JP6948049B2 - 窒化炭素膜の形成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、窒化炭素(CN)膜の形成方法に関し、特に、エンジン油やトランスミッション油等の潤滑油中で使用される摺動部品用途に適した窒化炭素膜、の形成方法に関する。
潤滑油中で使用される摺動部品用途に適した窒化炭素膜およびその形成方法として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、被処理物としての摺動部品の表面に、水素含有量が10at%以下のアモルファスカーボン膜またはダイヤモンド多結晶膜が気相合成によって形成される。この気相合成による被膜の形成後、さらに、プラズマ処理またはイオン注入によって0.5at%以上30at%以下の窒素が当該被膜に加えられる。これにより、窒化炭素膜が形成される。なお、この従来技術では、窒素に代えて酸素が加えられる場合があることも、開示されている。
この従来技術における窒化炭素膜は、潤滑油中での摩擦係数が0.07以下であり、つまり当該潤滑油中で良好な低摩擦性(固体潤滑性)を呈する。これは、窒化炭素膜の水素含有量が抑えられることで(理想的には水素含有量がゼロの水素フリーとされることで)、当該窒化炭素膜の表面に極性基が多く存在する状態となり、潤滑油に含まれる油性添加剤が当該窒化炭素膜の表面に物理吸着ないしは化学吸着し易くなるからである、とされている。また、この窒化炭素膜の表面硬さ(ビッカース硬さ)は1000HV以上であり、つまり高硬度な、換言すれば高耐摩耗性の、当該窒化炭素膜が実現される。さらに、この窒化炭素膜の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは0.1μm以下であり、ラップ加工等の研磨加工によって当該表面粗さのさらなる低減が図られる場合があることも、開示されている。
なお、窒化炭素膜の水素含有量が多いと、例えば10at%を超えると、潤滑油中での摩擦係数が大きくなり、つまり当該潤滑油中で良好な低摩擦性が得られない。また、窒化炭素膜の窒素含有量が0.5at%よりも少ない場合も、潤滑油中で良好な低摩擦性が得られない。一方、窒素炭素膜の窒素含有量が30at%よりも多いと、耐摩耗性が不足する。これらのことから、窒素炭素膜の水素含有量は10at%以下であり、当該窒素炭素膜の窒素含有量は0.5at%以上30at%以下であるのが好ましい、とされている。
特開2000−297373号公報
ところで、この従来技術では、上述の気相合成によって形成された被膜に窒素を加えるための処理の具体例として、ラジカルイオンビームを当該被膜が形成された被処理物の表面(被処理面)に照射する態様のプラズマ処理が、開示されている。しかしながら、このような態様のプラズマ処理は、同時に1つまたは少数の被処理物しか処理することができず、つまり生産性が低い、という欠点を有する。しかも、このプラズマ処理は、被処理面が平面状の被処理物にのみ対応可能であり、被処理面が曲面状や複雑な形状の被処理物には対応することができない。さらに、当該プラズマ処理は、被処理面の寸法が比較的に小さい被処理物にのみ対応可能であり、被処理面の寸法が比較的に大きい被処理物には対応することができない。このように被処理物の被処理面の形状および寸法が制限されることは、従来技術における当該被処理物の具体例として、直径が30mm、厚みが4mmの円板状の摺動部材(アジャスティングシム)が開示されている一方、それ以外の特段な例示がないことからも、分かる。
そこで、本発明は、潤滑油中で低摩擦性および高耐摩耗性を呈する窒化炭素膜を形成することができる、当該窒化炭素膜の新規な形成方法を提供することを、目的とする。また、この窒化炭素膜の形成方法において、生産性の向上を図ると共に、被処理面の形状が複雑な被処理物や被処理面の寸法が比較的に大きい被処理物にも対応できるようにすることも、本発明の目的とするところである。
この目的を達成するために、本発明は、マグネトロンカソードと、被処理物とが、設けられた上記真空槽の内部に窒素ガスを導入するガス導入過程を、具備する。マグネトロンカソードは、炭素製の概略矩形平板状のターゲットの被スパッタ面と上記被処理物の被処理面とが互いに対向するように該ターゲットを有し、該ターゲットを上記被スパッタ面を露出させた状態で覆い上記真空槽に電気的に接続されているアースシールドを有している。本発明は、真空槽を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力を供給するスパッタ電力供給過程も、具備する。このスパッタ電力が供給されると、窒素ガスの粒子が放電して、グロー放電によるプラズマが発生する。このとき、マグネトロンカソードが備える磁石によって形成される磁界の作用を受けて、プラズマ中の電子(2次電子)が螺旋運動(サイクロイド運動またはトロコイド運動)し、これにより、当該電子が窒素ガスの粒子に衝突する頻度が増大して、ターゲットの被スパッタ面の近傍におけるプラズマの密度が向上する。そして、このプラズマ中のイオンがターゲットの被スパッタ面に衝突することによって、当該被スパッタ面から炭素粒子が叩き出され、つまり当該被スパッタ面がスパッタされる。この炭素粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔して、当該被処理面に付着する。これと同時に、窒素ガスの粒子もまた、被処理物の被処理面に付着する。この結果、被処理物の被処理面に、炭素粒子と窒素ガスの粒子とを成分とする窒化炭素膜が形成される。即ち、本発明によれば、マグネトロンスパッタ法および反応性スパッタ法によって窒化炭素膜が形成される。さらに、本発明は、真空槽を陽極とし、被処理物を陰極として、これら両者にバイアス電力を供給するバイアス電力供給過程を、具備する。このバイアス電力の供給によって、炭素粒子のうちのイオン、いわゆる炭素イオンが、被処理物の被処理面に引き寄せられる。これと同様に、窒素ガスの粒子のうちのイオン、つまり窒素イオンもまた、被処理物の被処理面に引き寄せられる。このようにイオンが被処理物の被処理面に積極的に引き寄せられることによって、当該被処理物の被処理面に形成される窒化炭素膜の性状の制御が可能となり、とりわけ当該窒化炭素膜の高硬度化が図られる。また、当該窒化炭素膜の形成速度の向上も図られる。即ち、本発明によれば、上述のマグネトロンスパッタ法および反応性スパッタ法に加えて、バイアススパッタ法も採用(併用)されている。
その上で、本発明は、上記スパッタ電力供給過程と前記バイアス電力供給過程と並行して、熱電子放出過程と、アーク放電誘起過程と、をさらに具備する。このうちの熱電子放出過程では、上記被スパッタ面と上記被処理面との間に上記ターゲットの長さ方向に沿って上記被スパッタ面と5mm乃至50mmの間隔をおいて設けられた1本の線状フィラメントに熱電子放出用電力を供給することによって該フィラメントを加熱させて熱電子を放出させる。そして、アーク放電誘起過程では、真空槽を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力が供給される。これにより、フィラメントから放出された熱電子が加速されて、当該フィラメントの周囲にアーク放電が誘起される。即ち、本発明によれば、上述のグロー放電によるプラズマに加えて、低電圧大電流のアーク放電による極めて高密度なプラズマが、フィラメントの周囲に発生し、つまりターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に発生する。また、フィラメントから放出された熱電子も、上述の磁界の作用を受けて螺旋運動する。これにより、プラズマの密度がさらに向上する。
このように本発明によれば、グロー放電によるプラズマに加えて、アーク放電による極めて高密度なプラズマが、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に発生する。従って、ターゲットの被スパッタ面から叩き出された炭素粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔する途中で、このアーク放電による極めて高密度なプラズマ空間を通過する。これにより、当該炭素粒子は、活性化され、少なくとも基底状態よりも高いエネルギを持つようになり、とりわけ効率的にラジカル化またはイオン化される。これと同様に、窒素ガスの粒子もまた、より活性化され、とりわけ効率的にラジカル化またはイオン化される。このラジカル化またはイオン化された粒子は、反応性に富むので、このような反応性に富む炭素粒子および窒素ガス粒子が効率的に生成されることによって、窒素炭素膜を形成する当該炭素粒子および窒素ガス粒子の相互の結合力が強くなり、当該窒化炭素膜の緻密化が図られる。そして特に、イオン化が効率的に行われることによって、被処理物の被処理面に積極的に引き寄せられるイオンの量も増えるので、その分、窒化炭素膜の性状の制御性が向上し、とりわけ当該窒化炭素膜のさらなる高硬度化が図られる。また、当該窒化炭素膜の形成速度の向上も図られる。この窒化炭素膜は、その形成時に水素や当該水素を含む原料が使用されないので、基本的には(言わば不純物程度にしか)水素を含まない(理想的には水素フリーである)。このような窒化炭素膜は、潤滑油中で良好な低摩擦性を呈する。このことは、後述する如く実験によっても確認された。即ち、本発明によれば、潤滑油中で低摩擦性および高耐摩耗性を呈する窒化炭素膜を形成することができる。
なお、ガス導入過程においては、さらにアルゴンガスが導入されてもよい。このようにアルゴンガスが導入されると、当該アルゴンガスの粒子もまた、プラズマによって活性化される。そして、この活性化されたアルゴンガス粒子のうちのイオン、つまりアルゴンイオンは、ターゲットの被スパッタ面をスパッタするのに貢献する。併せて、当該アルゴンイオンは、被処理物の被処理面にも引き寄せられ、当該被処理面に入射する。このときの衝撃(ボンバードメント効果)によって、窒化炭素膜が緻密化(言わば圧搾)され、この結果、当該窒化炭素膜のより一層の高硬度化が図られる。
