JPH05171427A - プラズマ強化装置と電気アーク蒸着法 - Google Patents

プラズマ強化装置と電気アーク蒸着法

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JPH05171427A JP12962892A JP12962892A JPH05171427A JP H05171427 A JPH05171427 A JP H05171427A JP 12962892 A JP12962892 A JP 12962892A JP 12962892 A JP12962892 A JP 12962892A JP H05171427 A JPH05171427 A JP H05171427A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 電気アーク蒸着用のプラズマ強化法とその装
置を提供すること。 【構成】 プラズマ強化装置は、プラズマがコーティン
グされる基板26に達する前にプラズマ源から生じるプ
ラズマ40と作用するように位置される。プラズマ強化
装置は磁石を有するが、この磁石は磁石軸線のまわりに
配置されて、第1開口を画定する。さらに、コア部材6
0を有し、これはコア部材の軸線のまわりに配置され
て、少なくともその一部が第1開口内に入っている。コ
ア部材60は第2開口を形成する。プラズマ強化装置
は、陰極源から蒸発した物質は陰極源から第2開口に入
り、この陰極源物質15でコーティングされる基板26
に向かってゆくような形態をもって、配設されている。
出来れば、プラズマは、プラズマ強化装置を通過するよ
うになされる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、蒸着装置、とくに物理
的蒸着を行うためのプラズマ強化(Enhance)装置、つま
り「プラズマガイド」に関する。
【0002】
【従来の技術】Snaperの米国特許No.3,625,848、Sablev
e 他1名の米国特許No.3,793,179、Bergman 他1名の米
国特許No.4,448,799、Brandolfの米国特許No.4,485,759
は、それぞれの開示の限りでは、本発明の原理を理解す
るのに役立つ。これらの米国特許は、以下において引用
されている。
【0003】蒸着チャンバ内の基板表面にコーティング
層を付着つまり蒸着させるための蒸着技術は長年にわた
っていくつかの改良がなされて来た。プロセスの実行方
法は多くの点で改良されては来ているが、蒸着における
基本的な部分については同様である。通常、コーティン
グされる基板は蒸着チャンバに入れられ、このチャンバ
は典型的には希望の圧力にまで減圧あるいは加圧され
る。基板に蒸着されるコーティング物質はチャンバ内で
造られるか、あるいはチャンバに導入される。プラズマ
の形態については、これはガス状蒸気と固形粒子を含む
ものとみなされている。プラズマはコーティング物質の
原子、分子、イオンおよび分子群と共に、所望の反応剤
と望ましくない不純物の原子、分子、イオンおよび分子
群を含むと考えられる。コーティングプロセスつまり蒸
着工程それ自体は、コーティングされる基板表面にプラ
ズマコーティング粒子を凝縮させることによって行われ
る。
【0004】一般的に、蒸着によるコーティングプロセ
スは化学的なものと物理的なものに分類される。通常、
両方のプロセスは蒸着箱つまりコーティングチャンバを
利用するが、このチャンバ内においてコーティング物質
の「プラズマ」が作られ、基板に向けて射出され、基板
に蒸着される。基板に付着するコーティングの用途と、
基板の形状、材質は種々様々である。つまり、セラミッ
クや陶器材料に対する装飾コーティングから、半導体チ
ップの表面における回路形成用および切削工具や軸受け
表面に形成する耐摩耗コーティングまである。同様に、
コーティング物質の物理的特性と性状も、導電コーティ
ングから、半導体コーティングおよび電気絶縁体まで巾
広く変動する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
化学蒸着法 一般的に、化学蒸着というと、ガス状の反応物質(reac
tive gaseous elements)が蒸着チャンバに導入されて
反応し、コーティング用のプラズマをなす気体化合物発
生させる方法を指す。この場合の蒸着チャンバは、蒸着
工程の開始前に減圧されて、不純物が追い出される。し
かし、通常は、化学蒸着は大気圧あるいは正圧(大気圧
以上)で行われる。また、典型的な化学蒸着法によれ
ば、プラズマ粒子は一般的に、反応源から基板まで直線
あるいは見通せるライン上を飛ぶわけではない。
【0006】物理蒸着法 これに対し、物理蒸着法は一般的に、蒸着チャンバを事
前に真空にしておき、蒸着プロセスの工程中において
は、負圧を維持する必要がある。通常、蒸着されるコー
ティング物質の少なくとも一部は、非気体状で蒸着チャ
ンバ内に存在する。このチャンバを真空にする前に、通
常は固体状源物質はエネルギ刺激によって、固体源物質
からコーティング物質の蒸気状プラズマに変換される。
コーティング源物質は一度プラズマに変換されてしまう
と、チャンバ内の反応ガスあるいは他の元素と結合して
コーティング用組成物と粒子を形成し、その後、これら
は基板に蒸着される。典型的には、コーティングプラズ
マは、原子、分子、イオン、イオン化分子、および分子
群を含む。蒸着プロセスはプラズマ粒子と基板表面との
間のイオン吸着を行わせることにより強化できる。
【0007】物理蒸着法にはいろいろな種類があるが、
その分け方は源物質を蒸発させる方法によって決まる。
固形のコーティング源物質を気体/蒸気プラズマに変換
するのに最も頻繁に用いられる物理蒸着法は、(a)抵
抗つまり誘導加熱、(2)電子ビームつまりイオンボン
バードメント、および(3)電気アークである。抵抗お
よび誘導加熱法を用いると、コーティング源物質は外部
熱源を用いて、あるいは高電流をコーティング源物質に
流すことにより融点にまで加熱される。源物質、あるい
はその一部は先ず溶液状態になり、ついで気体になりコ
ーティングプラズマを形成する。この技法は、ハイブリ
ッド回路基板に薄膜のパターンを蒸着し、半導体チップ
表面に連結パターンや層を形成するのに用いられて来
た。電子ビームとイオンボンバードメント法の場合、高
エネルギの電子および(あるいは)イオンビームを固形
のコーティング源物質に打ちつけることによって、源物
質の溶融池ができる、かような方法の場合、固形源物質
は通常、「ターゲット」と呼ばれるが、このターゲット
に向けて電子および(あるいは)イオンが加速される。
電子および(あるいは)イオンを打ちつけることによ
り、十分な運動エネルギがターゲットの源物質に与えら
れ、原子、イオン、分子、イオン化分子そして分子群
が、コーティングプラズマの形態でターゲットの源分子
から離脱する。この物理蒸着法は切前具のような大型の
工具をコーティングするための抵抗誘導加熱法より実際
的であるが、ターゲット領域に向けて電子ビームおよび
(あるいは)イオンビームを流すのに必要な装置は高価
である。上述の2種の物理蒸着法によって得られるコー
ティング用プラズマ分子のエネルギレベルは、比較的低
い。
【0008】電気アークによる物理蒸着 本発明は、3番目に挙げた物理蒸着法に関するものであ
る。つまり、陰極アーク蒸着とも呼ばれる、電気アーク
による物理蒸着法に関する。各種の電気アーク蒸着法
が、次の米国特許公報に開示されている。Snaper USP N
o.3,625,848 、Sableve 外1名の USP No.3,793,179 、
Bergman 外1名の USP No.4,448,799 、およびBrandolf
の USP No.4,485,759 。
【0009】電気アーク式物理蒸着法の場合電気アーク
が、典型的に陰極として機能するように電気バイアスさ
れているコーティング源物質と、この陰極から離隔する
陽極との間にとばされ、保持される。アークによって始
動されるドリガ物質が、陰極源の近くに配置され、陰極
に対して正バイアスされる。トリガ物質(element)は
瞬間的に陰極物質の表面と結合可能となり、かくてトリ
ガ物質と陰極の間に電流経路が形成される。トリガ物質
が陰極源物質から離されると、電気アークが飛び、その
後陰極とチャンバの陽極との間に維持される。この電気
アークは高電流、つまり典型的には30から数百アンペ
アのレベルをもち、コーティング源物質を蒸発させるエ
ネルギが得られる。アーク終端は陰極表面に見ることが
できるが、アークはこの場所で陰極と接触する。これは
通常、「陰極スポット」と呼ばれる。1つあるいはそれ
以上の陰極スポットが、同時に陰極表面に存在すること
がある。その個数は、アーク電流によって決まる。この
陰極スポットは源物質の表面を横切ってランダムに動
