JP3945263B2 - 電動パワーステアリング装置の制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や車両の操舵系にモータによる操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置の制御装置に関し、特にハンドル急操舵時における操舵フイーリングの悪化を改善した電動パワーステアリング装置の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や車両のステアリング装置をモータの回転力で補助負荷付勢する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助負荷付勢するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、アシストトルク(操舵補助トルク)を正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、電流制御値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデュ−ティ比の調整で行っている。
【0003】
ここで、電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図5に示して説明すると、ステアリングホイール(ハンドル)1の軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に結合されている。軸2には、ステアリングホイール1の舵角(操舵角)を検出する舵角センサ7及び操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して軸2に結合されている。パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット30には、バッテリ14からイグニションキー11を経て電力が供給され、コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクT(メイントルク信号Tm、サブトルク信号Ts)、車速センサ12で検出された車速V、舵角センサ7で検出された舵角θに基いてアシスト指令の操舵補助指令値Iの演算を行い、演算された操舵補助指令値Iに基いてモータ20に供給する電流を制御する。
【0004】
上述のような電動パワーステアリング装置では、ステアリングシャフトにより伝達される操舵トルクに応じた操舵補助力をモータ20に付与するために、その操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、トルクセンサ10はフェールセーフ機能のため、コントロールユニット30への入力がメイン系統及びサブ系統の2系統を有し、メイントルク信号Tmを操舵補助制御に用いると共に、サブトルク信号Tsをフェールセーフ機能に用いるように構成している。そして、操舵補助制御はメイントルク信号Tmを基に行うが、アシスト制御は一般的にMCU(Micro Controller Unit)を使用して実現されるため、アナログのメイントルク信号TmをA/D変換してディジタル値に変換する必要がある。しかし、A/D変換器は分解能が限られていることから、A/D変換器の分解能を最大限に活かすため、通常使用される操舵トルクTの範囲がA/D変換器入力の最大値となるように、メイントルク信号Tmはアナログ的にゲイン倍(増幅)されるように構成される。つまり、予想される操舵トルクTの最大値が、A/D変換器の最大値に対応するようにゲイン倍されて調整される。
【0005】
図6は、トルクセンサ10の信号をメイン及びサブの2系統で制御する場合のコントローラ30のブロック構成を示しており、トルクセンサ10からのメイントルク信号TmはA/D変換器321に入力されると共に、(アナログ型)ゲイン倍器(増幅器)31を経てA/D変換器322に入力されている。また、トルクセンサ10からのサブトルク信号TsはA/D変換器323に入力され、この出力が別途フェールセーフ機能に供されている。
【0006】
A/D変換器321からのディジタル値のメイントルク入力値Tgrもフェールセーフ機能に供される。A/D変換器322からのゲイン倍メイントルク入力値信号Tgiは、操舵補助指令値演算部325及びセンター応答性改善部324に入力されると共に、フェールセーフ機能に供される。
【0007】
センター応答性改善部324及び操舵補助指令値演算部325の各出力は加算器32Aで加算され、その加算結果がロバスト安定化補償部326及び加算器32B、加減算器32Cを経て電流制御部201に入力され、この電流制御値によってモータ20が駆動される。モータ端子間電圧Vm及びモータ電流値iはモータ角速度推定部329に入力され、推定された角速度ωはモータ慣性補償部328及び収れん性制御部327に入力される。収れん性制御部327の出力は加算器32Aに入力されて加算され、モータ慣性補償部328の出力は加算器32Bに入力されて加算される。
