以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。先ず、図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。自動車用エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を、本体ゴム弾性体16によって相互に連結した構造とされている。そして、第一の取付部材12がパワーユニット18に取り付けられると共に、第二の取付部材14が車両ボデー20に取り付けられることにより、パワーユニット18が車両ボデー20に対して防振連結されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向を言う。
より詳細には、第一の取付部材12は、略円柱形状を有しており、金属等で形成された高剛性の部材とされている。また、第一の取付部材12の上端部には、外周側に広がるフランジ部22が一体形成されている。更に、第一の取付部材12には、上端面に開口して中心軸上を上下方向に延びるボルト孔24が形成されている。
一方、第二の取付部材14は、薄肉大径の略段付き円筒形状を有しており、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材とされている。また、第二の取付部材14には、ブラケット32が装着されている。ブラケット32は、高剛性の部材であって、第二の取付部材14に外嵌固定される筒状嵌着部34の外周面に複数の固定部としての取付用脚部36が固定された構造を有している。なお、第二の取付部材14に嵌着固定されたブラケット32の取付用脚部36は、第二の取付部材14の下端側に配置されており、取付用脚部36におけるフランジ状の締結部分が第二の取付部材14の下端よりも下方に突出せしめられている。
そして、第一の取付部材12が、第二の取付部材14の上側開口部に離隔配置されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、その小径側端部に対して第一の取付部材12が挿し込まれて加硫接着されていると共に、大径側端部が第二の取付部材14の内周面に重ね合わされて加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体16の大径側端面には、逆すり鉢状の大径凹所38が開口形成されている。更にまた、本体ゴム弾性体16の大径側端面の外周縁部には、シールゴム層40が一体形成されており、下方に向かって延び出して、第二の取付部材14の内周面に被着形成されている。
また、第二の取付部材14の下端部には、可撓性膜42が取り付けられている。可撓性膜42は、略円板形状を有する薄肉のゴム膜で形成されており、軸方向に充分な弛みを有している。また、可撓性膜42の外周縁部には、環状の固定金具44が加硫接着されている。そして、固定金具44が第二の取付部材14の下端部に挿し入れられて、シールゴム層40を介して第二の取付部材14に嵌着固定されている。
これにより、第二の取付部材14の上側開口部が本体ゴム弾性体16によって閉塞されていると共に、下側開口部が可撓性膜42によって閉塞されており、本体ゴム弾性体16と可撓性膜42の軸方向対向面間には、非圧縮性流体を封入された流体室46が形成されている。なお、封入される非圧縮性流体としては、特に限定されるものではないが、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油やそれらの混合液等が好適に採用される。特に、流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
また、流体室46には、仕切部材48が配設されており、第二の取付部材14によって支持されている。仕切部材48は、全体として厚肉の略円板形状を有しており、略円筒形状を有する仕切部材本体50と、仕切部材本体50の上側開口部を閉塞する弾性可動膜52と、仕切部材本体50の下側開口部に配設された可動隔壁54とを、含んで形成されている。
仕切部材本体50は、略円筒形状を有しており、金属や硬質の合成樹脂等で形成されている。また、仕切部材本体50の下側開口部には、内フランジ状の支持片56が一体形成されている。更に、支持片56の上面には、環状の支持ゴム弾性体58が重ね合わされて固着されている。この支持ゴム弾性体58の外周縁部には、上方に向かって突出する環状の下側外周支持部60が一体形成されている。また、仕切部材本体50の外周縁部には周方向に二周弱の所定長さで延びる周溝62が形成されており、外周面に開口されている。
また、仕切部材本体50には、弾性可動膜52が取り付けられている。弾性可動膜52は、略円板形状を有するゴム弾性体であって、その外周縁部には、下方に向かって突出する筒状の弾性支持筒部64が一体形成されている。この弾性支持筒部64の外周縁部には、下方に向かって突出する環状の上側外周支持部66が一体形成されている。
さらに、弾性可動膜52には、支持金具68が加硫接着されている。支持金具68は、略円環板形状を有しており、径方向中間部分に設けられた段差を挟んで内周側が外周側よりも下方に位置する段付形状とされている。そして、支持金具68の段差および段差よりも内周部分が、弾性可動膜52の外周縁部に設けられた弾性支持筒部64に対して埋設固着されることにより、支持金具68の中央孔が弾性可動膜52によって閉塞されている。なお、弾性可動膜52は、支持金具68を備えた一体加硫成形品として形成されている。
かかる弾性可動膜52の一体加硫成形品は、支持金具68の段差よりも外周部分が、仕切部材本体50の上面に重ね合わされて固定されることにより、仕切部材本体50に取り付けられている。また、弾性可動膜52の仕切部材本体50への装着下、仕切部材本体50の中央孔の上側開口部が、弾性可動膜52によって閉塞されている。なお、本実施形態では、仕切部材本体50の上端面から上方に突出する係止爪70が、支持金具68に貫通形成された係止孔72に対して挿通されて係止されることにより、支持金具68が仕切部材本体50に対して位置決め固定されるようになっている。また、弾性可動膜52の仕切部材本体50への装着下、弾性支持筒部64の下端面と、支持ゴム弾性体58の上端面が、軸方向に離隔して対向配置されている。
また、弾性可動膜52に一体形成された弾性支持筒部64と、仕切部材本体50の支持片56で支持された支持ゴム弾性体58との軸方向間には、可動隔壁54が配設されている。可動隔壁54は、全体として逆向きの略浅皿形状を有する隔壁本体74と、全体として略円板形状を有する底板部材76とを有しており、隔壁本体74の下側開口部を底板部材76で覆蓋することにより形成されている。また、隔壁本体74の径方向中間部分には、筒状の壁部が形成されており、可動隔壁54の内部に形成された空間が、該壁部の内周側に形成された中央収容領域78と、該壁部の外周側に形成された外周収容領域80とに、二分されている。
また、中央収容領域78には、その上壁部に対して上側短絡孔82が貫通形成されていると共に、下壁部に対して複数の下側短絡孔84が貫通形成されている。更に、中央収容領域78には、弁体としての環状ゴム板86が配設されている。環状ゴム板86は、略円環板形状を有するゴム弾性体で形成されており、その外径が中央収容領域78の内径と略同じとされている。この環状ゴム板86は、底板部材76に対して上方から重ね合わされており、底板部材76に貫通形成された下側短絡孔84を遮断している。
また、環状ゴム板86と隔壁本体74の上底壁部との間には、付勢手段として金属製のコイルスプリング88が配設されている。そして、底板部材76に対して上側から重ね合わされた環状ゴム板86が、コイルスプリング88によって軸方向下向きに付勢されて、底板部材76に押し付けられている。これにより、底板部材76に貫通形成された複数の下側短絡孔84が、環状ゴム板86によって遮断されている。また、コイルスプリング88の下端部には、環状の位置決め金具が嵌め付けられて、環状ゴム板86とコイルスプリング88の間に介在されていると共に、コイルスプリング88の下端部と中央収容領域78の周壁部との間に介在されている。これにより、中央収容領域78よりも小径とされたコイルスプリング88が、位置決め金具によって中央収容領域78内で径方向に位置決めされている。なお、コイルスプリングを軸方向上方に向かって次第に大径となるテーパ形状として、その上端が中央収容領域78の内径と同じ直径とされることにより、コイルスプリングがその上端部の当接によって中央収容領域78内で位置決めされるようになっていても良い。
かくの如き構造を有する可動隔壁54は、筒状とされた仕切部材本体50の中央孔に嵌め入れられて、弾性可動膜52における弾性支持筒部64の下端面と、仕切部材本体50に形成された支持片56との軸方向対向面間に挟持されている。可動隔壁54は、ゴム弾性体で形成された弾性支持筒部64と支持片56の上面に重ね合わされた支持ゴム弾性体58との間に挟み込まれて弾性的に支持されており、可動隔壁54が軸方向への微小変位を許容されている。
