JP5360603B2 - 非晶質炭素被覆部材の製造方法 - Google Patents

非晶質炭素被覆部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐摩耗性、摺動特性および表面保護機能向上のため、機械部品、金型、切削工具、摺動部品などに用いられる、非晶質炭素被覆部材の製造方法に関するものである。
非晶質炭素膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボン硬質膜、a-C、a-C:H、i-C等とも称されている、非晶質の炭素膜または水素化炭素膜である。非晶質炭素膜は、高硬度で平面平滑性に優れ、摩擦係数が低いといった優れた特徴を有するため、耐摩耗性、低摩擦係数が要求される、機械部品、金型、切削工具、摺動部品などへの応用が期待されており、一部の製品で実用化されている。
非晶質炭素膜を基材に被覆する方法としては、CH4等の炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法や、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法などが用いられているが、基材と被膜の密着性が乏しいため、さまざまな密着性を改善する方法が報告されている。非晶質炭素膜の密着性改善のための一般的な手法として、基材と非晶質炭素膜の間に様々な中間層を形成する方法が従来から試みられており、例えば特許文献1(特開昭64−79372号公報)では、基材上に気相合成法により炭化チタニウムからなる中間層を被覆した後、気相合成法により非晶質炭素膜を被覆する方法が示されている。また、基材上に中間層を用いずに直接非晶質炭素膜を被覆する場合の基材の前処理として、成膜装置内にArガスを導入し、基材に負のバイアスを印加し、Arグロー放電を発生させ、基材表面をArイオンでエッチングした後に、非晶質炭素膜を基材上に被覆する方法が報告されている。
特開昭64−79372号公報
基材表面をArイオンエッチングした後に、非晶質炭素膜を基材上に被覆する方法では、Arイオンによるエッチング効果が低く、機械部品や切削工具、金型等として実用可能な密着性が得られない。また炭化チタニウムからなる中間層を基材と非晶質炭素膜の間に形成する方法では、非常に高い面圧下で使用される機械部品や、切削工具、金型に対しては、密着性が不充分であり、非晶質炭素膜を応用できる分野が限られていた。
本発明は、非晶質炭素膜の密着性を改善した、機械部品、切削工具、金型等に応用が可能な高い密着性を有する非晶質炭素被覆部材を得ることを目的とする。
すなわち、非晶質炭素膜を基材上に被覆するための基材の前処理として、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4から選択される1種以上のガスを少なくとも含む雰囲気ガス中でプラズマを発生させることによりガスをイオン化し、基材に負のバイアス電圧を印加することにより、基材表面にガスイオンを照射する方法、あるいは周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素のから選択された1種以上の元素のイオン存在下にて、基材に負のバイアス電圧を印加することにより、基材表面にイオンを照射する方法、あるいはH2、He、Ne、Ar、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4から選択された1種以上のガスを少なくとも含む雰囲気中において、プラズマを発生することによりガスをイオン化し、基材に負のバイアス電圧を印加することにより、ガスイオンおよび周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素から選択された1種以上の元素のイオンを含むイオンを照射する方法、を行うことが、非晶質炭素膜の基材との密着性を著しく高める効果があることを見いだした。
本発明は基材との密着性に優れた非晶質炭素膜を得るための基材の前処理方法に特徴があり、基材に負のバイアスを印加することにより、基材表面にイオンを照射するが、大きく分けて次のような第一から第三の方法による。