【0008】
なお、ブロック30がコントローラを形成し、ブロック32がMCU制御ブロックを形成している。即ち、コントローラ30はMCU制御ブロック32及びゲイン倍器31で構成されている。
【0009】
センター応答性改善部324は、ステアリングの中立付近の制御の応答性を高め、滑らかでスムーズな操舵を実現するためのものである。即ち、アシストトルクの応答性向上とトルク制御系の安定性向上を目的としており、例えば本出願人による特願2000−152517で説明されているものである。アシスト量(操舵補助指令値)に対して操舵トルク信号の微分に比例した値を、操舵トルク及び車速の大きさに応じて微分ゲインを変化させて、制御系の応答性を高めるために加算する。このように微分ゲインを連続的に変化させることにより、操舵トルク、車速、操舵パターンなどの変化時の微分ゲインに大きな変化がないため、不自然な操舵感を防ぐことができ、快適な操舵性能を得ることができる。また、操舵トルクの小さな領域での微分ゲインを大きくすることにより、中立点近傍の応答性を高めて小さなヒステリシス特性が得られ、快適な操舵性能が得られると共に、操舵トルクの大きな領域での応答性及び安定性も保たれるのである。
【0010】
また、収れん性制御部327は車両のヨーの収れん性を改善するためにハンドルが振れ回る動作に対してブレーキをかけるようになっており、モータ慣性補償部328はモータ20の慣性や摩擦を補償している。ロバスト安定化補償部326は特開平8−290778号公報に示されている補償部であり、sをラプラス演算子とする特性式G(s)=(s+a1・s+a2)/(s+b1・s+b2)を有し、検出トルクに含まれる慣性要素とバネ要素から成る共振系の共振周波数のピーク値を除去し、制御系の安定性と応答性を阻害する共振周波数の位相のずれを補償している。なお、特性式G(s)のa1,a2,b1,b2は共振系の共振周波数により決定されるパラメータである。
【0011】
更に、モータ角速度推定部329は特開平10−109655号に示されている手法で角速度推定を行っても良く、本出願人による特開平10−338152号に記述された角速度推定を行っても良い。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
このような制御装置において、ハンドルの急操舵を行った場合、トルクセンサ10からのメイントルク信号Tmが過大に大きくなり、ゲイン倍器31によるゲイン倍された後のトルク信号TgoがA/D変換器322の入力範囲(フルスケール)を超えてしまう場合があり、A/D変換される数値は当該A/D変換器の最大値にクランプされてしまう。図7(A)に示すゲイン倍トルク入力値Tgiがセンター応答性改善部324に入力されると、センター応答性改善部324は上述のように微分要素で成っているため、その出力は図7(B)に示すような波形となり、ゲイン倍トルク入力値Tgiが飽和したときに、図7(B)に示すような波形となる。○印を付し符号Aで示すような電流指令値を一時的に減らすような微分波形が存在するため、操舵フィーリングが悪化するという問題があった。この問題点の発生理由を更に詳述すると次の通りである。
【0013】
センター応答性改善部324は、図8(A)に示すようなゲイン−周波数特性、同図(B)に示すような位相−周波数特性を有する近似微分特性を有している。これに対し、操舵補助指令値演算部325は、例えば図9に示すようなゲイン倍トルク入力値(Tgi)−出力の入出力特性を有している。
【0014】
ここで、前述したようにハンドルの急操舵を行った場合には、トルクセンサ10の出力であるメイントルク信号Tm及びサブトルク信号Tsが大きくなり、ゲイン倍器31でゲイン倍されたゲイン倍信号がA/D変換器322のフルスケールを超える場合(図10の時点t1)がある。このような場合、A/D変換器322の出力であるゲイン倍トルク入力値Tgiは図10(A)に示すようになり、操舵補助指令値演算部325の出力は同図(B)に示すようになり、センター応答性改善部324の出力は同図(C)に示すようになる。また、(センター応答性改善部324+操舵補助指令値演算部325)の出力波形は、図10(B)の波形と同図(C)の波形を加算したものであり、同図(D)に示すようになる。
【0015】
時点t1において、ゲイン倍トルク入力値TgiがA/D変換器322の最大値に制限されたことにより、センター応答性改善部324の出力にパルス状の微分波形が現れ(図8(B)のA部及び図10(C)のB1部)、これが(センター応答性改善部324の出力+操舵補助指令値演算部325の出力)の出力を減少させている(図10(D)のB2部)。これにより、大きな操舵入力でアシストトルクが変動する場合が生じ、このため操舵フイーリングが悪化するという不具合を生じるのである。
【0016】
また、ゲイン倍トルク入力値がA/D変換器の分解能を超えて入力された場合は、それ以上の操舵トルクに対して操舵補助力の制御が全くできなくなり、操舵トルク変動等の違和感が発生する場合があった。
