本発明は、各種の金型に用いられる焼入れ鋼等の高硬度の難削材に対して高送りの荒加工を行っても、チッピング及び欠損が少なく長寿命である多刃ボールエンドミルに関する。
自動車工業や電子工業等において各種の部品を製造するのに用いる高硬度の金型を高能率に切削し得る長寿命のボールエンドミルとして、3枚以上のボール刃を有する超硬合金製の多刃ボールエンドミルが広く使用されている。しかし、ボールエンドミルを用いて被削材を切削すると、回転速度がほぼゼロのボール刃の回転中心点近傍に大きな負荷がかかり、ビビリ振動が発生する。その結果、ボール刃の回転中心点近傍にチッピング及び欠損が発生する。この問題を解決するために、今までに種々の提案がされている。
特開2002-187011号は、図25及び図26に示すように、3枚以上のボール刃を有する多刃ボールエンドミルにおいて、回転中心点O近傍のチップポケットの不足を解消するために、各ボール刃の逃げ面(ランド)にシンニングを施し、回転中心近傍で各ボール刃を欠落させたボールエンドミルを提案している。しかし、各ボール刃のシンニング部は弓状部を有さないので、回転中心点O近傍に大きな負荷がかかったときにビビリ振動が発生する。その上、特開2002-187011号はボール刃及び外周刃の径方向すくい角に関してだけでなく、ボール刃及び外周刃のねじれ角に関しても何も検討していない。従って、この多刃ボールエンドミルを高硬度難削材の高送り荒加工に使用すると、ボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生する。
特開2009-56559号は、2枚以上のボール刃を有するボールエンドミルであって、回転中心付近に断面V字状又はU字状の溝部がボール刃の間に形成されており、高能率加工でも工具中心部からの切屑の排出を良好にしたボールエンドミルを提案している。しかし、このボールエンドミルは、回転中心点近傍に切れ刃が存在しないので、回転中心点近傍にかかる大きな負荷によりビビリ振動が発生する。さらに、特開2009-56559号はボール刃及び外周刃の径方向すくい角に関してだけでなく、ボール刃及び外周刃のねじれ角に関しても何も検討していない。従って、この多刃ボールエンドミルを高硬度難削材の高送り荒加工に使用すると、ボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生する。
特開平9-267211号は、金型等の高速切削に適するように、ボール刃のノーズ部分に4°以上の傾斜角(中低勾配角)でV字状の底刃を設けた二枚刃ボールエンドミルを開示している。しかし、ボール刃及び外周刃のねじれ角が小さいので、高硬度難削材に対する高送り荒加工の際にチッピング及び欠損を十分に防止することができない。
特開2010-105093号は、各ボール刃が−10°〜0°のすくい角(外端付近では0°又は負角)を有し、各外周刃が正のすくい角を有し、各ボール刃のすくい面が各外周刃のすくい面に食い込んでいるエンドミルを開示している。しかし、このボールエンドミルは中低勾配刃を有さないので、高硬度の難削材の高送り荒加工を行うと、回転中心点近傍での切屑詰まりが発生する。また、ボール刃及び外周刃のねじれ角が小さいので、高硬度難削材に対する高送り荒加工の際にチッピング及び欠損を十分に防止することができない。
特開2006-15419号は、ほぼ1/4円弧状の底刃(ボール刃)及び外周刃が接続部でほぼ等しい径方向すくい角を有するボールエンドミルを開示している。特開2006-15419号は、このような形状のため、接続部で切れ刃の強度が大きく変動することがなく、接続部まで切削に使用した場合でも切削負荷の集中による欠けやチッピングが生じないという利点があると記載している。しかし、特開2006-15419号はボール刃及び外周刃の径方向すくい角に関してだけでなく、ボール刃及び外周刃のねじれ角に関しても何も検討していない。また、このボールエンドミルでは、各外周刃のすくい面が各ボール刃のすくい面側に大きく食い込んでおり、かつ各ボール刃のすくい面が凸曲面状になっていないので、各ボール刃の剛性及び刃先強度が不十分である。従って、この多刃ボールエンドミルを高硬度難削材の高送り荒加工に使用すると、ボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生する。
従って、本発明の目的は、焼入れ鋼等の高硬度の難削材の高送り荒加工に使用してもボール刃及び外周刃のチッピング及び欠損を効果的に防止できるだけでなく、回転中心点近傍に切屑が詰まるのを防止するとともにビビリ振動の発生を抑制した多刃ボールエンドミルを提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) 各切れ刃の最外周点におけるねじれ角及び各外周刃のねじれ角を大きくするとともに、各切れ刃の最外周点におけるねじれ角を各外周刃のねじれ角にできるだけ近づけることにより、各切れ刃と各外周刃をなめらかに連結させ、(b) 各ボール刃の径方向すくい角を大きく負にするとともに、各外周刃の径方向すくい角を正にし、かつ(c) 回転中心点近傍に中低勾配刃を形成すると、これらの要件の相乗効果により、上記目的を達成できることを発見し、本発明に想到した。
本発明の多刃ボールエンドミルは、回転軸線を中心として回転するシャンク部と、先端にボール部を有する切れ刃部と、前記切れ刃部に形成された3枚以上の切れ刃とを具備し、
各切れ刃が、35〜45°のねじれ角ηを有する外周刃と、前記外周刃となめらかに連結するように前記ねじれ角ηに対して最外周点におけるねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすボール刃とからなり、
各中低勾配刃と各ボール刃の連結点から0.1D〜0.4D(ただし、Dは前記切れ刃部の直径である。)の範囲内での前記ボール刃の径方向すくい角が−37〜−11°であり、前記外周刃の径方向すくい角が2〜8°であり、
前記ボール部先端の回転中心点の近傍で各ボール刃の先端から前記回転中心点まで中低勾配刃が一体的に形成されていることを特徴とする。
各中低勾配刃が少なくとも回転方向後方に湾曲した弓状部を有し、前記弓状部の湾曲度(前記弓状部の頂点から前記弓状部の両端を結ぶ線分に降ろした垂線の長さと前記弓状部の両端を結ぶ線分の長さとの比)は5〜40%であり、かつ各中低勾配刃は、前記回転中心点が各中低勾配刃と各ボール刃との連結点より回転軸方向後方に位置するように、前記回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで傾斜しているのが好ましい。
前記ボール刃と前記外周刃との境界に近い前記ボール刃の領域では、前記ボール刃のすくい面は、負のすくい角を有する第一のすくい面(前記ボール刃のすくい面)の中央部に正のすくい角を有する凹曲面状の第二のすくい面(前記外周刃のすくい面)が食い込んだ形状を有し、前記境界に近づくにつれて「第二のすくい面/第一のすくい面の比」は次第に大きくなり、前記境界で前記第二のすくい面が100%になるのが好ましい。「第二のすくい面/第一のすくい面の比」とは、後述する図10(a)等において第二のすくい面の輪郭線長さと第一のすくい面の輪郭線の長さとの比をいう。
各ボール刃に十分な剛性及び刃先強度を付与するために、前記ボール刃のすくい面は回転方向前方に凸の曲面状であり、前記凸曲面の湾曲度(前記凸曲面の頂点から前記凸曲面の両端を結ぶ線分に降ろした垂線の長さと前記凸曲面の両端を結ぶ線分の長さとの比)は1〜10%であるのが好ましい。
前記第一のすくい面と前記第二のすくい面との境界は先端方向に凸の曲線状であるのが好ましい。
ボール部に十分な剛性及び強度を付与するために、前記ボール刃間の切屑排出溝は凸曲面状の底面部を有し、前記凸曲面の湾曲度(前記凸曲面の頂点から前記凸曲面の両端を結ぶ線分に降ろした垂線の長さと前記凸曲面の両端を結ぶ線分の長さとの比)は5〜40%であるのが好ましい。前記切屑排出溝の底面に占める前記凸曲面部の割合は50%以上であるのが好ましい。
前記各中低勾配刃における前記弓状部の半径方向長さの割合は20〜100%であるのが好ましく、前記各切れ刃において中低勾配刃とボール刃との連結点における前記中低勾配刃の逃げ面の円周方向幅は前記ボール刃の逃げ面の最大円周方向幅の20〜80%であるのが好ましく、前記各中低勾配刃の半径方向長さX(ボール刃に繋がる外端と前記回転中心点との半径方向距離)は前記切れ刃部の直径Dの1.25〜3.75%であるのが好ましい。
前記ボール刃は、前記回転軸線を中心として円周方向に不等分割に配置されているのが好ましい。
本発明の多刃ボールエンドミルは、(a) 各切れ刃が、35〜45°のねじれ角ηを有する外周刃と、前記外周刃となめらかに連結するように最外周点において前記ねじれ角ηに対してη−μ≦7°の関係を満たすねじれ角μを有するボール刃とからなり、(b) 各中低勾配刃と各ボール刃の連結点から0.1D〜0.4D(ただし、Dは前記切れ刃部の直径である。)の範囲内での前記ボール刃の径方向すくい角が−37〜−11°であり、前記外周刃の径方向すくい角が2〜8°であり、かつ(c) 前記ボール部先端の回転中心点の近傍で各ボール刃の先端から前記回転中心点まで中低勾配刃が一体的に延在しているので、高硬度難削材の高送り荒加工でもボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生するのを十分に抑制することができるだけでなく、回転中心点O近傍の切削負荷を低減し、切屑の排出を効果的に行うことができる。
本発明の四枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図1(a) の四枚刃ボールエンドミルを示す斜視図である。
図1(a) の四枚刃ボールエンドミルを示す部分拡大斜視図である。
切れ刃のねじれ角と外周刃のねじれ角との関係を示す部分展開側面図である。
本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル(等分割のボール刃を有する)のボール刃及び切屑排出溝を示す拡大正面図である。
図2の四枚刃ボールエンドミルのボール刃の軌跡を示す拡大図である。
図2の四枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃の一例を示す拡大正面図である。
中低勾配刃の弓状部を示す部分拡大正面図である。
中低勾配刃の弓状部を示す部分拡大正面図である。
中低勾配刃の逃げ面の円周方向幅を示す部分拡大正面図である。
本発明の第二の実施形態による四枚刃ボールエンドミル(不等分割のボール刃を有する)のボール部を示す拡大正面図である。
図8(a) の四枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す部分拡大正面図である。
図8(b) の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
本発明の四枚刃ボールエンドミルを製造するために中低勾配刃を形成する前の段階のボール部を示す拡大正面図である。
1つの中低勾配刃を形成した後のボール部を示す拡大正面図である。
本発明の三枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図13の三枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す部分拡大正面図である。
図14の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
本発明の五枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図17の五枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す拡大正面図である。
図18の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
本発明の六枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図21の六枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す拡大正面図である。
図22の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
特開2002-187011号の多刃ボールエンドミルを示す正面図である。
図25の部分拡大正面図である。
高硬度の難削材の高送り荒加工に適する本発明の多刃ボールエンドミルを、超硬合金製のソリッド型多刃ボールエンドミルを例にとって、以下詳細に説明する。本発明の多刃ボールエンドミルの切れ刃の枚数は3〜6枚が好ましい。各ボールエンドミルに関する説明は、特に断りがなければ他のボールエンドミルにも適用される。本明細書で使用する各種のパラメータの定義は全てのボールエンドミルにおいて同じであるので、四枚刃ボールエンドミルの欄に記載した定義はそのまま他の多刃ボールエンドミルにも適用される。
本明細書において用いる用語「高硬度の難削材」は、例えば焼き入れ処理した合金工具鋼(SKD61、SKD11又は粉末ハイス等)等の40以上、特に50以上のロックウェル硬度HRCを有する金属を意味する。用語「荒加工」は、仕上げ加工の前に行う加工であって、切削能率を上げるために切込深さ及び送り量が大きく、もって切削負荷が大きい加工を意味する。また用語「高送り加工」は、高能率に加工するために送り速度Vf、軸方向切込み量ap及び径方向切込み量aeのいずれか1つ以上を大きくした加工を意味する。高硬度の難削材の高送り加工の場合、例えば三枚刃ボールエンドミルでは送り速度Vfを1250 mm/min以上、軸方向切込み量apを0.3 mm以上、径方向切込み量aeを0.9 mm以上にするのが望ましく、四枚刃、五枚刃及び六牧刃のボールエンドミルでは送り速度Vfを1500 mm/min以上、軸方向切込み量apを0.4 mm以上、径方向切込み量aeを1.2 mm以上にするのが望ましい。
超硬合金製のソリッド型多刃ボールエンドミルは、WC粉末とCo粉末の混合粉末を金型成形及び焼結した後、切れ刃部、ギャッシュ、切屑排出溝、逃げ面、すくい面等の仕上げ加工(研削加工)を行って製造される。必要に応じて、切れ刃部に例えばTiSiN、TiAlN、TiAlSiN、CrN、CrSiN、AlCrN、AlCrSiN、AlTiCrN又はAlCrVBN等の公知の耐摩耗性硬質皮膜を被覆する。
[1] 四枚刃ボールエンドミル
(1) 第一の実施形態
図1〜図7に示す本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1は、円柱状のシャンク部2と切れ刃部3とを備え、切れ刃部3は先端のボール部3aと、ボール部3aとシャンク部2との間の外周刃部3bとからなる。切れ刃部3には、所定のねじれ角を有する4枚の切れ刃5a、5b、5c、5dが形成されており、各切れ刃5a〜5dはボール部3aに形成された円弧状ボール刃6a、6b、6c、6dと、外周刃部3bに形成された螺旋状外周刃7a、7b、7c、7dとからなり、各ボール刃6a〜6dと各外周刃7a〜7dはスムーズに(変曲点なしに)連結している。図2に示すように、ボール部3aに4枚のボール刃6a〜6dがそれぞれギャッシュ17a〜17dを介して回転中心点Oの廻りに配置されている。
図1(a)〜図1(c) に示すように、各ボール刃6a〜6dの回転方向前方にすくい面11a、11b、11c、11dが形成されており、回転方向後方に逃げ面(ランド)9a、9b、9c、9dが形成されている。また、各すくい面11a〜11dの回転方向前方にギャッシュ17a、17b、17c、17dが形成されており、各ギャッシュ17a〜17dは各切屑排出溝4の一部を構成している。各外周刃7a〜7dの回転方向前方にすくい面12a、12b、12c、12dが形成されており、回転方向後方に逃げ面13a、13b、13c、13dが形成されている。
図3及び図4はボール部3aの回転中心点O近傍を示す。各ボール刃6a〜6d(図3では6a、6cのみ見える)は、切れ刃部3の外周から回転中心点Oの近傍の点P1、P2、P3、P4(図3ではP1、P3のみ見える)まで延在している。各点P1〜P4から回転中心点Oまでの間に、中低勾配刃8a、8b、8c、8dが延在している。従って、点P1〜P4はボール刃6a〜6dの先端、中低勾配刃8a〜8dの外端、又はボール刃6a〜6dと中低勾配刃8a〜8dとの連結点と呼ぶことができる。各中低勾配刃8a〜8dの回転方向後方に逃げ面10a、10b、10c、10dが形成されている。各逃げ面10a〜10dは、対応するボール刃逃げ面9a〜9dと境界線15a、15b、15c、15dを介して連接している。以下、中低勾配刃について詳細に説明する。
図4から明らかなように、本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1では、中低勾配刃8a〜8dは、回転中心点Oから各点K1〜K4まで延在し、回転方向後方に湾曲した弓状部と、各点K1〜K4から各点P1〜P4まで延在するボール刃延長部とからなる。中低勾配刃8dを示す図5及び図6では、弓状部は8d1により表され、ボール刃延長部は8d2により表される。Rは回転方向を表す。中低勾配刃8dの弓状部8d1は、回転方向前方に隣接する中低勾配刃8aの逃げ面10aの形成により形成される。これは他の弓状部8a1〜8c1及び他のボール刃延長部8a2〜8c2も同様である。
