以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明では、原則として、上下方向とは軸方向である図1中の上下方向を、左右方向とは図1中の左右方向を、前後方向とは図1中の紙面直交方向を、それぞれ言う。
より詳細には、第一の取付部材12は、金属などで形成された高剛性の部材であって、全体として略円柱形状の取付部18を有している。更に、取付部18の下部には、外周へ突出する環板状部20が設けられていると共に、取付部18から下方へ向けて突出する略半球状の固着部22が一体形成されている。更にまた、第一の取付部材12には、中心軸上を上下に直線的に延びる取付用ねじ穴24が形成されており、取付部18の上面に開口している。
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材であって、全体として薄肉大径の略円筒形状を有しており、上部が上方に向けて次第に大径となるテーパ部26を備えていると共に、テーパ部26の上端には外周へ突出するフランジ部28が一体形成されている。
そして、第一の取付部材12と第二の取付部材14は、略同一中心軸上で上下に配設されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として略円錐台形状を有しており、小径側の端部である上端部に第一の取付部材12が加硫接着されていると共に、大径側の端部である下端部の外周面に第二の取付部材14が加硫接着されている。なお、本実施形態の本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体16の下部には、下面に開口する大径凹所30が形成されている。この大径凹所30は、逆向きの略すり鉢形状とされており、開口周縁部には下方に延び出す薄肉筒状のシールゴム層32が本体ゴム弾性体16と一体形成されて、第二の取付部材14の内周面に固着されている。
また、第二の取付部材14には、可撓性膜34が取り付けられている。可撓性膜34は、薄肉のゴムや樹脂エラストマで形成されており、容易に変形可能とされている。更に、可撓性膜34の外周面には、環状の固定部材36が加硫接着されている。
そして、可撓性膜34は、第二の取付部材14の内周側へ下方から差し入れられて、固定部材36が第二の取付部材14の内周面を覆うシールゴム層32に押し当てられることにより、第二の取付部材14に取り付けられている。なお、固定部材36が第二の取付部材14の内周側へ挿入された状態で、第二の取付部材14に八方絞りなどの縮径加工を施すことにより、第二の取付部材14が固定部材36にシールゴム層32を介して嵌着されて、可撓性膜34が第二の取付部材14に対して装着される。
このように、可撓性膜34が第二の取付部材14に装着されることにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜34の間には、非圧縮性流体を封入された流体封入領域38が、外部空間に対して流体密に画成されている。流体封入領域38に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などの液体が、好適に採用される。更に、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有利に得るために、好適には、流体封入領域38に封入される非圧縮性流体が0.1Pa・s以下の低粘性流体とされる。なお、非圧縮性流体は、可撓性膜34を第二の取付部材14の装着して流体封入領域38を形成した後で、流体封入領域38に封入することも可能であるが、例えば、可撓性膜34の第二の取付部材14への組付け工程を非圧縮性流体で満たした水槽中で行うことによって、可撓性膜34の第二の取付部材14への組付けと同時に流体封入領域38に封入することもできる。
また、流体封入領域38には、仕切部材40が配設されている。仕切部材40は、金属や合成樹脂などで形成された硬質の部材であって、図2〜4に示すように、略円板形状を有しており、図5にも示すように仕切部材本体42と蓋部材44を組み合わせた構造を備えている。なお、図5において、第一のオリフィス通路94(後述)の受圧室90(後述)側の開口は、図示を省略した。