き、コーティング源物質をコーティングプラズマに瞬間
的に蒸発させる。通常、プラズマは原子、分子、イオ
ン、分子群を含んでおり、イオン化された中性分子を含
むこともある。電気アークによって形成されたプラズマ
粒子は一般的に、他の物理蒸着法によって得られる場合
により十分高いエネルギレベルで、固形源物質からはな
れる。この電気アーク法は、コーティング用途とくに、
切削具、軸受、歯車などの表面に耐摩耗コーティングを
経済的に形成するのに便利であることが判明している。
【0010】電気アーク式蒸着装置の陰極に対してしば
しば用いられるコーティング源物質に、チタンTiがあ
る。チタン源物質を用いる場合、窒素Nのような反応ガ
スがしばしば、チタン源物質の蒸発中に蒸着チャンバ内
に導入される。窒素ガスはチタンと反応し、チャンバ内
のコーティングプラズマはTi,N2 ,TiNを含む。
TiNは、金色のコーティングを形成するが、これは切
削具などに高い耐久性のコーティングとなることが判明
している。
【0011】他の望ましい陰極物質は黒鉛であって、こ
れは炭素Cプラズマを生じ、蒸着されるとダイアモンド
形のコーティングを形成する。化学蒸着法は、かような
ダイアモンド形コーティングを作るのに用いられるが、
このシステム内に存在する水素Hは注意深くコントロー
ルして、コーティング膜の構造内の望ましくない炭化水
素の形成を排除あるいは最小にする必要がある。電気ア
ーク式蒸着法の場合、システム全体を真空にし、実質的
に無水素状態にし、制御された圧力による水素がシステ
ム内に射出される。しかし、この電気アーク式物理蒸着
法によって均質で滑らかな炭素コーティングを形成する
ことは比較的むずかしい。というのは、電気アークが炭
素陰極の定点に固定されて、望ましくない大粒子(マク
ロ粒子)の炭素陰極がコーティングプラズマ内に離脱し
てしまうというからである。
【0012】すべての蒸着コーティング法において、コ
ーティング品質を劣化させるような大粒子が含まれてな
い、滑らかで、均質の膜を基板に形成することが望まし
い。このような目標を電気アーク式蒸着法で達成するこ
とは、他の物理蒸着法の場合よりむずかしい。というの
は、アークに用いられる高エネルギレベルの入射をコン
トロールすることが困難であり、蒸着チャンバ内にアー
クエネルギを存在させると、装置と工程を他の物理蒸着
法に利用できなくなり、利用できたとしても効率が低下
するからである。大粒子を「シールド」する試みがなさ
れて来たが、かようなシールド法はあまり効果がない。
コーティング物質の一部がシールドに入ってしまい、さ
らにこのシールドはコーティング物質が沈積された段階
で定期交換しなければならないからである。
【0013】当業者は、陰極源の表面上におけるアーク
および陰極スポットの動きをコントロールして、陰極の
分解効率を最大にし、陰極源から生じるプラズマの均質
性を高める必要性に気づいている。陰極源の望ましい蒸
発表面上に陰極スポットを維持し、蒸発表面上の陰極ス
ポットの運動パターンをコントロールするのに、磁界と
電界が用いられることに当業者は気づいている。さら
に、電界と磁界は、(1)コーティングプラズマ、とく
にイオン化プラズマをコーティングされる基板に向け、
(2)高レベルの蒸気イオン化を達成し、(3)蒸着速
度を向上させる、のに有効であることが物理蒸着業界で
は分かっている。しかし、従来技術によるいずれの装置
と方法も、磁界と電界を用いた電気アーク式物理蒸着環
境における上記特長のすべてを得られるようなものでな
く、単独で、簡単且つ効果的そして実際的なものではな
かった。さらに、いずれの従来技術も、チタンや炭素の
ような異なる蒸着環境と条件を必要とする異なる陰極源
物質に容易に適用できるような柔軟性をもっていない。
本発明は、上述のニーズと問題を同時にかつ確実に解決
する簡単かつ効果的な、電子アーク式物理蒸着法を提供
する。
【0014】
【課題が解決するための手段】本発明は、電気アーク式
蒸着のためのプラズマ強化法と装置を提供する。このプ
ラズマ強化装置は、プラズマによってコーティングされ
る基板にプラズマが達する前に、プラズマ源から生じる
プラズマに作用するように定置される。プラズマ強化装
置は、磁軸のまわりに配置されて第1開口を画定する磁
石と、コア部材の軸線のまわりに配置され少なくともそ
の一部が第1開口内に入っているコア部材とを含む。コ
ア部材は第2開口を画定し、プラズマ強化装置は、蒸発
した陰極源物質が第2開口を経て、蒸発陰極源物質がコ
ーティングされる基板に向けて流れるように構成されて
いる。望ましくは、プラズマはプラズマ強化装置を経て
流れるようになされている。
【0015】本発明は、蒸着チャンバ内および(あるい
は)そのまわりでプラズマ強化装置によって形成された
電界と磁界を組合わせて利用し、陰極源から基板までの
コーティングプラズマの発生と流れを直接的にコントロ
ールするものである。本発明の主たる目的は、(1)陰
極におけるイオン濃度を向上させて熱電子放射を増大さ
せ、(2)陰極表面におけるアークを比較的低電流で安
定させ、(3)今までむずかしかった物質、たとえば炭
素、高融点金属、ドープセラミックスの蒸発を助長し、
(4)陰極から大粒子放射を減少させることにある。さ
らに本発明は、実質的に水素を含まないダイアモンド状
膜を基板上に電気アークで蒸着させるコーティング法を
提供する。
【0016】本発明は、源物質と基板との間にコントロ
ール可能なプラズマ集束ゾーンを形成して、大粒子のプ
ラズマ流を除去し、このプラズマ流内のイオン化エネル
ギを増加させ、密度が高く硬度も高く、そして接合力が
大きなコーティング膜を形成し、蒸着中の反応作用を強
化するものである。本発明はまた、プラズマ流の形状と
方向のコントロールにおける柔軟性を高めて、基板に対
する望ましい蒸着形態により正確に対応できるものであ
る。
【0017】
【実施例】図1は、本発明が用いられうる電気アーク式
蒸着システムの全体を示す概略図である。いうまでもな
く図1は、かようなシステムを略図的に示すだけであっ
て、本発明の説明に用いるための電気アーク式真空蒸着
システムの基本部分のみを示す。電気アーク式蒸着シス
テムとそれの細部のくわしい説明は、Sableve 他1名の
米国特許No.3,793,179、Brandolfの米国特許No.4,485,7
59、Bergman 他1名の米国特許No.4,448,799、およびSn
aperの米国特許No.3,625,848に書かれている。本発明を
理解するのに必要な範囲内において、上記各特許の開示
と説明を以下において引用している。
【0018】図1において、10は真空蒸着チャンバを
示し、これは第1壁チャンバ部分10a と第2壁チャン
バ部分10b を有する。両部分は適当な方法(図示せ
ず)で一体的に連結され、閉鎖された内部空間11を形
成する。この空間が蒸着チャンバを画定し、このチャン
バ内において基板にコーティングがなされる。12で略
示する真空引きシステムは内部空間11と出口11a を
経て連通し、当業者によく知られているようにチャンバ
は適宜真空になされる。蒸着工程のいろいろな段階にお
いて反応ガスあるいは不活性ガスを内部空間11に挿入
するための適当な手段は、全体を13で示され、入口1
1b を経て内側空間11と連通する。ここには図示も説
明もしてないが、内部空間11に開口する他の形式の入
口と出口を設けてもよい。
【0019】図1において「陰極」と呼ばれるコーティ
ング物質源15は、蒸着コーティングプロセスのための
コーティング蒸気つまり「プラズマ」の素となり、且つ
アーク発生装置の電極のひとつである。電気アーク式蒸
着システムにおけるコーティング物質の源は、固体のチ
タンのような、物理的な質量を一般的に示す。源物質の
形状は、例えば円筒形、矩形、不整形などに変えてもよ
い。源物質の種類もまた、導電体、半導体、絶縁物など
大巾に変え得る。本発明の好適具体例においては、この
源物質はチタンである。チタン源15は、図1において
16で全体が示される適当な取付手段により蒸着空間1
1内におかれる。この取付手段16の少なくとも一部は
チャンバ壁を貫いて大気に突出している。図1における
取付手段16は第2チャンバ壁部分10b を貫通して突
出している。電気アーク式蒸着プロセス中に陰極を通る
電流は高レベルにあるので、陰極は極めて高温になり、
通常は外部から冷やす必要がある。かような冷却は、図
1における略図で示す水貫流システム17で通常は行わ
れる。このシステムは、流路18を経て、陰極取付装置
16と連通している。全体を19で示す適当な真空シー
ルと電気的隔絶手段があるので、蒸着空間11内の真空
が保持され、陰極源15は蒸着チャンバ壁部10a と1
0b から電気的に絶縁される。
【0020】このシステムの電気アークエネルギを発生
させ維持させるための、図1で「陰極パワー」と示され
る主DC電源は20で示される。電源20の負端子は、
