本発明は、半導体受光素子に関し、特に、高周波特性に優れた半導体受光素子に関するものである。
半導体受光素子には、様々な種類があるが、その中でも、APD(Avalanche Photo Diodes)は、増倍機能を内蔵し、受光感度が高い素子である。
なお、APDはおおまかに、作製される材料がSiか、化合物半導体か、で分類することが可能である。なお、化合物半導体を用いた素子の中では、基板としてGaAsを用いるか、InPを用いるかで分類することが可能であり、また、構造に関しては、プレーナ型であるか、メサ型であるかで分類することが可能である。
また、その層構成とキャリア増倍の原理構成との違いから、電子増倍型とホール増倍型とに分類することが可能である。
なお、化合物半導体を用い、プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の半導体受光素子について、図1を参照しながら説明する。
プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の半導体受光素子は、図1に示すように、化合物半導体のInP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成し、また、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成することになる。
この図1に示す半導体受光素子に対し、信号光を入射させ、得られた光電流を最適増倍率M(M=10前後)にて増倍させるようにバイアス電圧を調節すると、その増幅機能により、p−i−n型半導体受光素子よりも高い受信感度を有する光受信機を構築することが可能となる。
この図1に示す半導体受光素子と、最適な受信回路と、を組み合わせることで、10Gb/sの高速応答のAPD受信機を製造することが可能となる。
なお、図1に示す半導体受光素子のように、化合物半導体のInP半導体基板を用い、プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の素子が開示された文献がある(例えば、非特許文献1参照)。
上記非特許文献1に開示されている素子は、まず、半絶縁性InP基板上に、p−InPバッファ層、p−InGaAs光吸収層、p−InP電界緩和層、超格子増倍層、n−InPエッチングストップ層、n−InAlAsキャップ層、n−InGaAsコンタクト層を順に積層し、次に、受光部を取り囲むようにリング状に、n−InAlAsキャップ層を除去し、Tiイオンを注入し、その周辺部に対し、Zn拡散領域を設け、そのZn核酸領域の上部に対し、p型電極を設けて構成することになる。
また、本発明より先に出願された特許文献として、半絶縁性半導体基板もしくは高濃度の第1導伝型半導体基板上に、高濃度の第1導伝型半導体バッファ層を介して、低濃度第1導伝型半導体光吸収層と、第1導伝型半導体電界緩和層と、超格子増倍層と、高濃度の第2導伝型半導体キャップ層と、高濃度の第2導伝型半導体コンタクト層とを順次積層した超格子アバランシェフォトダイオードにおいて、受光に供する領域の周囲の領域に、表面より少なくとも前記第1導伝型半導体電界緩和層より深い位置まで選択的に形成した第1導伝型化領域を有し、かつ、前記第1導伝型化領域と高濃度第2導伝型半導体コンタクト層及び高濃度第2導伝型半導体キャップ層が接しないように、その境界領域に前記高濃度第2導伝型半導体コンタクト層と高濃度第2導伝型半導体キャップ層の厚さに相当する深さの分離溝構造を有し、メサ型pn接合フォトダイオードで問題となる表面リーク暗電流を低減し低暗電流で信頼性の高い超格子アバランシェフォトダイオードを実現した超格子アバランシェフォトダイオードが開示された文献がある(例えば、特許文献1参照)。
特許第2762939号公報
"A New planar-Structure InAlGaAs-InAlAs Superlattice Avalanche Photodiode with a Ti-Implanted Guard-Ring", I. Watanabe, et at all, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.8, NO. 6, JUNE 1996
なお、上述した図1に示す半導体受光素子のように、化合物半導体のInP半導体基板(1)を用い、擬似プレーナ型で、且つ、電子増倍型のAPDを形成することで、高速・高感度な半導体受光素子を構築することが可能となる。
しかしながら、図1に示す半導体受光素子に対し、非常に高い光を入力させた場合に、素子の応答が劣化する虞があることが判明した。
光の弱い状態で、APDにバイアスをかけておき、高いレベルの光を入力させた場合、通常、増倍率Mが小さくなって安定した状態になる。しかしながら、素子においては、ある一定の確率において、初期特性の劣化、特に、暗電流が増加する現象や、ショート故障が発生する事例がある。これは、素子内部のp−InPバッファ層(2)を電流が面内方向に流れる際に、電流集中が発生し、局所的な熱が発生するためと考えられる。
なお、上記非特許文献1には、図1に示す半導体受光素子のように、化合物半導体のInP半導体基板を用い、プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の素子と同様な技術について開示されているが、本願発明のように、非常に高い光を入力させた場合に、素子の応答が劣化する点については何ら考慮されたものではない。また、上記特許文献1には、半絶縁性半導体基板もしくは高濃度の第1導伝型半導体基板上に、0.5〜1.0μm程度の層厚の高濃度の第1導伝型半導体バッファ層を形成する点については開示されているが、非常に高い光を入力させた場合に、素子の応答が劣化する点については何ら考慮されたものではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、InP半導体基板上に、擬似プレーナ型と、電子増倍型と、の構造を有する半導体受光素子において、局所的な熱の発生を抑制し、高光入力時も高速・高感度特性を有し、光入力耐性の高い半導体受光素子を提供することを目的とするものである。
かかる目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有することとする。
本発明にかかる半導体受光素子は、InP半導体基板上に光吸収層が形成されてなる半導体受光素子であって、InP半導体基板と、光吸収層と、の間に、4元組成の材料を含む4元バッファ層が形成されてなることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、4元バッファ層は、InPに格子整合する組成のInxAlyGa(1−x−y)As、または、InxGa(1−x)AsyP(1−y)を含むことを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、4元バッファ層の層厚は、0.5μm以上であることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、4元バッファ層の層厚は、1.5μm以下であることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、4元バッファ層のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)が、関係式:Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ(但し、Eg(InP):InP半導体基板のバンドギャップエネルギー、Eλ:受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー)を満たすことを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子は、InP半導体基板上に光吸収層が形成されてなる半導体受光素子であって、InP半導体基板と、光吸収層と、の間に、電流分布の分散を行う電流分散層が形成されてなることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、電流分散層は、不純物の濃度勾配構造を含むことを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、濃度勾配構造は、InP半導体基板側で濃度が高く、光吸収層側で濃度が低くなっていることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、濃度勾配構造は、濃度勾配の最下面濃度:Naと、濃度勾配の最上面濃度:Nbと、の比:R2=Nb/Naが、1>R2>R1(G1)×0.1の範囲(但し、濃度勾配構造の層厚:d、ガードリング幅:G1、R1(G1)=G1/(G1+2d))であることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、濃度勾配構造は、濃度勾配の最下面濃度:Naと、濃度勾配の最上面濃度:Nbと、の比:R2=Nb/Naが、R2=R1(G1)(但し、濃度勾配構造の層厚:d、ガードリング幅:G1、R1(G1)=G1/(G1+2d))の範囲であることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、電流分散層は、InPに格子整合する組成のInxAlyGa(1−x−y)As、または、InxGa(1−x)AsyP(1−y)を含むことを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、電流分散層のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)が、関係式:Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ(但し、Eg(InP):InP半導体基板のバンドギャップエネルギー、Eλ:受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー)を満たすことを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、電流分散層の層厚は、1.5μm以下であることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子は、3元組成の材料からなる3元層と、4元組成の材料からなる4元層と、が連続して構成される連続層を分割するための結晶品質回復層が形成されてなることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、結晶品質回復層は、光吸収層と4元バッファ層との間、または、光吸収層の中、または、4元バッファ層の中に形成されてなることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、結晶品質回復層は、光吸収層と電流分散層との間、または、光吸収層の中、または、電流分散層の中に形成されてなることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、結晶品質回復層は、2元組成の材料を含むことを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、結晶品質回復層の層厚は、10nm以上〜100nm以下の範囲であることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、結晶品質回復層の濃度が、結晶品質回復層の上部に接する層の濃度と同等もしくは高く、また、結晶品質回復層の下部に接する層の濃度と同等もしくは低くなるように形成されてなることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる半導体受光素子において、光吸収層の最上端と結晶品質回復層の最上端との間の幅が、1.5μm以下であることを特徴とするものである。
