JPWO2009096008A1 - 操舵制御装置 - Google Patents

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Abstract

コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を精度良く抽出し、脈動を低減することを目的とする。時定数を可変にしたバンドパスフィルタを用いて脈動成分を抽出し、その時定数を、抽出対象とするコギングトルクやトルクリプルの周波数に応じて設定する。さらに、モータの回転角度に対する基準角度をコギングトルクやトルクリプルの発生調波次数に応じて予め設定しておき、上記のバンドパスフィルタの時定数を、当該基準角度をモータが回転するのに要する時間から設定する。

Description

この発明は、操舵制御装置に関し、特に、電動モータのコギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を抽出し低減するための操舵制御装置に関するものである。
自動車の操舵制御装置として、電動パワーステアリング装置が用いられている。電動パワーステアリング装置は、電動モータの電流を制御し、電流に応じて発生する電動モータトルクをステアリング軸に伝達させ、運転者の操舵トルクを軽減する。
一般に、電動モータが発生するトルクには、コギングトルクやトルクリプルが含まれる。コギングトルクやトルクリプルは外乱トルクとして作用し、操舵トルクが脈動するため、操舵フィーリングが低下する場合がある。これを防ぐため、モータのコギングトルクやトルクリップルを低減すべく高価なモータを用いてきた。
従来の自動車の操舵制御装置では、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を抽出し、操舵トルクの脈動を低減するように、電動モータによる補償制御を行っている(例えば、特許文献1参照)。
また、他の従来の自動車の操舵制御装置として、時定数可変フィルタを用いた電動パワーステアリング装置がある。この電動パワーステアリング装置においては、時定数をステアリングホイールの角速度で可変にしたローパスフィルタでノイズを除去している(例えば、特許文献2参照)。
特開平2005−67359号公報(図1) 特許第3884236号公報(図3)
コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルク脈動やモータ回転角度の脈動を低減するように、電動モータによる補償制御を行う場合、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分をできるだけ正確に把握し、その脈動成分を低減する補償電流を演算することが必要である。
ただし、操舵制御装置では、運転者はステアリングホイールを自由に操舵するため、モータ回転角速度は任意の速度となる。コギングトルクやトルクリプルは、モータ回転角度に依存して発生するトルク脈動であるため、コギングトルクやトルクリプルによって発生する操舵トルク等の脈動の周波数はモータ回転角速度に応じて変化する。そのため、時定数が固定のフィルタでコギングトルクやトルクリプルを抽出しようとすると、フィルタの通過帯域周波数を広く設定する必要があり、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分以外の成分、例えば運転者の操舵成分、または、脈動成分よりも高周波域のノイズ成分等を十分に除去できないという問題点があった。
そして、運転者の操舵成分やノイズ成分等が十分に除去されていない抽出脈動成分で補償制御を設定すると、運転者の操舵フィーリングが変化する場合がある。そのため、運転者がステアリングホイールを操舵中に、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を精度良く抽出することが、脈動を低減する補償制御を実施するうえで、大きな課題であった。
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、運転者がステアリングホイールを操舵中に得られるセンサ情報の中から、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を精度良く抽出し、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルク等の脈動を低減することが可能な操舵制御装置を得ることを目的とする。
