JP4623824B2 - 電動パワーステアリング制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電動パワーステアリング制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図6は、従来の電動パワーステアリング制御装置である。また、この電動パワーステアリング制御装置の制御を図7のブロック図に示す。
図6に示すように、ステアリングホイールWに連係する入力軸1の先端に、ピニオン2を設けている。また、両端に車輪3R、3Lが連係するロッド4に、ラック5を形成している。そして、上記入力軸1のピニオン2を、このロッド4のラック5にかみ合わせている。
また、減速機7に連係する電動モータ6を設けるとともに、減速機7の出力軸に設けたピニオンも上記ロッド4のラック5にかみ合わせている。さらに、入力軸1に作用する操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段8を設け、コントローラーCTに接続している。
【0003】
このコントローラーCTには、図7に示すように、上記センサ8からの操舵トルク検出信号に応じて基本アシスト指令値を決定する基本アシスト指令値決定手段9と、操舵トルク検出信号を微分する操舵トルク微分指令値決定手段10とを備えている。
また、上記コントローラーCTには、電動モータ6の出力を制御する出力制御手段11を備えている。この出力制御手段11には、入力信号を増幅するモータ電流増幅手段12と、デジタル信号をアナログ信号に変換するDA変換手段13とを備えている。例えば、上記モータ電流増幅手段12とDA変換手段13とを合わせたパルス幅変調回路である。
【0004】
さらに、電動モータ6の出力を検出するために、モータ電流検出手段14を上記出力制御手段13の出力配線に接続している。そして、このモータ電流検出手段14からのモータ電流検出信号を、コントローラーCTに戻すために、AD変換手段15をコントローラーCT内に設けている。すなわち、アナログ信号であるモータ電流検出信号を、AD変換手段15がデジタル信号に変換している。
このように、モータ電流検出信号をコントローラーCTに戻すフィードバック制御を行なっている。
【0005】
上記のような構成により、この制御装置は、次のように作用して電動モータ6を制御している。
図7に示すように、操舵トルク検出手段8からの操舵トルク検出信号を、基本アシスト指令値決定手段9に入力する。そして、基本アシスト指令値決定手段9は、操舵トルク検出信号に応じた基本アシスト指令値信号を出力する。また、上記操舵トルク検出信号を、操舵トルク微分指令値決定手段10にも入力する。そして、操舵トルク微分指令値決定手段10は、操舵トルク検出信号に応じた操舵トルク微分指令値信号を出力する。さらに、この操舵トルク微分指令値信号を上記基本アシスト指令値信号に加算した信号は、モータ電流指令値信号となる。
なお、上記基本アシスト指令値信号および操舵トルク微分指令値信号は、デジタル信号である。
【0006】
また、上記出力制御手段11から出力されるモータ電流を、モータ電流検出手段14が検出する。そして、検出したモータ電流検出信号をコントローラー内のAD変換手段15を介して、上記出力制御手段11の入力側に戻している。
このモータ電流検出信号を上記モータ電流指令値信号に付加した信号は、モータ電流制御信号となる。このモータ電流制御信号を、出力制御手段11内のモータ電流増幅手段12に入力する。モータ電流増幅手段12は、入力したモータ電流制御信号を増幅する。そして、増幅したモータ電流制御信号をDA変換手段13に入力する。
【0007】
さらに、DA変換手段13は、増幅したモータ電流制御信号に応じたモータ電流を電動モータ6に出力する。
上記のようにして、操舵トルク検出信号およびモータ電流検出信号に応じて、この電動パワーステアリング制御装置は、電動モータ6の電流を制御している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記電動パワーステアリング制御装置では、モータ電流指令値信号をデジタル信号でコントローラーCTに入力している。つまり、モータ電流検出信号をデジタル信号に変換してから、モータ電流指令値信号に付加している。
このように、モータ電流検出信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する必要がある。上記AD変換手段15は、次のようにアナログ信号をデジタル信号に変換している。
【0009】
図8は、モータ電流検出信号について、AD変換前の入力信号とAD変換後の出力信号との関係を示すグラフである。つまり、図8では、横軸にモータ電流検出信号の入力信号をとり、縦軸に出力信号をとっている。