仕切部材本体42は、図6〜8に示すように、全体として略円板形状を有していると共に、上面視で略円形の中央凹所46が上面に開口して形成されている。この中央凹所46は、内周面に段差48が形成されており、段差48よりも下側が上側よりも小径とされている。更に、仕切部材本体42における中央凹所46の底面には、三つの位置決め突部50,50,50が突出している。位置決め突部50は、小径の略円柱形状を有しており、上端が段差48よりも上方に位置して中央凹所46の大径部分に達していると共に、上面に開口して内周面にねじ山を形成された連結用ねじ穴52を備えている。
さらに、仕切部材本体42における中央凹所46の底壁には、上下に貫通する下スリット54が形成されている。下スリット54は、左右方向(図7中の左右方向)の幅寸法が小さくされた略長方形断面を有する孔であって、下スリット54を挟んで左右一方の側に二つの位置決め突部50,50が配置されていると共に、下スリット54を挟んで左右他方の側に一つの位置決め突部50が配置されている。
更にまた、仕切部材本体42における中央凹所46の底壁には、上下に貫通する平衡室側リリーフ孔としての下リリーフ孔56が形成されている。下リリーフ孔56は、図7,8に示すように、左右方向の幅寸法が小さくされた略長方形断面を有する孔であって、中央凹所46の底壁において前後方向の中央部分且つ左右方向の中間部分に部分的に形成されており、孔断面積が下スリット54よりも小さくされている。
さらに、仕切部材本体42には、外周面に開口して周方向へ一周に満たない長さで延びる周溝58が形成されている。なお、周溝58は、エンジンマウント10が要求される防振特性などに応じて、一周以上の長さで延びるように形成することもできる。
蓋部材44は、図9〜11に示すように、上面視で略弓形の板状とされており、本実施形態では、半円形よりも中心角を大きくされた上面視で優弧状の外周面を有している。
さらに、蓋部材44には、三つの連結凹部60,60,60が下面に開口して形成されている。この連結凹部60は、図11に示すように、小径の円形断面を有する凹所であって、本実施形態では、上面視で弓形とされた蓋部材44の弦に沿って二つの連結凹部60,60が配置されていると共に、弦からより離れた位置に一つの連結凹部60が配置されている。また、連結凹部60の上底壁部には、図10,11に示すように、上下に貫通するねじ挿通孔62がそれぞれ貫通形成されている。なお、本実施形態のねじ挿通孔62は、上部が下部よりも大径とされて後述するねじ66の頭部を収容可能とされている。
更にまた、蓋部材44には、厚さ方向に貫通する上スリット64が形成されている。本実施形態の上スリット64は、全体として略長方形の孔断面を有しており、上面視で弓形とされた蓋部材44の弦と略平行に延びる直線的な形状とされている。なお、蓋部材44の弦と上スリット64の間に二つの連結凹部60,60が配置されていると共に、それら二つの連結凹部60,60に対して上スリット64をその幅方向(図10中の左右方向)に挟んで反対側に一つの連結凹部60が配置されている。
そして、蓋部材44は、仕切部材本体42の中央凹所46に差し入れられている。蓋部材44は、中央凹所46の大径とされた上部に配置されて、下面の外周端部が仕切部材本体42の段差48に重ね合わされていると共に、蓋部材44の連結凹部60に対して仕切部材本体42の位置決め突部50が挿入されて、蓋部材44のねじ挿通孔62に上側から挿通されたねじ66が位置決め突部50の連結用ねじ穴52に螺着されることで、蓋部材44が仕切部材本体42に固定されている。なお、本実施形態では、各位置決め突部50が対応する連結凹部60に挿入されて、蓋部材44と仕切部材本体42の相対的な向きが一意的に設定されるように、三つの位置決め突部50,50,50とそれらに対応する三つの連結凹部60,60,60の配置が設定されている。
また、相互に固定された仕切部材本体42と蓋部材44の間には、中央凹所46の下部で構成された収容空所68が形成されている。この収容空所68には、弾性板部材70が収容配置されている。弾性板部材70は、ゴムや合成樹脂エラストマなどで形成されており、図12〜15に示すように、全体として略円板形状を有している。また、弾性板部材70の上下両面には、多数の小突起71が分散して一体形成されている。なお、弾性板部材70における外周端部には、周方向に延びて上下方向の外側へ突出する第一のシール突条72が上下両面に形成されている。
さらに、弾性板部材70は厚さ方向に貫通する三つの位置決め孔74,74,74を備えており、それら三つの位置決め孔74,74,74の孔断面形状や配置が仕切部材本体42の三つの位置決め突部50,50,50と対応している。なお、三つの位置決め孔74,74,74は、何れも後述する連通孔76およびリリーフ弁82を外れた位置に設けられている。