この発明は、運転者による操舵トルクを検出するトルク検出部と、前記操舵トルクを補助するためのアシストトルクを発生するモータと、前記検出された操舵トルクに基づいて、前記アシストトルクを発生するのに必要な前記モータの電動パワーアシスト用目標電流を演算する電動パワーアシスト制御部と、前記モータの回転角度を検出する角度検出部と、前記電動パワーアシスト用目標電流に一致するように、前記モータの電流を制御する電流制御部と、可変の時定数を有する時定数可変フィルタと、前記角度検出部で検出する前記モータの回転角度を用いて、前記モータが発生するコギングトルクまたはトルクリプルの周波数に対応する時定数を演算し、当該時定数を前記時定数可変フィルタに設定する時定数演算部と、前記操舵トルクや前記モータの回転角度等の状態量を前記時定数可変フィルタによりフィルタ処理するフィルタ処理演算部とを備えた操舵制御装置である。
この発明は、運転者による操舵トルクを検出するトルク検出部と、前記操舵トルクを補助するためのアシストトルクを発生するモータと、前記検出された操舵トルクに基づいて、前記アシストトルクを発生するのに必要な前記モータの電動パワーアシスト用目標電流を演算する電動パワーアシスト制御部と、前記モータの回転角度を検出する角度検出部と、前記電動パワーアシスト用目標電流に一致するように、前記モータの電流を制御する電流制御部と、可変の時定数を有する時定数可変フィルタと、前記角度検出部で検出する前記モータの回転角度を用いて、前記モータが発生するコギングトルクまたはトルクリプルの周波数に対応する時定数を演算し、当該時定数を前記時定数可変フィルタに設定する時定数演算部と、前記操舵トルクや前記モータの回転角度等の状態量を前記時定数可変フィルタによりフィルタ処理するフィルタ処理演算部とを備えた操舵制御装置であるので、運転者がステアリングホイールを操舵中に得られるセンサ情報の中から、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を精度良く抽出し、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルク等の脈動を低減することができる。
この発明の実施の形態1による時定数可変フィルタを備えた操舵制御装置を示す斜視図である。 この発明の実施の形態1によるコントローラユニット7の構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態1による電動パワーアシスト制御部71の構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態1による脈動成分抽出器44の構成を示すブロック図である。 脈動する時定数を用いたバンドパスフィルタ処理の結果を示した説明図である。 この発明の実施の形態1による脈動成分抽出器44の動作を示すフローチャートである。 バンドパスフィルタの周波数応答特性の一例を示した説明図である。 この発明の実施の形態1による基準角度の設定による効果を示した説明図である。 この発明の実施の形態1によるモータ回転角度の基準角度変化量とサンプリング数カウントとの関係を示した説明図である。 この発明の実施の形態1による時定数を設定する手法の効果を示した説明図である。 この発明の実施の形態1による脈動成分抽出の効果を示した説明図である。 この発明の実施の形態1による抽出脈動成分が複数存在する場合の基準角度の設定を示した説明図である。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による時定数可変フィルタを備えた操舵制御装置を示す斜視図である。運転者が操作するステアリングホイール1にステアリング軸2が連結されている。ステアリング軸2の回転に応じて左右の転舵輪8が転舵される。ステアリング軸2には、トルクセンサ3が配置され、ステアリング軸2に作用する運転者の操作により発生する操舵トルクを検出する。モータ4は三相モータから構成されている。モータ4は、減速機構5を介してステアリング軸2に連結されており、モータ4が発生するアシストトルクは、ステアリング軸2に付与され、操舵トルクを補助する。モータ4には、モータ回転角度を検出する角度センサ6が配置されている。車両の車速は車速センサ11(図2に記載)で検出する。また、モータ4に流れる電流は電流センサ19(図2に記載)で検出する。コントローラユニット7は、電動パワーアシスト制御部71と電流制御部72とを備えている。電動パワーアシスト制御部71は、トルクセンサ3で検出した操舵トルクと車速センサ11で検出した車速とから、運転者のステアリング操舵をアシストする電動パワーアシスト制御を実施するために必要な、モータ4の目標電流である電動パワーアシスト用目標電流を演算する。電動パワーアシスト用目標電流は、アシストトルクの目標値に相当する。電流制御部72は、電流センサ19で検出した電流が、電動パワーアシスト用目標電流に一致するように、モータ4の電流を制御する。