なお、本実施形態では、可動隔壁54の外周面と仕切部材本体50の内周面が径方向に所定距離を隔てて対向配置されている。更に、それら可動隔壁54の外周面と仕切部材本体50の内周面との間に、弾性支持筒部64と一体形成された上側外周支持部66と、支持ゴム弾性体58と一体形成された下側外周支持部60とが、介在されており、可動隔壁54が仕切部材本体50に対して軸直角方向で弾性的に位置決めされている。
このような構造とされた仕切部材48は、軸直角方向に広がるように流体室46内に配設されて、仕切部材本体50がシールゴム層40を介して第二の取付部材14に対して弾性的に嵌着支持されている。これにより、流体室46が仕切部材48を挟んで上下に二分されており、仕切部材48を挟んだ上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で形成されて、圧力変動が惹起される受圧室90が形成されている。一方、仕切部材48を挟んだ下側には、壁部の一部が可撓性膜42によって形成されて、容積変化が容易に許容される平衡室92が形成されている。
また、仕切部材48の内部には、弾性可動膜52と可動隔壁54の軸方向対向面間に中間室94が形成されている。即ち、略円筒形状とされた仕切部材本体50の中央孔の下側開口部分に可動隔壁54が配設されて弾性支持されていると共に、上側開口部を覆蓋するように弾性可動膜52が配設されている。これにより、それら弾性可動膜52と可動隔壁54の軸方向対向面間に、受圧室90および平衡室92から隔てられた中間室94が形成されている。換言すれば、中間室94は、受圧室90と平衡室92の軸方向間に形成されており、弾性可動膜52によって受圧室90から隔てられていると共に、可動隔壁54によって平衡室92から隔てられている。要するに、第一の取付部材12側から順に、受圧室90と、弾性可動膜52と、中間室94と、可動隔壁54と、平衡室92とが、軸方向で直列的に配置されている。なお、中間室94には、受圧室90および平衡室92と同様に非圧縮性流体が封入されている。
また、仕切部材48が第二の取付部材14によって支持されていることにより、周溝62の外周側開口部が第二の取付部材14によって覆われて、周方向に延びるトンネル状の通路が形成されている。更に、周溝62の長さ方向一方の端部が、上側接続孔96を通じて受圧室90に連通されていると共に、他方の端部が、下側接続孔98を通じて平衡室92に連通されている。これにより、仕切部材本体50には、受圧室90と平衡室92を相互に連通する低周波オリフィス通路100が形成されている。本実施形態において、低周波オリフィス通路100は、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。なお、低周波オリフィス通路100が周方向に延びるように形成されていることにより、低周波オリフィス通路100の通路長を効率的に長く確保することが出来て、低周波数のチューニングが容易となっている。
さらに、低周波オリフィス通路100の通路長方向中間部分には、内周側の壁部を径方向に貫通する中間接続孔102が形成されている。これにより、受圧室90と中間室94が、中間接続孔102と低周波オリフィス通路100の受圧室90側の端部を利用して相互に連通されており、それら中間接続孔102と低周波オリフィス通路100の一部によって、低周波オリフィス通路100よりも高周波数にチューニングされた中周波オリフィス通路104が仕切部材本体50に形成されている。本実施形態において、中周波オリフィス通路104は、アイドリング振動に相当する15〜45Hz程度の中周波数にチューニングされている。なお、中周波オリフィス通路104がチューニングされた周波数の振動入力時には、後述する高周波オリフィス通路126を通じて中間室94と平衡室92の間で充分な液圧の伝達が生じることから、中間室94が実質的に平衡室92の一部として機能する。これにより、中周波オリフィス通路104は、実質的に受圧室90と平衡室92を相互に連通するように形成されているとみなすことが出来る。
また、可動隔壁54が仕切部材本体50に対して支持ゴム弾性体58を介して上下方向に変位可能な状態で弾性支持されていることによって、マス系として可動隔壁54を含み、バネ系として支持ゴム弾性体58を含んだ一つの副振動系(ダイナミックダンパ)が構成されている。本実施形態において、可動隔壁54の固有振動数は、自動車の高速走行こもり音等に相当する高周波数域にチューニングされている。なお、可動隔壁54の固有振動数は、可動隔壁54や支持ゴム弾性体58の形成材料や形状を変更することによってチューニングすることが可能である。かかる固有振動数のチューニングにおいて、可動隔壁54を含んで構成されるダイナミックダンパのマス成分としては、可動隔壁54の質量に加えて、可動隔壁54と一体変位する可動隔壁54と弾性可動膜52の間の流体マスも考慮する必要がある。一方、ダイナミックダンパのバネ成分としては、支持ゴム弾性体58のバネ成分のみならず、弾性可動膜52のバネ成分や受圧室90および平衡室92のバネ成分(拡張ばね成分)等も考慮する必要がある。上記の事情から、可動隔壁54の固有振動数のチューニングは、好適には、自動車用エンジンマウント10のパワーユニット18への装着状態下で実施される。
さらに、仕切部材本体50がシールゴム層40を介して第二の取付部材14に対して弾性的に支持されている。これにより、マス系として仕切部材48を含み、バネ系としてシールゴム層40を含むもう一つの副振動系(ダイナミックダンパ)が構成されている。その結果、可動隔壁54と支持ゴム弾性体58を含んで構成されたダイナミックダンパと、仕切部材本体50とシールゴム層40を含んで構成されたダイナミックダンパによる直列的な2自由度系の振動モデルが実現されている。ここにおいて、仕切部材48の固有振動数は、中周波オリフィス通路104のチューニング周波数よりも高周波数域であれば、要求される制振特性等を考慮して、可動隔壁54の固有振動数よりも高周波数域にチューニングされていても良いし、低周波数域にチューニングされていても良い。なお, 仕切部材48の固有振動数のチューニングは、仕切部材48やシールゴム層40の形成材料や形状を変更することによって可能であるが、好適には、可動隔壁54と同様に、自動車用エンジンマウント10のパワーユニット18への装着状態下で実施される。
また、可動隔壁54の中央収容領域78に配設された環状ゴム板86とコイルスプリング88によって、一方向弁が構成されている。この一方向弁は、受圧室90および中間室94に正圧が及ぼされた場合には、環状ゴム板86の底板部材76への押付けが維持されて、下側短絡孔84が遮断状態に保持されるようになっている。一方、受圧室90に過大な負圧が及ぼされて、該負圧によって中間室94の圧力が著しく低下した場合には、環状ゴム板86がコイルスプリング88の付勢力に抗して底板部材76から軸方向上側に離隔変位されて、下側短絡孔84が連通状態に切り替えられるようになっている。また、環状ゴム板86が底板部材76に対して受圧室90側から重ね合わされており、受圧室90に正圧が及ぼされた場合には、コイルスプリング88の付勢力と該正圧の作用とによって、下側短絡孔84が遮断状態に安定して保持されるようになっている。
ここにおいて、可動隔壁54の内部に形成された外周収容領域80には、通路形成用ゴム106が配設されている。通路形成用ゴム106は、図2,3に示されているように、略円環板形状を有するゴム弾性体で形成されており、内周壁107の中心軸と外周壁108の中心軸が自動車用エンジンマウント10の中心軸と一致する通路形成用ゴム106の中心軸110に対して傾斜している。
この通路形成用ゴム106には、図3に示されているように、径方向一方向で対向する部位に一対の連通孔111,111が形成されている。連通孔111は、通路形成用ゴム106を板厚方向に貫通するように形成されており、その一方の面側の開口部と他方の面側の開口部が一対の連通孔111,111が対向する径方向一方向で相互にずれた位置に形成されている。要するに、図2に示された縦断面において、各連通孔111が通路形成用ゴム106の中心軸110に対して傾斜して直線的に延びている。なお、一対の連通孔111,111は、互いに等しい傾斜角度で傾斜して通路形成用ゴム106を貫通している。
また、各連通孔111は、一対の連通孔111,111が対向する径方向一方向に対して直交する軸直角方向(図3中、上下)で直線的に延びる長手状の孔断面形状を有している。即ち、各連通孔111は、一対の連通孔111,111の対向方向に直交する軸直角方向での寸法(長さ寸法)が、一対の連通孔111,111の対向方向での寸法(幅寸法)よりも充分に大きくされている。なお、各連通孔111は通路形成用ゴム106の外周面までは至らない長さで形成されている。