更にまた、弾性板部材70には、上下に貫通する連通孔76が形成されている。連通孔76は、仕切部材本体42の下スリット54および蓋部材44の上スリット64と対応する幅狭のスリットとされている。なお、図13,14に示すように、連通孔76の上下両側の開口周縁部には、それぞれ第二のシール突条77が全周に亘って形成されている。
この連通孔76の幅方向(図13中の左右)両側の開口端部には、弁体78,78が設けられている。弁体78,78は、連通孔76の幅方向で相互に所定の距離を隔てて対向して略平行に配置されており、連通孔76の貫通方向に延びて長さ方向(図13中の上下)に広がる板状とされて、弾性板部材70の上下各一方の端部において連通孔76の内面に一体的につながっている。また、各弁体78は、弾性板部材70への連結側である基端部から先端側へ向けて次第に他方の弁体78側へ傾斜するように広がっている。また、弁体78には、基端側へ突出する緩衝突条80が一体形成されている。そして、一方の弁体78が、他方の弁体78に接近する方向へ弾性変形して緩衝突条80に当接することにより、連通孔76が弁体78によって遮断されるようになっている。なお、本実施形態では、連通孔76に二つの弁体78,78が設けられているが、何れか一方の弁体78だけを設けることもできる。
さらに、弾性板部材70の外周部分には、周方向の一部にリリーフ弁82が設けられている。リリーフ弁82は、上面視で略弓形の板状とされており、本実施形態では上面視において半円よりも中心角の小さい劣弧状の外周面を有している。また、リリーフ弁82は、下面に複数の小突起71が突出形成されている一方、上面には二つの凹溝84a,84bが形成されている。凹溝84は、連通孔76の幅方向端縁と略平行に延びる直線的な溝であって、一方の凹溝84aがリリーフ弁82の基端部に形成されていると共に、他方の凹溝84bが一方の凹溝84aに対してリリーフ弁82の先端側に離れた中間部分に形成されている。なお、弾性板部材70におけるリリーフ弁82と他の部分との境界部分には、凹溝84aに沿って延びる第三のシール突条86が上下方向の外側へ突出して上下両面に設けられている。
このように、弁体78,78とリリーフ弁82は、何れも弾性板部材70に一体的に設けられている。本実施形態では、弁体78,78とリリーフ弁82がゴム弾性体によって一体形成されている。
かくの如き構造とされた弾性板部材70は、仕切部材40の収容空所68に配設されている。即ち、弾性板部材70は、仕切部材本体42と蓋部材44を組み合わせる前に、仕切部材本体42の中央凹所46へ上側から差し入れられており、仕切部材本体42の三つの位置決め突部50,50,50が弾性板部材70の各対応する位置決め孔74へ挿通されることで、弾性板部材70を仕切部材本体42に対して位置決めする位置決め手段87が、弾性板部材70と仕切部材本体42の間に構成される。そして、仕切部材本体42に対して蓋部材44が上側から組み付けられることによって、弾性板部材70が仕切部材本体42と蓋部材44の間で挟持されて、仕切部材40によって支持される。なお、本実施形態では、弾性板部材70は、小突起71と第一〜第三のシール突条72,77,86の形成部分において、仕切部材本体42と蓋部材44の間で上下に圧縮されて挟持されている。尤も、弾性板部材70は、必ずしも仕切部材40によって圧縮された状態で挟持されていなくても良く、仕切部材40における収容空所68の上下壁内面に対して隙間をもって配設されていても良く、仕切部材40に対して上下方向に微小変位可能な態様で仕切部材40によって支持され得る。
さらに、弾性板部材70の連通孔76が仕切部材本体42の下スリット54と蓋部材44の上スリット64に対して位置決めされており、それら連通孔76と上下のスリット64,54が上下方向で直線的に連続している。また、連通孔76の開口端部に設けられた弁体78,78の先端部分は、上下のスリット64,54の各一方に差し入れられている。