図2は、コントローラユニット7の要部を示すブロック図である。コントローラユニット7は、上述した電動パワーアシスト制御部71と電流制御部72の他に、図2に示すように、スイッチング素子駆動回路21とインバータ22とを備えている。インバータ22は、図2に示すように、6つのスイッチング素子61A〜63Aおよび61B〜63Bを有している。スイッチング素子61Aと61Bとが対を構成し、それらはモータ4の3相のうちの1つの相に接続されている。同様に、スイッチング素子62Aと62Bとが対を構成し、スイッチング素子63Aと63Bとが対を構成して、それらは、モータ4の3相のうちの別の相にそれぞれ接続されている。さらに、スイッチング素子61B〜63Bには電流センサ19がそれぞれ設けられており、これらの電流センサ19は、モータの各相に流れる電流を検出する。
電動パワーアシスト制御部71には、インターフェース31を介して車速センサ11で検出した車速信号が入力されるとともに、インターフェース32を介してトルクセンサ3で検出した操舵トルク信号が入力される。電動パワーアシスト制御部71は、車速信号と操舵トルク信号とに応じたモータトルクの方向と大きさを決定し、それにより、電動パワーアシスト用目標電流を算出して、電流制御部72に入力する。また、インターフェース33は、角度センサ6からのモータ回転角度信号を受け、モータ回転角度を電動パワーアシスト制御部71と電流制御部72とに入力する。また、インターフェース34は、3つの電流センサ19から、モータの各相の検出電流信号を受け、モータの検出電流を電流制御部72に入力する。
電流制御部72は、電動パワーアシスト用目標電流、モータの検出電流、および、モータの回転角度に応じて、電圧指令を算出する。スイッチング素子駆動回路21は、この電圧指令をPWM変調して、インバータ22へスイッチング操作を指示する。インバータ22は、スイッチング操作信号を受けて、スイッチング素子61A〜63Aおよび61B〜63Bのチョッパ制御を実現し、バッテリ23から供給される電力により、モータ4に電流を流す。この電流によって、モータトルクすなわちアシストトルクが発生する。
なお、上述のインバータ22の構成は三相モータに対応したものであるが、モータ4がブラシ付DCモータの場合、Hブリッジ回路を用いればよい。
図3は、電動パワーアシスト制御部71の構成を示したブロック図を示している。電動パワーアシスト制御部71はマイクロコンピュータから構成されている。車速センサ11、トルクセンサ3、角度センサ6、および、電流センサ19の出力は、各インターフェース31〜34を介して、決められたサンプリング時間毎に、マイクロコンピュータにデジタル値として読み込まれる。
電動パワーアシスト制御部71は、位相補償器35と、基本アシスト電流演算器36と、角速度演算器37と、ダンピング補償電流演算器38と、摩擦補償電流演算器39と、角加速度演算器40と、慣性補償電流演算器41と、オブザーバダンピング補償電流演算器42と、脈動成分抽出器44と、脈動補償電流演算器45とが設けられている。なお、図3において、43は、電動パワーアシスト制御部71が出力する電動パワーアシスト用目標電流である。
位相補償器35では、トルクセンサ3が検出した操舵トルクが入力され、当該操舵トルクに対して、位相補償を行って、周波数特性を改善する。基本アシスト電流補償器36は、位相補償後の操舵トルクと車速とに応じた基本アシスト電流の値をマップ値として予め記憶している。基本アシスト電流補償器36は、位相補償器35が出力する位相補償後の操舵トルクと、車速センサ11で検出された車速とが入力されると、記憶しているマップ値を用いて、位相補償後の操舵トルクと車速とに応じた基本アシスト電流を演算する。車速が小さい時は、位相補償後の操舵トルクに対する基本アシスト電流の値を大きくすることで、駐車時などの低速走行時の運転者の操舵トルクを小さくし、操舵を容易にする。なお、基本アシスト電流補償器36においてマップ演算により基本アシスト電流を求める方法を説明したが、ゲインを乗じる演算により求めるようにしてもよい。
角速度演算器37では、角度センサ6で検出されたモータ回転角度を微分しモータ回転角速度を演算する。ダンピング補償電流演算器38では、モータ回転角速度に制御ゲインを乗算して、ダンピング補償電流を演算する。ダンピング補償電流はステアリングホイールの収斂性を向上する効果がある。なお、ダンピング補償電流演算器38には、制御ゲインなどの演算に必要なマップや比例係数などの定数は予めROMに設定しておくものとする。摩擦補償電流演算器39では、モータ回転角速度の符号に基づいて摩擦補償電流を演算する。摩擦補償電流は、モータ回転角速度の符号に応じて変化する。摩擦補償電流は、ステアリング機構に存在する摩擦をキャンセルさせるためのトルクをモータ4に発生させるための電流であり、操舵フィーリングを向上させる効果がある。角加速度演算器40では、角速度演算器37で演算したモータ回転角速度を微分しモータ回転角加速度を演算する。慣性補償電流演算器41ではモータ回転角加速度から慣性補償電流を演算する。慣性補償電流はモータの慣性力をキャンセルするため、操舵フィーリングが向上する。