弓状部8a1〜8d1は全体的に曲線状である場合と、部分的に曲線状である場合とがある。後者の場合、曲線状の部分と直線状の部分とはスムーズに連結しているので、両者の境界は正確に決まらない。従って、曲線状の部分が全体的であろうと部分的であろうと、「弓状部」と呼ぶことにする。
しかし、ボール刃延長部8d2は必須ではなく、各中低勾配刃8a〜8dは全体的に回転方向後方に湾曲した弓状部のみでも良い。このように、各中低勾配刃8a〜8dが少なくとも回転方向後方に湾曲した弓状部8a1〜8d1を有するので、中低勾配刃8a〜8dは、高送り切削時の加工負荷に耐えることができる。
図4、図5及び図6に示すように、中低勾配刃8aの逃げ面10aはその回転方向後方の中低勾配刃8dに曲線状に接して中低勾配刃8dの弓状部8d1を形成するとともに、逃げ面10aの回転方向後縁部はギャッシュ17dに繋がっている。これは、他の中低勾配刃8b〜8dの逃げ面10b〜10dについても同様である。
図3に示すように、各中低勾配刃8a〜8dは、回転中心点Oが回転軸線方向最後点になるように、回転軸線Axと直交する面に対して微小な傾斜角αで傾斜している。これにより、ボール刃6a〜6dの先端P1〜P4より内側にある中低勾配刃8a〜8dは微小な幅Tの極めて浅い窪み部14を形成する。図4に示すように、窪み部14は、回転中心点Oを中心とし、中低勾配刃8a〜8dとボール刃6a〜6dとの連結点P1〜P4を通る円Cにより表される。
各中低勾配刃8a〜8dの傾斜角αは0.5〜3°であるのが好ましい。傾斜角αが3°を超えると、中低勾配刃8a〜8dを使用する切削により作用する負荷により、点P1〜P4付近の切れ刃(ボール刃6a〜6d及び中低勾配刃8a〜8dの端部)の早期摩耗やチッピングが発生し易くなる。また、傾斜角αが0.5°より小さくなると、回転中心点O付近の中低勾配刃8a〜8dが被削材と接触し易くなり、切削抵抗を低減する中低勾配刃8a〜8dの効果が消失する。より好ましい傾斜角αは1〜2°である。このように、各中低勾配刃8a〜8dが微小な傾斜角で回転軸線方向後方に傾斜しているので、高送り切削においてビビリ振動を抑制することができる。
中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXは切れ刃部3の直径D(図1)の1.25〜3.75%であるのが好ましい。中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXは、ボール刃6a〜6dに繋がる外端P1〜P4と回転中心点Oとの半径方向距離であり、切れ刃部3の正面図で見たときの外端P1〜P4と回転中心点Oとの距離に等しい。図3に示すように、各中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さX(ボール刃6a〜6dに繋がる外端P1〜P4と回転中心点Oとの半径方向距離)は窪み部14の幅Tの半分である。例えば直径Dが8 mmの場合、窪み部14の幅Tを0.2〜0.6 mmの範囲に設定する。
中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXを切れ刃部3の直径Dの1.25〜3.75%とすることにより、ボール刃の長さを確保しながら、切削速度が0となる回転中心点O及びその近傍における中低勾配刃の傾斜角αを0.5〜3°の範囲に確保でき、もって高能率な荒加工が可能となる。中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXが切れ刃部3の直径Dの1.25%未満であると、中低勾配刃8a〜8dの傾斜角αが大きくなりすぎ、中低勾配刃8a〜8dの加工が困難である。一方、中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXが切れ刃部の直径Dの3.75%超であると、中底勾配刃8a〜8dに対してボール刃6a〜6dが短くなりすぎ、高能率な高送り切削が実現できない。中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXは切れ刃部3の直径Dの1.5〜3.5%であるのがより好ましい。特に限定されないが、実用性の点から、直径Dは好ましくは0.1〜30 mmであり、より好ましくは0.5〜20 mmである。
図5に示すように、本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1では、中低勾配刃8dは、回転中心点Oから点K4まで延在する弓状部8d1と、点K4から外端P4まで延在するボール刃延長部8d2とからなるので、中低勾配刃8dの半径方向長さXは、弓状部8d1の半径方向長さX1とボール刃延長部8d2の半径方向長さX2との合計である。この例では、ボール刃延長部8d2は直線状であるが、曲線状でも構わない。これは、他の中低勾配刃8a〜8cも同様である。弓状部の半径方向長さX1は中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXの好ましくは20〜100%であり、より好ましくは30〜100%であり、最も好ましくは60〜95%である。X1がXの20%未満であると、中低勾配刃8a〜8dの切削抵抗が大きい。
図6に示すように、弓状部8d1の両端O、K4を結ぶ直線L3上の点Q1から引いた垂線が弓状部8d1上の点Q2と交差したとき、線分Q1-Q2の長さが最大になるように点Q1の位置を決める。そのときの線分Q1-Q2の長さと直線L3の長さとの比を中低勾配刃8dの弓状部8d1の湾曲度とする。線分Q1-Q2の長さと直線L3の長さとの比(湾曲度)は好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。弓状部8d1の湾曲度が5%未満ではチップポケットが過小になり、40%を超えると中低勾配刃の剛性が不足する。
ボール部3aの回転中心点O付近に形成された微小な幅Tの窪み部14はギャッシュ17a〜17dに連接し、切れ刃部3の先端におけるチップポケットとして機能する。中低勾配刃8a〜8dにより生成された極めて薄い切屑は窪み部14からギャッシュ17a〜17dを介して切屑排出溝4に排出され、高送り切削でも回転中心点O近傍での切屑詰りを防止できる。
各中低勾配刃の逃げ面10a〜10dの幅は、各ボール刃の逃げ面9a〜9dとの境界線15a〜15dから回転中心点Oまでの間で変動する。そこで、逃げ面10a〜10dの幅を以下の方法により評価する。図7に示すように、中低勾配刃8aの逃げ面10aの点P1における円周方向幅W1は、ボール刃6aの逃げ面9aの最大円周方向幅W2の好ましくは20〜80%であり、より好ましくは30〜70%である。この要件を満たすことにより当該中低勾配刃の高い剛性を確保することができる。点P1における中低勾配刃8aの逃げ面10aの円周方向幅W1は、回転中心点Oを中心として点P1を通る円Cが逃げ面10aと交差する点P1、P1’を結んだ直線の長さである。また、ボール刃6aの逃げ面9aの最大円周方向幅W2は、回転中心点Oを中心とした円C’がボール刃6aの逃げ面9aと交差する点B-B’を結んだ直線の長さ(直線B-B’の長さが最大になるように円C’の半径を設定する。)である。
中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXに対する逃げ面10a〜10dの幅を評価する場合、中低勾配刃8a〜8dの弓状部8a1〜8d1の中心角βを用いる。弓状部8a1〜8d1の中心角βは、図5に示すように、中低勾配刃8dの逃げ面10dの形成により形成された中低勾配刃8cの弓状部8c1の両端O及びK3と点P4とを結ぶ直線L1、L2を引いたときの直線L1と直線L2との角度である。
中低勾配刃の弓状部の中心角βは20〜70°とするのが好ましい。中心角βが20°未満であると、中低勾配刃8a〜8dの逃げ面10a〜10dの幅が小さすぎ、切削時の負荷抵抗に対する十分な剛性が得られない。一方、各中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXが切れ刃部3の刃径Dの1.25〜3.75%であるという条件を満たしつつ、中心角βを70°超にした中低勾配刃8a〜8dを形成するのは困難である。中心角βはより好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
上記の通り、各中低勾配刃8a〜8dは少なくとも回転方向後方に湾曲した弓状部を有するだけでなく、逃げ面10a〜10dが十分な幅を有するので、十分な剛性を有する。このため、被削材の荒加工を高送りで実施しても、中低勾配刃8a〜8dのチッピング及び欠損を効果的に防止できる。
各中低勾配刃8a〜8dの径方向すくい角(回転軸線Axと直交する方向のすくい角)は−37〜−11°であり、好ましくは−33〜−15°である。これにより、十分な剛性及び刃先強度が得られる。径方向すくい角が−37°未満では切削抵抗が過大になり、−11°を超えると剛性や刃先強度が低下する。
ボール刃6a〜6dの逃げ面9a〜9dの逃げ角及び中低勾配刃8a〜8dの逃げ面10a〜10dの逃げ角はいずれも7〜21°以内であるのが好ましい。両逃げ角が7°未満であると切削抵抗が高く、高能率な切削においてビビリ振動が生じやすい。一方、両逃げ角が21°超であると切削抵抗は低減するが、ボール刃及び中低勾配刃の剛性が低下するため、高能率な切削でチッピング及び欠損が生じやすい。ボール刃の逃げ面9a〜9dの逃げ角及び中低勾配刃の逃げ面10a〜10dの逃げ角はいずれもより好ましくは9〜19°であり、最も好ましくは10〜15°である。なお、これらの逃げ角はほぼ同じであるのが好ましい。
このように、弓状部を有する各中低勾配刃が回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで回転軸線方向後方に傾斜しており、かつ後述する本発明の第二の実施形態と同様に、ボール刃のすくい面及び切り屑排出溝の底面が凸曲面状の本発明の多刃ボールエンドミルは、高硬度の難削材に対して高能率の荒加工を行っても、ボール刃及び中低勾配刃のチッピング及び欠損が効果的に防止され、非常に安定した切削が可能になる。
(2) 第二の実施形態
図8(a) 及び図8(b) に示すように、本発明の第二の実施形態による四枚刃ボールエンドミル30は、中低勾配刃の形状及びボール刃の不等分割以外、実質的に第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1と同じである。図8において第一の実施形態と同じ部分には同じ参照番号を付与している。これらの相違点について以下詳細に説明する。
図9は図8(b) の一部を拡大して示す。逃げ面10dを形成する際に形成された弓状部8c1は回転中心点Oと点K3との間に延在し、ボール刃6cから半径方向内方に延びる曲線状の延長部8c2は弓状部8c1と点K3で連結する。点K3は、弓状部8c1と曲線部8c2との間で変曲点となる。
図9に示す例でも、中低勾配刃8dの逃げ面10dの点P4における円周方向幅W1は、第一の実施形態と同様に、ボール刃6dの逃げ面9aの最大円周方向幅W2の20〜80%であるのが好ましく、30〜70%であるのがより好ましい。中低勾配刃8dの逃げ面10dの形成により形成された中低勾配刃8cの弓状部8c1の中心角βは、弓状部8c1の両端O及びK3と点P4とを結ぶ直線L1、L2がなす角度である。この弓状部の中心角βも、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜70°であり、より好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
このように、中低勾配刃8cを構成する弓状部8c1とボール刃延長部8c2とが変曲点K3を介して連結してなる場合でも、各中低勾配刃が回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで回転軸線方向後方に傾斜しており、かつ後述するボール刃のすくい面及び切り屑排出溝の底面が凸曲面を形成した本発明の要件を満たすことにより、第一の実施形態と同じ効果が得られる。
第二の実施形態ではボール刃を不等分割しているので、ボール刃6a〜6dの回転方向位置及び幅が異なり、それらの中低勾配刃8a〜8d及び逃げ面10a〜10dも異なる。このような不等分割のボール刃により、高硬度の難削材の高送り荒加工の場合にビビリ振動がいっそう抑制される。不等分割における分割角度(4枚のボール刃の円周方向配置角度)は90±(2〜5)°が望ましい。分割角度が基準角度90°に対して2°より小さいと、びびり振動を抑制する大きな効果が得られない。一方、分割角度が基準角度90°に対して5°より大きいと、ボール刃にかかる負荷の不均一さが大きくなりすぎ、チッピングや折損の増加が懸念される。
(3) 切れ刃、外周刃及び切屑排出溝の形状
切れ刃、外周刃及び切屑排出溝の形状は、第一の実施形態と第二の実施形態との間に相違がないので、以下第二の実施形態の四枚刃ボールエンドミルを例にとって、詳細に説明する。
(a) ボール刃及び外周刃のねじれ角
高硬度の難削材に対して高送りの荒加工を行ってもチッピング及び欠損が少なく長寿命であるために、各外周刃7a〜7dが35〜45°のねじれ角η(例えばη=40°)を有するとともに、各ボール刃6a〜6dのねじれ角μが前記ねじれ角η(例えばμ=36°)に対してη−μ≦7°の関係を満たし、もって両者がなめらかに連結している必要がある。ここで、各ボール刃の「ねじれ角μ」は、特に断りがなければ各ボール刃の最外周点におけるねじれ角をいう。ここで、「最外周点におけるねじれ角」とは、後述する各ボール刃6a〜6dの外端26a〜26dから工具先端方向に0.02Dまでの範囲で測定したねじれ角であり、最外端の接線に一致する。
外周刃7a〜7dの切削性能を向上させるとともに、剛性を高めて高硬度難削材の側面切削時のチッピングを抑えるために、各外周刃7a〜7dのねじれ角ηは35〜45°の範囲内とする。図1(d) に示すように、ねじれ角ηは各外周刃7a〜7dと回転軸線Axとがなす角度である。外周刃7a〜7dのねじれ角ηが35°未満であると、各外周刃にかかる抵抗が大きいため、チッピングが起こるおそれが大きい。一方、ねじれ角ηが45°より大きいと、被削材にかかる負荷増大によるビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。外周刃7a〜7dのねじれ角ηは37〜43°が好ましい。
図1(d) に示すように、各ボール刃6a〜6dのねじれ角μは各外周刃7a〜7dのねじれ角ηに対してη−μ≦7°の関係を満たす必要がある。η−μ>7°であると、各外周刃7a〜7dと各ボール刃6a〜6dの連結点(ボール刃の最外周点)で切れ刃は大きく曲がり、チッピングや欠損の原因となる。η−μ≦6°が好ましく、η−μ≦5°がより好ましい。
(b) ボール刃の湾曲角度
各ボール刃6a〜6dの最外周点における湾曲角度λ3は35〜45°であるのが好ましく、37〜43°であるのがより好ましい。湾曲角度λ3は、各ボール刃6a〜6dの始点P(P1、P2、P3、P4)における接線L1と、始点Pとボール刃の終点T3(回転中心軸Oから0.5Dの位置)を通る直線L2とのなす角度である。湾曲角度λ3が35°未満であると、各ボール刃6a〜6dにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が45°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。なお、ボール刃の始点Pにおける接線L1として、本明細書では近似的に各ボール刃6a〜6dの始点P(P1、P2、P3、P4)から0.01Dの位置にある点U(U1、U2、U3、U4)を通る直線を用いることにする。
回転中心軸Oから0.25Dの位置T1にある各ボール刃の湾曲角度λ1は6〜13°が好ましく、回転中心軸Oから0.375Dの位置T2にある各ボール刃の湾曲角度λ2は14〜22°が好ましい。湾曲角度λ1は、各ボール刃の始点Pにおける接線L1と各ボール刃の回転中心軸Oから0.25Dの位置にある点T1を通る直線L3とのなす角度である。湾曲角度λ2は、各ボール刃の始点Pにおける接線L1と各ボール刃の回転中心軸Oから0.375Dの位置にある点T2を通る直線L3とのなす角度である。
(c) ボール刃と外周刃との境界部の形状
図1(a)〜図1(c) に示すように、各ボール刃6a〜6dと各外周刃7a〜7dとの境界に近いボール刃6a〜6dの領域では、各ボール刃6a〜6dのすくい面が、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11dの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12dが食い込んだ形状を有するのが好ましい。各第一のすくい面11a〜11dに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12dの先端部20は湾曲形状である。図1(c) 及び図1(d) における参照番号26a、26b、26cはそれぞれ各ボール刃の外端を示す。各ボール刃6a〜6dと各外周刃7a〜7dとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12dは100%になるのが好ましい。本発明では、各外周刃7a〜7dが大きなねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6dのねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11dに食い込む各第二のすくい面12a〜12dは短く、各ボール刃6a〜6dの剛性が高い。
