JPWO2015020149A1 - 電気化学式バイオセンサを用いた物質の測定方法及び測定装置 - Google Patents

電気化学式バイオセンサを用いた物質の測定方法及び測定装置 Download PDF

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Abstract

絶縁性基板と、該絶縁性基板上に形成した2以上の電極と、該電極の少なくとも1つの電極上に配置された酸化還元酵素を含む試薬層とを含む、電気化学測定セル内に物質を含む試料を導入すること、電極に電圧を印加すること、試料内の前記物質に由来する電子の電極への移動により生じる電荷移動律速電流を検出すること、および前記電荷移動律速電流に基づき試料中に含まれる前記物質の濃度を決定すること、を含むバイオセンサを用いた物質の測定方法。

Description

本発明は、生体成分等の測定対象物質を分析するための電気化学式バイオセンサを用いた測定方法及び測定装置に関する。
従来、電気化学式のバイオセンサにおいては、電極系に電圧を印加し、物質の拡散に基づくコットレル電流を測定する方法が主に用いられている。例えば、特許文献1には、反応系に酸化剤と緩衝剤を含有させ、反応を、反応が実質的に終了する段階まで行なった後、電極と試料の間に電位を加えてコットレル電流を測定することが記載されている。このコットレル電流は拡散に依存する電流であり、コットレル式(下記式(1))で表されるが、物質の拡散係数(D)が含まれていることが特徴である。反応速度論においては拡散律速状態といえる。
また、特許文献2では、マイクロ流体中のアナライトの測定に関して、微小電極を用いており、アナライトの拡散係数(D)に依存する測定条件が開示されている。
さらに、特許文献3では、コットレル式および拡散係数(D)の記載があり、実験により拡散係数を算出している例が開示されている。
さらに、特許文献4では、作用極の電位をレドックス化学種の拡散律速であるように電極間に電位を加える工程が記載されている。
特許第2901678号明細書 特表2009-533658号公報 特開2011-58900号公報 特許第3863184号明細書
上述のコットレル電流が成立するためには物質の濃度変化がない状態にあることが必要である。つまり、実質的に酵素反応等が終了する必要がある。よって一定の酵素反応時間を確保しなければならい。さらには、コットレル電流は時間の平方根(√t)に反比例するため、時間がたつにつれて電流が減衰していく。よって測定のバラツキを抑えるためには、より電流変動の小さい状態で計測する必要がある。その結果、計測までの時間が長くなる。一方、電流の減衰はなく、物質の球状拡散に基づく定常電流が検出される微小電極系においては、感度が小さいため、特許文献2等に開示されているように、絶対感度を高めるために電極を複数設けて、酸化還元反応サイクルを構築することが必要になってくる。これらを鑑みると、総じて、拡散律速による測定においては、測定時間が長くなること、あるいは微小電極系による測定においては、複数の電極を設ける必要があり電極系が複雑になるといった問題を潜在的に有している。
したがって、本発明は電気化学式のバイオセンサを利用した物質の測定において、より短時間で、精度よく簡便な系で測定できる方法及び装置を提供することを課題とする。
発明者は、これまでの物質拡散に基づく電流値ではなく電気化学反応の他の過程に基づく電流を検出することを目指し鋭意研究した結果、電気化学式のバイオセンサを利用した物質の測定において、物質の拡散過程ではなく電荷移動過程に基づく電流を検出することで、より短時間で、精度よく物質を測定できることを見出し、本発明を完成させた。
以上より、本発明の測定方法は、
絶縁性基板と、該絶縁性基板上に形成した2以上の電極と、該電極の少なくとも1つの電極上に配置された酸化還元酵素を含む試薬層とを含む、電気化学測定セル内に物質を含む試料を導入すること、
電極に電圧を印加すること、
試料内の前記物質に由来する電子の電極への移動により生じる電荷移動律速電流を検出すること、および
前記電荷移動律速電流に基づき試料中に含まれる前記物質の濃度を決定すること、を含む。
ここで、前記電荷移動律速電流は、電気二重層の充電による過渡電流発生後の定常電流であることが好ましく、下記式(6)で表されることがより好ましい。
また、酸化還元酵素がピロロキノリンキノンまたはフラビンアデニンジヌクレオチドを含むか、ヘムを含むサブユニットまたはドメインを有することが好ましい。
