JP2015193913A - 被覆工具の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】フィルタードアークイオンプレーティング法で基材の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆する被覆工具の製造方法であって、
算術平均粗さRaが0.06μm以下、最大高さ粗さRzが1.0μm以下の表面を有する基材を炉内に設置し、前記炉内に水素ガスを含む混合ガスを導入して、前記基材に−2500V以上−1500V以下のバイアス電圧を印加し、ガスボンバード処理を60分以上行う工程と、
グラファイトターゲットを用いてダイヤモンドライクカーボン皮膜を前記基材の表面に被覆する工程と、
を含む被覆工具の製造方法である。
【選択図】図1
Description
しかしながら、水素を実質的に含有しない高硬度なDLC皮膜は、グラファイトターゲットを用いたアークイオンプレーティング法で被覆されるため、ドロップレットといわれる、大きさが数マイクロメートルの粒子(グラファイト球)がDLC皮膜に不可避的に混入し、DLC皮膜の表面粗さが悪化する。
すなわち、本発明は、フィルタードアークイオンプレーティング法で基材の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆する被覆工具の製造方法であって、算術平均粗さRaが0.06μm以下、最大高さ粗さRzが1.0μm以下の表面を有する基材を炉内に設置し、前記炉内に水素ガスを含む混合ガスを導入して、前記基材に−2500V以上−1500V以下のバイアス電圧を印加し、ガスボンバード処理を60分以上行う工程と、グラファイトターゲットを用いてダイヤモンドライクカーボン皮膜を前記基材の表面に被覆する工程とを含む被覆工具の製造方法である。
このような表面粗さを達成するには、例えば、1μm以下のダイヤモンドペーストを用いて基材の表面をポリッシング研磨することが好ましい。
更には、ガスボンバード処理では、基材に印加するバイアス電圧が−2300V以上−1700V以下であることが好ましい。更には、ガスボンバード処理では、基材に印加するバイアス電圧が−2200V以上−1700V以下であることが好ましい。
ガスボンバード処理の時間の上限は基材に合わせて適宜調整することが好ましい。但し、混合ガスによるガスボンバード処理の時間が180分以上になると、ガスボンバード処理による酸化膜および表面の汚れを除去する効果が一定となる傾向がある。そのため、混合ガスによるガスボンバード処理を180分以下とすることが好ましい。
グラファイトターゲットを用いてDLC皮膜を被覆することで、皮膜に含まれる炭素原子以外の不純物が少なくなり、ダイヤモンド構造の炭素原子が増加して、より高硬度なDLC皮膜を達成できる。DLC皮膜の被覆時は、基材温度を200℃以下とすることが好ましい。200℃よりも高温になると、DLC皮膜のグラファイト化が進むため、硬度が低下する傾向にある。
また、DLC皮膜の被覆時には、基材に印加するバイアス電圧を−300V以上−50V以下とすることが好ましい。基材に印加するバイアス電圧が−50Vよりも大きくなる(−50Vよりもプラス側である)と、カーボンイオンの衝突エネルギーが小さくなり、DLC皮膜にボイドなどの欠陥が発生しやすくなる。また、基材に印加するバイアス電圧が−300Vよりも小さくなる(−300Vよりもマイナス側である)と、成膜中に異常放電を起こし易くなる。DLC皮膜の被覆時は、基材に印加するバイアス電圧は、−200V以上−100V以下とすることがより好ましい。
より高硬度なDLC皮膜を得るために、DLC皮膜の被覆時には、炉内圧力を5×10−3Pa以下とすることが好ましい。
フィルタードアークイオンプレーティング法で被覆されたDLC皮膜であっても、膜厚が厚くなると表面粗さが低下する場合がある。その場合は、被覆後のDLC皮膜の表面を研摩処理して平滑にすることが好ましい。
成膜装置は、T字型フィルタードアークイオンプレーティング装置を用いた。装置の概略図を図5に示す。成膜チャンバー(6)には、グラファイトターゲットを設置したカーボン陰極(カソード)(1)を装着するアーク放電式蒸発源と、基材を搭載するための基材ホルダー(7)を有する。基材ホルダーの下には回転機構(8)があり、基材は基材ホルダーを介して、自転かつ公転する。
グラファイトターゲット表面上にアーク放電を発生させると、電荷を有するカーボンのみが磁気コイル(4)に曲げられて成膜チャンバーに到達して基材に皮膜を被覆する。電荷を有しないドロップレットは磁気コイルによって曲げられずにダクト(5)内に捕集される。符号(2)は、カーボン成膜ビームを示し、符号(3)は、球状グラファイト(ドロップレット)中性粒子を示す。
