのデータ通信に関するソフトウェア、個々の処理装置PR1〜PR4、基板供給ユニット30A、基板回収ユニット30B等の制御や通信に関るソフトウェア、デバイス製造システム全体の稼動状態の監視/管理に関るソフトウェア等がインストールされたコンピュータ(パーソナル・コンピュータ等)LPCと、コマンドやデータ等を入力するキーボードやスイッチボードで構成される入力デバイスRMDと、各種情報の表示や入力の為のタッチパネル式の表示モニターDSP(例えば32インチの液晶又は有機ELのパネル)等を備える。各種の通信は、有線方式、無線方式の少なくとも一方で行われるが、個々の処理装置PR1〜PR4、基板供給ユニット30A、基板回収ユニット30B(以下、まとめて、個別装置PR1〜PR4、30A、30Bとも呼ぶ)の各々の性能の確認操作、メンテナンス作業、又は調整作業(キャリブレーション動作)の際は、個別装置PR1〜PR4、30A、30Bの各々のチャンバーの正面(図18の−Y方向側の面)に設置されたコネクタのいずれか1つと制御ラックRCU(コンピュータLPC)とを、作業者が手動により有線方式で接続して各種通信を行う構成にすると良い。これは、メンテナンス作業や調整作業と言った重要な操作の対象となる個別装置PR1〜PR4、30A、30Bの選択ミスを減らすことに寄与する。
また、個別装置PR2〜PR4、30A、30Bの各々には、それ自体の稼動状態や動作条件等を表示したり、運転状態を制御したりする為のタッチパネル式の表示モニターCSPを、チャンバーの正面に設けても良い。これによって、工場のホストコンピュータ、制御ラックRCUのコンピュータLPCの障害、又は通信環境の障害等によって、制御ラックRCUを介したデバイス製造システムの管理や制御がダウンした場合でも、個別装置PR2〜PR4、30A、30Bの各々を、表示モニターCSPを介して作業者が個別に制御することにより、デバイス製造システムの稼動を可能な限り継続させるができる。
個別装置PR2〜PR4、30A、30Bの各々のチャンバー外壁に、タッチパネル式の表示モニターCSPを設置する代わりに、可搬式のタブレット端末機器(タッチパネル式の表示モニターを有する)を、表示モニターCSPの代わりに着脱可能に設置するような構成とし、1台のタブレット端末機器を、個別装置PR2〜PR4、30A、30Bのうちの監視又は操作が必要な装置のチャンバー外壁に取付けるようにしても良い。この場合、タブレット端末機器は、個別装置PR2〜PR4、30A、30Bのうちのいずれかに装着されたかを自動認識し、装着された個別装置に組み込まれている制御用のコンピュータと通信して各種制御情報を共有すると共に、装着した個別装置の稼働状態に関する情報を吸い上げて記憶する。また、タブレット端末機器は、制御ラックRCUのコンピュータLPCとも通信可能に構成され、コンピュータLPCをホストコンピュータとし、タブレット端末機器をスレーブコンピュータとして、装着した個別装置PR2〜PR4、30A、30Bのいずれか1つの制御、例えば、停止動作等を伴う較正作業や保守作業(図12の停止中の作業)等の動作を制御するようにしても良い。これにより、作業者は較正作業や保守作業が行われる個別装置PR2〜PR4、30A、30Bのいずれかのチャンバーの前で、確認用の窓や開けた扉を介して内部を確認しつつ、タブレット端末機器を操作することもできる。なお、タブレット端末機器は、一度、対象となる個別装置PR2〜PR4、30A、30Bのいずれか1つとの通信リンク(接続)が確立したら、チャンバー外壁から取り外して手元で操作することもできる。