より具体的には、前記酸化還元酵素がグルコース酸化活性を有する酵素、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼであり、測定対象物質がグルコースであることが好ましい。
また、電圧はステップ印加により印加されることが好ましく、印加する電圧は600mV以下であることが好ましい。
本発明の測定装置は、
絶縁性基板と、該絶縁性基板上に形成した2以上の電極と、該電極の少なくとも1つの電極上に配置された試料中の測定対象物質と反応しうる酸化還元酵素を含む試薬層とを含む、電気化学測定セルを含むバイオセンサと、
バイオセンサへの電圧印加を制御する、制御部と、
バイオセンサへの電圧印加により得られる、前記物質に由来する電子の電極への移動に基づく電荷移動律速電流を検出する、検出部と、
前記電流値から前記物質の濃度を算出する、演算部と、
前記算出された前記物質の濃度を出力する出力部
とから構成される。
ここで、前記制御部は、電圧をステップ印加により印加するように制御を行うように設定されていることが好ましい。また、測定装置は、測定対象物質がグルコースであり、酸化還元酵素がグルコース酸化活性を有する酵素、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼであることが好ましい。
本発明により、拡散の影響を受けずに物質の濃度を測定可能なことから、測定時間をより短くできることできる。また、電極系をシンプルにできることからコストダウンが可能である。これらの効果から、より少ない検体量で、かつ、より短い測定時間で、測定の操作性を高めることが可能になり、ユーザビリティーの向上に繋がる。
図1は、実施例および比較例のバイオセンサの構造を示す図である。(A)全体斜視図、(B)が分解斜視図を示す。 図2は、実施例1,2および比較例のバイオセンサを用いてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果を示す図である。 図3は、実施例1および比較例のバイオセンサを用いてクロノアンペロメトリー測定を行った結果を示す図である。 図4は、実施例1のバイオセンサを用いて、電圧パラメータを変えてクロノアンペロメトリー測定を行った結果を示す図である。 図5は、実施例3のバイオセンサを用いてクロノアンペロメトリー測定を行った結果を示す図である。 図6は、実施例1のバイオセンサで測定した各グルコース濃度における電荷移動律速の定常電流値と、式(5)の理論式で算出した各グルコース濃度での定常電流の理論値とをプロットしたグラフである。 図7は、本発明の測定装置の一態様を示す模式図である。 図8は、本発明の測定装置を用いた測定プログラムの一態様を示すフローチャート図である。
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下に挙げる実施形態はそれぞれ例示であり、本発明は以下の実施形態には限定されない。
本発明のバイオセンサを用いた物質の測定方法は、絶縁性基板と、該絶縁性基板上に形成した2以上の電極と、該電極の少なくとも1つの電極上に配置された酸化還元酵素を含む試薬層とを含む、電気化学測定セル内に物質を含む試料を導入すること、電極に電圧を印加すること、試料内の前記物質に由来する電子の電極への移動により生じる電荷移動律速電流を検出すること、および
前記電荷移動律速電流に基づき試料中に含まれる前記物質の濃度を決定すること、を含む。
ここで、測定対象物質としては本発明のバイオセンサを用いた測定方法によって測定可能な物質であれば特に制限されないが、生体由来の物質であって疾患や健康状態の指標となりうる物質であることが好ましく、例えば、グルコースやコレステロールなどが挙げられる。
試料は測定対象物質を含む試料であれば特に制限されないが、生体試料が好ましく、血液、尿などが挙げられる。
測定対象物質に由来する電子の電極への移動に基づく電荷移動律速電流とは、酸化還元酵素と測定対象物質との反応によって、該酵素から電極へ電子が移動する際に生じる電流であり、時間に依存しない定常電流であり、好ましくは電気二重層の充電による過渡電流発生後の定常電流である。
この電荷移動律速電流は、好ましくは、以下の式(5)で表される。この式から、電流は基質の濃度と酵素反応速度定数に比例することがわかり、定数項をXとすると式(6)に展開できる。なお、式(5)、(6)には示していないが、定数項Xには補正係数などが含まれても良い。
本発明者は、酵素反応の初速度式(式(2))と酵素から電極への電子移動速度の式(式(3))を考慮し、測定対象物質(基質)の濃度を測定するためには、これらが等価にある状態(式(4))で電流を検出することが必要であると考え、これを展開して電流式にすることによってこの電荷移動律速電流の式(5)を算出した。
