JPWO2014017576A1 - 多刃エンドミル - Google Patents

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Abstract

【課題】ギャッシュと刃溝を有する多刃エンドミルを用いて難削性合金製のインペラー等の薄肉部材を高速度の高送りで切削加工する際の、ギャッシュ7からの切屑排出効果と刃溝8への誘導効果を高める。【解決手段】切れ刃3のすくい面を回転軸O側から半径方向外周側へかけて底刃6のすくい面6aと、これに隣接し、底刃6のすくい面6aと異なる面を形成し、コーナR刃5のすくい面を兼ねる外周刃4のすくい面4aとから構成し、底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aとの境界に位置する凸の稜線64と、底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとの境界に位置する凸の稜線68との交点を、コーナR刃5の逃げ面5bと底刃6の逃げ面6bとの境界より半径方向回転軸O側へ入り込ませる。【選択図】図5

Description

本発明は例えばタービンや過給機等の回転機械装置に使用される薄肉のインペラーやブレード等を、3軸又は5軸制御の工作機械を用いて切削加工により製造するときに工作機械に装着され、インペラー等の部材に対して高送りの切削加工を行えるように改善した多刃エンドミルに関するものである。
タービン、過給機等の回転機械装置に使用される薄肉のインペラー(羽根車)、ブレード等はNi基耐熱合金、ステンレス鋼、もしくはチタン合金製の難削性合金部材(素材)を工作機械の回転軸上に固定し、エンドミル等の切削工具を回転させながら多軸制御を行い、この合金部材に荒加工、中仕上げ加工、及び仕上げ加工を行う切削加工工程を経て製造される。
この切削加工工程の内、仕上げ加工においては合金部材の表面を湾曲した曲面状に仕上げ加工する必要があるため、従来からボールエンドミル、テーパボールエンドミル、あるいは外周刃とコーナ刃と底刃とから構成される切れ刃を備えたラジアスエンドミルが使用されている。特に工具本体の先端部に多数の切れ刃、例えば6枚以上の切れ刃を備えたソリッド型のラジアスエンドミル(以下、「多刃エンドミル」ともいう)が次第に使用されつつある。
多刃エンドミルに関する従来技術としては、図11に示すような、多数の切れ刃を備え、エンドミルの回転方向R(周方向)に隣接する切れ刃間に切屑の排出のための、半径方向中心(回転軸)寄りのギャッシュ7と外周寄りの刃溝8を備えた形態がある(特許文献1参照)。図11は特許文献1の図8に記載の例を具体的に示している。
図11に示す例(特許文献1)では底刃6の回転方向R前方側に形成されているギャッシュ7の半径方向外周側の、回転方向R後方側に刃溝8を形成しているが、ギャッシュ7に連続して刃溝8が形成されることで、切屑がギャッシュ7に留まりにくくし、底刃6が切削した切屑の排出性を高める効果があると考えられる。
特許文献1以外の、半径方向中心寄りに形成されたギャッシュの半径方向外周寄りに刃溝が形成されたエンドミルの例を図12に示す(特許文献2参照)。図12は特許文献2の図2を示している。この例ではギャッシュ7の半径方向外周寄りに連続して特許文献1の刃溝に相当する切屑排出溝4が形成され、切屑排出溝4とギャッシュ7との間に、コーナ刃12のすくい面11を形成する凹部10が形成されているため(段落0017、0018)、ギャッシュ7と切屑排出溝4は凹部10を介して連通している。
特許文献2では円弧を描くコーナ刃12を円弧の突端Pを越えた半径方向中心側の、底刃9の開始点Qまで形成し、点Qからエンドミルの後端部側へかけて形成され、凹部10を区画する交線Lを、突端Pを通る中心軸に平行な直線より半径方向中心側に位置させることで、コーナ刃12が生成した切屑を底刃すくい面8側に回り込ませることなく、コーナ刃すくい面11から排出させることを可能にしている(段落0019〜0024)。
DE 20 2009 013 808 U1号公報(図8) 特開2010−167520号公報(請求項1、段落0016〜0024、図1、図2)
図11の例(特許文献1)ではギャッシュ7の底面の、半径方向中心(回転軸)側から外周側へかけての半径方向に対する傾斜が緩く、エンドミルの端面に平行に近いため、ギャッシュ7からの切屑排出効果はあまり期待できない。またギャッシュ7に連続する刃溝8は半径方向外周寄りに偏って形成されているため、ギャッシュ7からの刃溝8への誘導効果も期待できないと考えられる。
図11の例ではまた、外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねているため、兼ねない場合より図7−(b)の実線で示すように刃溝8(チップポケット)の容積を幾らか大きく取ることができる。但し、刃溝8が半径方向外周寄りに偏って形成されているため、刃溝8の容積を稼ぐ利点は生かされていない。チップポケット(CP)はギャッシュの容積と刃溝の容積の和であり、この容積が大きい程、切屑の蓄え能力と排出効果が高いと言える。図7−(b)中、実線は外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねる場合の断面を示し、二点鎖線は外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねない場合の断面を示している。
特許文献2ではコーナ刃12が生成した切屑のギャッシュ7側への回り込みを阻止するために、ギャッシュ7と切屑排出溝4との間に介在する凹部10のギャッシュ7側の面に、隆起した壁面13を形成している(段落0019)。このため、底刃9が生成し、ギャッシュ7内に落下した切屑の切屑排出溝4への排出効果を凹部10が阻害する可能性があり、ギャッシュ7内からの切屑排出溝4への切屑の誘導効果は得られないと考えられる。
本発明は上記背景より、特許文献1の例に比べて顕著にギャッシュからの切屑排出効果と刃溝への誘導効果を高める形態の多刃エンドミルを提案するものである。
従来から3軸や5軸のNC制御の工作機械を用い、湾曲した表面を有する前記のインペラーの表面を高速度で高送りの切削加工を行ったときに、生成された切屑を短時間でエンドミルから排出することが困難になり、切削加工を阻害する事態が発生することがあった。この背景から、インペラーの表面を高速度で高送りの切削加工を行うことができる多刃エンドミルの開発が要望されていた。ブレード等の難削性合金部材を対象にする場合も同様である。
この点を受け、本発明の基本的な目的は難削性合金部材に対して高送りの切削加工を実施しても上記した切屑の排出性が良好な、切れ刃部の構造を改良した多刃のラジアスエンドミルを提供することにある。
詳しく言えば、本発明は3軸や5軸のNC工作機械に装着される多刃のラジアスエンドミル(多刃エンドミル)を用いながら、従来、困難であった、難削性合金の薄肉部材からなり、湾曲した表面を有するインペラー等の難削性合金部材の表面を、一本の多刃エンドミルで高送りの仕上げ用の切削加工を従来よりも高能率(高速度加工)で長時間、行えるようにすることを目的とする。併せて高送りの切削加工を行っても、生成される切屑の排出を良好にすることを目的とする。
なお、「多刃」とは、図1、図2に示すように工具本体(多刃エンドミル)の先端部の回転軸O側(半径方向中心側)からシャンク部2aの半径方向外周側へかけて底刃6と、底刃6に連続するコーナR刃5と、コーナR刃5に連続する外周刃4とから構成される切れ刃3を複数枚、特に6枚以上、備えるラジアスエンドミルを言う。
請求項1に記載の発明の多刃エンドミルは、シャンク部の先端部に形成され、回転軸O側から前記シャンク部の半径方向外周側へかけて底刃と、底刃に連続するコーナR刃と、コーナR刃に連続する外周刃とから構成される複数枚の切れ刃を備えた切れ刃部と、前記回転軸O回りの回転方向Rに隣接する前記切れ刃間の、前記半径方向の中心側と外周側にそれぞれ形成されたギャッシュと刃溝とを有する多刃エンドミルであって、