(d) 切れ刃及び切屑排出溝の形状
本発明の第二の実施形態による四枚刃ボールエンドミル30(図1)のボール部3aにおいて、中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図10(a)、図10(b)、図10(c) 及び図10(d) に示す。
図10(a) に示すI-I断面(連結点Kから0.10Dだけ離隔)及び図10(b) に示すII-II断面(連結点Kから0.25Dだけ離隔)から明らかなように、ボール部3aにおける各切屑排出溝4は、ボール刃6bのすくい面11bと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bと、それらの間の溝底面4aとから形成されている。溝底面4aの範囲はすくい面11bとの境界44から溝壁面4bとの境界45までである。この例では溝底面4aは凸曲面のみからなり、境界44,45はそれぞれすくい面11bと溝底面4aとの変曲点及び溝底面4aと溝壁面4bとの変曲点であるが、本発明はこれに限定されず、溝底面4aの長さuの50%以上を凸曲面が占めていれば良い。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状でも良い。
回転軸線に垂直な断面を示す図10(a) 及び図10(b) に示すように、各ボール刃6a〜6dのすくい面11a〜11dは回転方向に凸の曲面状であるのが好ましい。各すくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度は、凸曲面の両端を結ぶ線分の長さgに対する凸曲面の頂点から前記線分に降ろした垂線の長さhの比h/gにより表される。各すくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%(例えば3%)が好ましい。各ボール刃6a〜6dのすくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度h/gが1%未満では、ボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、10%超では切削性が落ちるため、溶着による欠けが発生し易くなる。各ボール刃6a〜6dのすくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度h/gのより好ましい範囲は1〜8%である。
ボール刃6b、6c間の切屑排出溝4の溝底面4aの凸曲面の湾曲度は、凸曲面の頂点からその凸曲面の両端44、45を結ぶ線分に降ろした垂線の長さvと前記線分の長さuとの比v/uにより表される。各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、各凸曲面の湾曲度は好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。
図10(a) 及び図10(b) において、各ボール刃の径方向すくい角(図10(a) ではδ1のみ示し、図10(b) ではδ2のみ示す。)は−37〜−11°(例えばδ1=−21°、δ2=−25°)であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図10(a) 及び図10(b) に示すように、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10D〜0.25Dの範囲において、ボール刃のすくい面11a〜11dは凸曲面状であるのが好ましい。凸曲面状すくい面により、ボール刃の強度を保ちつつスムーズに切屑を排出できる。ボール刃のすくい面が平面状又は凹面状の場合、チッピングや欠損が発生するおそれがある。
図1(a)〜図1(c)、及び図10(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各外周刃7cとの境界に近い各ボール刃6cの領域では、ボール刃6cのすくい面が、負のすくい角を有する第一のすくい面11cの中央部に正のすくい角を有する凹曲面状の第二のすくい面12c(外周刃7cのすくい面のうち第一のすくい面11c内に延長した部分)が食い込んだ形状を有し、前記境界に近づくにつれて第二のすくい面12c/第一のすくい面11cの比が次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12cが100%になるのが好ましい。本発明では各切れ刃のねじれ角μ及び外周刃のねじれ角ηが大きいので、第一のすくい面11cへの第二のすくい面12cの食い込み量が比較的少なく、ボール刃と外周刃との境界部における剛性が高い。
図10(c) では、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第一のすくい面11bと、境界47を介して第一のすくい面11bに連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。第二のすくい面71bは外周刃7bのすくい面12bのうち第一のすくい面11b内に食い込んだ部分である。第二のすくい面71bは、凸曲面状の溝底面4a及び回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとともに、切屑排出溝4を構成する。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図10(c) の溝底面4aの長さu’は図10(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。
図10(c) に示す各溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図10(c) ではδ3のみ示す。)も−37〜−11°(例えばδ3=−27°)であり、好ましくは−32〜−16°である。
各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) 各ボール刃間の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度より大きいのが好ましい。また、各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図10(c) ではγ1のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図10(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域での各切屑排出溝4は、外周刃7bから回転方向に延設されて凹曲面状のすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃7cの逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図10(d) ではε1のみ示す。)は2〜8°(例えばε1=7°)であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
(4) 製造方法
第二の実施形態の四枚刃ボールエンドミル30を例にとって、中低勾配刃の製造方法の具体例を以下に説明する。まず図11に示すように、薄板円板状のダイヤモンド砥石を装着したNC制御の研削加工機(図示せず)を用いて、4枚のボール刃6a〜6dを順次形成する。回転中心点Oの近傍は中低勾配刃8a〜8dの形成により削除されるので、ボール刃6a〜6dの形成を回転中心点Oの近傍で停止する。その結果、回転中心点Oを含む領域に研削残りの四角状突起16が残留する。
図12に示すように、1つのボール刃(例えば6d)の逃げ面9dに対して、方向Eに往復移動する薄板円板状のダイヤモンド砥石を徐々に降下させながら、点P4から矢印Fの方向に移動させる。その結果、点P4から回転軸線方向後方に傾斜する逃げ面10dが形成される。逃げ面9dが突き当たる別の逃げ面9cのボール刃6cとの干渉を避けるために、方向Eはボール刃6cに対して傾斜していなければならない。ボール刃6cに対する方向Eの傾斜角は20〜50°で良い。傾斜角が20°未満では研削加工の精度が低下し、50°を超えると研削砥石の干渉が起こる。この手順を全てのボール刃の逃げ面について行うことにより、図8(b) に示す中低勾配刃8a〜8dが形成される。
[2] 三枚刃ボールエンドミル
図13は本発明の三枚刃ボールエンドミル40を示し、図14及び図15は三枚刃ボールエンドミル40における中低勾配刃を示す。図13〜図15において前述した四枚刃ボールエンドミルと同じ部分には同じ参照番号を付与している。三枚刃ボールエンドミル40は、3枚のボール刃6a、6b、6cと、各ボール刃6a、6b、6cの端部P1、P2、P3から一体的に回転中心点Oまで延在する中低勾配刃8a、8b、8cとを有する。各ボール刃6a、6b、6cの回転方向前方にギャッシュ17a、17b、17cが形成されている。
ボール刃及び外周刃のねじれ角については、四枚刃ボールエンドミルと同じである。すなわち、各外周刃7a〜7cは35〜45°のねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6cの最外周点におけるねじれ角μはη−μ≦7°の関係を満たし、もって両刃はなめらかに連結している。各外周刃7a〜7cのねじれ角ηは好ましくは37〜43°である。
各ボール刃6a〜6cの最外周点における湾曲角度λ3は65〜95°であるのが好ましく、75〜90°であるのがより好ましく、77〜87°であるのがさらに好ましい。湾曲角度λ3が65°未満であると、各ボール刃6a〜6cにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が95°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。
図13に示すように、各ボール刃6a〜6cと各外周刃7a〜7cとの境界に近いボール刃6a〜6cの領域では、各ボール刃6a〜6cのすくい面が、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11cの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12cが食い込んだ形状を有するのが好ましい。参照番号27bはボール刃6bの外端を示す。各第一のすくい面11a〜11cに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12cの先端部21は湾曲形状である。各ボール刃6a〜6cと各外周刃7a〜7cとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12dは100%になるのが好ましい。本発明では、各外周刃7a〜7cが大きなねじれ角ηを有するとともに、各外周刃7a〜7cのねじれ角ηと各ボール刃6a〜6cのねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11cに食い込む各第二のすくい面12a〜12cは短く、各ボール刃6a〜6cの剛性が高い。
図15に示すように、中低勾配刃8aは回転方向後方に湾曲した弓状部8a1と、ボール刃延長部8a2とを有する。勿論、ボール刃延長部8a2はなくても良く、また弓状部8a1は全体的に曲線状である必要はなく、曲線部と直線部とからなっていても良い。これは他の中低勾配刃8b、8cにも当てはまる。図示していないが、各中低勾配刃8a、8b、8cは、ボール刃6a、6b、6cとの連結部P1、P2、P3より回転中心点Oの方が回転軸線方向後方に位置するように、回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで傾斜している。
図15に示すように、中低勾配刃8aの半径方向長さXに対する弓状部8a1の半径方向長さX1の割合は、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜100%であり、より好ましくは30〜100%であり、最も好ましくは60〜95%である。中低勾配刃8aとボール刃6aとの連結点P1における逃げ面10aの円周方向幅W1は、ボール刃の逃げ面9aの最大円周方向幅の20~80%であるのが好ましく、30~70%であるのがより好ましい。かつ回転軸線に沿って見たときの中低勾配刃8aの半径方向長さX(ボール刃6aに繋がる外端P1と回転中心点Oとの半径方向距離)は切れ刃部3の直径Dの1.25〜3.75%であるのが好ましく、1.5〜3.5%であるのがより好ましい。これも、勿論他の中低勾配刃8b、8cに当てはまる。三枚刃ボールエンドミルの場合も、第一の実施形態と同様に、中低勾配刃8cの弓状部の中心角βは好ましくは20〜70°であり、より好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図16(a)、図16(b)、図16(c) 及び図16(d) に示す。
図16(a) に示すI-I断面及び図16(b) に示すII-II断面では、ボール刃の各切屑排出溝4は、すくい面11bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。図16(a) 及び図16(b) では溝底面4aが凸曲面のみからなるが、本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さuの50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。溝底面4aの範囲は、ボール刃のすくい面11bとの境界44から溝壁面4bとの境界45までである。
図16(a) 及び図16(b) に示すように、各ボール刃6a〜6cのすくい面11a〜11cは回転方向に凸の曲面状であるのが好ましい。各すくい面11a〜11cの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%が好ましく、1〜8%がより好ましい。また、ボール刃間の各切屑排出溝4の溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。また、各ボール刃の径方向すくい角(図16(a) ではδ7のみ示し、図16(b) ではδ8のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図16(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各ボール刃と各外周刃との連結領域では、四枚刃ボールエンドミルと同様に、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第一のすくい面11bと、境界47を介して第一のすくい面11bと連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。また各切屑排出溝4は、第一及び第二のすくい面11b,71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図16(c) の溝底面4aの長さu’は図16(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。
図16(c) に示す各溝底面4aの凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図16(c) ではδ9のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。
三枚刃ボールエンドミルにおいても、各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、(a) 各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) ボール刃間の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度より大きいのが好ましい。各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図16(c) ではγ2のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図16(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域における各切屑排出溝4は、外周刃7bのすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃の逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図16(d) ではε2のみ示す。)は2〜8°であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
[3] 五枚刃ボールエンドミル
本発明の五枚刃ボールエンドミル50(図17)のボール部3aにおいて、中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図20(a)、図20(b)、図20(c) 及び図20(d) に示す。
