本発明はコモンモードフィルタに係り、特に、超高速差動伝送線路を伝搬する超高速差動信号の通過を確保し、コモンモード信号を減衰させる新規のコモンモードフィルタに関する。
近年、「HDTV:high definition television」や「Blu-ray Disc」等の高精細な映像コンテンツが普及し、これらコンテンツを支える膨大な量のデジタルデータを高速で伝送するために、接続に高速シリアル伝送が用いられるようになった。
高速シリアル伝送は、立上り時間を短くするために電圧振幅を小さくする必要があることから、ノイズ耐性が悪くなる。そこでノイズ耐性を高めるために、信号の差動伝送が一般的に使用されている。
この差動伝送方式は、ペアとなる2線路の各々に正相と逆相の差動信号を同時に送ることにより、伝送速度の高速化、省電力のための小振幅化を確保するとともに、外来雑音等のコモンモード信号を減衰させている。
ところが、差動伝送方式は、外来雑音等のコモンモード信号を減衰させる機能が不十分で、その悪影響を避けるため、差動伝送線路にコモンモードチョークコイルを挿入している。
従来、この種のコモンモードチョークコイルは、図示はしないが、磁性体ボビンに2本の導線を同じ巻数だけ巻いた構成が良く知られている。図26はその回路図を示している。
この構成のコモンモードチョークコイルにおいて、差動信号については、2本の導線を流れる電流が逆相で打消しあって磁束が発生せず、2本の導線のインピーダンスが低く保たれるため、それを通過し易い。
他方、コモンモード信号については、2本の導線を同相電流が流れて磁性体に磁束が発生し、2本の導線のインピーダンスが高くなってその信号が通過しにくくなることで、そのコモンモード信号を減衰可能になっている。
特開2000−58353号公報(特許文献1)の差動伝送線路用コモンモードチョークコイルは、上述した図26の構成に該当するものである。
この特許文献1は、トロイダルコアに巻装された2本のコイル導体が、ケース部とその蓋部とからなる樹脂製の外装ケース内に収容され、そのケース部の外周壁の外側面、底壁の外面および蓋部の外面にグランド導体がめっき形成され、グランド導体上には絶縁膜が形成され、それら絶縁膜の上に、端子板がそれぞれ接着され、端子板にはコイル導体の端部が半田付けされて構成され、特性インピーダンスを伝送線路に合致させて信号の反射を抑えたものである。
近年、上述した差動伝送方式においては、3Gビット/秒から6Gビット/秒の伝送速度が求められつつあり、近い将来、8G〜16Gビット/秒の伝送速度が要求されると言われている。
しかし、上述した図26に示した構成のコモンモードチョークコイルにおいて、最も高い周波数に対応させて構成しようとすると、図27のような差動信号の通過特性Sdd21およびコモンモード信号の通過特性Scc21しか得られない。
図27からも分かるように、コモンモード信号の通過特性Scc21は、V字形になって2〜3GHzでは−20dB程度の減衰が得られるものの、8〜10GHzでは減衰量が僅かとなり、コモンモード信号を十分減衰させ難い。
すなわち、図26の従来構成では、コモンモード信号の通過特性Scc21が限界に近く、今後必要とされる超高速差動信号の良好な伝送には対応し難い。
さらに、通過しないコモンモード信号は、コモンモードチョークコイルの入力端で反射して線路を逆方向に伝播し、多重反射する間に外部へ電磁放射される可能性があり、これが雑音の原因になり易い。
特にGHz帯の信号においては、波長が短いから、その波長が回路パターン長の整数倍と一致する確率が高まり、回路パターンがアンテナとなって電磁放射される可能性が高くなる。
そのため、電磁放射の心配のない低周波数信号においては、コモンモード信号が入力端で反射されても実用上は問題ないが、周波数の高いコモンモード信号については、その反射を無視できずに問題となる。
本発明はそのような課題を解決するためになされたもので、超高速差動伝送線路において、望ましい超高速差動信号を良好に通過させるとともに、望ましくないコモンモード信号を、反射による遮断のみならず、内部での吸収損失も組み合わせて減衰させることが可能なコモンモードフィルタの提供を目的とする。
そのような課題を解決するために本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタは、第1の誘電体層に形成され差動信号を伝送させる一対の導線路と、外部グランド電位から分離され、その第1の誘電体層を介在させた状態で導線路と対面するよう形成され、その導線路とともに、差動信号に対して分布定数型の差動伝送線路を形成する第1の浮きグランドと、この第1の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続される1個以上の第1の受動2端子回路と、を具備している。
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと上記外部グランド電位間にその第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタは、上記第1の受動2端子回路を間に置いて配置されその外部グランドに接続された第1の共通グランドを有し、その第1の受動2端子回路が第1の浮きグランドと第1の共通グランドの各端部間に接続されて構成されている。
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドの対向位置にその第1の共通グランドが配置され、その対向位置にて各端部間に第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、分割された第1の浮きグランドは、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間にその第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項6に係るコモンモードフィルタは、上記外部グランド電位から分離され、第2の誘電体層を介在させた状態でその導線路と対面するよう形成され、その分布定数型の差動伝送線路を形成する第2の浮きグランドを有して構成されている。
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続される1個以上の第2の受動2端子回路を有して構成されている。
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと外部グランド電位との間にその第2の受動2端子回路を接続して構成されている。
本発明の請求項9に係るコモンモードフィルタは、上記第2の受動2端子回路を間に置いて配置され外部グランドに接続された第2の共通グランドを有し、その第2の受動2端子回路が第2の浮きグランドと第2の共通グランドの各端部間に接続されて構成されている。
本発明の請求項10に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドの対向位置に第2の共通グランドが配置され、その対向位置にて各端部間にその第2の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項11に係るコモンモードフィルタは、上記分割された第2の浮きグランドが、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間に前記第2の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項12に係るコモンモードフィルタは、上記第1および第2の受動2端子回路が短絡線路であり、個々の浮きグランドとの接続点における導線路方向の幅が、その浮きグランドにあって導線路方向の1/2以下である構成を有している。
本発明の請求項13に係るコモンモードフィルタは、上記第1および第2の受動2端子回路が、受動素子としてのインダクタンス、容量、抵抗又はこれらの組合せであり、個々の浮きグランドとの接続点における導線路方向で最も離れた2点間の距離が、その浮きグランドにあって導線路方向の1/2以下である構成を有している。
そのような構成を有する本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタでは、導線路と第1の浮きグランドから形成された分布定数型の差動伝送線路と、これら第1の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続された第1の受動2端子回路とにより、コモンモード信号が遮断、吸収されるから、マイクロストリップライン構成において、超高速差動信号を良好に通過させ、コモンモード信号を十分減衰させることが可能である。
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタでは、上記第1の浮きグランドが導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドと外部グランド電位との間に第1の受動2端子回路が接続されているから、マイクロストリップライン構成において、コモンモード信号を遮断、吸収させる種々の減衰特性を得ることが容易である。
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタでは、上記第1の受動2端子回路を間に置いて配置されその外部グランドに接続された第1の共通グランドを有し、その第1の受動2端子回路が第1の浮きグランドと第1の共通グランドの各端部間に接続されているから、上述した効果に加えて、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドの対向位置にその第1の共通グランドが配置され、その対向位置にて各端部間に第1の受動2端子回路が接続されているから、同様に、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、分割された第1の浮きグランドは、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間にその第1の受動2端子回路が接続されているから、コモンモード信号が、隣接する浮きグランドを経由して共通グランドに帰る経路を取り、その経路内により多くの受動2端子回路が直列接続されるので、コモンモード信号を遮断・吸収させる種々の減衰特性をより効率的に得ることが容易である。
本発明の請求項6に係るコモンモードフィルタでは、上記外部グランド電位から分離され、第2の誘電体層を介在させた状態でその導線路と対面するよう形成され、その分布定数型の差動伝送線路を形成する第2の浮きグランドを有しているから、ストリップライン構成において、コモンモード信号を十分減衰させる減衰特性を得ることが可能である。
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続される1個以上の第2の受動2端子回路を有しているから、ストリップライン構成において、コモンモード信号を遮断、吸収させる種々の減衰特性を得ることが容易である。
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと外部グランド電位との間にその第2の受動2端子回路を接続しているから、同様に、コモンモード信号を遮断、吸収させる種々の減衰特性を得ることが容易である。
本発明の請求項9に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の受動2端子回路を間に置いて配置され外部グランドに接続された第2の共通グランドを有し、その第2の受動2端子回路が第2の浮きグランドと第2の共通グランドの各端部間に接続されているから、上述した効果に加えて、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項10に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の浮きグランドの対向位置に第2の共通グランドが配置され、その対向位置にて各端部間にその第2の受動2端子回路が接続されているから、同様に、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項11に係るコモンモードフィルタでは、上記分割された第2の浮きグランドが、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間に前記第2の受動2端子回路が接続されているから、ストリップライン構成において、コモンモード信号が、隣接する第2の浮きグランドにおいてもこれを経由して第2の共通グランドに帰る経路を取り、その経路内により多くの受動2端子回路が直列接続されるので、コモンモード信号を遮断・吸収させる種々の減衰特性をより効率的に得ることが容易である。