図8に示す実線Aのグラフは、鎖線Bで示すアナログ信号のグラフをAD変換手段15に入力したときの出力を示す。図8に示すように実線Aは、階段状になっている。このように出力信号が階段状になるのは、次のような理由からである。
【0010】
このAD変換手段15は、分解能が10ビットの変換回路を備えている。すなわち、デジタル信号の分割数は、2の10乗=1024ビットである。また、モータ電流の出力範囲に合わせて、モータ電流の検出範囲を−80Aから+80Aとしている。そのため、1ビット当たりのモータ電流変化量は、160A/1024ビット=0.156A/ビットとなる。
上記のように1ビット当たりのモータ電流変化量が0.156A/ビットなので、入力信号のモータ電流検出信号が0.156A変化するごとに、1ビット変化する。1ビット変化すると、出力するモータ電流検出信号が0.156A分急激に増える。つまり、アナログ信号で入力するモータ電流検出信号が連続的に変化しても、デジタル信号で出力するモータ電流検出信号は、0.156Aごとの飛び飛びの値しかとらない。
なお、出力信号が急激に変化する点、例えば図8に示す点a、b、cを、以下において変化点とする。
【0011】
上記のようにAD変換後のモータ電流検出信号が、上記変化量の飛び飛びの値をとるので、次のような問題が起こり得る。
車を直進走行させているとき、運転手は、ステアリングホイールWを中立位置付近に保持する。このとき、運転手は、ステアリングホイールWを軽く握っているだけではなく、正確には、右回転および左回転の微小角回転を繰り返すのが通常である。つまり、中立位置を中心に、微小な回転角で左右にステアリングホイールWを振幅させている。
【0012】
上記のように、ステアリングホイールWを微小角で振幅させていると、モータ電流検出信号も0点を中心にプラス値とマイナス値とを振幅することになる。そして、このモータ電流検出信号の振幅範囲内に、上記変化点があると、モータ電流検出信号が変化点を前後するたびに、AD変換後の出力信号が急激な増加と減少とを繰り返す。
【0013】
また、前記したように、AD変換後の出力信号は、モータ電流指令値信号に付加して、モータ電流制御信号となっている。そのため、AD変換後の出力信号が急激な増加と減少とを繰り返すと、モータ電流制御信号も急激な増減を繰り返す。さらに、電動モータ6に流れるモータ電流も急激な増加と減少とを繰り返すことになる。
【0014】
このようにモータ電流が急激な増加と減少とを繰り返すと、ステアリングホイールWに脈動が生じるという問題が起こる。ステアリングホイールWの中立位置付近で脈動が生じると、運転者は、ステアリングホイールWを握る手に違和感を受ける。なぜなら、ステアリングホイールWの中立位置付近ではモータ電流が小さいだけでなく、操舵力やタイヤからの反力も小さいので、モータ電流の変化がわずかであっても、脈動がステアリングホイールWを握る手に伝わりやすいからである。
【0015】
一方、脈動を防ぐためには、AD変換で1ビット当たりのモータ電流変化量を小さくする必要がある。そして、1ビット当たりのモータ電流変化量を小さくするために、分解能が10ビットより大きなAD変換回路を使用することも考えられる。しかし、分解能が10ビットより大きなAD変換回路は高価であるため、電動パワーステアリング制御装置も高価になってしまう。そのため、高価なAD変換手段を使用することができない。
この発明の目的は、モータ電流検出信号が小さいときに、その信号分解能を大きくして、脈動を生じない制御をする電動パワーステアリング制御装置を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この発明は、アシスト力を発生する電動モータと、操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、操舵トルク検出信号により決定する基本アシスト指令値決定手段と、操舵トルク検出信号により決定する操舵トルク微分指令値決定手段と、上記電動モータの出力を検出するモータ電流検出手段と、電動モータの出力を制御する出力制御手段とを備え、基本アシスト指令値と操舵トルク微分指令値とからなるモータ電流指令値信号に、モータ電流検出信号を付加した基準レベルのモータ電流制御信号に応じて、上記出力制御手段が電動モータの出力を制御する構成にした電動パワーステアリング制御装置を前提とする。
そして、第1の発明は、操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号に応じて基準レベルまたは増幅レベルを選択する信号レベル判定手段と、上記モータ電流指令値信号を基準レベルまたは増幅レベルの信号レベルに選択可能とする第1調整手段と、上記モータ電流検出信号を基準レベルまたは増幅レベルの信号レベルに選択可能とする第2調整手段と、この第2調整手段から出力する信号をデジタル信号に変換するAD変換手段と、上記モータ電流制御信号を基準レベルに調整する第3調整手段とを備え、上記信号レベル判定手段からの信号レベル判定信号に応じて上記第1調整手段および第2調整手段が信号レベルを決定し、上記信号レベル判定信号に応じて上記第3調整手段は、モータ電流制御信号を基準レベルに調整し、この調整した信号を上記出力制御手段に入力する構成にした点に特徴を有する。