信号流路21によって陰極取付手段16を経て陰極15
に電気接続される。電源20の正端子は、信号流路22
によって壁チャンバ部分10a に直結される。
【0021】チャンバ11内のコーティングされる物体
は、通常基板と呼ばれ、全体は図1において26で示さ
れる。基板はチャンバ内に適宜担持され、基板バイアス
供給機能ブロック27と信号流路28とによって略示さ
れるように、電気バイアスをかけられることもある。基
板26はまた、適当な加熱手段(図示せず)によって加
熱してもよい。いうまでもなく、図1において陰極、陽
極、および基板などのコンポーネント間に図示される相
対間隔は、略図的なものであって、実際のシステムにお
ける実寸法を表すものではない。
【0022】アーク生成トリガ組立体は30で略示され
る。このトリガ組立体は任意の適当な構造のものでよ
い。たとえば、米国特許No.4,448,799に開示される空気
作動トリガ装置、あるいはその他、陰極15と壁チャン
バ部分10a との間にアークをとばす機構が採用でき
る。陰極表面15a にアークを生成するための電力は、
通常は抵抗32と信号流路33を通って、電源20の出
力端子からトリガに供給される。信号流路33は全体を
34で示す絶縁シール部材を介してチャンバ壁10b を
貫通している。アーク生成ワイヤ部材が陰極15の上表
面15a に係合するとき、電源20の正出力端子から、
抵抗32、信号流路33、アークトリガワイヤ30a 、
陰極15、陰極取付手段16を経て、電源20の負出力
端子に戻る電気閉回路が形成される。トリガ30が機能
して、ワイヤ部材を上昇させ陰極源15の上表面15b
とはなすと、上記ワイヤと陰極表面15a との間の電気
回路は開かれ、電気アークが両者間のギャップをジャン
プし、陰極表面15a に電気アークが発生する。排気さ
れたチャンバ11内の電気アークは発生するとすぐ源1
5とチャンバの陽極部との間に飛び、その後電源20に
よって維持される。いうまでもなく、トリガ組立体30
への電気供給法は当業者が知るようにどんな方法でもよ
く、図1はその概念を示すにすぎない。
【0023】上述した電気アーク経路には、通常30A
以上の高電流が流される。アークに高エネルギ電流が流
れていることは、陰極表面15a に明るい輝点ができる
ので分る。このとき、陰極物質は、図1において全体を
40で示すコーティング蒸気つまりプラズマを形成す
る。陰極表面から解放された物質は通常、陰極源表面1
5a から外向きに放出される。基板26は、当業者には
周知のようにコーティング蒸気40を遮断して、適宜取
付けられ(あるいは)バイアスされ、これにより基板2
6はコーティングされる。
【0024】プラズマ強化装置 本発明は、チタン陰極15と基板26との間に設けられ
た空間11を有するプラズマ強化装置50(ここではプ
ラズマガイドとも呼ばれる)を提供する。当業者は公知
のように、プラズマ強化装置50は、プラズマガイド5
0が陰極から離脱するプラズマに作用するように位置す
る限り、空間11内にすっぽり入っている必要はない。
この点について、プラズマ強化装置それ自体は、空間包
囲体の一部として機能する。
【0025】図2に示されるように、プラズマ強化装置
50の好適具体例は、共に鋼製ケーシング53内に収容
された磁気コイル51と冷却ジャケット52を含む。磁
気コイル51は、それぞれ絶縁ポート59a と59b を
経て信号流路58a と58bにより、全体を「磁力と呼
ばれる電源57に作用連結される。磁力57が作動する
と、電流は磁気コイル51を流れ、後述するように電界
と磁界を発生させる。
【0026】冷却ジャケット52は含まれる方が好まし
いが、本発明は必ずしもそれに限定されるものではな
い。冷却ジャケット52が設けられる場合、それは、冷
媒流路58を経て適当な冷却手段57に作用的に連結さ
れる。この流路58は図1に示すようにチャンバ壁10
a 内の絶縁ポート59を貫通している。プラズマ強化装
置のための冷媒は陰極については水が望ましい。
【0027】本発明の好適具体例において、ケーシング
53とその内容物、すなわち磁気コイル51と冷却ジャ
ケット52の形状は、陰極軸線と大体において同軸関係
にある円筒シェル状であって、図12と図2に示すよう
なコイル内径R2 を有する。けれども、本発明は如何な
る特定形状のプラズマ強化装置によっても、および採用
される形状の種類の特定数によっても限定されるもので
はない。
【0028】さらにプラズマガイド50の有するコア部
材60のコア外径はR2であって、コイル内径R2のケ
ーシング53内に入る。コア部材60は、半径25.4
mmの開口64を画定し、この開口64を通ってプラズ
マ40の大部分が進む。このコア部材は、用途に応じて
各種の材質、磁性および非磁性材料から作れる。プラズ
マガイド50の好ましい軸方向厚さは75.0mmであ
る。繰り返すと、当事者には明らかなように、本発明は
丸穴を画定する丸コアに限定されるわけではなく、各種
形状でもよく、特定用途に望ましいものなら如何なる形
態でもよい。
【0029】好適具体例によると、コア部材60は、軸
方向厚さが約40mmの第1円筒シェル61と、厚さが
約28mmの第2円筒シェル62とを有する。これらの
第1および第2円筒シェル61と62は、セラミックス
ペーサ(図示せず)によって離脱され、協働して、円筒
シェル空間63を画定する。両者間の軸方向厚さは、約
7mmである。この好適具体例におけるコア60は、シ
ェル61と62およびスペーサ(図示せず)を含んで、
摩擦ハメコミにより磁気コイル51に取り付けられる。
当業者に明らかなように、上記機能をもっていればどん
な種類のものでもよい。コイルの内径は、コアの外径よ
り大きくしてもよい。
【0030】当業者に明らかなように、本発明は、電子
磁石51の代わりに、永久磁石を採用してもよい。事
実、永久磁石は最適磁界強度が特定できる限り採用でき
る。つまり、永久磁石を採用することにより、コントロ
ールを必要とするプロセスからパタメータを除くことが
出来る。コア形状の永久磁石は電子磁石とコアの代わり
に用いられる。
【0031】70アンペアに達する電流が磁気コイルを
貫流すると、磁気コイルの軸線上で計測して1500ガ
ウスの最大磁界強度が発生する。得られる磁界は図3に
示されているが、放出される正味のプラズマ流40は図
2に示される。プラズマ40は、「焦点ゾーン」44に
集束されるが、これは空間63で境界付けされ、プラズ
マ強化装置50の軸線に沿って伸びる。プラズマ流40
の集束つまり焦点合せの効果は、くわしくは後述する。
【0032】第1コアとチタン陰極についての実験結果 窒素雰囲気中でチタン陰極を用いた場合、上記好適具体
例によって形成された装置(図2を示す)は、ラングミ
ューア探針実験システム内で機能した。基板は、チタン
陰極の面に対して同軸配置され、375mm離された。
直径12.7mmの基板は、セラミック取付具内におか
れた。11.87mmの穴をもつ厚さ1.2mmの接地
シールドが、基板の前1.0mmの箇所に置かれた。
【0033】プラズマ反射は、陰極の前375mmの箇
所で対称軸と交差するように設けられた観察管を用いて
モニタされる。プラズマ放射からの光は、石英窓、石英
光ファイバケーブルを経て、0.5mエバート形ジャレ
ル・アンュ走査モノクロメータの入力スリットに伝達さ
れる。モノクロメータは、230〜290nmの範囲で
0.1nm以下の分解能をもち、角度4°までに有効で
ある。基板に対する蒸着速度は、20mgの繰り返し性
をもって微量天秤を用いて測定された表面の平均粗さあ
デクタック輪郭メータで計測された。
【0034】最初、電流は、890ガウスの磁界強度、
20mトールの窒素圧力、40Aの陰極電流、−80ボ
ルトの基板バイアスを生成するように決められた、従来
法によるアーク実験のため、プラズマガイドが除かれ、
陰極と基板までの距離は300mmであった(これは、
プラズマガイド50の長さと同じである)。
【0035】基板電流は、この基板に印加された電圧の
関数、および磁界強度の関数として決められたが、その
結果を図6に示す。同様の条件下の従来のアーク電圧・
電流曲線もまた参考のために示されている。図6におい
て、負電圧によって集められた正イオンは、正電流とし
て示され、正電圧によって集められた電子は、負電流と
して示される。いうまでもなく、正イオン電流は負電圧
で飽和する。飽和したイオン電流は、電界強度が約89
0ガウスになるまで殆ど直線的に増えていく。890ガ
ウス以上になると、飽和イオン電流は大体一定となる。
当業者には明らかなように、図6の実験結果によりプラ
ズマ強化装置を採用することでプラズマはより多く、よ
り高エネルギレベルで発生する。この点については後述
する。
【0036】負バイアスで集められた飽和電流は主とし
て、プラズマを基板からはなすシースに入る窒素イオン
とチタンの束によって生じる。プラズマ光システムに磁
界を用いることにより、当業者ではすでに知られている