前記切れ刃のすくい面が前記半径方向中心側から外周側へかけて前記底刃のすくい面と、この底刃のすくい面に隣接し、前記底刃のすくい面と異なる面を形成し、前記コーナR刃のすくい面を兼ねる前記外周刃のすくい面とから構成され、
前記切れ刃の逃げ面が前記半径方向中心側から外周側へかけて前記底刃の逃げ面と、この底刃の逃げ面に隣接する前記コーナR刃の逃げ面と、このコーナR刃の逃げ面に隣接する前記外周刃の逃げ面とから構成され、
前記刃溝が前記外周刃のすくい面と、これに回転方向R前方側に対向する刃溝面と、前記外周刃のすくい面と前記刃溝面との境界に形成された底面とから構成され、
前記底刃のすくい面と前記外周刃のすくい面との境界に位置する凸の稜線と、前記底刃のすくい面と前記刃溝の底面との境界に位置する凸の稜線との交点が、前記コーナR刃の逃げ面と前記底刃の逃げ面との境界より前記半径方向中心側へ入り込んでいることを特徴とする。
請求項1における「半径方向」とは、回転軸Oに直交する断面上の回転軸Oを通る放射方向を言い、ギャッシュ7は切れ刃部2bをシャンク部2aの先端部側、すなわち多刃エンドミル1の先端部1a側からシャンク部2a側に見たとき、半径方向の回転軸O(中心)寄りの、回転方向Rに隣接する底刃6、6の逃げ面6b、6b間に形成される。刃溝8は半径方向の外周側の、回転方向Rに隣接するコーナR刃5、5の逃げ面5b、5b間に形成される。「シャンク部2aの先端部」は「多刃エンドミル1の先端部1a」と同義である。
「外周刃4のすくい面4aが底刃6のすくい面6aと異なる面を形成する」とは、外周刃4のすくい面4aと底刃6のすくい面6aとが同一面内にないことを言う。「外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねる」とは、外周刃4のすくい面4aが外周刃4からコーナR刃5に跨って形成されることを言うが、外周刃4のすくい面4aは後述のように外周刃4から底刃6にまで跨る。
刃溝8は外周刃4のすくい面4aと、これに多刃エンドミル1の回転方向R前方側に対向する刃溝面8aとで構成されるが、外周刃4のすくい面4aと刃溝面8aとの境界には刃溝8の底になる底面8bが形成される(請求項3)。底面8bは回転方向R(多刃エンドミル1の周方向)に幅を持ち、図5に示すように幅方向(回転方向R)両側の、底面8bと外周刃4のすくい面4aとの間に境界線10aが形成され、底面8bと刃溝面8aとの間に境界線10bが形成される。境界線10aと境界線10bは共に凹の稜線をなす。底面8bは多刃エンドミル1を半径方向外周側から中心側へ見たとき、下に凸の曲面状、もしくはV字状等に形成される場合と、平坦面に形成される場合がある。
「底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aとの境界に位置する凸の稜線64」とは、図5、図6に示すように半径方向に連続するコーナR刃5と底刃6をなす凸の稜線がコーナR刃5から底刃6に移行するときに、底刃6に面するギャッシュ面7a側(底刃6のすくい面6a側)へ向かって分岐した稜線を指す。稜線64はコーナR刃5の逃げ面5bと底刃6の逃げ面6bとの境界付近からギャッシュ面7aへ分岐し、底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aとの境界線になる。
「底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとの境界に位置する凸の稜線68」とは、刃溝8の底面8bと刃溝面8aとの境界線10bの延長線上にあり、境界線10bから、ギャッシュ7に面する底刃6(底刃6のすくい面6a側)側へ向かう稜線を指す。稜線68は底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとの間の境界線になる。稜線68は外周刃4のすくい面4aに回転方向R前方側に対向する刃溝面8aとギャッシュ7の底面7bとが交わる位置から底刃6側へ向かい、稜線64と互いに交差する。ギャッシュ7の底面7bは底刃6のすくい面6aとこれに回転方向R前方側に対向するギャッシュ面7aとの間の境界に形成される(請求項2)。
稜線64は外周刃4のすくい面4aを底刃6のすくい面6aから区画する(区切る)ため、コーナR刃5からギャッシュ面7a側へ向かって分岐することで、図5、図6に示すように外周刃4のすくい面4aを底刃6のすくい面6a側へ入り込ませる(食い込ませる)。同様に稜線68は刃溝8の底面8bを底刃6のすくい面6aから区画する(区切る)ため、境界線10bから底刃6側へ向かうことで、刃溝8の底面8bを底刃6のすくい面6a側へ入り込ませる(食い込ませる)。
外周刃4のすくい面4aと刃溝8の底面8bは刃溝8を構成するため、外周刃4のすくい面4aと刃溝8の底面8bが共に底刃6のすくい面6a側へ入り込むことで、ギャッシュ7内に存在する切屑の刃溝8内への落下を誘導させる効果が生まれ、ギャッシュ7内からの切屑の排出性が向上する。
「底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aとの境界に位置する凸の稜線64と、底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとの境界に位置する凸の稜線68の交点66が、コーナR刃5の逃げ面5bと底刃6の逃げ面6bとの境界より半径方向回転軸O側へ入り込んでいる」とは、図3、図6に示すように切れ刃部2bをシャンク部2a(多刃エンドミル1)の先端部1a側から回転軸O方向に見たときに、稜線64と稜線68の交点66がコーナR刃5の逃げ面5bと底刃6の逃げ面6bとの境界(境界線)より半径方向回転軸O側へ入り込んでいることを言う。図3、図9中、コーナR刃5と底刃6に接近している破線は凸の稜線64を示している。
図5等では半径方向に隣接する底刃6の逃げ面6bとコーナR刃5の逃げ面5bとの間、及びコーナR刃5の逃げ面5bと外周刃4の逃げ面4bとの間に境界を示す線が表されているが、実際にはこの線は肉眼では見えないこともある。例えば隣接する底刃6の逃げ面6bとコーナR刃5の逃げ面5b、及びコーナR刃5の逃げ面5bと外周刃4の逃げ面4bが、コーナR刃5の逃げ面5bをその面内方向(周方向)に見たときのクロソイド曲線のように隣接する曲面(平面を含む)の曲率が次第に変化するような場合には境界線は見えない。曲率が変化する部分には境界線が見えることもある。
「稜線64と稜線68の交点66が底刃6の逃げ面6bとコーナR刃5の逃げ面5bとの境界よりシャンク部2aの半径方向の回転軸O側へ入り込んでいること」は、稜線64と稜線68の交点66がコーナR刃5の逃げ面5bと底刃6の逃げ面6bとの境界より回転軸O側に位置していることであり、稜線64と稜線68が半径方向外周側から中心側(回転軸O)へ向かって互いに交差する線をなしていることである。
稜線64と稜線68の交点66が逃げ面6bと逃げ面5bの境界よりシャンク部2aの半径方向の回転軸O側へ入り込んでいることで、多刃エンドミル1を先端部1a側から見れば、刃溝8が半径方向外周側から中心側(回転軸O側)へかけ、コーナR刃5から底刃6に跨るように形成されるため、前記のようにギャッシュ7から刃溝8への切屑の誘導効果が得られる。同時に、図7−(b)に実線で示すように外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねることによる刃溝8の容積を稼ぐ利点が生かされるため、刃溝8の容積、すなわちチップポケット(CP)の容積を拡大することが可能になる。刃溝8の容積の拡大は切屑の蓄え能力と排出効果が向上することを意味する。チップポケット(CP)はギャッシュ7を形成する空間の容積と刃溝8を形成する空間の容積の和を言う。