また、通路形成用ゴム106において連通孔111を挟んだ幅方向(一対の連通孔111,111が対向する径方向一方向)一方の側には、上方に向かって突出する上側弁状ゴム突起112が一体形成されている。上側弁状ゴム突起112は、連通孔111の開口縁部から上方に向かって突出するように形成されており、連通孔111に沿って延びる板状とされている。また、上側弁状ゴム突起112は、突出先端側である上方に向かって次第に薄肉となっている。更に、上側弁状ゴム突起112の連通孔111側の端面は、連通孔111の幅方向一方(図2中、左側)の内面と凹凸を生じることなく滑らかに接続された傾斜平面とされており、図2に示されているように、上側弁状ゴム突起112の突出方向に延びる弾性主軸113が、自動車用エンジンマウント10の軸方向に対して、突出先端側に向かって連通孔111側に傾斜している。
また、通路形成用ゴム106において連通孔111を挟んで上側弁状ゴム突起112と反対側には、上方に向かって突出する上側緩衝突起114が一体形成されている。上側緩衝突起114は、連通孔111の開口縁部から上方に向かって突出するように形成されており、連通孔111に沿って延びている。また、上側緩衝突起114は、上側弁状ゴム突起112と同様に、突出先端側である上方に向かって次第に薄肉となっている。また、上側緩衝突起114は、上側弁状ゴム突起112よりも突出高さが小さくされていると共に、板厚寸法が上側弁状ゴム突起112と同じか僅かに小さい程度とされており、上側弁状ゴム突起112よりも弾性変形し難くなっている。また、上側緩衝突起114の突出先端部は、少なくとも連通孔111側の端面が、縦断面において円弧状を呈する湾曲面とされている。
また、通路形成用ゴム106の上面には、上側凹溝115が形成されている。上側凹溝115は、通路形成用ゴム106の上面に開口する凹溝であって、連通孔111と上側弁状ゴム突起112と上側緩衝突起114を取り囲むように形成されている。また、上側凹溝115は、上側弁状ゴム突起112の基端部と、上側緩衝突起114の基端部に沿って延びるように形成されており、上側弁状ゴム突起112および上側緩衝突起114の弾性変形による通路形成用ゴム106の歪みが上側凹溝115によって緩和されるようになっている。
一方、通路形成用ゴム106において連通孔111を挟んで上側緩衝突起114と同じ側には、下方に向かって突出する下側弁状ゴム突起116が一体形成されている。下側弁状ゴム突起116は、連通孔111の開口縁部から下方に向かって突出するように形成されており、上側弁状ゴム突起112に対応する断面形状で連通孔111に沿って延びている。また、下側弁状ゴム突起116は、突出先端側である下方に向かって次第に薄肉となっている。更に、下側弁状ゴム突起116の連通孔111側の端面は、連通孔111の幅方向他方(図2中、右側)の内面と凹凸を生じることなく滑らかに接続された傾斜平面とされており、図2に示されているように、下側弁状ゴム突起116の突出方向に延びる弾性主軸117が、自動車用エンジンマウント10の軸方向に対して、突出先端側に向かって連通孔111側に傾斜している。なお、上側弁状ゴム突起112の弾性主軸113と、下側弁状ゴム突起116の弾性主軸117は、互いに略平行に延びている。
また、通路形成用ゴム106において連通孔111を挟んで下側弁状ゴム突起116と反対側、要するに連通孔111を挟んで上側弁状ゴム突起112と同じ側には、下方に向かって突出する下側緩衝突起118が一体形成されている。下側緩衝突起118は、連通孔111の開口縁部から下方に向かって突出するように形成されており、連通孔111に沿って延びている。また、下側緩衝突起118は、下側弁状ゴム突起116と同様に、突出先端側である下方に向かって次第に薄肉となる板形状を有している。また、下側緩衝突起118は、下側弁状ゴム突起116よりも突出高さが小さくされていると共に、板厚寸法が下側弁状ゴム突起116と同じか僅かに小さい程度とされており、下側弁状ゴム突起116よりも弾性変形し難くなっている。また、下側緩衝突起118の突出先端部は、少なくとも連通孔111側の端面が、縦断面において円弧状を呈する湾曲面とされている。
また、通路形成用ゴム106の下面には、下側凹溝120が形成されている。下側凹溝120は、通路形成用ゴム106の下面に開口する凹溝であって、連通孔111と下側弁状ゴム突起116と下側緩衝突起118を取り囲むように形成されている。また、下側凹溝120は、下側弁状ゴム突起116の基端部と、下側緩衝突起118の基端部に沿って延びるように形成されており、下側弁状ゴム突起116および下側緩衝突起118の弾性変形による通路形成用ゴム106の歪みが下側凹溝120によって緩和されるようになっている。なお、上記の如き上下の弁状ゴム突起112,116や上下の緩衝突起114,118、上下の凹溝115,120は、一対の連通孔111,111の周縁部にそれぞれ形成されている。
かくの如き構造とされた通路形成用ゴム106は、可動隔壁54の内部に形成された外周収容領域80に収容配置されている。通路形成用ゴム106は、隔壁本体74の上底壁部と底板部材76の間で挟み込まれて挟持されていると共に、その外周面および内周面が少なくとも一部において外周収容領域80の内面に当接されている。
さらに、可動隔壁54において外周収容領域80の上側壁部に連通孔状の上側透孔122が貫通形成されていると共に、外周収容領域80の下側壁部に連通孔状の下側透孔124が貫通形成されている。そして、外周収容領域80は、上側透孔122を通じて連通孔111が中間室94に連通されていると共に、下側透孔124を通じて連通孔111が平衡室92に連通されている。また、可動隔壁54における外周収容領域80に対して通路形成用ゴム106が配設されていることにより、上側透孔122と下側透孔124と外周収容領域80とによって構成された透孔が、通路形成用ゴム106によって遮断されている。
そこにおいて、連通孔111の一方の開口部が上側透孔122を通じて中間室94に連通されていると共に、連通孔111の他方の開口部が下側透孔124を通じて平衡室92に連通されている。これにより、仕切部材48を構成する通路形成用ゴム106には、連通孔111を利用して中間室94と平衡室92を相互に連通する高周波オリフィス通路126が形成されている。この高周波オリフィス通路126は、中周波オリフィス通路104よりも高周波数にチューニングされており、例えば、エンジンのトルク変動に起因するロックアップこもり音に相当する45〜100Hz程度の高周波数にチューニングされている。また、本実施形態では、同一周波数にチューニングされた2つの高周波オリフィス通路126が形成されている。なお、中周波オリフィス通路104と同様に、高周波オリフィス通路126は、実質的に受圧室90と平衡室92を相互に連通するように形成されているとみなすことが出来る。
また、上側透孔122に上側弁状ゴム突起112と上側緩衝突起114が挿し入れられて、それらが受圧室90(中間室94)側に突出されていると共に、下側透孔124に下側弁状ゴム突起116と下側緩衝突起118が挿し入れられて、それらが平衡室92側に突出されている。そして、自動車用エンジンマウント10の静置状態下において、高周波オリフィス通路126の開口部に配設された上側弁状ゴム突起112および下側弁状ゴム突起116は、それら自体の弾性力によって、高周波オリフィス通路126の開口部を連通状態に保持するようになっている。更に、高周波オリフィス通路126のチューニング周波数よりも低周波数の振動、換言すれば、振幅の大きな振動入力時には、受圧室90と平衡室92の間で相対的な圧力変動によって、上側弁状ゴム突起112および下側弁状ゴム突起116が連通孔111側に倒れ込むように弾性変形せしめられる。これにより、高周波オリフィス通路126の開口部が上側弁状ゴム突起112又は下側弁状ゴム突起116によって覆蓋されて、高周波オリフィス通路126が遮断状態に切り替えられるようになっている。要するに、上側弁状ゴム突起112および下側弁状ゴム突起116は、高周波オリフィス通路126を連通状態と遮断状態に切り替える弁体であると同時に、それら自体の弾性によって初期形状では高周波オリフィス通路126の開口部から離隔しており、静置状態において高周波オリフィス通路126を連通状態に保持するばね手段にもなっている。
なお、上側透孔122の内周面によって、上側弁状ゴム突起112の連通孔111と反対側への倒れ変形を制限する第一の規制当接部が構成されていると共に、下側透孔124の内周面によって、下側弁状ゴム突起116の連通孔111と反対側への倒れ変形を制限する第二の規制当接部が構成されている。また、上側透孔122の内周面によって、上側緩衝突起114の連通孔111と反対側への倒れが制限されていると共に、下側透孔124の内周面によって、下側緩衝突起118の連通孔111と反対側への倒れが制限されている。
また、上側弁状ゴム突起112は、弾性変形によって上側緩衝突起114に当接せしめられるようになっている。一方、下側弁状ゴム突起116は、弾性変形によって下側緩衝突起118に当接せしめられるようになっている。要するに、上下の緩衝突起114,118は、高周波オリフィス通路126の遮断時に上下の弁状ゴム突起112,116が接近せしめられる部位に設けられている。