【0017】
本発明は上述のような事情によりなされたものであり、本発明の目的は、電動パワーステアリング装置の制御装置において、急操舵時等にトルクセンサの信号がA/D変換器の分解能を超えた場合でも、操舵フイーリングの悪化を生じないようにした電動パワーステアリング装置の制御装置を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は、トルクセンサからのメイントルク信号をA/D変換したメイントルク入力値と、前記メイントルク信号を第1ゲイン倍した後にA/D変換したゲイン倍トルク入力値と、前記トルクセンサからのサブトルク信号とに基づいて、ステアリング機構に操舵補助力を与えるモータを制御する操舵補助力制御手段を有し、フェールセーフ機能を行うようになっている電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、前記メイントルク入力値を第2ゲイン倍するゲイン倍器と、前記ゲイン倍器の出力及び前記ゲイン倍トルク入力値を切換えて前記操舵補助力制御手段に入力するスイッチ手段とを具備することによって達成される。
【0019】
また、前記メイントルク信号がコントローラの入力範囲を超えた場合に、前記スイッチ手段を介して、前記メイントルク入力値を前記ゲイン倍器で前記第1ゲイン倍と同一にゲイン倍して前記操舵補助力制御手段に入力することによって、或は前記ゲイン倍器及び前記スイッチ手段をソフトウェアで機能させるようにすることによって、上記目的はより効果的に達成される。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明では、ゲイン倍トルク入力値がMCUの入力値、つまりA/D変換器の分解能を超えて入力された場合でも、メイントルク入力値を基に操舵トルク微分手段の計算を行うことにより、ゲイン倍トルク入力値が飽和した信号を用いることがなくなる。つまり、センター応答性改善部の出力にパルス状の出力がなくなる。このため、電流指令値の出力を減じることもなく、操舵フィーリングが悪化することもない。
【0021】
また、ゲイン倍トルク入力値がA/D変換器の分解能を超えて入力された場合でも、メイントルク入力値によって操舵補助力制御手段が働くため、ゲイン倍トルク入力値のサチュレートの有無に拘わらず操舵補助力制御を継続することができる。
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0023】
図1に本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御装置の構成例を、図6に対応させて示す。本発明では、A/D変換器321からのメイントルク入力値Tgr及びA/D変換器322からのゲイン倍トルク入力値Tgiを所定条件で切り換えるスイッチ手段303が設けられ、このスイッチ手段303の出力で動作する操舵補助力制御手段300が設けられている。
【0024】
図2は図1の要部(スイッチ手段303、操舵補助力制御手段300)を示すブロック図であり、本実施の形態に係る制御装置ではA/D変換器321より出力されるメイントルク入力値Tgrをゲイン倍する(ディジタル型)ゲイン倍器301が設けられている。また、ゲイン倍器301の出力をa接点に、A/D変換器322の出力をb接点に接続された切換スイッチ302が設けられ、切換スイッチ302の出力が操舵補助力制御手段300に入力されるようになっている。切換スイッチ302の接点は、通常は接点aに接続されており、A/D変換器322に分解能を超えた信号が入力された時に、そのことを検知して接点bに切換えるようになっている。また、ゲイン倍器301、切換スイッチ302、操舵補助力制御手段300はソフトウェアによる構成となっている。
【0025】
以上のように構成された本制御装置においては、通常切換スイッチ302の接点はaに接続されており、A/D変換器322の出力であるゲイン倍トルク入力値Tgiが操舵補助力制御手段300に入力されている。図3は各部の波形を示しており、時点t2までは従来と同様である(図10参照)。
【0026】
そして、急操舵等によってゲイン倍器31の出力Tgoの大きさがA/D変換器322の分解能を超えると(時点t2)、つまりゲイン倍器31の出力TgoがA/D変換器322の最大値Tr_maxに相当する入力範囲を超えると(ただし、ハードウェアとしてA/D変換可能な入力電圧範囲を大きく超える電圧を入力しないための保護回路がある)、それが検知手段によって検知され、切換スイッチ302の接点がaからbに切換えられる。これにより、A/D変換器321の出力であるメイントルク入力値Tgrがゲイン倍器301に入力され、ゲイン倍器31と同一の倍率でディジタル的にゲイン倍される。ゲイン倍器301の出力は切換スイッチ302の接点bを経て操舵補助力制御手段300に入力される。
【0027】