刃溝8が半径方向外周側から中心側(回転軸O側)へかけ、コーナR刃5から底刃6に跨って形成されることで、外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねることによる、刃溝8(チップポケット)の容積を大きく取ることの利点が生かされる。外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねることで、刃溝8の容積を大きく取れることは、前記のように図7−(b)に示すようにコーナR刃5に直交する断面で見たときに、コーナR刃5の逃げ面5bと刃溝8の底面8bが単一の平面、もしくは曲面であるすくい面4aのみで結ばれるため、二点鎖線で示すコーナR刃5のすくい面がある場合より刃溝8側に突出する分の体積が不在になることによる。図7−(b)は図5のz−z線の断面を示している。
外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねることは、コーナR刃5のすくい面を形成しないことであるから、外周刃4のすくい面4aを含め、切れ刃3のすくい面全体を形成(研削加工)する上での加工の手間を軽減し、切れ刃3のすくい面全体の加工性を高める利点を得る意味もある。
コーナR刃5のすくい面5aが形成される場合には、図7−(b)に示すようにコーナR刃5と境界線10aを結ぶ直線の刃溝8側に二点鎖線のハッチングで示す突起部分が形成される。これに対し、請求項1では外周刃4のすくい面4aがコーナR刃5のすくい面を兼ねることで、ハッチングの突起部分が形成されないため、すくい面5aがある場合の突起部分だけ、刃溝8(チップポケット)の容積が増すことになる。
稜線64と稜線68の交点66が底刃6の逃げ面6bとコーナR刃5の逃げ面5bの境界よりシャンク部2aの半径方向の回転軸O側へ入り込んでいることの結果として、外周刃4のすくい面4aは底刃6のすくい面6aに対し、相対的に回転方向R後方側に位置する。すくい面4aがすくい面6aに対して回転方向R後方側に位置することで、ギャッシュ7内に存在する切屑が多刃エンドミル1の回転に伴い、刃溝8内に入り込み易くなる上、刃溝8内の切屑が多刃エンドミル1外へ排出され易くなるため、この点(すくい面4aがすくい面6aの回転方向R後方側に位置すること)からもギャッシュ7及び刃溝8からの切屑排出性の向上が図られることが言える。
前記のように刃溝8の底面8bは回転方向Rに幅を持つが、底面8bが幅を持つことで、幅がない場合より、底刃6やコーナR刃5等、切れ刃3のいずれかから直接、またはギャッシュ7から刃溝8内に落下した切屑を停滞しにくくする効果がある。同様にギャッシュ7内に落下した切屑の排出性をよくする上でも、ギャッシュ7の底面7bには回転方向Rに幅が与えられる。この場合、ギャッシュ7と刃溝8の底面7b、8bが共に幅を持つが、刃溝8内での切屑の停滞があれば、ギャッシュ7内からの切屑の排出が阻害される可能性がある。このことから、ギャッシュ7内に存在する切屑の刃溝8への排出の効率を上げるには、ギャッシュ7からの排出先での排出性がよいことが条件になるため、相対的には刃溝8の底面8bの幅がギャッシュ7の底面7bの幅より大きく確保されていることが適切である(請求項2)。
ギャッシュ7の底面7bと刃溝8の底面8bに幅を持たせることは図11に示す例においても見られるが、この例では刃溝8の底面8bの幅がギャッシュ7の底面7bの幅より相対的に小さいため、刃溝8内で切屑の停滞が生じたときにギャッシュ7からの切屑の排出が阻害されるか、排出が停滞する可能性がある。これに対し、刃溝8の底面8bの幅がギャッシュ7の底面7bの幅より大きい場合には(請求項2では)、刃溝8内で切屑の停滞が生じにくいため、ギャッシュ7からの切屑の排出が阻害される可能性と、排出が停滞する可能性が低下する。
外周刃4の逃げ面4bは図2、図10に示すようにシャンク部2aの表面2cに隣接し、表面2cに連続した面をなすため、「稜線64と稜線68との交点66が逃げ面6bと逃げ面5bとの境界より半径方向中心側へ入り込んでいること」は「外周刃4のすくい面4aが、底刃6の逃げ面6bからシャンク部2aの表面2cにまで跨っていること」とも言い換えられる。外周刃4のすくい面4aが底刃6の逃げ面6bからシャンク部2aの表面2cにまで跨っていることで、ギャッシュ7から刃溝8を経由しての切屑の、多刃エンドミル1外への排出性と排出速度が向上することが言える。
請求項1では「底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aとの境界の凸の稜線64と、底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとの境界の凸の稜線68との交点66が、底刃6の逃げ面6bとコーナR刃5の逃げ面5bとの境界より回転軸O側へ入り込んでいること」の要件を備えることで、底刃6が発生させた切屑がギャッシュ7を経由して刃溝8へ落下する分と、直接、刃溝8に落下する分とに分割されることになる。このことが、ギャッシュ7内に切屑が溜まりにくく、切屑のギャッシュ7からの排出効果とギャッシュ7からの刃溝8への誘導効果が発揮されることの根拠になっている。
前記のように刃溝8の底面8bの幅方向両側には外周刃4のすくい面4aとの境界線10aと刃溝面8aとの境界線10bが凹の稜線として形成される。ここで、特に図5に示すように底面8bと外周刃4のすくい面4aとの境界線10aが、すくい面6aとすくい面4aとの境界の凸の稜線64と、すくい面6aと底面8bとの境界の凸の稜線68との交点66を通る場合(請求項3)には、外周刃4のすくい面4aと刃溝8の底面8bとで谷を形成するため、ギャッシュ7内に存在する切屑が刃溝8内に落下し易くなり、ギャッシュ7からの刃溝8への誘導効果が更に向上することが言える。
また外周刃4のすくい面4aと、これに回転方向R前方側に対向する刃溝面8aとから構成される刃溝8の空間の容積は、刃溝面8aが、ギャッシュ7の底面7bに回転方向R後方側に接する内側面81aと、内側面81aと異なる面を形成し、ギャッシュ面7aに半径方向に接する外側面82aとの少なくとも2面を持つことで(請求項4)、更に増大する。ギャッシュ面7aは底刃6のすくい面6aに回転方向R前方側に対向する面である。この場合の外側面82aは図8に示すように内側面81aに対し、多刃エンドミル1のシャンク部2a側から先端部1a側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜し、または半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜し、内側面81aと外側面82aとの間には境界線88として凸の稜線が表れる。「少なくとも2面を持つ」とは、刃溝面8aが3面以上の面を持つ場合があることを言う。
「外側面82aが多刃エンドミル1のシャンク部2a側から先端部1a側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜し」とは、多刃エンドミル1を側面から半径方向中心側へ見たときの外側面82aの傾斜状況を述べており、「半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜し」とは、多刃エンドミル1を先端部1a側からシャンク部2a側へ見たときの外側面82aの傾斜状況を述べている。
「内側面81aがギャッシュ7の底面7bに回転方向R後方側に接する」とは、前記した凸の稜線68の延長線上に位置し、境界線10bから分岐した境界線を挟んで底面7bと内側面81aとが隣接し、内側面81aが底面7bに対し、相対的に回転方向R後方側に位置していることを言う。この底面7bと内側面81aとの間の境界線は前記した、すくい面6aと底面8bとの境界に位置する凸の稜線68の一部になっているため、底面7bと内側面81aとは凸の稜線68を挟んで隣接する。