第一の方法は、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4から選択された1種以上のガスを少なくとも含む雰囲気中でプラズマを発生させガスをイオン化し、基材に負のバイアス電圧を印加することにより、基材表面をガスイオンで照射した後、基材上に非晶質炭素膜を被覆することを特徴とする。本発明で使用するKr、Xeは一般にガスイオンエッチングに用いられるArよりも質量数が大きいため、基材のエッチング効果が高い。このため、これらのガスイオンで基材を照射した後に非晶質炭素膜を被覆すると、極めて良好な密着力が得られる。あるいはCH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4も用いることができる。これらのガスをイオン化して発生するイオンは還元能力が高いため、イオン衝撃によるエッチングに加えて、化学反応により基材表面の酸化層が効率良く除去できるという効果もある。
これらのガスは単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いることも可能である。また、これらのガスに必要に応じてAr、H2、He、N2などのガスを添加して用いてもよい。
ガスをイオン化する方法としては、高周波プラズマ、直流プラズマ、パルス直流プラズマ、μ波プラズマなどのプラズマや熱フィラメント法などの公知の手法を用いることができる。
雰囲気ガスの圧力としては、0.05Pa以上、20Pa以下であることが望ましい。0.05Paより低い圧力ではイオン密度が低すぎ、20Paより高いガス圧力では平均自由行程が短くなるため、イオンが基材に到達するまでにエネルギーを失ってしまうため、効果的なエッチングができなくなる。1Pa以上、10Pa以下であればより望ましい。
第二の方法は、周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素から選択される1種以上の元素のイオン存在下にて、基材に負のバイアス電圧を印加することにより、基材表面にイオンを照射した後、基材上に非晶質炭素膜を被覆することを特徴とする。これらの元素はArよりもイオン化エネルギーが低いので高密度のプラズマが得られることから、イオンエッチングの効果が高い。さらに、周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素のなかでArよりも質量数が大きい元素は、高密度のプラズマが得られることに加えて、質量数が高いことにより高いエッチング効果が得られる。
第三の方法は、ガスイオンの照射と第二の方法を併用したもので、H2、He、Ne、Ar、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4より選ばれた1種類のガスを少なくとも含む雰囲気中において、ガスイオンおよび第二の方法に記載のイオン照射処理を行うことを特徴とする。この方法ではガスイオンと第二の方法に記載のイオンの両方でエッチングを行うため、ガスイオンの照射、あるいは第二の方法を単独で行うよりも、単位時間あたりに基材に照射されるイオン数が多いためエッチング効果が高く、良好な密着性が得られる。
第三の方法では、第一の方法に記載のガスに加えて、H2、He、Ne、Arガスも使用することができる。これらのガスは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。また、これらのガスにN2などのガスを添加してもよい。
第三の方法における雰囲気ガスの圧力としては、0.05Pa以上、5Pa以下であることが望ましい。0.05Paより低いガス圧力ではガスイオン密度が低くすぎてガスイオンによるエッチング効果が低くなり、5Paより高いガス圧力では平均自由行程が短いため、周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素イオンが基材に到達する前にエネルギーを失ってしまうため、これらのイオンによるエッチング効果が小さくなり効果的でない。雰囲気ガスの圧力が、0.5Pa以上、2Pa以下の範囲であれば、エッチング効果が最も高くなるため、より望ましい。
第二、第三の方法においては、先にあげた元素の中でも、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Cを用いることが、エッチング効果が高いこと、非磁性材料のため、スパッタ蒸発源やアークイオン蒸発源をイオン源として用いる場合に磁場による電子閉じ込め効果により高いイオン密度が得られること、原料が安価で入手しやすいことなどの理由から特に望ましい。これらの元素は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いることもできる。
