本発明は、内燃機関の燃焼生成物生成量推定装置、デポジット剥離量推定装置、デポジット堆積量推定装置、および、燃料噴射制御装置に関する。
燃料が燃焼室内に直接噴射されるように燃料噴射弁が配置された内燃機関が知られている。また、このような内燃機関では、燃焼生成物(すなわち、燃料の燃焼に関連して生成される物質)が生成され、この燃焼生成物が噴孔領域(すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の入口近傍の領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の出口近傍の領域とからなる領域)の燃料噴射弁壁面(以下この壁面を「噴孔壁面」という)に堆積することも知られている。そして、このように噴孔壁面に燃焼生成物が堆積すると、所期の量の燃料を燃料噴射弁に噴射させるための指令が燃料噴射弁に送られたとしても、燃料噴射弁から所期の量の燃料が噴射されないことがある。そして、燃料噴射弁から所期の量の燃料が噴射されない場合、内燃機関の出力特性や排気特性が低下することがある。そこで、特許文献1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置では、噴孔壁面に堆積している燃焼生成物の量(以下、噴孔壁面に堆積している燃焼生成物を「デポジット」といい、このデポジットの量を「デポジット堆積量」という)が基準量以上であるときには、デポジットを噴孔壁面から剥離させるように燃料噴射弁からの燃料噴射を制御するようにしている。
ところで、特許文献1に記載の燃料噴射装置では、デポジットを噴孔壁面から剥離させるべきか否かを判断するためにデポジット堆積量が用いられる。したがって、特許文献では、デポジット堆積量を推定する必要がある。ここで、燃料噴射弁から実際に噴射される燃料の量を実燃料噴射量と称し、燃料噴射弁から噴射させる燃料として要求される量を要求燃料噴射量と称し、デポジット堆積量が零であるときに要求燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁から噴射させるために燃料噴射弁に与えられる指令値を燃料噴射指令値と称したとき、特許文献1では、デポジットが噴孔壁面に堆積していると実燃料噴射量が要求燃料噴射量よりも少なくなり、しかも、デポジット堆積量が多いほど実燃料噴射量が要求燃料噴射量よりも少なくなるとの認識から、実燃料噴射量が要求燃料噴射量よりも少ないときに実燃料噴射量と要求燃料噴射量との間の差に基づいてデポジット堆積量が推定される。なお、この場合、実燃料噴射量と要求燃料噴射量との間の差が大きいほどデポジット堆積量が多いと推定される。
特開2009−275100号公報
特開2010−65537号公報
ところで、本願の発明者の研究により、燃料中の金属成分(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなど)が燃焼ガスと反応することによって金属成分由来の燃焼生成物が生成され、しかも、噴孔入口領域(すなわち、燃料噴射孔の入口近傍の噴孔領域)では、例えば、炭酸塩やシュウ酸塩などの燃焼生成物が生成され、一方、噴孔出口領域(すなわち、燃料噴射孔の出口近傍の噴孔領域)では、例えば、低級カルボン酸塩などの燃焼生成物が生成されることが明らかとなった。
そして、本願の発明者の研究により、噴孔入口領域に堆積しているデポジット(以下このデポジットを「入口デポジット」という)が燃料噴射(すなわち、燃料噴射弁からの燃料の噴射)に与える影響と噴孔出口領域に堆積しているデポジット(以下このデポジットを「出口デポジット」という)が燃料噴射に与える影響とが互いに異なることが判明した。したがって、燃料噴射に関する特性を所望の特性に維持するためには、こうした影響を噴孔入口領域と噴孔出口領域とに分けて把握する必要がある。つまり、こうした影響をデポジットが堆積するであろう領域毎に把握する必要がある。そして、こうした影響を領域毎に把握するためには、デポジット堆積量を領域毎に把握する必要がある。つまり、入口デポジットの堆積量と出口デポジットの堆積量とをそれぞれ別個に把握する必要がある。
そして、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、燃焼生成物は次々に生成されることから、入口デポジット堆積量と出口デポジット堆積量とを把握するためには、噴孔入口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(以下この量を「入口燃焼生成物生成量」という)と噴孔出口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(以下この量を「出口燃焼生成物生成量」という)とを推定する必要がある。
また、機関運転中に次々に生成される燃焼生成物が全て噴孔壁面に堆積し且つ噴孔壁面にいったん堆積した燃焼生成物(すなわち、デポジット)が噴孔入口壁面や噴孔出口壁面から剥離しないのであれば、入口燃焼生成物生成量および出口燃焼生成物生成量から入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を求めることもできる。しかしながら、実際には、燃焼生成物が次々に生成される間にも、デポジットが噴孔入口壁面や噴孔出口壁面から剥離することもある。したがって、入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を把握するためには、噴孔入口領域におけるデポジットの剥離量と噴孔出口領域におけるデポジットの剥離量とを推定する必要がある。
そこで、本発明の目的は、燃焼生成物生成量を領域毎に推定し、デポジット剥離量を領域毎に推定し、デポジット堆積量を領域毎に推定することにある。
本願の発明は、燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の入口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の入口近傍の領域とから構成される噴孔入口領域において燃料の燃焼に起因して生成される燃焼生成物の量である入口燃焼生成物生成量と、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の出口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の出口近傍の領域とから構成される噴孔出口領域において燃料の燃焼に起因して生成される燃焼生成物の量である出口燃焼生成物生成量と、を算出することによって、入口燃焼生成物生成量と出口燃焼生成物生成量とを推定する燃焼生成物生成量推定装置に関する。そして、本発明では、噴孔入口領域の温度と噴孔出口領域の温度とが個別に求められる。そして、噴孔入口領域の温度に基づいて入口燃焼生成物生成量が算出されると共に、噴孔出口領域の温度に基づいて出口燃焼生成物生成量が算出される。
本発明によれば、燃料噴射孔の入口周辺の領域(すなわち、噴孔入口領域)と燃料噴射孔の出口周辺の領域(すなわち、噴孔出口領域)とに分けて燃焼生成物生成量を推定することができる。つまり、本発明によれば、領域毎に燃焼生成物生成量を推定することができる。
また、本願の別の発明は、燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の入口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の入口近傍の領域とから構成される噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物のうち剥離する燃焼生成物の量である入口デポジット剥離量と、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の出口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の出口近傍の領域とから構成される噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物のうち剥離する燃焼生成物の量である出口デポジット剥離量と、を算出することによって、入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とを推定するデポジット剥離量推定装置に関する。そして、本発明では、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の量である入口デポジット堆積量に基づいて入口デポジット剥離量が算出されると共に、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の量である出口デポジット堆積量に基づいて出口デポジット剥離量が算出される。
本発明によれば、噴孔入口領域と噴孔出口領域とに分けてデポジット剥離量を推定することができる。つまり、本発明によれば、領域毎にデポジット剥離量を推定することができる。
また、本願の別の発明は、前記噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の量である入口デポジット堆積量と前記噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の量である出口デポジット堆積量とを算出することによって入口デポジット堆積量と出口デポジット堆積量とを推定するデポジット堆積量推定装置に関する。そして、本発明では、前記燃焼生成物生成量推定装置によって算出される入口燃焼生成物生成量から前記デポジット剥離量推定装置によって算出される入口デポジット剥離量を差し引くことによって入口デポジット堆積量が算出されると共に、前記燃焼生成物生成量推定装置によって算出される出口燃焼生成物生成量から前記デポジット剥離量推定装置によって算出される出口デポジット剥離量を差し引くことによって出口デポジット堆積量が算出される。
本発明によれば、噴孔入口領域と噴孔出口領域とに分けてデポジット堆積量を推定することができる。つまり、本発明によれば、領域毎にデポジット堆積量を推定することができる。
なお、噴孔入口領域の温度が或る温度以上になると噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物が分解する場合には、前記噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物が分解する温度が入口デポジット分解温度として求められ、前記噴孔入口領域の温度が該入口デポジット分解温度以上であるときには入口デポジット堆積量が零として算出されると好ましい。
これによれば、噴孔入口領域の温度が入口デポジット分解温度以上となり、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物が分解してしまう状況が生じたとしても、入口デポジット堆積量を正確に算出することができる。
また、噴孔出口領域の温度が或る温度以上になると噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物が分解する場合には、前記噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物が分解する温度が出口デポジット分解温度として求められ、前記噴孔出口領域の温度が該出口デポジット分解温度以上であるときには出口デポジット堆積量が零として算出されると好ましい。
これによれば、噴孔出口領域の温度が出口デポジット分解温度以上となり、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物が分解してしまう状況が生じたとしても、出口デポジット堆積量を正確に算出することができる。
また、燃料噴射弁から燃料を噴射させるために燃料噴射弁に与えられる指令値である燃料噴射指令値が要求燃料噴射量に対応して基本燃料噴射指令値として設定され、要求燃料噴射量に対応した基本燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えることによって燃料噴射弁から燃料を噴射させる場合において、入口デポジット堆積量に応じて前記基本燃料噴射指令値が補正されると好ましい。
これによれば、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、要求燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができる。すなわち、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積しているときに要求燃料噴射量に対応した基本燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の影響で要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない。つまり、燃料噴射弁から実際に噴射される燃料の量が要求燃料噴射量からずれてしまう。そして、このずれの程度は、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の量(すなわち、入口デポジット堆積量)に応じて変化する。したがって、入口デポジット堆積量に応じて基本燃料噴射指令値を補正すれば、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、要求燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができるのである。
また、燃料噴射弁から噴射される燃料の圧力である燃料噴射圧として目標とすべき燃料噴射圧が基本燃料噴射圧として設定され、該基本燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される場合において、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多いときに前記基本燃料噴射圧が増大され、該増大された基本燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御されると好ましい。
これによれば、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積しているときに燃料噴射弁から噴射される燃料の微粒化を効率良く促進することができる。すなわち、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積していると燃料噴射弁から噴射される燃料(以下この燃料を「噴射燃料」という)の微粒化度合が低下してしまう。一方、燃料噴射圧を上昇させると噴射燃料の微粒化が促進される。したがって、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積している場合、燃料噴射圧を上昇させれば噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物による噴射燃料の微粒化度合の低下が補償される。ところが、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量以下である場合、燃料噴射圧の上昇による噴射燃料の微粒化度合の低下の補償効果が比較的低い。したがって、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多く、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の低下の補償効果が比較的高い状況下において、基本燃料噴射圧を増大させることによって燃料噴射圧を上昇させることから、噴射燃料の微粒化を効率良く促進することができるのである。
また、入口デポジット堆積量が予め定められた入口デポジット堆積量以下であって且つ出口デポジット堆積量が予め定められた出口デポジット堆積量以上であるときに燃料噴射弁から噴射される燃料の圧力である燃料噴射圧が前記噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を該噴孔出口領域から剥離させる圧力まで上昇させると好ましい。
これによれば、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から効率良く剥離させることができる。すなわち、燃料噴射圧を比較的高い圧力にまで上昇させると噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から剥離させることができる。ところが、入口デポジット堆積量が比較的多い場合、燃料噴射圧の上昇による噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の剥離効果が比較的低い。したがって、入口デポジット堆積量が予め定められた入口デポジット堆積量以下であり、燃料噴射圧の上昇による噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の剥離効果が比較的高い状況下において、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から剥離させる圧力まで燃料噴射圧を上昇させることから、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から効率良く剥離させることができるのである。
本発明が適用される内燃機関を示した図である。
図1に示された内燃機関の燃料噴射弁の先端部分を示した図である。
本発明のデポジット堆積量推定を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の燃料噴射量制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第1燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第2燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第3燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第4燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第5燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の噴孔温度の算出を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の噴孔温度の算出を実行するルーチンの一例を示した図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。まず、本発明が適用される内燃機関の構成について説明する。この内燃機関が図1に示されている。図1において、10は内燃機関の本体、11はシリンダブロック、12はシリンダヘッドをそれぞれ示している。シリンダブロック11内には、シリンダボア13が形成されている。シリンダボア13内には、ピストン14が配置されている。ピストン14は、コンロッド15を介してクランクシャフト16に接続されている。一方、シリンダヘッド12には、吸気ポート17と排気ポート18とが形成されている。また、シリンダヘッド12には、吸気ポート17を開いたり閉じたりするための吸気弁19と、排気ポート18を開いたり閉じたりするための排気弁20とが配置されている。また、ピストン14の上壁面とシリンダボア13の内周壁面とシリンダヘッド12の下壁面とによって燃焼室21が画成されている。
なお、吸気ポート17は、吸気マニホルド(図示せず)を介して吸気管(図示せず)に接続され、吸気通路の一部を構成する。一方、排気ポート18は、排気マニホルド(図示せず)を介して排気管(図示せず)に接続され、排気通路の一部を構成する。
また、シリンダヘッド12には、燃料噴射弁22が配置されている。燃料噴射弁22は、図2に示されているように、ノズル30とニードル31とを有する。ノズル30の内部には、空洞(以下「内部空洞」という)が形成されている。そして、この内部空洞内にニードル31がノズル30の中心軸線(すなわち、燃料噴射弁22の中心軸線)CAに沿って移動可能に収容されている。また、ニードル31の先端部は、テーパ形状にされている。そして、ニードル31がノズル30の内部空洞内に収容されたとき、ノズル30の内周壁面(すなわち、ノズル30の内部空洞を画成する壁面)とニードル31の外周壁面との間に燃料を通すための燃料通路32が形成される。また、ノズル30の先端部における燃料通路32は、いわゆるサック33を形成している(以下、燃料通路32とは、このサック33を除いた燃料通路のことを意味することとする)。さらに、ノズル30の先端部には、複数の燃料噴射孔34が形成されている。これら燃料噴射孔34は、ノズル30内(すなわち、燃料噴射弁22内)のサック33とノズル30の外部(すなわち、燃料噴射弁22の外部)とを連通している。
そして、ニードル31のテーパ形状の先端部の外周壁面がノズル30の先端部の内周壁面に当接するようにニードル31がノズル30内に位置決めされたとき、サック33と燃料通路32との間の連通が遮断される。このときには燃料噴射弁22の燃料噴射孔34から燃料は噴射されない。一方、ニードル31のテーパ形状の先端部の外周壁面がノズル30の先端部の内周壁面から離れるようにニードル31がノズル30内において移動せしめられると、サック33と燃料通路32とが互いに連通し、燃料通路32かサック33に燃料が流入する。そして、サック33に流入した燃料は、燃料噴射孔34の入口を介して同燃料噴射孔34に流入し、同燃料噴射孔34を介してその出口から噴射される。
また、燃料噴射弁22は、燃焼室21内に燃料を直接噴射するようにシリンダヘッド12に配置されている。云い方を換えれば、燃料噴射弁22は、その燃料噴射孔が燃焼室21内に露出するようにシリンダヘッド12に配置されている。
また、燃料噴射弁22は、燃料供給通路23を介して蓄圧室(すなわち、いわゆるコモンレール)24に接続されている。蓄圧室24は、燃料供給通路25を介して燃料タンク(図示せず)に接続されている。蓄圧室24には、燃料タンクから燃料供給通路25を介して燃料が供給される。そして、蓄圧室24には、高圧の燃料が貯留されている。また、燃料噴射弁22には、蓄圧室24から燃料供給通路23を介して高圧の燃料が供給される。また、蓄圧室24には、その内部の燃料の圧力を検出するための圧力センサ26が配置されている。
また、シリンダブロック11内には、冷却水を流すための冷却水通路27が形成されている。冷却水通路27は、シリンダボア13を包囲するように形成されている。したがって、少なくとも、冷却水通路27内を流れる冷却水によって燃焼室21内部が冷却される。また、シリンダブロック11には、冷却水通路27内を流れる冷却水の温度を検出するための温度センサ28が配置されている。
また、内燃機関は、電子制御装置40を有する。電子制御装置40は、マイクロコンピュータからなり、双方向バス41によって互いに接続されたCPU(マイクロプロセッサ)42、ROM(リードオンリメモリ)43、RAM(ランダムアクセスメモリ)44、バックアップRAM45、および、インターフェース46を有する。インターフェース46は、燃料噴射弁22、圧力センサ26、および、温度センサ28に接続されている。電子制御装置40は、燃料噴射弁22の動作を制御すると共に、圧力センサ26から燃料の圧力に対応する出力値を受け取り、温度センサ28から冷却水の温度に対応する出力値を受け取る。
次に、本発明の燃焼生成物生成量推定の実施形態について説明する。なお、以下の説明において「噴孔壁面」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する燃料噴射弁壁面」であり、「入口側噴孔壁面」は「噴孔壁面のうち燃料噴射孔の入口寄りの噴孔壁面」であり、「出口側噴孔壁面」は「噴孔壁面のうち燃料噴射孔の出口寄りの噴孔壁面」であり、「噴孔入口隣接壁面」は「燃料噴射孔の外部の燃料噴射弁壁面であって、入口側噴孔壁面に隣接する燃料噴射弁壁面」であり、「噴孔出口隣接壁面」は「燃料噴射孔の外部の燃料噴射弁壁面であって、出口側噴孔壁面に隣接する燃料噴射弁壁面」であり、「噴孔入口壁面」は「入口側噴孔壁面と噴孔入口隣接壁面とから構成される壁面」であり、「噴孔出口壁面」は「出口側噴孔壁面と噴孔出口隣接壁面とから構成される壁面」である。また「噴孔入口領域」は「噴孔入口壁面周辺の領域」であり、「噴孔出口領域」は「噴孔出口壁面周辺の領域」である。また「燃焼生成物」は「燃料の燃焼に関連して生成される物質」であり、「入口デポジット」は「噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物」であり、「出口デポジット」は「噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物」である。また「燃焼ガス」は「燃焼室内で燃料が燃焼することによって発生するガス」であり、「燃料噴射」とは「燃料噴射弁の燃料噴射孔からの燃料の噴射」であり、「燃料噴射圧」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の圧力」である。また「噴孔温度」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の温度」であり、「噴孔入口温度」は「噴孔入口領域の温度」であり、「噴孔出口温度」は「噴孔出口領域の温度」である。
本発明の燃焼生成物生成量推定の実施形態の1つでは、次式1に従って所定期間(すなわち、予め定められた期間)中に噴孔入口領域にて生成される燃焼生成物の生成量(以下この生成量を「入口燃焼生成物新規生成量」という)XPinが算出されると共に、次式2に従って上記所定期間中に噴孔出口領域にて生成される燃焼生成物の生成量(以下この生成量を「出口燃焼生成物新規生成量」という)XPoutが算出される。なお、所定期間は、特に制限されるものではなく、任意に設定されればよく、例えば、特定の燃料噴射弁において連続する2回の燃料噴射の間の期間である。
XPin=Cm×Ain×Tin …(1)
XPout=Cm×Aout×Tout …(2)
式1および式2において「Cm」は「燃料中の金属成分の濃度(以下単に「金属成分濃度」という)である。この金属成分濃度は、例えば、予め測定された濃度でもよいし、機関運転中に適宜測定される濃度でもよい。式1において「Tin」は「上記所定期間中の特定の時点における噴孔入口温度」である。式2において「Tout」は「上記所定期間中の特定の時点における噴孔出口温度」である。式1において「Ain」は、金属成分濃度Cmおよび噴孔入口温度Tinに関連する入口燃焼生成物新規生成量が正確に算出されるように適合された係数である。式2において「Aout」は、金属成分濃度Cmおよび噴孔出口温度Toutに関連する出口燃焼生成物新規生成量が正確に算出されるように適合された係数である。