更にまた、弾性板部材70のリリーフ弁82は、蓋部材44を外れた位置(蓋部材44に対して図2中の左側)に配置されており、上面が仕切部材本体42と蓋部材44の径方向間に形成される受圧室側リリーフ孔としての上リリーフ孔88において上方へ露出している。更に、リリーフ弁82の下面は、中央凹所46の底面の一部で構成された支持面89に重ね合わされていると共に、支持面89に開口して中央凹所46の底壁部を上下に貫通する下リリーフ孔56において下方へ露出している。この下リリーフ孔56は、上リリーフ孔88の蓋部材44側の端縁よりもリリーフ弁82の先端側に位置して、下リリーフ孔56の全体が上下方向の投影において上リリーフ孔88と重なり合っていると共に、リリーフ弁82の先端と基端の中間に設けられて、基端側に偏倚した位置に配されている。なお、上リリーフ孔88がリリーフ弁82の全体を上方へ露出させるように形成されていると共に、下リリーフ孔56がリリーフ弁82の基端部に近い一部だけを下方へ露出させるように形成されている。要するに、上リリーフ孔88の孔断面積は、下リリーフ孔56の孔断面積よりも大きくされている。
かくの如き弾性板部材70を装着した仕切部材40は、可撓性膜34が第二の取付部材14に装着される前に第二の取付部材14の内周側へ下側から差し入れられて、外周面が第二の取付部材14の内周面を覆うシールゴム層32に対して押し当てられている。これにより、仕切部材40は、第二の取付部材14にシールゴム層32を介して支持されている。なお、仕切部材40が第二の取付部材14の内周側へ挿入された状態で、第二の取付部材14に八方絞りなどの縮径加工を施すことにより、第二の取付部材14が仕切部材40にシールゴム層32を介して嵌着される。
さらに、仕切部材本体42の外周端部が本体ゴム弾性体16の下面と固定部材36の上面との間に配されており、仕切部材40が本体ゴム弾性体16と固定部材36によって上下方向で位置決めされている。
第二の取付部材14に対する内挿状態で取り付けられた仕切部材40は、流体封入領域38において軸直角方向に広がるように配設されており、流体封入領域38が仕切部材40を挟んで上下に二分されている。即ち、仕切部材40よりも上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16によって構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室90が形成されている。一方、仕切部材40よりも下側には、壁部の一部が可撓性膜34によって構成されて、可撓性膜34の変形による容積変化が許容される平衡室92が形成されている。なお、受圧室90と平衡室92には、何れも非圧縮性流体が封入されている。
また、仕切部材40の周溝58の外周側の開口が、シールゴム層32で覆われた第二の取付部材14によって流体密に覆われており、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。このトンネル状の流路の一方の端部が受圧室90に連通されていると共に、他方の端部が平衡室92に連通されており、もって受圧室90と平衡室92を相互に連通する第一のオリフィス通路94が周溝58を利用して形成されている。なお、第一のオリフィス通路94は、通路断面積Aと通路長Lの比であるA/Lを、防振対象振動の周波数に応じて設定することにより、防振対象振動に対して有効な防振効果を効率的に得ることができる。本実施形態では、第一のオリフィス通路94のチューニング周波数が、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数に設定されている。
また、受圧室90と平衡室92を相互に連通する第二のオリフィス通路96が、弾性板部材70の連通孔76によって構成されている。本実施形態では、連通孔76に弁体78,78が配されていることから、第二のオリフィス通路96が連通孔76における弁体78,78の対向面間に形成されている。そして、第二のオリフィス通路96は、上端部が仕切部材40の上スリット64を通じて受圧室90に連通されていると共に、下端部が仕切部材40の下スリット54を通じて平衡室92に連通されている。また、第二のオリフィス通路96のチューニング周波数は、第一のオリフィス通路94のチューニング周波数よりも高周波に設定されている。なお、本実施形態では、第二のオリフィス通路96のチューニング周波数が、アイドリング振動に相当する20Hz〜50Hz程度の中周波数や、走行こもり音に相当する100Hz程度の高周波数に設定されている。
また、弾性板部材70に設けられたリリーフ弁82は、上面が上リリーフ孔88を通じて受圧室90に露出しており、受圧室90の液圧が上リリーフ孔88を通じて上面に及ぼされていると共に、下面が下リリーフ孔56を通じて平衡室92に露出しており、平衡室92の液圧が下リリーフ孔56を通じて下面に及ぼされている。換言すれば、受圧室90と平衡室92を相互に連通する短絡通路98が、上リリーフ孔88と収容空所68と下リリーフ孔56とによって構成されていると共に、その短絡通路98がリリーフ弁82によって遮断されている。