このように、時点t2以降はゲイン倍器301でゲイン倍すると共に、切換スイッチ302の接点をbとすることにより、ゲイン倍器301の出力、つまり操舵補助力制御手段300の入力は図3(A)に示すように漸増波形となる。この結果、センター応答性改善部324の出力波形は図3(C)のようになり、操舵補助指令値演算部325の出力は従来と同様で図3(B)に示すようになっているので、(操舵補助指令値演算部325の出力+センター応答性改善部324の出力)は同図(D)に示すように、従来生じたB2部分の減少出力がなくなる。
【0028】
本制御装置によれば、図3(A)に示されるように、ゲイン倍トルク入力値Tgiが飽和することなく、この飽和信号を微分することがないため、図3(C)に示されるようにセンター応答性改善部324の出力には前述したパルス状波形がなくなる。この結果、図3(D)に示されるように(操舵補助指令値演算部325の出力+センター応答性改善部324の出力)にも、出力を減少させる波形を生ずることがなく、これにより操舵フィーリングを悪化させることがなくなる。
【0029】
また、操舵補助指令値演算部325の設定を図4のように行った場合、ゲイン倍トルク入力値Tgiが入力範囲を超えた場合でも、メイントルク入力値Tgrをゲイン倍301を通った値により、制御補助力制御を実行できるようになり、操舵フィーリングを悪化させることがなくなる。
【0030】
なお、切換スイッチ302をソフトウェアの構成とした場合、切換スイッチのようなスイッチング処理の他に、ゲイン倍トルク入力値とメイントルク入力値を入力とした判断付きの演算も含まれる。
【0031】
【発明の効果】
上述したように、本発明によれば、ハンドルの急操舵を行った場合など、ゲイン倍されたメイントルク信号がMCUのA/D変換器の入力範囲を超える場合に、ハードウェアでゲイン倍されていないメイントルク信号を基に操舵補助力制御を行うため、操舵トルク微分手段の出力にパルス状の波形がなくなる。この結果、操舵フィーリングの悪化が改善されるという顕著な効果が得られる。また、操舵補助指令値演算部の設定の自由度が大きくなるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る制御装置の要部の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る制御装置の各部波形例を示す波形図である。
【図4】操舵補助指令値演算部の設定例を示す図である。
【図5】従来の電動パワーステアリング装置の一般的な構成を示す機構図である。
【図6】従来の電動パワーステアリング装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図7】センター応答性改善部の入出力波形の例を示す波形図である。
【図8】センター応答性改善部の特性を示す図である。
【図9】操舵補助指令値演算部の特性を示す図である。
【図10】従来の電動パワーステアリング装置の制御装置の各部動作波形を示す波形図である。
【符号の説明】
1 ステアリングホイール
2 軸
3 減速ギア
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20 モータ
30 コントローラ
31、301 ゲイン倍器
32 MCU制御ブロック
300 操舵補助力制御手段
302 切換スイッチ
321,322,323 A/D変換器
324 センター応答性改善部
325 操舵補助指令値演算部
326 ロバスト安定化補償部
327 収れん性制御部
328 モータ慣性補償部
329 モータ角速度推定部

Claims (3)

  1. トルクセンサからのメイントルク信号をA/D変換したメイントルク入力値と、前記メイントルク信号を第1ゲイン倍した後にA/D変換したゲイン倍トルク入力値と、前記トルクセンサからのサブトルク信号とに基づいて、ステアリング機構に操舵補助力を与えるモータを制御する操舵補助力制御手段を有し、フェールセーフ機能を行うようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記メイントルク入力値を第2ゲイン倍するゲイン倍器と、前記ゲイン倍器の出力及び前記ゲイン倍トルク入力値を切換えて前記操舵補助力制御手段に入力するスイッチ手段とを具備したことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
  2. 前記メイントルク信号がコントローラの入力範囲を超えた場合に、前記スイッチ手段を介して、前記メイントルク入力値を前記ゲイン倍器で前記第1ゲイン倍と同一にゲイン倍して前記操舵補助力制御手段に入力するようになっている請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
  3. 前記ゲイン倍器及び前記スイッチ手段をソフトウェアで機能させるようになっている請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
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