ように、イオン束レベルにすばらしい効果が現れる。イ
オン束の増加は、電子衝撃イオン化現象によるイオンの
生成とプラズマ焦点合せの結果である。磁界において電
子が凝集し、且つ運動しているので、電子衝突の可能性
が増大する。当業者には明らかなように、電子粒の非弾
性的衝突の可能性は磁界強度の2乗に比例する。もしこ
れらの衝突のエネルギが十分であると、電子流の励起と
分離、そしてイオン化がなされる。
【0037】電子エネルギは、公知の計算法によって、
イオン飽和前の負電位領域における正電流から計算で
き、電子温度は、下の表Aに示される。 表A 磁界 kTe Vf ガウス (eV) (X1010ncm-3 ) (V) 0 2.5 ±1.5 1.0 ±0.4 335 6.0 ±1.5 .80 ±.15 5.8 ±0.4 670 10.0 ±1.5 1.01 ±.26 8.9 ±0.4 890 12.0 ±1.5 1.48 ±.32 5.5 ±0.4 1450 25.0 ±2.0 1.66 ±.32 2.5 ±0.4
【0038】上の結果から、電子温度は、1450ガウ
スにおける最大25eVまで磁気強度と殆ど直線的に上
昇することが分かる。下の表Bは、この実験におけるプ
ラズマ種のイオン化と分離スレッショルドエネルギを示
す。 表B 種 イオン化スレッショルド(eV) N2 15.6 Ti 6.8 N 14.6 分離エネルギ N 9.9
【0039】これらの結果から、磁界強度が強いときの
電子は、エネルギが十分大きいので他の種を分離し、イ
オン化することが分る。ここにおいて計算される電子温
度は、基板に対して垂直に移動する基板の周辺における
電子のものである。プラズマガイド内で陰極により近い
電子は、より高い温度をもつ。これは、この領域から出
るプラズマ放射の強度から分る。
【0040】表Aはまた、磁界強度の関数としての浮動
電位Vfと、プラズマ濃度nとを示す。このプラズマ濃
度は、電子温度KTe、飽和イオン電流、各イオンの平
均電荷から計算された。浮動電位は直接測定され、プラ
ズマ電位の概算値は、当事者に明らかなように、負電流
曲線の飽和点から算出する。放射スペクトルは、波長範
囲230〜900nmにわたってプラズマ内に存在する
種を検知し、特定するのに用いられる。特定波長の光強
度は、特定の電子あるいはイオンの存在と強度を正確に
示す。プラズマ放射は、ラングミュワ探針がなくとも、
同じ距離でモニタされた。測定は、磁界強度および窒素
圧力の関数として行われた。図7に示される結果から、
イオン化され励起されたチタンと、イオン化され励起さ
れた分子と電子窒素がかなりの量存在することが分る。
これは、従来のアーク方法、つまり分子窒素の放射強度
が比較的低く、原子窒素放射は全く存在してない場合と
大きく異なる。
【0041】崩壊するTi,Ti+ ,N2 ,N2 +
N,N+ 種からの放射が認められた。Ti2+ およびN
2+ 線からの放射は特定されなかった。図7は、放射強
度の変動を示すが、磁界強度はTi,Ti+ ,N2 ,N
2 + ,N,N+ 線に対して最大であった。すべての線
は、磁界強度の影響を強くうけた。図7から分るよう
に、窒素種の放射強度と磁界強度との間の関係はとくに
大きい。磁界強度に対して一次関数式に近い関係で増大
するN2 ,N2 + ,N,N+ 放射が存在するので窒素の
衝撃励起、分離、イオン化が発生する。これら放射に対
する励起スレッショルドはそれぞれ11.1,18.
7,12.0,20.7eVである。電子温度の推定
は、ラングミュア探針実験で行われるが、この結果でこ
れらの励起スレショルドを電子温度がこえたことが分
る。
【0042】N2 ,N2 + ,N,N+を含むすべての窒
素放射は、900〜1200ガウスの磁界強度範囲にピ
ークをもつ。N2 放射強度の急激な低下とN2 + 放射強
度の飽和は、N2 が殆ど完全に分離しイオン化すること
の結果であることが多い。これらの放射の特徴はまた、
同じ条件においてタングミューア探針実験について述べ
たイオンの挙動と電子飽和電流とも関連する。飽和電流
は増大する磁界強度に対して一次関数的に増加し、90
0〜1200ガウスの同じ磁界強度範囲においてピーク
が来る。
【0043】Ti+ ,Ti放射線は図7の示すように、
335ガウスまで急速に増大し、その後放射は平らにな
る。0から335ガウスまで、チタン放射は殆ど直線的
に増加するが、これはプラズマ集光と電子衝撃イオン化
現象によるものである。チタン放射線は335ガウスに
おいて急に飽和するが、これは、チタンのイオン化スレ
ッショルドに近い約6eV(前に述べた実験結果参照)
の電子温度と関連する。チタン放射線の急激な飽和はチ
タンの完全なイオン化の結果と思われる。強度が低い場
合のイオン化チタン放射線の挙動と似ている励起チタン
放射線の存在は、後述の3個体電子再コンビネーション
に多分にその理由がある。
【0044】図8は、図7に示す場合と同じ放射線に対
して一定の磁界強度、890ガウスにおける窒素圧力と
放射強度の変動を示す。このグラフの特徴は、従来のア
ーク(磁界強度は0)によってえられる特徴と似てい
る。最も顕著な差異は、窒素放射線の強度が大きい点で
ある。0から15mトールまでの間、窒素とチタンの放
射が増大するが、この結果、Tin+,N2 ・Ti(n-1)+
・N2 型の電荷交換反応に貢献する。
【0045】いうまでもなく、15mトール以上におけ
るN2 放射の強度の急激な現象が起こる原因は、Ti2+
種の初期高エネルギが窒素との衝突時に失われて、こ
の反応に必要な分、つまりスレッショルドエネルギは1
4.0eV以下に低下するからである。Ti+ からTi
への反応は、32.3eVという極めて高いイオンスレ
ッショルドエネルギを必要とするため起こりえない。
【0046】15mトール以上の範囲においては、Ti
+とTiの放射の挙動は、3個体反応Tin++e=N2
→Ti(n-1)++N2 に貢献する。この反応の実現性は、
窒素の凝集が上昇するにつれて向上する。これは図8に
おいて、Ti+の低下、Ti放射の上昇、両種の40m
トール以上における低下によって示される。
【0047】これらの結果と観察により、強化されたア
ーク装置の磁界において電子粒が衝突すると、チタンと
窒素のかなりの励起、分離、イオン化が生成することが
分かる。非弾性の電子粒衝突に加えて、従来のアークに
典型的な電荷変換と3個体反応がさらに発生する。ラン
グミューア探針と放射スペクトルから得られた結果、お
よびそれの論理的解釈に基づくと、窒素イオン対チタン
イオンの数密度と、基板に対するイオン束と窒素イオン
の最終的貢献は大きなものであることが判明する。これ
は、基板上の電流に対する窒素イオンの貢献が極めて少
ない従来のアーク法と好対照をなす。
【0048】最後に、ここにおいて研究されたN2 +
2 ,Ti+,Ti線の放射強度を直接比較すると、従
来のアークシステムにおける放射はそれぞれ、同一の比
較条件下で、強化アークシステムにおける放射のわずか
2,3,1,3,25,11%であることが分かった。
これは、チタンと窒素の励起とイオン化の増大は、強化
されたアークシステムにおいて発生するという結論を導
くものである。
【0049】基板上に蒸着されつつある蒸気は、公知の
イオン排除法を用いて100%イオン化されたものであ
ることが見い出された。基板に衝突する蒸気のイオン化
部分は、イオンの排除中における蒸着速度と、イオン蒸
着が可能のときの蒸着速度とを比較することにより決め
られる。図7と図8はいくらかの量の窒素原子とチタン
原子が蒸着プロセス中に存在することを示しているが、
それは集束ゾーンでも、基板でもないと考えられる。む
しろ、ある程度限定された粒子の「再コンビネーショ
ン」が、プラズマ流の集束ゾーンと基板との間で起きる
ようである。
【0050】イオン蒸着は、30分にわたって890ガ
ウスの磁界強度があるときになされる。イオン排除蒸着
は、同じパラメータにおいてなされたが、透明度0.9
03スクリーンを基板の前に置き、−100Vのバイア
スをかけイオンを集めると蒸着は起らなかった。ワイヤ
のまわりにドバイシース(Debye sheath)を設けると、
スクリーンのイオン停止力は向上した。基板はまた、+
30Vのバイアスをかけられたが、この結果、スクリー
ンを通過したすべのイオンははじきとばされた。
【0051】イオンが蒸着から排除されると、質量は増
えない。蒸着膜内に含まれる中性大粒子束は計測出来な
かった。従来のアーク法におけるイオン化率は68〜8
3%なので、主として大粒子が蒸着されたことが分か
る。イオン排除蒸着条件下では質量増加はないので、強
化アークプロセスにおいては100%の蒸気がイオン化
されたという結論に達する。
【0052】1イオン当たりの平均電荷は、2.08
±.28eであることが判明した。1イオン当たりの平
均電荷は、蒸着速度と基板に集められたイオン電荷量か