本発明の請求項12に係るコモンモードフィルタでは、上記第1および第2の受動2端子回路が短絡線路であり、個々の浮きグランドとの接続点における導線路方向の幅が、その浮きグランドにあって導線路方向の1/2以下の構成を有しているから、良好な減衰特性を得ることが一層確実である。
本発明の請求項13に係るコモンモードフィルタでは、上記第1および第2の受動2端子回路が、受動素子としてのインダクタンス、容量、抵抗又はこれらの組合せであり、個々の浮きグランドとの接続点における導線路方向で最も離れた2点間の距離が、その浮きグランドにあって導線路方向の1/2以下の構成を有しているから、複数の第1および第2の受動2端子回路を用いる構成にあっても、良好な減衰特性を得ることが一層確実である。
本発明のコモンモードフィルタの基本構成を説明するための横断面図である。
本発明のコモンモードフィルタの実施の形態を示す分解斜視図である。
図2のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図2のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図2のコモンモードフィルタの電力配分特性図である。
図2のコモンモードフィルタの電力分配特性図である。
図2のコモンモードフィルタの別の実施の形態を説明する要部平面図である。
図7のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図7のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図7のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図2のコモンモードフィルタの別の実施の形態を説明する要部平面図である。
図11のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図11のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図11のコモンモードフィルタの通過特性図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す要部平面図である。
図15のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図15のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図15のコモンモードフィルタの電力分配特性図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す要部斜視図である。
図19のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図19のコモンモードフィルタの電力分配特性図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す横断面図である。
図22のコモンモードフィルタの変形となる形態を示す横断面図である。
図22のコモンモードフィルタの要部斜視図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す横断面図である。
従来のコモンモードフィルタを示す回路図である。
図26に示す従来のコモンモードフィルタの特性図である。
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るコモンモードフィルタFの基本構成を示す概略横断面図であり、図2はその形態を透視図的に示す分解斜視図である。図2では外部回路も含めて示している。
図1および図2において、一対の帯状の導線路1A、1Bは、方形例えば長方形の薄い板状の誘電体層3の片面(図中上面)に等間隔離して平行に形成されている。
誘電体層3の他方の面(図中下面)には、導電性の浮きグランド5が導線路1A、1Bと対面するように全面に形成され、マイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路が形成されている。浮きグランド5の機能は後述する。
浮きグランド5に対し、導線路1A、1Bと反対側(図中下側)において、図示しない樹脂基板又はセラミック基板を介し、浮きグランド5と同形状の共通グランド7が対面するように配置されている。この共通グランド7は外部グランド電位に接続されている。
外部グランド電位は、コモンモードフィルタFが搭載される図示しない電子機器内の共通電位である。
誘電体層3、浮きグランド5および受動2端子回路CM1は、後述する実施の形態との関係で、第1の誘電体層、第1の浮きグランドおよび第1の受動2端子回路として機能する。
浮きグランド5にあって、導線路1A、1B間の中央にして導線路1A、1Bの長さ方向における中央部は接続点9となっており、この接続点9と共通グランド7の中央部には受動回路素子からなる受動2端子回路CM1が直接接続され、本発明のコモンモードフィルタFが構成されている。
受動2端子回路CM1を形成する受動回路素子としては、インダクタ、容量、抵抗、若しくはこれらの組み合わせ、又は短絡線路が考えられる。
浮きグランド5には、接続点9にて受動2端子回路CM1のみが接続され、終端抵抗が浮きグランド5に接続されないため、導線路1A、1B、誘電体層3および浮きグランド5は、コモンモード信号に対する終端開放線路を形成し、終端開放型の分布定数線路共振器として機能する。
浮きグランド5は、接続点9で接続される受動2端子回路CM1との組み合わせにより、複合的な直列共振回路を形成し、分布定数線路共振器とともに機能して高周波のコモンモード信号に対する減衰帯域フィルタとして機能する。詳細は後述する。
図2において、符号11A、11BはコモンモードフィルタFの入力端子であって導線路1A、1Bの入力端に接続されており、符号13A、13Bは出力端子であって導線路1A、1Bの出力端に接続されている。符号15A、15Bは入力側グランド端子であって共通グランド7における導線路1A、1Bの入力端近傍に接続されており、符号17A、17Bは出力側グランド端子であって共通グランド7における導線路1A、1Bの出力端近傍に接続されている。
次に、上述した図2のコモンモードフィルタFの動作を説明する。
図2において、電源からコモンモードフィルタFの入力端子11A、11Bに対し、電源インピーダンスZoの差動信号+vd、−vdが入力されると、差動信号+vd、−vdが導線路1A、1Bを伝搬して出力端子13A、13Bから各々負荷Zoへ出力される。
このとき、逆相の差動信号+vd、−vdは、受動2端子回路CM1においては互いに打ち消されて流れない。すなわち、図2の構成のコモンモードフィルタFにおいては、受動2端子回路CM1が差動信号に対しては存在しない状態になり、受動2端子回路CM1が接続されていても、単なるマイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路として動作する。
他方、コモンモード信号vcは、コモンモードフィルタFの2個の入力端子11A、11Bに同相で入力されるから、受動2端子回路CM1にも流れる。すなわち、受動2端子回路CM1は、コモンモード信号vcにのみ有効な素子として機能する。
しかも、受動2端子回路CM1は、インダクタ、容量、抵抗又はこれらの組み合わせ、更に、短絡回路で形成することにより、導線路1A、1B、誘電体層3および浮きグランド5とで形成される分布定数線路共振器との間で複合的な直列共振回路を形成し、高周波のコモンモード信号に対する帯域フィルタとして機能する。
これを確かめるため、図2の構成において、導線路1A、1Bの伝播遅延時間が30psとなるような寸法形状を設定し、受動2端子回路CM1を理想インダクタとして、浮きグランド5の接続点9から共通グランド7へ接続した状態で、電磁界解析を行った。
ここで、浮きグランド5の線路方向の長さは3.4mm、線路と垂直方向の幅は1.7mm、誘電体層の比誘電率は7.1、浮きグランド5と共通グランド7との距離は0.5mmであるとして結果、図3に示す通過特性を得た。
本発明のコモンモードフィルタFについて、入力端子11A、11Bと入力側グランド端子15A、15Bを入力側とし、出力端子13A、13Bと出力側グランド端子17A、17Bを出力側とする4端子回路と考えた場合、図3において、差動信号に対する通過特性が符号Sdd21で示され、コモンモード信号に対する通過特性が符号Scc21で示されている。
電磁界解析の結果、図2の構成は、差動信号に対しては、Sdd21に示される良好な通過特性を示す一方、コモンモード信号に対しては、通過特性Scc21(1)〜Scc21(3)に示すような、周波数fl(1)〜fl(3)を減衰極とする共振回路を構成し、コモンモード信号を減衰させるコモンモードフィルタの機能を持つことが分かった。
ここで、Scc21(1)およびfl(1)は受動2端子回路CM1が10nHの場合、Scc21(2)およびfl(2)は受動2端子回路CM1が1nHの場合、Scc21(3)およびfl(3)は受動2端子回路CM1が1pHの場合の通過特性および共振周波数である。インダクタンスを大きくすることで、共振周波数を低い方向へシフトできるが、同時に減衰帯域幅が狭まることが示されている。
これは、受動2端子回路CM1として理想インダクタを接続すると、共振回路中の全インダクタ成分が大きくなることで、共振回路を低い方向にシフトするとともに、共振回路中の理想インダクタの占める割合が大きくなることで、共振回路のQが高まり、減衰帯域幅が狭まったからである。
次に、上述した共振回路のQを調べるために、受動2端子回路CM1を理想抵抗素子として、同様な電磁界解析を行った。
図4は、受動2端子回路CM1が抵抗の場合の、コモンモードフィルタFの帯域特性図である。受動2端子回路CM1が0.1Ωの場合のコモンモード信号通過特性をScc21(1)に、1Ωの場合をScc21(2)に、5Ωの場合をScc21(3)に、50Ωの場合をScc21(4)に示す。
抵抗値0.1Ωの場合の通過特性Scc21(1)は、図3におけるインダクタンス1pHでの通過特性(3)に近い特性を示し、両者が理想状態の短絡線路に近いことが理解できる。すなわち、受動2端子回路CM1が単純な短絡線路でも、図2の構成において共振回路が形成され、この場合が最も深い減衰極となることも示されている。
受動2端子回路CM1の抵抗値が大きくなると、共振回路のQが低下し、次第に減衰極が浅くなる。特に受動2端子回路CM1が50Ωの場合は、もはや共振特性とは呼べない程度まで、減衰極が目立たなくなっている。すなわち、共振回路に抵抗が入ることによって、共振回路のQが下がり、エネルギーが抵抗で失われている。
さらに、受動2端子回路CM1が1pHのインダクタンスの場合と、50Ωの抵抗の場合とで、入力されたコモンモード信号電力が、どのような比率で通過および反射するかを調べた。
図5は、図2における受動2端子回路CM1が1pHのインダクタンスの場合について、コモンモードフィルタFに入力されたコモンモード信号電力を100%として、周波数毎に、どのような割合で通過し、どのような割合で反射するか示したものである。ここで、全電力から通過電力および反射電力を差し引いた残りの電力は、コモンモードフィルタF内で吸収消費されるコモンモード信号電力であり、これを吸収電力と定義する。
さらに、図6では、図2の構成において、受動2端子回路CM1が50Ωの抵抗の場合、コモンモードフィルタFに入力されたコモンモード信号電力を100%として、周波数毎に通過電力の割合、反射電力の割合および吸収電力の割合を示している。
これら図5および図6から分かるように、受動2端子回路CM1が抵抗の場合は、吸収電力が発生しているが、受動2端子回路CM1がインダクタンスの場合は吸収電力がほとんど発生せず、コモンモードフィルタFを通過しない電力のほとんどが反射されることが分かる。しかも、インダクタンスが1pHで理想短絡線路に近いことから、受動2端子回路CM1が短絡線路の場合でも、コモンモードフィルタFを通過しない電力は、そのほとんどが反射されると言える。
以上、受動2端子回路CM1を理想的なインダクタおよび抵抗として解析を進めてきたが、図2の構成において最も深い減衰極を得るにはインダクタンス、抵抗ともにできる限り小さい値、すなわち短絡線路が適していることが分かる。