本発明によれば、InP半導体基板上に、擬似プレーナ型と、電子増倍型と、の構造を有する半導体受光素子において、局所的な熱の発生を抑制し、高光入力時も高速・高感度特性を有し、光入力耐性の高い半導体受光素子を形成することが可能となる。
まず、図2、図3を参照しながら、本実施形態における半導体受光素子の特徴について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、InP半導体基板(1)上に光吸収層(3、4)が形成されてなる半導体受光素子であって、InP半導体基板(1)と、光吸収層(3、4)と、の間に、4元組成の材料を含む4元バッファ層(21)が形成されてなることを特徴とするものである。
また、本実施形態における半導体素子は、図3に示すように、InP半導体基板(1)上に光吸収層(3、4)が形成されてなる半導体受光素子であって、InP半導体基板(1)と、光吸収層(3、4)と、の間に、電流分布の分散を行う電流分散層(31)が形成されてなることを特徴とするものである。以下に示す2元組成材料の定義として、2元組成材料は、2元素から組成された材料として扱う。これに製造上混入しえる不純物、特段影響しないものは、構成元素として数えないものとする。3元組成材料、4元組成材料も同様とする。
このように、本実施形態における半導体受光素子は、InP半導体基板(1)と、光吸収層(3、4)と、の間に形成されるp型バッファ層の構造において、半導体素子の特性を維持する機能と、熱が集中しない機能と、を両立させる構造の層を形成する。具体的には、従来、一定濃度のp−InPで構成されていたp型バッファ層において、図2に示すように、4元組成の材料を含む4元バッファ層(21)を配置する。また、図3に示すように、電流分布の分散を行う電流分散層(31)を配置する。これにより、局所的な熱の発生を抑制し、高光入力時も高速・高感度特性を有し、光入力耐性の高い半導体受光素子を形成することが可能となる。以下、添付図面を参照しながら、本実施形態における半導体受光素子について説明する。
(第1の実施形態)
まず、図2を参照しながら、本実施形態における半導体受光素子の構成について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、InP半導体基板(1)と、p−InPバッファ層(2)と、p型4元バッファ層(21)と、p型光吸収層(3)と、i型光吸収層(4)と、電界緩和層(5)と、増倍層(6)と、エッチングストップ層(7)と、n型バッファ層(8)と、n型コンタクト層(9)と、を有して構成される。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示す層構造からなる半導体受光素子に対し、エッチングストップ層(7)に達するまで、受光部を取り囲むように、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、を上部から除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。また、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、受光部周辺に対し、Zn拡散層(10)を設け、そのZn拡散層(10)を設けた上部に対し、p型電極(13)を設け、また、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を設けることになる。
なお、本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、p−InPバッファ層(2)は、p型としたが、i型や、n型で構成することも可能である。
また、p型4元バッファ層(21)の材料としては、InPに格子整合する組成のInxAlyGa(1−x−y)As、もしくは、InxGa(1−x)AsyP(1−y)を適用することが望ましい。
また、本実施形態におけるp型4元バッファ層(21)は、受光部で発生したホールによる電流を損失することなく伝達できるようにすることが目的であるため、p型4元バッファ層(21)の層厚が厚く、濃度も高い方が望ましい。
例えば、p型4元バッファ層(21)の層厚:d=0.5μm以上に設定することで、電流の伝達効果を高めることが可能となる。
また、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、p型濃度を高くして電気伝導度を向上させるため、InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー:Eg(InP)と比較して小さいほうが望ましい。しかしながら、裏面入射型の場合、信号光は、p−InPバッファ層(2)を通過することになるため、光の損失を発生させないように、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー:Eλと比較して大きい方が望ましい。従って、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、次の関係式(1)を満たすことが望ましい。
関係式(1):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ
Eg(InP):InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー
Eg(Q):p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー
Eλ:受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー
なお、信号光は、一般的には、1.3μm〜1.55μmの波長を用いるため、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、関係式(1):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ(λ=1.3μm)を満たすことが望ましい。
また、p型4元バッファ層(21)のp濃度は、5×1017cm-3以上で低抵抗なバッファ層として機能することになるが、p型光吸収層(3)と比較した場合でも低抵抗な条件であることが望ましい。
p型4元バッファ層(21)は、p−InPバッファ層(2)と比較し、約2×1018cm-3〜約1×1019cm-3の範囲の不純物濃度の高い層を形成することが可能であるため、p型光吸収層(3)の濃度を、1×1018cm-3と高めた場合でも、p型光吸収層(3)と比較して抵抗率の低いバッファ層を形成することが可能となる。
次に、本実施形態の半導体受光素子のように、p型4元バッファ層(21)を用いた構造の場合に発生する課題と、その課題を解決するための解決方法について説明する。
p型4元バッファ層(21)を用いて半導体受光素子を構成した場合、InP半導体基板(1)に対して格子整合する材料のみを用いた場合でも、InPのない層構造の部分が厚く構成されてしまうことになり、その上部に対し、APD構造を配置した場合には、光吸収層(3、4)や、増倍層(6)の結晶品質が劣化し、暗電流の増加を招くことになる。
なお、上述した結晶品質とは、純粋に暗電流の発生量の観点からみた良否で判定する品質であり、フォトルミネッセンスの強度や線幅、X線回折で評価した場合の信号強度や、半値幅等で評価したものではない。
この上述した課題を解決する方法としては、図4に示すように、3元層、4元層の連続部分に対し、2元材料(InP)を含む結晶品質回復層(22)を形成し、3元層、4元層の連続部分を構成する層を分割し、3元層、4元層の連続量を小さくすることで解決することが可能となる。
3元層及び4元層が連続することによる結晶品質の劣化は、連続層厚が1.5μm程度から発生することになるため、3元層及び4元層の連続量が1.5μmを限度として、3元層及び4元層の連続部分を構成する層に対し、2元材料(InP)を含む結晶品質回復層(22)を形成することが望ましい。
なお、結晶品質回復層(22)の層厚は、非常に薄い場合でも効果があり、10nm以上から効果を発揮することが可能となる。
なお、結晶品質回復層(22)の層厚を厚くすることにより、上述した効果は高まることになるが、100nm以上になると回復効果は飽和し始めることになる。従って、結晶品質回復層(22)の層厚を、10nm以上〜100nm以下の範囲で形成することが望ましいことになる。
また、光吸収層(3、4)の層厚が1.5μm以下の場合には、光吸収層(3、4)の最下部と、光吸収層(3、4)の最上部から1.5μm下側に位置する点と、の間に、結晶品質回復層(22)を配置するように構成することで効果を発揮することになる。
例えば、光吸収層(3、4)を、組成:InGaAs,層厚:d=1.2μmとし、p型4元バッファ層(21)の層厚:d=0.5μmとすると、p型4元バッファ層(21)の最上部をA、p型4元バッファ層(21)の最上部から0.3μm下側に位置する点をBとすると、AとBとの間に結晶品質回復層(22)を配置するように構成することが望ましいことになる。
また、光吸収層(3、4)の層厚:d=1.5μm以上の場合には、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(22)を配置するか、もしくは、光吸収層(3、4)の最下端に配置することが望ましい。
なお、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(22)を配置した場合には、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量が大きい場合が多く、キャリアの走行を妨げることになるので、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造を結晶品質回復層(22)の上下に配置するのが効果的である。これにより、キャリアの走行を阻害することを回避することが可能となる。なお、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造としては、電子の伝導帯と価電子帯とのそれぞれが、InGaAs,InPにあるような材料を適用して構成することになる。例えば、バンドギャップエネルギー:Egが光の波長換算で1.3μm組成の4元層(InAlGaAs,InGaAsP)を適用したり、また、InGaAsとInPとの間に1.5μmと1.3μmと1.1μm組成の材料を連続して形成するなどしたりすることで、ΔEc、ΔEvを効果的に緩和させることが可能となる。