「外側面82aがギャッシュ面7aに半径方向に接する」とは、ギャッシュ面7aと外側面82aが境界線を挟んで隣接し、外側面82aがギャッシュ面7aに対し、相対的に半径方向外周側に位置していることを言う。このギャッシュ面7aと外側面82aとの間の境界線はギャッシュ面7aと刃溝面8aとの間の境界線78であり、この境界線78は前記した内側面81aと外側面82aとの間の境界線88である凸の稜線に連続する。
「外側面82aが内側面81aに対し、シャンク部2a側から先端部1a側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜する」とは、図8に示すように外側面82aが内側面81aに対し、刃溝8の底面8b側から、回転方向R前方側に位置するコーナR刃5の逃げ面5b側へかけて回転方向R後方側から前方側へ向かって傾斜することである。
「外側面82aが内側面81aに対し、半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜する」とは、外側面82aが内側面81aに対し、多刃エンドミル1の半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ向かって傾斜することである。結果として外側面82aは刃溝8の底面8b側から、回転方向R前方側に位置するコーナR刃5の逃げ面5b側へかけて、切れ刃3の背面(回転方向R後方側の面)側の面を薄く切り取るように、あるいは削ぎ落とすように形成される。
外側面82aは内側面81aに対し、シャンク部2a側から先端部1a側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜すると同時に、半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜する場合もある。
請求項4では刃溝面8aが内側面81aと、内側面81aと異なる面を形成する外側面82aとの少なくとも2面を持つことで、外周刃4のすくい面4aの先端部1a側の位置と、これに対向する刃溝面8aの先端部1a側の位置との間の周方向(回転方向R)の距離が拡大するため、刃溝8の空間の容積が増大し、ギャッシュ7の容積と合わせたチップポケット(CP)の容積が増大する。刃溝8(チップポケット)の空間の容積の増大により切屑の排出性が一層、向上する利点が得られることになる。
底刃のすくい面と外周刃のすくい面との境界の凸の稜線と、底刃のすくい面と刃溝の底面との境界の凸との稜線の交点が、底刃逃げ面とコーナR刃逃げ面との境界より回転軸O側へ入り込むことで、底刃が発生させた切屑をギャッシュを経由して刃溝へ落下する分と、直接、刃溝に落下する分とに分割させることができるため、ギャッシュ内に切屑が溜まりにくくなり、ギャッシュからの切屑排出効果とギャッシュからの刃溝への誘導効果が高まる。特に外周刃のすくい面が底刃の逃げ面からシャンク部の表面にまで跨っているため、ギャッシュから刃溝を経由しての切屑の、多刃エンドミル外への排出性と排出速度が向上する。
また底刃すくい面と外周刃すくい面との境界の凸の稜線と、底刃すくい面と刃溝底面との境界の凸との稜線の交点が、底刃逃げ面とコーナR刃逃げ面の境界よりシャンク部の半径方向中心側へ入り込んでいることで、刃溝が半径方向外周側から中心側へかけ、コーナR刃から底刃に跨って形成されるため、ギャッシュからの刃溝への誘導効果が高まる。同時に、外周刃すくい面がコーナR刃すくい面を兼ねることによる刃溝の容積を稼ぐ利点が生かされるため、刃溝の容積、すなわちチップポケットの容積を拡大することができる。この結果、難削性合金部材を被削材として、従来に比べて切込み量を深くして高送りの切削加工を行った場合でも、高精度で、且つ安定した高送り加工を行うことができ、多刃エンドミルの長寿命化が図られる。
更に言えば、コーナR刃を用いてインペラー等の屈曲した面を高速で高送りによる切削加工を実施したときに、コーナR刃により生成された切屑がギャッシュへ流れることを阻止でき、直ちに刃溝内、特に刃溝の底面に沿って外部に円滑に排出させることができ、切屑の詰りを抑制することができる。結果として、難削性合金部材を高速で高送りによる切削加工を実施しても、コーナR刃を含む切れ刃の損傷を防止することができる。
本発明の多刃エンドミルの製作例を示した側面図である。 図1の切れ刃部の拡大図である。 図1に示す切れ刃部を端面側から回転軸方向に見た様子を示した多刃エンドミルの端面図である。 図2におけるx−x線断面図である。 図1に示す多刃エンドミルの切れ刃部を先端部側からシャンク部側へ見た様子を示した斜視図である。 図5におけるy−y線の矢視図である。 (a)はコーナR刃5の断面の先に2本の稜線64、68と境界線10aが見えている様子を示した図5におけるz−z線断面図、(b)は図5におけるz−z線の断面端面図であり、コーナR刃5のすくい面がない本発明を実線で示し、コーナR刃5のすくい面がある参考例を鎖線で示している。 刃溝面が内側面と外側面の2面からなる場合の本発明の多刃エンドミルの他の製作例を示した斜視図である。 (a)は切れ刃が10枚の場合の本発明の多刃エンドミルの切れ刃部を端面(先端部)側から見た様子を示した端面図、(b)は切れ刃が15枚の場合の本発明の多刃エンドミルの切れ刃部を端面側から見た様子を示した端面図である。 外周刃の外形線が回転軸Oと平行に形成された場合の本発明の多刃エンドミルの製作例を示した側面図である。 特許文献1に記載のエンドミルを先端部側からシャンク部側へ見た様子を示した斜視図である。 特許文献2に記載のエンドミルの部分拡大側面図(特許文献2の図2)である。
以下、本発明の多刃エンドミルの実施形態を図面を用いて説明する。
以下の説明において、例えばNi基耐熱合金製の部材を被削材とする場合、「高速度加工(高速加工)」とは、一般的に切削速度Vcが60〜80mm/minの加工をいう。切削速度Vcが60mm/min未満であれば、切削性が低下して切削抵抗が過大となる。一方、切削速度Vcが80mm/minを超えれば、切削温度が非常に高くなり、切れ刃の早期の摩耗や、切屑が切れ刃に溶着する現象が発生する。更に被削材と切れ刃との擦過が過大となるため、特に切れ刃の逃げ面の摩耗が多くなる。このことから、Ni基耐熱合金製部材を被削材とする場合においては、切削速度Vcのより好ましい範囲は65〜80mm/minであり、更に好ましい範囲は70〜80mm/minとなる。
また例えばNi基耐熱合金製部材を被削材とする場合、「高送り加工」とは、一般的に送り速度Vfが1000〜3000mm/minの加工をいう。送り速度Vfが1000mm/min未満であれば、加工能率が低くなる。一方、送り速度Vfが3000mm/minを超えれば、切屑の生成量が過大となるため、切屑詰まりが発生し易くなる。送り速度Vfのより好ましい範囲は1500〜3000mm/minであり、更に好ましい範囲は1800〜3000mm/minである。
1枚当たりの切れ刃で実現可能となる実質的な切削の能率は、送り速度、回転数及び刃数から導き出される1刃当りの送り量fz[mm/t]と、径方向切込み量ae[mm]と、軸方向切込み量ap[mm]とで決定される。従来の多刃エンドミルでは、1刃当りの送り量fzが0.03〜0.06mm/t、径方向切込み量aeが0.4〜0.6mm、軸方向切込み量apが0.4〜0.6mm程度の能率でしか、実用上の切削寿命(インペラーの仕上げ加工を工具の取替えを要せずに、1本の多刃エンドミルで完了するために必要な寿命)を確保することができない。しかし、本発明の多刃エンドミル1では、1刃当りの送り量fzが0.08〜0.3mm/t、径方向切込み量aeが1〜10mm、軸方向切込み量apが0.8〜2.0mm程度の非常に高能率な切削条件にて切削加工が可能である。そのため、上記のような非常に高能率な切削条件(高速度加工と高送り加工)においても従来に比べて長時間使用することができる実用上の切削寿命を確保できることが本発明の多刃エンドミル1の利点となる。