オブザーバダンピング補償電流演算器42では、トルクセンサ3で検出した操舵トルクと電流センサ19で検出したモータ4の電流とから、オブザーバを用いてモータ4の振動速度を推定し、減衰トルクを付与するためのオブザーバダンピング補償電流を演算する。
ここで、オブザーバダンピング補償電流演算器42について説明する。ステアリングの機構は、運転者がステアリングホイールを動かすことによって入力される操舵トルク、モータが発生するアシストトルク及びタイヤからの反力を中心とする反力トルクの釣り合いで表される。一方、ステアリング振動は一般に30Hz以上の速い周波数で発生する。この速い周波数では、ステアリングホイール角の変動や路面反力変動は無視できるほど小さくなるので、モータ4を、バネ特性を有するトルクセンサに支えられた振動系とみなすことができる。したがって、これに相当する運動方程式、例えば、モータの慣性モーメントを慣性項、トルクセンサの剛性をバネ項とする振動方程式に基づいて、回転速度オブザーバを構成すれば、コイル電流からコイルでの電圧降下を求めるときに必要な微分器を用いることなく、操舵周波数を越える周波数帯域でのモータの回転速度を推定することができる。
オブザーバダンピング補償電流演算器42における演算は、電流センサ19で検出したモータ4の電流と角度センサ6で検出されたモータ回転角度とを用いて行うこともできるが、本実施の形態においては、トルクセンサ3で検出した操舵トルクと電流センサ19で検出したモータ4の電流とを用いて演算を行う。その理由を以下に説明する。ステアリング発振が発生する高周波帯域では、運転者によるステアリングホイールの保持及びステアリングホイール自身の慣性の影響により、ステアリングホイールはほとんど動かない。したがって、バネ特性を有するトルクセンサのねじれ角をモータ回転角度とみなすことができ、トルクセンサ出力をトルクセンサのバネ定数で除し、操舵周波数成分を除去した上で符号を反転させることにより、モータ4の回転角と等価な信号を得ることができる。従って、オブザーバダンピング補償電流演算器42は、モータの慣性モーメントを慣性項、トルクセンサの剛性をバネ項とする振動方程式を用い、モータ4の回転角と等価な信号と電流センサ19で検出したモータ4の電流とに基づいて回転速度推定する。
なお、オブザーバダンピング補償電流演算器42、基本アシスト電流演算器36、ダンピング補償電流演算器38、摩擦補償電流演算器39、慣性補償電流演算器41は、特許第3712876号等に記載された公知技術である。
次に、上述のようにして求めた、基本アシスト電流、ダンピング補償電流、摩擦補償電流、慣性補償電流、および、オブザーバダンピング補償電流を、加算器等の加算手段により加算して、電動パワーアシスト用目標電流43を得る。
脈動成分抽出器44は、トルクセンサ3で検出した操舵トルクから、運転者の操舵成分や、脈動成分よりも高周波域のノイズ成分等を除去し、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルクの脈動成分を抽出する。図4は脈動成分抽出器44の構成例を示すブロック図である。図4に示すように、脈動成分抽出器44は、時定数演算器51とバンドパスフィルタ52とから構成されている。
電動モータではモータの極数やスロット数、または、製造誤差などのモータの構造に起因するコギングトルクや、鉄心の磁気飽和等に起因するトルクリプルが電動モータの回転にともない発生する。ここで、モータの極対数Pn、モータの電気角θeとすると、モータの機械角θm(モータ回転角度に相当)は式(1)となる。
θm=θe/Pn (1)
モータ一回転あたりに発生するトルク脈動の数を極対数Pnで割った値をトルクリプル発生調波次数nとする。一般に電動モータのトルクリプル発生調波次数nは複数存在するが、nは整数であり、n=1、2、6、12等の成分が発生する。
発生調波次数n次成分のトルクリプルの周波数fn[Hz]は式(2−1)となる。
fn=(dθm/dt)/(360)×Pn×n (2−1)
すなわち、トルクリプルの周波数fn[Hz]はモータ回転角速度dθm/dtに応じて変化する。
よって、バンドパスフィルタの中心周波数fcを式(2−2)のようにfnと等しくなるように設定する。
fc=fn (2−2)