ら決められる。蒸着速度は、3.23cm2 の蒸着面積
を露出するよう取付具にクランプされた基板の単位面積
当たり、毎秒得られる質量によって計測される。ガス散
乱により、この面積は20mトールにおいて約3.53
cm2 に増える。
【0053】集められたイオン電荷は、蒸着において用
いられたものと同じパラメータに対するラングミューア
探針システムから得られたイオン電流強度のある値を用
いて決められた。基板温度は、蒸着中において220℃
以下であった。フィルム中の窒素とチタンの原子比は、
XPSを用いて決められた。
【0054】イオン当たり平均電荷は、フィルムに対す
る窒素質量の貢献はイオン化された粒子窒素(すなわ
ち、フィルムを形成するイオン束は、チタンイオンと共
に窒素イオンを含む)からのものであると仮定して決定
される。これは、窒素イオン貢献は無視できるものと仮
定して1イオン当たりの平均電荷が決められる従来のア
ーク法と対比される。上述の実験において、窒素イオン
貢献がもし無視されると、1イオン当たりで計算された
平均電荷は殆ど300%増大する。窒素束はまた、イオ
ン化粒子窒素からくるものと推定される。もしイオン化
された窒素束が10%イオン化された電子窒素(放射ス
ペクトルの結果を考慮した妥当な数値である)より成る
とすれば、1イオン当たりの平均電荷は1.79eに低
下する。
【0055】到着する1原子当たりの平均電荷もまた、
イオンの基板に対する粘着係数の積によって決まる。
0.9±0.1の粘着係数が用いられるが、これは、高
い親和力をもつ、低エネルギ金属原子衝突面の場合であ
る。強化されたアークシステムにおいてイオンを加速
し、窒素イオンを衝突させると、粘着係数がいくらか低
下する。1イオン当たりの平均電荷の計算に間違いがあ
ると、粘着係数と正規組成(stoichiometry)に不確定
要素が増す。
【0056】20mトールにおいて従来のアーク蒸着法
を用いると、1イオン当たりの平均電荷は約1.6eに
なる。本発明において2.08eが達成されると、イオ
ン化レベルが上昇し、強化アークシステムにおけるイオ
ン化パーセントが高められる。このことはまた、距離が
約2倍になり、従来のアークデータを決定するのに用い
る陰極電流の半分であることが判明した。同様のパラメ
ータの場合は、ここにおいて計算されたイオン当たりの
平均電荷はさらに増加すると推定される。
【0057】図9は、磁界強度の関数として、基板上に
蒸着されたコーティングの表面粗さの変動を示す。磁界
強度の零値は、従来のアークシステム(すなわち、プラ
ズマ強化装置ではない)によって得られる。高速度鋼製
基板(約150オングストロームにまで研磨仕上げされ
ている)が、陰極の前方225mmの位置におかれ、フ
ィルムは15分間蒸着される。平均の平面粗さは、フィ
ルム蒸着の前とあとで測定され、差異が図9にプロット
されている。
【0058】図9から明らかなように、平均表面粗さ
は、磁界強度1450ガウスにおいて最少80オングス
トロームにまで急激に低下する。1450ガウスで蒸着
されたフィルムの表面をSEM分析した結果、殆ど大粒
子は認められなかった。同様に、890ガウスで蒸着さ
れたフィルムの大粒子もまた殆どなかった。890と1
450ガウスで蒸着された試片の場合、表面粗さの平均
値がわずかに上昇した。つまり、顕微鏡写真でみると、
小さなしわが認められるが、これは主としてイオンボン
バードメントによるエッチング効果によるものである。
これは、磁界中におけるイオンのホール加速を示す。
【0059】強化アークシステム中の大粒子が減少し、
零になると、1ないし4或いはそれ以上の効果が現れ
る。ひとつの効果は形状にあるが、これは当業者によっ
て以前から知られていたものである。55°以下の角度
で強化アークシステムの陰極の表面から離脱する大粒子
は、プラズマガイドと衝突し、大部分の大粒子は30°
以下の角度で陰極から離れる。大粒子の『シールド作
用』は、本発明の構造に固有のものであるが、本発明の
効果は主として、プラズマ流を集中させることにより大
粒子を排除できるということである。つまり、本発明
は、大粒子を『リサイクル』する。
【0060】第2の効果は、本発明によって強化された
磁界におけるアーク電荷が変動することによって得られ
る。プラズマ強化装置は磁界を生成するので、アークは
陰極表面上を急速移動し易くなり、この結果、大粒子の
源である、陰極上のアーククレータのまわりの溶融領域
の大きさが大巾に減少する。アークを多数の陰極スポッ
トごとに分割する作用が強化磁界内に発生し、この結果
電流強度が低下し、陰極表面の溶融現象は、低下する。
強化アークシステムに用いられる陰極の表面をSEM分
析すると、従来のアークシステムに用いられる陰極と関
連して、溶融面積が大巾に減少し、平均のクレータサイ
ズは小さくなることが分かった。
【0061】第3の効果は、窒化物の表面をもつ陰極の
『有毒化』の結果として生じる大粒子は数も少なく、サ
イズも小さくなる。すなわち強化アークシステムにおけ
る陰極近辺に多数の窒素イオンが生成され、集合してい
るので、陰極表面は窒化し易くなる。これは、従来のア
ーク法の陰極に比し、強化アークシステムに用いられて
のち陰極の黄色化が進むことによって分かる。
【0062】第4の効果は、大粒子が電子と衝突するこ
とにより、大粒子が蒸発する結果得られるものである。
プラズマ強化装置によって生成された集束ゾーンの高エ
ネルギ電子状態は、磁界強度の増大を伴う大粒子の大巾
減少を説明するものと考えられている。
【0063】本発明の強化プラズマ光学システムによ
り、蒸着工程中にTiNフィルムに衝突するイオン束の
エネルギとイオン化が促進される。この装置の強力に集
束した磁界内で高エネルギ電子と非弾力的に衝突する
と、励起およびイオン化した種の濃度が増加する。窒素
の分離とイオン化およびその結果としての窒素イオンの
プラズマ束への貢献は、とくに明らかである。基板にお
けるイオン当たりの平均電荷は、従来のアーク法以上に
増大して約2.1eになる。蒸気のイオン化部分もま
た、集束ゾーン内および基板の周辺では100%に増加
する。つまり、基板において得られる質量に対する大粒
子の貢献と中性蒸気は、測定してみたら零であった。し
たがって、蒸着されたフィルムには大粒子は殆どなかっ
た。
【0064】プラズマ強化装置の他の具体例 図4は、本発明の原理によるプラズマガイド50′の他
の具体例を示す。図4のプラズマ強化装置50′は、コ
ア80の代わりのコア60を備えた図2の装置と細部ま
で似ている。磁気コイル51′は、半径R3′が45m
mで軸方向厚さが100mmの外側コイルをもつ。コア
80は複数の筒状シェル81a〜81eを有する。各シ
ェルの軸方向の厚みは約0.5mmである。それぞれの
円筒シェル81a〜81eは、セラミックスペーサ(図
示せず)に乗って、円筒シェル空間82a〜82cを画
定する。各空間の軸方向厚さは、約12.0mmであ
る。この特定具体例の場合、シェル81a〜81eとス
ペーサ(図示せず)を含むコア80は、ボルト(図示せ
ず)で磁気コイル51に取り付けられる。
【0065】磁気コイル51に電流が通ると、図5に示
す磁界が生じる。正味のプラズマ流40′は、図4に示
されるコア80の作用効果により、『より長い』軸方向
焦点ゾーン44′を有する磁界が生成され、このゾーン
44′を通ってプラズマ流40′が進む。プラズマ40
の一般経路を画定する『パスライン』40a′と40
b′は、コア80によって形成された『有効磁界』を示
す。
【0066】プラズマの蒸発、変換、蒸着に加えて、本
発明は多様なコア形態の選択と代替を可能とする。かく
して、各種蒸着用途と広範囲の各種源物質の採用を可能
とするいろいろな大きさ、形状、軸方向焦点距離の磁界
が得られる。第1コア60はチタン陰極15と関連的に
用いるのに適しているが、これと同様に、第2コア80
は以下に述べるように黒鉛陰極75と関連的に用いるの
に適している。事実、下記の方法で第2コア80を用い
ると、炭化水素の殆どないダイアモンド状のコーティン
グフィルムが得られる。
【0067】第2コアと黒鉛陰極の実験結果 制御された水素分圧雰囲気下で黒鉛陰極を用いる場合、
実験は、上記好適具体例(図4参照)によって構成され
た装置を用いて実施された。高純度の黒鉛陰極は下記特
性を有する。 グレード:pocoSFG−2 密度:1.8グラム/cm3 細孔サイズ:0.2μm 粒子サイズ:1μm 純度:5ppm
【0068】陰極75は、直径90mmで軸方向厚さ1
00mmの磁気コイル51に対して同軸配置されてい
る。磁気コイル51に供給される直流をコントロールす
ることで、0〜1000ガウスの強度を有する軸方向磁
界が生成される。磁力線の形と外辺効果は、プラズマ強
化装置50′の内部におかれた磁気コア片81a〜81
eによって最適化される。アーク蒸着中の作動真空は、
10〜6トール程度である。水素とアルゴンのガスが、