式(5)は、上記式(1)のコットレル電流に含まれる拡散係数(D)を含まない電荷移動律速による電流式である。式(5)からも分かるように、電流は酵素反応速度定数に比例する。本発明の測定方法では、電子受容物質などのメディエーターによる酸化還元反応を介することなく、電極へ電子が移動するため、物質の拡散の影響を受けず、時間の依存性もないことがわかる。
電極系が、電荷移動律速であることは、サイクリックボルタンメトリーなどによってピークの有無や電圧の掃印方向による電流の増加傾向を調べることにより確認することができる。
以下、本発明の測定方法で使用しうる電気化学式バイオセンサについて説明する。
<作用電極>
作用電極は例えば、絶縁性基板上に電極材料を配置し、得られた電極の近傍に少なくとも酸化還元酵素を含む試薬層を配置させることによって得ることができる。
電極は、例えば、カーボンのような炭素材料を用いて形成される。或いは、金(Au),白金(Pt),銀(Ag),パラジウムのような金属材料を用いることもできる。
絶縁性基板は、例えば、ポリエーテルイミド(PEI),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレン(PE)のような熱可塑性樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂のような各種の樹脂(プラスチック),ガラス,セラミック,紙のような絶縁性材料で形成される。
電極及び絶縁性基板の大きさ、厚さは適宜設定可能である。
<酸化還元酵素>
酸化還元酵素は、測定対象物質を酸化還元しうる酵素であればよいが、触媒サブユニット及び触媒ドメインとして、ピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)のうち少なくとも一方を含むことができる。例えば、PQQを含む酸化還元酵素として、PQQグルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)が挙げられ、FADを含む酸化還元酵素として、FADを含んだαサブユニットを持つシトクロムグルコースデヒドロゲナーゼ(CyGDH)、グルコースオキシダーゼ(GOD)が挙げられる。
また、酸化還元酵素は、電子伝達サブユニット若しくは、電子伝達ドメインを含むことができる。電子伝達サブユニットとしては、例えば、電子授受の機能を持つヘムを有するサブユニット挙げられる。このヘムを有するサブユニットを含む酸化還元酵素としては、シトクロムを含むものが挙げられ、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼや、PQQGDHとシトクロムとの融合蛋白質を適用することができる。
また、電子伝達ドメインを含む酵素としては、コレステロールオキシダーゼ、キノヘムエタノールデヒドロゲナーゼ(QHEDH (PQQ Ethanol dh)が挙げられる。さらに、電子伝達ドメインは、電子授受の機能を持つヘムを有するシトクロムを含むドメインを適用するのが好ましい。例えば、 "QHGDH" (fusion enzyme; GDH with heme domain of QHGDH))、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(Sorbitol DH)、D-フルクトースデヒドロゲナーゼ(Fructose DH)、Agrobacterium tumefasience由来のグルコース-3-デヒドロゲナーゼ(Glucose-3-Dehydrogenase)(G3DH from Agrobacterium tumefasience)、セロビオースデヒドロゲナーゼが挙げられる。なお、上述したシトクロムを含むサブユニットの例示であるPQQGDHとシトクロムとの融合蛋白質、及びシトクロムを含むドメインの例示であるPQQGDHのシトクロムドメインは、例えば、国際公開WO2005/030807号公報に開示されている。
また、酸化還元酵素は、少なくとも触媒サブユニットおよび電子受容体の機能を持つヘムを有するシトクロムを含むサブユニットから構成されているオリゴマー酵素を適用するのが好ましい。
なお、測定対象物質は、酸化還元酵素の基質であればよい。例えば、セロビオースデヒドロゲナーゼは、セロビオースを酸化するが、グルコースも酸化するため、グルコースを測定対象物質として用いることもできる。