この短絡線路は、単なる短絡線路ではなく、高周波のコモンモード信号に対して、分布定数線路共振器とともに直列共回路を形成するものである。
ところで、実際に製品を構成する場合の短絡線路は、基板の表裏面の電極等を貫通接続する導電性のビアで形成される可能性が最も高い。ただしビアの場合は有限の断面積を有するため、これまでの解析のように、接続点9での点接触とはなり難い。
そこで、図2において、受動2端子回路CM1を方形のビアとして電磁界解析を行った。
図7は、角型のビア9aと浮きグランド5を示したものである。導線路1A、1Bの線路方向のビア9aの幅をA、それらの線路と直角する方向の幅をB、浮きグランド5の線路方向の長さをL、それらの線路と垂直する方向の浮きグランド5の幅をWとし、これらの比率A/LおよびB/Wを変化させて、コモンモード信号の通過特性を求めた。その結果を図9〜図10に示す。各曲線は表1に示す特徴を有する。
ただし、L=3.4mm、W=1.7mm
なお、符号fs(1)は、各図において、A=85μmでの共振周波数である。また、Sdd21は差動信号通過特性であるが、すべての図で良好な特性を示している。
これらの図において、ビア9aの断面寸法が大きくなるほど、減衰極が浅くなり、また共振周波数も高域へシフトして、コモンモード信号の通過帯域が広くなっていくことが示されている。ただし、A/L≦0.25であれば、Bの値とは関係なく、深い減衰極と広い減衰帯域幅が得られている。
さらに、B=85μmのときは、A/L≦0.5の範囲で良好なScc21特性が得られている。
一方、A/L=0.75では、Bの値とは関係なく減衰極が浅くなり、また共振周波数も高域へシフトし、コモンモードフィルタとしては実用し難い特性となる。以上の内容をまとめると以下の通りとなる。
A/L≦0.25:コモンモードフィルタとして確実に機能
A/L≦0.5 :コモンモードフィルタとして機能可能
A/L≧0.75:コモンモードフィルタとして機能し難い
よって、コモンモードフィルタとして実用になるための最低限の条件はA/L≦0.5と言える。
実際の積層部品においては、ビア9aを形成するには小径のドリル、パンチング又はレーザー等で貫通孔を形成してこれに導電材料を充填等の手法で行われるため、1個のビア9aが、上記の条件を超える程大きい断面積になることは考えられない。
よって、ビア9a等の受動2端子回路CM1が、接続点9の1箇所だけで接続されるのであれば、図2の構造がコモンモードフィルタFとして機能する。
次に、受動2端子回路CM1が浮きグランドの広い範囲で多数接続された場合について考察する。
そこで、受動2端子回路CM1が多数接続された場合にも、先に求めた方形ビアでの、コモンモードフィルタFとして実用になるための条件、A/L≦0.5と同様のことがいえるか否か検証する。
先に解析した方形ビアでの解析結果は、方形ビア9aの領域を無数の細い短絡線路で埋め尽くしたことと等価であるので、そこから短絡線路の密度を低下させることによって、コモンモードフィルタFとして実用になるための必要条件がどのように変化するかを考える。
そこで、図11に示すように、方形ビアを近似させる最低本数として、方形のコーナー部分に接続点9b〜9eを配置し、線路方向の接続点間距離をa、線路と垂直方向の接続点間距離をbとして、各接続点に受動2端子回路CM1として理想短絡線路を接続し、図7の場合と同様な電磁界解析を行った。その結果を図12〜図14に示す。
図12〜図14を図8〜図10と対比させると、bの値とは関係なくa/L=0.75においても深い減衰極が得られており、a/L≦0.75であれば、間違いなくコモンモードフィルタFとして実用になると言える。
以上のことから、方形のビア9aを近似するため、短絡線路を多数並べる場合、コモンモードフィルタFとして実用になる条件は、
方形のコーナー部に4本 :a/L≦0.75
方形領域を多数の短絡線路で埋め尽くし:a/L≦0.5
であり、短絡線路の数量が増えるにつれ、a/Lの上限が0.75から0.5へ下がっていくことが予想される。
従って、少なくともa/L≦0.5となるように設計しておけば、コモンモードフィルタFとして実用になる条件は満たされる。
また、図示はしないが、ビア9aが大きな円柱の場合のコモンモードフィルタFとして実用になる条件も、ビア径をaとして、a/L≦0.5であり、大きな円柱を多数の短絡線路で近似した場合のコモンモードフィルタFとして実用になる条件もa/L≦0.5である。
以上のことから、ビアや短絡線路に限定せず、受動2端子回路がランダムに複数並んでいる場合も、コモンモードフィルタとして実用になるための条件は、複数存在する受動2端子回路の接続点のうち、導線路1A、1Bの線路方向に最も離れた2個の接続点間の距離が、浮きグランド5のそれら線路方向長の1/2以下であるといえる。
なお、浮きグランド5と共通グランド7の幅は、図1および図2では作図の便宜上、同じ寸法に揃えているが、浮きグランド5の幅に対し共通グランド7の幅を増減することでもコモンモード信号の減衰特性を変化させることも可能である。目的とする特性に応じて両者の幅寸法関係を任意に増減させればよい。
また、図示はしないが、接続点9を浮きグランド5の中央部から、線路方向に沿って端に移動すると、共振周波数は低い方へ変化する。よって共振周波数の微調整が可能となる。
さらに、図示はしないが、図2の構成で、線路方向の長さを長くして行き、遅延時間を30psより大きくすると、共振周波数が低下する。すなわち、共振周波数をより低く設定するには、遅延時間を大きくする事が最も効果的と言える。
次に、本発明のコモンモードフィルタFの別の実施の形態を説明する。
図15は、本発明のコモンモードフィルタFの別の実施の形態を説明する要部説明図であり、浮きグランド5を分割した構成を示している。
図15に示すコモンモードフィルタFとしての基本構成は、図2と同じであるが、浮きグランド5とそれに接続する受動2端子回路CM1の接続点の位置に違いがある。他の構成は図2と同様である。
すなわち、図15に示す構成は、遅延時間が150psとなる長さの導線路1A、1Bを有するマイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路において、浮きグランド5だけを取り出して示したものであり、遅延時間が大きくなっただけ導線路1A、1Bの長さと浮きグランド5の長さが長くなる。
この構成は、浮きグランド5の長さ方向において、当該浮きグランド5を分割し、長さが互いに異なる5個の分割浮きグランド5A、5B、5C、5D、5Eとし、その5個の各分割浮きグランド5A〜5E夫々に共通グランド7との間で、受動2端子回路CM1が1個ずつ接続されている(共通グランド7と受動2端子回路CM1は図示せず。)。
その分割方法は、浮きグランド5の全体の長さを100%とした場合、図15の左から分割浮きグランド5Aが10%、5Bが14.7%、5Cが19.1%、5Dが24.4%、5Eが30.6%の長さになっている。
分割された浮きグランド5A〜5Eは、互いに間隔の等しいギャップで分割されており、そのギャップの間隔の合計は1.2%である。
各分割浮きグランド5A〜5Eは、各々受動2端子回路CM1との接続点9A、9B、9C、9D、9Eが形成されるが、図中左端の浮きグランド5Aの接続点9Aはその中央部にあり、一番右端の浮きグランド5Eの接続点9Eは最も右端に選定されており、その間の浮きグランド5B〜5Dにおいては当該中央部から順次右側に移動させた位置に接続点9B〜9Dが選定されている。
このような構成においては、各導線路1A、1Bの線路長が長くなった分、共振周波数が下がることに加え、浮きグランド5が分割されて共振点が分けられ、広い周波数範囲でのコモンモード信号の減衰を得やすい。
図16は、図15の構成において、全て短絡線路からなる受動2端子回路CM1を接続点9A〜9Eに接続した場合の特性図であり、減衰極fs1は4.1GHz、fs2は5.0GHz、fs3は6.6GHz、fs4は8.1GHz、fs5は10.8GHzである。
その結果、コモンモード信号の通過特性は、4GHzから11.8GHzまでの範囲でU字形の特性となり−20dB以上の減衰値が得られている。
図16において、fs1〜fs5までの5つの減衰極の間にある山の高さが略−20dBに揃っているが、これらの特性は、図15に示した浮きグランド5の分割方法と分割浮きグランドにおける各2端子回路接続点9A〜9Eの位置の設定により得られたものである。
このように、図15の構成では、浮きグランド5が分割浮きグランド5A〜5Eに分割され、受動2端子回路CM1が1個ずつ接続されたことにより、複数の異なる共振周波数が得られ、広い帯域でのコモンモード信号の減衰が得られる利点がある。
また、具体的な図示はしないが、図15に示す分割浮きグランド5A〜5Eの接続点9A〜9Eに接続する受動2端子回路CM1の一部又は全てについて、数Ωから数十Ω程度の抵抗にすることも可能であり、図17はその特性図である。
なお、分割浮きグランド5A〜5Eの全て又はいずれかに受動2端子回路CM1を接続する構成も可能である。
図17に示す特性は、全ての受動2端子回路CM1を10Ωの抵抗としており、共振回路に抵抗が入って受動2端子回路CM1のQが下がった分、減衰極の谷の深さが浅くなり、減衰極間の頭の部分は逆に低くなっている。
その結果、コモンモード信号の減衰特性はU字型で4GHz付近での遮断量が−12dB程度に劣化する一方で、12GHz以上の帯域で山のピークが低くなって、広い帯域で均一な減衰特性になるよう改善されている。
使用目的から考察すれば、本発明のコモンモードフィルタFが必要とするコモンモード信号の通過特性は、特定の減衰極周波数だけで深い減衰を得るよりも平均的な減衰値、すなわち広い周波数帯域で一定の減衰量が得られることである。
それ以上に重要な点として、図6でも示したように、受動2端子回路CM1に抵抗を用いると、遮断されたコモンモードの一部が抵抗で吸収され、反射電力を減らすことができるという点である。
そこで、図17の特性を通過電力、反射電力および吸収電力の比率に書き換えたものを図18に示す。大部分が内部で吸収され、反射電力が抑制されていることが示されている。
そのためには、例えば上述したように単なるインダクタンス又は短絡線路によって得た深い減衰値を得る代わりに、これらの受動2端子回路CM1としてインダクタンス又は短絡線路に適当な値の抵抗を直列に接続し、共振回路のQを低下させて、コモンモードの電力を抵抗で吸収損失させる工夫をすればよい。これにより、一種のダンピング効果が得られて、広い周波数で一定の減衰カーブが得られるとともに、コモンモード信号に対する通過特性を改善できることが可能である。
以上は、導線路1A、1Bを直線として説明してきたが、遅延時間を大きくする意味では、導線路1A、1Bは折り返し線路でも良い。
また、全ての受動2端子回路CM1が浮きグランド5と共通グランド7との間に接続されてきたが、分割された浮きグランド5A〜5Eの隣合う全て又はいずれかの間に接続されても良い。その実施例を図19に示す。
図19は、図2において浮きグランド5の寸法はそのまま維持し、導線路1A、1Bを折り返し線路とし、浮きグランド5を導線路1A、1Bの折り返し周期に合わせて、1周期分の分割浮きグランド5A、3周期分の分割浮きグランド5Bおよび1周期分の分割浮きグランド5Cで分割したものである。中央の分割浮きグランド5Bのみ共通グランド7との間で、直径85μmのビアを受動2端子回路CM1として接続し、両サイドの分割浮きグランド5A、5Cは、受動2端子回路としての抵抗膜を介して中央の浮きグランド5Bに部分的に接続したものである。抵抗膜の抵抗値は20Ωである。このような構成での電磁界解析結果を図20に示す。
図20においてScc21(1)は、図19の構成でのコモンモード信号通過特性、Scc21(2)は参考として図2で受動2端子回路CM1を直径85μmのビアとした時のコモンモード信号通過特性、Sdd21は図19の構造での差動信号通過特性である。
これによれば、図19における浮きグランド5は、図2における浮きグランド5と同一外形寸法でありながら、分割浮きグランド5A〜5Cに分割されることにより、コモンモード減衰帯域が広くなり、減衰特性が大幅に改善されている。また、Sdd21は25GHz以上で大きく減衰しているが、実用上は問題ない通過特性である。
図21には、図20の通過特性Scc21(1)を有するコモンモード信号電力について、通過電力、反射電力および吸収電力の比率を求めたものである。このように、受動2端子回路CM1としての抵抗を、分割浮きグランド5A〜5C間に接続した場合でも、コモンモード電力を吸収できることがわかる。