次に、本実施形態の燃焼生成物生成量推定の利点について説明する。燃料が燃焼室内に直接噴射されるように燃料噴射弁が配置されている内燃機関では、噴孔出口隣接壁面に燃焼生成物が堆積することが知られている。また、燃料中の金属成分(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなど)が燃焼ガスと反応することによって金属成分由来の燃焼生成物(例えば、低級カルボン酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩などであり、以下この燃焼生成物を「金属由来生成物」という)が生成され、この金属由来生成物も噴孔出口隣接壁面に堆積することが本願の発明者の研究により明らかとなった。また、この金属由来生成物は噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも堆積することが本願の発明者の研究により明らかとなった。
次に、金属由来生成物について簡単に説明する。従来、噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面には燃焼生成物が堆積することはないものと認識されていた。しかしながら、本願の発明者の研究によれば、上述したように、噴孔出口隣接壁面だけでなく噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも金属由来生成物の形態の燃焼生成物が堆積することが明らかとなった。このように噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも金属由来生成物が堆積する理由は以下のように推察される。すなわち、燃料噴射弁が燃料を燃焼室内に直接噴射するように、すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔が燃焼室内部に露出するように燃料噴射弁が内燃機関に配置されている場合、燃焼ガスが燃料噴射孔に入り込み、この燃焼ガスが燃料噴射孔内およびその入口近傍において燃料と反応し、金属由来生成物が生成される。そして、この金属由来生成物の壁面への付着力が比較的強いことから、燃料噴射孔内およびその入口において強い燃料の流れがあるにも係わらず、噴孔壁面および噴孔入口隣接壁面に付着し堆積する。これが金属由来生成物が噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも堆積する理由であると推察されるのである。
ところで、このように噴孔出口隣接壁面、噴孔壁面、および、噴孔入口隣接壁面(以下これら壁面をまとめて単に「壁面」という)に金属由来生成物を含む燃焼生成物(以下、この燃焼生成物には金属由来生成物が含まれるものとする)が堆積していると、壁面に堆積している燃焼生成物(以下、壁面に堆積している燃焼生成物を「デポジット」という)が燃料の流れを阻害してしまう。したがって、本来であれば要求されている量(以下この量を「要求燃料噴射量」という)の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができる指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない可能性がある。
そして、要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない場合、内燃機関の出力特性や排気特性が低下してしまう可能性がある。したがって、こうした内燃機関の出力特性や排気特性の低下を抑制し或いは改善しようとする場合にはこうした特性の低下が生じる可能性の有無を知ることは不可欠であるし、こうした特性の低下が生じる可能性の有無を知ることは少なからず有用である。そして、こうした特性の低下が生じる可能性の有無を知るためには、壁面に堆積しているデポジットの量(以下この量を「デポジット堆積量」という)を正確に知ることが必要である。
一方、デポジット堆積量は、壁面の形状や壁面を取り巻く雰囲気の温度によって異なる。そして、噴孔入口壁面の形状と噴孔出口壁面の形状とは互いに異なっていることが多く、また、噴孔入口温度と噴孔出口温度とは互いに異なっていることも多い。また、入口デポジットが燃料噴射に関する特性に与える影響と出口デポジットが燃料噴射に関する特性に与える影響とも互いに異なる。例えば、入口デポジットが燃料噴射量に与える影響は、出口デポジットのそれよりも大きい。一方、出口デポジットが噴射燃料の微粒化に与える影響は、入口デポジットのそれよりも大きい。また、噴孔出口領域からの出口デポジットの剥離の容易さは、噴孔入口領域からの入口デポジットの剥離の容易さよりも高い。以上のことに鑑みたとき、より適切に、内燃機関の出力特性や排気特性の低下を抑制し或いは改善しようとする場合、デポジット堆積量を噴孔入口領域に堆積しているデポジットの量(以下この量を「入口デポジット堆積量」という)と噴孔出口領域に堆積しているデポジットの量(以下この量を「出口デポジット堆積量」という)とに分けて知ることが必要である。
ところで、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、燃料噴射弁から次々に燃料が噴射されるのであるから、燃焼生成物は次々に生成される。そして、斯くして生成される燃焼生成物が壁面に堆積することによってデポジットが形成される。したがって、入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を知るためには、噴孔入口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(すなわち、入口燃焼生成物新規生成量)および噴孔出口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(すなわち、出口燃焼生成物新規生成量)を知る必要がある。
そして、入口燃焼生成物新規生成量は、金属成分濃度および噴孔入口温度に応じて変わる。より具体的に言えば、噴孔入口温度が同じ場合、入口燃焼生成物新規生成量は、金属成分濃度が高いほど多い。また、金属成分濃度が同じ場合、入口燃焼生成物新規生成量は、噴孔入口温度が高いほど多い。したがって、入口燃焼生成物新規生成量を正確に算出するためには、その算出に金属成分濃度と噴孔入口温度とが考慮されるべきである。同様の理由から、出口燃焼生成物新規生成量を正確に算出するためには、その算出に金属成分濃度と噴孔出口温度とが考慮されるべきである。
ここで、本実施形態の燃焼生成物生成量推定では、式1に示されているように、入口燃焼生成物新規生成量XPinは、金属成分濃度Cmと噴孔入口温度Tinとの積に基づいて算出される。つまり、入口燃焼生成物新規生成量XPinは、金属成分濃度Cmと噴孔入口温度Tinとを変数として算出される。そして、式1によって算出される入口燃焼生成物新規生成量XPinは、金属成分濃度Cmが高いほど多く、噴孔入口温度Tinが高いほど多い。つまり、式1による入口燃焼生成物新規生成量の算出には、金属成分濃度が高いほど或いは噴孔入口温度が高いほど入口燃焼生成物新規生成量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態の燃焼生成物生成量推定には、入口燃焼生成物新規生成量を正確に算出することができるという利点がある。
また、本実施形態の燃焼生成物生成量推定では、式2に示されているように、出口燃焼生成物新規生成量XPoutは、金属成分濃度Cmと噴孔出口温度Toutとの積に基づいて算出される。つまり、出口燃焼生成物新規生成量XPoutは、金属成分濃度Cmと噴孔出口温度Toutとを変数として算出される。そして、式2によって算出される出口燃焼生成物新規生成量XPoutは、金属成分濃度が高いほど或いは噴孔出口温度が高いほど多い。つまり、式2による出口燃焼生成物新規生成量の算出には、金属成分濃度が高いほど或いは噴孔出口温度が高いほど出口燃焼生成物新規生成量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態の燃焼生成物生成量推定には、出口燃焼生成物新規生成量を正確に算出することができるという利点がある。
次に、本発明のデポジット剥離量推定の実施形態について説明する。本発明のデポジット剥離量生成量推定の実施形態の1つでは、次式3に従って所定期間(すなわち、予め定められた期間)中に入口デポジットが噴孔入口領域から剥離する容易さを表す係数(以下この係数を「入口デポジット剥離容易性係数」という)KRinが算出されると共に、次式4に従って上記所定期間中に出口デポジットが噴孔出口領域から剥離する容易さを表す係数(以下この係数を「出口デポジット剥離容易性係数」という)KRoutが算出される。なお、所定期間は、特に制限されるものではなく、任意に設定されればよく、例えば、特定の燃料噴射弁において連続する2回の燃料噴射の間の期間である。
KRin=FKRin(TXDin) …(3)
KRout=FKRout(TXDout) …(4)
式3において「TXDin」は「前回のデポジット堆積量推定において算出された入口デポジット堆積量」である。式3において「FKRin」は「入口デポジット堆積量を適用することによって適切な入口デポジット剥離容易性係数を算出することができるように適合された関数」である。式4において「TXDout」は「前回のデポジット堆積量推定において算出された出口デポジット堆積量」である。式4において「FKRout」は「出口デポジット堆積量を適用することによって適切な出口デポジット剥離容易性係数を算出することができるように適合された関数」である。
そして、本実施形態のデポジット剥離量推定では、次式5に従って上記所定期間中に噴孔入口領域から剥離したデポジットの量(以下この量を「入口デポジット新規剥離量」という)XRinが算出されると共に、次式6に従って上記所定期間中に噴孔出口領域から剥離したデポジットの量(以下この量を「出口デポジット新規剥離量」という)XRoutが算出される。
XRin=P×KRin …(5)
XRout=P×KRout …(6)
式5および式6において「P」は「上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧(以下単に「燃料噴射圧」という)」である。この燃料噴射圧は、例えば、上記所定期間中の特定の時点における圧力センサ26の出力値から求められる。もちろん、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧に代えて、上記所定期間中の平均の燃料噴射圧が用いられてもよい。また、式5において「KRin」は式3に従って算出される入口デポジット剥離容易性係数であり、式6において「KRout」は式4に従って算出される出口デポジット剥離容易性係数である。
次に、本実施形態のデポジット剥離量推定の利点について説明する。上述したように次々に生成される燃焼生成物が全て壁面に堆積し且つ壁面にいったん堆積した燃焼生成物(すなわち、デポジット)が壁面から剥離されないのであれば、次々に生成される燃料生成物の量を積算すれば、デポジット堆積量を正確に求めることができる。しかしながら、実際には、燃焼生成物が次々に生成され、これら燃焼生成物が壁面に堆積する間にも、デポジットが壁面から剥離することがある。したがって、入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を正確に求めるためには、その算出に、噴孔入口領域および噴孔出口領域において次々に生成される燃焼生成物の量を考慮するだけでなく、噴孔入口領域から剥離するデポジットの量(すなわち、入口デポジット新規剥離量)および噴孔出口領域から剥離するデポジットの量(すなわち、出口デポジット新規剥離量)も考慮する必要がある。
ところで、入口デポジット新規剥離量は、燃料噴射圧および入口デポジット剥離容易性(すなわち、噴孔入口領域からの入口デポジットの剥離のし易さ)に応じて変わる。より具体的に言えば、入口デポジット剥離容易性が同じ場合、入口デポジット新規剥離量は、燃料噴射圧が高いほど多い。また、燃料噴射圧が同じ場合、入口デポジット新規剥離量は、入口デポジット剥離容易性が高いほど多い。したがって、入口デポジッ新規ト剥離量を正確に算出するためには、その算出に燃料噴射圧と入口デポジット剥離容易性とが考慮されるべきである。同様の理由から、出口デポジット新規剥離量を正確に算出するためには、その算出に燃料噴射圧と出口デポジット剥離容易性とが考慮されるべきである。
ここで、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式5に示されているように、入口デポジット新規剥離量XRinは、燃料噴射圧Pに入口デポジット剥離容易性係数KRinを乗算することによって算出される。つまり、入口デポジット新規剥離量XRinは、燃料噴射圧Pと入口デポジット剥離容易性係数KRinとを変数として算出される。そして、式5によって算出される入口デポジット新規剥離量XRinは、燃料噴射圧Pが高いほど多く、入口デポジット剥離容易性係数KRinが大きいほど多い。つまり、式5による入口デポジット剥離量の算出には、燃料噴射圧が高いほど或いは入口デポジット剥離容易性が高いほど入口デポジット剥離量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、入口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
また、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式6に示されているように、出口デポジット新規剥離量XRoutは、燃料噴射圧Pに出口デポジット剥離容易性係数KRoutを乗算することによって算出される。つまり、出口デポジット新規剥離量XRoutは、燃料噴射圧Pと出口デポジット剥離容易性係数KRoutとを変数として算出される。そして、式6によって算出される出口デポジット新規剥離量XRoutは、燃料噴射圧Pが高いほど多く、出口デポジット剥離容易性係数KRoutが大きいほど多い。つまり、式6による出口デポジット剥離量の算出には、燃料噴射圧が高いほど或いは出口デポジット剥離容易性が高いほど出口デポジット剥離量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、出口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
ところで、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(以下この力を「剥離力」という)となる。ここで、噴孔入口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、入口デポジット堆積量(すなわち、噴孔入口領域に堆積しているデポジットの量)が多いほど、噴孔入口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、入口デポジット堆積量が多いほど、噴孔入口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、入口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、入口デポジット堆積量が多いほど、入口デポジット剥離量が多い。したがって、入口デポジット剥離量を正確に算出するためには、その算出に用いられる入口デポジット剥離性係数として、入口デポジット堆積量に無関係に一定の値の係数ではなく、入口デポジット堆積量に応じて変化する係数を採用すべきである。同様の理由から、出口デポジット剥離量を正確に算出するためには、その算出に用いられる出口デポジット剥離性係数として、出口デポジット堆積量に応じて変化する係数を採用すべきである。
ここで、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式3に示されているように、入口デポジット剥離容易性係数KRinは、入口デポジット堆積量TXDinを変数とする関数によって算出される。つまり、式3による入口デポジット剥離容易性係数の算出には、入口デポジット堆積量が考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、入口デポジット剥離容易性係数を正確に算出することができ、ひいては、入口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
なお、当然のことながら、入口デポジット剥離容易性係数を算出するための関数FKRinは、入口デポジット堆積量TXDinが多いほど大きい入口デポジット剥離容易性係数KRinが算出される関数である。
また、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式4に示されているように、出口デポジット剥離容易性係数KRoutは、出口デポジット堆積量TXDoutを変数とする関数によって算出される。つまり、式4による出口デポジット剥離容易性係数の算出には、出口デポジット堆積量が考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、出口デポジット剥離容易性係数を正確に算出することができ、ひいては、出口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
なお、当然のことながら、出口デポジット剥離容易性係数を算出するための関数FKRoutは、出口デポジット堆積量TXDoutが多いほど大きい出口デポジット剥離容易性係数KRoutが算出される関数である。
なお、上述した実施形態のデポジット剥離量推定では、噴孔入口壁面に一様にデポジットが堆積して入口デポジットの厚み(すなわち、噴孔入口壁面からのデポジットの厚み)が領域に係わらず一定であることを前提にしている。しかしながら、噴孔入口壁面に一様にデポジットが堆積しないのであれば、入口デポジット剥離容易性係数を算出するために用いられる関数として、噴孔入口壁面に一様にデポジットが堆積しないことを前提に入口デポジット堆積量と入口デポジット剥離量とのデータを解析して求められた関数を用いることによって、入口デポジット剥離量を正確に算出するための入口デポジット剥離容易性係数を算出することができる。
同様に、噴孔出口壁面に一様にデポジットが堆積しないのであれば、出口デポジット剥離容易性係数を算出するために用いられる関数として、噴孔出口壁面に一様にデポジットが堆積しないことを前提に出口デポジット堆積量と出口デポジット剥離量とのデータを解析して求められた関数を用いることによって、出口デポジット剥離量を正確に算出するための出口デポジット剥離容易性係数を算出することができる。
次に、壁面から剥離するデポジットの量を入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とに分けて算出するさらなる利点について説明する。噴孔入口領域には、炭酸塩やシュウ酸塩を成分とするデポジットが堆積しやすい。これら炭酸塩やシュウ酸塩は、燃料噴射孔に流入して同燃料噴射孔内を流れる燃料によって噴孔入口領域から剥離されやすい。一方、噴孔出口領域には、低級カルボン酸塩を成分とするデポジットが堆積しやすい。この低級カルボン酸塩は、燃料噴射孔内を流れて同燃料噴射孔から噴射される燃料によって噴孔出口領域から剥離されづらい。つまり、燃料噴射圧が同じであり且つデポジット厚さ(すなわち、壁面からのデポジットの厚み)が同じであっても、出口デポジットよりも入口デポジットのほうが剥離しやすいのである。したがって、デポジット剥離量をより正確に把握するという観点では、入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とを分けて把握することが好ましい。
本実施形態のデポジット剥離量推定では、入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とを分けて算出していることから、デポジット剥離量をより正確に算出することができるという利点がある。
次に、本発明のデポジット堆積量推定の実施形態について説明する。本発明のデポジット堆積量推定の実施形態の1つでは、次式7に従って上記所定期間中の入口デポジット新規堆積量(すなわち、上記所定期間に噴孔入口領域に新たに堆積する入口デポジットの量)XDinが算出されると共に、次式8に従って上記所定期間中の出口デポジット新規堆積量(すなわち、上記所定期間に噴孔出口領域に新たに堆積する出口デポジットの量)XDoutが算出される。
XDin=XPin−XRin …(7)
XDout=XPout−XRout …(8)
式7において「XPin」は「式1に従って算出される入口燃焼生成物新規生成量」であり、「XRin」は「式3に従って算出される入口デポジット新規剥離量」である。式8において「XPout」は「式2に従って算出される出口燃焼生成物新規生成量」であり、「XRout」は「式4に従って算出される出口デポジット新規剥離量」である。
そして、本実施形態のデポジット堆積量推定では、次式9に従って入口デポジット堆積量TXDinが算出されると共に、次式10に従って出口デポジット堆積量TXDoutが算出される。
TXDin=TXDin+XDin …(9)
TXDout=TXDout+XDout …(10)
式9の左辺の「TXDin」が「今回のデポジット堆積量推定によって算出される入口デポジット堆積量」であり、式9の右辺の「TXDin」は「前回のデポジット堆積量推定によって算出された入口デポジット堆積量」である。式10の左辺の「TXDout」が「今回のデポジット堆積量推定によって算出される出口デポジット堆積量」であり、式10の右辺の「TXDout」は「前回のデポジット堆積量推定によって算出された出口デポジット堆積量」である。
次に、本実施形態のデポジット堆積量推定の利点について説明する。上記所定期間中の入口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の入口デポジット新規剥離量を差し引けば、入口デポジット新規堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式7に示されているように、上記所定期間中の入口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の入口デポジット新規剥離量を差し引くことによって入口デポジット新規堆積量が算出され、入口燃焼生成物新規生成量および入口デポジット新規剥離量がそれぞれ正確な量として算出された値であることから、入口デポジット新規堆積量が正確に算出される。そして、この入口デポジット新規堆積量を積算すれば、入口デポジット堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式9に示されているように、式7に従って算出される入口デポジット新規堆積量XDinを既に算出されている入口デポジット堆積量TXDinに加算することによって最新の入口デポジット堆積量が算出される。したがって、本実施形態のデポジット堆積量推定には、入口デポジット堆積量を正確に算出することができるという利点がある。
同様に、上記所定期間中の出口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の出口デポジット新規剥離量を差し引けば、出口デポジット新規堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式10に示されているように、上記所定期間中の出口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の出口デポジット新規剥離量を差し引くことによって出口デポジット新規堆積量が算出され、出口燃焼生成物新規生成量および出口デポジット新規剥離量がそれぞれ正確な量として算出された値であることから、出口デポジット新規堆積量が正確に算出される。そして、この出口デポジット新規堆積量を積算すれば、出口デポジット堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式10に示されているように、式8に従って算出される出口デポジット新規堆積量XDoutを既に算出されている出口デポジット堆積量TXDoutに加算することによって最新の出口デポジット堆積量が算出される。したがって、本実施形態のデポジット堆積量推定には、出口デポジット堆積量を正確に算出することができるという利点がある。
次に、上述した実施形態のデポジット堆積量推定を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図3に示されている。図3のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図3のルーチンが開始されると、始めに、ステップ101において、噴孔入口温度Tin、噴孔出口温度Tout、燃料噴射圧P、前回の本ルーチンによって算出された入口デポジット堆積量TXDin、および、前回の本ルーチンによって算出された出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ102において、ステップ101で取得された噴孔入口温度Tinを上式1に適用することによって入口燃焼生成物新規生成量XPinが算出されると共に、ステップ101で取得された噴孔出口温度Toutを上式2に適用することによって出口燃焼生成物新規生成量XPoutが算出される。次いで、ステップ103において、ステップ101で取得された入口デポジット堆積量TXDinを上式3に適用することによって入口デポジット剥離容易性係数KRinが算出されると共に、ステップ101で取得された出口デポジット堆積量TXDoutを上式4に適用することによって出口デポジット剥離容易性係数KRoutが算出される。
次いで、ステップ104において、ステップ101で取得された燃料噴射圧Pとステップ103で算出された入口デポジット剥離容易性係数KRinとを上式5に適用することによって入口デポジット新規剥離量XRinが算出されると共に、ステップ101で取得された燃料噴射圧Pとステップ103で算出された出口デポジット剥離容易性係数KRoutとを上式6に適用することによって出口デポジット新規剥離量XRoutが算出される。次いで、ステップ105において、ステップ102で算出された入口燃焼生成物新規生成量XPinとステップ104で算出された入口デポジット新規剥離量XRinとを上式7に適用することによって入口デポジット新規堆積量XDinが算出されると共に、ステップ102で算出された出口燃焼生成物新規生成量XPoutとステップ104で算出された出口デポジット新規剥離量XRoutとを上式8に適用することによって出口デポジット新規堆積量XDoutが算出される。次いで、ステップ106において、ステップ105で算出された入口デポジット新規堆積量XDinを上式9に適用することによって入口デポジット堆積量TXDinが算出されると共に、ステップ105で算出された出口デポジット新規堆積量XDoutを上式10に適用することによって出口デポジット堆積量TXDoutが算出される。
次いで、ステップ107において、ステップ101で取得された噴孔出口温度Toutが所定噴孔出口温度Toutth以上である(Tout≧Toutth)か否かが判別される。ここで、Tout≧Toutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ108に進む。一方、Tout<Toutthであると判別されたときには、ルーチンはそのまま終了する。この場合、今回の本ルーチンによって算出された入口デポジット堆積量はステップ106で算出された量TXDinであり、今回の本ルーチンによって算出された出口デポジット堆積量はステップ106で算出された量TXDoutである。