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、車両に装着されており、パワーユニットがエンジンマウント10を介して車両ボデーに防振連結されている。
かかるエンジンマウント10の車両への装着状態において、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動がエンジンマウント10に対して軸方向に入力されると、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力変動によって、受圧室90と平衡室92の間で第一のオリフィス通路94を通じた流体流動が積極的に生ぜしめられる。これにより、第一のオリフィス通路94を通じて流動する流体の共振作用などの流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰作用)が発揮される。
なお、第一のオリフィス通路94がチューニングされた低周波大振幅振動の入力時には、受圧室90側へ突出する弁体78と平衡室92側へ突出する弁体78が、内圧変動に対応して交互に第二のオリフィス通路96側へ倒れるように弾性変形を繰り返す。そして、弁体78,78が緩衝突条80,80に当接することにより、第二のオリフィス通路96の開口部が閉塞されて、第二のオリフィス通路96が流体流動を阻止された実質的な閉鎖状態となる。その結果、大振幅振動の入力時に、受圧室90に惹起される圧力変動が第二のオリフィス通路96を通じて平衡室92へ逃げることが防止されて、第一のオリフィス通路94を通じての流体流動量が効率的に確保されることから、第一のオリフィス通路94を流動する流体の共振作用などに基づく目的とする防振効果(振動減衰効果など)が有効に発揮される。なお、変形した弁体78,78が緩衝突条80,80に当接することから、弁体78,78の打ち当たりによる打音の発生が防止される。
本実施形態では、第二のオリフィス通路96を構成する連通孔76が幅狭の孔断面を有するスリットとされており、連通孔76の幅方向両側の縁部に弁体78,78の各一方が設けられていることから、弁体78,78の弾性変形に対して連通孔76の開閉が速やかに応答して、目的とする防振性能をより効率的に得ることができる。
一方、中乃至高周波の小振幅振動が入力されると、第一のオリフィス通路94が流体の反共振作用により実質的な目詰まり状態とされると共に、弁体78,78の弾性変形が生じず、第二のオリフィス通路96が連通状態に維持される。これらによって、第二のオリフィス通路96を通じた流体流動が効率的に生ぜしめられて、第二のオリフィス通路96を通じて流動する流体の共振作用などに基づいた目的とする防振効果(低動ばね効果など)を有効に得ることができる。なお、以上の説明からも分かるように、第二のオリフィス通路96は、入力振動に応じて弁体78,78によって連通状態と遮断状態に切り替えられるようになっており、特に本実施形態では、連通状態で形成された第二のオリフィス通路96が、弁体78,78の弾性変形によって遮断されるようになっている。尤も、弁体78,78は、第二のオリフィス通路96の流体流動量を制限すればよく、例えば、第二のオリフィス通路96を遮断することなく狭窄せしめて流体流動量を少なくするようにしても良い。
ところで、車両が路面の段差を乗り越える際などに、エンジンマウント10に対して著しく振幅の大きな振動が入力される場合がある。このような場合には、受圧室90の内圧が大幅に低下せしめられることで、キャビテーションに起因する気相の分離を生じる場合があり、これによって発生した気泡が消失する際の衝撃波による異音を生じるおそれがある。ここにおいて、本実施形態のエンジンマウント10は、受圧室90の内圧がキャビテーションが生じ得るほどに大幅に低下すると、図16に示すように、受圧室90と平衡室92の内圧差に基づいて弾性板部材70のリリーフ弁82が受圧室90側へめくれ上がるように弾性変形せしめられる。これにより、リリーフ弁82によって覆われていた下リリーフ孔56が開放されて、下リリーフ孔56を含んで構成された短絡通路98が連通状態とされる。その結果、平衡室92から受圧室90へ短絡通路98を通じた流体の効率的な移動が生ぜしめられて、受圧室90の大幅な内圧低下による負圧が緩和乃至は解消される。したがって、受圧室90の内圧低下によるキャビテーションの発生を防いで、キャビテーションに起因する異音などを防ぐことができる。