イオンの発生方法としては、スパッタ蒸着源、真空アーク蒸着源などのイオン化蒸発源、電子ビームやヒーター加熱により固体原料を蒸発させ、高周波プラズマや直流プラズマによりイオン化させるイオンプレーティング装置、有機金属などの液体あるいはガスを原料に用いて、各種イオン源やプラズマを用いてイオン化する方法など、公知の手法を用いることができる。これらの中でも、イオンプレーティング装置、スパッタ蒸発源、真空アーク蒸着源によりイオンを発生させるとイオン化率が高く、高いイオン密度が得られるため、特に望ましい。スパッタ蒸発源と真空アーク蒸発源は、周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素イオンとガスイオンを併用する第三の手法において、雰囲気ガスも同時にイオン化することができるため、ガスをイオン化する手段を別に設ける必要がないという利点もある。
イオン照射処理中はイオン衝撃により基材の温度が上昇するが、非晶質硬質炭素膜の成膜を開始する時の基材温度が0℃以上、500℃以下であれば、一応は非晶質炭素膜を被覆することが可能である。基材の温度が500℃より高いと膜質がグラファイトに近くなり、膜の硬度が低下したり、極端に密着力が低下してしまう。非晶質炭素膜の被覆のために成膜を開始する時の基材温度が0℃以上、300℃以下である時に最も高い密着力が得られる。基材温度が300℃よりも高いと、成膜初期にグラファイトが生成し、基材と非晶質炭素膜の密着力が低下してしまう。基材温度が0℃より低いと、基材表面に雰囲気中のガスが吸着しやすくなり、基材と非晶質炭素膜の密着力が低下する。イオン照射後、この温度範囲まで基材を冷却した後に、非晶質炭素膜の成膜を開始しても良いが、基材冷却時に基材表面が汚染され密着力低下の原因となるため、イオン照射時に基材の温度が300℃より上昇しないように、イオン照射の条件を設定するか、基材を冷却しながらイオン照射することがより望ましい。また、基材に一部のダイス鋼やCr-Mo鋼などの低温焼き戻しの鋼材を用いる場合には、基材の軟化を防止するため、成膜開始時の基材温度が0℃以上、200℃以下、より望ましくは0℃以上、150℃以下であることが望ましい。
本発明では、基材に負のバイアス電圧を印加することにより、正の電荷を持つガスイオンあるいは元素イオンを加速して基材に衝突させて、基材をエッチングする。エッチング時の基材に印加する負のバイアス電圧が300V以上、1500V以下であることが望ましい。負のバイアス電圧が300Vより低い電圧では、イオンが十分に加速されないため、基材表面をエッチングすることができず、負のバイアス電圧が1500よりも高い電圧では基材の温度が上昇しすぎるため望ましくない。イオンの密度が低い条件や、圧力が高く平均自由行程が短い条件でエッチングを行う場合は、基材に印可する負のバイアス電圧において300V以上、2500V以下の範囲を用いることも可能である。
本発明においては、イオン照射処理と非晶質炭素膜の被覆を同一真空槽で行うか、あるいはイオン照射処理用真空槽と非晶質炭素膜の被覆用真空槽の間に真空搬送路を設けることにより、真空中で連続的に処理する必要がある。これは、イオン照射後の基材が非晶質炭素膜被覆前に大気にさらされると、基材表面の酸化や分子の吸着による汚染が生じ、イオン照射の効果がなくなってしまうためである。
非晶質炭素膜の被覆方法としては、プラズマCVD法や、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法など、公知のいずれの方法も用いることができるが、これらの中でもスパッタ蒸着法、真空アーク蒸着法は、機械部品、金型、切削工具などの応用に適した、耐摩耗性に優れ、高硬度の非晶質炭素膜が被覆可能なため、特に望ましい。また、スパッタ蒸着法、真空アーク蒸着法は炭素原料のイオン化率が高く、また比較的低い雰囲気圧力中で被膜を被覆するため、基材に到達する炭素原料のイオンのエネルギーが高いため、イオンの基材への打ち込み効果などにより、より高い密着力の非晶質炭素膜が被覆可能であるという利点もある。
本発明の非晶質炭素膜はヌープ硬度(Hv)が、1200kg/mm2以上、8000kg/mm2以下であることが望ましい。ヌープ硬度が1200kg/mm2より低いと、耐摩耗性が低く、使える用途が制限されてしまい、8000kg/mm2よりヌープ硬度が高いと被膜の内部応力が高すぎて被膜が剥離しやすくなるため望ましくない。