ステップ107でTout≧Toutthであると判別され、ルーチンがステップ108に進むと、ステップ106で算出された出口デポジット堆積量TXDoutが零とされ、ルーチンが終了する。この場合、今回の本ルーチンによって算出された入口デポジット堆積量はステップ106で算出された量TXDinであり、今回の本ルーチンによって算出された出口デポジット堆積量は零である。
ところで、デポジットを構成する成分(すなわち、低級カルボン酸塩、炭酸塩、および、シュウ酸塩)のうち炭酸塩は、その周囲の温度が或る温度以上になると分解してしまう。また、上述した実施形態において、炭酸塩がデポジットとして堆積する部位は、噴孔入口領域である。そこで、上述した実施形態において、噴孔入口温度が所定の温度(すなわち、デポジットを構成する炭酸塩の分解温度)以上になったときに入口デポジット堆積量のうち炭酸塩を成分とするデポジット堆積量を零として入口デポジット堆積量を新たに算出するようにしてもよい。なお、上記所定の温度は、炭酸塩が分解する温度として実験等によって求められ、予め定められた温度であれば如何なる温度でもよいが、一例を挙げれば、概ね300℃である。
もちろん、このことを低級カルボン酸塩やシュウ酸塩に関して同様に適用してもよい。すなわち、デポジットを構成する低級カルボン酸塩が分解してしまう温度が予め判っているのであれば、上述した実施形態において、低級カルボン酸塩がデポジットとして堆積する部位は、噴孔出口領域であるので、噴孔出口温度が所定の温度(すなわち、デポジットを構成する低級カルボン酸塩の分解温度)以上になったときに出口デポジット堆積量のうち低級カルボン酸塩を成分とするデポジット堆積量を零として出口デポジット堆積量を新たに算出するようにしてもよい。また、デポジットを構成するシュウ酸塩が分解してしまう温度が予め判っているのであれば、上述した実施形態において、シュウ酸塩がデポジットとして堆積する部位は、噴孔入口領域であるので、噴孔入口温度が所定の温度(すなわち、デポジットを構成するシュウ酸塩の分解温度)以上になったときに入口デポジット堆積量のうちシュウ酸塩を成分とするデポジット堆積量を零として入口デポジット堆積量を新たに算出するようにしてもよい。
上述した実施形態は、噴孔入口領域には、炭酸塩やシュウ酸塩を成分とするデポジットが堆積し、噴孔出口領域には、低級カルボン酸塩を成分とするデポジットが堆積するとの認識を前提にした実施形態である。しかしながら、各領域に堆積するデポジットの成分は、上述の限りではなく、燃料の性状、燃料噴射孔の形状、燃料噴射孔の周辺環境の状態などによって異なる。したがって、各領域に堆積するデポジットの成分が上述した実施形態のものとは異なる場合であっても、燃料の性状、燃料噴射孔の形状、燃料噴射孔の周辺環境の状態などを考慮したうえで、上述した実施形態に関連して説明した本発明の技術思想を利用することによって、領域毎の燃焼生成物生成量、領域毎のデポジット剥離量、および、領域毎のデポジット堆積量を正確に推定することができる。
次に、本発明の燃料噴射制御の1つの実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射量を制御する制御であって、入口デポジットに起因する燃料噴射量誤差(すなわち、入口デポジットが零であるときの実際の燃料噴射量を「予定燃料噴射量」とした場合において、「予定燃料噴射量に対する実際の燃料噴射量のずれ」であり、以下、これを単に「燃料噴射量誤差」という)を補償する制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「燃料噴射量制御」と称する。この燃料噴射量制御では、入口デポジット堆積量が零であるときに内燃機関に要求トルクを出力させることができる燃料噴射量が要求トルクに応じた基本燃料噴射量として予め求められている。また、補償する必要がある燃料噴射量誤差を生じさせる入口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定入口デポジット堆積量として予め求められている。また、燃料噴射量誤差が正の値となる燃料噴射量(すなわち、実燃料噴射量が目標燃料噴射量よりも少なくなる燃料噴射量)のうち最も少ない量が所定燃料噴射量として予め求められている。
そして、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、要求トルクに応じた基本燃料噴射量が設定される。そして、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であるか否かに係わらず、基本燃料噴射量がそのまま目標燃料噴射量に設定され、この目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられる。一方、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であるか否かが判断される。ここで、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であると判断されたときには、基本燃料噴射量を予め定められた量だけ増量した燃料噴射量が目標燃料噴射量に設定され、この目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられる。一方、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量よりも少ないと判断されたときには、基本燃料噴射量を予め定められた量だけ減量した燃料噴射量が目標燃料噴射量に設定され、この目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられる。
次に、本実施形態の燃料噴射量制御の利点について説明する。噴孔入口領域に燃焼生成物が入口デポジットとして堆積しているときに基本燃料噴射量を目標燃料噴射量とし、この目標燃料噴射量に対応した燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、入口デポジットの影響で基本燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない。つまり、実燃料噴射量が基本燃料噴射量からずれてしまう。そして、このずれ量(すなわち、燃料噴射量誤差)は、入口デポジット堆積量に応じて変化する。したがって、入口デポジット堆積量に応じて燃料噴射量誤差が零となるように補正した基本燃料噴射量を目標燃料噴射量とし、この目標燃料噴射量に対応した燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられれば、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、基本燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射される。したがって、本実施形態の燃料噴射量制御には、基本燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができ、ひいては、要求トルクを内燃機関に出力させることができるという利点がある。また、内燃機関の特定の性能(例えば、排気エミッションに関する性能)を高く維持するために空燃比を特定の空燃比に制御するようにしている場合に本実施形態の燃料噴射量制御が適用されれば、基本燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができるのであるから、空燃比を特定の空燃比に制御することができ、ひいては、内燃機関の特定の性能を高く維持することができるという利点が得られる。
また、本実施形態の燃料噴射量制御では、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以上である場合において、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であるときには基本燃料噴射量を増量し、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量よりも少ないときには基本燃料噴射量を減量している。このように基本燃料噴射量に応じて基本燃料噴射量を増量する補正をするのか減量する補正をするのかを変えているのは、以下の理由による。
すなわち、基本燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値を燃料噴射弁に与えたときに、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると、一般的には、実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなり、しかも、入口デポジット堆積量が多いほど実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなるとの認識がある。確かに、燃料噴射量(すなわち、燃料噴射弁から噴射される燃料の量)が比較的多い場合には、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなる。しかしながら、燃料噴射量が比較的少ない(特に、燃料噴射量が微少な量である)場合には、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくならず、逆に多くなる。
すなわち、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると燃料噴射孔内を燃料が流れづらくなる。このため、燃料噴射量が多かろうが少なかろうが、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると燃料噴射孔を通過することができる燃料の量が少なくなる。ところが、燃料噴射孔を通過することができる燃料の量が少なくなる分だけ、燃料噴射弁のサック内の燃料の圧力が上昇する。そして、このサック内の燃料の圧力の上昇によって、燃料噴射弁のニードルの開弁速度(すなわち、ニードルのテーパ形状の先端部の外壁面がノズルの先端部の内周壁面から離れるようにニードルが移動する速度)が速くなる。このため、燃料噴射期間(すなわち、燃料噴射孔から燃料が噴射されている期間であり、ニードルのテーパ形状の先端部の外壁面がノズルの先端部の内周壁面から離れている期間に相当する)が少なからず長くなる。ところが、燃料噴射量が比較的多い場合、燃料噴射期間が比較的長いことから、サック内の燃料の圧力の上昇による燃料噴射期間の長期化よりも燃料噴射孔を通過する燃料の少量化のほうが燃料噴射量に対して支配的である。その結果、燃料噴射量が比較的多い場合に噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると、実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなるものと推察される。一方、燃料噴射量が比較的少ない場合、燃料噴射期間が比較的短いことから、燃料噴射量を通過する燃料の少量化よりもサック内の燃料の圧力の上昇による燃料噴射期間の長期化のほうが燃料噴射量に対して支配的である。その結果、燃料噴射量が比較的少ない場合に噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると、実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも多くなるものと推察される。
以上の理由から、本実施形態の燃料噴射量制御では、基本燃料噴射量に応じて基本燃料噴射量を増量する補正をするのか減量する補正をするのかを変えているのである。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射量を増量させるための上記予め定められた量(以下この量を「所定増量分」という)は、燃料噴射量誤差を補償することができる量まで燃料噴射量を増大させる値に設定されることになる。
また、所定増量分を用いる代わりに、基本燃料噴射量を所定の割合だけ増量させる所定増量割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増量分または所定増量割合は、入口デポジット堆積量や基本燃料噴射量に係わらず一定の量または割合であってもよいし、入口デポジット堆積量を考慮して設定される量または割合であってもよいし、基本燃料噴射量を考慮して設定される量または割合であってもよい。ここで、所定増量分または所定増量割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、所定増量分または所定増量割合は入口デポジット堆積量が多いほど大きい値に設定される。また、所定増量分または所定増量割合が基本燃料噴射量を考慮して設定される場合、所定増量分または所定増量割合は、例えば、基本燃料噴射量が多いほど大きい値に設定される。
また、基本燃料噴射量を減量させるための上記予め定められた量(以下この量を「所定減量分」という)は、燃料噴射量誤差を補償することができる量まで燃料噴射量を減少させる値に設定されることになる。
また、所定減量分を用いる代わりに、基本燃料噴射量を所定の割合だけ減量させる所定減量割合を用いるようにしてもよい。そして、所定減量分または所定減量割合は、入口デポジット堆積量や基本燃料噴射量に係わらず一定の量または割合であってもよいし、入口デポジット堆積量を考慮して設定される量または割合であってもよいし、基本燃料噴射量を考慮して設定される量または割合であってもよい。ここで、所定減量分または所定減量割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、所定減量分または所定減量割合は入口デポジット堆積量が多いほど大きい値に設定される。また、所定減量分または所定減量割合が基本燃料噴射量を考慮して設定される場合、所定減量分または所定減量割合は、例えば、基本燃料噴射量が多いほど大きい値に設定される。
なお、燃料噴射量誤差が零になるように燃料噴射量を増量または減量させなくても、燃料噴射量誤差が小さくなる程度に燃料噴射量を増量または減量させることによって、実燃料噴射量を基本燃料噴射量に近づけることができ、このことにも利点がある。したがって、本実施形態の燃料噴射量制御において所定増量分または所定増量割合あるいは所定減量分または所定減量割合が「燃料噴射量誤差が小さくなる程度に燃料噴射量を増量または減量する値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の燃料噴射量制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図4に示されている。図4のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図4のルーチンが開始されると、始めに、ステップ201において、基本燃料噴射量Qbが設定される。次いで、ステップ202において、入口デポジット堆積量TXDinが取得される。次いで、ステップ203において、ステップ202で取得された入口デポジット堆積量TXDinが所定入口デポジット堆積量TXDinth以上である(TXDin≧TXDinth)か否かが判別される。ここで、TXDin≧TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ204に進む。一方、TXDin<TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ207に直接進む。
ステップ203でTXDin≧TXDinthであると判別され、ルーチンがステップ204に進むと、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbが所定燃料噴射量Qbth以上である(Qb≧Qbth)か否かが判別される。ここで、Qb≧Qbthであると判別されたときには、ルーチンはステップ205に進む。一方、Qb<Qbthであると判別されたときには、ルーチンはステップ206に進む。
ステップ204でQb≧Qbthであると判別され、ルーチンがステップ205に進むと、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbが予め定められた量だけ増量される補正が行われ、ルーチンがステップ207に進む。一方、ステップ204でQb<Qbthであると判別され、ルーチンがステップ206に進むと、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbが予め定められた量だけ減量される補正が行われ、ルーチンがステップ207に進む。
ルーチンがステップ203からステップ207に直接進んだ場合、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbがそのまま目標燃料噴射量に設定されて該目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値Qvが設定される。一方、ルーチンがステップ205からステップ207に進んだ場合、ステップ205で増量された基本燃料噴射量Qbが目標燃料噴射量に設定されて該目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値Qvが設定される。一方、ルーチンがステップ206からステップ207に進んだ場合、ステップ206で減量された基本燃料噴射量Qbが目標燃料噴射量に設定されて該目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値Qvが設定される。次いで、ステップ208において、ステップ207で設定された燃料噴射指令値Qvが燃料噴射弁に与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御の別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下を補償する制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第1燃料噴射圧制御」と称する。この第1燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、補償する必要がある出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下(以下この低下を単に「噴射燃料の微粒化度合の低下」という)を生じさせる出口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定出口デポジット堆積量として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第1燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、燃料噴射圧を上昇させれば、噴射燃料の微粒化度合が高くなる。したがって、出口デポジット堆積量に応じて噴射燃料の微粒化度合が所期の微粒化度合となるように燃料噴射圧を上昇させれば、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、噴射燃料の微粒化度合が所期の微粒化度合となる。第1燃料噴射圧制御では、出口デポジット堆積量が比較的多く、噴射燃料の微粒化度合の低下が比較的大きいときに、燃料噴射圧を上昇させる。したがって、第1燃料噴射圧制御には、噴射燃料の微粒化度合を所期の微粒化度合に維持することができ、ひいては、内燃機関の排気エミッションに関する性能を所期の性能に維持することができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるための上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、噴射燃料の微粒化度合の低下を補償することができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、一般的には、出口デポジット堆積量が多いほど噴射燃料の微粒化度合の低下が大きくなる傾向にあることから、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合を大きい値に設定するようにしてもよい。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になるように燃料噴射圧を上昇させなくても、少なくとも燃料噴射圧を上昇させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第1燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「燃料噴射圧を上昇させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第1燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図5に示されている。図5のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図5のルーチンが開始されると、始めに、ステップ301において、出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ302において、ステップ301で取得された出口デポジット堆積量TXDoutが所定出口デポジット堆積量TXDoutth以上である(TXDout≧TXDoutth)か否かが判別される。ここで、TXDout≧TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ303に進む。一方、TXDout<TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ304に直接進む。
ステップ302でTXDout≧TXDoutthであると判別され、ルーチンがステップ303に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ304に進む。
ルーチンがステップ302からステップ304に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ303からステップ304に進んだ場合、ステップ303で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ305において、ステップ304で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させるための制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第2燃料噴射圧制御」と称する。この第2燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、出口デポジットを剥離させる必要が生じる出口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定出口デポジット堆積量として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第2燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、出口デポジットは、主に、低級カルボン酸塩から構成されており、この低級カルボン酸塩は、比較的小さい燃料噴射圧の上昇でもって剥離させることができる。そして、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させれば、噴射燃料の微粒化度合が改善される。したがって、出口デポジットを噴孔出口領域から積極的に剥離させることが望ましいと判断されるのであれば、燃料噴射圧の上昇によって出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させることが望ましい。第2燃料噴射圧制御では、出口デポジット堆積量が比較的多く、出口デポジットを剥離させる必要があると判断したときに、燃料噴射圧の上昇によって出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させる。したがって、第2燃料噴射圧制御には、噴射燃料の微粒化度合を改善させることができ、ひいては、内燃機関の排気エミッションに関する性能を改善させることができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるために上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、出口デポジットを剥離させることができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、以下のように所定増圧分または所定増圧割合を設定するようにしてもよい。
すなわち、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(すなわち、剥離力)となる。ここで、噴孔出口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、出口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、出口デポジット堆積量が多いほど、出口デポジットは剥離しやすいことになる。云い方を換えれば、出口デポジット堆積量が多いほど、小さい燃料噴射圧の上昇でもって出口デポジットを剥離させることができる。したがって、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合が小さい値に設定されるようにしてもよい。
また、出口デポジット堆積量が多いほど出口デポジットが剥離しやすいのであるから、逆に、出口デポジット堆積量が少ないほど出口デポジットが剥離しづらい。したがって、出口デポジット堆積量が少ないときに出口デポジットを剥離させようとすると、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させる必要があるし、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない可能性もある。ここで、第2燃料噴射圧制御の上記所定出口デポジット堆積量を「燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない量」に設定すれば、出口デポジットを剥離させようとする燃料噴射圧の上昇を無駄に行うことが回避される。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になる程度に出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させなくても、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第2燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第2燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図6に示されている。図6のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図6のルーチンが開始されると、始めに、ステップ401において、出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ402において、ステップ401で取得された出口デポジット堆積量TXDoutが所定出口デポジット堆積量TXDoutth以上である(TXDout≧TXDoutth)か否かが判別される。ここで、TXDout≧TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ403に進む。一方、TXDout<TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ404に直接進む。