特に本実施形態では、リリーフ弁82が弾性板部材70の外周部分に設けられており、リリーフ弁82がめくれ上がるように弾性変形することで、短絡通路98が連通状態に切り替えられるようになっている。それ故、リリーフ弁82を比較的に大きく形成し易く、リリーフ弁82の変形特性を大きな自由度でチューニングすることができる。
さらに、本実施形態では、リリーフ弁82が円板形状の弾性板部材70の外周部分に形成されることで弓形とされていることから、リリーフ弁82が先端に向けて次第に幅狭となっている。これにより、リリーフ弁82の先端部が基端部よりも変形し易くなっており、受圧室90の圧力低下に対してリリーフ弁82の先端部がより速やかに変形することで、受圧室90の負圧を速やかに低減乃至は解消することができると共に、受圧室90の圧力低下が大きい場合には、リリーフ弁82がより基端側まで弾性変形することで、短絡通路98の実質的な通路断面積が大きく確保される。
更にまた、リリーフ弁82には、上面視で弦と略平行に延びる凹溝84が受圧室90側の面に開口するように形成されて、凹溝84の形成部分において厚さ寸法が小さくされている。凹溝84は、リリーフ弁82がめくれ上がる弾性変形時に谷折れ状に曲がる方向に延びていることから、リリーフ弁82が凹溝84の形成部分において凹溝84に沿って変形し易くなっており、リリーフ弁82のめくれ上がるような弾性変形が安定して生ぜしめられる。特に、凹溝84の幅方向の開口端縁が相互に接近するようにリリーフ弁82が弾性変形し易くなっていることから、リリーフ弁82のめくれ上がるような弾性変形が許容される。
しかも、本実施形態のリリーフ弁82には、二つの凹溝84a,84bが形成されており、一方の凹溝84aがリリーフ弁82の基端部(図13中の右端部)に配置されていると共に、他方の凹溝84bが一方の凹溝84aに対して先端側に離れて配置されている。これにより、リリーフ弁82が各凹溝84の形成部分において弾性変形することから、リリーフ弁82の弾性変形量を十分に得ることができて、短絡通路98の実質的な通路断面積を大きく確保することが可能とされている。したがって、短絡通路98を通じた流体の移動が十分に生ぜしめられて、キャビテーションが有効に緩和乃至は解消される。
加えて、幅寸法が小さいリリーフ弁82の先端部が凹溝84bによって速やかに弾性変形することで、短絡通路98が受圧室90の負圧に対する優れた応答性をもって連通状態に切り替えられると共に、リリーフ弁82が凹溝84aを有する基端部でも弾性変形することにより、短絡通路98を通じた流体の流動量が十分に確保される。なお、凹溝84の数や大きさ、長さなどを調節することで、リリーフ弁82の変形特性をチューニングすることもできる。
なお、リリーフ弁82は、キャビテーションの発生が問題にならない振動の入力時、即ち、オリフィス通路94,96による防振効果が発揮される通常の振動入力時や、受圧室90が増圧されて正圧になる場合には、短絡通路98を遮断した状態に保持される。本実施形態では、リリーフ弁82の平衡室92側の面が仕切部材40の中央凹所46の底面で構成された支持面89に重ね合わされており、受圧室90が正圧の場合には、リリーフ弁82が支持面89によって支持されることで、リリーフ弁82の変形による受圧室90の液圧の低下が防止されるようになっている。しかも、短絡通路98において、リリーフ弁82に対して受圧室90側に設けられた上リリーフ孔88が、リリーフ弁82に対して平衡室92側に設けられた下リリーフ孔56よりも孔断面積が大きくされていることから、リリーフ弁82の受圧室90側への弾性変形が上リリーフ孔88によって許容されていると共に、リリーフ弁82の平衡室92側への弾性変形が防止されている。
さらに、下リリーフ孔56がリリーフ弁82の基端部分に向けて開口しており、リリーフ弁82の先端部分は仕切部材40の支持面89によって支持されている。これにより、リリーフ弁82が下リリーフ孔56に入り込むように変形するのを防ぐことができると共に、通常の振動入力時にリリーフ弁82がめくれ上がるように変形するのも防ぐことができる。
以上の説明からも理解されるように、エンジンマウント10では、仕切部材40によって支持される弾性板部材70が、第二のオリフィス通路96の連通と遮断を切り替える弁体78,78と、短絡通路98の連通と遮断を切り替えるリリーフ弁82とを、一体で備えている。それ故、弁体78,78とリリーフ弁82を各別に設ける構造に比べて、仕切部材40における弁体78,78とリリーフ弁82の配設領域を小さくすることができて、エンジンマウント10の小型化が図られると共に、弁体78,78とリリーフ弁82が仕切部材40に対して一つの部品として同時に組み付けられることで作業工程を減らすことができる。