硬度の測定は、押し込み式で行う。ダイヤモンド製のヌープ圧子を用い、荷重50g、荷重負荷時間10秒間とし、測定点10点の平均値とする。被膜表面の凹凸が大きく圧痕の形状が見にくい時は、#8000のダイヤモンドペーストでバフ研摩を施し、圧痕形状が観察できるようにする。
非晶質炭素膜の厚みは、0.05μm以上、10μm以下であることが望ましい。非晶質炭素膜の厚みが0.05μmより薄いと、非晶質炭素膜自体の低摩擦係数、高硬度といった特性が発揮できず、10μmよりも厚いと、被膜表面粗さが粗くなりすぎて摩擦係数が増加したり、被膜が剥離しやすくなるため、実用には適さない。
本発明で用いる基材の材質に関しては、特に限定されない。窒化ケイ素、窒化アルミ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素などのセラミックスや、高速度鋼、ステンレス鋼、SKD等の鉄系合金、アルミニウム合金、鉄系焼結体、タングステンカーバイト系金属の超硬合金、ダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体など、用途に応じて用いることができる。
以上、説明したように本発明の非晶質炭素膜の被覆方法を用いれば、基材との密着性に優れた非晶質炭素膜を被覆することが可能となり、機械部品、工具、金型への応用が期待できる。
高周波プラズマCVD装置の概略図である。 スパッタ蒸着装置の概略図である。 真空アーク蒸着装置の概略図である。 イオンプレーティング装置の概略図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(参考例1)
基材に対しガスイオン照射処理を行った後に、非晶質炭素膜を被覆した。基材には、JIS規格K10のタングステンカーバイト系超硬合金、SUS304、SCM415、SKD11を使用した。基材は表面を清浄にするために、アセトン中で超音波洗浄を10分以上行ったのちに、真空槽内の基材ホルダに装着した。
イオン照射処理の雰囲気ガスとしては、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4を使用した。イオン化手法としては高周波プラズマ、直流プラズマを用いた。非晶質炭素膜の被覆方法としては、高周波プラズマCVD法、スパッタ蒸着法、真空アーク蒸着法を用いた。
高周波プラズマCVD装置を図1に示す。この装置は、真空槽1内に水平板状の基材ホルダ2を具え、基材ホルダ2には、高周波電源3および直流電源4が接続されている。そして、真空槽1はガス導入口5とガス排気口6を具えている。
高周波プラズマCVD装置でのイオン照射方法、非晶質炭素膜の被覆方法を以下に示す。真空槽1内の基材ホルダ2に基材7をセットした後、装置内を0.002Pa以下にガス排気口6から真空排気する。雰囲気ガスとして、KrまたはXeまたはCH4をガス導入口5より導入し、真空槽1内が所定の圧力になるようにする。そして、基材ホルダ2に高周波電源3により高周波電力500Wを、直流電源4により直流電圧を印加し、基材ホルダに所定の負のバイアスを印加する。これにより、高周波プラズマによりイオン化された正の電荷を持つ雰囲気ガスのイオンが基材7に衝突し、基材表面の汚れや酸化物層がエッチングにより除去される。その後、真空槽1内を真空排気した後に、真空槽1内が10Paの圧力になるようにガス導入口5よりCH4ガスを導入し、高周波電源3により基材ホルダ2に高周波電力400Wを投入し、非晶質炭素膜を被覆した。成膜開始時の基材温度は80℃以下であった。
スパッタ蒸着装置を図2に示す。この装置は、真空槽8内に水平円盤状の回転テーブル9を具え、この回転テーブル9に垂直に固定された基材ホルダ10を具える。基材ホルダ10を挟む対向する真空槽側壁にはスパッタ蒸発源11が設置され、各スパッタ蒸着源11は高周波電源12に接続される。スパッタ蒸発源11にはターゲット13が装着されている。また、基材ホルダ10には回転テーブル9に接続された直流電源14により所定の負のバイアス電圧を付与することができる。そして、真空槽8はガス導入口15とガス排気口16とが設けられている。