また、結晶品質回復層(22)からInP半導体基板(1)側の層厚が、1.5μm以下となるように構成することで、結晶品質の劣化を回避することが可能となる。
(第1の実施形態の第1の実施例)
次に、図2を参照しながら、第1実施形態の半導体受光素子の第1の構成について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、p型4元バッファ層(21)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはAR(Anti Reflection)コートを施すことになる。
この図2に示す本実施形態における半導体受光素子は、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、不純物濃度の高いp型4元バッファ層(21)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流が流れやすくなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を形成することが可能となる。
(第1の実施形態の第2の実施例)
次に、図4を参照しながら、第1の実施形態の半導体受光素子の第2の構成について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図4に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、p型4元バッファ層(21)、結晶品質回復層(22)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはARコートを施すことになる。
なお、p型4元バッファ層(21)は、組成:InPに格子整合するInAlGaAs,バンドギャップエネルギー:Eg=光の波長で1.1μm相当,層厚:d=1.0μm,p濃度:Nd=5×1018cm-3で構成される。
また、結晶品質回復層(22)は、組成:p−InP,層厚:d=0.1μm,p濃度:Nd=1×1018cm-3で構成される。
また、p型光吸収層(3)は、組成:InGaAs,層厚:d=0.5μm,p濃度:Nd=5×1017cm-3で構成される。
また、i型光吸収層(4)は、組成:InGaAs,層厚:d=0.7μm,p濃度:Nd=5×1015cm-3で構成される。
この図4に示す本実施形態における半導体受光素子は、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、不純物濃度の高いp型4元バッファ層(21)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流が流れやすくなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を構成することが可能となる。特に、図4に示す半導体受光素子は、p型4元バッファ層(21)の層厚:d=1.0μmと厚く形成したため、より高い効果を発揮することが可能となる。
また、図4に示す半導体受光素子は、p型4元バッファ層(21)及び光吸収層(3、4)の部分において、3元層、4元層が連続する層が厚くなるため、(例えば、図4に示す構造で、結晶品質回復層(22)がない場合には、p型4元バッファ層(21)と、p型光吸収層(3)と、i型光吸収層(4)と、の連続層厚:d=1.0+0.5+0.7=2.2μmとなり、連続層厚が厚くなるため)、p型4元バッファ層(21)と、p型光吸収層(3)と、の間に、結晶品質回復層(22)を挿入し、3元、4元層の連続量を小さくすることで、素子の暗電流の低減を図ることが可能となる。なお、結晶品質回復層(22)は、p型光吸収層(3)の中に配置したり、また、p型4元バッファ層(21)の中に配置したりすることも可能である。
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示すように、InP半導体基板(1)と、p−InPバッファ層(2)と、電流分散型p型バッファ層(31)と、p型光吸収層(3)と、i型光吸収層(4)と、電界緩和層(5)と、増倍層(6)と、エッチングストップ層(7)と、n型バッファ層(8)と、n型コンタクト層(9)と、を有して構成される。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示す層構造からなる半導体受光素子に対し、エッチングストップ層(7)に達するまで、受光部を取り囲むように、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、を上部から除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。また、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、受光部周辺に対し、Zn拡散層(10)を設け、そのZn拡散層(10)を設けた上部に対し、p型電極(13)を設け、また、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を設けることになる。
なお、第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示すように、p−InPバッファ層(2)は、p型としたが、i型や、n型で構成することも可能である。
なお、第2の実施形態における半導体受光素子は、p−InPバッファ層(2)と、光吸収層(3、4)と、の間に、新たに面内方向に流れる電流が層内に均一に分散して流れるような機能をもつ電流分散型p型バッファ層(31)を設けたことを特徴とする。
p−InPバッファ層(2)は、一定の不純物濃度で形成されており、抵抗率も層内で一定である。従って、光キャリアに起因する電流は、p型電極(13)に対し、最短経路を通過するように流れ、経路の幅が狭くなってしまうことになる。
電流分散型p型バッファ層(31)は、層内で抵抗率の分布を形成し、光キャリアに起因する電流が層内に一様に広がることを意図して構成される。これにより、電流密度が小さくなり、素子の信頼性を向上させることが可能となる。この電流分散機能の実現方法を、図5を参照しながら説明する。
受光部中心の場合、受光部中心の光吸収層(3、4)内でキャリアが発生した場合、ホールによる電流は、経路『A』、又は、経路『B』を通過し、電流分散型p型バッファ層(31)からZn拡散層(10)を経由し、p型電極(13)へと到達することになる。
この場合、経路『A』と経路『B』との抵抗値が等しいか、または、経路『A』と経路『B』との抵抗値が近い値であれば、電流は、経路『A』と『B』との双方の経路を通過することになり、電流集中を軽減することが可能となる。
なお、経路『A』の距離は、受光部直下からガードリング(11)の外周部までの距離『L』である。また、経路『B』の距離は、受光部直下から電流分散型p型バッファ層(31)の最下部を経由し、その最下部を外周方向に進んだ後に、ガードリング(11)の外周部に戻るまでの距離であり、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚をdとすると、経路『B』の距離は、d+L+dとなり、経路『A』と経路『B』との距離の比:R1は、R1(L)=L/(L+2d)となる。
ここで、電流分散機能を実現するために、2つの経路『A』、『B』が等しい抵抗を持つように構成する。
このため、経路『A』よりも遠い経路『B』の方が低抵抗になるよう、電流分散型p型バッファ層(31)の抵抗を、下側が低めに、上側が高めとなるように構成する。このため、不純物の濃度勾配構造を用いることになる。
濃度勾配構造は、不純物濃度が、電流分散型p型バッファ層(31)の下側で高く、上側で低くなるように決定する。
濃度勾配構造を構成する濃度勾配層の最下面の濃度をNa,最上面の濃度をNb,その濃度勾配の比:R2を、R2=Nb/Naとする。なお、濃度勾配層の垂直方向の勾配は、1次の傾きでも2次の傾きでも良く、特に限定しないものとする。
例えば、R1=R2のように決定すると、濃度勾配構造の最上面と最下面との抵抗がほぼ等しくなり、電流分散機能を発揮することが可能となる。
なお、受光部の位置により、受光部直下からガードリング(11)の外周部までの距離『L』が変化することになるため、受光部の面内の全てのキャリアに対し、R1=R2に設定することは出来ない。例えば、受光部中心の経路は、経路『A』の距離をL0とすると、R1(L0)=L0/(L0+2d)となる。
また、受光部周辺では、経路『A'』と経路『B'』との比較となる。経路『A'』の距離『L』は、およそ図5に示すガードリング幅:『G1』と等しくなるので、R1(G1)=G1/(G1+2d)となる。
なお、『受光部中心のR1>受光部周辺のR1』の関係となる。
R1として受光部中心の値を用いて決定すると、受光部中心の一点でしか効果を発揮することができないことになるが、R1として受光部周辺の値を用いて決定した場合には、受光部中心から等距離にある全ての円周上において効果を発揮することが可能となるため、R1の実際の設計値は、受光部周辺の値に調整することで、より効果を発揮することが可能となる。
なお、濃度勾配構造の最下面のp濃度:Na=1×1018cm-3とし、素子の受光径が30μm、分離溝の半径方向の距離:G1=5μmとすると、L0=15+5=20μmとなる。
R1(L0)=20/(20+2)=0.909で計算され、濃度勾配構造の最下面の濃度を9%程度以上小さくすることで、受光部中心部での電流分散の効果を発揮することが可能となる。
なお、受光部周辺からの距離5μm付近で同様の効果を発揮させようとすると、R1(5+5)=10/(10+2)=0.833となり、Nb=8.33×1017cm-3の濃度に設定することになる。
また、受光部周辺からの距離1μm付近で同様の効果を発揮させようとすると、R1(5+1)=6/(6+2)=0.75となり、Nb=7.5×1017cm-3の濃度に設定することになる。
また、受光部端で同様の効果を発揮させようとすると、R1(G1)=G1/(G1+2d)=5/(5+2)=0.714となり、Nb=7.1×1017cm-3の濃度に設定することになる。
なお、効果が発揮できる最大の濃度勾配の比の目安は、R1(G1)5=0.071程度であることから、濃度勾配構造の最上面の濃度:Nbを1.4×1017cm-3以上に設定することになる。
また、R1が小さすぎる場合には、効果が再び下がってしまうことになるため、R1の値は、小さい場合でも受光部周辺のR1の値の10分の1より大きくなる程度の値に設定することになる。
このため、濃度勾配構造は、濃度勾配の最下面濃度:Naと、濃度勾配の最上面濃度:Nbと、の比:R2=Nb/Naが、1>R2>R1(G1)×0.1の範囲(但し、濃度勾配構造の層厚:d、ガードリング幅:G1、R1(G1)=G1/(G1+2d))にすることが望ましい。