図1に示すように多刃エンドミル1は、回転軸O方向に所定の長さを有する円柱状のシャンク部2aと、シャンク部2aの回転軸O方向の一方側である先端部1a側に形成された切れ刃部2bの2部分から構成されている。シャンク部2aの他方の端部は多刃エンドミル1を用いて例えば3次元又は5次元制御による切削加工を行うときに工作機械に装着され、把持される部分になる。
切れ刃部2bには、外周刃4とコーナR刃5と底刃6とから構成される切れ刃3を複数(複数枚)、備えている。切れ刃部2bに形成されている各切れ刃3の構成例を図2及び図3に示す。コーナR刃5は切れ刃3の内、略円弧状、もしくは凸曲線状等、表面側に凸となる形状に形状される。
本発明の多刃エンドミル1は多数の切れ刃3を備えているので、3軸や5軸制御のNC工作機械を用いて、難削性合金製のインペラーの表面を、特にコーナR刃5を用いて高速度で、且つ高送りで仕上げの切削加工を行っても、コーナR刃5の耐摩耗性の向上とチッピング等の欠損発生の抑制を図りながら、切屑の良好な排出性を確保することが可能になる。
切れ刃3は図2、図3、図5に示すように回転軸O側(半径方向中心側)から半径方向外周側へかけて底刃6と、底刃6に連続するコーナR刃5と、コーナR刃5に連続する外周刃4とから構成される。多刃エンドミル1は周方向に等間隔で配列する、主に6枚以上、30枚以下の切れ刃3を有する。図示する多刃エンドミル1は底刃6が回転軸O近傍まで直線状に形成されている点で、ラジアスエンドミルの一種とみなせる。
切れ刃3のすくい面は半径方向中心側から外周側へかけて底刃6のすくい面6aと、底刃6のすくい面6aに隣接し、底刃6のすくい面6aと異なる面を形成し、コーナR刃5のすくい面を兼ねる外周刃4のすくい面4aとから構成される。切れ刃3の各すくい面6a、4aは平面の場合と曲面の場合がある。
切れ刃3の逃げ面は半径方向中心側から外周側へかけて底刃6の逃げ面6bと、底刃6の逃げ面6bに隣接するコーナR刃5の逃げ面5bと、コーナR刃5の逃げ面5bに隣接する外周刃4の逃げ面4bとから構成される。図2に示すL1は外周刃4の形成開始点P1における多刃エンドミルの刃径(シャンク部2aの直径)を示し、L2は外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部における多刃エンドミルの刃径を示し、L3は切れ刃3の刃長を示す。コーナR刃5の逃げ面5bは曲面状に形成されるが、底刃6の逃げ面6bと外周刃4の逃げ面4bは平面の場合と曲面の場合がある。
図3に示す「矢印R」は切削加工を行うときの多刃エンドミル1の回転方向Rを示し、「矢印R」の方向の下流側が回転方向Rの前方(回転方向R前方)を意味し、反対側(上流側)が回転方向R後方を意味する。
回転軸O回りの回転方向Rに隣接する切れ刃3、3間の、半径方向の中心側(回転軸O側)と外周側にギャッシュ7と刃溝8がそれぞれ形成されている。ギャッシュ7は底刃6のすくい面6aと、これに回転軸O回りの回転方向R前方側に対向するギャッシュ面7aと、底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aとの境界に形成された底面7bとから構成される。刃溝8は外周刃4のすくい面4aと、これに回転軸O回りの回転方向R前方側に対向する刃溝面8aと、外周刃4のすくい面4aと刃溝面8aとの境界に形成された底面8bとから構成される。刃溝8はいずれかの切れ刃3が切削加工により生成した切屑を多刃エンドミル1の外部に排出するための切屑排出溝であり、ギャッシュ7に連通しながら、シャンク部2aの外周面2cまで形成されている。
ギャッシュ7と刃溝8を半径方向に見たときの底面7b、8bの断面形状は下に凸のV字状、もしくはU字状(曲面状)の他、平坦面状に形成される。刃溝8の底面8bの幅方向(回転方向R)両側には外周刃4のすくい面4aとの境界に位置する境界線10aと、刃溝面8aとの境界に位置する境界線10bが形成される。境界線10bの半径方向中心側(回転軸O側)の延長線上に、底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとを区画し(仕切り)、底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとの境界線となる凸の稜線68が形成される。図5、図8では底面8bの幅方向両側の境界線10a、10bが互いに平行であるように示されているが、境界線10a、10bは必ずしも平行である必要はない。
図4はギャッシュ7の底面7b及び刃溝8の底面8bと、境界線10a、10bとの関係を示している。図4は図2のx−x線の断面を示しているが、あるギャッシュ7を、回転軸Oを通り、半径方向を向いた平面で切断し、回転方向R後方側を見たときの様子を示している。ここに示すようにギャッシュ7の底面7bは半径方向の直線に対して鋭角をなして交わり、刃溝8の底面8bは回転軸Oに平行な直線に対して鋭角をなして交わっている。刃溝8の底面8bはギャッシュ7の底面7bの半径方向外周側の端部を通り、底刃6の手前まで連続する。底面8bの幅方向両側の境界線10a、10bの内、すくい面4a側の境界線10aが連続した先の底刃6の手前の地点が稜線64と稜線68との交点66である。境界線10aの、底刃6側の端部は底刃6の0.1mm〜2.0mm程度、手前の位置になる。ギャッシュ7の底面7bは半径方向外周側の端部において刃溝8の底面8bに空間的に連通する。
ギャッシュ7の底面7bと刃溝8の底面8bは共に、切屑を詰まりにくくするために回転方向Rに幅を持つが、ギャッシュ7内に存在する切屑の排出先である刃溝8内での切屑の停滞を回避し、刃溝8からの切屑の排出性をよくするために、刃溝8の底面8bの幅はギャッシュ7の底面7bの幅より大きく設定されている。回転軸Oに直交する直線(半径方向の直線)と、ギャッシュ7の底面7bとがなす角度であるギャッシュ7の角度βは15°〜45°にすることが望ましい。角度βが15°未満ではチップポケット(CP)の体積(V)が過小となり、多刃エンドミル1の回転軸O近傍に流れた切屑が噛み込みを起こし、切れ刃のチッピングが発生し易い。一方、角度βが45°を超えるとコーナR刃5の強度が不足することに依る。
図4〜図6等に示すように底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aとの境界に位置する凸の稜線64と、底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとの境界に位置する凸の稜線68の交点66は、コーナR刃5の逃げ面5bと底刃6の逃げ面6bとの境界より半径方向の中心側へ入り込んだ状態にあり、稜線64と稜線68がすくい面6a内に切り込んだ形になっている。
多刃エンドミル1の先端部1a側から見たとき、多刃エンドミル1の表面2cから半径方向に連続する切れ刃3の外周刃4とコーナR刃5及び底刃6は凸の稜線をなすが、この凸の稜線64は図5、図6に示すようにコーナR刃5の逃げ面5bと底刃6の逃げ面6bとの境界付近から、底刃6のすくい面6aに対向するギャッシュ面7aへ分岐する。一方、前記した刃溝底面8bの刃溝面8a側の境界線10bの延長線上にある凸の稜線68は底刃6のすくい面6a側に向かい、凸の稜線64と、底刃6のすくい面6a内で会し、前記交点66で交差する。
刃溝8の底面8bと刃溝面8aとの境界に位置する境界線10bの延長線上にある稜線68が底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとを区画する(仕切る)ことで、底面8bに対して多刃エンドミル1の回転方向R後方側に位置する外周刃4のすくい面4aが底刃6のすくい面6aに対しても回転方向R後方側に位置することになる。外周刃4のすくい面4aが底刃6のすくい面6aの回転方向R後方側に位置することで、すくい面6a(ギャッシュ7)から離脱した切屑がすくい面4a(刃溝8)に回り込み易くなっている。