従来のタイランマス流量コントローラによって計量さ
れ、圧力はMKSバラトロン変換器によって測定され、
基板温度は赤外線光学パイロメータを用いて測られる。
【0069】実験は研磨された高速度鋼、WC.シリコ
ンから作られた基板に対して行われた。各試片は有機洗
浄法により完全に脱脂された後、水冷されたステンレス
スチール製基板ホルダ上に押し付けられる。基板は、コ
ーティング処理の前に、−1000Vのバイアス電圧
で、10分間約10から100mトールの分圧の水素/
アルゴン白熱放電に着火することにより、さらに洗浄さ
れる。このプラズマエッチング処理は、蒸着前の基板表
面を調整して、炭素層の接着性を改良するのに大切であ
ることが見い出された。炭素種が含浸された基板に対す
る高エネルギによる予備ボンバードメントは、炭素フィ
ルムを基板上に凝集させるという今までの問題を解決し
た。
【0070】炭素フィルムを生成するための従来の変形
アーク源に用いられる蒸着条件は、表Cに要約されてい
る。 表C 黒鉛アーク蒸着の要約 実験条件 変形ア 従来の ーク源 アーク源 試片A 試片B 試片C 基板 HSS シリコン WC 蒸着電流1c(A) 50 50 50 基板電圧Us(V) −50 −50 150 磁界B(ガウス) 500 500 0 使用ガス Ar H2 なし コーティング圧 25mtorr 25mtorr 10−6torr フィルム厚 2.5μm 1μm 0.5μm
【0071】コーティングの硬度はビッカース硬度計を
用いて測定された。各種の基板に蒸着されたフィルムの
接着強度はVTTスクラッチテスタで測定された。マク
ベスの測色計を用いて、蒸着された炭素層の光学的反射
挙動がテストされた。炭素層の形態は、スキャニング電
子顕微鏡を用いて観察され、その表面粗さはデクタクII
A輪郭計で定量テストがなされた。フィルムの構造と化
学的結合力は、ラーマン・フーリエ変換赤外線分光計を
用いて分析された。
【0072】蒸着黒鉛陰極の効果を明らかにするため、
チタン陰極を通常用いるものと類似の、従来のアーク法
条件を用いて炭素フィルムを蒸着する最初の試みがなさ
れた。アーク電流の強度は50Aにセットされ、コーテ
ィング相における基板に対するDCバイアス電圧は、試
片温度を150℃に維持するため約−150Vになされ
た。30分の実験サイクル中、ガスサポートは用いられ
なかった。2.5Aの基板電流と、20Vの放電スペー
スを横切る電圧降下Ucとが計測された。
【0073】今までの経験から明らかなように、炭素ア
ーク放電によって陰極表面に『単スポット』が生成され
た。この外見上固定されたスポットは、陰極のエッジに
沿って極めて緩慢、つまり1秒当たり1cm以下の速度
で移動する。さらに、放電によって放出された白光は極
めて明るいものであり、基板への熱伝達はかなり大き
い。炭素アーク蒸着によって生成されたプラズマ束は、
イオン化の程度はかなり高くなり、最大70%に達す
る。これは、上記各結果と一致するものであって、イオ
ン化の程度と陰極物質沸騰温度(炭素の場合は4500
K)との間の相関関係を示す。当業者には明らかなよう
に、炭素は1000K以下の温度において負抵抗を示す
が、陰極におけるアークの運動は緩慢であり、アークは
炭素抵抗が最少になる場所に優先的に位置する傾向があ
ることが分かる。この特徴により、アークは不安定にな
り寿命は短くなるので陰極をしばしば再トリガしなけれ
ばならなくなる。上述の効果により、多数の白熱炭素粒
子が発生し、イオン化されたプラズマ流と同時に放射さ
れる。予想通り、炭素源から150mmの位置に保持さ
れたHSS基板の粉状黒鉛コーティングの接着力は、極
めて弱かった。フィルム表面をSEM観察するとかなり
のキズがあったが、その理由は従来のアーク蒸着法が不
安定であり、その結果大粒子が放射され、蒸着の品質が
低下する点にある。
【0074】プラズマ強化装置50の磁気コイル51に
よって磁界ができると、陰極のアーク点の不規則曲線は
もはや表示されない。このアーク点は、炭素陰極の表面
中芯に寄っていくように見えるが、この中心において、
磁界の力線は陰極に対して殆ど垂直をなし、それの軸方
向成分Bzは最大になる。しかし、10〜6mトールの
残留真空状態の下では、アーク放電は依然として不安定
であり、陰極の点は磁界の強度が数百ガウスをこえると
消える。極めて安定した蒸発を維持するため、アルゴン
あるいは水素の分圧を最小値5mトールとしてプロセス
中保持しなければならない。この安定した状態で得られ
るアーク放電のアーク柱が収縮していることが分かり、
ガス放電の明るい白光点が陰極の前に出来る。これらの
作用により、陰極温度が上昇し、この結果放電寿命は伸
び、白熱炭素大粒子の放出の減少が観察された。さら
に、磁界が加えられると、50Aアーク電流強度に対し
て、40Vの電圧降下Ucの増加が放電スペースに測定
された。
【0075】図10は、プラズマがプラズマ強化装置5
0を励起するとき、基板に加えられたバイアス電圧の関
数として、集められた全イオン電流に対する磁界作用
が、磁気コイル51によって発生することを示す。磁界
を500ガウスに設定することにより測定された飽和イ
オン電流は、外部磁界が用いられないとき、従来のアー
ク放電装置によって得られるものよりかなり大きい。プ
ラズマ放出点で、直径80mmの探針で測定した飽和電
流は、5Aであるが、これは、従来のアーク放電装置に
よって集められたイオン全電流の2倍である。
【0076】図11に示す曲線は、アーク放電がアルゴ
ンあるいは水素ガスの25mトールの分圧下で発生する
ときに、−150Vでバイアスされた探針によって集め
られた飽和イオン電流に対する磁界強度の作用を示す。
図11に示すように、磁界の増大によって、集められた
全飽和電流が上昇する。アルゴンあるいは水素ガスによ
って達成される両方の測定値により、磁界値が約500
ガウスの場合の飽和作用が分かる。これらの結果によ
り、プラズマが磁界によって集中する結果が明らかにな
る。プラズマをアジマスホール電流Jが貫流するときの
磁界の軸方向成分Bzにより、プラズマ流をプラズマガ
イド上に集中させる半径方向力、Fr=J・Bz(ロー
レンツ力)を生成させる。この結果、電子は磁化され、
電子−分子とイオン−分子相互作用の可能性が増し、プ
ラズマ束種はさらに励起されイオン化される。プラズマ
流に磁界がかかることによるさらに他の効果は、磁界強
度の関数として、真空状態の多電極静電探針によって測
定されるイオンエネルギの平均値が増加することであ
る。この効果は、炭素イオンのエネルギを高める、プラ
ズマ流に対する加速力、Fz=J・Brを発生させる磁
界の径方向成分Brが生じることである。このように各
種の実験を行い、その結果から判明したことは、強化ア
ーク装置により炭素アーク放電が改良されるということ
であるが、この改良は、基板に集められた全イオン束を
増大させ、プラズマ流のイオンエネルギをコントロール
することによってなされるものである。
【0077】高速度鋼(試片A)とシリコン基板(試片
B)に、バイアス電圧−50Vで蒸着された炭素フィル
ムの硬度が、ダイアモンド硬度計で測定され、10gf
〜400gfの範囲の荷重がかけられた。このテストに
おいて、フィルムの厚さは、試片Aの場合2.5μmで
あり、試片Bの場合1μmであった。斜めの刻み線の長
さは、SEM観測法によって測定され、フィルムの硬度
は、ダイアモンド形コーティングのフィルム硬度を決め
るのに以前から採用されている関係式、HV=0.18
91F/d2を用いて計算された。10gfから400
gfへの荷重増加の関数としての各種フィルムの硬度を
みるに、最大荷重についてのフィルムAとフィルムBの
間の硬度差は、各フィルムの厚さの差異と各基板の硬度
差によるものと考えられる。シリコンに蒸着されたフィ
ルムBの硬度を400gfについて測定した結果、シリ
コンの硬度800HVより大きい1100HVを示し
た。25gfより小さい荷重についての硬度測定値は、
フィルムの硬度維持性からみて刻み線のサイズが小さす
ぎるので、分析されなかった。しかし、50gfと25
gf荷重についての平均硬度、2600HVと5200
HVが、試片AとBについて測定された。
【0078】SEM表面形状分析法を用いて、本発明に
よる改良アーク法によって高速度鋼基板上に蒸着された
炭素フィルムは、従来のアーク法による場合より極めて
なめらかであった。最大径<500Aの大粒子と表面欠
陥は、殆どみられなかったし、デクタクIIA式輪郭計に
よって得られた測定値で、試片Aと試片Bは表面粗さR
a,0.02μmをもつことが確認された。
【0079】さらに、試片Aに蒸着された炭素フィルム
の断面破片をSEM検査したところ、柱状の生長物のな
い、極めて密集したアモルファス構造であることが分か
った。このアモルファスフィルムは基板表面と一様に密
着し、十分に高い接着レベルを示した。フィルムと基板
の界面には、接着上の欠陥は見い出されなかった。