さらに、仕切部材40によって挟持される部分が弁体78,78とリリーフ弁82において共通化されることで、弁体78,78を配された連通孔76とリリーフ弁82とを弾性板部材70においてより大きな割合で設けることができる。それ故、弁体78,78やリリーフ弁82の作動特性をより大きなチューニング自由度で設定可能となると共に、連通孔76の開口面積を確保することで第二のオリフィス通路96のチューニング周波数をより大きな自由度で設定することも可能となる。
しかも、連通孔76がスリットとされていると共に、リリーフ弁82が上面視で弓形とされており、連通孔76の幅方向の縁部がリリーフ弁82の弦に対して略平行に延びている。これにより、連通孔76とリリーフ弁82が弾性板部材70の左右方向(図13中の左右方向)に並んで配置されており、連通孔76とリリーフ弁82をスペース効率よく配置することができる。
また、弾性板部材70が上下に貫通する位置決め孔74を備えていると共に、仕切部材40が中央凹所46の底面から上方へ突出する位置決め突部50を備えており、位置決め突部50が位置決め孔74へ挿通されることで弾性板部材70を仕切部材40に対して位置決めする位置決め手段87が構成されている。これにより、受圧室90と平衡室92の間に大きな内圧差が生じても、弾性板部材70が仕切部材40の収容空所68から抜け出して受圧室90や平衡室92に入り込むといった不具合を回避することができる。
しかも、本実施形態では、三つの位置決め孔74,74,74とそれらに対応する位置決め突部50が設けられていると共に、それら三つの位置決め孔74,74,74が弾性板部材70の裏表と周方向の向きを一意的に設定できるように配置されている。具体的には、連通孔76を挟んでリリーフ弁82側に二つの位置決め孔74,74が形成されていると共に、連通孔76を挟んでリリーフ弁82と反対側に一つの位置決め孔74が形成されており、更に、リリーフ弁82側に設けられた二つの位置決め孔74,74が弾性板部材70の前後方向(図13中の上下方向)の中央に対して非対称となる位置に配置されている。これにより、弾性板部材70が仕切部材40に対して誤った向きで組み付けられるのを防いで、目的とする性能を安定して得ることができる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、リリーフ弁82が弾性板部材70の外周部分の一部に設けられていたが、リリーフ弁82は、弾性板部材70の外周部分に全周に亘って設けられる環状などであっても良い。なお、このように全周に亘ってリリーフ弁82を設ける場合には、凹溝84を全周に亘って連続する環状とすることもできる。
また、リリーフ弁82は上面視で弓形に限定されず、例えば上面視で四角形であっても良い。更に、リリーフ弁82は、例えば先端に向けて次第に或いは段階的に薄肉とすることで、先端側の変形特性と基端側の変形特性をチューニングすることもできる。なお、リリーフ弁82を備える弾性板部材70も上面視の形状は特に限定されず、例えば四角板状であっても良い。また、弾性板部材70において、リリーフ弁82を構成する部分だけを薄肉にするなどしてリリーフ特性をチューニングすることもできる。
また、リリーフ弁82が配された短絡通路98は複数が設けられていても良い。更に、弁体78を備えた連通孔76を複数設けることもできる。
また、下リリーフ孔56の孔断面積や形成数、リリーフ弁82に対する相対的な位置などは、要求される特性などに応じて適宜に変更され得る。
位置決め手段は、例えば弾性板部材70の外周面に凹みを設けると共に、仕切部材40における収容空所68の内周面に突起を設けて、それら凹みと突起の組み合わせによって構成することもできる。なお、位置決め手段は、弾性板部材70が収容空所68から脱落するのを防止する機能を備えていなくても良く、例えば弾性板部材70の収容空所68内での回転を阻止するだけでも良い。
前記実施形態では、本発明をエンジンマウント10に適用する例について説明したが、本発明は、例えばサブフレームマウントのような他の流体封入式防振装置にも適用可能である。更に、本発明は、自動車用の流体封入式防振装置にのみ適用されるものではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などに用いられる流体封入式防振装置にも適用され得る。