以上のような構造とされた自動車用エンジンマウント10は、ボルト孔24に図示しない取付用ボルトが螺着されることにより、第一の取付部材12がパワーユニット18に取り付けられるようになっていると共に、ブラケット32の取付用脚部36が車両ボデー20に対してボルト固定されることにより、第二の取付部材14が車両ボデー20に取り付けられるようになっている。そこにおいて、取付用脚部36におけるフランジ状の締結点が、第二の取付部材14の下端よりも下方に位置しており、自動車用エンジンマウント10の車両への装着下、第二の取付部材14と車両ボデー20との締結位置が、自動車用エンジンマウント10よりも下方に設定されている。これにより、仕切部材48に対して図1中の下側に形成された平衡室92が、自動車用エンジンマウント10において車両ボデー20に近い位置に配置されている。
さらに、仕切部材48において中間室94と平衡室92を仕切る隔壁部分(可動隔壁54)に対して、通路形成用ゴム106が収容配置されていることにより、通路形成用ゴム106が軸方向で車両ボデー20により近い位置に配設されている。要するに、通路形成用ゴム106の板厚方向中央から第二の取付部材14の車両ボデー20に対する締結点(取付用脚部36の下面)までの軸方向離隔距離:dが、小さく設定されている。
特に、通路形成用ゴム106の軸方向での配設位置が、第二の取付部材14の軸方向中央よりも車両ボデー20側(平衡室92側である図1中の下側)に大きく偏っている。なお、通路形成用ゴム106は、第一の取付部材12のパワーユニット18への締結点よりも、第二の取付部材14の車両ボデー20への締結点に対して、軸方向で近い位置に配設されている。
しかも、通路形成用ゴム106が仕切部材本体50の中央孔の平衡室92側開口部分に配設されていると共に、弾性可動膜52が仕切部材本体50の中央孔の受圧室90側開口部を覆うように配設されており、通路形成用ゴム106が弾性可動膜52よりも車両ボデー20側に配置されている。更に、通路形成用ゴム106の軸方向での配設位置は、仕切部材48の軸方向中央よりも車両ボデー20側に偏倚している。
このような構造とされた自動車用エンジンマウント10の車両装着下、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力変動に基づいて、低周波オリフィス通路100を通じての流体流動が生ぜしめられる。これにより、流体の流動作用に基づいた防振効果(高減衰効果)が発揮される。
また、低周波大振幅振動の入力時には、中周波オリフィス通路104と高周波オリフィス通路126が遮断されて、低周波オリフィス通路100を通じての流体流動に基づく防振効果が効率的に発揮されるようになっている。なお、中周波オリフィス通路104は、高周波オリフィス通路126が遮断されることによって流体流動が阻止された実質的な遮断状態になることから、以下には高周波オリフィス通路126が遮断される理由について説明する。
すなわち、中周波オリフィス通路104を通じて受圧室90から中間室94へ流体が流入して、中間室94の圧力が高まると、上側弁状ゴム突起112が連通孔111側に曲げ変形して、上側緩衝突起114に当接せしめられる。これにより、高周波オリフィス通路126の中間室94側の開口部が、上側弁状ゴム突起112によって覆われて、高周波オリフィス通路126が遮断されるようになっている。なお、上側弁状ゴム突起112が連通孔111側に曲がる理由としては、先ず、上側弁状ゴム突起112が連通孔111側に傾斜して突出するように形成されていることから、上方からの正圧の作用によって連通孔111側に倒れ込むように弾性変形し易くなっていることが考えられる。また、隔壁本体74によって第一の規制当接部が形成されており、上側弁状ゴム突起112の連通孔111と反対側への弾性変形が防がれていることも理由の一つである。更に、高周波オリフィス通路126を通じて中間室94から平衡室92へ流体が流入すると、流体の流入側に設けられた上側弁状ゴム突起112に対して流速に基づく負圧が及ぼされて、上側弁状ゴム突起112に連通孔111側への吸引力が作用することによっても、上側弁状ゴム突起112が連通孔111を覆うように弾性変形せしめられる。
一方、中間室94から受圧室90へ流体が流出して、中間室94の圧力が低下すると、下側弁状ゴム突起116が連通孔111側に曲げ変形されて、下側緩衝突起118に当接せしめられる。これにより、高周波オリフィス通路126の中間室94側の開口部が、上側弁状ゴム突起112によって覆われて、高周波オリフィス通路126が遮断されるようになっている。なお、下側弁状ゴム突起116が連通孔111側に曲がる理由としては、上側弁状ゴム突起112と同様に、下側弁状ゴム突起116が連通孔111側に傾斜して突出形成されていることや、第二の規制当接部によって連通孔111と反対側への弾性変形が防止されていること,流速に基づく負圧の作用によって下側弁状ゴム突起116に連通孔111側への吸引力が作用すること等が考えられる。
このような高周波オリフィス通路126の遮断に際して、上側弁状ゴム突起112が上側緩衝突起114に当接するようになっていると共に、下側弁状ゴム突起116が下側緩衝突起118に当接するようになっていることにより、打音の発生が低減乃至は回避されるようになっている。即ち、上下の弁状ゴム突起112,116と上下の緩衝突起114,118が何れもゴム弾性体で形成されていることから、当接時の衝撃力がそれら弁状ゴム突起112,116および緩衝突起114,118の弾性変形によって減衰されて、当接時の異音が軽減されるようになっている。
しかも、緩衝突起114,118の突出先端部において弁状ゴム突起112,116が当接する連通孔111側の端部が円弧状の縦断面形状を有する湾曲面とされている。それ故、弁状ゴム突起112,116の緩衝突起114,118への当接初期における当接面積が小さく抑えられると共に、当接面積が徐々に増大するようになっている。従って、当接時の緩衝作用がより効果的に発揮されて、高周波オリフィス通路126の遮断時に発生する打音がより有利に低減される。
さらに、自動車用エンジンマウント10では、通路形成用ゴム106を支持する可動隔壁54が、中間室94と平衡室92を隔てる位置に配設されている。これにより、通路形成用ゴム106と、第二の取付部材14を車両ボデー20に固定する締結点(ブラケット32における取付用脚部36の下面)との軸方向での離隔距離:dが、通路形成用ゴム106を受圧室90と平衡室92との隔壁部分に配設した場合よりも、小さく設定されている。
そこにおいて、振動入力時に弁状ゴム突起112,116と緩衝突起114,118との打ち当たりによって発生する衝撃力は、通路形成用ゴム106の軸方向での配設位置に関わらず略一定であることから、衝撃力の作用点となる通路形成用ゴム106の配設位置と第二の取付部材14の車両ボデー20への締結点との離隔距離が小さくなるに従って、衝撃力に起因して締結点に及ぼされるモーメントが小さく抑えられる。従って、通路形成用ゴム106と第二の取付部材14の車両ボデー20への締結点との距離が小さく設定された自動車用エンジンマウント10では、弁状ゴム突起112,116と緩衝突起114,118との当接によって発生する異音や振動が、車両ボデー20に対して伝達されるのを低減乃至は回避することが出来る。
更にまた、通路形成用ゴム106が可動隔壁54に配設されており、可動隔壁54が、第二の取付部材14によって支持された仕切部材本体50に対して、弾性支持筒部64および支持ゴム弾性体58を介して弾性支持されている。それ故、弁状ゴム突起112,116と緩衝突起114,118との打ち当たりによる衝撃力が、車両ボデー20への伝達経路上において、弾性支持筒部64および支持ゴム弾性体58によって緩衝されるようになっている。従って、車両ボデー20への衝撃力の伝達に起因する異音の発生をより効果的に低減することが出来る。しかも、仕切部材本体50がシールゴム層40を介して第二の取付部材14に対して嵌着されていることにより、弁状ゴム突起112,116と緩衝突起114,118との当接による打音がシールゴム層40によっても緩衝されて低減されるようになっている。
なお、低周波大振幅振動の入力時には、可動隔壁54および仕切部材48は、マス−バネ系の共振周波数(可動隔壁54の固有振動数)がより高周波数にチューニングされていることにより、軸方向での微小な変位が制限される。更に、環状ゴム板86がコイルスプリング88の付勢力によって底板部材76に押し付けられた状態に保持されており、下側短絡孔84が遮断されている。これらにより、低周波オリフィス通路100の流体流動量が一層有利に確保されて、目的とする防振効果が有効に発揮されるようになっている。
また、自動車用エンジンマウント10の車両装着下、アイドリング振動に相当する中周波数小乃至中振幅振動の入力時には、受圧室90と中間室94の相対的な圧力変動によって、それら受圧室90と中間室94の間で中周波オリフィス通路104を通じての流体流動が生ぜしめられる。これにより、流体の流動作用に基づいた防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