ボール刃及び外周刃のねじれ角については、四枚刃ボールエンドミルと同じである。すなわち、各外周刃7a〜7eは35〜45°のねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6eの最外周点におけるねじれ角μはη−μ≦7°の関係を満たし、もって両刃はなめらかに連結している。各外周刃7a〜7eのねじれ角ηは好ましくは37〜43°である。
各ボール刃6a〜6eの最外周点における湾曲角度λ3は25〜35°であるのが好ましく、27〜33°であるのがより好ましい。湾曲角度λ3が25°未満であると、各ボール刃6a〜6eにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が35°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。
図17に示すように、各ボール刃6a〜6eと各外周刃7a〜7eとの境界に近いボール刃6a〜6eの領域では、各ボール刃6a〜6eのすくい面が、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11eの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12cが食い込んだ形状を有するのが好ましい。参照番号28eはボール刃6eの外端を示す。各第一のすくい面11a〜11eに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12eの先端部22は湾曲形状である。各ボール刃6a〜6eと各外周刃7a〜7eとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12eは100%になるのが好ましい。本発明では、各外周刃7a〜7eが大きなねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6eのねじれ角ηがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11eに食い込む各第二のすくい面12a〜12eは短く、各ボール刃6a〜6eの剛性が高い。
図20(a) 及び図20(b) に示すように、各ボール刃6a〜6eのすくい面11a〜11eは回転方向に凸の曲面状であるのが好ましい。各すくい面11a〜11eの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%が好ましく、1〜8%がより好ましい。また、ボール刃間の各切屑排出溝4の溝底面4aの凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。
図20(a) 及び図20(b) に示す各ボール刃の径方向すくい角(図20(a) ではδ10のみ示し、図20(b) ではδ11のみ示す。)は−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図20(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各ボール刃と各外周刃との連結領域では、四枚刃ボールエンドミルと同様に、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第二のすくい面11bと、境界47を介して第二のすくい面11bと連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。各切屑排出溝4は、第一及び第二のすくい面11b,71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図20(c) の溝底面4aの長さu’は図20(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。
図20(c) に示す各溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図20(c) ではδ12のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。
五枚刃ボールエンドミルにおいても、各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、(a) 各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) ボール刃間の各切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面の湾曲度より大きいのが好ましい。また、各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図20(c) ではγ3のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図20(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域における各切屑排出溝4は、外周刃7bのすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃の逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図20(d) ではε3のみ示す。)は2〜8°であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
[3] 六枚刃ボールエンドミル
図21は本発明の六枚刃ボールエンドミル60を示し、図22及び図23は六枚刃ボールエンドミル60における中低勾配刃を示す。図21〜図23において四枚刃ボールエンドミルと同じ部分には同じ参照番号を付与している。六枚刃ボールエンドミル60は、6枚のボール刃6a、6b、6c、6d、6e、6fと、各ボール刃6a〜6fの端部P1、P2、P3、P4、P5、P6から一体的に回転中心点Oまで延在する中低勾配刃8a、8b、8c、8d、8e、8fとを有する。各ボール刃6a〜6fの回転方向前方にギャッシュ17a、17b、17c、17d、17e、17fが形成されている。
ボール刃及び外周刃のねじれ角については、四枚刃ボールエンドミルと同じである。すなわち、各外周刃7a〜7fは35〜45°のねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6fの最外周点におけるねじれ角μはη−μ≦7°の関係を満たし、もって両刃はなめらかに連結している。各外周刃7a〜7fのねじれ角ηは好ましくは37〜43°である。
各ボール刃6a〜6fの最外周点における湾曲角度λ3は20〜30°であるのが好ましく、22〜28°であるのがより好ましい。湾曲角度λ3が20°未満であると、各ボール刃6a〜6dにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が30°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。
図21に示すように、各ボール刃6a〜6fと各外周刃7a〜7fとの境界に近いボール刃6a〜6fの領域では、各ボール刃6a〜6fのすくい面が、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11fの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12fが食い込んだ形状を有するのが好ましい。参照番号29eはボール刃6eの外端を示す。各第一のすくい面11a〜11fに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12fの先端部23は湾曲形状である。各ボール刃6a〜6fと各外周刃7a〜7fとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12fは100%になるのが好ましい。本発明では、各外周刃7a〜7fが大きなねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6fのねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11fに食い込む各第二のすくい面12a〜12fは短く、各ボール刃6a〜6fの剛性が高い。
図23に示すように、中低勾配刃8aは回転方向後方に湾曲した弓状部8a1と、ボール刃延長部8a2とを有する。勿論、ボール刃延長部8a2はなくても良く、また弓状部8a1は全体的に曲線状である必要はなく、曲線部と直線部とからなっていても良い。これは他の中低勾配刃8b〜8fにも当てはまる。図示していないが、各中低勾配刃8a〜8fは、ボール刃6a〜6fとの連結部P1〜P6より回転中心点Oの方が回転軸線方向後方に位置するように、回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで傾斜している。
図23に示すように、中低勾配刃8aの半径方向長さXに対する弓状部8a1の半径方向長さX1の割合は、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜100%であり、より好ましくは30〜100%であり、最も好ましくは60〜95%である。中低勾配刃8aとボール刃6aとの連結点P1における逃げ面10aの円周方向幅W1も、第一の実施形態と同様に、ボール刃の逃げ面9aの最大円周方向幅の20~80%であるのが好ましく、30~70%であるのがより好ましい。中低勾配刃8aの半径方向長さX(ボール刃6aに繋がる外端P1と回転中心点Oとの半径方向距離)も、第一の実施形態と同様に、切れ刃部3の直径Dの1.25〜3.75%であるのが好ましく、1.5〜3.5%であるのがより好ましい。これは勿論他の中低勾配刃8b〜8fにも当てはまる。六枚刃ボールエンドミルの場合、中低勾配刃8a〜8fの各弓状部の中心角βは、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜70°であり、より好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図24(a)、図24(b)、図24(c) 及び図24(d) に示す。
図24(a) に示すI-I断面(連結点Kから0.10Dだけ離隔)及び図24(b) に示すII-II断面(連結点Kから0.25Dだけ離隔)から明らかなように、各切屑排出溝4は、ボール刃6bのすくい面11bと、凸曲面状溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。図24(a) 及び図24(b) では溝底面4aは凸曲面のみからなるが、本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さuの50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。溝底面4aの範囲は、ボール刃のすくい面11bとの境界44から溝壁面4bとの境界45までである。
図24(a) 及び図24(b) に示すように、各ボール刃6a〜6fのすくい面11a〜11fは回転方向に凸の曲面状であるのが好ましい。各すくい面11a〜11fの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%が好ましく、1〜8%がより好ましい。また、ボール刃間の各切屑排出溝4の溝底面4aの凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、凸曲面の湾曲度は好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。また、各ボール刃の径方向すくい角(図24(a) ではδ13のみ示し、図24(b) ではδ14のみ示す。)は−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図24(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各ボール刃と各外周刃との連結領域では、四枚刃ボールエンドミルと同様に、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第一のすくい面11bと、境界47を介して第一のすくい面11bに連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。また、各切屑排出溝4は、第一及び第二のすくい面11b,71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図24(c) の溝底面4aの長さu’は図24(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。各溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図24(c) ではδ15のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。
六枚刃ボールエンドミルにおいても、各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、(a) 各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) ボール刃間の各切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度より大きいのが好ましい。また、各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図24(c) ではγ4のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図24(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域における各切屑排出溝4は、外周刃7bのすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃の逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図24(d) ではε4のみ示す。)は2〜8°であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
1、30:四枚刃ボールエンドミル
2:シャンク部
3:切れ刃部
3a:ボール部
4:切屑排出溝
4a:溝底面
4b:溝壁面
5a、5b、5c、5d:切れ刃
6a、6b、6c、6d、6e、6f:ボール刃
7a、7b、7c、7d、7e、7f:外周刃
8a、8b、8c、8d、8e、8f:中低勾配刃
8a1、8b1、8c1、8d1:弓状部
8a2、8b2、8c2、8d2:ボール刃延長部
9a、9b、9c、9d、9e、9f:ボール刃の逃げ面
10a、10b、10c、10d、10e、10f:中低勾配刃の逃げ面
11a、11b、11c、11d:ボール刃のすくい面
12a、12b、12c、12d:外周刃のすくい面
13a、13b、13c、13d:外周刃の逃げ面
14:窪み部
15a、15b、15c、15d:境界線
16:四角状突起
17a、17b、17c、17d、17e、17f:ギャッシュ
20、21、22、23、44、45、46、47、49:境界
26、27、28、29:ボール刃の外端
40:三枚刃ボールエンドミル
50:五枚刃ボールエンドミル
60:六枚刃ボールエンドミル
71a、71b、71c、71d:第二のすくい面
Ax:回転軸線
C:回転中心点の近傍領域
D:切れ刃部の直径
L1、L2、L3:直線
O:回転中心点
P1、P2、P3、P4、P5、P6:中低勾配刃とボール刃との連結点
K1、K2、K3、K4、K5、K6:中低勾配刃の弓状部の外端
Q1:中低勾配刃の弓状部の両端を結ぶ直線と、中低勾配刃の弓状部の頂点から降ろした垂線との交点
Q2:中低勾配刃の弓状部の頂点
R:多刃ボールエンドミルの回転方向
T:幅
g、u:凸曲面の長さ
u’:溝底面の長さ
h、v:凸曲面の高さ
X:中低勾配刃の半径方向長さ
X1:中低勾配刃の弓状部の半径方向長さ
X2:ボール刃延長部の半径方向長さ
W1:中低勾配刃の逃げ面の円周方向幅
W2:ボール刃の逃げ面の最大円周方向幅
α:中低勾配刃の傾斜角度
β:中低勾配刃の弓状部の中心角
δ1~δ15:ボール刃の径方向すくい角
γ1〜γ4:第二のボール刃の径方向すくい角
η:外周刃のねじれ角
μ:ボール刃の最外周点におけるねじれ角
λ1〜λ3:湾曲角度
ε1〜ε4:外周刃の径方向すくい角
本発明は、各種の金型に用いられる焼入れ鋼等の高硬度の難削材に対して高送りの荒加工を行っても、チッピング及び欠損が少なく長寿命である多刃ボールエンドミルに関する。
自動車工業や電子工業等において各種の部品を製造するのに用いる高硬度の金型を高能率に切削し得る長寿命のボールエンドミルとして、3枚以上のボール刃を有する超硬合金製の多刃ボールエンドミルが広く使用されている。しかし、ボールエンドミルを用いて被削材を切削すると、回転速度がほぼゼロのボール刃の回転中心点近傍に大きな負荷がかかり、ビビリ振動が発生する。その結果、ボール刃の回転中心点近傍にチッピング及び欠損が発生する。この問題を解決するために、今までに種々の提案がされている。