さらに、バンドパスフィルタの時定数Tcは式(2−3)で設定する。
Tc=1/(2πfc) (2−3)
バンドパスフィルタの時定数を式(2−3)で設定する時定数可変フィルタをトルクセンサ3で検出した操舵トルクに適用すれば、検出した操舵トルクから運転者の操舵成分や、脈動成分よりも高周波域のノイズ成分等を除去し、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルクの脈動成分を抽出することができる。式(2−1)から式(2−3)までの演算が、図4に示す時定数演算器51で実施される。バンドパスフィルタ52としては、例えば、式(3)に示す4次のバンドパスフィルタを用いる。ここで、Gbpfはフィルタの伝達関数、sはラプラス演算子である。また、K1は中心周波数fc[Hz]でゲインが−12dBになることに対する補正ゲインであり、中心周波数fc[Hz]でゲインが0dBになるようにK1を設定する。
Figure 2009096008
中心周波数fcを10Hzとした時のバンドパスフィルタの周波数応答特性を図7に示す。図7の特性より、中心周波数fc(10Hz)では、ゲイン0dB、位相遅れ0で脈動成分を抽出でき、その他の成分を低域、高域ともに−40dB/decadeの傾きで除去することができるため、フィルタ入力信号53から脈動成分を精度良く抽出することができる。
ただし、コギングトルクやトルクリプルにより、モータ回転角度も脈動するため、モータ回転角度を微分して得たモータの回転角速度dθm/dtにも脈動成分が含まれてしまう。すなわち、式(2−1)で示すように、モータ回転角度を微分して得たモータ回転角速度dθm/dtを用いてトルクリプルの周波数fnを演算し、バンドパスフィルタの時定数を変更すると、時定数がトルクリプル周波数で変動する。そして、時定数がトルクリプル周波数で変動することにより、バンドパスフィルタの出力値が歪んでしまい、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルクの脈動成分の抽出精度が低下してしまう課題が生じることが新たに分かった。図5は脈動する時定数を用いたバンドパスフィルタ処理の結果を示した図である。図5において、L1は、脈動成分を含んだ回転角速度dθm/dtにより設定した中心周波数を示す。L2は、バンドパスフィルタに入力した操舵トルクであり、操舵成分と脈動成分が含まれている。L3は、操舵トルク成分に付与した脈動成分である。また、L4はバンドパスフィルタの出力値である。図5のL2とL4とを比較することにより、運転者による操舵成分を除去し、操舵トルクの脈動成分が抽出できていることが分かる。ただし、L3とL4とを比較すると、L4は歪んでおり、脈動成分の抽出精度が低下することが分かる。
上記の新たな課題を鑑み、脈動成分抽出器44には、さらに時定数の脈動を抑制する対策を追加した。これにより、時定数の脈動による歪みを除去し、トルクセンサ3で検出した操舵トルクから運転者の操舵成分や、脈動成分よりも高周波域のノイズ成分等を除去し、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルクの脈動成分を精度良く抽出する。図6は脈動成分抽出器44の一連の動作を示すフローチャートである。時定数演算器51を用いて、モータ回転角度からバンドパスフィルタの時定数を演算する。バンドパスフィルタ52への入力信号53は、例えば操舵トルクや、モータ回転角度等、脈動成分を抽出したい信号が入力される。バンドパスフィルタ52としては、例えば、上記の式(3)とする。
脈動成分抽出器44の一連の動作を図6のフローチャートに従って説明する。図6のフローチャートの制御は、例えばイグニッションスイッチが閉成した時に、初期値の設定をする。すなわち、Δθm=0、cnt=0、検出したモータ回転角度をθm[k−1]とする。中心周波数fcの初期値は後述する中心周波数fcの上限値とする。その後スタートし、イグニッションスイッチが開成するまで所定の実行周期および無限ループで実行される。所定の実行周期Tsは対象とするトルクリプルの周波数fn[Hz]よりも早い周期で実行するように設定し、例えばTsmp=0.005秒以下に設定する。
図6に示すように、ステップS1では、インターフェース32、33を介して、A/D変換(アナログ/デジタル変換)した操舵トルクTsおよびモータ回転角度θm[k]をメモリに記憶する。ステップS2では、式(4)に示すようにモータ回転角度の前回値θm[k−1]とモータ回転角度θm[k]との偏差を演算し、モータ回転角度の変化量の積算値Δθm[k]を演算する。
Δθm=Δθm+θm[k]−θm[k−1] (4)