刃溝8の底面8bを形成する境界線10bの延長線上の稜線68が底刃6のすくい面6aと刃溝8の底面8bとを区画することと、すくい面6aのギャッシュ面7a側に底面7bが位置することから、ギャッシュ7の底面7bと刃溝8の底面8bとは不連続になり、刃溝8の底面8bがギャッシュ7の底面7bに対して回転方向R後方側に位置する。刃溝8の底面8bがギャッシュ7の底面7bに対して回転方向R後方側に位置することで、外周刃4のすくい面4aと底刃6のすくい面6aとの関係と同様、ギャッシュ7の底面7bを通じて移動する切屑が刃溝8の底面8b側へ回り込み易くなっている。
交点66には、前記のように刃溝8の底面8bと外周刃4のすくい面4aとの境界に位置する境界線10aも交差し、稜線64と稜線68と境界線10aとは1点の交点66で交わっている。境界線10aが交点66に交差することで、外周刃4のすくい面4aと刃溝8の底面8bとが形成する溝(谷)の底をなし、すくい面4aと底面8bとからなる溝を下方へ切り込む恰好になるため、ギャッシュ7内に存在する切屑を刃溝8内に落下させ易くする作用を果たす。
図8は刃溝面8aがギャッシュ7の底面7bと回転方向R後方側で接する内側面81aと、内側面81aと異なる面を形成し、ギャッシュ面7aに半径方向に接する外側面82aとの少なくとも2面を持つ形態を有する場合の多刃エンドミル1の製作例を示す。外側面82aは内側面81aに対し、多刃エンドミル1のシャンク部2a側から先端部1a側へかけて、または半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜している。
ギャッシュ面7aと刃溝面8aは互いに異なる面をなすため、図8に示すようにギャッシュ面7aと刃溝面8aとの間には境界線78が凸の稜線として表れるが、この境界線78は刃溝8の底面8b側に連続することで、内側面と81aと外側面82aとを区画する(仕切る)境界線88になる。境界線78はギャッシュ7の底面7bの半径方向外周側の端部と前記した凸の稜線68の端部とを通り、境界線88として刃溝8の底面8bの刃溝面8a側の境界線10bに交わる。
内側面81aに対する外側面82aの傾斜の結果、外側面82aの回転方向R前方側に位置するコーナR刃5の逃げ面5b及び外周刃4の逃げ面4bと交わる外側面82aの、半径方向外周側の外形線は図5の例より僅かに回転方向R前方側へ寄るが、外側面82aは半径方向中心側から外周側へかけて傾斜し、逃げ面5b、4bには外側面82aの、表面2c寄りの外形線が交わるため、切れ刃3(刃先)の剛性に影響を与える程ではない。
図8の例では外側面82aが内側面81aに対し、シャンク部2a側から先端部1a側へかけて、または回転軸O側から半径方向外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜することで、多刃エンドミル1を先端部1a側から回転軸O方向に見たとき、刃溝8の周方向の幅が半径方向中心側から外周側へかけて広がり、刃溝8の容積が拡大するため、図5の例よりギャッシュ7内に存在する切屑の排出能力が向上する利点がある。
図3に示す「角度a」は底刃6の逃げ面6bの幅の角度であり、底刃6と、逃げ面6bの回転方向R後方側の稜線(ギャッシュ面7aと逃げ面6bとの境界線)とがなす角度を指す。「角度b」は「ギャッシュ7の開き角度」であり、逃げ面6bの回転方向R後方側の稜線と、その底刃6の回転方向R後方側に隣接する底刃6とがなす角度を指す。これらの角度a、bは多刃エンドミル1のチップポケット(CP)の容積に関係する。
図3に示すように多刃エンドミル1を先端部1a側から回転軸O方向に見たときに、底刃6と、底刃6の逃げ面6bの回転方向R後方側の稜線とがなす角度を「角度a(底刃6の逃げ面6bの幅の角度)」とし、底刃6の逃げ面6bの回転方向R後方側の稜線と、この底刃6の回転方向R後方側に隣接する底刃6とがなす角度を「角度b(ギャッシュ7の開き角度)」としたとき、角度bは角度aの1.5倍以上3倍以下の範囲となるように、各底刃6と底刃逃げ面6bを形成することが望ましい。
「角度a」は多刃エンドミル1の刃径や切れ刃3の刃数に応じて設定される。例えば刃数が8枚の場合には、角度aが10°〜30°程度に、刃数が10枚の場合には8°〜24°程度に、刃数が12枚の場合には6°〜20°程度に設定される。「角度b」は360°を刃数で割った数値より「角度a」の値を差し引くことにより求められる。例えば角度bは刃数が8枚の場合は35°〜15°程度に、刃数が10枚の場合は28°〜12°程度に、刃数が12枚の場合は24°〜10°程度に設定される。
また切れ刃3のうち、特に底刃6、コーナR刃5の剛性を損なわない範囲で、ギャッシュ7の容積が確保されるように設定される。例えば刃径が30mm、切れ刃3の刃数が10枚の場合、角度aは12°程度に、ギャッシュ7の開き角度bは24°程度に設定される。
角度bが底刃逃げ面6bの幅の角度aの1.5倍以上、3倍以下に設定されることが望ましい理由は以下の通りである。角度bが角度aの1.5倍未満に設定した場合には、各切れ刃3の刃先剛性を向上させることができるが、切込みや送り速度を上げた高能率加工を実施した際には、チップポケット(CP)が小さくなる。すなわち、角度bが小さくなるので、切屑を効率良く刃溝8に運ぶことができなくなり、切屑の噛み込みを発生させ易い。一方、角度bが角度aの3倍を超えた場合には、底刃6やコーナR刃5の刃先強度が不足し、特にインペラーの加工において主な切れ刃3となるコーナR刃5にチッピングが発生し易い。よって角度bは角度aの1.5倍以上、3倍以下に設定されることが望ましい。
図2に示すように外周刃4は多刃エンドミル1の先端部1a側からシャンク部2aの外周面側へ寄ったP1点から先端部1a側へ向かい、回転軸Oに対して角度αをなして形成されている。P1点はシャンク部2aの外周面から多刃エンドミル1の先端部1a側へ向かって形成された外周刃4の開始点である。以下、P1点を「外周刃4開始点」と言い、角度αを外周刃4の「傾斜角度α」と言う。
外周刃4の傾斜角度αは0°〜10°であることが望ましく、5°〜10°であることがより望ましい。傾斜角度αが5°未満では、湾曲したインペラーの表面凹部を切削加工する際に外周刃4の食い込み(削りすぎ)が生じる場合がある。傾斜角度αが10°を超えると多刃エンドミル1の先端部1a側における切れ刃部2bの径が過小となることで、コーナR刃5、底刃6等の切れ刃の長さが短くなり、切れ刃3の各刃先強度の低下、チップポケット(CP)の体積の低下を招く。また傾斜角度αを0°以上、5°未満(例えば0°)とした場合、5軸のNC工作機械に多刃エンドミル1を把持させてインペラーの切削加工を行う際には、多刃エンドミル1及びインペラー自体の各傾き制御が必要となる。これにより、傾斜角度αを0°とした多刃エンドミルの場合も、傾斜角度を5°〜10°にした多刃エンドミルと同様の本発明の有利な効果を奏することができる。
外周刃4は外周刃4の形成開始点P1において回転軸Oに対して例えば傾斜角度αで傾斜し、外周刃4の終端部となるP2点においてコーナR刃5に連続する。P2点は外周刃4とコーナR刃5との境界点となる。コーナR刃5は多刃エンドミル1を側面から(周方向に)見たとき、外周刃4とコーナR刃5との境界点P2から多刃エンドミル1の先端部1a側へかけて一定の曲率の、または変化する曲率を有する曲線状に形成されている。外周刃4はまた、回転軸Oの方向に対し、例えば20°のねじれ角θでねじれている(図1参照)。
図2では、外周刃4を回転軸O方向に傾斜角度αを付けているが、図10に示すように外周刃4を回転軸O方向に傾斜させない場合もある。図10の例は外周刃4を回転軸Oに平行にした場合である。
コーナR刃5の他端部に連続した底刃6は図4に示すように多刃エンドミル1の先端部1a側における半径方向外周側から中心側(回転軸O側)へかけて、先端部1a側からシャンク部2a側へ向かう傾斜が付いて回転軸Oの近傍まで直線状に形成されている。