【0017】
第2の発明は、上記第1の発明を前提にしつつ、AD変換手段の出力に増幅率Nの信号増幅手段を設け、この信号増幅手段でAD変換後のモータ電流検出信号をN倍する一方、操舵トルク検出信号に対する操舵トルク微分指令値を上記操舵トルク微分指令値決定手段でN倍して、この値を操舵トルク微分指令値決定信号とするとともに、操舵トルク検出信号に対する基本アシスト指令値を上記基本アシスト指令値決定手段でN倍して、この値を基本アシスト指令値決定信号とし、上記操舵トルク微分指令値決定信号に基本アシスト指令値決定信号を加算した信号をモータ電流指令値信号とする構成にした点に特徴を有する。
【0018】
第3の発明は、上記第1または第2の発明を前提にしつつ、操舵トルク微分指令値決定手段の出力、または基本アシスト指令値決定手段の出力の少なくともどちらか一方にフィルターを設けた点に特徴を有する。
第4の発明は、上記発明を前提にしつつ、操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号に応じて信号レベル判定手段が信号レベルを切り換えるとき、基準レベルから増幅レベルへの切り換えとその逆の切り換えとで、切り換えの操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号が異なる構成にした点に特徴を有する。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1、2に、この発明の第1実施例を示す。ただし、以下では、上記従来例との相違点を中心に説明するとともに、上記従来例と同一の構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図1に示すように、操舵トルク検出手段8からの操舵トルク検出信号を入力する信号レベル判定手段16を設けている。また、この信号レベル判定手段16には、モータ電流指令値信号を入力している。この信号レベル判定手段16は、操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号に応じて、制御に用いる2つの信号レベルのうちどちらを選択するか判定する構成にしている。そして、2つの信号レベルとは、基準レベルと増幅レベルとである。
また、この信号レベル判定手段16は、判定した信号レベルを示す信号レベル判定信号を、後で述べる第1調整手段17、第2調整手段18および第3調整手段19に入力する。
【0020】
図1に示すように、操舵トルク微分指令値決定手段10と基本アシスト指令値決定手段9との出力に、第1調整手段17を設けている。この第1調整手段17は、入力した信号のレベルを、基準レベルまたは増幅レベルに選択できるように構成している。そして、この第1調整手段17は、この2つの信号レベルのうち、上記信号レベル判定信号により、どちらか一方を選択する。
なお、この実施例では、基準レベルを選択すると、入力信号に増幅率1を乗算して出力する構成にしている。図1に示すように、入力信号を1倍して出力する増幅器を備えている。一方、増幅レベルを選択すると、入力信号に増幅率4を乗算して出力する構成にしている。図1に示すように、入力信号を4倍して出力する増幅器を備えている。
【0021】
上記信号レベル判定信号が基準レベルのとき、第1調整手段17は基準レベルを選択する。つまり、第1調整手段17は、入力信号を1倍して出力する。一方、信号レベル判定信号が増幅レベルのとき、第1調整手段17は増幅レベルを選択する。つまり、第1調整手段17は、入力信号を4倍して出力する。
したがって、第1調整手段17は、操舵トルク微分指令値信号に基本アシスト指令値信号を加算したモータ電流指令値信号を、上記選択した信号レベルで出力する。
【0022】
また、図1に示すように、モータ電流検出手段14からの出力に第2調整手段18を設けている。この第2調整手段18には、上記第1調整手段17と同様に、入力した信号のレベルを、基準レベルまたは増幅レベルに選択できるように構成している。
【0023】
すなわち、この第2調整手段18は、上記2つの信号レベルのうち、上記信号レベル判定信号により、どちらか一方を選択する。そして、この信号レベル判定信号が基準レベルのとき、第2調整手段17は、入力信号を1倍して出力する。反対に、信号レベル判定信号が増幅レベルのとき、第2調整手段17は、入力信号を4倍して出力する。
したがって、第2調整手段18は、モータ電流検出信号を、上記選択した信号レベルで、AD変換手段15に入力する。
【0024】