以上説明した本発明は、共通グランド7が浮きグランド5と対面している構成であったが、本発明は共通グランド7が浮きグランド5と対面する構成に限定されない。
例えば、図22に示す構成は、浮きグランド5と同じ平面上で左右の外側に、同様な共通グランド7A、7Bを配置した例である。
この構成は、浮きグランド5の左右の対向端が接続点9F、9Gとなり、接続点9Fと共通グランド7A間に受動2端子回路CM1Aが接続され、接続点9Gと共通グランド7B間に別の受動2端子回路CM1Bが接続されている。
すなわち、浮きグランド5に1端を接続した受動2端子回路CM1Aの他端を共通グランド7Aに接続し、この対向位置で浮きグランド5に1端を接続した受動2端子回路CM1Bの他端を共通グランド7Bに接続して構成されている。
なお、入出力側の共通グランド7A、7Bは外部グランドに接続されており、その他の構成は上述した図2と同様である。
さらに、図23に示す構成は、図22の構成のうち共通グランド7A又は7Bに受動2端子回路CM1A又はCM1Bの各々一方だけ接続して構成し、共通グランド7B又は7A、受動2端子回路CM1B又はCM1Aを省略した場合である。
すなわち、浮きグランド5に1端を接続した受動2端子回路CM1Aの他端を、共通グランド7Aにのみ接続した構成である。
なお、図23は、図22の構成において、受動2端子回路CM1A又はCM1Bの一方を抵抗値無限大の抵抗にした構成と同じことになる。
図23の構成では、導線路1A、1Bに均等に印加されたコモンモード信号は、共通グランド7Aに向かって帰るが、導線路1Bからの帰還パスが導線路1Aより長くなるから、導線路1Aのコモンモード信号通過特性と導線路1Bのコモンモード信号通過特性が若干異なる。
しかし、コモンモードフィルタFに必要なのは、コモンモード信号の振幅の絶対値が減衰することであり、もともと、導線路1Aと導線路1Bで送られてくるコモンモード信号の周波数成分と振幅が完全に等しいことはないので、特性に若干のアンバランスがあっても、コモンモード信号の振幅の絶対値が少なければ、そのアンバランスによる影響は無視可能である。
図24は、図22の構成を透視図的に示す分解斜視図であり、共通グランド7A、7Bを枠板状にして示している。図示は省略するが、図2の構成と同様なコモンモード信号の通過特性が得られている。
さらに、受動2端子回路CM1A、CM1Bが複数ある場合は、複数ある接続点9Fどうし、9Gどうしのうちの一番離れた2点間距離が浮きグランド5の線路方向長さの1/2以下であればコモンモードフィルタとしての機能を維持できることが電磁界解析により確認されている。
また、受動2端子回路CM1A、CM1Bが幅のある短絡線路(接続片等)の場合、図2におけるビアの例に従って、接続片の幅=接続点9Fどうし、9Gどうしのうちの一番離れた2点間距離と解釈すればよい。
よって、図24の構成においても、接続片や短絡線路に限定せず、受動2端子回路が複数並んでいる場合でも、コモンモードフィルタFとして実用になるための条件は、複数存在する受動2端子回路の接続点のうち、線路方向に最も離れた2個の接続点の線路方向距離が、浮きグランドの線路方向長さの1/2以下であることと言える。
以上の説明では、本発明に係るコモンモードフィルタFが、分布定数型の差動伝送線路としてのマイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路である例を説明した。
しかし、本発明のコモンモードフィルタFは、一対の導線路が誘電体を挟んで対面するグランドを有する分布定数型の差動伝送線路、すなわち、ストリップ分布定数型の差動導線路を用いた構成も可能である。
次に、本発明に係るコモンモードフィルタFとしてストリップ分布定数型の差動導線路を用いた構成を説明する。
図25は、ストリップ分布定数型の差動導線路を用いた本発明のコモンモードフィルタFを示す横断面図である。
すなわち、図22に示す誘電体層(第1の誘電体層)3に上にこれと同様の誘電体層(第2の誘電体層)19を形成して導線路1A、1Bを挟み、誘電体層19の外表面全体に浮きグランド(第1の浮きグランド)5と同様な浮きグランド(第2の浮きグランド)21を形成し、この浮きグランド21と同じ平面上で左右の外側に共通グランド7A、7Bと同様の共通グランド7C、7Dが配置されている。
また、浮きグランド21の左右の対向端が接続点9H、9Iとなり、接続点9Hと共通グランド7Cの間に受動2端子回路CM2Cが接続され、接続点9Iと共通グランド7D間に別の受動2端子回路CM2Dが接続され、コモンモードフィルタFが構成されている。その他の構成は上述した図22と同様である。
そして、図25に示すコモンモードフィルタFにおける浮きグランド(第2の浮きグランド)21、受動2端子回路(第2の受動2端子回路)CM2C、CM2Dについても、上述した図1、図2、図7、図11、図15、図19、図23および図24の構成を適用し、浮きグランド(第1の浮きグランド)5、受動2端子回路(第1の受動2端子回路)CM1、CM1A、CM1Bと同様に考えて構成可能である。
以上の実施の形態例において、1個のコモンモードフィルタFに使用する受動インピーダンス2端子回路CM1が複数個の場合は、全て同じ種類の受動素子とするか、又は抵抗と短絡線路との組み合わせで説明した。
すなわち図11の構成では2個ないし4個の短絡線路を、図15の構成では5個の短絡線路や5個の抵抗を、図19の場合は1個の短絡線路と2個の抵抗を使用した例を示した。
しかし、本発明においては、1個のコモンモードフィルタFにおける受動2端子回路CM1、第2の受動2端子回路CM2として、インダクタンス、短絡線路、容量、抵抗を任意に組み合わせて使用可能である。
さらに、本発明のコモンモードフィルタFは、単体の部品としてだけでなく他の機能部品と一緒になった構成も可能である。
例えば、電子部品としての差動遅延線の中に本発明のコモンモードフィルタFを組み込む場合、差動遅延線の遅延時間がコモンモードフィルタFとして必要な遅延時間以上にあれば、必要な長さ分だけを必要な数の分割浮きグランドとする等して受動2端子回路CM1を接続し、残りの部分は受動2端子回路CM1を接続しない浮きグランド5としておけばよい。
また、一対の導線路1A、1Bが誘電体層3を挟んで対面する浮きグランド5を有する分布定数型の差動導線路の例として、マイクロストリップライン、ストリップラインの2種類のみで例示した。
しかし、本発明の理論的な思想に基づけば、一対の導線路の断面形状が同一平面に並置された平面状矩形である必要もないし、さらに一対の導線路が誘電体を挟んで対面するグランドも平面である必要はない。
例えば、ツイストペアとなった被覆導線を、誘電体として機能する絶縁物で覆い、その周りをグランドとなる導体で丸く覆ったものでも、そのグランドを浮きグランド5とできるし、さらにはそれを分割浮きグランドにする等で本発明の効果を実現可能である。
さらに、本発明では、一対の導線路1A、1Bが、同一の遅延時間を持つものとして解析してきたが、導線路1A、1Bに遅延時間差を持たせても良い。これによって、差動信号間に位相ずれが発生している場合に、コモンモードフィルタFによって、位相ずれの補正とコモンモード信号の減衰の効果を同時に得ることが可能となる。
1A、1B 導線路
3 誘電体層(第1の誘電体層)
5 浮きグランド(第1の浮きグランド)
5A、5B、5C、5D、5E 分割浮きグランド(第1の浮きグランド)
7、7A、7B 共通グランド
9、9A、9B、9C、9D、9E、9b、9c、9d、9e 接続点
9a ビア(接続点)
11A、11B 入力端子
13A、13B 出力端子
15A、15B 入力側グランド端子
17A、17B 出力側グランド端子
19 誘電体層(第2の誘電体層)
21 浮きグランド(第2の浮きグランド)
CM1、CM1A、CM1B 受動2端子回路(第1の受動2端子回路)
CM2C、CM2D 受動2端子回路(第2の受動2端子回路)
CM2 受動2端子回路(第2の受動2端子回路)
F コモンモードフィルタ
【0003】
[0015]
すなわち、図26の従来構成では、コモンモード信号の通過特性Scc21が限界に近く、今後必要とされる超高速差動信号の良好な伝送には対応し難い。
[0016]
さらに、通過しないコモンモード信号は、コモンモードチョークコイルの入力端で反射して線路を逆方向に伝播し、多重反射する間に外部へ電磁放射される可能性があり、これが雑音の原因になり易い。
[0017]
特にGHz帯の信号においては、波長が短いから、その波長が回路パターン長の整数倍と一致する確率が高まり、回路パターンがアンテナとなって電磁放射される可能性が高くなる。
[0018]
そのため、電磁放射の心配のない低周波数信号においては、コモンモード信号が入力端で反射されても実用上は問題ないが、周波数の高いコモンモード信号については、その反射を無視できずに問題となる。
[0019]
本発明はそのような課題を解決するためになされたもので、超高速差動伝送線路において、望ましい超高速差動信号を良好に通過させるとともに、望ましくないコモンモード信号を、反射による遮断のみならず、内部での吸収損失も組み合わせて減衰させることが可能なコモンモードフィルタの提供を目的とする。
課題を解決するための手段
[0020]
そのような課題を解決するために本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタは、第1の誘電体層に形成され差動信号を伝送させる一対の導線路と、外部グランド電位から分離され、その第1の誘電体層を介在させた状態で導線路と対面するよう形成され、その導線路とともに、差動信号に対して分布定数型の差動伝送線路を形成する第1の浮きグランドと、この第1の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続され、その第1の浮きグランドとの接続点における導線路方向で最も離れた2点間の距離が、その第1の浮きグランドにあってその導線路方向の1/2以下である1個以上の第1の受動2端子回路と、を具備している。
[0021]
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと上記外部グランド電位間にその第1の受動2端子回
【0004】
路が接続されて構成されている。
[0022]
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドと同一平面上でその第1の受動2端子回路を間に置いて配置されその外部グランドに接続された共通グランドを有し、その第1の受動2端子回路が第1の浮きグランドとその共通グランドの各端部間に接続されて構成されている。
[0023]
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドと同一平面上で当該第1の浮きグランドをはさんで左右位置にもその共通グランドが配置され、その左右位置における第1の浮きグランドと共通グランドの各端部間に第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
[0024]
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、分割された第1の浮きグランドは、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間にその第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
[0025]
本発明の請求項6に係るコモンモードフィルタは、上記外部グランド電位から分離され、第2の誘電体層を介在させた状態でその導線路と対面するよう形成され、その分布定数型の差動伝送線路を形成する第2の浮きグランドを有して構成されている。
[0026]
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続される1個以上の第2の受動2端子回路を有して構成されている。
[0027]
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと外部グランド電位との間にその第2の受動2端子回路を接続して構成されている。
[0028]
本発明の請求項9に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドと同一平面上で当該第2の受動2端子回路を間に置いて配置され外部グランドに接続された共通グランドを有し、その第2の受動2端子回路が、その第2の浮きグランドと、当該第2の浮きグランドと同一平面上のその共通グランドとの各端部間に接続されて構成されている。