電荷移動律速電流を測定するためには、作用電極を“直接電子移動型の酵素電極”とすることが好ましい。ここで、“直接電子移動型の酵素電極”とは、試薬層で酵素反応により生じた電子が、電子伝達メディエーターのような酸化還元物質が関与することなく直接電極に伝達されることにより、酵素と電極間の電子授受が行われるタイプの酵素電極である。
なお、生理学的反応系において直接電子移動が起こる限界距離は1〜2nmと云われている。よって、酵素から電極への電子移動が損なわれないように酵素を配置することが重要である。
電荷移動律速電流を測定するためには、電極の近傍に酸化還元酵素を配置させることが重要であるが、そのための方法としては、特に制限されないが、例えば、酸化還元酵素を電極に化学的に固定化する方法、酸化還元酵素をバインダーなどを用いて電極に間接的に固定化する方法、酸化還元酵素を電極に物理的に吸着させる方法などが挙げられる。
作用電極上の酵素試薬層は、導電性粒子を含むことができる。導電性粒子を含むことで、より好適な電極への電子伝達を期待することができる。具体的には、導電性粒子は、金、白金、銀、パラジウムのような金属製粒子、或いは、炭素を材料とした高次構造体を適用することができる。高次構造体は、例えば、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレンのような、炭素粒子又は炭素微粒子を含むことができる。導電性カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック(デグザ製)、ブラックパール(キャボット)、などが挙げられる。
作用電極上の酵素試薬層はまた、導電性高分子を含むことができる。導電性高分子としては、水溶性のものが好ましく、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、代表例として、三菱レイヨン製スルホン化ポリアニリン水溶液(商品名 アクアパス)が挙げられる。
作用電極上の酵素試薬層はまた、バインダーを含むことができる。バインダーとしては水溶性バインダーが好ましく、具体的には、オキサゾリン基含有水溶性ポリマーなどが挙げられる。
上記したような作用電極は、例えば、以下のようにして作製される。すなわち、絶縁性基板の片面に、電極として機能するカーボン層を形成する。例えば、所定の厚さ(例えば100μm程度)のフィルム状の絶縁性基板の片面に、カーボンインクをスクリーン印刷し、所望の厚さ(例えば10μm程度)を有するカーボン膜を形成することが出来る。カーボン層の代わりに、金属材料を物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)、或いは化学蒸着(CVD)によって成膜することによって、所望の厚さ(例えば30nm程度)を有する金属層を形成することもできる。
次に、電極上に酵素試薬層が形成される。まず、酸化還元酵素と導電性粒子や導電性高分子を含む溶液が調製され、該溶液は、電極の表面に滴下される。該溶液が電極上で乾燥により固化することで、電極上に酵素試薬層が形成された作用電極を得ることができる。
対極としては、バイオセンサの対極として一般的に使用できるものであればよいが、例えば、スクリーン印刷により製膜したカーボン電極や、物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)、或いは化学蒸着(CVD)によって成膜した金属電極や、スクリーン印刷により製膜した銀/塩化銀電極を用いることができる。また、銀/塩化銀電極を参照極とした3電極系を用いてもよい。
電極への電圧の印加の仕方は特に制限されないが、電荷移動律速電流を効率よく測定するにはステップ印加が好ましい。印加する電圧は600mV以下であることが好ましく、より好ましくは100mV以下である。下限は特に制限されないが、例えば10mV以上である。
測定対象物質の濃度は式(5)に基づいて測定電流値より算出することができる。
また、濃度既知の試料を用いて検量線を予め作成しておき、その検量線に基づいて測定電流値より算出することも可能である。また、試験により見出した補正係数を式(5)に乗じること等により、検体の濃度を算出することも可能である。この場合、式(6)の定数項Xに補正係数も含まれることとなる。
本発明の測定方法によれば、連続的な測定も断続的な測定もいずれも可能である。
次に、図面を用いて、本発明の測定装置について説明する。ただし、本発明の測定装置は以下の態様には限定されない。
図7は、測定装置2内に収容された主な電子部品の構成例を示す。図7に示すような、制御コンピュータ3,ポテンショスタット3A,電力供給装置21が、筐体内に収容された基板3aに設けられている。