スパッタ蒸着装置でのイオン照射方法、非晶質炭素膜の被覆方法を以下に示す。スパッタ蒸発源11は1基のみ使用し、ターゲット13には固体炭素を用いる。基材ホルダ10に基材17をセットした後、装置内を0.002Pa以下にガス排気口16から真空排気する。雰囲気ガスとして、C2H2またはC2H4をガス導入口15より導入し、真空槽8内が所定の圧力になるようにする。その後基材ホルダ10に所定のバイアス電圧を印加し、直流プラズマを発生させ、ガスイオンの基材17への衝突により、基材表面の汚れや酸化物層をエッチング除去する。その後、真空槽8内を真空排気した後に、真空槽8内が1Paの圧力になるようにガス導入口15よりCH4ガスとArガスを導入する。CH4ガスとArの分圧はそれぞれ0.3Paと0.7Paである。固体炭素ターゲットを装着したスパッタ蒸発源11に高周波電力400Wを投入し、基材ホルダ10に−100Vのバイアス電圧を印加し、回転テーブル9を5rpmで回転させながら、非晶質炭素膜を被覆した。成膜開始時の基材温度は60℃以下であった。
真空アーク蒸着装置を図3に示す。この装置は、真空槽18内に水平円盤状の回転テーブル19を具え、この回転テーブル19に垂直に固定された基材ホルダ20を具える。基材ホルダ20を挟む対向する真空槽側壁にはターゲット21(真空アーク蒸発源)が設置され、各ターゲット21は直流電源22に接続される。また、基材ホルダ20には回転テーブル19に接続された直流電源23により所定の負のバイアス電圧を付与することができる。そして、真空槽18はガス導入口24とガス排気口25とが設けられている。
真空アーク蒸着装置でのイオン照射方法、非晶質炭素膜の被覆方法を以下に示す。ターゲット21は1基のみ使用し、ターゲット21として固体炭素を用いる。基材ホルダ20に基材26をセットした後、装置内を0.002Pa以下にガス排気口25から真空排気する。雰囲気ガスとして、C6H6またはCF4をガス導入口24より導入し、真空槽18内が所定の圧力になるようにする。その後基材ホルダ20に所定のバイアス電圧を印加し、直流プラズマを発生させ、ガスイオンの基材26への衝突により、基材表面の汚れや酸化物層をエッチング除去する。その後、真空槽18内を真空排気した後に、真空槽18内が1Paの圧力になるようにガス導入口24よりArガスを導入する。 基材ホルダ20に−100Vのバイアス電圧を印加し、固体炭素ターゲットにカソード電流50Aを流してアーク放電を発生させ、回転テーブル19を5rpmで回転させながら、非晶質炭素膜を被覆した。成膜開始時の基材温度は75℃以下であった。
硬度測定は、ダイヤモンド製のヌープ圧子を用い、荷重50g、荷重負荷時間10秒間とし、測定値10点の平均値を採用した。被膜表面の凹凸が大きく圧痕の形状が見えにくい時は、#8000のダイヤモンドペーストでバフ研摩を施し、圧痕形状が観察できるようにした。
被膜の基材に対する密着性は、ロックウエル剥離試験および打撃試験により評価した。ロックウエル剥離試験には、ロックウエルCスケール硬度測定用のダイヤモンド圧子を用い、試験荷重150kgfで被膜表面から圧子を押し付けてできた圧痕まわりの剥離状況を光学顕微鏡で観察した。測定は各試料につき5回行った。
打撃試験は、試料の被膜を形成した面に対し、直径1インチのタングステンカーバイト系超硬合金製球を用い仕事量10Jで400回打撃を加え、打痕およびその周辺の剥離状況を光学顕微鏡で観察した。
イオン照射処理と非晶質炭素膜の被覆条件を表1に、評価結果を表2にまとめる。いずれの方法においても、ロックウエル剥離試験、打撃試験ともに剥離は見られず、本発明の手法で被覆した非晶質炭素膜は基材に対し良好な密着性を示した。
Figure 0005360603
Figure 0005360603
(実施例2)
基材に対し周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素イオンによるイオン照射、あるいは周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素イオンとガスイオンによるイオン照射を行った後に、非晶質炭素膜を被覆した。基材は参考例1と同じものを使用し、参考例1と同じ洗浄を行った後に、真空槽内の基材ホルダに装着した。
周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素として、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Cを用いた。雰囲気ガスとしては、 H2、He、Ne、Ar、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4を用いた。イオン発生方法としては、イオンプレーティング装置、スパッタ蒸発源、真空アーク蒸発源を用いて発生させた。