[0029]
本発明の請求項10に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドと同一平面上で当該第2の浮きグランドをはさんで左右位置にもその共通グランドが配置され、左右位置における第2の浮きグランドと、当該第2の浮きグランドと同一平面上のその共通グランドとの各端部
【0005】
間にその第2の受動2端子回路が接続されて構成されている。
[0030]
本発明の請求項11に係るコモンモードフィルタは、上記分割された第2の浮きグランドが、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間に前記第2の受動2端子回路が接続されて構成されている。
[0031]
本発明の請求項12に係るコモンモードフィルタは、上記第1および第2の受動2端子回路が短絡線路である構成を有している。
[0032]
本発明の請求項13に係るコモンモードフィルタは、上記第1および第2の受動2端子回路が、受動素子としてのインダクタンス、容量、抵抗又はこれらの組合せである構成を有している。
発明の効果
[0033]
そのような構成を有する本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタでは、導線路と第1の浮きグランドから形成された分布定数型の差動伝送線路と、これら第1の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続された第1の受動2端子回路とにより、コモンモード信号が遮断、吸収されるから、マイクロストリップライン構成において、超高速差動信号を良好に通過させ、コモンモード信号を十分減衰させることが可能である。
[0034]
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタでは、上記第1の浮きグランドが導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドと外部グランド電位との間に第1の受動2端子回路が接続されているから、マイクロストリップライン構成において、コモンモード信号を遮断、吸収させる種々の減衰特性を得ることが容易である。
[0035]
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタでは、上記第1の受動2端子回路を間に置いて配置されその外部グランドに接続された第1の共通グランドを有し、その第1の受動2端子回路が第1の浮きグランドと第1の共通
【0007】
を有し、その第2の受動2端子回路が第2の浮きグランドと第2の共通グランドの各端部間に接続されているから、上述した効果に加えて、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
[0042]
本発明の請求項10に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の浮きグランドの対向位置に第2の共通グランドが配置され、その対向位置にて各端部間にその第2の受動2端子回路が接続されているから、同様に、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
[0043]
本発明の請求項11に係るコモンモードフィルタでは、上記分割された第2の浮きグランドが、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間に前記第2の受動2端子回路が接続されているから、ストリップライン構成において、コモンモード信号が、隣接する第2の浮きグランドにおいてもこれを経由して第2の共通グランドに帰る経路を取り、その経路内により多くの受動2端子回路が直列接続されるので、コモンモード信号を遮断・吸収させる種々の減衰特性をより効率的に得ることが容易である。
[0044]
本発明の請求項12に係るコモンモードフィルタでは、上記第1および第2の受動2端子回路が短絡線路の構成を有しているから、良好な減衰特性を得ることが一層確実である。
[0045]
本発明の請求項13に係るコモンモードフィルタでは、上記第1および第2の受動2端子回路が、受動素子としてのインダクタンス、容量、抵抗又はこれらの組合せの構成を有しているから、複数の第1および第2の受動2端子回路を用いる構成にあっても、良好な減衰特性を得ることが一層確実である。
図面の簡単な説明
[0046]
[図1]本発明のコモンモードフィルタの基本構成を説明するための横断面図である。
[図2]本発明のコモンモードフィルタの実施の形態を示す分解斜視図である。
本発明はコモンモードフィルタに係り、特に、超高速差動伝送線路を伝搬する超高速差動信号の通過を確保し、コモンモード信号を減衰させる新規のコモンモードフィルタに関する。
近年、「HDTV:high definition television」や「Blu-ray Disc」等の高精細な映像コンテンツが普及し、これらコンテンツを支える膨大な量のデジタルデータを高速で伝送するために、接続に高速シリアル伝送が用いられるようになった。
高速シリアル伝送は、立上り時間を短くするために電圧振幅を小さくする必要があることから、ノイズ耐性が悪くなる。そこでノイズ耐性を高めるために、信号の差動伝送が一般的に使用されている。
この差動伝送方式は、ペアとなる2線路の各々に正相と逆相の差動信号を同時に送ることにより、伝送速度の高速化、省電力のための小振幅化を確保するとともに、外来雑音等のコモンモード信号を減衰させている。
ところが、差動伝送方式は、外来雑音等のコモンモード信号を減衰させる機能が不十分で、その悪影響を避けるため、差動伝送線路にコモンモードチョークコイルを挿入している。
従来、この種のコモンモードチョークコイルは、図示はしないが、磁性体ボビンに2本の導線を同じ巻数だけ巻いた構成が良く知られている。図26はその回路図を示している。
この構成のコモンモードチョークコイルにおいて、差動信号については、2本の導線を流れる電流が逆相で打消しあって磁束が発生せず、2本の導線のインピーダンスが低く保たれるため、それを通過し易い。
他方、コモンモード信号については、2本の導線を同相電流が流れて磁性体に磁束が発生し、2本の導線のインピーダンスが高くなってその信号が通過しにくくなることで、そのコモンモード信号を減衰可能になっている。
特開2000−58353号公報(特許文献1)の差動伝送線路用コモンモードチョークコイルは、上述した図26の構成に該当するものである。
この特許文献1は、トロイダルコアに巻装された2本のコイル導体が、ケース部とその蓋部とからなる樹脂製の外装ケース内に収容され、そのケース部の外周壁の外側面、底壁の外面および蓋部の外面にグランド導体がめっき形成され、グランド導体上には絶縁膜が形成され、それら絶縁膜の上に、端子板がそれぞれ接着され、端子板にはコイル導体の端部が半田付けされて構成され、特性インピーダンスを伝送線路に合致させて信号の反射を抑えたものである。
近年、上述した差動伝送方式においては、3Gビット/秒から6Gビット/秒の伝送速度が求められつつあり、近い将来、8G〜16Gビット/秒の伝送速度が要求されると言われている。
しかし、上述した図26に示した構成のコモンモードチョークコイルにおいて、最も高い周波数に対応させて構成しようとすると、図27のような差動信号の通過特性Sdd21およびコモンモード信号の通過特性Scc21しか得られない。
図27からも分かるように、コモンモード信号の通過特性Scc21は、V字形になって2〜3GHzでは−20dB程度の減衰が得られるものの、8〜10GHzでは減衰量が僅かとなり、コモンモード信号を十分減衰させ難い。
すなわち、図26の従来構成では、コモンモード信号の通過特性Scc21が限界に近く、今後必要とされる超高速差動信号の良好な伝送には対応し難い。
さらに、通過しないコモンモード信号は、コモンモードチョークコイルの入力端で反射して線路を逆方向に伝播し、多重反射する間に外部へ電磁放射される可能性があり、これが雑音の原因になり易い。
特にGHz帯の信号においては、波長が短いから、その波長が回路パターン長の整数倍と一致する確率が高まり、回路パターンがアンテナとなって電磁放射される可能性が高くなる。
そのため、電磁放射の心配のない低周波数信号においては、コモンモード信号が入力端で反射されても実用上は問題ないが、周波数の高いコモンモード信号については、その反射を無視できずに問題となる。
本発明はそのような課題を解決するためになされたもので、超高速差動伝送線路において、望ましい超高速差動信号を良好に通過させるとともに、望ましくないコモンモード信号を、反射による遮断のみならず、内部での吸収損失も組み合わせて減衰させることが可能なコモンモードフィルタの提供を目的とする。
そのような課題を解決するために本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタは、第1の誘電体層に形成され差動信号を伝送させる一対の導線路と、外部グランド電位から分離され、その第1の誘電体層を介在させた状態で導線路と対面するよう形成され、その導線路とともに、差動信号に対して分布定数型の差動伝送線路を形成する第1の浮きグランドと、この第1の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続され、その第1の浮きグランドとの接続点におけるこの接続点の幅が、又は複数のそれら接続点間の距離に関する導線路方向で最も離れた2点間の距離が、その第1の浮きグランドにあってその導線路方向の1/2以下である1個以上の第1の受動2端子回路と、を具備している。
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと上記外部グランド電位間にその第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドと同一平面上でその第1の受動2端子回路を間に置いて配置されその外部グランドに接続された共通グランドを有し、その第1の受動2端子回路が第1の浮きグランドとその共通グランドの各端部間に接続されて構成されている。
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドと同一平面上で当該第1の浮きグランドをはさんで左右位置にもその共通グランドが配置され、その左右位置における第1の浮きグランドと共通グランドの各端部間に第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、分割された第1の浮きグランドは、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間にその第1の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項6に係るコモンモードフィルタは、上記外部グランド電位から分離され、第2の誘電体層を介在させた状態でその導線路と対面するよう形成され、その分布定数型の差動伝送線路を形成する第2の浮きグランドを有して構成されている。
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続される1個以上の第2の受動2端子回路を有して構成されている。
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと外部グランド電位との間にその第2の受動2端子回路を接続して構成されている。
本発明の請求項9に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドと同一平面上で当該第2の受動2端子回路を間に置いて配置され外部グランドに接続された共通グランドを有し、その第2の受動2端子回路が、その第2の浮きグランドと、当該第2の浮きグランドと同一平面上のその共通グランドとの各端部間に接続されて構成されている。
本発明の請求項10に係るコモンモードフィルタは、上記第2の浮きグランドと同一平面上で当該第2の浮きグランドをはさんで左右位置にもその共通グランドが配置され、左右位置における第2の浮きグランドと、当該第2の浮きグランドと同一平面上のその共通グランドとの各端部間にその第2の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項11に係るコモンモードフィルタは、上記分割された第2の浮きグランドが、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間に前記第2の受動2端子回路が接続されて構成されている。