前記のようにギャッシュ7を形成する空間の容積と刃溝8を形成する空間の容積との和をチップポケット(CP)と呼ぶ。チップポケットの容積はシャンク部2aの径と刃数が一定であれば、大きい方が切屑の排出効果が高い。1刃当たりのチップポケットは図5に斜線で示すように回転方向Rに隣接する切れ刃3、3間に形成される空間を言う。チップポケットは多刃エンドミル1の切れ刃3の刃数と同じ数だけ、存在する。
1刃当たりのチップポケット(CP)の容積(V)は図2に示す外周刃4の形成開始点P1における多刃エンドミル1の刃径L1(シャンク部2aの直径)が10mm〜30mmで、切れ刃3の刃数が6枚〜30枚のときに、25mm以上120mm以下の範囲に設定されることが適切である。チップポケット(CP)の体積(V)はギャッシュ7と刃溝8を形成する前の無垢の多刃エンドミル1に対し、ギャッシュ7と刃溝8の形成によって除去された材料の体積である。
前記の通り、多刃エンドミル1は6枚〜30枚の切れ刃3を備える。切れ刃3の刃数(枚数)の上限は外周刃4の形成開始点P1における多刃エンドミル1の刃径L1を30mmとした場合で、30枚程度が適切である。理由は以下の通りである。
本発明の多刃エンドミル1はインペラー等に切削加工を行う場合に、軸方向及び径方向の切込み量ae、apを上げた高送り加工を行うことができるが、更に高能率加工を実施するためには送り速度Vfを上げる必要がある。送り速度Vfを上げるには、1刃当りの送り量fz[mm/t]を上げるか、切削速度Vc[m/min]を上げる必要がある。しかしながら、特に難削性合金部材の切削加工を行う場合、切削時に発生する温度上昇が問題となる。切削時の温度は主軸の回転数(工具の切削速度Vc)が速くなる程、高くなり、切削温度の上昇はエンドミル表面に被覆された硬質皮膜にダメージを与え、エンドミルの寿命を短くするため、それほど切削速度を上げることができない。例えば被削材がNi基耐熱合金製部材の場合には、Vc=80m/min程度が限界となる。多刃エンドミル1を用いて切削加工を行う際には、「高い切削熱を発生させない切削加工を行うこと」が特に重要であるため、このような要素をも考慮に入れる必要がある。
また1刃当りの送り量fzを上げ過ぎると、エンドミルの刃先にかかる負担が大きくなるため、1刃当りの送り量fzをあまり大きくすることができない。特に1刃当りの送り量fzが0.3mm/tを超えると、この現象が顕著となる。よって高能率加工を実現させるためには切れ刃3の刃数を増やす必要があり、少なくとも6枚以上の刃数を有する多刃エンドミルを使用しなければ、従来の2枚刃、あるいは4枚刃のエンドミルとの対比では、高能率加工を実施することは難しい。一方、刃数が30枚を超えると、チップポケット(CP)が小さくなり過ぎるため、切屑が回転軸O付近やギャッシュ7内に詰まり易くなり、詰まった切屑を噛み込んで切れ刃にチッピングが発生し易くなる。
Ni基超耐熱合金等からなるインペラーを、本発明の多刃エンドミル1のコーナR刃5を用いて3軸又は5軸NC制御の加工機により高能率な高送りで切削加工する場合、切削条件として、例えば軸方向切込み量apは0.8mm〜2.0mm(望ましくは1.0〜1.5mm)、径方向切込み量aeは1〜10mm(望ましくは1〜5mm)の値に設定される。また1刃当りの送り量fzは0.08〜0.3mm/t程度(望ましくは0.1〜0.2mm/t)に設定され、刃数を増やすことにより、インペラーの仕上げ加工の完了までの全体的な切削加工能率を従来よりも顕著に向上させることが可能になる。
以上のことを踏まえれば、切れ刃3の刃数は少なくとも6枚以上とし、その上限は30枚以下にすることが適切である。なお、軸方向切込み量ap、径方向切込み量ae及び1刃当りの送り量fzが上記した設定範囲未満の値では従来の高送り加工との差異が認められない。一方、軸方向切込み量ap、径方向切込み量ae及び1刃当りの送り量fzの設定範囲が上記範囲を超えると工具寿命の低下が顕著になり、実用的でなくなる。
図9−(a)は切れ刃3が10枚の場合の多刃エンドミル1の切れ刃部2bの端面を回転軸O方向に見た様子を示す。図9−(b)は切れ刃3が15枚の場合の多刃エンドミル1の切れ刃部2bの端面を見た様子を示す。
本発明の多刃エンドミル1を3軸又は5軸NC制御加工機に装着し、インペラー等の湾曲した表面を高能率で仕上げ加工を行うには、図2に示す外周刃4の形成開始点P1における多刃エンドミルの刃径L1を10mm〜30mmの範囲に設定することが好ましい。理由は以下の通りである。
刃径L1が10〜30mmであれば、高能率での切削加工を行う上で、刃数を6枚以上30枚以下の多刃にした場合でも、チップポケット(CP)の体積(V)を25mm以上120mm以下にすることが可能である。しかし、刃径L1が10mm未満の場合に、切れ刃3の刃数を多くすると、25mm以上のチップポケット(CP)の体積(V)の確保が困難になる。一方、刃径L1が30mmを超えた場合では、チップポケット(CP)の体積(V)を25mm以上、120mm以下に設定しようとしたときに、前記したギャッシュの開き角度b(図3参照)が非常に狭くなってしまい、切屑の排出が妨げられる可能性がある。刃径L1のより適切な範囲は15mm〜25mmである。刃長L3は外周刃4の形成開始点Pにおける多刃エンドミル1の刃径L1の30%〜60%の範囲にすることが望ましい。刃長L3が刃径L1の60%を超えると、高送りの切削加工を行う際にビビリが発生する。
本発明の多刃エンドミル1を用いた、インペラーの高送りで高能率な切削加工において、1刃当たりのチップポケット(CP)の体積(V)を、上記した25mm以上、120mm以下の範囲に設定することにより、高送りで高能率な加工を行った場合においても生成された切屑を円滑に排出することが可能になる。理由は以下の通りである。
チップポケット(CP)の体積(V)が25mm未満では、高能率な切削加工を行った際に、主にコーナR刃5により形成される切屑が円滑に排出されず、切屑詰まりにより切れ刃3の欠損やチッピングが発生し易い。一方、チップポケット(CP)の体積(V)が120mmを超えると、刃数を増やし、多刃とした際に、工具としての全体的な体積、すなわち、切れ刃部2bの超硬合金からなる部分の体積が減ることから、切れ刃部2bの剛性の確保が困難となり、切削時の衝撃により切れ刃3にチッピングが発生し易くなる。刃数を減らし、工具としての全体的な体積の低下を防止した場合には、仕上げ加工完了までの総合的な送り速度Vf[mm/min]が低下してしまうため、本発明が目的としている高能率な切削加工は実現できなくなる。以上の点から、本発明ではチップポケット(CP)の体積(V)の適切な範囲は25mm〜100mmであり、より適切な範囲は45mm〜70mmである。
なお、1刃当たりのチップポケット(CP)の体積(V)を25mm以上、120mm以下に設定するに当っては、コーナR刃5の回転方向R前方側に存在するギャッシュ7及び刃溝8が極力大きくなるようにチップポケット(CP)を形成することが望ましい。具体的には多刃エンドミル1の剛性を損なわない程度に、ギャッシュ7の開き角度bを極力大きく設定することである。更に外周刃4のすくい面4aの径方向長さが極力大きくなり、また外周刃4及びコーナR刃5から境界線10aまでの距離が極力大きくなるようにすることである。
チップポケット(CP)の容積(V)は下記の方法により得られた値を使用している。非接触式3次元計測システム(商品名:RexcanIII、Solutionix製)を用いて試作した多刃エンドミルの表面部(切れ刃部も含む)の3次元計測を順次実施して本発明の多刃エンドミルの3次元CADモデルを作成した。この3次元CADモデルから、隣り合う切れ刃3、3の間に形成されたギャッシュ7と、このギャッシュ7に連続した刃溝8とを加えた空間部の体積を1刃当たりのチップポケット(CP)の体積(V)として求めた。