特開2002-187011号は、図25及び図26に示すように、3枚以上のボール刃を有する多刃ボールエンドミルにおいて、回転中心点O近傍のチップポケットの不足を解消するために、各ボール刃の逃げ面(ランド)にシンニングを施し、回転中心近傍で各ボール刃を欠落させたボールエンドミルを提案している。しかし、各ボール刃のシンニング部は弓状部を有さないので、回転中心点O近傍に大きな負荷がかかったときにビビリ振動が発生する。その上、特開2002-187011号はボール刃及び外周刃の径方向すくい角に関してだけでなく、ボール刃及び外周刃のねじれ角に関しても何も検討していない。従って、この多刃ボールエンドミルを高硬度難削材の高送り荒加工に使用すると、ボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生する。
特開2009-56559号は、2枚以上のボール刃を有するボールエンドミルであって、回転中心付近に断面V字状又はU字状の溝部がボール刃の間に形成されており、高能率加工でも工具中心部からの切屑の排出を良好にしたボールエンドミルを提案している。しかし、このボールエンドミルは、回転中心点近傍に切れ刃が存在しないので、回転中心点近傍にかかる大きな負荷によりビビリ振動が発生する。さらに、特開2009-56559号はボール刃及び外周刃の径方向すくい角に関してだけでなく、ボール刃及び外周刃のねじれ角に関しても何も検討していない。従って、この多刃ボールエンドミルを高硬度難削材の高送り荒加工に使用すると、ボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生する。
特開平9-267211号は、金型等の高速切削に適するように、ボール刃のノーズ部分に4°以上の傾斜角(中低勾配角)でV字状の底刃を設けた二枚刃ボールエンドミルを開示している。しかし、ボール刃及び外周刃のねじれ角が小さいので、高硬度難削材に対する高送り荒加工の際にチッピング及び欠損を十分に防止することができない。
特開2010-105093号は、各ボール刃が−10°〜0°のすくい角(外端付近では0°又は負角)を有し、各外周刃が正のすくい角を有し、各ボール刃のすくい面が各外周刃のすくい面に食い込んでいるエンドミルを開示している。しかし、このボールエンドミルは中低勾配刃を有さないので、高硬度の難削材の高送り荒加工を行うと、回転中心点近傍での切屑詰まりが発生する。また、ボール刃及び外周刃のねじれ角が小さいので、高硬度難削材に対する高送り荒加工の際にチッピング及び欠損を十分に防止することができない。
特開2006-15419号は、ほぼ1/4円弧状の底刃(ボール刃)及び外周刃が接続部でほぼ等しい径方向すくい角を有するボールエンドミルを開示している。特開2006-15419号は、このような形状のため、接続部で切れ刃の強度が大きく変動することがなく、接続部まで切削に使用した場合でも切削負荷の集中による欠けやチッピングが生じないという利点があると記載している。しかし、特開2006-15419号はボール刃及び外周刃の径方向すくい角に関してだけでなく、ボール刃及び外周刃のねじれ角に関しても何も検討していない。また、このボールエンドミルでは、各外周刃のすくい面が各ボール刃のすくい面側に大きく食い込んでおり、かつ各ボール刃のすくい面が凸曲面状になっていないので、各ボール刃の剛性及び刃先強度が不十分である。従って、この多刃ボールエンドミルを高硬度難削材の高送り荒加工に使用すると、ボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生する。
従って、本発明の目的は、焼入れ鋼等の高硬度の難削材の高送り荒加工に使用してもボール刃及び外周刃のチッピング及び欠損を効果的に防止できるだけでなく、回転中心点近傍に切屑が詰まるのを防止するとともにビビリ振動の発生を抑制した多刃ボールエンドミルを提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) 各切れ刃の最外周点におけるねじれ角及び各外周刃のねじれ角を大きくするとともに、各切れ刃の最外周点におけるねじれ角を各外周刃のねじれ角にできるだけ近づけることにより、各切れ刃と各外周刃をなめらかに連結させ、(b) 各ボール刃の径方向すくい角を大きく負にするとともに、各外周刃の径方向すくい角を正にし、かつ(c) 回転中心点近傍に中低勾配刃を形成すると、これらの要件の相乗効果により、上記目的を達成できることを発見し、本発明に想到した。
本発明の第一の多刃ボールエンドミルは、回転軸線を中心として回転するシャンク部と、先端にボール部を有する切れ刃部と、前記切れ刃部に形成された3枚以上の切れ刃とを具備し、
各切れ刃が、35〜45°のねじれ角ηを有する外周刃と、前記外周刃となめらかに連結するように前記ねじれ角ηに対して最外周点におけるねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすボール刃とからなり、
各中低勾配刃と各ボール刃の連結点から0.1D〜0.4D(ただし、Dは前記切れ刃部の直径である。)の範囲内での前記ボール刃の径方向すくい角が−37〜−11°であり、前記外周刃の径方向すくい角が2〜8°であり、
前記ボール部先端の回転中心点の近傍で各ボール刃の先端から前記回転中心点まで中低勾配刃が一体的に形成されており、
前記ボール刃と前記外周刃との境界に近い前記ボール刃の領域では、負のすくい角を有する第一のすくい面(前記ボール刃のすくい面)の中央部に正のすくい角を有する凹曲面状の第二のすくい面(前記外周刃のすくい面)が食い込んでおり、前記境界に近づくにつれて第二のすくい面/第一のすくい面の比が次第に大きくなり、前記境界で前記第二のすくい面が100%になることを特徴とする。
各中低勾配刃が少なくとも回転方向後方に湾曲した弓状部を有し、前記弓状部の湾曲度(前記弓状部の頂点から前記弓状部の両端を結ぶ線分に降ろした垂線の長さと前記弓状部の両端を結ぶ線分の長さとの比)は5〜40%であり、かつ各中低勾配刃は、前記回転中心点が各中低勾配刃と各ボール刃との連結点より回転軸方向後方に位置するように、前記回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで傾斜しているのが好ましい。
本発明の第一の多刃ボールエンドミルにおいて、「第二のすくい面/第一のすくい面の比」とは、後述する図10(a)等において第二のすくい面の輪郭線長さと第一のすくい面の輪郭線の長さとの比をいう。
各ボール刃に十分な剛性及び刃先強度を付与するために、本発明の第二の多刃ボールエンドミルは、回転軸線を中心として回転するシャンク部と、先端にボール部を有する切れ刃部と、前記切れ刃部に形成された3枚以上の切れ刃とを具備し、
各切れ刃が、35〜45°のねじれ角ηを有する外周刃と、前記外周刃となめらかに連結するように前記ねじれ角ηに対して最外周点におけるねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすボール刃とからなり、
各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から0.1D〜0.4D(ただし、Dは前記切れ刃部の直径である。)の範囲内での前記ボール刃の径方向すくい角が−37〜−11°であり、前記外周刃の径方向すくい角が2〜8°であり、
前記ボール部先端の回転中心点の近傍に各ボール刃の先端から前記回転中心点まで中低勾配刃が一体的に形成されており、
各ボール刃のすくい面が回転方向に凸の曲面状であり、前記凸曲面の湾曲度(前記凸曲面の頂点から前記凸曲面の両端を結ぶ線分に降ろした垂線の長さと前記凸曲面の両端を結ぶ線分の長さとの比)が1〜10%であることを特徴とする。
前記第一のすくい面と前記第二のすくい面との境界は各ボール刃の先端方向に凸の曲線状であるのが好ましい。
ボール部に十分な剛性及び強度を付与するために、前記ボール刃間の切屑排出溝は凸曲面状の底面部を有し、前記凸曲面の湾曲度(前記凸曲面の頂点から前記凸曲面の両端を結ぶ線分に降ろした垂線の長さと前記凸曲面の両端を結ぶ線分の長さとの比)は5〜40%であるのが好ましい。前記切屑排出溝の底面に占める前記凸曲面部の割合は50%以上であるのが好ましい。
前記各中低勾配刃における前記弓状部の半径方向長さの割合は20〜100%であるのが好ましく、前記各切れ刃において中低勾配刃とボール刃との連結点における前記中低勾配刃の逃げ面の円周方向幅は前記ボール刃の逃げ面の最大円周方向幅の20〜80%であるのが好ましく、前記各中低勾配刃の半径方向長さX(ボール刃に繋がる外端と前記回転中心点との半径方向距離)は前記切れ刃部の直径Dの1.25〜3.75%であるのが好ましい。
前記ボール刃は、前記回転軸線を中心として円周方向に不等分割に配置されているのが好ましい。
本発明の多刃ボールエンドミルは、(a) 各切れ刃が、35〜45°のねじれ角ηを有する外周刃と、前記外周刃となめらかに連結するように最外周点において前記ねじれ角ηに対してη−μ≦7°の関係を満たすねじれ角μを有するボール刃とからなり、(b) 各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から0.1D〜0.4D(ただし、Dは前記切れ刃部の直径である。)の範囲内での前記ボール刃の径方向すくい角が−37〜−11°であり、前記外周刃の径方向すくい角が2〜8°であり、かつ(c) 前記ボール部先端の回転中心点の近傍で各ボール刃の先端から前記回転中心点まで中低勾配刃が一体的に延在しているので、高硬度難削材の高送り荒加工でもボール刃及び外周刃にチッピング及び欠損が発生するのを十分に抑制することができるだけでなく、回転中心点O近傍の切削負荷を低減し、切屑の排出を効果的に行うことができる。
本発明の四枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図1(a) の四枚刃ボールエンドミルを示す斜視図である。
図1(a) の四枚刃ボールエンドミルを示す部分拡大斜視図である。
切れ刃のねじれ角と外周刃のねじれ角との関係を示す部分展開側面図である。
本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル(等分割のボール刃を有する)のボール刃及び切屑排出溝を示す拡大正面図である。
図2の四枚刃ボールエンドミルのボール刃の軌跡を示す拡大図である。
図2の四枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃の一例を示す拡大正面図である。
中低勾配刃の弓状部を示す部分拡大正面図である。
中低勾配刃の弓状部を示す部分拡大正面図である。
中低勾配刃の逃げ面の円周方向幅を示す部分拡大正面図である。
本発明の第二の実施形態による四枚刃ボールエンドミル(不等分割のボール刃を有する)のボール部を示す拡大正面図である。
図8(a) の四枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す部分拡大正面図である。
図8(b) の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図1の四枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
本発明の四枚刃ボールエンドミルを製造するために中低勾配刃を形成する前の段階のボール部を示す拡大正面図である。
1つの中低勾配刃を形成した後のボール部を示す拡大正面図である。
本発明の三枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図13の三枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す部分拡大正面図である。
図14の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図13の三枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
本発明の五枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図17の五枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す拡大正面図である。
図18の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図17の五枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
本発明の六枚刃ボールエンドミルを示す側面図である。
図21の六枚刃ボールエンドミルの中低勾配刃を示す拡大正面図である。
図22の中低勾配刃の一部を示す拡大正面図である
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのI-I断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.25Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのII-II断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.40Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのIII-III断面を示す拡大図である。
中低勾配刃とボール刃との連結点から回転軸線方向に0.70Dだけ離れた位置で回転軸線に直交する図21の六枚刃ボールエンドミルのIV-IV断面を示す拡大図である。
特開2002-187011号の多刃ボールエンドミルを示す正面図である。
図25の部分拡大正面図である。
高硬度の難削材の高送り荒加工に適する本発明の多刃ボールエンドミルを、超硬合金製のソリッド型多刃ボールエンドミルを例にとって、以下詳細に説明する。本発明の多刃ボールエンドミルの切れ刃の枚数は3〜6枚が好ましい。各ボールエンドミルに関する説明は、特に断りがなければ他のボールエンドミルにも適用される。本明細書で使用する各種のパラメータの定義は全てのボールエンドミルにおいて同じであるので、四枚刃ボールエンドミルの欄に記載した定義はそのまま他の多刃ボールエンドミルにも適用される。
本明細書において用いる用語「高硬度の難削材」は、例えば焼き入れ処理した合金工具鋼(SKD61、SKD11又は粉末ハイス等)等の40以上、特に50以上のロックウェル硬度HRCを有する金属を意味する。用語「荒加工」は、仕上げ加工の前に行う加工であって、切削能率を上げるために切込深さ及び送り量が大きく、もって切削負荷が大きい加工を意味する。また用語「高送り加工」は、高能率に加工するために送り速度Vf、軸方向切込み量ap及び径方向切込み量aeのいずれか1つ以上を大きくした加工を意味する。高硬度の難削材の高送り加工の場合、例えば三枚刃ボールエンドミルでは送り速度Vfを1250 mm/min以上、軸方向切込み量apを0.3 mm以上、径方向切込み量aeを0.9 mm以上にするのが望ましく、四枚刃、五枚刃及び六牧刃のボールエンドミルでは送り速度Vfを1500 mm/min以上、軸方向切込み量apを0.4 mm以上、径方向切込み量aeを1.2 mm以上にするのが望ましい。
超硬合金製のソリッド型多刃ボールエンドミルは、WC粉末とCo粉末の混合粉末を金型成形及び焼結した後、切れ刃部、ギャッシュ、切屑排出溝、逃げ面、すくい面等の仕上げ加工(研削加工)を行って製造される。必要に応じて、切れ刃部に例えばTiSiN、TiAlN、TiAlSiN、CrN、CrSiN、AlCrN、AlCrSiN、AlTiCrN又はAlCrVBN等の公知の耐摩耗性硬質皮膜を被覆する。
[1] 四枚刃ボールエンドミル
(1) 第一の実施形態
図1〜図7に示す本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1は、円柱状のシャンク部2と切れ刃部3とを備え、切れ刃部3は先端のボール部3aと、ボール部3aとシャンク部2との間の外周刃部3bとからなる。切れ刃部3には、所定のねじれ角を有する4枚の切れ刃5a、5b、5c、5dが形成されており、各切れ刃5a〜5dはボール部3aに形成された円弧状ボール刃6a、6b、6c、6dと、外周刃部3bに形成された螺旋状外周刃7a、7b、7c、7dとからなり、各ボール刃6a〜6dと各外周刃7a〜7dはスムーズに(変曲点なしに)連結している。図2に示すように、ボール部3aに4枚のボール刃6a〜6dがそれぞれギャッシュ17a〜17dを介して回転中心点Oの廻りに配置されている。
図1(a)〜図1(c) に示すように、各ボール刃6a〜6dの回転方向前方にすくい面11a、11b、11c、11dが形成されており、回転方向後方に逃げ面(ランド)9a、9b、9c、9dが形成されている。また、各すくい面11a〜11dの回転方向前方にギャッシュ17a、17b、17c、17dが形成されており、各ギャッシュ17a〜17dは各切屑排出溝4の一部を構成している。各外周刃7a〜7dの回転方向前方にすくい面12a、12b、12c、12dが形成されており、回転方向後方に逃げ面13a、13b、13c、13dが形成されている。
図3及び図4はボール部3aの回転中心点O近傍を示す。各ボール刃6a〜6d(図3では6a、6cのみ見える)は、切れ刃部3の外周から回転中心点Oの近傍の点P1、P2、P3、P4(図3ではP1、P3のみ見える)まで延在している。各点P1〜P4から回転中心点Oまでの間に、中低勾配刃8a、8b、8c、8dが延在している。従って、点P1〜P4はボール刃6a〜6dの先端、中低勾配刃8a〜8dの外端、又はボール刃6a〜6dと中低勾配刃8a〜8dとの連結点と呼ぶことができる。各中低勾配刃8a〜8dの回転方向後方に逃げ面10a、10b、10c、10dが形成されている。各逃げ面10a〜10dは、対応するボール刃逃げ面9a〜9dと境界線15a、15b、15c、15dを介して連接している。以下、中低勾配刃について詳細に説明する。