本発明の請求項12に係るコモンモードフィルタは、上記受動2端子回路が短絡線路である構成を有している。
本発明の請求項13に係るコモンモードフィルタは、上記受動2端子回路が、受動素子としてのインダクタンス、容量、抵抗又はこれらの組合せである構成を有している。
そのような構成を有する本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタでは、導線路と第1の浮きグランドから形成された分布定数型の差動伝送線路と、これら第1の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続された第1の受動2端子回路とにより、コモンモード信号が遮断、吸収されるから、マイクロストリップライン構成において、超高速差動信号を良好に通過させ、コモンモード信号を十分減衰させることが可能である。
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタでは、上記第1の浮きグランドが導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドと外部グランド電位との間に第1の受動2端子回路が接続されているから、マイクロストリップライン構成において、コモンモード信号を遮断、吸収させる種々の減衰特性を得ることが容易である。
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタでは、上記第1の受動2端子回路を間に置いて配置されその外部グランドに接続された第1の共通グランドを有し、その第1の受動2端子回路が第1の浮きグランドと第1の共通グランドの各端部間に接続されているから、上述した効果に加えて、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタは、上記第1の浮きグランドの対向位置にその第1の共通グランドが配置され、その対向位置にて各端部間に第1の受動2端子回路が接続されているから、同様に、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、分割された第1の浮きグランドは、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間にその第1の受動2端子回路が接続されているから、コモンモード信号が、隣接する浮きグランドを経由して共通グランドに帰る経路を取り、その経路内により多くの受動2端子回路が直列接続されるので、コモンモード信号を遮断・吸収させる種々の減衰特性をより効率的に得ることが容易である。
本発明の請求項6に係るコモンモードフィルタでは、上記外部グランド電位から分離され、第2の誘電体層を介在させた状態でその導線路と対面するよう形成され、その分布定数型の差動伝送線路を形成する第2の浮きグランドを有しているから、ストリップライン構成において、コモンモード信号を十分減衰させる減衰特性を得ることが可能である。
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の浮きグランドおよび外部グランド電位の間に接続される1個以上の第2の受動2端子回路を有しているから、ストリップライン構成において、コモンモード信号を遮断、吸収させる種々の減衰特性を得ることが容易である。
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の浮きグランドが、その導線路の長さ方向に複数個に分割され、これら各分割浮きグランドの全て又はいずれかと外部グランド電位との間にその第2の受動2端子回路を接続しているから、同様に、コモンモード信号を遮断、吸収させる種々の減衰特性を得ることが容易である。
本発明の請求項9に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の受動2端子回路を間に置いて配置され外部グランドに接続された第2の共通グランドを有し、その第2の受動2端子回路が第2の浮きグランドと第2の共通グランドの各端部間に接続されているから、上述した効果に加えて、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項10に係るコモンモードフィルタでは、上記第2の浮きグランドの対向位置に第2の共通グランドが配置され、その対向位置にて各端部間にその第2の受動2端子回路が接続されているから、同様に、平面的な構成を得やすいうえ、構成の簡素化も容易である。
本発明の請求項11に係るコモンモードフィルタでは、上記分割された第2の浮きグランドが、隣り合う全て又は一部の分割浮きグランド間に前記第2の受動2端子回路が接続されているから、ストリップライン構成において、コモンモード信号が、隣接する第2の浮きグランドにおいてもこれを経由して第2の共通グランドに帰る経路を取り、その経路内により多くの受動2端子回路が直列接続されるので、コモンモード信号を遮断・吸収させる種々の減衰特性をより効率的に得ることが容易である。
本発明の請求項12に係るコモンモードフィルタでは、上記受動2端子回路が短絡線路の構成を有しているから、良好な減衰特性を得ることが一層確実である。
本発明の請求項13に係るコモンモードフィルタでは、上記受動2端子回路が、受動素子としてのインダクタンス、容量、抵抗又はこれらの組合せの構成を有しているから、複数の第1および第2の受動2端子回路を用いる構成にあっても、良好な減衰特性を得ることが一層確実である。
本発明のコモンモードフィルタの基本構成を説明するための横断面図である。
本発明のコモンモードフィルタの実施の形態を示す分解斜視図である。
図2のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図2のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図2のコモンモードフィルタの電力配分特性図である。
図2のコモンモードフィルタの電力分配特性図である。
図2のコモンモードフィルタの別の実施の形態を説明する要部平面図である。
図7のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図7のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図7のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図2のコモンモードフィルタの別の実施の形態を説明する要部平面図である。
図11のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図11のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図11のコモンモードフィルタの通過特性図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す要部平面図である。
図15のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図15のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図15のコモンモードフィルタの電力分配特性図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す要部斜視図である。
図19のコモンモードフィルタの通過特性図である。
図19のコモンモードフィルタの電力分配特性図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す横断面図である。
図22のコモンモードフィルタの変形となる形態を示す横断面図である。
図22のコモンモードフィルタの要部斜視図である。
本発明のコモンモードフィルタの別の実施の形態を示す横断面図である。
従来のコモンモードフィルタを示す回路図である。
図26に示す従来のコモンモードフィルタの特性図である。
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るコモンモードフィルタFの基本構成を示す概略横断面図であり、図2はその形態を透視図的に示す分解斜視図である。図2では外部回路も含めて示している。
図1および図2において、一対の帯状の導線路1A、1Bは、方形例えば長方形の薄い板状の誘電体層3の片面(図中上面)に等間隔離して平行に形成されている。
誘電体層3の他方の面(図中下面)には、導電性の浮きグランド5が導線路1A、1Bと対面するように全面に形成され、マイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路が形成されている。浮きグランド5の機能は後述する。
浮きグランド5に対し、導線路1A、1Bと反対側(図中下側)において、図示しない樹脂基板又はセラミック基板を介し、浮きグランド5と同形状の共通グランド7が対面するように配置されている。この共通グランド7は外部グランド電位に接続されている。
外部グランド電位は、コモンモードフィルタFが搭載される図示しない電子機器内の共通電位である。
誘電体層3、浮きグランド5および受動2端子回路CM1は、後述する実施の形態との関係で、第1の誘電体層、第1の浮きグランドおよび第1の受動2端子回路として機能する。
浮きグランド5にあって、導線路1A、1B間の中央にして導線路1A、1Bの長さ方向における中央部は接続点9となっており、この接続点9と共通グランド7の中央部には受動回路素子からなる受動2端子回路CM1が直接接続され、本発明のコモンモードフィルタFが構成されている。
受動2端子回路CM1を形成する受動回路素子としては、インダクタ、容量、抵抗、若しくはこれらの組み合わせ、又は短絡線路が考えられる。
浮きグランド5には、接続点9にて受動2端子回路CM1のみが接続され、終端抵抗が浮きグランド5に接続されないため、導線路1A、1B、誘電体層3および浮きグランド5は、コモンモード信号に対する終端開放線路を形成し、終端開放型の分布定数線路共振器として機能する。
浮きグランド5は、接続点9で接続される受動2端子回路CM1との組み合わせにより、複合的な直列共振回路を形成し、分布定数線路共振器とともに機能して高周波のコモンモード信号に対する減衰帯域フィルタとして機能する。詳細は後述する。
図2において、符号11A、11BはコモンモードフィルタFの入力端子であって導線路1A、1Bの入力端に接続されており、符号13A、13Bは出力端子であって導線路1A、1Bの出力端に接続されている。符号15A、15Bは入力側グランド端子であって共通グランド7における導線路1A、1Bの入力端近傍に接続されており、符号17A、17Bは出力側グランド端子であって共通グランド7における導線路1A、1Bの出力端近傍に接続されている。
次に、上述した図2のコモンモードフィルタFの動作を説明する。
図2において、電源からコモンモードフィルタFの入力端子11A、11Bに対し、電源インピーダンスZoの差動信号+vd、−vdが入力されると、差動信号+vd、−vdが導線路1A、1Bを伝搬して出力端子13A、13Bから各々負荷Zoへ出力される。
このとき、逆相の差動信号+vd、−vdは、受動2端子回路CM1においては互いに打ち消されて流れない。すなわち、図2の構成のコモンモードフィルタFにおいては、受動2端子回路CM1が差動信号に対しては存在しない状態になり、受動2端子回路CM1が接続されていても、単なるマイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路として動作する。
他方、コモンモード信号vcは、コモンモードフィルタFの2個の入力端子11A、11Bに同相で入力されるから、受動2端子回路CM1にも流れる。すなわち、受動2端子回路CM1は、コモンモード信号vcにのみ有効な素子として機能する。
しかも、受動2端子回路CM1は、インダクタ、容量、抵抗又はこれらの組み合わせ、更に、短絡回路で形成することにより、導線路1A、1B、誘電体層3および浮きグランド5とで形成される分布定数線路共振器との間で複合的な直列共振回路を形成し、高周波のコモンモード信号に対する帯域フィルタとして機能する。