ただし、アルゴンガスの流量が多すぎると、ターゲットの被スパッタ面にノジュールという煤状の物質が付着する。このノジュールは、異常放電の原因となり、また、窒化炭素膜の表面を粗化する原因ともなる。このノジュールの発生メカニズムは不明であるが、このたび、窒素ガスの流量とアルゴンガスの流量との比率が規制されることで、詳しくは窒素ガスの流量とアルゴンガスの流量との総和に対する当該窒素ガスの流量の比率が0.3以上とされることで、当該ノジュールの発生が抑制されることが、分かった。このことから、窒素ガスの流量とアルゴンガスの流量との総和に対する当該窒素ガスの流量の比率は0.3以上であるのが、好ましい。
また、真空槽の内部の圧力は0.01Pa〜1Paであるのが、好ましい。この真空槽の内部の圧力は、例えば窒化炭素膜の硬度に影響し、詳しくは当該圧力が低いほど、窒化炭素膜は高硬度化する傾向にある。ただし、この圧力が低すぎると、プラズマ(アーク放電およびグロー放電)が不安定となり、極端には当該プラズマが発生しなくなる。このことから、当該圧力は0.01Pa〜1Paであるのが、好ましい。
さらに、ガス導入過程においては、炭化水素系ガスが導入されてもよい。この炭化水素系ガスが導入されると、当該炭化水素系ガスの粒子は、プラズマによって炭素粒子と水素粒子とに分解される。このうちの炭素粒子は、被処理物の被処理面に付着して、窒化炭素膜の形成に寄与する。これにより、窒化炭素膜の形成速度(成膜速度)が向上し、ひいては生産性の向上が図られる。一方、水素粒子もまた、被処理物の被処理面に付着する。この結果、窒化炭素膜に水素が含有されることになる。このように窒化炭素膜に水素が含有されると、潤滑油中での当該窒化炭素膜の低摩擦性が損なわれることが懸念される。ただし、この窒化炭素膜に含有される水素量が比較的に少なければ、換言すれば炭化水素系ガスの流量が比較的に少なければ、潤滑油中での当該窒化炭素膜の低摩擦性が損なわれないことが、実験によって確認された。即ち、炭化水素系ガスの流量が適宜に制御されることで、窒化炭素膜の形成速度の向上が図られつつ、潤滑油中での当該窒化珪素膜の低摩擦性が維持される。
具体的には、炭化水素系ガスの流量は、窒素ガスの流量よりも少ないのが、好ましい。これにより、窒化炭素膜の形成速度の向上が図られつつ、潤滑油中での当該窒化炭素膜の低摩擦性が維持される。
加えて、被処理物が金属製である場合には、この被処理物の被処理面に第1中間層としてのチタン層またはクロム層を形成する第1中間層形成過程と、当該第1中間層の上に第2中間層としての炭化珪素層を形成する第2中間層形成過程と、がさらに具備されてもよい。そして、第2中間層の上に窒化炭素膜が形成されてもよい。この構成によれば、金属製の被処理物に対する窒化炭素膜の密着性の向上が図られる。
また、本発明においては、ターゲットの被スパッタ面に被処理物の被処理面の各部分が均等に対向するように当該ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との相対的な位置関係を変更する位置関係変更過程が、さらに具備されてもよい。この構成によれば、被処理面の形状が複雑な被処理物や被処理面の寸法が比較的に大きい被処理物であっても、当該被処理面に対して満遍なく均等に窒化炭素膜を形成することが可能となる。即ち、被処理面の形状が複雑な被処理物や被処理面の寸法が比較的に大きい被処理物にも適宜に対応することができる。
さらに、本発明においては、とりわけ上述の位置関係変更過程が具備される場合には、複数の被処理物が設けられてもよい。この構成によれば、同時に複数の、例えば比較的に多数の、被処理物を処理することができ、生産性の飛躍的な向上が図られる。
このように本発明によれば、潤滑油中で低摩擦性および高耐摩耗性を呈する窒化炭素膜を形成することができる。また、この窒化炭素膜の形成に際して、生産性の向上を図ると共に、被処理面の形状が複雑な被処理物や被処理面の寸法が比較的に大きい被処理物に対応することも可能である。
本発明の一実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置の概略構成を示す図解図である。 同マグネトロンスパッタ装置の内部を上方から見た図解図である。 同実施形態における第1マグネトロンカソードの概略構成を示す図解図である。 同実施形態における第1マグネトロンカソードとフィラメントとの相互の位置関係を示す図解図である。 同実施形態において形成される被膜の一構成例を示す図解図である。 同実施形態における成膜処理後の第1マグネトロンカソードの或る状態を示す外観写真である。 図5とは異なる条件による成膜処理後の第1マグネトロンカソードの状態を示す外観写真である。 同実施形態における実験の条件および結果を示す一覧である。 同実施形態における基板バイアス電圧と窒化炭素膜の硬度との関係を比較対照のものと並べて示すグラフである。
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明する。
本実施形態に係る窒化炭素膜の形成方法は、例えば図1および図2に示すマグネトロンスパッタ装置10によって実現される。このマグネトロンスパッタ装置10は、概略円筒形の真空槽12を備えている。この真空槽12は、当該概略円筒形の両端に当たる部分を上下に向けた状態で、つまり当該円筒形の中心軸Xaを垂直方向に延伸させた状態で、設置されている。また、当該概略円筒形の両端に当たる部分は、上面および下面として閉鎖されている。この真空槽12の内径は、例えば約1100mmであり、当該真空槽12内の高さ寸法は、例えば約800mmである。なお、この真空槽12の形状および寸法は、飽くまでも一例であり、後述する被処理物100の大きさや個数等の諸状況に応じて適宜に定められる。また、真空槽12自体は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304等のステンレス鋼製であり、基準電位としての接地電位に接続されている。
この真空槽12の壁部の適宜位置、例えば下面を成す壁部の中央よりも僅かに外方寄り(図1における左寄り)の位置には、排気口14が設けられている。そして、この排気口14には、真空槽12の外部において、図示しない排気管を介して図示しない排気手段としての真空ポンプが結合されている。なお、真空ポンプは、真空槽12内の圧力Pを制御する圧力制御手段としても機能する。加えて、排気管の途中には、図示しない自動圧力制御装置が設けられており、この自動圧力制御装置もまた、圧力制御手段として機能する。
さらに、真空槽12の側面を成す壁部の内側の適宜位置(図1および図2における右側の位置)に、当該真空槽12とは電気的に絶縁された状態で、第1のマグネトロンカソード16が配置されている。図3を併せて参照して、この第1マグネトロンカソード16は、概略矩形平板状の純度の高い(例えば99.99%以上の純度の)炭素(C)製のターゲット162と、この炭素製ターゲット162の一方主面である背面側に設けられた磁石ユニット164と、を有している。そして、磁石ユニット164は、磁界形成手段としての永久磁石166と、この永久磁石166を収容する筐体168と、を有している。さらに、永久磁石166は、炭素製ターゲット162の背面に密着しつつ当該炭素製ターゲット162の周縁に沿うように設けられた概略矩形枠状の一方磁極としての例えばN極166aと、このN極166aの内側において炭素製ターゲット162の背面に密着しつつ当該炭素製ターゲット162の長手方向に沿って延伸するように設けられた細長い概略直方体状の他方磁極としてのS極166bと、を有している。なお、炭素製ターゲット162の寸法は、例えばその長手方向(長さ寸法)が457mmであり、短手方向(幅寸法)が127mmであり、厚さ方向(厚さ寸法)が8mmである。また、永久磁石166のN極166aとS極166bとの間には、概略矩形溝状の間隙166cが設けられている。そして、筐体168には、当該筐体168を含む第1マグネトロンカソード16全体を冷却するための図示しない冷却手段としての例えば水冷機構が付属されている。
この第1マグネトロンカソード16は、炭素製ターゲット162の他方主面(前面)である被スパッタ面を真空槽12の中心軸Xaに向け、かつ、当該炭素製ターゲット162の長手方向が真空槽12の中心軸Xaに沿って延伸するように、つまり垂直方向に沿って延伸するように、配置されている。そして、この第1マグネトロンカソード16は、炭素製ターゲット162の被スパッタ面を除いて、換言すれば当該被スパッタ面を露出させた状態で、第1のアースシールド18によって覆われている。この第1アースシールド18は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304等のステンレス鋼製、である。そして、この第1アースシールド18は、第1マグネトロンカソード16とは電気的に絶縁されており、かつ、真空槽12と電気的に接続されている。なお、図2に示すように、真空槽12の壁部のうち第1マグネトロンカソード16および第1アースシールド18が設けられている部分12aについては、当該第1マグネトロンカソード16および第1アースシールド18が設けられるのに適当な構造とされるのが、好ましい。特に、当該部分12aについては、炭素製ターゲット162の交換を含む第1マグネトロンカソード16のメンテナンス時の作業性等を考慮して、引き戸状または開き戸状に開閉可能とされるのが、好ましい。
