JP6510771B2 - チタン又はチタン合金のミーリング加工用の被覆切削工具及びその製造方法 - Google Patents
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硬質皮膜の密着性を改善するため、基材となるWC基超硬合金を改良した被覆切削工具が提案されている(特許文献3、4)。しかし、これらの基材は微粒層と粗粒層を積層させた構造からなり、組成及びWC平均粒径が異なるものを積層させて作製することから、一般的なWC基超硬合金の基材に比べて製造工程が複雑でコストが増加する。また、積層構造からなる基材ではチタン合金の断続切削であるミーリング加工においては強度が十分ではない。
すなわち本発明は、WC基超硬合金を基材とする切削工具の少なくとも刃先部に硬質皮膜が形成された被覆切削工具であって、前記基材はWC平均粒径が0.2〜3.0μmであり、かつ、単層構造であり、前記硬質皮膜はスパッタリング法で形成され、前記硬質皮膜の算術平均粗さRaが60nm以下であり、前記硬質皮膜の最大高さRzが3000nm以下であるチタン又はチタン合金のミーリング加工用の被覆切削工具である。
更には、硬質皮膜の膜厚は3.0μm以下であることが好ましい。
更には、硬質皮膜は金属部分の原子比率でチタンの含有比率が85%(原子%)以上であることが好ましく、更には窒化物であることが好ましい。
一般的な鋼等の切削加工で発生した熱は、大部分が切り屑に伝達し放熱される。一方、熱伝導率の低いチタン又はチタン合金の切削加工の場合、切り屑へ熱が伝達しづらく大部分の熱は切削工具及び被削材に伝達する。そして、本発明者の検討によると、チタン合金の切削加工で発生する熱は数ミリ秒で800℃程度まで上昇することを確認した。このことから、チタン又はチタン合金の切削加工では工具刃先の急激な温度上昇による熱衝撃が加わると推測される。
一般的に切削工具においては、物理蒸着法の中でも特に基材との密着性が優れるアークイオンプレーティング法によってセラミックスからなる硬質皮膜が被覆されている。しかし、チタン又はチタン合金の切削加工では、不可避的に含まれるドロップレットが起点となり切削初期から硬質皮膜の破壊が発生することが判明した。
本発明で規定する表面粗さは、非接触表面形状測定機を用いて測定する。測定個所は、刃先部付近の逃げ面またはすくい面における0.04mm2以上の測定面積から求めればよい。
本発明において単層構造とは、一種類の混合粉末を形成して得られる一般的なWC基超硬合金である。特許文献3、4のような組成やWC平均粒径が異なる混合粉末を2回に分けてプレス成型して形成する積層構造からなる基材では、チタン合金の断続切削であるミーリング加工においては強度が十分ではない。
本発明者の検討によると、硬質皮膜がチタンを含有することで熱伝導率が高まる傾向にあり切削加工時に硬質皮膜への蓄熱が少なくなり熱衝撃による皮膜の損傷が抑制され易くなる。これらの効果を得るには、硬質皮膜は金属部分の原子比率でチタンを85%(原子%)以上とすることが好ましい。更には、金属部分の原子比率でチタンを90%(原子%)以上が好ましい。更には、金属部分の原子比率でチタンを95%(原子%)以上がより好ましい。更には、硬質皮膜の金属部分がチタンからなることが好ましい。
また、硬質皮膜は、耐摩耗性および耐熱性が優れる傾向にある窒化物又は炭窒化物とすることが好ましい。更に好ましくは窒化物である。
ターゲットへ投入する平均の電力密度が低くなると硬質皮膜に含まれる空隙が増加して皮膜の密着性が低下する傾向にある。また、ターゲットへ投入する平均の電力密度が高くなると硬質皮膜の表面状態が粗くなる傾向にある。そのため、ターゲットへ投入する平均の電力密度を7.0〜15.0W/cm2とすることが好ましい。また、皮膜の密着性を高めて硬質皮膜をより平滑にするには、被覆時の基材温度は450〜550℃とすることが好ましい。また、被覆時の炉内圧力は0.40〜0.70Paとすることが好ましい。
ソリッドエンドミルは、JIS R 6001(研削といし用研磨材の粒度)の粒度で♯400または♯1000のダイヤモンド砥石を用いて加工した。
加工後、ZYGO製の非接触表面形状測定機(NewViewTH7300)を用いて、逃げ面の算術平均粗さRaと最大高さRzを測定した。測定面積は0.28mm×0.21mmとした。
成膜装置内のヒーターにより基材温度が500℃になった状態で90分間の加熱を行い、真空容器(チャンバー)内の圧力が4.5×10−3Paに達した後、Arガスを真空容器内に導入し、炉内の圧力を0.1Paとした。そして、基材に‐200Vの直流バイアス電圧を印加して、Arイオンによる基材のクリーニングを15分間実施した。