これを確かめるため、図2の構成において、導線路1A、1Bの伝播遅延時間が30psとなるような寸法形状を設定し、受動2端子回路CM1を理想インダクタとして、浮きグランド5の接続点9から共通グランド7へ接続した状態で、電磁界解析を行った。
ここで、浮きグランド5の線路方向の長さは3.4mm、線路と垂直方向の幅は1.7mm、誘電体層の比誘電率は7.1、浮きグランド5と共通グランド7との距離は0.5mmであるとして結果、図3に示す通過特性を得た。
本発明のコモンモードフィルタFについて、入力端子11A、11Bと入力側グランド端子15A、15Bを入力側とし、出力端子13A、13Bと出力側グランド端子17A、17Bを出力側とする4端子回路と考えた場合、図3において、差動信号に対する通過特性が符号Sdd21で示され、コモンモード信号に対する通過特性が符号Scc21で示されている。
電磁界解析の結果、図2の構成は、差動信号に対しては、Sdd21に示される良好な通過特性を示す一方、コモンモード信号に対しては、通過特性Scc21(1)〜Scc21(3)に示すような、周波数fl(1)〜fl(3)を減衰極とする共振回路を構成し、コモンモード信号を減衰させるコモンモードフィルタの機能を持つことが分かった。
ここで、Scc21(1)およびfl(1)は受動2端子回路CM1が10nHの場合、Scc21(2)およびfl(2)は受動2端子回路CM1が1nHの場合、Scc21(3)およびfl(3)は受動2端子回路CM1が1pHの場合の通過特性および共振周波数である。インダクタンスを大きくすることで、共振周波数を低い方向へシフトできるが、同時に減衰帯域幅が狭まることが示されている。
これは、受動2端子回路CM1として理想インダクタを接続すると、共振回路中の全インダクタ成分が大きくなることで、共振回路を低い方向にシフトするとともに、共振回路中の理想インダクタの占める割合が大きくなることで、共振回路のQが高まり、減衰帯域幅が狭まったからである。
次に、上述した共振回路のQを調べるために、受動2端子回路CM1を理想抵抗素子として、同様な電磁界解析を行った。
図4は、受動2端子回路CM1が抵抗の場合の、コモンモードフィルタFの帯域特性図である。受動2端子回路CM1が0.1Ωの場合のコモンモード信号通過特性をScc21(1)に、1Ωの場合をScc21(2)に、5Ωの場合をScc21(3)に、50Ωの場合をScc21(4)に示す。
抵抗値0.1Ωの場合の通過特性Scc21(1)は、図3におけるインダクタンス1pHでの通過特性(3)に近い特性を示し、両者が理想状態の短絡線路に近いことが理解できる。すなわち、受動2端子回路CM1が単純な短絡線路でも、図2の構成において共振回路が形成され、この場合が最も深い減衰極となることも示されている。
受動2端子回路CM1の抵抗値が大きくなると、共振回路のQが低下し、次第に減衰極が浅くなる。特に受動2端子回路CM1が50Ωの場合は、もはや共振特性とは呼べない程度まで、減衰極が目立たなくなっている。すなわち、共振回路に抵抗が入ることによって、共振回路のQが下がり、エネルギーが抵抗で失われている。
さらに、受動2端子回路CM1が1pHのインダクタンスの場合と、50Ωの抵抗の場合とで、入力されたコモンモード信号電力が、どのような比率で通過および反射するかを調べた。
図5は、図2における受動2端子回路CM1が1pHのインダクタンスの場合について、コモンモードフィルタFに入力されたコモンモード信号電力を100%として、周波数毎に、どのような割合で通過し、どのような割合で反射するか示したものである。ここで、全電力から通過電力および反射電力を差し引いた残りの電力は、コモンモードフィルタF内で吸収消費されるコモンモード信号電力であり、これを吸収電力と定義する。
さらに、図6では、図2の構成において、受動2端子回路CM1が50Ωの抵抗の場合、コモンモードフィルタFに入力されたコモンモード信号電力を100%として、周波数毎に通過電力の割合、反射電力の割合および吸収電力の割合を示している。
これら図5および図6から分かるように、受動2端子回路CM1が抵抗の場合は、吸収電力が発生しているが、受動2端子回路CM1がインダクタンスの場合は吸収電力がほとんど発生せず、コモンモードフィルタFを通過しない電力のほとんどが反射されることが分かる。しかも、インダクタンスが1pHで理想短絡線路に近いことから、受動2端子回路CM1が短絡線路の場合でも、コモンモードフィルタFを通過しない電力は、そのほとんどが反射されると言える。
以上、受動2端子回路CM1を理想的なインダクタおよび抵抗として解析を進めてきたが、図2の構成において最も深い減衰極を得るにはインダクタンス、抵抗ともにできる限り小さい値、すなわち短絡線路が適していることが分かる。
この短絡線路は、単なる短絡線路ではなく、高周波のコモンモード信号に対して、分布定数線路共振器とともに直列共回路を形成するものである。
ところで、実際に製品を構成する場合の短絡線路は、基板の表裏面の電極等を貫通接続する導電性のビアで形成される可能性が最も高い。ただしビアの場合は有限の断面積を有するため、これまでの解析のように、接続点9での点接触とはなり難い。
そこで、図2において、受動2端子回路CM1を方形のビアとして電磁界解析を行った。
図7は、角型のビア9aと浮きグランド5を示したものである。導線路1A、1Bの線路方向のビア9aの幅をA、それらの線路と直角する方向の幅をB、浮きグランド5の線路方向の長さをL、それらの線路と垂直する方向の浮きグランド5の幅をWとし、これらの比率A/LおよびB/Wを変化させて、コモンモード信号の通過特性を求めた。その結果を図9〜図10に示す。各曲線は表1に示す特徴を有する。
ただし、L=3.4mm、W=1.7mm
なお、符号fs(1)は、各図において、A=85μmでの共振周波数である。また、Sdd21は差動信号通過特性であるが、すべての図で良好な特性を示している。
これらの図において、ビア9aの断面寸法が大きくなるほど、減衰極が浅くなり、また共振周波数も高域へシフトして、コモンモード信号の通過帯域が広くなっていくことが示されている。ただし、A/L≦0.25であれば、Bの値とは関係なく、深い減衰極と広い減衰帯域幅が得られている。
さらに、B=85μmのときは、A/L≦0.5の範囲で良好なScc21特性が得られている。
一方、A/L=0.75では、Bの値とは関係なく減衰極が浅くなり、また共振周波数も高域へシフトし、コモンモードフィルタとしては実用し難い特性となる。以上の内容をまとめると以下の通りとなる。
A/L≦0.25:コモンモードフィルタとして確実に機能
A/L≦0.5 :コモンモードフィルタとして機能可能
A/L≧0.75:コモンモードフィルタとして機能し難い
よって、コモンモードフィルタとして実用になるための最低限の条件はA/L≦0.5と言える。
実際の積層部品においては、ビア9aを形成するには小径のドリル、パンチング又はレーザー等で貫通孔を形成してこれに導電材料を充填等の手法で行われるため、1個のビア9aが、上記の条件を超える程大きい断面積になることは考えられない。
よって、ビア9a等の受動2端子回路CM1が、接続点9の1箇所だけで接続されるのであれば、図2の構造がコモンモードフィルタFとして機能する。
次に、受動2端子回路CM1が浮きグランドの広い範囲で多数接続された場合について考察する。
そこで、受動2端子回路CM1が多数接続された場合にも、先に求めた方形ビアでの、コモンモードフィルタFとして実用になるための条件、A/L≦0.5と同様のことがいえるか否か検証する。
先に解析した方形ビアでの解析結果は、方形ビア9aの領域を無数の細い短絡線路で埋め尽くしたことと等価であるので、そこから短絡線路の密度を低下させることによって、コモンモードフィルタFとして実用になるための必要条件がどのように変化するかを考える。
そこで、図11に示すように、方形ビアを近似させる最低本数として、方形のコーナー部分に接続点9b〜9eを配置し、線路方向の接続点間距離をa、線路と垂直方向の接続点間距離をbとして、各接続点に受動2端子回路CM1として理想短絡線路を接続し、図7の場合と同様な電磁界解析を行った。その結果を図12〜図14に示す。
図12〜図14を図8〜図10と対比させると、bの値とは関係なくa/L=0.75においても深い減衰極が得られており、a/L≦0.75であれば、間違いなくコモンモードフィルタFとして実用になると言える。
以上のことから、方形のビア9aを近似するため、短絡線路を多数並べる場合、コモンモードフィルタFとして実用になる条件は、
方形のコーナー部に4本 :a/L≦0.75
方形領域を多数の短絡線路で埋め尽くし:a/L≦0.5
であり、短絡線路の数量が増えるにつれ、a/Lの上限が0.75から0.5へ下がっていくことが予想される。
従って、少なくともa/L≦0.5となるように設計しておけば、コモンモードフィルタFとして実用になる条件は満たされる。
また、図示はしないが、ビア9aが大きな円柱の場合のコモンモードフィルタFとして実用になる条件も、ビア径をaとして、a/L≦0.5であり、大きな円柱を多数の短絡線路で近似した場合のコモンモードフィルタFとして実用になる条件もa/L≦0.5である。
以上のことから、ビアや短絡線路に限定せず、受動2端子回路がランダムに複数並んでいる場合も、コモンモードフィルタとして実用になるための条件は、複数存在する受動2端子回路の接続点のうち、導線路1A、1Bの線路方向に最も離れた2個の接続点間の距離が、浮きグランド5のそれら線路方向長の1/2以下であるといえる。
なお、浮きグランド5と共通グランド7の幅は、図1および図2では作図の便宜上、同じ寸法に揃えているが、浮きグランド5の幅に対し共通グランド7の幅を増減することでもコモンモード信号の減衰特性を変化させることも可能である。目的とする特性に応じて両者の幅寸法関係を任意に増減させればよい。
また、図示はしないが、接続点9を浮きグランド5の中央部から、線路方向に沿って端に移動すると、共振周波数は低い方へ変化する。よって共振周波数の微調整が可能となる。
さらに、図示はしないが、図2の構成で、線路方向の長さを長くして行き、遅延時間を30psより大きくすると、共振周波数が低下する。すなわち、共振周波数をより低く設定するには、遅延時間を大きくする事が最も効果的と言える。
次に、本発明のコモンモードフィルタFの別の実施の形態を説明する。
図15は、本発明のコモンモードフィルタFの別の実施の形態を説明する要部説明図であり、浮きグランド5を分割した構成を示している。
図15に示すコモンモードフィルタFとしての基本構成は、図2と同じであるが、浮きグランド5とそれに接続する受動2端子回路CM1の接続点の位置に違いがある。他の構成は図2と同様である。
すなわち、図15に示す構成は、遅延時間が150psとなる長さの導線路1A、1Bを有するマイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路において、浮きグランド5だけを取り出して示したものであり、遅延時間が大きくなっただけ導線路1A、1Bの長さと浮きグランド5の長さが長くなる。
この構成は、浮きグランド5の長さ方向において、当該浮きグランド5を分割し、長さが互いに異なる5個の分割浮きグランド5A、5B、5C、5D、5Eとし、その5個の各分割浮きグランド5A〜5E夫々に共通グランド7との間で、受動2端子回路CM1が1個ずつ接続されている(共通グランド7と受動2端子回路CM1は図示せず。)。
その分割方法は、浮きグランド5の全体の長さを100%とした場合、図15の左から分割浮きグランド5Aが10%、5Bが14.7%、5Cが19.1%、5Dが24.4%、5Eが30.6%の長さになっている。
分割された浮きグランド5A〜5Eは、互いに間隔の等しいギャップで分割されており、そのギャップの間隔の合計は1.2%である。
各分割浮きグランド5A〜5Eは、各々受動2端子回路CM1との接続点9A、9B、9C、9D、9Eが形成されるが、図中左端の浮きグランド5Aの接続点9Aはその中央部にあり、一番右端の浮きグランド5Eの接続点9Eは最も右端に選定されており、その間の浮きグランド5B〜5Dにおいては当該中央部から順次右側に移動させた位置に接続点9B〜9Dが選定されている。
このような構成においては、各導線路1A、1Bの線路長が長くなった分、共振周波数が下がることに加え、浮きグランド5が分割されて共振点が分けられ、広い周波数範囲でのコモンモード信号の減衰を得やすい。
図16は、図15の構成において、全て短絡線路からなる受動2端子回路CM1を接続点9A〜9Eに接続した場合の特性図であり、減衰極fs1は4.1GHz、fs2は5.0GHz、fs3は6.6GHz、fs4は8.1GHz、fs5は10.8GHzである。