図19は、図18の製造システムの全体の稼働状態を監視又は管理する為のソフトウェアによって、図18中の制御ラックRCUの表示モニターDSP、チャンバー外壁に取り付けられた表示モニターCSP、またはタブレット端末機器の表示モニターに表示される表示画面の一例を示す。図19では、横軸を時間として、稼働中の処理装置PR2〜PR4、蓄積装置BF1、BF2の各々の現在時刻での運転状況、現在時刻よりも以前の運転状況(過去状態)、及び現在時刻から所定時間先までの予想される運転状況とに関するステータス情報がグラフィカルに縦方向に並べて表示される。なお、図19の表示画面には現れていないが、画面の右端の上下スクロールバーSCBを上に操作することよって、処理装置PR2の上に処理装置PR1のステータス情報が同様に表示される。画面の上方には、時間軸帯400が分単位(又は30秒単位)で表示され、時間軸帯400上には現在時刻を表すマーカー402が表示される。画面の左上端の枠404内にも、現在時刻が数値で表記される。枠404内の現在時刻はリアルタイムに更新表示されると共に、処理装置PR2〜PR4、蓄積装置BF1、BF2の各々のステータス情報もリアルタイムに更新されて表示される。その為、マーカー402の位置を時間軸帯400上で横方向にドラッグしない場合は、時間軸帯400に表示される時間軸表記(時間スケール)と、装置PR2〜PR4、30A、30Bの各々のステータス情報とが画面内で左方向にリアルタイムに逐次シフトしていく。
また、マーカー402をドラッグして時間軸帯400上で最も右端にスライドさせると、現在時刻が最も右端となって、時間軸帯400の時間軸表記(時間スケール)と、装置PR2〜PR4、30A、30Bの各々のステータス情報とが全て過去状態としてリアルタイムに更新表示されていく。さらに、画面の最下端の左右スクロールバーSCBは、図19では、最も右側に寄せられているが、左右スクロールバーSCBを左側にスライドさせていくと、時間軸帯400の時間軸表記(時間スケール)と、装置PR2〜PR4、30A、30Bの各々のステータス情報とが画面内で左方向にリアルタイムにシフトし、現在時刻よりも先の時間帯の予想されるステータス情報が表示される。画面の左下端には、時間軸(タイムスケール)を1/2倍、1/4倍に縮小するズームアウトボタン405aと、時間軸(タイムスケール)を2倍、4倍に拡大するズームインボタン405bとが表示される。処理装置PR2〜PR4の各々のステータス情報としては、その処理装置を通るシート基板Pの搬送速度に対応する線グラフ(速度グラフ)Vpp2、Vpp3、Vpp4(まとめて呼称する場合はVppとする)と、処理装置での処理進行状況を表すバーグラフ(進行グラフ)410a、410b(まとめて呼称する場合は410とする)とが表示される。進行グラフ410aは現在時刻以前の状況を例えば濃い青で表わされ、進行グラフ410bは現在時刻以降の予想される状況を例えば淡い水色で表わされ、トラブル等によって装置稼働が緊急停止した場合は、例えば赤色に変化する。
処理装置PR2〜PR4の各々に対応した速度グラフVpp2、Vpp3、Vpp4と進行グラフ410a、410bの左側には、速度グラフVpp2、Vpp3、Vpp4中で、現在時刻でのシート基板Pの搬送速度の基準値からの増減が一目可能な棒グラフ(速度変動グラフ)406が表示される。搬送速度の基準値(基準速度)は、図18の製造システムにおいて供給ロールFRaから巻き出されて回収ロールRRで巻き取られる間に設定されるシート基板Pの標準搬送速度である。処理装置PR1〜PR4のうちで、シート基板Pの搬送速度が低く設定されるのはパターニング処理を行う処理装置PR3(露光装置EX)である。
露光装置の方式によっても異なるが、一例として、図2〜図5に示したようなスポット走査方式の直描露光装置の場合は、スポット光のサイズや解像度(パターンデータ上の最小画素寸法)、スポット光の多重走査回数等に応じて基準速度は10〜50mm/秒程度の範囲に設定される。円筒マスクを用いるプロキシミティ(近接)方式、又はプロジェクション(投影)方式の露光装置では、光源のパワー(照明光の照度)に応じて、基準速度として20〜100mm/秒程度の範囲に設定される。速度変動グラフ406は、処理装置PR1〜PR4の各々を通るシート基板Pの搬送速度が基準速度のときは矢印状のマーカーが上下方向の中間位置に表示され、搬送速度が基準速度よりも増加したときは矢印状のマーカーが中間位置よりも上方に表示される。速度変動グラフ406での速度変動の表示範囲(%)は、処理装置PR1〜PR4の各々で調整可能、又は指定される速度変化に応じて設定され、例えば、基準速度に対して±5%〜±15%程度になる。