制御コンピュータ3は、ハードウェア的には、CPU(中央演算処理装置)のようなプロセッサと、メモリ(RAM(Random Access Memory), ROM(Read Only Memory))のような記録媒体と、通信ユニットを含んでおり、プロセッサが記録媒体(例えばROM)に記憶されたプログラムをRAMにロードして実行することによって、出力部20、制御部22、演算部23及び検出部24を備えた装置として機能する。なお、制御コンピュータ3は、半導体メモリ(EEPROM,フラッシュメモリ)やハードディスクのような、補助記憶装置を含んでいても良い。
制御部22は、電圧印加のタイミング,印加電圧値などを制御する。
電力供給装置21は、バッテリ26を有しており、制御部コンピュータ3やポテンショスタット3Aに動作用の電力を供給する。なお、電力供給装置21は、筐体の外部に置くこともできる。
ポテンショスタット3Aは、作用極の電位を参照電極に対して一定にする装置であり、制御部22によって制御され、端子CR,Wを用いて、グルコースセンサ4の対極と作用極との間に所定の電圧をステップ印加により印加し、端子Wで得られる作用極の応答電流を測定し、応答電流の測定結果を検出部24に送る。
演算部23は検出された電流値から測定対象物質の濃度の演算を行い、記憶する。出力部20は、表示部ユニット25との間でデータ通信を行い、演算部23による測定対象物質の濃度の演算結果を表示部ユニット25に送信する。表示部ユニット25は、例えば、測定装置2から受信されたグルコース濃度の演算結果を所定のフォーマットで表示画面に表示することができる。
図8は、制御コンピュータ3によるグルコース濃度測定処理の例を示すフローチャートである。
図8において、制御コンピュータ3のCPU(制御部22)は、グルコース濃度測定の開始指示を受け付けると、制御部22は、ポテンショスタット3Aを制御して、作用極への所定の電圧をステップ印加で印加し、作用極からの応答電流の測定を開始する(ステップS01)。なお、測定装置へのセンサの装着の検知を、濃度測定開始指示としてもよい。
次に、ポテンショスタット3Aは、電圧印加によって得られる応答電流、すなわち、試料内の測定対象物質(ここではグルコース)に由来する電子の電極への移動に基づく電荷移動律速電流、好ましくは、電気二重層の充電による過渡電流発生後、例えば、電圧印加から1〜20秒後の定常電流を測定し、検出部24へ送る(ステップS02)。
演算部23は、電流値に基づいて演算処理を行い、グルコース濃度を算出する(ステップS03)。例えば、制御コンピュータ3の演算部23は、電極上に配置されたグルコースデヒドロゲナーゼに対応する、グルコース濃度の計算式(上記式(5)または式(6)に基づくもの)またはグルコース濃度の検量線データを予め保持しており、これらの計算式または検量線を用いてグルコース濃度を算出する。
出力部20は、グルコース濃度の算出結果を、表示部ユニット25との間に形成された通信リンクを通じて表示部ユニット25へ送信する(ステップS04)。その後、制御部22は、測定エラーの有無を検知し(ステップS05)、エラーがなければ測定を終了し、グルコース濃度を表示部に表示する。エラーがあればエラー表示をした後に、図8のフローによる処理を終了する。また、算出結果を演算部23に保存し、後から算出結果を呼び出して、表示部に表示し確認することも可能である。なお、ここでは、算出結果の表示部ユニット25への送信(ステップS04)後に、制御部22による測定エラー検知(ステップS05)を行っているが、これらのステップの順番を入れ替えることも可能である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の態様に限定はされない。
〔実施例1〕
以下、バイオセンサの実施例について、グルコースセンサを用いて説明する。
<グルコースセンサの作製方法>
グルコースセンサの構造の一例を図1に示す。
グルコースセンサ1は、図1に示されるように、カバー板10、スペーサー11および基板12を有している。
カバー板10には穴部13が設けられており、スペーサー11には穴部13に連通するとともに先端部14aが開放した細幅なスリット14が設けられている。カバー板10およびスペーサー11が基板12の上面12aに積層された状態では、スリット14によりキャピラリー15が規定されている。このキャピラリー15は、スリット14の先端開口部14aおよび穴部13を介して外部と連通している。先端開口部14aは試料液導入口15aを構成しており、この試料液導入口15aから供給された試料液は、毛細管現象により穴部13に向けてキャピラリー15内を進行する。