ステップS3では、モータ回転角度の変化量の積算値Δθm[k]が基準角度θmr以上になるまでに要するサンプリング回数cntをカウントする。すなわち、cnt×Tsmpはモータ回転角度の変化量の積算値Δθm[k]が基準角度θmr以上になるまでに要する時間になる。
ステップS4では、モータ回転角度の変化量の積算値Δθm[k]の絶対値とあらかじめ設定した基準角度θmrとの大きさを比較する。モータ回転角度の変化量の積算値Δθm[k]の絶対値が基準角度θmr未満の時はステップS5に進み、モータ回転角度の変化量の積算値Δθm[k]の絶対値が基準角度θmr以上の時はステップS6に進む。
ここで、基準角度θmrの設定手法について説明する。基準角度θmrは抽出対象とするトルクリプルの発生調波次数nによって式(5)により設定する。ただし、K2は整数のゲインである。
θmr=K2×360/n/Pn[deg] (5)
但し、上記の基準角度θmrは機械角換算であり、電気角換算の基準角度θmreは式(6)となる。
θmre=K2×360/n[deg] (6)
すなわち、360/nは、抽出対象とするコギングトルクやトルクリプルの1周期分に相当する基準角度となる。例えば、発生調波次数n=6のトルクリプル成分を抽出する場合、基準角度θmreは60degの整数倍となる。図8に、本実施の形態に示すような基準角度の設定により得られる効果を示す。図8は、理解しやすいように、操舵成分を除去した発生調波次数n=6の回転角度脈動成分C1を示している。上述のように基準角度を設定することにより、図8に示すように、脈動成分の位相が等しいタイミングで、サンプリング回数cntをカウントすることができる。よって、図9に示すように、回転角度脈動成分の影響を除去して、基準角度θmr以上変化するのに必要なサンプリング回数をカウントすることができる。
ステップS6では、基準角度θmr以上になるまでに要するサンプリング回数cntを用いて、式(7)から中心周波数を設定する。
fc=(θmr/(cnt×Tsmp)/360×Pn×n (7)
本発明の中心周波数を設定する手法の効果を図10に示す。図10において、T1は、ステップS6で時定数を演算するタイミングを示す。また、図10において、L5は、各サンプリングでモータの回転角速度dθm/dtを演算し、式(2−1)および(2−2)から中心周波数fcを設定した結果である。L6は、本実施の形態の式(7)から中心周波数fcを設定した結果である。L6では、回転角度脈動成分の影響を除去して、中心周波数fcを設定できることが分かる。なお、中心周波数fcから時定数Ts=1/(2πfc)が演算される。また、ステップS6において、時定数が更新されるまでの間は、時定数が一定値になるため、その間、フィルタは時定数時不変のフィルタとなり、ノイズ等に強くなる。本実施の形態の時定数を設定する手法により、操舵速度が変化し、トルクリプルの周波数fnが変化しても、回転角度脈動成分の影響を除去し、トルクリプルの周波数fnに対応した時定数を設定することができる。
さらに、サンプリング回数cntに対する中心周波数fc、または、時定数Tc=1/(2πfc)の値をあらかじめ記憶しておき、ステップS6において、サンプリング回数cntに応じた時定数Tc=1/(2πfc)を設定しても良い。これにより、演算負荷を減らすことができる。
また、中心周波数fcは、下限値と上限値を設定する。例えば、下限値を5Hz以上とする。中心周波数fcが下限値以下になると、運転者の操舵成分とトルクリプルによる脈動成分との周波数が近くなり、バンドパスフィルタ出力値に運転者の操舵成分を十分に除去できない恐れがあるためである。上限値に関しては、抽出したい周波数領域の上限値として設定すればよい。またデジタルフィルタではナイキスト周波数から上限値を設定してもよい。
ステップS7では、サンプリング回数cnt、および、モータ回転角度の変化量の積算値Δθm[k]を0にリセットする。
ステップS5では、モータ回転角度θm[k]をθm[k−1]に記憶する。ステップS8では、設定した時定数を用いた式(3)に示すフィルタ処理を実施し、出力信号54を出力する。例えば、操舵トルクTsをフィルタ入力信号53とする。本実施の形態による脈動成分抽出の効果を図11に示す。図11において、L7は、本実施の形態の式(7)により設定した中心周波数を示す。L8は、バンドパスフィルタの出力値である。L2、L3は、図5と同じである。図5のL1と図11のL7とを比較すると、L7は、本実施の形態により、バンドパスフィルタの中心周波数fcの脈動成分を除去することができ、また、図5のL4と比べて、図11のL8は、操舵トルクの脈動成分を精度良く抽出できていることが分かる。
また、抽出対象とする脈動が複数存在する場合は、それぞれのトルクリプル発生調波次数に応じて、それぞれの基準角とそれぞれのサンプリング回数cntを演算しても良いが、この場合、トルクリプル発生調波次数の大きいほうのサンプリング回数cntにはトルクリプル発生調波次数の小さいほうの脈動成分が影響する場合がある。