なお、中周波数の小乃至中振幅振動入力時には、低周波オリフィス通路100が反共振的な作用によって実質的に遮断されると共に、高周波オリフィス通路126が連通状態に保持される。更に、可動隔壁54や仕切部材48の微小変位による液圧吸収が防止されると共に、一方向弁が遮断状態に保持される。これらによって、中周波オリフィス通路104を通じての流体流動量が有利に確保されて、目的とする防振効果が有効に発揮されるようになっている。
また、中周波オリフィス通路104が、低周波オリフィス通路100の受圧室90側の端部を利用して形成されている。それ故、それらオリフィス通路100,104をスペース効率良く形成することが出来て、オリフィス通路100,104を大きな設計自由度で形成することが出来る。
また、自動車用エンジンマウント10の車両装着下、ロックアップこもり音に相当する高周波小振幅振動が入力されると、弾性可動膜52の微小変形によって受圧室90の液圧が中間室94に伝達される。そして、中間室94と平衡室92の相対的な圧力変動に基づいて、中間室94と平衡室92の間で高周波オリフィス通路126を通じて積極的な流体流動が生ぜしめられる。これにより、流体の流動作用に基づく防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
なお、高周波小振幅振動の入力時には、低周波オリフィス通路100および中周波オリフィス通路104が何れも反共振によって遮断される。更に、可動隔壁54や仕切部材48の微小変位による液圧吸収が防止されると共に、一方向弁が遮断状態に保持される。これらによって、高周波オリフィス通路126を通じての流体流動が効率的に生ぜしめられて、目的とする防振効果が有効に発揮されるようになっている。
また、自動車用エンジンマウント10の車両装着下、高速走行こもり音に相当する更なる高周波の微小振幅振動が入力されると、受圧室90の液圧が、弾性可動膜52の弾性変形によって中間室94に伝達される。その結果、中間室94と平衡室92の間に相対的な圧力変動が惹起されて、支持ゴム弾性体58の弾性変形と、弾性可動膜52の外周縁部に一体形成された弾性支持筒部64の弾性変形とによって、可動隔壁54が軸方向に微小変位せしめられる。そして、可動隔壁54の共振状態での変位による相殺的な作用によって、有効な防振効果(低動ばね効果)が発揮されるようになっている。
しかも、仕切部材48とシールゴム層40を含んでもう一つの副振動系が構成されていることから、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力変動によって、もう一つの副振動系の共振作用による振動エネルギーの吸収効果が発揮される。これにより、可動隔壁54と支持ゴム弾性体58を含んだ副振動系と、仕切部材48とシールゴム層40を含んだ副振動系によって、直列的な2自由度系の振動モデルが実現されて、より優れたチューニング自由度と制振効果を得ることが可能とされている。
一方、走行時の段差乗越え等によって、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に大きな振動荷重が入力されて、受圧室90の圧力が著しく低下した場合には、可動隔壁54の中央に配設された環状ゴム板86が、コイルスプリング88の付勢力に抗して中間室94側に変位して、底板部材76から離隔される。これにより、環状ゴム板86による下側短絡孔84の遮断が解除されて、可動隔壁54の上側短絡孔82および下側短絡孔84と環状ゴム板86の中央孔とを通じて、中間室94と平衡室92が連通される。その結果、中間室94に伝達された受圧室90の負圧が、平衡室92からの流体の流入によって可及的速やかに解消されて、受圧室90の負圧に起因して発生するキャビテーション異音等を、低減乃至は回避することが出来る。
なお、受圧室90の負圧解消後には、環状ゴム板86がコイルスプリング88の付勢力によって底板部材76に押し付けられて、下側短絡孔84が遮断される。そこにおいて、本実施形態では、環状ゴム板86が可動隔壁54内に収容配置されている。それ故、環状ゴム板86の当接による衝撃力が、車両ボデー20に伝達される経路上において、弾性支持筒部64および支持ゴム弾性体58とシールゴム層40によって緩衝されるようになっており、環状ゴム板86の当接に起因する打音の発生が低減乃至は回避されている。更に、弁体がゴム弾性体で形成された環状ゴム板86とされていることにより、当接時の打音が環状ゴム板86自体の弾性変形によっても緩衝されて低減されるようになっている。
また、自動車用エンジンマウント10では、ゴム弾性体で形成された弾性可動膜52と通路形成用ゴム106が、硬質とされた仕切部材本体50の中央孔に配設されている。それ故、仕切部材本体50を第二の取付部材14に嵌着固定することにより、弾性可動膜52と通路形成用ゴム106を第二の取付部材14の所定位置に容易に組み付けることが出来る。
次に、図4には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第二の実施形態として、自動車用エンジンマウント128が示されている。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
より詳細には、自動車用エンジンマウント128は、仕切部材130を備えている。仕切部材130は、仕切部材本体132と弾性可動膜134と可動隔壁136とを含んで構成されている。仕切部材本体132は、前記第一の実施形態における仕切部材本体50を上下逆転させた構造を有しており、上端部に支持片56に対応する支持片138が一体形成されていると共に、下端部に係止爪70に対応する係止爪140が一体形成されている。なお、支持片138の下面には、略円環板形状を有する支持ゴム弾性体142が重ね合わされており、支持ゴム弾性体142の外周縁部には下方に突出する上側外周支持部144が一体形成されている。
また、仕切部材本体132における中央孔の下側開口部には、弾性可動膜134が配設されている。弾性可動膜134は、前記第一の実施形態の弾性可動膜52を上下逆転させた構造を有しており、弾性支持筒部64に対応する弾性支持筒部146が上方に向かって突出していると共に、弾性支持筒部146の外周縁部には上方に突出する下側外周支持部147が一体形成されている。更に、弾性可動膜134には、第一の実施形態の支持金具68を上下逆転させた構造を有する支持金具148が固着されている。そして、支持金具148の中央部分が弾性可動膜134における弾性支持筒部146に埋設状態で加硫接着されて、弾性可動膜134が支持金具148を備えた一体加硫成形品として形成されている。かくの如き構造とされた弾性可動膜134は、支持金具148の外周部分が仕切部材本体132の下面に重ね合わされて、係止爪140と係止孔72の係合によって固定されることにより、仕切部材本体132に取り付けられている。
また、支持ゴム弾性体142と弾性支持筒部146の軸方向対向面間には、可動隔壁136が配設されている。可動隔壁136は、厚肉の略シャーレ形状とされた隔壁本体152に対して円板形状の蓋板部材154を上方から重ね合わせた構造を有している。そして、可動隔壁136は、支持ゴム弾性体142と弾性支持筒部146の間で外周縁部を弾性的に支持されることにより、仕切部材本体132に組み付けられている。
かくの如き構造を有する仕切部材130は、流体室46内に配設されて、仕切部材本体132が第二の取付部材14に対して嵌着固定されている。これにより、仕切部材130を挟んだ両側に受圧室90と平衡室92が形成されていると共に、仕切部材130の内部に中間室94が形成されている。なお、本実施形態では、受圧室90と中間室94が可動隔壁136によって仕切られていると共に、中間室94と平衡室92が弾性可動膜134によって仕切られている。また、アイドリング振動に相当する中周波数にチューニングされた中周波オリフィス通路104が、中間室94と平衡室92を連通するように形成されている。
また、可動隔壁136をマス系として含むと共に、支持ゴム弾性体142および弾性支持筒部146をバネ系として含むダイナミックダンパが構成されており、可動隔壁136の固有振動数がアイドリング振動に相当する中周波数にチューニングされている。更に、ロックアップこもり音に相当する高周波数振動の入力による液圧変動が、弾性可動膜134の弾性変形によって中間室94と平衡室92の間で伝達されるようになっている。
そこにおいて、中央収容領域78には、環状ゴム板86とコイルスプリング88が配設されており、それら環状ゴム板86とコイルスプリング88によって一方向弁が構成されている。一方、外周収容領域80には、通路形成用ゴム106が配設されており、通路形成用ゴム106の連通孔111を利用して複数の高周波オリフィス通路126が形成されている。なお、高周波オリフィス通路126は、ロックアップこもり音に相当する高周波数域にチューニングされている。