電流分散型p型バッファ層(31)の層厚に関しては、層厚が厚い方が電流密度を低減する効果が大きくなるため、層厚を厚くするほうが望ましい。
例えば、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=0.5μm以上に設定することで、電流分散の効果を高めることが可能となる。
電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=0.5μm、受光部直径30μmの場合、電流が、電流分散型p型バッファ層(31)の厚み方向に平均的に流れた場合、受光部周辺部おける電流パスの面積は、『受光部の周囲長』×『電流分散型p型バッファ層(31)の層厚』から計算すると、2×pi×15×0.5=47.1μm2であることから、光電流10mAが流れた場合、電流密度の最大値は、少なくとも21kA/cm2となる。
また、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=1.0μmとした場合、電流密度は、少なくとも11kA/cm2以上となる。
同様に、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=2.0μmとした場合、電流密度は、5kA/cm2以上となる。
従って、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚を厚くしてゆくと、電流密度が下がり、より高い光耐性を発揮することが可能となる。
デバイスの信頼性を高めるためには、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:dは、d=0.5μm以上に設定することが望ましい。また、半導体受光素子の形成の効率を考慮すると、濃度勾配層の全層厚は、5.0μm以下に設定することが望ましい。
電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、p濃度を高くして電気伝導度を上げるため、4元組成を用いることが望ましい。特に、化合物半導体として、InP半導体基板(1)を用いる場合には、InP半導体基板(1)と格子整合するInAlGaAsや、InGaAsPを用いることが望ましい。上述したように、不純物や特段影響のないものは、構成元素として数に入れず、化合物半導体InAlGaAsにPが含まれた場合に5元組成とせず、4元組成として取り扱う。
なお、高濃度のp型バッファ層(31)を形成できるように、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー:Eg(InP)と比較して小さいほうが望ましいが、一方で、裏面入射型の場合には、信号光が電流分散型p型バッファ層(31)を通過することになるため、光の損失を発生させないよう、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー:Eλと比較して大きいことが望ましい。従って、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、次の関係式(2)を満たすことが望ましい。
関係式(2):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ
Eg(InP):InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー
Eg(Q):電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー
Eλ:受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー
なお、信号光は、一般的には、1.3μm〜1.55μmの波長を用いるので、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、関係式(2):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ(λ=1.3μm)を満たすことが望ましい。
次に、本実施形態の半導体受光素子のように、電流分散型p型バッファ層(31)を用いた構造の場合に発生する課題と、その課題を解決するための解決方法について説明する。
第2の実施形態で使用する電流分散型p型バッファ層(31)は、4元組成を含む材料を用いるため、第1の実施形態の半導体受光素子と同様に、電流分散型p型バッファ層(31)と、光吸収層(3、4)と、で4元層及び3元層の連続構造を形成し、結晶品質が劣化する恐れがある。
なお、上述した結晶品質の劣化とは、ある電界に対して流れる暗電流の量が増加するという現象であり、APDの場合には、この暗電流が増倍されて全暗電流として現れるため、結晶品質の劣化はデバイス性能を顕著に劣化させる要因となる。
そこで、本実施形態における半導体受光素子は、図6に示すように、電流分散型p型バッファ層(31)の最上部に対し、2元材料(InP)を含む薄膜の結晶品質回復層(32)を挿入することを特徴とする。
なお、4元層及び3元層が連続することによる結晶品質の劣化は、連続層厚が1.5μm程度から発生することになるため、4元層及び3元層の連続量が1.5μmを限度として、4元層及び3元層の連続部分を構成する層に対し、2元材料(InP)を含む結晶品質回復層(32)を挿入する構造にすることが望ましい。
なお、結晶品質回復層(32)の層厚は、非常に薄い場合でも効果があり、10nm以上から効果を発揮することが可能である。
また、結晶品質回復層(32)の層厚を厚くすることで、上述した効果は高まることになるが、100nm以上になると回復効果は飽和し始めることになる。従って、結晶品質回復層(32)の層厚を、10nm以上〜100nm以下の範囲で形成することが望ましいことになる。
なお、結晶品質回復層(32)の不純物濃度は、上面に接する層の濃度と同等もしくは高い範囲に設定したり、また、下面に接する層の濃度と同等もしくは低い範囲に設定したりすることで、電流を円滑に流すことが可能となる。
例えば、光吸収層(3、4)の層厚が1.5μm以下の場合は、光吸収層(3、4)の最下部と、光吸収層(3、4)の最上部から1.5μm下側に位置する点と、の間に、結晶品質回復層(32)を配置するように構成することで効果を発揮することになる。
例えば、光吸収層(3、4)を、組成:InGaAs,層厚:d=1.2μmとし、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=0.5μm以上とした場合には、電流分散型p型バッファ層(31)の最上部をA、電流分散型p型バッファ層(31)の最上部Aから0.3μmInP半導体基板(1)側に位置する点をBとすると、AとBとの間に結晶品質回復層(32)を配置するように構成することが望ましいことになる。
また、光吸収層(3、4)の層厚:d=1.5μm以上の場合には、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(32)を配置するか、もしくは、光吸収層(3、4)の最下端に配置することが望ましい。
なお、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(32)を配置した場合には、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量が大きい場合が多く、キャリアの走行を妨げることになるので、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造を結晶品質回復層(32)の上下に配置するのが効果的である。これにより、キャリアの走行を阻害することを回避することが可能となる。なお、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造としては、電子の伝導帯と価電子帯とのそれぞれが、InGaAs,InPにあるような材料を適用して構成することになる。例えば、バンドギャップエネルギー:Egが光の波長換算で1.3μm組成の4元層(InAlGaAs,InGaAsP)を適用したり、また、InGaAsとInPとの間に1.5μmと1.3μmと1.1μm組成の材料を連続して形成するなどしたりすることで、ΔEc、ΔEvを効果的に緩和させることが可能となる。
また、結晶品質回復層(32)からInP半導体基板(1)側の層厚が、1.5μm以下となるように構成することで、結晶品質の劣化を回避することが可能となる。
(第2の実施形態の第1の実施例)
次に、図3を参照しながら、第2実施形態の半導体受光素子の第1の構成について説明する。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、電流分散型p型バッファ層(31)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはAR(Anti Reflection)コートを施すことになる。
なお、p−InPバッファ層(2)は、層厚:d=0.5μm,p濃度:Nd=5.0×1017cm-3で構成される。
また、電流分散型p型バッファ層(31)は、濃度勾配層として、組成:InAlGaAs,層厚:d=1μm,バンドギャップエネルギー:Eg=光の波長でエネルギーに換算して、λ=1.1μm相当,濃度勾配層の最下面のp濃度:Na=1×1018cm-3とし、素子の受光径が30μm、分離溝の半径方向の距離G1=5μmとすると、L0=15+5=20μmで構成される。
なお、受光部端で受光した光キャリアに効果があるように設定するためには、R1(G1)=G1/(G1+2d)=5/(5+2)=0.714となり、濃度勾配層の最上面のp濃度:Nb=7.1×1017cm-3となるように設定することが効果的である。
第2の実施形態における半導体受光素子は、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、電流分散型p型バッファ層(31)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流集中が発生し難くなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を形成することが可能となる。
(第2の実施の形態の第2の実施例)
次に、図6を参照しながら、第2実施形態の半導体受光素子の第2の構成について説明する。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図6に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、電流分散型p型バッファ層(31)、結晶品質回復層(32)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはAR(Anti Reflection)コートを施すことになる。
なお、P−InPバッファ層(2)は、層厚:d=0.5μm,p濃度:Nd=5.0×1017cm-3で構成される。