イオンプレーティング装置を図4に示す。高周波コイル28に高周波電源29から高周波電力を入力することにより、ガス導入口30より導入した雰囲気ガスをプラズマ化する。フィラメント31から発生した電子ビームにより、るつぼ32中の固体原料33を加熱し、固体原料33を蒸発させる。蒸発した原料は雰囲気ガスのプラズマによりイオン化される。基材ホルダ34には直流電源35が接続されており、負のバイアスが印加できるようになっている。真空槽内は排気口36から真空排気されるようになっている。
イオンプレーティング装置でのイオン照射方法、非晶質炭素膜の被覆方法を以下に示す。固体原料33にはNbまたはTiまたはCrを用いた。基材ホルダ34に基材38をセットした後、装置内を0.002Pa以下にガス排気口36から真空排気する。雰囲気ガスとして、ArまたはHeまたはXeをガス導入口30より導入し、真空槽27内が所定の圧力になるようにする。その後高周波コイル28に高周波電力400Wを投入し、高周波プラズマを発生させる。基材ホルダ34に所定のバイアス電圧を印加しておき、固体原料33を電子ビームにより蒸発させ、シャッター37を開ける。蒸発した固体原料はプラズマ中でイオン化される。基材38はガスイオンおよびNbまたはTiまたはCrのイオンの衝突により、表面の汚れや酸化物層がエッチング除去される。その後、真空槽27内を真空排気した後に、真空槽27内が0.07Paの圧力になるようにガス導入口30よりCH4ガスを導入する。 基材ホルダ34に-500Vのバイアス電圧を印加し、高周波コイルに高周波電力400Wを投入し、非晶質炭素膜を被覆した。成膜開始時の基材温度は300℃以下であった。
スパッタ蒸発源を用いたイオン照射方法を以下に示す。図2に示したスパッタ蒸着装置を用い、スパッタ蒸発源11の1基をイオンエッチング用に使用した。イオンエッチング用のターゲット13にはHfまたはTaまたはMoまたはWまたはTiまたはVを用いた。基材ホルダ10に基材17をセットした後、真空槽8内を0.002Pa以下にガス排気口16から真空排気した。所定の雰囲気ガスをガス導入口15より導入し、真空槽8内を所定の圧力になるようにした。その後、回転テーブル9を5rpmで回転させながら基材ホルダ10に所定のバイアス電圧を印加するとともに、イオンエッチング用のスパッタ蒸発源11に高周波電力400Wを導入し、ターゲット13をスパッタしイオン化することにより、ガスイオンおよびターゲット元素のイオンを基材17へ衝突させ、基材表面の汚れや酸化物層をエッチング除去した。
その後、プラズマCVD法あるいはスパッタ蒸着法を用いて非晶質炭素膜を被覆した。プラズマCVD法を用いる場合は、イオン照射処理に用いたスパッタ蒸着装置と真空搬送路を介して接続されたプラズマCVD装置を使用し、プラズマCVD装置に基材を搬送後、参考例1に述べた方法で非晶質炭素膜を被覆した。スパッタ蒸着法を用いる場合は、イオン照射処理に用いたスパッタ蒸着装置を用い、あらかじめもう1基のスパッタ蒸発源に固体炭素ターゲットを装着しておき、参考例1で述べた方法で非晶質炭素膜を被覆した。非晶質炭素膜を被覆するために成膜開始する時の基材温度は150℃以下であった。
真空アーク蒸着装置でのイオン照射方法、非晶質炭素膜の被覆方法を以下に示す。図3に示す真空アーク蒸着装置を用い、ターゲット21の1基をイオン照射処理用に、もう1基を非晶質炭素膜の被覆用に使用した。イオン照射処理用のターゲット21には、TiまたはCrまたはVまたはZrまたは固体炭素を、非晶質炭素膜の被覆用のターゲット21には、固体炭素を用いた。イオン照射処理の雰囲気としてはH2またはArまたはAr+C2H4またはAr+C6H6またはAr+CF4をガス導入口24から導入するか、あるいは外部からのガス導入を行わずに行った。基材ホルダ20に基材26をセットした後、装置内を0.002Pa以下にガス排気口25から真空排気した。そして、ガス導入を行わないか、あるいは所定の圧力まで雰囲気ガスを導入した。 Ar+C2H4またはAr+C6H6またはAr+CF4を用いる場合、Arガスと炭化水素ガスの分圧比は50対50とした。その後、回転テーブル19を5rpmで回転させながら、基材ホルダ20に所定のバイアス電圧を印加するとともに、ターゲットにアーク電流50Aを流してアーク放電を発生させ、ターゲット元素のイオンあるいはターゲット元素のイオンとガスイオンを基材26へ衝突させ、基材表面の汚れや酸化物層をエッチング除去した。その後、真空槽18内を真空排気した後に、参考例1と同様にして真空アーク蒸着法により非晶質炭素膜を被覆した。非晶質炭素膜の成膜を開始する時の基材温度は250℃以下であった。