【0080】テストフィルムの接着レベルをチェックす
るため、スクラッチテスト法によって接着強度が測定さ
れた。フィルムAの場合、音響的強度(acousticintens
ity)は増加して、Lc=22Nにおいて接着臨界下限
に達した。同時に、界面におけるコーティングの接着欠
陥は、35Nの臨界上限荷重において現れた。シリコン
基板の場合、臨界下限荷重の値は15Nであり、42N
の臨界上限荷重より高い値が、試片Aとの比較において
測定された。さらに、フィルムBは、フィルムAに比し
てより高い音響信号増巾を示した。スクラッチテストに
よって得られた結果は、スクラッチコーティング欠陥の
SEM観察結果として相関している。ということは、フ
ィルムAのスクラッチマークは、フィルムBの場合より
コーティングきずが多かった。基板の性状は異なり、フ
ィルムの厚さも不揃いなので、結果の比較はむずかし
い。それにも関わらず、各種の基板、とくに高速度鋼の
基板について計測された臨界荷重は、上記材料の基板上
の炭素フィルムは秀れていることを示すものであった。
【0081】強化アーク法で蒸着された炭素フィルムの
特性を評価するため、シリコンと高速度鋼基板のそれぞ
れに加えられた水素およびアルゴン分圧下で得られたフ
ィルムが、ラーマンスペクトル法で分析された。室温
で、水素分圧25mトールにおいて、シリコン基板上に
形成されたカーボンフィルムのラーマンスペクトルは、
イオン光線法によって得られたDLCフィルムの場合極
めて典型的なものである。1cm当たり波数1550の
ときの拡散ピークと、1cm当たり波数1350のとき
の極めて弱いピークだけが示される。1cm当たり15
50におけるGピークは、黒鉛クリスタル構造に相当
し、1cm当たり1350のDピークは、欠陥のある黒
鉛構造つまり結晶構造の特性を示す。
【0082】アルゴン分圧条件下で、高速度鋼基板に蒸
着された炭素フィルムのラーマンスペクトルは、極めて
異常であった。主ピークつまりGピークは、1cm当た
り1560の波数の所に位置する。1cm当たり135
0に中芯が来るDピークは、従来のDLCフィルムの場
合つねに極めて巾広であるが、このスペクトルの場合
は、水素条件下で以前に観察された場合より弱い。Gピ
ークで示された比較的高いエネルギレベルによって、対
称的なスペクトルが得られるが、これはアモルファス水
素無添加DLCフィルムの特徴である。これらの結果
は、炭素フィルムの構造が、フィルムに含まれる水素の
レベルと、それらの核化と生長中におけるイオンエネル
ギとによって決まることを示すと考えられる。炭素フィ
ルムの構造は、炭素化学接着状態の影響をうけるので、
分析はフーリエ変換赤外スペクトル分析法によって行わ
れて来た。思っていた通り、高速度鋼基板(試片A)に
蒸着されたフィルムのFTIR吸光スペクトルにより、
1cm当たり波数3000において発生するC−H伸張
吸光モードの不存在が分かった。この現象は、蒸着され
たDLCフィルムは水素を含まないことを示す比較的信
頼できる指標である。この特徴は、水素中圧下で試片B
に蒸着されたDLCフィルムに観察されたFTIRスペ
クトルの場合と異なる。
【0083】アルゴンおよび水素分圧条件下で且つ直流
バイアス電圧下で蒸着されたフィルムは、下に示すよう
にマクベス色表示で言うと灰黒色である。 試片A:L*=60.88 a*=0.37 b*=−
1.55 試片B:L*=55.90 a*=0.22 b*=−
0.54
【0084】また、反射率曲線によって、光学的反射率
は滑らかな曲線を示してなく、その代わり最大と最小の
間で振動し、振巾は波長の増加と共に増大することが分
かる。この現象は、アーク蒸着DLCフィルムの光学的
透明性の故に得られるものである。入射光線は、空気・
フィルムおよびフィルム・基板の各界面で反射する。こ
の光学効果により、建設的/破壊的干渉(constructive
/destructive interference)が発生するが、これは測
定された最大および最小反射率によって示される。この
位相差は、フィルム厚さおよびフィルムの反射指数と基
板の反射指数によって決まる。もしフィルムが光学的に
不透明であると、入射光はフィルム・基板界面には達し
ないので、干渉は生じない。しかし、各フィルムは全体
的に透明でも不透明でもないので、建設的/破壊的干渉
の程度は、フィルムに吸収された光量によって決まる。
実験結果によると、フィルムは、振巾が最大値と最小値
の間で減少するとき、低波長時により吸光するようにな
ることが分かった。これらのフィルムは、フィルムAの
場合660nmにおいて吸光ピークが最大になり、フィ
ルムBの場合560nmで最大になり、可視赤外範囲の
近くで比較的透明になる。しかし、400〜500nm
の範囲内でわずかに高くなる反射率により、フィルムの
b*色値により前に示された通常光においてフィルムは
青みがかった暗色を示す。
【0085】プラズマ強化装置は、炭素陰極表面にアー
ク放電を磁気で集中させる。磁気的に圧縮されたアーク
によりスポットの安定性が向上し、放電時間が長くな
る。最適の蒸着条件は、磁界の軸方向成分Bzが陰極表
面の中心において最大になる。軸方向磁界の最大値は、
図4に示す具体例において磁気コア片が最適位置にある
ことによって誘導された磁力線収縮によって得られる。
陰極表面の近辺に形成された白光放電スポットにより、
陰極表面から放射されるプラズマ束の励起とイオン化が
進んだことが分かる。この領域における電子強化によ
り、炭素イオンの加速が大巾に向上すると信じられてい
る。磁界による第2の重要な効果は、プラズマ流の変換
中において生じる。つまり、磁界には、直径20mmの
集中光線がプラズマの収縮によって得られることが分か
る。散乱によるイオン損失は減少し、プラズマガイドの
出口に集中したプラズマの束とイオン電流の密度はかな
り増加する。焦点作用による効果の結果として、プラズ
マ流の変換中に衝突プロセスが増大するが、これは蒸着
現象による炭素大粒子の減少に原因があると信じられて
いる。
【0086】プラズマ強化装置により、プラズマの励起
とイオン化のレベルが向上し、イオンはより高いエネル
ギに加速されるまた、凝縮されたフィルムの構成と化学
接着状態は、凝縮度、つまりイオン電流密度とイオンエ
ネルギを調節することによりコントロールされる。
【0087】炭素アーク蒸発技術を用いると、DLCフ
ィルムの核化と生長のためのエネルギレベルは、基板に
衝突するイオンの運動エネルギから得られる。また、D
LC蒸着のための理想的な炭素イオンエネルギは、数十
電子ボルトの範囲内になくてはならないと報告されてい
るが、この電子ボルトは、炭素原子の結合エネルギより
高く、スレッショルドエネルギより低いので結晶欠陥
(60eV)が生じる。炭素イオン束に加えて、実験の
結果により、アルゴンガスを使用するとフィルム表面に
アルゴンイオンのボンバードメントが起こり、フィルム
の黒鉛成分が散乱する。
【0088】炭素イオンエネルギはフィルムの形成にい
ろいろな径路で影響するが故に重要なパラメータであ
る。この炭素イオンエネルギは、フィルムの応力レベル
と接着力を管理するのに役立ち、SP3 ハイブリッドさ
れた炭素を増加させ、非陽子化された第四炭素を集中さ
せる。これらの現象は、DLCフィルムの機械的性状を
コントロールするものと考えられている。本発明のプラ
ズマ強化装置を用いると、衝突する炭素イオンエネルギ
は、基板に加えられるバイアス電圧を変えることにより
容易に管理できることが理解される。
【0089】他の応用例 上述のようにチタンと炭素の蒸着については、本発明は
2つの具体例しかないが、当業者には明らかなように、
上記説明を変形すれば他の出願も可能である。たとえ
ば、コア部材は、それぞれ同軸である必要はなく、互い
に同一面内におく必要もない。事実、ある場合には、い
くつかのコア片を互いに芯を合せて整列させて、曲線状
のプラズマ流路を形成してもよい。加えて、ひとつある
いは複数個のコア部材を機械的に駆動して、比較的狭い
プラズマ流を広い領域に『散布』させてもよい。かよう
な方法は、大型部材を極めて高密度のコーティングで覆
う必要があるときに望ましいものである。
【0090】その他の魅力的な用途は、管などの内面を
コーティングする場合であり、そのような時はコーティ
ング物質を管内に進入させる難易は、管径によって決ま
る。本発明によれば、強力で絞られたプラズマビームが
生成され、加速されるので、プラズマは管状物体内に深
く進入できる。かような狭いビームは、プラズマガイド
の出口に最も近いコア片の厚みを増大させるか、あるい
はプラズマガイドの出口に最も接近しているコア片で形
成させる開口を調節することによって得られる。他方、
多くの大量生産の場合のように大面積に良好なコーティ
ングを施こしたいとき、末端に最も接近するコア片はで
きるだけ薄くする。
【0091】他の用途においても、コア部材を含むコア