よって抽出対象とする脈動が複数存在する場合は、トルクリプル発生調波次数が最も小さい脈動のトルクリプル発生調波次数から式(5)、式(6)を用いて基準角度を設定し、式(7)を用いて各脈動に対応する中心周波数、または、時定数を設定する。これにより抽出対象とする複数の脈動のそれぞれに対応する時定数から、脈動成分を除去することができる。図12は抽出脈動成分が複数存在する場合の基準角度の設定を示した図である。図12において、C2は、発生調波次数n=6と発生調波次数n=2の回転角度脈動成分を含んだ脈動成分を示す。抽出したいトルクリプル発生調波次数nが2と6であるため、基準角度180[deg]をK2=1,n=2としている。K2を大きく設定すると、基準角度が大きくなるため、回転角度のノイズ等の変動に強くなる。
図3に示す脈動補償電流演算器45では、脈動成分抽出器44で抽出した脈動成分に応じて、脈動成分を低減するための脈動補償電流が演算される。例えば、脈動成分抽出器44で抽出した脈動成分に比例ゲインを乗算したものを脈動補償電流とする。脈動補償電流を、電動パワーアシスト用目標電流に加算することで、電動パワーアシスト用目標電流を補正する。
図2に示す電流制御部72は、この補正した電動パワーアシスト用目標電流に一致するようにモータ4の電流を制御することで、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルク等の脈動を低減することができる。
以上のように、本実施の形態は、脈動成分を除去した時定数を設定することができ、その時定数はトルクリプル周波数に応じて変更されるため、運転者が操舵中でも、操舵制御装置で用いる状態量、例えば、操舵トルクやモータ回転角度から操舵成分やノイズを除去して、周波数が変化するコギングトルクやトルクリプルによる脈動成分以外の成分を除去し、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を精度良く抽出することができるという効果がある。また、時定数に含まれるコギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を低減できるため、バンドパスフィルタの出力値が歪んでしまうことを抑制でき、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を精度良く抽出することができる。さらに、抽出した脈動成分で脈動補償電流を演算するため、操舵トルク等に生じる脈動を、操舵フィーリングとの干渉を防ぎながら、適切に低減することができる。
また、時定数演算器51が、モータ4の回転角度が予め設定した基準角度を回転するのに要する時間に基づいて、時定数を演算するようにしたので、操舵トルク等の状態量から操舵成分やノイズを除去し、周波数が変化するコギングトルクやトルクリプルに対する脈動成分を精度良く抽出でき、さらに、時定数が脈動することを抑制できるため、フィルタ出力値の歪みを低減でき、周波数が変化するコギングトルクやトルクリプルに対する脈動成分をさらに精度良く抽出できる。
また、モータ4の回転角度に対して予め設定した基準角度を、コギングトルクやトルクリプルの1周期分に相当する回転角度の整数倍としたので、操舵トルク等の状態量から操舵成分やノイズを除去し、周波数が変化するコギングトルクやトルクリプルに対する脈動成分を精度良く抽出でき、さらに、時定数が脈動することを抑制できるため、フィルタ出力値の歪みを低減でき、周波数が変化するコギングトルクやトルクリプルに対する脈動成分をさらに精度良く抽出できる。
また、時定数可変フィルタの出力信号に応じて、電動パワーアシスト用目標電流を補正するようにしたので、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルクの脈動を抑制することができる。
なお、本実施の形態1では、バンドパスフィルタを式(3)としたが、これに限定するものではない。例えば、下側の遮断周波数fc1と上側の遮断周波数fc2を異なる値に設定しても良い。また、バターワースフィルタや楕円フィルタの構成としても良い。これにより、式(3)と比べて、より急峻な遮断特性を得ることができる。また、式(3)ではフィルタの次数を4次としたが、次数をこれに限定するものではない。例えば、2次のフィルタでも良い。その場合には、演算負荷が少なくなる。ただし、好ましくは操舵成分を十分に除去するためには4次以上のフィルタとする。
