JP3809595B2 - 電動式パワーステアリングシステム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のステアリングホイールを操作したとき、その操舵トルクにアシストトルクを付加して操作性を良くする電動式パワーステアリングシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車における電動式パワーステアリングシステムは、ステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルクセンサの出力と、自動車の車速を検出する車速センサの出力とからアシスト電流指令値を決定し、これに操舵トルク微分指令値を足しこんでモータ駆動指令値を得、ドライブ回路を介してアシストモータを駆動し操舵トルクにアシストトルクを付加してステアリングホイールの操作性を向上させている。
【0003】
然しながら、アシストモータは、ロータの回転角によりトルクが脈動するいわゆるコギングトルクを発生する。
このコギングトルクは、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールに伝達され、運転者の手に振動として伝わるので、操舵時のフィーリングが悪くなるという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この操舵時のフィーリングを改善するものとして、特開平2−193768号に開示された電動パワーステアリング装置が知られている。
この発明は、ロータの回転角に応じて発生するコギングトルクを打ち消すためモータに付加する補償電流指令値を予め算定しておく。そして、角度センサによりロータの回転角を検出し、回転角に応じた補償電流指令値をアシストモータに供給して、トルクの平滑化を図り、操舵時のフィーリングを改善するものである。
然しながら、角度センサは高価であり、コスト高になるので、角度センサを使用しないでフィーリングを改善するものが要望されていた。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、角度センサを使用しないで操舵のフィーリングを改善することができる電動式パワーステアリングシステムを提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するために請求項1の発明が採った手段は、実施例で使用する符号を付して説明すると、ステアリングホイール10の操舵トルクを検出するトルクセンサ20の出力と車速を検出する車速センサ30の出力とにより決定される基本アシスト電流指令値T1に、第1の微分器24により決定される操舵トルク微分指令値T2を足しこんでモータ駆動指令値を得、このモータ駆動指令値により決定されるモータ駆動電流によりアシストモータ40を駆動して、操舵トルクにアシストトルクを付加しステアリングホイール10の操作性を向上させる電動式パワーステアリングシステムにおいて、
前記アシストモータ40の回転速度を検出して該アシストモータのコギング周波数を算定するコギング周波数算定手段52と、
このコギング周波数算定手段52で求められた周波数にその中心周波数を一致させるように動作し前記操舵トルクセンサ20の出力から該中心周波数における脈動トルクを検出する中心周波数可変式バンドパスフィルタ53と、
この中心周波数可変式バンドパスフィルタ53の出力を微分して位相を進める第2の微分器54とを備え、
この第2の微分器54の出力に応じた補償電流指令値を前記モータ駆動指令値に足しこむようにしたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、前記コギング周波数における補償電流指令値は、コギング周波数テーブル56によにりコギング周波数に応じて変化されるところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、前記コギング周波数における中心周波数可変式バンドパスフィルタ53の出力は、2分割され、一方は第2の微分器54により微分されてT31、他方T30に合流するようにしたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、前記コギング周波数における補償電流指令値は、車速テーブル57により車速に応じて変化させるようにしたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、前記コギング周波数における補償電流指令値は、アシスト電流テーブル58によりアシストモータの電流に応じて変化させるようにしたところに特徴を有する。
【0011】
尚、操舵性に軽快感を付与することは、操舵トルクを微分する第1の微分器24のゲインを高めることにより達成できるが、この結果、ステアリングハンドルの操舵が軽すぎるという問題が発生する。しかし、本願発明においては、独立した中心周波数可変式バンドパスフィルタ53を設けて、コギングトルクを平滑化したので、ハンドルのフイーリングを良好にするとともに、適切な操舵特性を得ることができる。
本発明は、第1の微分器24からの操舵トルク微分指令値T2により操舵の軽快感を希望のフィーリングに設定でき、また、第2の微分器54からの補償電流指令値T3によりコギングをそれぞれ独立して希望のフィーリングに設定することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1の実施例につき、図1〜図4を参照しつつ説明する。
まず、図2において、ステアリングホイール10を操作すると、その操舵トルクはギヤーケース11の入力軸11aに伝達され、出力軸11bの下端のピニオンを介してラック12を駆動する。このラック12は操舵リンク13を介して車輪14の方向を変える。