片のサイズ、形状、個数、位置(互いの位置、磁石に対
する位置)を変えて適切な形状を得ることができる。か
ような『微調整』能力は、本発明の構造によって可能と
なるものである。したがって、本発明は2つの特定の具
体例と関連的に説明されて来たが、請求の範囲に示され
た範囲で、当業者にはいろいろな他の具体例と形状が明
らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適具体例によって構成されたプラズ
マ強化装置を含む、電気アーク蒸着チャンバの略図であ
る。
【図2】図1のプラズマ強化装置の第1具体例を、蒸着
チャンバに密着する構造と共に示す拡大断面図である。
【図3】図2のプラズマ強化装置の磁気コイルを通る電
流で発生した磁界を示す略図である。
【図4】図1のプラズマ強化装置の第2具体例を、蒸着
チャンバに密着する構造と共に示す断面図である。
【図5】図4のプラズマ強化装置の磁気コイルを通る電
流によって生じた磁界を示す略図である。
【図6】図2に示すプラズマ強化装置において、各種の
ガウス設定に対して基板を横切る電圧の関数としての基
板電流を示す実験結果のグラフである。
【図7】図2に示すプラズマ強化装置の使用により生じ
た磁界強度の関数として、蒸着チャンバ内に存在する各
種の窒素とチタンの原子の強度を示す実験結果のグラフ
である。
【図8】蒸着チャンバ内の圧力を関数として、図2に示
すプラズマ強化装置を採用する蒸着チャンバ内に存在す
る各種窒素原子とチタン原子の強度を示す実験結果を示
すグラフである。
【図9】図2に示すプラズマ強化装置を使用することに
よって生じた磁界の強度を関数として、基板に蒸着され
るフィルムコーティングの表面粗さを示す実験結果のグ
ラフである。
【図10】図4に示すプラズマ強化装置の使用によって
生じた0から500ガウスの磁界のための基板に流れる
電圧を関数としての基板電流を示す実験結果のグラフで
ある。
【図11】水素とアルゴンの環境のために、図4に示す
プラズマ強化装置を使うことによって生じた磁界の強度
を関数とする基板電流の実験結果を示すグラフである。
【図12】図2に示すアーク強化装置の上面図である。
【符号の説明】
10 真空蒸着チャンバ 11 内側空間 12 真空ポンプシステム 15 コーティング物質源 16 取付手段 18 流路 20 電源 26 基板 30 アーク始動トリガ組立体 32 抵抗 33 信号流路 34 絶縁シール部材 40 コーティングプラズマ 50 プラズマ強化装置 52 冷却ジャケット 53 ケーシング 60 コア部材 63 円筒形シェル空間
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成4年11月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】発明の名称
【補正方法】変更
【補正内容】
【発明の名称】 プラズマ強化装置と電気アーク蒸着法
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 バーナード・エフ・コル アメリカ合衆国 07871 ニュージャージ ー、スパータ、コロンバス・ドライブ 5

Claims (13)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 プラズマによりコーティングされる基板
    にプラズマが達する前にプラズマ源から生じたプラズマ
    に作用するように電気アーク蒸着チャンバ内に設けられ
    る形式のプラズマ強化装置であって、 (a)磁石軸線のまわりに配置され且つ第一開口を画定
    する磁石と、 (b)コア部材軸線のまわりに配置されていて、少なく
    ともその一部が上記第一開口内に入っているコア部材と
    を含み、 上記コア部材は第2開口を画定し、上記プラズマ強化装
    置は、蒸発した陰極源物質が陰極源から上記第2開口を
    経て、蒸発した陰極源物質によってコーティングされる
    基板に向けて流れるように配置されるとともに形状付け
    されることで、プラズマを条件付けするようにしたプラ
    ズマ強化装置。
  2. 【請求項2】 上記第2開口は上記コア部材軸線に沿っ
    て変動し、蒸発した陰極源物質は、上記第2開口が比較
    的大きくなされているコア部材軸線に向かって集束しよ
    うとする、請求項1のプラズマ強化装置。
  3. 【請求項3】 上記コア部材は上記コア部材軸線上にプ
    ラズマ集束ゾーンを画定する、請求項1のプラズマ強化
    装置。
  4. 【請求項4】 上記コア部材は、第1筒状シェルと第2
    筒状シェルを含み、両方のシェルは上記コア部材軸線と
    芯合せされ両者間に筒形のシェル空間を画定する、請求
    項1のプラズマ強化装置。
  5. 【請求項5】(a)蒸着空間を画定するチャンバと、 (b)上記蒸着空間を排気する排気手段と、 (c)上記蒸着空間に露出するプラズマ発生面を有する
    源物質陰極と、 (d)上記源物質陰極からプラズマを発生させるための
    電気アークプラズマ発生手段と、 (e)プラズマを受けてコーティングされるよう配置と
    形態で上記蒸着空間内に設けられた基板と、 (f)上記基板に対するプラズマコーティングを強化す
    るため上記源物質陰極と上記基板との間に配置されたプ
    ラズマコーティング強化手段とを含み、 上記プラズマコーティング強化手段は、 (i)コイル軸線のまわりに形成された磁気コイルと、 (ii)互いに芯合せされるように上記磁気コイル内に配
    置されるとともに中心開口を画定し、この中心開口を経
    てプラズマは源物質陰極から上記基板に向けて流れるコ
    ア部材と、 (iii)上記コイルを付勢して、上記開口内のコア軸線に
    沿うプラズマ集束ゾーンを形成するように、上記磁気コ
    イルに作用連結された手段とを含む、 電気アーク蒸着装置。
  6. 【請求項6】 上記コア部材は上記コア軸線上で同芯か
    つ互いに離隔する複数のコアシェルを含み、これらシェ
    ルは互いに同軸配置され、その間にコアシェル空間を形
    成する、請求項5のプラズマ強化装置。
  7. 【請求項7】 被コーティング源物質陰極と陽極との間
    に飛ばされる電気アークによって形成されるコーティン
    グプラズマを用いて、排気された蒸着チャンバ内の基板
    に対して蒸着を行うのに適した電気アーク蒸着法におい
    て、 (a)コーティングされる基板を蒸着チャンバ内に位置
    させ、 (b)この蒸着チャンバ内を排気し、 (c)上記被コーティング源物質陰極と上記陽極との間
    に電気アークを飛ばし、これを維持して、蒸発された源
    物質のコーティングプラズマを生成し、 (d)上記陰極と上記基板との中間にプラズマ集束ゾー
    ンを生成し、 (e)上記プラズマ集束ゾーンを通じてプラズマを流
    し、 (f)上記プラズマ集束ゾーン内のコーティングプラズ
    マを条件付けして、プラズマ内の粒子のイオン化を促進
    し、大粒子をプラズマから除去し、 (g)上記集束ゾーンから基板にプラズマを向ける工程
    を含む、電気アーク蒸着法。
  8. 【請求項8】 上記条件付け工程は、少なくともその一
    部が、排気された蒸着チャンバ内に形成された磁界によ
    って行われる、請求項7の電気アーク蒸着法。
  9. 【請求項9】 上記条件付け工程は、 (a)上記陰極源物質を経て基板に向ってすすむ磁束を
    もつ磁界を上記チャンバ内に形成し、 (b)この磁束を、上記陰極と基板の中間に焦点合わせ
    させ、プラズマが陰極から基板に向ってすすむときこの
    プラズマをさえぎるように配置されたプラズマ集束ゾー
    ンを生成する、ことを含む、請求項8の電気アーク蒸着
    法。
  10. 【請求項10】 上記集束ゾーンの長さを、陰極から上
    記基板への長手方向において変化させる工程をさらに含
    む、請求項9の電気アーク蒸着法。
  11. 【請求項11】 磁束は、陰極から基板にのびる軸線の
    まわりに対称的に配置され、上記集束ゾーンの横断面領
    域が上記軸線のまわりで半径方向に配置される、請求項
    9の電気アーク蒸着法。
  12. 【請求項12】 上記集束ゾーンの横断面積を自由に変
    動させるため、上記磁界の強度を自由に変動させる工程
    をさらに含む、請求項11の電気アーク蒸着法。
  13. 【請求項13】 上記集束ゾーンの長さを変える工程
    は、上記磁界を生成させるのに用いる装置の磁気コア片
    の大きさと形状を選択的に変えることを含む、請求項1
    0の電気アーク蒸着法。
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