被覆されたDLC皮膜の剥離状態を評価するための基材には、寸法がφ20×5mmの60HRCに調質したJIS−SKD11相当鋼材の基材を用いた。
また、被覆されたDLC皮膜のナノインデンター硬さを測定するための基材には、コバルト含有量が10質量%の炭化タングステン(WC−10質量%Co)からなる超硬合金製の基材(寸法:12.7mm×12.7mm×5mm、平均粒度:0.8μm、硬度:91.2HRA)を用いた。
また、被覆されたDLC皮膜のスクラッチ試験およびロックウェル硬さ試験機による密着性を評価するための基材には、寸法が21mm×17mm×2mmのJIS−SKH51相当鋼材の基材を用いた。
各基材に対しては、表面粗さを測定して、DLC皮膜を以下の条件で被覆した。
成膜チャンバーを5×10-3Paまで真空引きを行い、加熱用ヒーターにより基材を150℃付近に加熱して90分間保持した。その後、基材に印加する負のバイアス電圧を−2000Vとし、アルゴンガスに5質量%の水素ガスを含有した混合ガスによるガスボンバード処理を90分実施した。混合ガスの流量は50sccm〜100sccmとした。
ガスボンバード処理後、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、炉内圧力を5×10−3Pa以下とし、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
ガスボンバード処理に、アルゴンガスに10質量%の水素ガスを含有した混合ガスを用いた以外は本発明例1と同条件とした。
ガスボンバード処理に、アルゴンガスに20質量%の水素ガスを含有した混合ガスを用いた以外は本発明例1と同条件とした。
ガスボンバード処理中の基材に印加する負のバイアス電圧を−1700Vとした以外は本発明例1と同条件とした。
ガスボンバード処理時間を70分実施した以外は本発明例1と同条件とした。
成膜チャンバーを5×10-3Paまで真空引きを行い、加熱用ヒーターにより基材を150℃付近に加熱して90分間保持した。その後、基材に印加する負のバイアス電圧を−2000Vとし、アルゴンガスのみでガスボンバード処理を行った。ガスボンバード処理後、基材に−150Vのバイアス電圧を印加し、基材温度を100℃以下とした。そして、炉内圧力を5×10−3Pa以下とし、グラファイトターゲットに投入する電流を50Aとして、DLC皮膜を約50分間被覆した。
比較例1と同条件で基材表面をアルゴンガスのみでガスボンバード処理した。その後、約3μmのCrNを中間皮膜として被覆した。中間皮膜の被覆後、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、炉内圧力を5×10−3Pa以下とし、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
比較例1と同条件で基材表面をアルゴンガスのみでガスボンバード処理した。その後、基材に印加する負のバイアス電圧を−1000Vとし、Tiボンバード処理を5分間行った。その後、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、炉内圧力を5×10−3Pa以下とし、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
成膜チャンバーを5×10-3Paまで真空引きを行い、加熱用ヒーターにより基材を150℃付近に加熱して90分間保持した。その後、基材に印加する負のバイアス電圧を−1000Vとし、アルゴンガスに5質量%の水素ガスを含有した混合ガスによるガスボンバード処理を90分実施した。混合ガスの流量は50sccm〜100sccmとした。
ガスボンバード処理後、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、炉内圧力を5×10−3Pa以下とし、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
成膜チャンバーを5×10-3Paまで真空引きを行い、加熱用ヒーターにより基材を150℃付近に加熱して90分間保持した。その後、基材に印加する負のバイアス電圧を−2000Vとし、アルゴンガスに5質量%の水素ガスを含有した混合ガスによるガスボンバード処理を30分実施した。混合ガスの流量は50sccm〜100sccmとした。
ガスボンバード処理後、基材に−150Vのバイアス電圧を印加して、基材温度を100℃以下とした。そして、炉内圧力を5×10−3Pa以下とし、グラファイトターゲットに投入する電流を50AとしてDLC皮膜を約50分間成膜した。