ステップ402でTXDout≧TXDoutthであると判別され、ルーチンがステップ403に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ404に進む。
ルーチンがステップ402からステップ404に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ403からステップ404に進んだ場合、ステップ403で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ405において、ステップ404で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させるための制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第3燃料噴射圧制御」と称する。この第3燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、入口デポジットを剥離させる必要が生じる入口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定入口デポジット堆積量として予め求められている。そして、機関運転中、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第3燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔入口領域に燃焼生成物が入口デポジットとして堆積しているときに基本燃料噴射量を目標燃料噴射量とし、この目標燃料噴射量に対応した燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、入口デポジットの影響で基本燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない。つまり、燃料噴射量誤差が発生する。一方、入口デポジットは、主に、炭酸塩やシュウ酸塩から構成されており、これら炭酸塩やシュウ酸塩は、比較的小さい燃料噴射圧の上昇でもって剥離させることが困難である。しかしながら、燃料噴射量誤差が比較的大きくなるほど入口デポジットが噴孔入口領域に堆積してしまい、比較的大きい燃料噴射圧の上昇が必要であるとしても燃料噴射圧を上昇させて入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させるほうが望ましい場合もある。したがって、入口デポジットを噴孔入口領域から積極的に剥離させることが望ましいと判断されるのであれば、燃料噴射圧の上昇によって入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させることが望ましい。第3燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量が比較的多く、入口デポジットを剥離させる必要があると判断したときに、燃料噴射圧の上昇によって入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させる。したがって、第3燃料噴射圧制御には、燃料噴射量誤差を解消することができ、ひいては、要求トルクを内燃機関に出力させることができるという利点がある。また、内燃機関の特定の性能(例えば、排気エミッションに関する性能)を高く維持するために空燃比を特定の空燃比に制御するようにしている場合に第3燃料噴射圧制御が適用されれば、燃料噴射量誤差を解消することができるのであるから、空燃比を特定の空燃比に制御することができ、ひいては、内燃機関の特定の性能を高く維持することができるという利点が得られる。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるための上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、入口デポジットを剥離させることができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、入口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、入口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、以下のように所定増圧分または所定増圧割合を設定するようにしてもよい。
すなわち、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(すなわち、剥離力)となる。ここで、噴孔入口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、入口デポジット堆積量が多いほど、噴孔入口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、入口デポジット堆積量が多いほど、噴孔入口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、入口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、入口デポジット堆積量が多いほど、入口デポジットは剥離しやすいことになる。云い方を換えれば、入口デポジット堆積量が多いほど、小さい燃料噴射圧の上昇でもって入口デポジットを剥離させることができる。したがって、所定増圧分または所定増圧割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、入口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合が小さい値に設定されるようにしてもよい。
また、入口デポジット堆積量が多いほど入口デポジットが剥離しやすいのであるから、逆に、入口デポジット堆積量が少ないほど入口デポジットが剥離しづらい。したがって、入口デポジット堆積量が少ないときに入口デポジットを剥離させようとすると、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させる必要があるし、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても入口デポジットを剥離させることができない可能性もある。ここで、第3燃料噴射圧制御の上記所定入口デポジット堆積量を「燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても入口デポジットを剥離させることができない量」に設定すれば、入口デポジットを剥離させようとする燃料噴射圧の上昇を無駄に行うことが回避される。
なお、燃料噴射量誤差が解消される程度に入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させなくても、燃料噴射量誤差が小さくなる程度に入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させることによって、実燃料噴射量を基本燃料噴射量に近づけることができ、このことにも利点がある。したがって、第3燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「燃料噴射量誤差が小さくなる程度に入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第3燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図7に示されている。図7のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図7のルーチンが開始されると、始めに、ステップ501において、入口デポジット堆積量TXDinが取得される。次いで、ステップ502において、ステップ501で取得された入口デポジット堆積量TXDinが所定入口デポジット堆積量TXDinth以上である(TXDin≧TXDinth)か否かが判別される。ここで、TXDin≧TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ503に進む。一方、TXDin<TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ504に直接進む。
ステップ502でTXDin≧TXDinthであると判別され、ルーチンがステップ503に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ504に進む。
ルーチンがステップ502からステップ504に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ503からステップ504に進んだ場合、ステップ503で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ505において、ステップ504で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下を補償する制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第4燃料噴射圧制御」と称する。この第4燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量以下であるときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多いときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第4燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、燃料噴射圧を上昇させれば、噴射燃料の微粒化度合が高くなる。しかしながら、入口デポジット堆積量が多いと、燃料噴射圧の上昇による噴射燃料の微粒化度合の上昇が小さくなる。そして、このことは、入口デポジット堆積量が出口デポジット堆積量よりも多いときに顕著となる。つまり、燃料噴射圧の上昇による噴射燃料の微粒化度合の上昇効率が低い。したがって、逆に、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多ければ、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の上昇効率が高い。第4燃料噴射圧制御では、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多く、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の上昇効率が高いときに、燃料噴射圧を上昇させる。したがって、第4燃料噴射圧制御には、効率良く噴射燃料の微粒化度合を所期の微粒化度合に維持することができ、ひいては、効率良く内燃機関の排気エミッションに関する性能を所期の性能に維持することができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるための上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下を補償することができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、一般的には、出口デポジット堆積量が多いほど噴射燃料の微粒化度合の低下が大きくなる傾向にあることから、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合を大きい値に設定するようにしてもよい。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になるように燃料噴射圧を上昇させなくても、少なくとも燃料噴射圧を上昇させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第4燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「燃料噴射圧を上昇させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第4燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図8に示されている。図8のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図8のルーチンが開始されると、始めに、ステップ601において、入口デポジット堆積量TXDinおよび出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ602において、ステップ601で取得された出口デポジット堆積量TXDoutがステップ601で取得された入口デポジット堆積量TXDinよりも多い(TXDin<TXDout)か否かが判別される。ここで、TXDin<TXDoutであると判別されたときには、ルーチンはステップ603に進む。一方、TXDin≧TXDoutであると判別されたときには、ルーチンはステップ604に直接進む。
ステップ602でTXDin<TXDoutであると判別され、ルーチンがステップ603に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ604に進む。
ルーチンがステップ602からステップ604に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ603からステップ604に進んだ場合、ステップ603で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ605において、ステップ604で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させるための制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第5燃料噴射圧制御」と称する。この第5燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、燃料噴射圧を上昇させたとしても十分な出口デポジットの剥離を生じさせない入口デポジット堆積量のうち最も少ない量が所定入口デポジット堆積量として予め求められ、出口デポジットを剥離させる必要が生じる出口デポジット堆積量のうち最も少ない量が所定出口デポジット堆積量(この量は零であってもよい)として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量に係わらず入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量よりも多いとき、或いは、入口デポジット堆積量に係わらず出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以下であって且つ出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第5燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、出口デポジットは、主に、低級カルボン酸塩から構成されており、この低級カルボン酸塩は、比較的小さい燃料噴射圧の上昇でもって剥離させることができる。そして、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させれば、噴射燃料の微粒化度合が改善される。しかしながら、入口デポジット堆積量が多いと、燃料噴射圧の上昇による出口デポジットの剥離量が少なくなる。つまり、入口デポジット堆積量が多いと、燃料噴射圧の上昇による出口デポジットの剥離効率が低い。したがって、逆に、入口デポジット堆積量が少なければ、燃料噴射圧の上昇による出口デポジットの剥離効率が高い。噴第5燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量が比較的少なく且つ出口デポジット堆積量が比較的多く、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の上昇効率が高いときに、燃料噴射圧を上昇させる。したがって、第5燃料噴射圧制御には、効率良く噴射燃料の微粒化度合を改善させることができ、ひいては、効率良く内燃機関の排気エミッションに関する性能を改善させることができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるために上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以下である状況下において出口デポジットを剥離させることができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、以下のように所定増圧分または所定増圧割合を設定するようにしてもよい。
すなわち、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(すなわち、剥離力)となる。ここで、噴孔出口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、出口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、出口デポジット堆積量が多いほど、出口デポジットは剥離しやすいことになる。云い方を換えれば、出口デポジット堆積量が多いほど、小さい燃料噴射圧の上昇でもって出口デポジットを剥離させることができる。したがって、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合が小さい値に設定されるようにしてもよい。
また、出口デポジット堆積量が多いほど出口デポジットが剥離しやすいのであるから、逆に、出口デポジット堆積量が少ないほど出口デポジットが剥離しづらい。したがって、出口デポジット堆積量が少ないときに出口デポジットを剥離させようとすると、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させる必要があるし、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない可能性もある。ここで、第2燃料噴射圧制御の上記所定出口デポジット堆積量を「燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない量」に設定すれば、出口デポジットを剥離させようとする燃料噴射圧の上昇を無駄に行うことが回避される。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になる程度に出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させなくても、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第5燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第5燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図9に示されている。図9のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図9のルーチンが開始されると、始めに、ステップ701において、入口デポジット堆積量TXDinおよび出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ702において、ステップ701で取得された入口デポジット堆積量TXDinが所定入口デポジット堆積量TXDinth以下であり(TXDin≦TXDinth)且つステップ701で取得された出口デポジット堆積量TXDoutが所定出口デポジット堆積量TXDoutth以上である(TXDout≧TXDoutth)か否かが判別される。ここで、TXDin≦TXDinthで且つTXDout≧TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ703に進む。一方、TXDin>TXDinthであると判別されたとき、或いは、TXDout<TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ704に直接進む。
ステップ702でTXDin≦TXDinthで且つTXDout≧TXDoutthであると判別され、ルーチンがステップ703に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ704に進む。
ルーチンがステップ702からステップ704に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ703からステップ704に進んだ場合、ステップ703で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ705において、ステップ704で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
なお、上述した燃料噴射制御(すなわち、燃料噴射量制御、および、第1燃料噴射圧制御〜第5燃料噴射圧制御)のうち2つ以上の燃料噴射制御を適宜組み合わせた燃料噴射制御も本発明の範囲内にある。
次に、本発明の噴孔温度(詳細には、噴孔入口温度、および、噴孔出口温度)の算出の実施形態について説明する。1つの実施形態では、次式11に従って噴孔出口温度Toutが算出される。
式11において「Ta」は「吸気温度(すなわち、燃焼室に吸入される空気の温度)」であり、「Pa」は「吸気圧力(すなわち、燃焼室に吸入される空気の圧力)」であり、「Pcmax」は「最大筒内圧(すなわち、1機関サイクル中の燃焼室内の圧力のうち最も高い圧力)」であり、「κ」は「燃焼室に吸入された空気の比熱比」であり、「a」は「最大筒内温度(すなわち、1機関サイクル中の燃焼室内の温度のうち最も高い温度)を噴孔出口温度に変換するための変換係数」である。
また、別の実施形態では、次式12に従って噴孔出口温度Toutが算出される。
式12において「Ta」は「吸気温度」であり、「Pa」は「吸気圧力」であり、「Ti」は「燃料噴射タイミング(すなわち、1機関サイクルにおいて燃料噴射弁から燃料を噴射するタイミング)」であり、「Pi」は「燃料噴射圧」であり、「E」は「実圧縮比」であり、「κ」は「燃焼室に吸入された空気の比熱比」であり、「a」は「最大筒内温度を噴孔出口温度に変換するための変換係数」であり、「b」「c」「d」は「1機関サイクルにおける燃料の燃焼によって上昇せしめられる分の筒内温度(すなわち、燃焼室内の温度)を燃料噴射タイミング、燃料噴射圧、および、吸気圧力から算出するための係数」である。
また、1つの実施形態では、次式13に従って平均噴孔温度(すなわち、燃料噴射孔内の平均温度)Taveが算出される。
式13において「N」は「機関回転数」であり、「Ti」は「燃料噴射タイミング」であり、「Pi」は「燃料噴射圧」であり、「TQ」は「機関トルク」であり、「Tw」は「冷却水温度」であり、「Pa」は「吸気圧力」であり、「a」「b」「c」「d」「e」「f」「g」は「これら機関回転数、燃料噴射タイミング、燃料噴射圧、機関トルク、冷却水温度、および、吸気圧力から平均噴孔温度を算出するための係数」である。
そして、1つの実施形態では、次式14に従って噴孔入口温度Tinが算出される。
式14において「Tave」は「式13に従って算出される平均噴孔温度」であり、「Tout」は「式11または式12に従って算出される噴孔出口温度」であり、「a」は「平均噴孔温度および噴孔出口温度に基づいて式14から噴孔入口温度を算出するための係数」である。
また、別の実施形態では、次式15に従って噴孔入口温度Tinが算出される。
式15において「Tave」は「式13に従って算出される平均噴孔温度」であり、「Tout」は「式11または式12に従って算出される噴孔出口温度」であり、「a」「b」は「平均噴孔温度および噴孔出口温度に基づいて式15から噴孔入口温度を算出するための係数」である。
次に、上述した実施形態の噴孔温度の算出を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図10に示されている。図10のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図10のルーチンが開始されると、始めに、ステップ801において、吸気温度Ta、吸気圧力Pa、最大筒内圧Pcmax、機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、および、冷却水温度Twが取得される。次いで、ステップ802において、ステップ801で取得された吸気温度Ta、吸気圧力Pa、および、最大筒内圧Pcmaxを上式11に適用することによって噴孔出口温度Toutが算出される。次いで、ステップ803において、ステップ801で取得された機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、冷却水温度Tw、および、吸気圧力Paを上式13に適用することによって平均噴孔温度Taveが算出される。次いで、ステップ804において、ステップ802で算出された噴孔出口温度Tout、および、ステップ803で算出された平均噴孔温度Taveを上式14または上式15に適用することによって噴孔入口温度Tinが算出され、ルーチンが終了する。
次に、上述した実施形態の噴孔温度の算出を実行する別のルーチンについて説明する。このルーチンが図11に示されている。図11のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図11のルーチンが開始されると、始めに、ステップ901において、吸気温度Ta、吸気圧力Pa、機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、および、冷却水温度Twが取得される。次いで、ステップ902において、ステップ901で取得された吸気温度Ta、吸気圧力Pa、燃料噴射タイミングTi、および、燃料噴射圧Piを上式12に適用することによって噴孔出口温度Toutが算出される。次いで、ステップ903において、ステップ901で取得された機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、冷却水温度Tw、および、吸気圧力Paを上式13に適用することによって平均噴孔温度Taveが算出される。次いで、ステップ904において、ステップ902で算出された噴孔出口温度Tout、および、ステップ903で算出された平均噴孔温度Taveを上式14または上式15に適用することによって噴孔入口温度Tinが算出され、ルーチンが終了する。