なお、上記モータ電流指令値信号は、デジタル信号である。これに対し、上記第2調整手段18に入力するモータ電流検出信号は、アナログ信号である。そのため、上記のように、第2調整手段18から出力されるモータ電流検出信号をAD変換手段15に入力している。そして、このAD変換手段15には、従来と同様に、分解能が10ビットのAD変換回路を備えている。
【0025】
さらに、コントローラーCTには、上記モータ電流指令値信号とモータ電流検出信号とを加算したモータ電流制御信号を、入力する第3調整手段19を設けている。この第3調整手段19は、入力する信号のレベルを基準レベルに調整して、この調整後の信号をモータ電流増幅手段12に入力する構成にしている。
上記信号レベル判定信号が基準レベルのとき、第3調整手段19は、入力信号を1倍して出力する。一方、信号レベル判定信号が増幅レベルのとき、第3調整手段19は、入力信号を4で除算して出力する。
したがって、モータ電流制御信号を、この第3調整手段19は、基準レベルの信号で出力している。
【0026】
このように、信号レベル判定信号が増幅レベルの場合に、上記第3調整手段19が、入力信号を4で除算するのは、以下の理由による。
上記第3調整手段19に入力する信号は、上記モータ電流指令値信号とモータ電流検出信号とを加算したモータ電流制御信号である。しかも、この場合、モータ電流指令値信号を上記第1調整手段17は4倍している。また、モータ電流検出信号を上記第2調整手段18が4倍している。すなわち、モータ電流指令値信号とモータ電流検出信号とを加算したモータ電流制御信号は、基準レベルの4倍の信号になっている。そのため、第3調整手段19は、入力信号を増幅率4で除算して、入力信号を基準レベルに戻してから、出力している。
【0027】
ここで、上記信号レベル判定手段16は、次のようにして、操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号に応じて信号レベルを選択する。
操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号が所定値より小さいとき、信号レベル判定手段16は、増幅レベルを選択する信号を出力する。操舵トルク検出信号が所定値より小さいときとは、ステアリングホイールWが中立位置付近にあるような状態のときである。そして、モータ電流指令値信号が所定値より小さいときとは、モータ電流指令値が−20Aから+20Aの範囲のときである。
【0028】
その反対に、操舵トルク検出信号が所定値より大きいときには、上記信号レベル判定手段16は、基準レベルを選択する信号を出力する。操舵トルク検出信号が所定値より大きいときとは、ステアリングホイールWを切ったときなどステアリングホイールWが中立位置付近にないときである。そして、モータ電流指令値信号が所定値より大きいときとは、モータ電流指令値が−80Aから−20Aの範囲、または、+20Aから+80Aの範囲のときである。
なお、以下において、信号レベル判定手段16が操舵トルク検出信号で信号レベルを判定する場合で説明する。
【0029】
上記構成により、操舵トルク検出信号が所定値より小さいとき、上記AD変換の分解能を従来例の4倍に増やすことができる。このことを以下に説明する。
操舵トルク検出信号が小さいときには、上記信号レベル判定信号は増幅レベルを選択する信号となり、第2調整手段18は増幅レベルを選択する。つまり、モータ電流検出手段14で検出したモータ電流検出信号を4倍にして、AD変換手段15に入力する。
【0030】
そして、上記のように操舵トルク検出信号が所定値より小さいとき、上記第2調整手段18は、モータ電流の検出範囲である−20Aから+20Aを4倍する。そのため、このAD変換の1ビット当たりの電流変化量は、見かけ上、−80Aから+80Aの電流検出範囲を1024ビットで分割した値になる。
ところが実際は、上記検出範囲の−20Aから+20Aの40A分を1024ビットで分割していることに他ならない。なぜなら、4倍した信号をデジタル信号に変換した後、この信号を上記第3調整手段19が増幅率4で除算して、基準レベルに戻しているからである。
したがって、このAD変換において、実際の1ビットあたりのモータ電流変化量は、40A/1024ビット=0.039A/ビットとなる。
【0031】
前記したように、従来例の1ビット当たりのモータ電流変化量が0.156A/ビットであった。これに対して、上記モータ電流変化量は、従来例の4分の1になっている。このことを、さらに図2を用いて説明する。
【0032】
図2は、モータ電流検出信号が所定値より小さいときについて、従来のAD変換とこの実施例のAD変換とを比較するグラフである。横軸にアナログ信号のモータ電流検出信号をとり、縦軸にデジタル信号のモータ電流検出信号をとっている。