また、電流分散型p型バッファ層(31)は、濃度勾配層として、組成:InAlGaAs,層厚:d=1μm,濃度勾配層の最下面のp濃度:Na=1×1018cm-3とし、素子の受光径が30μm、分離溝の半径方向の距離G1=5μmとすると、L0=15+5=20μmで構成される。
なお、受光部周辺からの距離1μm付近で同様の効果を発揮するようにする場合には、R1(5+1)=6/(6+2)=0.75となることから、Nb=7.5×1017cm-3の濃度に設定することになる。
結晶品質回復層(32)は、組成:InP,層厚:d=50nm,濃度:Nb=5×1017cm-3で構成される。
光吸収層(3、4)は、組成:InGaAs,層厚:1.5μmで構成される。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図6に示すように、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、電流分散型p型バッファ層(31)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流集中が発生し難くなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を形成することが可能となる。
また、第2の実施形態における半導体受光素子は、結晶品質回復層(32)を設けたことで、暗電流の低く、感度の高い素子をウエハー面内に渡って歩留まり良く形成することが可能となる。
なお、上述する実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
従来の半導体受光素子の構成を示す図である。
第1の実施形態の半導体受光素子の第1の構成を示す図である。
第2の実施形態の半導体受光素子の第1の構成を示す図である。
第1の実施形態の半導体受光素子の第2の構成を示す図である。
第2の実施形態の半導体受光素子における電流分散機能を説明するための図である。
第2の実施形態の半導体受光素子の第2の構成を示す図である。
符号の説明
1 InP半導体基板
2 p−InPバッファ層
3 p型光吸収層
4 i型光吸収層
5 電界緩和層
6 増倍層
7 エッチングストップ層
8 n型バッファ層
9 n型コンタクト層
10 Zn拡散層
11 ガードリング
12 n型電極
13 p型電極
21 p型4元バッファ層(4元バッファ層)
22 結晶品質回復層
31 電流分散型p型バッファ層(電流分散層)
32 結晶品質回復層
本発明は、半導体受光素子に関し、特に、高周波特性に優れた半導体受光素子に関するものである。
半導体受光素子には、様々な種類があるが、その中でも、APD(Avalanche Photo Diodes)は、増倍機能を内蔵し、受光感度が高い素子である。
なお、APDはおおまかに、作製される材料がSiか、化合物半導体か、で分類することが可能である。なお、化合物半導体を用いた素子の中では、基板としてGaAsを用いるか、InPを用いるかで分類することが可能であり、また、構造に関しては、プレーナ型であるか、メサ型であるかで分類することが可能である。
また、その層構成とキャリア増倍の原理構成との違いから、電子増倍型とホール増倍型とに分類することが可能である。
なお、化合物半導体を用い、プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の半導体受光素子について、図1を参照しながら説明する。
プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の半導体受光素子は、図1に示すように、化合物半導体のInP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成し、また、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成することになる。
この図1に示す半導体受光素子に対し、信号光を入射させ、得られた光電流を最適増倍率M(M=10前後)にて増倍させるようにバイアス電圧を調節すると、その増幅機能により、p−i−n型半導体受光素子よりも高い受信感度を有する光受信機を構築することが可能となる。
この図1に示す半導体受光素子と、最適な受信回路と、を組み合わせることで、10Gb/sの高速応答のAPD受信機を製造することが可能となる。
なお、図1に示す半導体受光素子のように、化合物半導体のInP半導体基板を用い、プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の素子が開示された文献がある(例えば、非特許文献1参照)。
上記非特許文献1に開示されている素子は、まず、半絶縁性InP基板上に、p−InPバッファ層、p−InGaAs光吸収層、p−InP電界緩和層、超格子増倍層、n−InPエッチングストップ層、n−InAlAsキャップ層、n−InGaAsコンタクト層を順に積層し、次に、受光部を取り囲むようにリング状に、n−InAlAsキャップ層を除去し、Tiイオンを注入し、その周辺部に対し、Zn拡散領域を設け、そのZn拡散領域の上部に対し、p型電極を設けて構成することになる。
また、本発明より先に出願された特許文献として、半絶縁性半導体基板もしくは高濃度の第1導伝型半導体基板上に、高濃度の第1導伝型半導体バッファ層を介して、低濃度第1導伝型半導体光吸収層と、第1導伝型半導体電界緩和層と、超格子増倍層と、高濃度の第2導伝型半導体キャップ層と、高濃度の第2導伝型半導体コンタクト層とを順次積層した超格子アバランシェフォトダイオードにおいて、受光に供する領域の周囲の領域に、表面より少なくとも前記第1導伝型半導体電界緩和層より深い位置まで選択的に形成した第1導伝型化領域を有し、かつ、前記第1導伝型化領域と高濃度第2導伝型半導体コンタクト層及び高濃度第2導伝型半導体キャップ層が接しないように、その境界領域に前記高濃度第2導伝型半導体コンタクト層と高濃度第2導伝型半導体キャップ層の厚さに相当する深さの分離溝構造を有し、メサ型pn接合フォトダイオードで問題となる表面リーク暗電流を低減し低暗電流で信頼性の高い超格子アバランシェフォトダイオードを実現した超格子アバランシェフォトダイオードが開示された文献がある(例えば、特許文献1参照)。
特許第2762939号公報
"A New planar-Structure InAlGaAs-InAlAs Superlattice Avalanche Photodiode with a Ti-Implanted Guard-Ring", I. Watanabe, et at all, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.8, NO. 6, JUNE 1996
なお、上述した図1に示す半導体受光素子のように、化合物半導体のInP半導体基板(1)を用い、擬似プレーナ型で、且つ、電子増倍型のAPDを形成することで、高速・高感度な半導体受光素子を構築することが可能となる。
しかしながら、図1に示す半導体受光素子に対し、非常に高い光を入力させた場合に、素子の応答が劣化する虞があることが判明した。
光の弱い状態で、APDにバイアスをかけておき、高いレベルの光を入力させた場合、通常、増倍率Mが小さくなって安定した状態になる。しかしながら、素子においては、ある一定の確率において、初期特性の劣化、特に、暗電流が増加する現象や、ショート故障が発生する事例がある。これは、素子内部のp−InPバッファ層(2)を電流が面内方向に流れる際に、電流集中が発生し、局所的な熱が発生するためと考えられる。
なお、上記非特許文献1には、図1に示す半導体受光素子のように、化合物半導体のInP半導体基板を用い、プレーナ構造で且つ、電子増倍型の構造の素子と同様な技術について開示されているが、本願発明のように、非常に高い光を入力させた場合に、素子の応答が劣化する点については何ら考慮されたものではない。また、上記特許文献1には、半絶縁性半導体基板もしくは高濃度の第1導伝型半導体基板上に、0.5〜1.0μm程度の層厚の高濃度の第1導伝型半導体バッファ層を形成する点については開示されているが、非常に高い光を入力させた場合に、素子の応答が劣化する点については何ら考慮されたものではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、InP半導体基板上に、擬似プレーナ型と、電子増倍型と、の構造を有する半導体受光素子において、局所的な熱の発生を抑制し、高光入力時も高速・高感度特性を有し、光入力耐性の高い半導体受光素子を提供することを目的とするものである。
かかる目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有することとする。
本発明にかかる半導体受光素子は、InP半導体基板と、前記InP半導体基板上に形成された光吸収層と、前記光吸収層の上部に形成された増倍層と、前記増倍層を含む領域に形成されたガードリングと、前記InP半導体基板と前記光吸収層との間に形成された、4元組成の材料からなる4元バッファ層と、を有することを特徴とする半導体受光素子。
また、本発明にかかる半導体受光素子は、InP半導体基板と、前記InP半導体基板上に形成された光吸収層と、前記光吸収層の上部に形成された増倍層と、前記増倍層を含む領域に形成されたガードリングと、前記InP半導体基板と前記光吸収層との間に形成された、電流分布の分散を行う電流分散層と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、InP半導体基板上に、擬似プレーナ型と、電子増倍型と、の構造を有する半導体受光素子において、局所的な熱の発生を抑制し、高光入力時も高速・高感度特性を有し、光入力耐性の高い半導体受光素子を形成することが可能となる。
まず、図2、図3を参照しながら、本実施形態における半導体受光素子の特徴について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、InP半導体基板(1)上に光吸収層(3、4)が形成されてなる半導体受光素子であって、InP半導体基板(1)と、光吸収層(3、4)と、の間に、4元組成の材料を含む4元バッファ層(21)が形成されてなることを特徴とするものである。
また、本実施形態における半導体素子は、図3に示すように、InP半導体基板(1)上に光吸収層(3、4)が形成されてなる半導体受光素子であって、InP半導体基板(1)と、光吸収層(3、4)と、の間に、電流分布の分散を行う電流分散層(31)が形成されてなることを特徴とするものである。以下に示す2元組成材料の定義として、2元組成材料は、2元素から組成された材料として扱う。これに製造上混入しえる不純物、特段影響しないものは、構成元素として数えないものとする。3元組成材料、4元組成材料も同様とする。