本発明は、内燃機関の燃焼生成物生成量推定装置、デポジット剥離量推定装置、デポジット堆積量推定装置、および、燃料噴射制御装置に関する。
燃料が燃焼室内に直接噴射されるように燃料噴射弁が配置された内燃機関が知られている。また、このような内燃機関では、燃焼生成物(すなわち、燃料の燃焼に関連して生成される物質)が生成され、この燃焼生成物が噴孔領域(すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の入口近傍の領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の出口近傍の領域とからなる領域)の燃料噴射弁壁面(以下この壁面を「噴孔壁面」という)に堆積することも知られている。そして、このように噴孔壁面に燃焼生成物が堆積すると、所期の量の燃料を燃料噴射弁に噴射させるための指令が燃料噴射弁に送られたとしても、燃料噴射弁から所期の量の燃料が噴射されないことがある。そして、燃料噴射弁から所期の量の燃料が噴射されない場合、内燃機関の出力特性や排気特性が低下することがある。そこで、特許文献1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置では、噴孔壁面に堆積している燃焼生成物の量(以下、噴孔壁面に堆積している燃焼生成物を「デポジット」といい、このデポジットの量を「デポジット堆積量」という)が基準量以上であるときには、デポジットを噴孔壁面から剥離させるように燃料噴射弁からの燃料噴射を制御するようにしている。
ところで、特許文献1に記載の燃料噴射装置では、デポジットを噴孔壁面から剥離させるべきか否かを判断するためにデポジット堆積量が用いられる。したがって、特許文献では、デポジット堆積量を推定する必要がある。ここで、燃料噴射弁から実際に噴射される燃料の量を実燃料噴射量と称し、燃料噴射弁から噴射させる燃料として要求される量を要求燃料噴射量と称し、デポジット堆積量が零であるときに要求燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁から噴射させるために燃料噴射弁に与えられる指令値を燃料噴射指令値と称したとき、特許文献1では、デポジットが噴孔壁面に堆積していると実燃料噴射量が要求燃料噴射量よりも少なくなり、しかも、デポジット堆積量が多いほど実燃料噴射量が要求燃料噴射量よりも少なくなるとの認識から、実燃料噴射量が要求燃料噴射量よりも少ないときに実燃料噴射量と要求燃料噴射量との間の差に基づいてデポジット堆積量が推定される。なお、この場合、実燃料噴射量と要求燃料噴射量との間の差が大きいほどデポジット堆積量が多いと推定される。
ところで、本願の発明者の研究により、燃料中の金属成分(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなど)が燃焼ガスと反応することによって金属成分由来の燃焼生成物が生成され、しかも、噴孔入口領域(すなわち、燃料噴射孔の入口近傍の噴孔領域)では、例えば、炭酸塩やシュウ酸塩などの燃焼生成物が生成され、一方、噴孔出口領域(すなわち、燃料噴射孔の出口近傍の噴孔領域)では、例えば、低級カルボン酸塩などの燃焼生成物が生成されることが明らかとなった。
そして、本願の発明者の研究により、噴孔入口領域に堆積しているデポジット(以下このデポジットを「入口デポジット」という)が燃料噴射(すなわち、燃料噴射弁からの燃料の噴射)に与える影響と噴孔出口領域に堆積しているデポジット(以下このデポジットを「出口デポジット」という)が燃料噴射に与える影響とが互いに異なることが判明した。したがって、燃料噴射に関する特性を所望の特性に維持するためには、こうした影響を噴孔入口領域と噴孔出口領域とに分けて把握する必要がある。つまり、こうした影響をデポジットが堆積するであろう領域毎に把握する必要がある。そして、こうした影響を領域毎に把握するためには、デポジット堆積量を領域毎に把握する必要がある。つまり、入口デポジットの堆積量と出口デポジットの堆積量とをそれぞれ別個に把握する必要がある。
そして、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、燃焼生成物は次々に生成されることから、入口デポジット堆積量と出口デポジット堆積量とを把握するためには、噴孔入口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(以下この量を「入口燃焼生成物生成量」という)と噴孔出口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(以下この量を「出口燃焼生成物生成量」という)とを推定する必要がある。
また、機関運転中に次々に生成される燃焼生成物が全て噴孔壁面に堆積し且つ噴孔壁面にいったん堆積した燃焼生成物(すなわち、デポジット)が噴孔入口壁面や噴孔出口壁面から剥離しないのであれば、入口燃焼生成物生成量および出口燃焼生成物生成量から入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を求めることもできる。しかしながら、実際には、燃焼生成物が次々に生成される間にも、デポジットが噴孔入口壁面や噴孔出口壁面から剥離することもある。したがって、入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を把握するためには、噴孔入口領域におけるデポジットの剥離量と噴孔出口領域におけるデポジットの剥離量とを推定する必要がある。
そこで、本発明の目的は、燃焼生成物生成量を領域毎に推定し、デポジット剥離量を領域毎に推定し、デポジット堆積量を領域毎に推定することにある。
本願の発明は、燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の入口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の入口近傍の領域とから構成される噴孔入口領域において燃料の燃焼に起因して生成される燃焼生成物の量である入口燃焼生成物生成量と、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の出口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の出口近傍の領域とから構成される噴孔出口領域において燃料の燃焼に起因して生成される燃焼生成物の量である出口燃焼生成物生成量と、を算出することによって、入口燃焼生成物生成量と出口燃焼生成物生成量とを推定する燃焼生成物生成量推定装置に関する。そして、本発明では、噴孔入口領域の温度と噴孔出口領域の温度とが個別に求められる。そして、噴孔入口領域の温度に基づいて入口燃焼生成物生成量が算出されると共に、噴孔出口領域の温度に基づいて出口燃焼生成物生成量が算出される。
本発明によれば、燃料噴射孔の入口周辺の領域(すなわち、噴孔入口領域)と燃料噴射孔の出口周辺の領域(すなわち、噴孔出口領域)とに分けて燃焼生成物生成量を推定することができる。つまり、本発明によれば、領域毎に燃焼生成物生成量を推定することができる。
また、本願の別の発明は、燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の入口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の入口近傍の領域とから構成される噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物のうち剥離する燃焼生成物の量である入口デポジット剥離量と、燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の領域であって燃料噴射孔の出口寄りの領域と燃料噴射孔外部の領域であって燃料噴射孔の出口近傍の領域とから構成される噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物のうち剥離する燃焼生成物の量である出口デポジット剥離量と、を算出することによって、入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とを推定するデポジット剥離量推定装置に関する。そして、本発明では、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の量である入口デポジット堆積量に基づいて入口デポジット剥離量が算出されると共に、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の量である出口デポジット堆積量に基づいて出口デポジット剥離量が算出される。
本発明によれば、噴孔入口領域と噴孔出口領域とに分けてデポジット剥離量を推定することができる。つまり、本発明によれば、領域毎にデポジット剥離量を推定することができる。
また、本願の別の発明は、前記噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の量である入口デポジット堆積量と前記噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の量である出口デポジット堆積量とを算出することによって入口デポジット堆積量と出口デポジット堆積量とを推定するデポジット堆積量推定装置に関する。そして、本発明では、前記燃焼生成物生成量推定装置によって算出される入口燃焼生成物生成量から前記デポジット剥離量推定装置によって算出される入口デポジット剥離量を差し引くことによって入口デポジット堆積量が算出されると共に、前記燃焼生成物生成量推定装置によって算出される出口燃焼生成物生成量から前記デポジット剥離量推定装置によって算出される出口デポジット剥離量を差し引くことによって出口デポジット堆積量が算出される。
本発明によれば、噴孔入口領域と噴孔出口領域とに分けてデポジット堆積量を推定することができる。つまり、本発明によれば、領域毎にデポジット堆積量を推定することができる。
なお、噴孔入口領域の温度が或る温度以上になると噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物が分解する場合には、前記噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物が分解する温度が入口デポジット分解温度として求められ、前記噴孔入口領域の温度が該入口デポジット分解温度以上であるときには入口デポジット堆積量が零として算出されると好ましい。
これによれば、噴孔入口領域の温度が入口デポジット分解温度以上となり、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物が分解してしまう状況が生じたとしても、入口デポジット堆積量を正確に算出することができる。
また、噴孔出口領域の温度が或る温度以上になると噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物が分解する場合には、前記噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物が分解する温度が出口デポジット分解温度として求められ、前記噴孔出口領域の温度が該出口デポジット分解温度以上であるときには出口デポジット堆積量が零として算出されると好ましい。
これによれば、噴孔出口領域の温度が出口デポジット分解温度以上となり、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物が分解してしまう状況が生じたとしても、出口デポジット堆積量を正確に算出することができる。
また、燃料噴射弁から燃料を噴射させるために燃料噴射弁に与えられる指令値である燃料噴射指令値が要求燃料噴射量に対応して基本燃料噴射指令値として設定され、要求燃料噴射量に対応した基本燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えることによって燃料噴射弁から燃料を噴射させる場合において、入口デポジット堆積量に応じて前記基本燃料噴射指令値が補正されると好ましい。
これによれば、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、要求燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができる。すなわち、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積しているときに要求燃料噴射量に対応した基本燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の影響で要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない。つまり、燃料噴射弁から実際に噴射される燃料の量が要求燃料噴射量からずれてしまう。そして、このずれの程度は、噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物の量(すなわち、入口デポジット堆積量)に応じて変化する。したがって、入口デポジット堆積量に応じて基本燃料噴射指令値を補正すれば、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、要求燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができるのである。
また、燃料噴射弁から噴射される燃料の圧力である燃料噴射圧として目標とすべき燃料噴射圧が基本燃料噴射圧として設定され、該基本燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される場合において、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多いときに前記基本燃料噴射圧が増大され、該増大された基本燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御されると好ましい。
これによれば、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積しているときに燃料噴射弁から噴射される燃料の微粒化を効率良く促進することができる。すなわち、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積していると燃料噴射弁から噴射される燃料(以下この燃料を「噴射燃料」という)の微粒化度合が低下してしまう。一方、燃料噴射圧を上昇させると噴射燃料の微粒化が促進される。したがって、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積している場合、燃料噴射圧を上昇させれば噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物による噴射燃料の微粒化度合の低下が補償される。ところが、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量以下である場合、燃料噴射圧の上昇による噴射燃料の微粒化度合の低下の補償効果が比較的低い。したがって、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多く、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の低下の補償効果が比較的高い状況下において、基本燃料噴射圧を増大させることによって燃料噴射圧を上昇させることから、噴射燃料の微粒化を効率良く促進することができるのである。
また、入口デポジット堆積量が予め定められた入口デポジット堆積量以下であって且つ出口デポジット堆積量が予め定められた出口デポジット堆積量以上であるときに燃料噴射弁から噴射される燃料の圧力である燃料噴射圧が前記噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を該噴孔出口領域から剥離させる圧力まで上昇させると好ましい。
これによれば、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から効率良く剥離させることができる。すなわち、燃料噴射圧を比較的高い圧力にまで上昇させると噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から剥離させることができる。ところが、入口デポジット堆積量が比較的多い場合、燃料噴射圧の上昇による噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の剥離効果が比較的低い。したがって、入口デポジット堆積量が予め定められた入口デポジット堆積量以下であり、燃料噴射圧の上昇による噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物の剥離効果が比較的高い状況下において、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から剥離させる圧力まで燃料噴射圧を上昇させることから、噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物を噴孔出口領域から効率良く剥離させることができるのである。
本発明が適用される内燃機関を示した図である。
図1に示された内燃機関の燃料噴射弁の先端部分を示した図である。
本発明のデポジット堆積量推定を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の燃料噴射量制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第1燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第2燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第3燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第4燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の第5燃料噴射圧制御を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の噴孔温度の算出を実行するルーチンの一例を示した図である。
本発明の噴孔温度の算出を実行するルーチンの一例を示した図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。まず、本発明が適用される内燃機関の構成について説明する。この内燃機関が図1に示されている。図1において、10は内燃機関の本体、11はシリンダブロック、12はシリンダヘッドをそれぞれ示している。シリンダブロック11内には、シリンダボア13が形成されている。シリンダボア13内には、ピストン14が配置されている。ピストン14は、コンロッド15を介してクランクシャフト16に接続されている。一方、シリンダヘッド12には、吸気ポート17と排気ポート18とが形成されている。また、シリンダヘッド12には、吸気ポート17を開いたり閉じたりするための吸気弁19と、排気ポート18を開いたり閉じたりするための排気弁20とが配置されている。また、ピストン14の上壁面とシリンダボア13の内周壁面とシリンダヘッド12の下壁面とによって燃焼室21が画成されている。
なお、吸気ポート17は、吸気マニホルド(図示せず)を介して吸気管(図示せず)に接続され、吸気通路の一部を構成する。一方、排気ポート18は、排気マニホルド(図示せず)を介して排気管(図示せず)に接続され、排気通路の一部を構成する。
また、シリンダヘッド12には、燃料噴射弁22が配置されている。燃料噴射弁22は、図2に示されているように、ノズル30とニードル31とを有する。ノズル30の内部には、空洞(以下「内部空洞」という)が形成されている。そして、この内部空洞内にニードル31がノズル30の中心軸線(すなわち、燃料噴射弁22の中心軸線)CAに沿って移動可能に収容されている。また、ニードル31の先端部は、テーパ形状にされている。そして、ニードル31がノズル30の内部空洞内に収容されたとき、ノズル30の内周壁面(すなわち、ノズル30の内部空洞を画成する壁面)とニードル31の外周壁面との間に燃料を通すための燃料通路32が形成される。また、ノズル30の先端部における燃料通路32は、いわゆるサック33を形成している(以下、燃料通路32とは、このサック33を除いた燃料通路のことを意味することとする)。さらに、ノズル30の先端部には、複数の燃料噴射孔34が形成されている。これら燃料噴射孔34は、ノズル30内(すなわち、燃料噴射弁22内)のサック33とノズル30の外部(すなわち、燃料噴射弁22の外部)とを連通している。
そして、ニードル31のテーパ形状の先端部の外周壁面がノズル30の先端部の内周壁面に当接するようにニードル31がノズル30内に位置決めされたとき、サック33と燃料通路32との間の連通が遮断される。このときには燃料噴射弁22の燃料噴射孔34から燃料は噴射されない。一方、ニードル31のテーパ形状の先端部の外周壁面がノズル30の先端部の内周壁面から離れるようにニードル31がノズル30内において移動せしめられると、サック33と燃料通路32とが互いに連通し、燃料通路32かサック33に燃料が流入する。そして、サック33に流入した燃料は、燃料噴射孔34の入口を介して同燃料噴射孔34に流入し、同燃料噴射孔34を介してその出口から噴射される。
また、燃料噴射弁22は、燃焼室21内に燃料を直接噴射するようにシリンダヘッド12に配置されている。云い方を換えれば、燃料噴射弁22は、その燃料噴射孔が燃焼室21内に露出するようにシリンダヘッド12に配置されている。
また、燃料噴射弁22は、燃料供給通路23を介して蓄圧室(すなわち、いわゆるコモンレール)24に接続されている。蓄圧室24は、燃料供給通路25を介して燃料タンク(図示せず)に接続されている。蓄圧室24には、燃料タンクから燃料供給通路25を介して燃料が供給される。そして、蓄圧室24には、高圧の燃料が貯留されている。また、燃料噴射弁22には、蓄圧室24から燃料供給通路23を介して高圧の燃料が供給される。また、蓄圧室24には、その内部の燃料の圧力を検出するための圧力センサ26が配置されている。
また、シリンダブロック11内には、冷却水を流すための冷却水通路27が形成されている。冷却水通路27は、シリンダボア13を包囲するように形成されている。したがって、少なくとも、冷却水通路27内を流れる冷却水によって燃焼室21内部が冷却される。また、シリンダブロック11には、冷却水通路27内を流れる冷却水の温度を検出するための温度センサ28が配置されている。
また、内燃機関は、電子制御装置40を有する。電子制御装置40は、マイクロコンピュータからなり、双方向バス41によって互いに接続されたCPU(マイクロプロセッサ)42、ROM(リードオンリメモリ)43、RAM(ランダムアクセスメモリ)44、バックアップRAM45、および、インターフェース46を有する。インターフェース46は、燃料噴射弁22、圧力センサ26、および、温度センサ28に接続されている。電子制御装置40は、燃料噴射弁22の動作を制御すると共に、圧力センサ26から燃料の圧力に対応する出力値を受け取り、温度センサ28から冷却水の温度に対応する出力値を受け取る。
次に、本発明の燃焼生成物生成量推定の実施形態について説明する。なお、以下の説明において「噴孔壁面」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する燃料噴射弁壁面」であり、「入口側噴孔壁面」は「噴孔壁面のうち燃料噴射孔の入口寄りの噴孔壁面」であり、「出口側噴孔壁面」は「噴孔壁面のうち燃料噴射孔の出口寄りの噴孔壁面」であり、「噴孔入口隣接壁面」は「燃料噴射孔の外部の燃料噴射弁壁面であって、入口側噴孔壁面に隣接する燃料噴射弁壁面」であり、「噴孔出口隣接壁面」は「燃料噴射孔の外部の燃料噴射弁壁面であって、出口側噴孔壁面に隣接する燃料噴射弁壁面」であり、「噴孔入口壁面」は「入口側噴孔壁面と噴孔入口隣接壁面とから構成される壁面」であり、「噴孔出口壁面」は「出口側噴孔壁面と噴孔出口隣接壁面とから構成される壁面」である。また「噴孔入口領域」は「噴孔入口壁面周辺の領域」であり、「噴孔出口領域」は「噴孔出口壁面周辺の領域」である。また「燃焼生成物」は「燃料の燃焼に関連して生成される物質」であり、「入口デポジット」は「噴孔入口領域に堆積している燃焼生成物」であり、「出口デポジット」は「噴孔出口領域に堆積している燃焼生成物」である。また「燃焼ガス」は「燃焼室内で燃料が燃焼することによって発生するガス」であり、「燃料噴射」とは「燃料噴射弁の燃料噴射孔からの燃料の噴射」であり、「燃料噴射圧」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の圧力」である。また「噴孔温度」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の温度」であり、「噴孔入口温度」は「噴孔入口領域の温度」であり、「噴孔出口温度」は「噴孔出口領域の温度」である。
本発明の燃焼生成物生成量推定の実施形態の1つでは、次式1に従って所定期間(すなわち、予め定められた期間)中に噴孔入口領域にて生成される燃焼生成物の生成量(以下この生成量を「入口燃焼生成物新規生成量」という)XPinが算出されると共に、次式2に従って上記所定期間中に噴孔出口領域にて生成される燃焼生成物の生成量(以下この生成量を「出口燃焼生成物新規生成量」という)XPoutが算出される。なお、所定期間は、特に制限されるものではなく、任意に設定されればよく、例えば、特定の燃料噴射弁において連続する2回の燃料噴射の間の期間である。
XPin=Cm×Ain×Tin …(1)
XPout=Cm×Aout×Tout …(2)
式1および式2において「Cm」は「燃料中の金属成分の濃度(以下単に「金属成分濃度」という)である。この金属成分濃度は、例えば、予め測定された濃度でもよいし、機関運転中に適宜測定される濃度でもよい。式1において「Tin」は「上記所定期間中の特定の時点における噴孔入口温度」である。式2において「Tout」は「上記所定期間中の特定の時点における噴孔出口温度」である。式1において「Ain」は、金属成分濃度Cmおよび噴孔入口温度Tinに関連する入口燃焼生成物新規生成量が正確に算出されるように適合された係数である。式2において「Aout」は、金属成分濃度Cmおよび噴孔出口温度Toutに関連する出口燃焼生成物新規生成量が正確に算出されるように適合された係数である。
次に、本実施形態の燃焼生成物生成量推定の利点について説明する。燃料が燃焼室内に直接噴射されるように燃料噴射弁が配置されている内燃機関では、噴孔出口隣接壁面に燃焼生成物が堆積することが知られている。また、燃料中の金属成分(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなど)が燃焼ガスと反応することによって金属成分由来の燃焼生成物(例えば、低級カルボン酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩などであり、以下この燃焼生成物を「金属由来生成物」という)が生成され、この金属由来生成物も噴孔出口隣接壁面に堆積することが本願の発明者の研究により明らかとなった。また、この金属由来生成物は噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも堆積することが本願の発明者の研究により明らかとなった。