図2に示す実線Cのグラフは、鎖線Bで示すアナログ信号を入力信号にして、この実施例のAD変換で変換したデジタル信号出力を示すグラフである。また、図2に示す破線Dは、図8と同様に、従来例のAD変換で変換したデジタル信号を示すグラフである。
なお、比較のために、実線Cのグラフを、第3調整手段19により、基準レベルに戻した信号で示している。
【0033】
図2から明らかなように、実線Cの段差は破線Dの4分の1であり、従来例の場合より、入力信号に応じて信号をより細かく出力できる。つまり、AD変換の分解能を従来例の4倍にすることができる。そして、この分解能の倍率は、増幅レベルで設定される倍率に他ならない。
【0034】
次に、この第1実施例の電動パワーステアリング制御装置の作用を説明する。まず、運転手がステアリングホイールWを大きく操作して、操舵トルクが所定値より大きな値をとる場合、信号レベル判定手段16は、基準レベルを選択する。そして、基準レベルを選択した信号レベル判定信号を、第1調整手段17、第2調整手段18および第3調整手段19に入力する。
この信号レベル判定信号により、第1調整手段17、第2調整手段18および第3調整手段19は、入力信号に対して基準レベルを選択する。このように基準レベルを選択することにより、第1から第3の調整手段は、入力する信号を基準レベルのまま、出力する。
【0035】
そのため、操舵トルク微分指令値に基本アシスト指令値を加算したモータ電流指令値信号を、第1調整手段17を介して、基準レベルのまま出力する。また、モータ電流検出信号を、第2調整手段18を介して、基準レベルのまま、AD変換手段15に入力する。AD変換手段15から出力したモータ電流検出信号をモータ電流指令値信号に付加して、モータ電流制御信号となる。
したがって、このモータ電流制御信号も基準レベルのデジタル信号となっている。
【0036】
上記モータ電流制御信号を、上記第3調整手段19は、基準レベルのまま、モータ電流増幅手段12に入力する。モータ電流増幅手段12は、モータ電流制御信号を増幅し、その増幅した信号をDA変換手段13に入力する。DA変換手段13は、この入力に合わせて、アナログ信号に変換したモータ電流を電動モータ6に出力する。
このように、操舵トルク検出信号が所定値より大きいときには、従来例と同様な制御が可能となる。そして、操舵トルク検出信号が所定値より大きいため、たとえモータ電流検出信号が変化して脈動が起こっても、運転手が気になる程ではない。
【0037】
次に、運転手がステアリングホイールWを中立位置付近で保持した場合について説明する。
運転手がステアリングホイールWを中立位置付近で保持して、操舵トルク検出信号が所定値より小さい値をとる。このとき、モータ電流検出信号が−20Aから+20Aの範囲の値をとる。そして、信号レベル判定手段16は、信号の増幅レベルを選択する。そして、増幅レベルを選択した信号レベル判定信号が、第1調整手段17、第2調整手段18および第3調整手段19に入力する。この信号レベル判定信号により、第1調整手段17および第2調整手段18は、増幅レベルを選択する。また、第3調整手段19は、入力信号を基準レベルに調整するため、入力信号を増幅率4で除算する設定を選択する。
【0038】
操舵トルク微分指令値および基本アシスト指令値の加算からなるモータ電流指令値信号は、第1調整手段17を経ると、基準レベルの4倍の信号となる。
また、モータ電流検出信号を、第2調整手段18を介して、基準レベルの4倍にして、AD変換手段15に入力する。このAD変換手段15からの信号を、上記モータ電流指令値信号に付加してモータ電流制御信号となる。
【0039】
そして、このモータ電流制御信号は基準レベルの4倍の信号となっている。このモータ電流制御信号を、第3調整手段19が増幅率4で除算して、基準レベルにする。
ここで、このモータ電流制御信号のうちモータ電流検出信号は、前記したように、従来例の4倍の分解能でデジタル信号に変換されたものである。そのため、モータ電流制御信号は、従来例の場合より、モータ電流検出信号の変化に応じたより細かい信号となっている。
この基準レベルに戻したモータ電流制御信号を、モータ電流増幅手段12は増幅する。さらに、この増幅した信号をDA変換手段13に入力する。DA変換手段13は、この入力に合わせて、アナログ値のモータ電流を電動モータ6に出力する。
【0040】
このようにステアリングホイールWが中立位置付近では、モータ電流検出信号をデジタル信号に変換するとき、従来の4倍の分解能で変換している。そのため、このデジタル信号のモータ電流検出信号は、従来例に比べ、急激な増減変化を抑えた信号となっている。モータ電流検出信号の急激な変化を抑えているので、このモータ電流検出信号とモータ電流指令値信号とからなるモータ電流制御信号も従来例に比べ、より細かい制御をした信号になる。このようにモータ電流制御信号がより細かい制御をした信号であるため、このモータ電流制御信号に応じてモータ電流出力もより細かく制御できる。