作製した試料は参考例1と同様に、ロックウエル剥離試験および打撃試験により、基材に対する非晶質炭素膜の密着性を評価した。
イオン照射処理と非晶質炭素膜被覆の条件を表3に、評価結果を表4にまとめる。いずれの方法においても、ロックウエル剥離試験、打撃試験ともに剥離は見られず、本発明の手法で被覆した非晶質炭素膜は基材に対し良好な密着性を示した。
Figure 0005360603
Figure 0005360603
(比較例1)
参考例1と同様にして、ガスイオン照射処理を行った基材上にプラズマCVD法、スパッタ蒸着法、真空アーク蒸着法により非晶質炭素膜を被覆した。ただし、雰囲気ガスにはArを用いた。
イオン照射処理と非晶質炭素膜被覆の条件を表5に、評価結果を表6にまとめる。本発明の実施例とは異なり、ロックウエル剥離試験、打撃試験ともに非晶質炭素膜の剥離が生じ、基材に対する密着性は低かった。
Figure 0005360603
Figure 0005360603
(参考例3)
ステンレス製のプランジャーの外周に参考例1−3の方法および比較例1−1方法で非晶質炭素膜を被覆した。比較例1−1の方法で非晶質炭素膜を被覆したプランジャーは、1時間の運転で膜の剥離が生じたが、参考例1−3の方法で非晶質炭素膜を被覆したプランジャーは、100時間運転後でも被膜の剥離は生じなかった。
(実施例4)
エンジン部品のカムの摺動面に、実施例2−8および比較例1−2の方法で非晶質炭素膜を被覆し、モータリング試験を行った。比較例1−2の方法で被覆した非晶質炭素膜は30分の運転で剥離が生じたが、実施例2−8の方法で被覆した非晶質炭素膜は200時間運転後でも剥離が生じなかった。
参考例5)
SUJ2製の軸の外周に、参考例2−16および比較例1-3の方法で非晶質炭素膜を被覆した。これをSUJ2製の軸受と組み合わせて使用したところ、比較例1−3の方法で被覆した非晶質炭素膜は1時間の使用で膜が剥離したが、参考例2−16の方法で被覆した非晶質炭素膜は100時間使用後でも剥離は生じなかった。
(実施例6)
JIS規格K10のタングステンカーバイト系超硬合金製のドリルに、実施例2−9および比較例1−2の方法で非晶質炭素膜を被覆した。これを用いアルミ材に対する穴あけ加工を行ったところ、比較例1−2の方法で被覆した非晶質炭素膜は穴あけ長1kmで剥離が生じたが、実施例2−9の方法で被覆した非晶質炭素膜は20kmでも剥離が生じなかった。
(実施例7)
SKD11製のリードフレーム曲げ加工用金型表面に、実施例2−5および比較例1−1の方法で非晶質炭素膜を被覆し、リードフレームの曲げ加工に使用した。比較例1−1の方法で被覆した非晶質炭素膜は、5000ショットで膜の剥離によるハンダメッキの溶着が発生したが、実施例2−5の方法で被覆したものは、100000ショットまで膜の剥離によるハンダメッキの溶着は発生しなかった。
1 真空槽
2 基材ホルダ
3 高周波電源
4 直流電源
5 ガス導入口
6 ガス排気口
7 基材
8 真空槽
9 回転テーブル
10 基材ホルダ
11 スパッタ蒸発源
12 高周波電源
13 ターゲット
14 直流電源
15 ガス導入口
16 ガス排気口
17 基材
18 真空槽
19 回転テーブル
20 基材ホルダ
21 ターゲット
22 直流電源
23 直流電源
24 ガス導入口
25 ガス排気口
26 基材
27 真空槽
28 高周波コイル
29 高周波電源
30 ガス導入口
31 フィラメント
32 るつぼ
33 原料
34 基材ホルダ
35 直流電源
36 ガス排気口
37 シャッター
38 基材

Claims (11)

  1. セラミックス、ダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体のいずれかからなる基材上に非晶質炭素膜を被覆する非晶質炭素被覆部材の製造方法であって、前記基材に負のバイアス電圧を印加することにより、基材表面に周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素から選択される1種以上の元素による元素イオンを照射した後、前記基材上に非晶質炭素膜を被覆することを特徴とする非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  