また、図1に示すように、第1マグネトロンカソード16は、真空槽12の外部において、スパッタ電力供給手段としての第1のスパッタ電源装置20に接続されている。そして、第1マグネトロンカソード16は、この第1スパッタ電源装置20から第1スパッタ電力Esとして接地電位を基準とする負電位の直流電力の供給を受ける。言い換えれば、真空槽12を陽極とし、第1マグネトロンカソード16を陰極として、これら両者に直流の第1スパッタ電力Esが供給される。なお、この第1スパッタ電力Esの供給源である第1スパッタ電源装置20は、当該第1スパッタ電力Esの電力値が一定となるように動作する定電力モードと、第1スパッタ電力Esの電圧成分である言わば第1スパッタ電圧(またはターゲット電圧とも言う。)Vsが一定となるように動作する定電圧モードと、当該第1スパッタ電力Esの電流成分である言わば第1スパッタ電流(またはターゲット電流とも言う。)Isが一定となるように動作する定電流モードと、の3つの動作モードを備えており、ここでは、定電力モードで動作するように設定されている。
加えて、第1マグネトロンカソード16の前方、詳しくは炭素製ターゲット162の被スパッタ面の前方に、熱陰極としてのフィラメント22が設けられている。このフィラメント22は、例えば直径が約1mmの直線状の線状体であり、素材としては、タングステン(W),タンタル(Ta),モリブデン(Mo),炭素等の高融点材料製である。ここで、図4を併せて参照して、当該フィラメント22は、上述した真空槽12の中心軸Xaと炭素製ターゲット162の被スパッタ面の(水平方向における)中心とを含む仮想の垂直面内に位置し、かつ、炭素製ターゲット162の被スパッタ面から所定の距離Dを置いた状態で当該被スパッタと平行を成すように、つまり垂直方向に延伸するように、設けられている。なお、ここで言う距離Dは、後述する如く5mm〜50mmが適当であり、例えば25mmとされている。また、フィラメント22の長さ寸法は、ターゲット162の長手方向の寸法と同等かそれ以上であり、厳密には当該ターゲット162の後述するエロージョン領域162aの長手方向の寸法と同等かそれ以上であり、例えば500mmとされている。加えて、図示は省略するが、フィラメント22の両端部またはいずれか一方の端部には、当該フィラメント22の直線状の状態を維持するために当該フィラメント22に適当な張力を付与する張力付与手段としての張力付与機構が設けられている。
改めて図1を参照して、フィラメント22は、真空槽12の外部において、熱電子放出用電力供給手段としてのカソード電源装置24に接続されている。そして、フィラメント22は、このカソード電源装置24から熱電子放出用電力としてのカソード電力、例えば交流電力Ec、の供給を受ける。これにより、フィラメント22は、2000℃以上に加熱されて、熱電子を放出する。なお、カソード電力Ecは、交流電力に限らず、直流電力であってもよい。
さらに、フィラメント22は、真空槽12の外部において、放電用電力供給手段としての放電用電源装置26に接続されている。そして、フィラメント22は、この放電用電源装置26から放電用電力Edとして接地電位を基準とする負電位の直流電力の供給を受ける。言い換えれば、真空槽12を陽極とし、フィラメント22を陰極として、これら両者に直流の放電用電力Edが供給される。なお、この放電用電力Edの供給源である放電用電源装置26は、上述の第1スパッタ電源装置20と同様、当該放電用電力Edの電力値が一定となるように動作する定電力モードと、当該放電用電力Edの電圧成分である言わば放電電圧Vdが一定となるように動作する定電圧モードと、当該放電用電力Edの電流成分である言わば放電電流Idが一定となるように動作する定電流モードと、の3つの動作モードを備えている。ただし、この放電用電源装置26は、定電圧モードで動作するように設定されている。
そして、真空槽12内のフィラメント22が設けられている位置よりも内側に注目すると、当該真空槽12内には、複数の被処理物100,100,…が配置される。具体的には、これら各被処理物100,100,…は、真空槽12の中心軸Xaを中心とする円の円周方向に沿って等間隔に配置されている。それぞれの被処理物100は、例えばドリル刃等のような細長い円柱状のものであり、垂直方向に沿って延伸するように、つまり真空槽12の中心軸Xaに沿う方向に延伸するように、保持手段としての適当なホルダ28によって保持されている。そして、それぞれのホルダ28は、回転駆動力伝達手段としてのギア機構30を介して、円盤状の公転台32の周縁近傍に結合されている。この公転台32の中心は、真空槽12の中心軸Xa上に位置しており、当該公転台32の中心には、真空槽12の中心軸Xaに沿って延伸する回転軸34の一方端が固定されている。そして、回転軸34の他方端は、真空槽12の外部において、回転駆動手段としてのモータ36のシャフト36aに結合されている。
即ち、モータ36が駆動して、当該モータ36のシャフト36aが例えば図1に矢印200で示す方向に回転すると、公転台32が同方向に回転し、つまり図2においても矢印200で示す方向に回転する。これに伴って、それぞれの被処理物100が真空槽12の中心軸Xaを中心として回転し、言わば公転する。併せて、それぞれのギア機構30による回転駆動力伝達作用によって、それぞれのホルダ28が、自身を通る垂直軸Xbを中心として例えば図1および図2のそれぞれに矢印202で示す方向に回転する。そして、このホルダ28自身の回転に伴って、当該ホルダ28によって保持されている被処理物100もまた、同じ方向に回転し、言わば自転する。なお、被処理物100の公転経路の直径(PCD;Pitch Circle Diameter)は、例えば約600mmである。そして、この被処理物100,100,…の公転速度(公転台32の回転速度)は、例えば0.5rpm〜1rpmである。これに対して、被処理物100の自転速度(垂直軸Xbを中心とするホルダ28自身の回転速度)は、例えば30rpm〜60rpmであり、つまり公転速度の60倍である。なお、図1および図2においては、12個の被処理物100,100,…(ホルダ28,28,…およびギア機構30,30,…)が設けられているが、この個数は一例であり、これ以外の個数であってもよい。
併せて、それぞれの被処理物100には、ホルダ28,ギア機構30,公転台32および回転軸34を介して、真空槽12の外部にあるバイアス電力供給手段としての基板バイアス電源装置38から基板バイアス電力Ebが供給される。この基板バイアス電力Ebは、その電圧成分である言わば基板バイアス電圧Vbの値が、接地電位を基準とする正電位のハイレベル値と、当該接地電位を基準とする負電位のローレベル値と、に交互に遷移する、いわゆるバイポーラパルス電力である。この基板バイアス電圧Vbのハイレベル値は、一定であり、例えば接地電位を基準として+37Vである。一方、基板バイアス電圧Vbのローレベル値は、任意に調整可能とされており、このローレベル値によって、当該基板バイアス電圧Vbの平均値(直流換算値)が任意に設定可能とされている。さらに、この基板バイアス電力Ebの周波数もまた、例えば50kH〜250kHの範囲内で任意に設定可能とされている。そして、当該基板バイアス電力Ebのデューティ比(基板バイアス電圧Vbの1周期において当該基板バイアス電圧Vbの値がハイレベル値となる期間の比率)もまた、任意に設定可能とされている。なお、ここでは、当該基板バイアス電力Edの周波数については、例えば100kHzとされ、デューティ比については、例えば30%とされる。
さらに、真空槽12の側面を成す壁部の内側の適宜位置であって、被処理物100,100,…の公転経路よりも外方の適当な位置、例えば真空槽12の中心軸Xaを挟んで上述の第1マグネトロンカソード16が設けられている位置とは反対側の位置(図1および図2における左側の位置)に、第2のマグネトロンカソード40が設けられている。この第2マグネトロンカソード40は、概略矩形平板状の純度の高い(例えば99.99%以上の純度の)チタン(Ti)製のターゲット402と、このチタン製ターゲット402の一方主面である背面側に設けられた磁石ユニット404と、を有している。なお、この第2マグネトロンカソード40のチタン製ターゲット402の外形および寸法は、例えば第1マグネトロンカソード16の炭素製ターゲット162の外形および寸法と同じである。そして、この第2マグネトロンカソード40の磁石ユニット404の外形および寸法を含む当該磁石ユニット404の構成は、第1マグネトロンカソード16の磁石ユニット164の構成と同じである。従って、このチタン製ターゲット402および磁石ユニット404を含む第2マグネトロンカソード40そのものについては、これ以上の詳細な説明を省略する。
この第2マグネトロンカソード40は、第1マグネトロンカソード16と同様、チタン製ターゲット402の他方主面(前面)である被スパッタ面を真空槽12の中心軸Xaに向け、かつ、当該チタン製ターゲット402の長手方向が真空槽12の中心軸Xaに沿って延伸するように、つまり垂直方向に沿って延伸するように、配置されている。そして、この第2マグネトロンカソード40は、チタン製ターゲット402の被スパッタ面を除いて、換言すれば当該被スパッタ面を露出させた状態で、第2のアースシールド42によって覆われている。この第2アースシールド42は、上述の第1アースシールド18と同様、例えばステンレス鋼製である。そして、この第2アースシールド42は、第2マグネトロンカソード40とは電気的に絶縁されており、かつ、真空槽12と電気的に接続されている。なお、図2に示すように、真空槽12の壁部のうち第2マグネトロンカソード40および第2アースシールド42が設けられている部分12bについても、第1マグネトロンカソード16および第1アースシールド18が設けられている部分12aと同様、当該第2マグネトロンカソード40および第2アースシールド42が設けられるのに適当な構造とされるのが、とりわけ引き戸状または開き戸状に開閉可能とされるのが、好ましい。