したがって、ステアリングホイールWを中立位置付近で保持したとき、脈動を抑えることができる。
【0041】
なお、上記第1実施例において、増幅レベルの倍率は、上記4に限らず、任意の実数を設定することが可能である。例えば、モータ電流の全出力を、脈動が起こるモータ電流出力の範囲で除算した値を、増幅レベルの倍率に設定することができる。
【0042】
また、上記第1実施例では、第1調整手段17および第2調整手段18に、入力信号を1倍する増幅器と入力信号を4倍する増幅器とを備えていた。このように別々の増幅器を備える場合に限らず、第1調整手段17および第2調整手段18を、それぞれ一つの増幅器としてもよい。一つの増幅器とする場合には、増幅器の中で1倍または4倍の増幅率を切り換えられるようにしておく。そして、この切り換えを、上記信号レベル判定信号で行うように設定する。
【0043】
図3に示す第2実施例は、上記第1実施例に、次のように構成している。
基本アシスト指令値決定手段9は、アナログ信号の操舵トルク検出信号に対する基本アシスト指令値をN倍して、この値を基本アシスト指令値決定信号として、デジタル信号で出力する構成にしている。また、操舵トルク微分指令値決定手段10は、操舵トルク検出信号に対する微分指令値をN倍して、この値を操舵トルク微分指令値決定信号として出力している。さらに、AD変換手段15の出力に増幅率Nの信号増幅手段20を設けている。そして、この信号増幅手段20は、AD変換後のモータ電流検出信号をN倍している。なお、この増幅率Nは、あらかじめ設定した実数である。
ただし、以下では、上記第1実施例との相違点を中心に説明するとともに、上記第1実施例と同一の構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0044】
上記基本アシスト指令値決定手段9は、基本アシスト指令値決定テーブルに基づいて、操舵トルク検出信号に対する基本アシスト指令値を特定している。そして、上記の構成により、基本アシスト指令値決定手段9は、操舵トルク検出信号に対する基本アシスト指令値をN倍して、この信号を、基本アシスト指令値決定信号として、デジタル信号で出力する。そのため、上記第1実施例のAD変換のように、従来例に比べ、基本アシスト指令値の分解能をN倍に上げることができる。同様に、操舵トルク微分指令値についても、分解能をN倍に上げることができる。
【0045】
そして、上記操舵トルク微分指令値決定信号に基本アシスト指令値決定信号を加算したモータ電流指令値信号も、分解能がN倍になっているが、この信号レベルは、基準レベルとなっている。
【0046】
このように、第2実施例によれば、基本アシスト指令値および操舵トルク微分指令値の分解能をN倍に上げることができる。そのため、第1実施例のようにモータ電流検出信号をより細かく検出するだけでなく、モータ電流指令値信号をより細かく制御することができる。このようなモータ電流指令値信号に上記モータ電流検出信号を加算した信号を、モータ電流制御信号として、出力制御手段11に入力するので、モータ電流の全出力の範囲で、脈動を抑えた制御をすることができる。
また、モータ電流指令値に対するモータ電流検出手段14の分解能が低い場合でも、フィードバック制御により、モータ電流検出手段14の分解の中間値を出力することができるので、上記のきめ細かなモータ電流の出力ができる。
【0047】
図4に示す第3実施例は、上記第2実施例に、基本アシスト指令値決定手段9と操舵トルク微分指令値決定手段10とを接続した出力にフィルター21を設けたものである。ただし、以下では、上記第2実施例との相違点を中心に説明するとともに、上記第2実施例と同一の構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0048】
このフィルター21は、入力したモータ電流指令値信号を滑らかな信号にして出力する構成にしている。そのため、デジタル信号であるモータ電流指令値信号をアナログ信号のように、より滑らかな信号にすることができる。
このことから、上記第2実施例の場合より、より滑らかなモータ電流指令値信号となる。モータ電流指令値信号が滑らかになるので、モータ電流制御信号もより滑らかな信号となる。このようなモータ電流制御信号を出力制御手段11に入力するので、モータ電流の全出力の範囲で、ほとんど脈動を起こさない制御をすることができる。
なお、上記構成においては、基本アシスト指令値決定手段9と操舵トルク微分指令値決定手段10とを接続した出力にフィルター21を設けているが、操舵トルク微分指令値決定手段10の出力、または基本アシスト指令値決定手段9の出力の少なくともどちらか一方にフィルター21を設けてもよい。これらの出力のどちらか一方にフィルター21を設けても、モータ電流指令値信号を滑らかにする効果が得られるからである。
【0049】