基板12の上面12aには、第1電極16、第2電極17、および試薬層18が設けられている。
第1および第2電極16,17は、全体として基板12の長手方向に延びており、それらの端部16a,17aが基板12の短手方向に延びている。基板12の上面12aは、第1および第2電極16,17の端部16a,16b,17a,17bが露出するようにして絶縁膜19により覆われている。
試薬層18は、第1および第2電極16,17の端部16a,17a間を橋渡すようにして設けられている。この試薬層18は、グルコースデヒドロゲナーゼを含んでいる。
より具体的には、グルコースセンサは以下の方法で作製した。
<下地電極>
下地電極材料として、導電性カーボンインク(アサヒ化学研究所製FTUシリーズ)を用い、このインクをスクリーン印刷手法にてポリエチレンテレフタレート基材(東レ製E-22)(長さ50mm、幅5mm、厚み250μm)の一方の表面にパターンニング印刷を行い、2電極パターンを形成した。さらに、実施例においては、一方の電極上に銀塩化銀インク(BAS社製)を塗布し、80℃で20分乾燥させ、銀塩化銀電極を形成し、対極とした。
つぎに、絶縁性樹脂ポリエステルインク(アサヒ化学研究所製 UVFシリーズ)を、前記電極上にスクリーン印刷した。電極パターンと絶縁パターンによって、形成される電極面積は、それぞれ0.5mm2に設定した。
<酵素試薬層の形成(実施例1,2)>
電極上に、シトクロム含有グルコースデヒドロゲナーゼ(CyGDH)、導電性粒子(カーボンブラック:ケッチェンブラックKJB)、導電助剤としての導電性高分子(ポリアニリン)およびバインダー(オキサゾリン基含有水溶性ポリマー)含む酵素試薬を調製し、電極上に0.04μL滴下し、100℃で30分乾燥することで、酵素試薬層を形成した。酵素試薬の最終濃度は以下の通りである。
<酵素試薬の処方>
・KJB:0.4wt%
・酵素(CyGDH):7mg/mL
・リン酸Na緩衝液:10mM pH7
・バインダー(EPOCROS WS-700、日本触媒製)5.0%(w/v)
・ポリアニリン(アクアパス、三菱レーヨン製)0.2%(w/v)
なお、実施例2においては、ポリアニリンは添加せず、蒸留水を添加したが、それ以外の処方は実施例1と同じである。
<酵素試薬層の形成(実施例3)>
CyGDHの代わりに、PQQGDHを基にしたシトクロムを含むQHGDH (PQQGDHとシトクロムとの融合蛋白質)を用いた。
以下の処方にて酵素試薬を調製し、電極上に0.08μL滴下し、100℃で2時間乾燥することで、酵素試薬層を形成した。
<酵素試薬の処方>
・ライオンペースト(ケッチェンブラック含有:W-311N)(ライオン製):2.4wt%
・酵素(QHGDH):2.3mg/mL
・HEPES緩衝液:20mM pH7
・バインダー(EPOCROS WS-700、日本触媒製)6.0%(w/v)
・ポリアニリン(アクアパス、三菱レーヨン製)0.4%(w/v)
〔比較例〕
<酵素試薬層の形成(比較例)>
電極上に、電子受容物質(ルテニウムアンミン錯体)およびバインダーとしての無機ゲル(スメクタイト)含む酵素試薬(第一試薬)を調製し、電極上に0.3μL滴下し、30℃で10分乾燥することで、第一試薬層を形成した。第一試薬の最終濃度は以下の通りである。
<第一試薬の処方>
・スメクタイト(SWN、コープケミカル社製) :0.3%(w/v)
・[Ru(NH36 ]Cl3 (アルドリッチ製):5.0% (w/v)
つぎに、5000U/mL シトクロム含有グルコースデヒドロゲナーゼ(CyGDHまたはQHGDH)水溶液10μLを、第一試薬層の上に分注して、30℃、で10分間乾燥させることにより、酵素試薬層を形成した。なお、比較例においても、下地電極は、実施例1と同様の方法で作製したカーボン電極を作用極及び対極としている。
<キャピラリー形成>
実施例1,2,3及び比較例ともに、下記の方法でキャピラリーを形成した。
前記、酵素試薬層を形成した下地電極に、開口部を有するスペーサーを絶縁層上に配置し、さらに、前記スペーサー上に空気孔となる貫通孔を有するカバーを配置してグルコースセンサとした。前記カバーと絶縁層とに挟まれたスペーサーの開口部の空間が、キャピラリー構造となるため、これを試料供給部とした。
<サイクリックボルタンメトリー測定>
実施例1,2及び比較例について、サイクリックボルタンメトリー波形を調べることによりグルコースセンサの電極応答特性を評価した。サイクリックボルタンメトリー波形は、グルコースセンサの試料供給部にグルコース濃度が100mg/dLの全血を導入した後に、掃引速度を20mV/secとし、印加電圧が-200mV→+800mV→-200mVとなるように掃引し、掃引時の応答電流を測定することにより調べた。図2は、測定により得られたサイクリックボルタンメトリー波形である。