図4から明らかなように、本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1では、中低勾配刃8a〜8dは、回転中心点Oから各点K1〜K4まで延在し、回転方向後方に湾曲した弓状部と、各点K1〜K4から各点P1〜P4まで延在するボール刃延長部とからなる。中低勾配刃8dを示す図5及び図6では、弓状部は8d1により表され、ボール刃延長部は8d2により表される。Rは回転方向を表す。中低勾配刃8dの弓状部8d1は、回転方向前方に隣接する中低勾配刃8aの逃げ面10aの形成により形成される。これは他の弓状部8a1〜8c1及び他のボール刃延長部8a2〜8c2も同様である。
弓状部8a1〜8d1は全体的に曲線状である場合と、部分的に曲線状である場合とがある。後者の場合、曲線状の部分と直線状の部分とはスムーズに連結しているので、両者の境界は正確に決まらない。従って、曲線状の部分が全体的であろうと部分的であろうと、「弓状部」と呼ぶことにする。
しかし、ボール刃延長部8d2は必須ではなく、各中低勾配刃8a〜8dは全体的に回転方向後方に湾曲した弓状部のみでも良い。このように、各中低勾配刃8a〜8dが少なくとも回転方向後方に湾曲した弓状部8a1〜8d1を有するので、中低勾配刃8a〜8dは、高送り切削時の加工負荷に耐えることができる。
図4、図5及び図6に示すように、中低勾配刃8aの逃げ面10aはその回転方向後方の中低勾配刃8dに曲線状に接して中低勾配刃8dの弓状部8d1を形成するとともに、逃げ面10aの回転方向後縁部はギャッシュ17dに繋がっている。これは、他の中低勾配刃8b〜8dの逃げ面10b〜10dについても同様である。
図3に示すように、各中低勾配刃8a〜8dは、回転中心点Oが回転軸線方向最後点になるように、回転軸線Axと直交する面に対して微小な傾斜角αで傾斜している。これにより、ボール刃6a〜6dの先端P1〜P4より内側にある中低勾配刃8a〜8dは微小な幅Tの極めて浅い窪み部14を形成する。図4に示すように、窪み部14は、回転中心点Oを中心とし、中低勾配刃8a〜8dとボール刃6a〜6dとの連結点P1〜P4を通る円Cにより表される。
各中低勾配刃8a〜8dの傾斜角αは0.5〜3°であるのが好ましい。傾斜角αが3°を超えると、中低勾配刃8a〜8dを使用する切削により作用する負荷により、点P1〜P4付近の切れ刃(ボール刃6a〜6d及び中低勾配刃8a〜8dの端部)の早期摩耗やチッピングが発生し易くなる。また、傾斜角αが0.5°より小さくなると、回転中心点O付近の中低勾配刃8a〜8dが被削材と接触し易くなり、切削抵抗を低減する中低勾配刃8a〜8dの効果が消失する。より好ましい傾斜角αは1〜2°である。このように、各中低勾配刃8a〜8dが微小な傾斜角で回転軸線方向後方に傾斜しているので、高送り切削においてビビリ振動を抑制することができる。
中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXは切れ刃部3の直径D(図1)の1.25〜3.75%であるのが好ましい。中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXは、ボール刃6a〜6dに繋がる外端P1〜P4と回転中心点Oとの半径方向距離であり、切れ刃部3の正面図で見たときの外端P1〜P4と回転中心点Oとの距離に等しい。図3に示すように、各中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さX(ボール刃6a〜6dに繋がる外端P1〜P4と回転中心点Oとの半径方向距離)は窪み部14の幅Tの半分である。例えば直径Dが8 mmの場合、窪み部14の幅Tを0.2〜0.6 mmの範囲に設定する。
中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXを切れ刃部3の直径Dの1.25〜3.75%とすることにより、ボール刃の長さを確保しながら、切削速度が0となる回転中心点O及びその近傍における中低勾配刃の傾斜角αを0.5〜3°の範囲に確保でき、もって高能率な荒加工が可能となる。中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXが切れ刃部3の直径Dの1.25%未満であると、中低勾配刃8a〜8dの傾斜角αが大きくなりすぎ、中低勾配刃8a〜8dの加工が困難である。一方、中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXが切れ刃部の直径Dの3.75%超であると、中底勾配刃8a〜8dに対してボール刃6a〜6dが短くなりすぎ、高能率な高送り切削が実現できない。中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXは切れ刃部3の直径Dの1.5〜3.5%であるのがより好ましい。特に限定されないが、実用性の点から、直径Dは好ましくは0.1〜30 mmであり、より好ましくは0.5〜20 mmである。
図5に示すように、本発明の第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1では、中低勾配刃8dは、回転中心点Oから点K4まで延在する弓状部8d1と、点K4から外端P4まで延在するボール刃延長部8d2とからなるので、中低勾配刃8dの半径方向長さXは、弓状部8d1の半径方向長さX1とボール刃延長部8d2の半径方向長さX2との合計である。この例では、ボール刃延長部8d2は直線状であるが、曲線状でも構わない。これは、他の中低勾配刃8a〜8cも同様である。弓状部の半径方向長さX1は中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXの好ましくは20〜100%であり、より好ましくは30〜100%であり、最も好ましくは60〜95%である。X1がXの20%未満であると、中低勾配刃8a〜8dの切削抵抗が大きい。
図6に示すように、弓状部8d1の両端O、K4を結ぶ直線L3上の点Q1から引いた垂線が弓状部8d1上の点Q2と交差したとき、線分Q1-Q2の長さが最大になるように点Q1の位置を決める。そのときの線分Q1-Q2の長さと直線L3の長さとの比を中低勾配刃8dの弓状部8d1の湾曲度とする。線分Q1-Q2の長さと直線L3の長さとの比(湾曲度)は好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。弓状部8d1の湾曲度が5%未満ではチップポケットが過小になり、40%を超えると中低勾配刃の剛性が不足する。
ボール部3aの回転中心点O付近に形成された微小な幅Tの窪み部14はギャッシュ17a〜17dに連接し、切れ刃部3の先端におけるチップポケットとして機能する。中低勾配刃8a〜8dにより生成された極めて薄い切屑は窪み部14からギャッシュ17a〜17dを介して切屑排出溝4に排出され、高送り切削でも回転中心点O近傍での切屑詰りを防止できる。
各中低勾配刃の逃げ面10a〜10dの幅は、各ボール刃の逃げ面9a〜9dとの境界線15a〜15dから回転中心点Oまでの間で変動する。そこで、逃げ面10a〜10dの幅を以下の方法により評価する。図7に示すように、中低勾配刃8aの逃げ面10aの点P1における円周方向幅W1は、ボール刃6aの逃げ面9aの最大円周方向幅W2の好ましくは20〜80%であり、より好ましくは30〜70%である。この要件を満たすことにより当該中低勾配刃の高い剛性を確保することができる。点P1における中低勾配刃8aの逃げ面10aの円周方向幅W1は、回転中心点Oを中心として点P1を通る円Cが逃げ面10aと交差する点P1、P1’を結んだ直線の長さである。また、ボール刃6aの逃げ面9aの最大円周方向幅W2は、回転中心点Oを中心とした円C’がボール刃6aの逃げ面9aと交差する点B-B’を結んだ直線の長さ(直線B-B’の長さが最大になるように円C’の半径を設定する。)である。
中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXに対する逃げ面10a〜10dの幅を評価する場合、中低勾配刃8a〜8dの弓状部8a1〜8d1の中心角βを用いる。弓状部8a1〜8d1の中心角βは、図5に示すように、中低勾配刃8dの逃げ面10dの形成により形成された中低勾配刃8cの弓状部8c1の両端O及びK3と点P4とを結ぶ直線L1、L2を引いたときの直線L1と直線L2との角度である。
中低勾配刃の弓状部の中心角βは20〜70°とするのが好ましい。中心角βが20°未満であると、中低勾配刃8a〜8dの逃げ面10a〜10dの幅が小さすぎ、切削時の負荷抵抗に対する十分な剛性が得られない。一方、各中低勾配刃8a〜8dの半径方向長さXが切れ刃部3の刃径Dの1.25〜3.75%であるという条件を満たしつつ、中心角βを70°超にした中低勾配刃8a〜8dを形成するのは困難である。中心角βはより好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
上記の通り、各中低勾配刃8a〜8dは少なくとも回転方向後方に湾曲した弓状部を有するだけでなく、逃げ面10a〜10dが十分な幅を有するので、十分な剛性を有する。このため、被削材の荒加工を高送りで実施しても、中低勾配刃8a〜8dのチッピング及び欠損を効果的に防止できる。
各中低勾配刃8a〜8dの径方向すくい角(回転軸線Axと直交する方向のすくい角)は−37〜−11°であり、好ましくは−33〜−15°である。これにより、十分な剛性及び刃先強度が得られる。径方向すくい角が−37°未満では切削抵抗が過大になり、−11°を超えると剛性や刃先強度が低下する。
ボール刃6a〜6dの逃げ面9a〜9dの逃げ角及び中低勾配刃8a〜8dの逃げ面10a〜10dの逃げ角はいずれも7〜21°以内であるのが好ましい。両逃げ角が7°未満であると切削抵抗が高く、高能率な切削においてビビリ振動が生じやすい。一方、両逃げ角が21°超であると切削抵抗は低減するが、ボール刃及び中低勾配刃の剛性が低下するため、高能率な切削でチッピング及び欠損が生じやすい。ボール刃の逃げ面9a〜9dの逃げ角及び中低勾配刃の逃げ面10a〜10dの逃げ角はいずれもより好ましくは9〜19°であり、最も好ましくは10〜15°である。なお、これらの逃げ角はほぼ同じであるのが好ましい。
このように、弓状部を有する各中低勾配刃が回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで回転軸線方向後方に傾斜しており、かつ後述する本発明の第二の実施形態と同様に、ボール刃のすくい面及び切り屑排出溝の底面が凸曲面状の本発明の多刃ボールエンドミルは、高硬度の難削材に対して高能率の荒加工を行っても、ボール刃及び中低勾配刃のチッピング及び欠損が効果的に防止され、非常に安定した切削が可能になる。
(2) 第二の実施形態
図8(a) 及び図8(b) に示すように、本発明の第二の実施形態による四枚刃ボールエンドミル30は、中低勾配刃の形状及びボール刃の不等分割以外、実質的に第一の実施形態による四枚刃ボールエンドミル1と同じである。図8において第一の実施形態と同じ部分には同じ参照番号を付与している。これらの相違点について以下詳細に説明する。
図9は図8(b) の一部を拡大して示す。逃げ面10dを形成する際に形成された弓状部8c1は回転中心点Oと点K3との間に延在し、ボール刃6cから半径方向内方に延びる曲線状の延長部8c2は弓状部8c1と点K3で連結する。点K3は、弓状部8c1と曲線部8c2との間で変曲点となる。
図9に示す例でも、中低勾配刃8dの逃げ面10dの点P4における円周方向幅W1は、第一の実施形態と同様に、ボール刃6dの逃げ面9dの最大円周方向幅W2の20〜80%であるのが好ましく、30〜70%であるのがより好ましい。中低勾配刃8dの逃げ面10dの形成により形成された中低勾配刃8cの弓状部8c1の中心角βは、弓状部8c1の両端O及びK3と点P4とを結ぶ直線L1、L2がなす角度である。この弓状部の中心角βも、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜70°であり、より好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
このように、中低勾配刃8cを構成する弓状部8c1とボール刃延長部8c2とが変曲点K3を介して連結してなる場合でも、各中低勾配刃が回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで回転軸線方向後方に傾斜しており、かつ後述するボール刃のすくい面及び切り屑排出溝の底面が凸曲面を形成した本発明の要件を満たすことにより、第一の実施形態と同じ効果が得られる。
第二の実施形態ではボール刃を不等分割しているので、ボール刃6a〜6dの回転方向位置及び幅が異なり、それらの中低勾配刃8a〜8d及び逃げ面10a〜10dも異なる。このような不等分割のボール刃により、高硬度の難削材の高送り荒加工の場合にビビリ振動がいっそう抑制される。不等分割における分割角度(4枚のボール刃の円周方向配置角度)は90±(2〜5)°が望ましい。分割角度が基準角度90°に対して2°より小さいと、びびり振動を抑制する大きな効果が得られない。一方、分割角度が基準角度90°に対して5°より大きいと、ボール刃にかかる負荷の不均一さが大きくなりすぎ、チッピングや折損の増加が懸念される。
(3) 切れ刃、外周刃及び切屑排出溝の形状
切れ刃、外周刃及び切屑排出溝の形状は、第一の実施形態と第二の実施形態との間に相違がないので、以下第二の実施形態の四枚刃ボールエンドミルを例にとって、詳細に説明する。
(a) ボール刃及び外周刃のねじれ角
高硬度の難削材に対して高送りの荒加工を行ってもチッピング及び欠損が少なく長寿命であるために、各外周刃7a〜7dが35〜45°のねじれ角η(例えばη=40°)を有するとともに、各ボール刃6a〜6dのねじれ角μが前記ねじれ角η(例えばμ=36°)に対してη−μ≦7°の関係を満たし、もって両者がなめらかに連結している必要がある。ここで、各ボール刃の「ねじれ角μ」は、特に断りがなければ各ボール刃の最外周点におけるねじれ角をいう。ここで、図1(d)に示すように、「最外周点におけるねじれ角」とは、後述するボール刃6a〜6dの外端26a〜26dから工具先端に0.02Dまでの範囲で測定したねじれ角である。
外周刃7a〜7dの切削性能を向上させるとともに、剛性を高めて高硬度難削材の側面切削時のチッピングを抑えるために、各外周刃7a〜7dのねじれ角ηは35〜45°の範囲内とする。図1(d) に示すように、ねじれ角ηは各外周刃7a〜7dと回転軸線Axとがなす角度である。外周刃7a〜7dのねじれ角ηが35°未満であると、各外周刃にかかる抵抗が大きいため、チッピングが起こるおそれが大きい。一方、ねじれ角ηが45°より大きいと、被削材にかかる負荷増大によるビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。外周刃7a〜7dのねじれ角ηは37〜43°が好ましい。
図1(d) に示すように、各ボール刃6a〜6dのねじれ角μは各外周刃7a〜7dのねじれ角ηに対してη−μ≦7°の関係を満たす必要がある。η−μ>7°であると、各外周刃7a〜7dと各ボール刃6a〜6dの連結点(ボール刃の最外周点)で切れ刃は大きく曲がり、チッピングや欠損の原因となる。η−μ≦6°が好ましく、η−μ≦5°がより好ましい。
(b) ボール刃の湾曲角度
各ボール刃6a〜6dの最外周点における湾曲角度λ3は35〜45°であるのが好ましく、37〜43°であるのがより好ましい。湾曲角度λ3は、各ボール刃6a〜6dの始点P(P1、P2、P3、P4)における接線L1と、始点Pとボール刃の終点T3(回転中心軸Oから0.5Dの位置)を通る直線L2とのなす角度である。湾曲角度λ3が35°未満であると、各ボール刃6a〜6dにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が45°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。なお、ボール刃の始点Pにおける接線L1として、本明細書では近似的に各ボール刃6a〜6dの始点P(P1、P2、P3、P4)から0.01Dの位置にある点U(U1、U2、U3、U4)を通る直線を用いることにする。
回転中心軸Oから0.25Dの位置T1にある各ボール刃の湾曲角度λ1は6〜13°が好ましく、回転中心軸Oから0.375Dの位置T2にある各ボール刃の湾曲角度λ2は14〜22°が好ましい。湾曲角度λ1は、各ボール刃の始点Pにおける接線L1と各ボール刃の回転中心軸Oから0.25Dの位置にある点T1を通る直線L3とのなす角度である。湾曲角度λ2は、各ボール刃の始点Pにおける接線L1と各ボール刃の回転中心軸Oから0.375Dの位置にある点T2を通る直線L3とのなす角度である。
(c) ボール刃と外周刃との境界部の形状