また、図1に示すように、第2マグネトロンカソード40は、真空槽12の外部において、第2のスパッタ電源装置44に接続されている。そして、第2マグネトロンカソード16は、この第2スパッタ電源装置44から第2スパッタ電力Es’として接地電位を基準とする負電位の直流電力の供給を受ける。言い換えれば、真空槽12を陽極とし、第2マグネトロンカソード40を陰極として、これら両者に直流の第2スパッタ電力Es’が供給される。なお、この第2スパッタ電力Es’の供給源である第2スパッタ電源装置44は、上述の第1スパッタ電源装置20と同様、定電力モードと定電圧モードと定電流モードとの3つの動作モードを備えており、ここでは、定電力モードで動作するように設定されている。
加えて、図1に示すように、真空槽12内の適宜位置、好ましくはフィラメント22の近傍の位置に、窒素(N)ガスを含む各種ガスを導入するためのガス導入手段としてのガス導入管46が設けられている。このガス導入管46は、真空槽12の壁部に固定されている。そして、このガス導入管46には、真空槽12の外部において、当該ガス導入管46を介して真空槽12内に導入される各種ガスの流通を個別に開閉するための開閉手段としての図示しない開閉バルブと、当該各種ガスの流量を個別に制御するための流量制御手段としての図示しないマスフローコントローラと、が設けられている。なお、ここで言う各種ガスとしては、窒素ガスの他に、アルゴン(Ar)ガス,水素(H)ガス,TMS(Tetra-Methyl Silane;Si(CH)ガスおよびアセチレン(C)ガスがある。
さらに、図示は省略するが、真空槽12の側面を成す壁部の内側の適宜位置であって、被処理物100,100,…の公転経路よりも外方の位置に、当該被処理物100,100,…を加熱するための被処理物加熱手段としての例えばカーボンヒータが設けられている。そして、このカーボンヒータは、真空槽12の外部において、当該カーボンヒータ用の電源装置に接続されている。なお、真空槽12の壁部のうちこのカーボンヒータが設けられている部分についても、上述の第1マグネトロンカソード16が設けられている部分12aおよび第2マグネトロンカソード40が設けられている部分12bと同様に、当該カーボンヒータが設けられるのに適当な構造とされるのが、好ましい。
さて、本実施形態によれば、このマグネトロンスパッタ装置10を用いて、例えば図5に示すような構成の窒化炭素膜、厳密には第1の中間層としてのチタン層52と、第2の中間層としての炭化珪素(SiC)層54と、主層としての窒化炭素層56と、がこの順番で積層された被膜50が、形成される。この積層構造の被膜50は、被処理物100(基材)が金属製である場合に、好適である。即ち、窒化炭素膜は、金属との密着性が低いので、被処理物100が金属製である場合には、まず、当該金属製の被処理物100との密着性の高い金属層であるチタン層52が、第1中間層として形成される。続いて、このチタン層52との密着性の高い炭化珪素層54が、第2中間層として形成される。その上で、主層としての窒化炭素層56が形成される。この主層としての窒化炭素層56は、炭化珪素層54との密着性が高いので、このような積層構造とされることによって、被処理物100が金属製である場合の当該窒化炭素層56を含む被膜50全体の密着性の向上が図られる。
この積層構造の被膜50の形成のために、まず、真空槽12内に被処理物100,100,…が設置され、つまりホルダ28,28,…に当該被処理物100,100,…が設置される。その上で、真空槽12内が真空ポンプによって排気され、例えば2×10−3Pa程度の圧力Pになるまで排気される。このいわゆる真空引きの後、または、この真空引きと並行して、モータ36が駆動され、被処理物100,100,…の自公転が開始される。そして、上述のカーボンヒータによって、被処理物100,100,…が例えば150℃程度にまで加熱される。これにより、被処理物100,100,…に含まれている不純物ガスが排出され、いわゆる脱ガス処理が行われる。
この脱ガス処理が所定時間(30分間〜1時間ほど)にわたって行われた後、カーボンヒータによる被処理物100,100,…の加熱が停止されて、次に、放電洗浄処理が行われる。この放電洗浄処理においては、フィラメント22にカソード電力Ecが供給される。これにより、フィラメント22が2000℃以上に加熱されて、当該フィラメント22から熱電子が放出される。併せて、フィラメント22に放電用電力Edが供給される。即ち、真空槽12を陽極とし、フィラメント22を陰極として、これら両者に当該放電用電力Edが供給される。これにより、陰極であるフィラメント22から放出された熱電子が、陽極である真空槽12の壁部に向かって、とりわけ当該フィラメント22に近い位置にあって真空槽12と同電位である第1アースシールド18に向かって、加速される。この状態で、ガス導入管46を介して真空槽12内にアルゴンガスが導入されると、加速された電子がアルゴンガスの粒子に衝突して、その衝撃により、当該アルゴンガス粒子が電離して、プラズマ300が発生する。ここで、フィラメント22の周囲を含む炭素製ターゲット162の被スパッタ面の近傍には、上述した永久磁石166による磁界が形成されているので、当該フィラメント22から放出された熱電子は、この磁界の作用を受けて螺旋運動する。これにより、熱電子がアルゴンガス粒子に衝突する頻度が増大して、プラズマ300が高密度化される。このようなプラズマ300の態様は、低電圧大電流のアーク放電である。さらに、ガス導入管46を介して真空槽12内に水素ガスが導入される。すると、この水素ガスの粒子もまた電離して、プラズマ300を形成する。なお、真空槽12内へのアルゴンガスの導入と、当該真空槽12内への水素ガスの導入とは、同時に開始されてもよい。
このようにアーク放電によるプラズマ300が発生している状態で、被処理物100,100,…に基板バイアス電力Ebが供給されると、当該プラズマ300中のアルゴンイオンおよび水素イオンがそれぞれの被処理物100の表面、厳密には露出した状態にある被処理面に、積極的に入射される。この結果、アルゴンイオンによるスパッタ作用と、水素イオンによる化学反応作用と、によって、それぞれの被処理物100の被処理面から不純物が取り除かれ、つまり放電洗浄処理が行われる。なお、それぞれの被処理物100は、上述の如く自公転しているので、この自公転の過程でプラズマ300に晒される状態にあるときに、当該放電洗浄処理を施される。この放電洗浄処理におけるアルゴンガスは、プラズマ300を発生されるための放電用ガスとして機能すると共に、当該放電洗浄処理を実現するための放電洗浄用ガスとしても機能する。このことは、水素ガスについても、同様である。
この放電洗浄処理においては、アルゴンガスの流量は、例えば50mL/minとされ、水素ガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.15Paに維持される。さらに、放電用電力Edは、例えば500Wとされる。具体的には、この放電用電力Edの電圧成分である放電電圧Vdが50Vとなるように、当該放電用電力Edの供給源である放電用電源装置26が上述の如く定電圧モードで動作する。この状態で、放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが10Aになるように、カソード電力Ecによってフィラメント22の加熱温度が制御され、つまり当該フィラメント22からの熱電子の放出量が制御される。加えて、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値Vbが−600Vとされる。因みに、この基板バイアス電圧Vbの平均値が−600Vであるときの当該基板バイアス電圧Vbのローレベル値は約−873V(=[−600V−{37V×0.3}]/0.7)である。また、このときの基板バイアス電力Ebの電流成分である基板バイアス電流Ibは、約4Aである。これは即ち、この約4Aという比較的に大きな基板バイアス電流Ibが被処理物100,100,…に流れていることを示しており、つまりそれだけ多くのイオンが当該被処理物100,100,…の被処理面に入射されていることを示しており、ひいてはそれだけ大きな放電洗浄処理効果(とりわけボンバードメント効果)が得られることを示している。
この放電洗浄処理が所定時間(約30分間)にわたって行われた後、第1中間層としてのチタン層52を形成するための成膜処理が行われる。そのために、フィラメント22へのカソード電力Ecの供給が停止されると共に、当該フィラメント22への放電用電力Edの供給が停止される。これにより、アーク放電によるプラズマ300が消失する。併せて、被処理物100,100,…への基板バイアス電力Ebの供給が停止されると共に、真空槽12内への水素ガスの導入が停止される。その上で、アルゴンガスの流量が200mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pが0.5Paに維持される。さらに、第2マグネトロンカソード40に第2スパッタ電力Es’が供給される。即ち、真空槽12を陽極とし、第2マグネトロンカソード40を陰極として、これら両者に当該第2スパッタ電力Es’が供給される。この第2スパッタ電力Es’の供給源である第2スパッタ電源装置44は、当該第2スパッタ電力Es’が一定になるように、例えば8kWになるように、定電力モードで動作する。