サイクリックボルタンメトリー測定において、電極系が拡散律速の場合においては、最初に、電極反応速度の上昇に伴い電流が上昇し、その後、電流が拡散依存になると電流が減少していくため、結果としてピークが現れる。比較例では、拡散律速によるピークが明確に現れているが、実施例1および実施例2を見ると、明確なピークが現れずに、電流がなだらかに増加する傾向を示している。よって、本発明では拡散律速ではなく、電荷移動律速電流であることが確認できる。また、導電性高分子の有無によらずピークは確認できないことから、導電性高分子は電極系の律速過程を変える因子ではないと考えられる。したがって、電荷移動律速電流を検出するために導電性高分子は使用してもしなくてもよいが、導電性高分子を含む実施例1の方が高い電流値を示すことから、導電性高分子には応答感度を上げる効果があることがわかる。以上より、実施例1及び2共に、電荷移動律速電流が生じることが分かり、実施例2でも測定に不都合が生じないことが分かる。以下の試験では、代表例として、実施例1のセンサを用いて評価を行った。
<クロノアンペロメトリー測定>
クロノアンペロメトリー測定によりグルコースセンサの電極応答特性を評価した。クロノアンペロメトリー測定は、グルコースセンサの試料導入部にグルコース濃度が100mg/dLの全血を導入した後に、作用極に400mVをステップ印加し、応答電流を測定することにより調べた。
作製したセンサを用いてクロノアンペロメトリー測定を行った結果を図3に示す。実施例1および比較例共に、電圧印加後、過渡電流が流れている。これは、電極表面の電気二重層の充電による電流である。電気二重層とは、電極表面と溶液との界面で溶液側に電気的な中和を保つために電解質イオンの配列により生じる層である。比較例のバイオセンサにおいては、充電電流が発生した後、観察された拡散律速によるコットレル電流は、式(1)に基づき、電流が1/√tで減少していくことが確認された。一方、実施例1のバイオセンサを用いた場合は、微小電極系ではないにも関わらず、充電電流が発生した後、速やかに定常電流が検出されており、この定常電流を測定することにより、グルコースの濃度を測定することができる。本実施例における測定電流が拡散律速でなく電荷移動律速であり、拡散律速による測定よりも短時間測定が可能であることが確認された。
<クロノアンペロメトリー測定(電圧パラメータ)>
実施例1について、クロノアンペロメトリー測定によりグルコースセンサの電極応答特性を評価した。クロノアンペロメトリー測定は、グルコースセンサの試料導入部にグルコース濃度が0mg/dLもしくは336mg/dLの全血を導入した後に、作用極にステップ電圧を印加し、10秒後の応答電流を測定することにより調べた。測定電圧は、600、400、200、100、70mVとそれぞれ変えて測定を行った。
作製したセンサを用いてクロノアンペロメトリー測定を行った結果を図4に示す。各電圧において、グルコース336mg/dLでは同等レベルの電荷移動律速による定常電流応答が確認された。また、グルコース0mg/dLの電流値は低いことから、各測定電圧でグルコースの測定が可能であることを確認した。本測定では、ステップ電圧印加10秒後の電流値で測定したが、図4の結果から、ステップ電圧印加後1〜2秒程度で定常電流が確認でき、特に印加電圧が低い70mV印加では、1秒以内に定常電流が検出されることから、短時間測定が可能であることが確認された。図4からも分かるように、印加電圧を低くすることにより、試料中に含まれる共存物質の酸化還元反応に起因するバックグラウンド電流を小さくすることが出来るため、測定時間の短縮だけではなく、測定誤差を抑制することが出来る効果もある。
<クロノアンペロメトリー測定〜実施例3>
クロノアンペロメトリー測定によりQHGDHを用いたグルコースセンサの電極応答特性を評価した。クロノアンペロメトリー測定は、グルコースセンサの試料導入部にグルコース濃度が0mg/dLもしくは600mg/dLの全血を導入した後に、作用極に200mVをステップ印加し、応答電流を測定することにより調べた。
結果を図5に示す。グルコース600mg/dLでは電荷移動律速による定常電流応答が確認された。一方、グルコース0mg/dLの電流値は低く、定常電流応答ではないことから、シトクロムを含むQHGDHを用いて作製したセンサにおいても、グルコースによる電荷移動律速による定常電流応答に基づいてグルコース濃度の測定が可能であることが分かった。なお、電荷移動律速による定常電流応答が得られる時間が15秒あたりからであったが、これは、酵素の精製度等による影響が考えられた。