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウント128の車両装着下、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の入力時には、低周波オリフィス通路100を通じての流体流動による防振効果が発揮される。一方、アイドリング振動に相当する中周波数の小乃至中振幅振動入力時には、可動隔壁136の変位によって受圧室90の圧力が中間室94に伝達されて、中周波オリフィス通路104を通じての流体流動による防振効果が発揮されるようになっている。
そこにおいて、低周波大振幅振動の入力時には、上下の弁状ゴム突起112,116が液圧の作用によって連通孔111側に曲がるように弾性変形せしめられて、高周波オリフィス通路126がそれら弁状ゴム突起112,116によって遮断される。これにより、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力変動が効率的に惹起されて、低周波オリフィス通路100の防振効果が発揮されるようになっている。
また、ロックアップこもり音に相当する高周波小振幅振動の入力時には、上下の弁状ゴム突起112,116の変形が軽減乃至は解除されて、高周波オリフィス通路126が連通状態に切り替えられる。また、弾性可動膜134の微小な弾性変形によって中間室94の液圧が平衡室92に伝達される。これにより、高周波オリフィス通路126を通じての流体流動が生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。なお、ロックアップこもり音に相当する高周波振動の入力時には、低周波オリフィス通路100および中周波オリフィス通路104が反共振作用による遮断状態とされて、高周波オリフィス通路126を通じての流体流動が効率的に生ぜしめられるようになっている。
次に、図5には、本発明に係る流体封入式防振装置の第三の実施形態として、自動車用エンジンマウント156が示されている。自動車用エンジンマウント156は、仕切部材158を有しており、仕切部材158は、仕切部材本体160と、収容部材162を含んで構成されている。
仕切部材本体160は、全体として略円板形状を有しており、下面に開口する円形の中央凹所164を有している。また、仕切部材本体160の外周部分には、周方向に所定の長さで延びる周溝166が外周面に開口して形成されている。
また、仕切部材本体160の中央凹所164には、円板形状の収容部材162が組み付けられている。この収容部材162の外周部分には、上面に開口する一対の収容凹所が径方向一方向で対向する部位に形成されている。そして、収容部材162が仕切部材本体160の中央凹所164に嵌め込まれることにより、各収容凹所の開口部が仕切部材本体160の中央部分によって覆われて、収容領域168a,168bが形成されている。また、収容領域168a,168bの上底壁部にそれぞれ上側透孔170が貫通形成されていると共に、収容領域168a,168bの下底壁部にそれぞれ下側透孔172が貫通形成されている。なお、収容領域168aと収容領域168bの平面形状が互いに同じとされていると共に、それらの軸方向寸法が互いに異なっており、収容領域168aの軸方向寸法が収容領域168bの軸方向寸法よりも大きくなっている。
かくの如き構造を有する仕切部材158は、流体室46内に配設されて第二の取付部材14によって支持されている。そして、仕切部材158を挟んだ両側に非圧縮性流体を封入された受圧室90と平衡室92が形成されている。また、周溝166の開口部が第二の取付部材14で覆われることにより、受圧室90と平衡室92を相互に連通する低周波オリフィス通路100が形成されている。低周波オリフィス通路100は、エンジンシェイクに相当する周波数にチューニングされている。
ここにおいて、収容領域168aに通路形成用ゴム174aが配設されていると共に、収容領域168bに通路形成用ゴム174bが配設されている。通路形成用ゴム174は、全体として略矩形ブロック形状を有しており、通路形成用ゴム174aの軸方向での厚さ寸法が、通路形成用ゴム174bの軸方向での厚さ寸法よりも大きく設定されている。
また、通路形成用ゴム174の中央部分には、直線的に延びる連通孔175が貫通形成されている。連通孔175は、基本的な構造が前記第一の実施形態に示された連通孔111と略同一とされていると共に、通路形成用ゴム174aに形成された連通孔175aの貫通方向での寸法が、通路形成用ゴム174bに形成された連通孔175bの貫通方向での寸法よりも大きくなっている。
そして、連通孔175の一方の開口部が上側透孔170を通じて受圧室90に連通されていると共に、他方の開口部が下側透孔172を通じて平衡室92に連通されている。これにより、連通孔175aを利用して第一の高周波オリフィス通路176が形成されていると共に、連通孔175bを利用して第二の高周波オリフィス通路178が形成されている。なお、第一の高周波オリフィス通路176がアイドリング振動に相当する中周波小乃至中振幅振動にチューニングされていると共に、第二の高周波オリフィス通路178が走行こもり音に相当する高周波小振幅振動にチューニングされている。要するに、自動車用エンジンマウント156には2つの高周波オリフィス通路が形成されており、それら高周波オリフィス通路のチューニング周波数が互いに異なっている。
また、通路形成用ゴム174における連通孔175を挟んだ幅方向一方の側(図5中の左側)には、上方に向かって突出する上側弁状ゴム突起180と、下方に向かって突出する下側緩衝突起118が一体形成されている。一方、連通孔175を挟んだ幅方向他方の側には、上方に向かって突出する上側緩衝突起114と、下方に向かって突出する下側弁状ゴム突起116が一体形成されている。
言い換えれば、第一の高周波オリフィス通路176の受圧室90側の開口部に、上側弁状ゴム突起180aと上側緩衝突起114aが連通孔175aを挟んで配置されていると共に、第一の高周波オリフィス通路176の平衡室92側の開口部に、下側弁状ゴム突起116aと下側緩衝突起118aが連通孔175aを挟んで配置されている。一方、第二の高周波オリフィス通路178の受圧室90側の開口部に、上側弁状ゴム突起180bと上側緩衝突起114bが連通孔175bを挟んで配置されていると共に、第二の高周波オリフィス通路178の平衡室92側の開口部に、下側弁状ゴム突起116bと下側緩衝突起118bが連通孔175bを挟んで配置されている。なお、上側弁状ゴム突起180は、前記第一の実施形態における上側弁状ゴム突起112と略同一の構造を有していることから、基本的な構造については説明を省略する。
また、一対の連通孔175a,175bの対向方向において上側弁状ゴム突起180aが上側弁状ゴム突起180bよりも薄肉とされている。これにより、上側弁状ゴム突起180aと上側弁状ゴム突起180bのばね定数が異なっており、上側弁状ゴム突起180aが上側弁状ゴム突起180bよりも変形し易くなっている。一方、下側弁状ゴム突起116aが下側弁状ゴム突起116bよりも薄肉とされている。これにより、下側弁状ゴム突起116aと下側弁状ゴム突起116bのばね定数が異なっており、下側弁状ゴム突起116aが下側弁状ゴム突起116bよりも変形し易くなっている。
また、上側弁状ゴム突起180は、下側弁状ゴム突起116よりも大きな突出寸法を有している。これにより、上側弁状ゴム突起180は、下側弁状ゴム突起116よりも弾性変形を生じ易くなっている。なお、上側弁状ゴム突起180の板厚寸法が、下側弁状ゴム突起116の板厚寸法よりも小さく設定されていても良い。要するに、上側弁状ゴム突起180と下側弁状ゴム突起116のばね定数が、断面形状の違いに基づいて相互に異なっており、それら上側弁状ゴム突起180と下側弁状ゴム突起116のばね定数の違いによって、上側弁状ゴム突起180が弾性変形して第一,第二の高周波オリフィス通路176,178を遮断する遮断条件と、下側弁状ゴム突起116が弾性変形して第一,第二の高周波オリフィス通路176,178を遮断する遮断条件とを、互いに異ならせることも出来る。
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウント156の車両装着下、エンジンシェイクに相当する周波数の振動が入力されると、低周波オリフィス通路100を通じての流体流動に基づいて目的とする防振効果が発揮されるようになっている。
そこにおいて、低周波オリフィス通路100のチューニング周波数と同じかそれよりも低い周波数の振動入力時には、上下の弁状ゴム突起180,116が連通孔175側に弾性変形せしめられて、第一,第二の高周波オリフィス通路176,178を遮断するようになっている。これにより、低周波オリフィス通路100の流体流動量を確保して、有効な防振効果を得ることが出来る。