蓄積装置BF1、BF2の各々に関するステータス情報としては、時間軸に伴って最低蓄積長(下限値)と最大蓄積長(上限値)との間で変化し得るシート基板Pの蓄積長の状態を表す線グラフ(蓄積長変化グラフ)Acc1、Acc2が表示される。また、蓄積長変化グラフAcc1、Acc2の各々の左側には、蓄積装置BF1、BF2の各々に蓄積されている現在時刻でのシート基板Pの実蓄積長の蓄積可能範囲内での割合をグラフィカルに一目可能なバーグラフ(実蓄積長グラフ)408が表示される。なお、蓄積長変化グラフAcc1、Acc2の各々には、蓄積可能範囲の半分の蓄積長を表す目安線も表示されている。
以上のような表示画面において、ここでは、処理装置PR2、PR3、PR4の各々の処理進行状況を表す進行グラフ410(410a、410b)と速度グラフVpp(Vpp2、Vpp3、Vpp4)とに割り込ませるように、装置の一時停止の期間を表す停止表示TSTPが表示される。停止表示TSTPは、例えば、図6、図12で説明した装置の稼働中断や一時停止の停止要求情報に応答して生成され、予想計算される停止継続時間Tcsの時間長で表示される。この停止表示TSTP、又は蓄積装置BF1、BF2の蓄積長の状況を作業者が視認することにより、過去のみならず、現在時刻から一定時間先までの将来の停止予想やシート基板Pの搬送状況、すなわち製造ラインとしての稼働状況を直感的に把握することができる。
以下、具体的な表示例について、図19に示した表示モニターDSP(又はCSP)の画面表示を参照して説明する。図19に示した現在時刻より約12分前の時刻(14時10分頃)から現在時刻までの期間において、処理装置PR2は、速度グラフVpp2と進行グラフ410aにより、シート基板Pを基準速度で搬送しつつ、停止することなく連続処理していたことが判る。同様に、その期間において、処理装置PR3も速度グラフVpp3と進行グラフ410aにより、シート基板Pを基準速度で搬送しつつ、停止することなく連続処理していたことが判る。一方、現像乾燥工程を担う処理装置PR4については、速度グラフVpp4及び進行グラフ410aに示されるように、現在時刻から10分ほど前の時刻tt1(14時12分頃)から時刻tt2(14時19分頃)までの間に停止表示TSTPが割り込み表示されており、シート基板Pの搬送を一時停止(搬送速度を零に設定)して処理を中断していたことが判る。図19の場合、処理装置PR4の一時停止(TSTP)の停止継続時間Tcsは約7分間である。
処理装置PR4が時刻tt1〜tt2の期間で一時停止することは、時刻tt1よりも以前に予測されている。従って、処理装置PR3と処理装置PR4との間に設けられる蓄積装置BF2は、処理装置PR4の停止期間(tt1〜tt2)中に処理装置PR3から基準速度で送り出されるシート基板Pの長さ分を確実に蓄積できるように、蓄積長変化グラフAcc2に示すように時刻tt1の時点で蓄積長が十分に低下した状態に調整されている。また、処理装置PR3の上流側の塗布乾燥工程を担う処理装置PR2は、現在時刻よりも約9分後の時刻tt3(14時31分頃)から時刻tt4(14時34分頃)の間の約3分間に渡って、停止表示TSTPのように一時停止すると予想されている。このことは、現在時刻から先の直近で起こるイベントとして、表示モニターDSP(CSP)の表示画面の下部に警告(Alert)として表示される。処理装置PR2の時刻tt3〜tt4の停止期間中でも、下流の処理装置PR3の稼動を継続させる為に、蓄積装置BF1は、蓄積長変化グラフAcc1に示すように、時刻tt3に至る前に停止期間(tt3〜tt4)中に処理装置PR3に向けてシート基板Pを基準速度で送り出せるだけの蓄積長を持つように調整される。