このように、本実施形態における半導体受光素子は、InP半導体基板(1)と、光吸収層(3、4)と、の間に形成されるp型バッファ層の構造において、半導体素子の特性を維持する機能と、熱が集中しない機能と、を両立させる構造の層を形成する。具体的には、従来、一定濃度のp−InPで構成されていたp型バッファ層において、図2に示すように、4元組成の材料を含む4元バッファ層(21)を配置する。また、図3に示すように、電流分布の分散を行う電流分散層(31)を配置する。これにより、局所的な熱の発生を抑制し、高光入力時も高速・高感度特性を有し、光入力耐性の高い半導体受光素子を形成することが可能となる。以下、添付図面を参照しながら、本実施形態における半導体受光素子について説明する。
(第1の実施形態)
まず、図2を参照しながら、本実施形態における半導体受光素子の構成について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、InP半導体基板(1)と、p−InPバッファ層(2)と、p型4元バッファ層(21)と、p型光吸収層(3)と、i型光吸収層(4)と、電界緩和層(5)と、増倍層(6)と、エッチングストップ層(7)と、n型バッファ層(8)と、n型コンタクト層(9)と、を有して構成される。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示す層構造からなる半導体受光素子に対し、エッチングストップ層(7)に達するまで、受光部を取り囲むように、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、を上部から除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。また、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、受光部周辺に対し、Zn拡散層(10)を設け、そのZn拡散層(10)を設けた上部に対し、p型電極(13)を設け、また、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を設けることになる。
なお、本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、p−InPバッファ層(2)は、p型としたが、i型や、n型で構成することも可能である。
また、p型4元バッファ層(21)の材料としては、InPに格子整合する組成のInxAlyGa(1−x−y)As、もしくは、InxGa(1−x)AsyP(1−y)を適用することが望ましい。
また、本実施形態におけるp型4元バッファ層(21)は、受光部で発生したホールによる電流を損失することなく伝達できるようにすることが目的であるため、p型4元バッファ層(21)の層厚が厚く、濃度も高い方が望ましい。
例えば、p型4元バッファ層(21)の層厚:d=0.5μm以上に設定することで、電流の伝達効果を高めることが可能となる。
また、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、p型濃度を高くして電気伝導度を向上させるため、InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー:Eg(InP)と比較して小さいほうが望ましい。しかしながら、裏面入射型の場合、信号光は、p−InPバッファ層(2)を通過することになるため、光の損失を発生させないように、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー:Eλと比較して大きい方が望ましい。従って、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、次の関係式(1)を満たすことが望ましい。
関係式(1):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ
Eg(InP):InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー
Eg(Q):p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー
Eλ:受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー
なお、信号光は、一般的には、1.3μm〜1.55μmの波長を用いるため、p型4元バッファ層(21)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、関係式(1):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ(λ=1.3μm)を満たすことが望ましい。
また、p型4元バッファ層(21)のp濃度は、5×1017cm-3以上で低抵抗なバッファ層として機能することになるが、p型光吸収層(3)と比較した場合でも低抵抗な条件であることが望ましい。
p型4元バッファ層(21)は、p−InPバッファ層(2)と比較し、約2×1018cm-3〜約1×1019cm-3の範囲の不純物濃度の高い層を形成することが可能であるため、p型光吸収層(3)の濃度を、1×1018cm-3と高めた場合でも、p型光吸収層(3)と比較して抵抗率の低いバッファ層を形成することが可能となる。
次に、本実施形態の半導体受光素子のように、p型4元バッファ層(21)を用いた構造の場合に発生する課題と、その課題を解決するための解決方法について説明する。
p型4元バッファ層(21)を用いて半導体受光素子を構成した場合、InP半導体基板(1)に対して格子整合する材料のみを用いた場合でも、InPのない層構造の部分が厚く構成されてしまうことになり、その上部に対し、APD構造を配置した場合には、光吸収層(3、4)や、増倍層(6)の結晶品質が劣化し、暗電流の増加を招くことになる。
なお、上述した結晶品質とは、純粋に暗電流の発生量の観点からみた良否で判定する品質であり、フォトルミネッセンスの強度や線幅、X線回折で評価した場合の信号強度や、半値幅等で評価したものではない。
この上述した課題を解決する方法としては、図4に示すように、3元層、4元層の連続部分に対し、2元材料(InP)を含む結晶品質回復層(22)を形成し、3元層、4元層の連続部分を構成する層を分割し、3元層、4元層の連続量を小さくすることで解決することが可能となる。
3元層及び4元層が連続することによる結晶品質の劣化は、連続層厚が1.5μm程度から発生することになるため、3元層及び4元層の連続量が1.5μmを限度として、3元層及び4元層の連続部分を構成する層に対し、2元材料(InP)を含む結晶品質回復層(22)を形成することが望ましい。
なお、結晶品質回復層(22)の層厚は、非常に薄い場合でも効果があり、10nm以上から効果を発揮することが可能となる。
なお、結晶品質回復層(22)の層厚を厚くすることにより、上述した効果は高まることになるが、100nm以上になると回復効果は飽和し始めることになる。従って、結晶品質回復層(22)の層厚を、10nm以上〜100nm以下の範囲で形成することが望ましいことになる。
また、光吸収層(3、4)の層厚が1.5μm以下の場合には、光吸収層(3、4)の最下部と、光吸収層(3、4)の最上部から1.5μm下側に位置する点と、の間に、結晶品質回復層(22)を配置するように構成することで効果を発揮することになる。
例えば、光吸収層(3、4)を、組成:InGaAs,層厚:d=1.2μmとし、p型4元バッファ層(21)の層厚:d=0.5μmとすると、p型4元バッファ層(21)の最上部をA、p型4元バッファ層(21)の最上部から0.3μm下側に位置する点をBとすると、AとBとの間に結晶品質回復層(22)を配置するように構成することが望ましいことになる。
また、光吸収層(3、4)の層厚:d=1.5μm以上の場合には、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(22)を配置するか、もしくは、光吸収層(3、4)の最下端に配置することが望ましい。
なお、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(22)を配置した場合には、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量が大きい場合が多く、キャリアの走行を妨げることになるので、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造を結晶品質回復層(22)の上下に配置するのが効果的である。これにより、キャリアの走行を阻害することを回避することが可能となる。なお、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造としては、電子の伝導帯と価電子帯とのそれぞれが、InGaAs,InPにあるような材料を適用して構成することになる。例えば、バンドギャップエネルギー:Egが光の波長換算で1.3μm組成の4元層(InAlGaAs,InGaAsP)を適用したり、また、InGaAsとInPとの間に1.5μmと1.3μmと1.1μm組成の材料を連続して形成するなどしたりすることで、ΔEc、ΔEvを効果的に緩和させることが可能となる。
また、結晶品質回復層(22)からInP半導体基板(1)側の層厚が、1.5μm以下となるように構成することで、結晶品質の劣化を回避することが可能となる。
(第1の実施形態の第1の実施例)
次に、図2を参照しながら、第1実施形態の半導体受光素子の第1の構成について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図2に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、p型4元バッファ層(21)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはAR(Anti Reflection)コートを施すことになる。
この図2に示す本実施形態における半導体受光素子は、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、不純物濃度の高いp型4元バッファ層(21)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流が流れやすくなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を形成することが可能となる。
(第1の実施形態の第2の実施例)
次に、図4を参照しながら、第1の実施形態の半導体受光素子の第2の構成について説明する。
本実施形態における半導体受光素子は、図4に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、p型4元バッファ層(21)、結晶品質回復層(22)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはARコートを施すことになる。
なお、p型4元バッファ層(21)は、組成:InPに格子整合するInAlGaAs,バンドギャップエネルギー:Eg=光の波長で1.1μm相当,層厚:d=1.0μm,p濃度:Nd=5×1018cm-3で構成される。
また、結晶品質回復層(22)は、組成:p−InP,層厚:d=0.1μm,p濃度:Nd=1×1018cm-3で構成される。