また、アイドリング振動に相当する中周波数の振動入力時には、上下の弁状ゴム突起180a,116aの変形が軽減乃至は解除されて、第一の高周波オリフィス通路176が連通状態に切り替えられる。これにより、第一の高周波オリフィス通路176を通じての流体流動に基づいて、目的とする防振効果が発揮されるようになっている。なお、中周波数の振動入力時には、第一の高周波オリフィス通路176の流体流動量を大きく確保するために、第二の高周波オリフィス通路178が遮断状態に保持される。具体的には、例えば、上下の弁状ゴム突起180a,116aと、上下の弁状ゴム突起180b,116bの断面形状や形成材料等を異ならせて、ばね定数等の遮断条件を互いに異ならせることにより、第一の高周波オリフィス通路176の連通状態と第二の高周波オリフィス通路178の遮断状態とを同時に発現させることが出来る。
また、走行こもり音に相当する高周波小振幅振動の入力時には、上下の弁状ゴム突起180,116の変形が軽減乃至は解除されて、第二の高周波オリフィス通路178が連通状態に切り替えられる。これにより、第二の高周波オリフィス通路178を通じての流体流動に基づいて、目的とする防振効果が発揮されるようになっている。なお、低周波オリフィス通路100および第一の高周波オリフィス通路176は、反共振作用によって実質的に遮断されている。
また、受圧室90側に向かって突出する上側弁状ゴム突起180が、平衡室92側に向かって突出する下側弁状ゴム突起116よりも大きな突出寸法で形成されており、上側弁状ゴム突起180の弾性変形が下側弁状ゴム突起116の弾性変形よりも生じ易くなっている。これにより、上側弁状ゴム突起180に設定された閉作動条件(閉作動するために必要な外力の大きさ)と、下側弁状ゴム突起116に設定された閉作動条件とが、相互に異なっている。それ故、受圧室90から平衡室92への流体流入よりも、平衡室92から受圧室90への流体流動が生じ易くなっており、受圧室90が平衡室92よりも高圧に保たれ易くなっている。その結果、衝撃的な振動荷重の入力による受圧室90の内圧の低下を軽減することが出来て、キャビテーションの発生を防ぐことが出来る。
次に、図6には、本発明に係る流体封入式防振装置の第四の実施形態として、自動車用エンジンマウント182が示されている。自動車用エンジンマウント182は、前記第一の実施形態に示された自動車用エンジンマウント10と同様の基本構造を有していると共に、仕切部材48に替えて仕切部材183が採用されている。更に、仕切部材183には、可動隔壁54に替えて可動隔壁184が配設されている。
可動隔壁184は、逆向きの浅皿形状を有する隔壁本体186と、隔壁本体186の開口部を覆蓋する円板形状の底板部材188とを有しており、全体として中空の円板形状とされている。
また、隔壁本体186と底板部材188の間には、円筒形の収容領域190が形成されている。この収容領域190の軸方向上側の壁部には、軸直角方向一方向で互いに平行に延びる上側透孔192aと上側透孔192bが形成されている。これら上側透孔192aと上側透孔192bは、何れも平面視で長手の略矩形を呈しており、隔壁本体186の上底壁部を貫通している。また、上側透孔192aは、上側透孔192bに比べて長手方向の長さ寸法が小さく設定されている。一方、収容領域190の軸方向下側の壁部には、上側透孔192aと対応する位置に下側透孔194aが形成されていると共に、上側透孔192bと対応する位置に下側透孔194bが形成されている。なお、上側透孔192aと下側透孔194aが略同一の孔断面形状を有していると共に、上側透孔192bと下側透孔194bが略同一の孔断面形状を有している。
また、収容領域190には、通路形成用ゴム196が収容されている。通路形成用ゴム196は、図6,7に示されているように、略円板形状であって、連通孔198aと連通孔198bを備えている。連通孔198aと連通孔198bは、何れも通路形成用ゴム196を厚さ方向に貫通しており、平面視で軸直角方向一方向に長手とされて、互いに平行に所定距離を隔てて形成されている。また、連通孔198aは、連通孔198bに比べて、長手方向での長さ寸法が小さく設定されている。更に、連通孔198aは、連通孔198bと対向する軸直角方向(図7中の左右方向)で、連通孔198bよりも外周寄りに配置されている。なお、連通孔198a,198bは、第一の実施形態の連通孔111と同様に、互いに同一方向で傾斜しながら通路形成用ゴム196を貫通している。
また、連通孔198aと連通孔198bの幅方向両側には、前記第一の実施形態と同様に、それぞれ上下の弁状ゴム突起112,116と、上下の緩衝突起114,118が形成されている。なお、連通孔198aの幅方向両側に形成された上下の弁状ゴム突起112a,116aおよび上下の緩衝突起114a,118aは、連通孔198bの幅方向両側に形成された上下の弁状ゴム突起112b,116bおよび上下の緩衝突起114b,118bよりも連通孔198の長手方向(図7中の上下方向)における長さ寸法が小さくされている。
そして、通路形成用ゴム196が収容領域190に配設されることにより、可動隔壁184が形成されている。また、可動隔壁184は、第一の実施形態の可動隔壁54と同様に、支持ゴム弾性体58と弾性支持筒部64の間で弾性的に支持されている。これにより、通路形成用ゴム196に形成された連通孔198aと連通孔198bは、上下の透孔192,194を通じて平衡室92と中間室94にそれぞれ連通されており、連通孔198aによって平衡室92と中間室94を相互に連通する第一の高周波オリフィス通路200が形成されていると共に、連通孔198bによって平衡室92と中間室94を相互に連通する第二の高周波オリフィス通路202が形成されている。なお、これら第一,第二の高周波オリフィス通路200,202によって、本実施形態の高周波オリフィス通路が構成されている。また、第一の高周波オリフィス通路200は、第二の高周波オリフィス通路202に対して、通路長が同じで且つ通路断面積が小さくなっており、チューニング周波数が低周波数に設定されている。
このような構造とされた自動車用エンジンマウント182では、低周波オリフィス通路100および中周波オリフィス通路104による低乃至中周波振動に対する防振効果が発揮されると共に、第一,第二の高周波オリフィス通路200,202によって高周波振動に対する防振効果が発揮される。特に、第一,第二の高周波オリフィス通路200,202が互いに異なる周波数にチューニングされていることにより、高周波数域で周波数が異なる複数種類の振動に対して各オリフィス通路200,202による防振効果が発揮されるようになっており、高周波数域の振動に対する防振性能の向上が図られている。
また、通路形成用ゴム196が中央孔を備えない円板形状とされている。それ故、連通孔の位置や数の自由度が増して、目的とする防振特性により適合するエンジンマウントを実現することが可能となる。
次に、図8には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第四の実施形態として、自動車用エンジンマウント204が示されている。なお、自動車用エンジンマウント204は、前記第三の実施形態に係る自動車用エンジンマウント156と共通の構造を有していることから、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
自動車用エンジンマウント204は、仕切部材206を有している。仕切部材206は、前記実施形態における仕切部材本体160と略同一の構造を有していると共に、径方向中間部分には、中央凹所164の上底壁部を軸方向に貫通する連通孔208が形成されている。そして、連通孔208の一方の開口部が受圧室90に連通されていると共に、他方の開口部が平衡室92に連通されており、連通孔208によって高周波オリフィス通路210が形成されている。なお、高周波オリフィス通路210は、アイドリング振動に相当する周波数にチューニングされている。
また、高周波オリフィス通路210の開口部には、弁体としての板状ゴム弁212が配設されている。板状ゴム弁212は、略円板形状を有するゴム弾性体で形成されており、連通孔208の直径よりも大径とされている。また、板状ゴム弁212には、板厚方向で仕切部材206と反対側に突出する係止部214が一体形成されている。係止部214は、突出先端側に向かって次第に小径となる略円錐台形状の先端部分と、先端部分の基端側と板状ゴム弁212を連結して先端部分の基端部よりも小径とされた円柱形状の連結部を、一体的に備えた構造とされている。