さて、時刻tt1まで処理装置PR4を通るシート基板Pが基準速度で搬送されていたものとすると、時刻tt1〜tt2の停止期間中、処理装置PR4に搬入されるシート基板Pの搬送速度は零なので、蓄積装置BF1には処理装置PR3から基準速度で送り出されるシート基板Pが一定の時間比率の長さで逐次蓄積されていく。時刻tt2で処理装置PR4が再稼働してシート基板Pを搬送できる状態になると、蓄積装置BF2に蓄積されたシート基板Pを半分程度の蓄積長に減らす為に、処理装置PR4は、時刻tt1までの処理条件を修正して、時刻tt2から時刻tt5(14時39分頃)の間はシート基板Pを基準速度よりも速い速度で送りつつ、現像乾燥工程を実行する。この場合、処理装置PR4はシート基板Pと現像液との浸漬時間で現像品質を管理しており、シート基板Pの搬送速度が基準速度よりも速めに設定されることから、処理条件としてのシート基板Pと現像液との浸漬長を長めに調整することで、時刻tt1以前と同じ現像品質に保つことができる。このように、処理条件(現像条件)を簡単に調整できて現像品質を容易に保つための現像処理部PR4Aとして、例えば、特開2016−075790号公報、特開2016−219744号公報に開示されている湿式処理装置を用いることができる。ここに開示された湿式処理装置を用いると、シート基板Pの搬送速度や現像液との接触長(浸漬長)の調整が容易になるだけでなく、現像液の使用量を低減できることから、現像液の温度管理や濃度管理が容易となる。
このようにして、処理装置PR4は時刻tt2〜tt5の間、シート基板Pを基準速度よりも速い速度で送りながら現像乾燥工程を実施するが、それに伴って、蓄積装置BF2に蓄積されたシート基板Pは、蓄積長変化グラフAcc2に示すように徐々に蓄積長を低下させ、時刻tt5では半分程度の蓄積長になる。時刻tt5になると、速度グラフVpp4に示すように、処理装置PR4はシート基板Pの搬送速度を徐々に低下させ、時刻tt6(14時45分頃)で基準速度に設定する。この間、処理装置PR4は、シート基板Pの搬送速度の低下に応じてシート基板Pと現像液との浸漬長を徐々に短くしつつ、現像乾燥工程を継続している。
一方、時刻tt2〜tt5の間の時刻tt3〜tt4において、塗布乾燥工程を担う処理装置PR2が約3分間に渡って一時停止する。その為、蓄積装置BF1は、時刻tt3〜tt4の間、蓄積していたシート基板Pを基準速度で処理装置PR3に向けて送り出し、蓄積長変化グラフAcc1に示すように、蓄積装置BF1の蓄積長は、処理装置PR2の時刻tt3〜tt4の時間(停止継続時間Tcs)と基準速度との積で決まるシート基板Pの長さ分だけ減少していく。時刻tt4以降、速度グラフVpp2に示されるように、処理装置PR2はシート基板Pを再び基準速度で搬送する。時刻tt6以降、時刻tt7(15時01分頃)まで、処理装置PR2、PR3、PR4の各々はシート基板Pを基準速度で搬送しながら、それぞれの処理を実行していく。時刻tt7になると、次のイベントとして予測(予定)されている処理装置PR3の一時停止に備えた準備動作が始まる。処理装置PR3の一時停止は、処理装置PR3の今後の進行グラフ410b中の時刻tt9から時刻tt10(15時30分頃)の間の約5分間の一時停止として停止表示TSTPで表示される。本実施の形態では、現在時刻よりも以前の時点で、処理装置PR3が約約5分間の一時停止が必要である旨を表す停止要求情報を発生しており、その停止要求情報に基づいて、ホストコンピュータや図18の制御ラックRCUのコンピュータLPC等によるシミュレーション(図12で説明した露光装置での一時停止の作業要因に基づくパラメータ設定等と同様のプログラムを用いた予測計算)に基づいて、その一時停止を開始するタイミングが時刻tt9として設定されているものとする。