その後、容器内の圧力を1×10−3Paに真空排気して、基材の温度を500℃の一定とし、一定流量のArガス400ml/分のもとで、容器内の圧力が0.55PaになるようにN2ガスを導入した。そして、ターゲットへ投入する平均の電力密度を8.8W/cm2とし、基材に負圧のバイアス電圧を印加して硬質皮膜を被覆した。
なお、試料No.12、14、15は、硬質皮膜の表面を平滑にするために、株式会社ヤマシタワークス製エアロラップ(登録商標)装置(AERO LAP YT−300)を使用して表面のドロップレットを除去した。
切削方法:側面切削
被削材:チタン合金(Ti−6Al−4V 溶体化処理)
切込み:軸方向6mm、径方向0.3mm
切削速度:60m/min
一刃送り量0.04mm/tooth
切削油:水溶性切削油
切削距離:1m
本発明例を同一組成で比較した場合、膜厚が薄い方が皮膜内部に蓄熱し難いため硬質皮膜の損傷が抑制される傾向にあった。また、膜厚がほぼ同じである試料No.3、6、7の比較から、硬質皮膜の金属部分がチタンからなる窒化物は摩耗幅が特に少ない傾向にあった。これは、金属部分の原子比率でチタンを多く含有する硬質皮膜は、他の組成系の皮膜に比べて熱伝導率が高くなり皮膜に蓄積される熱が減少して皮膜への熱衝撃が減少したたためと推定される。
そして、本発明例の被覆切削工具の構造を確認するため断面観察を行った。図3に試料No.1の断面観察写真を示す。本発明例の基材は均一な組織形態であることが確認される。また、基材と硬質皮膜の界面が平滑であり、スパッタリング法で被覆した硬質皮膜であるため、アークイオンプレーティング法で被覆した硬質皮膜のようなドロップレットは確認されない。
従来、硬質皮膜の早期破壊が発生していたチタン合金の切削加工において、本発明例の被覆切削工具を用いることで硬質皮膜の損傷が抑制されることが確認された。
アークイオンプレーティング法で被覆した試料No.11〜15は、いずれも早期に硬質皮膜の割れが発生して皮膜損傷幅が大きくなった。試料No.12、14、15は表面を平滑化したが、硬質皮膜の内部に含まれるドロップレットが起点となり皮膜破壊が発生した。
硬質皮膜を被覆していない試料No.16は、エッジダレが発生した。
Claims (7)
- WC基超硬合金を基材とする切削工具の少なくとも刃先部に硬質皮膜が形成された被覆切削工具であって、前記基材はWC平均粒径が0.2〜3.0μmであり、かつ、単層構造であり、前記硬質皮膜はスパッタリング法で形成され、前記硬質皮膜は算術平均粗さRaが60nm以下であり、最大高さRzが3000nm以下であり、前記硬質皮膜は金属部分の原子比率でチタンを85%(原子%)以上を含有し、前記硬質皮膜の膜厚は0.7〜5.0μmであることを特徴とするチタン又はチタン合金のミーリング加工用の被覆切削工具。
- 前記硬質皮膜は算術平均粗さRaが60nm以下の基材に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のチタン又はチタン合金のミーリング加工用の被覆切削工具。
- 前記硬質皮膜の膜厚が3.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のチタン又はチタン合金のミーリング加工用の被覆切削工具。
- 前記硬質皮膜は窒化物であることを特徴とする請求項3に記載のチタン又はチタン合金のミーリング加工用の被覆切削工具。
- WC平均粒径が0.2〜3.0μmの単層構造からなるWC基超硬合金を基材とする切削工具の少なくとも刃先部を算術平均粗さRaが60nm以下にする工程と、
前記基材の表面に算術平均粗さRaが60nm以下になるよう硬質皮膜をスパッタリング法で被覆する工程と、を有し、前記硬質皮膜は金属部分の原子比率でチタンを85%(原子%)以上を含有し、前記硬質皮膜の膜厚は0.7〜5.0μmであることを特徴とするチタン又はチタン合金のミーリング加工用被覆切削工具の製造方法。 - 前記スパッタリング法で膜厚が3.0μm以下の硬質皮膜を被覆することを特徴とする請求項5に記載のチタン又はチタン合金のミーリング加工用被覆切削工具の製造方法。
- 前記硬質皮膜は窒化物であることを特徴とする請求項5に記載のチタン又はチタン合金のミーリング加工用被覆切削工具の製造方法。
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