2. セラミックス、ダイヤモンド焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体のいずれかからなる基材上に非晶質炭素膜を被覆する非晶質炭素被覆部材の製造方法であって、前記基材に負のバイアス電圧を印加することにより、H2、He、Ne、Ar、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4から選択される1種以上のガスを含む雰囲気ガスによるガスイオン、および周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素から選択される1種以上の元素による元素イオンを基材表面に照射した後、前記基材上に非晶質炭素膜を被覆することを特徴とする非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  3. 鉄系合金、アルミニウム合金、鉄系焼結体、タングステンカーバイト系金属の超硬合金のいずれかからなる基材上に非晶質炭素膜を被覆する非晶質炭素被覆部材の製造方法であって、前記基材に300V以上1500V以下の負のバイアス電圧を印加することにより、基材表面に周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素から選択される1種以上の元素による元素イオンを照射し、前記基材表面の汚れや酸化物層をエッチング除去した後、前記基材表面に前記元素の膜を形成することなく、前記基材上に非晶質炭素膜を被覆することを特徴とする非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  4. 鉄系合金、アルミニウム合金、鉄系焼結体、タングステンカーバイト系金属の超硬合金のいずれかからなる基材上に非晶質炭素膜を被覆する非晶質炭素被覆部材の製造方法であって、前記基材に300V以上1500V以下の負のバイアス電圧を印加することにより、H2、He、Ne、Ar、Kr、Xe、CH4、C2H2、C2H4、C6H6、CF4から選択される1種以上のガスを含み、かつ圧力が0.5Pa以上、2Pa以下の雰囲気ガスによるガスイオン、および周期律表第IIIa、IVa、Va、VIa、IIIb、IVb族元素から選択される1種以上の元素による元素イオンを基材表面に照射し、前記基材表面の汚れや酸化物層をエッチング除去した後、前記基材表面に前記元素の膜を形成することなく、前記基材上に非晶質炭素膜を被覆することを特徴とする非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  5. 雰囲気ガスの圧力が0.05Pa以上、5Pa以下であることを特徴とする、請求項2に記載の非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  6. 元素イオンの元素が、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Cから選択される1種以上の元素であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  7. イオンプレーティング装置、スパッタ蒸着源、あるいは真空アーク蒸着源により前記元素イオンを発生させることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材の製造方法
  8. 非晶質炭素膜の被覆のために成膜を開始する時の基材温度が0℃以上、300℃以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  9. 基材に印加する負のバイアス電圧を300V以上1500V以下にしてイオンを照射することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  10. 非晶質炭素膜の被覆方法がスパッタ法、真空アーク蒸着法であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  11. 非晶質炭素膜のヌープ硬度(Hv)が、1200kg/mm2以上8000kg/mm2以下であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材の製造方法。
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