なお、現在時刻において、処理装置PR3が停止要求情報を発生していなかった場合、時刻tt7以降の速度グラフVpp2、Vpp3、Vpp4の各々は、引き続き基準速度で推移するように表記され、蓄積装置BF1、BF2の各々の蓄積長変化グラフAcc1、Acc2の各々は、時刻tt5での蓄積長のまま推移するように表記される。表示モニターDSP(CSP)の図19のような画面表示は、例えば1秒ごと(或いは数秒ごと)のリフレッシュサイクルでほぼリアルタイムに更新されるように設定されている。その為、現在時刻よりも先の進行グラフ410bや速度グラフVppは、受信した停止要求情報に基づいたシミュレーションの結果に応じて、リフレッシュサイクルで逐次書き換えられる。
図19に示した処理装置PR2〜PR4と蓄積装置BF1、BF2の各々の時刻tt7でのステータス情報に基づくと、時刻tt9で処理装置PR3の稼動(シート基板Pの搬送)が一時停止すると、処理装置PR3の上流側の蓄積装置BF1に蓄積すべきシート基板Pの蓄積長が蓄積可能限界(上限長)を超えてしまうと判断され、時刻tt7から時刻tt8(15時07分頃)までの約6分間で、処理装置PR2を通るシート基板Pの搬送速度を基準速度から徐々に低下させる。処理装置PR2は、その搬送速度の低下に応じてダイコータ方式の塗工ヘッドから供給されるフォトレジストの量、又は塗工ヘッドとシート基板Pとの間隔(ギャップ)を徐々に調整して、フォトレジストの塗布厚の変動が許容範囲内に維持されるように制御する。これにより、蓄積装置BF1でのシート基板Pの蓄積長は徐々に減少し、時刻tt9の時点では下限長に近い蓄積長となる。
また、時刻tt9で処理装置PR3の稼動(シート基板Pの搬送)が一時停止すると、処理装置PR3の下流側の蓄積装置BF2に蓄積されるシート基板Pの蓄積長が蓄積可能な下限長(最短長)より小さくなってしまうと判断され、時刻tt7から時刻tt8(15時07分頃)までの約6分間で、処理装置PR4を通るシート基板Pの搬送速度を基準速度から徐々に低下させる。処理装置PR4は、その搬送速度の低下に応じて処理条件としてのシート基板Pと現像液との搬送方に関する接液長(浸漬長)を徐々に短くするように調整して、一定の現像品質を維持するように制御される。これにより、蓄積装置BF2でのシート基板Pの蓄積長は、ほぼ半分の状態から徐々に増加し、時刻tt9の時点では上限長に近い値となる。
速度グラフVpp3に示すように、処理装置PR3でのシート基板Pの搬送速度が時刻tt9において基準速度から零になって、時刻tt10までの約5分間に渡って処理装置PR3の稼動が一時停止している間、処理装置PR2、PR4は、いずれも基準速度よりも遅い速度でシート基板Pを搬送しつつ、各々の処理を継続している。処理装置PR3の稼動停止により、蓄積装置BF1は、速度グラフVpp2中の時刻tt9でのシート基板Pの搬送速度と処理装置PR3の停止継続時間Tcsとの積に応じた長さに渡って、処理装置PR2から送られてくるシート基板Pを蓄積する。図19の例では、時刻tt10において、蓄積装置BF1には、蓄積可能な最大長の半分程度の長さまでシート基板Pが蓄積される。また、蓄積装置BF2は、速度グラフVpp4中の時刻tt9でのシート基板Pの搬送速度と処理装置PR3の停止継続時間Tcsとの積に応じた長さに渡って、上限長近くまで蓄積したシート基板Pを基準速度よりも遅い速度で処理装置PR4に向けて送出する。図19の例では、時刻tt10において、蓄積装置BF2は、蓄積可能な最大長の半分程度の長さになるまでシート基板Pを送出する。
時刻tt10において、処理装置PR3の稼動が再開され、シート基板Pが再び基準速度で搬送され始めると、時刻tt10から時刻tt11(15時36分頃)の約6分間に渡って、処理装置PR2、PR4の各々は、シート基板Pの搬送速度を徐々に基準速度まで戻す(早める)ように制御する。その為、時刻tt10〜tt11の間、蓄積装置BF1、BF2の各々には、時刻tt10の時点の蓄積長に対して僅かに長いシート基板Pが蓄積される。