また、この第3実施例に示すフィルター21を、上記第1実施例に、設けてもよい。すなわち、第1実施例に、上記第3実施例に示す態様で、フィルター21を設けると、モータ電流指令値信号が滑らかな信号になるので、モータ電流制御信号もより滑らかな信号になる。そのため、第1実施例に比べ、ステアリングホイールWが中立位置付近にあるとき、脈動をさらに抑えることができる。また、モータ電流の全出力の範囲で、モータ電流の出力をより滑らかにすることができる。
【0050】
なお、上記全ての実施例において、信号レベル判定手段16の信号レベル判定に、次のようなヒステリシス特性を持たせてもよい。つまり、操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号に応じて信号レベル判定手段16が信号レベルを切り換えるとき、基準レベルから増幅レベルへの切り換えとその逆の切り換えとで、切り換えの操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号が異なる構成にした。この構成を以下に説明する。
【0051】
図5は、AD変換手段15におけるAD変換の入力信号と出力信号とを示すグラフである。モータ電流検出信号の電流値が20A付近のグラフを示している。図5に示すように、入力信号が20Aより大きいとき、出力信号は実線で示す基準レベルの信号となる。これに対し、入力信号が20Aより小さいとき、その出力信号は図5の鎖線で示す増幅レベルの信号となる。図5に示すように、入力信号が20Aより小さくなると、前記したように、AD変換の分解能が4倍になっている。
さらに、図5に示すように、破線で示すグラフの出力信号をとれるように構成している。この破線で示すグラフは基準レベルの信号にしている。つまり、0.156A分だけ基準レベルのグラフを増幅レベルのグラフの方へ延ばしている。
【0052】
また、信号レベルが基準レベルから増幅レベルへ切り替わる点を、図5に示す点hにしている。さらに、信号レベルが増幅レベルから基準レベルへ切り替わる点を、図5に示す点eにしている。
【0053】
上記構成により、次のように作用する。
入力信号が図5に示す点dから小さくなる場合、出力信号は、点eを経由して、さらに点fに達する。このとき、入力信号が20Aより小さくなっても、信号レベルが切り替わらないので、点fを経由している。そして、入力信号がさらに小さくなって、点hまで変化する。点hに入力信号がなったとき、上記構成により信号レベルを増幅レベルに切り換える。
【0054】
反対に入力信号が図5に示す点iから大きくなる場合、出力信号は、点hを経由して、さらに点gに達する。そして、入力信号がさらに大きくなって、点eまで変化する。点eに入力信号がなったとき、上記構成により信号レベルを基準レベルに切り換える。
【0055】
上記のように出力信号が20Aより小さくなるとき、点hで信号レベルを切り換えるのは、次の理由からである。点eのところで信号レベルを切り換えるようにすると、点eの出力付近で出力信号が振幅したとき、モータ電流出力に急な増減変化を生じてしまうからである。
また、出力信号が大きくなるときに、信号レベルの切り換えを点hにせずに点eにしたのも、点h付近で出力信号が振幅したとき、モータ電流出力に急な増減変化が生じるためである。
【0056】
このように信号レベル判定にヒステリシス特性を持たせると、信号レベルの切り換え点で、モータ電流出力の急な増減変化を防げる。そのため、信号レベル切り換え点付近でモータ電流出力が振幅しても、ステアリングホイールWに脈動を起こすことがない。
【0057】
【発明の効果】
第1の発明によれば、ステアリングホイールが中立位置付近で、モータ電流検出信号をデジタル信号に変換するとき、大きい分解能で変換するように切り換えをしている。そのため、このデジタル信号のモータ電流検出信号は、従来例に比べ、急激な増減変化を抑えた信号となっている。モータ電流検出信号の急激な変化を抑えているので、モータ電流制御信号も従来例に比べ、より細かい制御をした信号になる。そのため、モータ電流制御信号に応じてモータ電流出力もより細かく制御できる。
したがって、ステアリングホイールを中立位置付近で保持したとき、脈動を抑えることができる。
【0058】
第2の発明によれば、基本アシスト指令値決定手段は、操舵トルク検出信号に対する基本アシスト指令値をN倍して、基本アシスト指令値決定信号として、出力している。また、操舵トルク微分指令値決定手段は、操舵トルク検出信号に対する操舵トルク微分指令値をN倍して、操舵トルク微分指令値決定信号として、出力している。そのため、基本アシスト指令値決定信号と操舵トルク微分指令値とを加算したモータ電流指令値信号をより細かく制御することができる。さらに、モータ電流の全出力の範囲で、脈動を抑えた制御をすることができる。
【0059】