次に、金属由来生成物について簡単に説明する。従来、噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面には燃焼生成物が堆積することはないものと認識されていた。しかしながら、本願の発明者の研究によれば、上述したように、噴孔出口隣接壁面だけでなく噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも金属由来生成物の形態の燃焼生成物が堆積することが明らかとなった。このように噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも金属由来生成物が堆積する理由は以下のように推察される。すなわち、燃料噴射弁が燃料を燃焼室内に直接噴射するように、すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔が燃焼室内部に露出するように燃料噴射弁が内燃機関に配置されている場合、燃焼ガスが燃料噴射孔に入り込み、この燃焼ガスが燃料噴射孔内およびその入口近傍において燃料と反応し、金属由来生成物が生成される。そして、この金属由来生成物の壁面への付着力が比較的強いことから、燃料噴射孔内およびその入口において強い燃料の流れがあるにも係わらず、噴孔壁面および噴孔入口隣接壁面に付着し堆積する。これが金属由来生成物が噴孔壁面や噴孔入口隣接壁面にも堆積する理由であると推察されるのである。
ところで、このように噴孔出口隣接壁面、噴孔壁面、および、噴孔入口隣接壁面(以下これら壁面をまとめて単に「壁面」という)に金属由来生成物を含む燃焼生成物(以下、この燃焼生成物には金属由来生成物が含まれるものとする)が堆積していると、壁面に堆積している燃焼生成物(以下、壁面に堆積している燃焼生成物を「デポジット」という)が燃料の流れを阻害してしまう。したがって、本来であれば要求されている量(以下この量を「要求燃料噴射量」という)の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができる指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない可能性がある。
そして、要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない場合、内燃機関の出力特性や排気特性が低下してしまう可能性がある。したがって、こうした内燃機関の出力特性や排気特性の低下を抑制し或いは改善しようとする場合にはこうした特性の低下が生じる可能性の有無を知ることは不可欠であるし、こうした特性の低下が生じる可能性の有無を知ることは少なからず有用である。そして、こうした特性の低下が生じる可能性の有無を知るためには、壁面に堆積しているデポジットの量(以下この量を「デポジット堆積量」という)を正確に知ることが必要である。
一方、デポジット堆積量は、壁面の形状や壁面を取り巻く雰囲気の温度によって異なる。そして、噴孔入口壁面の形状と噴孔出口壁面の形状とは互いに異なっていることが多く、また、噴孔入口温度と噴孔出口温度とは互いに異なっていることも多い。また、入口デポジットが燃料噴射に関する特性に与える影響と出口デポジットが燃料噴射に関する特性に与える影響とも互いに異なる。例えば、入口デポジットが燃料噴射量に与える影響は、出口デポジットのそれよりも大きい。一方、出口デポジットが噴射燃料の微粒化に与える影響は、入口デポジットのそれよりも大きい。また、噴孔出口領域からの出口デポジットの剥離の容易さは、噴孔入口領域からの入口デポジットの剥離の容易さよりも高い。以上のことに鑑みたとき、より適切に、内燃機関の出力特性や排気特性の低下を抑制し或いは改善しようとする場合、デポジット堆積量を噴孔入口領域に堆積しているデポジットの量(以下この量を「入口デポジット堆積量」という)と噴孔出口領域に堆積しているデポジットの量(以下この量を「出口デポジット堆積量」という)とに分けて知ることが必要である。
ところで、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、燃料噴射弁から次々に燃料が噴射されるのであるから、燃焼生成物は次々に生成される。そして、斯くして生成される燃焼生成物が壁面に堆積することによってデポジットが形成される。したがって、入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を知るためには、噴孔入口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(すなわち、入口燃焼生成物新規生成量)および噴孔出口領域において次々に生成される燃焼生成物の量(すなわち、出口燃焼生成物新規生成量)を知る必要がある。
そして、入口燃焼生成物新規生成量は、金属成分濃度および噴孔入口温度に応じて変わる。より具体的に言えば、噴孔入口温度が同じ場合、入口燃焼生成物新規生成量は、金属成分濃度が高いほど多い。また、金属成分濃度が同じ場合、入口燃焼生成物新規生成量は、噴孔入口温度が高いほど多い。したがって、入口燃焼生成物新規生成量を正確に算出するためには、その算出に金属成分濃度と噴孔入口温度とが考慮されるべきである。同様の理由から、出口燃焼生成物新規生成量を正確に算出するためには、その算出に金属成分濃度と噴孔出口温度とが考慮されるべきである。
ここで、本実施形態の燃焼生成物生成量推定では、式1に示されているように、入口燃焼生成物新規生成量XPinは、金属成分濃度Cmと噴孔入口温度Tinとの積に基づいて算出される。つまり、入口燃焼生成物新規生成量XPinは、金属成分濃度Cmと噴孔入口温度Tinとを変数として算出される。そして、式1によって算出される入口燃焼生成物新規生成量XPinは、金属成分濃度Cmが高いほど多く、噴孔入口温度Tinが高いほど多い。つまり、式1による入口燃焼生成物新規生成量の算出には、金属成分濃度が高いほど或いは噴孔入口温度が高いほど入口燃焼生成物新規生成量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態の燃焼生成物生成量推定には、入口燃焼生成物新規生成量を正確に算出することができるという利点がある。
また、本実施形態の燃焼生成物生成量推定では、式2に示されているように、出口燃焼生成物新規生成量XPoutは、金属成分濃度Cmと噴孔出口温度Toutとの積に基づいて算出される。つまり、出口燃焼生成物新規生成量XPoutは、金属成分濃度Cmと噴孔出口温度Toutとを変数として算出される。そして、式2によって算出される出口燃焼生成物新規生成量XPoutは、金属成分濃度が高いほど或いは噴孔出口温度が高いほど多い。つまり、式2による出口燃焼生成物新規生成量の算出には、金属成分濃度が高いほど或いは噴孔出口温度が高いほど出口燃焼生成物新規生成量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態の燃焼生成物生成量推定には、出口燃焼生成物新規生成量を正確に算出することができるという利点がある。
次に、本発明のデポジット剥離量推定の実施形態について説明する。本発明のデポジット剥離量生成量推定の実施形態の1つでは、次式3に従って所定期間(すなわち、予め定められた期間)中に入口デポジットが噴孔入口領域から剥離する容易さを表す係数(以下この係数を「入口デポジット剥離容易性係数」という)KRinが算出されると共に、次式4に従って上記所定期間中に出口デポジットが噴孔出口領域から剥離する容易さを表す係数(以下この係数を「出口デポジット剥離容易性係数」という)KRoutが算出される。なお、所定期間は、特に制限されるものではなく、任意に設定されればよく、例えば、特定の燃料噴射弁において連続する2回の燃料噴射の間の期間である。
KRin=FKRin(TXDin) …(3)
KRout=FKRout(TXDout) …(4)
式3において「TXDin」は「前回のデポジット堆積量推定において算出された入口デポジット堆積量」である。式3において「FKRin」は「入口デポジット堆積量を適用することによって適切な入口デポジット剥離容易性係数を算出することができるように適合された関数」である。式4において「TXDout」は「前回のデポジット堆積量推定において算出された出口デポジット堆積量」である。式4において「FKRout」は「出口デポジット堆積量を適用することによって適切な出口デポジット剥離容易性係数を算出することができるように適合された関数」である。
そして、本実施形態のデポジット剥離量推定では、次式5に従って上記所定期間中に噴孔入口領域から剥離したデポジットの量(以下この量を「入口デポジット新規剥離量」という)XRinが算出されると共に、次式6に従って上記所定期間中に噴孔出口領域から剥離したデポジットの量(以下この量を「出口デポジット新規剥離量」という)XRoutが算出される。
XRin=P×KRin …(5)
XRout=P×KRout …(6)
式5および式6において「P」は「上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧(以下単に「燃料噴射圧」という)」である。この燃料噴射圧は、例えば、上記所定期間中の特定の時点における圧力センサ26の出力値から求められる。もちろん、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧に代えて、上記所定期間中の平均の燃料噴射圧が用いられてもよい。また、式5において「KRin」は式3に従って算出される入口デポジット剥離容易性係数であり、式6において「KRout」は式4に従って算出される出口デポジット剥離容易性係数である。
次に、本実施形態のデポジット剥離量推定の利点について説明する。上述したように次々に生成される燃焼生成物が全て壁面に堆積し且つ壁面にいったん堆積した燃焼生成物(すなわち、デポジット)が壁面から剥離されないのであれば、次々に生成される燃料生成物の量を積算すれば、デポジット堆積量を正確に求めることができる。しかしながら、実際には、燃焼生成物が次々に生成され、これら燃焼生成物が壁面に堆積する間にも、デポジットが壁面から剥離することがある。したがって、入口デポジット堆積量および出口デポジット堆積量を正確に求めるためには、その算出に、噴孔入口領域および噴孔出口領域において次々に生成される燃焼生成物の量を考慮するだけでなく、噴孔入口領域から剥離するデポジットの量(すなわち、入口デポジット新規剥離量)および噴孔出口領域から剥離するデポジットの量(すなわち、出口デポジット新規剥離量)も考慮する必要がある。
ところで、入口デポジット新規剥離量は、燃料噴射圧および入口デポジット剥離容易性(すなわち、噴孔入口領域からの入口デポジットの剥離のし易さ)に応じて変わる。より具体的に言えば、入口デポジット剥離容易性が同じ場合、入口デポジット新規剥離量は、燃料噴射圧が高いほど多い。また、燃料噴射圧が同じ場合、入口デポジット新規剥離量は、入口デポジット剥離容易性が高いほど多い。したがって、入口デポジッ新規ト剥離量を正確に算出するためには、その算出に燃料噴射圧と入口デポジット剥離容易性とが考慮されるべきである。同様の理由から、出口デポジット新規剥離量を正確に算出するためには、その算出に燃料噴射圧と出口デポジット剥離容易性とが考慮されるべきである。
ここで、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式5に示されているように、入口デポジット新規剥離量XRinは、燃料噴射圧Pに入口デポジット剥離容易性係数KRinを乗算することによって算出される。つまり、入口デポジット新規剥離量XRinは、燃料噴射圧Pと入口デポジット剥離容易性係数KRinとを変数として算出される。そして、式5によって算出される入口デポジット新規剥離量XRinは、燃料噴射圧Pが高いほど多く、入口デポジット剥離容易性係数KRinが大きいほど多い。つまり、式5による入口デポジット剥離量の算出には、燃料噴射圧が高いほど或いは入口デポジット剥離容易性が高いほど入口デポジット剥離量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、入口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
また、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式6に示されているように、出口デポジット新規剥離量XRoutは、燃料噴射圧Pに出口デポジット剥離容易性係数KRoutを乗算することによって算出される。つまり、出口デポジット新規剥離量XRoutは、燃料噴射圧Pと出口デポジット剥離容易性係数KRoutとを変数として算出される。そして、式6によって算出される出口デポジット新規剥離量XRoutは、燃料噴射圧Pが高いほど多く、出口デポジット剥離容易性係数KRoutが大きいほど多い。つまり、式6による出口デポジット剥離量の算出には、燃料噴射圧が高いほど或いは出口デポジット剥離容易性が高いほど出口デポジット剥離量が多いことが考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、出口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
ところで、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(以下この力を「剥離力」という)となる。ここで、噴孔入口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、入口デポジット堆積量(すなわち、噴孔入口領域に堆積しているデポジットの量)が多いほど、噴孔入口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、入口デポジット堆積量が多いほど、噴孔入口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、入口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、入口デポジット堆積量が多いほど、入口デポジット剥離量が多い。したがって、入口デポジット剥離量を正確に算出するためには、その算出に用いられる入口デポジット剥離性係数として、入口デポジット堆積量に無関係に一定の値の係数ではなく、入口デポジット堆積量に応じて変化する係数を採用すべきである。同様の理由から、出口デポジット剥離量を正確に算出するためには、その算出に用いられる出口デポジット剥離性係数として、出口デポジット堆積量に応じて変化する係数を採用すべきである。
ここで、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式3に示されているように、入口デポジット剥離容易性係数KRinは、入口デポジット堆積量TXDinを変数とする関数によって算出される。つまり、式3による入口デポジット剥離容易性係数の算出には、入口デポジット堆積量が考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、入口デポジット剥離容易性係数を正確に算出することができ、ひいては、入口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
なお、当然のことながら、入口デポジット剥離容易性係数を算出するための関数FKRinは、入口デポジット堆積量TXDinが多いほど大きい入口デポジット剥離容易性係数KRinが算出される関数である。
また、本実施形態のデポジット剥離量推定では、式4に示されているように、出口デポジット剥離容易性係数KRoutは、出口デポジット堆積量TXDoutを変数とする関数によって算出される。つまり、式4による出口デポジット剥離容易性係数の算出には、出口デポジット堆積量が考慮されている。したがって、本実施形態のデポジット剥離量推定には、出口デポジット剥離容易性係数を正確に算出することができ、ひいては、出口デポジット剥離量を正確に算出することができるという利点がある。
なお、当然のことながら、出口デポジット剥離容易性係数を算出するための関数FKRoutは、出口デポジット堆積量TXDoutが多いほど大きい出口デポジット剥離容易性係数KRoutが算出される関数である。
なお、上述した実施形態のデポジット剥離量推定では、噴孔入口壁面に一様にデポジットが堆積して入口デポジットの厚み(すなわち、噴孔入口壁面からのデポジットの厚み)が領域に係わらず一定であることを前提にしている。しかしながら、噴孔入口壁面に一様にデポジットが堆積しないのであれば、入口デポジット剥離容易性係数を算出するために用いられる関数として、噴孔入口壁面に一様にデポジットが堆積しないことを前提に入口デポジット堆積量と入口デポジット剥離量とのデータを解析して求められた関数を用いることによって、入口デポジット剥離量を正確に算出するための入口デポジット剥離容易性係数を算出することができる。
同様に、噴孔出口壁面に一様にデポジットが堆積しないのであれば、出口デポジット剥離容易性係数を算出するために用いられる関数として、噴孔出口壁面に一様にデポジットが堆積しないことを前提に出口デポジット堆積量と出口デポジット剥離量とのデータを解析して求められた関数を用いることによって、出口デポジット剥離量を正確に算出するための出口デポジット剥離容易性係数を算出することができる。
次に、壁面から剥離するデポジットの量を入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とに分けて算出するさらなる利点について説明する。噴孔入口領域には、炭酸塩やシュウ酸塩を成分とするデポジットが堆積しやすい。これら炭酸塩やシュウ酸塩は、燃料噴射孔に流入して同燃料噴射孔内を流れる燃料によって噴孔入口領域から剥離されやすい。一方、噴孔出口領域には、低級カルボン酸塩を成分とするデポジットが堆積しやすい。この低級カルボン酸塩は、燃料噴射孔内を流れて同燃料噴射孔から噴射される燃料によって噴孔出口領域から剥離されづらい。つまり、燃料噴射圧が同じであり且つデポジット厚さ(すなわち、壁面からのデポジットの厚み)が同じであっても、出口デポジットよりも入口デポジットのほうが剥離しやすいのである。したがって、デポジット剥離量をより正確に把握するという観点では、入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とを分けて把握することが好ましい。
本実施形態のデポジット剥離量推定では、入口デポジット剥離量と出口デポジット剥離量とを分けて算出していることから、デポジット剥離量をより正確に算出することができるという利点がある。
次に、本発明のデポジット堆積量推定の実施形態について説明する。本発明のデポジット堆積量推定の実施形態の1つでは、次式7に従って上記所定期間中の入口デポジット新規堆積量(すなわち、上記所定期間に噴孔入口領域に新たに堆積する入口デポジットの量)XDinが算出されると共に、次式8に従って上記所定期間中の出口デポジット新規堆積量(すなわち、上記所定期間に噴孔出口領域に新たに堆積する出口デポジットの量)XDoutが算出される。
XDin=XPin−XRin …(7)
XDout=XPout−XRout …(8)
式7において「XPin」は「式1に従って算出される入口燃焼生成物新規生成量」であり、「XRin」は「式3に従って算出される入口デポジット新規剥離量」である。式8において「XPout」は「式2に従って算出される出口燃焼生成物新規生成量」であり、「XRout」は「式4に従って算出される出口デポジット新規剥離量」である。
そして、本実施形態のデポジット堆積量推定では、次式9に従って入口デポジット堆積量TXDinが算出されると共に、次式10に従って出口デポジット堆積量TXDoutが算出される。
TXDin=TXDin+XDin …(9)
TXDout=TXDout+XDout …(10)
式9の左辺の「TXDin」が「今回のデポジット堆積量推定によって算出される入口デポジット堆積量」であり、式9の右辺の「TXDin」は「前回のデポジット堆積量推定によって算出された入口デポジット堆積量」である。式10の左辺の「TXDout」が「今回のデポジット堆積量推定によって算出される出口デポジット堆積量」であり、式10の右辺の「TXDout」は「前回のデポジット堆積量推定によって算出された出口デポジット堆積量」である。
次に、本実施形態のデポジット堆積量推定の利点について説明する。上記所定期間中の入口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の入口デポジット新規剥離量を差し引けば、入口デポジット新規堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式7に示されているように、上記所定期間中の入口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の入口デポジット新規剥離量を差し引くことによって入口デポジット新規堆積量が算出され、入口燃焼生成物新規生成量および入口デポジット新規剥離量がそれぞれ正確な量として算出された値であることから、入口デポジット新規堆積量が正確に算出される。そして、この入口デポジット新規堆積量を積算すれば、入口デポジット堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式9に示されているように、式7に従って算出される入口デポジット新規堆積量XDinを既に算出されている入口デポジット堆積量TXDinに加算することによって最新の入口デポジット堆積量が算出される。したがって、本実施形態のデポジット堆積量推定には、入口デポジット堆積量を正確に算出することができるという利点がある。
同様に、上記所定期間中の出口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の出口デポジット新規剥離量を差し引けば、出口デポジット新規堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式10に示されているように、上記所定期間中の出口燃焼生成物新規生成量から上記所定期間中の出口デポジット新規剥離量を差し引くことによって出口デポジット新規堆積量が算出され、出口燃焼生成物新規生成量および出口デポジット新規剥離量がそれぞれ正確な量として算出された値であることから、出口デポジット新規堆積量が正確に算出される。そして、この出口デポジット新規堆積量を積算すれば、出口デポジット堆積量が得られる。ここで、本実施形態のデポジット堆積量推定では、式10に示されているように、式8に従って算出される出口デポジット新規堆積量XDoutを既に算出されている出口デポジット堆積量TXDoutに加算することによって最新の出口デポジット堆積量が算出される。したがって、本実施形態のデポジット堆積量推定には、出口デポジット堆積量を正確に算出することができるという利点がある。
次に、上述した実施形態のデポジット堆積量推定を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図3に示されている。図3のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図3のルーチンが開始されると、始めに、ステップ101において、噴孔入口温度Tin、噴孔出口温度Tout、燃料噴射圧P、前回の本ルーチンによって算出された入口デポジット堆積量TXDin、および、前回の本ルーチンによって算出された出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ102において、ステップ101で取得された噴孔入口温度Tinを上式1に適用することによって入口燃焼生成物新規生成量XPinが算出されると共に、ステップ101で取得された噴孔出口温度Toutを上式2に適用することによって出口燃焼生成物新規生成量XPoutが算出される。次いで、ステップ103において、ステップ101で取得された入口デポジット堆積量TXDinを上式3に適用することによって入口デポジット剥離容易性係数KRinが算出されると共に、ステップ101で取得された出口デポジット堆積量TXDoutを上式4に適用することによって出口デポジット剥離容易性係数KRoutが算出される。
次いで、ステップ104において、ステップ101で取得された燃料噴射圧Pとステップ103で算出された入口デポジット剥離容易性係数KRinとを上式5に適用することによって入口デポジット新規剥離量XRinが算出されると共に、ステップ101で取得された燃料噴射圧Pとステップ103で算出された出口デポジット剥離容易性係数KRoutとを上式6に適用することによって出口デポジット新規剥離量XRoutが算出される。次いで、ステップ105において、ステップ102で算出された入口燃焼生成物新規生成量XPinとステップ104で算出された入口デポジット新規剥離量XRinとを上式7に適用することによって入口デポジット新規堆積量XDinが算出されると共に、ステップ102で算出された出口燃焼生成物新規生成量XPoutとステップ104で算出された出口デポジット新規剥離量XRoutとを上式8に適用することによって出口デポジット新規堆積量XDoutが算出される。次いで、ステップ106において、ステップ105で算出された入口デポジット新規堆積量XDinを上式9に適用することによって入口デポジット堆積量TXDinが算出されると共に、ステップ105で算出された出口デポジット新規堆積量XDoutを上式10に適用することによって出口デポジット堆積量TXDoutが算出される。
次いで、ステップ107において、ステップ101で取得された噴孔出口温度Toutが所定噴孔出口温度Toutth以上である(Tout≧Toutth)か否かが判別される。ここで、Tout≧Toutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ108に進む。一方、Tout<Toutthであると判別されたときには、ルーチンはそのまま終了する。この場合、今回の本ルーチンによって算出された入口デポジット堆積量はステップ106で算出された量TXDinであり、今回の本ルーチンによって算出された出口デポジット堆積量はステップ106で算出された量TXDoutである。
ステップ107でTout≧Toutthであると判別され、ルーチンがステップ108に進むと、ステップ106で算出された出口デポジット堆積量TXDoutが零とされ、ルーチンが終了する。この場合、今回の本ルーチンによって算出された入口デポジット堆積量はステップ106で算出された量TXDinであり、今回の本ルーチンによって算出された出口デポジット堆積量は零である。
ところで、デポジットを構成する成分(すなわち、低級カルボン酸塩、炭酸塩、および、シュウ酸塩)のうち炭酸塩は、その周囲の温度が或る温度以上になると分解してしまう。また、上述した実施形態において、炭酸塩がデポジットとして堆積する部位は、噴孔入口領域である。そこで、上述した実施形態において、噴孔入口温度が所定の温度(すなわち、デポジットを構成する炭酸塩の分解温度)以上になったときに入口デポジット堆積量のうち炭酸塩を成分とするデポジット堆積量を零として入口デポジット堆積量を新たに算出するようにしてもよい。なお、上記所定の温度は、炭酸塩が分解する温度として実験等によって求められ、予め定められた温度であれば如何なる温度でもよいが、一例を挙げれば、概ね300℃である。