さらに、本実施の形態1ではフィルタをバンドパスフィルタとしたが、ローパスフィルタやハイパスフィルタの時定数の設定に、本実施の形態1の時定数の設定方法を適用することも可能である。操舵成分を除去するためにハイパスフィルタの時定数を本発明の手法で設定し、ローパスフィルタの時定数は一定値とすることで、演算負荷を少なくすることができる。
また、本実施の形態1では、モータ回転角度を用いて時定数の演算を演算したが、モータ回転角度に限定するものではなく、ステイアリングホイールの回転角度など、モータ回転角度に関連するもので良く、推定値したモータ回転角度でも良い。フィルタに入力する信号に関しても操舵トルクに限定するものではなく、操舵制御装置で用いる状態量、例えばモータ回転角度、モータ回転速度等でも良い。
この発明は、運転者による操舵トルクを検出するトルク検出部と、前記操舵トルクを補助するためのアシストトルクを発生するモータと、前記検出された操舵トルクに基づいて、前記アシストトルクを発生するのに必要な前記モータの電動パワーアシスト用目標電流を演算する電動パワーアシスト制御部と、前記モータの回転角度を検出する角度検出部と、前記電動パワーアシスト用目標電流に一致するように、前記モータの電流を制御する電流制御部と、可変の時定数を有する時定数可変フィルタと、前記角度検出部で検出する前記モータの回転角度を用いて、前記モータが発生するコギングトルクまたはトルクリプルの周波数に対応する時定数を演算し、当該時定数を前記時定数可変フィルタに設定する時定数演算部と、前記操舵トルクを前記時定数可変フィルタによりフィルタ処理するフィルタ処理演算部とを備えた操舵制御装置である。
この発明は、運転者による操舵トルクを検出するトルク検出部と、前記操舵トルクを補助するためのアシストトルクを発生するモータと、前記検出された操舵トルクに基づいて、前記アシストトルクを発生するのに必要な前記モータの電動パワーアシスト用目標電流を演算する電動パワーアシスト制御部と、前記モータの回転角度を検出する角度検出部と、前記電動パワーアシスト用目標電流に一致するように、前記モータの電流を制御する電流制御部と、可変の時定数を有する時定数可変フィルタと、前記角度検出部で検出する前記モータの回転角度を用いて、前記モータが発生するコギングトルクまたはトルクリプルの周波数に対応する時定数を演算し、当該時定数を前記時定数可変フィルタに設定する時定数演算部と、前記操舵トルクを前記時定数可変フィルタによりフィルタ処理するフィルタ処理演算部とを備えた操舵制御装置であるので、運転者がステアリングホイールを操舵中に得られるセンサ情報の中から、コギングトルクやトルクリプルによる脈動成分を精度良く抽出し、コギングトルクやトルクリプルによる操舵トルク等の脈動を低減することができる。

Claims (4)

  1. 運転者による操舵トルクを検出するトルク検出部と、
    前記操舵トルクを補助するためのアシストトルクを発生するモータと、
    前記検出された操舵トルクに基づいて、前記アシストトルクを発生するのに必要な前記モータの電動パワーアシスト用目標電流を演算する電動パワーアシスト制御部と、
    前記モータの回転角度を検出する角度検出部と、
    前記電動パワーアシスト用目標電流に一致するように、前記モータの電流を制御する電流制御部と、
    可変の時定数を有する時定数可変フィルタと、
    前記角度検出部で検出する前記モータの回転角度を用いて、前記モータが発生するコギングトルクまたはトルクリプルの周波数に対応する時定数を演算し、当該時定数を前記時定数可変フィルタに設定する時定数演算部と、
    前記操舵トルクや前記モータの回転角度等の状態量を前記時定数可変フィルタによりフィルタ処理するフィルタ処理演算部と
    を備えたことを特徴とする操舵制御装置。
  2. 前記時定数演算部は、前記モータの回転角度に対する基準角度を予め設定しておき、前記モータの回転角度が前記基準角度を回転するのに要する時間に基づいて前記時定数を演算することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
  3. 前記基準角度は、前記コギングトルクまたは前記トルクリプルの1周期分に相当する回転角度の整数倍とすることを特徴とする請求項2に記載の操舵制御装置。
  4. 前記時定数可変フィルタの出力信号に応じて、前記電動パワーアシスト用目標電流を補正するための補償電流を演算する補償電流演算部をさらに備え、
    前記補償電流を前記電動パワーアシスト用目標電流に加算することで、前記電動パワーアシスト用目標電流を補正することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の操舵制御装置。
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