その結果、コモンモード信号の通過特性は、4GHzから11.8GHzまでの範囲でU字形の特性となり−20dB以上の減衰値が得られている。
図16において、fs1〜fs5までの5つの減衰極の間にある山の高さが略−20dBに揃っているが、これらの特性は、図15に示した浮きグランド5の分割方法と分割浮きグランドにおける各2端子回路接続点9A〜9Eの位置の設定により得られたものである。
このように、図15の構成では、浮きグランド5が分割浮きグランド5A〜5Eに分割され、受動2端子回路CM1が1個ずつ接続されたことにより、複数の異なる共振周波数が得られ、広い帯域でのコモンモード信号の減衰が得られる利点がある。
また、具体的な図示はしないが、図15に示す分割浮きグランド5A〜5Eの接続点9A〜9Eに接続する受動2端子回路CM1の一部又は全てについて、数Ωから数十Ω程度の抵抗にすることも可能であり、図17はその特性図である。
なお、分割浮きグランド5A〜5Eの全て又はいずれかに受動2端子回路CM1を接続する構成も可能である。
図17に示す特性は、全ての受動2端子回路CM1を10Ωの抵抗としており、共振回路に抵抗が入って受動2端子回路CM1のQが下がった分、減衰極の谷の深さが浅くなり、減衰極間の頭の部分は逆に低くなっている。
その結果、コモンモード信号の減衰特性はU字型で4GHz付近での遮断量が−12dB程度に劣化する一方で、12GHz以上の帯域で山のピークが低くなって、広い帯域で均一な減衰特性になるよう改善されている。
使用目的から考察すれば、本発明のコモンモードフィルタFが必要とするコモンモード信号の通過特性は、特定の減衰極周波数だけで深い減衰を得るよりも平均的な減衰値、すなわち広い周波数帯域で一定の減衰量が得られることである。
それ以上に重要な点として、図6でも示したように、受動2端子回路CM1に抵抗を用いると、遮断されたコモンモードの一部が抵抗で吸収され、反射電力を減らすことができるという点である。
そこで、図17の特性を通過電力、反射電力および吸収電力の比率に書き換えたものを図18に示す。大部分が内部で吸収され、反射電力が抑制されていることが示されている。
そのためには、例えば上述したように単なるインダクタンス又は短絡線路によって得た深い減衰値を得る代わりに、これらの受動2端子回路CM1としてインダクタンス又は短絡線路に適当な値の抵抗を直列に接続し、共振回路のQを低下させて、コモンモードの電力を抵抗で吸収損失させる工夫をすればよい。これにより、一種のダンピング効果が得られて、広い周波数で一定の減衰カーブが得られるとともに、コモンモード信号に対する通過特性を改善できることが可能である。
以上は、導線路1A、1Bを直線として説明してきたが、遅延時間を大きくする意味では、導線路1A、1Bは折り返し線路でも良い。
また、全ての受動2端子回路CM1が浮きグランド5と共通グランド7との間に接続されてきたが、分割された浮きグランド5A〜5Eの隣合う全て又はいずれかの間に接続されても良い。その実施例を図19に示す。
図19は、図2において浮きグランド5の寸法はそのまま維持し、導線路1A、1Bを折り返し線路とし、浮きグランド5を導線路1A、1Bの折り返し周期に合わせて、1周期分の分割浮きグランド5A、3周期分の分割浮きグランド5Bおよび1周期分の分割浮きグランド5Cで分割したものである。中央の分割浮きグランド5Bのみ共通グランド7との間で、直径85μmのビアを受動2端子回路CM1として接続し、両サイドの分割浮きグランド5A、5Cは、受動2端子回路としての抵抗膜を介して中央の浮きグランド5Bに部分的に接続したものである。抵抗膜の抵抗値は20Ωである。このような構成での電磁界解析結果を図20に示す。
図20においてScc21(1)は、図19の構成でのコモンモード信号通過特性、Scc21(2)は参考として図2で受動2端子回路CM1を直径85μmのビアとした時のコモンモード信号通過特性、Sdd21は図19の構造での差動信号通過特性である。
これによれば、図19における浮きグランド5は、図2における浮きグランド5と同一外形寸法でありながら、分割浮きグランド5A〜5Cに分割されることにより、コモンモード減衰帯域が広くなり、減衰特性が大幅に改善されている。また、Sdd21は25GHz以上で大きく減衰しているが、実用上は問題ない通過特性である。
図21には、図20の通過特性Scc21(1)を有するコモンモード信号電力について、通過電力、反射電力および吸収電力の比率を求めたものである。このように、受動2端子回路CM1としての抵抗を、分割浮きグランド5A〜5C間に接続した場合でも、コモンモード電力を吸収できることがわかる。
以上説明した本発明は、共通グランド7が浮きグランド5と対面している構成であったが、本発明は共通グランド7が浮きグランド5と対面する構成に限定されない。
例えば、図22に示す構成は、浮きグランド5と同じ平面上で左右の外側に、同様な共通グランド7A、7Bを配置した例である。
この構成は、浮きグランド5の左右の対向端が接続点9F、9Gとなり、接続点9Fと共通グランド7A間に受動2端子回路CM1Aが接続され、接続点9Gと共通グランド7B間に別の受動2端子回路CM1Bが接続されている。
すなわち、浮きグランド5に1端を接続した受動2端子回路CM1Aの他端を共通グランド7Aに接続し、この対向位置で浮きグランド5に1端を接続した受動2端子回路CM1Bの他端を共通グランド7Bに接続して構成されている。
なお、入出力側の共通グランド7A、7Bは外部グランドに接続されており、その他の構成は上述した図2と同様である。
さらに、図23に示す構成は、図22の構成のうち共通グランド7A又は7Bに受動2端子回路CM1A又はCM1Bの各々一方だけ接続して構成し、共通グランド7B又は7A、受動2端子回路CM1B又はCM1Aを省略した場合である。
すなわち、浮きグランド5に1端を接続した受動2端子回路CM1Aの他端を、共通グランド7Aにのみ接続した構成である。
なお、図23は、図22の構成において、受動2端子回路CM1A又はCM1Bの一方を抵抗値無限大の抵抗にした構成と同じことになる。
図23の構成では、導線路1A、1Bに均等に印加されたコモンモード信号は、共通グランド7Aに向かって帰るが、導線路1Bからの帰還パスが導線路1Aより長くなるから、導線路1Aのコモンモード信号通過特性と導線路1Bのコモンモード信号通過特性が若干異なる。
しかし、コモンモードフィルタFに必要なのは、コモンモード信号の振幅の絶対値が減衰することであり、もともと、導線路1Aと導線路1Bで送られてくるコモンモード信号の周波数成分と振幅が完全に等しいことはないので、特性に若干のアンバランスがあっても、コモンモード信号の振幅の絶対値が少なければ、そのアンバランスによる影響は無視可能である。
図24は、図22の構成を透視図的に示す分解斜視図であり、共通グランド7A、7Bを枠板状にして示している。図示は省略するが、図2の構成と同様なコモンモード信号の通過特性が得られている。
さらに、受動2端子回路CM1A、CM1Bが複数ある場合は、複数ある接続点9Fどうし、9Gどうしのうちの一番離れた2点間距離が浮きグランド5の線路方向長さの1/2以下であればコモンモードフィルタとしての機能を維持できることが電磁界解析により確認されている。
また、受動2端子回路CM1A、CM1Bが幅のある短絡線路(接続片等)の場合、図2におけるビアの例に従って、接続片の幅=接続点9Fどうし、9Gどうしのうちの一番離れた2点間距離と解釈すればよい。
よって、図24の構成においても、接続片や短絡線路に限定せず、受動2端子回路が複数並んでいる場合でも、コモンモードフィルタFとして実用になるための条件は、複数存在する受動2端子回路の接続点のうち、線路方向に最も離れた2個の接続点の線路方向距離が、浮きグランドの線路方向長さの1/2以下であることと言える。
以上の説明では、本発明に係るコモンモードフィルタFが、分布定数型の差動伝送線路としてのマイクロストリップ分布定数型の差動伝送線路である例を説明した。
しかし、本発明のコモンモードフィルタFは、一対の導線路が誘電体を挟んで対面するグランドを有する分布定数型の差動伝送線路、すなわち、ストリップ分布定数型の差動導線路を用いた構成も可能である。
次に、本発明に係るコモンモードフィルタFとしてストリップ分布定数型の差動導線路を用いた構成を説明する。
図25は、ストリップ分布定数型の差動導線路を用いた本発明のコモンモードフィルタFを示す横断面図である。
すなわち、図22に示す誘電体層(第1の誘電体層)3に上にこれと同様の誘電体層(第2の誘電体層)19を形成して導線路1A、1Bを挟み、誘電体層19の外表面全体に浮きグランド(第1の浮きグランド)5と同様な浮きグランド(第2の浮きグランド)21を形成し、この浮きグランド21と同じ平面上で左右の外側に共通グランド7A、7Bと同様の共通グランド7C、7Dが配置されている。
また、浮きグランド21の左右の対向端が接続点9H、9Iとなり、接続点9Hと共通グランド7Cの間に受動2端子回路CM2Cが接続され、接続点9Iと共通グランド7D間に別の受動2端子回路CM2Dが接続され、コモンモードフィルタFが構成されている。その他の構成は上述した図22と同様である。
そして、図25に示すコモンモードフィルタFにおける浮きグランド(第2の浮きグランド)21、受動2端子回路(第2の受動2端子回路)CM2C、CM2Dについても、上述した図1、図2、図7、図11、図15、図19、図23および図24の構成を適用し、浮きグランド(第1の浮きグランド)5、受動2端子回路(第1の受動2端子回路)CM1、CM1A、CM1Bと同様に考えて構成可能である。
以上の実施の形態例において、1個のコモンモードフィルタFに使用する受動インピーダンス2端子回路CM1が複数個の場合は、全て同じ種類の受動素子とするか、又は抵抗と短絡線路との組み合わせで説明した。
すなわち図11の構成では2個ないし4個の短絡線路を、図15の構成では5個の短絡線路や5個の抵抗を、図19の場合は1個の短絡線路と2個の抵抗を使用した例を示した。
しかし、本発明においては、1個のコモンモードフィルタFにおける受動2端子回路CM1、第2の受動2端子回路CM2として、インダクタンス、短絡線路、容量、抵抗を任意に組み合わせて使用可能である。
さらに、本発明のコモンモードフィルタFは、単体の部品としてだけでなく他の機能部品と一緒になった構成も可能である。
例えば、電子部品としての差動遅延線の中に本発明のコモンモードフィルタFを組み込む場合、差動遅延線の遅延時間がコモンモードフィルタFとして必要な遅延時間以上にあれば、必要な長さ分だけを必要な数の分割浮きグランドとする等して受動2端子回路CM1を接続し、残りの部分は受動2端子回路CM1を接続しない浮きグランド5としておけばよい。
また、一対の導線路1A、1Bが誘電体層3を挟んで対面する浮きグランド5を有する分布定数型の差動導線路の例として、マイクロストリップライン、ストリップラインの2種類のみで例示した。
しかし、本発明の理論的な思想に基づけば、一対の導線路の断面形状が同一平面に並置された平面状矩形である必要もないし、さらに一対の導線路が誘電体を挟んで対面するグランドも平面である必要はない。
例えば、ツイストペアとなった被覆導線を、誘電体として機能する絶縁物で覆い、その周りをグランドとなる導体で丸く覆ったものでも、そのグランドを浮きグランド5とできるし、さらにはそれを分割浮きグランドにする等で本発明の効果を実現可能である。
さらに、本発明では、一対の導線路1A、1Bが、同一の遅延時間を持つものとして解析してきたが、導線路1A、1Bに遅延時間差を持たせても良い。これによって、差動信号間に位相ずれが発生している場合に、コモンモードフィルタFによって、位相ずれの補正とコモンモード信号の減衰の効果を同時に得ることが可能となる。
1A、1B 導線路
3 誘電体層(第1の誘電体層)
5 浮きグランド(第1の浮きグランド)
5A、5B、5C、5D、5E 分割浮きグランド(第1の浮きグランド)
7、7A、7B 共通グランド
9、9A、9B、9C、9D、9E、9b、9c、9d、9e 接続点
9a ビア(接続点)
11A、11B 入力端子
13A、13B 出力端子
15A、15B 入力側グランド端子
17A、17B 出力側グランド端子
19 誘電体層(第2の誘電体層)
21 浮きグランド(第2の浮きグランド)
CM1、CM1A、CM1B 受動2端子回路(第1の受動2端子回路)
CM2C、CM2D 受動2端子回路(第2の受動2端子回路)
CM2 受動2端子回路(第2の受動2端子回路)
F コモンモードフィルタ