また、p型光吸収層(3)は、組成:InGaAs,層厚:d=0.5μm,p濃度:Nd=5×1017cm-3で構成される。
また、i型光吸収層(4)は、組成:InGaAs,層厚:d=0.7μm,p濃度:Nd=5×1015cm-3で構成される。
この図4に示す本実施形態における半導体受光素子は、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、不純物濃度の高いp型4元バッファ層(21)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流が流れやすくなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を構成することが可能となる。特に、図4に示す半導体受光素子は、p型4元バッファ層(21)の層厚:d=1.0μmと厚く形成したため、より高い効果を発揮することが可能となる。
また、図4に示す半導体受光素子は、p型4元バッファ層(21)及び光吸収層(3、4)の部分において、3元層、4元層が連続する層が厚くなるため、(例えば、図4に示す構造で、結晶品質回復層(22)がない場合には、p型4元バッファ層(21)と、p型光吸収層(3)と、i型光吸収層(4)と、の連続層厚:d=1.0+0.5+0.7=2.2μmとなり、連続層厚が厚くなるため)、p型4元バッファ層(21)と、p型光吸収層(3)と、の間に、結晶品質回復層(22)を挿入し、3元、4元層の連続量を小さくすることで、素子の暗電流の低減を図ることが可能となる。なお、結晶品質回復層(22)は、p型光吸収層(3)の中に配置したり、また、p型4元バッファ層(21)の中に配置したりすることも可能である。
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示すように、InP半導体基板(1)と、p−InPバッファ層(2)と、電流分散型p型バッファ層(31)と、p型光吸収層(3)と、i型光吸収層(4)と、電界緩和層(5)と、増倍層(6)と、エッチングストップ層(7)と、n型バッファ層(8)と、n型コンタクト層(9)と、を有して構成される。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示す層構造からなる半導体受光素子に対し、エッチングストップ層(7)に達するまで、受光部を取り囲むように、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、を上部から除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。また、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、受光部周辺に対し、Zn拡散層(10)を設け、そのZn拡散層(10)を設けた上部に対し、p型電極(13)を設け、また、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を設けることになる。
なお、第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示すように、p−InPバッファ層(2)は、p型としたが、i型や、n型で構成することも可能である。
なお、第2の実施形態における半導体受光素子は、p−InPバッファ層(2)と、光吸収層(3、4)と、の間に、新たに面内方向に流れる電流が層内に均一に分散して流れるような機能をもつ電流分散型p型バッファ層(31)を設けたことを特徴とする。
p−InPバッファ層(2)は、一定の不純物濃度で形成されており、抵抗率も層内で一定である。従って、光キャリアに起因する電流は、p型電極(13)に対し、最短経路を通過するように流れ、経路の幅が狭くなってしまうことになる。
電流分散型p型バッファ層(31)は、層内で抵抗率の分布を形成し、光キャリアに起因する電流が層内に一様に広がることを意図して構成される。これにより、電流密度が小さくなり、素子の信頼性を向上させることが可能となる。この電流分散機能の実現方法を、図5を参照しながら説明する。
受光部中心の場合、受光部中心の光吸収層(3、4)内でキャリアが発生した場合、ホールによる電流は、経路『A』、又は、経路『B』を通過し、電流分散型p型バッファ層(31)からZn拡散層(10)を経由し、p型電極(13)へと到達することになる。
この場合、経路『A』と経路『B』との抵抗値が等しいか、または、経路『A』と経路『B』との抵抗値が近い値であれば、電流は、経路『A』と『B』との双方の経路を通過することになり、電流集中を軽減することが可能となる。
なお、経路『A』の距離は、受光部直下からガードリング(11)の外周部までの距離『L』である。また、経路『B』の距離は、受光部直下から電流分散型p型バッファ層(31)の最下部を経由し、その最下部を外周方向に進んだ後に、ガードリング(11)の外周部に戻るまでの距離であり、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚をdとすると、経路『B』の距離は、d+L+dとなり、経路『A』と経路『B』との距離の比:R1は、R1(L)=L/(L+2d)となる。
ここで、電流分散機能を実現するために、2つの経路『A』、『B』が等しい抵抗を持つように構成する。
このため、経路『A』よりも遠い経路『B』の方が低抵抗になるよう、電流分散型p型バッファ層(31)の抵抗を、下側が低めに、上側が高めとなるように構成する。このため、不純物の濃度勾配構造を用いることになる。
濃度勾配構造は、不純物濃度が、電流分散型p型バッファ層(31)の下側で高く、上側で低くなるように決定する。
濃度勾配構造を構成する濃度勾配層の最下面の濃度をNa,最上面の濃度をNb,その濃度勾配の比:R2を、R2=Nb/Naとする。なお、濃度勾配層の垂直方向の勾配は、1次の傾きでも2次の傾きでも良く、特に限定しないものとする。
例えば、R1=R2のように決定すると、濃度勾配構造の最上面と最下面との抵抗がほぼ等しくなり、電流分散機能を発揮することが可能となる。
なお、受光部の位置により、受光部直下からガードリング(11)の外周部までの距離『L』が変化することになるため、受光部の面内の全てのキャリアに対し、R1=R2に設定することは出来ない。例えば、受光部中心の経路は、経路『A』の距離をL0とすると、R1(L0)=L0/(L0+2d)となる。
また、受光部周辺では、経路『A'』と経路『B'』との比較となる。経路『A'』の距離『L』は、およそ図5に示すガードリング幅:『G1』と等しくなるので、R1(G1)=G1/(G1+2d)となる。
なお、『受光部中心のR1>受光部周辺のR1』の関係となる。
R1として受光部中心の値を用いて決定すると、受光部中心の一点でしか効果を発揮することができないことになるが、R1として受光部周辺の値を用いて決定した場合には、受光部中心から等距離にある全ての円周上において効果を発揮することが可能となるため、R1の実際の設計値は、受光部周辺の値に調整することで、より効果を発揮することが可能となる。
なお、濃度勾配構造の最下面のp濃度:Na=1×1018cm-3とし、素子の受光径が30μm、分離溝の半径方向の距離:G1=5μmとすると、L0=15+5=20μmとなる。
R1(L0)=20/(20+2)=0.909で計算され、濃度勾配構造の最下面の濃度を9%程度以上小さくすることで、受光部中心部での電流分散の効果を発揮することが可能となる。
なお、受光部周辺からの距離5μm付近で同様の効果を発揮させようとすると、R1(5+5)=10/(10+2)=0.833となり、Nb=8.33×1017cm-3の濃度に設定することになる。
また、受光部周辺からの距離1μm付近で同様の効果を発揮させようとすると、R1(5+1)=6/(6+2)=0.75となり、Nb=7.5×1017cm-3の濃度に設定することになる。
また、受光部端で同様の効果を発揮させようとすると、R1(G1)=G1/(G1+2d)=5/(5+2)=0.714となり、Nb=7.1×1017cm-3の濃度に設定することになる。
なお、効果が発揮できる最大の濃度勾配の比の目安は、R1(G1)5=0.071程度であることから、濃度勾配構造の最上面の濃度:Nbを1.4×1017cm-3以上に設定することになる。
また、R1が小さすぎる場合には、効果が再び下がってしまうことになるため、R1の値は、小さい場合でも受光部周辺のR1の値の10分の1より大きくなる程度の値に設定することになる。
このため、濃度勾配構造は、濃度勾配の最下面濃度:Naと、濃度勾配の最上面濃度:Nbと、の比:R2=Nb/Naが、1>R2>R1(G1)×0.1の範囲(但し、濃度勾配構造の層厚:d、ガードリング幅:G1、R1(G1)=G1/(G1+2d))にすることが望ましい。
電流分散型p型バッファ層(31)の層厚に関しては、層厚が厚い方が電流密度を低減する効果が大きくなるため、層厚を厚くするほうが望ましい。
例えば、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=0.5μm以上に設定することで、電流分散の効果を高めることが可能となる。
電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=0.5μm、受光部直径30μmの場合、電流が、電流分散型p型バッファ層(31)の厚み方向に平均的に流れた場合、受光部周辺部おける電流パスの面積は、『受光部の周囲長』×『電流分散型p型バッファ層(31)の層厚』から計算すると、2×pi×15×0.5=47.1μm2であることから、光電流10mAが流れた場合、電流密度の最大値は、少なくとも21kA/cm2となる。
また、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=1.0μmとした場合、電流密度は、少なくとも11kA/cm2以上となる。
同様に、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=2.0μmとした場合、電流密度は、5kA/cm2以上となる。
従って、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚を厚くしてゆくと、電流密度が下がり、より高い光耐性を発揮することが可能となる。
デバイスの信頼性を高めるためには、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:dは、d=0.5μm以上に設定することが望ましい。また、半導体受光素子の形成の効率を考慮すると、濃度勾配層の全層厚は、5.0μm以下に設定することが望ましい。
電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、p濃度を高くして電気伝導度を上げるため、4元組成を用いることが望ましい。特に、化合物半導体として、InP半導体基板(1)を用いる場合には、InP半導体基板(1)と格子整合するInAlGaAsや、InGaAsPを用いることが望ましい。上述したように、不純物や特段影響のないものは、構成元素として数に入れず、化合物半導体InAlGaAsにPが含まれた場合に5元組成とせず、4元組成として取り扱う。