もちろん、このことを低級カルボン酸塩やシュウ酸塩に関して同様に適用してもよい。すなわち、デポジットを構成する低級カルボン酸塩が分解してしまう温度が予め判っているのであれば、上述した実施形態において、低級カルボン酸塩がデポジットとして堆積する部位は、噴孔出口領域であるので、噴孔出口温度が所定の温度(すなわち、デポジットを構成する低級カルボン酸塩の分解温度)以上になったときに出口デポジット堆積量のうち低級カルボン酸塩を成分とするデポジット堆積量を零として出口デポジット堆積量を新たに算出するようにしてもよい。また、デポジットを構成するシュウ酸塩が分解してしまう温度が予め判っているのであれば、上述した実施形態において、シュウ酸塩がデポジットとして堆積する部位は、噴孔入口領域であるので、噴孔入口温度が所定の温度(すなわち、デポジットを構成するシュウ酸塩の分解温度)以上になったときに入口デポジット堆積量のうちシュウ酸塩を成分とするデポジット堆積量を零として入口デポジット堆積量を新たに算出するようにしてもよい。
上述した実施形態は、噴孔入口領域には、炭酸塩やシュウ酸塩を成分とするデポジットが堆積し、噴孔出口領域には、低級カルボン酸塩を成分とするデポジットが堆積するとの認識を前提にした実施形態である。しかしながら、各領域に堆積するデポジットの成分は、上述の限りではなく、燃料の性状、燃料噴射孔の形状、燃料噴射孔の周辺環境の状態などによって異なる。したがって、各領域に堆積するデポジットの成分が上述した実施形態のものとは異なる場合であっても、燃料の性状、燃料噴射孔の形状、燃料噴射孔の周辺環境の状態などを考慮したうえで、上述した実施形態に関連して説明した本発明の技術思想を利用することによって、領域毎の燃焼生成物生成量、領域毎のデポジット剥離量、および、領域毎のデポジット堆積量を正確に推定することができる。
次に、本発明の燃料噴射制御の1つの実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射量を制御する制御であって、入口デポジットに起因する燃料噴射量誤差(すなわち、入口デポジットが零であるときの実際の燃料噴射量を「予定燃料噴射量」とした場合において、「予定燃料噴射量に対する実際の燃料噴射量のずれ」であり、以下、これを単に「燃料噴射量誤差」という)を補償する制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「燃料噴射量制御」と称する。この燃料噴射量制御では、入口デポジット堆積量が零であるときに内燃機関に要求トルクを出力させることができる燃料噴射量が要求トルクに応じた基本燃料噴射量として予め求められている。また、補償する必要がある燃料噴射量誤差を生じさせる入口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定入口デポジット堆積量として予め求められている。また、燃料噴射量誤差が正の値となる燃料噴射量(すなわち、実燃料噴射量が目標燃料噴射量よりも少なくなる燃料噴射量)のうち最も少ない量が所定燃料噴射量として予め求められている。
そして、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、要求トルクに応じた基本燃料噴射量が設定される。そして、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であるか否かに係わらず、基本燃料噴射量がそのまま目標燃料噴射量に設定され、この目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられる。一方、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であるか否かが判断される。ここで、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であると判断されたときには、基本燃料噴射量を予め定められた量だけ増量した燃料噴射量が目標燃料噴射量に設定され、この目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられる。一方、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量よりも少ないと判断されたときには、基本燃料噴射量を予め定められた量だけ減量した燃料噴射量が目標燃料噴射量に設定され、この目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられる。
次に、本実施形態の燃料噴射量制御の利点について説明する。噴孔入口領域に燃焼生成物が入口デポジットとして堆積しているときに基本燃料噴射量を目標燃料噴射量とし、この目標燃料噴射量に対応した燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、入口デポジットの影響で基本燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない。つまり、実燃料噴射量が基本燃料噴射量からずれてしまう。そして、このずれ量(すなわち、燃料噴射量誤差)は、入口デポジット堆積量に応じて変化する。したがって、入口デポジット堆積量に応じて燃料噴射量誤差が零となるように補正した基本燃料噴射量を目標燃料噴射量とし、この目標燃料噴射量に対応した燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられれば、噴孔入口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、基本燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射される。したがって、本実施形態の燃料噴射量制御には、基本燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができ、ひいては、要求トルクを内燃機関に出力させることができるという利点がある。また、内燃機関の特定の性能(例えば、排気エミッションに関する性能)を高く維持するために空燃比を特定の空燃比に制御するようにしている場合に本実施形態の燃料噴射量制御が適用されれば、基本燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができるのであるから、空燃比を特定の空燃比に制御することができ、ひいては、内燃機関の特定の性能を高く維持することができるという利点が得られる。
また、本実施形態の燃料噴射量制御では、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以上である場合において、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量以上であるときには基本燃料噴射量を増量し、基本燃料噴射量が所定燃料噴射量よりも少ないときには基本燃料噴射量を減量している。このように基本燃料噴射量に応じて基本燃料噴射量を増量する補正をするのか減量する補正をするのかを変えているのは、以下の理由による。
すなわち、基本燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値を燃料噴射弁に与えたときに、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると、一般的には、実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなり、しかも、入口デポジット堆積量が多いほど実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなるとの認識がある。確かに、燃料噴射量(すなわち、燃料噴射弁から噴射される燃料の量)が比較的多い場合には、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなる。しかしながら、燃料噴射量が比較的少ない(特に、燃料噴射量が微少な量である)場合には、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくならず、逆に多くなる。
すなわち、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると燃料噴射孔内を燃料が流れづらくなる。このため、燃料噴射量が多かろうが少なかろうが、噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると燃料噴射孔を通過することができる燃料の量が少なくなる。ところが、燃料噴射孔を通過することができる燃料の量が少なくなる分だけ、燃料噴射弁のサック内の燃料の圧力が上昇する。そして、このサック内の燃料の圧力の上昇によって、燃料噴射弁のニードルの開弁速度(すなわち、ニードルのテーパ形状の先端部の外壁面がノズルの先端部の内周壁面から離れるようにニードルが移動する速度)が速くなる。このため、燃料噴射期間(すなわち、燃料噴射孔から燃料が噴射されている期間であり、ニードルのテーパ形状の先端部の外壁面がノズルの先端部の内周壁面から離れている期間に相当する)が少なからず長くなる。ところが、燃料噴射量が比較的多い場合、燃料噴射期間が比較的長いことから、サック内の燃料の圧力の上昇による燃料噴射期間の長期化よりも燃料噴射孔を通過する燃料の少量化のほうが燃料噴射量に対して支配的である。その結果、燃料噴射量が比較的多い場合に噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると、実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも少なくなるものと推察される。一方、燃料噴射量が比較的少ない場合、燃料噴射期間が比較的短いことから、燃料噴射量を通過する燃料の少量化よりもサック内の燃料の圧力の上昇による燃料噴射期間の長期化のほうが燃料噴射量に対して支配的である。その結果、燃料噴射量が比較的少ない場合に噴孔入口領域に燃焼生成物がデポジットとして堆積していると、実燃料噴射量が基本燃料噴射量よりも多くなるものと推察される。
以上の理由から、本実施形態の燃料噴射量制御では、基本燃料噴射量に応じて基本燃料噴射量を増量する補正をするのか減量する補正をするのかを変えているのである。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射量を増量させるための上記予め定められた量(以下この量を「所定増量分」という)は、燃料噴射量誤差を補償することができる量まで燃料噴射量を増大させる値に設定されることになる。
また、所定増量分を用いる代わりに、基本燃料噴射量を所定の割合だけ増量させる所定増量割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増量分または所定増量割合は、入口デポジット堆積量や基本燃料噴射量に係わらず一定の量または割合であってもよいし、入口デポジット堆積量を考慮して設定される量または割合であってもよいし、基本燃料噴射量を考慮して設定される量または割合であってもよい。ここで、所定増量分または所定増量割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、所定増量分または所定増量割合は入口デポジット堆積量が多いほど大きい値に設定される。また、所定増量分または所定増量割合が基本燃料噴射量を考慮して設定される場合、所定増量分または所定増量割合は、例えば、基本燃料噴射量が多いほど大きい値に設定される。
また、基本燃料噴射量を減量させるための上記予め定められた量(以下この量を「所定減量分」という)は、燃料噴射量誤差を補償することができる量まで燃料噴射量を減少させる値に設定されることになる。
また、所定減量分を用いる代わりに、基本燃料噴射量を所定の割合だけ減量させる所定減量割合を用いるようにしてもよい。そして、所定減量分または所定減量割合は、入口デポジット堆積量や基本燃料噴射量に係わらず一定の量または割合であってもよいし、入口デポジット堆積量を考慮して設定される量または割合であってもよいし、基本燃料噴射量を考慮して設定される量または割合であってもよい。ここで、所定減量分または所定減量割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、所定減量分または所定減量割合は入口デポジット堆積量が多いほど大きい値に設定される。また、所定減量分または所定減量割合が基本燃料噴射量を考慮して設定される場合、所定減量分または所定減量割合は、例えば、基本燃料噴射量が多いほど大きい値に設定される。
なお、燃料噴射量誤差が零になるように燃料噴射量を増量または減量させなくても、燃料噴射量誤差が小さくなる程度に燃料噴射量を増量または減量させることによって、実燃料噴射量を基本燃料噴射量に近づけることができ、このことにも利点がある。したがって、本実施形態の燃料噴射量制御において所定増量分または所定増量割合あるいは所定減量分または所定減量割合が「燃料噴射量誤差が小さくなる程度に燃料噴射量を増量または減量する値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の燃料噴射量制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図4に示されている。図4のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図4のルーチンが開始されると、始めに、ステップ201において、基本燃料噴射量Qbが設定される。次いで、ステップ202において、入口デポジット堆積量TXDinが取得される。次いで、ステップ203において、ステップ202で取得された入口デポジット堆積量TXDinが所定入口デポジット堆積量TXDinth以上である(TXDin≧TXDinth)か否かが判別される。ここで、TXDin≧TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ204に進む。一方、TXDin<TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ207に直接進む。
ステップ203でTXDin≧TXDinthであると判別され、ルーチンがステップ204に進むと、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbが所定燃料噴射量Qbth以上である(Qb≧Qbth)か否かが判別される。ここで、Qb≧Qbthであると判別されたときには、ルーチンはステップ205に進む。一方、Qb<Qbthであると判別されたときには、ルーチンはステップ206に進む。
ステップ204でQb≧Qbthであると判別され、ルーチンがステップ205に進むと、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbが予め定められた量だけ増量される補正が行われ、ルーチンがステップ207に進む。一方、ステップ204でQb<Qbthであると判別され、ルーチンがステップ206に進むと、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbが予め定められた量だけ減量される補正が行われ、ルーチンがステップ207に進む。
ルーチンがステップ203からステップ207に直接進んだ場合、ステップ201で取得された基本燃料噴射量Qbがそのまま目標燃料噴射量に設定されて該目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値Qvが設定される。一方、ルーチンがステップ205からステップ207に進んだ場合、ステップ205で増量された基本燃料噴射量Qbが目標燃料噴射量に設定されて該目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値Qvが設定される。一方、ルーチンがステップ206からステップ207に進んだ場合、ステップ206で減量された基本燃料噴射量Qbが目標燃料噴射量に設定されて該目標燃料噴射量に対応する燃料噴射指令値Qvが設定される。次いで、ステップ208において、ステップ207で設定された燃料噴射指令値Qvが燃料噴射弁に与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御の別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下を補償する制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第1燃料噴射圧制御」と称する。この第1燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、補償する必要がある出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下(以下この低下を単に「噴射燃料の微粒化度合の低下」という)を生じさせる出口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定出口デポジット堆積量として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第1燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、燃料噴射圧を上昇させれば、噴射燃料の微粒化度合が高くなる。したがって、出口デポジット堆積量に応じて噴射燃料の微粒化度合が所期の微粒化度合となるように燃料噴射圧を上昇させれば、噴孔出口領域に燃焼生成物が堆積していたとしても、噴射燃料の微粒化度合が所期の微粒化度合となる。第1燃料噴射圧制御では、出口デポジット堆積量が比較的多く、噴射燃料の微粒化度合の低下が比較的大きいときに、燃料噴射圧を上昇させる。したがって、第1燃料噴射圧制御には、噴射燃料の微粒化度合を所期の微粒化度合に維持することができ、ひいては、内燃機関の排気エミッションに関する性能を所期の性能に維持することができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるための上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、噴射燃料の微粒化度合の低下を補償することができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、一般的には、出口デポジット堆積量が多いほど噴射燃料の微粒化度合の低下が大きくなる傾向にあることから、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合を大きい値に設定するようにしてもよい。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になるように燃料噴射圧を上昇させなくても、少なくとも燃料噴射圧を上昇させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第1燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「燃料噴射圧を上昇させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第1燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図5に示されている。図5のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図5のルーチンが開始されると、始めに、ステップ301において、出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ302において、ステップ301で取得された出口デポジット堆積量TXDoutが所定出口デポジット堆積量TXDoutth以上である(TXDout≧TXDoutth)か否かが判別される。ここで、TXDout≧TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ303に進む。一方、TXDout<TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ304に直接進む。
ステップ302でTXDout≧TXDoutthであると判別され、ルーチンがステップ303に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ304に進む。
ルーチンがステップ302からステップ304に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ303からステップ304に進んだ場合、ステップ303で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ305において、ステップ304で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させるための制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第2燃料噴射圧制御」と称する。この第2燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、出口デポジットを剥離させる必要が生じる出口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定出口デポジット堆積量として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第2燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、出口デポジットは、主に、低級カルボン酸塩から構成されており、この低級カルボン酸塩は、比較的小さい燃料噴射圧の上昇でもって剥離させることができる。そして、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させれば、噴射燃料の微粒化度合が改善される。したがって、出口デポジットを噴孔出口領域から積極的に剥離させることが望ましいと判断されるのであれば、燃料噴射圧の上昇によって出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させることが望ましい。第2燃料噴射圧制御では、出口デポジット堆積量が比較的多く、出口デポジットを剥離させる必要があると判断したときに、燃料噴射圧の上昇によって出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させる。したがって、第2燃料噴射圧制御には、噴射燃料の微粒化度合を改善させることができ、ひいては、内燃機関の排気エミッションに関する性能を改善させることができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるために上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、出口デポジットを剥離させることができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、以下のように所定増圧分または所定増圧割合を設定するようにしてもよい。
すなわち、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(すなわち、剥離力)となる。ここで、噴孔出口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、出口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、出口デポジット堆積量が多いほど、出口デポジットは剥離しやすいことになる。云い方を換えれば、出口デポジット堆積量が多いほど、小さい燃料噴射圧の上昇でもって出口デポジットを剥離させることができる。したがって、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合が小さい値に設定されるようにしてもよい。
また、出口デポジット堆積量が多いほど出口デポジットが剥離しやすいのであるから、逆に、出口デポジット堆積量が少ないほど出口デポジットが剥離しづらい。したがって、出口デポジット堆積量が少ないときに出口デポジットを剥離させようとすると、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させる必要があるし、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない可能性もある。ここで、第2燃料噴射圧制御の上記所定出口デポジット堆積量を「燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない量」に設定すれば、出口デポジットを剥離させようとする燃料噴射圧の上昇を無駄に行うことが回避される。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になる程度に出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させなくても、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第2燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第2燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図6に示されている。図6のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図6のルーチンが開始されると、始めに、ステップ401において、出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ402において、ステップ401で取得された出口デポジット堆積量TXDoutが所定出口デポジット堆積量TXDoutth以上である(TXDout≧TXDoutth)か否かが判別される。ここで、TXDout≧TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ403に進む。一方、TXDout<TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ404に直接進む。
ステップ402でTXDout≧TXDoutthであると判別され、ルーチンがステップ403に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ404に進む。