この第2スパッタ電力Es’の供給によって、アルゴンガス粒子が放電して、図示しないグロー放電によるプラズマが発生する。このとき、第2マグネトロンカソード40(磁石ユニット404)が備える図示しない永久磁石によって形成される磁界の影響を受けて、当該プラズマ中の電子が螺旋運動する。これにより、このプラズマ中の電子がアルゴンガス粒子に衝突する頻度が増大して、第2マグネトロンカソード40のチタン製ターゲット402の被スパッタ面の近傍における当該プラズマの密度が向上する。そして、このプラズマ中のアルゴンイオンがチタン製ターゲッ402の被スパッタ面に衝突することによって、当該被スパッタ面からチタン粒子が叩き出され、つまり当該被スパッタ面がスパッタされる。このチタン粒子は、被処理物100に向かって飛翔し、当該被処理物100の被処理面に付着する。この被処理物100の被処理面に付着したチタン粒子は徐々に堆積して、この結果、当該被処理物100の被処理面に第1中間層としてのチタン層52が形成される。即ち、チタン製ターゲット402を備える第2マグネトロンカソード40を用いたマグネトロンスパッタ法によって、当該チタン層52が形成される。そして、アルゴンガスは、放電用ガスとして機能する。なお、それぞれの被処理物100は、グロー放電によるプラズマに晒されているときに、つまりチタン製ターゲット402の被スパッタ面の近傍を通過するときに、その表面にチタン粒子が付着し、言わば実質的に成膜処理を施される。
このチタン層52を形成するための成膜処理によって所定の厚さの、例えば0.1μm〜1.0μmの範囲内で適当な厚さの、当該チタン層52が形成されると、続いて、第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理が行われる。そのために、第2マグネトロンカソード40への第2スパッタ電力Es’の供給が停止される。これにより、当該第2マグネトロンカソード40が備えるチタン製ターゲット402の被スパッタ面の近傍におけるグロー放電によるプラズマの発生が停止される。その上で、アルゴンガスの流量が50mL/minとされる。併せて、水素ガスが150mL/minという流量で真空槽12内に導入されると共に、TMSガスが60mL/minという流量で当該真空槽12内に導入される。そして、真空槽12内の圧力Pが0.3Paとされる。さらに、フィラメント22にカソード電力Ecが供給されることによって、当該フィラメント22が2000℃以上に加熱される。また、フィラメント22に放電用電力Edが供給される。この放電用電力Edは、例えば900Wとされる。具体的には、この放電用電力Edの電圧成分である放電電圧Vdが60Vとされ、この状態で、当該放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが15Aになるように、カソード電力Ecによってフィラメント22の加熱温度が制御される。加えて、被処理物100,100,…に基板バイアス電力Ebが供給される。この基板バイアス電力Ebは、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値Vbが−600Vとなるように制御される。
この第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理においては、上述の放電洗浄処理のときと同様、フィラメント22の周囲を含む炭素製ターゲット162の被スパッタ面の近傍に、アーク放電による極めて高密度なプラズマ300が発生する。このとき、アルゴンガスは放電用ガスとして機能し、水素ガスもまた放電用ガスとして機能する。そして、TMSガスは、珪素粒子と炭素粒子と水素粒子とに分解され、このうちの珪素粒子と炭素粒子とがそれぞれの被処理物100の被処理面に付着することで、当該被処理面に珪素粒子と炭素粒子との化合物である炭化珪素層54が形成される。即ち原料ガスとしてTMSガスを採用すると共に、アーク放電による極めて高密度なプラズマ300を利用したプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、当該炭化珪素層54が形成される。また、それぞれの被処理物100には基板バイアス電力Ebが供給されているので、珪素粒子のうちのイオン、つまり珪素イオンと、炭素粒子のうちのイオン、つまり炭素イオンとが、当該被処理物100の被処理面に積極的に引き寄せられる。これにより、炭化珪素層54の高硬度化が図られる。
このアーク放電によるプラズマ300を利用したプラズマCVD法によれば、炭化珪素層54を形成する珪素粒子と炭素粒子とが活性化され、少なくとも基底状態よりも高いエネルギを持つようになり、とりわけ効率的にラジカル化またはイオン化される。このラジカル化またはイオン化された粒子は、反応性に富むので、このような反応性に富む珪素粒子および炭素粒子が効率的に生成されることによって、炭化珪素層54を形成する当該珪素粒子および炭素粒子の相互の結合力が強くなり、当該炭化珪素層54の緻密化が図られる。また、当該炭化珪素層54の形成速度も向上する。因みに、20分間という比較的に短い成膜処理によって、0.2μmという厚さの炭化珪素層54が形成され、つまり比較的に高い速度で当該炭化珪素膜54が形成される。さらに、とりわけイオン化が効率的に行われることによって、それぞれの被処理物100の被処理面に引き寄せられる珪素イオンおよび炭素イオンの量が増えるので、炭化珪素層54の形成速度のさらなる向上が図られると共に、当該炭化珪素層54のさらなる高硬度化が図られる。なお、プラズマ300中のアルゴンイオンも、それぞれの被処理物100の被処理面に引き寄せられ、当該被処理面に入射する。そして、このときの衝撃によっても、炭化珪素層54が緻密化され、この結果、当該炭化珪素層54のより一層の高硬度化が図られる。要するに、アルゴンイオンは、炭化珪素層54のより一層の高硬度化を図る言わば高硬度化助勢ガスとしても機能する。また、プラズマ300中の水素イオンも、それぞれの被処理物100の被処理面に引き寄せられる。この水素イオンは、炭化珪素層54を形成する炭素粒子と結合することで、当該炭化珪素層54を形成する珪素粒子と炭素粒子との比率を調整する(SiCにおけるXの値を減少させる)言わば組成比率調整ガスとしても機能する。
この炭化珪素層54を形成するための成膜処理によって所定の厚さの、例えば0.1μm〜0.5μmの範囲内で適当な厚さの、当該炭化珪素層54が形成された上で、主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理が行われる。そのために、真空槽12内へのアルゴンガス,水素ガスおよびTMSガスの導入が停止される。そして、当該真空槽12内に200mL/minという流量で窒素ガスが導入される。併せて、真空槽12内の圧力Pが0.22Paとされる。さらに、第1マグネトロンカソード16に第1スパッタ電力Esが供給される。即ち、真空槽12を陽極とし、第1マグネトロンカソード16を陰極として、これら両者に当該第1スパッタ電力Esが供給される。この第1スパッタ電力Esの供給源である第1スパッタ電源装置20は、当該第1スパッタ電力Esが一定になるように、例えば6kWになるように、定電力モードで動作する。なお、フィラメント22へのカソード電力Ecの供給と、当該フィラメント22への放電用電力Edの供給とは、上述の第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理のときと同じ条件で、引き続き行われる。即ち、放電用電力Ecの電圧成分である放電電圧Vdが60Vとされ、当該放電用電力Ecの放電電流Idが15Aとなるようにカソード電力Ecが制御されることによって、当該放電用電力Ecが900Wとされる。また、被処理物100,100,…への基板バイアス電力Ebの供給についても、引き続き行われるが、この基板バイアス電力Ebの電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値は−400Vとされる。因みに、この基板バイアス電圧Vbの平均値が−400Vであるときの当該基板バイアス電圧Vbのローレベル値は約−587V(=[−400V−{37V×0.3}]/0.7)である。
この窒化炭素層56を形成するための成膜処理においては、窒素ガスが放電用ガスとして機能することで、上述のアーク放電による極めて高密度なプラズマ300が発生する。また、このプラズマ300には、第1マグネトロンカソード16に第1スパッタ電力Esが供給されることによるグロー放電も含まれる。そして、このプラズマ300中のイオン、つまり窒素イオンが、第1マグネトロンカソード16の炭素製ターゲット162の被スパッタ面に衝突する。これにより、炭素製ターゲット162の被スパッタ面から炭素粒子が叩き出され、つまり当該被スパッタ面がスパッタされる。この炭素粒子は、それぞれの被処理物100の被処理面に向かって飛翔し、とりわけ炭素製ターゲット162の被スパッタ面と対向している状態にある被処理物100の被処理面に向かって飛翔し、当該被処理面に付着する。これと同時に、プラズマ300中の窒素ガスの粒子もまた、それぞれの被処理物100の被処理面に付着する。この結果、それぞれの被処理物100の被処理面に炭素粒子と窒素ガス粒子との化合物である窒化炭素層56が形成される。即ち、マグネトロンスパッタ法および反応性スパッタ法によって当該窒化炭素層56が形成される。
さらに、基板バイアス電力Ebの供給によって、炭素粒子のうちのイオン、つまり炭素イオンが、それぞれの被処理物100の被処理面に積極的に引き寄せられる。これと同様に、窒素ガス粒子のうちのイオン、つまり窒素イオンもまた、それぞれの被処理物100の被処理面に積極的に引き寄せられる。これにより、それぞれの被処理物100の被処理面に形成される窒化炭素層56の性状の制御が可能となり、とりわけ当該窒化炭素層56の高硬度化が図られる。また、当該窒化炭素層56の形成速度の向上も図られる。即ち、上述のマグネトロンスパッタ法および反応性スパッタ法に加えて、バイアススパッタ法も採用されている。