なお、高濃度のp型バッファ層(31)を形成できるように、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー:Eg(InP)と比較して小さいほうが望ましいが、一方で、裏面入射型の場合には、信号光が電流分散型p型バッファ層(31)を通過することになるため、光の損失を発生させないよう、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー:Eλと比較して大きいことが望ましい。従って、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、次の関係式(2)を満たすことが望ましい。
関係式(2):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ
Eg(InP):InP半導体基板(1)のバンドギャップエネルギー
Eg(Q):電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー
Eλ:受光しようとする信号光の波長に相当するエネルギー
なお、信号光は、一般的には、1.3μm〜1.55μmの波長を用いるので、電流分散型p型バッファ層(31)のバンドギャップエネルギー:Eg(Q)は、関係式(2):Eg(InP)>Eg(Q)>Eλ(λ=1.3μm)を満たすことが望ましい。
次に、本実施形態の半導体受光素子のように、電流分散型p型バッファ層(31)を用いた構造の場合に発生する課題と、その課題を解決するための解決方法について説明する。
第2の実施形態で使用する電流分散型p型バッファ層(31)は、4元組成を含む材料を用いるため、第1の実施形態の半導体受光素子と同様に、電流分散型p型バッファ層(31)と、光吸収層(3、4)と、で4元層及び3元層の連続構造を形成し、結晶品質が劣化する恐れがある。
なお、上述した結晶品質の劣化とは、ある電界に対して流れる暗電流の量が増加するという現象であり、APDの場合には、この暗電流が増倍されて全暗電流として現れるため、結晶品質の劣化はデバイス性能を顕著に劣化させる要因となる。
そこで、本実施形態における半導体受光素子は、図6に示すように、電流分散型p型バッファ層(31)の最上部に対し、2元材料(InP)を含む薄膜の結晶品質回復層(32)を挿入することを特徴とする。
なお、4元層及び3元層が連続することによる結晶品質の劣化は、連続層厚が1.5μm程度から発生することになるため、4元層及び3元層の連続量が1.5μmを限度として、4元層及び3元層の連続部分を構成する層に対し、2元材料(InP)を含む結晶品質回復層(32)を挿入する構造にすることが望ましい。
なお、結晶品質回復層(32)の層厚は、非常に薄い場合でも効果があり、10nm以上から効果を発揮することが可能である。
また、結晶品質回復層(32)の層厚を厚くすることで、上述した効果は高まることになるが、100nm以上になると回復効果は飽和し始めることになる。従って、結晶品質回復層(32)の層厚を、10nm以上〜100nm以下の範囲で形成することが望ましいことになる。
なお、結晶品質回復層(32)の不純物濃度は、上面に接する層の濃度と同等もしくは高い範囲に設定したり、また、下面に接する層の濃度と同等もしくは低い範囲に設定したりすることで、電流を円滑に流すことが可能となる。
例えば、光吸収層(3、4)の層厚が1.5μm以下の場合は、光吸収層(3、4)の最下部と、光吸収層(3、4)の最上部から1.5μm下側に位置する点と、の間に、結晶品質回復層(32)を配置するように構成することで効果を発揮することになる。
例えば、光吸収層(3、4)を、組成:InGaAs,層厚:d=1.2μmとし、電流分散型p型バッファ層(31)の層厚:d=0.5μm以上とした場合には、電流分散型p型バッファ層(31)の最上部をA、電流分散型p型バッファ層(31)の最上部Aから0.3μmInP半導体基板(1)側に位置する点をBとすると、AとBとの間に結晶品質回復層(32)を配置するように構成することが望ましいことになる。
また、光吸収層(3、4)の層厚:d=1.5μm以上の場合には、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(32)を配置するか、もしくは、光吸収層(3、4)の最下端に配置することが望ましい。
なお、光吸収層(3、4)の内部に、結晶品質回復層(32)を配置した場合には、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量が大きい場合が多く、キャリアの走行を妨げることになるので、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造を結晶品質回復層(32)の上下に配置するのが効果的である。これにより、キャリアの走行を阻害することを回避することが可能となる。なお、ΔEvやΔEcといったバンド不連続量を緩和するための層構造としては、電子の伝導帯と価電子帯とのそれぞれが、InGaAs,InPにあるような材料を適用して構成することになる。例えば、バンドギャップエネルギー:Egが光の波長換算で1.3μm組成の4元層(InAlGaAs,InGaAsP)を適用したり、また、InGaAsとInPとの間に1.5μmと1.3μmと1.1μm組成の材料を連続して形成するなどしたりすることで、ΔEc、ΔEvを効果的に緩和させることが可能となる。
また、結晶品質回復層(32)からInP半導体基板(1)側の層厚が、1.5μm以下となるように構成することで、結晶品質の劣化を回避することが可能となる。
(第2の実施形態の第1の実施例)
次に、図3を参照しながら、第2実施形態の半導体受光素子の第1の構成について説明する。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図3に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、電流分散型p型バッファ層(31)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはAR(Anti Reflection)コートを施すことになる。
なお、p−InPバッファ層(2)は、層厚:d=0.5μm,p濃度:Nd=5.0×1017cm-3で構成される。
また、電流分散型p型バッファ層(31)は、濃度勾配層として、組成:InAlGaAs,層厚:d=1μm,バンドギャップエネルギー:Eg=光の波長でエネルギーに換算して、λ=1.1μm相当,濃度勾配層の最下面のp濃度:Na=1×1018cm-3とし、素子の受光径が30μm、分離溝の半径方向の距離G1=5μmとすると、L0=15+5=20μmで構成される。
なお、受光部端で受光した光キャリアに効果があるように設定するためには、R1(G1)=G1/(G1+2d)=5/(5+2)=0.714となり、濃度勾配層の最上面のp濃度:Nb=7.1×1017cm-3となるように設定することが効果的である。
第2の実施形態における半導体受光素子は、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、電流分散型p型バッファ層(31)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流集中が発生し難くなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を形成することが可能となる。
(第2の実施の形態の第2の実施例)
次に、図6を参照しながら、第2実施形態の半導体受光素子の第2の構成について説明する。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図6に示すように、InP半導体基板(1)上に、p−InPバッファ層(2)、電流分散型p型バッファ層(31)、結晶品質回復層(32)、p型光吸収層(3)、i型光吸収層(4)、電界緩和層(5)、増倍層(6)、エッチングストップ層(7)、n型バッファ層(8)、n型コンタクト層(9)を順に積層し、受光部の周辺において、n型コンタクト層(9)と、n型バッファ層(8)と、をエッチングストップ層(7)に達するまで除去し、Tiイオンを注入し、ガードリング(11)を形成する。そして、誘電体膜を形成したのち、ガードリング(11)の周辺部に対し、Zn拡散を行い、Zn拡散層(10)を形成し、その形成したZn拡散層(10)の上部に対し、p型電極(13)を形成し、n型コンタクト層(9)の上部に対し、n型電極(12)を形成する。なお、InP半導体基板(1)の下部の入射面にはAR(Anti Reflection)コートを施すことになる。
なお、P−InPバッファ層(2)は、層厚:d=0.5μm,p濃度:Nd=5.0×1017cm-3で構成される。
また、電流分散型p型バッファ層(31)は、濃度勾配層として、組成:InAlGaAs,層厚:d=1μm,濃度勾配層の最下面のp濃度:Na=1×1018cm-3とし、素子の受光径が30μm、分離溝の半径方向の距離G1=5μmとすると、L0=15+5=20μmで構成される。
なお、受光部周辺からの距離1μm付近で同様の効果を発揮するようにする場合には、R1(5+1)=6/(6+2)=0.75となることから、Nb=7.5×1017cm-3の濃度に設定することになる。
結晶品質回復層(32)は、組成:InP,層厚:d=50nm,濃度:Nb=5×1017cm-3で構成される。
光吸収層(3、4)は、組成:InGaAs,層厚:1.5μmで構成される。
第2の実施形態における半導体受光素子は、図6に示すように、化合物半導体基板となるInP半導体基板(1)上に対し、電流分散型p型バッファ層(31)を設けたことで、p型光吸収層(3)で達した光キャリアに対応した電流集中が発生し難くなり、増倍率Mが小さい条件で、10mW程度の光入力にも初期特性が劣化しない素子を形成することが可能となる。
また、第2の実施形態における半導体受光素子は、結晶品質回復層(32)を設けたことで、暗電流の低く、感度の高い素子をウエハー面内に渡って歩留まり良く形成することが可能となる。
なお、上述する実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
従来の半導体受光素子の構成を示す図である。
第1の実施形態の半導体受光素子の第1の構成を示す図である。
第2の実施形態の半導体受光素子の第1の構成を示す図である。
第1の実施形態の半導体受光素子の第2の構成を示す図である。
第2の実施形態の半導体受光素子における電流分散機能を説明するための図である。
第2の実施形態の半導体受光素子の第2の構成を示す図である。
符号の説明
1 InP半導体基板
2 p−InPバッファ層
3 p型光吸収層
4 i型光吸収層
5 電界緩和層
6 増倍層
7 エッチングストップ層
8 n型バッファ層
9 n型コンタクト層
10 Zn拡散層
11 ガードリング
12 n型電極
13 p型電極
21 p型4元バッファ層(4元バッファ層)
22 結晶品質回復層
31 電流分散型p型バッファ層(電流分散層)
32 結晶品質回復層