基材の表面をショットブラスト(投射材:鉄系メディア)処理し、その後、粒度♯600の砥石(サンドペーパー)で研磨した。その後、ガスボンバード処理およびDLC皮膜の被覆は本発明例1と同条件とした。
基材の表面をダイヤモンドホイールで研削加工した。その後、ガスボンバード処理およびDLC皮膜の被覆は本発明例1と同条件とした。
基材の表面を粒度♯400の砥石(サンドペーパー)で研磨した。その後、ガスボンバード処理およびDLC皮膜の被覆は本発明例1と同条件とした。
ガスボンバード処理中の基材に印加する負のバイアス電圧を−1300Vとした以外は基材の表面状態を含むガスボンバード条件および成膜条件は本発明例1と同条件とした。
ガスボンバード処理時間を50分実施した以外の基材の表面状態を含むガスボンバード条件および成膜条件は本発明例1と同条件とした。
DLC皮膜を被覆した各試料について、硬度、表面粗さおよび密着性評価を行った。以下、その測定条件について説明する。
−ナノインデンテーション硬度の測定−
株式会社エリオニクス製のナノインデンテーション装置を用い、皮膜表面の硬度を測定した。押込み荷重9.8mN、最大荷重保持時間1秒、荷重負荷後の除去速度0.49mN/秒の測定条件で10点測定し、値の大きい2点と値の小さい2点を除いて6点の平均値から求めた。標準試料である溶融石英の硬さが15GPa、CVDダイヤモンド皮膜の硬さが100GPaであることを確認した。
基材およびDLC皮膜について、株式会社東京精密製の接触式面粗さ測定器SURFCOM480Aを用いて、JIS−B−0601−2001に従って、粗さ曲線より算術平均粗さRaと最大高さ粗さRzを測定した。測定条件は、評価長さ:4.0mm、測定速度:0.3mm/s、カットオフ値:0.8mmとした。
被覆された試料のDLC皮膜表面を、株式会社ミツトヨ製の光学顕微鏡を用いて約800倍の倍率で観察して皮膜の剥離状況を評価した。DLC皮膜の表面剥離の評価基準は以下の通りとした。
<表面剥離の評価基準>
A:剥離無し
B:微小剥離あり
C:粗大剥離あり
<HRC圧痕試験の評価基準>
A:剥離無しまたは長径が20μm未満の剥離あり
B:長径が20μm以上50μm未満の剥離あり
C:長径が50μm以上の剥離あり
初期チッピングが発生した荷重をA荷重、基材が完全に露出した時の荷重をB荷重として評価した。
図2に比較例に係るDLC皮膜の光学顕微鏡による表面観察写真(800倍)の一例を示す。比較例1〜3は、従来の密着性の改善手法であるArボンバード処理、Tiボンバード処理および窒化物の中間皮膜を被覆したものであるが、何れも極めて大きな皮膜剥離が発生した。
比較例6〜8は、水素ガスを含有した混合ガスによってガスボンバード処理を実施したが、被覆前の基材の表面粗さが適切でないため大きな皮膜剥離が発生した。
比較例4、5、9、10は、基材を平滑研磨した上で水素ガスを含有した混合ガスによってガスボンバード処理を実施したものであり、表面剥離の状態は本発明例1と同程度であった。
図4に比較例に係るDLC皮膜のロックウェル試験後の光学顕微鏡による表面観察写真(800倍)の一例を示す。比較例1〜3は、従来の密着性の改善手法であるArボンバード処理、Tiボンバード処理および窒化物の中間皮膜を被覆したものであるが、何れも、高硬度なDLC皮膜が基材の塑性変形に十分に追従できずに大きな皮膜剥離が発生した。
比較例6〜8は、水素ガスを含有した混合ガスによってガスボンバード処理したが、被覆前の基材の表面粗さが適切でないため、基材とDLC皮膜の密着性が十分ではなく皮膜剥離が発生した。
比較例4、5、9、10は、ガスボンバード処理のバイアス電圧または処理時間が適切でないため、本発明例に比べて皮膜剥離が多く発生する傾向にあった。
Claims (3)
- フィルタードアークイオンプレーティング法で基材の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆する被覆工具の製造方法であって、
算術平均粗さRaが0.06μm以下、最大高さ粗さRzが1.0μm以下の表面を有する基材を炉内に設置し、前記炉内に水素ガスを含む混合ガスを導入して、前記基材に−2500V以上−1500V以下のバイアス電圧を印加し、ガスボンバード処理を60分以上行う工程と、
グラファイトターゲットを用いてダイヤモンドライクカーボン皮膜を前記基材の表面に被覆する工程と、
を含むことを特徴とする被覆工具の製造方法。 - 前記混合ガスは、水素ガスを4質量%以上含有する混合ガスであることを特徴とする請求項1に記載の被覆工具の製造方法。
- 前記混合ガスは、水素ガスを7質量%以上含有する混合ガスであることを特徴とする請求項2に記載の被覆工具の製造方法。
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