ルーチンがステップ402からステップ404に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ403からステップ404に進んだ場合、ステップ403で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ405において、ステップ404で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させるための制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第3燃料噴射圧制御」と称する。この第3燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、入口デポジットを剥離させる必要が生じる入口デポジット堆積量のうち最も少ない量(この量は零であってもよい)が所定入口デポジット堆積量として予め求められている。そして、機関運転中、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第3燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔入口領域に燃焼生成物が入口デポジットとして堆積しているときに基本燃料噴射量を目標燃料噴射量とし、この目標燃料噴射量に対応した燃料噴射指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、入口デポジットの影響で基本燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない。つまり、燃料噴射量誤差が発生する。一方、入口デポジットは、主に、炭酸塩やシュウ酸塩から構成されており、これら炭酸塩やシュウ酸塩は、比較的小さい燃料噴射圧の上昇でもって剥離させることが困難である。しかしながら、燃料噴射量誤差が比較的大きくなるほど入口デポジットが噴孔入口領域に堆積してしまい、比較的大きい燃料噴射圧の上昇が必要であるとしても燃料噴射圧を上昇させて入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させるほうが望ましい場合もある。したがって、入口デポジットを噴孔入口領域から積極的に剥離させることが望ましいと判断されるのであれば、燃料噴射圧の上昇によって入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させることが望ましい。第3燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量が比較的多く、入口デポジットを剥離させる必要があると判断したときに、燃料噴射圧の上昇によって入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させる。したがって、第3燃料噴射圧制御には、燃料噴射量誤差を解消することができ、ひいては、要求トルクを内燃機関に出力させることができるという利点がある。また、内燃機関の特定の性能(例えば、排気エミッションに関する性能)を高く維持するために空燃比を特定の空燃比に制御するようにしている場合に第3燃料噴射圧制御が適用されれば、燃料噴射量誤差を解消することができるのであるから、空燃比を特定の空燃比に制御することができ、ひいては、内燃機関の特定の性能を高く維持することができるという利点が得られる。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるための上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、入口デポジットを剥離させることができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、入口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、入口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、以下のように所定増圧分または所定増圧割合を設定するようにしてもよい。
すなわち、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(すなわち、剥離力)となる。ここで、噴孔入口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、入口デポジット堆積量が多いほど、噴孔入口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、入口デポジット堆積量が多いほど、噴孔入口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、入口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、入口デポジット堆積量が多いほど、入口デポジットは剥離しやすいことになる。云い方を換えれば、入口デポジット堆積量が多いほど、小さい燃料噴射圧の上昇でもって入口デポジットを剥離させることができる。したがって、所定増圧分または所定増圧割合が入口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、入口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合が小さい値に設定されるようにしてもよい。
また、入口デポジット堆積量が多いほど入口デポジットが剥離しやすいのであるから、逆に、入口デポジット堆積量が少ないほど入口デポジットが剥離しづらい。したがって、入口デポジット堆積量が少ないときに入口デポジットを剥離させようとすると、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させる必要があるし、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても入口デポジットを剥離させることができない可能性もある。ここで、第3燃料噴射圧制御の上記所定入口デポジット堆積量を「燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても入口デポジットを剥離させることができない量」に設定すれば、入口デポジットを剥離させようとする燃料噴射圧の上昇を無駄に行うことが回避される。
なお、燃料噴射量誤差が解消される程度に入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させなくても、燃料噴射量誤差が小さくなる程度に入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させることによって、実燃料噴射量を基本燃料噴射量に近づけることができ、このことにも利点がある。したがって、第3燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「燃料噴射量誤差が小さくなる程度に入口デポジットを噴孔入口領域から剥離させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第3燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図7に示されている。図7のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図7のルーチンが開始されると、始めに、ステップ501において、入口デポジット堆積量TXDinが取得される。次いで、ステップ502において、ステップ501で取得された入口デポジット堆積量TXDinが所定入口デポジット堆積量TXDinth以上である(TXDin≧TXDinth)か否かが判別される。ここで、TXDin≧TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ503に進む。一方、TXDin<TXDinthであると判別されたときには、ルーチンはステップ504に直接進む。
ステップ502でTXDin≧TXDinthであると判別され、ルーチンがステップ503に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ504に進む。
ルーチンがステップ502からステップ504に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ503からステップ504に進んだ場合、ステップ503で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ505において、ステップ504で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下を補償する制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第4燃料噴射圧制御」と称する。この第4燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量以下であるときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多いときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第4燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、燃料噴射圧を上昇させれば、噴射燃料の微粒化度合が高くなる。しかしながら、入口デポジット堆積量が多いと、燃料噴射圧の上昇による噴射燃料の微粒化度合の上昇が小さくなる。そして、このことは、入口デポジット堆積量が出口デポジット堆積量よりも多いときに顕著となる。つまり、燃料噴射圧の上昇による噴射燃料の微粒化度合の上昇効率が低い。したがって、逆に、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多ければ、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の上昇効率が高い。第4燃料噴射圧制御では、出口デポジット堆積量が入口デポジット堆積量よりも多く、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の上昇効率が高いときに、燃料噴射圧を上昇させる。したがって、第4燃料噴射圧制御には、効率良く噴射燃料の微粒化度合を所期の微粒化度合に維持することができ、ひいては、効率良く内燃機関の排気エミッションに関する性能を所期の性能に維持することができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるための上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、出口デポジットに起因する噴射燃料の微粒化度合の低下を補償することができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、一般的には、出口デポジット堆積量が多いほど噴射燃料の微粒化度合の低下が大きくなる傾向にあることから、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合を大きい値に設定するようにしてもよい。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になるように燃料噴射圧を上昇させなくても、少なくとも燃料噴射圧を上昇させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第4燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「燃料噴射圧を上昇させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第4燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図8に示されている。図8のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図8のルーチンが開始されると、始めに、ステップ601において、入口デポジット堆積量TXDinおよび出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ602において、ステップ601で取得された出口デポジット堆積量TXDoutがステップ601で取得された入口デポジット堆積量TXDinよりも多い(TXDin<TXDout)か否かが判別される。ここで、TXDin<TXDoutであると判別されたときには、ルーチンはステップ603に進む。一方、TXDin≧TXDoutであると判別されたときには、ルーチンはステップ604に直接進む。
ステップ602でTXDin<TXDoutであると判別され、ルーチンがステップ603に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ604に進む。
ルーチンがステップ602からステップ604に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ603からステップ604に進んだ場合、ステップ603で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ605において、ステップ604で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
次に、本発明の燃料噴射制御のさらに別の実施形態について説明する。この実施形態の燃料噴射制御は、燃料噴射圧を制御する制御であって、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させるための制御を含むものである。以下、この燃料噴射制御を「第5燃料噴射圧制御」と称する。この第5燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量も出口デポジット堆積量も零であるときの燃料噴射圧として適した圧力が基本燃料噴射圧として予め求められている。また、燃料噴射圧を上昇させたとしても十分な出口デポジットの剥離を生じさせない入口デポジット堆積量のうち最も少ない量が所定入口デポジット堆積量として予め求められ、出口デポジットを剥離させる必要が生じる出口デポジット堆積量のうち最も少ない量が所定出口デポジット堆積量(この量は零であってもよい)として予め求められている。そして、機関運転中、出口デポジット堆積量に係わらず入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量よりも多いとき、或いは、入口デポジット堆積量に係わらず出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量よりも少ないときには、基本燃料噴射圧がそのまま目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。一方、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以下であって且つ出口デポジット堆積量が所定出口デポジット堆積量以上であるときには、基本燃料噴射圧を予め定められた値だけ増大した燃料噴射圧が目標燃料噴射圧に設定され、この目標燃料噴射圧に燃料噴射圧が制御される。
次に、第5燃料噴射圧制御の利点について説明する。噴孔出口領域に燃焼生成物が出口デポジットとして堆積していると、噴射燃料の微粒化度合が低下してしまう。一方、出口デポジットは、主に、低級カルボン酸塩から構成されており、この低級カルボン酸塩は、比較的小さい燃料噴射圧の上昇でもって剥離させることができる。そして、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させれば、噴射燃料の微粒化度合が改善される。しかしながら、入口デポジット堆積量が多いと、燃料噴射圧の上昇による出口デポジットの剥離量が少なくなる。つまり、入口デポジット堆積量が多いと、燃料噴射圧の上昇による出口デポジットの剥離効率が低い。したがって、逆に、入口デポジット堆積量が少なければ、燃料噴射圧の上昇による出口デポジットの剥離効率が高い。噴第5燃料噴射圧制御では、入口デポジット堆積量が比較的少なく且つ出口デポジット堆積量が比較的多く、燃料噴射圧の上昇による燃料噴射の微粒化度合の上昇効率が高いときに、燃料噴射圧を上昇させる。したがって、第5燃料噴射圧制御には、効率良く噴射燃料の微粒化度合を改善させることができ、ひいては、効率良く内燃機関の排気エミッションに関する性能を改善させることができるという利点がある。
なお、以上の事項に鑑みたとき、基本燃料噴射圧を増大させるために上記予め定められた値(以下この値を「所定増圧分」という)は、入口デポジット堆積量が所定入口デポジット堆積量以下である状況下において出口デポジットを剥離させることができる圧力まで燃料噴射圧を上昇させる値に設定されることになる。
また、所定増圧分を用いる代わりに、基本燃料噴射圧を所定の割合だけ増大させる所定増圧割合を用いるようにしてもよい。そして、所定増圧分または所定増圧割合は、出口デポジット堆積量に係わらず一定の値または割合であってもよいし、出口デポジット堆積量を考慮して設定される値または割合であってもよい。ここで、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、以下のように所定増圧分または所定増圧割合を設定するようにしてもよい。
すなわち、壁面から離れた領域に堆積しているデポジットは、壁面に近い領域に堆積しているデポジットに比べて、燃料噴射孔内を流れる燃料から大きな圧力を受ける。そして、この圧力は、デポジットを壁面から剥離させる力(すなわち、剥離力)となる。ここで、噴孔出口壁面にデポジットが一様に堆積しているとすれば、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面からのデポジットの厚みが厚い。したがって、出口デポジット堆積量が多いほど、噴孔出口壁面から離れた領域に堆積しているデポジットの量が多く、したがって、出口デポジットが受ける剥離力も大きい。このため、燃料噴射圧が同じであっても、出口デポジット堆積量が多いほど、出口デポジットは剥離しやすいことになる。云い方を換えれば、出口デポジット堆積量が多いほど、小さい燃料噴射圧の上昇でもって出口デポジットを剥離させることができる。したがって、所定増圧分または所定増圧割合が出口デポジット堆積量を考慮して設定される場合、出口デポジット堆積量が多いほど所定増圧分または所定増圧割合が小さい値に設定されるようにしてもよい。
また、出口デポジット堆積量が多いほど出口デポジットが剥離しやすいのであるから、逆に、出口デポジット堆積量が少ないほど出口デポジットが剥離しづらい。したがって、出口デポジット堆積量が少ないときに出口デポジットを剥離させようとすると、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させる必要があるし、燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない可能性もある。ここで、第2燃料噴射圧制御の上記所定出口デポジット堆積量を「燃料噴射圧を比較的大きく上昇させたとしても出口デポジットを剥離させることができない量」に設定すれば、出口デポジットを剥離させようとする燃料噴射圧の上昇を無駄に行うことが回避される。
なお、噴射燃料の微粒化度合の低下が零になる程度に出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させなくても、出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させることには、噴射燃料の微粒化度合を改善するという利点がある。したがって、第5燃料噴射圧制御において所定増圧分または所定増圧割合が「出口デポジットを噴孔出口領域から剥離させる値」に設定されてもよい。
次に、上述した実施形態の第5燃料噴射圧制御を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図9に示されている。図9のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図9のルーチンが開始されると、始めに、ステップ701において、入口デポジット堆積量TXDinおよび出口デポジット堆積量TXDoutが取得される。次いで、ステップ702において、ステップ701で取得された入口デポジット堆積量TXDinが所定入口デポジット堆積量TXDinth以下であり(TXDin≦TXDinth)且つステップ701で取得された出口デポジット堆積量TXDoutが所定出口デポジット堆積量TXDoutth以上である(TXDout≧TXDoutth)か否かが判別される。ここで、TXDin≦TXDinthで且つTXDout≧TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ703に進む。一方、TXDin>TXDinthであると判別されたとき、或いは、TXDout<TXDoutthであると判別されたときには、ルーチンはステップ704に直接進む。
ステップ702でTXDin≦TXDinthで且つTXDout≧TXDoutthであると判別され、ルーチンがステップ703に進むと、基本燃料噴射圧Pbが予め定められた値だけ増圧される補正が行われ、ルーチンがステップ704に進む。
ルーチンがステップ702からステップ704に直接進んだ場合、基本燃料噴射圧Pbがそのまま目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。一方、ルーチンがステップ703からステップ704に進んだ場合、ステップ703で増圧された基本燃料噴射圧Pbが目標燃料噴射圧に設定されて該目標燃料噴射圧に対応するポンプ指令値Pvが設定される。次いで、ステップ705において、ステップ704で設定されたポンプ指令値Pvが燃料ポンプに与えられ、ルーチンが終了する。
なお、上述した燃料噴射制御(すなわち、燃料噴射量制御、および、第1燃料噴射圧制御〜第5燃料噴射圧制御)のうち2つ以上の燃料噴射制御を適宜組み合わせた燃料噴射制御も本発明の範囲内にある。
次に、本発明の噴孔温度(詳細には、噴孔入口温度、および、噴孔出口温度)の算出の実施形態について説明する。1つの実施形態では、次式11に従って噴孔出口温度Toutが算出される。
式11において「Ta」は「吸気温度(すなわち、燃焼室に吸入される空気の温度)」であり、「Pa」は「吸気圧力(すなわち、燃焼室に吸入される空気の圧力)」であり、「Pcmax」は「最大筒内圧(すなわち、1機関サイクル中の燃焼室内の圧力のうち最も高い圧力)」であり、「κ」は「燃焼室に吸入された空気の比熱比」であり、「a」は「最大筒内温度(すなわち、1機関サイクル中の燃焼室内の温度のうち最も高い温度)を噴孔出口温度に変換するための変換係数」である。
また、別の実施形態では、次式12に従って噴孔出口温度Toutが算出される。
式12において「Ta」は「吸気温度」であり、「Pa」は「吸気圧力」であり、「Ti」は「燃料噴射タイミング(すなわち、1機関サイクルにおいて燃料噴射弁から燃料を噴射するタイミング)」であり、「Pi」は「燃料噴射圧」であり、「E」は「実圧縮比」であり、「κ」は「燃焼室に吸入された空気の比熱比」であり、「a」は「最大筒内温度を噴孔出口温度に変換するための変換係数」であり、「b」「c」「d」は「1機関サイクルにおける燃料の燃焼によって上昇せしめられる分の筒内温度(すなわち、燃焼室内の温度)を燃料噴射タイミング、燃料噴射圧、および、吸気圧力から算出するための係数」である。
また、1つの実施形態では、次式13に従って平均噴孔温度(すなわち、燃料噴射孔内の平均温度)Taveが算出される。
式13において「N」は「機関回転数」であり、「Ti」は「燃料噴射タイミング」であり、「Pi」は「燃料噴射圧」であり、「TQ」は「機関トルク」であり、「Tw」は「冷却水温度」であり、「Pa」は「吸気圧力」であり、「a」「b」「c」「d」「e」「f」「g」は「これら機関回転数、燃料噴射タイミング、燃料噴射圧、機関トルク、冷却水温度、および、吸気圧力から平均噴孔温度を算出するための係数」である。
そして、1つの実施形態では、次式14に従って噴孔入口温度Tinが算出される。
式14において「Tave」は「式13に従って算出される平均噴孔温度」であり、「Tout」は「式11または式12に従って算出される噴孔出口温度」であり、「a」は「平均噴孔温度および噴孔出口温度に基づいて式14から噴孔入口温度を算出するための係数」である。
また、別の実施形態では、次式15に従って噴孔入口温度Tinが算出される。
式15において「Tave」は「式13に従って算出される平均噴孔温度」であり、「Tout」は「式11または式12に従って算出される噴孔出口温度」であり、「a」「b」は「平均噴孔温度および噴孔出口温度に基づいて式15から噴孔入口温度を算出するための係数」である。
次に、上述した実施形態の噴孔温度の算出を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図10に示されている。図10のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図10のルーチンが開始されると、始めに、ステップ801において、吸気温度Ta、吸気圧力Pa、最大筒内圧Pcmax、機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、および、冷却水温度Twが取得される。次いで、ステップ802において、ステップ801で取得された吸気温度Ta、吸気圧力Pa、および、最大筒内圧Pcmaxを上式11に適用することによって噴孔出口温度Toutが算出される。次いで、ステップ803において、ステップ801で取得された機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、冷却水温度Tw、および、吸気圧力Paを上式13に適用することによって平均噴孔温度Taveが算出される。次いで、ステップ804において、ステップ802で算出された噴孔出口温度Tout、および、ステップ803で算出された平均噴孔温度Taveを上式14または上式15に適用することによって噴孔入口温度Tinが算出され、ルーチンが終了する。
次に、上述した実施形態の噴孔温度の算出を実行する別のルーチンについて説明する。このルーチンが図11に示されている。図11のルーチンは、所定時間が経過する毎に実行される。
図11のルーチンが開始されると、始めに、ステップ901において、吸気温度Ta、吸気圧力Pa、機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、および、冷却水温度Twが取得される。次いで、ステップ902において、ステップ901で取得された吸気温度Ta、吸気圧力Pa、燃料噴射タイミングTi、および、燃料噴射圧Piを上式12に適用することによって噴孔出口温度Toutが算出される。次いで、ステップ903において、ステップ901で取得された機関回転数N、燃料噴射タイミングTi、燃料噴射圧Pi、機関トルクTQ、冷却水温度Tw、および、吸気圧力Paを上式13に適用することによって平均噴孔温度Taveが算出される。次いで、ステップ904において、ステップ902で算出された噴孔出口温度Tout、および、ステップ903で算出された平均噴孔温度Taveを上式14または上式15に適用することによって噴孔入口温度Tinが算出され、ルーチンが終了する。