<理論式の検証>
実施例1のセンサに70mVのステップ電圧を印加し、10秒後に測定した各グルコース濃度における電荷移動律速の定常電流値に対して、式(5)の理論式において、表1の条件で算出した各グルコース濃度での定常電流の理論値の計算結果を比較した(図6)。
その結果、計算値(理論値)と測定結果はよく一致していることがわかる。理論値と測定結果の誤差から補正係数を定めて、式(5)に乗じること等により、計算値(理論値)と測定結果の一致度合いを高めることも可能である。尚、本測定方法では電圧のステップ印加後、10秒後の電流値を測定したが、上記のとおり、ステップ電圧印加後、1〜2秒程度で定常電流を測定することが可能であることは、言うまでもない。
1・・・グルコースセンサ
10・・・カバー板
11・・・スペーサー
12・・・基板
13・・・穴部
14・・・スリット
15・・・キャピラリー
16・・・第1電極
17・・・第2電極
18・・・試薬層
19・・・絶縁膜
2・・・測定装置
20・・・出力部
21・・・電力供給装置
22・・・制御部
23・・・演算部
24・・・検出部
25・・・表示部ユニット
26・・・バッテリ
3・・・制御コンピュータ
3A・・・ポテンショスタット
3a・・・基板
CR、W・・・端子
4・・・グルコースセンサ

Claims (12)

  1. 絶縁性基板と、該絶縁性基板上に形成した2以上の電極と、該電極の少なくとも1つの電極上に配置された酸化還元酵素を含む試薬層とを含む、電気化学測定セル内に物質を含む試料を導入すること、
    電極に電圧を印加すること、
    試料内の前記物質に由来する電子の電極への移動により生じる電荷移動律速電流を検出すること、および
    前記電荷移動律速電流に基づき試料中に含まれる前記物質の濃度を決定すること、
    を含むバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  2. 前記電荷移動律速電流が、電気二重層の充電による過渡電流発生後の定常電流である請求項1に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  3. 前記電流が下記式(6)で表される、請求項1または2に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  4. 酸化還元酵素がピロロキノリンキノンまたはフラビンアデニンジヌクレオチドを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  5. 酸化還元酵素がヘムを含むサブユニットまたはドメインを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  6. 酸化還元酵素がグルコース酸化活性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  7. 酸化還元酵素がグルコースデヒドロゲナーゼである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  8. 電圧をステップ印加により印加する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  9. 600mV以下の電圧が印加される、請求項8に記載のバイオセンサを用いた物質の測定方法。
  10. 絶縁性基板と、該絶縁性基板上に形成した2以上の電極と、該電極の少なくとも1つの電極上に配置された試料中の測定対象物質と反応しうる酸化還元酵素を含む試薬層とを含む、電気化学測定セルを含むバイオセンサと、
    バイオセンサへの電圧印加を制御する、制御部と、
    バイオセンサへの電圧印加により得られる、前記物質に由来する電子の電極への移動に基づく電荷移動律速電流を検出する、検出部と、
    前記電流値から前記物質の濃度を算出する、演算部と、
    前記算出された前記物質の濃度を出力する出力部とから構成される測定装置。
  11. 前記制御部は、電圧をステップ印加により印加するように制御を行う、請求項10に記載の測定装置。
  12. 前記物質がグルコースであり、酸化還元酵素がグルコースデヒドロゲナーゼである、請求項10または11に記載の測定装置。
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