また、炭素製ターゲット162の被スパッタ面から叩き出された炭素粒子は、それぞれの被処理物100の被処理面に向かって飛翔する途中で、上述のアーク放電による極めて高密度なプラズマ300中を通過する。これにより、当該炭素粒子は、活性化され、少なくとも基底状態よりも高いエネルギを持つようになり、とりわけ効率的にラジカル化またはイオン化される。これと同様に、窒素ガスの粒子もまた、より活性化され、とりわけ効率的にラジカル化またはイオン化される。このラジカル化またはイオン化された粒子は、反応性に富むので、このような反応性に富む炭素粒子および窒素ガス粒子が効率的に生成されることによって、窒素炭素層56を形成する当該炭素粒子および窒素ガス粒子の相互の結合力が強くなり、当該窒化炭素層56の緻密化が図られる。そして特に、イオン化が効率的に行われることによって、それぞれの被処理物100の被処理面に積極的に引き寄せられるイオンの量も増えるので、その分、窒化炭素層56の形成速度の向上が図られると共に、当該窒化炭素層56のさらなる高硬度化が図られる。
この窒化炭素層56を形成するための成膜処理によって所定の厚さの、例えば1.0μm〜3.0μmの範囲内で適当な厚さの、当該窒化炭素層56が形成されると、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止される。併せて、第1マグネトロンカソード16への第1スパッタ電力Esの供給が停止されると共に、フィラメント22へのカソード電力Ecおよび放電用電力Edの供給が停止される。これにより、プラズマ300が消失する。さらに、被処理物100,100,…への基板バイアス電力Ebの供給が停止される。そして、真空槽12内の圧力が大気圧付近にまで徐々に戻されながら、一定の冷却期間が置かれる。その後、モータ36の駆動が停止されることによって、被処理物100,100,…の自公転が停止される。その上で、真空槽12内が外部に開放されて、当該真空槽12内から被処理物100,100,…が外部に取り出される。これをもって、窒化炭素層56を含む被膜50を形成するための一連の処理が完了する。
この被膜50の主層としての窒化炭素層56は、これを形成するための成膜処理において水素や当該水素を含む原料が使用されないので、基本的には水素を含まない。具体的には、この窒化炭素層56の組成比は、炭素が74at%であり、窒素が25at%であり、水素が1at%である。このような窒化炭素層56を最上層とする被膜50は、潤滑油中で良好な低摩擦性を呈する。また、この被膜50は比較的に高硬度であり、換言すれば高耐摩耗性を呈する。この被膜50が低摩擦性および高耐摩耗性を呈することは、後述する如く実験によっても確認された。
ところで、主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理において、窒素ガスに加えてアルゴンガスが真空槽12内に導入されることによって、当該窒化炭素層56のさらなる高硬度化が図られる。即ち、アルゴンガスが導入されると、このアルゴンガスの粒子は、プラズマ300によって活性化され、例えばイオン化される。このイオン化されたアルゴンガス粒子、つまりアルゴンイオンは、第1マグネトロンカソード16の炭素製ターゲット162の被スパッタ面をスパッタするのに貢献する。併せて、当該アルゴンイオンは、基板バイアス電力Ebが供給されているそれぞれの被処理物100の被処理面にも積極的に引き寄せられ、当該被処理面に入射する。このときの衝撃によって、窒化炭素層56が緻密化され、この結果、当該窒化炭素層56のより一層の高硬度化が図られる。即ち、上述の第2中間層としての炭化珪素膜54を形成するための成膜処理時と同様、アルゴンガスは、窒化炭素層56のより一層の高硬度化を図る高硬度化助勢ガスとして機能する。
ただし、アルゴンガスの流量が多すぎると、図6に示すように、炭素製ターゲット162の被スパッタ面にノジュールという煤状の物質が付着する。このノジュールは、異常放電の原因となり、また、窒化炭素層56の表面を粗化する原因ともなる。このノジュールの発生メカニズムは不明であるが、このたび、窒素ガスの流量とアルゴンガスの流量との比率が規制されることで、詳しくは窒素ガスの流量とアルゴンガスの流量との総和に対する当該窒素ガスの流量の比率(=[窒素ガスの流量]/{[窒素ガスの流量]+[アルゴンガスの流量]})が0.3以上とされることで、当該ノジュールの発生が抑制されることが、分かった。なお、この比率が小さいほど、つまりアルゴンガスの流量が多いほど、窒化炭素層56の高硬度化が図られるが、その一方で、窒化炭素層56が緻密化されることから当該窒化炭素層56の形成速度が低下する。従って、ノジュールの発生を抑制しつつ、窒化炭素層56の形成速度を比較的に高めに維持する観点から、当該比率は0.8以上であるのが、好ましい。
因みに、図6は、ノジュールの発生を分かり易く説明するために、真空槽12内にアルゴンガスのみを導入してスパッタを行ったときの、炭素製ターゲット162の撮影写真である。この図6においては、炭素製ターゲット162の被スパッタ面にスパッタ痕であるエロージョン領域162aが形成されており、詳しくは図4に示した如く永久磁石166の間隙166cに倣うように概略矩形ループ状(または長円ループ状)の当該エロージョン領域162aが形成されており、このエロ−ジョン領域162aの縁に沿ってノジュールが付着しているように、見受けられる。ただし実際には、ノジュールは、エロージョン領域162a(そのもの)にも付着するものと思われる。その一方で、当該エロ−ジョン領域162aに付着したノジュールは、プラズマ300(イオン)によって払い落とされる(スプラッシュされる)ものと推測される。そして、このノジュールが払い落とされる際に、異常放電が発生し、また、この払い落とされたノジュールが窒化炭素層56の表面に付着することで、当該窒化炭素層56の表面が粗化される。なお、真空槽12内に窒素ガスのみを導入してスパッタを行った場合は、図7に示すように、ノジュールは発生しない。このノジュールの発生を抑制しつつ、アルゴンガスの導入により窒化炭素層56の硬度の向上が図られることについては、後述する如く実験によっても確認された。
さらに、窒化炭素層56を形成するための成膜処理において、真空槽12内にアセチレンガスが導入されることによって、当該窒化炭素層56の形成速度のさらなる向上が図られる。即ち、アセチレンガスが導入されると、このアセチレンガスの粒子は、プラズマ300によって炭素粒子と水素粒子とに分解される。このうちの炭素粒子は、それぞれの被処理物100の被処理面に付着して、窒化炭素層56の形成に寄与する。これにより、窒化炭素層56の形成速度が向上する。即ち、アセチレンガスは原料ガスとして機能する。一方、水素粒子もまた、それぞれの被処理物100の被処理面に付着する。この結果、窒化炭素層56に水素が含有されることになる。このように窒化炭素層56に水素が含有されると、潤滑油中での当該窒化炭素層56を含む被膜50の低摩擦性が損なわれることが懸念される。ただし、この窒化炭素層56に含有される水素量が比較的に少なければ、換言すればアセチレンガスの流量が比較的に少なければ、潤滑油中での当該窒化炭素層56を含む被膜50の低摩擦性が損なわれないことが、次に説明する如く実験によって確認された。
まず、被処理物100として、鏡面加工された直径が31mm、厚さ寸法が3mmの、円板状のクロムモリブデン鋼(SCM415浸炭鋼)が用意される。そして、この被処理物100に対して、上述した要領で脱ガス処理,放電洗浄処理,第1中間層としてのチタン層52を形成するための成膜処理,第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理および主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理が行われる。なお、窒化炭素層56を形成するための成膜処理については、5時間にわたって行われる。このような要領で窒化炭素層56を含む被膜50が形成された被処理物100を、試料1とする。
この試料1とは別に、当該試料1と同じ仕様(基材製)の被処理物100に対して、当該試料1と同じ要領で脱ガス処理,放電洗浄処理,第1中間層としてのチタン層52を形成するための成膜処理および第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理が行われる。その上で、主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理において、窒素ガスに加えてアルゴンガスが真空槽12内に導入される。このときの窒素ガスの流量は100mL/minとされ、アルゴンガスの流量もまた100mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは0.25Paとされる。なお、放電用電力Ed(放電電圧Vdおよび放電電流Id),第1スパッタ電力Esおよび基板バイアス電圧Vdについては、試料1における条件と同じである。この条件による窒化炭素層56を形成するための成膜処理が、5時間にわたって行われる。このような要領で被膜50が形成された被処理物100を、試料2とする。
さらに、この試料2とは別に、試料1および試料2と同じ仕様(基材製)の被処理物100に対して、当該試料1および試料2と同じ要領で脱ガス処理,放電洗浄処理,第1中間層としてのチタン層52を形成するための成膜処理および第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理が行われる。その上で、主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理において、窒素ガスおよびアルゴンガスに加えてアセチレンガスが真空槽12内に導入される。このときの窒素ガスの流量は100mL/minとされ、アルゴンガスの流量もまた100mL/minとされ、アセチレンガスの流量は20mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは0.26Paとされる。なお、放電用電力Ed(放電電圧Vdおよび放電電流Id),第1スパッタ電力Esおよび基板バイアス電圧Vdについては、試料1および試料2における条件と同じである。この条件による窒化炭素層56を形成するための成膜処理についても、5時間にわたって行われる。このような要領で被膜50が形成された被処理物100を、試料3とする。