図示はしていないが、本発明の多刃エンドミル1には、被削材の切削加工中にクーラント(冷却液)を供給するためのクーラント孔が形成されることがある。クーラント孔は多刃エンドミル1の先端部1a側から1個、又は複数個、穿設される。クーラント孔は切削加工中において各切れ刃3を冷却する目的と、切削加工により生成された切屑を切れ刃3と切れ刃3の間に形成されているギャッシュ7から刃溝8を介して外部に円滑に排出する目的と、切屑が切れ刃3に付着(溶着)することを防止する目的で形成される。
クーラント孔は多刃エンドミルの周方向には少なくとも3個、均等に配置されることが適切であり、ギャッシュ面7a、もしくは底刃6の逃げ面6bに形成される。クーラントは切削加工中、3軸又は5軸NC加工機から供給され、複数のクーラント孔から噴出させられる。
(多刃エンドミルの製造方法)
続いて本発明の多刃エンドミル1の製造方法の一例を以下に説明する。特に限定されないが、多刃エンドミル1の基体はWC(炭化タングステン)を主成分としたWC基超硬合金の粉末からなるのが望ましい。WC基超硬合金製の基体は、原料粉末を金型で成形して得られた成形体を所定の温度で焼結し、得られた焼結体をダイヤモンド砥石等を用いた研削加工装置により研削加工することにより、切れ刃部2bに一定数の切れ刃3を持つ多刃エンドミル1として形成される。このとき、必要により多刃エンドミル1(シャンク部2a)の内部の回転軸O方向に沿ったクーラント孔が穿設される。
無加工状態の切れ刃部2bに対する加工は例えば薄板状のダイヤモンド砥石等を用いたNC制御の研削加工装置により、次の手順で行われる。
(1)まず図5に示す刃溝8の一方の壁面を形成する外周刃4のすくい面4aと、これに対向する他方の刃溝面8aと、両者間の底面8bを形成する。このとき、コーナR刃を兼ねる外周刃4が形成される。刃溝面8aはギャッシュ面7aに対し、多刃エンドミル1先端部1a側からシャンク部2a側へかけて回転方向R前方側から後方側へ向かう傾斜面をなすように、または半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ向かう傾斜面をなすように形成される。
(2)続いてギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aと、ギャッシュ面7aと、両者間の底面7bとを研削加工により形成する。このとき、底刃6も形成される。この研削加工では、底刃6のすくい面6aが外周刃4のすくい面4aに対し、回転方向R前方側に位置するように加工される。これにより外周刃4のすくい面4aと底刃6のすくい面6aの境界に凸の稜線64と凸の稜線68とが形成され、併せて刃溝8の底面8bとその幅方向両側の境界線10a、10bが形成される。底刃6のすくい面6aは外周刃4のすくい面4aに対し、多刃エンドミル1先端部1a側からシャンク部2a側へかけて回転方向R後方側から前方側へ向かう傾斜面をなすように形成され、底刃6を含む切れ刃3の剛性が確保される。
外周刃4のすくい面4aの形成後、ギャッシュ面7aの研削加工を行い、ギャッシュ7の底面7bを形成する。これにより、図5に示すように刃溝8の底面8bとギャッシュ7の底面7bとが不連続な状態で、刃溝8の底面8bがギャッシュの底面7bに対して回転方向R後方側に位置するように形成される。続いて各切れ刃3に対して逃げ面6b、5b、4bが形成され、切れ刃部2bの加工が終了する。
(3)切れ刃部2bの加工の終了後、所定寸法に形成された基体の表面の内の少なくとも切れ刃部2bの全表面に厚さ数μm(例えば3μm程度)の硬質皮膜を例えばPVD法により被覆する。特に限定されないが、硬質皮膜としては、AlCrN膜などのAlCr系硬質皮膜が適する。
本発明の多刃エンドミル1は3軸や5軸のマシンニングセンタ等に装着され、Ni基耐熱合金製部材からなるインペラーの湾曲した表面等を高速且つ高送りで切削加工を行うための有効な切削工具として使用される。
1……多刃エンドミル、1a……先端部、
2a……シャンク部、2b……切れ刃部、2c……表面、
3……切れ刃、
4……外周刃、4a……外周刃のすくい面、4b……外周刃の逃げ面、
5……コーナR刃、5a……コーナR刃のすくい面、5b……コーナR刃の逃げ面、
6……底刃、6a……底刃のすくい面、6b……底刃の逃げ面、
64……凸の稜線(底刃すくい面6aと外周刃すくい面4aとの間の境界線)、
68……凸の稜線(底刃すくい面6aと刃溝底面8bとの間の境界線)、
66……凸の稜線64と凸の稜線68との交点、
7……ギャッシュ、7a……ギャッシュ面、7b……ギャッシュの底面、
78……ギャッシュ面と刃溝面との境界線、
8……刃溝、8a……刃溝面、81a……内側面、82a……外側面、8b……刃溝の底面、
88……内側面と外側面との境界線、
10a……境界線、10b……境界線
O……回転軸、
R……回転方向、
a……底刃の逃げ面の幅の角度、
b……ギャッシュの開き角度、
L1……外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径、
L2……外周刃とコーナR刃との繋ぎ部における多刃エンドミルの刃径、
L3……刃長、
P1……外周刃の形成開始点、
P2……外周刃とコーナR刃との繋ぎ部、
α……外周刃の傾斜角度、
β……ギャッシュの角度、
θ……ねじれ角。

Claims (4)

  1. シャンク部の先端部に形成され、回転軸O側から前記シャンク部の半径方向外周側へかけて底刃と、底刃に連続するコーナR刃と、コーナR刃に連続する外周刃とから構成される複数枚の切れ刃を備えた切れ刃部と、前記回転軸O回りの回転方向Rに隣接する前記切れ刃間の、前記半径方向の中心側と外周側にそれぞれ形成されたギャッシュと刃溝とを有する多刃エンドミルであって、
    前記切れ刃のすくい面は前記半径方向中心側から外周側へかけて前記底刃のすくい面と、この底刃のすくい面に隣接し、前記底刃のすくい面と異なる面を形成し、前記コーナR刃のすくい面を兼ねる前記外周刃のすくい面とから構成され、
    前記切れ刃の逃げ面は前記半径方向中心側から外周側へかけて前記底刃の逃げ面と、この底刃の逃げ面に隣接する前記コーナR刃の逃げ面と、このコーナR刃の逃げ面に隣接する前記外周刃の逃げ面とから構成され、
    前記刃溝は前記外周刃のすくい面と、これに回転方向R前方側に対向する刃溝面と、前記外周刃のすくい面と前記刃溝面との境界に形成された底面から構成され、
    前記底刃のすくい面と前記外周刃のすくい面との境界に位置する凸の稜線と、前記底刃のすくい面と前記刃溝の底面との境界に位置する凸の稜線との交点が、前記コーナR刃の逃げ面と前記底刃の逃げ面との境界より前記半径方向中心側へ入り込んでいることを特徴とする多刃エンドミル。
  2. 前記刃溝の底面の幅は、前記ギャッシュを構成する前記底刃のすくい面とこれに回転方向R前方側に対向するギャッシュ面との間の境界に形成された底面の幅より大きいことを特徴とする請求項1に記載の多刃エンドミル。
  3. 前記刃溝の底面の前記外周刃側の、凹の稜線をなす境界線は、前記底刃のすくい面と前記外周刃のすくい面との境界に位置する凸の稜線と、前記底刃のすくい面と前記刃溝の底面との境界に位置する凸の稜線との交点を通っていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の多刃エンドミル。
  4. 前記刃溝面は前記ギャッシュの底面と回転方向R後方側で接する内側面と、この内側面と異なる面を形成し、前記ギャッシュを構成する前記底刃のすくい面と回転方向R前方側で対向するギャッシュ面に前記半径方向に接する外側面との少なくとも2面を持ち、前記外側面は前記内側面に対し、前記シャンク部側から前記先端部側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜しているか、または前記半径方向中心側から外周側へかけて回転方向R後方側から前方側へ傾斜していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の多刃エンドミル。
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