図1(a)〜図1(c) に示すように、各ボール刃6a〜6dと各外周刃7a〜7dとの境界に近いボール刃6a〜6dの領域では、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11dの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12dが食い込んだ形状を有する。各第一のすくい面11a〜11dに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12dの先端部20は湾曲形状である。図1(c) 及び図1(d) における参照番号26a、26d、26cはそれぞれ各ボール刃の外端を示す。各ボール刃6a〜6dと各外周刃7a〜7dとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12dは100%になる。本発明では、各外周刃7a〜7dが大きなねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6dのねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11dに食い込む各第二のすくい面12a〜12dは短く、各ボール刃6a〜6dの剛性が高い。
(d) 切れ刃及び切屑排出溝の形状
本発明の第二の実施形態による四枚刃ボールエンドミル30(図1)のボール部3aにおいて、中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図10(a)、図10(b)、図10(c) 及び図10(d) に示す。
図10(a) に示すI-I断面(連結点Kから0.10Dだけ離隔)及び図10(b) に示すII-II断面(連結点Kから0.25Dだけ離隔)から明らかなように、ボール部3aにおける各切屑排出溝4は、ボール刃6bのすくい面11bと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bと、それらの間の溝底面4aとから形成されている。溝底面4aの範囲はすくい面11bとの境界44から溝壁面4bとの境界45までである。この例では溝底面4aは凸曲面のみからなり、境界44,45はそれぞれすくい面11bと溝底面4aとの変曲点及び溝底面4aと溝壁面4bとの変曲点であるが、本発明はこれに限定されず、溝底面4aの長さuの50%以上を凸曲面が占めていれば良い。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状でも良い。
回転軸線に垂直な断面を示す図10(a) 及び図10(b) に示すように、各ボール刃6a〜6dのすくい面11a〜11dは回転方向に凸の曲面状である。各すくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度は、凸曲面の両端を結ぶ線分の長さgに対する凸曲面の頂点から前記線分に降ろした垂線の長さhの比h/gにより表される。各すくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%(例えば3%)である。各ボール刃6a〜6dのすくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度h/gが1%未満では、ボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、10%超では切削性が落ちるため、溶着による欠けが発生し易くなる。各ボール刃6a〜6dのすくい面11a〜11dの凸曲面の湾曲度h/gの好ましい範囲は1〜8%である。
ボール刃6b、6c間の切屑排出溝4の溝底面4aの凸曲面の湾曲度は、凸曲面の頂点からその凸曲面の両端44、45を結ぶ線分に降ろした垂線の長さvと前記線分の長さuとの比v/uにより表される。各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、各凸曲面の湾曲度は好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。
図10(a) 及び図10(b) において、各ボール刃の径方向すくい角(図10(a) ではδ1のみ示し、図10(b) ではδ2のみ示す。)は−37〜−11°(例えばδ1=−21°、δ2=−25°)であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図10(a) 及び図10(b) に示すように、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10D〜0.25Dの範囲において、ボール刃のすくい面11a〜11dは凸曲面状であるのが好ましい。凸曲面状すくい面により、ボール刃の強度を保ちつつスムーズに切屑を排出できる。ボール刃のすくい面が平面状又は凹面状の場合、チッピングや欠損が発生するおそれがある。
図1(a)〜図1(c)、及び図10(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各外周刃7cとの境界に近い各ボール刃6cの領域では、負のすくい角を有する第一のすくい面11cの中央部に正のすくい角を有する凹曲面状の第二のすくい面12c(外周刃7cのすくい面のうち第一のすくい面11c内に延長した部分)が食い込んでおり、前記境界に近づくにつれて第二のすくい面12c/第一のすくい面11cの比が次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12cが100%になる。本発明では各切れ刃のねじれ角μ及び外周刃のねじれ角ηが大きいので、第一のすくい面11cへの第二のすくい面12cの食い込み量が比較的少なく、ボール刃と外周刃との境界部における剛性が高い。
図10(c) では、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第一のすくい面11bと、境界47を介して第一のすくい面11bに連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。第二のすくい面71bは外周刃7bのすくい面12bのうち第一のすくい面11b内に食い込んだ部分である。第二のすくい面71bは、凸曲面状の溝底面4a及び回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとともに、切屑排出溝4を構成する。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図10(c) の溝底面4aの長さu’は図10(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。
図10(c) に示す各溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図10(c) ではδ3のみ示す。)も−37〜−11°(例えばδ3=−27°)であり、好ましくは−32〜−16°である。
各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) 各ボール刃間の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度より大きいのが好ましい。また、各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図10(c) ではγ1のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図10(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域での各切屑排出溝4は、外周刃7bから回転方向に延設されて凹曲面状のすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃7cの逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図10(d) ではε1のみ示す。)は2〜8°(例えばε1=7°)であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
(4) 製造方法
第二の実施形態の四枚刃ボールエンドミル30を例にとって、中低勾配刃の製造方法の具体例を以下に説明する。まず図11に示すように、薄板円板状のダイヤモンド砥石を装着したNC制御の研削加工機(図示せず)を用いて、4枚のボール刃6a〜6dを順次形成する。回転中心点Oの近傍は中低勾配刃8a〜8dの形成により削除されるので、ボール刃6a〜6dの形成を回転中心点Oの近傍で停止する。その結果、回転中心点Oを含む領域に研削残りの四角状突起16が残留する。
図12に示すように、1つのボール刃(例えば6d)の逃げ面9dに対して、方向Eに往復移動する薄板円板状のダイヤモンド砥石を徐々に降下させながら、点P4から矢印Fの方向に移動させる。その結果、点P4から回転軸線方向後方に傾斜する逃げ面10dが形成される。逃げ面9dが突き当たる別の逃げ面9cのボール刃6cとの干渉を避けるために、方向Eはボール刃6cに対して傾斜していなければならない。ボール刃6cに対する方向Eの傾斜角は20〜50°で良い。傾斜角が20°未満では研削加工の精度が低下し、50°を超えると研削砥石の干渉が起こる。この手順を全てのボール刃の逃げ面について行うことにより、図8(b) に示す中低勾配刃8a〜8dが形成される。
[2] 三枚刃ボールエンドミル
図13は本発明の三枚刃ボールエンドミル40を示し、図14及び図15は三枚刃ボールエンドミル40における中低勾配刃を示す。図13〜図15において前述した四枚刃ボールエンドミルと同じ部分には同じ参照番号を付与している。三枚刃ボールエンドミル40は、3枚のボール刃6a、6b、6cと、各ボール刃6a、6b、6cの端部P1、P2、P3から一体的に回転中心点Oまで延在する中低勾配刃8a、8b、8cとを有する。各ボール刃6a、6b、6cの回転方向前方にギャッシュ17a、17b、17cが形成されている。
ボール刃及び外周刃のねじれ角については、四枚刃ボールエンドミルと同じである。すなわち、各外周刃7a〜7cは35〜45°のねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6cの最外周点におけるねじれ角μはη−μ≦7°の関係を満たし、もって両刃はなめらかに連結している。各外周刃7a〜7cのねじれ角ηは好ましくは37〜43°である。
各ボール刃6a〜6cの最外周点における湾曲角度λ3は65〜95°であるのが好ましく、75〜90°であるのがより好ましく、77〜87°であるのがさらに好ましい。湾曲角度λ3が65°未満であると、各ボール刃6a〜6cにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が95°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。
図13に示すように、各ボール刃6a〜6cと各外周刃7a〜7cとの境界に近いボール刃6a〜6cの領域では、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11cの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12cが食い込んだ形状を有する。参照番号27bはボール刃6bの外端を示す。各第一のすくい面11a〜11cに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12cの先端部21は湾曲形状である。各ボール刃6a〜6cと各外周刃7a〜7cとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12dは100%になる。本発明では、各外周刃7a〜7cが大きなねじれ角ηを有するとともに、各外周刃7a〜7cのねじれ角ηと各ボール刃6a〜6cのねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11cに食い込む各第二のすくい面12a〜12cは短く、各ボール刃6a〜6cの剛性が高い。
図15に示すように、中低勾配刃8aは回転方向後方に湾曲した弓状部8a1と、ボール刃延長部8a2とを有する。勿論、ボール刃延長部8a2はなくても良く、また弓状部8a1は全体的に曲線状である必要はなく、曲線部と直線部とからなっていても良い。これは他の中低勾配刃8b、8cにも当てはまる。図示していないが、各中低勾配刃8a、8b、8cは、ボール刃6a、6b、6cとの連結部P1、P2、P3より回転中心点Oの方が回転軸線方向後方に位置するように、回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで傾斜している。
図15に示すように、中低勾配刃8aの半径方向長さXに対する弓状部8a1の半径方向長さX1の割合は、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜100%であり、より好ましくは30〜100%であり、最も好ましくは60〜95%である。中低勾配刃8aとボール刃6aとの連結点P1における逃げ面10aの円周方向幅W1は、ボール刃の逃げ面9aの最大円周方向幅の20〜80%であるのが好ましく、30〜70%であるのがより好ましい。かつ回転軸線に沿って見たときの中低勾配刃8aの半径方向長さX(ボール刃6aに繋がる外端P1と回転中心点Oとの半径方向距離)は切れ刃部3の直径Dの1.25〜3.75%であるのが好ましく、1.5〜3.5%であるのがより好ましい。これも、勿論他の中低勾配刃8b、8cに当てはまる。三枚刃ボールエンドミルの場合も、第一の実施形態と同様に、中低勾配刃8cの弓状部の中心角βは好ましくは20〜70°であり、より好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図16(a)、図16(b)、図16(c) 及び図16(d) に示す。
図16(a) に示すI-I断面及び図16(b) に示すII-II断面では、ボール刃の各切屑排出溝4は、すくい面11bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。図16(a) 及び図16(b) では溝底面4aが凸曲面のみからなるが、本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さuの50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。溝底面4aの範囲は、ボール刃のすくい面11bとの境界44から溝壁面4bとの境界45までである。
図16(a) 及び図16(b) に示すように、各ボール刃6a〜6cのすくい面11a〜11cは回転方向に凸の曲面状である。各すくい面11a〜11cの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%であり、1〜8%が好ましい。また、ボール刃間の各切屑排出溝4の溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。また、各ボール刃の径方向すくい角(図16(a) ではδ7のみ示し、図16(b) ではδ8のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図16(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各ボール刃と各外周刃との連結領域では、四枚刃ボールエンドミルと同様に、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第一のすくい面11bと、境界47を介して第一のすくい面11bと連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。また各切屑排出溝4は、第一及び第二のすくい面11b,71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図16(c) の溝底面4aの長さu’は図16(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。
図16(c) に示す各溝底面4aの凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図16(c) ではδ9のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。
三枚刃ボールエンドミルにおいても、各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、(a) 各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) ボール刃間の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度より大きいのが好ましい。各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図16(c) ではγ2のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図16(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域における各切屑排出溝4は、外周刃7bのすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃の逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図16(d) ではε2のみ示す。)は2〜8°であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