これらの試料1,試料2および試料3のそれぞれについて、膜厚(厳密には窒化炭素層56の厚さ),成膜速度(厳密には窒化炭素層56の形成速度),ヌープ硬度,内部応力,潤滑油中での摩擦係数および比摩耗量を測定したところ、図8に示すような結果が得られた。なお、潤滑油中での摩擦係数および比摩耗量の測定については、往復摺動試験機を用いて、その摺動面に有機モリブデン配合の省燃費エンジンオイルを塗布すると共に、油温を80℃とした。そして、1/4インチの鉄鋼(SUJ2)製ボールに1000gの荷重を印加した状態で、300mm/minという速度で10000回という摺動回数(サイクル)で試験を行った。
この図8のうちの特に膜厚に注目すると、試料1は1.25μmであり、これに対して、試料2は0.90であり、試料3は1.80である。これを成膜速度に換算すると、試料1は0.25μm/hであり、試料2は0.18μm/hであり、試料3は0.36μm/hである。これらのことから、アセチレンガスが導入される試料3が、最も成膜速度が高く、つまり当該アセチレンガスが導入されることによって、成膜速度の向上が図られることが、分かる。なお、窒素ガスに加えてアルゴンガスが導入される試料2が、最も成膜速度が低いことが、分かる。これは、次に説明するヌープ硬度と関係する。
即ち、図8のうちのヌープ硬度に注目すると、試料1は1600HKであり、試料2は1800HKであり、試料3は1700HKである。これらのことから、窒素ガスに加えてアルゴンガスが導入される試料2が、最もヌープ硬度が高く、つまり当該アルゴンガスが導入されることによって、窒化炭素層56を含む被膜50の高硬度化が図られることが、分かる。その反面、この試料2は、上述の如く最も成膜速度が低い。これは、アルゴンイオンが被処理物100の被処理面に入射される際の衝撃によって、窒化炭素層56が緻密化されることによるものであると、推察される。なお、試料2については、上述したノジュールは発生しなかった。また、図示は省略するが、試料1,試料2および試料3のいずれについても、表面粗さRaは10nm以下であり、上述した従来技術におけるそれよりも小さい。因みに、図8における内部応力は、ヌープ硬度に概ね相関する。
さらに、図8のうちの潤滑油中での摩擦係数に注目すると、試料1は0.055であり、試料2は0049であり、試料3は0044である。即ち、試料1,試料2および試料3のいずれも、潤滑油中で極めて良好な低摩擦性を呈することが、分かる。特に、試料3については、アセチレンガスの導入によって窒化炭素層56に水素が含まれるとしても、その含有量が抑えられることで、つまりアセチレンガスの導入量が抑えられることで、潤滑油中での良好な低摩擦性が維持される。なお、アセチレンガスの流量が窒素ガスの流量よりも少なければ、潤滑油中で良好な低摩擦性が維持されることが、分かった。
そして、図8のうちの比摩耗量に注目すると、試料1は1.56×10−8であり、試料2は1.62×10−8であり、試料3は1.59×10−8である。即ち、試料1,試料2および試料3のいずれも、極めて高い耐摩耗性を呈することが、分かる。
なお、窒化炭素層56を含む被膜50の硬度は、種々の条件によって変わるが、例えば基板バイアス電圧Vbによっても変わる。具体的には、図9に□印付きの太実線で示すように、基板バイアス電圧Vb(の絶対値)が大きいほど、被膜50のヌープ硬度が向上する。これは、基板バイアス電圧Vbが大きいほど、それぞれの被処理物100の被処理面に入射するイオンの量が多くなると共に、当該イオンの入射エネルギが増大するからである。因みに、この図9に□印付きの太実線で示すデータは、窒化炭素層56を形成するための成膜処理において、基板バイアス電圧Vb以外は試料1と同じ条件とされ、当該基板バイアス電圧Vbが適宜に変更されたもののデータである。また、この図9には、比較対象のもののデータも◆印付きの太破線で示している。
この比較対象のデータは、フィラメント22に対してカソード電力Ecおよび放電用電力Edが非供給とされることによって、当該フィラメント22が設けられていない状態、つまりアーク放電が誘起されない状態、が故意に作られ、この状態で、上述した脱ガス処理,放電洗浄処理,第1中間層としてのチタン層52を形成するための成膜処理,第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理および主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理、が施されたもののデータである。具体的には、脱ガス処理については、本実施形態と同じ要領で行われる。そして、放電洗浄処理においては、アルゴンガスの流量が200mL/minとされ、水素ガスの流量が500mL/minとされ、真空槽12内の圧力Pが5Paとされる。併せて、基板バイアス電圧Vbの平均値が−700Vとされる。因みに、この基板バイアス電圧Vbの平均値が−700Vであるときの当該基板バイアス電圧Vbのローレベル値は約−1016V(=[−700V−{37V×0.3}]/0.7)である。また、このときの基板バイアス電力Ebの電流成分である基板バイアス電流Ibは、0.5A程度である。上述したように、アーク放電が誘起される本実施形態においては、基板バイアス電流Ibが約4Aであることを鑑みると、この比較対象では、それぞれの被処理物100に流れる電流が少ないこと、つまり当該被処理物100の被処理面に入射されるイオンが少ないこと、ひいてはそれだけ大きな放電洗浄処理効果が小さいことが、想像できる。
この比較対象についての第1中間層としてのチタン層52を形成するための成膜処理においては、アルゴンガスの流量が200mL/minとされ、真空槽12内の圧力Pが0.5Paとされる。併せて、第2マグネトロンカソード40に供給される第2スパッタ電力Es’が8kWとされ、被処理物100,100,…への基板バイアス電力Ebの供給が停止される。この条件によって、厚さが0.2μmのチタン層52が形成される。
さらに、この比較対象についての第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理においては、アルゴンガスの流量が200mL/minとされ、水素ガスの流量が500mL/minとされ、TMSガスの流量が60mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pが6Paとされる。加えて、基板バイアス電圧Vbの平均値が−700Vとされる。この条件によって、厚さが0.2μmの炭化珪素層54が形成される。
そして、この比較対象についての主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理においては、窒素ガスの流量が200mL/minとされ、真空槽12内の圧力Pが0.2Paとされる。併せて、第1マグネトロンカソード16に供給される第1スパッタ電力Esが6kWとされ、基板バイアス電圧Vbの平均値が−400Vとされる。この条件による成膜処理が5時間にわたって行われることによって、厚さが1.8μmの窒化炭素層56が形成される。
このような比較対象によれば、図9に◆印付きの太破線で示すように、基板バイアス電圧Vbが大きいほど、ヌープ硬度が向上するものの、図9に□印付きの太破線で示す本実施形態のものほど顕著ではない。しかも、基板バイアス電圧Vbの平均値が−400Vという比較的に大きめに設定された場合でも、当該ヌープ硬度は600HKであり、比較的に軟らかく、とりわけ摺動部品としては全く使用できないほどの軟らかさである。これは、比較対象においては、本実施形態に比べて、上述の如くそれぞれの被処理物100に流れる電流が少ないこと、つまり当該被処理物100の被処理面に照射されるイオンが少ないことによる。
この窒化炭素層56を含む被膜50の硬度は、真空槽12内の圧力Pによっても変わる。具体的には、当該圧力Pが低いほど、被膜50の硬度が向上する傾向にある。ただし、この圧力Pが低すぎると、プラズマ300が不安定となり、極端には当該プラズマ300が発生しなくなる。このことから、当該圧力Pは0.01Pa〜1Paであるのが、好ましい。
以上のように、本実施形態によれば、潤滑油中で低摩擦性および高耐摩耗性を呈する窒化炭素層56を含む被膜50を形成することができる。このような被膜50は、上述の従来技術で例示されているアジャスティングシムのような潤滑油中で使用される摺動部品用途に極めて好適である。
また、本実施形態によれば、それぞれの被処理物100は自公転しながら成膜処理を施されるので、つまりそれぞれの被処理面と各ターゲット162および402との相対的な位置関係が逐次変化するので、上述の従来技術とは異なり、被処理面の形状が複雑な被処理物100や被処理面の寸法が比較的に大きい被処理物100にも適宜に対応することができる。さらに、本実施形態によれば、同時に複数の被処理物100,100,…を処理することができるので、生産性の飛躍的な向上が図られる。
なお、本実施形態は、本発明の1つの具体例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