第3の発明によれば、基本アシスト指令値決定手段の出力、または操舵トルク微分指令値決定手段の出力の少なくともどちらか一方にフィルターを設けている。そのため、モータ電流指令値信号だけでなく、モータ電流制御信号も滑らかな信号となる。したがって、モータ電流の全出力の範囲で、ほとんど脈動を起こさない制御をすることができる。
【0060】
第4の発明によれば、信号レベル判定手段の信号レベル判定に、ヒステリシス特性を持たせている。信号レベル判定にヒステリシス特性を持たせているので、信号レベルの切り換え点で、モータ電流出力の急な増減変化を防げる。そのため、信号レベル切り換え点付近でモータ電流出力が振幅しても、ステアリングホイールに脈動を起こすことがない
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例のブロック図である。
【図2】第1実施例のAD変換による入力信号と出力信号との関係を示す図である。
【図3】第2実施例のブロック図である。
【図4】第3実施例のブロック図である。
【図5】モータ制御とモータ出力とのヒステリシスを示す図である。
【図6】従来の制御装置の構成図である。
【図7】従来例のブロック図である。
【図8】従来例のAD変換による入力信号と出力信号との関係を示す図である。
【符号の説明】
8 操舵トルク検出手段
9 基本アシスト指令値決定手段
10 操舵トルク微分指令値決定手段
11 出力制御手段
12 モータ電流増幅手段
13 DA変換手段
14 モータ電流検出手段
15 AD変換手段
16 信号レベル判定手段
17 第1調整手段
18 第2調整手段
19 第3調整手段
20 信号増幅手段
21 フィルター
Claims (4)
- アシスト力を発生する電動モータと、操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、操舵トルク検出信号により決定する基本アシスト指令値決定手段と、操舵トルク検出信号により決定する操舵トルク微分指令値決定手段と、上記電動モータの出力を検出するモータ電流検出手段と、電動モータの出力を制御する出力制御手段とを備え、基本アシスト指令値と操舵トルク微分指令値とからなるモータ電流指令値信号に、モータ電流検出信号を付加した基準レベルのモータ電流制御信号に応じて、上記出力制御手段が電動モータの出力を制御する構成にした電動パワーステアリング制御装置において、操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号に応じて基準レベルまたは増幅レベルを選択する信号レベル判定手段と、上記モータ電流指令値信号を基準レベルまたは増幅レベルの信号レベルに選択可能とする第1調整手段と、上記モータ電流検出信号を基準レベルまたは増幅レベルの信号レベルに選択可能とする第2調整手段と、この第2調整手段から出力する信号をデジタル信号に変換するAD変換手段と、上記モータ電流制御信号を基準レベルに調整する第3調整手段とを備え、上記信号レベル判定手段からの信号レベル判定信号に応じて上記第1調整手段および第2調整手段が信号レベルを決定し、上記信号レベル判定信号に応じて上記第3調整手段は、モータ電流制御信号を基準レベルに調整し、この調整した信号を上記出力制御手段に入力する構成にしたことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
- AD変換手段の出力に増幅率Nの信号増幅手段を設け、この信号増幅手段でAD変換後のモータ電流検出信号をN倍する一方、操舵トルク検出信号に対する操舵トルク微分指令値を上記操舵トルク微分指令値決定手段でN倍して、この値を操舵トルク微分指令値決定信号とするとともに、操舵トルク検出信号に対する基本アシスト指令値を上記基本アシスト指令値決定手段でN倍して、この値を基本アシスト指令値決定信号とし、上記操舵トルク微分指令値決定信号に基本アシスト指令値決定信号を加算した信号をモータ電流指令値信号とする構成にしたことを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング制御装置。
- 操舵トルク微分指令値決定手段の出力、または基本アシスト指令値決定手段の出力の少なくともどちらか一方にフィルターを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の電動パワーステアリング制御装置。
- 操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号に応じて信号レベル判定手段が信号レベルを切り換えるとき、基準レベルから増幅レベルへの切り換えとその逆の切り換えとで、切り換えの操舵トルク検出信号またはモータ電流指令値信号が異なる構成にしたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の電動パワーステアリング制御装置。
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