[3] 五枚刃ボールエンドミル
本発明の五枚刃ボールエンドミル50(図17)のボール部3aにおいて、中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図20(a)、図20(b)、図20(c) 及び図20(d) に示す。
ボール刃及び外周刃のねじれ角については、四枚刃ボールエンドミルと同じである。すなわち、各外周刃7a〜7eは35〜45°のねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6eの最外周点におけるねじれ角μはη−μ≦7°の関係を満たし、もって両刃はなめらかに連結している。各外周刃7a〜7eのねじれ角ηは好ましくは37〜43°である。
各ボール刃6a〜6eの最外周点における湾曲角度λ3は25〜35°であるのが好ましく、27〜33°であるのがより好ましい。湾曲角度λ3が25°未満であると、各ボール刃6a〜6eにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が35°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。
図17に示すように、各ボール刃6a〜6eと各外周刃7a〜7eとの境界に近いボール刃6a〜6eの領域では、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11eの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12cが食い込んだ形状を有する。参照番号28eはボール刃6eの外端を示す。各第一のすくい面11a〜11eに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12eの先端部22は湾曲形状である。各ボール刃6a〜6eと各外周刃7a〜7eとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12eは100%になる。本発明では、各外周刃7a〜7eが大きなねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6eのねじれ角ηがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11eに食い込む各第二のすくい面12a〜12eは短く、各ボール刃6a〜6eの剛性が高い。
図20(a) 及び図20(b) に示すように、各ボール刃6a〜6eのすくい面11a〜11eは回転方向に凸の曲面状である。各すくい面11a〜11eの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%であり、1〜8%が好ましい。また、ボール刃間の各切屑排出溝4の溝底面4aの凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。
図20(a) 及び図20(b) に示す各ボール刃の径方向すくい角(図20(a) ではδ10のみ示し、図20(b) ではδ11のみ示す。)は−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図20(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各ボール刃と各外周刃との連結領域では、四枚刃ボールエンドミルと同様に、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第一のすくい面11bと、境界47を介して第一のすくい面11bと連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。各切屑排出溝4は、第一及び第二のすくい面11b,71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図20(c) の溝底面4aの長さu’は図20(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。
図20(c) に示す各溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図20(c) ではδ12のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。
五枚刃ボールエンドミルにおいても、各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、(a) 各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) ボール刃間の各切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面の湾曲度より大きいのが好ましい。また、各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図20(c) ではγ3のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図20(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域における各切屑排出溝4は、外周刃7bのすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃の逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図20(d) ではε3のみ示す。)は2〜8°であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
[3] 六枚刃ボールエンドミル
図21は本発明の六枚刃ボールエンドミル60を示し、図22及び図23は六枚刃ボールエンドミル60における中低勾配刃を示す。図21〜図23において四枚刃ボールエンドミルと同じ部分には同じ参照番号を付与している。六枚刃ボールエンドミル60は、6枚のボール刃6a、6b、6c、6d、6e、6fと、各ボール刃6a〜6fの端部P1、P2、P3、P4、P5、P6から一体的に回転中心点Oまで延在する中低勾配刃8a、8b、8c、8d、8e、8fとを有する。各ボール刃6a〜6fの回転方向前方にギャッシュ17a、17b、17c、17d、17e、17fが形成されている。
ボール刃及び外周刃のねじれ角については、四枚刃ボールエンドミルと同じである。すなわち、各外周刃7a〜7fは35〜45°のねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6fの最外周点におけるねじれ角μはη−μ≦7°の関係を満たし、もって両刃はなめらかに連結している。各外周刃7a〜7fのねじれ角ηは好ましくは37〜43°である。
各ボール刃6a〜6fの最外周点における湾曲角度λ3は20〜30°であるのが好ましく、22〜28°であるのがより好ましい。湾曲角度λ3が20°未満であると、各ボール刃6a〜6dにかかる抵抗が大きいため、高硬度難削材の高送りの荒加工の際にチッピングが起こるおそれが大きい。一方、湾曲角度λ3が30°より大きいと、被削材にかかる負荷が大きいため、ビビリ振動が発生し、加工面品位の低下を招く。
図21に示すように、各ボール刃6a〜6fと各外周刃7a〜7fとの境界に近いボール刃6a〜6fの領域では、負のすくい角を有する各第一のすくい面11a〜11fの中央部に、正のすくい角を有する凹曲面状の各第二のすくい面12a〜12fが食い込んだ形状を有する。参照番号29eはボール刃6eの外端を示す。各第一のすくい面11a〜11fに食い込んだ各第二のすくい面12a〜12fの先端部23は湾曲形状である。各ボール刃6a〜6fと各外周刃7a〜7fとの境界に近づくにつれて、第二のすくい面/第一のすくい面の比は次第に大きくなり、前記境界で第二のすくい面12a〜12fは100%になる。本発明では、各外周刃7a〜7fが大きなねじれ角ηを有するとともに、各ボール刃6a〜6fのねじれ角μがη−μ≦7°の関係を満たすので、各第一のすくい面11a〜11fに食い込む各第二のすくい面12a〜12fは短く、各ボール刃6a〜6fの剛性が高い。
図23に示すように、中低勾配刃8aは回転方向後方に湾曲した弓状部8a1と、ボール刃延長部8a2とを有する。勿論、ボール刃延長部8a2はなくても良く、また弓状部8a1は全体的に曲線状である必要はなく、曲線部と直線部とからなっていても良い。これは他の中低勾配刃8b〜8fにも当てはまる。図示していないが、各中低勾配刃8a〜8fは、ボール刃6a〜6fとの連結部P1〜P6より回転中心点Oの方が回転軸線方向後方に位置するように、回転軸線と直交する面に対して0.5〜3°の傾斜角αで傾斜している。
図23に示すように、中低勾配刃8aの半径方向長さXに対する弓状部8a1の半径方向長さX1の割合は、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜100%であり、より好ましくは30〜100%であり、最も好ましくは60〜95%である。中低勾配刃8aとボール刃6aとの連結点P1における逃げ面10aの円周方向幅W1も、第一の実施形態と同様に、ボール刃の逃げ面9aの最大円周方向幅の20〜80%であるのが好ましく、30〜70%であるのがより好ましい。中低勾配刃8aの半径方向長さX(ボール刃6aに繋がる外端P1と回転中心点Oとの半径方向距離)も、第一の実施形態と同様に、切れ刃部3の直径Dの1.25〜3.75%であるのが好ましく、1.5〜3.5%であるのがより好ましい。これは勿論他の中低勾配刃8b〜8fにも当てはまる。六枚刃ボールエンドミルの場合、中低勾配刃8a〜8fの各弓状部の中心角βは、第一の実施形態と同様に、好ましくは20〜70°であり、より好ましくは30〜60°であり、最も好ましくは40〜48°である。
中低勾配刃とボール刃との連結点Kから回転軸線方向にそれぞれ0.10D,0.25D,0.40D及び0.70Dだけ離れた位置での回転軸線に直交するI-I断面、II-II断面、III-III断面及びIV-IV断面を、それぞれ図24(a)、図24(b)、図24(c) 及び図24(d) に示す。
図24(a) に示すI-I断面(連結点Kから0.10Dだけ離隔)及び図24(b) に示すII-II断面(連結点Kから0.25Dだけ離隔)から明らかなように、各切屑排出溝4は、ボール刃6bのすくい面11bと、凸曲面状溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。図24(a) 及び図24(b) では溝底面4aは凸曲面のみからなるが、本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さuの50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。溝底面4aの範囲は、ボール刃のすくい面11bとの境界44から溝壁面4bとの境界45までである。
図24(a) 及び図24(b) に示すように、各ボール刃6a〜6fのすくい面11a〜11fは回転方向に凸の曲面状である。各すくい面11a〜11fの凸曲面の湾曲度h/gは1〜10%であり、1〜8%が好ましい。また、ボール刃間の各切屑排出溝4の溝底面4aの凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、凸曲面の湾曲度は好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。凸曲面の湾曲度が5%未満ではボール部3aの剛性及び刃先強度が不足し、40%超ではチップポケットが過小となる。また、各ボール刃の径方向すくい角(図24(a) ではδ13のみ示し、図24(b) ではδ14のみ示す。)は−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。各ボール刃の径方向すくい角が−37°未満ではボール刃の切削性能が不十分であり、また−11°超ではボール刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
図24(c) に示すIII-III断面(連結点Kから0.40Dだけ離隔)から明らかなように、各ボール刃と各外周刃との連結領域では、四枚刃ボールエンドミルと同様に、ボール刃6bのすくい面は、ボール刃6bから延びる短い第一のすくい面11bと、境界47を介して第一のすくい面11bに連結する凹曲面状の第二のすくい面71bとからなる。また、各切屑排出溝4は、第一及び第二のすくい面11b,71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方のボール刃6cの逃げ面9cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。溝底面4aの範囲は、第二のすくい面71bとの境界46から溝壁面4bとの境界45までである。図24(c) の溝底面4aの長さu’は図24(b) の凸曲面の長さuよりやや長い。本発明の効果を得るために、溝底面4aの長さu’の50%以上を凸曲面が占めるのが好ましい。溝底面4aの凸曲面以外の部分は直線状で良い。各溝底面の凸曲面の湾曲度v/uも、各切れ刃が十分な剛性及び刃先強度を有するために、好ましくは5〜40%であり、より好ましくは8〜35%である。また、各ボール刃の径方向すくい角(図24(c) ではδ15のみ示す。)も−37〜−11°であり、好ましくは−32〜−16°である。
六枚刃ボールエンドミルにおいても、各切れ刃の剛性及び刃先強度を高めるために、各中低勾配刃と各ボール刃との連結点から回転軸線方向に0.10Dだけ離れたI-I断面から、0.25Dだけ離れたII-II断面を経由し、0.40Dだけ離れたIII-III断面に至るまで、(a) 各ボール刃の径方向すくい角を−37〜−11°の範囲内で次第に増加させるのが好ましく、(b) ボール刃間の各切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度を5〜40%の範囲内で次第に増加させるのが好ましい。また、外周刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度は、ボール刃の切屑排出溝の底面凸曲面部の湾曲度より大きいのが好ましい。また、各第二のすくい面71bの径方向すくい角(図24(c) ではγ4のみ示す。)は好ましくは0〜8°であり、より好ましくは2〜7°である。
図24(d) に示すIV-IV断面(連結点Kから0.70Dだけ離隔)から明らかなように、外周刃領域における各切屑排出溝4は、外周刃7bのすくい面71bと、凸曲面状の溝底面4aと、回転方向前方の外周刃の逃げ面70cから延びる溝壁面4bとにより形成されている。また、各外周刃の径方向すくい角(図24(d) ではε4のみ示す。)は2〜8°であり、好ましくは4〜7°である。各外周刃の径方向すくい角が2°未満では外周刃の切削性能が不十分であり、また8°超では外周刃の剛性及び刃先強度が低く、いずれも高硬度材の安定切削が困難である。
1、30:四枚刃ボールエンドミル
2:シャンク部
3:切れ刃部
3a:ボール部
3b:外周刃部
4:切屑排出溝
4a:溝底面
4b:溝壁面
5a、5b、5c、5d:切れ刃
6a、6b、6c、6d、6e、6f:ボール刃
7a、7b、7c、7d、7e、7f:外周刃
8a、8b、8c、8d、8e、8f:中低勾配刃
8a1、8b1、8c1、8d1:弓状部
8a2、8b2、8c2、8d2:ボール刃延長部
9a、9b、9c、9d、9e、9f:ボール刃の逃げ面
10a、10b、10c、10d、10e、10f:中低勾配刃の逃げ面
11a、11b、11c、11d:ボール刃のすくい面
12a、12b、12c、12d:外周刃のすくい面
13a、13b、13c、13d:外周刃の逃げ面
14:窪み部
15a、15b、15c、15d:境界線
16:四角状突起
17a、17b、17c、17d、17e、17f:ギャッシュ
20、21、22、23、44、45、46、47、49:境界
26、27、28、29:ボール刃の外端
40:三枚刃ボールエンドミル
50:五枚刃ボールエンドミル
60:六枚刃ボールエンドミル
71a、71b、71c、71d:第二のすくい面
Ax:回転軸線
C:回転中心点の近傍領域
D:切れ刃部の直径
L1、L2、L3:直線
O:回転中心点
P1、P2、P3、P4、P5、P6:中低勾配刃とボール刃との連結点
K1、K2、K3、K4、K5、K6:中低勾配刃の弓状部の外端
Q1:中低勾配刃の弓状部の両端を結ぶ直線と、中低勾配刃の弓状部の頂点から降ろした垂線との交点
Q2:中低勾配刃の弓状部の頂点
R:多刃ボールエンドミルの回転方向
T:幅
g、u:凸曲面の長さ
u’:溝底面の長さ
h、v:凸曲面の高さ
X:中低勾配刃の半径方向長さ
X1:中低勾配刃の弓状部の半径方向長さ
X2:ボール刃延長部の半径方向長さ
W1:中低勾配刃の逃げ面の円周方向幅
W2:ボール刃の逃げ面の最大円周方向幅
α:中低勾配刃の傾斜角度
β:中低勾配刃の弓状部の中心角
δ1〜δ15:ボール刃の径方向すくい角
γ1〜γ4:第二のボール刃の径方向すくい角
η:外周刃のねじれ角
μ:ボール刃の最外周点におけるねじれ角
λ1〜λ3:湾曲角度
ε1〜ε4:外周刃の径方向すくい角