例えば、本実施形態においては、第1マグネトロンカソード16に供給される第1スパッタ電力Esとして、直流電力が採用されたが、これに限らず、高周波電力やパルス電力,高出力ハイインパルス電力が採用されてもよい。ここで、高周波電力とは、周波数が13.56MHの正弦波電力である。そして、パルス電力とは、例えば接地電位を基準としてその電圧成分が正電位と負電位とに交互に遷移するバイポーラパルス電力、或いは、当該電圧成分が接地電位と負電位とに交互に遷移するユニポーラパルス電力であり、当該電圧成分の波形としては、矩形波のものが一般的であるが、それ以外の例えば三角波のものや鋸歯状波のものであってもよい。そして、高出力ハイインパルス電力とは、瞬間的(数μs〜数十μs程度の時間にわたって)かつ周期的に(数十Hz〜数百Hzの周波数で)極めて大きな電力値(数十kW〜数百kW程度の電力値)を示すものであり、近年殊に注目されている。この高出力ハイインパルス電力によれば、アーク放電が誘起されなくても、スパッタされた粒子(ここでは炭素粒子)のイオン化が促進されることが知られている。従って、この高出力ハイインパルス電力とアーク放電とを組み合わせた言わばハイブリッド化によって、スパッタされた炭素粒子のイオン化のさらなる促進が期待され、ひいては窒化炭素層56を含む被膜50のさらなる高硬度化が期待され、加えて、成膜処理時の温度の低減や成膜速度のさらなる向上等が期待される。第2マグネトロンカソード40に供給される第2スパッタ電力Es’についても、同様である。
そして、被処理物100,100,…に供給される基板バイアス電力Ebとして、バイポーラパルス電力が採用されたが、これに限らない。例えば、被処理物100,100,…が導電性物質である場合には、直流電力が採用されてもよい。ただし、被処理物100,100,…に含まれるガス等によって異常放電が生じる場合があるので、このような異常放電を防止する観点から、本実施形態で説明したバイポーラパルス電力が採用されるのが、好ましい。また、このバイポーラパルス電力以外のパルス電力や上述の高周波電力が採用されてもよい。
加えて、フィラメント22については、垂直方向に延伸するように設けられたが、これに限らない。例えば、当該フィラメント22は、水平方向に延伸するように設けられてもよい。ただし、被処理物100,100,…が上述の如く直線状に延伸する細長いものである場合には、これらの延伸方向に沿って一様な膜質分布および膜質分布が得られるようにするためにも、フィラメント22は、当該被処理物100,100,…に沿って延伸するように設けられるのが、望ましい。
そして、フィラメント22とターゲット162の被スパッタ面との間の距離Dは、上述の如く5mm〜50mmとされるのが、適当である。例えば、この距離Dが過度に小さいと、フィラメント22とターゲット162の被スパッタ面とが互いに接触する虞があり、甚だ不都合である。とりわけ、フィラメント22が熱変形した場合には、その虞が顕著になる。このことから、フィラメント22とターゲット162の被スパッタ面との間の距離Dは、5mm以上であるのが、適当である。一方、当該距離Dが過度に大きいと、フィラメント22の周囲の磁界が弱くなり、アーク放電の誘起が困難になる。このことから、当該距離Dは、50mm以下であるのが、適当である。
さらに、複数のフィラメント22が設けられてもよい。複数のフィラメント22が設けられることによって、アーク放電の増強が図られ、つまりプラズマ300のさらなる高密度化が図られ、ひいてはスパッタ粒子の活性化およびイオン化が促進される。なお、この場合も、それぞれのフィラメント22とターゲット162の被スパッタ面との間の距離Dは、上述の如く5mm〜50mmとされるのが、肝要である。また、当該距離Dは、一様に揃えられることも、肝要である。
さらにまた、第1マグネトロンカソード16の炭素製ターゲット162は、概略矩形平板状のものに限らず、例えば概略円板状のものであってもよく、極端には、その被スパッタ面が曲面状のものであってもよい。いずれにしても、この炭素製ターゲット162の被スパッタ面と成膜対象となる被処理物100の被処理面との間に、フィラメント22が設けられることが、肝要である。そして、炭素製ターゲット16(被スパッタ面)の形状に応じて、フィラメント22もまた適宜の形状とされるのが、望ましい。第2マグネトロンカソード40のチタン製ターゲット402についても、概略矩形平板状のものに限らず、概略円板状等の他の形状のものであってもよい。
そして特に、第1マグネトロンカソード16については、複数設けられてもよい。この場合、真空槽12の中心軸Xaの円周方向に沿って当該第1マグネトロンカソード16が複数設けられるのが、好ましい。併せて、それぞれの第1マグネトロンカソード16の炭素製ターゲット162の被スパッタ面の前方にフィラメント22が設けられる。この構成によれば、窒化炭素層56を含む被膜50の形成速度のさらなる向上が図られ、ひいては生産性のさらなる向上が図られる。
また、第1中間層としてのチタン層52に代えて、クロム(Cr)層が当該第1中間層として形成されてもよい。この場合、第2マグネトロンカソード40のチタン製ターゲット402に代えて、クロム製のターゲットが用いられる。この第1中間層をチタン層52およびクロム層のいずれにするのかについては、例えば被処理物100の材質によって選定される。
加えて、第2中間層としての炭化珪素層54を形成するための成膜処理において、TMSガスが用いられたが、シラン(SiH)ガスやメチルシラン(SiH(CH))等の当該TMSガス以外の有機珪素系ガスが採用されてもよい。ただし、安全性や費用等の観点から、TMSガスが最も適当である。
また、主層としての窒化炭素層56を形成するための成膜処理において、当該窒化炭素層56の形成速度の向上を図るためにアセチレンガスが導入されたが、当該アセチレンガス以外の炭化水素系ガスが導入されてもよい。この炭化水素系ガスとしては、アセチレンガスの他に、メタン(CH)ガスやエチレン(C)ガス,ベンゼン(C)等があるが、安全性や費用等の観点から、当該アセチレンガスが最も適当である。また、窒化炭素層56の形成速度の向上を図るには、炭素の組成比が大きい方が好ましいので、この点でも、アセチレンガスが適当である。
本実施形態は、摺動部品に限らず、金型等の当該摺動部品以外の用途にも適用することができる。
図5に示した積層構造の被膜50は、飽くまでも一例であり、これ以外の構成の被膜が形成されてもよい。特に、被処理物100が金属製でない場合、例えば当該被処理物100が樹脂製である場合には、中間層が1つとされてもよく、極端には中間層が設けられなくてもよい場合もある。
10 マグネトロンスパッタ装置
12 真空槽
16 第1マグネトロンカソード
20 第1スパッタ電源装置
22 フィラメント
24 カソード電源装置
26 放電用電源装置
38 基板バイアス電源装置
100 被処理物
162 炭素製ターゲット
164 磁石ユニット
300 プラズマ

Claims (9)

  1. 炭素製の概略矩形平板状のターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面とが互いに対向するように該ターゲットを有し該ターゲットを上記被スパッタ面を露出させた状態で覆い上記真空槽に電気的に接続されているアースシールドを有するマグネトロンカソードと、該被処理物とが、設けられた上記真空槽の内部に窒素ガスを導入するガス導入過程と、
    上記真空槽を陽極とし上記マグネトロンカソードを陰極としてこれら両者にスパッタ電力を供給することによって上記窒素ガスの粒子を放電させて、上記被スパッタ面の近傍にプラズマを発生させるスパッタ電力供給過程と、
    上記真空槽を陽極とし上記被処理物を陰極としてこれら両者にバイアス電力を供給するバイアス電力供給過程と、
    を具備し、上記スパッタ電力供給過程と上記バイアス電力供給過程と並行して、
    上記プラズマ中のイオンが上記被スパッタ面に衝突することによって該被スパッタ面から叩き出された炭素粒子と上記窒素ガスの粒子とを上記被処理面に付着させて該炭素粒子と該窒素ガスの粒子とを成分とする窒化炭素膜を該被処理面に形成する方法において、
    上記被スパッタ面と上記被処理面との間に上記ターゲットの長さ方向に沿って上記被スパッタ面と5mm乃至50mmの間隔をおいて設けられた1本の線状フィラメントに、熱電子放出用電力を供給することによって該フィラメントを加熱させて熱電子を放出させる熱電子放出過程と、
    上記真空槽を陽極とし上記フィラメントを陰極としてこれら両者に放電用電力を供給することによって上記熱電子を加速させて該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させるアーク放電誘起過程と、
    をさらに具備することを特徴とする、窒化炭素膜の形成方法。
  2. 上記ガス導入過程においてさらにアルゴンガスを導入する、
    請求項1に記載の窒化炭素膜の形成方法。
  3. 上記窒素ガスの流量と上記アルゴンガスの流量との総和に対する該窒素ガスの流量の比率は0.3以上である、
    請求項2に記載の窒化炭素膜の形成方法。
  4. 上記真空槽の内部の圧力は0.01Pa〜1Paである、
    請求項1〜3のいずれかに記載の窒化炭素膜の形成方法。
  5. 上記ガス導入過程においてさらに炭化水素系ガスを導入する、
    請求項1〜4のいずれかに記載の窒化炭素膜の形成方法。
  6. 上記炭化水素系ガスの流量は上記窒素ガスの流量よりも少ない、
    請求項5に記載の窒化炭素膜の形成方法。
  7. 上記被処理物は金属製であり、
    上記被処理面に第1中間層としてのチタン層またはクロム層を形成する第1中間層形成過程と、
    上記第1中間層の上に第2中間層としての炭化珪素層を形成する第2中間層形成過程と、
    をさらに具備し、
    上記第2中間層の上に上記窒化炭素膜を形成する、
    請求項1〜6のいずれかに記載の窒化炭素膜の形成方法。
  8. 上記被スパッタ面に上記被処理面の各部分が均等に対向するように該被スパッタ面と該被処理面との相対的な位置関係を変更する位置関係変更過程を、さらに具備する、
    請求項1〜7のいずれかに記載の窒化炭素膜の形成方法。
  9. 複数の上記被処理物が設けられる、
    請求項1〜8のいずれかに記載の窒化炭素膜の形成方法。
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