以上のように、本実施の形態では、処理装置PR1〜PR4、蓄積装置BF1、BF2の各々におけるシート基板Pの処理状態、搬送状態、蓄積状態等をグラフィカルに、リアルタイムに表示させるため、ホストコンピュータや図18の制御ラックRCUのコンピュータLPC等によるシミュレーションによって予想される将来イベントとしての装置稼働停止の可否を確認したり、稼動停止中の装置とその他の稼動中の装置との状況を対比して、直感的にライン全体の運転状況を確認したりすることができる。
なお、現在時刻に対して将来のイベントである処理装置PR2や処理装置PR3の停止表示TSTPの開始時刻は、最も早く一時停止に移行させるような条件でのシミュレーションで決定される。その為、装置によっては、一時停止の開始時刻を、画面中にシミュレーション結果で表示された停止表示TSTPよりも遅らせた方が良い場合もある。そのような場合、作業者はシミュレーション結果として表示される停止表示TSTPにタッチしつつ時間軸上の後方にスライドする、又はマウスポインタでドラッグする等の操作により、設定可能な範囲で停止表示TSTPを後方にずらすことができる。また、図19において、時刻tt6から時刻tt7の間では、何れの処理装置PR2〜PR4においてもシート基板Pが基準速度で搬送され、何れの蓄積装置BF1、BF2においてもシート基板Pの蓄積長が増減することなくほぼ安定している。このような場合、時刻tt9での処理装置PR3の稼動停止に備えて、他の処理装置PR2、PR4のシート基板Pの搬送速度の変更(低下)タイミングを、時刻tt9の約25分前の時刻tt7(当初の準備開始時刻)とせずに、時刻tt6、tt5、tt4、或いはそれらの間の時刻のいずれかに早めても良い。すなわち、シミュレーション上で得られた当初の時間である図19中の時刻tt7から時刻tt9(停止開始)までの間の当初の準備時間の約25分を意図的に長く設定することもできる。その設定の際には、表示モニターDSP(CSP)の表示画面上に表示される時刻tt7の位置に表示される破線を左側(時間軸上の現在時刻の方向)にドラッグする。このように時刻tt7をタイムシフトさせた場合、ホストコンピュータや図18の制御ラックRCUのコンピュータLPC等は、時刻tt7以降のステータス情報を再度シミュレーションして、その結果を表示モニターDSP(CSP)に更新表示する。また、図18のような4つの処理装置PR1〜PR4と2つの蓄積装置BF1、BF2とを有する中規模又は大規模な製造システムに限られず、2つの処理装置と1つの蓄積装置とが設けられるミニマムな製造システムにおいても、図19に示したような表示モニターDSP(CSP)によって同様の製造管理(搬送管理)が可能である。
以上、本実施の形態によれば、長尺のシート基板(P)を長尺方向に順番に通して互いに異なる処理を施す複数の処理装置(PR1〜PR4)と、シート基板の搬送方向に関して複数の処理装置のいずれかの上流側または下流側に設けられて、シート基板を長尺方向に所定の長さに渡って蓄積可能な蓄積装置とを備えたデバイス製造システムを監視又は管理する制御装置のインターフェース装置として設けられ、複数の処理装置の各々におけるシート基板の搬送速度に関する情報と、蓄積装置におけるシート基板の蓄積長に関する情報とに基づいて、複数の処理装置のうちの少なくとも1つを一時停止させる場合、搬送速度を調整する際のシート基板の速度変化の状態と速度変化に応じた蓄積長の変化の状態とを、時間軸と共にグラフィカルに表示する表示モニターが設けられ、これによって、デバイス製造システムの各々の処理装置の一時停止状態を含む稼動状況と、シート基板の搬送状況とを直感的に視認することができ、生産管理の効率化を図ることが可能となる。なお、図18に示した基板供給ユニット30Aから基板回収ユニット30Bまでの一連の製造システムを、工場内の複数の生産レーンの各々に設置する場合も、図18に示した可搬式の制御ラックRCUを各レーンの近くに移動させることで、そのレーンを自動認識させて、表示モニターDSP上に、そのレーンの製造システムに対応したステータス情報等を表示させることができる。