また、板状ゴム弁212は、ばね手段としての板ばね216によって支持されている。板ばね216は、長手板形状を有する金属材で形成されており、長手方向の一方の端部に板状ゴム弁212が固定されていると共に、長手方向他方の端部が仕切部材206に固定されている。これにより、板状ゴム弁212は、板ばね216を介して、仕切部材206に対して弾性的に支持されている。また、板ばね216の長手方向中間部分には傾斜部が設けられており、板ばね216の長手方向端部に固着された板状ゴム弁212が、外力が作用しない初期状態において仕切部材206から軸方向に離隔されている。そして、板状ゴム弁212が、板ばね216の弾性変形によって、高周波オリフィス通路210の開口部に対する接近方向および離隔方向への変位を許容されている。なお、板ばね216の仕切部材206への固定手段は、特に限定されるものではないが、例えば、リベットやねじによる固定、接着剤による接着、溶接等の手段が採用され得る。また、板状ゴム弁212は、板ばね216に対して係止部214の係止によって固定されているが、加硫接着等の手段で固定されていても良い。
なお、一対の板状ゴム弁212,212が、高周波オリフィス通路210の両開口部に対向して離隔配置されており、それぞれ独立した板ばね216,216によって弾性的に支持されている。要するに、板状ゴム弁212をそれぞれ有する一対の板ばね216,216が、仕切部材206の両面に取り付けられている。
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウント204では、エンジンシェイクに相当する周波数域の振動入力時に、低周波オリフィス通路100を通じての流体流動に基づく防振効果が発揮されると共に、アイドリング振動に相当する周波数域の振動入力時に、高周波オリフィス通路210を通じての流体流動に基づく防振効果が発揮される。
そこにおいて、エンジンシェイクに相当する周波数の振動入力時には、受圧室90又は平衡室92の圧力や連通孔208に流入する流体の流速に基づく負圧等が作用することにより、板ばね216が弾性変形せしめられて、板状ゴム弁212が高周波オリフィス通路210の開口部に接近せしめられる。これにより、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力変動が効率的に確保されて、低周波オリフィス通路100による防振効果を有利に得ることが出来る。
しかも、ばね手段が金属製の板ばね216によって構成されていることから、ばね手段の耐久性の向上を図ることが出来て、繰返しの作動によっても充分な信頼性を確保することが出来る。更に、ゴム弾性体に比べて減衰が極めて小さい金属を利用することで、弁体を迅速に作動させることが出来て、低周波オリフィス通路100によって発揮される防振効果を有利に得ることが出来る。更にまた、金属製のばね手段(板ばね216)と、ゴム弾性体で形成された弁体(板状ゴム弁212)を組み合わせて採用することにより、上記の如き金属ばねの有利な効果を享受しつつ、ゴム弁の有利な効果をも得ることが出来る。即ち、高周波オリフィス通路210を遮断する際に発生する当接打音を、板状ゴム弁212の緩衝作用によって抑えることが出来ると共に、板状ゴム弁212の弾性変形による密着性を利用して、高周波オリフィス通路210の確実な遮断をも実現することが出来る。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はその具体的な記載によって限定的に解釈されない。例えば、前記第一〜第五の実施形態では、受圧室側と平衡室側の両側にそれぞれ弁体を配設した構造が示されているが、一方のみに弁体を配設しても良く、例えば、受圧室側にのみ弁体を設けても良い。これによれば、高周波オリフィス通路を通じて受圧室側から平衡室側への流体流入よりも平衡室側から受圧室側への流体流入が有利に生ぜしめられる。それ故、受圧室の液圧が平衡室の液圧に対して相対的に高く設定されて、受圧室の負圧に起因する異音の発生を防ぐことが出来る。
また、前記第一〜第四の実施形態では、一対の連通孔を径方向一方向で対向して配置した構造が示されているが、例えば、連通孔が1つだけ形成されていても良いし、3つ以上の連通孔が形成されていても良く、それに応じて弁体やばね手段の数も適宜に設定される。また、前記第一〜第四の実施形態と同様に2つの連通孔を形成する場合にも、それら2つの連通孔は必ずしも径方向一方向で対向する位置に形成されていなくても良い。
また、前記第一〜第四の実施形態では、上下の弁状ゴム突起が予め連通孔側に傾斜している構造が示されているが、弁状ゴム突起は突出方向がマウント軸方向に対して平行を為すように形成されていても良い。なお、高周波オリフィス通路の弁状ゴム突起による閉作動を確実に実現するために、弁状ゴム突起は、突出方向に延びる弾性主軸が、突出先端側に向かって次第に連通孔側に傾斜していることが望ましい。より好適には、前記第一〜第四の実施形態に示された上下の弁状ゴム突起のように、その連通孔側の面と連通孔と反対側の面の両方が、突出先端側に向かって次第に連通孔側に傾斜する傾斜面とされている。
また、例えば、前記第五の実施形態に示された仕切部材184の上面に対して、円形孔186の開口周縁部から受圧室90側に突出する弁状ゴム突起を直接的に固着せしめて、弁状ゴム突起の弾性変形によって円形孔186が遮断されるようにしても良い。
また、前記第一〜第四の実施形態では、連通孔として直線的に延びる連通孔が例示されているが、例えば、周方向に湾曲する連通孔や波状の連通孔等も適用可能である。更に、連通孔は軸方向に対して傾斜していたが、この傾斜は必ずしも必要ではない。
また、前記第一〜第四の実施形態では、連通孔を挟んだ片側に弁状ゴム突起(弁体)が形成されていたが、両側に弁状ゴム突起を形成して、それら弁状ゴム突起がそれぞれ連通孔側に弾性変形することによって高周波オリフィス通路が遮断されるようになっていても良い。
また、前記第三の実施形態では、上側弁状ゴム突起112と上側弁状ゴム突起180を設けて、それら上側弁状ゴム突起112,180の断面形状の違いによるばね定数の差によって、第一の高周波オリフィス通路176の遮断条件と第二の高周波オリフィス通路178の遮断条件とを互いに異ならせたが、例えば、同一の断面形状を有する弁状ゴム突起の初期状態における連通孔との離隔距離を異ならせることにより、複数の高周波オリフィス通路の閉鎖条件を互いに異ならせることも出来る。更に、例えば、同一形状を有する弁状ゴム突起の形成材料を異ならせることで、遮断条件を異ならせることも出来る。
また、連通孔は、弁体の閉作動時に必ずしも完全に閉塞されなくても良く、例えば、弁体がばね手段の付勢力に抗して連通孔の開口部に接近して、微小な隙間をもって対向する位置に移動することで、弁体と連通孔の開口部との間に形成された狭窄領域(隙間)において流動抵抗を著しく大きくして、連通孔が実質的な遮断状態に保持されるようになっていても良い。
また、前記第一,第二,第四の実施形態では、中周波オリフィス通路104が、低周波オリフィス通路100の一部を利用して形成されていたが、中周波オリフィス通路104は、低周波オリフィス通路100とは完全に独立して形成されていても良い。
また、前記第一,第二の実施形態に示されている環状ゴム板86およびコイルスプリング88で構成された短絡機構(一方向弁)は必ずしも必要ではない。また、圧逃がし弁の付勢手段としては、必ずしも金属製のコイルスプリングに限定されるものではなく、例えばゴムや弾性を有する合成樹脂を用いたり,板ばね等を用いることも可能である。また、圧逃がし弁としても、ゴム弾性体のみならず、金属や樹脂等の硬質の材料を用いることも可能である。
また、前記第一,第二,第四の実施形態においては、可動隔壁54(184)と支持ゴム弾性体58を含んでダイナミックダンパが構成されていると共に、仕切部材48(183)とシールゴム層40を含んで更にダイナミックダンパが構成されることによって、チューニング自由度の更なる向上と高周波数域の入力振動に対する防振効果の更なる向上が図られていたが、これらのダイナミックダンパ構成は必ずしも必要ではない。例えば、可動隔壁54(184)や仕切部材48(183)の固有振動数を、防振すべき振動の周波数域から外れた周波数域にチューニングして、可動隔壁54(184)や仕切部材48(183)が実質的にダイナミックダンパとして機能しないようにする等しても良い。なお、このことからも明らかなように、可動板が収容されるハウジングは、必ずしも仕切部材本体50に対して弾性支持されていなくても良い。更に、仕切部材48(183)が第二の取付部材14に対して弾性支持されている必要もない。
また、前記第一,第四の実施形態では、低周波オリフィス通路100における中周波オリフィス通路104を外れた平衡室92側の端部を利用して、中間室94と平衡室92を連通する更なるオリフィス通路を形成しても良い。同様に、前記第二の実施形態では、低周波オリフィス通路100における中周波オリフィス通路104を外れた受圧室90側の端部を利用して、受圧室90と中間室94を連通する更なるオリフィス通路を形成しても良い。
また、通路形成用ゴム106,174は、例えば、円板形状や矩形板形状等であっても良い。
また、本発明は、自動車用の流体封入式防振装置にのみ適用されるものではなく、例えば鉄道用車両や産業用車両,自動二輪車等に用いられる流体封入式防振装置等にも適用可能である。更に、本発明は、エンジンマウント以外にも、例えばボデーマウントやメンバマウント等の各種流体封入式防振装置にも適用可能である。