【0013】
一方、ギヤーケース11に取付けられたトルクセンサ20が操舵トルクを検出し、車速センサ30が自動車の速度を検出し、その電気信号が電気制御装置(以下ECU50と云う)に入力される。ECU50は、図1に示すトルクセンサ20の出力と車速センサ30及びアシスト車速テーブル23から基本アシスト電流指令値T1が決められる。また、操舵トルクを微分する第1の微分器24と車速センサ30及び操舵トルク微分車速テーブル25から操舵トルク微分指令値T2が決められる。さらに、操舵トルクを後述する中心周波数可変式バンドパスフィルタ53及び第2の微分器54を通過させて補償電流指令値T3が決められる。モータ駆動指令値は、これらの指令値T1,T2,T3が加算されたもので、電流制御手段22を介してモータ駆動電流がアシストモータ40に供給されて駆動される。
【0014】
このアシストモータ40のトルクは、電磁クラッチ15を介してギヤーケース16の入力軸16aに伝達され、出力軸16bの下端のピニオンを介してラック12を駆動する。このラック12は、ステアリングホイール10の出力軸11bとともに、アシストモータ40の出力軸16bにより駆動されるので、ステアリングホイール10の操作性が著しく改善されるのである。
【0015】
モータ回転速度検出手段51は、アシストモータ40の電流値及び端子電圧値からアシストモータ40の回転数を推定演算して、コギング周波数算出手段52に入力する。アシストモータ40は、内部のロータと界磁の関係(吸引力、反発力)に起因して回転角によりモータ軸トルクが周期的に変化するいわゆるコギングトルクを発生する。
尚、モータ回転速度検出手段51は、一般にモータロータの慣性補償制御やシステムの粘性、フレクション補償制御を行うために用いられているものであり、本発明にあっては、このモータ回転速度検出手段51をそのまま利用できるという利点がある。
【0016】
ここで、
コギング周波数をF(HZ)
モータ回転速度をN(rpm)
モータコギング係数(モータが1回転することにより発生するコギングの山または谷の数)をKm
と表示すれば、
コギング周波数は次式で求められる。
F=N・Km/60
即ち、コギング周波数はモータの回転速度により変化する。
【0017】
中心周波数可変式バンドパスフイルタ53(以下単にバンドパスフイルタ53と云う)に入力されるトルクには、コギング周波数における成分の他に操舵速度等に起因する種々の周波数における成分が含まれている。
バンドパスフイルタ53(以下単にバンドパスフイルタ53と云う)は、中心周波数を図3に示すF0,F1,F2のように変化させて絶えずこのコギング周波数算定手段52で求められた周波数Fに一致させるように動作して、コギング周波数成分だけを抽出し第2の微分器54へ送ることができる。そして、これを第2の微分器54に入力すると、第2の微分器54は脈動トルクの位相を進め、さらに必要に応じて増幅し、コギングトルクを打ち消すための補償電流指令値T3をモータ駆動指令値(T1+T2)に足しこむ。
【0018】
つぎに、上記第1の実施例の作用について説明する。
まず、バンドパスフイルタ53が接続されていない状態において、ステアリングホイール10を操作すると、トルクセンサ20が操舵トルクを検出し、車速センサ30が自動車の速度を検出し、これらから決められたモータ駆動指令値(T1+T2)に基づいてアシストモータ40が駆動され、アシストトルクTaが操舵トルクに付加される。
このアシストトルクは中心値Taの上下に脈動している[図4の(a)]。
【0019】
ところで、アシストトルクがその中心値Taよりも大なるコギングトルクの山においては、その分、操舵トルクは小となり、中心値Taよりも小なるコギングトルクの谷においては、操舵トルクは大となって、操舵トルクも脈動する。
即ち、トルクセンサ20の出力は、コギングトルクの脈動波形を反転(位相角は−180度)したものとなる。また、機械的ながたや操舵トルク検出用のトーションバーのねじれなどが作用して、位相角はさらに遅れθを生じる[図4の(b)]。
【0020】
一方、モータ回転速度検出手段51からアシストモータ40の回転数が推定演算され、コギング周波数算出手段52によりコギング周波数Fが算出されると、バンドパスフイルタ53に入力される。
そして、トルクセンサ20の出力がバンドパスフイルタ53を通過すると、算定されたコギング周波数Fにおける脈動トルクが抽出される[図4の(c)]。
【0021】
この脈動する操舵トルク信号を第2の微分器54により微分することにより通常操舵の信号成分(周波数)がカットされて、コギング周波数Fにおけるコギングトルク成分のみが抽出される。また、位相角θが進められ[図4の(d)]、さらに必要に応じて増幅器55により増幅された補償電流指令値T3がモータ駆動指令値(T1+T2)に足し込まれる。これにより、コギングトルクが打ち消されて[図4の(e)]、トルクは平滑となりステアリングホイール10のフィーリングが良好になる。
【0022】
上記第1の実施例によれば、アシストモータ40のコギングトルクに起因して、操舵トルクも脈動する点に着目して、トルクセンサ20の出力からコギング周波数Fにおける脈動トルクを抽出し、このコギングトルクを打ち消す補償電流指令値T3をモータ駆動指令値に足し込むようにしたので、高価な角度センサを使用しなくても、ステアリングホイール10のフィーリングを良好に改善できるという優れた効果を奏するものである。
【0023】
図5は、本発明の第2の実施例を示すもので、第1の実施例との相違は、第2の微分器54の出力をコギング周波数に応じて変化させるコギング周波数テーブル56を有する点にある。
一般に、トルクセンサ20の出力を第2の微分器54により微分すると、周波数が高くなる程ゲインは大きくなる傾向がある。しかし、第2の実施例においては、コギング周波数テーブル56によりこの傾向を補償することができるという効果を奏するものである。
【0024】
尚、コギング周波数が高くなればコギングトルクが減少する傾向がある。第2の実施例においては、高い周波数におけるゲインを下げることにより、操舵トルク周波数がコギング周波数と一致した場合でも、第2の微分器54からの補償電流指令値T3が過度に増大することを防止している。
【0025】
図6は、本発明の第3の実施例を示すもので、第2の実施例との相違は、バンドパスフイルタ53の出力を2分割し、一方は第2の微分器54により微分した出力T31を他方T30に合流させて位相角を調整するものである。
この第3の実施例によれば、T31とT30との相関により、ギヤのバックラッシュやトーションバーのねじれ等による位相遅れを随時補償できるという効果を奏する。
【0026】
図7は、本発明の第4の実施例を示すもので、第3の実施例との相違は、車速に応じて補償電流指令値を変化させる車速テーブル57を有している点にある。一般に高車速ではアシスト力が小さくなりコギングトルも小さくなるので車速に応じた補償電流にすることができる。
また、第4の実施例によれば、車速が大となり、操舵トルクの周波数とコギング周波数が一致したとき、アシストトルクが相対的に大きくなって発生する違和感を防止することができる。
【0027】
図8は、本発明の第5の実施例を示すもので、第3の実施例との相違は、アシストモータ40の電流に応じて補償電流指令値を変化させるアシスト電流テーブル58を有している点にある。
この第5の実施例によれば、コギングトルクはアシストモータ40の電流が大きくなるに対応して大きくなるが、モータ電流に応じた補償電流指令値を流すので、適切な補償を行うことができ、操舵時の違和感をなくすることができる。
【0028】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明はステアリングホイールの操舵トルクに、アシストモータを駆動してアシストトルクを付加した電動式パワーステアリングシステムにおいて、
前記操舵トルクセンサの出力からコギング周波数算出手段により算出したコギング周波数における脈動トルクを抽出して、これを打ち消す補償電流指令値をアシスト指令値に足しこむようにしたので、簡単な構成により操舵性を著しく改善することができるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る電動式パワーステアリングシステムにおける第1の実施例の制御ブロック図である。
【図2】 第1の実施例のシステムを説明するブロック図である。
【図3】 操舵トルクのコギング周波数の分布を示すグラフである。
【図4】 各部におけるトルクの波形を示すグラフである。
【図5】 本発明に係る電動式パワーステアリングシステムにおける第2の実施例の制御ブロック図である。
【図6】 本発明に係る電動式パワーステアリングシステムにおける第3の実施例の制御ブロック図である。
【図7】 本発明に係る電動式パワーステアリングシステムにおける第4の実施例の制御ブロック図である。
【図8】 本発明に係る電動式パワーステアリングシステムにおける第5の実施の制御ブロック図である。
【符号の説明】
10 ステアリングホイール
20 トルクセンサ
21 基本アシスト電流指令値
24 第1の微分器
30 車速センサ
40 アシストモータ
52 コギング周波数算定手段
53 中心周波数可変式バンドパスフィルタ
54 第2の微分器
56 コギング周波数テーブル
57 車速テーブル
58 アシスト電流テーブル
Claims (5)
- ステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルクセンサの出力と車速を検出する車速センサの出力とにより決定される基本アシスト電流指令値に、第1の微分器により決定される操舵トルク微分指令値を足しこんでモータ駆動指令値を得、このモータ駆動指令値により決定されるモータ駆動電流によりアシストモータを駆動して操舵トルクにアシストトルクを付加しステアリングホイールの操作性を向上させる電動式パワーステアリングシステムにおいて、
前記アシストモータの回転速度を検出して該アシストモータのコギング周波数を算定するコギング周波数算定手段と、
このコギング周波数算定手段で求められた周波数にその中心周波数を一致させるように動作し前記操舵トルクセンサの出力から該中心周波数における脈動トルクを検出する中心周波数可変式バンドパスフィルタと、
この中心周波数可変式バンドパスフィルタの出力を微分して位相を進める第2の微分器とを備え、
この第2の微分器の出力に応じた補償電流指令値を前記モータ駆動指令値に足しこむようにしたことを特徴とする電動式パワーステアリングシステム。 - 前記コギング周波数における補償電流指令値は、コギング周波数に応じて変化されることを特徴とする請求項1記載の電動式パワーステアリングシステム。
- 前記コギング周波数における中心周波数可変式バンドパスフィルタの出力は、2分割され、一方は第2の微分器により微分されて他方に合流するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の電動式パワーステアリングシステム。
- 前記コギング周波数における補償電流指令値は、車速に応じて変化させるようにしたことを特徴とする請求項1,2または3記載の電動式パワーステアリングシステム。
- 前記コギング周波数における補償電流指令値は、アシストモータの電流に応じて変化させるようにしたことを特徴とする請求項1,2,3または4記載の電動式パワーステアリングシステム。
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